(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056825
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2251 20180101AFI20230413BHJP
【FI】
G01N23/2251
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166263
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三羽 貴文
(72)【発明者】
【氏名】倉田 明佳
(72)【発明者】
【氏名】松原 信一
(72)【発明者】
【氏名】今井 悠太
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA07
2G001CA03
2G001HA07
2G001HA13
2G001LA01
(57)【要約】
【課題】試料の観察画像の対象領域における画像特徴量の信頼度を判定することができる検査装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る検査装置は、試料の観察画像のうち検査対象を含む対象領域から第1特徴量を抽出し、前記観察画像のうち前記対象領域以外の基準領域から第2特徴量を抽出し、前記第1特徴量と前記第2特徴量を比較することにより、前記第1特徴量の前記信頼度を計算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の観察画像を用いて前記試料を検査する検査装置であって、
前記観察画像の特徴量を抽出する特徴量抽出部、
前記特徴量の信頼度を評価する信頼度評価部、
を備え、
前記特徴量抽出部は、前記観察画像のうち検査対象を含む対象領域から第1特徴量を抽出し、
前記特徴量抽出部は、前記観察画像のうち前記対象領域以外の基準領域から第2特徴量を抽出し、
前記信頼度評価部は、前記第1特徴量と前記第2特徴量を比較することにより、前記第1特徴量の前記信頼度を計算する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記特徴量抽出部は、前記第1特徴量として、前記対象領域における前記観察画像の画素値の第1統計量を計算し、
前記特徴量抽出部は、前記第2特徴量として、前記基準領域における前記観察画像の画素値の第2統計量を計算し、
前記信頼度評価部は、前記第1統計量と前記第2統計量を比較することにより、前記第1特徴量と前記第2特徴量との間に有意差があるか否かを表す評価値を計算し、
前記信頼度評価部は、前記評価値を用いて前記信頼度を計算する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記信頼度評価部は、前記第1特徴量と前記第2特徴量との間の有意差が大きいほど前記信頼度が高くなるように、前記信頼度を計算する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項4】
前記検査装置はさらに、前記信頼度評価部が前記信頼度を評価した後に前記観察画像を再取得する必要があるか否かを判定する再取得判定部を備え、
前記再取得判定部は、前記信頼度が再取得閾値以上ではない場合は、前記観察画像を再取得する必要があると判定し、
前記特徴量抽出部は、前記観察画像を再取得する必要があると判定された場合は、前記再取得した前記観察画像の特徴量を再抽出し、
前記信頼度評価部は、前記観察画像を再取得する必要があると判定された場合は、前記再抽出した前記特徴量の前記信頼度を再評価する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項5】
前記再取得判定部は、前記信頼度が前記再取得閾値以上ではない場合であっても、前記再取得した前記観察画像が所定数以上に達している場合は、前記観察画像を再取得する必要はないと判定する
ことを特徴とする請求項4記載の検査装置。
【請求項6】
前記再取得判定部は、前記信頼度が前記再取得閾値以上ではない原因が前記基準領域における前記観察画像の量が不足することによるものである場合は、前記基準領域における前記観察画像を再取得する必要があると判定し、
前記特徴量抽出部は、前記基準領域における前記観察画像を再取得する必要があると判定された場合は、前記再取得した前記基準領域における前記観察画像から前記第2特徴量を再抽出し、
前記信頼度評価部は、前記基準領域における前記観察画像を再取得する必要があると判定された場合は、前記再抽出した前記第2特徴量と前記第1特徴量を比較することにより前記信頼度を計算する
ことを特徴とする請求項4記載の検査装置。
【請求項7】
前記再取得判定部は、前記信頼度が前記再取得閾値以上ではない原因が前記基準領域における前記観察画像の量が不足することによるものである場合は、前記基準領域における前記観察画像を再取得した後に、前記対象領域における前記観察画像を再取得する
