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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057069
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】蛍光VHH抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230413BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20230413BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230413BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230413BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230413BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20230413BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230413BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230413BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/10
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/04
G01N33/569 L
C07K7/08
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162701
(22)【出願日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2021166259
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長見 篤
(72)【発明者】
【氏名】稲浦 峻亮
(72)【発明者】
【氏名】森本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 慧
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 敦史
(72)【発明者】
【氏名】下薗 哲
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真由
(72)【発明者】
【氏名】濱 裕
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ10
4B063QR48
4B063QR79
4B063QS33
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA11
4H045CA15
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】ウイルス等の抗原の高感度な検出に有用な蛍光VHH抗体及びその利用法を提供する。
【解決手段】VHH抗体と蛍光タンパク質が直接又はペプチドリンカーを介して結合したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体であって、蛍光タンパク質が下記1)~2)のタンパク質及びその変異体から選ばれる、前記融合体。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
2)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VHH抗体と蛍光タンパク質が直接又はペプチドリンカーを介して結合したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体であって、蛍光タンパク質が下記1)~2)のタンパク質及びその変異体から選ばれる、前記融合体。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
2)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
【請求項2】
VHH抗体が、前記蛍光タンパク質のN末端又はC末端に、直接又はペプチドリンカーを介して連結されている、請求項1記載の融合体。
【請求項3】
VHH抗体が、ペプチドリンカーを介して前記蛍光タンパク質のN末端に連結されている、請求項1記載の融合体。
【請求項4】
ペプチドリンカーが(GGGGS)(配列番号5)である、請求項3記載の融合体。
【請求項5】
VHH抗体がウイルスに対して親和性を有するVHH抗体である、請求項1~4のいずれか1項記載の融合体。
【請求項6】
VHH抗体がSARS-CoV-2に対して親和性を有するVHH抗体である、請求項1~4のいずれか1項記載の融合体。
【請求項7】
VHH抗体が配列番号12、配列番号48又は配列番号55で示されるアミノ酸配列からなるSARS-CoV-2に対するVHH抗体である、請求項1~4のいずれか1項記載の融合体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の融合体をコードする核酸を有する細胞を培養する工程を含む、前記融合体の製造方法。
【請求項9】
試料中の抗原を検出する方法であって、請求項1~7のいずれか1項記載の融合体と試料とを接触させる工程を含む、抗原の検出方法。
【請求項10】
抗原がウイルスである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
抗原がSARS-CoV-2である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
VHH抗体を請求項1記載の融合体として発現させる、該VHH抗体の多量体化方法。
【請求項13】
VHH抗体を請求項1記載の融合体として発現させる、該VHH抗体の抗原に対する結合活性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
VHH抗体と蛍光タンパク質との融合体及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症、特にウイルス感染症は、感冒症状を始め、肺炎、肝炎、脳炎等の重篤な症状を引き起こす疾患であり、人類にとって永遠の脅威となっている。近年では、インフルエンザウイルスが世界的に猛威を振るい、時には、抗原性が変化した新型インフルエンザの発現によってパンデミックを起こす場合もある。また、2019年には、SARSコロナウイルス-2(SARS-CoV-2)が出現し、急性呼吸器疾患(COVID-19)を引き起こして、生命や健康のみならず、経済活動、社会機能にまで影響を及ぼしている。
【0003】
