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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056975
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】会話支援システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20230413BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20230413BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20230413BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
G10K11/178 150
H04R3/00 310
H04R3/00 320
G10K11/16 120
H04R1/02 108
H04R1/02 103Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166522
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】505424505
【氏名又は名称】川上 福司
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】川上 福司
【テーマコード(参考)】
5D017
5D061
5D220
【Fターム(参考)】
5D017BC01
5D061FF02
5D220AB06
5D220CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】互いに対面する複数の人物がパネルを介して会話しても、会話音声の明瞭さの低下を改善し、以って、複数の人物間の情報交換が円滑に進むような会話支援システムを提供する。
【解決手段】衝立パネル10の開口部12にスピーカモジュールSPAを設け、マイクロフォンモジュールMaを、衝立パネルを介して互いに対向する複数の人物に対して対称になるようにし、衝立パネルをスピーカのバッフル板とする。スピーカモジュールは、衝立パネルの第1の側に第1の位相からなる音声を出力し、パネルの反対の第2の側に、第1の位相とは逆位相の第2の位相の音声を出力する。第1の位相の音声と第2の位相の音声とが互いに加算されてキャンセルされ、マイクロフォンは、互いに対向する複数の人物の少なくとも一方の側から又は両方の側からの音声信号を取り込み、スピーカから出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロフォンとスピーカとを備え、複数の人物を仕切るパネルと、そして、
前記マイクロフォンから取り込まれた音声を処理して前記スピーカから音声を出力する制御回路と、を備え、
前記パネルを介して互いに対向する複数の人物間の会話を支援する会話支援システムであって、
前記パネルは開口部を備え、前記スピーカを当該開口部に設置し、
前記マイクロフォンは、前記パネルを介して互いに対向する複数の人物に対して対称になるように、当該パネルに設けられ、
前記パネルを前記スピーカのバッフル板とし、当該スピーカは、当該パネルの第1の側に第1の位相からなる音声を出力し、そして、当該パネルの前記第1の側とは反対の第2の側に、前記第1の位相とは逆位相の第2の位相の音声を出力し、
前記第1の位相の音声と前記第2の位相の音声とが互いに加算されてキャンセルされ、前記マイクロフォンは前記互いに対向する複数の人物の少なくとも一方の側から、又は、両方の側からの音声信号を取り込み、前記スピーカから出力する、
会話支援システム。
【請求項2】
前記マイクロフォンが前記パネルの境界に沿って設置されている、請求項1記載の会話支援システム。
【請求項3】
前記境界は、前記パネル自体の境界、及び/又は、当該パネルから仮想的に延長された境界である、請求項2記載の会話支援システム。
【請求項4】
前記スピーカは、第1のスピーカモジュールと第2のスピーカモジュールとを含む複数のスピーカモジュールからなり、当該第1のスピーカモジュールと当該第2のスピーカモジュールとは、互いに、正面対向又は背面対向によって接続されている、請求項1乃至3の何れか一項記載の会話支援システム。
【請求項5】
前記マイクロフォンは複数のマイクロフォンモジュールがライン状に接続されたものであり、
前記制御回路は複数のマイクロフォンモジュール夫々の信号を同相加算して、前記スピーカから出力する、
請求項1乃至4の何れか一項記載の会話支援システム。
【請求項6】
前記マイクロフォンは、第1のマイクロフォンモジュールと第2のマイクロフォンモジュールとを含む複数のマイクロフォンモジュールからなり、当該第1のマイクロフォンモジュールは前記第1の側に固定され、当該第2のマイクロフォンモジュールは前記第2の側に固定され、
前記制御回路は、前記第1のマイクロフォンモジュールと前記第2のマイクロフォンモジュール夫々の信号を同期加算して、前記スピーカから出力する請求項1乃至4の何れか一項記載の会話支援システム。
【請求項7】
マイクロフォンとスピーカとを備え、複数の人物を仕切るパネルと、そして、
前記マイクロフォンから取り込まれた音声を処理して前記スピーカから音声を出力する制御回路と、を備え、
前記パネルを介して互いに対向する複数の人物間の会話を支援する会話支援システムであって、
前記スピーカは、第1のスピーカモジュールと第2のスピーカモジュールとを含む複数のスピーカモジュールからなり、当該第1のスピーカモジュールは、前記パネルの第1の側に設けられ、当該第2のスピーカモジュールは、当該パネルの第2の側に設けられ、当該第1のスピーカモジュールと当該第2のスピーカモジュールとは前記パネルを介して互いに対称に向き合っており、
前記制御装置は、前記マイクロフォンから取り込まれた音声を、前記第1のスピーカモジュールを介して前記第1の側に出力させ、そして、前記第2のスピーカモジュールを介して前記第2の側に出力させ、さらに、前記制御装置は、前記第1のスピーカモジュールからの音声と前記第2のスピーカモジュールからの音声とを互いに同相、又は、逆相に出力させる、
会話支援システム。
【請求項8】
前記第1のスピーカモジュールと前記第2のスピーカモジュールとは筐付スピーカモジュールである、
請求項7記載の会話支援システム。
【請求項9】
前記マイクロフォンが前記パネルの境界に沿って設けられ、
前記制御回路は、前記第1のスピーカモジュールからの音声と前記第2のスピーカモジュールからの音声とを互いに逆相に出力させる、
請求項7又は8記載の会話支援システム。
【請求項10】
前記マイクロフォンは、第1のマイクロフォンモジュールと第2のマイクロフォンモジュールとを含む複数のマイクロフォンモジュールからなり、当該第1のマイクロフォンモジュールは、前記パネルの第1の側に設けられ、当該第2のマイクロフォンモジュールは、当該パネルの第2の側に設けられ、当該第1のマイクロフォンモジュールと当該第2のマイクロフォンモジュールとは前記パネルを介して互いに対称に向き合っており、
