(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023056979
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20230413BHJP
A61K 6/40 20200101ALI20230413BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20230413BHJP
A61K 6/61 20200101ALI20230413BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20230413BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20230413BHJP
A61K 6/76 20200101ALI20230413BHJP
A61K 6/77 20200101ALI20230413BHJP
C08F 4/40 20060101ALI20230413BHJP
C08F 4/76 20060101ALI20230413BHJP
C08F 4/50 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/40
A61K6/60
A61K6/61
A61K6/70
A61K6/71
A61K6/76
A61K6/77
C08F4/40
C08F4/76
C08F4/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166530
(22)【出願日】2021-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】川名 麻梨子
(72)【発明者】
【氏名】武井 満
(72)【発明者】
【氏名】野尻 大和
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭秀
(72)【発明者】
【氏名】安宅 謙介
【テーマコード(参考)】
4C089
4J015
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA10
4C089BA04
4C089BA10
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC03
4C089BC05
4C089BC08
4C089BC10
4C089BC12
4C089BD01
4C089BD02
4C089BD10
4C089CA03
4C089CA06
4C089CA09
4J015CA05
4J015DA13
4J015DA18
4J015DA33
(57)【要約】
【課題】操作時間が適度な範囲内にあり、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度に優れる歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、ヒドロペルオキシド(C)、及び一般式(1)で表されるチオ尿素化合物(D)を含有する歯科用硬化性組成物。
(式中、A
1及び/又はA
5はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A
2~A
4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、ヒドロペルオキシド(C)、及び下記一般式(1)で表されるチオ尿素化合物(D)を含有する、歯科用硬化性組成物。
【化1】
(式中、A
1及び/又はA
5はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A
2~A
4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である。)
【請求項2】
A1及び/又はA5がヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A2~A4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
A1及び/又はA5がヒドロキシ基であり、A2~A4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、又はハロゲン原子である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
前記チオ尿素化合物(D)が粉末状であり、歯科用硬化性組成物中に前記チオ尿素化合物(D)が分散されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項5】
さらに遷移金属化合物(E)を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
前記遷移金属化合物(E)が、銅化合物又はバナジウム化合物である、請求項5に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項7】
さらに配位子化合物(F)を含有し、
前記配位子化合物(F)が、リン原子を含む配位子、及び窒素原子を含む配位子からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項8】
前記配位子化合物(F)が、リン原子を含む配位子であり、
前記リン原子を含む配位子が、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、及び下記一般式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項7に記載の歯科用硬化性組成物。
【化2】
(R
1~R
15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有して
いてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【化3】
(R
16~R
35はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表し、X
1は置換基
を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化4】
(Arはそれぞれ独立して、下記一般式(4-a)で表される基を表す。)
【化5】
(Z
1~Z
3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基であり、Z
1~Z
3の少なくとも1つが水素原子である。)
P(OY
1)
3 (5)
(Y
1はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有して
いてもよいアリール基を表す。)
【請求項9】
前記配位子化合物(F)が、窒素原子を含む配位子であり、
前記窒素原子を含む配位子が、一般式(6)で表される化合物、一般式(7)で表される化合物、及び含窒素複素環を含む多座配位子(8)からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物であり、
前記多座配位子(8)が、窒素原子を含む5員環又は6員環を含む複素環を含み、分子中に窒素原子を2個以上有し、2座以上の配位子化合物である、請求項7に記載の歯科用硬化性組成物。
R
36R
37N-X
2-NR
38R
39 (6)
(R
36~R
39はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、X
2は置換基を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化6】
(R
40、R
41、及びR
42はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、X
3、及びX
4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよく、酸素原子、及び/又は窒素原子を含んでいてもよい二価の脂肪族基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、1以上の整数を表し、Y
2は置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基又はジアルキ
ルアミノ基を表し、R
40、R
41、R
42及びY
2のうち任意の2つ以上が一緒になって環を
形成していてもよい。R
41、R
42、X
3、及びX
4が複数存在する場合、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【請求項10】
さらにフィラー(G)を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項11】
第一剤と第二剤を備える、2ペースト型である、請求項1~10のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項12】
前記第一剤が、酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、及びヒドロペルオキシド(C)を含有し、
前記第二剤が、酸性基を有しない重合性単量体(B)、及び一般式(1)で表されるチオ尿素化合物(D)を含有する、請求項11に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項13】
歯科用レジンセメントである、請求項11又は12に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療において、クラウン、インレー、ブリッジ等の歯科用補綴物と歯質との接着、及び支台築造等に用いられる歯科用硬化性組成物に関する。より詳しくは、操作時間が適度な範囲内にあり、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度に優れる歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕や破折等により損傷を受けた歯牙の欠損部位の修復治療のために、接着材料や充填修復材料が広く使用されている。歯牙の修復に使用する接着材料、充填修復材料としては、重合性単量体、重合開始剤、フィラーなどからなるレジン系の歯科用硬化性組成物が汎用されている。
【0003】
レジン系の歯科用硬化性組成物のうち、歯科用補綴物と歯質との接着に用いる材料は歯科用レジンセメントと呼ばれている。また、歯髄に達する深いう蝕の修復治療においては、歯髄を除去し支台歯を築造することが必要となるが、これに用いる材料は歯科支台築造用コンポジットレジンと呼ばれている。歯科用レジンセメント、及び歯科支台築造用コンポジットレジンは、いずれもペースト状の組成物であり、一般に重合性単量体、重合開始剤系、安定剤等を溶解させた液状の重合性単量体含有組成物と粉末状のフィラー等とを混合することにより製造され、容器に充填された状態で使用者である歯科医師に提供される。歯科用硬化性組成物は、その使用期限内において、一定の性能を維持することが求められる。
【0004】
歯科用レジンセメント又は歯科支台築造用コンポジットレジンの材料に含有されている重合性単量体としては、(メタ)アクリレートが一般的に用いられている。また、歯科用レジンセメントに歯質又は補綴物に対する接着性を付与するためにはリン酸基、又はカルボキシル基等の酸性基を有する重合性単量体が含有される。酸性基を有する重合性単量体が含有され、接着性が付与された歯科用レジンセメントは、自己接着性歯科用レジンセメントと呼ばれる。
【0005】
これらの歯科用硬化性組成物を重合硬化させるために、酸化剤、還元剤等からなるレドックス型の重合開始剤系が用いられることがある。この場合、重合開始剤系の酸化剤と還元剤とは、例えば、酸化剤を含有する第一剤と、還元剤を含有する第二剤とに分包されており、分包型の歯科用硬化性組成物の状態で使用者である歯科医師に提供される。歯科医師がこの分包型の歯科用硬化性組成物を使用する直前に、酸化剤を含む第一剤と還元剤を含む第二剤とを混合させることで、レドックス反応によりラジカルが発生し、歯科用硬化性組成物の重合硬化が進行する。
【0006】
