(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056752
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】半導体チップおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230413BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230413BHJP
【FI】
H01L21/78 B
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166151
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 弘紀
(72)【発明者】
【氏名】大原 淳士
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳
(72)【発明者】
【氏名】恩田 正一
【テーマコード(参考)】
5F063
5F241
【Fターム(参考)】
5F063AA05
5F063BA43
5F063CB07
5F063CB29
5F063CC35
5F063CC49
5F063DD27
5F063DD68
5F241CA23
5F241CA76
(57)【要約】
【課題】側面から内部に延びる割れが発生したり、側面に過大な歪みが発生することを抑制する。
【解決手段】一面110aおよび他面110bは、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のいずれか1つの面に沿った面とされ、相対する2組の側面110cのうちの一方の側面110cは、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面における一面および他面と異なる残りの2面のうちの一方の面に沿った面とされ、相対する2組の側面110cのうちの他方の側面110cは、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちの、一面110aおよび他面110b、一方の側面110cと異なる面に沿った面とされ、側面110cに対する法線方向を深さ方向とすると、側面110cは、深さ方向の表層部に、酸化ガリウムおよびガリウム金属を含む変質層120を含んで構成されるようにする。
【選択図】
図1I
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ構成基板(110)を有する半導体チップであって、
一面(110a)、前記一面と反対側の他面(110b)、および前記一面と他面とを繋ぐ相対する2組の側面(110c)を有し、六方晶の窒化ガリウムを含んで構成される前記チップ構成基板を備え、
前記一面および前記他面は、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちのいずれか1つの面に沿った面とされ、
前記相対する2組の側面のうちの一方の相対する側面は、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面における前記一面および前記他面と異なる残りの2面のうちの一方の面に沿った面とされ、
前記相対する2組の側面のうちの他方の相対する側面は、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちの、前記一面および前記他面、前記一方の相対する側面と異なる面に沿った面とされ、
前記側面に対する法線方向を深さ方向とすると、前記側面は、前記深さ方向の表層部に、酸化ガリウムおよびガリウム金属を含む変質層(120)を含んで構成されている半導体チップ。
【請求項2】
前記変質層は、前記側面から前記深さ方向に沿って20nm以下の範囲に形成されている請求項1に記載の半導体チップ。
【請求項3】
前記変質層は、前記ガリウム金属が10%未満とされている請求項1または2に記載の半導体チップ。
【請求項4】
チップ構成基板(110)を含んで構成される半導体チップの製造方法であって、
一面(10a)および他面(10b)を有し、六方晶の窒化ガリウムを含んで構成され、切断ライン(SL)で区画される複数のチップ形成領域(RA)を有する加工ウェハ(10)を用意することと、
前記加工ウェハにレーザ光(L)を照射することにより、前記切断ラインに沿って窒素をガリウムから分離させたチップ用変質層(14)を形成することと、
前記チップ用変質層を境界として前記チップ形成領域を分割することにより、前記加工ウェハから、前記加工ウェハの一面で構成される一面(110a)、前記加工ウェハの他面で構成される他面(110b)、前記切断ラインに沿った面であり、前記一面と前記他面とを繋ぐ相対する2組の側面(110c)を有する前記チップ構成基板を構成することと、を行い、
