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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057020
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】スライド式切換弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 11/065 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
F16K11/065 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126451
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021166294
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕正
(72)【発明者】
【氏名】横田 純一
【テーマコード(参考)】
3H067
【Fターム(参考)】
3H067AA15
3H067CC27
3H067DD02
3H067DD12
3H067DD32
3H067EA05
3H067EA21
3H067FF11
3H067GG01
3H067GG23
3H067GG24
(57)【要約】
【課題】弁体の側壁の軸線方向に沿った所定範囲を補強することができ、圧力差による側壁の変形を抑制し、耐圧性を向上することができるスライド式切換弁を得ることを目的とする。
【解決手段】スライド式切換弁1は、弁本体2と、弁座部3と、弁体4と、駆動部5と、を備えたスライド式切換弁1である。弁体4は、軸線L方向に長い長円形状の椀状凹部40cを有して形成され、椀状凹部40cの開口縁部40aがシール部Sとされ、このシール部Sが弁座部3のシール面33に摺接可能とされ、椀状凹部40cの軸線L方向に沿った両側壁40fの内側には、両側壁40fに亘る補強部材6が設けられている。補強部材6は、軸線L方向かつ幅方向Xに沿った平面部60を有し、平面部60の幅方向X両端縁は、それぞれ椀状凹部40cの側壁40fの内面に沿って開口縁部40a近傍を軸線L方向に延びて設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状の弁本体と、前記弁本体に設けられて複数の弁ポートを有する弁座部と、前記弁本体の内部に軸線方向にスライド自在に設けられる弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁であって、
前記弁体は、前記軸線方向に長い長円形状の椀状凹部を有して形成され、前記椀状凹部の開口縁部がシール部とされ、このシール部が前記弁座部のシール面に摺接可能とされ、
前記椀状凹部の前記軸線方向に沿った両側壁の内側には、前記両側壁に亘る補強部材が設けられ、
前記補強部材は、前記軸線方向かつ幅方向に沿った平面部を有し、前記平面部の幅方向両端縁は、それぞれ前記椀状凹部の側壁の内面に沿って前記開口縁部近傍を前記軸線方向に延びて設けられていることを特徴とするスライド式切換弁。
【請求項2】
前記補強部材の前記平面部は、前記弁座部に対向する底面を有し、前記底面と前記シール部との離間寸法は、前記椀状凹部の高さ方向の内寸の25%以下であることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項3】
前記補強部材の底面と前記シール部との離間寸法は、前記椀状凹部の高さ方向の内寸の0.6%以上であることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項4】
前記補強部材は、前記平面部の両端縁から立ち上がる一対の立上面部を有し、一対の前記立上面部は、それぞれ前記椀状凹部の側壁の内面に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項5】
前記椀状凹部の側壁の内面には、前記補強部材の前記立上面部に嵌合する嵌合溝が設けられ、前記立上面部が前記嵌合溝に嵌合することで前記補強部材が前記椀状凹部に位置決めされていることを特徴とする請求項4に記載のスライド式切換弁。
【請求項6】
前記椀状凹部の側壁の内面と前記補強部材の前記立上面部との一方には、抜け止め突起が設けられ、他方には、前記抜け止め突起と係合する係合凹部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のスライド式切換弁。
【請求項7】
前記補強部材は、前記平面部と前記立上面部とが一体に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のスライド式切換弁。
【請求項8】
前記平面部の前記軸線方向の端縁は、前記弁体の切換位置において前記弁ポートの開口に重ならないように凹んだ凹形状とされていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項9】
前記平面部の前記軸線方向の端縁における前記弁座部との反対側の面には、面取りが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【請求項10】
前記補強部材には、前記椀状凹部の内側で前記平面部から前記立上面部に亘る補強部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のスライド式切換弁。
【請求項11】
前記平面部は、前記幅方向両端縁から前記幅方向中央部に向かうにしたがって前記椀状凹部の内側に向かって傾斜していることを特徴とする請求項4に記載のスライド式切換弁。
【請求項12】
前記弁体には、前記椀状凹部の前記側壁の内面と隙間をあけて対向する補強板が設けられ、
前記補強板と前記椀状凹部の前記側壁との間には、前記立上面部が嵌合する嵌合空間が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のスライド式切換弁。
【請求項13】
前記弁体には、前記椀状凹部の前記側壁の内面と隙間をあけて対向する補強板が設けられ、
前記補強板と前記椀状凹部の前記側壁との間には、前記補強部材の前記幅方向端部が嵌合する嵌合空間が設けられ、
前記補強部材には、前記補強板が嵌合する嵌合部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスライド式切換弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド式切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルなどにおいて冷媒の流路を切り換える切換弁として、筒状の弁本体と、弁本体内部にスライド自在に設けられた椀状の弁体と、弁本体に固定されて複数の弁ポートを有する弁座部と、弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。弁体は、軸線方向に長い長円形状の椀状凹部を有して形成され、椀状凹部の開口縁部がシール部とされ、このシール部が弁座部のシール面に摺接するようになっている。特許文献1に記載の弁体では、椀状凹部の軸線方向(長辺方向)に沿った両側壁間に亘ってウェブ(分流器)が配設され、このウェブによって椀状凹部内部を流れる流体が分流されている。また、特許文献1、2に記載の弁体では、椀状凹部の両側壁間に亘って幅方向(短辺方向)に延びる補強部材(ウェブ、支持棒、補強ピン)が設けられ、椀状凹部の両側壁が内外の圧力差によって内方に変形することを補強部材によって抑制するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-512609号公報