前記制御回路は、前記第1のマイクロフォンモジュールからの音声と、前記第2のマイクロフォンモジュールからの音声とを互いに同相、又は、逆相で取り込む、
請求項7又は8記載の会話支援システム。
【請求項11】
前記制御回路は、
前記第1のスピーカモジュールからの音声と前記第2のスピーカモジュールからの音声とを互いに同相に出力させ、
前記第1のマイクロフォンモジュールからの音声と、前記第2のマイクロフォンモジュールからの音声とを互いに逆相になるようにして取り込む、
請求項10記載の会話支援システム。
【請求項12】
前記制御回路は、
前記第1のスピーカモジュールからの音声と前記第2のスピーカモジュールからの音声とを互いに逆相に出力させ、
前記第1のマイクロフォンモジュールからの音声と、前記第2のマイクロフォンモジュールからの音声とを互いに逆相にすることなく取り込む、
請求項10記載の支援システム。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか一項記載のマイクロフォンと、
請求項1乃至12の何れか一項記載のスピーカと、そして、
請求項1乃至12の何れか一項記載の制御回路と、
を備え、当該マイクロフォン、当該スピーカと、当該制御回路とを、既存の仕切りに適用し、当該仕切りによって隔てられる複数の人物間の会話を支援するシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパネルによって仕切られた複数の人物間で、会話を円滑に進めるための支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシステムとして、例えば、特開2001-24803号公報に記載された対面通話装置が知られている。このものは、駅の切符売り場、チケット売り場等での双方向通話においてスムースで間違いのないコミュニケーション及び作業を行うことができる対面通話装置及び方法を提供するために、部屋の内側と外側を仕切る壁を介して対面で通話を行う対面通話装置において、前記壁に音孔を装置した透明板と音を遮断する透明板で構成する空間を設け、その空間にスピーカを装置するか、又はその空間に音響ダクトを装置し、その音響ダクトにスピーカを装置したことを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-24803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
新型コロナウィルスによる感染症等の拡大により、銀行や公共機関等の接客カウンターに飛沫防止用のアクリルパネルが設置されるケース、さらに、防犯用にタクシー運転席と後部客席を隔離する透明パネルが設置されるケース等が増えてきている。
【0005】
これ等簡易的な対策により、伝染病の感染拡大回避や防犯といった所期の目的は達せられるものの、互いに対面する人物がパネルを介して会話しようとする際、会話の明瞭度の低下による弊害が益々意識されるようになっている。人がマスクを着用することが必須になった昨今では、マスク越しの会話がこの弊害をより助長しているという課題がある。この課題は、既述の従来技術において何ら考慮されていない。
【0006】
本発明は係る課題を解決するために、互いに対面する複数の人物がパネルを介して会話しても、会話音声の明瞭さの低下を改善し、以って、複数の人物間の情報交換が円滑に進むように会話を支援するシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための第1の発明は、マイクロフォンとスピーカとを備え、複数の人物を仕切るパネルと、そして、前記マイクロフォンから取り込まれた音声を処理して前記スピーカから音声を出力する制御回路と、を備え、前記パネルを介して互いに対向する複数の人物間の会話を支援する会話支援システムであって、前記パネルは開口部を備え、前記スピーカを当該開口部に設置し、前記マイクロフォンは、前記パネルを介して互いに対向する複数の人物に対して対称になるように、当該パネルに設けられ固定され、前記パネルを前記スピーカのバッフル板として、当該スピーカは、当該パネルの第1の側に第1の位相からなる音声を出力し、そして、当該パネルの前記第1の側とは反対の第2の側に、前記第1の位相とは逆位相の第2の位相の音声を出力し、前記第1の位相の音声と前記第2の位相の音声とが、好ましくは、マイクロフォン位置において、互いに加算されてキャンセルされ、前記マイクロフォンは前記互いに対向する複数の人物の少なくとも一方の側から、又は、両方の側からの音声信号、好ましくは、この音声信号のみを、さらに、好ましくは、排他的に(スピーカからの音声を避け話者音声を優先的に)取り込み、前記スピーカから出力する、ことを特徴とする。
【0008】
さらに、前記目的を達成するための第2の発明は、マイクロフォンとスピーカとを備え、複数の人物を仕切るパネルと、そして、前記マイクロフォンから取り込まれた音声を処理して前記スピーカから音声を出力する制御回路と、を備え、前記パネルを介して互いに対向する複数の人物間の会話を支援する会話支援システムであって、前記スピーカは、第1のスピーカモジュールと第2のスピーカモジュールとを含む複数のスピーカモジュールからなり、当該第1のスピーカモジュールは、前記パネルの第1の側に設けられ、当該第2のスピーカモジュールは、当該パネルの第2の側に設けられ、当該第1のスピーカモジュールと当該第2のスピーカモジュールとは前記パネルを介して互いに対称に向き合っており、前記制御装置は、前記マイクロフォンから取り込まれた音声を、前記第1のスピーカモジュールを介して前記第1の側に出力させ、そして、前記第2のスピーカモジュールを介して前記第2の側に出力させ、さらに、前記制御装置は、前記第1のスピーカモジュールからの音声と前記第2のスピーカモジュールからの音声とを互いに同相、又は、逆相に出力させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明は、互いに対面する複数の人物がパネルを介して会話しても、会話音声の音量や明瞭さの低下を改善し、以って、複数の人物間の情報交換が円滑に進むように会話を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】衝立パネル(パネル)の正面図である。
図2】パネルの平面図であって、パネルを介して相対する二人の人物の配置を示す図である。
図3】スピーカモジュールを上から下方に見た正面図である。
図4】スピーカモジュールを側面から見た側面図である。
図5】スピーカモジュールの斜視図である。
図6A】二つのスピーカモジュールを互いに正面対向させて並列に接続したスピーカユニットのブロック図である。
図6B】二つのスピーカモジュールを互いに正面対向させて直列に接続したスピーカユニットのブロック図である。
図7A】二つのスピーカモジュールを互いに背面対向させて並列に接続したスピーカユニットのブロック図である。
図7B】二つのスピーカモジュールを互いに背面対向させて直列に接続したスピーカユニットのブロック図である。
図8図2の形態とは別の形態に係る会話支援システムのブロック図である。
図9】さらに他の形態に係る会話支援システムのブロック図である。
図10A】さらに他の実施形態に係る会話支援システムに係るパネルの正面図である。