前記チップ構成基板を構成することでは、前記一面および前記他面が{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちのいずれか1つの面に沿った面とされ、前記相対する2組の側面のうちの一方の相対する側面が、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面における前記一面および前記他面と異なる残りの2面のうちの一方の面に沿った面とされ、前記相対する2組の側面のうちの他方の相対する側面が、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちの、前記一面および前記他面、前記一方の相対する側面と異なる面に沿った面とされ、さらに、前記側面に対する法線方向を深さ方向とすると、前記側面における前記深さ方向の表層部に、酸化ガリウムおよびガリウム金属を含む変質層(120)が形成された前記チップ構成基板を構成する半導体チップの製造方法。
【請求項5】
前記チップ構成基板を構成することの前に、前記加工ウェハの一面側に保持部材(20)を配置することを行い、
前記チップ構成基板を構成することでは、前記保持部材をエキスパンドすることにより、前記チップ用変質層を境界として前記チップ形成領域を分割する請求項4に記載の半導体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ガリウム(以下では、単にGaNともいう)を含んで構成されるチップ構成基板を備える半導体チップおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、加工ウェハをチップ単位に分割して半導体チップを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この製造方法では、酸化ガリウムを含んで構成され、複数のチップ形成領域がダイシングラインで区画されている加工ウェハを用意する。そして、この製造方法では、ダイシングラインにレーザ光を照射して変質層を形成した後、ダイシングラインをダイシングブレードで切断してチップ単位に分割することにより、半導体チップを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らは、バンドギャップが広く、電子の飽和速度が大きい等の利点を有するGaNを含んで構成される加工ウェハを用いて半導体チップを製造することを検討している。そして、本発明者らの検討によれば、このような加工ウェハをチップ単位に分割する際には、分割された側面から内部に延びる割れが発生したり、側面に過大な歪みが発生する可能性があることが確認された。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、側面から内部に延びる割れが発生したり、側面に過大な歪みが発生することを抑制できる半導体チップおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1は、半導体チップであって、一面(110a)、一面と反対側の他面(110b)、および一面と他面とを繋ぐ相対する2組の側面(110c)を有し、六方晶のGaNを含んで構成されるチップ構成基板(110)を備え、一面および他面は、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちのいずれか1つの面に沿った面とされ、相対する2組の側面のうちの一方の相対する側面は、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面における一面および他面と異なる残りの2面のうちの一方の面に沿った面とされ、相対する2組の側面のうちの他方の相対する側面は、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちの、一面および他面、一方の相対する側面と異なる面に沿った面とされ、側面に対する法線方向を深さ方向とすると、側面は、深さ方向の表層部に、酸化ガリウムおよびガリウム金属を含む変質層(120)を含んで構成されている。
【0007】
これによれば、半導体チップは、側面が劈開し易い面に沿った面で構成されている。このため、加工ウェハから半導体チップが分割される際、側面に内部に延びる割れが発生したり、側面に過大な歪みが発生することを抑制できる。また、半導体チップは、側面の表層部が酸化ガリウムを含む変質層を含んで構成されている。このため、側面の絶縁性の向上を図ることもできる。
【0008】