【特許文献2】特開2012-82883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の弁体では、ウェブによる側壁の開口縁部の補強効果は見込めず、特許文献1、2の弁体では、補強部材が棒状であり、椀状凹部の両側壁の軸線方向略中央に接続されているため、側壁の開口縁部の他の部分が変形する可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、弁体の側壁の軸線方向に沿った所定範囲を補強することができ、圧力差による側壁の変形を抑制し、耐圧性を向上することができるスライド式切換弁を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスライド式切換弁は、中空筒状の弁本体と、前記弁本体に設けられて複数の弁ポートを有する弁座部と、前記弁本体の内部に軸線方向にスライド自在に設けられる弁体と、前記弁体をスライド駆動する駆動部と、を備えたスライド式切換弁であって、前記弁体は、前記軸線方向に長い長円形状の椀状凹部を有して形成され、前記椀状凹部の開口縁部がシール部とされ、このシール部が前記弁座部のシール面に摺接可能とされ、前記椀状凹部の前記軸線方向に沿った両側壁の内側には、前記両側壁に亘る補強部材が設けられ、
前記補強部材は、前記軸線方向かつ幅方向に沿った平面部を有し、前記平面部の幅方向両端縁は、それぞれ前記椀状凹部の側壁の内面に沿って前記開口縁部近傍を前記軸線方向に延びて設けられていることを特徴とする。
【0007】
以上のような本発明によれば、弁体の椀状凹部の軸線方向に沿った両側壁の内側には、補強部材が設けられている。補強部材は平面部を有し、平面部の幅方向両端縁は、それぞれ椀状凹部の側壁の内面に沿って椀状凹部の開口縁部近傍を軸線方向に延びている。このため、高圧の弁本体内と低圧の弁体内とで圧力差が生じ、椀状凹部の側壁が例えば開口を閉じる方向に変形しようとしても、その変形は、特に変形しやすい開口縁部近傍で軸線方向に亘って抑制される。したがって、平面部を有する補強部材を設けたことで、弁体の側壁の軸線方向に沿った所定範囲を補強することができ、弁本体内と弁体内の圧力差による弁体の側壁の変形を抑制し、耐圧性を向上することができる。
【0008】
この際、前記補強部材の前記平面部は、前記弁座部に対向する底面を有し、前記底面と前記シール部との離間寸法は、前記椀状凹部の高さ方向の内寸の25%以下であることが好ましい。この構成によれば、平面部は、その底面がシール部から椀状凹部の高さ方向の内寸の所定割合以下、具体的には25%以下の離間寸法で開口縁部に近い場所に位置するように配置されることとなる。このため、椀状凹部の側壁の変形を、開口縁部により近い位置で軸線方向に亘って抑制することができる。
【0009】
また、前記補強部材の底面と前記シール部との離間寸法は、前記椀状凹部の高さ方向の内寸の0.6%以上であることが好ましい。この構成によれば、補強部材の底面とシール部との間に、椀状凹部の高さ方向の内寸の所定割合分、具体的には、0.6%以上分クリアランスが設けられていることとなる。このため、弁体が軸線方向に移動する際に、補強部材が弁座部に引っ掛かり難くすることができ、弁体のスライド駆動をスムーズに行うことができる。
【0010】
また、前記補強部材は、前記平面部の両端縁から立ち上がる一対の立上面部を有し、一対の前記立上面部は、それぞれ前記椀状凹部の側壁の内面に沿って設けられていることが好ましい。この構成によれば、補強部材が有する一対の立上面部は、それぞれ椀状凹部の側壁の内面に沿って設けられているので、補強部材における椀状凹部の側壁の内面に接する面積を増大させることができる。これにより、平面部が位置する開口縁部近傍から椀状凹部の側壁の内面に亘った広い範囲で、椀状凹部の側壁の変形を抑制することができる。
【0011】
また、前記椀状凹部の側壁の内面には、前記補強部材の前記立上面部に嵌合する嵌合溝が設けられ、前記立上面部が前記嵌合溝に嵌合することで前記補強部材が前記椀状凹部に位置決めされていることが好ましい。この構成によれば、補強部材を嵌合溝に嵌合させることで、補強部材を椀状凹部に位置決めすることができるので、補強部材の軸線方向および高さ方向への位置ずれを抑制し、スライド式切換弁の動作を安定させることができる。
【0012】
また、前記椀状凹部の側壁の内面と前記補強部材の前記立上面部との一方には、抜け止め突起が設けられ、他方には、前記抜け止め突起と係合する係合凹部が設けられていることが好ましい。この構成によれば、抜け止め突起と係合凹部との係合により、補強部材の軸線方向および高さ方向への位置ずれをより一層抑制し、スライド式切換弁の動作を安定させることができる。
【0013】
また、前記補強部材は、前記平面部と前記立上面部とが一体に形成されていることが好ましい。この構成によれば、平面部と立上面部とを、例えばプレス成形等の方法で一体に形成できるので、補強部材の製造工数を削減し、ひいては製造コストを低減することができる。
【0014】
前記平面部の前記軸線方向の端縁は、前記弁体の切換位置において前記弁ポートの開口に重ならないように凹んだ凹形状とされていることが好ましい。この構成によれば、平面部の軸線方向の端縁の形状が、弁ポートの開口に重ならないように凹んだ凹形状とされているので、補強部材が弁ポートを覆って流路の妨げとなることを抑制することができる。また、この構成では、平面部の軸線方向の端縁を凹形状としたことで、平面部の幅方向両端縁の軸線方向の長さを稼ぐことができ、椀状凹部の側壁の変形をより一層抑制することができる。
【0015】
また、前記平面部の前記軸線方向の端縁における前記弁座部との反対側の面には、面取りが形成されていることが好ましい。この構成によれば、平面部の軸線方向端縁(すなわち、弁ポート周縁に沿う端縁)における弁座部と反対側の面(すなわち、椀状凹部内を向く面)には、面取りが形成されている。この面取りが形成されている部分は、弁ポートから弁体の内外に向かう流体の流路上に位置していることから、面取りがされていない構成と比較して、補強部材が流体の妨げになり難い。したがって、流体を椀状凹部内に流入させ易くすることや、流体を椀状凹部外に流出させ易くすることができる。
【0016】
また、前記補強部材には、前記椀状凹部の内側で前記平面部から前記立上面部に亘る補強部が設けられていることが好ましい。このような構成によれば、立上面部が、平面部に対して近づく、または離れるように変形することを補強部によって、抑制することができる。したがって、弁体に対して内側または外側に圧力が加わった際の補強部材の変形を抑制し、これによって弁体の椀状凹部の側壁の変形を抑制し、耐圧性を更に向上し、高い圧力に対して弁漏れの発生を抑制する弁体を得ることができる。
【0017】
前記平面部は、前記幅方向両端縁から前記幅方向中央部に向かうにしたがって前記椀状凹部の内側に向かって傾斜していることが好ましい。ここで、椀状の弁体に対して外部から内部に向かって圧力がかかった場合、弁体の頂部および側壁が幅方向外方から内方に向かって潰されるように変形し、椀状凹部の側壁の開口縁部が広がるように変形しようとすることがある。この際、補強部材の立上面部が椀状凹部の内側に向かって曲がり、合わせて平面部の幅方向中央部が椀状凹部の外側に向かって湾曲する場合がある。しかしながら、本構成によれば、平面部は、予め、幅方向両端縁から幅方向中央部に向かうにしたがって椀状凹部の内側に向かって傾斜している。すなわち、平面部は、予め、外部から内部に向かって圧力を受けた弁体の影響により湾曲する可能性のある方向とは逆向きに傾斜している。このため、上記圧力を受けた場合に傾斜部分が変形し難く、その変形し難い傾斜部分で圧力を吸収することができる。このように、平面部に傾斜がない構成と比較して、平面部の変形を抑制することができる。
【0018】
また、前記弁体には、前記椀状凹部の前記側壁の内面と隙間をあけて対向する補強板が設けられ、前記補強板と前記椀状凹部の前記側壁との間には、前記立上面部が嵌合する嵌合空間が設けられていることが好ましい。このような構成によれば、立上面部を嵌合空間に嵌合させることで補強部材を弁体に固定することができる。そして、この構成では、弁体に対して外部から内部に向かって圧力が加わった場合、椀状凹部の側壁が補強部材に押し付けられることで、椀状凹部の側壁はそれ以上外部から内部に向かって変形することが抑制される。一方、弁体に対して内部から外部に向かって圧力が加わった場合、内部から外部に向かって変形しようとする補強板は、補強部材に引っ掛かることで、それ以上内部から外部に向かって変形することが抑制される。これによって椀状凹部の側壁に上記圧力が作用し難くなる。このように、弁体に対して加わる圧力に対し、椀状凹部の側壁は、収縮方向に加え膨張方向にも変形し難くなり、弁体の耐圧性を更に向上することができる。このため、弁体に圧力が加わった場合に、椀状凹部の側壁の変形が抑制され、弁漏れの発生を更に抑制することができる。
