(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005676
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20230111BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230111BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107741
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】喜田 友香里
(72)【発明者】
【氏名】宮田 美都子
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186BA10
2H186BA11
2H186DA12
2H186DA14
2H186FB07
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2H186FB30
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2H186FB58
4J039AD03
4J039AD09
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4J039BC07
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4J039CA06
4J039EA41
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】吐出安定性、保存安定性及び分散安定性に優れ、ノズル詰まり及びカールの発生を抑制できるインクジェット用インクを提供する。
【解決手段】インクジェット用インクは、顔料と、分散剤と、水性媒体とを含有する。前記水性媒体は、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含む。前記第1有機溶媒の含有割合、前記第2有機溶媒の含有割合及び前記第3有機溶媒の含有割合は、それぞれ、5.0質量%以上15.0質量%以下である。ハンセン溶解度パラメーターの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)において、前記分散剤及び前記水性媒体は、dDの差の絶対値(ΔdD)が3.0以下、dPの差の絶対値(ΔdP)が2.5以下、dHの差の絶対値(ΔdH)が3.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、分散剤と、水性媒体とを含有し、
前記水性媒体は、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含み、
前記第1有機溶媒の含有割合、前記第2有機溶媒の含有割合及び前記第3有機溶媒の含有割合は、それぞれ、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、
ハンセン溶解度パラメーターの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)において、
前記分散剤及び前記水性媒体は、dDの差の絶対値(ΔdD)が3.0以下、dPの差の絶対値(ΔdP)が2.5以下、dHの差の絶対値(ΔdH)が3.0以下であり、
前記第1有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが10.0以上14.0以下、dHが23.0以上30.0以下であり、
前記第2有機溶媒は、dDが15.0以上17.5以下、dPが5.0以上7.5以下、dHが8.0以上16.0以下であり、
前記第3有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが7.5以上10.5以下、dHが17.0以上23.0以下である、インクジェット用インク。
【請求項2】
前記分散剤は、スチレン-(メタ)アクリル樹脂を含む、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記第1有機溶媒は、グリセリン、ソルビトール、1,3-プロパンジオール、1,2,3-ブタントリオール、又はエチレングリコールを含み、
前記第2有機溶媒は、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2-オクタンジオール、2-エチル-1,2-ヘキサンジオール、又はエチレングリコールモノブチルエーテルを含み、
前記第3有機溶媒は、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、又は1-メチル-1,3-プロパンジオールを含む、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に用いるインクジェット用インクは、吐出安定性、保存安定性及び分散安定性に優れ、かつノズル詰まりの発生を抑制できることが要求される。また、インクジェット用インクは、画像形成後、画像が形成された記録用紙が弓なりに曲がる現象(カール)の発生を抑制できることが要求される。
【0003】
このような要求に対して、例えば、自己分散顔料と、ハンセン溶解度パラメーターの値が所定範囲である有機溶剤とを含有するインクジェット用インクを用いた画像形成装置が提案されている(特許文献1)。上述のインクジェット用インクは、分散安定性に優れ、かつノズル詰まりの発生を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用インクは、吐出安定性、保存安定性及び分散安定性と、ノズル詰まり及びカールの発生の抑制とを全て満足するわけではない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、吐出安定性、保存安定性及び分散安定性に優れ、ノズル詰まり及びカールの発生を抑制できるインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用インクは、顔料と、分散剤と、水性媒体とを含有する。前記水性媒体は、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含む。前記第1有機溶媒の含有割合、前記第2有機溶媒の含有割合及び前記第3有機溶媒の含有割合は、それぞれ、5.0質量%以上15.0質量%以下である。