請求項3は、請求項1に関する半導体チップの製造方法であり、一面(10a)および他面(10b)を有し、六方晶のGaNを含んで構成され、切断ライン(SL)で区画される複数のチップ形成領域(RA)を有する加工ウェハ(10)を用意することと、加工ウェハにレーザ光(L)を照射することにより、切断ラインに沿って窒素をガリウムから分離させたチップ用変質層(14)を形成することと、チップ用変質層を境界としてチップ形成領域を分割することにより、加工ウェハから、加工ウェハの一面で構成される一面(110a)、加工ウェハの他面で構成される他面(110b)、切断ラインに沿った面であり、一面と他面とを繋ぐ相対する2組の側面(110c)を有するチップ構成基板を構成することと、を行い、チップ構成基板を構成することでは、一面および他面が{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちのいずれか1つの面に沿った面とされ、相対する2組の側面のうちの一方の相対する側面が、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちの一面および他面と異なる残りの2面のうちの一方の面に沿った面とされ、相対する2組の側面のうちの他方の相対する側面が、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のうちの、一面および他面、一方の相対する側面と異なる面に沿った面とされ、さらに、GaN側面に対する法線方向を深さ方向とすると、GaN側面におけるGaN深さ方向の表層部に、酸化ガリウムおよびガリウム金属を含む変質層(120)が形成されたGaNチップ構成基板を構成する。
【0009】
これによれば、側面が劈開し易い面に沿った面とされた半導体チップを製造する。このため、加工ウェハから半導体チップが分割される際、側面に内部に延びる割れが発生したり、側面に過大な歪みが発生することを抑制できる。また、半導体チップは、側面の表層部が酸化ガリウムを含む変質層を含んで構成される。このため、側面の絶縁性の向上を図ることもできる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】第1実施形態における半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1B】
図1Aに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1C】
図1Bに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1D】
図1Cに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1E】
図1Dに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1F】
図1Eに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1G】
図1Fに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1H】
図1Gに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1I】
図1Hに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図1J】
図1Iに続く半導体チップの製造工程を示す断面図である。
【
図3A】チップ用変質層を形成せずにウェハ用変質層を形成した場合の模式図である。
【
図3B】チップ用変質層を形成した後にウェハ用変質層を形成した場合の模式図である。
【
図5】X線光電子分光分析によって得られたスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下では、GaNを含んで構成されるチップ構成基板110に半導体素子が形成された半導体チップ100の製造方法について説明する。なお、以下では、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(-)を付すべきであるが、電子出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書では所望の数字の前にバーを付している。
【0014】
まず、
図1Aに示されるように、一面1aおよび他面1bを有し、バルクウェハ状とされているGaNウェハ1を用意する。例えば、GaNウェハ1は、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~5×10
19cm
-3とされたものが用いられる。GaNウェハ1の厚みについては任意であるが、例えば400μm程度のものを用意している。
【0015】
なお、本実施形態のGaNウェハ1は、六方晶で構成され、一面1aおよび他面1bが{0001}c面とされている。そして、本実施形態のGaNウェハ1は、一面1aが(0001)Ga面とされ、他面1bが(000-1)N面とされている。また、このGaNウェハ1は、下記半導体チップ100の製造工程を行った後では、後述する
