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  • 特開-早炊き米の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056910
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】早炊き米の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20230413BHJP
【FI】
A23L7/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166405
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】504110948
【氏名又は名称】株式会社アサノ食品
(74)【代理人】
【識別番号】100093931
【弁理士】
【氏名又は名称】長屋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】浅野 正成
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LC08
4B023LE03
4B023LE12
4B023LG01
4B023LP03
4B023LP05
4B023LP07
4B023LP14
4B023LP20
(57)【要約】
【課題】食味が良好で、常温流通が可能な早炊き米の製造方法を提供する。
【解決手段】早炊き米の製造方法は、精米を洗米する洗米工程(S2)と、洗米された精米を浸漬水に浸漬する浸漬工程(S3)と、浸漬された精米を浸漬水から取り出す取出し工程(S4)と、取り出した精米の水切りを行なう水切り工程(S5)と、水切りした精米を加熱することにより、精米中の米デンプンの少なくとも一部をアルファ化する加熱工程(S6)と、加熱された精米をほぐすほぐし工程(S7)と、精米に風を吹き付けて精米を乾燥させることにより、精米の水分活性の値を0.90以上0.94未満とする乾燥工程(S8)と、乾燥された精米を計量して容器内に充填し、脱酸素剤とともに密封する密封工程(S9)とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
早炊き米の製造方法であって、
精米を洗米する洗米工程と、
洗米された精米を浸漬水に浸漬する浸漬工程と、
浸漬された精米を浸漬水から取り出す取出し工程と、
取り出した精米の水切りを行なう水切り工程と、
水切りした精米を加熱することにより、精米中の米デンプンの少なくとも一部をアルファ化する加熱工程と、
加熱された精米に風を吹き付けて精米を乾燥させることにより、精米の水分活性の値を0.90以上0.94未満とする乾燥工程と、
乾燥された精米を計量して容器内に充填し、脱酸素剤とともに密封する密封工程と、
を有することを特徴とする早炊き米の製造方法。
【請求項2】
加熱工程と乾燥工程の間に、加熱された精米をほぐすほぐし工程を有することを特徴とする請求項1に記載の早炊き米の製造方法。
【請求項3】
乾燥工程と密封工程の間に、乾燥された精米をほぐす第2ほぐし工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の早炊き米の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗米・浸漬が不要で、短時間で炊飯出来る早炊き米の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乾燥アルファ化米と言われる製品は、一旦炊飯したご飯を熱風、マイクロ波、過熱水蒸気等を単体または複合的に加え、水分活性の値を0.50以下、水分値を10%以下にすることで、水またはお湯を加えるだけで短時間に復元ができ、かつ常温流通が出来る商品として様々な技術で製品化されている。
【0003】
また、乾燥アルファ化米よりも多くの水分を持つ早炊き米と言われる加工米飯は、洗米、浸漬した精米に熱風、マイクロ波、過熱水蒸気などを加えアルファ化し、加熱された原料を冷却した後に、バリア製のあるパウチに脱酸素剤と一緒に充填し密封シールする事で、乾燥アルファ化米と異なり、重量比で同等程度の水を加え、炊飯器や電子レンジ等で再加熱することで、洗米・浸漬が不要で通常の精米よりも早く炊ける商品として製品化されている。
【0004】
