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特開2023-56784粒状試料の品質評価装置および粒状試料の品質評価方法
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  • 特開-粒状試料の品質評価装置および粒状試料の品質評価方法 図1
  • 特開-粒状試料の品質評価装置および粒状試料の品質評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056784
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】粒状試料の品質評価装置および粒状試料の品質評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20230413BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20230413BHJP
   G01N 15/10 20060101ALI20230413BHJP
   G01N 21/27 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
G01N21/65
G01N1/00 101B
G01N15/10 A
G01N21/27 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166204
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000001812
【氏名又は名称】株式会社サタケ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 朋信
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 純也
(72)【発明者】
【氏名】江藤 聡
【テーマコード(参考)】
2G043
2G052
2G059
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA14
2G043BA17
2G043CA06
2G043DA05
2G043EA03
2G043FA02
2G043GA03
2G043GA08
2G043GB01
2G043GB21
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA05
2G043HA09
2G043JA02
2G043JA03
2G043JA04
2G043KA02
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA03
2G043MA01
2G043MA16
2G043NA01
2G043NA02
2G043NA06
2G043NA12
2G052AA18
2G052AA24
2G052AD15
2G052AD35
2G052AD55
2G052CA04
2G052CA08
2G052GA11
2G052JA03
2G052JA06
2G052JA08
2G059AA01
2G059BB09
2G059BB11
2G059CC09
2G059CC16
2G059DD12
2G059EE03
2G059EE12
2G059FF03
2G059GG01
2G059HH02
2G059HH06
2G059JJ02
2G059JJ05
2G059JJ07
2G059JJ11
2G059JJ17
2G059KK04
2G059LL01
2G059MM01
2G059MM03
2G059MM10
2G059MM13
2G059NN01
2G059NN10
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で高速に粒状試料を一粒ごとに精度よく評価可能な品質評価装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る品質評価装置は、粒状試料を一粒採取して計測位置に移動させる採取機構と、前記計測位置にある粒状試料から分光信号を取得する計測手段と、前記分光信号における所定範囲のピーク強度に応じて前記分光信号を正規化する信号解析手段と、を備える。前記計測手段は、前記粒状試料から得られる分光信号を、前記所定範囲を含む第1範囲の第1分光信号と、前記第1範囲以外の第2範囲の第2分光信号とに分離して検出し、前記信号解析手段は、前記第1分光信号に含まれる前記所定範囲のピーク強度に応じて前記第2分光信号を正規化してもよい。前記所定範囲は、例えば、C-H結合に対応するラマン信号の範囲、あるいはシフト量3000cm-1の範囲を含んでもよい。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状試料を一粒ずつ品質評価する品質評価装置であって、
