(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056925
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 3/18 20060101AFI20230413BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A47C3/18 Z
A47C7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166433
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】横山 剛士
(72)【発明者】
【氏名】西上 真凪
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿介
【テーマコード(参考)】
3B091
【Fターム(参考)】
3B091EA03
3B091EA04
(57)【要約】
【課題】棒足タイプ等の脚装置に座が水平回転自在に取り付けられた椅子において、上下のスペースに余裕がなくても、座をガタ付きなく安定した状態で回転させ得る構造を開示する。
【解決手段】脚装置の上端にベース5が固定されており、ベース5の設けた中心軸34に座受け6の中心穴15が嵌まっている。中心軸34はブッシュ38を介してスリーブ39が回転可能に密嵌し、スリーブ39に座受け6が相対回転不能に密嵌している。スリーブ39は、スラストベアリング41及び皿座金42を介して上から押さえ保持されている。スリーブ39は上から強く押されて倒れないため、中心軸34が短かくても、座2をガタ付きなく水平回転させ得る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脚装置に固定的に設けたベースと、前記ベースの上に配置された座とを備えて、前記ベースに、前記座の水平回転中心になる中心軸が上向きに突設されて、前記座又はこれを受ける座受けに、前記中心軸に上から嵌まる中心穴が形成されており、
前記座又は座受けが、前記ベースに、前記座に作用した荷重が専ら上下方向に作用する状態に保持する倒れ抑止部材を介して水平回転自在に取り付けられている、
椅子。
【請求項2】
前記中心軸は外径を同径に形成したストレート状であり、
前記倒れ抑止部材は、前記中心軸に回転可能に密嵌したスリーブと、前記スリーブの上に重ねたスラストベアリングと、前記スラストベアリングを押さえ保持するボルトと、を備えており、
前記スリーブの外径は上窄まりのテーパ面に形成されている一方、
前記座又は座受けの中心穴は、前記スリーブに回転不能に嵌着する上窄まりテーパ状に形成されている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記スリーブは、当該スリーブと前記中心軸とに密着したブッシュを介して回転自在に保持されている一方、
前記スラストベアリングは、上下方向に弾性変形する弾性リングを介して前記ボルトで押さえ保持されている、
請求項2に記載した椅子。
【請求項4】
前記弾性リングはばね座金である、
請求項3に記載した椅子。
【請求項5】
前記倒れ抑止部材は、前記中心穴の放射方向外側に配置されたリング状の回転補助体であり、前記リング状回転補助体は、前記座又は座受けと一体に回転する上リング体と、前記ベースに回転不能に支持された下リングとを備えている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項6】
前記上リング体と下リング体とは直接に又は潤滑剤を介して重なっている、
請求項5に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、脚装置がガスシリンダ方式ではなくて棒足状のように回転軸を持たない方式でありつつ座が水平回転するタイプの椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子は様々なタイプが存在しているが、脚装置の構造から見ると、脚柱をガスシリンダで構成して座を高さ調節できるタイプ(例えば特許文献1)と、いわゆるパイプ椅子のように座を高さ調節できないタイプ(例えば特許文献2の
図10,11)とに大別できると云える。
【0003】