ことを特徴とする請求項6記載の検査装置。
【請求項8】
前記特徴量抽出部は、前記対象領域における前記観察画像の画素のうち前記特徴量を有するものが前記対象領域の面積に対して占める割合を表すパラメータを、前記観察画像の派生特徴量として抽出する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項9】
前記信頼度評価部は、前記対象領域における前記派生特徴量と、前記基準領域における前記派生特徴量とを比較することにより、前記第1特徴量の前記信頼度を計算する
ことを特徴とする請求項8記載の検査装置。
【請求項10】
前記検査装置はさらに、前記観察画像から前記対象領域を特定する対象領域特定部を備え、
前記対象領域特定部は、前記観察画像の輝度値または前記観察画像のなかに含まれる閉領域のサイズのうち少なくともいずれかを用いて、前記観察画像のうち前記検査対象である部分とそうでない部分を判定し、
前記対象領域特定部は、前記観察画像のうち前記検査対象ではないと判定した部分を除く領域を、前記対象領域として特定する
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項11】
前記検査装置はさらに、前記対象領域における前記観察画像または前記基準領域における前記観察画像のうち少なくともいずれかを補正する補正部を備える
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項12】
前記試料は、前記検査の対象として、抗原または抗体のうち少なくともいずれかを有している
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項13】
前記特徴量抽出部は、前記観察画像の特徴量として、前記抗原または抗体に付着したマーカ粒子の個数を抽出する
ことを特徴とする請求項12記載の検査装置。
【請求項14】
前記検査装置は、荷電粒子ビームによって前記観察画像を取得する装置として構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項15】
前記試料は、粒子、空隙、基材、液体、のうち少なくともいずれかを含む
ことを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の観察画像を用いてその試料を検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡等の装置を用いて観察した試料の画像を取得し、その画像に基づいて検査をする方法が報告されている。下記非特許文献1は、電子顕微鏡によって取得した観察画像のうち、検査位置における画像特徴量と、背景部分の特徴量(粒子の個数)とを比較することにより、検査位置における粒子個数を検査する方法を記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Pharm. Biomed. Anal. 196 (2021) 113924.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記検査方法を用いる場合、検査位置における画像特徴量と基準位置における画像特徴量との間に有意な差分がなければ、検査位置における粒子個数などを正確に特定することが困難となる。これにより検査精度が低下する。
【0005】
差分が有意であることを示すために、複数枚の観察画像を取得し、各観察画像において検査位置と基準位置それぞれの特徴量を比較することも考えられる。しかし観察画像を複数枚取得したとしても、必ずしもそれらの観察画像は全て比較対象として適しているとは限らない。例えば試料の作製プロセスなどに起因して、検査位置や基準位置に不純物が混入するなどの要因によって、不良画像が発生する可能性がある。このような不良画像を用いると、画像特徴量の信頼度が低下してしまい、画像の特徴量を使った検査において信頼性の高い結果が得られない。画像枚数を大幅に増やせば、検査結果の信頼性はある程度向上するが、他方で検査スループットが低下する。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、試料の観察画像の対象領域における画像特徴量の信頼度を判定することができる検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る検査装置は、試料の観察画像のうち検査対象を含む対象領域から第1特徴量を抽出し、前記観察画像のうち前記対象領域以外の基準領域から第2特徴量を抽出し、前記第1特徴量と前記第2特徴量を比較することにより、前記第1特徴量の前記信頼度を計算する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る検査装置によれば、試料の観察画像の対象領域における画像特徴量の信頼度を判定することができる。本発明のその他の課題、構成、利点などについては、以下の実施形態を参照することにより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る検査装置1の構成図である。