ハンセン溶解度パラメーターの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)において、前記分散剤及び前記水性媒体は、dDの差の絶対値(ΔdD)が3.0以下、dPの差の絶対値(ΔdP)が2.5以下、dHの差の絶対値(ΔdH)が3.0以下である。前記第1有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが10.0以上14.0以下、dHが23.0以上30.0以下である。前記第2有機溶媒は、dDが15.0以上17.5以下、dPが5.0以上7.5以下、dHが8.0以上16.0以下である。前記第3有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが7.5以上10.5以下、dHが17.0以上23.0以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るインクジェット用インクは、吐出安定性、保存安定性及び分散安定性に優れ、ノズル詰まり及びカールの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。本明細書において、「溶媒」とは、インクジェット用インクに含まれる成分のうち、顔料、樹脂及び添加剤を除く成分をいう。
【0010】
本明細書において、ハンセン溶解度パラメーターの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)の単位は、何れも[MPa0.5]である。
【0011】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
<インクジェット用インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を説明する。本発明のインクは、顔料と、分散剤と、水性媒体とを含有する。水性媒体は、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含む。第1有機溶媒の含有割合、第2有機溶媒の含有割合及び第3有機溶媒の含有割合は、それぞれ、5.0質量%以上15.0質量%以下である。ハンセン溶解度パラメーターの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)において、分散剤及び水性媒体は、dDの差の絶対値(ΔdD)が3.0以下、dPの差の絶対値(ΔdP)が2.5以下、dHの差の絶対値(ΔdH)が3.0以下である。第1有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが10.0以上14.0以下、dHが23.0以上30.0以下である。第2有機溶媒は、dDが15.0以上17.5以下、dPが5.0以上7.5以下、dHが8.0以上16.0以下である。第3有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが7.5以上10.5以下、dHが17.0以上23.0以下である。
【0013】
まず、ハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter:HSP)について説明する。HSPは、物質の溶解性の予測に用いられる値である。HSPは、以下の3つのパラメーター(単位:MPa0.5)で構成されている。
分散項(dD):分子間の分散力によるエネルギー
分極項(dP):分子間の双極子相互作用によるエネルギー
水素結合項(dH):分子間の水素結合によるエネルギー
【0014】
HSPを構成する3つのパラメーターは、3次元空間(ハンセン空間)における座標と見做すことができる。ハンセン空間に特定の2つの物質を配置した場合、2つの物質の座標の距離が近いほど、2つの物質の性質が近似している傾向がある。
【0015】
HSPが未知である物質は、以下の方法によりHSPを測定することができる。まず、密閉可能な容器に、HSPを測定しようとする物質(以下、対象物質と記載することがある)1質量部と、HSPが公知である溶媒(例えば、文献値が存在する溶媒)49質量部とを投入する。次に、容器をハンドシェイクすることで対象物質及び溶媒を十分に混合する。次に、常温環境下(23℃)で容器を12時間静置する。次に、容器を上下反転させ、容器の底面を観察する。容器の底面に沈殿物及び凝集物の何れも存在しない場合、その溶媒は対象物質を溶解させたと判断する。この試験を、溶媒の種類を適宜変更しながら繰り返す。これにより、対象物質を溶解させる溶媒と、対象物質を溶解させない溶媒とにより構成される10種類の溶媒の組み合わせを決定する。10種類の溶媒の組み合わせとしては、半数程度(例えば4~6種)の溶媒が対象物質を溶解させる溶媒であり、残りの溶媒が対象物質を溶解させない溶媒である組み合わせが望ましい。そして、10種類の溶媒に対する試験結果に基づいて、ハンセン空間に、ハンセン球と呼ばれる球を描画する。
【0016】
本明細書において、10種類の溶媒の組み合わせとしては、下記表1に示す溶媒が挙げられる。
【0017】
【0018】
ハンセン球を描画する方法を説明する。ハンセン空間に、対象物質を溶解させた溶媒の座標を含み、かつ対象物質を溶解させなかった溶媒の座標を含まない球(ハンセン球)を描画する。描画されたハンセン球の中心座標が、対象物質のHSPを示す。ハンセン球のサイズは、対象物質の種類によって異なる。詳しくは、性質の異なる様々な溶媒に対して溶解する対象物質は、ハンセン球の半径R0が大きい。逆に、限られた特定の性質の溶媒に対してのみ溶解する対象物質は、ハンセン球の半径R0が小さい。
【0019】
HSPを用いて2つの物質(例えば、溶媒X及び溶質Y)の溶解性を予測する具体的手法を説明する。まず、2つの物質を、HSPに基づいてハンセン空間内にそれぞれ配置する。そして、2つの物質の座標の距離Raを算出する。この距離Raが近いほど、2つの物質は互いに溶解し易いことを示す。2つの物質の距離Raは、下記数式(R)によって算出することができる。
【0020】
【0021】
数式(R)において、dDx、dPx及びdHxは、それぞれ、溶媒Xの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDy、dPy及びdHyは、それぞれ、溶質Yの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。
