(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057011
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/124 20060101AFI20230413BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230413BHJP
F16J 15/3236 20160101ALI20230413BHJP
F16J 15/43 20060101ALI20230413BHJP
F16J 15/53 20060101ALI20230413BHJP
H02K 11/225 20160101ALI20230413BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20230413BHJP
H02K 5/20 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
H02K5/124
F16J15/3232
F16J15/3236
F16J15/43
F16J15/53
H02K11/225
H02K9/19 A
H02K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090658
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021165988
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 逸男
(72)【発明者】
【氏名】片岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】田口 俊文
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
5H605
5H609
5H611
【Fターム(参考)】
3J006AA01
3J006AB03
3J006AE25
3J006AE30
3J006AE41
3J006CA02
3J042AA05
3J042AA12
3J042BA04
3J043AA16
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3J043CB30
3J043HA01
3J043HA03
5H605AA01
5H605AA03
5H605BB05
5H605BB10
5H605BB17
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5H605CC10
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5H609PP02
5H609PP05
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5H611AA01
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5H611PP07
5H611QQ01
5H611QQ03
5H611RR01
5H611UA08
(57)【要約】
【課題】コンパクトで且つ信頼性の高い真空シール構造を備えるアクチュエータを提供すること。
【解決手段】アクチュエータは、ロータ及びステータを有するモータと、前記モータを収容するハウジングと、前記モータにより回転駆動され、一端が真空チャンバ内に位置し、他端が大気側に位置する回転伝達部材と、前記回転伝達部材を回転可能に支持する軸受と、前記真空チャンバと前記大気側の間に形成された少なくとも1つの中間真空室と、前記中間真空室の大気側を封止する樹脂シールと、前記中間真空室の真空チャンバ側を封止する磁性流体シールと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ及びステータを有するモータと、
前記モータを収容するハウジングと、
前記モータにより回転駆動され、一端が真空チャンバ内に位置し、他端が大気側に位置する回転伝達部材と、
前記回転伝達部材を回転可能に支持する軸受と、
前記真空チャンバと前記大気側の間に形成された少なくとも1つの中間真空室と、
前記中間真空室の大気側を封止する樹脂シールと、
前記中間真空室の真空チャンバ側を封止する磁性流体シールと、
を備えるアクチュエータ。
【請求項2】