脚柱をガスシリンダで構成した椅子では、通常は、ガスシリンダを構成する外筒に座又は座受けが固定されており、外筒が内筒に対して回転することによって座が回転するようになっているが、特許文献1では、ガスシリンダを構成する外筒は非回転式になっており、そこで、ガスシリンダの上端に軸筒を嵌着する一方、座を支持する取付台(座受け)に、軸筒にブッシュを介して外側から嵌まる軸受筒を固定し、軸筒の下端に設けたフランジで軸受筒を支持すると共に、軸筒の上端に、軸受筒の抜け止めのためのCリングを系着している。
【0004】
特許文献2のうち
図10,11のタイプは脚部が4本足方式になっており、座は水平回転しないが、特許文献3には、脚部が4本の棒足を備えている椅子において、大きな外径のスラストベアリングを介して座を脚部で水平回転自在に支持することが開示されている。この特許文献3において、スラストベアリングは、上板と下板との間に多数個のボールが配置された構造になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3800028号公報
【特許文献2】特開2021-040978号公報(
図10,11)
【特許文献3】特開2008-167983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のうち
図10,11のタイプの椅子や特許文献3のタイプの椅子のようなガスシリンダを備えていない椅子は、キャスタを備えていないことが多く、家庭や店舗、オフィス等において広く使用されている。キャスタを備えていないと、フローリング床でも手軽に使用できるため、在宅勤務でテーブルとセットで使用する上でも好適である。
【0007】
しかし、テーブルとセットで使用するにおいて、着座・離席に際して一々椅子を後ろにずらしたり前に引いたりするのは面倒である。そこで、特許文献3では、座を水平回転自在に構成して着座・離席を容易化している。
【0008】
4本足方式等の脚装置を有する椅子において、座を水平回転させる場合の問題は、上下幅が小さいスペースで座を安定的に支持することである。この点、特許文献3のように直径が大きいスラストベアリングを使用すると、座は、脚部材に近接させしつつ、倒れない状態で安定的に支持できる。
【0009】
他方、特許文献2は、ガスシリンダからなる脚装置と4本足方式の脚装置とに1種類の座受けを共用できるようにしたものであるが、特許文献3で開示された大型のスラストベアリングを使用すると、脚部材と座とを専用の構造にせねばならないため、座受け等の部材の共通化が困難になるという問題がある。
【0010】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、中心軸と中心穴とで位置決めされた座と脚部とを有する椅子において、コンパクトな構造で座を安定的に水平回転させ得る技術を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は上位概念を成すもので、
「脚装置の上端に固定的に設けたベースと、前記ベースの上に配置された座とを備えて、前記ベースに、前記座の水平回転中心になる中心軸が上向きに突設されて、前記座又はこれを受ける座受けに、前記中心軸が下方から嵌まる中心穴が形成されており、
前記座又は座受けが、前記ベースに、前記座に作用した荷重が専ら上下方向に作用する状態に保持する倒れ抑止部材を介して水平回転自在に取り付けられている」
という構成になっている。
【0012】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「前記中心軸は外径を同径に形成したストレート状であり、
前記倒れ抑止部材は、前記中心軸に回転可能に密嵌したスリーブと、前記スリーブの上に重ねたスラストベアリングと、前記スラストベアリングを押さえ保持するボルトと、を備えており、
前記スリーブの外径は上窄まりのテーパ面に形成されている一方、
前記座又は座受けの中心穴は、前記スリーブに回転不能に嵌着する上窄まりテーパ状に形成されている」
という特徴を備えている。
【0013】
請求項3の発明は請求項2の展開例であり、
「前記スリーブは、当該スリーブと前記中心軸とに密着したブッシュを介して回転自在に保持されている一方、
前記スラストベアリングは、上下方向に弾性変形する弾性リングを介して前記ボルトで押さえ保持されている」
という特徴を備えている。この請求項3の発明の好適な展開例として、請求項4では、前記弾性リングばね座金で構成されている。ばね座金は様々な構造のものがあるが、皿座金は全周に亙って同一形態であるため加圧力を均等化できて、好適に使用できる。
【0014】
請求項5の発明は請求項2と並列して請求項1の展開例を成すもので、
