(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056861
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/28 20060101AFI20230413BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
C30B29/28
C30B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166323
(22)【出願日】2021-10-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】391049530
【氏名又は名称】株式会社信光社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真紀
(72)【発明者】
【氏名】木下 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】清水 彩子
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 一裕
(72)【発明者】
【氏名】望月 圭介
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC24
4G077CF10
4G077EB06
4G077EG02
4G077EG18
4G077EG24
4G077EG25
4G077EH09
4G077HA02
4G077PA04
4G077PF35
(57)【要約】
【課題】YAG単結晶の成長において、結晶育成領域の雰囲気を周囲から隔離し、換気することで、カーボンからの悪影響を抑止することができるYAG単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】YAG単結晶製造装置14は、YAG単結晶の結晶原料が入れられる坩堝9と、この坩堝9を支持する坩堝台6と、結晶原料に接触させる種結晶7が取り付けられて坩堝9の上方に配置された引き上げ軸13と、坩堝9を加熱するためのカーボンヒーター4と、このカーボンヒーター4の外周に配置されて炉内を保温する保温材5と、坩堝9とカーボンヒーター4との間に配置されて坩堝9を遮蔽するための内容器12と、この内容器12内にアルゴンガス1を流通させるガス噴出手段とを有している。内容器12の容器本体3には、底面部18に排気口21が形成されている。容器本体3の容積に対するアルゴンガス1の流量は、毎分30から70%である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の結晶原料が入れられる坩堝と、
前記結晶原料に接触させる種結晶が取り付けられて前記坩堝の上方に配置された引き上げ軸と、
前記坩堝の周囲に配置されたカーボン製の保温材と、
前記保温材と前記坩堝との間に配置されて前記坩堝を遮蔽するためのモリブデン又はタングステン製の内容器と、
前記内容器内に希ガスを流通させるガス噴出手段と、を有し、
前記内容器に、前記希ガスが排気される排気口が形成された、
ことを特徴とするイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置。
【請求項2】
前記内容器が、
前記坩堝を覆う容器本体と、
前記容器本体の上部に接続されて前記引き上げ軸が内側に配置された筒部と、を有し、
前記排気口が、前記容器本体の底面部に形成され、
前記希ガスが、前記筒部から流入し、前記排気口から流出する、
ことを特徴とする請求項1に記載されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置。
【請求項3】
前記内容器の容積に対する前記希ガスの流量が、毎分30から70%である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置。
【請求項4】
前記イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶が引き上げられる速度が、1mm/h以下である、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置。
【請求項5】
前記坩堝が、モリブデン又はタングステン製である、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置。
【請求項6】
加熱した坩堝の中で、イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の結晶原料を融解し、原料融液に種結晶を接触させて引き上げることで単結晶を成長させるイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造方法であって、
前記坩堝を、モリブデン又はタングステン製の内容器で覆って遮蔽し、前記内容器内で、希ガスを前記坩堝の上方から流入させて前記坩堝の下方から排気する、
ことを特徴とするイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造方法。
【請求項7】
前記内容器の容積に対する前記希ガスの流量を、毎分30から70%とする、
ことを特徴とする請求項6に記載されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザーの波長領域で透明なイットリウム・アルミニウム・ガーネット(以下、「YAG」と記す。)単結晶に、活性イオンとしてネオジウム(Nd)が添加されたNd:YAG単結晶は、固体レーザー用として最も普及している材料である。更に、Ndではなく、イッテルビウム(Yb)やセリウム(Ce)等の希土類原子が添加されたYb:YAG単結晶や、Ce:YAG単結晶も、様々な目的でレーザー発振装置に用いられている。