図10B】このパネルの断面の構造を表す模式図である。
図10C】このパネルの断面の構造を表す他の模式図である。
図11A】さらに他の実施形態に係る会話支援システムに係るパネルの正面図である。
図11B】このパネルの断面の構造を表す模式図である。
図12A】パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る実施形態を表す、当該パネルの正面図である。
図12B】パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る他の実施形態を表す、当該パネルの正面図である。
図13A】パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る実施形態について、図12A図12Bとは異なる実施形態に係り、そして、パネルの正面図である。
図13B図12Aのパネルを含む会話支援システムの平面図である。
図14A図13Aとは異なる実施形態に係るパネルの正面図である。
図14B図13Aのパネルを含む会話支援システムの平面図である。
図15A】スピーカから、パネルの両面の夫々の側に互い同相の音声を出力し、マイクロフォンがパネル両面夫々の音声に基づいて逆相の信号を出力するようした実施形態に於けるパネルの正面図である。
図15B図15Aのパネルを含む会話支援システムの平面図である。
図16A図15A図15Bとは異なる実施形態に係り、そして、パネルの正面図である。
図16B図16Aのパネルを含む会話支援システムの平面図である。
図17A図15A図15Bに係る実施形態とはさらに異なる実施形態に係り、そして、パネルの正面図である。
図17B図17Aのパネルの平面図である。
図18A】複数のマイクロフォンモジュールの配置例に係る、パネルの正面図である。
図18B図18Aのパネルの平面図である。
図19A】複数のスピーカモジュールの配置例に係る、パネルの正面図である。
図19B図19Aのパネルの平面図である。
図20A】従来技術に基づく双方向拡声システムに係るパネルの正面図である。
図20B】当該パネルの平面視を含む、システムのブロック図である。
図20C】当該システムの他の例に係るブロック図である。
図21】本発明の他の実施形態に係るブロック図である。
図22】本発明のさらに他の実施形態に係るブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
飛まつ防止アクリル衝立パネルの普及に伴い、例えば、高齢者に向けた会話支援策として、話者付近に設置したマイクロフォンで音声を収音し増幅後パネルの反対側に設置したスピーカから受話者に向けて音声を放射する簡易拡声システムが実現されている。
【0012】
ところで、高齢者の音声を話者が聞き取りに難いため、話者側にも拡声装置を設置すると、その音がマイクロフォンに回り込んでハウリングやエコーを誘発する問題が必ず生じるため、それを避けようとして、双方向の会話に十分な音量を稼げなかったり、そして、音質が著しく低下したりする。また、衝立パネルが置かれる条件に合わせ、システムの最適調整やその毎回の操作が必要になる。
【0013】
飛沫防止性能や防犯性を高めるためには、パネルの開放部や隙間を小さくする必要があり、その分、会話障害も助長される。特に、高齢者の場合は、衝立パネルに加えマスクの着用や高齢化による難聴等の要因が加わり、音圧の低下が高周波帯域に集中するので会話障害は深刻なレベルに達する。補聴器をつけても回復できないケースも多い。
【0014】
本発明は、衝立パネルによる音量・音質の低下、双方向に生じる会話障害、エコーやハウリング等を補償・修復し、必要に応じて、安定して会話音声の音量を増強、或いは周波数補正して、十分な会話の明瞭度や了解度を回復・改善させようとするものである。本発明によれば、パネルの開放部のサイズを制限、或いは、これを完全に無くしても、会話障害を回避しつつ飛沫防止効果や防犯性を高めることができる。
【0015】
衝立パネルは、対面している人物など、複数の人物の間を仕切るものであって、例えば、飛沫防止、防犯、感染防止等の用途に提供され、その用途は特段限定されなくてよい。衝立パネルの材質も、アクリル等の樹脂製、ガラス製、木製、紙製等特段限定されない。衝立パネルの大きさ、形状、そして、衝立パネルの光透過性(透明/半透明/非透明)、衝立パネルの色彩についても同様である。衝立パネルを以後、「パネル」と略称する。
【0016】
特許請求の範囲の「スピーカ」という用語は、「スピーカモジュール」、そして、複数の「スピーカモジュール」を組み合わせた「スピーカユニット」を包含するものとして理解されたい。さらに、「マイクロフォン」という用語も、「マイクロフォンモジュール」、そして、複数の「マイクロフォンモジュール」を組み合わせた「マイクロフォンユニット」を包含するものとして理解されたい。
【0017】
本発明に係る会話支援システムは、パネルと、パネルに適用されるスピーカ及びマイクロフォンと、スピーカとマイクロフォンのための制御回路とを含む。図1はパネルの正面図であり、図2はパネルの平面図であって、パネルを介して相対する二人の人物の配置を示す図である。符号10は透明アクリル板からなるパネルであり、このパネルは、対面している複数の人物間に衝立として置かれ、ほぼ長方形状(正面図)である。パネルの高さ方向のほぼ中間で、かつ、幅方向の一端寄りに円筒状の開口部12が存在し、その中に、スピーカモジュールSPAがパネルの開口壁と隙間なく、かつ、パネルと略同一面となるように、開口部12にマウントされている。パネルの下方には、パネルを介して相対する人物間で書類の交換等の目的のための略矩形、または略アーチ状に切り欠かれた開放領域16が設けられている。
【0018】
スピーカモジュールを上から下方に見た正面図を図3に示し、スピーカモジュールを側面から見た側面図を図4に示し、その斜視図を図5に示す。図3において、符号120はダンパ、符号122はコーン紙(振動板)、符号124はエッジを示す。スピーカモジュールSPAは円筒形ホルダ126に収容され、そして、パンチングメタル(音響透過材)からなるケース128に入れられ、ケースを128含めてパネルの開口部12に嵌入されている。ケース128は必須ではない。スピーカモジュールSPAはエンクロージャ(筐)が備わっていない、所謂、筐なしタイプのものであって、パネル10自体を大型のバッフル板として利用する。
【0019】
一方、マイクロフォンはパネル10の境界に設置、固定、配置、接続、又は、装着されている。境界とはパネル10自体の例えば、輪郭、或いは、稜線である。境界には、パネル10を仮想的に拡大、延長、又は、拡張した、仮想的な輪郭としての平面や下方の開口平面部を含む。マイクロフォンをパネル10の境界に沿って置くことによって、パネルを介して相対する人物に対して均等、或いは、対称にマイクロフォンを位置付けできる。
【0020】