ウイルスの診断には、遺伝子増幅法(PCR)によるウイルス遺伝子の検出(PCR検査)の他、ウイルス構造タンパク質断片を特異的抗体を用いて検出する抗原検査が行われる。抗原検査は、高価な機械や検査に要する労力を必要とせず、感染の有無も数分で診断が可能という利点を有する。
【0004】
一般に、生体が感染によって抗原と接触した後にできる抗体(イムノグロブリン;Ig)は、軽鎖と重鎖とで構成されているが、ラクダ科の動物では軽鎖を持たない重鎖抗体を産生することが知られている。重鎖抗体の可変領域を含む単一のドメイン(シングルドメイン)はそれ自身でも抗体として機能し、VHH抗体と呼ばれる。
【0005】
VHH抗体は、その分子量がIgG抗体の10分の1と小さいため、通常のIgGでは立体構造上の問題からエピトープに結合することができない場合でも結合が可能で、また多くの糖鎖で修飾されたウイルス粒子の表面等にも結合できるため、標的分子になり得る幅が広い。さらに、VHH抗体は耐酸性や耐熱性にも優れており、IgGとは異なって培養細胞で産生させる必要がなく、大腸菌、酵母等で生産することができる。このため、大量生産しやすく、精製も容易であるという利点がある。さらに、VHH抗体は1本鎖のペプチドで構成されているため、蛋白質工学の技術又は化学修飾等の技術を用いて機能の改変がしやすく、抗体薬物複合体(ADC)を作製しやすいという特徴を有することが知られている。
【0006】
本発明者らは、これまでに、SARS-CoV-2に親和性が高いVHH抗体を取得することに成功している(特許文献1~3)。また、非特許文献1には、SARS-CoV-2に結合するVHH抗体にmNeonGreen等の蛍光タンパク質を結合させた蛍光VHH抗体を用いて、蛍光抗体法によりSARS-CoV-2感染培養細胞を検出することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】PCT/JP2021/017106
【特許文献2】特願2021-085698
【特許文献3】特願2021-029050
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Laura Jo Sherwood and Andrew Hayhurst. (2021),Toolkit for Quickly Generating and Characterizing Molecular Probes Specific for SARS-CoV-2 Nucleocapsid as a Primer for Future Coronavirus Pandemic Preparedness., ACS Synth Biol. 2021 Feb 19;10(2):379-390. doi: 10.1021/acssynbio.0c00566. Epub 2021 Feb 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ウイルス等の抗原の高感度な検出に有用な蛍光VHH抗体及びその利用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、VHH抗体と特定の蛍光タンパク質を結合した融合体が、抗原とVHH抗体との親和性を阻害することなく抗原に結合し、当該抗原の高感度な検出に有用であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(5)に係るものである。
(1)VHH抗体と蛍光タンパク質が直接又はペプチドリンカーを介して結合したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体であって、蛍光タンパク質が下記1)~2)のタンパク質及びその変異体から選ばれる、前記融合体。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
2)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(2)上記(1)記載の融合体をコードする核酸を有する細胞を培養する工程を含む、前記融合体の製造方法。
(3)試料中の抗原を検出する方法であって、上記(1)記載の融合体と試料とを接触させる工程を含む、抗原の検出方法。
(4)VHH抗体を(1)記載の融合体として発現させる、該VHH抗体の多量体化方法。
(5)VHH抗体を(1)記載の融合体として発現させる、該VHH抗体の抗原に対する結合活性向上方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料中のウイルス等の抗原を簡易且つ高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】SDS-PAGEによるVHH抗体-蛍光タンパク質融合体のインテグリティー。
図2】VHH抗体-蛍光タンパク質融合体の蛍光発色団の形成度。
図3】感染細胞に対するVHH抗体-蛍光タンパク質融合体による染色の特異性。
図4】3種類のVHH抗体-蛍光タンパク質の蛍光シグナル強度。
図5】凍結乾燥したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体の染色性。
図6】E0=KikGとE9=KikGのシグナル強度の比較。
図7】E9=KikGの蛍光シグナルの経日的な安定性。
図8】SARS-CoV-2臨床検体(唾液サンプル)に含まれる細胞のコンフォーカル顕微鏡による観察。
図9】N10=KikGを用いたヌクレオカプシドを認識するVHH抗体N10によるSARS-CoV-2臨床検体の染色。
図10】蛍光VHHによる抗体染色と間接蛍光抗体法による染色との比較。
図11】表面プラズモン共鳴法によるE9=KikG、E9=AzaleaB5又はE9=mAchillesのオミクロン株S-タンパク質3量体又はRBDに対する結合活性測定。黒線は計測された生データに基づく結合解離曲線、灰色線はフィッティング後の結合解離曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0015】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0016】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0017】
本明細書において、アミノ酸の位置及び変異体の記載は、公認されているIUPACの1文字のアミノ酸略記を用いて、以下のように表記される。
すなわち、所定位置のアミノ酸は、[アミノ酸、位置]で表記され、アミノ酸の「置換」に関しては、[元のアミノ酸、位置、置換されたアミノ酸]で表記され、アミノ酸の「欠失」に関しては、[元のアミノ酸、位置、Δ]で表記され、アミノ酸の「挿入」に関しては、
[元のアミノ酸、位置、元のアミノ酸、挿入されたアミノ酸]で表記される。また、複数の改変を含む変異体は、加算記号(「+」)によって表記される。
【0018】
本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体は、VHH抗体と蛍光タンパク質が直接又はペプチドリンカーを介して結合したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体であって、蛍光タンパク質が下記1)~2)のタンパク質及びその変異体から選ばれるものである。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
