(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056760
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シート
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20230413BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230413BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230413BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20230413BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20230413BHJP
D06M 15/248 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C08L27/06
B32B27/30 101
B32B27/36
C08K5/11
C08K5/12
D06M15/248
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166164
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4L033
【Fターム(参考)】
4F100AA21A
4F100AA21C
4F100AH02A
4F100AH02C
4F100AK15A
4F100AK15C
4F100AK42B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100CA04A
4F100CA04C
4F100CA05A
4F100CA05C
4F100CA07A
4F100CA07C
4F100DG01B
4F100DG11B
4F100GB07
4F100GB15
4F100JA04B
4F100JA05B
4F100JA07A
4F100JA07C
4F100JA13B
4F100JC00A
4F100JC00B
4F100JC00C
4F100JK07B
4F100JK13A
4F100JK13C
4F100JL16B
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4J002BD031
4J002EH096
4J002EH146
4J002FD026
4J002GA01
4J002GK00
4J002GL00
4J002GN00
4L033AA07
4L033AB04
4L033AC15
4L033CA15
(57)【要約】
【課題】カーボンニュートラル(再生循環型)要素を含む軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(ターポリン、帆布、及びメッシュシート)の提供。
【解決手段】分子構造の一部にC-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部にC-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとする。また分子構造の一部にC-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部にC-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層された軟質塩化ビニル系樹脂複合シートとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含むことを特徴とする軟質塩化ビニル系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記バイオマス可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕、セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕、及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕、から選ばれた1種以上である請求項1に記載の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
式中Rはアルキル基
【請求項3】
分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層されていることを特徴とする軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項4】
前記バイオマス可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕、セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕、及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕、から選ばれた1種以上である請求項3に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
式中Rはアルキル基
【請求項5】
前記布帛が、ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維、またはポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維、からなるマルチフィラメント糸条を織編要素に含む請求項3または4に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【化5】
【化6】
【請求項6】
前記ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた1種以上である請求項5に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項7】
前記ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリアルキレンフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフタレートから得た再生繊維で、前記再生モノマーが、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含む請求項5に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項8】
前記ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリアルキレンフタレートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維である請求項6または7に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項9】
前記ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリエチレンフラノエート、ポリプロピレンフラノエート、ポリブチレンフラノエート、及びポリトリメチレンフラノエートから選ばれた1種以上である請求項5に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項10】
前記ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフラノエートから得た再生繊維で、前記再生モノマーが、フランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含む請求項5に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項11】
前記ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維である請求項9または10に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項12】
可塑剤、及び塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層された複合シートであって、前記布帛が、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維、または分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維、からなるバイオマスマルチフィラメント糸条を織編要素に含むことを特徴とする軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【化7】
【化8】
【請求項13】
前記ポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた1種以上である請求項12に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項14】
前記ポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維が、ポリアルキレンフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフタレートから得た再生繊維であり、前記再生モノマーが、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含む請求項12に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項15】
前記ポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維が、ポリエチレンフラノエート、ポリプロピレンフラノエート、ポリブチレンフラノエート、及びポリトリメチレンフラノエートから選ばれた1種以上である請求項12に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【請求項16】
前記ポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフラノエートから得た再生繊維であり、前記再生モノマーが、フランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含む請求項12に記載の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業・園芸用ビニールハウス、医療用簡易クリーンブース、工業用簡易クリーンブース、公共施設用パーティション、自動車・鉄道車両の被覆保護材、床・壁の被覆保護材、屋根・天井の防水被覆材などに用いる産業資材フィルム全般と、さらに大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、医療用陰圧テント、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ビジュアルファサード、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシートなどに用いるターポリン、及びトラック幌、野積防水シート、屋形テントなどに用いる帆布、及び建築養生メッシュシート、防風防雪ネット、防眩ネット、日除ファサードなどに用いるメッシュシートなどの産業用複合シート全般に関する。より詳しくは、植物由来物質から合成されたバイオマス塩化ビニル系樹脂、及び/または、植物由来物質から合成されたバイオマス可塑剤を少なくとも含む、再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムに関し、またポリアルキレンフラノエート繊維糸条、またはアルキレンフラノエート含有共重合体繊維糸条を織編要素とする布帛を基材とするターポリン、帆布、及びメッシュシートなどの軟質塩化ビニル系樹脂複合シートに関し、さらにバイオマス繊維を用いた布帛に、バイオマス軟質塩化ビニル樹脂フィルムを複合してなる再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートなどに関する。本明細書においてバイオマスとは動植物由来を意味し、再生循環型とは主にカーボンニュートラル(動植物由来のカーボンリサイクル)、及びポリマーの解重合による再生モノマーを利用してのケミカルリサイクル(ポリマーの再生)を意味する。
【背景技術】
【0002】
大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ファサードシート、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシートなどに用いられるターポリン、及びトラック幌、野積防水シート、屋形テントなどに用いられる帆布、さらには建築養生メッシュシート、防風防雪ネット、防眩ネット、ビジュアルファサードなどに用いられるメッシュシートなどの産業資材シートの基材には、主にポリエチレンテレフタレート(以下PET樹脂)から紡糸したポリエステル繊維糸条を織編要素とする布帛が使用されている。特に空隙率6~25%程度の布帛(織布)の両面に熱可塑性樹脂組成物フィルムを積層したものがターポリンで、空隙率0~10%程度の布帛の両面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、それを皮膜化したものが帆布で、また空隙率15~70%程度の粗目織物の全面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、塗工物を皮膜化したものがメッシュシートである。これらの産業資材シート用の熱可塑性樹脂には、主に軟質塩化ビニル系樹脂(可塑剤で可塑化された塩化ビニル系樹脂)が用いられている。これらの産業資材シートによる膜構築物、特に大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)などでは、10~20年間、風雨、紫外線に晒された状態で使用されるため、軟質塩化ビニル系樹脂層は紫外線被曝で経年劣化を伴い、また基材のPET繊維布帛は湿熱による加水分解を生じて強度低下しており、産業資材シートの廃材からPET繊維布帛や軟質塩化ビニル系樹脂を資源回収しても粗悪な品質のため、再利用できないものであった。これらのリサイクルに適さない産業資材シート(膜構築物)で、特に軟質塩化ビニル系樹脂を用いた廃材の焼却処理では、二酸化炭素ガス、塩素ガスの排出、ダイオキシン生成などの環境や健康の問題が深刻で、やむなく埋め立て処理されているのが実情である。
【0003】