【0022】
これを本発明のインクに当てはめると、ハンセン空間において、溶媒及び顔料粒子の距離Raは、下記数式(R-1)により算出される。
【0023】
【0024】
数式(R-1)において、dDs、dPs及びdHsは、それぞれ、溶媒の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDp、dPp及びdHpは、それぞれ、顔料粒子の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。
【0025】
溶質Yが溶媒Xに溶解するか否かは、ハンセン空間において、溶質Yのハンセン球が溶媒XのHSPの座標を含んでいるか否かで決定される。具体的には、溶質Yが溶媒Xに溶解するか否かは、溶質Yのハンセン球の半径R0に対する2つの物質の距離Raの比(Ra/R0)の大きさで決定される。以下、比(Ra/R0)を、相対エネルギー差(relative energy difference:RED)と記載する(下記数式(r))。REDが1未満である場合、溶質Yのハンセン球の内側に溶媒XのHSPの座標が存在するため、溶質Yは溶媒Xに溶解する。一方、REDが1超である場合、溶質Yのハンセン球の外側に溶媒XのHSPの座標が存在するため、溶質Yは溶媒Xに溶解しない。なお、REDがちょうど1である場合、溶質Yは溶媒Xに部分的に溶解する。
RED=Ra/R0・・・(r)
【0026】
溶媒Xが混合溶媒である場合、溶媒XのHSPは以下の方法により算出できる。まず、溶媒Xを構成する各溶媒について、その溶媒の分散項(dD)とその溶媒の質量比率(溶媒Xの質量に対するその溶媒の質量の比率)との積Aを算出する。次に、各溶媒の積Aを合算して和Bを算出する。この和Bを、混合溶媒の分散項(dD)とする。溶媒Xの分極項(dP)及び水素結合項(dH)についても、溶媒Xの分散項(dD)を算出する方法と同様の方法で算出することができる。これにより、混合溶媒である溶媒XのHSPが算出される。
【0027】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、吐出安定性、保存安定性及び分散安定性に優れ、ノズル詰まり及びカールの発生を抑制できる。その理由を以下に説明する。本発明のインクは、顔料、分散剤及び水性媒体を含有する。本発明のインクにおいて、顔料及び分散剤は、例えば、顔料と、顔料の表面を被覆する分散剤とを含む粒子(以下、顔料粒子と記載することがある)として存在する。本発明のインクは、分散剤と水性媒体とのdD、dP及びdHの差の絶対値(ΔdD、ΔdP及びΔdH)を一定以下とすることで、顔料粒子を水性媒体に高度に分散させることができる。その結果、本発明のインクは、保存安定性及び分散安定性に優れる。また、本発明のインクは、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を特定量含有することで、適度な粘度及び表面張力を有するため、吐出安定性に優れる。
【0028】
ここで、第1有機溶媒は、適度に親水性が強く、保湿作用を有する。また、第2有機溶媒は、疎水性が比較的高い。更に、第2有機溶媒は、本発明のインクが記録ヘッドに長期間滞留し、記録ヘッドの吐出ノズルの近傍で本発明のインクの水分が蒸発した際に、本発明のインクの表面に集まり、それ以上の乾燥を抑制する。以下、第2有機溶媒による上述の効果を「キャップ効果」と記載することがある。更に、本発明のインクは、ΔdD、ΔdP及びΔdHが一定以下であり、顔料粒子が水性媒体に高度に分散しているため、固形分が析出し難い。更に、第3有機溶媒は、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び分散剤のそれぞれの相溶性を向上させる。本発明のインクは、保湿作用を有する第1有機溶媒と、上述のキャップ効果を有する第2有機溶媒と、第3有機溶媒とを含有し、ΔdD、ΔdP及びΔdHが一定以下であることで、記録ヘッドの吐出ノズルの近傍において、水分が乾燥して固形分が析出することを抑制できる。その結果、本発明のインクは、ノズル詰まりの発生を抑制できる。
【0029】
更に、水を含有するインクでは、以下の理由でカールが発生すると考えられている。まず、インク中の水が記録用紙に浸透すると、記録用紙のセルロース繊維間の水素結合が水によって切断される。切断された水素結合は、記録用紙が乾燥して水が除かれた際に再結合する。しかし、セルロール繊維間において、再結合後の水素結合の位置は、必ずしも当初の水素結合の位置と同一とはならない。そのため、水素結合の切断及び再結合の一連の流れによってセルロース繊維の伸縮が発生し、その結果、カールが発生する。これに対して、本発明のインクは、第3有機溶媒を一定量含有する。第3有機溶媒は、水酸基を有し、セルロース繊維と結合する。第3有機溶媒がセルロース繊維と結合すると、水とセルロース繊維とが接触し難くなる。これにより、本発明のインクは、水がセルロース繊維間の水素結合を切断することを抑制し、カールの発生を抑制できる。以下、本発明のインクの各成分を説明する。
【0030】
[顔料]
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0031】
本発明のインクにおける顔料の含有割合としては、2.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下が好ましい。顔料の含有割合を2.0質量%以上とすることで、本発明のインクは、所望の画像濃度を有する画像を形成できる。顔料の含有割合を15.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出安定性を更に向上できる。
【0032】
[分散剤]
分散剤としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びポリエステル樹脂が挙げられる。分散剤としては、スチレン-(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0033】
ハンセン溶解度パラメーターにおいて、分散剤のdDとしては、14.0以上21.0以下が好ましく、15.5以上18.0以下がより好ましい。分散剤のdPとしては、5.0以上13.0以下が好ましく、8.0以上12.0以下がより好ましい。分散剤のdHとしては、17.0以上22.0以下が好ましく、19.0以上21.0以下がより好ましい。分散剤のdD、dP及びdHを上述の数値範囲内とすることで、本発明のインクの分散安定性及び保存安定性を更に向上できる。
