(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056957
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】菌床培地製造装置、植菌済菌床培地製造装置、菌床培地の製造方法および植菌済菌床培地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 18/22 20180101AFI20230413BHJP
【FI】
A01G18/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166480
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】521439671
【氏名又は名称】ジャパンアグリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】馬場 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】森 隆久
【テーマコード(参考)】
2B011
【Fターム(参考)】
2B011AA01
2B011AA02
2B011AA04
2B011AA05
2B011AA06
2B011PA01
(57)【要約】
【課題】キノコ類の菌床培地製造における自動化が容易であり、雑菌混入のおそれが極めて少なく、大型しても殺菌および冷却にかかる時間の短縮が可能な菌床培地製造装置等を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の菌床培地製造装置は、密閉タンク1とジャケット2とを備え、上記密閉タンク1に菌床培地原料を収容した状態で、第1の供給配管H1から上記密閉タンク1に蒸気が供給されるとともに、第3の供給配管J1a,J2a,J3aから上記ジャケット2に蒸気が供給されて上記菌床培地原料が加圧および加熱下で殺菌されるようになっており、上記殺菌後、第4の供給配管J1b,J2b,J3bから上記ジャケット2に水が供給され、殺菌された菌床培地原料が冷却されるようになっており、上記密閉タンク1において、菌床培地原料に対する殺菌と冷却が行われるようになっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
菌床培地原料を収容して密閉しうる密閉タンクと、上記密閉タンクの外周面に沿って設けられるジャケットとを備え、
上記密閉タンクは、上記密閉タンクに上記菌床培地原料を投入する投入口と、上記密閉タンクから製造した菌床培地を排出する排出口と、上記密閉タンクに蒸気を供給する第1の供給配管とを備え、
上記ジャケットは、上記ジャケットに蒸気を供給する第3の供給配管と、上記ジャケットに水を供給する第4の供給配管とを備え、
上記密閉タンクに菌床培地原料を収容した状態で、上記第1の供給配管から上記密閉タンクに蒸気が供給されるとともに、上記第3の供給配管から上記ジャケットに蒸気が供給されて上記菌床培地原料が加圧および加熱下で殺菌されるようになっており、
上記殺菌後、上記第4の供給配管から上記ジャケットに水が供給され、殺菌された菌床培地原料が冷却されるようになっており、
上記密閉タンクにおいて、上記菌床培地原料に対する殺菌と冷却が行われるようになっている菌床培地製造装置。
【請求項2】
上記密閉タンクの内部に、撹拌翼を有する撹拌具が設けられている請求項1記載の菌床培地製造装置。
【請求項3】
上記密閉タンクが、上記密閉タンクを減圧する減圧配管を備えている請求項1または2記載の菌床培地製造装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の菌床培地製造装置と、上記密閉タンクの排出口近傍に配設される搬送装置と、上記搬送装置近傍に設けられる植菌装置とが備えられ、上記搬送装置によって搬送される途中の菌床培地に対して上記植菌装置による植菌が行われるようになっている植菌済菌床培地製造装置。
【請求項5】
菌床培地原料を収容して密閉しうる密閉タンクと、上記密閉タンクの外周面に沿って設けられるジャケットとを準備し、
菌床培地原料を上記密閉タンクに収容し、上記密閉タンクに蒸気を供給するとともに、上記ジャケットに蒸気を供給することにより上記菌床培地原料を加圧および加熱下で殺菌する殺菌工程と、
上記密閉タンクに空気を供給するとともに、上記ジャケットに水を供給して上記殺菌後の菌床培地原料を冷却する冷却工程とを備える菌床培地の製造方法。
【請求項6】
殺菌工程および/または冷却工程において、上記密閉タンクの内部に設けられた撹拌具によって、上記菌床培地原料が撹拌されるようになっている請求項5記載の菌床培地の製造方法。
【請求項7】
殺菌工程において、上記密閉タンクの減圧が行われた後に、上記密閉タンクに蒸気が供給されるようになっている請求項5または6記載の菌床培地の製造方法。
【請求項8】
殺菌工程において、上記密閉タンクへの蒸気の供給開始時期と、上記ジャケットへの蒸気の供給開始時期とが、互いに異なるように設定されている請求項5~7のいずれか一項に記載の菌床培地の製造方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の菌床培地の製造方法に、さらに、植菌を行う植菌工程を備えた植菌済菌床培地の製造方法であって、