【0003】
YAG単結晶や、活性イオンが添加されたYAG単結晶は、通常、高周波誘導加熱方式のチョクラルスキー(Cz)法により育成され、その際、イリジウム(Ir)製の坩堝が用いられている。YAGの融点は1970°Cと高温であり、YAG原料が入ったイリジウム製の坩堝は、アルミナ(AL)やジルコニア等の耐火性の保温材で囲われている。YAG単結晶の育成においては、坩堝内の保温性を高めることで高温を保ち、かつ、坩堝内の温度傾斜を最適化する必要がある。
【0004】
イリジウムは、非常に高価な材料であり、希少金属であることから、値上がりする可能性もあるため、より安価な材料から作られた坩堝を用いたYAG単結晶の育成法が求められている。イリジウムに対して、比較的安価な材料として、例えば、モリブデン(Mo)やタングステン(W)等が挙げられ、モリブデン製やタングステン製の坩堝を用いた酸化物単結晶の育成装置が、一般に普及している。しかし、これらの材料は、酸素が存在する環境下で高温に晒されると、燃焼してしまうため、育成炉内に、酸素の無い環境を用意する必要がある。イリジウム製の坩堝において、一般的に用いられているアルミナ製やジルコニア製の保温材は、酸素を含むため、モリブデン製やタングステン製の坩堝には適さない。これらの坩堝が用いられる際は、モリブデンやタングステン等の金属製やカーボン(C)製の保温材が用いられるのが一般的であるが、カーボン材料の方が、金属材料よりも保温性能が高く、電力消費等の観点からも経済的である。育成中の雰囲気ガスは、不活性なアルゴンガスが用いられている。
【0005】
モリブデン製の坩堝とカーボン製の保温材とを用いた場合において、加熱方式が高周波誘導加熱方式だと、カーボンに高周波の一部が吸収されるため、加熱効率が悪化する。そこで、この場合、抵抗加熱方式が採用される。ヒーターには、耐久性に優れ、酸素を含まないカーボンが用いられるのが、一般的である。
【0006】
安価なモリブデン製やタングステン製の坩堝、保温性の高いカーボン製の保温材、及び、加熱効率の高いカーボンヒーターで構成された単結晶育成装置において、YAG単結晶の育成を行うと、YAG結晶が黒色化し、育成することができない、或いは、実用的な結晶性のYAG単結晶を得ることができない。これは、単結晶育成装置の炉内に存在するカーボンが、1850°C以上の温度で昇華し、YAG単結晶又はYAG原料と反応して、酸素が奪われてCO2が発生し、YAG単結晶に酸素欠損が起きることで、結晶性が著しく損なわれるためである。
【0007】
そこで、カーボンがYAG単結晶の成長を阻害することを避ける技術として、例えば、保温材等にカーボンを用いない方法が、下記特許文献1に記載されている(以下、特許文献1に記載された技術を「文献公知1発明」と記す。)。文献公知1発明によれば、カーボン製の保温材が用いられず、保温材として、モリブデン製やタングステン製のプレートが採用されている。しかしながら、モリブデンやタングステンは、熱伝導性が良いため、これらの保温材としての性能は、カーボンよりも悪い。加熱効率の悪さと、それに伴う電力消費量の観点からは、カーボン製の保温材の方が、経済的で望ましい。
【0008】
そこで、カーボン製の保温材を用いつつ、カーボンが、YAG単結晶又はYAG原料から酸素を奪うことへの対策を施すべく、カーボン製の保温材がモリブデンプレートで覆われ、更に、高温でガス出し処理が施される方法が、下記特許文献2に記載されている(以下、特許文献2に記載された技術を「文献公知2発明」と記す。)。文献公知2発明によれば、カーボン製の保温材がモリブデンプレートで覆われたことで、昇温時に保温材から昇華されるカーボンが、YAG単結晶又はYAG原料と反応することが妨げられ、また、高温でガス出し処理が施されることで、YAG原料や保温材に含まれる不純物ガス、酸素及びカーボンが炉外に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5728097号公報
【特許文献2】特許第6347673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、文献公知2発明によれば、炉内にある抵抗加熱用のカーボンヒーターをモリブデンプレートで覆うことができず、カーボンヒーターが、カーボンの昇華源として坩堝の周囲に存在しているため、YAG単結晶の純度に影響を与える。YAG単結晶において、より高い光学特性を引き出すためには、育成中のYAG単結晶の結晶性を高める必要がある。また上述のとおり、経済性の観点から、モリブデン製の坩堝、カーボン製の保温材、及び、カーボンヒーターを用いた抵抗加熱方式によって、YAG単結晶を製造する技術の開発が求められているが、そのためにも、カーボンによるYAG単結晶への悪影響を抑圧する技術が重要である。
【0011】
文献公知1発明のように、保温材として、モリブデン製やタングステン製のプレートが用いられることで、カーボン雰囲気が除外され、一方で、文献公知2発明のように、カーボン製の保温材がモリブデンプレートで覆われ、ガス出し処理が施されることで、カーボンによる影響が抑えられる。しかしながら、断熱性の悪いモリブデンやタングステンが、保温材として用いられることは、経済性と効率性の観点から、改善を要する点であり、一方で、カーボン製の保温材がモリブデンプレートで覆われたとしても、抵抗加熱のためのカーボンヒーターは、モリブデンプレートで覆われず、カーボンの昇華源として、坩堝の周囲に依然として存在している。炉内のカーボンは、YAG単結晶及びYAG原料から酸素を奪うことでCO2へと変化し、炉外へ排出される。YAG単結晶は、酸素が奪われることで格子欠陥である酸素欠損が生じる。酸素欠損の量が多くなると、結晶品質が悪化し、YAG単結晶に求められる光学特性が得られなくなる。酸素欠損により、結晶は黒く着色し、育成中の炉内の赤外線の吸収が高まることで、結晶に熱が籠ってしまう。結晶が融液よりも低い温度となることで、結晶成長は進行するが、結晶に熱が籠ると、結晶が成長できなくなり、種結晶から切り離れ、または、メルト界面に沿った横方向のみに成長し、必要な大きさの単結晶を得ることができなくなる。