図1Jのリサイクルウェハ40を再利用することで用意される。そして、必要に応じ、GaNウェハ1の他面1b等に、酸化膜等で構成される保護膜を形成してもよい。
【0016】
次に、
図1Bに示されるように、GaNウェハ1の一面1a上に、10~60μm程度のGaNで構成されるエピタキシャル膜3を形成することにより、複数のチップ形成領域RAが切断ラインSLで区画される加工ウェハ10を用意する。本実施形態では、エピタキシャル膜3は、n
+型エピタキシャル層3aと、n
-型エピタキシャル層3bとがGaNウェハ1側から順に成膜されて構成される。例えば、n
+型エピタキシャル層3aは、シリコン、酸素、ゲルマニウム等がドーパントされ、不純物濃度が5×10
17~1×10
18cm
-3程度とされる。n
-型エピタキシャル層3bは、シリコン等がドーパントされ、不純物濃度が1×10
17~4×10
17cm
-3程度とされる。
【0017】
なお、n-型エピタキシャル層3bは、後述する拡散層12等の一面側素子構成部分11が形成される部分であり、例えば、厚さが8~10μm程度とされる。n+型エピタキシャル層3aは、後述する半導体チップ100の厚さを確保するための部分であり、例えば、厚さが40~50μm程度とされる。なお、n+型エピタキシャル層3aとn-型エピタキシャル層3bとの厚みの大小については任意であるが、ここでは半導体チップ100の厚みを確保できるようにn+型エピタキシャル層3aをn-型エピタキシャル層3bよりも厚くしてある。
【0018】
以下では、加工ウェハ10のうちのエピタキシャル膜3側の面を加工ウェハ10の一面10aとし、加工ウェハ10のうちのGaNウェハ1側の面を加工ウェハ10の他面10bとする。また、上記のように、GaNウェハ1が六方晶で構成され、エピタキシャル膜3がGaNウェハ1の一面1a上に成膜され、加工ウェハ10の他面10bがGaNウェハ1の他面1bで構成されている。このため、加工ウェハ10は、六方晶で構成され、一面10aおよび他面10bが{0001}c面となる。そして、各チップ形成領域RAは、加工ウェハ10の一面10a側に構成される。
【0019】
次に、
図1Cに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、各チップ形成領域RAに、拡散層12やゲート電極13、図示しない表面電極、配線パターン、パッシベーション膜等の半導体素子における一面側素子構成部分11を形成する工程を行う。なお、ここでの半導体素子は、種々の構成のものが採用され、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistorの略)等のパワーデバイスや、発光ダイオード等の光半導体素子が採用される。その後、必要に応じ、加工ウェハ10の一面10a側に、レジスト等で構成される表面保護膜を形成する。
【0020】
続いて、
図1Dに示されるように、加工ウェハ10の一面10a側に保持部材20を配置する。保持部材20は、例えば、基材21と粘着剤22とを有するダイシングテープ等が用いられる。基材21は、製造工程中に反り難い材料で構成され、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成される。粘着剤22は、粘着力を変化させることができる材料で構成され、例えば、温度や光によって粘着力が変化するものが用いられる。この場合、粘着剤22は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。但し、粘着剤22は、後述する
図1Hの他面側素子構成部分60を形成する際にも粘着力を維持する材料で構成される。
【0021】
次に、
図1Eに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、切断ラインSLにチップ用変質層14を形成する。本実施形態では、
図2に示されるように、切断ラインSLによって囲まれる各チップ形成領域RAの平面形状は、矩形状とされている。また、本実施形態では、各チップ形成領域RAは、チップ単位に分割される面が{0-100}m面または{11-20}a面となるように調整されている。つまり、切断ラインSLは、{0-100}m面または{11-20}a面に沿って延びるように調整されている。このため、チップ用変質層14は、{0-100}m面または{11-20}a面に沿って延びるように形成される。言い換えると、チップ用変質層14は、六方晶における劈開し易い面に沿って形成される。
【0022】