上記植菌工程が、上記密閉タンクの排出口近傍に配設された搬送装置により搬送される途中の菌床培地に対し、上記搬送装置近傍に配設された植菌装置による植菌が行われるようになっている植菌済菌床培地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ類の栽培における菌床培地を製造する装置、キノコ類の植菌が行われた菌床培地(植菌済菌床培地)を製造する装置、キノコ類の菌床培地を製造する方法および植菌済菌床培地を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キノコ類の栽培は、容器(例えば、ボトルや袋等の培養容器)に菌床培地原料を充填し、オートクレーブ等の殺菌釜を用いた高圧蒸気殺菌を上記容器ごと菌床培地原料に対して行い、放冷して得られる菌床培地に対してキノコ類の種菌を植菌して行われていた。
しかし、上記容器に充填された菌床培地原料は、高圧蒸気殺菌した後、種菌を植菌できる温度の菌床培地となるまで長時間の放冷が必要であり、作業の待ち時間が長く非効率であるとの問題があった。
【0003】
このため、例えば、特許文献1では、容器に充填する前の菌床培地原料に対し、厚みを薄くした状態で直接過熱蒸気を当てることにより、加圧せずに殺菌して時間短縮を行うことが提案されている。また、特許文献2では、菌床を養生させるまでの過程を全自動化して、作業効率および生産性向上を図る装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-254341号公報
【特許文献2】特開平2-255014号公報
【特許文献3】特開平1-124326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のものは、殺菌装置と冷却装置とが別の装置で構成されており、ある程度の時間短縮を見込めるものの、全体として製造ラインが長くなるため、菌床培地に雑菌が混入し易くなるという問題がある。また、加圧下での殺菌を行わないため、殺菌装置における殺菌が不十分になる傾向もみられる。特許文献2のものは、殺菌装置と冷却装置が同じ装置で構成されており、雑菌対策が容易であるものの、ジャケットを介して間接的に菌床培地を加熱殺菌するため、大容量の菌床培地を殺菌するには長時間が必要で、その改善が求められる。一方、「密閉系の容器に収容された菌床培地に直接蒸気を当てると、キノコの菌床培地としては実用上不適切となる」という技術常識(例えば、特許文献3参照)がある。
【0006】
そこで、本発明ではこのような背景下において、キノコ類の菌床培地製造の自動化が容易であり、雑菌混入のおそれが極めて少なく、大型化しても殺菌および冷却にかかる時間の短縮が可能な菌床培地製造装置、植菌済菌床培地製造装置、菌床培地の製造方法および植菌済菌床培地の製造方法を提供することを目的とする。すなわち、本発明では、大量(例えば、2t)の菌床培地および植菌済菌床培地を短時間で一度に製造することが可能であり、一日に数回のサイクルで製造装置を作動できるため、作業効率および生産性向上が図られる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに、本発明者らはかかる事情に鑑み、装置を大型化した場合であっても、短時間で菌床培地原料の内部中心まで十分に殺菌できる方法について鋭意検討した。その結果、密閉できるタンクに菌床培地原料を収容し、その菌床培地原料に直接蒸気を当てて加圧および加熱するとともに、外部ジャケットによる加熱を行うことで、実用に供することができる菌床培地ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、「密閉系の容器に収容された菌床培地に直接蒸気を当てると、キノコの菌床培地としては実用上不適切となる」という従来の技術常識(例えば、前記特許文献3参照)を打破してなされた画期的なものである。
【0008】
本発明の要旨は、次の通りである。
[1] 菌床培地原料を収容して密閉しうる密閉タンクと、上記密閉タンクの外周面に沿って設けられるジャケットとを備え、
上記密閉タンクは、上記密閉タンクに上記菌床培地原料を投入する投入口と、上記密閉タンクから製造した菌床培地を排出する排出口と、上記密閉タンクに蒸気を供給する第1の供給配管とを備え、
上記ジャケットは、上記ジャケットに蒸気を供給する第3の供給配管と、上記ジャケットに水を供給する第4の供給配管とを備え、
上記密閉タンクに菌床培地原料を収容した状態で、上記第1の供給配管から上記密閉タンクに蒸気が供給されるとともに、上記第3の供給配管から上記ジャケットに蒸気が供給されて上記菌床培地原料が加圧および加熱下で殺菌されるようになっており、
上記殺菌後、上記第4の供給配管から上記ジャケットに水が供給され、殺菌された菌床培地原料が冷却されるようになっており、
上記密閉タンクにおいて、上記菌床培地原料に対する殺菌と冷却が行われるようになっている菌床培地製造装置。
[2] 上記密閉タンクの内部に、撹拌翼を有する撹拌具が設けられている[1]記載の菌床培地製造装置。
[3] 上記密閉タンクが、上記密閉タンクを減圧する減圧配管を備えている[1]または[2]記載の菌床培地製造装置。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の菌床培地製造装置と、上記密閉タンクの排出口近傍に配設される搬送装置と、上記搬送装置近傍に設けられる植菌装置とが備えられ、上記搬送装置によって搬送される途中の菌床培地に対して上記植菌装置による植菌が行われるようになっている植菌済菌床培地製造装置。
[5] 菌床培地原料を収容して密閉しうる密閉タンクと、上記密閉タンクの外周面に沿って設けられるジャケットとを準備し、