図1では、パネルの略アーチ状等の開放部16の上端中央、又は、パネル10の上端中央にマイクロフォンモジュールMa、Ma’が貼付される等して固定されている。マイクロフォンモジュールのタイプとしては限定される必要はないが、MEMSタイプ(いわゆるシリコンマイクロフォン)が好適である。なお、後述のとおり、マイクロフォンモジュールがパネルの両方の側の夫々に設けられ、その出力を加算または減算して利用するようにしてもよい。またなお、マイクロフォンモジュールMaを開放部16の上端に設けることによって、マイクロフォンモジュールをパネル10に相対する人物に目立たないようにできる。因みに、このように固定されたマイクロフォンは略無指向性マイクロフォンとして動作する。
【0021】
図2に示すように、パネル10の境界上に装着されたマイクロフォンモジュールMa(Ma’)は、パネル10の両側の話者の音声を収音し、制御回路(アンプ・電力増幅器などを)40を経てパネルの開口部12にマウントされたスピーカモジュールSPAの振動版の振動によって、パネル10の両側へ互いに逆の位相(逆相)で、かつ、等レベルの音声を放射し、発話者30A・受話者30Bが等分にその音を聞くことになる。
【0022】
この時、スピーカモジュールからパネルの両側に回り込んだ音声はH2(ω)≒-H1(ω)、即ち、H2(ω)+H1(ω)≒0となり、マイクロフォンモジュールの位置で略ゼロに相殺されるため、ハウリングやエコーは最小化される。その結果、会話支援システムは、必要な拡声ゲインを安定に確保し、会話に十分な音量を、常時・双方向に、提供することができる。
【0023】
パネル10は小型スピーカにとって良好な巨大バッフル板として機能し、低域まで含め音声の全周波数帯域にわたり良好な音質を提供する。パネルを伝搬する振動、スピーカモジュールからの固体音を遮断した方がよい場合や、その必要がある場合は、防振材を介して、スピーカモジュールをパネルにマウント、或いは、防振支持してもよい。マイクロフォンも同様である。
【0024】
制御回路40は、プリアンプ/マイクロフォンアンプ42と、パワーアンプ(電力増幅器)44を備え、さらに、これらの間にイコライザ・ディジタルフィルタ・遅延回路などのディジタル信号処理回路/素子(DSP;Digital Signal Processor)を挿入して、音声品質や明瞭度・了解度を更に上げるように特定の周波数帯域を補正/強調したり、音像定位を発話者から外れないように時間遅延や話速変換をかけたりすることにより、一層快適な会話環境を提供することもできる。
【0025】
会話支援システムの動作を、図2を利用してさらに詳しく説明する。平均スペクトルS0(ω)で発話する話者30A対し、マイクロフォンモジュール(3mm×5mm×厚さ1mm程度のシリコンマイクロフォン:MEMS Mic)に、マイクロフォンモジュールから収音された音源話者30Aの音声は、マイクロフォンアンプ42、そして、最小限の周波数フィルタなどを前置した電力増幅器44により増幅され、スピーカモジュールSPAから話者30Bに対して音声が放射される。
【0026】
この拡声系の話者30Bの耳の位置での応答R1(ω)は、以下の式のように計算される。M(ω),S1(ω),H1(ω),H2(ω)は、それぞれマイクロフォンの応答、スピーカモジュールSPAの表側(話者30Aの側)から話者30Bとマイクロフォンモジュール位置に対する(スピーカモジュールの応答含む)伝達関数、そしてスピーカモジュールの裏側(話者30Bの側)からマイクロフォンモジュール位置に対する伝達関数である。
【0027】
話者30Bに対する応答R1(ω)は、初項a≡q S0(ω)M(ω)S1(ω)、公比r≡qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]の等比級数の和となり、R1(ω)=a(1-rn)/(1-r)、n=∞→a/(1-r)として下記のようになる(下記(注1)参照)。
【0028】
R1(ω)=q S0(ω)M(ω)S1(ω)+q2S0(ω)M2(ω)S1(ω)[H1(ω)+H2(ω)]
+q3S0(ω)M(ω)[H1(ω)+H2(ω)]{qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}
+q4S0(ω)M(ω)[H1(ω)+H2(ω)]{[qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}{[qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}
+・・・・・・・
=Σq S0(ω)M(ω)S1(ω)・{q M(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}N-}
=q S0(ω)M(ω)S1(ω)<1-{q M(ω)[H1(ω)+H2(ω)]N}>/{1-[q M(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}・・・・I
【0029】
公比:qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]の絶対値が1以下の場合、I式のN乗項が消えて、
R1(ω)=q S0(ω)M(ω)S1(ω)/{1-[qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}・・・・・II
ここに、G(ω)≡R1(ω)/S0(ω)=q M(ω)S1(ω)/{1-[qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]}はloop gain (LG)、qM(ω)[H1(ω)+H2(ω)]はopen loop gain (OLG)と呼ばれるものである。
【0030】
更に、スピーカ音声の放射は版両側へ逆相・等レベルなので、H1(ω)≒-H2(ω)であり、従って、
R1(ω)≒q S0(ω)M(ω)S1(ω)・・・・・・・・・III
となる。
【0031】
話者30AへはS2(ω)≒-S1(ω)で、R2(ω)≒q S0(ω)M(ω)S2(ω)≒-R1(ω)・・・・IV
つまり、話者30Aと30Bは、逆相ながら、同じ内容の拡声音声を等レベルで聞くことになる。
【0032】
(注1)1回目:q S0(ω)M(ω)S1(ω)が直接話者30Bへ到達
2回目:q S0(ω)M(ω)が[H1(ω)+H2(ω)]経由でMicに返り、M(ω)qS1(ω)経由で話者30Bへ到達→qS0(ω)M(ω)・[H1(ω)+H2(ω)]M(ω)qS1(ω)
=q2S0(ω)M2(ω)[H1(ω)+H2(ω)]S1(ω)
3回目:q2S0(ω)M2(ω)[H1(ω)+H2(ω)]が[H1(ω)+H2(ω)]経由でマイクロフォンに返り、上記と同様にM(ω)qS1(ω)経由で話者30Bへ到達
→q2S0(ω)M2(ω)[H1(ω)+H2(ω)]・[H1(ω)+H2(ω)]M(ω)qS1(ω)
=q3S0(ω)M3(ω)[H1(ω)+H2(ω)]2 S1(ω)
【0033】
つまり、II式でH1(ω)≒-H2(ω)となるように系を制御できれば、III式R1(ω)は分母が1で、
R1(ω)≒q S0(ω)M(ω)S1(ω)になりqを大きくすることにより、ハウリングやエコー無く、(つまり、I式の式N乗項が発散することなく)安定に必要な拡声音量を確保することができる。
【0034】
実際にスピーカモジュールの表と裏に放射される音のレベルはほぼ等音量で逆相となるので、
