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特開2023-56959固体プロトン伝導体及びその製造方法、燃料電池用電解質膜並びに燃料電池
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  • 特開-固体プロトン伝導体及びその製造方法、燃料電池用電解質膜並びに燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056959
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】固体プロトン伝導体及びその製造方法、燃料電池用電解質膜並びに燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1048 20160101AFI20230413BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230413BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230413BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20230413BHJP
   H01M 8/1051 20160101ALI20230413BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230413BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20230413BHJP
【FI】
H01M8/1048
H01M4/86 B
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M8/1051
H01M8/10
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166482
(22)【出願日】2021-10-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】グエン フ フイ フク
(72)【発明者】
【氏名】河村 剛
(72)【発明者】
【氏名】西田 仁
(72)【発明者】
【氏名】前川 啓一郎
【テーマコード(参考)】
5G301
5H018
5H029
5H126
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA23
5G301CA25
5G301CA28
5G301CD01
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB11
5H018EE11
5H018EE12
5H018EE16
5H018HH06
5H018HH08
5H029AJ06
5H029AM11
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG11
5H126GG12
5H126GG17
5H126HH06
5H126JJ06
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】無加湿条件下、100℃~250℃の中温領域において良好なプロトン伝導性を有する固体プロトン伝導体及びその製造方法、該固体プロトン伝導体を含む燃料電池用電解質膜並びに燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の固体プロトン伝導体1は、無機酸化物からなる粒子部2と、該粒子部2の少なくとも一部を被覆し、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩を含む被覆部3とを備える複合材料を含有する。無機酸化物は、好ましくは、SiO、TiO、SnO、ZrO、MnO、WO及びAlから選ばれた少なくとも1種である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸化物からなる粒子部と、該粒子部の少なくとも一部を被覆し、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩を含む被覆部とを備える複合材料を含有することを特徴とする固体プロトン伝導体。
【請求項2】
前記無機酸化物がSiO、TiO、SnO、ZrO、MnO、WO及びAlから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の固体プロトン伝導体。
【請求項3】
前記複素環含有化合物の複素環を構成する窒素原子の数が1又は2である請求項1又は2に記載の固体プロトン伝導体。
【請求項4】