近年、プラスチック製品の焼却で増大する二酸化炭素濃度の影響による地球温暖化(異常気象、風水害、水位上昇、生態系異常など)、崩壊劣化プラスチック(マイクロプラスチック粒子)による海洋汚染、海洋生物被害などの問題が切実となっていることで、プラスチック代替とプラスチック削減の意識が高まり、昨今では植物や植物由来のバイオマス資源の利用度を高めて環境負荷を軽減したカーボンニュートラルな循環型社会の構築を目指す取り組みが進められている。カーボンニュートラルとは、植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマス燃料・樹脂の使用により、これらが燃焼して発生する二酸化炭素が自然に還り、その二酸化炭素が植物に吸収されることで、植物由来の燃料や樹脂が再生するサイクルの持続によって、大気中の二酸化炭素量を実質的に増やさないという地球温暖化防止の取り組みである。こうした脱石油製品の提唱によって、植物由来のバイオマス樹脂の実用化が検討され、例えば特許文献1には、バイオマス由来のエチレンを用いたカーボンニュートラルなポリオレフィンを含む樹脂組成物からなる樹脂フィルムの発明が開示され、特許文献2には、カーボンニュートラルな材料を用いたガスバリア性を有する多層容器として、バイオマス由来のポリエチレングリコールと、バイオマス由来のフランジカルボン酸との重縮合物であるポリエチレンフラノエートを含む層を少なくとも備える多層容器の発明が開示されている。このようなカーボンニュートラルを産業資材シートにも適用し、塩化ビニル系樹脂をバイオマス塩化ビニル系樹脂に転換し、さらには可塑剤もバイオマス可塑剤に転換して高バイオマス化した軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、さらには基材のPET繊維布帛をバイオマスPET繊維布帛に転換して高バイオマス化することで、環境負荷を軽減したカーボンニュートラルな循環型社会の構築の貢献となり得るが、今現在では、バイオマス塩化ビニル系樹脂、バイオマス可塑剤、バイオマスPET繊維布帛などで構成された軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは存在していない。
【0004】
一方、石油由来のプラスチック製品の有効利用として、回収PETボトルを洗浄・破砕したフレークを原料として、カーペット用パイルや衣類用繊維などへのマテリアルリサイクルすること、さらには、破砕PETフレークを解重合して、低分子量化し、これから着色剤成分や触媒の金属イオンなどの不純物を除去して得た精製モノマーを再び重合させることで、高品質のPET樹脂を得るケミカルリサイクルなどが行われている。具体的に特許文献3では、ポリエステルの再生方法として、ポリエステル製品の製造工程で発生するポリエステル屑をエチレングリコールと混合して解重合を行ってエステルモノマーを主成分とする低重合体とし、得られた低重合体を重縮合して再生ポリエステルを製造するケミカルリサイクルの技術が開示されている。このような解重合はポリエステル以外に、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネートなどの重縮合型ポリマーに対しても可能であるが、資源回収が最も定着したPETボトルによるケミカルリサイクルが突出している。しかしながらバイオマスPETのケミカルリサイクルは確立しておらず、さらにバイオマスPET繊維布帛、及びそのケミカルリサイクルはまだ検討されていない。従ってバイオマス樹脂の開発が広く進めば、バイオマス樹脂から紡糸された繊維による再生循環型のバイオマス布帛を得ることができ、同時に、バイオマス布帛を被覆する熱可塑性樹脂組成物フィルム、及びバイオマス織物を含浸被覆する熱可塑性樹脂組成物皮膜などの構成素材についてもバイオマス化が推進され、特に軟質塩化ビニル樹脂組成物において、その主体成分である塩化ビニル樹脂、及び可塑剤のバイオマス化が合理的に展開できれば、より再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムが現実のものとなる。このような環境負荷を軽減したカーボンニュートラルな循環型社会の構築の貢献し得る軟質塩化ビニル系樹脂複合シートとして、理想的にはバイオマス塩化ビニル系樹脂、バイオマス可塑剤、バイオマス繊維からなる布帛、の1要素以上にカーボンニュートラル適合要件を具備する軟質塩化ビニル系樹脂複合シートが望まれ、さらにこの布帛がケミカルリサイクルされた織物で、ケミカルリサイクル可能な仕様が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-251006号公報
【特許文献2】特開2018-199258号公報
【特許文献3】特開昭48-61447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、バイオマス可塑剤、及び/またはバイオマス塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む軟質塩化ビニル系樹脂フィルムの提供と、この産業資材フィルムを布帛に積層してなるターポリン、及び軟質塩化ビニル系樹脂を含浸してなる帆布、並びメッシュシートなどの軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの提供、さらにはこの布帛がバイオマス繊維からなる態様、またさらには、このバイオマス繊維がケミカルリサイクルされた態様で、何れもカーボンニュートラル(再生循環型)要素を含む軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの提供を課題とする。本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シートによれば、これらの焼却処分時に発生する二酸化炭素がカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とする原料、及び製品が燃焼で二酸化炭素として自然に還り、それを再度植物が吸収する循環により実質的に二酸化炭素を増加させない)要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献することができる。本発明においてバイオマスとは動植物由来を意味し、再生循環型とは主にカーボンニュートラル(動植物由来のカーボンリサイクル)、及びポリマーの解重合による再生モノマーを利用してのケミカルリサイクル(ポリマーの再生)を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる点を考慮し検討を重ねた結果、1)特定のバイオマス可塑剤、及び/または、バイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含むフィルムとすること、2)特定のバイオマス可塑剤、及び/または、バイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む樹脂被覆層を布帛の1面以上に積層した複合シートとすることにより、カーボンニュートラル適合要件を具備する再生循環型製品となり得ることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含むことが好ましい。C-12の同位体であるC-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、β崩壊による半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、C-14が1.2×10-12濃度で検出される可塑剤、及び塩化ビニル系樹脂は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。特にバイオマス塩化ビニル系樹脂は、植物由来物質から合成された塩化ビニル系モノマーをラジカル重合させたものが好ましい。本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、バイオマス可塑剤とバイオマス塩化ビニル系樹脂から構成されることが最も好ましいが、バイオマス可塑剤と非バイオマスの塩化ビニル系樹脂から構成されたフィルム、または、非バイオマスの可塑剤とバイオマス塩化ビニル系樹脂から構成されたフィルムであってもよい。これによって、本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及びフィルム構築物の廃材が焼却処分されたとしても、それから発生する二酸化炭素はカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマスフィルムが自然に還り、それを再度植物が吸収するという動植物由来のカーボンリサイクル)適合要件を具備することで再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとなり得る。
【0009】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、前記バイオマス可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕、セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕、及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕、から選ばれた1種以上である請求項1に記載の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムであることが好ましい。上記〔化1〕は、フタル酸とアルコールとのエステル化反応によって合成され、好ましくはフタル酸とアルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤、上記〔化2〕は、セバシン酸とアルコールとのエステル化反応によって合成され、好ましくはセバシン酸、及びアルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤、上記〔化3〕は、フランジカルボン酸とアルコールとのエステル化反応によって合成され、好ましくはフランジカルボン酸、及びアルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤、上記〔化4〕は、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応によって合成され、好ましくはグリセリン及び脂肪酸が共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤である。これによって、本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及びフィルム構築物の廃材が焼却処分されたとしても、それから発生する二酸化炭素はカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマスフィルムが自然に還り、それを再度植物が吸収するという動植物由来のカーボンリサイクル)適合要件を具備することで再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとなり得る。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
式中Rはアルキル基
【0010】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層されていることが好ましい。C-12の同位体であるC-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、β崩壊による半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、既に数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、C-14が1.2×10-12濃度で検出された可塑剤、塩化ビニル系樹脂は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。特にバイオマス塩化ビニル系樹脂は、植物由来物質から合成された塩化ビニル系モノマーをラジカル重合させたものが好ましい。本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、バイオマス可塑剤とバイオマス塩化ビニル系樹脂から構成されることが最も好ましいが、バイオマス可塑剤と非バイオマスの塩化ビニル系樹脂から構成された複合シート、または、非バイオマスの可塑剤とバイオマス塩化ビニル系樹脂から構成された複合シートであってもよい。これによって、本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート、及び複合シート構築物の廃材が焼却処分されたとしても、それから発生する二酸化炭素はカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマス複合シートが自然に還り、それを再度植物が吸収する循環)適合要件を具備することで再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートとなり得る。
【0011】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記バイオマス可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕、セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕、及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕、から選ばれた1種以上であることが好ましい。上記〔化1〕は、フタル酸とアルコールとのエステル化反応によって合成され、好ましくはフタル酸とアルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤、上記〔化2〕は、セバシン酸とアルコールとのエステル化反応によって合成され、好ましくはセバシン酸、及びアルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤、上記〔化3〕は、フランジカルボン酸とアルコールとのエステル化反応によって合成され、好ましくはフランジカルボン酸、及びアルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤、上記〔化4〕は、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応によって合成され、好ましくはグリセリン及び脂肪酸が共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤である。これによって、本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート、及び複合シート構築物の廃材が焼却処分されたとしても、それから発生する二酸化炭素はカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマス複合シートが自然に還り、それを再度植物が吸収する循環)適合要件を具備することで再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートとなり得る。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