【0012】
これらの問題を解決するために、YAG単結晶と反応するカーボンを、抑圧する必要があるところ、実際に、公知文献1発明及び公知文献2発明によって、結晶育成を試みると、その効果は限定的であった。結晶育成領域に、カーボンや一酸化炭素が導入されると、還元作用によって結晶に酸素欠損が生じて黒く着色し、結晶成長が阻害される。カーボン製の保温材やヒーターを用いて、YAG単結晶を育成する際には、結晶育成領域をカーボンや一酸化炭素を含む雰囲気から隔離する必要がある。前記の方法でYAG単結晶を育成した場合でも、結晶が黒く着色し、大型の結晶が育成できないことがあった。この問題を解決するためには、YAG単結晶の育成領域に、優先的かつ効率的に雰囲気ガスを導入し、排出する必要がある。
【0013】
本発明は、上記の実情に鑑みて提案されたものである。本発明は、YAG単結晶の成長において、結晶育成領域の雰囲気を周囲から隔離し、換気することで、カーボンからの悪影響を抑止することができるYAG単結晶製造装置及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明に係るYAG単結晶製造装置は、YAG単結晶の結晶原料が入れられる坩堝と、前記結晶原料に接触させる種結晶が取り付けられて前記坩堝の上方に配置された引き上げ軸と、前記坩堝の周囲に配置されたカーボン製の保温材と、前記保温材と前記坩堝との間に配置されて前記坩堝を遮蔽するためのモリブデン又はタングステン製の内容器と、前記内容器内に希ガスを流通させるガス噴出手段と、を有し、前記内容器に、前記希ガスが排気される排気口が形成された、ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、前記内容器が、前記坩堝を覆う容器本体と、前記容器本体の上部に接続されて前記引き上げ軸が内側に配置された筒部と、を有し、前記排気口が、前記容器本体の底面部に形成され、前記希ガスが、前記筒部から流入し、前記排気口から流出する、ことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、前記内容器の容積に対する前記希ガスの流量が、毎分30から70%である、ことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、前記YAG単結晶が引き上げられる速度が、1mm/h以下である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、前記坩堝が、モリブデン又はタングステン製である、ことを特徴とする。
【0019】
本発明に係るYAG単結晶の製造方法は、加熱した坩堝の中で、YAG単結晶の結晶原料を融解し、原料融液に種結晶を接触させて引き上げることで単結晶を成長させるYAG単結晶製造方法であって、前記坩堝を、モリブデン又はタングステン製の内容器で覆って遮蔽し、前記内容器内で、希ガスを前記坩堝の上方から流入させて前記坩堝の下方から排気する、ことを特徴とする。
【0020】
本発明に係るYAG単結晶の製造方法は、前記内容器の容積に対する前記希ガスの流量を、毎分30から70%とする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、YAG単結晶の結晶原料が入れられる坩堝と、結晶原料に接触させる種結晶が取り付けられて坩堝の上方に配置された引き上げ軸と、坩堝の周囲に配置されたカーボン製の保温材と、保温材と坩堝との間に配置されて坩堝を遮蔽するためのモリブデン又はタングステン製の内容器と、内容器内に希ガスを流通させるガス噴出手段とを有し、内容器に、希ガスが排気される排気口が形成されている。保温材に用いられるカーボンは、YAG原料の融点よりも低い温度で昇華し、YAG原料や成長中のYAG単結晶と反応するところ、仮に、カーボンが飛散した場合や、一酸化炭素が生成された場合であっても、坩堝が内容器によって遮蔽されたことで、YAG原料やYAG単結晶が、カーボンや一酸化炭素等の有害雰囲気に晒されることがない。仮に、カーボンや一酸化炭素等が生成された場合であっても、内容器内が、新鮮な希ガスによって常に換気されるため、有害雰囲気が、YAG原料やYAG単結晶から遠ざけられる。したがって、カーボンからの悪影響を抑止することができる。更に、希ガスによる換気によって、YAG原料の不純物ガス等も排気されるため、ガス出し処理の工程を省くこともできる。
【0022】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、内容器が、坩堝を覆う容器本体と、容器本体の上部に接続されて引き上げ軸が内側に配置された筒部とを有し、排気口が、容器本体の底面部に形成され、希ガスが、筒部から流入し、排気口から流出するものである。この構成により、希ガスが、筒部を通って、坩堝の上方から、YAG原料融液や成長中のYAG単結晶に吹き付けられ、これらを冷却する。したがって、結晶とYAG原料融液の温度勾配が促進され、熱伝導率の低い単結晶材料でも、結晶の育成が可能となる。更に、希ガスは、容器本体の底面部から排気されることで、底面部近傍に停滞すると想定されるカーボンや一酸化炭素等が効率よく排気される。
【0023】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、内容器の容積に対する希ガスの流量が、毎分30から70%である。希ガスの流量が適切な範囲に制御されることにより、内容器内で希ガスが停滞することなく、容器内が、希ガスによって常に換気され、有害雰囲気が、YAG原料やYAG単結晶から遠ざけられる。