粒状試料を一粒採取して計測位置に移動させる採取機構と、
前記計測位置にある粒状試料から分光信号を取得する計測手段と、
前記分光信号における所定範囲のピーク強度に応じて前記分光信号を正規化する信号解析手段と、
を備える品質評価装置。
【請求項2】
前記計測手段は、前記粒状試料から得られる分光信号を、前記所定範囲を含む第1範囲の第1分光信号と、前記第1範囲以外の第2範囲の第2分光信号とに分離して検出し、
前記信号解析手段は、前記第1分光信号に含まれる前記所定範囲のピーク強度に応じて前記第2分光信号を正規化する、
請求項1に記載の品質評価装置。
【請求項3】
前記計測手段は、ラマン散乱スペクトル計測により前記分光信号を取得する、
請求項1または2に記載の品質評価装置。
【請求項4】
前記粒状試料は、穀粒であり、
前記所定範囲は、C-H結合に対応するラマン信号の範囲である、
請求項3に記載の品質評価装置。
【請求項5】
前記所定範囲は、3000cm-1を含む、
請求項4に記載の品質評価装置。
【請求項6】
前記採取機構は、
前記粒状試料を供給するための、底部に開口を有する漏斗状の容器と、
前記粒状試料の一粒を保持するための凹部を有する回転円盤であって、回転に伴って、前記凹部が前記容器の開口位置、および前記計測位置をとることができる回転円盤と、
を備える、
請求項1から5のいずれか1項に記載の品質評価装置。
【請求項7】
前記凹部に前記粒状試料が保持されているか否かを検出するセンサをさらに有し、
前記センサによって前記凹部に前記粒状試料が保持されていると検出された場合に、前記凹部が前記計測位置に合うように前記回転円盤の回転が停止され、そうでない場合には前記回転円盤の回転が継続される、
請求項6に記載の品質評価装置。
【請求項8】
粒状試料を一粒ずつ品質評価する品質評価方法であって、
粒状試料を一粒採取して計測位置に移動させる採取ステップと、
前記計測位置にある粒状試料から分光信号を取得する計測ステップと、
前記分光信号における所定範囲のピーク強度に応じて前記分光信号を正規化する信号処理ステップと、
正規化後の分光信号を用いて前記粒状試料の品質を評価する評価ステップと、
を含む、品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農水産物あるいは産業用資材等の粒状試料の品質を評価する装置および方法、特に、粒状試料を一粒ずつ顕微分光計測に基づいて評価する品質評価装置および品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3のように、分光計測により粒状試料に含まれる構成物を分析する装置が知られている。この種の装置では、試料内部に光が到達するように、照射光には近赤外光または中赤外光が用いられることが多い。上記の方法では、試料に近赤外光または中赤外光を照射し、試料が吸収した光の波長を分析する。たとえば、試料が米であるなら、上記方法により、米に含まれる水分、タンパク質量、アミロース量等が計測される。上記計測を粒状試料に用いるためには、多量の試料が必要であり、一粒ごとの測定は困難である。
【0003】
特許文献4,5は、粒状試料を一粒ごとに品質評価するために、外周部に複数個の試料採取孔を設けた円盤を回転させて、試料採取孔に取り込まれた米粒一粒ごとに評価する技術を開示する。上記技術では、米粒の反射光量や透過光量に基づき、整粒、未熟粒、被害粒、着色粒、および胴割粒などを判別し、その粒数分布を演算する。さらに、特許文献6は、試料採取孔の米粒一粒ごとのデジタル画像を取得し、各画素データから米の品質を表現する特徴量を計算する装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-288907号公報
【特許文献2】特開2015-55537号公報
【特許文献3】特開2017-15720号公報
【特許文献4】特開平09-299344号公報
【特許文献5】特開平11-218091号公報
【特許文献6】特開2003-254911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、粒状試料を一粒ごとに精度よく評価しようとすると、装置が複雑化したり計測に時間を要したりするという課題がある。
【0006】