2)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
【0019】
「VHH抗体」とは、軽鎖を持たない重鎖抗体の抗原結合ドメインを切り出した分子を意味する。VHH抗体は、通常抗体のH鎖等と同様に3本の抗原結合ループ(抗原相補性決定領域;CDR)を有する、シングルドメイン構成の低分子抗体である。
本発明において、VHH抗体はいかなる抗原に親和性を有する抗体であっても良いが、好ましくはウイルスに親和性を有するVHH抗体である。ここで、ウイルスは、核酸の種類(RNA、DNA)及びエンベロープの有無を問わず、すべての種類のウイルスであり得る。例えば、核酸としてRNAを有するインフルエンザウイルス;コロナウイルス;SARSコロナウイルス;SARSコロナウイルス-2;RSウイルス;ムンプスウイルス;ラッサウイルス;デングウイルス;風疹ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス、ノロウイルス;ポリオウイルス;エコーウイルス;A型肝炎ウイルス;E型肝炎ウイルス;ライノウイルス;アストロウイルス;ロタウイルス;コクサッキーウイルス;エンテロウイルス;サポウイルス、核酸としてDNAを有するヒトヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;B型肝炎ウイルス、アデノウイルス;B19ウイルス;パポバウイルス;ヒトパピローマウイルス等が挙げられる。
【0020】
SARS-CoV-2に親和性を有するVHH抗体としては、前記特許文献1~3に記載された、以下のA(前記特許文献1)、B(前記特許文献2)、C(前記特許文献3)の抗体又はペプチドが例示される。
A:配列番号9で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号10で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2と、配列番号11で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
具体的には、CoVHH1(配列番号12、後述の実施例においては、「E0」と称する)等が挙げられる。
【0021】
B:配列番号13~21のいずれかで示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3を含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合するペプチド。
好ましくは、さらに配列番号22~30で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1と、配列番号31~39で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2を含む、ペプチド。
より好ましくは、下記の配列番号13~39で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる、CDR1、CDR2及びCDR3をそれぞれ含む構造ドメインを1つ以上有する、1)~9)から選ばれる、SARS-CoV-2に結合するペプチド。
【0022】
【表1】
【0023】
具体的には、VHH-COVE1(配列番号40)、VHH-COVE2(配列番号41)、VHH-COVE3(配列番号42)、VHH-COVE4(配列番号43)、VHH-COVE5(配列番号44)、VHH-COVE6(配列番号45)、VHH-COVE7(配列番号46)、VHH-COVE8(配列番号47)、VHH-COVE9(配列番号48、後述の実施例においては、「E9」と称する)等が挙げられる。
【0024】
C:以下の(a)又は(b)で示されるCDRを含む構造ドメインを1つ以上有する、SARS-CoV-2に結合する抗体。
(a)配列番号49で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号50で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号51で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
(b)配列番号52で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号53で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号54で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなるCDR3
具体的には、CoVHH―N1(配列番号55、後述の実施例においては、「N1」と称する)、CoVHH―N2(配列番号56)等が挙げられる。
【0025】
一方、本発明に係る蛍光タンパク質は、以下の1)~2)から選ばれるタンパク質又はその変異体である。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
2)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
【0026】
「蛍光タンパク質」とは、蛍光性であるタンパク質を意味し、適切な励起波長の光で照射されたときに一定の蛍光を示す(蛍光活性)。
1)の配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、キクメイシ科のサンゴであるキクメイシ(Favia speciosa)由来のタンパク質で「KikG」と称される(EMBO Rep (2005)6:233-238)。当該タンパク質は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる。KikGの励起及び発光スペクトルは、それぞれ507及び517nmで最大を示す。KikGは強固な4量体構造を形成することで、全体として分散性が高いタグとして活用される。
当該蛍光タンパク質の変異体としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の同一性を有し、且つ前記タンパク質と同様の蛍光活性を有するタンパク質が挙げられる。
配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列には、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列が包含される。
ここで、「前記タンパク質と同様の蛍光活性を有する」とは、例えば、前記タンパク質の最大蛍光波長±5nmの範囲に最大蛍光波長を有することが挙げられる。
【0027】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体としては、具体的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