【0034】
なお、本発明のインクが2種以上の分散剤を含有する場合、分散剤のdD、dP及びdHは、2種以上の分散剤の混合物に対して上述のHSPの測定方法を実施することで測定される値である。
【0035】
(スチレン-(メタ)アクリル樹脂)
スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、スチレン単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位とを有する樹脂である。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位を更に有してもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0036】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂において、全繰り返し単位に対するスチレン単位の含有割合としては、20.0質量%以上60.0質量%以下が好ましく、30.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましい。
【0037】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂において、全繰り返し単位に対する(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位の含有割合としては、5.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以上25.0質量%以下がより好ましい。
【0038】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂において、全繰り返し単位に対する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の含有割合としては、25.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、35.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましい。
【0039】
スチレン-(メタ)アクリル樹脂の原料モノマーとしては、以下の組み合わせ(I)~(III)が好ましく、組み合わせ(Ia)~(IIIa)がより好ましい。
組み合わせ(I):スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、及び(メタ)アクリル酸ブチル
組み合わせ(II):スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、及び(メタ)アクリル酸ブチル
組み合わせ(III):スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、及び(メタ)アクリル酸エチル
組み合わせ(Ia):スチレン、アクリル酸、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチル
組み合わせ(IIa):スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチル
組み合わせ(IIIa):スチレン、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸
【0040】
本発明のインクにおける分散剤の含有割合としては、0.5質量%以上10.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下がより好ましい。分散剤の含有割合を0.5質量%以上10.0質量%以下とすることで、顔料粒子の分散性を向上できる。
【0041】
本発明のインクにおいて、顔料の質量に対する分散剤の質量の比率(分散剤の質量/顔料の質量)としては、0.2以上1.5以下が好ましく、0.4以上0.8以下がより好ましい。
【0042】
[水性媒体]
水性媒体は、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含む。水性媒体は、少量であれば、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒以外の成分を更に含んでもよい。水性媒体において、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒の合計割合としては、90質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0043】
水性媒体のdDとしては、15.0以上19.0以下が好ましく、16.0以上17.5以下がより好ましい。水性媒体のdPとしては、8.0以上12.0以下が好ましく、9.0以上10.5以下がより好ましい。水性媒体のdHとしては、17.0以上22.0以下が好ましく、19.0以上21.0以下がより好ましい。水性媒体のdD、dP及びdHを上述の数値範囲内とすることで、本発明のインクの分散安定性及び保存安定性を更に向上できる。
【0044】
分散剤及び水性媒体は、dDの差の絶対値(ΔdD)が3.0以下、dPの差の絶対値(ΔdP)が2.5以下、dHの差の絶対値(ΔdH)が3.0以下である。ΔdDとしては、1.5以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。ΔdPとしては、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。ΔdHとしては、1.7以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。ΔdD、ΔdP及びΔdHを上述の数値範囲内とすることで、本発明のインクの分散安定性及び保存安定性を向上できる。
【0045】
(第1有機溶媒)
第1有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが10.0以上14.0以下、dHが23.0以上30.0以下である。第1有機溶媒のdDを15.0以上18.0以下とすることで、水性媒体と分散剤とのdDの差を低下させ、水性媒体と分散剤との相溶性を向上できる。その結果、本発明のインクの分散安定性及び保存安定性を向上できる。また、第1有機溶媒のdPを10.0以上とし、かつdHを23.0以上とすることで、第1有機溶媒に適度な親水性を付与し、保湿効果を発揮させることができる。更に、第1有機溶媒のdPを14.0以下とし、かつdHを30.0以下とすることで、第1有機溶媒の親水性が過度に高くなることを抑制し、第1有機溶媒及び顔料との親和性、並びに第1有機溶媒及び分散剤の相溶性を向上できる。