本実施形態では、この工程では、レーザ光Lを発振するレーザ光源、レーザ光の光軸(すなわち、光路)の向きを変えるように配置されたダイクロイックミラー、およびレーザ光を集光するための集光用レンズ(すなわち、集光光学系)、変位可能なステージ等を有するレーザ装置を用意する。そして、チップ用変質層14を形成する際には、加工ウェハ10をステージに載置し、レーザ光Lの集光点が切断ラインSLに沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。
【0023】
これにより、切断ラインSLには、熱エネルギーによってガリウムと窒素とが分解されたチップ用変質層14が形成される。より詳しくは、レーザ光Lを照射することにより、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出されたチップ用変質層14が形成される。なお、チップ用変質層14は、窒素が分離されることにより、微小な空孔が構成された状態となっている。
【0024】
また、本実施形態では、チップ用変質層14を形成する際には、ステージ等を適宜移動させ、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる二箇所所以上の複数箇所に集光点が移動するようにレーザ光Lを照射する。この場合、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる箇所にチップ用変質層14が形成されるが、各チップ用変質層14は、互いに離れていてもよいし、繋がっていてもよい。また、加工ウェハ10の厚さ方向の異なる二箇所以上の複数個所に集光点を移動させる場合には、加工ウェハ10の一面10a側から他面10b側に向かって集光点が移動される。
【0025】
なお、本実施形態のチップ用変質層14は、後述する
図1Fのウェハ用変質層15を形成する際、ウェハ用変質層15を形成することによって発生する窒素がチップ用変質層14の空孔を介して外部に放出できるように形成される。また、特に限定されるものではないが、本実施形態では、チップ用変質層14を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が2μJ、パルス幅が500ps、加工速度が500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに低い場合やパルス幅がさらに短い場合等においても、適切にチップ用変質層14が形成されることを確認している。また、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にチップ用変質層14が形成されることを確認している。
【0026】
続いて、
図1Fに示されるように、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光Lを照射し、加工ウェハ10の一面10aから所定深さDとなる位置に、加工ウェハ10の面方向に沿ったウェハ用変質層15を形成する。本実施形態では、上記のチップ用変質層14を形成する際のレーザ装置を用いてウェハ用変質層15を形成する。
【0027】
そして、ウェハ用変質層15を形成する場合には、レーザ光Lの集光点が加工ウェハ10の面方向に沿って相対的に走査されるように、ステージ等の位置を調整する。これにより、加工ウェハ10には、面方向に沿ったウェハ用変質層15が形成される。なお、ウェハ用変質層15は、上記チップ用変質層14と同様に、窒素がガスとして蒸発すると共にガリウムが析出された構成とされる。
【0028】
この場合、本実施形態では、チップ用変質層14と交差する、またはチップ用変質層14の直下を通るようにウェハ用変質層15を形成する。これにより、本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する際に各チップ形成領域RAに大きな歪みが印加されることを抑制できる。
【0029】
すなわち、チップ用変質層14を形成しない場合には、
図3Aに示されるように、ウェハ用変質層15を形成する際に発生した窒素が外部に放出され難いため、ウェハ用変質層15を形成したことによる加工ウェハ10の歪みが大きくなり易い。一方、本実施形態では、チップ用変質層14が形成されており、ウェハ用変質層15は、チップ用変質層14と交差する、またはチップ用変質層14の直下を通るように形成されている。このため、
図3Bに示されるように、ウェハ用変質層15を形成する際に発生する窒素は、チップ用変質層14の空孔を介して外部に放出され易くなる。したがって、ウェハ用変質層15を形成したことによる加工ウェハ10の歪みが大きくなることを抑制でき、各チップ形成領域RAに印加される歪みを小さくできる。
【0030】