【0024】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、YAG単結晶が引き上げられる速度が、1mm/h以下である。適切な環境下で、適切な速度でYAG単結晶が引き上げられることで、所望の結晶品質が実現する。
【0025】
本発明に係るYAG単結晶製造装置は、坩堝が、モリブデン又はタングステン製である。したがって、坩堝に要する材料を、イリジウム等と比較して安価にすることができる。
【0026】
本発明に係るYAG単結晶製造方法は、加熱した坩堝の中で、YAG単結晶の結晶原料を融解し、原料融液に種結晶を接触させて引き上げることで単結晶を成長させるYAG単結晶製造方法であって、坩堝を、モリブデン又はタングステン製の内容器で覆って遮蔽し、内容器内で、希ガスを坩堝の上方から流入させて坩堝の下方から排気するものである。仮に、カーボンが飛散した場合や、一酸化炭素が生成された場合であっても、坩堝が内容器によって遮蔽されたことで、YAG原料やYAG単結晶が、カーボンや一酸化炭素等の有害雰囲気に晒されることがない。内容器内が、新鮮な希ガスによって常に換気されるため、有害雰囲気が、YAG原料やYAG単結晶から遠ざけられる。更に、内容器内において、希ガスが、上方から下方に流通することで、底面部近傍に停滞すると想定されるカーボンや一酸化炭素等が効率よく排気される。したがって、カーボンからの悪影響を抑止することができる。
【0027】
本発明に係るYAG単結晶製造方法では、内容器の容積に対する希ガスの流量を、毎分30から70%とする。希ガスの流量が適切な範囲に制御されることにより、内容器内で希ガスが停滞することなく、容器内が、希ガスによって常に換気され、有害雰囲気が、YAG原料やYAG単結晶から遠ざけられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の第二実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の第一実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置によって製造されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の外観である。
【
図4】
図4は、本発明の第一実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置及び製造方法によって製造されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の光学特性を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例によって製造されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の外観である。
【
図6】
図6は、比較例によって製造されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の外観である。
【
図7】
図7は、本発明の第一実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置によって製造されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の外観である。
【
図8】
図8は、本発明の第三実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置の概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の第三実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置及び製造方法によって製造されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶の光学特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明では、モリブデン製の坩堝とカーボン製の保温材を用いながら、結晶育成領域の雰囲気を周囲から隔離することで、カーボンとYAG原料及び育成結晶との反応を抑制し、安価なYAG単結晶を安定的に製造することを目的とした。
【0030】
本発明は、YAG単結晶およびYbやNdといった添加物を含んだYAG単結晶を製造する装置及び方法において、安価なモリブデンやタングステン製の坩堝、保温性の高いカーボン保温材、及び、熱交換効率の良いカーボン製の加熱ヒーターを用いた際に、育成炉内の雰囲気ガスの流路と流量とを制御することにより、YAG単結晶の成長を阻害するカーボンの影響を抑圧し、YAG単結晶の育成を可能にする製造装置及び製造方法に関するものである。
【0031】
以下は、本発明の第一実施形態に係るイットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置及び製造方法(以下、「YAG単結晶製造装置」「YAG単結晶製造方法」と記す。)の説明である。
図1は、第一実施形態に係るYAG単結晶製造装置14の概略が示されている。
図2は、第二実施形態に係るYAG単結晶製造装置24の概略が示されている。
【0032】
図1に示されているとおり、YAG単結晶製造装置14は、YAG単結晶の結晶原料が入れられる坩堝9と、この坩堝9を支持して適宜回転させる坩堝台6と、結晶原料に接触させる種結晶7が取り付けられて坩堝9の上方に配置された引き上げ軸13と、坩堝9を加熱するための加熱ヒーターとしてのカーボンヒーター4と、このカーボンヒーター4の外周に配置されて炉内を保温する保温材5と、坩堝9とカーボンヒーター4との間に配置されて坩堝9を遮蔽するための内容器12と、この内容器12内に希ガスを流通させるガス噴出手段(図示省略)とを有している。なお、各器具は、チャンバ(図示省略)内に収容されている。