【0046】
第1有機溶媒としては、例えば、グリセリン、1,3-プロパンジオール、ソルビトール(例えば、物産フードサイエンス株式会社製「ソルビトールF」、濃度70質量%の水溶液)、エチレングリコール、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3,4-ブタンテトロール、2-メチルアミノ-1-フェニル-プロパン-1-オール、キシリトール及びd-マンニトールが挙げられる。第1有機溶媒としては、グリセリン、ソルビトール、1,3-プロパンジオール、1,2,3-ブタントリオール、又はエチレングリコールが好ましい。
【0047】
本発明のインクにおいて、第1有機溶媒の含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、6.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。
【0048】
(第2有機溶媒)
第2有機溶媒は、dDが15.0以上17.5以下、dPが5.0以上7.5以下、dHが8.0以上16.0以下である。第2有機溶媒のdDを15.0以上17.5以下とすることで、水性媒体と分散剤とのdDの差を低下させ、水性媒体と分散剤との相溶性を向上できる。その結果、本発明のインクの分散安定性及び保存安定性を向上できる。また、第2有機溶媒のdPを5.0以上とし、かつdHを8.0以上とすることで、第2有機溶媒が過度に疎水的になることを抑制できる。その結果、顔料及び分散剤の吸着を第2有機溶媒が阻害することを抑制できる。第2有機溶媒のdPを7.5以下とし、かつdHを16.0以下とすることで、第2有機溶媒に適度な疎水性を付与できる。その結果、第2有機溶媒は、上述のキャップ効果を発揮できる。
【0049】
第2有機溶媒としては、例えば、1,2-オクタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-エチル-1,2-ヘキサンジオール、エチレングリコールメチルt-ブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、2-メチル-1-ブタノール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3-メトキシブタノール、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。第2有機溶媒としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2-オクタンジオール、2-エチル-1,2-ヘキサンジオール、又はエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0050】
本発明のインクにおいて、第2有機溶媒の含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、6.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。
【0051】
(第3有機溶媒)
第3有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが7.5以上10.5以下、dHが17.0以上23.0以下である。第3有機溶媒のdDを15.0以上18.0以下とすることで、水性媒体と分散剤とのdDの差を低下させ、水性媒体と分散剤との相溶性を向上できる。その結果、本発明のインクの分散安定性及び保存安定性を向上できる。また、第3有機溶媒のdHを17.0以上とすることで、水性媒体の疎水性が過度に増大することを抑制できる。その結果、本発明のインクの分散安定性を向上できる。第3有機溶媒のdPを10.5以下とし、かつdHを23.0以下とすることで、水性媒体の親水性が過度に増大することを抑制できる。その結果、本発明のインクは、カールの発生を抑制できる。第3有機溶媒のdPを7.5以上10.5以下とし、かつdHを17.0以上23.0以下とすることで、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び分散剤のそれぞれの相溶性を向上できる。
【0052】
第3有機溶媒としては、例えば、1,5-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、及び1,2,6-ヘキサントリオールが挙げられる。第3有機溶媒としては、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、又は1-メチル-1,3-プロパンジオールが好ましい。
【0053】
本発明のインクにおいて、第3有機溶媒の含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、6.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。
【0054】
(水)
本発明のインクにおける水の含有割合としては、15.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましい。水の含有割合を15.0質量%以上50.0質量%以下とすることで、分散剤及び水性媒体のΔdD、ΔdP及びΔdHを上述の範囲に調整し易くなる。
【0055】
[他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、界面活性剤、消泡剤、保湿剤、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0056】
(界面活性剤)
界面活性剤は、本発明のインクに含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を向上させる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0057】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0058】