条件H1(ω)≒-H2(ω)は満たされ、パネルの稜線上でスピーカモジュールからの回り込み音はキャンセルアウトされほぼゼロとなる。したがって、単一のマイクロフォンモジュールをパネル10の稜線上に設置すれば十分であると言える。実際には、室内には直接音に続く反射音や残響があるので、条件H1(ω)=-H2(ω)を完全に満たすことは難しいが、通常は最大レベルとなる直接音や初期反射音についてはほぼこの条件は満たされるので、実用上十分な拡声ゲインqを確保することができる。
【0035】
話者30Aにも等レベル・逆相の音声S2(ω)≒-S1(ω)が放射されるので、話者30Aは常に自音声をモニター、即ち、話者30Bにどのくらいの音量で自音声が届いているか、を確認することができる。このように、会話支援システムの特徴は、逆相ながら、常時、等レベルで版の両側に音声がサービスされることである。
【0036】
勿論、話者30A,30Bが同時に発話してもシステム上問題は無い。つまり、上記IV式のように、常に、
R2(ω)≒q-R1(ω)、即ち、|R2(ω)|≒|R1(ω)|、である。条件H1(ω)≒-H2(ω)をより完全にするため、後述のように、単一のスピーカモジュールの代わりに、2個のスピーカモジュールを正面対向、及び/又は、背面対向させて、二つのスピーカモジュールを互いに逆相信号で駆動させてもよい。
【0037】
マイクロフォンモジュールの設置位置、及び、その数は、パネル10に対して適宜変更されてよい。例えば、開放部16の左右何れかの側の縁(境界)、パネル10の上の側の縁、パネルの左右何れかの側の縁である。さらに、パネル10の境界の仮想延長面上の位置にマイクロフォンモジュールを設けてもよいことは既述のとおりであり、この場合、マイクロフォンモジュールをパネルに対して支持する支持部材に接続し、支持部材を介してマイクロフォンモジュールをパネルに固定すればよい。
【0038】
さらに、パネルの境界に置かれるマイクフォンモジュールの数は一つに限らず、パネル10に対して互いに対称になるように複数でもよい。複数のマイクロフォンモジュールをライン状に隣接させてパネルに配置させてもよい。このようにすることによって、パネル10の前後、又は、表裏の両正面方向への指向性が強まり、会話音声の直接音比が高まって会話の明瞭度を向上できる。すなわち、これにより、パネル両側の話者30A、30Bに対する収音効率が高められ、結果的に話者への直接音、即ち、前記II、IIIの直接音、S1(ω),S2(ω)が大きくなったのと同じ効果となり、エコーやハウリングすることなく系全体の拡声利得を安定に高めることができる。
【0039】
マイクロフォンモジュールが複数の場合、制御回路40は複数のマイクロフォンモジュール夫々の音声信号を同相として加算(同相加算)し、電力増幅器で増幅させた後スピーカに出力する。スピーカが、複数の開口の夫々にスピーカモジュールがマウントされたものから構成されている場合には、制御回路40は夫々のスピーカモジュールに増幅された音声信号を同期させて出力する。
【0040】
既述の実施形態は、パネル10の開口部12に一つのスピーカモジュールをマウントした例について説明した。双方向へ放射される音声を完全に一致させるため、すなわち、H1(ω)≒-H2(ω)をより完全にするため、パネル10の開口部12に二つのスピーカモジュールを対に組み合わせてマウントすることもできる。二つのスピーカモジュールを対に組み合わせたスピーカユニットとしての態様には、二つのスピーカモジュールの正面を対向させるタイプとその背面を対向させるタイプとがある。スピーカユニットは、パネル10の開口部12内にマウントされる。制御回路40は二つのスピーカモジュールを、音声を互いに逆相かつ同等レベルで出力するように駆動する。
【0041】
図6Aは、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを互いに正面対向させて、第1のスピーカモジュールSPAのマイナス端子と第2のスピーカモジュールSPBのマイナス端子とを接続して、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを増幅器44に対して並列に接続したスピーカユニットのブロック図であり、図6Bは、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを正面対向させて、第1のスピーカモジュールSPAと第2のスピーカモジュールSPBについてそのプラス端子とマイナス端子とを接続することにより、二つのスピーカモジュールを増幅器44に対して直列に接続したスピーカユニットのブロック図である。
【0042】
図7Aは、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを互いに背面対向させて、第1のスピーカモジュールSPAのマイナス端子と第2のスピーカモジュールSPBのマイナス端子とを接続して、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを増幅器44に対して並列に接続したスピーカユニットのブロック図であり、図7Bは、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを背面対向させて、第1のスピーカモジュールSPAと第2のスピーカモジュールSPBについてそのプラス端子とマイナス端子とを接続することにより、二つのスピーカモジュールSPA、SPBを増幅器44に直列に接続したスピーカユニットのブロック図である。
【0043】
図8は、図2の形態とは別の形態に係る会話支援システムのブロック図である。制御回路40はパネルの稜線に沿ってライン状に設置された3つのマイクロフォンモジュールMa-1,Ma-2,Ma-3夫々の音声信号を同期加算(45)した後、マイクロフォンアンプ42、電力増幅器44によって増幅した音声信号を互いに一対のスピーカモジュールが正面対向して接続されたスピーカユニットSPU1の夫々のスピーカモジュールに出力して夫々のスピーカモジュールから互いに逆相で同等レベル音声を出力するよう駆動させる。
【0044】
二つのスピーカモジュールが背面対向によって接続されているスピーカユニットSPU2に対しては、制御回路40’は、一対のスピーカモジュールを逆相駆動するために、図8の左側に描かれたように、電力増幅器44を2基用い、一方の手前に反転増幅器43を接続することにより互いに逆相の音声信号をスピーカユニットの手前で形成して、互いに逆相で同等レベルの信号の一方を一方のスピーカモジュールに出力し、他方の信号を他方のスピーカモジュールに出力する。スピーカモジュールから逆相音声を出力する方法としては、いずれでも良い。
【0045】
図9は、さらに他の形態に係る会話支援システムのブロック図である。制御回路40は、二つのスピーカモジュールが背面対向して接続されたスピーカユニットSPU1については、複数の増幅器44に対して音声トランス47を前置して逆相信号を作り出している。さらに、制御回路40’は二つのスピーカモジュールが背面対向して接続されたスピーユニットSPU2については、複数のOPアンプ(Operational Amplifier;演算増幅器IC)58等で電子的に逆相信号を作り出している。
【0046】