【0033】
坩堝9は、モリブデン又はタングステン製である。モリブデンやタングステンは、一般的に、イリジウムよりも安価であるため、経済的である。坩堝9は、椀状であり、上面が開口されている。坩堝9は、内容器12を介して坩堝台6の上に載せられ、坩堝台6と共に自在に回転する。引き上げ軸13は、上下に長手の棒状であり、上下方向を軸として自在に回転する。引き上げ軸13の下端には、所定の結晶方位に従って切り出された種結晶7が取り付けられる。カーボンヒーター4は、熱交換率が良いカーボン製であり、坩堝9の外周に配置されている。保温材5は、カーボン製である。カーボンは、一般的に、モリブデンやタングステンと比較して、保温性が高いことから、消費電力を抑えることができる。保温材5は、坩堝9の下方に配置された底材15と、坩堝9及びカーボンヒーター4の外側周囲に配置された側材16と、坩堝9の上方に配置された天材17とから構成されている。底材15は、坩堝台6が貫通している。天材17には、引き上げ軸13と共に内容器12の一部が貫通している。なお、
図1において、各材15,16,17は、互いに連接されて箱状に形成されているが、それぞれが単一の板状であって、連接されていなくてもよい。
【0034】
内容器12は、モリブデン製又はタングステン製である。内容器12は、坩堝9の全体を覆う容器本体3と、この容器本体3の上部に接続された円筒状の筒部2とから構成されている。容器本体3は、箱状であり、坩堝9の下方に配置された底面部18と、この底面部18から立ち上げられて坩堝9の外側周囲に配置された側面部19と、この側面部19の上部に連接された天面部20とから構成されている。天面部20には、筒部2が貫通している。筒部2は、天面部20と保温材5の天材17とを貫通し、下端部2aが、天面部20から下方に突出している。筒部2の内側には、引き上げ軸13が配置されている。
【0035】
例えば、
図2に示されているとおり、本発明の別の実施形態に係るYAG単結晶製造装置24のように天面部20を貫通した筒部2の下端部2aが、容器本体3における天面部20の下面である天井面に揃っていてもよい。下端部2aは、内容器12内への希ガスの吹き出し口となるところ、この場合、下端部2aが天面部20から突出しているYAG単結晶製造装置14と比較して、下端部2aの位置が、YAG原料融液10や成長中のYAG単結晶8から上方に遠ざかるため、冷却の度合いが緩やかとなり、温度勾配が適切となる。
【0036】
ガス噴出手段は、内容器12における筒部2の上流側に配置され、希ガスとしてのアルゴンガス1を噴出する。アルゴンガス1は、筒部2から流入し、容器本体3内において、坩堝9の上方から吹き付けられ、筒部2と容器本体3との隙間11を通気口として、この隙間11から流出する。なお、隙間11は、意図的に形成されたものでもよいし、設計誤差によって生じたものであってもよい。
【0037】
アルゴンガスの流量は、3から10L/minであり、好ましくは、5から10L/min、3から7L/min、5から7L/minである。
【0038】
上記した構成により、坩堝9は、引き上げ軸13と共に、内容器12内に収められ、内容器12によって、カーボンヒーター4及び保温材5から遮蔽され、内容器12内には、アルゴンガス1が流通する。すなわち、炉内に導入されるアルゴン雰囲気ガスの流路を形成するために、モリブデン製の容器本体3とアルゴンガス1を搬送するための筒部2を使用し、育成炉の中心に設置された育成用の坩堝9から炉の外に向かってアルゴンガス1が流れる流路を形成し、カーボンヒーター4及び保温材5から発生するカーボンやその他の不純物ガス等がYAG単結晶及びYAG原料に近づくことを妨げ、ガス出しなどの追加工程を必要とせず、YAG単結晶の育成を可能とする実用的かつ経済的なYAG単結晶製造装置14及び製造方法が実現する。
【0039】
次に、
図1を用いて実施例を説明する。単結晶育成用の坩堝9には、YAG原料の融液10が入っており、育成のための種結晶7は、融液の直上に設置される。坩堝9は容器本体3の中に設置されている。育成中の雰囲気ガスであるアルゴンガス1は、炉の上部から導入され、結晶回転軸を中心とした外径Φ38mm、内径Φ36mm、長さ260mmの筒部2の内部を通って内容器12に流れ込む。筒部2は、容器本体3の上部に開けられたΦ44mmの穴を通して、容器本体3内まで挿入される。これにより、アルゴンガス1は筒部2を通って容器本体3まで搬送される。内容器12の周りには、カーボンヒーター4が配置されている。カーボンヒーター4の周りは、カーボン製の保温材5に囲まれ、育成環境が高温を保てるようになっている。
【0040】
上記の構造により、育成炉上部の導入口から入ったアルゴンガス1は、筒部2を通過して容器本体3に搬送され、育成中のYAG単結晶8に当たる。その後、容器本体3と筒部2との隙間11から内容器12の外部へ流れ、更にカーボンヒーター4の隙間から外に向かう方向でアルゴンガス1の流路が形成される。これにより、カーボンヒーター4や保温材5から発生するカーボンは、炉の外側へ向かって流されることになり、YAG単結晶やYAG原料に接近するのが妨げられる。YAG単結晶およびYAG原料が酸素を奪われて還元されるのを防ぎ、YAG単結晶の育成が可能となる。
【0041】
アルゴンガス1の流量について、3~10L/min、好ましくは、5~10L/min、3~7L/min、5~7L/minで育成した際、YAG単結晶が得られた。YAG単結晶の育成においては、雰囲気ガスの流量や炉内の温度環境などは密接に関係しており、様々な育成パラメータを調整することでYAG単結晶の成長に最適な条件を探す必要がある。アルゴンガス1の流量も最適化される必要があり、雰囲気ガスの流量や経路となっている筒部2の径、アルゴンガス1のコンダクタンスに関わる筒部2の長さ、内容器12と坩堝9のサイズの関係性など、多岐に渡ると考えられる。そのため、今回使用した筒部2の仕様は、上記の通りだがそれに束縛されることは無く、アルゴンガス1を輸送する目的に適う仕様であれば、炉の構成や雰囲気ガスの流量を始め、その他の条件の最適化によって効果を得られると考える。