本発明のインクが界面活性剤を含有する場合、本発明のインクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0059】
(消泡剤)
消泡剤は、本発明のインクから気泡が発生することを抑制する。消泡剤としては、例えば、金属石鹸系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、シリコーン系消泡剤及び鉱物油系消泡剤が挙げられる。
【0060】
本発明のインクが消泡剤を含有する場合、本発明のインクにおける消泡剤の含有割合としては、0.01質量%以上1.00質量%以下が好ましく、0.02質量%以上0.10質量%以下がより好ましい。
【0061】
[インクの調製方法]
本発明のインクは、例えば、顔料粒子を含む顔料分散液と、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒と、必要に応じて配合される他の成分(例えば、界面活性剤)とを攪拌機により均一に混合することにより調製できる。本発明のインクの調製では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば、孔径5μm以下のフィルター)でろ過することにより、異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0062】
顔料分散液は、分散媒(例えば、水)中で顔料及び分散剤を分散処理することにより調製することができる。分散処理としては、例えば、ビーズミルを用いた処理が挙げられる。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。実施例では、まず、各インクの調製に用いる成分を準備した。
【0064】
(分散剤(A-1)の調製)
四つ口フラスコに、スターラーと、窒素導入管と、コンデンサーと、攪拌機と、滴下漏斗とをセットした。この四つ口フラスコを反応容器とした。次に、反応容器に、100.0gのイソプロピルアルコールと300.0gのメチルエチルケトンとを投入した。次に、反応容器の内容物に対して窒素ガスによるバブリングを行いながら、反応容器の内容物を70℃(還流状態)に加熱した。別途、40.0gのスチレンと、20.0gのアクリル酸と、30.0gのメタクリル酸メチルと、10.0gのアクリル酸ブチルと、0.400gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、重合開始剤)とを混合し、モノマー溶液を得た。次に、反応容器の内容物の温度を70℃(還流状態)に保ったまま、上述のモノマー溶液を反応容器に約2時間かけて滴下した。滴下後、反応容器の内容物の温度を70℃(還流状態)で6時間保持した。
【0065】
次に、反応容器の内容物の温度を70℃(還流状態)に保ったまま、AIBN0.200gを含有するメチルエチルケトン溶液150gを反応容器に15分間かけて滴下した。滴下後、反応容器の内容物の温度を70℃(還流状態)で5時間保持した。次に、反応容器の内容物を減圧処理し、溶媒を除去した。これにより、スチレン-(メタ)アクリル樹脂である分散剤(A-1)を得た。
【0066】
使用するモノマーの種類及び量を下記表2に示す通りに変更した以外は、分散剤(A-1)の調製と同様の方法により、分散剤(A-2)~(A-3)を調製した。
【0067】
【0068】
(分散剤のHSP)
実施形態に記載の方法により、分散剤(A-1)、分散剤(A-2)、分散剤(A-3)、分散剤(A-1)と(A-3)とを1:1の質量比で混合した混合物、及び分散剤(A-1)と(A-2)とを1:1の質量比で混合した混合物のHSPを測定した。測定結果を下記表3に示す。
【0069】
【0070】
(顔料分散液(P-1)の調製)
顔料としてのカーボンブラック(CB-1)(オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製「Printex(登録商標)80」)15.0質量部と、分散剤(A-1)10.0質量部と、消泡剤(サンノプコ株式会社製「SNデフォーマー1340」)0.1質量部と、イオン交換水74.9質量部とを混合した。得られた混合物を、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製「ダイノーミル」)を用い、4時間の分散処理を行った。分散処理において、メディアとしては、ジルコニアビーズ(直径0.5mm)を用いた。また、分散処理において、ビーズミルのベッセルにおけるメディアの充填率は、60体積%とした。更に、分散処理において、処理温度(チラー温度)は10℃とした。分散処理後、メディアを除去した後、得られた混合物を孔径5μmのフィルターでろ過することにより、異物及び粗大粒子を除去した。これにより、顔料分散液(P-1)を得た。
【0071】
(顔料分散液(P-2)及び(P-3)の調製)
使用する原料の種類及び量を下記表4に示す通りに変更した以外は、顔料分散液(P-1)の調製と同様の方法により、顔料分散液(P-2)及び(P-3)を調製した。
【0072】
下記表4に記載のカーボンブラックの詳細を以下に示す。
カーボンブラック(CB-1):オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製「Printex(登録商標)80」
カーボンブラック(CB-2):キャボット社製「MOGUL(登録商標)L」
カーボンブラック(CB-3):三菱ケミカル株式会社製「#960」
【0073】
【0074】
本実施例で用いる有機溶媒及び水のハンセン溶解度パラメーターを下記表5に示す。下記表5において、「分類」は、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒の何れに該当するかを示す。「分類」における「-」は、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒の何れにも該当しないことを示す。
【0075】
【0076】
<インクの調製>
下記表6及び7に示す各原料を混合した後、分散機(プライミクス株式会社製「ホモミクサーMARKII 2.5型」)を用いて、温度25℃、回転数3000rpmで20分間分散した。分散処理後、得られた混合物を孔径5μmのフィルターでろ過することにより、異物及び粗大粒子を除去した。これにより、実施例1~10及び比較例1~10のインク(I-1)~(I-20)を調製した(顔料濃度6.0質量%)。なお、下記表6及び7において、「界面活性剤」は、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物を含む界面活性剤(日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」)を示す。