「前記倒れ抑止部材は、前記中心穴の放射方向外側に配置されたリング状の回転補助体であり、前記回転補助体は、前記座又は座受けと一体に回転する上リング体と、前記ベースに回転不能に支持された下リングとを備えている」
という構成になっている。
【0015】
この請求項5において、座又は座受けは、その中心穴を中心軸に嵌め込むことにより、中心軸の軸心回りに水平回転するように保持して、リング状のスラストベアリングによって安定性を保持したらよい。
【0016】
請求項5の展開例として、請求項6の発明では、
「前記上リング体と下リング体とは直接に又は潤滑剤を介して重なっている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0017】
本願発明では、基本的には中心穴と中心軸との嵌合関係によって座の水平回転が許容されつつ、倒れ抑止部材により、座を、倒れが阻止された安定的な姿勢で水平回転させることができる。従って、中心穴が形成された座又は座受けを備えた非ガスシリンダ式の椅子の使い勝手を向上できる。
【0018】
倒れ抑止部材として請求項2の構成を採用すると、倒れ抑止部材は平面視において中心穴と重なる範囲に納まるため、倒れ防止構造を著しくコンパクト化できる。しかも、スリーブの外周面と中心穴とはテーパ面になっているため、ガタ付きのない状態に密嵌(圧入)させることができ、しかも、スリーブはスラストベアリングで上から押圧されているため、座の水平回転を軽快に行えつつ倒れを確実に阻止できる。
【0019】
請求項3のようにスラストベアリングを弾性リングで上から押圧すると、スリーブがスラストベアリングで押された状態をしっかりと保持できるため、倒れ防止機能を格段に向上できる。
【0020】
弾性リングは、例えば硬質ゴムのように圧縮変形するものも使用できるが、請求項4のように皿形等のばね座金を使用すると、市販品をそのまま使用できるためコスト面で有利であると共に、大きな弾性力を作用させることができるため、押さえ機能の確保の点でも好適である。
【0021】
請求項5のように、倒れ抑止部材としてリング状の回転補助体を使用すると、座に作用した荷重を広い範囲で受けることができるため、座の倒れを確実に阻止できる。この場合、リング状の回転補助体は中心軸及び中心穴を囲うように配置されるため、スペースを取ることはなくて、コンパクト性は損なわれない。
【0022】
リング状スラストベアリングとしては多数のボールを有するタイプも採用可能であるが、請求項5のように上下のリング体が直接的に重なった方式を採用すると、コストを抑制できて好適である。なお、潤滑剤としてはグリスが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係る椅子の外観を示す図で、(A)は前上方から見た斜視図、(B)は正面図、(C)は前下方から見た斜視図である。
【
図2】(A)は上方から見た分離斜視図、(B)は下方から見た部分的な分離斜視図である。
【
図3】
図2(A)と同じ方向から見た分離斜視図である。
【
図5】
図4の V-V視方向から見て縦断正面図である。
【
図6】第2実施形態の縦断正面図で、
図7(A)のVI-VI 視断面図である。
【
図7】(A)はリング状回転補助体の分離平面図、(B)は(A)のB-B視方向から見た部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の問題を使用するが、この方向は椅子に普通に着座した人から見た状態を基準にしている。正面視方向は、着座者と相対向した方向である。
【0025】
(1).椅子の概要
まず、主として
図1,2を参照して椅子の概要を説明する。
図1に示すように、椅子は、基本的な要素として、脚装置1と座2と背もたれ3とを備えている。脚装置1は、4本の棒足4から成っており、
図1(C)及び
図2(B)に示すように、4本の棒足4の上端に、円形で上向きに開口した皿状のベース5が固定されている。各棒足4の上端には内向き部4aが曲げ形成されており、内向き部4aがベース5に貫通して、ベース5の内部においてベース5に溶接されている。
【0026】
図1(C)に示すように、ベース5の上面部に、底面視(及び平面視)で略四角形の座受け6が固定されて、
図2(A)に示すように(
図3も参照)、座受け6に中間部材7が前後動自在に装着されて、中間部材7に座2が固定されている。座2は、座板(座インナーシェル)8にクッション材9を張って表皮材で覆った構造であり、座板8が中間部材7に爪係合によって取り付けられている。ベース5は板金製品で、座受け6は例えばアルミダイキャスト品であり、座板7は例えば合成樹脂の成型品である。座板8は、座受け6に前後スライド自在に装着されている。