なお、特に限定されるものではないが、本実施形態では、ウェハ用変質層15を形成する際には、レーザ光Lとして、固体レーザ光であって、波長が532nmのグリーンレーザが用いられる。そして、レーザ光Lは、加工点出力が0.1~0.3μJ、パルス幅が500ps、加工速度が50~500mm/sとされて照射される。但し、これらの条件は1例であり、本発明者らは、レーザ光の加工点出力がさらに低い場合やパルス幅等がさらに短い場合等においても、適切にウェハ用変質層15が形成されることを確認している。そして、本発明者らは、レーザ光Lの加工点出力がさらに高い場合やパルス幅がさらに長い場合等においても、適切にウェハ用変質層15が形成されることを確認している。
【0031】
また、ウェハ用変質層15を形成する際の所定深さDは、半導体チップ100のハンドリングのし易さや耐圧等に応じて設定され、10~200μm程度とされる。この場合、ウェハ用変質層15は、エピタキシャル膜3の厚さに応じて形成される場所が変更され、エピタキシャル膜3の内部、エピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界、またはGaNウェハ1の内部のいずれかに形成される。なお、
図1Fでは、エピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界にウェハ用変質層15を形成する例を示している。
【0032】
但し、後述するように、加工ウェハ10におけるGaNウェハ1の少なくとも一部は、リサイクルウェハ40として再利用される。このため、ウェハ用変質層15は、エピタキシャル膜3の内部、またはエピタキシャル膜3とGaNウェハ1との境界に形成されることが好ましい。また、ウェハ用変質層15がGaNウェハ1の内部に形成される場合には、ウェハ用変質層15は、GaNウェハ1の一面1a側に形成されることが好ましい。
【0033】
なお、ウェハ用変質層15がエピタキシャル膜3の内部に形成される場合、ウェハ用変質層15は、半導体素子を構成するn-型エピタキシャル層3bではなく、n+型エピタキシャル層3aの内部に形成される。以下では、加工ウェハ10のうちのウェハ用変質層15より他面10b側の部分をリサイクルウェハ40として説明する。
【0034】
次に、
図1Gに示されるように、加工ウェハ10の他面10b側に補助部材50を配置する。なお、補助部材50は、保持部材20と同様に、例えば、基材51と粘着剤52とを有するダイシングテープ等が用いられる。基材51は、例えば、ガラス、シリコン基板、セラミックス等で構成される。粘着剤52は、例えば、紫外線硬化樹脂、ワックス、両面テープ等で構成される。そして、保持部材20および補助部材50を把持して加工ウェハ10の厚さ方向に引張力等を印加し、ウェハ用変質層15を境界(すなわち、分岐の起点)として加工ウェハ10からリサイクルウェハ40を分割する。
【0035】
なお、以下の工程では、加工ウェハ10のうちのリサイクルウェハ40と分割された面を加工ウェハ10の他面10bとする。そして、ウェハ用変質層15が加工ウェハ10の面方向に沿って形成されているため、分割された加工ウェハ10の他面10bは、{0001}c面となる。また、以下では、リサイクルウェハ40のうちの分割された面側を一面40aとする。そして、
図1G以降の各図では、加工ウェハ10の他面10bおよびリサイクルウェハ40の一面40aに残存するウェハ用変質層15等を適宜省略して示している。
【0036】
その後、
図1Hに示されるように、一般的な半導体製造プロセスを行い、加工ウェハ10の他面10bに、裏面電極を構成する金属膜61等の半導体素子における他面側素子構成部分60を形成する工程を行う。
【0037】
なお、この他面側素子構成部分60を形成する工程の前に、必要に応じて、CMP(chemical mechanical polishingの略)法等で加工ウェハ10の他面10bを平坦化する工程を行うようにしてもよい。
図1Hは、加工ウェハ10の他面10bを平坦化した場合の図を示している。また、他面側素子構成部分60を形成する工程を行った後、必要に応じて、金属膜61と加工ウェハ10の他面10bとをオーミック接触とするため、レーザアニール等の加熱処理等を行うようにしてもよい。
【0038】
続いて、
図1Iに示されるように、保持部材20をエキスパンドし、チップ用変質層14を境界(すなわち、分岐の起点)として各チップ形成領域RAを分割する。これにより、加工ウェハ10の一面10aで構成される一面110a、加工ウェハ10の他面10bで構成される他面110b、および切断ラインSLで構成される側面110cを有し、加工ウェハ10で構成されるチップ構成基板110を備えた半導体チップ100が構成される。つまり、一面110a、一面110aと反対側の他面110b、一面110aと他面110bとを繋ぐ相対する2組の側面110cを有する直方体状のチップ構成基板110を備えた半導体チップ100が構成される。
【0039】
なお、上記のように、切断ラインSLは、{0-100}m面または{11-20}a面に沿って延びている。このため、チップ構成基板110(すなわち、半導体チップ100)における相対する2組の側面110cは、一方が{0-100}m面に沿った面となり、他方が{11-20}a面に沿った面となる。つまり、