【0019】
また、前記弁体には、前記椀状凹部の前記側壁の内面と隙間をあけて対向する補強板が設けられ、前記補強板と前記椀状凹部の前記側壁との間には、前記補強部材の前記幅方向端部が嵌合する嵌合空間が設けられ、前記補強部材には、前記補強板が嵌合する嵌合部が形成されていてもよい。このような構成によれば、弁体には補強板を設け、補強部材には、補強板が嵌合する嵌合部(例えば、孔や切欠き)を設けることで、弁体と補強部材とを固定することができる。すなわち、補強部材に立上面部等の構成を設けない簡易な構成で、弁体と補強部材とを固定することができる。また、この際、補強部材の幅方向端部は、補強板と椀状凹部の側壁との間の嵌合空間に嵌合する。そして、この構成では、弁体に対して外部から内部に向かって圧力が加わった場合、椀状凹部の側壁が補強部材に押し付けられることで、椀状凹部の側壁はそれ以上外部から内部に向かって変形することが抑制される。一方、弁体に対して内部から外部に向かって圧力が加わった場合、内部から外部に向かって変形しようとする補強板は、補強部材に引っ掛かることで、それ以上内部から外部に向かって変形することが抑制される。これによって椀状凹部の側壁に上記圧力が作用し難くなる。このように、弁体に対して加わる圧力に対し、椀状凹部の側壁は、収縮方向に加え膨張方向にも変形し難くなり、弁体の耐圧性を更に向上することができる。このため、弁体に圧力が加わった場合に、椀状凹部の側壁の変形が抑制され、弁漏れの発生を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、弁体の側壁の軸線方向に沿った所定範囲を補強することができ、圧力差による側壁の変形を抑制し、耐圧性を向上することができるスライド式切換弁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るスライド式切換弁の断面図。
図2】前記スライド式切換弁における弁体の拡大断面図。
図3】前記スライド式切換弁の幅方向拡大断面図。
図4図3における弁体の部分拡大図。
図5】補強部材を設置した弁体の斜視図。
図6】補強部材を外した状態の弁体の斜視図。
図7】補強部材の斜視図。
図8】(A)は、弁体の第1切換位置を示す図であり、(B)は、弁体の第2切換位置を示す図。
図9】(A)は、一の変形例における補強部材の軸線方向断面図であり、(B)は、他の変形例における補強部材の軸線方向断面図。
図10】(A)は、第二実施形態における補強部材の正面図であり、(B)は、第二実施形態における補強部材の平面図であり、(C)は、図10(B)のA-A線矢視断面図。
図11】(A)は、第二実施形態の変形例における補強部材の正面図であり、(B)は、第二実施形態の変形例における補強部材の平面図であり、(C)は、図11(B)のB-B線矢視断面図。
図12】(A)は、第三実施形態における補強部材の正面図であり、(B)は、第三実施形態における補強部材の平面図であり、(C)は、図12(B)のC-C線矢視断面図。
図13】(A)は、第四実施形態における弁体の幅方向断面図であり、(B)は、第四実施形態における補強部材の幅方向断面図。
図14】第四実施形態の弁体に補強部材を組込んだ状態の幅方向断面図。
図15】(A)は、第五実施形態おける弁体の幅方向断面図であり、(B)は、第五実施形態における補強部材の平面図であり、(C)は、図15(B)のD-D線矢視断面図。
図16】第五実施形態の弁体に補強部材を組込んだ状態の幅方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図1~9に基づいて説明する。本実施形態に係るスライド式切換弁1は、冷凍サイクルなどにおいて圧縮機、蒸発器、凝縮器と接続され、これらの機器に流れる冷媒の流路を切り換える切換弁である。スライド式切換弁1は、中空筒状の弁本体2と、弁本体2に設けられて複数の弁ポートを有する弁座部3と、弁本体2の内部に軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体4と、弁体4をスライド駆動する駆動部5と、弁体4内に設置される補強部材6と、を備えている。なお、本実施形態のスライド式切換弁1は、軸線L方向の一方側に駆動部5を有し、軸線L方向他方側に後述する入口ポートAを有するので、軸線L方向の一方側を駆動部5側と記し、軸線L方向の他方側を入口ポートA側と記す場合がある。
【0023】
弁本体2は、先端部が駆動部5側に延びるように、樹脂成形により有底筒状に形成され、その内部が弁室2aを構成している。弁本体2の底壁には、弁室2aの内外に連通する入口ポートAが形成されている。入口ポートAは、軸線L方向に延びる入口接続流路20を介して不図示の圧縮機の吐出口と連通するポートである。この入口ポートAは、圧縮機から送られる高圧の冷媒が弁室2aに流入する際の入口を構成している。弁本体2の側壁には、弁室2aの内外に連通する複数の円筒状の流路として、第1接続流路21、出口接続流路22、第2接続流路23が、駆動部5側からこの順に軸線L方向に沿ってそれぞれ形成されている。第1接続流路21は、後述する第1ポート30と連通する流路である。この第1接続流路21は、凝縮器(または蒸発器)と接続されて凝縮器(または蒸発器)と弁室2aとの間に流れる流体の流路を構成している。
【0024】
出口接続流路22は、後述する出口ポート31と連通する流路である。この出口接続流路22は、圧縮機の吸入口に接続されるようになっており、第1接続流路21(または第2接続流路23)を通って弁室2aに戻ってきた低圧の冷媒が圧縮機に送られる際の流路を構成している。第2接続流路23は、後述する第2ポート32と連通する流路である。この第2接続流路23は、蒸発器(または凝縮器)と接続されて蒸発器(または凝縮器)と弁室2aとの間に流れる流体の流路を構成している。弁本体2の駆動部5側の端部には、金属製の筒状のケース24が弁本体2とのインサート成形にて固定され、ケース24の駆動部5側の端部には、後述のガイド部53の外周にインサート成形により固定され、ケース24の開口を閉じる金属製で略円盤状の固定蓋25が溶接等で固定されている。このように構成された弁本体2、ケース24、固定蓋25は、ハウジング7に収容されるようになっており、ハウジング7の駆動部5側の端部と固定蓋25との間には、ハウジング7と弁本体2とを抜け止め固定するCリング26が嵌合されている。なお、本実施形態で弁本体2は材質をポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂としたが、この他真鍮、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属等、適宜な材質で構成してもよい。
【0025】
ハウジング7は、アルミダイキャストで有底筒状に形成されている。ハウジング7は、軸線Lを中心とする略円筒形状の収容室7aを有している。収容室7aには、ケース24および固定蓋25が設置された状態の弁本体2が収容されるようになっている。弁本体2の外周壁およびハウジング7の内周壁のいずれかには、所定間隔で軸線L方向の複数の位置に径方向に凹む溝部Gがそれぞれ配置され、当該溝部Gには、Oリング70が嵌め込まれている。このOリング70により、弁本体2とハウジング7との間はシールされる。ハウジング7の底壁には、上述の入口ポートAと連通する入口接続孔71が形成されている。ハウジング7の側壁には、上述の第1接続流路21、出口接続流路22、第2接続流路23、とそれぞれ連通する、第1ハウジング流路72、出口ハウジング流路73、第2ハウジング流路74がそれぞれ形成されている。
【0026】
弁座部3は、弁本体2の側壁のうち、第1接続流路21、出口接続流路22、第2接続流路23が形成された側壁に設置される部分であり、複数の弁ポートを有するように構成されている。この弁座部3は、薄型金属板で形成され、インサート成形や接着、溶着等により弁本体2の側壁に固定されている。弁座部3の板面には、第1接続流路21に連通する第1ポート30、出口接続流路22に連通する出口ポート31、第2接続流路23に連通する第2ポート32がそれぞれ形成されている。各ポート30、31、32は、第1接続流路21、出口接続流路22、第2接続流路23よりも内径の寸法が小さい円筒状に形成され、軸線L方向に所定の間隔を空けながら配置されている。具体的には、各ポート30、31、32の内径の寸法は、約10~20mmに設定されている。そして、弁座部3における各接続流路21、22、23のある側と反対側の面は、後述する弁体4のシール部と摺接するシール面33を構成している。