従来、歯科用硬化性組成物に使用されるレドックス型の重合開始剤系としては、過酸化ベンゾイルと芳香族アミン化合物とからなる重合開始剤系が汎用されてきた。しかしながら、この開始剤系を用いると、過酸化ベンゾイルの熱的安定性が低いことに起因して組成物の保存安定性が低いという問題があった。具体的には、過酸化ベンゾイルを含む組成物は室温以上の温度環境において長期間保存されると、過酸化ベンゾイルの分解による硬化性の低下や、使用前の組成物における固化などの不具合が生じることがあった。したがって、過酸化ベンゾイルを含む組成物を歯科医師等の使用者に提供する際には、例えば保管温度を室温よりも低く規定する、使用期限を短く設定するなどの対策が必要であり、使用性や品質の安定性の観点で改善の余地があった。
【0007】
そこで、近年では化学重合開始剤として、過酸化ベンゾイルに代わる安定性のより高い有機過酸化物を含む化学重合開始剤系が使用されている。具体的には、安定性の高い過酸化物とチオ尿素誘導体を組み合わせたレドックス重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物が挙げられる。この化学重合開始剤系は、熱的安定性が高く、これを含む歯科用硬化性組成物は、室温での保存安定性が高い。しかしながら、その一方で、硬化性が低いという問題があった。この問題を解決するために、当該化学重合開始剤系に遷移金属化合物を添加した重合開始剤系が開発されている。
【0008】
特許文献1では、ヒドロペルオキシド、チオ尿素誘導体、及び遷移金属化合物として銅化合物を含む化学重合開始剤系が開示されている。当該化学重合開始剤系により、高い保存安定性と硬化性が実現したとの記載がある。また、特許文献2では、t-ブチルヒドロペルオキシド、チオ尿素誘導体、及び遷移金属化合物としてバナジウム化合物を含む化学重合開始剤系が開示されている。この化学重合開始剤系により、さらに保存安定性が向上したとの記載がある。
【0009】
【特許文献1】特開2007-056020号公報
【特許文献2】特開2009-144054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが検討した結果、特許文献1、2に開示された歯科用硬化性組成物の中には、確かに従来技術と比較して保存安定性及び硬化性に優れるものもあるが、これらの特許文献に記載の化学重合開始剤系の含有量を適度な操作時間となるように調整して用いた場合、歯質に対する接着性及び機械的強度に改善の余地があった。
【0011】
そこで本発明では、操作時間が適度な範囲内にあり、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度に優れる歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、操作時間が適度な範囲内にあり、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度に優れる歯科用硬化性組成物に関して鋭意検討を重ねた結果、特定の構造のチオ尿素化合物を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、ヒドロペルオキシド(C)、及び下記一般式(1)で表されるチオ尿素化合物(D)を含有する、歯科用硬化性組成物。
【化1】
(式中、A
1及び/又はA
5はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A
2~A
4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子で
ある。)
[2]A
1及び/又はA
5がヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A
2~A
4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である、[1]に記載の歯科用硬化性組成物。
[3]A
1及び/又はA
5がヒドロキシ基であり、A
2~A
4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、又はハロゲン原子である、[1]に記載の歯科用硬化性組成物。
[4]前記チオ尿素化合物(D)が粉末状であり、歯科用硬化性組成物中に前記チオ尿素化合物(D)が分散されている、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[5]さらに遷移金属化合物(E)を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[6]前記遷移金属化合物(E)が、銅化合物又はバナジウム化合物である、[5]に記載の歯科用硬化性組成物。
[7]さらに配位子化合物(F)を含有し、
前記配位子化合物(F)が、リン原子を含む配位子、及び窒素原子を含む配位子からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[8]前記配位子化合物(F)が、リン原子を含む配位子であり、
前記リン原子を含む配位子が、一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、及び下記一般式(5)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、[7]に記載の歯科用硬化性組成物。
【化2】
(R
1~R
15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有して
いてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【化3】
(R
16~R
35はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有してい
てもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表し、X
1は置換基
を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化4】
(Arはそれぞれ独立して、下記一般式(4-a)で表される基を表す。)
【化5】
(Z
1~Z
3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基であり、Z
1~Z
3の少なくとも1つが水素原子である。)
P(OY
1)
3 (5)
(Y
1はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有して
いてもよいアリール基を表す。)
[9]前記配位子化合物(F)が、窒素原子を含む配位子であり、
前記窒素原子を含む配位子が、一般式(6)で表される化合物、一般式(7)で表される化合物、及び含窒素複素環を含む多座配位子(8)からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物であり、
前記多座配位子(8)が、窒素原子を含む5員環又は6員環を含む複素環を含み、分子中に窒素原子を2個以上有し、2座以上の配位子化合物である、[7]に記載の歯科用硬化性組成物。
R
36R
37N-X
2-NR
38R
39 (6)
(R
36~R
39はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、X
2は置換基を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【化6】
(R
40、R
41、及びR
42はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、X
3、及びX
4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよく、酸素原子、及び/又は窒素原子を含んでいてもよい二価の脂肪族基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、1以上の整数を表し、Y
2は置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基又はジアルキ
ルアミノ基を表し、R
40、R
41、R
42及びY
2のうち任意の2つ以上が一緒になって環を
形成していてもよい。R
41、R
42、X
3、及びX
4が複数存在する場合、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。)
[10]さらにフィラー(G)を含有する、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[11]第一剤と第二剤を備える、2ペースト型である、[1]~[10]のいずれかに
記載の歯科用硬化性組成物。
[12]前記第一剤が、酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、及びヒドロペルオキシド(C)を含有し、
前記第二剤が、酸性基を有しない重合性単量体(B)、及び一般式(1)で表されるチオ尿素化合物(D)を含有する、[11]に記載の歯科用硬化性組成物。
[13]歯科用レジンセメントである、[11]又は[12]に記載の歯科用硬化性組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操作時間が適度な範囲内にあり、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度に優れる歯科用硬化性組成物を提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の歯科用硬化性組成物は酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、ヒドロペルオキシド(C)、及び下記一般式(1)のチオ尿素化合物(D)を含有する。
【化7】
(式中、A
1及び/又はA
5はヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A
2~A
4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である。)
【0016】
本発明の歯科用硬化性組成物により本発明の効果が奏される機序は明らかではないが、ベンゼン環のオルト位に一般式(1)で示す特定の置換基を有するチオ尿素化合物(D)を含有することにより重合開始剤系の活性が向上するためであると推定される。すなわち、一般式(1)のA1及び/又はA5の置換基のうち、ベンゼン環に直接結合している原子は非共有電子対を有するが、これが様々な効果を発現していると推測される。例えば、A1及び/又はA5の置換基のうち、ベンゼン環に直接結合している原子が有する非共有電子対がチオ尿素の窒素原子に結合している水素原子と分子内で相互作用してチオ尿素化合物の反応性を高める効果が挙げられる。また、チオ尿素化合物の窒素原子とA1及び/又は
A5の置換基のうち非共有電子対を有する原子が本発明の歯科用硬化性組成物が適用され
る歯質を構成する成分であるハイドロキシアパタイトのCa原子と相互作用して歯質近傍での重合開始能を高めることが挙げられる。以下、本発明の歯科用硬化性組成物に含有される成分についてそれぞれについて説明する。
【0017】
本発明の歯科用硬化性組成物は、酸性基を有する重合性単量体(A)を含有する。酸性基を有する重合性単量体(A)は、歯質を脱灰する作用を有する。酸性基を有する重合性単量体(A)は、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、かつアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基等の重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体である。歯質に対する接着性の観点から、酸性基を有する重合性単量体(A)は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基又はメタクリルアミド基のいずれ
か1個を重合性基として有する単官能性であることが好ましい。具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0018】
リン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート等のリン酸基を有する単官能性(メタ)アクリレート化合物、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩;ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート等のリン酸基を有する二官能性(メタ)アクリレート化合物、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0019】
ホスホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホノアセテート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0020】
ピロリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0021】
チオリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフ
ェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
カルボン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、4-[2-〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エトキシカルボニル]フタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物;5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0023】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアミン塩等が挙げられる。
【0024】
前記酸性基を有する重合性単量体(A)の中では、リン酸基を有する重合性単量体、ピロリン酸基を有する重合性単量体、及びカルボン酸基を有する重合性単量体が歯質に対してより優れた接着性を発現するので好ましく、特に、リン酸基を有する重合性単量体、及びカルボン酸基を有する重合性単量体が好ましい。それらの中でも、分子内に主鎖としてC6~C20のアルキル基又はC6~C20のアルキレン基を有するリン酸基を有する(メタ)アクリレート系単官能性重合性単量体又はカルボン酸基を有する(メタ)アクリレート系重合性単量体がより好ましく、分子内に主鎖としてC8~C12のアルキレン基を有するリ
ン酸基を有する(メタ)アクリレート系単官能性重合性単量体がさらに好ましい。また、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及び4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物が好ましく、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが最も好ましい。
【0025】
酸性基を有する重合性単量体(A)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。酸性基を有する重合性単量体(A)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、接着性がより優れる点から、本発明の歯科用硬化性組成物の重合性単量体成分の全量100質量部において、1~50質量部の範囲が好ましく、2~25質量部の範囲がより好ましく、2~10質量部の範囲がさらに好ましい。
【0026】
本発明の歯科用硬化性組成物は、酸性基を有しない重合性単量体(B)を含有する。酸性基を有しない重合性単量体(B)は、重合開始剤系によりラジカル重合反応が進行して高分子化する重合性単量体である。酸性基を有しない重合性単量体(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。酸性基を有しない重合性単量体(B)として、下記の水溶性重合性単量体(B-1)及び疎水性重合性単量体(B-2)が好適に挙
げられる。
【0027】
水溶性重合性単量体(B-1)とは、25℃における水に対する溶解度が10質量%以上の重合性単量体を意味する。同溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。水溶性重合性単量体(B-1)は、歯科用硬化性組成物の成分の歯質への浸透を促進するとともに、自らも歯質に浸透して歯質中の有機成分であるコラーゲンに接着する。水溶性重合性単量体(B-1)としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」と略称することがある)、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド等の単官能性(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)等の二官能性(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体などが挙げられ、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリレート」等の表現も同様である。
【0028】
疎水性重合性単量体(B-2)とは、25℃における水に対する溶解度が10質量%未満の架橋性の重合性単量体を意味する。架橋性の重合性単量体(B-2)としては、例えば、芳香族化合物系の単官能性重合性単量体及び二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の単官能性重合性単量体及び二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などが挙げられる。疎水性重合性単量体(B-2)は、歯科用硬化性組成物の機械的強度、取り扱い性などを向上させる。
【0029】
芳香族化合物系の単官能性重合性単量体としては、ベンジル(メタ)アクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-フェノキシベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でもベンジルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0030】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、芳香族ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の具体例としては、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(以下、「Bis-GMA」と略称することがある)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。これらの中でも、2,
2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)(以下、「D2.6E」と略称することがある)が好ましい。
【0031】
脂肪族化合物系の単官能性重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、イソボルニルメタクリレートが好ましい。
【0032】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(以下、「TEGDMA」と略称することがある)、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタン等の二官能性(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体;N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系重合性単量体などが挙げられる。これらの中でも、グリセロールジメタクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート及び1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタンが好ましい。
【0033】
脂肪族化合物系の三官能性以上の重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。
【0034】
前記酸性基を有しない重合性単量体(B)の中でも、本発明の歯科用硬化性組成物の接着強さ及び重合硬化性の観点から、HEMA、Bis-GMA、D2.6E、TEGDMAがより好ましい。
【0035】
上記の酸性基を有しない重合性単量体(B)(水溶性重合性単量体(B-1)及び疎水
性重合性単量体(B-2))は、いずれも1種を単独で含有してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。酸性基を含有しない重合性単量体(B)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、組成物の歯質への浸透性が高く接着性に優れるとともに、十分な強度を有する点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の全量100質量部において、50~99質量部の範囲が好ましく、60~98質量部の範囲がより好ましく、70~95質量部の範囲がさらに好ましい。
【0036】
続いて、重合開始剤系について述べる。本発明の歯科用硬化性組成物は、重合開始剤系の酸化剤としてヒドロペルオキシド(C)、還元剤として特定構造を有するチオ尿素化合物(D)を含む。ヒドロペルオキシド(C)と、チオ尿素化合物(D)とを用いて、さらに他の成分と組み合わせることで、所望の操作時間が得られ、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度に優れる歯科用硬化性組成物が得られる。
【0037】
ヒドロペルオキシド(C)としては、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、p-ジイソプロピルベンゼンジヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド等が挙げられる。これらの中でも、中でも、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドが好適に用いられる。
【0038】
ヒドロペルオキシド(C)は1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。ヒドロペルオキシド(C)の含有量は、硬化性、硬化物の機械的強度、及び歯質に対する接着性及び保存安定性の観点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の全量100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲が好ましく、0.1~5質量部の範囲がより好ましく、0.5~3質量部の範囲がさらに好ましい。
【0039】
チオ尿素化合物(D)としては、一般式(1)において、A1及び/又はA5がヒドロキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基のいずれかであり、A2~A4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である化合物が好ましく、所望の操作時間が得られ、歯質に対する接着性、及び硬化物の機械的強度により優れる点から、A1及び/又はA5がヒドロキシ基であり、A2~A4はそれぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、炭化水素基、カルボキシ基、又はハロゲン原子である化合物がより好ましい。
【0040】
A1~A5のアルコキシ基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。A1
~A5のアルコキシ基の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が
さらに好ましく、1~3が特に好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-
ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec-ペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソヘキシル
オキシ基等が挙げられる。