【
図2】イムノクロマトグラフィ検査キットにおける有意差について説明する図である。
【
図3】画像取得装置10の構成例を示す側断面図である。
【
図4】イムノクロマトグラフィ検査キットの観察画像を用いて検査を実施する従来の手順を説明するフローチャートである。
【
図5】検査装置1の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】入出力装置30が提供するユーザインターフェースの例である。
【
図9】入出力装置30が提供するユーザインターフェースの例である。
【
図11】実施形態2における検査装置1の動作を説明するフローチャートである。
【
図12】試料40の別例とその画像特徴量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る検査装置1の構成図である。検査装置1は、試料の観察画像を用いてその試料を検査する装置である。検査装置1は、画像取得装置10、評価装置20、入出力装置30を備える。試料としては、例えばイムノクロマトグラフィ検査キットである。イムノクロマトグラフィ検査キットは、検査対象とする抗原や抗体が含まれる試料液を、多孔質体などによって形成された板部材上に流すことで、抗原や抗体を検出するデバイスである。試料液または板状部材に含まれるマーカ粒子が、試料液とともに板状部材の表面や内部を流れて、板状部材における補足抗体で補足されたマーカ粒子が生じる色の変化により、抗原や抗体を視覚的に検出できる。マーカ粒子としては、例えば金属粒子、ラテックス粒子、シリカ粒子といった、導電性の粒子や絶縁性の粒子など様々である。マーカ粒子が生じる色の変化ではなく、検査キットの画像の特徴量を用いた検査も可能である。例えば、検査位置における特徴量とそれ以外の基準位置における特徴量とを互いに比較する。基準位置は、マーカ粒子が存在しない(あるいは十分少ない)ことが想定されている位置である。基準位置における特徴量を基準としてこれを検査位置の特徴量と比較することにより、検査位置におけるマーカ粒子の個数(すなわち抗原または抗体の量)を検査することができる。試料としては、例えばイムノクロマトグラフィ検査キットにおいては、マーカ粒子を含む液体を保持する板状部材が考えられるが、これに限るものではない。
【0011】
画像取得装置10は、試料の観察画像を取得する。試料を目視確認することによって検査することに代えて、試料の画像特徴量を解析することによって検査する。例えばマーカ粒子の個数と相関している画像特徴量を評価することにより、マーカ粒子を目視確認するよりも正確な検査結果を得ることができる。画像取得装置10の具体的構成については後述する。
【0012】
評価装置20は、画像取得装置10が取得した観察画像の特徴量の信頼度を評価する。ここでいう信頼度とは、検査対象(イムノクロマトグラフィ検査キットであればマーカ粒子)が存在する対象領域の画像特徴量と、基準領域(イムノクロマトグラフィ検査キットであればマーカ粒子が存在しないかまたは微量であることが想定されている、検査キット上の領域)の画像特徴量との間に有意差があるか否かを表す指標である。有意差および信頼度の例については後述する。
【0013】
評価装置20は、画像補正部21、特徴量抽出部22、対象領域特定部23、占有率解析部24、特徴量比較器25、信頼度評価部26、再取得判定部27、記憶部28を備える。記憶部28は、データを格納する記憶装置によって構成することができる。その他機能部は、これらの機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、これらの機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などのような演算装置が実行することによって構成することもできる。これら機能部の動作については後述する。
【0014】
入出力装置30は、評価装置20による処理結果を表示し、あるいはユーザが評価装置20や画像取得装置10に対して与える指示を入力する装置である。入出力装置30は、画像表示部31、選択部32、信頼度表示部33、特徴量表示部34を備える。これら機能部の動作については後述する。
【0015】
図2は、イムノクロマトグラフィ検査キットにおける有意差について説明する図である。イムノクロマトグラフィ検査キット(試料)40においては、多孔質状の板状部材41上に、検査位置42(対象領域)と基準位置43(基準領域)が設定されている。抗原や抗体などの検査対象を含む液体を、板状部材41上の矢印方向に流す。検査対象が金属粒子などのマーカ粒子と結合すると、そのマーカ粒子を計数することにより、検査対象の個数を検査することができる。