【0027】
椅子は、座2よりも高い位置において着座者を後ろと左右から囲うように配置された上部支持フレーム10を備えており、上部支持フレーム10に背もたれ3が取り付けられている。また、上部支持フレーム10は、座受け6に固定された左右のサイド支柱11で支持されている。なお、背もたれ3は、上部支持フレーム10を支点にしてある程度の角度で前後に回動する。
【0028】
サイド支柱11の上端に、上部支持フレーム10を前向きに延出した外観を呈するグリップ12が装着されている。なお、本実施形態の椅子は、基本的には特許文献2に記載したものと同じであり、ガスシリンダ式の脚装置を有する椅子と部材を共用できるが、ガスシリンダ式の脚装置の椅子では、グリップ12を回転させることにより、ガスシリンダのロックを解除できる。
【0029】
本実施形態では、着座者が背もたれ3にもたれ掛かると、まず、上部支持フレーム10がサイド支柱11に対して後傾することによって第1段階のロッキングが行われ、次いで、上半身を後ろに反らせると、背もたれ3は上部支持フレーム10に対して後傾動し、第2段階のロッキングが行われる。また、着座した人が背もたれ3にもたれかかると、座2はばねに抗して前進する。
【0030】
(2).座部の構造
次に、座部の構造を、主として
図3を参照して説明する。座受け6は、平面視略四角形で上向きに開口した浅いトレー状の形態を成している。座受け6の略中央部に、ベース5に取り付けるための中心穴(取り付け穴)15が空いている。中心穴15の高さを確保するため、座受け6には下向きのボス部(筒部)16が形成されている。中心穴15の内周面は、上に向けて縮径したテーパ面になっている。
【0031】
図3,2(A)に示すように、座インナーシェル8の前寄り部位には多数のスリット17が左右に並んで形成されており、従って、座2は、その前部が座インナーシェル8の弾性に抗して下向きに回動し得る。そこで、
図3に示すように、中間部材7の前部には、座インナーシェル8の前部を支えるばね18が配置されている。
【0032】
図3,2(A)に示すとおり、中間部材7の中央部に、平面視四角形の大きな開口19が形成されている。また、中間部材7は浅いトレー状の形態を成しており、内部には、縦横に延びる多数の補強リブが形成されている。
【0033】
既に述べたように、中間部材7は、座受け6に対して前後スライド自在に装着されている。そこで、スライド手段として、まず、
図3に示すように、中間部材7の前部の左右両側部に、前後長手で上下に貫通したフロント長穴(図示せず)を形成して、このフロント長穴に挿通したフランジ付きフロントガイド軸21を、ビス22によって座受け6に固定している。
【0034】
また、
図3に示すように、中間部材7のうち開口19の左右側縁部でかつ後部の左右2か所に、下向きの軸受片23を突設している一方、座受け6には、前後長手で左右に開口した長穴24を形成して、軸受片23に挿通したガイド軸25を長穴24に前後スライド自在に挿通している。ガイド軸25は、ビス26により、軸受片23から抜け不能に保持されている。
【0035】
座受け6の前部に、上向きに開口した左右一対のコロ受け凹所を介してコロ27が配置されている。他方、中間部材7の下面には、コロ27に当たる金属製の受け板28が装着されている。座受け6の前部には、中間部材7の前進動に抵抗を付与する、前後長手のばね(圧縮コイルばね)29が配置されている。ばね29は左右箇所に配置されており、前端は座受け6に設けた前ばね受けで支持されて、後端は、中間部材7に下向き突設した後ろばね受け(図示せず)で支持されている。
【0036】
図3に示すように、サイド支柱11の下端には、座受け6に形成された横向き穴30に外側から嵌入する内向き部11aが形成されており、内向き部11aはビス31によって座受け6に固定されている。
【0037】
(3).座受けの取り付け構造
次に、ベース5に対する座受け6の取り付け構造を、主として
図4,5を参照して説明する。
【0038】
図4に示すように、棒足4の内向き部4aは、ベース5の外周下部を貫通してベース5の内部に入り込んでおり、この入り込んだ部位がベース5に溶接されている。ベース5の底板には、上向きに膨出した環状突部33を形成しており、棒足4の内向き部4aは、ベース5の内周部と環状突部33とに重ねて溶接されている。棒足4の内向き部4aは、ベース5との接触面積を大きくするため角形に潰されている。