前記磁性流体シールは、1重の磁性流体で構成される1層の磁性流体シールである請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記中間真空室は低真空用の真空ポンプで減圧され、前記真空チャンバは高真空用の真空ポンプで減圧される請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記中間真空室と前記真空チャンバの圧力差は100Pa以下である請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記樹脂シールはフッ素系樹脂からなるシールである請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記軸受は大気側に配置される請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記軸受はフッ素系グリースで潤滑される請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記軸受には、定位置予圧又は定圧予圧が付与されている請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記アクチュエータは前記回転伝達部材の回転を検出する回転センサをさらに備え、前記回転センサは電子的な素子を含まないレゾルバからなる請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記回転センサの被検出体と、前記モータのロータは、前記回転伝達部材に直接接続されている請求項9に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記モータは永久磁石を使用しないSR(Switched Reluctance)型モータである請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記モータは高温下で使用できるサーボモータである請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項13】
前記樹脂シールは、環状のリップ面を有する接触タイプのシールである請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項14】
前記樹脂シールはV型またはU型のフッ素シールである請求項1~4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項15】
前記アクチュエータは、前記真空チャンバを内部に有する外部装置の所定の面に取り付けられ、前記磁性流体シールは前記ハウジング内に位置しており、
前記アクチュエータは、前記外部装置の所定の面と、前記磁性流体シールとの間に冷却構造を備える請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項16】
前記冷却構造は、前記モータのハウジングの一部に形成された溝と、前記溝を流れる冷媒とを有する請求項15に記載のアクチュエータ。
【請求項17】
前記溝の形状は、前記回転伝達部材の回転中心軸を通る断面で見た場合、前記回転中心軸に向かって長辺を有する矩形である請求項16に記載のアクチュエータ。
【請求項18】
前記矩形の長辺は、前記外部装置の前記所定の面から前記磁性流体シールに伝わる熱の伝導方向に平行である請求項17に記載のアクチュエータ。
【請求項19】
前記冷媒は、気体または液体である請求項16~18のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項20】
前記溝は、前記回転中心軸を中心とした略環状の溝である請求項16~18のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項21】
前記冷却構造は、前記アクチュエータの外部から前記冷媒を前記溝に導入する冷媒導入部と、前記冷媒を前記溝から前記アクチュエータの外部へ排出する冷媒排出部とを備える請求項16~18のいずれかに記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクチュエータに関し、特に真空シール構造を備えるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