菌床培地原料を上記密閉タンクに収容し、上記密閉タンクに蒸気を供給するとともに、上記ジャケットに蒸気を供給することにより上記菌床培地原料を加圧および加熱下で殺菌する殺菌工程と、
上記密閉タンクに空気を供給するとともに、上記ジャケットに水を供給して上記殺菌後の菌床培地原料を冷却する冷却工程とを備える菌床培地の製造方法。
[6] 殺菌工程および/または冷却工程において、上記密閉タンクの内部に設けられた撹拌具によって、上記菌床培地原料が撹拌されるようになっている[5]記載の菌床培地の製造方法。
[7] 殺菌工程において、上記密閉タンクの減圧が行われた後に、上記密閉タンクに蒸気が供給されるようになっている[5]または[6]記載の菌床培地の製造方法。
[8] 殺菌工程において、上記密閉タンクへの蒸気の供給開始時期と、上記ジャケットへの蒸気の供給開始時期とが、互いに異なるように設定されている[5]~[7]のいずれかに記載の菌床培地の製造方法。
[9] [5]~[8]のいずれかに記載の菌床培地の製造方法に、さらに、植菌を行う植菌工程を備えた植菌済菌床培地の製造方法であって、
上記植菌工程が、上記密閉タンクの排出口近傍に配設された搬送装置により搬送される途中の菌床培地に対し、上記搬送装置近傍に配設された植菌装置による植菌が行われるようになっている植菌済菌床培地の製造方法。
【0009】
なお、本発明において、「Xおよび/またはY(X,Yは任意の構成)」とは、XおよびYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、XおよびY、の3通りを意味するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の菌床培地製造装置は、菌床培地製造における自動化を図るものであり、製造装置を大型化して一度に大量の菌床培地原料の殺菌を短時間で行うことができる。また、殺菌と冷却を同一装置で行うため、これらを別の装置で行うものに比べて雑菌混入のおそれが低減されるとともに、省スペース化が図られている。そして、本発明の植菌済菌床培地製造装置は、本発明の菌床培地製造装置を用いているため、同様に、大量の植菌済菌床培地を短時間で製造することができる。また、搬送中の菌床培地に植菌するため、菌床培地原料の撹拌による種菌のダメージが少なくなり、菌糸の生育状態に悪影響を与えにくい。
【0011】
本発明の菌床培地の製造方法は、菌床培地を自動的に製造するものであり、一度に大量の菌床培地の殺菌および冷却を短時間で行うことができ、菌床培地製造の生産性を高めることができる。また、本発明の植菌済菌床培地の製造方法は、植菌済菌床培地製造の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】上記実施の形態に用いる密閉タンクおよびジャケットの概要を示す説明図である。
【
図3】上記実施の形態の運転スケジュールの一例を示すグラフ図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施例の密閉タンクの温度上昇の経過を表したグラフ図である。
【
図6】本発明の比較例の密閉タンクの温度上昇の経過を表したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明の菌床培地製造装置は、キノコ類を栽培するに際して用いられる菌床培地を製造するものである。また、本発明の植菌済菌床培地製造装置は、上記菌床培地製造装置によって製造された菌床培地にキノコ類の種菌を植菌し、植菌済菌床培地を得るものである。上記キノコ類としては、例えば、シイタケ、マッシュルーム、エノキダケ、シメジ、マイタケ、ヒラタケ等があげられる。
栽培瓶等を用いてキノコ類を栽培するには、一般に、まず、おが屑にフスマ、米糠、コーンコブ等の栄養素を加えた菌床培地原料を上記栽培瓶等に充填し、加熱殺菌を行って得られた菌床培地にキノコ類の種菌を植菌する。植菌された菌床培地(植菌済菌床培地)は、雑菌等が侵入しないように密閉され、培養室で菌糸が菌床培地内に蔓延した状態の菌床となるまで培養される。得られた菌床は、発生室で上記菌床から生じた子実体(キノコ類)を収穫できる大きさになるまで栽培される。本発明における菌床培地の培養およびキノコ類の栽培も概ねこの流れに従って行われる。
【0015】
本発明の菌床培地製造装置および植菌済菌床培地製造装置の一実施の形態を
図1に示す。すなわち、この植菌済菌床培地製造装置には、菌床培地製造装置によって得られた菌床培地に対して連続的に植菌を行う植菌装置が、上記菌床培地製造装置に一体的に付設されている。
【0016】
両者の構成を簡単に説明すると、まず、上記菌床培地製造装置には、菌床培地原料15aを収容して密閉しうる密閉タンク1と、上記密閉タンクの外周面に沿って設けられるジャケット2とが備えられている。
また、上記植菌済菌床培地製造装置には、上記菌床培地製造装置と、菌床培地15をつぎの栽培瓶等へ充填する工程(充填装置10)まで搬送する搬送装置8と、上記搬送装置8近傍に配設された植菌装置9とが備えられている。
【0017】
なお、図において、3は内部を無菌状態で保つクリーンルーム、4は菌床培地原料15aを上記密閉タンク1の投入口5まで搬送するコンベアである。6は上記密閉タンク1を保持する保持脚、7は製造された菌床培地15を排出する排出口、10は菌床培地15を栽培瓶等の容器に充填する充填装置、11は菌床培地原料15aを運搬するホイールローダである。