【0016】
本実施形態においては、検査精度を向上させるために、マーカ粒子そのものを計数することに代えて、検査位置42における画像特徴量と基準位置43における画像特徴量を比較することにより、検査位置42における検査対象の量を判定する。基準位置43は、検査対象粒子が存在しないかまたは微量であることが想定されている。画像特徴量は、検査対象粒子の個数またはこれに相当する量である。例えば検査対象粒子の面積、密度、などが挙げられる。
【0017】
基準位置43における実際の画像特徴量は、必ずしも0ではなく、かつ観察画像ごとにばらつく場合がある。これにより、検査位置42と基準位置43との間で、画像特徴量の有意差がない場合があり得る。
図2に示す例において、検査位置42における1枚目の観察画像は20個の検査対象粒子を含み、基準位置43における1枚目の観察画像は10個の検査対象粒子を含む。2枚目以降の観察画像もそれぞれ
図2のような検査対象粒子を含む。これら特徴量が有意差を有するといえない場合、基準位置43における観察画像を基準として検査位置42における観察画像を検査すると、正しい検査結果が得られない可能性がある。
【0018】
そこで本実施形態1においては、検査位置42における画像特徴量と基準位置43における画像特徴量との間に有意差があるか否かを評価することにより、検査位置42における画像特徴量の信頼度を判定することとした。
【0019】
図3は、画像取得装置10の構成例を示す側断面図である。画像取得装置10は、例えば電子ビームを試料40に対して照射することにより試料40の観察画像を取得する装置であり、荷電粒子ビーム装置の1種である。画像取得装置10は、画像取得制御部11、画像形成部12、ステージ制御部13、電子源14、偏向器15、レンズ16、ステージ17、検出器18を備える。
【0020】
電子源14は電子ビームを出射する。偏向器15は電子ビームの方向を偏向する。レンズ16は電子ビームを試料40に対して照射する。試料40はステージ17上に載置される。検出器18は、電子ビームを試料40に対して照射することにより試料40から発生する2次粒子を検出し、その強度を表す検出信号を出力する。画像形成部12は、検出信号を用いて、試料40の観察画像を生成する。ステージ制御部13はステージ17を制御する。画像取得制御部11は、画像取得装置10の全体動作を制御する。
【0021】
図4は、イムノクロマトグラフィ検査キットの観察画像を用いて検査を実施する従来の手順を説明するフローチャートである。従来手順においては、基準位置43と検査位置42それぞれにおいて観察画像を取得し、規定枚数の観察画像が得られたら、各位置における特徴量を互いに比較してその結果を解析する。この一連の手順は装置を操作する人の手によって行われる。この手順においては、基準位置43の画像特徴量と検査位置42の画像特徴量との間に有意差があるか否かを評価していない。したがって、検査結果が信頼できない可能性がある。
【0022】
図5は、検査装置1の動作を説明するフローチャートである。本フローチャートは、検査装置1が検査位置42における画像特徴量の信頼度を判定する動作を含む。以下
図5の各ステップについて説明する。
【0023】
(
図5:ステップS501)
ステージ制御部13は、基準位置43に対して電子ビームが照射される位置に、ステージ17を移動させる。画像取得制御部11は、光学条件などの撮影条件を調整する。画像取得制御部11は、試料40に対して電子ビームを照射するように、各部を制御する。各部の制御により、画像を形成するための検出器の設定,電子ビームの焦点合わせや走査方法などの調整を行う。画像形成部12は、基準位置43における観察画像を生成する。
【0024】
(
図5:ステップS502)
対象領域特定部23は、S501において取得した観察画像のうち、特徴量を用いて検査を実施する領域(対象領域と呼ぶ)を特定する。観察画像のなかには、検査対象の特徴量を算出する際に不要となる部分が存在する。観察画像のうちこのような不要部分を除いた画像領域を、本ステップにおいて対象領域として特定する。本ステップの具体例については後述する。
【0025】
(
図5:ステップS503)
画像補正部21は、観察画像の画質を補正する。例えば検査対象粒子の特徴量がより強調されるように、観察画像全体のコントラストを強調する。本ステップはS502の前に実施してもよい(
図1においてはそのような構成例を示した)。本ステップの具体例は後述する。
【0026】
(
図5:ステップS504)
特徴量抽出部22は、S502において特定した対象領域の画像特徴量を抽出する。画像特徴量は、検査対象粒子の個数でもよいし、これと同等の意義を有する数値でもよい。特徴量の具体例については後述する。例えば画像のセグメンテーションにより検査対象粒子を観察画像のなかから抽出することにより、画像特徴量を算出できる。その他、例えば画素の輝度値のヒストグラムなどのような統計量から画像特徴量を算出してもよい。その他適当な手法を用いてもよい。