真空環境(例えば、真空チャンバ内)で加工プロセス等を行う製造装置では、製造装置へ回転力を導入する回転導入装置(アクチュエータ)からの発塵を極力抑える必要がある。従来、回転導入装置からのごみの発生を抑制する目的で、回転導入装置内に磁性流体シールが真空シールとして設置される場合がある。真空側と大気側の圧力差が大きい場合、磁性流体シールがバースト現象を起こさないようにするために、磁性流体シールは何層も重ねて使用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、回転導入装置のハウジング内に回転軸を軸封して設け、当該回転軸を介して真空チャンバ内に位置する回転体を大気側から封止した状態で回転駆動する回転導入装置が開示されている。特許文献1では、ハウジングと回転軸との間に真空チャンバへ通じるオリフィス部を設け、ハウジング内に当該オリフィス部から大気側へ通じる排気口が設けられている。また、回転軸をハウジングに対して軸封するための磁性流体軸封装置が設けられている。大気側から真空チャンバに向かって、多重の磁性流体シール、排気口、オリフィスが配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、磁性流体シールを何層も重ねて使用するので、回転導入装置(アクチュエータ)の真空シール構造のサイズが大きくなってしまう。
本発明は上記課題を解決すべく、コンパクトで且つ信頼性の高い真空シール構造を備えるアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一つの態様によるアクチュエータは、ロータ及びステータを有するモータと、前記モータを収容するハウジングと、前記モータにより回転駆動され、一端が真空チャンバ内に位置し、他端が大気側に位置する回転伝達部材と、前記回転伝達部材を回転可能に支持する軸受と、前記真空チャンバと前記大気側の間に形成された少なくとも1つの中間真空室と、前記中間真空室の大気側を封止する樹脂シールと、前記中間真空室の真空チャンバ側を封止する磁性流体シールと、を備える。
【0007】
上記アクチュエータでは、樹脂シールと磁性流体シールと1つ以上の中間真空室とにより真空シール構造が構成される。
【0008】
好ましくは、前記磁性流体シールは、1重の磁性流体で構成される1層の磁性流体シールである。前記中間真空室は低真空用の真空ポンプで減圧され、前記真空チャンバは高真空用の真空ポンプで減圧されてよい。好ましくは、前記中間真空室と前記真空チャンバの圧力差は100Pa以下である。前記樹脂シールは、例えば、フッ素系樹脂からなるシールである。
前記軸受は、大気側に配置されてよい。また、前記軸受は、フッ素系グリースで潤滑されてよい。好ましくは、前記軸受には、定位置予圧又は定圧予圧が付与される。
【0009】
前記アクチュエータは前記回転伝達部材の回転を検出する回転センサをさらに備えてよい。好ましくは、前記回転センサは電子的な素子を含まないレゾルバからなる。
好ましくは、前記モータは永久磁石を使用しないSR型モータである。
好ましくは、前記回転センサの被検出体と、前記モータのロータは、前記回転伝達部材に直接接続される。
好ましくは、前記モータは、高温下で使用できるサーボモータである。
前記樹脂シールは、環状のリップ面を有する接触タイプのシールであってよい。前記樹脂シールは、例えば、V型またはU型のフッ素シールである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アクチュエータは、コンパクトで且つ信頼性の高い真空シール構造を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の実施形態1に係るアクチュエータの概略図である。
【
図4】
図4は実施形態2のアクチュエータの垂直断面図である。
【
図5】
図5は実施形態2のアクチュエータの水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。尚、本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更及び修正等をすることが可能である。
【0013】
実施形態1
本発明の実施形態1に係るアクチュエータ10を
図1~
図3に基づいて説明する。
図1は、アクチュエータ10の概略図である。本実施形態のアクチュエータ10は、真空チャンバ22内で加工プロセス等を行う製造装置20の底面20aに取り付けられている。