前記塩が、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、炭酸塩、スルホン酸塩及びトリフルオロメタンスルホン酸塩から選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体。
【請求項5】
下記式(1)を満たす請求項1乃至4のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体。
(logX130 - logX110)/(logY130 - logY110)<0.9 (1)
(式中、X130及びX110は、それぞれ、前記固体プロトン伝導体の130℃及び110℃における導電率(S/cm)であり、Y130及びY110は、それぞれ、前記塩の130℃及び110℃における導電率(S/cm)である。)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体を製造する方法であって、
無機酸化物からなる粒子と、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩からなる粉体とを、メカニカルミリングに供する工程を備えることを特徴とする、固体プロトン伝導体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体を含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体を含むことを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項9】
請求項7に記載の燃料電池用電解質膜を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項8に記載の燃料電池用電極を備えることを特徴とする燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中温無加湿の条件下において良好なプロトン伝導性を有する固体プロトン伝導体及びその製造方法、該固体プロトン伝導体を含む燃料電池用電解質膜並びに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンな発電システムとして燃料電池が広く知られており、その一種として、フッ素系ポリマーの高分子固体電解質を用い、加湿条件下、80℃程度の温度で作動させる燃料電池が実用化されている。更に、近年においては、固体電解質と、液体のリン酸とを含む電解質層を備え、無加湿条件下、100℃~250℃の中温領域において動作する中温無加湿型燃料電池(Medium Temperature Dry Fuel Cell、MTDFC)の実現が期待されている。
MTDFCは、前述のフッ素系ポリマーの高分子固体電解質を用いる燃料電池に比べ、(1)プロトン伝導のための水分が不要であるので、加湿器を不要とでき、装置の小型化を図ることができる、(2)100℃以上での運転により、触媒の耐CO特性を向上することができる、つまり、触媒被毒を大幅に軽減できるので、Pt使用量の低減、及び改質ガスシステムの簡略化を図ることができる、(3)作動温度の上昇により、冷却システムの簡素化及び排熱利用による総合エネルギー利用効率の向上を図ることができる、といった利点を備えている。
【0003】
このようなMTDFCに用いられる電解質膜として、特許文献1には、ポリベンズイミダゾール(PBI)を基本骨格とした電解質膜が開示されている。この電解質膜は、PBIと無機酸とアデニル酸とを含有しており、リン酸をドープすることで、高いプロトン伝導性を発現させている。
【0004】
一方で、MTDFCの電解質に用いるプロトン伝導体として、イオン液体が提案されている。イオン液体は、イミダゾールなどのプロトン伝導性を備える塩基性固体に、酸性物質を加えることにより生成される常温液体の物質である。一般にイオン液体は、塩基性固体単体よりも熱安定性が良好であり、イオン伝導度も塩基性固体単体と比較して著しく良好である。例えば、イミダゾールは90℃以上で10-3Scm-1のプロトン伝導性を有するが、イミダゾールにビストリフルオロメタンスルフォニルイミド(HTFSI)を混合したイオン液体(イミダゾール/HTFSI=9/1)では、120℃で10-1Scm-1に到達することが報告されている(非特許文献1参照)。
また、特許文献2には、このイオン液体とヘテロポリ酸とを混合して生成したプロトン伝導体が開示されており、電解質としての安定性の向上と高いプロトン伝導性との両立が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-218299号公報