上記のような現状を考慮して、本発明の目的は、簡易な構成で高速に粒状試料を一粒ごとに精度よく評価可能な品質評価装置および品質評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、粒状試料を一粒ずつ品質評価する品質評価装置であって、粒状試料を一粒採取して計測位置に移動させる採取機構と、前記計測位置にある粒状試料から分光信号を取得する計測手段と、前記分光信号における所定範囲のピーク強度に応じて前記分光信号を正規化する信号解析手段と、を備える品質評価装置である。
【0008】
本態様において、前記計測手段は、前記粒状試料から得られる分光信号を、前記所定範囲を含む第1範囲の第1分光信号と、前記第1範囲以外の第2範囲の第2分光信号とに分離して検出し、前記信号解析手段は、前記第1分光信号に含まれる前記所定範囲のピーク強度に応じて前記第2分光信号を正規化してもよい。
【0009】
本態様において、前記計測手段は、ラマン散乱スペクトル計測により前記分光信号を取得してもよい。
【0010】
本態様において、前記粒状試料は、穀粒であり、前記所定範囲は、C-H結合に対応するラマンシフト信号の範囲、あるいは3000cm-1を含む範囲であってよい。
【0011】
本態様において、前記採取機構は、前記粒状試料を供給するための、底部に開口を有する漏斗状の容器と、前記粒状試料の一粒を保持するための凹部を有する回転円盤であって、回転に伴って、前記凹部が前記容器の開口位置、および前記計測位置をとることができる回転円盤と、を備えてもよい。
【0012】
本態様において、前記凹部に前記粒状試料が保持されているか否かを検出するセンサをさらに有し、
前記センサによって前記凹部に前記粒状試料が保持されていると検出された場合に、前記凹部が前記計測位置に合うように前記回転円盤の回転が停止され、そうでない場合には前記回転円盤の回転が継続されてもよい。
【0013】
本発明の他の態様は、粒状試料を一粒ずつ品質評価する品質評価方法であって、粒状試料を一粒採取して計測位置に移動させる採取ステップと、前記計測位置にある粒状試料から分光信号を取得する計測ステップと、前記分光信号における所定範囲のピーク強度に応じて前記分光信号を正規化する信号処理ステップと、正規化後の分光信号を用いて前記粒状試料の品質を評価する評価ステップと、
を含む、品質評価方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な構成で高速に粒状試料を一粒ごとに精度よく評価可能な品質評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る穀粒品質評価装置(ラマン散乱スペクトル計測装置)の全体構成を示す図。
図2】実施形態における試料採取機構を説明する図。
図3】計測焦点を固定させて計測した場合の、各米粒から得られるラマンスペクトル信号を銘柄ごとに示す図。
図4図3における結果を銘柄ごとに平均化したラマンスペクトル信号を示す図。
図5】実施形態に係る穀粒品質評価装置(ラマン散乱スペクトル計測装置)の光学系および検出系の詳細を示す図。
図6】計測焦点を変えて計測する試験を説明する図。
図7】特定の米粒に対して、計測焦点を表面から下方に移動させた場合(A)と、上方に移動させた場合(B)にそれぞれ得られるラマンスペクトル信号を示す図。
図8】特定の米粒に対して、計測焦点を表面から下方に移動させた場合(A)と、上方に移動させた場合(B)にそれぞれ得られるラマンスペクトル信号を、C-H結合由来の信号ピーク強度で正規化した1700cm-1未満のスペクトル信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る粒状試料の品質評価装置を、ラマン分光法を用いて米粒の品質を評価する品質評価装置(ラマン散乱スペクトル計測装置)を例として説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係る品質評価装置100の全体構成を示す図である。品質評価装
置100は、試料採取機構1、フォトセンサ2、光学系3、検出系4、解析装置5、コントローラ6、モータードライバ7、DC電源8を含んで構成される。
【0018】
試料採取機構1の詳細を、図2を参照して説明する。試料採取機構1は、ステッピングモーター11、結合アダプタ(またはカップリング)12、円盤ホルダ13、回転盤14、および試料保持容器16を含む。回転盤14と円盤ホルダ13の中心には回転軸(不図示)に通じる穴が設けられている。回転軸の一端は回転盤14に固定され、他端は結合アダプタ(あるいはカップリング)12を介してステッピングモーター11の回転軸に直結される。円盤ホルダ13の中心の穴にはベアリングが設置されており、これによって回転軸が保持される。円盤ホルダ13はステッピングモーター11の上面と結合される。以上の構造によって、円盤ホルダ13は回転せずに、回転盤14のみが回転することになる。ステッピングモーター11は、モータードライバ7の指令にしたがって、回転が制御される。