式中Rはアルキル基
【0012】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記布帛が、ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維、またはポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維、からなるマルチフィラメント糸条を織編要素に含むことが好ましい。これによって使用を終えて廃棄処分される軟質塩化ビニル系樹脂複合シートから分離される布帛の繊維の解重合が可能、かつ容易となり、ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維、またはポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維を再生するためのモノマーを得ることができる。マルチフィラメント糸条とは、長繊維の集合体による無撚または撚糸、短繊維の集合体による紡績糸(単糸、双糸、三子撚)を意味する。
【0013】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた1種以上であることが好ましい。これによって使用を終えて廃棄処分される軟質塩化ビニル系樹脂複合シートから分離される布帛の繊維の解重合が可能、かつ容易となり、ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維を再生するための重合モノマーを得ることができる。
【0014】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリアルキレンフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフタレートから得た再生繊維で、前記再生モノマーが、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含むことが好ましい。これによって本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの布帛を再生循環型とすることができる。
【0015】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリアルキレンフタレートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維であることが好ましい。これによって本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートに用いる布帛をカーボンニュートラル、かつ再生循環型とすることができる。C-12の同位体であるC-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、β崩壊による半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、既に数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、C-14が1.2×10-12濃度で検出されるポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。
【0016】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリエチレンフラノエート、ポリプロピレンフラノエート、ポリブチレンフラノエート、及びポリトリメチレンフラノエートから選ばれた1種以上であることが好ましい。これによって使用を終えて廃棄処分される軟質塩化ビニル系樹脂複合シートから分離される布帛の繊維の解重合が可能、かつ容易となり、ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維を再生するための重合モノマーを得ることができる。
【0017】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフラノエートから得た再生繊維で、前記再生モノマーが、フランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含むことが好ましい。これによって本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの布帛を再生循環型とすることができる。
【0018】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維であることが好ましい。これによって本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートに用いる布帛をカーボンニュートラル、かつ再生循環型とすることができる。C-12の同位体であるC-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、β崩壊による半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、既に数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、従ってC-14が1.2×10-12濃度で検出されるポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。
【0019】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、可塑剤、及び塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層された複合シートであって、前記布帛が、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維、または分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維、からなるバイオマスマルチフィラメント糸条を織編要素に含むことが好ましい。これによって使用を終えて廃棄処分される軟質塩化ビニル系樹脂複合シートから分離される布帛のバイオマス繊維を解重合することで、ポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維、またはポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維を再生するためのカーボンニュートラル、かつ動植物由来のバイオマスモノマーを得ることができ、しかもC-14(放射性炭素原子)を含むことで再生された繊維が動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。
【化7】
【化8】
【0020】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた1種以上であることが好ましい。これによって使用を終えて廃棄処分される軟質塩化ビニル系樹脂複合シートから分離される布帛の繊維の解重合が可能、かつ容易となり、ポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維を再生するための重合モノマーを得ることができる。
【0021】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフタレート〔化7〕繊維が、ポリアルキレンフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフタレートから得た再生繊維であり、前記再生モノマーが、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含むことが好ましい。これによって本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートを構成する布帛を再生循環型とすることができる。
【0022】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維が、ポリエチレンフラノエート、ポリプロピレンフラノエート、ポリブチレンフラノエート、及びポリトリメチレンフラノエートから選ばれた1種以上であることが好ましい。これによって使用を終えて廃棄処分される軟質塩化ビニル系樹脂複合シートから分離される布帛の繊維の解重合が可能、かつ容易となり、ポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維を再生するための重合モノマーを得ることができる。
【0023】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、前記ポリアルキレンフラノエート〔化8〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフラノエートから得た再生繊維であり、前記再生モノマーが、フランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含むことが好ましい。これによって本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートを構成する布帛を再生循環型とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、カーボンニュートラル(再生循環型)要素を含む軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの提供を可能とするので、特に軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、農業・園芸用ビニールハウス、医療用クリーンブース、工業用簡易クリーンブース、公共施設用パーティション、自動車・鉄道車両の被覆保護材、床・壁の被覆保護材、屋根・天井の防水被覆材などに広く有用で、また軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ビジュアルファサード、医療用陰圧テント、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシートなどに用いるターポリン、及びトラック幌、野積防水シート、屋形テントなどに用いる帆布、及び建築養生メッシュシート、防風防雪ネット、防眩ネット、日除ファサードなどに用いるメッシュシートなどに広く有用である。そしてこれらの焼却処分時に発生する二酸化炭素がカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とする原料、及び製品が燃焼で二酸化炭素として自然に還り、それを再度植物が吸収する循環により実質的に二酸化炭素を増加させない)要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献することが期待できる。本発明において再生循環型とは主にカーボンニュートラル(動植物由来のカーボンリサイクル)を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
カーボンニュートラル要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献する本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、可塑剤、及び塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層された複合シートであって、1)樹脂被覆層にバイオマス要素を有し、布帛にバイオマス要素を有さない態様、2)樹脂被覆層にバイオマス要素を有し、布帛にもバイオマス要素を有する態様、3)樹脂被覆層にバイオマス要素を有さず、布帛にバイオマス要素を有する態様、の何れかである。ここで樹脂被覆層にバイオマス要素を有するとは、樹脂被覆層に含む可塑剤、及び塩化ビニル系樹脂の両方がバイオマス要素を有するか、可塑剤、または塩化ビニル系樹脂の一方がバイオマス要素を有するものを意味し、布帛にバイオマス要素を有するとは、布帛の織編を構成する繊維であって、繊維を構成するポリマーにバイオマス要素を有するものを意味する。すなわち本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層されていて、特にバイオマス可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル化合物、セバシン酸ジアルキルエステル化合物、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物、及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物、から選ばれた1種以上の態様である。そして布帛が、ポリアルキレンフタレート繊維(好ましくはポリエチレンテレフタレート繊維)、またはポリアルキレンフラノエート繊維(好ましくはポリエチレンフラノエート)、からなるマルチフィラメント糸条を織編要素に含み、さらにこれらの繊維が、解重合して得た再生モノマーの重合による再生繊維であり、さらにこれらの繊維を構成する分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維である。また別の態様として、可塑剤、及び塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層された複合シートであって、布帛が、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むポリアルキレンフタレート繊維、または分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むポリアルキレンフラノエート繊維、からなるバイオマスマルチフィラメント糸条を織編要素に含むものである。また本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、上記の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートを構成要素の一部でもある。