【特許文献2】特開2009-16156号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.Nodaら,J.Phys.Chem.B,107,4024(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、無加湿条件下、100℃~250℃の中温領域において良好なプロトン伝導性を有する固体プロトン伝導体及びその製造方法、該固体プロトン伝導体を含む燃料電池用電解質膜並びに燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示される。
[1]無機酸化物からなる粒子部と、該粒子部の少なくとも一部を被覆し、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩を含む被覆部とを備える複合材料を含有することを特徴とする固体プロトン伝導体。
[2]上記無機酸化物がSiO、TiO、SnO、ZrO、MnO、WO及びAlから選ばれた少なくとも1種である上記[1]に記載の固体プロトン伝導体。
[3]上記複素環含有化合物の複素環を構成する窒素原子の数が1又は2である上記[1]又は[2]に記載の固体プロトン伝導体。
[4]上記塩が、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、炭酸塩、スルホン酸塩及びトリフルオロメタンスルホン酸塩から選ばれた少なくとも1種である上記[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体。
[5]下記式(1)を満たす上記[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の電池電極用複合材料。
(logX130 - logX110)/(logY130 - logY110)<0.9 (1)
(式中、X130及びX110は、それぞれ、固体プロトン伝導体の130℃及び110℃における導電率(S/cm)であり、Y130及びY110は、それぞれ、塩の130℃及び110℃における導電率(S/cm)である。)
[6]上記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体を製造する方法であって、
無機酸化物からなる粒子と、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩からなる粉体とを、メカニカルミリングに供する工程を備えることを特徴とする、固体プロトン伝導体の製造方法。
[7]上記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体を含むことを特徴とする燃料電池用電解質膜。
[8]上記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の固体プロトン伝導体を含むことを特徴とする燃料電池用電極。
[9]上記[7]に記載の燃料電池用電解質膜を備えることを特徴とする燃料電池。
[10]上記[8]に記載の燃料電池用電極を備えることを特徴とする燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体プロトン伝導体は、無加湿条件下、100℃~250℃の中温領域において良好なプロトン伝導性を有することから、燃料電池用の材料(電解質膜)等として好適である。また、本発明の固体プロトン伝導体の製造方法によれば、上記性質を有する固体プロトン伝導体を効率よく製造することができる。
本発明の燃料電池用電解質膜は、上記のように、中温領域において良好なプロトン伝導性を有する固体プロトン伝導体を含むことから、燃料ガスや酸化剤ガスを、予め、高湿度に加湿して供給することなく、優れた出力特性を持続する燃料電池(中温無加湿型燃料電池)を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の固体プロトン伝導体の構造を示す概略断面図である。
図2】燃料電池セルの構造を示す概略断面図である。
図3】実験例1で得られた複合材料等のX線回折像である。
図4】実験例2で得られた複合材料等のX線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の固体プロトン伝導体は、無機酸化物からなる粒子部と、該粒子部の少なくとも一部を被覆する被覆部とを備える複合材料を含有する。そして、この複合材料を構成する被覆部は、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩を含む。
【0012】
本発明の固体プロトン伝導体の形態は、上記構成を有する限りにおいて、特に限定されず、複合材料からなる粉体(造粒体を含む等とすることができる。
【0013】
上記複合材料を構成する粒子部は、無機酸化物からなる。この無機酸化物としては、少なくとも200℃までの温度で安定であり、かつ、酸、特にリン酸に対して安定であれば、特に限定されない。本発明においては、SiO、TiO、SnO、ZrO、MnO、WO及びAlが好ましい。上記粒子部に含まれる無機酸化物は1種のみでも、2種以上でもよい。