【0027】
(
図5:ステップS505~S508)
検査装置1は、検査位置42についてS501~S504と同様に、対象領域の画像特徴量を抽出する。
【0028】
(
図5:ステップS509)
特徴量比較器25は、基準位置43における画像特徴量と検査位置42における画像特徴量を比較することにより、両者の間に有意差があるか否かを判定する。有意差があるか否かを判定するために用いることができる評価値としては、例えばt検定のP値が考えられる。両特徴量間においてP値を計算し、そのP値が十分小さければ(例えばP値<0.01)有意差があると判定することが考えられる。
【0029】
(
図5:ステップS509:計算例)
図2に示した例においては、基準位置43において取得した6個の特徴量の集合と、検査位置42において取得した6個の特徴量の集合との間におけるP値を用いて、有意差があるか否かを判定する。
【0030】
(
図5:ステップS510)
信頼度評価部26は、S509の結果にしたがって、検査位置42における画像特徴量の信頼度を計算する。S509において計算したパラメータにしたがって、有意差が大きいほど信頼度も高くなるような計算手順を用いる。ただし必ずしも信頼度として連続量を用いる必要はない。例えば有意差が閾値以上であれば信頼度は高い固定値(例えば1)とし、閾値未満であれば低い固定値(例えば0)としてもよい。すなわち、検査位置42における画像特徴量が検査に適しているか否かを判定できれば、信頼度の形式はどのようなものでもよい。
【0031】
(
図5:ステップS511)
再取得判定部27は、S510において計算した信頼度と閾値を比較することにより、観察画像を再取得する必要があるか否かを判定する。信頼度が閾値以上であればS513へ進み、閾値未満であればS512へ進む。本ステップは、信頼度が閾値以上に達した時点で観察画像の取得を中止することにより、必要な分だけ観察画像を取得するように制限を設ける意義がある。
【0032】
(
図5:ステップS512)
再取得判定部27は、取得済の観察画像の枚数をチェックすることにより、観察画像を再取得する必要があるか否かを判定する。観察画像を所定枚数以上取得済である場合はS513へ進み、そうでなければS501へ戻って観察画像を再取得する。本ステップは、仮に十分な信頼度が得られないとしても、観察画像を過剰に取得しないように制限する意義がある。
【0033】
(
図5:ステップS513)
信頼度表示部33は、S510において計算した信頼度を表示する。画面表示例については後述する。
【0034】
(
図5:S501~S508:補足その1)
本フローチャートにおいては、先に基準位置43における観察画像を取得し、次に検査位置42における観察画像を取得しているが、先に検査位置42における観察画像を取得し、次に基準位置43における観察画像を取得してもよい。この場合は、S505~S508を先に実施し、次にS501~S504を実施することになる。各位置における観察画像のみ先に取得し、特徴量抽出は各観察画像を取得した後に実施してもよい。実施形態2においても同様である。
【0035】
(
図5:S501~S508:補足その2)
イムノクロマトグラフィ検査キットにおいては、検査位置42の状態はなるべく安定していることが望ましい。したがって、まず先に基準位置43の観察画像を取得することにより、検査位置42の状態が安定するように十分乾燥する時間を確保してもよい。実施形態2においても同様である。この場合は
図5が記載している通りの順番でS501~S508を実施することになる。
【0036】
図6は、S503の具体例を示す。対象領域121と検査対象粒子122との間の画像コントラストが低い場合、画像補正部21は、観察画像全体のコントラストを調整する。これにより
図6右図のように、対象領域121と検査対象粒子122との間のコントラストが明瞭になり、検査対象粒子122の特徴量をより正確に取得できる。検査位置42と基準位置43いずれについても補正することが望ましいが、例えばいずれかを基準として他方のコントラストを補正するような場合も考えられる。また、観察画像のコントラストを補正する際、電子ビームの照射条件やその照射条件による画像への影響を考慮した補正を行う場合もある。
【0037】
図7は、S502の具体例を説明する模式図である。観察画像のなかには、検査対象粒子122の他に、特徴量が隠される領域123や情報がない領域124などのように、検査対象粒子122の特徴量を計算する際に不要な部分が存在する場合がある。対象領域特定部23は、観察画像からこれらの不要部分を除去した画像領域を、対象領域121として特定する。
【0038】