【0026】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含むもので、特にバイオマス可塑剤が、フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕、セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕、及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕、から選ばれた1種以上であることが好ましい。上記〔化1〕は、n=4~12の整数であり、フタル酸とC4~C12アルコールとのエステル化反応によって合成され、フタル酸とC4~C12アルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤(C-14含有)が最も好ましいが、フタル酸もしくはC4~C12アルコールの一方が植物由来物質である半バイオマス可塑剤(C-14含有)であってもよい。上記〔化2〕は、n=4~12の整数であり、セバシン酸とC4~C12アルコールとのエステル化反応によって合成され、セバシン酸、及びC4~C12アルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤(C-14含有)が最も好ましいが、アジピン酸もしくはセバシン酸、またはC4~C12アルコールの一方が植物由来物質である半バイオマス可塑剤(C-14含有)であってもよい。上記〔化3〕は、n=4~12の整数であり、フランジカルボン酸とC4~C12アルコールとのエステル化反応によって合成され、フランジカルボン酸、及びC4~C12アルコールが共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤(C-14含有)が最も好ましいが、フランジカルボン酸、またはC4~C12アルコールの一方が植物由来物質である半バイオマス可塑剤(C-14含有)であってもよい。上記〔化4〕は、n=2~10の整数であり、グリセリンとC2~C10脂肪酸とのエステル化反応によって合成され、グリセリン及びC2~C10脂肪酸が共に植物由来物質である100%バイオマス可塑剤(C-14含有)が最も好ましいが、グリセリンまたはC2~C10脂肪酸の一方が植物由来物質である半バイオマス可塑剤(C-14含有)であってもよい。これによって、本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート、及び複合シート構築物の廃材が焼却処分されたとしても、それから発生する二酸化炭素はカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマス複合シートが自然に還り、それを再度植物が吸収する循環)にカウントされる要件を具備することで再生循環型の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートとなり得る。ここで分子構造の一部にC-14を有する可塑剤分子とは、植物由来で合成された可塑剤分子を意味し、バイオマス可塑剤中に占めるC-14を有する可塑剤分子は、自然界に含む約1.2×10
-12濃度と同程度で、バイオマス可塑剤に含む全ての可塑剤分子がC-14を有することを意味するものではない。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
式中Rはアルキル基
【0027】
フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕において植物由来のフタル酸は、例えばトウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たオルトキシレンをフタル酸に転換したものである。セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕において植物由来のセバシン酸は、例えばトウゴマの種子から搾取されるヒマシ油から合成されたものである。フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕において植物由来のフランジカルボン酸は、例えばフルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成されたものである。ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕において植物由来のグリセリンは、例えば生物の油脂に含むトリアシルグリセロールを加水分解して得られるもの、または生物の油脂を鹸化して得られる石鹸製造時の副産物で、一方、植物由来の脂肪酸は、例えばベニバナ油、コーン油、大豆油、オリーブ油、ヤシ油、及びパーム油などのC2~10の飽和または不飽和脂肪酸である。
【0028】
フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕(n=4~12の整数)の具体例は、フタル酸とC4アルコールとの反応によるフタル酸ジブチル(MW278)、及びフタル酸ジイソブチル(MW278)、同様にC5アルコールとの反応によるフタル酸ジペンチル(MW306)、同様にC6アルコールとの反応によるフタル酸ジヘキシル(MW334)、同様にC7アルコールとの反応によるフタル酸ジヘプチル(MW362)、同様にC8アルコールとの反応によるフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(MW390)、同様にC9アルコールとの反応によるフタル酸ジノニル(MW418)及び、フタル酸ジイソノニル(MW418)、同様にC10アルコールとの反応によるフタル酸ジデシル(MW446)及び、フタル酸ジイソデシル(MW446)、同様にC11アルコールとの反応によるフタル酸ジウンデシル(MW474)、同様にC12アルコールとの反応によるフタル酸ジラウリル(MW502)などで、複数種を併用することができる。合成に用いるC4~C12アルコールも植物由来の化合物であることが好ましく、バイオマス・エタノール、バイオマス・ブタノールなどバイオマス・アルコールの二量化、三量化によって得ることが可能である。これによって得られるこれらのフタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕はバイオマス度100%となり再生循環可能となり得る。
【0029】
セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕(n=4~12の整数)の具体例は、セバシン酸とC4アルコールとの反応によるセバシン酸ジブチル(MW314)、及びセバシン酸ジイソブチル(MW314)、同様にC5アルコールとの反応によるセバシン酸ジペンチル(MW342)、同様にC6アルコールとの反応によるセバシン酸ジヘキシル(MW370)、同様にC7アルコールとの反応によるセバシン酸ジヘプチル(MW398)、同様にC8アルコールとの反応によるセバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)(MW426)、同様にC9アルコールとの反応によるセバシン酸ジノニル(MW454)及び、セバシン酸ジイソノニル(MW454)、同様にC10アルコールとの反応によるセバシン酸ジデシル(MW482)及び、セバシン酸ジイソデシル(MW482)、同様にC11アルコールとの反応によるセバシン酸ジウンデシル(MW510)、同様にC12アルコールとの反応によるセバシン酸ジラウリル(MW538)などで、複数種を併用することができる。合成に用いるC4~C12アルコールも植物由来の化合物であることが好ましく、バイオマス・エタノール、バイオマス・ブタノールなどバイオマス・アルコールの二量化、三量化によって得ることが可能である。これによって得られるこれらのフランジカルボン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕はバイオマス度100%となり再生循環可能となり得る。
【0030】
フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕(n=4~12の整数)は、特に2,5-フランジカルボン酸(C-14含有)とC4~C12のアルコール(C-14含有)との反応(エステル化)によって合成された2,5-フランジカルボン酸ジアルキルエステル化合物が好ましい。フランジカルボン酸のカルボン酸の配位は2,5位以外、2,3位、2,4位、3,4位の態様も可能であるが、バイオマス化合物としては2,5-フランジカルボン酸が最も合成が簡便である。具体的に、2,5-フランジカルボン酸とC4アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジブチル(MW268)、及び2,5-フランジカルボン酸ジイソブチル(MW268)、同様にC5アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジペンチル(MW296)、同様にC6アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジヘキシル(MW324)、同様にC7アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジヘプチル(MW352)、同様にC8アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジ(2-エチルヘキシル)(MW380)、同様にC9アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジノニル(MW408)及び、2,5-フランジカルボン酸ジイソノニル(MW408)、同様にC10アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジデシル(MW436)及び、2,5-フランジカルボン酸ジイソデシル(MW436)、同様にC11アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジウンデシル(MW464)、同様にC12アルコールとの反応による2,5-フランジカルボン酸ジラウリル(MW492)などで、複数種を併用することができる。合成に用いるC4~C12アルコールも植物由来の化合物であることが好ましく、バイオマス・エタノール、バイオマス・ブタノールなどバイオマス・アルコールの二量化、三量化によって得ることが可能である。これによって得られるこれらのフランジカルボン酸ジアルキルエステル化合物〔化3〕はバイオマス度100%となり再生循環可能となり得る。
【0031】
ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕(n=2~10の整数)は、ポリグリセリン(C-14含有)と脂肪酸(C-14含有)をエステル化したもので、ポリグリセリン脂肪酸モノエステル化合物、ポリグリセリン脂肪酸ジエステル化合物、ポリグリセリン脂肪酸トリエステル化合物、及びこれらの混合物の何れかである。ポリグリセリンはグリセリンをモノマーとして脱水縮合して得られる多量体(ポリマー)で、平均重合度2~10,特に2,4,6が好ましい。特にグリセリンは、生物(動物、魚類、昆虫類など)の油脂に含むトリアシルグリセロールを加水分解して得られるもの、油脂(動物系、植物系)を鹸化して得られる石鹸製造時の副産物であるグリセリン、油脂とメタノールのエステル交換反応による脂肪酸メチルエステル生成時の副産物であるグリセリン、バイオマス・プロピレンをエピクロルヒドリンに転化し、これを加水分解したグリセリンなど、化石燃料に依存しないバイオマス・グリセリンが好ましい。また脂肪酸は、炭素数2~10の飽和または不飽和脂肪酸が好ましく、これらは直鎖状または分岐状であってもよく具体的に、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)などであるが、植物由来の観点において、ベニバナ油、コーン油、大豆油、オリーブ油、ヤシ油、及びパーム油などに含むリノール酸、リノレン酸、オレイン酸、ラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)などが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕としては、ポリグリセリン/カプリル酸モノ(またはジ、またはトリ)エステル、ポリグリセリン/カプリン酸モノ(またはジ、またはトリ)エステル、ポリグリセリン2-エチルヘキサン酸モノ(またはジ、またはトリ)エステル、ポリグリセリン/ラウリン酸モノ(またはジ、またはトリ)エステル、ポリグリセリン/パルミチン酸モノ(またはジ、またはトリ)エステル、などである。(※「/」は化学物質のカタカナ名詞の連続による視認混乱を回避するために用いた。ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物において全て同様の扱いとする)このようなバイオマス・グリセリンによるポリグリセリンと、バイオマス脂肪酸をエステル化して得られるポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕が、再生循環可能なバイオマス可塑剤となり得る。
【0032】
上述の〔化1〕~〔化4〕の(バイオマス)可塑剤は、分子構造の一部にC-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤であることが好ましい。C-12の同位体であるC-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、β崩壊による半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、既に数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、C-14が1.2×10-12濃度で検出される上述の〔化1〕~〔化4〕の可塑剤は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。ここで分子構造の一部にC-14を有する可塑剤分子とは、全ての可塑剤分子がC-14を有することを意味するものではない。
【0033】
一方、上述の〔化1〕~〔化4〕の(バイオマス)可塑剤が作用する塩化ビニル系樹脂は、C-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂である。塩化ビニル系樹脂は、は塩化ビニルモノマーの単独重合体(乳化重合タイプ、懸濁重合タイプで重合度が700~3800のもの)、架橋塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂の他、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/アクリルグラフト重合体など、塩化ビニル含有成分が60質量%を越える共重合体が挙げられる。塩化ビニルモノマーは、ナフサを熱分解して得たエチレンと、塩を電気分解して得られる塩素を反応させ二塩化エチレンとし、この二塩化エチレンを熱分解して得る直接塩素化法によるもの、及びナフサを熱分解して得たエチレンと、直接塩素化法で副生する塩化水素を酸素の存在下で反応させ二塩化エチレンとし、この二塩化エチレンを脱水して熱分解して得るオキシ塩素化法によるものが汎用である。しかし本発明において用いる塩化ビニル系樹脂は、サトウキビ(C-14含有)の廃蜜糖の発酵によるバイオマス・エタノール(C-14含有)を脱水して得られるバイオマス・エチレン(C-14含有)を由来とする二塩化エチレン(C-14含有)を熱分解してなる塩化ビニルモノマー(C-14含有)を用いて重合されたバイオマス塩化ビニル系樹脂(C-14含有)が好ましい。ここで分子構造の一部にC-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂とは、植物(サトウキビ)由来で合成された塩化ビニル系樹脂を意味し、塩化ビニル系樹脂中に占めるC-14量は自然界に含む約1.2×10-12量と同程度で、塩化ビニル系樹脂に含む全てのポリマー鎖が必ずしもC-14を有することを意味するものではない。このバイオマス塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、上述の〔化1〕~〔化4〕の(バイオマス)可塑剤を30~100質量部、特に50~80質量部配合することで、カーボンニュートラル要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献できる軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとなり得る。また特別にバイオマス度が任意である場合は、フタル酸エステル系、イソフタル酸エステル系、テレフタル酸エステル系、シクロヘキサンジカルボン酸エステル系、シクロヘキセンジカルボン酸エステル系、アジピン酸系、塩素化パラフィン系、ポリエステル系、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素三元共重合体樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・一酸化炭素三元共重合体樹脂などの化石燃料由来の可塑剤を、全可塑剤量に対して最大50質量%併用してもよい。特にエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油は、化学構造の大豆油、アマニ油部分がバイオマス由来なのでバイオマス可塑剤の併用に好適である。