・D62H
・M40V+D62H+I198M
・M10I+L12V+M40V+V60A+D62H+Y119N+P144S+R197L+I198M
【0028】
2)配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、トゲクボミコモンサンゴから単離した蛍光タンパク質の改変体であり、「AzaleaB5」と称される(bioRxiv, doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.30.015156)。当該タンパク質は、配列番号3で示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによりコードされる。
AzaleaB5の励起及び発光スペクトルは、それぞれ574nm及び596nmで最大を示す。斯かるAzaleaB5は2量体を形成する。
当該蛍光タンパク質の変異体としては、配列番号4で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、より好ましくは少なくとも99%の同一性を有し、且つ前記タンパク質と同様の蛍光活性を有するタンパク質が挙げられる。
配列番号4で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列には、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列に対して1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、又は挿入されたアミノ酸配列が包含される。
また、「前記タンパク質と同様の蛍光活性を有する」とは、例えば、前記タンパク質の最大蛍光波長±5nmの範囲に最大蛍光波長を有することが挙げられる。
【0029】
配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の変異体としては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換(D108E+C119S+C155S+C177V)を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。
【0030】
本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体において、VHH抗体は、直接又はペプチドリンカーを介して蛍光タンパク質と連結するが、その態様は蛍光タンパク質のN末端、C末端のいずれに結合するものであっても良い。好適には、VHH抗体が、ペプチドリンカーを介して蛍光タンパク質のN末端に連結される態様が挙げられる。
【0031】
ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーを意味し、そのアミノ酸長は、通常5~50アミノ酸、好ましくは13~30アミノ酸、更に好ましくは15~30アミノ酸である。ペプチドリンカーを構成するアミノ酸配列は、特に限定は無く、VHH抗体-蛍光タンパク質融合体中のVHH抗体と蛍光タンパク質の機能が保持されるように好適に設計される。本発明においては、例えば、GGGGSGGGGSGGGGS((GGGGS);配列番号5)を用いるのが好ましい。
【0032】
また、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体は、タグをさらに含んでもよい。タグとしては、例えばヒスチジンタグ(HHHHHH(配列番号6))、FLAG-tag(DYKDDDDK(配列番号7))、Strep-tag(WSHPQFEK(配列番号8))等のタンパク質単離/精製用ペプチドタグが挙げられる。タグは、例えば本発明に係るVHH抗体-蛍光タンパク質融合体のN末端又はC末端に、直接又はペプチドリンカー(例えばGGG)を介して連結させることができる。
【0033】
本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体は、遺伝子組換え法により製造することができる。具体的には、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体をコードする核酸(DNA(例えばcDNA)又はRNA(例えばmRNA))を有する大腸菌を培養することで、VHH抗体-蛍光タンパク質融合体を製造することができる。
【0034】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体をコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、得られた細胞(形質転換体)を培養し、該細胞内から又は細胞外液から目的のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を回収することを含む方法によりなされ得る。
【0035】
本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体をコードするDNAは、例えば適当なプライマーを用いるPCR法により合成した各構成要素(VHH抗体、蛍光タンパク質、ペプチドリンカー、ペプチドタグ)をコードするDNAを常法によりリガーゼで連結することによって得ることができる。あるいは、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体をコードするDNAは、常法により化学合成してもよい。
【0036】
ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET17b、pET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。
【0037】
ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、SD配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等が用いられ得る。
【0038】
ベクターを導入するための宿主細胞としては、例えば大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等が挙げられるが、本発明においては、宿主細胞として大腸菌を使用することが好ましい。これらの宿主細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクル・ガン法、及びPEG法等を含む。
【0039】