【0014】
上記粒子部の形状は特に限定されず、球状、楕円球状、多面体、棒状等とすることができる。上記粒子部は、中実体でも、多孔質を有するものでもよく、中実体の場合には、例えば、1~50nmの微粒子からなる凝集体であってもよい。
また、上記粒子部のサイズも特に限定されず、その長径(微粒子の凝集体である場合はその凝集体の長径)は、好ましくは0.005~5μm、より好ましくは0.01~1μmである。
【0015】
上記被覆部は、上記粒子部の表面に他の層を介さずに、直接、形成されている部分であり、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩を含む。この塩の形成に用いられた複素環含有化合物は、複素環に窒素原子が含まれる化合物であり、この複素環は、窒素原子以外のヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子等)を含んでもよい。また、上記複素環含有化合物は、複素環以外の部分に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでもよい。また、上記複素環含有化合物は、1分子中に複数の複素環を含んでもよく、この場合、含まれる複素環は、同一でも異なってもよい。
【0016】
窒素原子を含む複素環としては、ピロール環、ピリジン環等の、1個の窒素原子を含む複素環;イミダゾール環、ピラゾール環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピペラジン環等の、2個の窒素原子を含む複素環;トリアジン環等の、3個の窒素原子を含む複素環;インドーリジン環、インドール環、キノリン環、キノリジン環、ピリドコリン環等の、1個の窒素原子を含む縮合複素環;ピリミダゾール環、フタリジン環、ナフタリジン環、キノオキサリン環、キナゾリン環等の、2個の窒素原子を含む縮合複素環;プリン環等の、3個以上の窒素原子を含む縮合複素環等が挙げられる。
【0017】
また、窒素原子及び酸素原子を含む複素環としては、モルホリン環、イソオキサゾール環等が挙げられる。
更に、窒素原子及び硫黄原子を含む複素環としては、チアゾール環、イソチアゾール環、チアゾリン環、チアジン環、チアジアジン環、チアジゾール環等が挙げられる。
【0018】
本発明において、複素環含有化合物は、複素環に1個又は2個の窒素原子を含む化合物であることが好ましい。このような化合物を構成する特に好ましい複素環は、下記式(2)又は(3)で表される。
【化1】
【0019】
上記塩の形成に用いられた酸は、無機酸及び有機酸のいずれでもよい。本発明においては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、炭酸、スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等とすることができる。
【0020】
上記被覆部は、必要に応じて、上記塩以外の他の成分を含有してもよい。
【0021】
本発明のプロトン伝導体に含まれる複合材料を構成する粒子部及び被覆部の質量比は特に限定されない。無加湿条件下、100℃~250℃の中温領域において良好なプロトン伝導性が得られることから、粒子部及び被覆部の含有割合は、両者の合計量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは5~70質量%及び30~95質量%、より好ましくは10~60質量%及び40~90質量%である。
【0022】
本発明の固体プロトン伝導体の構造は特に限定されない。本発明の固体プロトン伝導体は、図1に示す構造を有することができる。図1の(A)は、被覆部3の中に1つの粒子部2を含む固体プロトン伝導体の例である。図1の(B)は、被覆部3の中に複数の粒子部2を含む固体プロトン伝導体の例である。これらの図は、粒子部2の全表面に被覆部3を備えることとしているが、本発明の固体プロトン伝導体は、これらの態様に限定されず、粒子部2の表面の一部は露出していてもよい(図示せず)。また、図1の(B)においては、全ての粒子部2が同一の無機酸化物粒子からなるものである必要はない。
【0023】
本発明において、プロトン伝導体と、その被覆部に含まれる塩とを、それぞれ、無加湿条件下、110℃及び130℃で導電率(S/cm)を測定すると、下記式(1)を満たす。
(logX130 - logX110)/(logY130 - logY110)<0.9 (1)
(式中、X130及びX110は、それぞれ、固体プロトン伝導体の130℃及び110℃における導電率(S/cm)であり、Y130及びY110は、それぞれ、塩の130℃及び110℃における導電率(S/cm)である。)
本発明において、(logX130 - logX110)/(logY130 - logY110)<0.7であることが好ましい。