【0077】
【0078】
【0079】
(インクのHSP)
実施形態に記載の方法により、インク(I-1)~(I-20)に含まれる水性媒体(水及び有機溶媒の混合物)のHSPを算出した。算出結果を下記表8に示す。
【0080】
以下、水性媒体のHSPの算出方法について、インク(I-1)を具体例として挙げる。実施例1のインクの水性媒体のdDを算出した。実施例1のインクにおいて、水の含有割合は、63.2質量%である。全水性媒体の質量における水の質量の比率は、0.706である。水のdDは、15.1である。以上から、水のdD及び質量比率(0.709)の積Aは、10.7である。同様の方法で、インク(I-1)において、グリセリン、ソルビトール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2-オクタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び2-ピロリドンのそれぞれについて、積Aを求めた。そして、各水性媒体のdDの積Aを合算した和Bを、インク(I-1)の水性媒体のdDとした。インク(I-1)の水性媒体のdDは、17.1であった。
【0081】
同様の方法により、インク(I-1)の水性媒体のdP及びdHと、インク(I-2)~(I-20)の水性媒体のdD、dP及びdHとを算出した。算出した各インクの水性媒体のHSPを下記表8に示す。
【0082】
【0083】
<評価>
以下の方法により、インク(I-1)~(I-20)について、ノズル詰まりの発生の有無と、カールの発生の有無と、吐出安定性(吐出ヨレの有無)と、保存安定性と、分散安定性(インクの透明化の発生の有無)とを評価した。また、インク(I-1)~(I-20)について、揮発性を測定した。更に、インク(I-1)~(I-20)について、分散剤及び水性媒体におけるdDの差(ΔdD)、dPの差(ΔdP)、及びdHの差(ΔdH)を算出した。結果を下記表9~12に示す。なお、評価は、特に断りのない限り、1気圧(1013hPa)、無風、温度25℃、湿度60%RHの環境下(以下、標準環境下)で行った。
【0084】
[保存安定性]
振動式粘度計(ニッテツ北海道制御システム株式会社製「VM-200T」)を用い、評価対象(詳しくは、インク(I-1)~(I-20)の何れか)の粘度(初期粘度V1)を測定した。次に、容積50mLの容器に、評価対象を約30g投入して密封した。上述の容器を、内温60℃に設定された恒温器に入れ、1ヶ月間保温した。その後、上述の容器を恒温器から取り出した後、上述の容器を室温にて3時間静置した。その後、上述の容器から測定対象を取り出し、上述の振動式粘度計を用いて粘度(処理後粘度V2)を測定した。測定された初期粘度V1及び処理後粘度V2に基づいて、粘度変化率[%]を算出した(下記数式)。算出された粘度変化率を、測定対象となるインクの保存安定性の評価値とした。インクの保存安定性は、以下の基準に沿って評価した。
粘度変化率[%]=100×(V1-V2)/V1
【0085】
(保存安定性の基準)
A(良好):粘度変化率の絶対値が5%以下
B(不良):粘度変化率の絶対値が5%超
【0086】
[揮発性]
評価対象(詳しくは、インク(I-1)~(I-20)の何れか)10g(初期質量)を容器に投入した。上述の標準環境下に上述の容器を静置した。この際、容器は蓋をせず、評価対象及び大気が接触するようにした(接触面積16cm2)。静置開始から60分後、測定対象の質量(乾燥後質量)を測定した。下記数式により、測定対象の質量変化率を算出した。算出された質量変化率を、測定対象となるインクの揮発性の評価値とした。評価対象の揮発性は、以下の基準に沿って評価した。
質量変化率=100×(初期質量-乾燥後質量)/初期質量
【0087】
(揮発性の基準)
A(良好):質量変化率が10質量%未満
B(不良):質量変化率が10質量%以上
【0088】
[評価機]
以下の評価では、評価機として、ピエゾ方式のライン型記録ヘッドを搭載するインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機)を用いた。評価機のインクタンクには、評価対象(インク(I-1)~(I-20)の何れか)を充填した。
【0089】
[ノズル詰まり]
ノズル詰まりの評価においては、評価用紙として、A4サイズのインクジェット用マット紙(セイコーエプソン株式会社製「スーパーファイン紙」)を用いた。評価機を用いて、100枚の評価用紙に150mm×200mmのソリッド画像を連続印刷した。次に、評価機の記録ヘッドから評価対象をパージした。次に、評価機の記録ヘッドのインク吐出面をワイプし、記録ヘッドをクリーニングした。以下、パージ及びワイプによって記録ヘッドをクリーニングする動作をクリーニング処理と記載することがある。次に、評価機を用いて評価用紙にノズルチェクパターン画像を形成した。その結果、何れの評価対象を用いた場合でも、全ノズルから評価対象が吐出されていた(不吐出ノズルの本数が0本)。次に、記録ヘッドにクリーニング処理を再度行った。次に、記録ヘッドにキャップを付けない状態で、評価機を7日間静置した。次に、記録ヘッドにクリーニング処理を再度行った。次に、評価機を用いて評価用紙にノズルチェクパターン画像(評価画像)を形成した。評価画像を確認し、全ノズル(7968本)に対する不吐出ノズルの本数の割合を算出した。算出された不吐出ノズルの本数の割合をノズル詰まりの評価値とした。評価対象がノズル詰まりを発生させるか否かは、以下の基準に沿って評価した。
【0090】
(ノズル詰まりの基準)
A(良好):評価値が10%未満
B(不良):評価値が10%以上
【0091】
[吐出安定性]
吐出安定性の評価においては、評価用紙として、A4サイズのインクジェット用マット紙(セイコーエプソン株式会社製「スーパーファイン紙」)を用いた。評価機を用いて、5000枚の評価用紙に150mm×200mmのソリッド画像(印字率100%)を連続印字した。次に、評価機の記録ヘッドにクリーニング処理を行った。
【0092】