なお、出願人は、早炊き貯蔵米の製造方法として、特許文献1に示す出願を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-291181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の乾燥アルファ化米は、常温流通が可能で、水またはお湯などを加えるだけで短時間に復元は出来るが、乾燥度合いが高いため、ご飯全体に多くのヒビ割れがあり、結果として一般的に生米を炊飯するものと比べると著しい食味の劣化が起こる課題がある。
【0007】
また、乾燥アルファ化米よりも水分が多い早炊き米は、浸漬した精米原料に熱を加え、冷却する事で得られるため乾燥工程がなく、うるち米の場合で重量比で同等程度の水を加え、炊飯器等で加熱(炊飯)をすることで、一般的な生米を炊飯するよりは短い時間で調理でき、食味も一般的な生米を炊飯したものと遜色が無いが、水分値が概ね33±3%、水分活性の値が0.96以上あることから、脱酸素剤を用いて製品内を低酸素状態にすると、ボツリヌス菌による食中毒のリスクが発生し常温流通が出来ない課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、早炊き米の製造方法において、食味が良好で、常温流通が可能な早炊き米の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、早炊き米の製造方法であって、精米を洗米する洗米工程と、洗米された精米を浸漬水に浸漬する浸漬工程と、浸漬された精米を浸漬水から取り出す取出し工程と、取り出した精米の水切りを行なう水切り工程と、水切りした精米を加熱することにより、精米中の米デンプンの少なくとも一部をアルファ化する加熱工程と、加熱された精米に風を吹き付けて精米を乾燥させることにより、精米の水分活性の値を0.90以上0.94未満とする乾燥工程と、乾燥された精米を計量して容器内に充填し、脱酸素剤とともに密封する密封工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
第1の構成の早炊き米の製造方法においては、水分活性の値を0.94未満とすることにより、常温流通を可能とするとともに、水分活性の値を0.90以上とすることにより、食味を良好とすることができる。
【0011】
つまり、本発明者は、上記の問題に鑑み鋭意研究した結果、洗米、浸漬が不要で短時間で炊飯できるとともに、水分活性の値を0.94未満とすることにより常温流通ができ、かつ、水分活性の値を0.90以上とすることにより従来の早炊き米と同等の食味に復元できる早炊き米を製造方法を開発した。
【0012】
また、第2には、上記第1の構成において、加熱工程と乾燥工程の間に、加熱された精米をほぐすほぐし工程を有することを特徴とする。
【0013】
また、第3には、上記第1又は第2の構成において、乾燥工程と密封工程の間に、乾燥された精米をほぐす第2ほぐし工程を有することを特徴とする。
【0014】
なお、上記第1の構成を以下のようにしてもよい。すなわち、「早炊き米の製造方法であって、精米を洗米する洗米工程と、洗米された精米を浸漬水に浸漬する浸漬工程と、浸漬された精米を浸漬水から取り出す取出し工程と、取り出した精米の水切りを行なう水切り工程と、水切りした精米を加熱することにより、精米中の米デンプンの少なくとも一部をアルファ化する加熱工程と、加熱された精米をほぐすほぐし工程と、ほぐし工程でほぐされた精米に風を吹き付けて精米を乾燥させることにより、精米の水分活性の値を0.90以上0.94未満とする乾燥工程と、乾燥された精米を計量して容器内に充填し、脱酸素剤とともに密封する密封工程と、を有することを特徴とする早炊き米の製造方法。」としてもよい。
【0015】
また、上記第1の構成を以下のようにしてもよい。すなわち、「早炊き米の製造方法であって、精米を洗米する洗米工程と、洗米された精米を浸漬水に浸漬する浸漬工程と、浸漬された精米を浸漬水から取り出す取出し工程と、取り出した精米の水切りを行なう水切り工程と、水切りした精米を加熱することにより、精米中の米デンプンの少なくとも一部をアルファ化する加熱工程と、加熱された精米に風を吹き付けて精米を乾燥させることにより、精米の水分活性の値を0.90以上0.94未満とする乾燥工程と、乾燥された精米をほぐす第2ほぐし工程と、第2ほぐし工程でほぐされた精米を計量して容器内に充填し、脱酸素剤とともに密封する密封工程と、を有することを特徴とする早炊き米の製造方法。」としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に基づく早炊き米の製造方法においては、水分活性の値を0.94未満とすることにより、常温流通を可能とするとともに、水分活性の値を0.90以上とすることにより、食味を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施例の早炊き米の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においては、早炊き米の製造方法において、食味に問題がなく、常温流通が可能な早炊き米の製造方法を提供するという目的を以下のようにして実現した。