図1の右側において、アクチュエータ10と製造装置20の間には、ターボ分子ポンプ30とドライポンプ40が設けられている。製造装置20は、例えば、半導体製造装置である。製造装置20は真空チャンバ22を有している。製造装置20が半導体製造装置である場合、真空チャンバ22内には、半導体ウエハを把持して移動させる回転機構(例えば、アーム等。図示せず。)が設けられる。製造装置20が半導体ウエハを加工する装置である場合、良好な加工品質を達成するために、真空チャンバ22内に塵等が侵入しないことが求められる。アクチュエータ10は、製造装置20内の回転機構へ回転力を導入するので回転導入装置と称してもよい。製造装置20が半導体製造装置である場合、アクチュエータ10は高温下で使用されることになる。製造装置20はアクチュエータ10から見ると外部装置であり、製造装置20は真空チャンバ22を内部に有している。製造装置20の底面20aは、アクチュエータ10が取り付けられる所定の面である。
【0014】
アクチュエータ10は、ハウジング12と、ハウジング12内で回転可能に設けられた回転伝達部材58と、回転伝達部材58を回転可能に支持する第1軸受16、第2軸受17と、モータ18と、磁性流体シール50と、樹脂シール52と、第1検出器54と、第2検出器56とを有する。モータ18はハウジング12内に収容されている。符号24は第1軸受16と第2軸受17の回転中心軸を示している。
図1において、回転伝達部材58の軸方向(Z方向)を上下方向と称する。また、
図1において回転中心軸24から右側を径方向外方(X方向)と称することがある。第1軸受16及び第2軸受17は、大気側に配置されている。第1軸受16の転動体16c及び第2軸受17の転動体17cの潤滑は、例えば、グリース潤滑を採用する。グリース潤滑の場合、例えば、フッ素系グリースを使用する。モータ18は、例えば、高温下で使用することができるサーボモータである。
第1軸受16は、内輪16a、外輪16b及び転動体16cにより構成されている。第2軸受17は、第1軸受16の下方に設けられ、内輪17a、外輪17b及び転動体17cにより構成されている。第1軸受16の内輪16aと第2軸受17の内輪17aの間には、内輪間座38が設けられている。第1軸受16の外輪16bと第2軸受17の外輪17bの間には、外輪間座39が設けられている。内輪間座38と外輪間座39により、第1軸受16と第2軸受17には、定位置予圧が付与される。
【0015】
ハウジング12は、ステンレス製またはアルミ製で、円筒形状を有している。ハウジング12は、第1軸受16の内輪16aと第2軸受17の内輪17bを支持する軸受支持部12aを有している。軸受支持部12aは回転中心軸24に沿って延びている。また、ハウジング12は、軸受支持部12aの下部から径方向外方に延びる水平部12bと、水平部12bの端部から上方に延びる外周部12cと、外周部12cの上端から製造装置20に至る上部12dと、上部12dの下に位置する延出部(排気通路下部形成部)12eとを有している。上部12dは、ボルト(図示せず)により製造装置20に固定されている。排気通路下部形成部12eは、ボルト(図示せず)により上部12dに固定されている。上部12dと外周部12cは一体である。水平部12bは、外周部12cにボルト34で固定されている。ハウジング12の軸受支持部12a~排気通路下部形成部12eは、製造装置20に対して固定されている。
出力軸15は、上部フランジ15a、中間フランジ15b及び下部フランジ15cを有する。上部フランジ15a~下部フランジ15cは、まとめて回転体と称してもよい。下部フランジ15cは径方向に延びる部分59を有する。当該部分59はモータ18のロータ18bの回転を出力軸15に伝達する部分であるので、回転伝達部(または回転伝達部材)59と称する。
【0016】
モータ18はアクチュエータ10の駆動部である。モータ18は、例えば、SRモータ(Switched Reluctance Motor)である。SRモータはスタート時に高トルクを生成することができる。また、SRモータは高速回転が可能である。SRモータは、永久磁石を必要としない。
モータ18は、ステータ18aと、ロータ(回転子)18bと、コイル18dと、コイル18dをリード線に繋ぐ結線部18cとを有する。モータ18のステータ18aはハウジング12の上部12dにボルト36で固定されている。ロータ18bは回転伝達部材58を介して出力軸15に接続されている。より詳しくは、ロータ18bは回転伝達部材58を介して、出力軸15の回転伝達部材59に接続されている。よって、ロータ18bの回転は、回転伝達部材58及び回転伝達部59を介して出力軸15の中間フランジ15b及び上部フランジ15aに伝達される。回転力伝達部材58はロータ18bに接続されている。また、回転伝達部材58は第1軸受16の外輪16bと第2軸受17の外輪17bにも接続されている。回転伝達部材58と回転伝達部材59はボルト(図示せず)により締結されている。尚、モータ18は制御回路(図示せず)により制御される。