領域123は、輝度値が大きくかつサイズが大きい閉領域である。閉領域の例として、例えば大きな異物などが挙げられる。領域124は、例えば板状部材41が有する多孔質材料の空隙や画像アーティファクトである。画像のアーティファクトの例として、電子線照射による帯電、ダメージ、真空排気による形態変化、画像の輝度調整ミスによるもの、などが挙げられる。
【0039】
領域123は、サイズが大きい異物によって形成されており、観察画像内のその他領域と比較すると、輝度値が相対的に大きい場合や低い場合がある。本実施例では輝度値が大きい場合を示した。領域124は、例えば空隙であれば輝度値がその他領域よりも小さい。したがって対象領域121は、観察画像内の輝度値が所定範囲内(上限値と下限値との間)にあるものとして、特定することができる。対象領域特定部23は、この手法により対象領域121を特定する。
図7右図は、領域123と124を除去することにより対象領域121を特定した結果を示す。
【0040】
対象領域121を特定するその他手法としては、領域123や124などのように対象領域121ではない不要部分をあらかじめ機械学習によって学習しておき、その学習結果を用いて不要部分を除去することが考えられる。例えば不要部分のサイズ、形状、輝度値などの特徴量を学習することにより、これらを特定できる。その他適当な手法によって対象領域121を特定してもよい。
【0041】
特徴量抽出部22が抽出する画像特徴量としては、検査対象粒子122の個数に代えてまたはこれを併用して、個数と同等の特徴量を抽出してもよい。例えば検査対象粒子122の面積、密度、などの特徴量が考えられる。対象領域121の面積に対するこれらの比率を特徴量とすることもできる。この場合の画像特徴量は、次式によって計算することができる:画像特徴量=(検査対象粒子122の特徴量)/(対象領域121の面積)。検査対象粒子122の特徴量は、例えば検査対象粒子122の個数、面積などである。この特徴量を本実施形態1においては占有率(派生特徴量)と呼ぶ。占有率は、特徴量抽出部22が計算してもよいし、占有率解析部24のようにこれを計算するための機能部を設けてもよい。
【0042】
特徴量抽出部22は、検査位置42と基準位置43に対して、同じ手法により画像特徴量を抽出する。例えば上記式を用いる場合は、各位置において上記式によって画像特徴量を抽出し、S509においてこれらを比較する。
【0043】
図8は、入出力装置30が提供するユーザインターフェースの例である。特徴量表示部34は、検査位置42において取得した各観察画像の画像特徴量と基準位置43において取得した各観察画像の画像特徴量を、表示欄341に表示する。信頼度表示部33は、検査位置42における観察画像の画像特徴量の信頼度を、表示欄331に表示する。このユーザインターフェースは、例えば評価装置20が計算した各値を入出力装置30が取得して画面上に表示することにより、構成することができる。
【0044】
図9は、入出力装置30が提供するユーザインターフェースの例である。画像表示部31は、画像取得装置10が取得した各観察画像を
図9のように表示する。観察画像と併せて対象領域121やその割合などの情報を提示してもよい。
【0045】
図10は、記憶部28が格納するデータの例である。記憶部28は、評価装置20が取得する各データを格納する。例えば試料40の観察画像、対象領域121の画像、観察画像の特徴量、信頼度などが挙げられる。
【0046】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る検査装置1は、検査位置42の画像特徴量と基準位置43の画像特徴量を比較することにより、検査位置42の画像特徴量の信頼度を計算する。これにより検査位置42の観察画像が検査対象を検査するのに適しているか否かをあらかじめ判定することができる。したがって、検査に適していないのであれば改めて観察画像を取得するなどの対処を実施することができる。
【0047】
本実施形態1に係る検査装置1は、検査位置42の画像特徴量と基準位置43の画像特徴量との間に有意差があるか否かを表す評価値(例えばt検定のP値)を計算することにより、検査位置42の画像特徴量の信頼度を計算する。これにより、基準画像として適していない観察画像を除外することができる。したがって、検査精度を向上させることができる。
【0048】
<実施の形態2>
本発明の実施形態2では、検査装置1の別動作例について説明する。検査装置1の構成は実施形態1と同じであるので、以下では主に動作手順の違いについて説明し、実施形態1と共通する事項については省略する。
【0049】
図11は、本実施形態2における検査装置1の動作を説明するフローチャートである。S502とS503との間にS1101が追加され、S506とS507との間にS1102が追加され、S512からS501へ戻る前にS1103が追加されている。その他のステップは
図5と同じである。