【0019】
以下、本発明の早炊き米の製造方法を図1を使用して説明すると、玄米を精白して精米を得て(S1)、得られた精米を洗米する(S2(洗米工程))。
【0020】
精米の種類としては、うるち米、もち米、玄米、発芽玄米、インディカ米など、品種や産地において特に制約するものではなく、無洗米を使用する事も可能である。
【0021】
次に、洗米された精米を水(浸漬水)に浸漬する(S3(浸漬工程))。この浸漬工程においては、精米原料を十分に水分を吸収させること以外に、味付けや制菌剤等を加えるなど特に制約はない。
【0022】
次に、浸漬された精米を浸漬水から取り出し(S4(取出し工程))、取り出した精米の水切りを行なう(S5(水切り工程))。つまり、精米の表面に付着した水を取り除くが、取り出した後の浸漬原料(つまり、精米)の表面に付着した遊離水分を自重または強制的に吸引する事で取り除く以外に特に制約はない。なお、水切りした状態での精米の水分値は、25%以上であればよいが、30%以上とすることが好ましい。
【0023】
次に、水切りした精米を加熱して、精米中の米デンプンの一部または全部をアルファ化する(S6(加熱工程))。なお、この加熱工程では蒸気、または過熱水蒸気、飽和水蒸気、マイクロ波などで米デンプンの一部または全部をアルファ化すること以外に特に制約はなく、上記熱源に複合的に使用しても良い。好ましくは、米の乾燥を防ぎ、ランニングコストが安い、通常の蒸気発生器(ボイラー)により得られた一般的な蒸気を用い、浸漬された精米原料に1~30分程度の範囲内で加熱する事が好ましく、5~10分程度で加熱する事が更に好ましい。なお、加熱する方法自体はネットコンベアー、スパイラル、バッチ式(セイロ)など、均一に加熱することが出来れば、特に制約はない。
【0024】
次に、加熱された精米をほぐすことにより、米粒を単粒化する(S7(ほぐし工程))。つまり、次工程で均一に乾燥することができるように、加熱されることで結着した精米の米粒一粒一粒を単粒化する。なお、単粒化する方法等には特に制約がないが、例えば、ほぐし機を用いて単粒化するが、送風機により風を加えながら単粒化する事で、米の表面の粘りが低下し、単粒化効率が良くなることから、ほぐし機と送風機を併用する事が好ましい。なお、このステップS7のほぐし工程を省略してもよい。
【0025】
次に、ほぐし工程でほぐされた精米に対して、風を吹き付けることにより精米を乾燥させ、精米の水分活性の値が0.90以上0.94未満となるようにする(S8(乾燥工程))。水分活性の値が0.94未満になるようにに乾燥できれば温度、時間、風量や方法に特に制約はないが、水分活性の値が低くなり過ぎると食味が悪くなることから、0.90以上とし、水分活性の値が0.94に近い方が好ましい。つまり、水分活性の値が0.90未満となると、食味が良好とはならず、やや不良又は不良となってしまう。また、水分活性の値が0.94以上となると、冷蔵しなければならないため常温流通ができない。なお、水分活性の値が0.85以上であればやや不良程度の食味を得ることはできるので(実施例3(後述)参照)、水分活性の値を0.85以上0.94未満としてもよい。
【0026】
次に、乾燥された精米を所定量ずつ計量し、計量された精米を容器(例えば、プラスチック製の袋)内に充填し、脱酸素剤とともに密封してシールする(S9(密封工程))。例えば、酸素透過性のない袋に脱酸素剤と一緒に充填し密封シールする。
【0027】
この密封工程においては特に制約がないが、計量精度を上げるために、計量前に再度単粒化して精米原料をほぐす工程(第2ほぐし工程)があってもよい。また、計量充填後にパウチ内で精米原料同士が再付着する場合は、24時間程度放置した後にパウチの外側からコンベアー等で外圧を加える事で単粒化する工程を付加する事があってもよい。
【0028】
上記のように、水切り工程で精米の表面に付着した水を取り除いた後に加熱しているので、水分値が概ね25~36%(好ましくは、33±3%)とした早炊き米とすることができる。
【0029】
なお、本発明のような早炊き米においては、水を入れて加熱することにより短時間で調理することができ、例えば、炊飯器の場合には、早炊き米と水を入れて炊飯するのみで調理することができ、炊飯時間が短く、また、通常の生米を炊飯する場合のように洗米や浸漬は不要である。
【実施例0030】
以下実施例1を説明する。