図4に示されるように、チップ構成基板110は、一面110aおよび他面110bが{0001}c面に沿った面で構成される。また、チップ構成基板110は、相対する2組の側面110cの一方が{0-100}m面に沿った面で構成され、相対する2組の側面110cの他方が{11-20}a面に沿った面で構成される。
【0040】
そして、{0-100}m面および{11-20}a面は、加工ウェハ10の一面10aとなる{0001}c面と直交する面であって、劈開し易い面となる。このため、チップ用変質層14を境界として各チップ形成領域RAを分割した際、側面110cから内部に延びる割れが発生したり、側面110cに過大な歪みが発生することを抑制できる。
【0041】
その後、加熱処理や光を照射する等して粘着剤22の粘着力を弱まらせ、半導体チップ100をピックアップする。これにより、半導体チップ100が製造される。なお、各チップ形成領域RAを分割する前には、必要に応じ、金属膜61のうちの各チップ形成領域RAの境界にスリット等を形成しておくことにより、チップ形成領域RA毎に金属膜61を容易に分割できる。この場合、
図1Hの工程において、分割される部分を覆うメタルマスクを用意し、分割される部分に金属膜61が形成されないようにしてもよい。
【0042】
また、上記のように製造される半導体チップ100は、チップ用変質層14を境界として分割されることで構成されるため、側面110cにチップ用変質層14で構成される変質層120が残存した状態となっており、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、本実施形態の製造方法では、ハンドリング等がし易い半導体チップ100が製造される。
【0043】
ここで、本発明者らは、側面110cの状態についてさらに検討を行い、以下の結果を得た。まず、上記のように、半導体チップ100の側面110cは、{0-100}m面または{11-20}a面とされている。そして、本発明者らが側面110cに対してX線光電子分光分析(以下では、XPSともいう)を用いた深さ方向分析を行ったところ、
図5に示される結果が得られた。
【0044】
なお、
図5は、アルゴンイオンによるスパッタエッチングを併用した深さ方向の分析結果であり、スパッタレートが20nmとされている。また、
図5は、{11-20}a面で構成される側面110cに対し、当該側面110cに対する法線方向を深さ方向(以下では、単に深さ方向ともいう)としてXPSを行った結果である。但し、本発明者らの検討によれば、{0-100}m面で構成される側面110cに対してXPSを行っても同様の結果が得られることが確認されている。そして、
図5中のc/sは、1秒当たりの電子のカウント数を示している。
【0045】
図5に示されるように、スパッタ回数(
図5中では、sputter cycle)が0回目の際に得られたスペクトルでは、Ga
2O
3(すなわち、酸化ガリウム)とGa金属とが混載していることが確認され、GaNが存在していないことが確認される。より詳しくは、
図5におけるスパッタ回数が0回目の結果について定量分析を行うと、Ga
2O
3が90%以上で存在すると共に、Ga金属が10%未満の範囲で存在することが確認される。なお、スパッタ回数が0回目の際の分析結果とは、言い換えると、側面110cにおける最表層部の分析結果であるともいえる。
【0046】
そして、スパッタ回数が1回目以上の際に得られたスペクトルでは、GaNのみが確認され、Ga2O3およびGa金属が確認されない。
【0047】
以上より、各側面110cは、深さ方向に沿った表層部に、Ga
2O
3とGa金属とを含む変質層120が形成されているといえる。また、上記のように、
図5は、スパッタレートを20nmとした場合の結果である。このため、変質層120は、側面110cから深さ方向に沿って20nm以下の範囲のみに存在しているといえる。言い換えると、変質層120は、アルゴンイオンを用いたスパッタエッチングのスパッタレート換算で側面110cから20nm以下の範囲のみに存在しているといえる。なお、上記のように、側面110cには、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、ここでの深さ方向に沿って20nm以下の範囲とは、平均深さが20nm以下の範囲ともいえる。
【0048】
また、
図1Jに示されるように、
図1Gで構成されたリサイクルウェハ40には、一面40aに対して研磨装置70等を用いたCMP法を行うことにより、当該一面40aを平坦化する。そして、平坦化したリサイクルウェハ40をGaNウェハ1とし、再び上記
図1A以降の工程を行う。これにより、GaNウェハ1は、半導体チップ100を構成するのに複数回利用されることができる。
【0049】