【0034】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、すなわち、カーボンニュートラル要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献できる軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、上述の(バイオマス)可塑剤、及びまたは(バイオマス)塩化ビニル系樹脂を含み、それ以外に、カルシウム亜鉛複合系、バリウム亜鉛複合系、有機錫ラウレート、有機錫メルカプタイト、エポキシ系などの安定剤を含み、必要に応じて、顔料、難燃剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤、抗菌剤、帯電防止剤、架橋剤などを任意使用した軟質塩化ビニル系樹脂コンパウンドから成型される。フィルム成型は、この軟質塩化ビニル系樹脂コンパウンドをカレンダー圧延成型、またはTダイス押出成型して厚さ0.1~1mmとする態様が例示できる。同様に本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、分子構造の一部にC-14を有する可塑剤分子を含むバイオマス可塑剤、及び/または、分子構造の一部にC-14を有する塩化ビニル単位を含むバイオマス塩化ビニル系樹脂、を少なくとも含む樹脂被覆層が、布帛の1面以上に積層された態様で、1)布帛を基材として、その片面以上に、軟質塩化ビニル系樹脂フィルムを積層してなる厚さ0.4~1.5mmのターポリン、2)布帛を基材として、その両面に、軟質塩化ビニル系樹脂含浸被覆層を形成してなる厚さ0.3~1mmの帆布、3)粗目布帛を基材として、粗目布帛の露出部全面に、軟質塩化ビニル系樹脂含浸被覆層を形成してなる厚さ0.3~1.5mmのメッシュシートであり、ターポリン用の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは上述のフィルムと同一である。そして帆布用、及びメッシュシート用の軟質塩化ビニル系樹脂含浸被覆層は、乳化重合によるペースト塩化ビニル樹脂(微粒子)100質量部に、可塑剤を30~100質量部を主体とし、それ以外に、カルシウム亜鉛複合系、バリウム亜鉛複合系、有機錫ラウレート、有機錫メルカプタイト、エポキシ系などの安定剤を含み、必要に応じて、顔料、難燃剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤、抗菌剤、帯電防止剤、架橋剤などを任意使用した軟質塩化ビニル系樹脂ペースト組成物が例示できる。このペースト組成物を布帛にコーティング、または布帛をペースト組成物の液浴中にディッピングし、これを熱処理ゲル化させた皮膜が好ましい。
【0035】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートに用いる布帛の織編要素は、ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維、またはポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維、からなるマルチフィラメント糸条を含み、経糸条/緯糸条、経糸条/右上30~60°バイアス糸条/左上30~60°バイアス糸条、経糸条/緯糸条/右上30~60°バイアス糸条/左上30~60°バイアス糸条、から選ばれた1種である。ここで「経糸条/緯糸条」は二軸織物、「経糸条/右上30~60°バイアス糸条/左上30~60°バイアス糸条」は三軸織物、「経糸条/緯糸条/右上30~60°バイアス糸条/左上30~60°バイアス糸条」は四軸織物を意味する。特に三軸織物、及び四軸織物を基材に用いることで、得られる軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの寸法安定性、破壊強度、耐貫通性、引裂防止性に極めて優れるので、特にターポリン及び帆布に関しては、テント構造物などの用途以外に、フレキシブル防犯シャッター、機動隊・自衛隊の防護服・防護カバー、爆破工事現場の破砕飛散物避け、作業現場の落下物受け装備などの特殊用途にも活用することができる。具体的にポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリメチレンテレフタレートから選ばれた1種以上で、特にポリアルキレンフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフタレートから得た再生繊維で、再生モノマーとして、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含んで用いることができ、しかも得られる再生ポリアルキレンフタレートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維であることが循環持続型資材として好ましい。また一方、具体的に、ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維は、ポリエチレンフラノエート、ポリプロピレンフラノエート、ポリブチレンフラノエート、及びポリトリメチレンフラノエートから選ばれた1種以上で、特にポリアルキレンフラノエートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフラノエートから得た再生繊維で、再生モノマーとして、フランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上を含んで用いることができ、しかも得られる再生ポリアルキレンフラノエートの分子構造の一部にC-14を含むバイオマス繊維であることが循環持続型資材として好ましい。〔化5〕及び〔化6〕の「-(CH
2)
n-」はアルキレン基を示し、nは2以上10以下の整数、具体的にエチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ドデシレンなどであるが、特にnは2,3,4の何れかが好ましい。また重合度mはおよそ300~1000、分子量8万~30万の範囲である。
【化5】
【化6】
【0036】
ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維として好ましい、ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸ジメチルまたはテレフタル酸と、エチレングリコールとの重縮合により得られる。テレフタル酸ジメチルを原料とするポリマー合成では、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに触媒を加えてエステル交換反応を行い、得られるテレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチル、及び重合度4程度以下のオリゴマーからなる反応生成物を重縮合させてポリエチレンテレフタレートを合成することができる。一方、テレフタル酸を原料とする直接重合法では、テレフタル酸とエチレングリコールのエステル化反応を行い、得られたテレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルを含む平均重合度が9~10のオリゴマーを重縮合させてポリエチレンテレフタレートを合成することができる。これらの合成により得られたポリアルキレンテレフタレート〔化5〕を解重合することで、個々のモノマー(多価アルコール、多価カルボン酸)が回収される。ここで、テレフタル酸は、トウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たパラキシレンをテレフタル酸に転換した植物由来のテレフタル酸が好ましく、テレフタル酸ジメチル、及びテレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルは、このバイオマス・テレフタル酸から誘導さる。そしてこのような植物由来のポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維は、ポリアルキレンフタレートの分子構造の一部にC-14を含むバイオマス繊維であることが好ましい。C-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、既に数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、C-14が1.2×10-12濃度で検出されるポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。またエチレングリコールは、例えばサトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオエタノールを脱水してエチレンとし、これを酸化してエチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のエチレングリコールが好ましい。ポリプロピレンテレフタレートは、上記のポリエチレンテレフタレート合成プロセスにおいて、エチレングリコールをプロピレングリコールに置換した合成方法によって合成され、プロピレングリコールは、サトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオマス・プロパノールを脱水してバイオマス・プロピレンとし、これを酸化してバイオマス・プロピレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のプロピレングリコールである
同様にポリブチレンテレフタレートは、上記のポリエチレンフラノエート合成プロセスにおいて、エチレングリコールをブチレングリコールに置換した合成方法によって合成され、同様にポリトリメチレンテレフタレートは、上記のポリエチレンテレフタレート合成プロセスにおいて、エチレングリコールをトリメチレングリコールに置換した合成方法によって合成され、トリメチレングリコールは、パーム油由来のグリセリンを原料に発酵法で生産される1,3-プロパンジオールである。ポリアルキレンテレフタレート〔化5〕繊維として、上記の合成プロセスにおいて用いるテレフタル酸の最大50質量%をイソフタル酸(テレフタル酸の位置異性体)に置換して得られるコポリマーも包含するものとする。
【0037】
ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維として好ましい、ポリエチレンフラノエートは、2,5-フランジカルボン酸ジメチルまたは2,5-フランジカルボン酸と、エチレングリコールとの重縮合により得られる。2,5-フランジカルボン酸ジメチルを原料とするポリマー合成では、2,5-フランジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールに触媒を加えてエステル交換反応を行い、得られるフランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチル、及び重合度4程度以下のオリゴマーからなる反応生成物を重縮合させてポリエチレンフラノエートを合成することができる。一方、2,5-フランジカルボン酸を原料とする直接重合法では、2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールのエステル化反応を行い、得られたフランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルを含む平均重合度が9~10のオリゴマーを重縮合させてポリエチレンフラノエートを合成することができる。これらの合成により得られたポリアルキレンフラノエート〔化6〕を解重合することで、個々のモノマー(多価アルコール、多価カルボン酸)が回収される。ここで、2,5-フランジカルボン酸は、フルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成したバイオマス化合物が好ましく、2,5-フランジカルボン酸ジメチル、及びフランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルは、このバイオマス・2,5-フランジカルボン酸から誘導さる。またエチレングリコールは、例えばサトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオエタノールを脱水してエチレンとし、これを酸化してエチレンオキサイドとし、さらに加水分解したジオールが好ましい。そしてこのような植物由来のポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維は、ポリアルキレンフラノエートの分子構造の一部にC-14を含むバイオマス繊維であることが好ましい。C-14は、太陽からの宇宙線の作用で窒素が変化した質量数14、半減期5370年の放射性炭素原子で、自然界(特に動植物)にC-14C/C-12=1.2×10-12の平衡状態で常在し、既に数億年を経過した化石燃料中には含み得ないものであるから、C-14が1.2×10-12濃度で検出されるポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維は、動植物由来のものを主体とするバイオマスの証明となる。ポリプロピレンフラノエートは、上記のポリエチレンフラノエート合成プロセスにおいて、エチレングリコールをプロピレングリコールに置換した合成方法によって合成され、プロピレングリコールは、サトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオマス・プロパノールを脱水してバイオマス・プロピレンとし、これを酸化してバイオマス・プロピレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のプロピレングリコールである。