形質転換細胞の培養は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体の回収を容易にするために、発現によって生成した当該VHH抗体-蛍光タンパク質融合体を細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのVHH抗体-蛍光タンパク質融合体の分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、当該VHH抗体-蛍光タンパク質融合体をコードするDNAの5’末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体が培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積されたVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を回収する。
【0040】
製造されたVHH抗体-蛍光タンパク質融合体は、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により回収又は精製することができる。上述のように、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体がヒスチジンタグ等の精製用タグを有する場合には、細胞又は培地から当該精製用タグを利用してVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を精製することができる。例えば、VHH抗体-蛍光タンパク質融合体がヒスチジンタグを有する場合には、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によりVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を精製することができる。
【0041】
上述したように、KikGは4量体構造を形成し、AzaleaB5は2量体構造を形成することから、VHH抗体を上記VHH抗体-蛍光タンパク質融合体として発現させることによりVHH抗体の多量体化が可能であると云える。そして、当該VHH抗体の多量体化によれば抗原、特に多量体の抗原に対する結合活性を向上させることができる。
したがって、本発明は、VHH抗体を前記VHH抗体-蛍光タンパク質融合体として発現させる、該VHH抗体の多量体化方法、また、VHH抗体を前記VHH抗体-蛍光タンパク質融合体として発現させる、該VHH抗体の抗原に対する結合活性向上方法を提供するものでもある。
【0042】
斯くして得られた本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体は、試料中の抗原の存在を検出するための蛍光標識抗体として使用できる。
したがって、本発明は、当該VHH抗体-蛍光タンパク質融合体と試料とを接触させる工程を含む、試料中の抗原の検出方法を提供する。
すなわち、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体と試料とを接触させて抗原抗体反応を行い、反応物(抗原抗体結合物)の蛍光を測定することにより、試料中の抗原の存在を検出する。斯かる方法によれば、抗原を直接的に検出でき、追加のステップを必要とせず、より短時間で感度良く抗原の検出が可能となる。
【0043】
ここで、試料としては、気管スワブ、鼻腔拭い液、口腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液、鼻汁鼻かみ液、唾液、痰、涙、血液、血清、尿、糞便、組織、細胞、組織又は細胞の破砕物等の生体試料の他、ウイルス等の抗原が付着している可能性のある固体表面、例えばドアノブ、便器等から採取された試料の何れでもよい。特に、本発明のVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を用いて試料中のSARS-CoV-2を検出する場合、唾液やウイルス感染細胞等のいずれの試料を用いても、PCR法に匹敵する高感度でSARS-CoV-2を検出することが可能である。
【0044】
VHH抗体-蛍光タンパク質融合体と試料との接触は、抗原抗体反応を十分に行うことができればよく、VHH抗体-蛍光タンパク質融合体の濃度及び接触量、接触時間は適宜設定され得る。例えば、SARS-CoV-2を検出する場合は、予めブロッキング処理を行なった試料に、同ブロッキング液にて希釈したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体を添加し、1~数時間、室温で反応させることが挙げられる。
【0045】
蛍光測定は、特に限定されないが、反応物にある波長領域を持つ励起光を照射して蛍光物質を発光させ、回収される光の強度又は光子の数を蛍光顕微鏡のカメラや共焦点レーザー顕微鏡等の受光素子により計測し、試料中に含まれる抗原を識別することにより行われる。
【実施例0046】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
製造例1 VHH抗体-蛍光タンパク質融合体の作製
(1)大腸菌発現プラスミドの構築
VHH抗体、E0(配列番号12)のcDNAをPCRにより増幅し、pBS C4ベクター(Shimozono et al., Methods Cell Biol. 85: 381-393 (2005))のBamHI/
EcoRIサイトにクローニングした(pBSC4/E0)。さらに、KikGのcDNAをPCRにより増幅し、pBSC4/E0のHindIII/SalIサイトにクローニングした(pBSC4/E0=KikG)。pBSC4のEcoRIサイトとHindIIIサイトの間には、リンカー(GGGGS)(“=”と表記。G:グリシン、S:
セリン)に対応する塩基配列が組み込まれているため、E0とKikGの間にリンカーが挿入されたことになる。pBSC4/E0=KikGからBamHIおよびSalIによってE0=KikGを抽出し、独自に改変した大腸菌発現ベクター、pRSETB (HindIIIサイトの直前にSalIサイトを挿入したうえでHindIIIサイトを除去)のBamHI/SalIサイトにクローニングした(pRSETB/E0=KikG)。
pRSETB/E0=KikGをテンプレートに、その他のVHH-蛍光タンパク質融合体の作製を行った。pRSETB/E0=KikGに対してHindIIIおよびSalIの制限酵素処理によりKikGを切り出し、PCR増幅した蛍光タンパク質のcDNA(AzaleaB5、Achilles、EGFP)と入れ替えた。さらに、PCR増幅したVHH抗体(E9(配列番号48),N10(配列番号55))のcDNAを、制限酵素(BamHI/EcoRI)もしくはIn-Fusion試薬(Clontech)を用いて、E0と入れ替えた。
以下に、各VHH-蛍光タンパク質融合体の作製に用いたVHH-蛍光タンパク質融合体のアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチドの配列を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
(2)大腸菌の形質転換・培養
作製したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体発現プラスミドを、ヒートショックによりコンピテントセル(JM109(DE3))に導入し、形質転換した。アンピシリンを含む寒天培地(LBブロス)に形質転換処理した大腸菌を塗布し、約16時間、37℃にて培養した。形成されたコロニーの一つを、アンピシリン入りLBブロス(25ml)に接種し、室温(23℃程度)にて4日間、振盪培養した。