【0019】
回転盤14の外縁には、粒状試料の一粒のみを保持できる程度の大きさの溝(凹部)15が設けられており、この溝15が試料採取孔となる。試料保持容器16は、底部に開口17を有する漏斗状の容器であって、円盤ホルダ13に固定される。試料保持容器16の開口17は回転盤14の外縁の位置に合うように設置される。回転盤14の回転に伴って、溝15が開口17の真下の採取位置にくると、試料保持容器16の保持された粒状試料の一粒が溝15に取り込まれる。また、回転盤14の回転に伴って、溝15は計測位置に移動し、そこで取り込まれた粒状試料の計測が行われる。また、図示はしていないが、円盤ホルダ13には計測が終わった粒状試料を排出するための排出溝が設けられており、同一の試料が再び計測されることを防ぎ、あらたな試料を取り込むことを可能としている。
【0020】
フォトセンサ2は、回転盤14の溝15に試料が保持されているか否かを検出するためのセンサである。フォトセンサ2は、試料の採取位置と計測位置の間に設けられる。フォトセンサ2によって溝15に試料が保持されていると検出された場合には、コントローラ6は、溝15が検出系の対物レンズの直下で停止するようにモータードライバ7を制御するとともに、停止後にレーザー照射を行って
計測を開始する。計測が完了したら、コントローラ6は回転盤14の回転を再開させる。フォトセンサ2によって回転盤14の溝15に試料が保持されていると検知されない場合には、コントローラ6は回転盤14の回転を継続させる。
【0021】
光学系3および検出系4は、試料にレーザーを照射してラマン信号を取得する。光学系3および検出系4の詳細については後述するが、レーザーの照射によって試料から散乱された光は対物レンズによって集められ、分光装置によってラマン散乱スペクトル信号が取得される。光学系3と検出系4が、計測位置にある粒状試料から分光信号を取得する計測手段に相当する。
【0022】
解析装置5は、一般的なコンピューターであり、検出系4によって得られたラマン信号に対して信号処理を施したり、計測結果を表示・出力したりする。解析装置5が、本発明における信号解析手段に相当する。
【0023】
以上の構成により、粒状試料(例えば、米)を一粒ずつ採取してラマン計測を行うことができる。図3A図3Cは、それぞれ銘柄1~3の米を複数計測して得られるラマンスペクトル信号を示す。なお、この結果には後述する信号処理(正規化処理)は施されていない。計測結果から分かるように、各銘柄において全ての米が非常に類似したスペクトル形状を有することが分かり、また、同じ銘柄であっても米粒間によってスペクトル形状のばらつきが確認できる。このように米を一粒ずつ計測することにより、不均一性を評価することが可能となる。また、図4は各銘柄30粒分のラマンスペクトル信号を平均化した
グラフである。ラマン散乱スペクトルの形状は互いに類似しているが、銘柄ごとに確かに異なることが確認できる。
【0024】
しかしながら、米や麦などの粒状試料は個体ごとにばらつきがあるため、顕微分光において、対物レンズの焦点位置と粒状試料表面とが常に合致するとは限らず、検出される信号強度が粒ごとに異なる。そこで、本実施形態では、波長シフト3000cm-1付近に現れるC-H結合由来の信号ピーク強度により、スペクトル全体の信号強度を正規化することで、上記の問題を解決する。
【0025】
図5は、本実施形態における品質評価装置100の光学系3および検出系4の詳細を示す図である。
【0026】
光学系3は、波長532nmのレーザー光を発生するレーザー光源31、ダイクロイックミラー32、レンズ33、ローパスフィルター34、レンズ35、および光ファイバー36を有する。レーザー光源31の発振波長に特に制限はないが、本実施形態では532nmのレーザー光源を用いる。対物レンズ33は、油侵系または液侵系よりは、乾燥系対物レンズであることが好ましく、本実施形態では、倍率20、開口数0.4の乾燥系レンズを用いる。ダイクロイックミラー32は、レーザー光を試料に導くとともに、試料から得られる散乱光からレーザー光(励起光)を分離する。ローパスフィルター34は、レーザー光の波長以下の光のみを透過させて、レーザー照射の漏光を除去する。ローパスフィルター34を通過したラマン光は光ファイバー36を介して検出系4に導かれる。
【0027】
検出系4は、レンズ41、ダイクロイックミラー42、分光器43、および分光器44を有する。ダイクロイックミラー42は、波長シフト量1700cm-1未満(波長585nm未満)の信号と、