同様にポリブチレンフラノエートは、上記のポリエチレンフラノエート合成プロセスにおいて、エチレングリコールをブチレングリコールに置換した合成方法によって合成され、同様にポリトリメチレンフラノエートは、上記のポリエチレンフラノエート合成プロセスにおいて、エチレングリコールをトリメチレングリコールに置換した合成方法によって合成される。ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維として、上記の合成プロセスにおいて用いる2,5-フランジカルボン酸の最大50質量%を2,4-フランジカルボン酸、または3,4-フランジカルボン酸(フランジカルボン酸の位置異性体)に置換して得られるコポリマーも包含するものとする。
【0038】
ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維は、密度1.35~1.37g/cm3、融点250~270℃、強度(E-modulus)2.1~2.2GPa、の少なくとも1項を満たすポリアルキレンフタレート樹脂から溶融紡糸された繊維が特に好ましい。一方、ポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維は、密度1.41~1.45g/cm3、融点210~230℃、強度(E-modulus)3.1~3.3GPa、の少なくとも1項を満たすポリアルキレンフラノエート樹脂から溶融紡糸された繊維が特に好ましい。ターポリン用の織布(平織物、斜子織物、朱子織物、綾織物、ラッセル織物など)を構成する長繊維マルチフィラメント糸条は、繊度250~2000デニール(278~2222dtex)で、例えば278dtexのフィラメント数が100~200本、例えば1111dtexのフィラメント数だと400~800本程度であり、無撚(断面が楕円または扁平)であっても撚糸であってもよい。また帆布用布帛(平織物、斜子織物、朱子織物、綾織物など)を構成する短繊維紡績(スパン)マルチフィラメント糸条は、その繊度が綿番手の10番手(591dtex)~60番手(97dtex)の範囲、特に10番手(591dtex)、14番手(422dtex)、16番手(370dtex)、20番手(295dtex)、24番手(246dtex)、30番手(197dtex)などであり、これらの単糸、または双糸(片撚糸)、単糸2本以上による合撚糸(諸撚糸)などが使用できる他、嵩高加工糸条(タスラン加工糸、ウーリー加工糸など)、カバリング糸条(マルチフィラメント糸の外周に同種または異種の短繊維を巻き付けた芯鞘複合糸)なども使用できる。またメッシュシート用の粗目織物(平織物、模紗織物、積重ネットなど)を構成する長繊維マルチフィラメント糸条は、その繊度はターポリンと同様の仕様のものが使用でき、特に樹脂で糸条全体を被覆した長繊維マルチフィラメント糸条(コーテッドヤーン)であってもよい。
【0039】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シートに用いる布帛は、1)空隙6~25%程度の織布(平織物、斜子織物、朱子織物、綾織物、ラッセル織物など)で、長繊維マルチフィラメント糸条で織編される目付量100~500g/m2の織布である。このような織布を基材とするターポリンは、この基材の両面に軟質塩化ビニル系樹脂組成物からカレンダー圧延成型、あまたるいはTダイス押出成型された厚さ0.1~1mmのフィルム、またはシートを熱圧ラミネートして得ることができ、空隙率6~25%の空隙部(軸糸の交絡により生じる空隙)を介在して、織布の表裏に配置されたフィルム、またはシート同士が溶融一体化することで表裏の軟質塩化ビニル樹脂層が織布と強固に接着する特徴を有している。ターポリンの厚さは0.4~1.5mm、質量500~2000g/mの範囲だと、大型テント構造物(室内スポーツ施設、パビリオン、イベントホール)、サーカステント、テント倉庫、建築空間の膜屋根(膜天井)などの膜構造物の原反素材、フレキシブルコンテナの原反素材に適する。また2)空隙率0~10%程度の帆布用布帛(平織物、斜子織物、朱子織物、綾織物など)で、短繊維紡績(スパン)マルチフィラメント糸条で織編される目付量100~500g/m2のスパン布帛である。このようなスパン布帛を基材とする帆布は、この基材の両面に軟質塩化ビニル樹脂系組成物の液状物をディップ塗工、あるいはコーティング塗工し、塗工物を乾燥させて0.05~0.3mmの皮膜化して得ることができ、塗工物の一部はスパン布帛に含浸した状態が好ましい。帆布の厚さは0.4~1.0mm、質量400~1500g/mの範囲だと、トラック幌、テント倉庫などの原反素材に適する。また3)及び空隙率10~70%程度のメッシュシート用の粗目織物(平織物、模紗織物、積重ネットなど)で、長繊維マルチフィラメント糸条で織編される目付量30~200g/m2の粗目織物である。このような粗目織物を基材とするメッシュシートは、この基材の全体に軟質塩化ビニル系樹脂組成物の液状物をディップ塗工し、塗工物を乾燥させて0.05~0.3mmの皮膜化して得ることができ、塗工物の一部は粗目織物に含浸した状態が好ましい。また軟質塩化ビニル系樹脂組成物の液状物を糸条全体に塗工被覆した長繊維マルチフィラメント糸条(コーテッドヤーン)を織編して得たメッシュシート、またはコーテッドヤーンの積重融着メッシュである。メッシュシートの厚さは0.4~1.0mm、質量100~500g/mの範囲だと、建築養生メッシュシート、防風防雪ネット、防眩ネット、ファサードメッシュなどの原反素材に適する。布帛、粗目織物及びメッシュシートの空隙率は、経糸条/緯糸条、経糸条/右上30~60°バイアス糸条/左上30~60°バイアス糸条、経糸条/緯糸条/右上30~60°バイアス糸条/左上30~60°バイアス糸などの軸糸同士の交絡・交差によって生じる隙間の総和であり、布帛の単位面積中に占める糸条の面積を百分率として求め、100から差し引いた値として求めることができる。具体的に糸条幅の平均値を求め、糸条の打込本数/インチの関係から1インチ平米当たりの空隙率による換算値として算出可能である。
【0040】
ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維が、ポリアルキレンフタレートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフタレートから得た再生繊維で、再生モノマーが、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上、及び多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール)を含むもので、再生前、及び再生後のポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維において、ポリアルキレンフタレートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維であることが好ましい。すなわちテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルなどのモノマー、及び/または多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール)の一部において、C-14が1.2×10-12濃度で含有するものである。またポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートを解重合して得た再生モノマーの重合による再生ポリアルキレンフラノエートから得た再生繊維で、再生モノマーが、フランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルから選ばれた1種以上、及び多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール)を含むもので、再生前、及び再生後のポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維が、ポリアルキレンフラノエートの分子構造の一部に放射性炭素原子C-14を含むバイオマス繊維であることが好ましい。すなわちフランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルなどのモノマー、及び/または多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコール)の一部において、C-14が1.2×10-12濃度で含有するものである。ポリアルキレンフタレート〔化5〕繊維、及びポリアルキレンフラノエート〔化6〕繊維の解重合は、例えば、多価アルコール(エチレングリコールなど)を溶媒として解重合し、次いでアルコールでエステル交換反応させて、上記再生モノマーを得るグリコリシス法、加水分解によるヒドロリシス法など、塩基性条件下での求核置換反応が好ましく、求核試薬はアルコールや水などで、水酸基の酸素原子がエステルカルボニル基の炭素を攻撃して不可逆的にポリマー主鎖からアルコキシル基を分離する機構である。この解重合を穏やかな加熱条件で進行させるために、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の酢酸塩、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のアルコキシド、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の酢酸塩、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のアルコキシド、アルカリ土類金属の水酸化物などの触媒を必要とする。上述の再生モノマーは、解重合によって得られた低分子から、金属イオン、着色剤、汚れなどの不純物を除去し、分子蒸留して精製したものを使用する。
【0041】
本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの表面には必要に応じて、これらの片面以上に、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、などの塗膜からなる防汚層が形成されていてもよく、また、フッ素系樹脂層/アミノエチル化アクリル樹脂エポキシ硬化物接着層、フッ素系樹脂層/アクリル系樹脂接着層、フッ素系樹脂層/アクリル系樹脂層/アミノエチル化アクリル樹脂エポキシ硬化物接着層、及びフッ素系樹脂層/アクリル系樹脂層/塩化ビニル系樹脂接着層など多層構造のフッ素系樹脂フィルムを防汚層として積層することができる。これらの防汚層を、大型テント(パビリオン)、サーカステント、テント倉庫、建築空間の膜屋根(天井)、モニュメントなどの膜構造物に適用することで屋外使用時の耐久性を飛躍的に向上させる。特に本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シート用の防汚層として、1次粒子径3nm~150nmの無機コロイド物質を原料とするナノ粒子が、シランカップリング剤の加水分解縮合物を含むバインダー成分に担持されてなる無機系の防汚薄膜層が好ましい。無機コロイド物質は、光触媒性酸化チタンゾル、光触媒性酸化亜鉛ゾル、光触媒性酸化錫ゾル、酸化チタンゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化錫ゾル、シリカゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化セリウムゾル、及び複合酸化物(酸化亜鉛-五酸化アンチモン複合または酸化スズ-五酸化アンチモン複合)ゾルなどの金属酸化物が好ましい。
【0042】
本発明を下記の実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明はこれらの例の範囲に限定されるものではない。
バイオマス度(バイオマス由来の証明)
ポリマーを構成する全炭素原子中に含む放射性炭素原子C-14濃度(ポリマー中のC-14とC-12の検出比)を加速器質量分析計(Accelerator Mass Spectrometry)により求め、放射性炭素原子C-14の検出比によりバイオ化率が証明される。
大気中の炭素同位体C-14量は、宇宙線によるC-14生成と、放射崩壊(半減期約5730年)とが平衡状態にありほぼ一定で、大気中のC-14は光合成によって植物に蓄積され、続く食物連鎖で動物中に分布することで地球上全ての生物のC-14濃度(C-14とC-12の検出比)はほぼ一定である。その一方、石油は1~2億年前の生物由来物質であるため、石油中の「C-14」濃度は半減期を大きく過ぎていることで実質ゼロと見做されることで、バイオマス由来製品には一定濃度のC-14が含まれ、石油由来製品にはC-14が含まれないことになる。従ってC-14濃度(C-14とC-12の検出比)測定によりバイオマス由来製品であることの証明となり得る。
【0043】
[実施例1]
〈布帛(1)によるターポリン〉
ポリエチレンテレフタート樹脂(密度1.36g/cm3、融点250~270℃、ガラス転移温度Tg76℃、強度:E-modulus2.1~2.2GPa)を溶融紡糸したポリエチレンテレフタート(PEF)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量190g/m2、空隙率10%の布帛(1)を用いる。
※ポリエチレンテレフタート(PET)繊維は、テレフタル酸とエチレングリコールのエステル化反応によって得られるポリエチレンテレフタート(PET)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、エチレングリコールは、サトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオマス・エタノールを脱水してバイオマス・エチレンとし、これを酸化してバイオマス・エチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のエチレングリコール、またテレフタル酸は、トウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たパラキシレンをテレフタル酸に転換した植物由来のテレフタル酸で、得られるポリエチレンテレフタート(PET)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(1)もバイオマス度100%となる。
<ターポリンの製造>
布帛(1)の両面に下記〔配合1〕の軟質塩化ビニル樹脂コンパウンドから165℃~180℃の熱条件でカレンダー成型による厚さ0.16mmのフィルムを、ラミネーターにより170℃の熱ロール条件でフィルムを軟化させた状態で積層すれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(1)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(1)のバイオマス度は理論的におよそ100%である(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
※成型した〔配合1〕による厚さ0.16mmのフィルムは、別途本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとして利用できる。