【0041】
A1~A5のジアルキルアミノ基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれのアルキル基を有していてもよい。ジアルキルアミノ基の各アルキル基の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、エチルメチルアミノ基等が挙げられる。ジアルキルアミノ基のアルキル
基は、置換基で置換されていてもよい。該置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0042】
A2~A4の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。A2~A4のアルキル基の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。A2~A4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。アルケニル基
は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。A2~A4のアルキル基の炭素数は、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2~3が特に好ましい。A2~A4のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基等が挙げられる。A2~A4のシクロアルキル基の炭素数は、3~10が好ましく、3~9がより好ましく、3~8がさらに好ましく、3~6が特に好ましい。A2~A4のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0043】
チオ尿素化合物(D)としては、N-(2-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,6-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,4-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-ジメチルアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-ジエチルアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-エトキシフェニル)チオ尿素、N-(2,6-ジメトキシフェニル)チオ尿素、N-(2,4-ジメトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシ-4-ジメチルアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシ-3-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ジメチルアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-ジエチルアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-ジメチルアミノ-4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ジメチルアミノ-4-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-エトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-アミノフェニル)チオ尿素、N-(2,4-ジアミノフェニル)チオ尿素、N-(2,6-ジアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)チオ尿素などが挙げられる。これらの中でも、N-(2-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,6-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,4-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-ジメチルアミノフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-ジエチルアミノフェニル)チオ尿素が好ましく、N-(2-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,6-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,4-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-エトキシフェニル)チオ尿素がより好ましく、N-(2-ヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,6-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2,4-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素、N-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)チオ尿素が特に好ましい。
【0044】
チオ尿素化合物(D)は、歯質の接着界面近傍でのチオ尿素化合物の反応性を高めることができ、所望の操作時間が得られ、歯質に対する接着性により優れる点から、粉末状の形態であることが好ましい。粉末状のチオ尿素化合物(D)が、歯科用硬化性組成物中に分散されていることで、歯科用硬化性組成物が歯面に適用された際にチオ尿素化合物が歯質の接着界面に存在する水分によって溶解し、局所的に濃度が高まることによって接着界面における反応性をより高めることができる。チオ尿素化合物(D)は、その粒子径が過
大であると硬化反応が遅延されるが、その粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって組成物中へ分散可能な量が減少するため、平均粒子径は0.01~50μmが好ましく、0.01~20μmがより好ましい。平均粒子径はフィラー(G)の測定方法と同様の方法が挙げられる。粉末状のチオ尿素化合物(D)の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限はない。また、粉末状のチオ尿素化合物(D)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法等の従来公知の方法で作製することができる。
【0045】
前記チオ尿素化合物(D)の含有量は、硬化性、硬化物の機械的強度、及び歯質に対する接着性及び保存安定性の観点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の全量100質量部に対して、0.005~10質量部の範囲が好ましく、0.01~5質量部の範囲がより好ましく、0.1~3質量部の範囲がさらに好ましい。
【0046】
本発明の歯科用硬化性組成物は、遷移金属化合物(E)を含んでいてもよい。遷移金属化合物(E)には、ヒドロペルオキシド(C)と特定構造を有するチオ尿素化合物(D)によるレドックス反応を促進する効果がある。遷移金属化合物(E)としては、銅化合物及びバナジウム化合物が好適に用いられる。
【0047】
銅化合物としては、カルボン酸銅(II)、β-ジケトン銅(II)、β-ケトエステル銅(II)、銅アルコキシド、ジチオカルバミン酸銅、銅と無機酸の塩等が挙げられる。カルボン酸銅(II)としては、クエン酸銅(II)、酢酸銅(II)、フタル酸銅(II)、酒石酸銅(II)、オレイン酸銅(II)、オクチル酸銅(II)、オクテン酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)、メタクリル酸銅(II)、4-シクロヘキシル酪酸銅(II)等が挙げられる。β-ジケトン銅(II)としては、アセチルアセトン銅(II)、トリフルオロアセチルアセトン銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトン銅(II)、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト銅(II)、ベンゾイルアセトン銅(II)等が挙げられる。β-ケトエステル銅(II)としては、アセト酢酸エチル銅(II)等が挙げられる。銅アルコキシドとしては、銅(II)メトキシド、銅(II)エトキシド、銅(II)イソプロポキシド、銅(II)2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシド、銅(II)2-(2-メトキシエトキシ)エトキシド等が挙げられる。ジチオカルバミン酸銅としては、ジメチルジチオカルバミン酸銅(II)等が挙げられる。銅と無機酸の塩としては、硝酸銅(II)、臭化銅(II)及び塩化銅(II)が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を適宜組合せて用いてもよい。これらの内でも、重合性単量体に対する溶解性と反応性の観点から、カルボン酸銅(II)、β-ジケトン銅(II)、β-ケトエステル銅(II)が好ましく、酢酸銅(II)、アセチルアセトン銅(II)がより好ましい。
【0048】
バナジウム化合物としては、好ましくはIV価及び/又はV価のバナジウム化合物類である。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、バナジルアセチルアセトナート(IV)、ステアリン酸酸化バナジウム(IV)、シュウ酸オキソバナジウム(IV)、硫酸バナジル(IV)、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシド、メタバナジン(V)酸ナトリウム、メタバナジン(V)酸アンモニウム等が挙げられ、中でも接着性などの観点から、バナジウムアセチルアセトナート、バナジルアセチルアセトナート(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)が好ましく、バナジルアセチルアセトナート(IV)及びビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)が好ましい。バナジウム化合物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
前記遷移金属化合物(E)の含有量は、硬化性、硬化物の機械的強度、歯質に対する接着性の観点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の全量100質量部に対して、0.0001~1質量部の範囲が好ましく、0.0003~0.5質量部の範囲がより好ましく、0.0005~0.2質量部の範囲がさらに好ましい。
【0050】
本発明の歯科用硬化性組成物は配位子化合物(F)を含有していてもよい。配位子化合物(F)は、ヒドロペルオキシド(C)とチオ尿素化合物(D)の重合開始剤系に作用し、重合開始剤系の活性が向上し、硬化性、硬化物の機械的強度、歯質に対する接着性に優れる点から、リン原子を含む配位子及び窒素原子を含む配位子からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物であることが好ましい。リン原子を含む配位子は、リン原子を配位原子として含む。窒素原子を含む配位子は、窒素原子を配位原子として含む。ある好適な実施形態としては、配位子化合物(F)は、窒素原子を含む配位子を含む歯科用硬化性組成物が挙げられる。他の好適な実施形態としては、配位子化合物(F)が、リン原子を含む配位子及び窒素原子を含む配位子を含む歯科用硬化性組成物が挙げられる。
【0051】
前記リン原子を含む配位子としては、例えば、ホスフィン配位子、ホスファイト配位子が挙げられる。前記リン原子を含む配位子としては、具体的には、下記一般式(2)で表される化合物、一般式(3)で表される化合物、一般式(4)で表される化合物、及び下記一般式(5)で表される化合物等が挙げられる。リン原子を含む配位子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
【化8】
(R
1~R
15は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有して
いてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表す。)
【0053】
【化9】
(R
16~R
35はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、極性基、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基を表し、X
1は置換基
を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【0054】
【化10】
(Arはそれぞれ独立して、下記一般式(4-a)で表される基を表す。)
【0055】
【化11】
(Z
1~Z
3はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアルコキシ基であり、Z
1~Z
3の少なくとも1つが水素原子である。)
【0056】
P(OY1)3 (5)
(Y1はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有して
いてもよいアリール基を表す。)
【0057】
R1~R15の置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれで
あってもよい。R1~R15のアルキル基の炭素数は、特に限定されず、1~12が好まし
く、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。R1~R15のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-
ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペン
チル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘ
プチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等が挙げられる。R1~R15のアルキル基は無置換であってもよい。R1~R15のアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基、いずれも炭素数1~6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基、アミノ基等が挙げられる。
【0058】
R1~R15のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が
挙げられる。
【0059】
R1~R15の極性基としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カ
ルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、アルデヒド基、エポキシ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキル置換アミノ基、ジアルキル置換アミノ基、イミド基、オキサゾリン基などが挙げられ、硬化性、硬化物の機械的強度の点から、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、アルデヒド基が好ましく、カルボン酸基、カルボン酸エステル基
、カルボン酸塩化物基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸塩基、アルデヒド基がより好ましく、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸塩基がさらに好ましい。カルボン酸塩基及びスルホン酸塩基の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩:マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。R1~R15の極性基である場合、極性基の数は1~9が好ましく、1~5
がより好ましく、1~3がさらに好ましい。R1~R15が置換基を有するアルキル基であ
る場合、具体的には、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0060】
R1~R15の置換基を有していてもよいアルコキシ基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれ
であってもよい。R1~R15のアルコキシ基の炭素数は、特に限定されず、1~12が好
ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。R1
~R15のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ
基、イソペンチルオキシ基、sec-ペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、ネオペ
ンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、sec-ヘキシルオキシ
基、tert-ヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基等が挙げられる。R1~R15のアル
コキシ基の置換基としては、R1~R15のアルキル基の置換基と同様のものが挙げられる
。
【0061】
R1~R15は、同一であってもよく、異なっていてもよい。R1~R15は、例えば、一部が同じ水素原子、アルキル基又はアルコキシ基であってもよい。
【0062】
R16~R35の置換基を有していてもよいアルキル基は、R1~R15の置換基を有してい
てもよいアルキル基と同様である。R16~R35の置換基を有していてもよいアルコキシ基は、R1~R15の置換基を有していてもよいアルコキシ基と同様である。R16~R35のハ
ロゲン原子は、R1~R15のハロゲン原子と同様である。R16~R35の極性基は、R1~R15の極性基と同様である。
【0063】
X1の置換基を有していてもよい二価の脂肪族基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであ
ってもよい。二価の脂肪族基の炭素数としては、1~20が好ましく、1~16がより好ましく、1~12がさらに好ましく、1~8が特に好ましい。二価の脂肪族基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基などが挙げられる。X1の二価の脂肪族基の置換基としては、R1~R15のアルキル基の置換基と同様のものが挙げられる。
【0064】
式(4)において、複数のArは、同一であってもよく、異なっていてもよい。一般式(4-a)で表される基において、Z
1~Z
3は同一であってもよく、異なっていてもよい。Z
1~Z
3の置換基を有していてもよいアルキル基は、R
1~R
15の置換基を有していて
もよいアルキル基と同様である。Z
1~Z
3の少なくとも1つは水素原子であり、Z
1~Z
3はすべて水素原子であってもよい。Arの具体例としては、例えば、以下の基が挙げられる。
【化12】
【0065】
ある実施形態では、Z1~Z3のうち、1つ又は2つが水素原子であり、Z1~Z3の他の1つ又は2つは、ハロゲン原子で置換された直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~6のアルキル基であってもよく、フッ素原子で置換された直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル基であってもよく、トリフルオロメチル基であってもよい。Z1~Z3の置換基を有していてもよいアルコキシ基は、R1~R15の置換基を有していてもよいアルコキシ基と同
様である。ある好適な実施形態としては、一般式(4)で表される化合物において、すべてのArが、3,5-ジメチルフェニル基である、ホスフィン化合物が挙げられる。他の好適な実施形態としては、一般式(4)で表される化合物において、すべてのArが、4-メチルフェニル基である、ホスフィン化合物が挙げられる。
【0066】
一般式(5)で表されるホスファイト配位子について、3つのY1は、同一であっても
よく、異なっていてもよい。Y1の置換基を有していてもよいアルキル基は、R1~R15の置換基を有していてもよいアルキル基と同様である。Y1の置換基を有していてもよいア
リール基の炭素数は、6~20が好ましく、6~14がより好ましく、6~10がさらに好ましい。Y1のアリール基の置換基としては、R1~R15のアルキル基の置換基と同様のものが挙げられる。Y1の置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、
ビフェニル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、フルオレニル基、ピレニル基;トリル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、テトラメチルフェニル基等のアルキル基で置換されたフェニル基等が挙げられる。ある好適な実施形態としては、3つのY1が、1,1,1,3,3
,3-ヘキサフルオロ-2-プロピル基である、ホスファイト化合物が挙げられる。他の好適な実施形態としては、3つのY1が、2,4,-ジ-tert-ブチルフェニル基である、ホスファイト化合物が挙げられる。
【0067】
上記一般式(2)で表される単座ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン(以下、「TPP」と省略することがある)、ジフェニル(o-トリル)ホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、トリス(2,4,6-トリメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニルホスフィン)、トリス(4-メトキシフェニルホスフィン)、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン(以下、「DMPP」と省略することがある)、ジフェニル(2-メトキシフェニル)ホスフィン、4-(ジメチルアミノ)トリフェニルホスフィン等の電子供与性基を有するホスフィン化合物;(2-フルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、(2-クロロフェニル)ジフェニルホスフィン、(2-ブロモフェニル)ジフェニルホスフィン、(ペンタフルオロフェニル)ジフェニルホスフィン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン(以下、「BPFPP」と省略することがある)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン(以下、「TPFPP」と省略することがある)、トリス(4-フルオロフェニル)ホスフィン(以下、「TFPP」と省略することがある)、トリス(4-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4-ブロモフェニル)ホスフィン、トリス(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4-カルボキシフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィノベンゼン-3-スルホン酸ナトリウム、トリフェニルホスフィン-3,3’,3”-トリスルホン酸三ナトリウム等の電子吸引基を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0068】
上記一般式(3)の2座ホスフィン化合物としては、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,6-ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、1,2-ビス[ビス(ペンタフルオロフェニル)-ホスフィノ]エタン等のホスフィン化合物が挙げられる。
【0069】