以下、菌床培地製造装置および植菌済菌床培地製造装置の詳細を順に説明する。
【0018】
<菌床培地製造装置>
上記密閉タンク1は、大量(例えば、2t)の菌床培地原料15aを収容し、高圧蒸気殺菌が可能な第一種圧力容器であり、上部に菌床培地原料15aが投入される投入口5と、下部に殺菌および冷却が終了して得られる菌床培地15が排出される排出口7が設けられている。上記密閉タンク1の内周面は鏡面加工されており、その内部には、収容した菌床培地原料15aを撹拌するための、軸心を中心に回転する回転軸12と、上記回転軸12に取り付けられた撹拌翼13とを有する撹拌具14が備えられている。
【0019】
より詳しくは、
図2にその構成を模式的に示すように、上記密閉タンク1には、蒸気の導入と圧縮空気(クリーンエア)の導入とが切り替え可能な供給配管H1が備えられており、上記密閉タンク1へ蒸気または圧縮空気(クリーンエア)を導入することができるようになっている。上記供給配管H1は、蒸気を導入する場合は第1の供給配管と称されるものであり、圧縮空気(クリーンエア)を導入する場合は第2の供給配管と称されるものである。そして、上記密閉タンク1には、菌床培地原料15aに加水するための加水ノズルS1a、S1bと、上記密閉タンク1内の洗浄に用いた水を排水するための排水口S2a、S2bが備えられている。
図2において、H2は上記密閉タンク1へ圧縮空気(クリーンエア)を導入した際の余剰空気を排出することのできる排気口、H3は昇温時の釜内空気の排気弁(自動空気抜き弁)、H4は上記密閉タンク1の空気を真空引きするための減圧配管、H5は上記密閉タンク1の圧力を調整するための安全弁(過圧防止電磁弁)である。
【0020】
また、上記密閉タンク1には、上記密閉タンク1の圧力を測定する圧力計M1と、上記密閉タンク1の温度を測定する温度計M2とが備えられており、上記密閉タンク1内の圧力および温度の情報と、予め設定した圧力および温度の情報と照らして上記第1の供給配管H1からの蒸気の供給量を制御する制御システムによって、上記密閉タンク1の圧力および温度が調整されている。
【0021】
なお、本発明における制御システムには、蒸気の供給量を制御する一連の機器とこれらの制御プログラムとが含まれる。具体的には、例えば、上記圧力計M1、温度計M2と、調節器(例えば、デジタル調節計、PID制御、ON/OFF制御)を備えており、測定された圧力および温度と目標圧力および温度とを比較し、その偏差に応じて上記第1の供給配管H1の供給弁(図示せず)を開閉するものがあげられる。
【0022】
上記密閉タンク1の外周面に沿って設けられるジャケット2は、上記密閉タンク1を外側から加熱または冷却するためのものであり、
図1に示すように、上記密閉タンク1の外側に上記密閉タンク1に密着させて配置されている。そして、
図2に示すように、上記ジャケット2には、蒸気の導入と水の排出とを切り替えて対応可能な第3の供給配管J1a,J2a,J3aと、水の導入と蒸気の排出とを切り替えて対応可能な第4の供給配管J1b,J2b,J3bと、蒸気ドレーンの排出を行うドレーン排出口J1c、J2c、J3cとが備えられている。なお、
図2においては、ジャケット2に該当する部分に斜線を付し、密閉タンク1との区別を明確に示している。
【0023】
上記実施の形態の装置を用い、例えば、つぎのようにして、菌床培地原料15aの殺菌と冷却を行うことができる。すなわち、
図1に示すように、まず、上記実施の形態の装置を準備し、菌床培地原料15aをコンベア4で上記密閉タンク1の投入口5まで搬送し、上記投入口5から密閉タンク1に投入する。そして、所定量の菌床培地原料15aを収容後、上記密閉タンク1を密閉する。
【0024】
(殺菌工程)
ついで、第3の供給配管J1a,J2a,J3aから蒸気をジャケット2に供給して、上記密閉タンク1を外側から加熱するとともに、上記第3の供給配管J1a,J2a,J3aに付着している余分な水分を除去する。これは、ジャケット2の内壁面や第3の供給配管J1a,J2a,J3aの内周面での結露を防止するために行うもので、繰り返し運転を行う場合や外気温が高い場合等によっては必ずしも行わなくてもよい。このとき、上記密閉タンク1内の空気を、減圧配管H4を用いて真空引きすると、上記密閉タンク1内の昇温に掛かる時間を短縮することができる。
【0025】
上記密閉タンク1の温度が所定温度に到達したら、上記第1の供給配管H1から上記密閉タンク1に蒸気の供給を開始するとともに、上記第3の供給配管J1a,J2a,J3aから上記ジャケット2には引き続き蒸気を供給する。また、撹拌具14の撹拌翼13を回転させて上記菌床培地原料15aの撹拌を開始する。そして、上記温度計M2によって測定される密閉タンク1内の温度が121℃に達したら、その状態を、通常、20分間以上保持して、上記菌床培地原料15aを撹拌しながら加圧および加熱による殺菌を行う。その際、上記第1の供給配管H1から上記密閉タンク1に供給される蒸気の量を、後述するように予め設定することにより、水分含量が所定の範囲内に調整された菌床培地15を得ることができる。また、上記圧力計M1によって上記密閉タンク1内の圧力を定期的に測定し、圧力が高くなり過ぎないように排気弁H3(自動空気抜き弁)等を用いて上記密閉タンク1の圧力を調整する。
【0026】