〔配合1〕軟質塩化ビニル樹脂コンパウンド組成物
懸濁重合による塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
※サトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオマス・エタノールを脱水して得られるバイオ
マス・エチレンを塩素化した塩化ビニルモノマーのラジカル重合によるバイオマス・ポ
リマー
フタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕として、フタル酸ジイソノニル(可塑剤)
60質量部
※フタル酸とバイオマス・イソノニルアルコールとの反応(エステル化)によって合成
され、フタル酸は、トウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレ
ンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たオルトキシレンをフタル酸に転換
したバイオマス度100%の化合物
エポキシ化大豆油(部分バイオマス可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ルチル型二酸化チタン(白色顔料) 5質量部
ベンゾトリアゾール系化合物(紫外線吸収剤) 0.3質量部
【0044】
[実施例2]
実施例1の布帛(1)を布帛(2)に変更し、さらに〔配合1〕のフタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕として、フタル酸ジイソノニル(可塑剤)60質量部を、セバシン酸ジアルキルエステル化合物〔化2〕としてのセバシン酸ジイソノニル(可塑剤)60質量部に変更した〔配合2〕を用いた以外は実施例1と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(2)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(2)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
※成型した〔配合2〕による厚さ0.16mmのフィルムは、別途本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとして利用できる。
〈布帛(2)〉
ポリプロピレンテレフタート樹脂を溶融紡糸したポリプロピレンテレフタート(PPT)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量190g/m2、空隙率10%の布帛(2)を用いる。
※ポリプロピレンテレフタート(PPT)繊維は、テレフタル酸とプロピレングリコールのエステル化反応によって得られるポリプロピレンテレフタート(PPT)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、プロピレングリコールは、バイオマス・プロパノールを脱水してバイオマス・プロピレンとし、これを酸化してバイオマス・プロピレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のプロピレングリコール、またテレフタル酸は、トウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たパラキシレンをテレフタル酸に転換した植物由来のテレフタル酸で、得られるポリプロピレンテレフタート(PPT)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(2)もバイオマス度100%となる。
※セバシン酸ジイソノニル(可塑剤)は、セバシン酸とバイオマス・イソノニルアルコールとの反応(エステル化)によって合成され、セバシン酸は、トウゴマの種子から搾取されたヒマシ油から合成されるバイオマス度100%の化合物。
【0045】
[実施例3]
実施例1の布帛(1)を布帛(3)に変更し、さらに〔配合1〕のフタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕としてのフタル酸ジイソノニル(可塑剤)60質量部を、フランジカルボン酸アルキルエステル化合物〔化3〕としてのフランジカルボン酸ジイソノニル(可塑剤)60質量部に変更した〔配合3〕を用いた以外は実施例1と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(3)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(3)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
※成型した〔配合3〕による厚さ0.16mmのフィルムは、別途本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとして利用できる。
〈布帛(3)〉
ポリブチレンテレフタート樹脂を溶融紡糸したポリブチレンテレフタート(PBT)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量190g/m2、空隙率10%の布帛(3)を用いる。
※ポリブチレンテレフタート(PBT)繊維は、テレフタル酸とブチレングリコールのエステル化反応によって得られるポリブチレンテレフタート(PBT)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、ブチレングリコールは、バイオマス・ブタノールを脱水してバイオマス・ブチレンとし、これを酸化してバイオマス・ブチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のブチレングリコール、またテレフタル酸は、トウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たパラキシレンをテレフタル酸に転換した植物由来のテレフタル酸で、得られるポリプロピレンテレフタート(PBT)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(3)もバイオマス度100%となる。
※フランジカルボン酸ジイソノニル(可塑剤)は、2,5-フランジカルボン酸とバイオマス・イソノニルアルコールとの反応(エステル化)によって合成され、2,5-フランジカルボン酸は、フルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成されたバイオマス度100%の化合物。
【0046】
[実施例4]
実施例1の布帛(1)を布帛(4)に変更し、さらに〔配合1〕のフタル酸ジアルキルエステル化合物〔化1〕としてのフタル酸ジイソノニル(可塑剤)60質量部を、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物〔化4〕としてのポリグリセリン/ミリスチン酸トリエステル(可塑剤)60質量部に変更した〔配合4〕を用いた以外は実施例1と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(4)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(4)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
※成型した〔配合4〕による厚さ0.16mmのフィルムは、別途本発明の軟質塩化ビニル系樹脂フィルムとして利用できる。
〈布帛(4)〉
ポリトリメチレンテレフタート樹脂を溶融紡糸したポリトリメチレンテレフタート(PtMT)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量190g/m2、空隙率10%の布帛(4)を用いる。
※ポリトリメチレンテレフタート(PtMT)繊維は、テレフタル酸とトリメチレングリコールのエステル化反応によって得られるポリトリメチレンテレフタート(PtMT)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、トリメチレングリコールは、バイオマス1,3プロパノールを脱水してバイオマス1,3プロパンとし、これを酸化してバイオマス・トリメチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のトリメチレングリコール、またテレフタル酸は、トウモロコシ糖の発酵によるイソブタノールを脱水してイソブチレンとし、ラジカル反応による二量化、環化により得たパラキシレンをテレフタル酸に転換した植物由来のテレフタル酸で、得られるポリトリメチレンテレフタート(PtMT)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(4)もバイオマス度100%となる。
※ポリグリセリン/ミリスチン酸トリエステル(可塑剤)は、ポリグリセリンとミリスチン酸をエステル化したバイオマス度100%のトリエステルで、ポリグリセリンは、油脂とメタノールのエステル交換反応による脂肪酸メチルエステル生成時に副産するグリセリンを単離し、これを脱水縮合して得られるバイオマス由来のグリセリン二量体(平均重合度n=2)で、ミリスチン酸(CH3(CH2)12COOH)は、ヤシ油から精製された植物由来のバイオマス度100%の化合物。
【0047】
[実施例5]
実施例1の布帛(1)を布帛(5)に変更した以外は実施例1と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(5)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(5)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
〈布帛(5)〉
ポリエチレンフェノラート樹脂(密度1.43g/cm3、融点210~230℃、ガラス転移温度Tg88℃、強度:E-modulus3.1~3.3GPa)を溶融紡糸したポリエチレンフェノラート(PEF)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量200g/m2、空隙率10%の布帛(5)を用いる。
※ポリエチレンフェノラート(PEF)繊維は、2,5-フランジカルボン酸とエチレングリコールのエステル化反応によって得られるポリエチレンフェノラート(PEF)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、エチレングリコールは、サトウキビの廃蜜糖の発酵によるバイオマス・エタノールを脱水してバイオマス・エチレンとし、これを酸化してバイオマス・エチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のエチレングリコール、また2,5-フランジカルボン酸は、フルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成された化合物で、得られるポリエチレンフェノラート(PEF)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(5)もバイオマス度100%となる。
【0048】
[実施例6]
実施例2の布帛(2)を布帛(6)に変更した以外は実施例2と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(6)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(6)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
〈布帛(6)〉
ポリプロピレンフラノエート樹脂を溶融紡糸したポリプロピレンフラノエート(PPF)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量200g/m2、空隙率10%の布帛(6)を用いる。
※ポリプロピレンフラノエート(PPF)繊維は、2,5-フランジカルボン酸とプロピレングリコールのエステル化反応によって得られるポリプロピレンポリプロピレンフラノエート(PPF)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、プロピレングリコールは、バイオマス・プロパノールを脱水してバイオマス・プロピレンとし、これを酸化してバイオマス・プロピレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のプロピレングリコール、また2,5-フランジカルボン酸は、フルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成された化合物で、得られるポリプロピレンフラノエート(PPF)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(6)もバイオマス度100%となる。
【0049】
[実施例7]
実施例3の布帛(3)を布帛(7)に変更した以外は実施例3と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(7)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(7)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
〈布帛(7)〉
ポリブチレンフラノエート(PBF)樹脂を溶融紡糸したポリブチレンフラノエート(PBF)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量200g/m2、空隙率10%の布帛(7)を用いる。
※ポリブチレンフラノエート(PBF)繊維は、2,5-フランジカルボン酸とブチレングリコールのエステル化反応によって得られるポリブチレンフラノエート(PBF)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、ブチレングリコールは、バイオマス・ブタノールを脱水してバイオマス・ブチレンとし、これを酸化してバイオマス・ブチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のブチレングリコール、また2,5-フランジカルボン酸は、フルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成された化合物で、得られるポリプロピレンフラノエート(PBF)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(7)もバイオマス度100%となる。
【0050】
[実施例8]
実施例4の布帛(4)を布帛(8)に変更した以外は実施例4と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(8)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート複合シート(8)のバイオマス度は理論的におよそ100%となる(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)