【0027】
弁体4は、主にポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂製であり、弁本体2の内部に軸線L方向にスライド自在に設けられている。この弁体4は、弁座部3に着座して入口ポートA、第1ポート30、出口ポート31、第2ポート32、の各々を連通または遮断する椀状の弁体本体40を備えて構成されている。図2に示すように、この弁体本体40は、弁座部3のシール面33と対向するように設けられた軸線L方向に長い長円形状の開口縁部40aと、開口縁部40aから弁座部3のある側と反対側に突出する椀状部40bと、を備えて構成され、その内部は流体の流路となる椀状凹部40cを構成している。なお、以下の説明では、開口縁部40aにおける軸線L方向に直交する方向を椀状凹部40cの幅方向Xとする。この幅方向Xは、スライド式切換弁1の幅方向でもある。また、椀状凹部40cの深さ方向を椀状凹部40cの高さ方向Zとする。椀状凹部40cにおける開口縁部40aの軸線L方向の寸法は、第1ポート30、出口ポート31、第2ポート32のうち隣り合う2つ分のポートを覆える長さに設定されている。また、開口縁部40aの幅方向Xの寸法は、第1ポート30、出口ポート31、第2ポート32のうち、1つ分のポートを覆える長さに設定されている。そして、椀状凹部40cの高さ方向Zの寸法は、上述の弁座部3の各ポート30、31、32の内径の最小寸法の10mmの-10%に相当する9mmから、各ポート30、31、32の内径の最大寸法の20mmの+25%に相当する25mmの範囲で設定されている。椀状凹部40cの高さ方向Zの寸法をこのような範囲に設定することにより、椀状凹部40c内を流体が流れる際の圧力損失と弁体4の大型化を抑制することができる。
【0028】
椀状凹部40cの開口縁部40aは、上述のシール面33に摺接可能なシール部Sを構成しており、シール部Sがシール面33に当接すると、例えば、第1ポート30と出口ポート31とが椀状凹部40cに囲まれて他のポートA、32と遮断される。この結果、第1ポート30と出口ポート31とが連通されるとともに、入口ポートAと第2ポート32とが連通されることとなる。そして、シール部Sがシール面33上を滑りながらスライド移動すると、出口ポート31と第2ポート32とが椀状凹部40cに囲まれて他のポートA、30と遮断される。この結果、出口ポート31と第2ポート32とが連通されるとともに、入口ポートAと第1ポート30とが連通されることとなる。すなわち、弁体本体40がスライド移動し、シール部Sがシール面33に摺接することで、各ポートA、30、31、32同士の連通および遮断が切り換えられるようになっている。
【0029】
椀状凹部40cの幅方向X両端部に位置する側壁40fは、それぞれ軸線L方向に長く形成されている。図6に示すように、この側壁40fの各々の内面には、後述する補強部材6を設置するための台座41がそれぞれ形成されている。台座41は、幅方向X内方に盛り上がり軸線L方向に長い直方体状に形成されている。この台座41には、幅方向X内方および弁座部3側に開口する嵌合溝41aがそれぞれ形成されている。各々の嵌合溝41aは、補強部材6の後述する立上面部61が嵌合可能なように、当該立上面部61の板厚と略同じ寸法の溝幅を有し、軸線L方向に延びるように形成されている。各々の嵌合溝41aの幅方向X外方側の面の軸線L方向中央部には、幅方向X内方に突出する抜け止め突起42がそれぞれ形成されている。抜け止め突起42は、立上面部61に形成された係合凹部61aに係合するための突起である。
【0030】
弁体本体40の椀状部40bにおける頂部には、弁体本体40を弁座部3側に付勢するばね部材43が設置されている。図3に示すように、このばね部材43は、一端部が弁本体2の内周壁に当接し、他端部が弁体本体40の頂部に当接するように構成されており、弁本体2と弁体本体40の間に介在している。図2に示すように、弁体本体40の入口ポートA側の端部には、入口ポートA側に向けて軸線L方向に突出するストッパ44が形成されている。このストッパ44は、弁体4のスライド移動を規制するための突起であり、その突出端部が弁本体2の底壁における弁室2a側の面と当接することで弁体4の入口ポートA側への移動が規制されるようになっている。すなわち、ストッパ44と弁本体2の底壁における弁室2a側の面は、入口ポートA側へ移動する弁体4の移動できる限界の位置を規定している。なお、この位置に弁体4が到達すると、上述の各ポートA、30、31、32同士の連通および遮断が切り換えられるので、図8(A)に示すように、この位置を特に第1切換位置P1(切換位置)とする。
【0031】
弁体本体40の駆動部5側の端部には、図5、6に示すように、駆動部5側に突出する接続爪部45が設けられている。接続爪部45は、弁体4と駆動部5とを接続させるための部分である。接続爪部45は、軸線L方向に突出する突出部45aと、突出部45aの突出端部から弁座部3のある側と反対側に向けて突出する爪部45bと、を備えて構成されている。突出部45aは、幅方向Xに長い板状部材で構成されている。爪部45bは、突出部45aの幅方向X両端部からそれぞれ突出し、略水平方向に向けて2叉に分かれるような形状で構成されている。この爪部45bは、軸線L方向に厚みを持ち、後述する雌ねじ軸55に形成された不図示の接続溝に嵌るように構成されている。爪部45bが接続溝に嵌ることで弁体4と駆動部5とが接続されるようになっている。爪部45bの駆動部5側の端部には、先端部に行くほど入口ポートA側に位置するように傾斜した当接面45b1が形成されており、この当接面45b1は、後述するガイド部の規制面53aに当接するようになっている。
【0032】
駆動部5は、弁体4をスライド駆動する部分であり、電動モータとしてのステッピングモータ5aと、ステッピングモータ5aの回転を直線運動に変換して弁体4に伝達する直動機構5bと、を備えている。図1に示すように、ステッピングモータ5aは、固定蓋25の駆動部5側に固定され、弁本体2の弁室2aおよびケース24の内部を密閉する金属製のキャップ51と、このキャップ51内に収容されたマグネットロータ50と、キャップ51を挟んでマグネットロータ50の外周を軸線L方向の周方向に囲むように配置されるステータコイル52と、を備えている。直動機構5bは、固定蓋25にインサート成形により固定された上述の有底筒状のガイド部53と、ガイド部53に沿って軸線L方向に進退案内されるロータ軸としての雄ねじ軸54と、雄ねじ軸54の外周面に形成された雄ねじ部54aに螺合する雌ねじ部55aを有する雌ねじ軸55と、を備えている。すなわち、直動機構5bは、互いに螺合する雄ねじ部54aおよび雌ねじ部55aを有したねじ送り機構として構成されている。ガイド部53は、先端側(入口ポートA側)が弁室2a内に位置し、底壁側(駆動部5側)が弁室2aの外方に位置する状態で固定蓋25に固定されている。
【0033】
ガイド部53は、内部に雄ねじ軸54および雌ねじ軸55を収容するように設けられており、雌ねじ軸55の外周壁の壁面が摺動する内周壁が断面角筒状に形成されている。ガイド部53の入口ポートA側の端部には、上述の爪部45bに形成された当接面45b1が摺動可能な規制面53aが形成されている。この規制面53aは、当接面45b1の軸線L方向に対する傾斜に合わせて同方向に傾斜するようになっている。直動機構5bによって爪部45bが駆動部5側に移動すると、当接面45b1が規制面53aに当接する。そして、爪部45bがさらに駆動部5側に移動しようとすると、当接面45b1は規制面53aに案内されながら弁座部3側に摺動するようになっている。これにより、弁体本体40が弁座部3側に押し付けられるとともに、弁体4の駆動部5側への移動が規制されることとなる。すなわち、爪部45bの当接面45b1とガイド部53の規制面53aは、駆動部5側に移動する弁体4の移動できる限界の位置を規定するとともに、弁体4を弁座部3に押し付けるように誘導する面としてそれぞれ構成されている。なお、駆動部5側に移動する弁体4が移動できる限界の位置に到達すると、上述の各ポートA、30、31、32同士の連通および遮断が切り換えられるので、図8(B)に示すように、この位置を特に第1切換位置P1に対して第2切換位置P2(切換位置)とする。