上記密閉タンク1に供給する蒸気量は、加圧量(加圧力、加圧時間)、加熱量(加熱温度、加熱時間)、収容前の菌床培地原料15aの水分含量(水分率)、得られる菌床培地15として設定された水分含量 (水分率)等の情報に基づいて、その流量および時間を上記制御プログラムで制御することにより、キノコ類の菌床培地15としてより適するものとすることができる。また、密閉タンク1への蒸気の供給は、昇温し過ぎないように、設定温度(例えば121℃)と、密閉タンク1の温度とを対比し、これらの偏差に基づいて蒸気供給量をフィードバックしながら調整することが好ましい。
【0027】
本実施の形態では、菌床培地原料15aの混合について、まず、おが屑と栄養剤を攪拌し、これらがある程度均一的に混合された後に、加水ノズルS1a,S1bを用いて水を加えてさらに撹拌している。このとき、得られる菌床培地15における目標とする水分含量(含水率)を設定し、菌床培地原料15aに元から含まれる水分(含水率)を測定して加水ノズルS1a,S1bからの加水量を決定することが好ましく、上記決定に際し、密閉タンク1に供給される蒸気に伴って増加する水分量を上記加水量から差し引いて設定することが好ましい。
【0028】
本実施の形態では、密閉タンク1の容量が7,000Lであり、その最大仕込み容量が60%であることから、最大4,200Lの菌床培地原料15aを収容することができる。また、上記密閉タンク1の常用仕込み容量を50%とすると、3,500Lの菌床培地原料15aを収容することができる。なお、本実施の形態では、比重が1.6である菌床培地原料15aを用いているため、上記密閉タンク1に収容される菌床培地原料15aの重量は、最大仕込み容量4,200Lの場合2,625kgとなり、常用仕込み容量3,500Lの場合2,188kgとなり、いずれも約2tとなる。
【0029】
一方、密閉タンク1の容量に対してその機械能力により適正に撹拌できる範囲が定まっており、また、製造の都度、菌床培地原料15aの量を変更させることは、工程条件の変更等の設定が煩雑で効率的でないため、菌床培地原料15aの量は、概ね密閉タンク1の容量の1/3~4/5の範囲に設定される。なお、密閉タンク1が縦型であると、横型であるものに対し、より多くの菌床培地原料15aを収容できる傾向がみられる。すなわち、通常、密閉タンク1が横型の場合には、密閉タンク1の容量の50~60体積%が好ましい範囲であるに対し、縦型の場合には、70%~80容量%が好ましい範囲となる。
【0030】
上記菌床培地原料15aを撹拌する速度は、特に限定されるものではないが、時間短縮の点から、おが屑や栄養剤を含有する菌床培地原料15aの撹拌はできるだけ短時間に均一化する必要がある。このため、撹拌具14における撹拌翼13の回転数を3~20回転/分とすることが好ましく、4~12回転/分とすることがより好ましい。
一方、殺菌工程および冷却工程では、通常、全工程で撹拌が必要であり、長時間の撹拌による菌床培地原料15aの練り過ぎによる物性変化を避けるため、撹拌翼13の回転数は低速または間欠運転で行うことが好ましく、とりわけ、撹拌具14における撹拌翼13の回転数を1~10回転/分とすることが好ましく、1~5回転/分とすることがより好ましい。
【0031】
(冷却工程)
上記菌床培地原料15aの殺菌完了後、上記第1の供給配管H1および上記第3の供給配管J1a,J2a,J3aからの蒸気の供給をいずれも停止するとともに、上記第4の供給配管J1b,J2b,J3bから上記ジャケット2に水を供給し、上記菌床培地原料15aを撹拌しながら冷却して、菌床培地15を製造する。上記冷却は、後述する植菌工程において菌床培地に植菌される種菌がダメージを受けない温度まで下げるために行うものであり、その温度は、通常、20℃前後に設定される。冷却工程において、第2の供給配管H1から上記密閉タンク1に圧縮空気(クリーンエア)を供給すると、冷却工程にかかる時間を短縮できる傾向がみられるが、必ずしもクリーンエアの供給を行わなくてもよい。なお、密閉タンク1の圧力が高い状態で上記第2の供給配管H1から上記密閉タンク1に圧縮空気(クリーンエア)を供給すると、蒸気が逆流してヘパフィルターが損傷するため、クリーンエアの供給を行う場合には、密閉タンク1の圧力が十分に下がってから圧縮空気(クリーンエア)を第2の供給配管H1から供給する。
【0032】
なお、ジャケット2に供給する水は、例えば、水道水や井戸水等を用いることができるが、菌床培地15として設定された温度(例えば20℃)にさらに早く到達させることができる点から、密閉タンク1の温度と上記供給される水の温度との差が30℃以下になった際には、水道水や井戸水等と、10℃近傍まで冷却された冷却水とを混合して用いることが好ましく、より好ましくはすべて冷却水に切り替えて用いることである。
【0033】
この実施の形態の菌床培地製造装置によれば、菌床培地製造における自動化を図ることができ、しかも、密閉タンク1に対する蒸気の供給と、ジャケット2に対する蒸気の供給を併用するため、製造装置を大型化し、大量の菌床培地原料15aに対する殺菌を短時間で行うことができる。このため、例えば、
図3に示すように、菌床培地原料15aの混合、殺菌および冷却と、得られた菌床培地15に対する植菌(種菌接種および栽培容器への充填)とに掛かる時間を含めた一連のサイクルを短時間で行うことができる。すなわち、混合、殺菌、冷却、植菌、充填を1サイクルとしたときに、従来の装置では、一日に1サイクル程度の運転であったところ、本実施の形態の菌床培地製造装置と植菌装置との組み合わせである本実施の形態の植菌済菌床培地製造装置によれば、一日に4サイクルの運転が可能となっている。