【0042】
アルゴンガス1の流路を制御する方法において、カーボン部材から昇華してくるカーボン以外にも、保温材5やYAG原料から放出される不純物ガスなども除去することを特徴とする。保温材5やYAG原料は、カーボン化合物を始め、酸素やH2O、その他の不純物ガスなどを含んでいる。育成に向けた昇温中に、これらの不純物は、例えば燃焼し、ガスとして炉内に発生する。アルゴンガス1を内容器12まで導入し、坩堝9から外部への気流を作ることで、これらの不純物のガスは外部に排出されることになる。したがって、不純物のガス出しを行う工程を短縮しても、その影響を押えることができる。
【0043】
本実施形態は、坩堝9近傍に直接アルゴンガス1を搬送することを特徴とする。通常であれば、育成炉に導入された雰囲気ガスは拡散しながら炉内を流れ、最終的に炉の外部へ排出されることになり、カーボンや不純物を巻き込みながら流れると考えられる。その過程でYAG単結晶やYAG原料と反応することになる。本実施形態では、カーボンを外に排出する原動力となるだけでなく、そもそもカーボンや不純物を含まない新鮮なアルゴンガスがYAG単結晶及びYAG原料まで搬送されるため、従来の育成装置よりも純度と結晶性の高いYAG単結晶の成長が生じる。
【0044】
上記、アルゴンガス1が坩堝9上部まで搬送される点は、結晶育成の観点から、YAG単結晶の製造を効率化すると期待される。先述したように、YAG単結晶の成長を促すには、融液と結晶の温度差が必要となる。熱伝導率の低い材料などは排熱効率が悪いため、融液とYAG単結晶の間の温度勾配を十分に形成できず、切り離れる、あるいは結晶成長がメルト界面方向に促進されてしまい、所望の大きさの単結晶を得ることができない。新鮮なアルゴンガス1がYAG単結晶の上部から導入されることによりYAG結晶の上部が冷却され、YAG単結晶と融液の温度勾配を促進し、熱伝導率の低い単結晶材料でも結晶育成が可能となる。
【0045】
本実施形態に係るYAG単結晶の育成においては、
図1に示すYAG単結晶製造装置14を使用した。
図1において、坩堝台6上にモリブデン製の内容器12と、原料融液10を充填する坩堝9を設置する。坩堝9内に種結晶7を備える。加熱手段として、抵抗加熱式のカーボンヒーター4を用い、このカーボンヒーター4の外側を、カーボン製の保温材5で覆う。炉体上部中心から雰囲気ガス1を導入し、雰囲気ガス導入口の下部に筒部2を設置する。
【0046】
出発原料として、Y2O3、Al2O3およびYb2O3粉末を用い、所要の比になるように秤量混合した。この混合粉末を坩堝9に入れ、抵抗加熱方式の炉内、アルゴン雰囲気中で融解させた。YAGの種結晶7を液面に接触させ、結晶を育成した。
【0047】
使用した坩堝9は、Φ100mmの高さ115mm、厚みは5mmである。内容器12のサイズはΦ250mm、高さ300mmである。坩堝9は、内容器12の内部中央に置かれる。筒部2は内径Φ36mm、外径Φ38mmで、長さは260mmあり、容器本体3への挿入長は、130mmである。カーボンヒーター4の内径は、Φ285mm外径、Φ300mmで、カーボン製の保温材5は、内径Φ350mmで外径がΦ550mmである。
【0048】
育成時の温度は、1890~1910°C、引上げ速度0.3mm/h、回転速度は0.3rpmとした。
アルゴンガス1の流量について、3~7L/minで育成した際、YAG単結晶が得られた。流量が5L/minのときに得られたYAG単結晶の有効径は、Φ71~80mm、結晶の上部から底部までは58mmあった。この結晶は若干の着色が見られたが成長を阻害するほどではなく、取出し後の酸素雰囲気下において1600°Cにおいて10時間の熱処理を行い、透明なYAG単結晶を得ることができた(
図3参照)。透過率測定の結果、近赤外領域で透明であり、レーザーホスト材料として充分な光学特性を示した(
図4)。結晶は結晶面が強く出た形状をしており、結晶性の高さが伺われた。アルゴンガス流量が0.5~2L/minではYAG単結晶が垂直方向に成長せず、メルト界面にそって平べったく成長した。
図5及び6は、アルゴンガス流量が0.5L/minであった場合の結晶である。取り出した結晶は強く黒色化し、酸素欠損が促進されていることが分かった。YAG単結晶が黒色化し、赤外線の吸収が高まったことで育成中の結晶温度が高まり、融液と結晶の温度勾配が充分に形成できず、縦方向の成長が阻害されて横方向に成長したことを意味している。このことから、本実施形態の効果を発揮するには、導入されたアルゴンガス1の流量が重要な役割を果たしており、3L/min以上、好ましくは、5L/min以上必要と結論された。
【0049】
一方、10L/minの条件下で育成した場合、酸素欠損による着色は抑えられ、透明な部位のあるYAG単結晶を得られたが、育成された結晶は横方向の成長が強く、モリブデン坩堝の壁面と固着し育成を続けることができなかった(
図7参照)。これはアルゴンガス流量が大きくなった場合、結晶上部の冷却効果が強くなったことによって特に横方向の結晶成長が促進されてしまった結果と考えられる一方で、得られたYAG単結晶での酸素欠損の着色が抑えられていることから、カーボンの影響を抑圧する効果は依然として得られていることを示している。アルゴンガス流量の吹付の強さが結晶成長中の熱環境に影響していることを示しており、本実施形態では上述の育成条件下においてYAG単結晶を取得したが、発明を利用の際には、使用する炉の構成や構成部品の位置関係などに従い部品の形状や育成条件は最適化される必要があることを意味しているが、アルゴンガス1を育成坩堝9近傍まで搬送することで炉内部のカーボンの影響を抑圧する効果は得られており、本実施形態の有効性については育成条件に左右されていない。5L/minのアルゴン流量下にて得られたYAG単結晶の透過率を