【0034】
雄ねじ軸54は、駆動部5側の端部が固定部材を介してマグネットロータ50の中心部に固定され、入口ポートA側の端部がガイド部53の底壁を貫通して入口ポートA側に向けて軸線Lに沿って延びている。この雄ねじ軸54は、マグネットロータ50と一体となって軸線Lの周方向に回転するように構成されている。雌ねじ軸55は、断面隅丸角筒状に形成されている。雌ねじ軸55の駆動部5側の端部は、軸線L方向に摺動可能にガイド部53内に収容されている。雌ねじ軸55の中央部には、中心軸が軸線Lと同軸の雌ねじ部55aが形成されている。雌ねじ部55aは、雄ねじ軸54の雄ねじ部54aと螺合し、雄ねじ部54aが回転することにより、ねじ送りされて軸線L方向にスライド移動するようになっている。なお、雄ねじ部54aおよび雌ねじ部55aを構成するねじとしては、多条ねじを用いることが望ましい。
【0035】
雌ねじ軸55の入口ポートA側の端部における幅方向X両側の外周面には、上述の爪部45bを嵌め込むための不図示の接続溝がそれぞれ形成されている。接続溝は、爪部45bを嵌め込めるように爪部45bの軸線L方向の寸法と略同じか若干大きな溝幅を備えて、軸線Lと交差する方向に延びるように形成されている。この接続溝に爪部45bが嵌め込まれると、駆動部5と弁体4とが接続爪部45を介して接続されるようになっている。この状態では、ステッピングモータ5aが雄ねじ軸54を回転させて直動機構5bが作動すると、ねじ送りによりスライド移動する雌ねじ軸55とともに弁体4が軸線L方向にスライド移動するようになっている。
【0036】
補強部材6は、高圧の弁室2a内と低圧の椀状凹部40c内との圧力差によって、椀状凹部40cの側壁40fが変形するのを抑制する断面U字状の部材である。図4、5に示すように、補強部材6は、椀状凹部40cの幅方向X両側壁40f(軸線L方向に沿った両側壁)の内側に、両側壁40fに亘って設けられている。補強部材6は、軸線L方向かつ幅方向Xに沿った長方形状の平面部60と、平面部60の幅方向X両端縁から立ち上がる一対の立上面部61と、を備えて構成されている。平面部60と立上面部61とは金属製の板部材を用いてプレス成形等の方法で一体に形成されている。平面部60は、その底面60aが弁座部3に対向するように配置され、底面60aの反対側の面である裏面60bが、椀状凹部40c内を向くように配置されている。図5に示すように、平面部60の幅方向X両端縁は、それぞれ椀状凹部40cの幅方向X両側壁40fの内面に沿って開口縁部40a近傍を軸線L方向に延びるように設けられている。
【0037】
平面部60の軸線L方向の両端縁60cは、第1切換位置P1および第2切換位置P2において、第1ポート30、出口ポート31、第2ポート32の各ポート(弁ポート)の開口に重ならないように凹んだ凹形状を有するように形成されている。すなわち、平面部60の軸線L方向両端部は、互いに近づく方向に向けて円弧状に切り欠かれ、各ポート30、31、32の周縁に沿うような形状を有している。平面部60の軸線L方向の長さが最も短い部分(すなわち、軸線Lの線上の部分)の寸法は、隣り合う各ポートの一方の周縁部から他方の周縁部までの軸線L方向の間隔が最も短い位置である最接近位置の離間距離の約70%以上の長さになるように設定されている。また、平面部60の軸線L方向の長さが最も長い部分、すなわち椀状凹部40cの軸線L方向に沿った両側壁40fに沿う端縁の長さは、上述の最接近位置の離間距離の約150~250%の長さになるように設定されている。
【0038】
一対の立上面部61は、それぞれが、椀状凹部40cの幅方向X両側壁40fの内面に沿って設けられている。立上面部61は、上述の嵌合溝41aに嵌まるように軸線L方向に長い長方形状に形成されている。この立上面部61が嵌合溝41aに嵌合すると、補強部材6が椀状凹部40cに位置決めされるようになっている。立上面部61と平面部60との境界部分における軸線L方向中央部には、板厚方向に切り欠かれた係合凹部61aが形成されている。この係合凹部61aは、立上面部61が嵌合溝41aに嵌合した際に、上述の抜け止め突起42と係合するように構成された凹部である。抜け止め突起42と係合凹部61aが係合した状態では、図3、4に示すように、補強部材6が高さ方向Z外方に移動しようとしても、係合凹部61aの縁部が、抜け止め突起42の高さ方向Z内方側の端部に当接することでその移動が規制されるので、補強部材6が椀状凹部40cから抜け落ちることが抑制される。
【0039】
補強部材6の配置についての詳細を説明する。図4に示すように、補強部材6は、平面部60の底面60aが、椀状凹部40cの開口縁部40aであるシール部Sと高さ方向Zに所定のクリアランスを持つように配置されている。具体的には、平面部60の底面60aとシール部Sとの高さ方向Zの間隔の長さである離間寸法lは、約0.1mm~1mmに設定されている。この離間寸法lは、椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの約0.6%~6.5%にあたる。この椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの約0.6%~6.5%という割合は、弁体4がスライド移動する際に、シール部Sのシール面33に対する摺動を、補強部材6が妨げないようにするために設定されたものである。なお、上述の割合の中心値は、椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの約4%となる。なお、この離間寸法lは、椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの少なくとも25%以下(すなわち、約0.1mm~5mm程度)に設定することが好ましい。また、この離間寸法lは、椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの少なくとも10%以下であることがさらに好ましい。椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの25%という割合は、椀状凹部40cに外方から内方に向けて高圧の圧力が加わった場合に最も変形しやすい開口縁部40aの変形を平面部60で抑制するために設定されたものである。したがって、椀状凹部40cの形状や大きさが異なる場合でも、上述の離間寸法lとなるように、補強部材6を配置するとよい。上述の離間寸法lで補強部材6を配置するためには、立上面部61の高さ方向Zの寸法はそのままで、嵌合溝41aの高さ方向Zの寸法を調整してもよいし、嵌合溝41aの高さ方向Zの寸法はそのままで、立上面部61の高さ方向Zの寸法を調整してもよい。また、立上面部61の高さ方向Zの寸法および嵌合溝41aの高さ方向Zの寸法の両方を調整してもよい。
【0040】
このような構成のスライド式切換弁1において、弁体4は、軸線L方向にスライドして冷媒の流路を切り換える。先ず、駆動部5を駆動し、弁体4を第1切換位置P1にスライド移動させると、図8(A)に示すように、第2ポート32と出口ポート31とが連通される。また、入口ポートAと第1ポート30とが連通される。この際、入口接続流路20および入口ポートAを介して高圧の冷媒が弁室2a内に流入し、当該高圧の冷媒は、第1ポート30および第1接続流路21を通って凝縮器に送られる。一方、蒸発器から送られた低圧の冷媒が、第2ポート32および第2接続流路23を介して椀状凹部40cに流入し、当該低圧の冷媒は、出口ポート31および出口接続流路22を介して圧縮機の吸入口に送られる。この際、補強部材6の軸線L方向両端縁60cは、各ポート30、31、32の縁部に沿っており、流体の流路を塞がないようになっている。次に、弁体4を第2切換位置P2にスライド移動させると、図8(B)示すように、出口ポート31と第1ポート30とが連通される。また、入口ポートAと第2ポート32とが連通される。この際、入口接続流路20および入口ポートAを介して高圧の冷媒が弁室2a内に流入し、当該高圧の冷媒は、第2ポート32および第2接続流路23を通って蒸発器に送られる。一方、凝縮器から送られた低圧の冷媒が、第1ポート30および第1接続流路21を介して椀状凹部40cに流入し、当該低圧の冷媒は、出口ポート31および出口接続流路22を介して圧縮機の吸入口に送られる。この際も、補強部材6の軸線L方向両端縁60cは、各ポート30、31、32の縁部に沿っており、流体の流路を塞がないようになっている。