【0017】
ハウジング12の軸受支持部12aの径方向内側には第1検出器54と、第2検出器56が取り付けられている。本実施形態では、第1検出器54はアブソリュートレゾルバであり、第2検出器56はインクリメンタルレゾルバである。第1検出器54は第2検出器56の上に位置している。第1検出器54は、回転伝達部材59の回転角度の絶対値(1回転の絶対角度)を出力するエンコーダである。第2検出器56は、回転伝達部材59の回転速度に比例した周波数のパルスを発生する。第2検出器56は、パルス数をカウントすることで回転伝達部材59の回転量を検出することができる。第2検出器56は、高分解能で相対角度を検出する検出器である。第1検出器54及び第2検出器56は、回転センサであり、電気的な素子を使用しないレゾルバである。第1検出器54、第2検出器56と、モータ18との間には第1軸受16、第2軸受17及び軸受支持部12aが位置しているので、モータ18から発生する磁力(磁界)が第1検出器54及び第2検出器56に達することを抑制することができる。
【0018】
第1検出器54の径方向内側には、所定の間隙をおいて、第1被検出体55が設けられている。第1被検出体55は、レゾルバロータと称してもよい。その場合、第1検出器54をレゾルバステータと称してもよい。第2検出器56の径方向内側には、所定の間隙をおいて、第2被検出体57が設けられている。第2被検出体57も、レゾルバロータと称してよい。その場合、第2検出器56をレゾルバステータと称してもよい。第1被検出体55及び第2被検出体57は、回転伝達部材59と共に回転する。第1被検出体55及び第2被検出体57は、例えば、低炭素鋼からなる。第1検出器54及び第2検出器56の出力(検出結果)は、モータ18の制御装置に入力される。
【0019】
出力軸15の下部フランジ15cには、第1検出器54に検出される第1被検出体55が取り付けられていると共に、第2検出器56に検出される第2被検出体57が取り付けられている。よって、第1被検出体55と第2被検出体57とモータ18の回転子18bは、共に回転する。
【0020】
上部フランジ15aの上端は、真空チャンバ22内に位置している。上部フランジ15aの上端には、真空チャンバ22内で所定の動作や処理を行う機構(例えば、ロボットアーム等)が接続されている。モータ18の駆動により回転伝達部材58、59が回転し、出力軸15の回転により上記機構が回転する。
【0021】
中間フランジ15bの右側には中間真空室60が形成されている。中間真空室60の右端には樹脂シール52が設けられている。樹脂シール52はフッ素系樹脂からなる。ハウジング12の外周部12cには、樹脂シール52からモータ18の収容空間に至る大気通路25が形成されている。大気通路25内の圧力は大気圧である。
磁性流体シール50は、中間真空室60と真空チャンバ22の間に位置して、中間フランジ15bを軸封している。本実施形態では、磁性流体シール50を1層のみ配置している。磁性流体シール50の1層とは、磁性流体のシール部が1巻であることを意味する。磁性流体シール50は、公知の構成を有し、磁石と磁性部材と磁性流体を有し、磁性流体によりシール部が形成される。
【0022】
ハウジング12の上部12d及び排気通路下部形成部12eにはL字を90度右に倒した形状の排気通路27が形成されている。排気通路27の水平部分は、ハウジング12の上部12dに形成されている。排気通路27の下部は、排気通路下部形成部12eに形成されている。排気通路27の出口27aには、カップリング28が設けられている。カップリング28には、真空引き用管29aを介してドライポンプ40が接続されている。排気通路27の入口27bは、排気通路下部形成部12eの下面に形成され、中間真空室60に開口している。よって、本実施形態では、樹脂シール52と磁性流体シール50の間に中間真空室60が形成され、中間真空室60は排気通路27、カップリング28及び真空引き用管29aにより、ドライポンプ40に接続される。ドライポンプ40の駆動により、中間真空室60内の圧力を例えば10Pa程度に減ずることができる。ドライポンプ40とターボ分子ポンプ30は真空引き用管29bにより接続されている。ターボ分子ポンプ30の低圧側は真空引き用管29cを介して製造装置20の真空チャンバ22に接続されている。真空チャンバ22内の圧力はターボ分子ポンプ30の駆動により例えば1×10