図4に示す。取出し後の酸素雰囲気下において1600°Cにおいて10時間の熱処理を行い、透過率測定の結果、近赤外領域で透明であり、レーザーホスト材料として充分な光学特性を示した。
【0050】
本実施形態により、安価なモリブデン製の坩堝9と、保温性の高いカーボン製の保温材5、及び、加熱効率の高いカーボンヒーター4を使用した単結晶育成炉において、高温下では保温材5及びカーボンヒーター4からカーボンの昇華が生じるものの、文献公知2発明の様に高温でガス出し処理などをすること無しに、カーボンの影響を抑圧してYAG単結晶を得た。本実施形態の実施上では、育成中のアルゴンガス流量が3~10L/min、好ましくは、5~10L/min、3~7L/min、5~7L/minのときに、カーボンによる影響を抑圧する効果が確認された。
【0051】
以上のとおり、安価なモリブデン製の坩堝9を使用し、加熱効率の高いカーボンヒーター4と高い保温性を持つカーボン製の保温材5とを用いたYAG単結晶製造装置14及び製造方法において、モリブデン製の容器本体3とモリブデン製の筒部2を導入することで、育成中雰囲気のアルゴンガス1の流路を制御し、アルゴンガス1の流量を3~10L/min、好ましくは、5~10L/min、3~7L/min、5~7L/minとすることで、保温材5のカーボンやカーボンヒーター4から発生するカーボンとYAG単結晶及びYAG原料の反応を抑制し、結晶欠陥の導入を妨げてYAG単結晶を得た。
【0052】
次に、本発明の第三実施形態に係るYAG単結晶製造装置及び製造方法を説明する。第三実施形態では、イリジウムに比べて安価なモリブデン又はタングステン製の坩堝を用いてイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3Al5O12)単結晶を得ることを目的とする。第三実施形態によれば、回転引上げ法を用いた製造方法において、モリブデン製の坩堝を用い、抵抗加熱方式で坩堝を加熱し、カーボン製の保温材にて保温する方法で、YAG単結晶が育成される領域を、下部に切り込みあるいは孔を有するモリブデン製の内容器で覆い、種結晶の上部から雰囲気ガスを導入することを特徴とする。YAG単結晶を1mm/h以下の引上速度で引き上げることで、イリジウム製の坩堝を使用する場合よりも安価にYAG単結晶を得ることができる。
【0053】
図8は、第三実施形態に係るYAG単結晶製造装置34の概略が示されている。
図8に示されているとおり、YAG単結晶製造装置34は、内容器12における容器本体3の底面部18に、排気口21が形成されている。YAG単結晶製造装置34では、隙間11が無いか、隙間11があったとしても、排気口21の方が隙間11よりも大きい。その他の構成は、第一実施形態に係るYAG単結晶製造装置14又は第二実施形態に係るYAG単結晶製造装置24と同じである。なお、高周波誘導加熱方式の場合は、カーボンヒーター4は無くてもよい。
【0054】
ガス噴出手段から噴出したアルゴンガス1は、筒部2から流入し、容器本体3内において、坩堝9の上方から吹き付けられ、排気口21から流出する。したがって、アルゴンガスは、坩堝9の上方から流入し、内容器12内を流通し、坩堝9の下方から排気される。その際、内容器12の容積(より正確には容器本体3の容積)に対するアルゴンガス1の流量は、毎分30から70%であり、好ましくは、毎分30から50%である。換言すれば、毎分30%のときのアルゴンガス1の流量は、3L/minであり、毎分50%のときのアルゴンガス1の流量は、5L/minであり、毎分70%のときのアルゴンガス1の流量は、7L/minである。また、YAG単結晶8が引き上げられる速度は、1mm/h以下である。好ましくは、0.3から0.6mm/hである。
【0055】
第三実施形態において、隔離容器による雰囲気ガスの流れの制御と雰囲気ガス流量の規定が、カーボンと原料及び育成結晶との反応の抑制に寄与することを見出した。第三実施形態に係るYAG単結晶製造装置34及び製造方法は、回転引上げ法によってYAG単結晶を育成するものであり、モリブデン製の坩堝9を用いて抵抗加熱方式で坩堝9を加熱し、カーボン製の保温材5で保温することで、YAG単結晶が育成される領域を、下部に切り込み或いは孔である排気口21を有するモリブデン製の内容器12(隔離容器)で覆い、種結晶7の上部から雰囲気ガスを導入することを特徴とする。なお、坩堝9の加熱方式は、高周波誘導加熱方式であってもよく、また、坩堝9及び内容器12の材質は、タングステン等の高融点金属であってもよい。
【0056】
このYAG単結晶製造装置34及び製造方法においては、育成雰囲気をアルゴンガス1とし、アルゴンガス流量をモリブデン製の内容器12の容積に対して毎分30から70%、好ましくは、毎分30から50%とすることを特徴とする。また、内容器12は、カーボンと原料および育成結晶とを隔離する効果だけでなく、内部の温度を均一にする効果があると考えられる。高品質かつ、坩堝径に対して大きな結晶径の結晶取得のためには、温度勾配の緩やかな環境で徐々に結晶を引き上げる育成方法が望ましい。本実施形態における育成環境においては、1mm/h以下の引上速度で引き上げたとき、所望の結晶を取得できた。
【0057】
YAG単結晶8を安定的に育成するためには、保温材5のカーボンと原料および育成結晶との反応を抑制し、酸素欠損による着色の無い、無色透明な結晶を育成することが重要である。結晶育成環境のシミュレーションにおいて、モリブデン製の内容器12で結晶育成領域を隔離し、種結晶7の上部から雰囲気ガスを導入したとき、少ないガス流量では導入したアルゴンガス1が結晶育成領域の上部で停滞し、内容器12の外側、すなわち、カーボン製の保温材5周辺の雰囲気を巻き込む様子が見られた。一方、ガス流量が多い場合には、導入したアルゴンガス1が上部から結晶育成領域へスムーズに流れることが確認され、カーボンによる汚染が起こらなくなることが推測された。
【0058】