【0041】
以上の実施形態によれば、スライド式切換弁1は、中空筒状の弁本体2と、弁本体2に設けられて複数の弁ポート30、31、32を有する弁座部3と、弁本体2の内部に軸線L方向にスライド自在に設けられる弁体4と、弁体4をスライド駆動する駆動部5と、を備えたスライド式切換弁1であって、弁体4は、軸線L方向に長い長円形状の椀状凹部40cを有して形成され、椀状凹部40cの開口縁部40aがシール部Sとされ、このシール部Sが弁座部3のシール面33に摺接可能とされ、椀状凹部40cの軸線L方向に沿った両側壁40fの内側には、両側壁40fに亘る補強部材6が設けられ、補強部材6は、軸線L方向かつ幅方向Xに沿った平面部60を有し、平面部60の幅方向X両端縁は、それぞれ椀状凹部40cの側壁40fの内面に沿って開口縁部40a近傍を軸線L方向に延びて設けられている。
【0042】
以上のような本発明によれば、弁体4の椀状凹部40cの軸線L方向に沿った両側壁40fの内側には、補強部材6が設けられている。補強部材6は平面部60を有し、平面部60の幅方向X両端縁は、それぞれ椀状凹部40cの側壁40fの内面に沿って椀状凹部40cの開口縁部40a近傍を軸線L方向に延びている。このため、高圧の弁本体2内と低圧の弁体4内とで圧力差が生じ、椀状凹部40cの側壁40fが例えば開口を閉じる方向に変形しようとしても、その変形は、特に変形しやすい開口縁部40a近傍で軸線L方向に亘って抑制される。したがって、平面部60を有する補強部材6を設けたことで、弁体4の側壁の軸線L方向に沿った所定範囲を補強することができ、弁本体2内と弁体4内の圧力差による弁体4の側壁の変形を抑制し、耐圧性を向上することができる。
【0043】
また、本実施形態の構成によれば、平面部60は、その底面60aがシール部Sから椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの所定割合以下、具体的には、25%以下の離間寸法lで開口縁部40aに近い場所に位置するように配置されることとなる。このため、椀状凹部40cの側壁40fの変形を、開口縁部40aにより近い位置で軸線L方向に亘って抑制することができる。また、補強部材6の底面60aとシール部Sとの間に、椀状凹部40cの高さ方向Zの内寸hの所定割合、具体的には0.6%以上分クリアランスが設けられていることとなる。このため、弁体4が軸線L方向に移動する際に、補強部材6が弁座部3に引っ掛かり難くすることができ、弁体4のスライド駆動をスムーズに行うことができる。
【0044】
また、本実施形態の構成によれば、補強部材6が有する一対の立上面部61は、それぞれ椀状凹部40cの側壁40fの内面に沿って設けられているので、補強部材6における椀状凹部40cの側壁40fの内面に接する面積を増大させることができる。これにより、平面部60が位置する開口縁部40a近傍から椀状凹部40cの側壁40fの内面に亘った広い範囲で、椀状凹部40cの変形を抑制することができる。また、補強部材6を嵌合溝41aに嵌合させることで、補強部材6を椀状凹部40cに位置決めすることができるので、補強部材6の軸線L方向および高さ方向Zへの位置ずれを抑制し、スライド式切換弁1の動作を安定させることができる。また、抜け止め突起42と係合凹部61aとの係合により、補強部材6の軸線L方向および高さ方向Zへの位置ずれをより一層抑制し、スライド式切換弁1の動作を安定させることができる。
【0045】
また、本実施形態の構成によれば、平面部60と立上面部61とを、例えばプレス成形等の方法で一体に形成できるので、補強部材6の製造工数を削減し、ひいては製造コストを低減することができる。また、平面部60の軸線L方向の両端縁60cの形状は、各ポート30、31、32(弁ポート)の開口に重ならないように凹んだ凹形状とされているので、補強部材6が各ポート30、31、32を覆って流路の妨げとなることを抑制することができる。また、この構成では、平面部60の軸線L方向の両端縁60cを凹形状としたことで、平面部60の幅方向X両端縁の軸線L方向の長さを稼ぐことができ、椀状凹部40cの変形をより一層抑制することができる。
【0046】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形例も本発明に含まれる。図9(A)は、補強部材6の一の変形例を示した軸線L方向断面図である。図9(A)に示すように、補強部材6の平面部60の軸線L方向の両端縁60cにおける裏面60bには、面取り部60b1(面取り)がそれぞれ形成されている。この面取り部60b1は、椀状凹部40c内に出入りする流体がスムーズに流れるようにするために形成された部分であり、軸線L方向の断面視で隅丸形状に形成されている。図9(B)は、補強部材6の他の変形例を示した軸線L方向断面図である。図9(B)に示すように、補強部材6の平面部60の軸線L方向の両端縁60cにおける裏面60bには、面取り部60b2(面取り)がそれぞれ形成されている。この面取り部60b2も、上述の面取り部60b1と同様に、椀状凹部40c内に出入りする流体がスムーズに流れるようにするために形成された部分である。面取り部60b2は、軸線L方向の断面視で板厚方向に対して傾斜した傾斜形状に形成されている。
【0047】
隅丸形状の面取り部60b1および傾斜形状の面取り部60b2は、それぞれプレス成形等のせん断加工時に、加工材の表面が引っ張られてできる滑らかな面であるダレ面を形成するようにして形成してもよいし、機械加工による切削加工や治具押し付けによる塑性加工等、適宜な工法を用いて形成すればよい。このような、一の変形例または他の変形例に示した構成によれば、平面部60の軸線L方向両端縁60cにおける裏面60bに面取り部60b1、60b2が設けられている。この面取り部60b1、60b2が設けられている部分は、弁ポート30、31、32から弁体4の内外に向かう流体の流路上に位置していることから、面取り部60b1、60b2が形成されていない構成と比較して、補強部材6が流体の妨げになり難い。したがって、流体を椀状凹部40c内に流入させ易くすることや、流体を椀状凹部40c外に流出させ易くすることができる。
【0048】
また、本実施形態では、椀状凹部40cの側壁40fの内面に抜け止め突起42を設け、補強部材6の立上面部61に係合凹部61aを設けたが、この関係は逆にしてもよい。すなわち、椀状凹部40cの側面の内面に係合凹部61aに相当する構成を設け、補強部材6の立上面部61に抜け止め突起42に相当する構成を設けてもよい。また、本実施形態では、補強部材6は、断面U字状とし、平面部60を長方形状に形成したが、補強部材6の形状は、弁体4および弁体4内部の形状や大きさに合わせて調整することが可能である。例えば、弁体4の開口縁部40aが長円形状でなく真円形状や楕円形状であった場合は、当該形状に合わせて補強部材6の形状を調整すればいい。いずれにしても、本実施形態の補強部材6によれば、棒状の補強部材を用いるような構成と比較して、開口縁部40a近傍の補強面積を容易に増やすことができるので、弁体4の側壁の変形を抑制し、耐圧性を向上することができる。
【0049】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。図10(A)は、第二実施形態における補強部材6の正面図であり、図10(B)は、第二実施形態における補強部材6の平面図であり、図10(C)は、図10(B)のA-A線矢視断面図である。なお、上述の実施形態および変形例と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略又は簡略する。また、上述の係合凹部61aは、図示自体を省略する。
【0050】
この第二実施形態では、補強部材6に、リブ62(補強部)を形成した点が、上述の実施形態および変形例と異なっている。図10(A)に示すように、リブ62は、平面部60の裏面60bから立上面部61の内面に亘って形成されている。すなわち、補強部材6には、椀状凹部40cの内側で平面部60から立上面部61に亘るリブ62が設けられている。