〈布帛(8)〉
ポリトリメチレンフラノエート樹脂を溶融紡糸したポリトリメチレンラノエート(PtMF)繊維による1000d(1111dtex)マルチフィラメント糸条(フィラメント数192本)、S撚200T/mを経糸群、及び緯糸群として、経糸条19本/インチ×緯糸条20本/インチの打ち込み密度とする、質量200g/m2、空隙率10%の布帛(8)を用いる。
※ポリトリメチレンラノエート(PtMF)繊維は、2,5-フランジカルボン酸とトリメチレングリコールのエステル化反応によって得られるポリトリメチレンラノエート(PtMf)樹脂から溶融紡糸されるもので、重合モノマーは何れもバイオマス由来化合物で、トリメチレングリコールは、バイオマス1,3プロパノールを脱水してバイオマス1,3プロパンとし、これを酸化してバイオマス・トリメチレンオキサイドとし、さらに加水分解した植物由来のトリメチレングリコール、また2,5-フランジカルボン酸は、フルクトース(果糖)の脱水(含酸素5員環構造の生成)、酸化により合成された化合物で、得られるポリトリメチレンフラノエート(PtMF)繊維はバイオマス度100%となり、この繊維糸条を織編要素とする布帛(4)もバイオマス度100%となる。
【0051】
[実施例9]
〈布帛(1)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(1)の両面に、下記〔配合5〕の軟質塩化ビニル樹脂コンパウンドから165℃~180℃の熱条件でカレンダー成型による厚さ0.16mmのフィルムを、ラミネーターにより170℃の熱ロール条件でフィルムを軟化させた状態で積層すれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(9)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(9)のバイオマス度は理論的におよそ23%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
〔配合5〕軟質塩化ビニル樹脂コンパウンド組成物
懸濁重合による塩化ビニル樹脂(非バイオマス:重合度1300) 100質量部
フタル酸ジイソノニル(非バイオマス可塑剤) 60質量部
エポキシ化大豆油(部分バイオマス可塑剤) 10質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ステアリン酸亜鉛(安定剤) 2質量部
ステアリン酸バリウム(安定剤) 2質量部
ルチル型二酸化チタン(白色顔料) 5質量部
ベンゾトリアゾール系化合物(紫外線吸収剤) 0.3質量部
【0052】
[実施例10]
〈布帛(2)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(2)、及び〔配合5〕のフタル酸ジイソノニル(非バイオマス可塑剤)60質量部を、セバシン酸ジイソノニル(非バイオマス可塑剤)60質量部に変更した〔配合6〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(10)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(10)のバイオマス度は理論的におよそ23%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0053】
[実施例11]
〈布帛(3)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(3)、及び〔配合5〕のフタル酸ジイソノニル(非バイオマス可塑剤)60質量部を、フランジカルボン酸ジイソノニル(非バイオマス可塑剤)60質量部に変更した〔配合7〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(11)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(11)のバイオマス度は理論的におよそ23%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0054】
[実施例12]
〈布帛(4)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(4)、及び〔配合5〕のフタル酸ジイソノニル(非バイオマス可塑剤)60質量部を、ポリグリセリン/ミリスチン酸トリエステル(非バイオマス可塑剤)60質量部に変更した〔配合8〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量915g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(12)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(12)のバイオマス度は理論的におよそ23%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0055】
[実施例13]
〈布帛(5)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(5)、及び〔配合5〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(13)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(13)のバイオマス度は理論的におよそ23.5%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0056】
[実施例14]
〈布帛(6)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(6)、及び〔配合6〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(14)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(14)のバイオマス度は理論的におよそ23.5%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0057】
[実施例15]
〈布帛(7)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(7)、及び〔配合7〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(15)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(15)のバイオマス度は理論的におよそ23.5%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0058】
[実施例16]
〈布帛(8)によるターポリン〉
バイオマス度100%の布帛(8)、及び〔配合8〕からなるフィルムを用いた以外は実施例9と同様とすれば、厚さ0.75mm、質量925g/m2のターポリン態様の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(16)が得られる。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(16)のバイオマス度は理論的におよそ23.5%(布帛とエポキシ化大豆油)となる。
【0059】
軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(1)~(8)のバイオマス度は理論的におよそ100%で(難燃剤、安定剤、顔料、紫外線吸収剤を除く)、これら各々の軟質塩化ビニル系樹脂を構成する塩化ビニル系樹脂は植物由来で合成されたものであるから、分子構造の一部に自然界に存在する濃度と同等の放射性炭素原子C-14を有するもので、また可塑剤も植物由来で合成されたものであるから、分子構造の一部に自然界に存在する濃度の放射性炭素原子C-14を有する可塑剤分子を含むもので、さらには布帛を構成する合成繊維のポリマー構造の一部にも自然界に存在する濃度と同等の放射性炭素原子C-14を有する。従って、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、布帛の構成要素から加速器質量分析計(Accelerator Mass Spectrometry)により放射性炭素原子C-14が検出されることで本発明の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(1)~(8)が、バイオマス由来のものであることの証明となり、これらの焼却処分時に発生する二酸化炭素がカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とする原料、及び製品が燃焼で二酸化炭素として自然に還り、それを再度植物が吸収する循環により実質的に二酸化炭素を増加させない)要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献することができるようになる。また、軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(9)~(16)のバイオマス度は理論的におよそ23%で、特に布帛を構成する合成繊維のポリマー構造の一部に自然界に存在するC-14を有する可能性がある。従って布帛の構成要素から加速器質量分析計(Accelerator Mass Spectrometry)によりC-14が検出されることで、バイオマス由来であることの証明となり、廃棄処分扱いとなった軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(9)~(16)から分離した布帛の焼却処分時に発生する二酸化炭素がカーボンニュートラル要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献することができるようになる。また、軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(1)~(16)から分離したバイオマス布帛(1)~(8)の各々を、エチレングリコールを溶媒として解重合し、次いでアルコールでエステル交換反応させて、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ビス2-ヒドロキシエチルなどの再生モノマー、及びフランジカルボン酸、フランジカルボン酸ジメチル、フランジカルボン酸ビス2-ヒドロキシエチルなどの再生モノマー、及びエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチレングリコールなどの再生モノマーを得る。これらの再生モノマーを重縮合反応させることによって再度バイオマス布帛(1)~(8)を各々構成する繊維を再生させ、この再生を必要に応じて繰り返す。
【0060】
[参考例1]
実施例1の軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(1)の両面に下記〔配合9〕のアクリル系樹脂塗料を100メッシュのグラビアロールにより塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、アクリル系樹脂塗膜層(5g/m2/片面)を表裏に形成し中間体A(1)とする。
〔配合9〕アクリル系樹脂塗料
メタアクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル共重合体
100質量部
メチルエチルケトン(MEK希釈剤) 250質量部
トルエン(希釈剤) 250質量部
次にこの中間体A(1)の片表面に下記〔配合10〕のアミノエチル化アクリル樹脂エポキシ組成物の溶液を100メッシュのグラビアロールにより塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、アクリル系樹脂塗膜層(5g/m2/片面)を表面側に半硬化の状態で付帯する中間体B(1)とする。
〔配合10〕アミノエチル化アクリル樹脂エポキシ組成物
メタクリル酸アルキルエステル・アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸共重合
物のカルボキシル基にポリエチレンイミンをグラフトし、
側鎖が、-COO(CH2CH2NH)nHの化学式で示されるアミン価(固形分1g
に含むアミンmmol数)0.7~1.3mmol/gの一級アミノ基含有アクリル系樹脂
100質量部
エポキシ樹脂(エポキシ当量260g/eqのビスフェノールA骨格含有3官能
エポキシ樹脂) 20質量部
メチルエチルケトン(MEK希釈剤) 150質量部
トルエン(希釈剤) 150質量部
次に、この中間体B(1)のアミノエチル化アクリル樹脂エポキシ半硬化物層面側に、厚さ25μm、53g/m2のポリビニリデンフルオライド(PVdF)フィルムのコロナ処理面側を対向し、150℃の熱ロール条件でラミネーターを通過させ、熱圧着してフッ素系樹脂フィルムを積層して防汚層を形成することで、煤塵汚れ防止性、及び雨筋汚れ防止性に優れ、拭き取り洗浄により美麗外観を回復可能な軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(17)を得る。この軟質塩化ビニル系樹脂複合シート(17)のバイオマス度は理論上およそ93%になる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、カーボンニュートラル(再生循環型)要素を含む軟質塩化ビニル系樹脂フィルム、及び軟質塩化ビニル系樹脂複合シートの提供を可能とするので、特に軟質塩化ビニル系樹脂フィルムは、農業・園芸用ビニールハウス、医療用クリーンブース、工業用簡易クリーンブース、公共施設用パーティション、自動車・鉄道車両の被覆保護材、床・壁の被覆保護材、屋根・天井の防水被覆材などに広く有用で、また軟質塩化ビニル系樹脂複合シートは、大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、医療用陰圧テント、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ビジュアルファサード、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシートなどに用いるターポリン、及びトラック幌、野積防水シート、屋形テントなどに用いる帆布、及び建築養生メッシュシート、防風防雪ネット、防眩ネット、日除ファサードなどに用いるメッシュシートなどに広く有用である。そしてこれらの焼却処分時に発生する二酸化炭素がカーボンニュートラル(植物が吸収した二酸化炭素を由来とする原料、及び製品が燃焼で二酸化炭素として自然に還り、それを再度植物が吸収する循環により実質的に二酸化炭素を増加させない)要素を有し、地球環境における二酸化炭素量の増加を抑止可能な、低環境負荷かつ低炭素社会の実現に貢献することが期待できる。バイオマスとは動植物由来を意味し、再生循環型とは主にカーボンニュートラル(動植物由来のカーボンリサイクル)、及びポリマーの解重合による再生モノマーを利用してのケミカルリサイクル(ポリマーの再生)を意味する。