次に、評価機を用いて、複数の平行な細線により形成されるストライプ画像を記録媒体に形成した。ストライプ画像の形成においては、細線の線幅を1画素に設定し、隣接する細線の間隔(線間ピッチ)を3画素に設定した。次に、評価用紙に形成されているストライプ画像を顕微鏡で読み取った。詳しくは、特定の細線aと、細線aから16画素離れた位置にある細線bとの間隔Aを204箇所で測定した。なお、細線a及び細線bの間には、3本の別の細線が存在していた。測定された間隔Aのばらつき(3σ)を、画像処理ソフト(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)を用いて算出した。算出された間隔Aのばらつき(3σ)を吐出安定性の評価値とした。吐出安定性は、以下の基準に従って判定した。
【0093】
A(良好):3σが15未満
B(不良):3σが15以上
【0094】
[カール]
カールの評価においては、評価用紙として、A4サイズの普通紙(富士フイルムビジネスイノベーション株式会社製「C2」)を用いた。評価機を用いて、評価用紙の片面の中央に10cm×10cmのソリッド画像を形成した。ソリッド画像の形成直後、評価用紙を水平な台の上に静置した。この際、ソリッド画像を形成した側の面が下方を向くように、評価用紙を静置した。ソリッド画像の形成から10秒が経過した時点で、評価用紙の四隅において評価用紙と台との距離(評価用紙が反りかえることによって評価用紙の四隅が持ち上がった距離)を測定した。四隅で測定された上述の距離の平均値を、一次カールの評価値とした。
【0095】
次に、ソリッド画像の形成から30秒が経過した時点で、評価用紙の四隅で評価用紙と台との距離(評価用紙が反りかえることによって評価用紙の四隅が持ち上がった距離)を測定した。四隅で測定された上述の距離の平均値を、二次カールの評価値とした。評価対象がカールの発生を抑制できるか否かは、以下の基準に沿って評価した。
【0096】
(カールの基準)
A(良好):一次カールの評価値が20mm以下、かつ二次カールの評価値が7mm以下
B(不良):一次カールの評価値が20mm超、又は二次カールの評価値が7mm超
【0097】
[分散安定性]
分散安定性の評価においては、評価用紙として、A4サイズのインクジェット用マット紙(セイコーエプソン株式会社製「スーパーファイン紙」)を用いた。次に、評価機の記録ヘッドにクリーニング処理を行った。次に、評価機を用いて評価用紙にノズルチェクパターン画像を形成した。その結果、何れの評価対象を用いた場合でも、全ノズルから評価対象が吐出されていた(不吐出ノズルの本数が0本)。次に、評価機を1分間静置した。次に、評価機のラインヘッドにおいて、評価対象(インク)が吐出されない程度の強さの圧力を評価対象に断続的に与え、評価対象の表面のメニスカスを振動周期18kHzで800回揺動させた(揺動処理)。次に、評価機を用いて、ラインヘッドの有する全ノズルを用いて1ドットライン画像(線幅が1画素の細線を含む画像)を評価用紙に形成した。次に、1ドットライン画像を観察し、ドット欠けを生じたノズルの本数を算出した。算出されたドット欠けを生じたノズルの本数を分散安定性の評価値とした。ドット欠けは、評価対象の分散安定性が低く、上述の揺動処理によって評価対象中の水性媒体及び顔料が分離し、水性媒体のみが吐出されることで発生する。評価対象の分散安定性は、以下の基準に沿って評価した。
【0098】
(分散安定性の基準)
A(良好):評価値が0本
B(不良):評価値が1本以上
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
表5~12に示す通り、実施例1~10のインク(I-1)~(I-10)は、顔料と、分散剤と、水性媒体とを含有していた。水性媒体は、水、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含んでいた。第1有機溶媒の含有割合、第2有機溶媒の含有割合及び第3有機溶媒の含有割合は、それぞれ、5.0質量%以上15.0質量%以下であった。ハンセン溶解度パラメーターのdD、dP及びdHにおいて、分散剤及び水性媒体は、dDの差の絶対値(ΔdD)が3.0以下、dPの差の絶対値(ΔdP)が2.5以下、dHの差の絶対値(ΔdH)が3.0以下であった。第1有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが10.0以上14.0以下、dHが23.0以上30.0以下であった。第2有機溶媒は、dDが15.0以上17.5以下、dPが5.0以上7.5以下、dHが8.0以上16.0以下であった。第3有機溶媒は、dDが15.0以上18.0以下、dPが7.5以上10.5以下、dHが17.0以上23.0以下であった。インク(I-1)~(I-10)は、上述の構成を具備することで、吐出安定性、保存安定性及び分散安定性に優れ、ノズル詰まり及びカールの発生を抑制できた。また、インク(I-1)~(I-10)は、揮発性も低かった。
【0104】
一方、比較例1及び3のインク(I-11)及び(I-13)は、ΔdHが過度に大きく、かつ第1有機溶媒を含有しないか、又は第1有機溶媒の含有割合が5.0質量%未満であった。その結果、インク(I-11)及び(I-13)は、ノズル詰まりの発生を抑制できず、かつ吐出安定性及び保存安定性が不良であった。
【0105】
比較例2及び4のインク(I-12)及び(I-14)は、ΔdP及びΔdHが過度に大きく、かつ第2有機溶媒及び第3有機溶媒を含有しないか、又は第2有機溶媒及び第3有機溶媒の含有割合が5.0質量%未満であった。その結果、インク(I-12)及び(I-14)は、カールの発生を抑制できず、かつ吐出安定性、保存安定性及び分散安定性が不良であった。
【0106】
比較例5のインク(I-15)は、ΔdP及びΔdHが過度に大きく、かつ第1有機溶媒を含有しなかった。その結果、インク(I-15)は、ノズル詰まりの発生を抑制できなかった。
【0107】
比較例6及び7のインク(I-16)及び(I-17)は、ΔdPが過度に大きく、かつ第2有機溶媒の含有割合が5.0質量%未満であった。その結果、インク(I-16)及び(I-17)は、分散安定性及び保存安定性のうち少なくとも1つが不良であった。
【0108】
比較例8及び9のインク(I-18)及び(I-19)は、第3有機溶媒を含有しなかった。その結果、インク(I-18)及び(I-19)は、カールの発生を抑制できなかった。
【0109】
比較例10のインク(I-20)は、ΔdHが過度に大きく、第1有機溶媒の含有割合が5.0質量%未満であり、かつ第3有機溶媒を含有しなかった。その結果、インク(I-20)は、ノズル詰まり及びカールの発生を抑制できなかった。