図10A,10B,10Cは、さらに他の実施形態に係る会話支援システムのブロック図である。図10Aはパネル10の正面図であり、図10B,10Cは共にこのパネル10の正面図に於ける高さ方向の夫々異なる部分での断面の構造を表す模式図である。SPA、SPBは、パネル10の開口部にマウントされた、単一のスピーカモジュールであり、SPU1~SPU4は夫々既述のスピーカユニットであり、パネルの断面円形の開口部にマウントされている。音像定位を正確にパネル10の中心線上に合わせるため、換言すると、音像を正確にパネルの正面に定位させるため、図10AのスピーカモジュールSPA、SPBを、マイクロフォンMaからある程度離して、ハウリング/エコーを回避できるように、パネル10の中心線上に配置させてもよい。
【0047】
あるいは、図10B,10Cのように、複数のスピーカユニットSPU1~SPU4をパネル10の左右対称になるように当該パネルにマウントしてもよい。パネルにマウントされるスピーカモジュール、及び/又は、スピーカユニットの夫々の数は単数でも複数でもよく、そして、その位置も、話者30A,30Bに対して対称、均等であれば、特に制限されない。
【0048】
図11A,11Bのように、スピーカモジュールSPAを小型ケース(エンクロージャ)100に入れて筐付スピーカモジュールとし、複数の筐付スピーカモジュールを、パネル10を介して互いに対向するように、パネルの両面の側の夫々に適用してもよい。筐付スピーカモジュールはパネル10の開口にマウントされるのでなく、例えば、パネルの面に貼付等によって固定される。複数の筐付スピーカモジュールは、パネルの表裏面の夫々に互いに対向しながら、整合、面対称となるように配置されればよい。一対の筐付スピーカモジュールをパネルに適用する場合には、パネルの上下左右で対称になるようにすればよい。
【0049】
この実施形態は、パネルにスピーカモジュールをマウントするための開口処理を不要にするので、パネルに対して、マイクロフォン、制御回路とともにスピーカを別ユニットとし、既存パネルへの後付けシステムとして製品化することができる。筐付スピーカモジュール、及び、マイクロフォンモジュールMaは、パネルを介して相対する複数の人物に対して、均等、対称になれば、パネルに直接に接続されていなくてもよい。
【0050】
パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る態様に関し、図12Aのように、マイクロフォンモジュールが、パネル10の前後両面の夫々の側において、スピーカからの回り込み音を均等に捉えることができる位置であれば、マイクロフォンの設置はパネル10の境界に沿って所定の位置の一つ又は複数でもよい。Ma、Mb、Mc、Md、Me、Mfは、パネルの実境界(稜線:一点鎖線200で示す。)上に配置されたマイクロフォンを示し、Ma’、Mf’はパネルの仮想的に延長された境界(延長面)上に配置されたマイクロフォンモジュールを示す。Mf’は開放部16の直下のテーブル面に置かれている。パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る態様は、これら両方の配置を含んでよい。
【0051】
続いて、パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る態様について、図12Aとは異なる態様について、図12Bに従い説明する。破線で囲まれているように、複数マイクロフォンモジュールをパネルの稜線のラインに沿って極力小さな間隔で等間隔に並べたマイクロフォンモジュールユニットとし、制御回路40は、各モジュールからの信号を同相のまま加算、いわゆるミキシングした出力を用いるようにしている。
【0052】
MaUは、マイクロフォンモジュールMa-1、Ma-2、Ma-3をライン状にして、パネル10の上辺に沿って配置させたマイクロフォンユニットであり、MaU’は、マイクロフォンモジュールMa’-1、Ma’-2、Ma’-3をライン状にして、図12AのMa’と同じように、パネル10の仮想延長線に沿って配置させたマイクロフォンユニットである。
【0053】
さらに、MaU1は、マイクロフォンモジュールMaf-1、Maf-2、Maf-3をライン状にして、パネル10の開放部16の上辺に沿って配置させたマイクロフォンモジュールユニットであり、さらに、MaU1’は、マイクロフォンモジュールMaf’-1、Maf’-2、Maf’-3をライン状にして、パネル10の開放部16の上辺に対向する接地面に沿って配置させたマイクロフォンユニットである。
【0054】
このマイクロフォンユニット(ラインマイクロフォン)は、音響的に最も効率的、かつ現実的な形態であり、パネル両側夫々の正面方向に於ける音声の指向性を高めることができる。これにより、パネル両側の話者30A,30Bに対する収音効率が高められ、結果的に話者への直接音、即ち、既述の式II,IIIの直接音、S1(ω), S2(ω)が大きくなったのと同じ効果が発揮され、エコーやハウリングすることなく系全体の拡声利得を安定に高めることができる。
【0055】
さらに、続いて、パネルへのマイクロフォンモジュールの配置、数に係る態様について、図12A図12Bとは異なる態様について、図13A図13Bに従い説明する。図13Aはパネルの正面図であり、図13Bはパネルを含む会話支援システムの平面図である。既述の実施形態は、マイクロフォンモジュールをパネルの実の境界、又は、仮想的な延長上(延長面上)に置いたが、この実施形態は、単数又は複数のマイクロフォンモジュール同士を、パネルを介して互いに面対称となるように対向させて、かつ、互いに背面対向(互いにパネルの前方方向を向いて)させて、パネル両側に夫々接続した。制御回路40のマイクアンプ44はパネル両面夫々のマイクロフォンモジュールMa、Ma’の出力を同相のまま加算して、電力増幅器44は、スピーカユニットSPUの複数のスピーカモジュールを逆相駆動、即ち、複数のスピーカモジュールの夫々に互いに逆相の音声信号を出力する。
【0056】
図13A、13Bに示すように、パネルの左右対称に複数のスピーカユニットをパネルに適用してもよい。因みに、図13A図13Bにおけるマイクロフォンの配置は、表面音圧マイクロフォン(Surface Pressure Microphone)と呼ばれ、各パネル面の正面方向に略半球型の指向性を呈し、全周波数帯域にわたり到来音圧の2倍となる、パネル面の表面音圧に対応する信号を出力する。
【0057】
さらに、図14A、14Bは、夫々に複数のマイクロフォンモジュールをライン状に配置したマイクロフォンユニットMaU、MaU’をパネル両側の夫々に、マイクロフォンユニット同士が互いに面対称になるように配置する実施形態である。制御回路40は、ライン状に配置された複数のマイクロフォンモジュールからの信号を、一対のマイクロフォンユニット毎に同相加算後増幅し(45,42)、そして、二つのマイクロフォンユニット夫々の同相加算出力をさらに同相加算し(OPアンプ49)、増幅(電力増幅器44)後の出力を、パネルの両側に夫々配置され、互いに逆相で駆動される、筐付スピーカモジュールSPA、SPBに出力する。
【0058】