【0050】
(3)VHH抗体―蛍光タンパク質融合体の精製
振盪培養した大腸菌を遠心機にて回収し、PBSに懸濁した。プロテアーゼインヒビター及びリゾチームを加えたのち、液体窒素による凍結と流水による融解を3回程度繰り返し大腸菌を破砕した。ソニケーターにより更に大腸菌を破砕するとともに大腸菌ゲノムを切断した。破砕液を遠心することによりデブリを除去し、上清にNi-NTAアガロースレジン(Ni-NTA agarose (Qiagen, cat.#30230))を大腸菌培養液25mLあたり1mL加え、4℃にて1時間程度攪拌した。Ni-NTAアガロースレジンをカラムにつめ、PBS、10mMイミダゾール含有PBSにて洗浄後、300mMイミダゾール含有PBSにて溶出した。溶出したタンパク質溶液は、ゲル濾過カラムPD-10によりバッファーを150mM KCl,50mM HEPES-KOH(pH7.4)に置換した。精製したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体は、Bovine Serum Albumin (Quick Start Bovine Serum Albumin Standard (BIO-RAD, cat. #500-0206))を標準タンパク質としてBradford法により濃度を決定した。10%(weight/ml)アクリルアミド-0.33%(weight/ml)ビスアクリルアミドを架橋重合させたゲルを用いたSDS-PAGEによりタンパク質のインテグリティーを検討し、吸収分光光度計(U-3310(日立ハイテクサイエンス))を用いて、150mM KCl,50mM HEPES-KOH(pH7.4)をバックグラウンドに吸収スペクトルを測定することにより発色団の形成度合いを確認した。
【0051】
(4)結果
タンパク質のインテグリティーについての結果を図1に示した。加えて蛍光タンパク質の発色団形成についての結果を図2に示した。図1においてSDS-PAGE上の主バンドの移動度から、図中に示したいずれのVHH抗体-蛍光タンパク融合体の場合も予測される(分子設計に叶った)目的タンパク質の分子量に相当していた。また同時に、組換え体タンパク質(VHH抗体-蛍光タンパク質)の分解を抑えながら高効率で安定的に産生すること可能であり、さらに高い精製度を実現していることが認められた。このことは図2に示した発色団形成を示す吸収スペクトルがいずれのVHH抗体-蛍光タンパク質の場合にもKikGあるいはAzaleaB5固有のスペクトルが示されたことからも明らかである。
以上より、分子設計に叶った分子が安定的に形成されていることが支持されたと考えられた。
【0052】
試験例1 VHH抗体-蛍光タンパク質融合体を用いたSARS-CoV-2感染培養細胞の蛍光観察
(1)方法
SARS-CoV-2感染VeroE6/TMPRSS2細胞(Toshiki Ebisudani et al., Cell Rep. 2021 Jun 8;35(10):109218)及び非感染細胞(35mmガラスボトムディッシュ(IWAKI)もしくは96穴ガラスボトムプレート(Matsunami))を用いた。タンパク分解酵素TMPRSS2は、SARS-CoV-2ウイルスが宿主となる細胞膜上に存在するACE2(SARS-CoV-2ウイルスウイルスの受容体)と結合する際にウイルス膜上にあるスパイクタンパク質を切断し活性型にするために必要な酵素であり、ACE2と同じく宿主細胞膜上に存在する。VeroE6/TMPRSS2細胞は、本来のVero E6細胞にはこのTMPRSS2が存在しないため、実験的に感染を誘起することを目的としてこのTMPRSS2遺伝子をあらかじめ導入した細胞である。この細胞に対してブロッキング液(3%BSA,1%Triton-X/120mM NaCl,50mM PIPES-NaOH(pH6.8))により1時間室温にてブロッキングした。ブロッキング液にて希釈した10μg/mlVHH抗体-蛍光タンパク質融合体(E0=KikG、E0=EGFP、E0=Achilles)を1時間、室温にて反応させ染色を行った後PBS(pH7.8)で3回洗浄を行い、以下に示す蛍光顕微鏡システムを用いて、ウイルスを実験的に感染させた培養細胞(Vero E6/TMPRSS2細胞)の蛍光観察を行った。顕微鏡システム及び撮像条件を以下に示す。
【0053】
(ワイドフィールド蛍光顕微鏡システム)
・顕微鏡システム:
顕微鏡:倒立型IX83(オリンパス)、光源:X-cite XYLIS(EXCELITAS)、カメラ:ORCA-Fusion(浜松ホトニクス)、制御ソフト:cellSens Dimension(オリンパス)
・対物レンズ:UPLXAPO20x/NA 0.8(オリンパス)
・蛍光ミラーユニット:
・VHH抗体-蛍光タンパク質融合体(E0=KikG,E0=EGFP,E0=Achilles):U-FBNA(オリンパス)
・励起光強度:5%
・露光時間:1秒間
【0054】
(2)結果
図3に示す結果より、VHH抗体-蛍光タンパク質融合体による染色は、非感染細胞では観察されず感染細胞特異的であることがわかった。
図4に示す結果より、VHH抗体に融合する蛍光タンパク質として、E0=KikG,E0=EGFP,およびE0=Achillesの三者を比較したところ、E0=KikGが感染細胞を強く染色し、高感度に感染細胞を検出できることがわかった。
PCRでは感染が疑われる検体の平均的な感染状況を知るにとどまるのに対して、感染あるいは非感染の状態を細胞ごとに個別に分別可能であること、そして染色による蛍光強度から感染の度合いを細胞ごとに個別に検出することが可能であると考えられた。
【0055】
試験例2 凍結乾燥したVHH抗体-蛍光タンパク質融合体のSARS-CoV-2感染患者由来の唾液における染色性
試験例1で確認した培養細胞におけるVHH抗体-蛍光タンパク質融合体の染色性能の知見をもとに、凍結乾燥の有無がタンパク質分子の安定性に影響を及ぼすかを臨床検体で確認した。
(1)方法
20mlのCellprepシステム用試薬 婦人科・口腔用(cat.no:518-111458)に懸濁された検体、500μLをマイクロチューブに分取し15,000rpm(20,954xg)にて20分遠心した。上清を除き、ペレット懸濁液約3μLを、シランコートスライドガラス(水縁磨フロスト1106、武藤化学)にアプライした。
風乾により半湿潤状態にした細胞成分がスライドガラスに固定されたことを確認し、99.5%エタノール(富士フィルム和光純薬)にて30分間、室温にて固定した。
PBS(pH7.8)にて2回洗浄し、ブロッキング液(3%BSA,1%Trito
n-X/120mM NaCl,50mM PIPES-NaOH(pH6.8))にて1時間、室温にてブロッキングを行なった。
ブロッキング液にて希釈した10μg/mL VHH抗体-蛍光タンパク質融合体を、
1時間、室温にて反応させた。
PBS(pH7.8)にて3回洗浄し、細胞核を、DAPI(10μg/mL in