【0039】
図5に明瞭に示すように、ベース5の中央部には、上向きに突出した中心軸34が溶接されている。中心軸34はストレート形状であり、下端には外向きのフランジ35が形成されて、上端には小径部36が形成されている。従って、中心軸34の上端部に肩部37が形成されている。ベース5の下面には、円形の補強板5bを溶接している(補強板5bはベース5の上面(底面)に溶接してもよい。)。
【0040】
中心軸34には、ブッシュ38を介してスリーブ39が回転可能に外側から嵌着しており、スリーブ39に座受け6の中心穴15が嵌着している。既述のとおり、中心穴15は上窄まりのテーパ穴であるので、スリーブ39の外周面も上窄まりのテーパになっている。他方、スリーブ39の内周面はストレート形状であり、等厚で摩擦の板材からなるブッシュ38がスリーブ39と中心軸34との間に介在している。ブッシュ38は、その内面(又は外面若しくは両面に)に摩擦係数が小さい樹脂膜をコーティングしている。従って、スリーブ39と中心軸34とに密嵌しつつ、スリーブ39の回転を許容できる。
【0041】
図4に示すように、ブッシュ38はスリット40によって非ループに形成されており、スリット40の間隔が狭まることにより、スリーブ39と中心軸34との間に密嵌する。従って、ブッシュ38及びスリーブ39を中心軸34に嵌め込むことは、加圧具のような装置を使用して強制的に行われる。
【0042】
スリーブ39は、ブッシュ38の下部フランジ38aを介して中心軸34の下端に載っている。従って、座2に作用した荷重は、主として、スリーブ39を介して中心軸34のフランジ35で支持される。
【0043】
スリーブ39の上端には、ブッシュ38の上端と若干の間隔を明けた状態で内向きフランジ39aが形成されている。そして、スリーブ39の上端にスラストベアリング41が重なって、スラストベアリング41は、皿座金42と平座金43とを介してボルト(ビス)44で上から押さえ保持されている。
【0044】
スラストベアリング41は、上レースと下レースとの間に多数のボールを配置した構造であり、下レースは中心軸34の小径部36に嵌合している(上レースも中心軸34の小径部36に嵌合させることは可能である。)。皿座金42は弾性リングの一例であり、凹面を下向きにした状態で配置されて、弾性変形させた状態に保持されている。このように、スリーブ39は、皿座金42の弾性復元力によって強く押されているが、皿座金42とスリーブ39との間にはスラストベアリング41が介在しているため、スリーブ39は座受け6と一緒に軽快に水平回転できる。
【0045】
本実施形態では、スリーブ39とブッシュ38とスラストベアリング41と皿座金42とは請求項に記載した倒れ抑止部材を構成しているが、特に、スラストベアリング41と皿座金42とがその中核を成している。そして、スリーブ39は皿座金42を介して強く押されているため、中心軸34の軸心に対して(鉛直線に対して)倒れることはなくて、ガタ付きなく安定した状態で水平回転する。
【0046】
さて、人が着座して作用する下向き荷重の重心は中心軸34の軸心からずれていることが大半であり、このため、座2にはこれを中心軸34の軸心に対して倒そうとするモーメントが発生する。このため、着座によってスリーブ39の上面又は下面に浮きが発生すると、座2が倒れやすくなってガタが発生しやすい。
【0047】
これに対して本実施形態では、スリーブ39がブッシュ38を介して中心軸34に密嵌していることと、スリーブ39が皿座金42及びスラストベアリング41を介して上から強く押圧されていることにより、中心軸34は、その上面はスラストベアリング41に密着して、下面は中心軸34のフランジ35に密着した状態が保持されているため、スリーブ39が倒れることなく、その結果、座2を安定した姿勢で水平回転させることができる。
【0048】
更に述べると、中心軸34及び中心穴15の上下高さをある程度以上に大きくできたら、単にスリーブ39を中心軸34に嵌め込んだだけで座2をガタ付きなく回転させることができるが、本実施形態のように、座受け6がベース5に近接して配置されていると、座受け6の高さ(厚さ)を大きくできないことから、単にスリーブ39を中心軸34に嵌め込んだだけでは、座2にガタ付きが発生してしまう。
【0049】
これに対して、本実施形態では、スリーブ39がスラストベアリング41及び皿座金42を介して下方に強く押圧されていることにより、スリーブ39の倒れを防止して、座2をガタつき無く安定した姿勢で回転させることができる。