精米には秋田県産あきたこまちを800g用意し、常法で洗米し、2000gの清水に洗米した精米原料を漬け込み90分放置し精米原料に水を吸水させた。浸漬した精米原料をザルに移し10分間放置し、ザルの下方部に残った水分を吸引できる吸引機で強制的に吸い込み浸漬された精米原料1040gを得た。次いで、浸漬・水切りされた精米原料を厚みが3cm程度に均一になる様に直径30cm、高さ30mmのザルに入れ、100℃の蒸気庫内で5分加熱し精米原料をアルファ化した。この時使用した蒸し庫は、一般的なボイラー(蒸気発生器)で発生させた蒸気を上部にのみ開放口のある密閉容器とし、下方部から蒸気を密封容器内に吐出させる構造の蒸し庫を使用し、密封容器内に上記精米原料を入れたザルを静置し加熱するものとした。次いで、10℃以下の風に加熱された精米原料を30分間さらし、乾燥後重量950g、水分値27.0%、水分活性の値0.935の乾燥早炊き米を得た。なお、得られた乾燥早炊き米は脱酸素剤と一緒に酸素透過性のないパウチに充填し、18℃で24時間放置し安定化させ、その後、パウチの外側から外圧を加える(手で押す)ことで製品内の原料を単粒化して試料とした。得られた乾燥早炊き米を一旦開封し、450g取出し、水600gと一緒に炊飯器(パナソニック製SR-FD107)にいれ、早炊きモード(炊飯時間:25分)で炊飯をし、炊飯後重量、食味を確認し、食味としては、良好であった(表1参照)。
【実施例0031】
乾燥条件の温度を25℃、乾燥時間1時間に変えた以外は実施例1と同じ工程とし、乾燥後重量860g、乾燥後の水分値23.5%、水分活性の値0.900の乾燥早炊き米を得た。炊飯条件を乾燥早炊き米を430g、水630gに変えた以外は実施例1と同条件で炊飯し(炊飯時間は25分とした)、炊飯後重量、食味を確認し、食味としては、良好であった(表1参照)。
【実施例0032】
乾燥条件の温度を25℃、乾燥時間3時間に変えた以外は実施例1と同じ工程とし、乾燥後重量830g、乾燥後の水分値21.5%、水分活性の値0.871の乾燥早炊き米を得た。炊飯条件を乾燥早炊き米を415g、水650gに変えた以外は実施例1と同条件で炊飯し(炊飯時間:25分)、炊飯後重量、食味を確認し、食味としては、やや不良であった(表1参照)。
【実施例0033】
乾燥条件の温度を90℃、乾燥時間30分に変えた以外は実施例1と同じ工程とし、乾燥後重量790g、乾燥後の水分値15.6%、水分活性の値0.755の乾燥早炊き米を得た。炊飯条件を乾燥早炊き米を380g、水670gに変えた以外は実施例1と同条件で炊飯し(炊飯時間:26分)、炊飯後重量、食味を確認し、食味としては、不良であった(表1参照)。
【0034】
また、比較例1として、精米には秋田県産あきたこまちを300g用意し、常法で洗米した後、炊飯器(パナソニック製SR-FD107)に水500gと一緒に入れ、エコ炊飯モード(炊飯時間:50分)で炊飯をし、炊飯後重量、食味を確認し、食味としては、良好であった(表1参照)。
【0035】
また、比較例2として、精米には秋田県産あきたこまちを300g用意し、常法で洗米した後、炊飯器(パナソニック製SR-FD107)に水500gと一緒に入れ、早炊きモードで炊飯をし(炊飯時間:30分)、炊飯後重量および食味を確認し、食味としては、やや良好であった(表1参照)。
【0036】
【表1】
【実施例0037】
使用する精米を北海道産はくちょうもち800gとし実施例1と同じ条件で処理し、乾燥後重量950g、水分値33.1%、水分活性の値0.938の乾燥早炊き米を得た。得られたもち米精米原料の乾燥早炊き米400gと水250gを炊飯器(パナソニック製SR-FD107)にいれ、早炊きモード(炊飯時間:25分)で炊飯をし、、炊飯後重量、食味を確認し、食味としては、良好であった(表2参照)。
【0038】
また、比較例3として、精米には北海道産はくちょうもちを300g用意し、常法で洗米した後、炊飯器(パナソニック製SR-FD107)に水400gと一緒に入れ、炊き込みモードで炊飯をし(炊飯時間:55分)、炊飯後重量および食味を確認し、食味としては、良好であった(表2参照)。
【0039】
【表2】
【0040】
なお、上記実施例1~4と比較例1及び比較例2は、うるち米の場合であり、実施例5と比較例3は、もち米の場合であるといえる。また、実施例1~5は早炊き米を炊飯した場合であるのに対して、上記比較例1~3は、生米を炊飯したものであり、比較例1~3においては、炊飯時間がそれぞれ異なるといえる。
【0041】
以上のように、実施例1~5においては、水分活性の値を0.90以上とすることにより、食味を良好とすることができ、生米を炊飯した場合と比べても、食味は、炊飯時間を十分長くした場合(比較例1、比較例3)と遜色ない結果となった。
図1