PBS,富士フィルム和光純薬、cat.no:340-07971)にて、染色(5分間、室温)した。
3回のPBS洗浄後、PBSを包埋剤にしてカバーガラスにて包埋し、試験例1と同条件でワイドフィールド蛍光顕微鏡による観察を行った。
【0056】
(1)方法
1.5mLマイクロチューブに分注した100μLの精製VHH抗体-蛍光タンパク質融合体E0=KikGを液体窒素にて凍結し、凍結乾燥機FDU-830(EYELA)を用いて24時間凍結乾燥を行った。凍結乾燥したサンプルは、チューブの開口部をパラフィルムにて密閉し、室温にて保管した。使用直前に100μLの純水を添加することにより再構成した。
(2)結果
結果を図5に示した。VHH抗体-蛍光タンパク質融合体E0=KikGの溶液を精製後液体窒素により急速凍結し-80℃にて保存したもの(新鮮プローブ)と、同タンパク質溶液を凍結乾燥し乾燥条件下に室温にて保管しておいたE0=KikG(凍結乾燥プローブ)は同等のシグナル強度を示した。
したがって、VHH抗体-蛍光タンパク質融合体は凍結乾燥しても機能をほぼ完全に保つと考えられた。
【0057】
試験例3 E0=KikGとE9=KikGによる感染細胞の染色シグナル強度の比較
E0=KikGとE9=KikGという異なるVHH抗体をKikGに融合させることでシグナルの強さが変化するか否かを検討した。
試験例1の方法を用いて感染細胞を染色した結果、E9=KikGの方がシグナル強度が高く、且つ感染細胞に対する特異性も保たれていることが確認された(図6)。
図2の発色団形成の結果を参考にすると、シグナルの強さの違いは融合するVHH抗体との間に生じる分子の高次構造形成上のストレスではなく、むしろVHH抗体の抗原に対する親和性の違いに応じたVHH抗体-蛍光タンパク融合体の結合量の違いによって生じたと考えられた。
【0058】
試験例4 VHH抗体-蛍光タンパク質融合体の蛍光シグナルの安定性
SARS-CoV-2感染患者由来の唾液サンプルをVHH抗体-蛍光タンパク質融合体E9=KikGを用いて染色し、経日的に3日間にわたり同一視野で蛍光強度を観察した(観察は室温で行い、保管を4℃で行った)。
その結果、E9=KikGの蛍光シグナルの強度は、染色後少なくとも3日間は変化せず安定であることが確認された(図7)。
KikG融合させたE9 VHH抗体は数日間保存しても安定して強いシグナルを保持し、しかも抗原から離脱せず安定的に結合した状態にあると考えられた。
【0059】
試験例5 VHH抗体-蛍光タンパク質融合体を用いたSARS-CoV-2臨床検体のコンフォーカル顕微鏡による高精細な観察
S-タンパク質の染色に強い蛍光シグナルを示すE9=KikG、蛍光タンパク質AzaleaB5を融合させたヌクレオカプシドを認識するVHH抗体(N10=AzaleaB5)、さらにDAPIによる核染色そして口腔内の上皮細胞の染色に汎サイトケラチン抗体を用いて四重染色を行った。
(1)方法
20mlのCellprepシステム用試薬 婦人科・口腔用(cat.no:518-111458)に懸濁された検体、500μLをマイクロチューブに分取し15,00
0 rpm(20,954 x g)にて20分遠心した。上清を除き、ペレット懸濁液約3μLを
、シランコートスライドガラス(水縁磨フロスト1106、武藤化学)にアプライした。 風乾により半湿潤状態にした細胞成分がスライドガラスに固定されたことを確認し、99.5%エタノール(富士フィルム和光純薬)にて30分間、室温にて固定した。
PBS(pH8)にて2回洗浄し、ブロッキング液(3%BSA,1%Triton-X/120mM NaCl,50mM PIPES-NaOH(pH6.8))にて1時間、室温にてブロッキングを行なった。
ブロッキング液にて希釈した10μg/mL VHH抗体-蛍光タンパク質融合体(E
10=KikG及びN10=AzaleaB5)を、1時間、室温にて反応させた。
VHH抗体-蛍光タンパク質融合体反応後にPBS(pH7.8)で2回洗浄を行い、4%PFA/PBS(pH7.8)で10分間、室温にて再固定を行った。
この後、PBS(pH7.8)にて3回洗浄し、平上皮細胞のマーカーであるマウス由来モノクローナル抗-汎サイトケラチン抗体(クローン:AE1/AE3、BioLegend社製、 code:914204)を0.1% (wt/vol) TritonX-100/PBS(pH7.8)で最終濃度1.25μg/mlに希釈して1時間、室
温で反応させた。
PBS(pH7.8)にて3回洗浄した後、Alexa Fluor 633標識-ヤギ由来抗マウスIgG(H+L)-F(ab’)fragment(Thermo
Fisher/Invitrogen社製,code:A21053)を0.1%(wt/vol)TritonX-100/PBS(pH7.8)で最終濃度2μg/mlに希
釈して1時間、室温で反応させた。
次いでPBS(pH7.8)にて3回洗浄した後、細胞核を、DAPI(1mg/mL inPBS、富士フィルム和光純薬、cat.no:340-07971)をPBS(pH7.8)で2μg/mlに希釈して染色を行った(5分間、室温)。
3回のPBS洗浄後、PBSを包埋剤にしてカバーガラスにて包埋し、唾液(自然排出)の臨床検体に含まれる剥離細胞に対して倒立型コンフォーカルレーザー走査型顕微鏡による蛍光観察を行った。
コンフォーカルレーザー走査型顕微鏡による蛍光観察の観察および撮像条件は次のとおりである。
【0060】
(共焦点レーザー走査型顕微鏡システム)
顕微鏡:倒立型FV3000 (Olympus)
1.対物レンズ(40倍):UPLFLN-40XO(Olympus,Oil,NA:1.30,WB:0.2mm)
2.レーザーライン:10%ND フィルターを使用
・染色DAPIの検出:405nm(励起),蛍光検出スペクトル域430-470nm・KikGの検出:488nm(励起),蛍光検出スペクトル域500-540nm
・Azaleaの検出:561nm(励起),蛍光検出スペクトル域570-611nm・汎サイトケラチン(扁平上皮細胞,Alexa Fluor 633)の検出640nm(励起),蛍光検出スペクトル域650-750nm
3.スキャン
・x-yスキャン:
モード:シーケンシャルライン
スキャンスピード4.0μsec/pixel
・z-方向:
z-ステップ幅:1.5μm、光学切片枚数:5~8枚
4.画像サイズ:512×512
5.ピンホール径:158μm
6.デジタルズーム:1.0倍~3倍
感染サンプル及び非感染サンプルの観察条件は同一である。それぞれの観察におけるxy画像をz方向に重ね合わせたプロジェクション画像で示した。
【0061】
(2)結果
図8に顕微鏡観察像を示した。Sタンパク質を認識するE9=KikGによって感染検体中の細胞を強い蛍光シグナルで鮮明に可視化することができた。これに対して、非感染細胞では蛍光シグナルはほとんど検知することができなかった。また、同時に染色を行ったヌクレオカプシドを認識するN10=AzaleaB5も同様に感染検体中の細胞を比較的強いシグナルで可視化することができた。
また、汎サイトケラチン抗体陰性の細胞でもSタンパク質の染色シグナルが認められたことから、口腔内の扁平上皮細胞以外の細胞も感染している可能性がある。これらは感染による炎症に応答した炎症性の細胞であると考えられた。