プロトン伝導体の導電率は、一般に、温度依存性が高く、温度が下がると導電率は大きく低下する。実際の燃料電池の使用を想定した場合、温度が低下した時の導電率の変化は制御の煩雑化、出力低下等の問題を生じる。本発明の固体プロトン伝導体は、その被覆部に含まれる塩単独に比べて、110℃~130℃における導電率の変化が小さくなっている。そのメカニズムは解明できていないが、メカニカルミリングにより、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩の結晶が微細化され、無機酸化物からなる粒子表面に吸着し、この界面がプロトン伝導に寄与することで温度依存が抑制されているものと推定している。
【0024】
本発明の固体プロトン伝導体製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)は、無機酸化物からなる粒子と、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩からなる粉体とを、メカニカルミリングに供する工程(以下、「複合化工程」という)を備える。この複合化工程により、無機酸化物粒子及び塩からなる複合物を得ることができ、この複合物をそのまま、固体プロトン伝導体として用いることができる。尚、本発明の製造方法は、上記複合化工程の後、必要に応じて、形状を整える整粒工程、サイズを整える分級工程等を備えることができる。
【0025】
上記複合化工程は、無機酸化物粒子と、塩粉体とをメカニカルミリングに供する工程である。
無機酸化物粒子は、少なくとも200℃までの温度で安定であり、且つ、酸(特に、リン酸)に対して安定な無機酸化物からなるものであれば、特に限定されない。本発明においては、SiO、TiO、SnO、ZrO、MnO、WO及びAlから選ばれた少なくとも1種を含む粒子が好ましい。この粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円球状、多面体、棒状等とすることができる。また、この無機酸化物粒子は、中実体でも、多孔質を有するものでもよく、中実体の場合には、例えば、1~50nmの微粒子からなる凝集体であってもよい。このように、粒子表面積が大きな無機酸化物粒子も好ましく用いることができる。
また、この無機酸化物粒子のサイズも特に限定されず、その長径(微粒子の凝集体である場合はその凝集体の長径)は、好ましくは0.005~5μm、より好ましくは0.01~1μmである。
【0026】
塩粉体は、窒素原子を含む複素環含有化合物及び酸により形成された塩からなる粉体であり、上記本発明の固体プロトン伝導体を構成する被覆部に含まれるとした塩からなる固体とすることができる。この塩粉体の形状及びサイズは、特に限定されない。
【0027】
上記複合化工程で用いる無機酸化物粒子及び塩粉体の質量比は、特に限定されないが、無機酸化物粒子を100質量部とした場合に、塩粉体の使用量は、好ましくは40~2000質量部、より好ましくは60~950質量部である。尚、用いる無機酸化物粒子及び塩粉体は、いずれも1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0028】
上記複合化工程では、無機酸化物粒子及び塩粉体以外の成分を用いてもよい。
【0029】
上記複合化工程で適用するメカニカルミリングの具体的な方法は、特に限定されない。例えば、ボールミル(遊星型ボールミル等)、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を用いる方法とすることができる。メカニカルミリングを行う場合の雰囲気は、出来る限り水分を含まない雰囲気が好ましい。例えば、乾燥窒素、乾燥アルゴン等の雰囲気が好ましい。
【0030】
本発明の製造方法は、上記のように、複合化工程の後、形状を整える整粒工程、サイズを整える分級工程等を備えることができる。整粒工程では、メッシュを通して解砕する方法、整粒機を用いる方法等を適用することができる。
【0031】
本発明の固体プロトン伝導体は、例えば、無機酸化物粒子の表面を、窒素原子を含む複素環含有化合物で被覆させ、得られた被覆物に、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、炭酸、スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の酸を接触させることにより製造することもできる。
【0032】
本発明の燃料電池用電解質膜は、上記本発明の固体プロトン伝導体を含有する膜である。本発明の燃料電池用電解質膜は、固体プロトン伝導体のみからなるものであってもよいし、中温無加湿条件における安定性及び強度が得られる限りにおいて、固体プロトン伝導体と樹脂とからなるものであってもよい。また、必要に応じて、更に、安定剤等の添加剤を含有することができる。尚、本発明の燃料電池用電解質膜は、他の固体プロトン伝導体を含有してもよい。