上記一般式(4)の2座ホスフィン配位子としては、(±)-2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(以下、「BINAP」と省略することがある)、(±)-2,2’-ビス(ジ-p-トリルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-p-フルオロホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス(ジ-p-トリフルオロメチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、(±)-2,2’-ビス[ジ(3,5-キシリル)ホスフィノ]-1,1’-ビナフチル等が挙げられる。
【0070】
上記一般式(5)のホスファイト配位子としては、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロピル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0071】
前記窒素原子を含む配位子としては、例えば、一般式(6)で表される化合物、一般式(7)で表される化合物、及び含窒素複素環を含む多座配位子(8)等が挙げられる。窒素原子を含む配位子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
R36R37N-X2-NR38R39 (6)
(R36~R39はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、X2は
置換基を有していてもよい二価の脂肪族基を表す。)
【0073】
【化13】
(R
40、R
41、及びR
42はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基を表し、X
3、及びX
4はそれぞれ独立して、置換基を有していてもよく、酸素原子、及び/又は窒素原子を含んでいてもよい二価の脂肪族基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、1以上の整数を表し、Y
2は置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基又はジアルキ
ルアミノ基を表し、R
40、R
41、R
42及びY
2のうち任意の2つ以上が一緒になって環を
形成していてもよい。R
41、R
42、X
3、及びX
4が複数存在する場合、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【0074】
R36~R39の置換基を有していてもよいアルキル基は、R1~R15の置換基を有してい
てもよいアルキル基と同様である。
【0075】
X2の置換基を有していてもよい二価の脂肪族基は、X1の置換基を有していてもよい二価の脂肪族基と同様である。
【0076】
R40、R41、及びR42の置換基を有していてもよいアルキル基は、R1~R15の置換基
を有していてもよいアルキル基と同様である。Y2のモノアルキルアミノ基(‐NHRa(Raはアルキル基を表す))及びジアルキルアミノ基(‐NRbRc(Rb及びRcはアルキ
ル基を表す))の炭素数は、特に限定されず、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。Y2のモノアルキルアミノ基及び
ジアルキルアミノ基のアルキル基としては、R1~R15の置換基を有していてもよいアル
キル基のうち前記炭素数を満たすものが挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、それぞれのアルキル基が前記炭素数を有するものであってもよい。Y2の置換基を有していて
もよいモノアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基等が挙げられる。Y2の置換基を有していても
よいジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、エチルメチルアミノ基が挙げられる。Y2のモノアル
キルアミノ基及びジアルキルアミノ基のアルキル基は、置換基で置換されていてもよい。該置換基としては、R1~R15のアルキル基の置換基と同様のものが挙げられる。
【0077】
X3及びX4の二価の脂肪族基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。二価の脂肪族基の炭素数としては、1~20が好ましく、1~16がより好ましく、1~12がさらに好ましく、1~8が特に好ましい。二価の脂肪族基としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられ、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルプロピレン基、ジメチルプロピレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基などが挙げられる。X3及びX4の二価の脂肪族基の置換基としては、X1の二価の脂肪族基の
置換基と同様のものが挙げられる。X3及びX4の二価の脂肪族基は、酸素原子、及び/又は窒素原子を含んでいてもよい。X3及びX4は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0078】
m及びnはそれぞれ独立して、1以上の整数を表し、1~8の整数であることが好ましく、1~6の整数であることがより好ましく、1~5の整数であることがさらに好ましく、1~3であることが特に好ましい。m及びnは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0079】
R40、R41、R42及びY2のうち任意の2つ以上が一緒になって環を形成していてもよ
い。例えば、R40、R41、又はR42と、Y2とが一緒になって環を形成していてもよい。
また、R40とY2、R41とR42がそれぞれ一緒になって環を形成し、化合物としては2つ
の環を有していてもよい。さらに、Yのアミノ基の窒素原子とR40とが一緒になって環を形成していてもよい。前記環は、酸素原子及び/又は窒素原子を含んでいてもよい。さらに、ある実施形態では、一般式(7)で表される化合物は、ビシクロ環を有する化合物であってもよい。例えば、他の実施形態では、一般式(7)で表される化合物において、Y2とR40とは一緒になって形成された環と、さらにR41又はR42と、Y2とが一緒になって形成された環とを有する、ビシクロ環を有する化合物であってもよい。
【0080】
ある好適な実施形態では、R41及びR42は、炭素数1~6の置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。
【0081】
また、他のある好適な実施形態としては、配位子化合物(F)を含有し、前記配位子化合物(F)が一般式(2)で表される化合物、及び一般式(6)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つである、歯科用硬化性組成物が挙げられる。
【0082】
また、他のある好適な実施形態としては、配位子化合物(F)を含有し、前記配位子化合物(F)が一般式(7)で表される化合物であり、前記一般式(7)で表される化合物において、R40、R41及びR42が、炭素数1~6の置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、X3及びX4の二価の脂肪族基が、酸素原子及び窒素原子を含まないアルキレン基を表し、m及びnはそれぞれ独立して、1以上の整数を表し、Y2
は置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基を表し、R40、R41、又はR42と、Y2とが一緒になって環を形成していてもよい、歯科用硬化性組成
物が挙げられる。
【0083】
また、他のある好適な実施形態としては、配位子化合物(F)を含有し、前記配位子化合物(F)が一般式(7)で表される化合物であり、前記一般式(7)において、mが1であり、nが2である、化合物全体として窒素原子を4つ含む化合物である、歯科用硬化性組成物が挙げられる。
【0084】
前記含窒素複素環を含む多座配位子(8)は、窒素原子を含む5員環又は6員環を含む複素環を含み、分子中に窒素原子を2個以上有し、2座以上の配位子化合物を表す。多座配位子(8)が分子中に有する窒素原子は2個以上であり、3個以上であってもよい。多座配位子(8)が含む複素環の数は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。前記含窒素複素環としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環等の含窒素5員環;ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピペラジン環、ピリミジン環、トリアジン環等の含窒素6員環等が挙げられる。前記含窒素複素環は、前記窒素原子を含む5員環又は6員環と他の環(例えば芳香環)との縮合環であってもよく、窒素原子を含む5員環又は6員環同士の縮合環であってもよい。前記窒素原子を含む5員環又は6員環と芳香環との縮合環としては、キノリン環、イソキノリン環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環等が挙げられる。多座配位子(8)は、窒素原子を含む5員環又は6員環を含む複素環を含んでいればよく、例えば、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環等の縮合環と、窒素原子を含む5員環又は6員環を含む複素環とを含む配位子化合物が挙げられる。多座配位子(8)の多座性としては、2座以上であればよく、3座、4座等であってもよい。
【0085】
上記一般式(6)で表される多座アミン化合物としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(以下、「TMEDA」と省略することがある)、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン(以下、「TMPDA」と省略することがある)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン(以下、「TEEDA」と省略することがある)、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等の2座配位の多座アミン化合物等が挙げられる。
【0086】
上記一般式(7)で表される化合物としては、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン等のシクロ環を有する化合物;4,11-ジメチル-1,4,8,11-テトラアザビシクロヘキサデカン等のビシクロ環を有する化合物;2,5,9,12-テトラメチル-2,5,9,12-テトラアザテトラデカン、2,6,9,13-テトラメチル-2,6,9,13-テトラアザテトラデカン、2,5,8,12-テトラメチル-2,5,8,12-テトラアザテトラデカン、N,N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(以下、「PMDETA」と省略することがある)、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン、N,N-ビス(2-ジメチルアミノエチル)-N,N’-ジメチルエチレンジアミン(以下「HMTETA」と省略することがある)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(以下、「Me6TREN」と省略することがある)等の環を有しない化合物等の多座アミン
化合物が挙げられる。
【0087】
上記含窒素複素環を含む多座配位子(8)としては、N-(n-プロピル)ピリジルメタンイミン、N-(n-オクチル)ピリジルメタンイミン等の含窒素複素環を1個有する多座配位子;2,2-ビピリジン、4,4’-ジ-(5-ノニル)-2,2’-ビピリジン、N-プロピル-N,N-ジ(2-ピリジルメチル)アミン、N’,N’’-ジメチル-N’,N’’-ビス((ピリジン-2-イル)メチル)エタン-1,2-ジアミン、2,6-ビス(1-ピラゾール)-ピリジン(以下、「DPP」と省略することがある)、2-(2-ピリジル)ベンゾイミダゾール、トリス[(2-ピリジル)メチル]アミン、3,6-ジ(2-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、2,4,6-トリ(2-ピリジル)-1,3,5-トリアジン等の含窒素複素環を2個以上有する多座配位子等が挙げられる。