【0051】
このような構成によれば、立上面部61が、平面部60に対して近づく、または離れるように変形することをリブ62によって、抑制することができる。したがって、弁体4に対して内側または外側に圧力が加わった際の補強部材6の変形を抑制し、これによって弁体4の椀状凹部40cの側壁40fの変形を抑制することができる。このため、椀状凹部40cの側壁40fの変形により、椀状凹部40cの開口縁部40aで構成されたシール部Sが歪み、弁座部3のシール面33との間に間隙を生じ、シール面33に当接できなくなることが防止される。すなわち、例えば、第1ポート30と出口ポート31とが椀状凹部40cに囲まれて、他のポートA、32と遮断された場合に、椀状凹部40cに囲まれた出口ポート31と、椀状凹部40cに囲まれていない他のポートAとの間において、シール部Sとシール面33の間隙から流体が漏れる弁漏れの発生が防止される。したがって、耐圧性を更に向上し、高い圧力に対して弁漏れの発生を抑制する弁体4を得ることができる。
【0052】
なお、図10(B)および図10(C)に示すように、第二実施形態では、リブ62は、平面部60の幅方向X両端にそれぞれ設けられ、幅方向X片側の軸線L方向に間隔をあけて2個並んでいるが、各リブ62の個数はこれに限られない。例えば、リブ62の個数は、幅方向X片側に1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0053】
図11(A)は、第二実施形態の変形例における補強部材6の正面図であり、図11(B)は、第二実施形態の変形例における補強部材6の平面図であり、(C)は、図11(B)のB-B線矢視断面図である。この変形例では、リブ62´の形状が、上述の第二実施形態と異なっている。
【0054】
リブ62´は、図11(C)に示すように、平面部60の軸線L方向中央部を椀状凹部40cの内側に向かって屈曲させることで形成されている。このリブ62´は、図11(A)および(B)に示すように、一方の立上面部61の内面から、他方の立上面部61の内面まで、幅方向Xに延びて形成されている。このような構成では、第二実施形態と同様の作用効果に加えて、平面部60の幅方向Xにおける変形を抑制することができる。なお、図11(B)および図11(C)に示すように、第二実施形態の変形例では、リブ62´が平面部60の軸線L方向中央部に1個設けられているが、リブ62´の個数はこれに限らない。例えば、平面部60の一方の立上面部61の内面から、他方の立上面部61の内面まで、幅方向Xに延びるリブ62´を2個以上設けてもよい。このようにすることにより、平面部60の幅方向における変形をさらに抑制することができる。
【0055】
次に本発明の第三実施形態について説明する。図12(A)は、第三実施形態における補強部材6の正面図であり、図12(B)は、第三実施形態における補強部材6の平面図であり、図12(C)は、図12(B)のC-C線矢視断面図である。この第三実施形態では、平面部60の形状が上述の実施形態および変形例と異なっている。図12(A)に示すように、平面部60は、幅方向X一方側と他方側とに、傾斜部60dを備えて形成されている。傾斜部60dは、それぞれ平面部60の幅方向X端縁から、幅方向X中央部に向かうにしたがって、図12(A)に示す正面視で上側に位置するように傾斜している。すなわち、平面部60は、幅方向X両端縁から幅方向X中央部に向かうにしたがって椀状凹部40cの内側に向かって傾斜している。
【0056】
なお、このように、平面部60は、傾斜部60dを有しているものの、図12(B)に示すように、平面視では、軸線L方向および幅方向Xに沿って延在している。すなわち、本発明における、「軸線方向かつ幅方向に沿った平面部」には、第三実施形態における傾斜部60dを備える平面部60が含まれている。
【0057】
ここで、椀状の弁体4に対して外部から内部に向かって圧力がかかった場合、弁体4の頂部および側壁が幅方向X外方から内方に向かって潰されるように変形し、椀状凹部40cの側壁40fの開口縁部40aが広がるように変形しようとすることがある。この際、補強部材6の立上面部61が椀状凹部40cの内側に向かって曲がり、合わせて平面部60の幅方向X中央部が椀状凹部40cの外側に向かって湾曲する場合がある。しかしながら、本構成によれば、平面部60は、予め、幅方向X両端縁から幅方向X中央部に向かうにしたがって椀状凹部40cの内側に向かって傾斜している。すなわち、平面部60は、予め、外部から内部に向かって圧力を受けた弁体4の影響により湾曲する可能性のある方向とは逆向きに傾斜している。このため、上記圧力を受けた場合に傾斜部分が変形し難く、その変形し難い傾斜部分で圧力を吸収することができる。このように、平面部60に傾斜がない構成と比較して、圧力を受けた平面部60の変形を抑制することができる。
【0058】
なお、第二実施形態、第二実施形態の変形例、第三実施形態において、リブ62、リブ62´、傾斜部60dが、それぞれ個別に採用されるものを説明したが、これに限らず、例えば、リブ62、リブ62´、傾斜部60dを組み合わせたものが採用されてもよい。また、第二実施形態、第二実施形態の変形例、第三実施形態の補強部材6の立上面部61に、図2から図5、および図7に示すような係合凹部61aを形成して、図1から図6に示すように椀状凹部40cの側壁40fの内面に形成された抜け止め突起42に係合凹部61aを係合させてもよい。このようにすることにより、補強部材6が高さ方向Z外方に移動しようとしても、係合凹部61aの縁部が、抜け止め突起42の高さ方向Z内方側の端部に当接することでその移動が規制されるので、補強部材6が椀状凹部40cから抜け落ちることが抑制される。
【0059】
次に、本発明の第四実施形態について説明する。図13(A)は、第四実施形態における弁体4の幅方向X断面図であり、図13(B)は、第四実施形態における補強部材6の幅方向X断面図である。図14は、第四実施形態の弁体4に補強部材6を組込んだ状態の幅方向X断面図である。
【0060】
この第四実施形態では、弁体4における弁体本体40の構造が、上述の実施形態および変形例とは異なっている。図13(A)に示すように、弁体本体40の内部には、椀状凹部40cの側壁40fの内面と隙間をあけて幅方向Xに対向する補強板40dが形成されている。この補強板40dは、弁体本体40を構成する樹脂の一部が、椀状凹部40c内で板状に軸線L方向に延びて形成されている。そして、この補強板40dと椀状凹部40cの側壁40fの内面との間の空間は、補強部材6の立上面部61が嵌合する嵌合空間40eとなっている。すなわち、弁体4には、椀状凹部40cの側壁40fの内面と隙間をあけて対向する補強板40dが設けられ、補強板40dと椀状凹部40cの側壁40fとの間には、立上面部61が嵌合する嵌合空間40eが設けられている。
【0061】
図14に示すように、嵌合空間40eに立上面部61が嵌合し、補強部材6が弁体4に固定された状態では、椀状凹部40cの側壁40fの内面が補強部材6の立上面部61の外面に当接している。また、補強板40dの幅方向X外側の面と、補強部材6の立上面部61の内面と、の間には、組込み性を考慮し僅かな間隙が設けられている。すなわち、補強部材6は、嵌合空間40eに対して、補強板40dと立上面部61の間に僅かな間隙を有した状態で嵌合している。
【0062】
このような構成によれば、立上面部61を嵌合空間40eに嵌合させることで補強部材6を弁体4に固定することができる。そして、この構成では、弁体4に対して外部から内部に向かって圧力が加わった場合、椀状凹部40cの側壁40fが補強部材6に押し付けられることで、椀状凹部40cの側壁40fはそれ以上外部から内部に向かって変形することが抑制される。一方、弁体4に対して内部から外部に向かって圧力が加わった場合(上述のとおり、通常は弁室2aの圧力の方が、椀状凹部40cの圧力よりも大きくなるが、弁体4の切換時やシステムメンテナンスの真空引き時などで、この圧力差が逆になる場合がある)、内部から外部に向かって変形しようとする補強板40dは、補強部材6に引っ掛かることで、それ以上内部から外部に向かって変形することが抑制される。これによって椀状凹部40cの側壁40fに上記圧力が作用し難くなる。このように、弁体4に対して加わる圧力に対し、椀状凹部40cの側壁40fは、収縮方向に加え膨張方向にも変形し難くなり、弁体4の耐圧性を更に向上することができる。このため、弁体4に圧力が加わった場合に、椀状凹部40cの側壁40fの変形が抑制され、弁漏れの発生を更に抑制することができる。