また、殺菌と冷却をいずれも同じ密閉タンク1で行うため、これらを別の装置で行うものに比べて搬送時の雑菌混入のおそれがなくなるとともに、省スペース化を実現できる。さらに、殺菌工程および冷却工程において、撹拌具14を用いて上記菌床培地原料15aを撹拌しているため、菌床培地原料15aの隅々まで殺菌および冷却を迅速に行うことができ、殺菌および冷却の質の向上と、殺菌および冷却に掛かる時間の短縮が図られている。
【0034】
そして、上記実施の形態の菌床培地製造装置を用いた菌床培地の製造方法によれば、密閉タンク1に対する蒸気の供給と、ジャケット2に対する蒸気の供給のコントロール等を行うという簡単な制御を行うだけで、良好な菌床培地を連続的に供給できる。
【0035】
なお、この実施の形態の菌床培地製造装置では、密閉タンク1として、2tの菌床培地原料15aを収容可能なものを用いているが、その大きさは特に限定されるものではない。
ただし、密閉タンク1の容量が小さすぎると、収容した菌床培地原料15aに対する蒸気による加圧および加熱と、外部ジャケットによる加熱とのバランスを保つことが困難になり、得られる菌床培地15の水分含量の制御を行うことが困難になる傾向がある。すなわち、高圧蒸気殺菌を行う場合には、温度と時間により菌の致死値(F値)が決まるが、菌床培地原料15aのF値を十分な殺菌が完了するとされる15~20に設定すると、121℃の温度を15~20分間維持する必要がある(昇温・降温時のF値は考慮しない場合)。なお、上記F値は、121℃で1分間の殺菌を行った場合にF値=1と定義されるものであり、密閉タンク1内の昇温のバラツキを考慮すると121℃の温度を20~30分間維持することが好ましい。
【0036】
上記殺菌においては、121℃の温度を維持する間、密閉タンク1内に蒸気が断続的に供給されるため、蒸気によって菌床培地原料15aに所定量の水が加えられることになる。よって、密閉タンク1内に収容される菌床培地原料15aの量が少なすぎると、蒸気の供給による加水量が多くなりすぎ、得られる菌床培地15の水分含量の制御が困難になる傾向がみられる。このため、密閉タンク1の容量は0.2t以上の菌床培地原料15aを収容できる大きさであることが好ましく、0.5~3tの菌床培地原料15aを収容できる大きさの範囲にあることがより好ましい。密閉タンク1の容量が上記範囲内に設定されていると、圧力の制御が容易であり、しかも菌床培地原料15a全体を殺菌および冷却するのに掛かる時間をより少なくすることができ、作業効率に優れる傾向がみられる。また、冷却においても、相対的にジャケット部分に接する面積が増加し、冷却するのに掛かる時間をより短くできる傾向がみられる。さらに、密閉タンク1の陸上輸送も容易であり、装置の設置がしやすいという利点も有する。
【0037】
なお、本実施の形態において、
図1に示す菌床培地製造装置では、密閉タンク1として横型(撹拌具14の回転軸12が水平方向に延びる)のものを用いているが、
図4に示すように、底面を漏斗状にすぼめた縦型(撹拌具14の回転軸12が垂直方向に延びる)のものを用いてもよい。密閉タンク1として縦型のものを用いると、殺菌済みの菌床培地15の取り出しがスムーズになり、より製造の効率化を図ることができる。上記菌床培地15の取り出しに際して、密閉タンク1の排出口7近傍に排出スクリューを設置し、より効率的に排出を行ってもよい。なお、
図4において、密閉タンク1が縦型となる以外、他の構成は
図1と同じであり、
図1と同一部分には同一番号を付してその説明を省略する。
【0038】
また、
図1および
図4の菌床培地製造装置では、ジャケット2が密閉タンク1の外周面全面を覆う形状で設けられているが、上記密閉タンク1の加熱および冷却を行うことができれば、必ずしも全面を覆う形状でなくてもよく、例えば、ジャケット2は、上記密閉タンク1内の外周面に互いに間隔を空けて巻き回された配管であってもよい。
【0039】
そして、
図1および
図4の菌床培地製造装置では、密閉タンク1の内周面が鏡面加工に仕上げられているが、菌床培地原料15aに対する殺菌および冷却が均一的に行われるものであれば、必ずしも鏡面加工されていなくてもよい。ただし、密閉タンク1の内周面が鏡面加工されていると、菌床培地原料15aが密閉タンク1の内周面に付着しにくくなり、菌床培地原料15aの殺菌および冷却の均一化をより図ることができる。
【0040】
また、密閉タンク1の内部には、撹拌具14が設けられているが、菌床培地原料15aの内訳(各成分比)や収容する量によっては、菌床培地原料15aを撹拌しなくても均一的な殺菌が可能であるため、必ずしも設けなくてもよい。しかし、撹拌具14を設けると、均一な状態により早く到達させることができる。また、撹拌具14を設ける場合でも、菌床培地原料15aを撹拌できるものであれば、その形状は
図1および
図4に示されるものに限られない。しかし、菌床培地原料15aが付着しにくく、撹拌時に菌床培地原料15aが滞留しにくい形状であることが好ましい。撹拌具14は、通常、撹拌翼13、撹拌軸(撹拌シャフト)、軸封装置、バッフル(邪魔板・静翼)、モーター、減速・変速機等を備えている。
【0041】
上記撹拌翼13は、その形状や面積はどのようなものであってもよく、例えば、リボンタイプ、ブレードタイプ、パドルタイプ、アンカータイプ、プロペラタイプ等があげられる。
【0042】
上記撹拌軸(撹拌シャフト)は、通常、一つの撹拌具14につき1本を備えるものであるが、密閉タンク1が縦型の場合には、1本ではなく複数の分岐するものであってもよい。複数の分岐を有するものであると、中心軸がないため菌床培地15(菌床培地原料15a)の付着が少なくて済み、菌床培地15(菌床培地原料15a)の動きが滑らかでより確実な撹拌を行うことができる。