-4Pa程度に減ずることができる。ドライポンプ40とターボ分子ポンプ30を繋ぐ管29bの上端(ターボ分子ポンプ30に接続する端)の圧力は、例えば、100Pa程度である。本実施形態では、排気通路27の排気により、差動排気効果が生じ、真空チャンバ22の内部が高い真空度に減圧・維持される。真空チャンバ22と中間真空室60の圧力差は100Pa以下であることが好ましい。
尚、
図1では回転中心軸24の左側が示されていないが、アクチュエータ10の構造は回転中心軸24を中心として左右対称である。出力軸15は1つのモータ15で回転中心軸24回りに回転させられる。
【0023】
図2は
図1の構成を簡略化した図である。
図2から分かるように、本実施形態では大気側から真空チャンバ22に向かって、樹脂シール52、中間真空室60、1層の磁性流体シール50が配置されている。また、磁性流体シール50と樹脂シール52により、回転伝達部材59及び中間フランジ15bはハウジング12内に軸封状態で設けられている。中間真空室60は比較的低真空用の真空ポンプであるドライポンプ40により減圧され、真空チャンバ22は高真空用の真空ポンプであるターボ分子ポンプ30で真空にされる。樹脂シール52と、中間真空室60と、1層の磁性流体シール50とにより、真空シール構造が形成されている。
【0024】
図3は樹脂シール52の拡大断面図である。樹脂シール52は、回転中心軸24を中心にした環状の部材である。
図3に示すように、樹脂シール52は断面U字(またはV字)状の本体62と、本体62の内側に設けられたスプリング63とからなる。本体62は樹脂製(例えば、フッ素樹脂製)である。本体62は、内側の垂直部分62aと外側の垂直部分62bを有する。また、内側の垂直部分62aの上部にはリップ面62cが形成されている。リップ面62cは、回転中心軸24を中心にした環状面になっている。樹脂シール52はU型またはV型のフッ素シールである。
【0025】
樹脂シール52の内側の垂直部分62aは、ハウジング12の排気通路下部形成部12eに接触する。樹脂シール52の外側の垂直部分62bは回転伝達部材59に接触する。つまり、樹脂シール52の内周面を規定する垂直部分62aは固定体であるハウジング12に接触し、樹脂シール52の外周面を規定する垂直部分62bは回転体の一部である回転伝達部材59に接触する。よって、樹脂シール52は接触型のシールである。
スプリング63は金属製(例えば、ステンレス鋼)である。スプリング63は付勢部材であり、断面U字(またはV字)状の弾性体である。スプリング63により、本体62の垂直部分62a、62bが広がるように付勢される。本実施形態では、スプリング63の付勢力と本体62の弾性変形による力とにより、リップ面62cをハウジング12の排気通路下部形成部12e側に付勢する(押し付ける)ことができる。樹脂シール52はリップシールと称されることもある。スプリング63の上方には、大気通路25が延びている。
【0026】
本実施形態では、樹脂シール52と磁性流体シール50を設けているが、樹脂シール52の方が真空チャンバ22から遠い位置に配置されている。接触型のシールである樹脂シール52は、回転伝達部材59との擦れにより、粉塵を発生する。しかし、樹脂シール52と真空チャンバ22の間には磁性流体シール50が位置しているので、当該粉塵は磁性流体シール50により進行が妨げられ、真空チャンバ22に侵入しない。また、磁性流体シール50と樹脂シール52の間にある回転伝達部材59の表面に付着している粉塵も、磁性流シール50により進行が妨げられ真空チャンバ22に侵入しない。軸受16、17は大気側に位置しているので、軸受16、17から発塵があった場合、当該塵は樹脂シール52により進行が妨げられるので、中間真空室60に侵入しない。
【0027】
真空側と大気側の圧力差が大きい場合、一般的に、磁性流体シールはバースト現象を防ぐために何層も重ねて使用する必要があるが、本実施形態においては中間真空室60を設けることによって磁性流体シール50が負うべき圧力差を小さく設定できるために磁性流体シール50を何層も設ける必要はなく、1層で十分である。
本実施形態では、モータ18、第1検出器54、第2検出器56、第1軸受16及び第2軸受17がアクチュエータ10の下部に配置されるが、上部にあるシール構造(磁性流体シール50、樹脂シール52)によって発塵が抑制される。よって、コンパクトで信頼性の高い低発塵真空シール構造が提供されることになる。