既述の実施形態は、制御回路は、スピーカから、パネルの両面の夫々に互いに逆相の音声を出力し、マイクロフォンがパネル両面夫々の音声に基づいて同相の信号を出力するようにしているのに対して、以後説明する複数の実施形態は、これを逆の関係、すなわち、スピーカから、パネルの両面の夫々の側に互い同相の音声を出力し、マイクロフォンがパネル両面夫々の音声に基づいて逆相の信号を出力するようにするものであって、既述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
先ず、複数の実施形態のうち、最もシンプルな実施形態を図15A(正面図)、図15B(平面図)に示す。二つの筐付スピーカモジュールSPAB1、SPAB2夫々がパネル10を介して互いに対向し、かつ、二つのモジュールは互いに面対称になるようにパネル10に適用されている。既述のとおり、パネルへのスピーカモジュールの適用として、スピーカモジュールがパネルに接して固定されることが音質的には好適である。そこで、パネルに、筐付スピーカモジュールの筐を直接固定するか、或いは、パネルを介してスピーカからマイクロフォンに固体音(振動)が伝わるのを防ぐため、ゴム板やスポンジ材などの防振材を介して、筐付スピーカモジュールをパネルに取り付けてもよい。
【0060】
マイクロフォン側を逆相・等レベルにする方法としては、パネルの両側の夫々に、一対のマイクロフォンモジュールMa-1,Ma-2が互いに面対称になるように固定され、夫々のマイクロフォンモジュールが受音した出力を、制御回路40が逆相加算(減算)すればよい。詳しくは、図15Bのように各マイクロフォンモジュールからの出力をOPアンプ(演算増幅器IC)49などの減算回路が逆相加算して出力すればよい。なお、マイクロフォンモジュールをパネル10へ直接取り付けてもよいし、又は、防振材を介して、マイクロフォンモジュールがパネルに支持されるようにしてもよい。各マイクロフォンはパネルに略接して取り付けられるので、音圧マイクロフォンとして動作する(到来音圧の2倍を出力)。
【0061】
この実施形態によれば、次のように動作する.即ち、平均スペクトルS0(ω)で発話する話者30Aに対し、2個のマイクロフォンモジュール(3mm×5mm×厚1mm程度のシリコンMic/MEMS Mic)Ma-1,Ma-2がパネル10の表裏、互いに面対称の位置に置かれていると、これらは夫々、夫々の側の話者の音声S0(ω)と、パネルの両側の面対称位置に置かれた2個のスピーカモジュールSPAB1、SPAB2の回り込み音H(ω)を受音する。
【0062】
二つのスピーカモジュールは、マイクロフォンアンプ、最小限の周波数補正回路(フィルター)等が前置された電力増幅器44により同相で駆動され、パネル両側に夫々に置かれたマイクロフォンモジュールMa-1,Ma-2は、OPアンプ49を介しそれらの減算(逆相加算)信号、即ち両マイクロフォンモジュールの出力の差信号を出力する。つまり、話者30A、30Bの発した音声は随時、実時間でパネルの両側に放射されると同時に二つのマイクロフォンモジュールにも等レベルで到達し、話者音声と共に収音される。
【0063】
この拡声系の話者30Bの耳の位置での応答R1(ω)は、以下のように計算される。ここに、M1(ω), M2(ω),S(ω),H(ω)は、それぞれマイクロフォンモジュールMa-1,Ma-2の応答、両スピーカモジュールからパネル各側の話者とマイクロフォンモジュールに対する(スピーカモジュールの応答含む)伝達関数である。話者30Bに対する応答R1(ω)は、初項a≡q S0(ω)M1(ω)S(ω)、公比r≡qH(ω)[M1(ω)-M2(ω)]の等比級数の和となり、R1(ω)=a(1-rn)/(1-r); n=∞ → a/(1-r)で下記のように示せる。
【0064】
R1(ω)=q S0(ω)M1(ω)S(ω)
+q S0(ω)M1(ω)・q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]・S(ω)
+q S0(ω)M1(ω)・q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]・q
H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]・S(ω)
+------
=q S0(ω)M1(ω)S(ω)
+q S0(ω)M1(ω)S(ω)・ qH(ω)[M1(ω)-M2(ω)]
+q S0(ω)M1(ω)S(ω)・q2{H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]}2
+------
=q S0(ω)M1(ω)S(ω)・Σ{q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]}N-1
=q S0(ω)M1(ω)S(ω)<1-{q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]}N>/{1-q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]}・・・・・IV-1
【0065】
この式は、既述のI式のM(マイクロフォン)とS(スピーカ)を書き換えた形をしており、「逆相・等レベル」を(1)スピーカ側に適用しても、又は、(2)マイクロフォン側に適用しても、エコーやハウリングを回避できるという作用効果は同等である。
【0066】
スピーカ側が逆相の場合と同様に、公比の絶対値が1以下の場合、N乗項が消えて、
R1(ω)=q S0(ω)M1(ω)S(ω)/{1-q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]}・・・・・・・・・V
となる。
【0067】
(1)と同様に、ここでもG(ω)≡R1(ω)/S0(ω)=q M1(ω)S(ω)/{1-q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]}はloop gain (LG)、q H(ω)[M1(ω)-M2(ω)]はopen loop gain (OLG)と呼ばれるものである。
【0068】
更に、M1(ω)とM2(ω)の減算出力を利用するように意図し、構成されており、両者の符号が同じで、かつ等レベルであれば、M1(ω)≒M2(ω)で下記式のようになる。
【0069】
R1(ω) = q S0(ω)M1(ω)S(ω) ≒ q S0(ω)M2(ω)S(ω) = R2(ω)・・・・・VI
【0070】
上記、V式とVI式についても、MとS書き換えれば、II式、III式と同じ形をしている。V式でM1(ω)≒-M2(ω)となるように系を制御できれば、R1(ω)はVI式のように、R1(ω)≒q S0(ω)M1(ω)S(ω)となり、qを大きくすることにより、ハウリングやエコー無く、つまり、IV-1式のN乗項が発散することなく、安定に必要な拡声音量を確保することができる。
【0071】
実際に2つのマイクロフォンモジュールの感度が略等しく、かつ出力が正確にゼロになるようOPアンプで減算されるので、条件M1(ω)-M2(ω)≒0は満たされ、話者への応答は双方向にVI式のようになる.つまり、各2個のスピーカモジュールもマイクフォンモジュールもパネルに対して面対称になる位置に設置しさえすればよい。実際には、室内には直接音に続く反射音や残響があるので、条件M1(ω)=M2(ω)を完全に満たすことは難しいが、通常は最大レベルとなる直接音や初期反射音についてはほぼこの条件は満たされるので、実用上十分な拡声ゲインqを確保することができる。