【0033】
本発明の燃料電池用電解質膜は、通常、板状であり、その厚さは、好ましくは5~100μmである。
【0034】
本発明の燃料電池用電解質膜が、固体プロトン伝導体のみからなる場合、プレス成形により製造することができる。
【0035】
本発明の燃料電池用電解質膜が、固体プロトン伝導体及び樹脂を含有する場合の好ましい樹脂としては、ポリベンズイミダゾール(PBI)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリスルホン(SPU又はSPSU)、スルホン化ポリイミド(SPI)、ポリアミド、ポリアミック酸、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらのうち、ポリベンズイミダゾール(PBI)、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリスルホン(SPU又はSPSU)及びスルホン化ポリイミド(SPI)が好ましい。
【0036】
本発明の燃料電池用電解質膜が、固体プロトン伝導体及び樹脂を含有する場合、電気的性能と機械的特性とのバランスの観点から、上記樹脂の割合の上限は、本発明に係る固体プロトン伝導体1質量部に対して、好ましくは100質量部である。
【0037】
本発明の燃料電池用電解質膜が、固体プロトン伝導体及び樹脂を含有する場合、以下の態様とすることができる。
(A)固体プロトン伝導体及び樹脂が均一に混合されて成形されたもの
(B)樹脂製多孔膜の孔部に固体プロトン伝導体が充填されたもの
【0038】
上記態様(A)の場合、例えば、固体プロトン伝導体及び樹脂の混合物をプレス成形する方法、又は、固体プロトン伝導体及び樹脂を溶媒に分散させ、固体プロトン伝導体が樹脂溶液に分散されてなる分散液を調製した後、この分散液をガラス等からなる基板の上でキャスト成膜する方法により製造することができる。
【0039】
本発明の燃料電池用電解質膜を、そのまま、燃料電池の原料資材として用いることができる。必要に応じて、本発明の燃料電池用電解質膜の両面に他の電解質層を備える複合型電解質膜、又は、他の電解質膜の両面に本発明の燃料電池用電解質膜からなる電解質層を備える複合型電解質膜を原料資材として用いることもできる。
また、電解質膜の構造によっては、形状保持性を向上させる等の目的で、電解質膜の両面又は内部にバインダーや補強層を配設してもよい。
更に、固体プロトン伝導体と、Pt等の電極触媒とを複合化して、アイオノマとして電極に利用することも好ましい。この構成により、触媒材料に効率的にプロトンを導くことが可能となる。
【0040】
燃料電池には、通常、リン酸を含浸させた電解質膜、即ち、リン酸ドープ電解質膜が配設される。このようなリン酸ドープ電解質膜は、例えば、本発明の燃料電池用電解質膜をリン酸に接触させた後、必要により、熱処理することにより作製することができる。尚、リン酸以外に、硫酸、塩酸等の、酸性側及び塩基性側の両方に作用可能な電子受容性物質を用いてもよい。
【0041】
上記リン酸ドープ電解質膜において、ドープしたリン酸がプロトン伝導に寄与する。このようなリン酸ドープ電解質膜を備える燃料電池は、加湿が不要となるので、中温無加湿条件下で好適に使用することができる。また、このリン酸ドープ電解質膜内においては、本発明の固体プロトン伝導体がリン酸とともにプロトンの伝導に寄与する。従って、リン酸のドープ量が少ない場合であっても、リン酸ドープ電解質膜は高いプロトン伝導性を示す。更に、リン酸ドープ電解質膜は、リン酸の含浸量を抑制することができるので、リン酸による電解質膜の腐食を低減することができ、耐久性に優れたものとなる。
【0042】
本発明の燃料電池は、上記本発明の燃料電池用電解質膜(以下、「電解質膜」という)を備える物品である。リン酸を含浸させた電解質膜を備える場合には、実質的に、リン酸ドープ電解質膜が燃料電池に含まれる。尚、リン酸のドープ量は、特に限定されない。
【0043】
本発明の燃料電池は、図2に示す燃料電池セル10を備える。図2は、燃料電池の基本単位である燃料電池セル10の概略図であり、電解質膜11、アノード側触媒層12、カソード側触媒層13、アノード側ガス拡散層14及びカソード側ガス拡散層15を備える。本発明の燃料電池は、複数の燃料電池セル10を組み合わせてスタック構造としたものであってもよいため、図2は、そのような態様とするために好適な燃料電池セル10としており、アノード側ガス拡散層14及びカソード側ガス拡散層15の外側に、アノード側セパレータ16及びカソード側セパレータ17を備えることとしている。
【0044】
アノード側触媒層12及びカソード側触媒層13は、電解質膜11の各々の面上に形成された電極であり、それぞれ、水素極及び空気極ともいう。電解質膜11、アノード側触媒層12及びカソード側触媒層13は、膜-電極接合体19を形成している。