【0050】
(
図11:ステップS1101、S1102)
対象領域特定部23は、S502において特定した対象領域121のサイズが閾値以上であるか否かを判定する。対象領域121のサイズが閾値以上であればS503へ進み、閾値未満であればS501に戻って観察画像を再取得する。対象領域121を特定する手法によっては、対象領域121が小さ過ぎる場合がある。例えば非常に大きい異物が観察画像内に含まれている場合である。対象領域121が小さ過ぎると、検査対象粒子122の特徴量を適切に取得できない可能性がある。そこでそのような場合は観察画像を再取得することとした。S1102においても検査位置42について同様に処理する。
【0051】
(
図11:ステップS1103)
再取得判定部27は、信頼度が低い要因が、基準位置43における観察画像に起因しているか否かを判定する。基準画像が要因であればS501へ戻って基準位置43の観察画像を再取得する。それ以外であればS505へ戻って検査位置42の観察画像を再取得する。S501へ戻る場合は、検査位置42についても再取得することになる。基準画像が要因である理由としては、例えば基準画像の枚数が基準数に達していない、基準画像の特徴量の数値が大きすぎる、などが考えられる。
【0052】
(
図11:ステップS1103:補足)
本フローチャートは、先に基準画像を取得し、次に検査画像を取得するように構成されているが、先に検査画像を取得した後に基準画像を取得する場合もある。この場合であっても、S1103において基準画像が要因であると判定する場合は、基準画像を再取得するステップへ戻る。
【0053】
<実施の形態3>
図12は、試料40の別例とその画像特徴量を示す図である。
図12を用いて、試料40の種別と画像特徴量の関係について1例を説明する。
【0054】
図12左は、試料40として実施形態1で説明したイムノクロマトグラフィ検査キットを用いた場合における観察画像の例である。この例においては検査位置42の特徴量と基準位置43の特徴量の数値がそれぞれ少ない場合を示している。
【0055】
図12右は、試料40として平板上の繊維を用いた場合における観察画像の例である。すなわち、観察画像に含まれる検査対象物125が繊維である例を示す。この例においては、繊維の本数をカウントすることが検査目的である。画像特徴量は繊維の本数や面積などである。この例においては繊維が平板全体にわたって散らばっており、かつ繊維の本数が多い。したがって、検査位置と基準位置いずれにおいても特徴量の数値が大きい。この場合であっても、各位置における画像特徴量間には統計上の有意差が発生し得る。したがって、実施形態1~2で説明した手法を用いて検査位置の画像特徴量と基準位置の画像特徴量との間に有意差があるか否かを判定することができる。すなわち、各位置における画像特徴量間に有意差が生じるのであれば、試料40の種別は任意である。
【0056】
<本発明の変形例について>
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0057】
以上の実施形態において、入出力装置30が提供するユーザインターフェース上でユーザが試料40上の特定の位置を指定し、その位置における観察画像を取得してもよい。この場合は選択部32がその指定位置を受け取り、画像取得制御部11に対してその指定位置における観察画像を取得するように指示する。
【0058】
以上の実施形態において、画像取得装置10と評価装置20と入出力装置30を検査装置1の一部として構成した例を説明したが、これらは互いに分離した装置として構成してもよい。例えば各装置をネットワーク経由で接続することにより、各装置を個別の装置として構成した上で以上の実施形態と同様の構成を構築することができる。
【0059】
以上の実施形態において、評価装置20が備える各機能部のうち少なくともいずれかを一体的に構成することもできる。例えば信頼度評価部26は、特徴量比較器25と占有率解析部24を含むように構成してもよい。その他機能部についても同様である。
【0060】
以上の実施形態において、既存の検査装置1に対して、本発明に係る評価装置20の機能を実装したソフトウェアをインストールすることにより、本発明に係る検査装置1を構築することもできる。
【0061】
以上の実施形態において、検査装置1による検査対象としては、例えばウイルスや菌を含む抗原、抗体などが考えられる。抗原や抗体を検査するためのイムノクロマトグラフィ検査キットを試料40として用いる場合は、試料40の構成要素として、粒子、空隙、基材、液体、などが含まれる。試料40の構成要素はこれに限るものではない。
【符号の説明】
【0062】
1:検査装置
10:画像取得装置
20:評価装置
21:画像補正部
22:特徴量抽出部
23:対象領域特定部
24:占有率解析部
25:特徴量比較器
26:信頼度評価部
27:再取得判定部
28:記憶部
30:入出力装置