【0063】
なお、第四実施形態では、椀状凹部40cの側壁40fの内面と補強板40dの幅方向X外側の面が平らな嵌合空間40eとしたが、嵌合空間40eの構成はこれに限らない。例えば、図1から図6に示すように、椀状凹部40cの側壁40fの内面または補強板40dの幅方向X外側の面に嵌合溝41aを形成し、側壁40fの内面または補強板40dの幅方向X外側の面に抜け止め突起42が形成された嵌合空間40eとし、補強部材6の立上面部61に、図2から図5、および図7に示すような係合凹部61aを形成して、嵌合溝41aに立上面部61を嵌合させ、抜け止め突起42に係合凹部61aを係合させてもよい。このようにすることにより、補強部材6が椀状凹部40cから抜け落ちることが抑制される。
【0064】
次に、本発明の第五実施形態について説明する。図15(A)は、第五実施形態における弁体4の幅方向X断面図であり、図15(B)は、第五実施形態における補強部材6の平面図であり、図15(C)は、図15(B)のD-D線矢視断面図である。図16第五実施形態の弁体4に補強部材6を組込んだ状態の幅方向X断面図である。
【0065】
この第五実施形態では、弁体4における弁体本体40の構成および補強部材6の構成が、他の実施形態と異なっている。図15(A)に示すように、弁体本体40の内部には、椀状凹部40cの側壁40fの内面と隙間をあけて幅方向Xに対向する補強板40dが形成されている。この補強板40dは、弁体本体40を構成する樹脂の一部が、椀状凹部40c内で板状に軸線L方向に延びて形成されている。そして、この補強板40dと椀状凹部40cの側壁40fの内面との間の空間は、補強部材6の幅方向X端部が嵌合する嵌合空間40eとなっている。すなわち、弁体4には、椀状凹部40cの側壁40fの内面と隙間をあけて対向する補強板40dが設けられ、補強板40dと椀状凹部40cの側壁40fとの間には、補強部材6の幅方向X端部が嵌合する嵌合空間40eが設けられている。
【0066】
補強部材6は、図15(B)、(C)に示すように、平面部60で構成され、他の実施形態と異なり立上面部61を有していない。平面部60の幅方向X両端側には、板厚方向に貫通する貫通孔63(嵌合部)がそれぞれ貫通形成されている。貫通孔63は、それぞれ補強部材6の幅方向X端縁に沿って軸線L方向に延びている。図16に示すように、貫通孔63には、弁体本体40の補強板40dの高さ方向Zの一端部が嵌合している。すなわち、補強部材6には、補強板40dが嵌合する嵌合部が形成されている。
【0067】
嵌合空間40eに補強部材6の幅方向X端部が嵌合し、貫通孔63に弁体本体40の補強板40dが嵌合し、補強部材6が弁体4に固定された状態では、図16に示すように、椀状凹部40cの側壁40fの内面が補強部材6の幅方向X端部外面に当接している。また、補強板40dの幅方向X外側の面と、貫通孔63の幅方向X外側の面と、の間には、組込み性を考慮し僅かな間隙が設けられている。すなわち、補強部材6は、嵌合空間40eに対して、補強板40dと貫通孔の面の間に僅かな間隙を有した状態で嵌合している。
【0068】
なお、第五実施形態では、平面部60に貫通孔63を形成したが、例えば貫通孔63を、軸線L方向一方側に延長して、切欠きとしてもよい。すなわち、貫通孔63や切欠きなどによって嵌合部を構成してよい。
【0069】
このような構成によれば、弁体4には補強板40dを設け、補強部材6には、補強板40dが嵌合する貫通孔63(嵌合部)を設けることで、弁体4と補強部材6とを固定することができる。すなわち、補強部材6に立上面部61等の構成を設けない簡易な構成で、弁体4と補強部材6とを固定することができる。また、この際、補強部材6の幅方向X端部は、補強板40dと椀状凹部40cの側壁40fとの間の嵌合空間40eに嵌合する。そして、この構成では、弁体4に対して外部から内部に向かって圧力が加わった場合、椀状凹部40cの側壁40fが補強部材6に押し付けられることで、椀状凹部40cの側壁40fはそれ以上外部から内部に向かって変形することが抑制される。一方、弁体4に対して内部から外部に向かって圧力が加わった場合、内部から外部に向かって変形しようとする補強板40dは、補強部材6に引っ掛かることで、それ以上内部から外部に向かって変形することが抑制される。これによって椀状凹部40cの側壁40fに上記圧力が作用し難くなる。このように、弁体4に対して加わる圧力に対し、椀状凹部40cの側壁40fは、収縮方向に加え膨張方向にも変形し難くなり、弁体4の耐圧性を更に向上することができる。このため、弁体4に圧力が加わった場合に、椀状凹部40cの側壁40fの変形が抑制され、弁漏れの発生を更に抑制することができる。
【0070】
なお、第五実施形態では、椀状凹部40cの側壁40fの内面と補強板40dの幅方向X外側の面が平らな嵌合空間40eとしたが、嵌合空間40eの構成はこれに限らない。例えば、図1から図6に示すように、椀状凹部40cの側壁40fの内面または補強板40dの幅方向X外側の面に嵌合溝41aを形成し、側壁40fの内面または補強板40dの幅方向X外側の面に抜け止め突起42が形成された嵌合空間40eとし、嵌合溝41aに補強部材6の幅方向X端部外面、または貫通孔63の幅方向X外側の面を嵌合させ、抜け止め突起42に補強部材6の幅方向X端部外側の下面、または貫通孔63の幅方向X外側の下面を係合させてもよい。このようにすることにより、補強部材6が高さ方向Z外方に移動しようとしても、補強部材6の下面が、抜け止め突起42の高さ方向Z内方側の端部に当接することでその移動が規制されるので、補強部材6が椀状凹部40cから抜け落ちることが抑制される。
【0071】
また、第四実施形態と第五実施形態では、補強部材6を弁体4に固定する際、椀状凹部40cの側壁40fの内面を補強部材6の立上面部61、または補強部材6の幅方向X端部外面に当接させ、補強板40dの幅方向X外側の面と、補強部材6の立上面部61の内面または補強部材6の貫通孔63の幅方向X外側の面との間には、組込み性を考慮し僅かな間隙を設けたが、この関係は逆にしてもよい。すなわち、椀状凹部40cの側壁40fの内面と、補強部材6の立上面部61、または補強部材6の幅方向X端部外面との間には、組込み性を考慮し僅かな間隙を設け、補強板40dの幅方向X外側の面を補強部材6の立上面部61の内面、または補強部材6の貫通孔63の幅方向X外側の面に当接させてもよい。
【0072】
このような構成によれば、弁体4に対して外部から内部に向かって圧力が加わった場合、外部から内部に向かって変形しようとする椀状凹部40cの側壁40fは、補強部材6に引っ掛かることで、それ以上外部から内部に向かって変形することが抑制される。一方、弁体4に対して内部から外部に向かって圧力が加わった場合、補強板40dが補強部材6に押し付けられることで、補強板40dはそれ以上内部から外部に向かって変形することが抑制される。これによって椀状凹部40cの側壁40fに上記圧力が作用し難くなる。このため、第四実施形態および第五実施形態の作用、効果と同様に、弁体4に圧力が加わった場合に、椀状凹部40cの側壁40fの変形が抑制され、弁漏れの発生を抑制することができる。
【0073】
なお、上述した各実施形態および変形例では、ステッピングモータ5aと直動機構5bとを備える駆動部5によって、弁体4をスライド駆動するスライド式切換弁1を例に説明をしたが、弁体4の駆動の仕方についてはこれに限らない。例えば、弁本体内に設けた副弁室等の複数の区画の圧力をパイロット弁により切換え、差圧を利用して弁体をスライド駆動するタイプのスライド式切換弁にも、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 スライド式切換弁
2 弁本体
3 弁座部
33 シール面
4 弁体
40a 開口縁部
40c 椀状凹部
5 駆動部
6 補強部材
60 平面部
S シール部
L 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16