アクチュエータ10は、例えば、一般産業用設備や半導体製造設備などで回転位置決め動作が必要な機器に用いられる。特に、真空で加工プロセス等を行う製造装置に適している。
【0028】
尚、本発明は上記した実施形態1に限定されない。
例えば、上記した実施形態1において、真空チャンバ22の圧力P1と中間真空室60の圧力の数値例を記載したが、これらは単なる例示であり、2つの減圧室を有する構造であれば、本発明を適用することができる。
軸受16、17の配置や、第1検出器54及び第2検出器56の配置は、図示した配置に限定されない。第1検出器54はアブソリュートレゾルバ以外の回転センサでもよい。第2検出器56はインクリメンタルレゾルバ以外の回転センサでもよい。
【0029】
真空チャンバ22を真空引きするポンプはターボ分子ポンプに限定されない。中間真空室60を真空引きするポンプもドライポンプ40に限定されない。
第1軸受16及び第2軸受17には内輪間座38及び外輪間座39により定位置予圧が付与されるとしたが、予圧バネにより定圧予圧を付与する構造にしてもよい。
樹脂シール52の付勢部材としてスプリング63を設けたが、スプリング63以外の付勢部材を採用してもよい。また、本体62の剛性及び弾性によってはスプリング63を設けなくてもよい。
上記した実施形態1では、大気側と真空チャンバ22の間に1つの中間真空室60を設けたが、中間真空室60の数は複数でもよい。
製造装置20からアクチュエータ10に伝わる熱により磁性流体シール50に悪影響が出る可能性がある場合には、アクチュエータ10内に冷却構造を設けてもよい。
【0030】
実施形態2
次に、
図4及び
図5を参照して、本発明の実施形態2のアクチュエータ10Aを説明する。実施形態2では、製造装置20からアクチュエータ10Aに伝わる熱により磁性流体シール50に悪影響が出ないようにするために、アクチュエータ10A内に冷却構造70を設けている。
図4は
図1に対応する図であり、実施形態2のアクチュエータ10Aの垂直断面図を示している。アクチュエータ10Aは、真空チャンバ22を内部に有する外部装置(製造装置20)の所定の面(底面20a)に取り付けられている。
図5はアクチュエータ10Aの水平断面図(
図4の5-5矢視断面図)を示している。以下の記載では実施形態1との相違点を主に説明する。実施形態1と同じ構成には同じ参照符号を付け、説明を省略する。尚、
図4及び
図5では、
図1に示したカップリング28、管29a~29c、ターボ分子ポンプ30、ドライポンプ40等は省略されている。
【0031】
アクチュエータ10Aの基本構造は、実施形態1のアクチュエータ10とほぼ同じである。
以下に、
図4の回転中心軸24の右側の構成を説明する。
ロータ18bは回転伝達部材58に取り付けられている。ロータ18bの回転は、回転伝達部材58及び59を介して、出力軸15の中間フランジ15b及び上部フランジ15aに伝達される。
回転伝達部材58の上部には樹脂シール52が設けられている。中間真空室60の上方には磁性流体シール50が設けられている。中間真空室60から延びる排気通路27は、カップリング28(
図1)を介してドライポンプ40(
図1)に接続されている。ドライポンプ40、ターボ分子ポンプ30(
図1)、これらポンプを繋ぐ管29a~29cは実施形態1と同じである。磁性流体シール50はハウジング12内に位置している。
【0032】
実施形態2のハウジング12の外周部12cは、
図4では縦長の矩形で示されている(実際は、円環状)。外周部12cの上には、第1上部12daと第2上部12dbが位置している。第1上部12daは第2上部12dbにボルト72により固定されている。第1上部12daは第2上部12dbから分離可能になっている。排気通路27は第1上部12daに形成されている。第1上部12daは第2上部12dbの間には、第1冷媒シール73aと第2冷媒シール73bが設けられている。符号11はアクチュエータ10Aの上面(つまり、第1上部12daの上面)である。
【0033】
次に、
図4の回転中心軸24の左側の構成を説明する。
本実施形態では、第1上部12daの下面に、上方に窪む溝74が形成されている。つまり、溝74はハウジング12の一部に形成されている。溝74は
図5に示すように、C字を180度回転したような形を呈している。溝74のC字形状は、
図5では、第1上部12daの外周に沿ってほぼ一周する略環状である。
本実施形態では、溝74に冷媒75を流すことにより、
図4の矢印H2で示した熱を溝74内を流れる冷媒により冷却する。溝74は冷却冷媒管路と称してもよい。冷媒は、液体(例えば、水、蒸留水)または気体(例えば、空気)である。