1700cm-1以上(波長585nm以上)の信号を分岐する。分光器43は、波長シフト量1700cm-1以上の信号、たとえば、波長シフト量1700cm-1から4000cm-1の範囲の信号を検出する。分光器44は、波長シフト量1700cm-1未満の信号、たとえば、波長シフト量400cm-1から1700cm-1の範囲の信号を検出する。前者の波長範囲はC-H結合由来の3000cm-1のラマンシフトを含む範囲を含み、後者の範囲は、穀粒試料におけるアミロース(デンプン)のシフトに対応する範囲を含む。分光器43および分光器44は、いずれも回折格子やCCD撮像素子から構成される点は同様であるが、分光器43はダイナミックレンジが高く、分光器44は分解能が高い。
【0028】
なお、本実施形態において、分光器43が取得するラマン信号の範囲が第1範囲に該当し、分光器44が取得するラマン信号の範囲が第2範囲に該当する。
【0029】
まず、本実施形態の品質評価装置100を用いて、焦点位置が試料表面と合致しない場合の計測結果のばらつきを調べた。具体的には、図6に示すように、同一の米粒の表面から上下方向に50μmずつ焦点面を移動してラマン計測を行うことにより、米粒の厚みの個体差を再現した。同一の米粒に対して計測するため、焦点面のズレに由来する計測誤差のみが結果に反映される。なお、実際の精米において厚みの個体差はほぼ200μm以下に収まる。
【0030】
図7(A)は、焦点位置を試料表面から下方に50μmずつ移動して得られるラマン信号の結果を示し、図7(B)は、焦点位置を試料表面から上方に50μmずつ移動して得られるラマン信号の結果を示す。いずれにおいても、左側の図が分光器43により得られる信号であり、右側の図が分光器44により得られる信号である。焦点の移動方向および波長シフトの範囲にかかわらず、焦点を試料表面からずらすにしたがって、焦点の移動量
に応じて得られる信号の強度が低下することが分かる。このことから、焦点位置を固定して計測した場合には、試料の厚みのばらつきによって、得られるラマン信号の強度にばらつきが生じることが分かる。
【0031】
試料の厚みのばらつきによる計測誤差を解消するためには、レーザー光の焦点位置が試料表面となるように試料一粒ごとに調整すればよいが、そのためには試料表面位置の検出やレーザー光の焦点位置の調整が必要となり、装置が大がかりになるとともに計測に要する時間が長くなってしまう。
【0032】
そこで、本実施形態ではこの問題を以下のように解決する。まず、上記の実験結果において、焦点位置ずれの方向と大きさにかかわらず(言い換えると試料の厚みにかかわらず)、1700cm-1未満の信号と1700cm-1以上の信号の強度比が一定であることが分かる。この点に着目して、本実施形態では、波長シフト3000cm-1付近に現れるC-H結合由来の信号ピーク強度で、1700cm-1未満の信号を正規化する。具体的には、解析装置5が、分光器43から得られるラマン信号から3000cm-1付近(例えば、2700cm-1から4000cm-1)でのピーク信号強度を取得し、分光器44から得られるラマン信号に上記のピーク信号強度の逆数(または逆数に比例する値)を乗算することにより、1700cm-1以下のラマン信号の正規化を行う。
【0033】
図8は、同一の試料を対象として焦点位置を移動させた場合に得られる信号に対して、上述の正規化処理を施した結果を示す。焦点位置を試料表面から下方に移動させた場合(図8(A))も、上方に移動させた場合(図8(B))も、ばらつきが解消されることが分かる。すなわち、本実施形態による正規化処理を採用すれば、、計測焦点と試料表面のずれ(言い換えると試料の厚みの違い)に対する誤差を抑制することができる。
【0034】
本実施形態による品質評価装置100によれば、米などの粒状試料を一粒ごとに、かつ、試料の厚みによる計測誤差を抑制した品質の評価が行える。また、オートフォーカシング機構を採用する必要がないので、対物レンズに駆動機構を設ける必要がなく、装置が簡素化される。さらに、一粒ごとの焦点位置合わせが不要なので計測が高速化できる。
【0035】
上記の説明では、粒状試料の例として米を挙げたが、これに限られず、麦、粟、豆などの任意の穀粒を対象としてもよい。さらには、粒状試料であれば、穀物以外の農水産物、さらには産業用資材などを対象とすることもできる。
【符号の説明】
【0036】
100:品質評価装置
1:試料採取機構 2:フォトセンサ 3:光学系 4:検出系 5:解析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8