アノード側触媒層12と、アノード側触媒層12の外側に配置されたアノード側ガス拡散層14によって、アノード極が構成されている。
また、カソード側触媒層13と、カソード側触媒層13の外側に配置されたアノード側ガス拡散層15によって、カソード極が構成されている。
【0045】
アノード側触媒層12及びカソード側触媒層13は、好ましくは、白金、白金合金、パラジウム、ロジウム等からなる触媒物質を、アセチレンブラック、黒鉛等のカーボンや、アルミナ、シリカ等からなる担体に担持させてなる、例えば、粒状物が、結着剤によって結着形成された層である。
また、アノード側ガス拡散層14及びカソード側ガス拡散層15は、燃料ガス及び酸化剤ガスを、各流路空間から、アノード側触媒層12及びカソード側触媒層13に、効率よく供給させるとともに、電気化学反応によって生成した水や、未反応の原料を、外部に効率よく排出させるために、一面側から他面側に、気体及び液体の透過性を有する層であり、例えば、カーボンクロス等からなる。
【0046】
アノード側セパレータ16及びカソード側セパレータ17は、プロトン伝導性及び耐熱性の観点から、ステンレス鋼、ニッケル基合金、クロム基合金等からなる。
【0047】
燃料電池セル10に反応ガス(水素ガス、空気)が供給されると、アノード及びカソードで以下の反応が起こり、電気エネルギーが出力される。即ち、アノードでは、水素が触媒反応によって、電子(e)とプロトン(H)に電離され、プロトン(H)は電解質膜11を移動する。一方、カソードでは、アノード極側から移動してきたプロトン(H)、外部から流通してきた電子、及び、空気中の酸素(O)が反応して、水が生成される。
(アノード) H→2H+2e
(カソード) 2H+(1/2)O+2e→H
【0048】
燃料電池セル10は、図2に示したものに限られず、膜-電極接合体19をその両側のセパレータで挟持し、このセパレータにおける膜-電極接合体19の側の面に、水素ガス、空気の供給流路を設けた構成とすることもできる。
【0049】
プロトン伝導性を有する固体高分子電解質膜として、ポリベンズイミダゾール及びリン酸を含むものが知られているが、ポリベンズイミダゾールが吸着できるリン酸は1ユニットあたり1つしかないため、ポリベンズイミダゾール1ユニットに対して、6~13倍程度のリン酸をドープさせて、1×10-3S/cm程度(150℃)の導電率を示す。一方、ポリベンズイミダゾールに接触させたものの、吸着していないリン酸は、膜外に浸出し、触媒を侵すため、燃料電池の耐久性を低下させることとなる。一方、本発明の固体プロトン伝導体を含む電解質膜を用いると、複素環含有化合物と酸とから形成された塩が被覆部として存在するため、リン酸の膜外への浸出が抑制され、耐久性が維持される。
【0050】
また、本発明の固体プロトン伝導体は、無機酸化物の表面に複素環含有化合物と酸とから形成された塩を備えるため、高いプロトン伝導性を示す温度範囲が広くなる。例えば、150℃程度で高い伝導性を示すが、少し温度が下がっても、伝導性が大きく低下することがなく、150℃より少し低い温度であっても、150℃と同程度の電池出力が確保される。
【実施例0051】
1.製造原料
固体プロトン伝導体の製造に用いた原料は、以下の通りである。
1-1.シリカ粒子
CVDにより製造されたAldrich社製「フュームドシリカ」(商品名、カタログ番号SS130)を用いた。
1-2.イミダゾール塩酸塩(C・HCl)粉末
Aldrich社製「イミダゾール塩酸塩」(商品名)を用いた。以下、「ImiHCl」という。
1-3.イミダゾールトリフルオロメタンスルホン酸塩粉末
Sigma Aldrich社製「イミダゾールトリフルオロメタンスルホン酸塩」(商品名、型番515876)を用いた。
1-4.ヘプタン
Aldrich社製「ヘプタン」(商品名)を用いた。
【0052】
2.固体プロトン伝導体の製造及び評価
上記の原料を用いて固体プロトン伝導体を製造し、導電率を測定した。
【0053】
実験例1
ImiHCl粉末と、シリカ粒子とを、質量比で、それぞれ、90:10、70:30、60:40、及び、40:60となるよう配合し、1gずつ準備した。その後、各混合物原料を、40gのジルコニアボール(Φ4mm)と、5mlのヘプタンとともに、フリッチュ・ジャパン社製ジルコニアポッドに投入し、フリッチュ・ジャパン社製遊星型ミリング装置「Fritsch Pulverisette 7」(型式名)にて回転数450rpmで12時間、アルゴン雰囲気下、ミリング処理を行い、混合処理を行った。ミリング処理後、真空乾燥によってヘプタンを除去し、引き続き、アルゴン雰囲気下、100℃で熱処理を行い、4種の複合材料を得た。
また、シリカ粒子を使用せず、1gのImiHCl粉末のみに対して、上記のミリング処理を行った。
【0054】