【0034】
第1上部12daの外周には、溝74に冷媒を導入するための冷媒導入部76が設けられている。アクチュエータ10Aの外部に設けられた冷媒供給源80から冷媒導入部76に供給される冷媒75は、冷媒導入部76から溝74の入口74aに入り、その後、
図5で反時計回りに溝74内を流れて、溝74の出口74bに至る。溝74を流れる冷媒75により熱H2を冷却する。熱H2を冷却した冷媒75は、溝74の出口74bから冷媒排出部77を通って冷媒供給源80に戻る。冷媒は冷媒供給源80に戻る途中に放熱・冷却される。低温になった冷媒は、冷媒供給源80から冷媒導入部76を介して、再び溝74に導入される。第1冷媒シール73aと第2冷媒シール73bにより、冷媒75が溝74から漏れないようにしている。冷却構造70は、溝74と、溝74を流れる冷媒75と、冷媒75を溝74に導入する冷媒導入部76と、冷媒75を溝74から排出する冷媒排出部77とを有する。
【0035】
図4に示したように、冷媒導入部76は、第1上部12daの外周部から径方向内方に延びる水平部76aと、水平部76aの下流端から垂直方向下側に延びる垂直部76bとを有する。垂直部76bの下流端(下端)が溝74の入口74aに到達している。冷媒排出部77は、冷媒導入部76と同様な構造を有している。
【0036】
製造装置20の種類や構造によっては、製造装置20の作動中に製造装置20が高温になる場合がある。例えば、製造装置20が半導体製造装置である場合、製造装置20内でウエハを加熱するヒータの温度が900~1000℃になることもある。製造装置20の温度が上昇すると、製造装置20の底面20aからアクチュエータ10Aの上面11を通って、製造装置20の熱がアクチュエータ10Aに伝わる。より詳しくは、真空チャンバ22を区画する壁22aから熱がアクチュエータ10Aに伝導する。
図4の矢印H1は、製造装置20の壁22aからアクチュエータ10Aへ伝導する熱の流れを示している。
図4から分かるように、製造装置20からの熱はまず下方に伝導し(矢印H1)、その後、アクチュエータ10A内で半径方向内方に伝導する(矢印H2)。矢印H2の前方、つまり熱の流れの下流には、磁性流体シール50が設けられている。本実施形態では、矢印H2の熱が磁性流体シール50に到達する前に、当該熱を冷却するために、冷却構造70をアクチュエータ10Aに設けている。つまり、本実施形態では、冷却構造70が製造装置20の底面20aと磁性流体シール50との間に設けられている。磁性流体シール50の耐熱性は低い場合もある。本実施形態では、溝74を流れる冷媒により、磁性流体シール50が高温になるのを防止(あるいは抑制)している。
【0037】
本実施形態では、たとえ第1冷媒シール73a及び/または第2冷媒シール73bのシール性が損なわれたとしても、溝74が大気側にあるので、溝74内を流れる冷媒が真空チャンバ22側に漏れることはない。
【0038】
図4から分かるように、溝74の断面は横長の矩形である。つまり、熱H2が伝わる方向(伝導方向)と溝74の矩形断面の長辺が平行である。よって、溝74の断面が正方形(又は円)である場合に比べて、熱H2が半径方向内方に伝導する際に、熱H2と溝74(冷媒75)が並列している区間を長くとることができる。その結果、熱H2の冷却を効率良く行うことができる。
【0039】
尚、実施形態2は上記した構成に限定されない。例えば、溝74はハウジング12の第2上部12dbに形成してもよい。
また、
図4において溝74の断面形状は横長の矩形に限定されない。例えば、製造装置20の温度上昇が比較的低い場合には、溝74の断面形状を正方形または円形にしてもよい。
図5では、溝74のC字形状は、第1上部12daの外周にそってほぼ一周(略360度)する形状になっているが、ほぼ一周しなくてもよい。
図4の構成では、冷媒導入部76と冷媒排出部77をそれぞれ1つずつ設けたが、冷媒導入部76の数と冷媒排出部77の数は複数でもよい。
【符号の説明】
【0040】
10…アクチュエータ、10A…アクチュエータ、12…ハウジング、15…出力軸(回転体)、16、17…軸受、18…モータ、20…製造装置、20a…製造装置の底面、22…真空チャンバ、24…回転中心軸、25…大気通路、27…排気通路、30…ターボ分子ポンプ、40…ドライポンプ、50…磁性流体シール、52…樹脂シール、54…第1検出器(回転センサ)、56…第2検出器(回転センサ)、60…中間真空室、62c…リップ面、63…スプリング、70…冷却構造、74…溝、75…冷媒、H1…熱の流れ、H2…熱の流れ