【0043】
上記軸封装置は、撹拌具14を密閉タンク1内での高圧蒸気殺菌に耐えうるものとするために、漏れを防止する重要な装置である。
すなわち、密閉タンク1が横型の場合には、撹拌軸が横向き(水平方向に延びる向き)であるため、軸封装置は上記密閉タンク1の両端の2個所必要である。また、軸封部分が菌床培地15(菌床培地原料15a)と直接接するとともに、軸受において下方に自重がかかるため、密封するためには、レベルの高いメカニカルシールが必要である。
一方、密閉タンク1が縦型の場合には、撹拌軸が縦向き(垂直方向に延びる向き)であるため、軸封装置は上部の1個所のみで(下部は必要無し)よい。また、軸封部分は菌床培地15(菌床培地原料15a)と直接接しておらず、しかも軸受に均等に力が掛かるので、密封は比較的保ち易い。よって、この場合には、高価なメカニカルシールまでは求められず、安価なメカニカルシール(シングル、ドライシール等)やグランドパッキンを使用することもできる。
【0044】
バッフル(邪魔板・静翼)は、その形状や面積はどのようなものであってもよいが、密閉タンク1が縦型の場合には、共廻りを防ぐためのバッフル(邪魔板・静翼)を設置し、菌床培地15(菌床培地原料15a)の流れを上下方向にも向かわせることが好ましい。
これに対し、密閉タンク1が横型の場合には、密閉タンク1上部に空間を設けて、菌床培地15(菌床培地原料15a)が自重で落ちるようにすることが好ましい。
【0045】
撹拌具14を設ける場合に、密閉タンク1と撹拌翼13の隙間(クリアランス)は、特に限定されるものではないが、上記撹拌翼13がリボンタイプである場合には、例えば、3~15mmであることが好ましく、5~7mmであることがより好ましい。クリアランスが上記範囲内にあると、より短時間で均一な混合ができる傾向がみられる。
また、撹拌翼13の最大羽根径は、上記密閉タンク1の直径の80%以上に設定することが好ましく、とりわけ、上記撹拌翼13がリボンタイプである場合には、撹拌翼13の最大羽根径は、上記密閉タンク1の直径の90%以上に設定することが好ましい。撹拌翼13の最大羽根径が上記範囲内にあると、より短時間で均一な混合ができる傾向がみられる。
【0046】
なお、上記撹拌翼13のタイプによっては、その最大羽根径を、上記密閉タンク1の直径と同じに設定しても、上記密閉タンク1の内壁の全てをカバーしない場合があり得る。その場合には、例えば、撹拌翼13に樹脂等で形成されたスクレーパーを取り付けたり、撹拌翼13とは別のスクレーパー翼を取り付けたりすることによって、菌床培地15(菌床培地原料15a)の付着を防止することができる。
【0047】
さらに、
図1および
図4の菌床培地製造装置には、
図2に示すように、減圧配管H4が備えられているが、一日当たりの運転サイクル数が少ない場合(例えば3サイクル以下)には、必ずしも備えなくてもよい。ただし、減圧配管H4を備えたものであると、真空ポンプ等と接続させて密閉タンク1を減圧にした後に蒸気を供給することができ、密閉タンク1内の空気を高熱の蒸気により早く置き換えることができるため、殺菌を完了させるまでの時間をさらに短くすることができる。また、菌床培地原料15aの内訳(各成分比)によっては、密閉タンク1内の空気の排出(減圧)と蒸気の供給とを繰り返し行ってもよい。さらに、菌床培地原料15aの冷却工程において、密閉タンク1内の高熱蒸気を強制的に排出させることにより、より迅速な冷却を行うこともできる。
【0048】
そして、本実施の形態では、
図2に示すように、上記密閉タンク1に、蒸気の導入と圧縮空気(クリーンエア)の導入とが切り替え可能な供給配管H1が備えられているが、蒸気を導入する第1の供給配管と圧縮空気(クリーンエア)を導入する第2の供給配管とのように、蒸気の導入と圧縮空気(クリーンエア)の導入とで別々の供給配管を設けるようにしてもよいし、圧縮空気(クリーンエア)を導入する第2の供給配管を設けなくてもよい。
【0049】
<植菌済菌床培地製造装置>
本発明の実施の形態である植菌済菌床培地製造装置は、すでに述べたとおり、上記菌床培地製造装置の排出口7側に付設された、搬送装置8と植菌装置9とを備えている。
【0050】
上記密閉タンク1(
図1に戻る)の排出口7近傍に配設される搬送装置8は、例えば、コンベア等があげられ、上記排出口7から排出された菌床培地15を一端側から他端側へ送るものであり、つぎの工程(この実施の形態では、充填装置10)に菌床培地15を搬送するようになっている。
【0051】
上記搬送装置8近傍に設けられる植菌装置9は、例えば、種菌の接種口と種菌を連続的にフィード可能な供給装置を備えており、上記搬送装置8によって搬送される途中の(例えば、コンベア等の上の)菌床培地15に対して、キノコ等の種菌を連続的に接種(植菌)することができる。また、搬送過程で種菌を投入する他の方法としては、上記菌床培地製造装置の排出口7の直下にホッパーを設け、そこに集積した菌床培地6と種菌とを混合する装置を設けることがあげられ、その後搬送装置8で所定の位置に搬送することも可能である。上記植菌装置9としては、特に限定されるものではなく、従来、植菌に用いるものであればよい。植菌が行われた菌床培地は、上記充填装置10によって瓶詰めや袋詰め等されて取り出されるか、他の工程へ送り出される。なお、搬送装置8や植菌装置9等の装置を備えた植菌済菌床培地製造装置においても、構成するそれぞれの装置が、取り外し可能部分は別途オートクレーブ殺菌またはアルコール殺菌され、取り外しが不可能な装置本体は流通蒸気等で殺菌されたクリーンな状態(雑菌対策を実施した状態)で用いられることは言うまでもない。