実際の結晶育成において、底面部18に排気口21を有するモリブデン製の容器本体3で結晶育成領域を隔離し、種結晶7の上部から雰囲気ガスを導入し、アルゴンガス流量をモリブデン製の容器本体3の容積に対して毎分50から70%とした場合では、無色透明な結晶が製造可能であった。一方、雰囲気ガスの流量が少なすぎる場合には、カーボンと原料及び育成結晶との反応の抑制の効果が小さくなり、結晶が黒色になった。シミュレーションの結果と一致し、結晶の育成領域に優先的にガスを流入するためには、一定量以上のガス流量が必要であることが確認された。モリブデン製の容器本体3の容積に対して毎分5%では、結晶全体が黒色になり、結晶が成長しなかった。モリブデン製の容器本体3の容積に対して毎分30%では無色透明の結晶が得られる場合と、一部茶色の着色が見られる場合があり、再現性の低下が確認されたことから、アルゴンガス1の流量は、毎分30%で以上がよい。また、アルゴンガス1の流量が多くなるにつれてコストが高くなるため、再現良く育成可能な毎分50%以下が望ましい。
【0059】
一方、排気口の無いモリブデン製の内容器で結晶育成領域を隔離し、種結晶の上部から雰囲気ガスを導入した場合では、アルゴンガス流量をモリブデン製の内容器の容積に対して毎分100%としても育成結晶に一部着色が見られた。下部に切り込みあるいは孔等の排気口21を設けることにより、YAG結晶の育成領域に優先的かつ効率的に雰囲気ガスを導入、排出でき、結晶の育成領域へのカーボンの混入を抑制できていると考えられる。排気口21を有する容器本体3を用いた場合では、文献公知2発明の様な高温で減圧する操作を行わずに、無色透明な結晶の育成が可能であった。第三実施形態により、安価なモリブデン製の坩堝9を用い、安定的にYAG単結晶の製造が可能となった。
【0060】
次に、
図8を用いて実施例を説明する。第三実施形態発明に係るYAG単結晶の育成においては、
図8に示すYAG単結晶製造装置34を使用した。
図8において、坩堝台6上にモリブデン製の内容器12と、原料融液10を充填するモリブデン製の坩堝9を設置する。坩堝9内に種結晶7を備える。容器本体3の底面部18に、排気口21を設ける。加熱手段として抵抗加熱式のカーボンヒーター4を用い、このカーボンヒーター4の外側を、カーボン製の保温材5で覆う。炉体上部中心から雰囲気ガスを導入し、雰囲気ガス導入口の下部にモリブデン製の筒部2を設置する。
【0061】
出発原料としてY2O3、Al2O3及びYb2O3粉末を用い、所要の比になるように秤量混合した。この混合粉末をモリブデン製の坩堝9に入れ、抵抗加熱方式の炉内、アルゴン雰囲気中で融解させた。YAGの種結晶7を液面に接触させ、下表1の条件により結晶を育成した。表1中のガス流量は、モリブデン製の内容器12の容積に対して1分間あたりに流すアルゴンガスの体積の割合を示した。
【0062】
【0063】
Y3Al5O12は無色透明、Y2.985Yb0.015Al5O12は緑色透明の結晶が得られた。本実施例においては、坩堝9の内径は90mmとし、結晶最大径80mmのYAG単結晶を育成できた。坩堝9を大型化することにより、より大型の結晶育成も可能である。
【0064】
(比較例A)
モリブデン製の内容器の下部に孔のない構造で結晶を育成した。この結果、結晶の取得は可能であったものの、結晶は茶色に着色していた。実施例Aと比較例Aで育成した結晶の透過率を測定した結果を
図9に示す。容器本体3の底面部18に排気口21が形成された実施例Aでは、可視域から赤外域にかけて吸収が無いことが確認された。一方、孔を設置していない比較例Aでは740nmと470nmに吸収ピークが発生し、更に広い波長で透過率が低下した。比較例Aの育成条件においては、結晶形状を制御できず、坩堝の内壁に結晶が接触して育成を中断する等の不具合が発生することがあった。
【0065】
(比較例B)
実施例AからCと同じ装置構成において、雰囲気ガス流量をモリブデン製の内容器12の容積に対して毎分5%として育成を行った。この場合、結晶が黒色に着色し、大型の結晶は取得できなかった。YAG単結晶の安定的な育成においては、還元ガスを含まない雰囲気ガスを、結晶が成長する領域に十分に供給する必要があることがわかった。また、内容器12の構造により、雰囲気ガスの流れが変化することが推測され、結晶が成長する領域の雰囲気に寄与することがわかった。
【0066】
なお、本発明の他の実施形態は、保温材を有していない。
他の実施形態は、保温材が、モリブデン又はタングステン等の金属製である。
他の実施形態は、容器本体と筒部とが一体で成形されている。
他の実施形態は、容器本体と筒部との隙間と、排気口とは、同義である。
他の実施形態は、排気口が、側面部及び/又は天面部に形成されている。排気口の配置や数は任意である。
他の実施形態は、希ガスの流量が、3から10L/minであり、かつ、内容器の容積に対する希ガスの流量が、毎分30から100%である。
他の実施形態は、ガス噴出手段を有していない。
他の実施形態において、チャンバに収まり、カーボンヒーターや保温材と干渉しない形状であれば、内容器の形状は任意である。
他の実施形態は、坩堝がイリジウム製である。
他の実施形態は、YAG単結晶が引き上げられる速度が、1mm/h以上である。
【0067】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 アルゴンガス(希ガス)
2 筒部
2a 下端部
3 容器本体
4 カーボンヒーター(加熱ヒーター)
5 保温材
6 坩堝台
7 種結晶
8 育成結晶(YAG単結晶)
9 坩堝
10 原料融液
11 隙間
12 内容器
13 引き上げ軸
14,24,34 YAG単結晶製造装置(イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶製造装置)
15 底材
16 側材
17 天材
18 底面部
19 側面部
20 天面部
21 排気口