ミリング処理後の材料のX線回折測定(回折角2θ=10°~50°、サンプリング幅0.02°、スキャン速度5°/分、X線源:CuKα線)を行って、図3のX線回折像を得た。図3において、例えば、「x=60」は、ImiHCl粉末と、シリカ粒子とを、質量比60:40(xImiHCl-(100-x)SiO)で用いて得られた複合材料を意味する。また、「BM ImiHCl」は、ImiHCl粉末のみに対して上記ミリング処理を行って得られた材料を意味する。
【0055】
図3によると、x=60、x=70及びx=90の複合材料のX線回折像には、BM ImiHClのX線回折像と共通するピークが見られるものの、異なる強度を示した。また、原料のImiHClのX線回折像と異なるパターンを示したことから、シリカ粒子の表面に形成された被覆部におけるImiHClは新規な結晶構造を有することが分かる。
【0056】
また、以下の方法で、各複合材料の、110℃及び130℃におけるイオン導電率(S/cm)を測定し、その値から、(logX 130 - logX 110)/(logY 130 - logY 110)を算出し、表1に示した。X 130及びX 110は、それぞれ、複合材料からなる固体プロトン伝導体の、130℃及び110℃におけるイオン導電率(S/cm)であり、Y 130及びY 110は、それぞれ、ImiHClの130℃及び110℃におけるイオン導電率(S/cm)である。
各複合材料のペレット(Φ12mm)を作製するため、RIKEN社製プレス成形機「P-16B」(型式名)を用い、60MPaで1分間プレスを行った。次いで、Solartron社製電気化学測定システム「SI 1260」(型式名)を用い、無加湿条件下、110℃及び130℃で、ペレットのイオン導電率(S/cm)を測定した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1から明らかなように、3種の複合材料からなる固体プロトン伝導体は、いずれも、130℃で高い導電率(S/cm)が得られており、130℃における導電率(S/cm)と、110℃における導電率(S/cm)との差が小さかった。
【0059】
実験例2
イミダゾールトリフルオロメタンスルホン酸塩粉末と、シリカ粒子とを、質量比で、それぞれ、80:20、60:40、50:50、及び、40:60となるよう配合し、1gずつ準備した。その後、各混合物原料を用いて、実験例1と同様の操作を行って、4種の複合材料を得た。
また、シリカ粒子を使用せず、1gのイミダゾールトリフルオロメタンスルホン酸塩粉末のみに対して、上記のミリング処理を行った。
【0060】
次に、ミリング処理後の材料のX線回折測定を行って、図4のX線回折像を得た。図4において、「BM-ImiITS」は、イミダゾールトリフルオロメタンスルホン酸塩粉末のみに対して上記ミリング処理を行って得られた材料を意味する。
【0061】
図4によると、BM-ImiITSのパターンは、原料のイミダゾールトリフルオロメタンスルホン酸塩に対してピークシフトが起こっていた。また、複合材料のパターンは、BM-ImiITSに対して、半値幅の変化やピークのシフトが見られ、若干の結晶構造変化が生じたことが分かる。
【0062】
また、実験例1と同様にして、各複合材料の、110℃及び130℃におけるイオン導電率(S/cm)を測定し、その値から、(logX 130 - logX 110)/(logY 130 - logY 110)を算出し、表2に示した。X 130及びX 110は、それぞれ、複合材料からなる固体プロトン伝導体の、130℃及び110℃におけるイオン導電率(S/cm)であり、Y 130及びY 110は、それぞれ、ImiITSの130℃及び110℃におけるイオン導電率(S/cm)である。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から明らかなように、4種の複合材料からなる固体プロトン伝導体は、いずれも、BM-ImiITSよりも、130℃で高い導電率(S/cm)が得られた。また、x=40及びx=50の複合材料は、x=60及びx=80の複合材料に比べて、130℃における導電率(S/cm)と、110℃における導電率(S/cm)との差が小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の固体プロトン伝導体は、燃料電池の分野だけでなく、センサーの分野、リチウムイオン電池の分野等に適用することができる。燃料電池及びリチウムイオン電池では、電解質成分として利用することができる。
本発明の燃料電池は、高湿度に加湿することなく作動を持続させる燃料電池(中温無加湿型燃料電池)として好適である。
【符号の説明】
【0066】
1:固体プロトン伝導体
2:粒子部
3:被覆部
10:燃料電池セル
11:電解質膜
12:アノード側触媒層
13:カソード側触媒層
14:アノード側ガス拡散層
15:カソード側ガス拡散層
16:アノード側セパレータ
17:カソード側セパレータ
19:膜-電極接合体
図1
図2
図3
図4