【0072】
因みに、(1):スピーカモジュール側逆相の場合と同様、両スピーカモジュールからは同じ音(同相・等レベル)の音が出るので、スピーカから話者への伝達関数S(ω)がパネル両側で略等しい一般的な環境では、話者30A自身にも等レベルで自音声が届くので、常に受話者30Bにどのくらいの音量で自声が届いているかをモニターすることができる。また、VI式のようにR2(ω)もR1(ω)と同じ形となり、話者30Bが話者30Aに対して発話する場合も同様の条件となる。勿論、話者30Aと話者30Bとが同時に発声しても問題は無い。
【0073】
また、(2):マイクロフォン側逆相の場合についても、音像定位を正面中央にするため、パネルの左右対称位置に複数のスピーカモジュール(一対の筐付スピーカモジュール)を設けたり、また、パネル正面方向への収音効率を上げるため、即ち、正面方向の指向性利得を上げるため、パネル両側表面上の対称位置に複数のマイクロフォンモジュールを直線状に配置して同相加算したもの同士をOPアンプで減算処理したり、してもよい。勿論、減算処理は音響トランスを用いても効果は同じである。いずれのケースにおいても、筐付スピーカモジュールをパネル両面の夫々の面対称位置に、背面対向する形で設置し同相駆動させる。
【0074】
図15A図15Bとは別の実施形態を図16A図16B図17A図17Bに示す。図16A図16Bにおいて、複数の筐付スピーカモジュールSPAB1~SPAB4夫々はパネル10(略アーチ状の開放部16の両側)の表と裏の面対称位置に背面対向する形で(発音面が外向き、つまり版面とは反対の方向に向けて)装着されている。そして、三つのマイクロフォンモジュールが線状に連結されたマイクロフォンユニッMaU、MaU’もパネル10の両側に夫々互いに面対称で背面対向するように(音孔が外向き、つまり、パネル面において、反対の方向に向けて)配置されている。制御回路40はマイクロフォンユニットからの同相信号を後段のOPアンプ等で逆相加算(減算処理)して差信号を電力増幅器44に出力する。OPアンプ42は、マイクロフォンユニットのマイクロフォンモジュール同士の出力を同相加算する。
【0075】
図17A図17Bに係る実施形態はマイクロフォンとして、単一のマイクロフォンモジュールの一対Ma、Ma’を、パネル10を介して面対称になるように対向させている。スピーカユニットSPBA1~SPAB4も図16A,16Bに係る実施形態と同様にパネル10の表と裏で夫々同相の音声信号を放射する。
【0076】
図18A,18Bは、複数のマイクロフォンモジュールの配置例の一つを示す。マイクロフォンモジュールMa、Mb、Mc、Mdがパネル10の表側に互いに対称になるように、広範に点在されている。そして、表側のマイクロフォンモジュールに対向するように、マイクロフォンモジュールMa’、Mb’、Mc’、Md’がパネル10の裏側に点在されている。
【0077】
図19A、19Bも、スピーカモジュールの配置例の一つを示す。筐付スピーカモジュールSPAB1、SPAB2、SPAB3、SPAB4、SPAB5がパネル10の表側に互いに対称になるように、広範に点在されている。そして、表側のスピーカモジュールに対向するように、筐付スピーカモジュールSPAB1’、SPAB2’、SPAB3’、SPAB4’、 SPAB5’がパネル10の裏側に点在されている。そして、一対のマイクロフォンMa、Ma’がパネル10の中心(重心位置)前後の面に、互いに対向するように夫々接合されている。
【0078】
次に、図20A、20B、20Cは、従来技術に基づく双方向拡声システムを説明するものであり、図20Aはパネルの正面であり、図20Bは当該パネルの平面視を含む、システムのブロック図であり、そして、図20Cは、当該システムの他の例に係るブロック図である。制御回路40は、マイクロフォンモジュールMa、Ma’夫々が収音した音声を、マイクロフォンモジュールがある側と反対側のスピーカSPAB、SPAB’夫々から出力するという系を、パネルの両側において実現している。即ち、Ma’⇒SPAB⇒Ma⇒SPAB’⇒Ma’・・・・という「8の字形」帰還ループが生じ、ループ内に明確な減衰要素が存在しないため、結局は、十分な拡声音量を得る前にハウリングが発生する。
【0079】
このように、単純に拡声系の2系統をシステムに組み込むだけでは、既述の課題を解決することはできない。また、図20Cは更に一般的な事例であり、直接音の収音効率を上げ受話者の耳の位置での音圧を上げるために、単一指向性マイクロフォンMa、Ma’とスピーカSPAB、SPAB’を話者の直近に置いた例である。一見すると、拡声利得が上がるようではあるが、マイクロフォンとスピーカとの距離が近くなるので両者間の伝達関数H(ω)は著しく大きくなり、結局は「8の字形」帰還ループのため安定に拡声利得を上昇させることができない。
【0080】
なお、図21に示すように、電力増幅器44に周波数補正回路(イコライザー/EQ)70を前置することにより、音声の特定帯域を強調したり明瞭度に関係しない音声帯域の低域や室の暗騒音(バックグラウンドノイズ)をカットしたりすることができる。
【0081】
そして、図22に示すように、スピーカモジュールSPAからマイクロフォンモジュールMaへ回りこんだエコー成分(エコー残差成分)を予めインパルス応答測定などで求めておき、それと同じ成分を帰還させて(74、76)キャンセルする回路(エコーキャンセラー)72を制御回路40に追加することにより、系のループゲイン(LG)を更に低減(ゼロに近づける)することができる。これらの回路、技術を併用することにより、当該発明に基づく産業製品の精度や機能を向上させることができる。
【0082】
なお、既述の実施形態は、パネルによって隔てられる複数の人物間の会話を円滑にするシステムについて説明したが、これに限らず、壁、ガラス窓、扉、スクリーン等仕切りと称し得るもので、複数の人物間を仕切り部材に本発明に係るマイクロフォン、スピーカ、制御回路を適用することができる。
【0083】
既述の実施形態は、パネルを介して1対1に人物が対面することを説明したが、パネルを介して複数の人物が対面する態様にも本発明を適用することができる。すなわち、係る本発明の形態は、スピーカモジュールの1個または1対と、マイクロフォンモジュールの1本または1対を1組とし、それを横に広げ多人数による大規模会議に対応させた拡張型の会話支援システムであり、パネルの開口部などはマイクモジュールの位置に応じて適宜形成可能なものである。さらに、本発明の形態は、マイクアンプとパワーアンプ(電力増幅器)の間にDSP(Digital Signal Processor)を用いてエコーキャンセル回路、周波数補正回路、遅延回路、などを挿入して、対ハウリング/エコー性能、音質、音像定位などを改善した会話支援システムである。さらに、この出願の開示は、制御回路によって実現される会話支援方法を包含する。
【符号の説明】
【0084】
10 衝立パネル
12 開口部
16 開放部
Ma マイクロフォンモジュール
SPA スピーカモジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図20A
図20B
図20C
図21
図22