以上説明した本実施形態によれば、半導体チップ100は、一面110aおよび他面110bが{0001}c面とされ、側面110cが{0-100}m面または{11-20}a面とされている。このため、加工ウェハ10をチップ形成領域RA毎に分割する際、側面110cに内部に延びる割れが発生したり、側面110cに過大な歪みが発生することを抑制できる。
【0050】
また、側面110cの表層部は、10%未満のGa金属と、90%以上のGa2O3を含む変質層120を含んで構成されている。つまり、側面110cは、主に酸化ガリウムで構成されている。このため、側面110cの絶縁性の向上を図ることができる。
【0051】
(1)本実施形態では、変質層120は、側面110cから深さ方向に沿って20nm以下の範囲に形成されている。このため、半導体チップ100の大部分を素子領域として形成することができる。
【0052】
(2)本実施形態では、保持部材20をエキスパンドすることによってチップ形成領域RAを分割している。このため、例えば、各チップ形成領域RAをダイシングブレード等で分割する場合と比較して、製造工程の簡略化を図ることができる。
【0053】
(3)本実施形態では、チップ用変質層14およびウェハ用変質層15を形成する際には、これらが交差するようにしている。そして、ウェハ用変質層15を形成する際には、チップ用変質層14を介してウェハ用変質層15を形成する際に発生する窒素が放出されるようにしている。このため、各チップ形成領域RAに発生する歪みを小さくでき、半導体チップ100に不具合が発生することを抑制できる。
【0054】
(4)本実施形態では、加工ウェハ10からリサイクルウェハ40を分割し、リサイクルウェハ40を再びGaNウェハ1として利用する。このため、半導体チップ100を製造する度にGaNウェハ1を新たに用意する必要がなく、GaNウェハ1を有効利用できる。したがって、半導体チップ100の生産性の向上を図ることができる。
【0055】
(5)本実施形態では、加工ウェハ10を薄くする際には、レーザ光Lを照射してウェハ用変質層15を形成し、ウェハ用変質層15を境界としてリサイクルウェハ40を分割することで加工ウェハ10を薄くしている。このため、CMP法等によって加工ウェハ10の他面10bから研削等して厚さを薄くする場合と比較して、製造時間の短縮化を図ることができる。
【0056】
(6)本実施形態では、半導体チップ100の側面110cは、微小な凹凸が形成された状態となっている。このため、半導体チップ100のハンドリングをし易くできる。
【0057】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0058】
上記各実施形態において、チップ構成基板110における一面110aおよび他面110bと、側面110cとは、{0001}c面、{0-100}m面、および{11-20}a面のいずれかで構成されるのであれば、具体的な面構成は適宜変更可能である。例えば、一面110aおよび他面110bを{0-100}m面とし、側面110cが{0001}c面または{11-20}a面で構成されるようにしてもよい。なお、側面110cが{0001}c面で構成される場合においても、本発明者らの検討によれば、XPSを行うと
図5と同様の結果が得られることが確認されている。
【0059】
また、上記第1実施形態において、加工ウェハ10は、単結晶基板のみで構成されていてもよい。また、加工ウェハ10は、
図1Fの工程を行わず、
図1Eの工程を行う前、または
図1Eの工程を行った後に、他面10b側から研削等されることによって厚さが調整されるようにしてもよい。
【0060】
そして、上記第1実施形態において、エピタキシャル膜3は、n-型エピタキシャル層3bのみで構成されていてもよい。
【0061】
また、上記第1実施形態において、
図1Bのエピタキシャル膜3を形成する工程では、GaNウェハ1の他面1b側にもエピタキシャル膜が形成されるようにしてもよい。これによれば、例えば、ウェハ用変質層15をGaNウェハ1内に形成する場合においても、リサイクルウェハ40として所定以上の厚さを残し易くなり、再利用できる回数の増加を図ることができる。
【0062】
また、上記第1実施形態において、
図1Dの保持部材20を配置する工程の前に、
図1Eのチップ用変質層14を形成する工程を行うようにしてもよい。この場合、レーザ光Lは、加工ウェハ10の一面10a側から照射するようにしてもよい。但し、加工ウェハ10の一面10aからレーザ光Lを照射する場合、一面10a側に形成される表面電極や配線パターン等によってレーザ光Lの集光点の位置がばらつく可能性がある。このため、好ましくは、加工ウェハ10の他面10bからレーザ光を照射するのがよい。
【符号の説明】
【0063】
110a 一面
110b 他面
100c 側面
100 チップ構成基板
120 変質層