【0050】
実施形態のように、スリーブ39に内向きフランジ39aを形成して,これにスラストベアリング41を重ねると、スラストベアリング41を安定的に支持できる利点がある。実施形態では、スリーブ39のフランジ39aと中心軸34の肩部37との間に隙間が空いているこのため、スリーブ39の下端をフランジ35にしっかりと当接させて、高い安定製を確保できる。なお、倒れ抑止部材を構成する部材はベース5で完全に隠れているため、美観を損なうこともない。
【0051】
平座金を使用せずに、ボルト44の頭で皿座金42を直接押さえることも可能である。また、複数枚の皿座金42を重ねて使用することも可能である(この場合は、凸面と凸面とを対向させるか、凹面と凹面とを対向させるのが好ましい。)。スラストベアリング41は、ボール方式に代えてメタル方式も採用可能である。すなわち、上下のリングが潤滑剤を介して重なったものも使用可能である。或いは、上下のリングの間に摩擦係数が小さいスライダーを介在させたタイプも採用できる。
【0052】
なお、棒足4の上部は、ベース5の外周面から斜め下方に向かっているため、棒足4と座受け6との間には大きな間隔があいている。このため、着座した人が指先を棒足4の上部に当てた状態で座2を回転させても、棒足4と座受け6との間に指を挟むことはない。
【0053】
(4).第2実施形態
次に、
図6,7に示す第2実施形態を説明する。この実施形態では、中心軸34の外周と中心穴15の内周とはストレートに形成されており、両者の間に、回転を容易化するためのブッシュ46が密嵌している。ブッシュ46は、第1実施形態の場合と同様にスリットによって非ループに形成されている。座受け6は、平座金49及びボルト48によって中心軸34に抜け不能に保持されている。平座金49と座受け6との間にはグリスを塗布しており、座受け6の上面には、グリス溜まりとなる環状溝50を形成している。
【0054】
この実施形態では、倒れ抑止部材として、ベース5のフランジ5aに上から重なる大きさの大径でリング状の回転補助体51が使用されている。回転補助体51は一種のスラストベアリングであり、互いに重なり合った上リング52と下リング53とから成っており、両者の間に潤滑剤としてグリスが塗布されている。下リング53には、グリス溜まりとなる環状溝54が複数本形成されている(1本でもよい。)。
【0055】
また、下リング53には、ベース5のフランジ5aを外側から囲う下向き筒部55と、上リング52の外側に位置した上向き筒部56とが形成されており、下向き筒部55によって中心軸34と同心の芯出しをする一方、上向き筒部56の内側に形成された環状凹所57をグリス受けと成している。
【0056】
また、
図7に示すように、上リング52には複数の内向き突起58を設けて、この内向き突起58をビス59で座受け6に固定している一方、下リング53の下面に複数の位置決め突起60を形成して、この位置決め突起60が、ベース5のフランジ5aの上面に設けた位置決め穴61に嵌合している。従って、下リング53は、中心軸34と同心で水平回転不能に保持されている。
【0057】
上リング52には、1つ又は複数の上向き突起62を設けて、この上向き突起62を、座受け6に形成した位置決め穴63に嵌入している。
【0058】
この第2実施形態では、大径でリング状の回転補助体51の直径は大きくて、着座した人が座を回転させるに際して、その重心は回転補助体51の内部に位置しているため、座2をガタ付きのない安定した姿勢で水平回転させることができる。
【0059】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、脚装置は棒足タイプに限定されるものではなく、側面視でコ字形やロ字形に形成された左右のフレームを有するタイプなど、各種の形状・構造に具体化できる。また、座は前後にスライドする必要はないのであり、水平回転のみするタイプであってもよい。更に、座を構成するインナーシェル又はアウターシェルを中心軸に嵌め込むことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 脚装置
2 座
4 棒足
5 ベース
5a フランジ
6 座受け
7 中間部材
15 中心穴
34 中心軸
35 フランジ
36 小径部
37 肩部
38,46 ブッシュ
39 スリーブ
41 倒れ抑止部材を構成するスラストベアリング
42 倒れ抑止部材を構成する皿座金(弾性リング)
44 ボルト
51 倒れ抑止部材を構成する回転補助体
52 上リング
53 下リング