【0088】
これらの中でも、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、TMEDA、TMPDA、TEEDA、PMDETA、Me6TREN
が好適に用いられる。配位子化合物(F)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。配位子化合物(F)は、本発明の歯科用硬化性組成物における遷移金属化合物(E)の触媒活性を高めるために用いられる。配位子化合物(F)の含有量は、硬化性、硬化物の機械的強度、及び歯質に対する接着性の観点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の全量100質量部に対して、0.005~10質量部の範囲が好ましく、0.01~5質量部の範囲がより好ましく、0.05~3質量部の範囲がさらに好ましい。
【0089】
本発明の歯科用硬化性組成物は、組成物の十分な操作性、さらに硬化物の十分なX線不透過性及び機械的強度を得るため、フィラー(G)を含んでもよい。
【0090】
フィラー(G)としては、本発明の効果を損なわない限り、あらゆるフィラーを用いることができ、無機系フィラー、有機系フィラー、及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。フィラー(G)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。フィラー(G)の平均粒子径は0.001~10μmが好ましく、平均粒子径が0.001~5μmがより好ましい。
【0091】
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカなどのシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、BaO、La2O3、SrO、ZnO、CaO、P2O5、Li2O、Na2Oなどを含有する、セラミックス及びガラス類が挙げられる。ガラス類としては、リチウムボロシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラス、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラスが挙げられる。無機系フィラーとしては結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。接着性、取り扱い性の点で、平均粒子径が0.001~0.1μmの微粒子シリカが好ましく使用される。市販品としては、「アエロジル(登録商標)OX50」、「アエロジル(登録商標)50」、「アエロジル(登録商標)200」、「アエロジル(登録商標)380」、「アエロジル(登録商標)R972」、「アエロジル(登録商標)130」、「AEROXIDE(登録商標)Alu C」(以上、いずれも日本アエロジル株式会社製、商品名)が挙げられる。なお、本発明において、無機系フィラーに後記するように表面処理をした場合は、無機系フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。
【0092】
有機系フィラーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレ
ート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴムが挙げられる。
【0093】
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが挙げられる。
【0094】
硬化性、機械的強度、取り扱い性を向上させるために、フィラー(G)はシランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0095】
平均粒子径(平均一次粒子径)はレーザー回折散乱法又は粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。本発明において、0.1μmはレーザー回折散乱法により測定した値である。レーザー回折散乱法は、例えば、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いて分散媒に用いて体積基準でレーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300、株式会社島津製作所製)により測定できる。電子顕微鏡観察には、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU3800、S-4000等)を使用できる。電子顕微鏡観察は、粒子の電子顕微鏡写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0096】
フィラー(G)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、本発明の歯科用硬化性組成物の重合性単量体成分の全量100質量部に対して、50~300質量部の範囲が好ましく、100~250質量部の範囲がより好ましい。これらの範囲内であれば、硬化物の十分なX線不透過性、又は十分な機械的強度が得られるとともに、十分なペーストの操作性が得られる。
【0097】
本発明の歯科用硬化性組成物は、レドックス型の重合開始剤を含むものである。本発明の歯科用硬化性組成物は、必要に応じて、光照射によっても重合開始するデュアルキュア型の組成物とするために、上述の重合開始剤系とは別の成分として、さらに従来公知の光重合開始剤を含有してもよい。
【0098】
光重合開始剤は、α-ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-アミノアセトフェノン類が挙げられる。
【0099】
α-ジケトン類としては、例えば、dl-カンファーキノン(通称「CQ」)、ベンジル、2,3-ペンタンジオンが挙げられる。
【0100】
ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが挙げられる。
【0101】
チオキサントン類としては、例えば、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチ
オキサントンが挙げられる。
【0102】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスフィンオキシド、特公平3-57916号公報に開示の水溶性のアシルホスフィンオキシド化合物、及びこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、トリス(2,4-ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、トリス(2-メトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド、及びこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等が挙げられる。これら(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩が好ましい。
【0103】
α-アミノアセトフェノン類としては、例えば、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-ベンジル-2-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ペンタノン、2-ベンジル-2-ジエチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ペンタノンが挙げられる。
【0104】
前記光重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。光重合開始剤の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用硬化性組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100質量部に対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.005~5質量部であることがより好ましく、0.01~3質量部であることがさらに好ましい。
【0105】
また、光硬化性を高めるために、光重合開始剤と、光重合開始剤用の重合促進剤とを併用してもよい。光重合開始剤用の重合促進剤としては、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール化合物、トリハロメチル基により置換されたトリアジン系化合物などが挙げられる。
【0106】
第3級アミン類としては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピ
ルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、N-メチルジエタノールアミン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N-メチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、N-エチルジエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミンモノ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミンジ(メタ)アクリレート、トリエタノールアミントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒドやベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-メトキシベンズアルデヒド、p-エトキシベンズアルデヒド、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。チオール化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、チオ安息香酸などが挙げられる。トリハロメチル基により置換されたトリアジン系化合物としては、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基などのトリハロメチル基を少なくとも一つ有するs-トリアジン化合物であれば公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
【0107】
前記光重合開始剤用の重合促進剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。光重合開始剤用の重合促進剤の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用硬化性組成物の硬化性等の観点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体成分の全量100質量部に対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.005~5質量部であることがより好ましく、0.01~3質量部であることがさらに好ましい。
【0108】
本発明の歯科用硬化性組成物は、他の化学重合開始剤の重合促進剤をさらに含んでいてもよい。他の化学重合開始剤の重合促進剤としては、スルフィン酸及びその塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ボレート化合物、バルビツール酸及びその誘導体などが挙げられる。これらはそれぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
スルフィン酸及びその塩としては、例えば、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-ト
リイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましい。
【0110】
亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム等が挙げられる。亜硫酸水素塩としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。ボレート化合物としては、例えば、1分子中に1~4個のアリール基を有するアリールボレート化合物(例えば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素等)及びこれらの塩などが挙げられる。バルビツール酸及びその誘導体としては、例えば、バルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、及びこれらの塩などが挙げられる。
【0111】
本発明の歯科用硬化性組成物は、さらにフッ素イオン放出性物質を含んでいてもよい。フッ素イオン放出性物質を配合することによって、歯質に耐酸性を付与することができる歯科用レジンセメントが得られる。かかるフッ素イオン放出性物質としては、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体などのフッ素イオン放出性ポリマー;セチルアミンフッ化水素酸塩、シクロヘキシルアミンフッ水素酸塩、ジイソブチルアミンフッ水素酸塩、トリエチルアミン三フッ化水素酸塩などの脂肪族又は脂環式第1、第2又は第3級アミンのフッ化水素酸塩;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物類等が挙げられる。前記フッ素イオン放出性物質は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
この他、本発明の歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、溶媒(例えば、水、有機溶媒)、pH調整剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。これらは、それぞれ1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。ある実施形態では、歯科用硬化性組成物における溶媒(例えば、水、有機溶媒)の含有量が歯科用硬化性組成物の全量において、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
【0113】
本発明の歯科用硬化性組成物は、前記成分の種類及び量に応じて、常法に従い調製すればよい。本発明の歯科用硬化性組成物は、好ましくは二剤型の形態で用いられる。二剤型の形態としては、粉材と液材の形態、ペーストと液材の形態、2ペースト型の形態等から適宜選択して実施できるが、操作性の観点でより好ましい実施形態では、2ペースト型の形態で用いられる。それぞれのペーストをペースト同士が隔離された状態で保存し、使用直前にその2つのペーストを混練し、化学重合を進行させて硬化させることが好ましい。前記ペーストは、通常、フィラー(G)以外の成分を混合して調製した液状成分とフィラー(G)(粉末)とを混練することにより調製される。ある好適な実施形態としては、第一剤と第二剤を備える、2ペースト型である歯科用硬化性組成物が挙げられる。前記2ペ
ースト型である歯科用硬化性組成物において、前記第一剤が、酸性基を有する重合性単量体(A)、酸性基を有しない重合性単量体(B)、及びヒドロペルオキシド(C)を含有し、前記第二剤が、酸性基を有しない重合性単量体(B)、及び一般式(1)で表されるチオ尿素化合物(D)を含有する、歯科用硬化性組成物が好ましい。さらに、他の好適な実施形態としては、前記2ペースト型である歯科用硬化性組成物において、前記第一剤又は第二剤の少なくとも一方に、遷移金属化合物(E)を含有する、歯科用硬化性組成物が挙げられる。また、別の他の好適な実施形態としては、前記2ペースト型である歯科用硬化性組成物において、前記第一剤又は第二剤の少なくとも一方に、配位子化合物(F)を含有する、歯科用硬化性組成物が挙げられる。
【0114】
本発明の歯科用硬化性組成物は、歯牙患部の欠損部に対してクラウン、インレー、ブリッジ等の歯科用補綴物と歯質との接着、及び支台築造等に用いられ、歯科用レジンセメントとして好適に用いられる。特に、自己接着性歯科用レジンセメントとして好適に用いられる。
【0115】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、前記構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例0116】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下で用いる略称及び略号については次の通りである。以下の実施例及び比較例に用いた化合物及びフィラーは、特に製造方法を記載した場合を除いて、市販品を用いた。
【0117】
〔酸性基を有する重合性単量体(A)〕
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0118】
〔酸性基を有しない重合性単量体(B)〕
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
D2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
【0119】
〔ヒドロペルオキシド(C)〕
THP:1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド
【0120】
〔チオ尿素化合物(D)〕
N-(2-ヒドロキシフェニル)チオ尿素
N-(2,6-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素
N-(2,4-ジヒドロキシフェニル)チオ尿素
N-(2-ジメチルアミノフェニル)チオ尿素
N-(2-メトキシフェニル)チオ尿素
N-(2-メトキシ-3-ヒドロキシフェニル)チオ尿素
PhTU:N-フェニルチオ尿素
AHETU:1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素
HEETU:1-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリジン-2-チオン
m-HPTU:N-(3-ヒドロキシフェニル)チオ尿素
p-HPTU:N-(4-ヒドロキシフェニル)チオ尿素
m-CPTU:N-(3-カルボキシフェニル)チオ尿素
【0121】
〔遷移金属化合物(E)〕
CuA:酢酸銅(II)
VOAA:バナジルアセチルアセトナート(IV)
【0122】
〔配位子化合物(F)〕
TPP:トリフェニルホスフィン
BPFPP:ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルホスフィン
TEEDA:N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン
【0123】
〔フィラー(G)〕
表面処理バリウムガラス:
バリウムガラス(エステック社製、商品コード「E-3000」)をボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉の平均粒子径をレーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.4μmであった。このバリウムガラス粉100質量部に対して常法により3質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、表面処理Baガラス粉末を得た。
R972:日本アエロジル株式会社製の微粒子シリカ、商品名「アエロジル(登録商標)R972」、平均粒子径:16nm
アルミナ:日本アエロジル株式会社製の酸化アルミニウム、商品名「AEROXIDE(登録商標)Alu C」、平均粒子径:20nm
【0124】
〔重合禁止剤〕
BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
【0125】
(実施例1~12及び比較例1~8)
表1及び2に記載の各成分の内、フィラー以外の成分を常温で混合し、均一な液状成分とした後、得られた液状成分とフィラーとを混練することにより、実施例1~12及び比較例1~8の歯科用硬化性組成物を調製した。次いで、これらの歯科用硬化性組成物を用い、後述の方法に従って、製造直後において、23℃における操作時間、牛歯象牙質への接着強さ、及び曲げ強さを測定した。表1及び2に、この歯科用硬化性組成物の配合比(質量部)及び試験結果を示す。
【0126】
[歯科用硬化性組成物の23℃における操作時間]
23℃の恒温室において第一剤と第二剤を質量比1:1で混合し、ヘラにてよく混和して1剤とした。混合した時刻からペーストの硬化開始によって温度が上昇し始める時刻までの時間(操作時間)を記録計(横河電機株式会社製)に接続した熱電対(株式会社岡崎製作所製)により測定した。操作時間は、5個の供試サンプルについての測定値の平均値である。なお、余裕をもって組成物を用いて操作でき、かつ操作後に硬化できるという操作余裕時間としての観点から、実使用に適した操作時間は、2~8分である。
【0127】
[歯科用硬化性組成物の牛歯象牙質への接着強さ]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して象牙質の平坦面を露出させた。露出した平坦面を流水下にて#1000のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定した。実施例及び比較例の各歯科用硬化性組成物の第一剤及び第二剤を等量採取し、10秒間練和した後に、得られた練和物を、ステ
ンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)に築盛した。次いで、上記の丸穴の中心と上記のステンレス製円柱棒の中心とが略一致するように、該歯科用硬化性組成物を築盛した側の端面を丸穴内の平滑面(被着面)に載置し、その平滑面に対して垂直にステンレス製の円柱棒を押し付けて接着して、供試サンプルを作製した。供試サンプルは、5個作製した。供試サンプルを、30分間25℃で静置し、蒸留水に浸漬した。蒸留水に浸漬した供試サンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。この供試サンプルについて、37℃24時間静置後の牛歯象牙質への引張接着強さを測定した。引張接着強さは、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ「AG-I 100kN」)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。表中の、象牙質への引張接着強さは、5個の供試サンプルについての37℃24時間静置後の牛歯象牙質への引張接着強さの測定値の平均値である。
【0128】
[歯科用硬化性組成物の硬化物の曲げ強さ及び曲げ弾性率]
スライドガラス板上にポリエステルフィルムを敷設し、その上に縦2mm×横25mm×深さ2mmのステンレス製の型枠を載置した。次いで、本発明の歯科用硬化性組成物の第一剤と第二剤を混和したものを型枠内に充填し、型枠内の組成物の表面をポリエステルフィルムを介してスライドガラスで圧接し、2枚のスライドガラスを幅25mmのダブルクリップを用いて固定した。ダブルクリップで固定したサンプルを37℃の恒温器内で1時間静置して重合硬化させた後、サンプルを恒温器から取り出し、型枠から組成物の重合硬化物を取り外した。重合硬化物を37℃の蒸留水中に24時間浸漬して保管した後、これを試験片として曲げ試験を行った。曲げ強さは、万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ「AG-I 100kN」)により、スパン20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ試験を行って測定した。5個の試験片についての曲げ強さの平均値をその試料の曲げ強さとした。また、5個の試験片についての曲げ弾性率の平均値をその試験片の曲げ弾性率とした。
【0129】
【0130】
【0131】
表1に示すように、本発明の歯科用硬化性組成物(実施例1~12)は、調製直後の23℃における操作時間(表中、「23℃操作時間」)が適度であり、牛歯象牙質への接着強さ及び曲げ強さに優れる結果であった。
【0132】
一方で、表2に示すように、特定の構造を有さないチオ尿素化合物を用いて適度な操作時間に調整した組成物を用いた比較例1~8では、牛歯象牙質への接着強さ及び/又は曲げ強さが実施例と比較して低い結果であった。