【0052】
この実施の形態の植菌済菌床培地製造装置によれば、植菌装置9が上記菌床培地製造装置とは別に設けられているため、菌床培地15が収容された密閉タンク1に種菌を投入して植菌をした場合に比べて、菌床培地15の撹拌によって種菌がダメージを受けることがなく、栽培におけるキノコ類の生育状態がより良好なものとなり、キノコ類の収穫量も増加する傾向がみられる。
【0053】
また、植菌時の菌床培地15の形状を工夫する(例えば、菌床培地15の厚みを薄くする)ことが可能になり、菌床培地15に種菌をまんべんなく分散させることが容易となるため、菌床培地15における菌糸の蔓延が促進され、より早く菌糸が蔓延した菌床培地(菌床)を得ることができ、ひいては菌床を栽培に供したキノコ類の収穫時期を早めることができる。
【0054】
そして、この実施の形態の植菌済菌床培地の製造方法によれば、植菌までを連続的に行うことができ、次の工程に連続的に供給することができる。
【実施例0055】
<菌床からの収穫量>
まず、下記の装置または方法によって得られた菌床培地にシイタケの種菌を植菌して、シイタケの栽培を行い、その収穫量を測定した。
【0056】
[実施例1および比較例1]
実施例1として、上記実施の形態で説明した菌床培地製造装置により製造された菌床培地に対してシイタケ菌(晩生タイプ)の植菌を行ったもの(上記実施の形態で説明した植菌済菌床培地製造装置により得られた植菌済菌床培地2.5kgを培養袋に充填したもの)を用い、比較例1として、従来、汎用されている方法により得られたもの(培養袋に菌床培地原料2.5kgを充填し、オートクレーブ等の殺菌釜を用いた高圧蒸気殺菌を上記容器ごと菌床培地原料に対して行い、放冷して得られる菌床培地に対してシイタケ菌を植菌したもの)を用いた。
そして、上記実施例1および比較例1を培養室(室温22℃、湿度70%)で下記の表1に示す日数培養し、所定日数経過した後に栽培室(室温15℃、湿度90%)に移動させて栽培を行った。
上記栽培は、培養袋から取り出した菌床を、上記栽培室内に配設された栽培棚に載置して行った。実施例1および比較例1の収穫量は、栽培室に移動させた日を含む栽培開始から15日間に収穫されたシイタケの合計重量である。なお、上記収穫量(合計重量)は、実施例1および比較例1ともに各10菌床を栽培し、それらから1菌床あたりの平均収穫量(平均合計重量)を算出し、その値を採用した。算出した結果を下記の表1に示す。
【0057】
【0058】
表1の結果から、実施例1のものは、培養日数70日でシイタケが収穫できるようになり、その後培養日数を130日まで延ばしても増加量は少なかった。
これに対し、比較例1のものは、培養日数80日でシイタケが少し収穫でき、培養日数を延ばすと徐々に収穫量は増加したが、培養日数130日でも実施例1には及ばなかった。
すなわち、比較例1で130日も培養した菌床からの収穫量(334g/培養袋)に対し、実施例1では70日の培養で得た菌床でこれを超える収穫量(404g/培養袋)を達成していることから、実施例1は栽培に掛かる時間が大幅に短縮され、極めて優れていることが示された。
【0059】
<密閉タンクの温度>
つぎに、以下の各菌床培地製造装置を用いて蒸気または水の供給を行った場合の密閉タンク内の温度を経時的に測定し、その温度上昇の経過を観察した。
【0060】
[実施例2]
上記実施の形態の菌床培地製造装置を用い、以下の条件で蒸気または水の供給を行った場合の密閉タンク内の温度を経時的に測定し、その温度上昇の経過を示したグラフ図に表し、
図5に示す。
すなわち、スタートから(I)までは、ジャケットのみに蒸気を供給し、密閉タンク1に対する予熱と供給配管内の残留水の除去を行った。
ついで、密閉タンク1内の温度が100℃になるまで、密閉タンクとジャケットの両方に蒸気を供給し、両方から密閉タンク1を加熱して昇温時間の短縮を図った[(I)~(II)の区間]。
そして、ジャケットのみに蒸気を供給して、密閉タンク1内を105℃に保ちながら、排気口H2から密閉タンク1内の空気を排出した[(II)~(III)の区間]。
その後、排気弁H3を閉じて、密閉タンク1内の温度が121℃になるまで密閉タンクとジャケットの両方に蒸気を供給し、その温度を所定時間保ち、所定のF値を達成した[(III)~(IV)の区間]。
密閉タンクとジャケットの両方の蒸気の供給を停止するとともに、第4の供給配管からジャケットに水を供給して密閉タンク1内の温度を低下させた[(IV)~(V)の区間]。
【0061】
[比較例2]
上記密閉タンクに蒸気を供給する第1の供給配管を備えない以外は実施例2で用いた装置と同じ装置を用い、以下の条件で蒸気または水の供給を行った場合の密閉タンク内の温度を経時的に測定し、その温度上昇の程度を示したグラフ図を
図6に示す。
すなわち、スタートからジャケットのみに蒸気を供給し続け、密閉タンク1内の温度が121℃になるように設定したが、所定時間(経過時間V)が経過しても設定した温度に到達しなかった。
【0062】
図5に示されるとおり、実施例2のものは、十分な殺菌および冷却を短時間で行うことができることがわかった。しかし、
図6に示されるとおり、比較例2のものは、そもそも十分な殺菌を行うことができなかった。
本発明のキノコ類の菌床培地製造装置および植菌済菌床培地製造装置は、菌床培地製造における自動化が容易であり、雑菌混入のおそれが極めて少なく、菌床培地、植菌済菌床培地を短時間で大量に製造することができるため、キノコ類の大量生産に好適である。