【0062】
試験例6 N10=KikGによるSARS-CoV-2臨床検体の染色
VHH抗体の種類が変わってもKikGが強い蛍光シグナルを呈するか否かを検討するために、ヌクレオカプシドの染色にヌクレオカプシドを認識するVHH抗体N10にKikGを融合させたN10=KikGを用い、またS-タンパク質を認識するVHH抗体E9にAzaleaB5を融合させたE9=AzaleaB5を用いた染色に加え、DAPIによる核染色そして口腔内の上皮細胞の染色に汎サイトケラチン抗体を用いた四重染色を行い、観察した。
【0063】
(1)方法
試験例5と同様に、臨床検体サンプルを調製し、同様の条件でコンフォーカル顕微鏡により観察した。
(2)結果
図9に顕微鏡観察像を示した。KikGを融合させたヌクレオカプシドを認識するVHH抗体N10(N10=KikG)によって感染検体中の細胞を図8に示したN10=AzaleaB5の場合よりも強い蛍光シグナルで鮮明に可視化することができた。これに対して、非感染細胞では蛍光シグナルはほとんど検知することができなかった。
N10=KikGがN10=AzaleaB5以上のシグナル強度を示してより鮮明な画像を得ることができたことから,VHH抗体が異なってもKikGとの融合が分子形成に負荷を与えることなく有効に働くことが考えられた。また、このことはKikG分子そのものの物性とKikGが4量体を形成することに依存すると考えられた。
【0064】
参考例 蛍光VHH抗体による抗体染色と従来の間接蛍光抗体法による染色との比較
(1)方法
臨床検体(口腔内の組織をぬぐいとったスワブ検体)を、試験例5と同様の方法を用いてスライドガラスにマウントし、E9=KikGによる抗体染色(直接蛍光抗体法に相当)による染色、あるいは1次抗体にSタンパク質を認識するマウス由来anti-Spike モノクローナル抗体[GeneTex社製(クローン1A9),code:GTX632604]を用い、2次抗体にAlexa Fluor 488標識anti-mouse IgG(H+L)(Thermo Fisher,code:A11001)を用いた間接蛍光抗体法による染色を行った。間接蛍光抗体法では、1次抗体を最終濃度17μg/mL、また2次抗体を最終濃度2μg/mLを反応に用いた。それぞれの反応ステップでは、まず室温で30分間反応させた後さらに37℃で30分間反応させるという二つの温度による反応条件を用いた。加えて、それぞれの検体についてDAPI(最終濃度1μg/mL)による染色を行ったのちにマウントしてワイドフィールド蛍光顕微鏡による観察を行い、E9=KikGによる抗体染色と間接蛍光抗体法による染色との比較を行った。観察には、以下のシステムを用いた。
【0065】
顕微鏡:IX83 (オリンパス)
光源:X-cite XYLIS (EXCELITAS)
対物レンズ:UPLXAPO20×/NA=0.8 (オリンパス)
カメラ:ORCA-Fusion (浜松ホトニクス)
蛍光ミラーユニット:
VHH抗体-蛍光タンパク質融合体及びAlexaFluor488:U-FBNA (オリンパス)
核染色(DAPI):U-FUNA(オリンパス)
制御ソフト:CellSens Dimension(オリンパス)
励起光:NDフィルターで5%に減弱
露光時間(VHH抗体-蛍光タンパク質融合体及びAlexa Fluor488):1秒間
【0066】
(2)結果:
結果を図10に示した。間接蛍光抗体法による染色においては、E9=KikGと比較して、サンプルの存在しないガラス面に非特異的な強い蛍光が顕著に観察された。
E9=KikGを用いた染色では従来の間接法の抗体染色と比較して、スライドガラスにマウントしたSARS-CoV-2感染細胞を特異的、かつS/Nよく高感度に観察できることが分かった。
【0067】
試験例7 表面プラズモン共鳴法によるE9=KikG及びE9=AzaleaB5の抗原結合活性の測定
KikG融合VHH抗体の検出感度が高かったのは、KikGが強固な4量体構造を形成することでVHH抗体も4量体化するため、その結合の総和により高い結合活性を示すことに起因すると考えられた。それを確認するために、表面プラズモン共鳴法を用いて抗原結合活性を測定した。
(1)方法
Biacore T200(Cytiva)を用いてSeries S Sensor Chip CM5(Cytiva)に固相化したSARS-CoV-2オミクロン株S-タンパク質3量体又はS-タンパク質RBD(Receptor Binding Domain。S-タンパク質の一部で、宿主細胞上の受容体に結合する領域。3量体形成に必要な領域を含まない。)に対する蛍光VHH抗体の結合活性を測定した。Wizard、Kinetics/Affinityのモードで測定した。温度は25℃に設定した。ランニング緩衝液には10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%(v/v)Tween20(pH 7.4)を用いた。1)抗原の固相化:流速を10μL/mLに設定した。75mg/mL EDC塩酸塩水溶液と11.5mg/mL NHS水溶液を等量混合し、これを420秒間添加してセンサーチップ表面上のカルボキシル基を活性化した。10mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)で希釈したSARS-CoV-2 Spike Trimer, His Tag (B.1.1.529/Omicron) (MALS verified)(Hisタグ付きSARS-CoV-2オミクロン株S-タンパク質3量体、Acro Biosystems)又はSARS-CoV-2 B.1.1.529 (Omicron) Spike RBD Protein (His Tag)(Hisタグ付きSARS-CoV-2オミクロン株S-タンパク質RBD、SinoBiological)を添加し、それぞれ1800RU、360RU固定化した。1M エタノールアミン-HCl(pH8.5)を420秒間添加してブロッキングした。2)結合活性の測定:流速を30μL/mLに設定し、ランニング緩衝液で希釈したE9=KikG、E9=AzaleaB5又はE9=mAchillesをContact Time180秒間、Dissociation Time420秒間に設定して相互作用させた。3)センサーチップ表面の再生:流速を30μL/mLに設定し、50mM NaOH水溶液を30秒間添加した。Biacore T200 Evaluation Software(ソフトウェアバージョン2.0)(Cytiva)を用いて1:1 binding modelによる解析を行い、結合活性を算出した。
【0068】
(2)結果
取得されたセンサーグラムを図11、解析結果により算出されたカイネティクスパラメーターを表3に示す。算出されるKD値は多量体化したVHH抗体の結合活性の総和になるため、「見かけ上のKD値」として示す。単量体蛍光タンパク質のmAchillesと融合したE9=mAchilles(配列番号74)と比較して、E9=KikGとE9=AzaleaB5は解離速度が低下し、それはE9=KikGで顕著に示された。KikGは4量体、AzaleaB5は2量体を形成するため、VHH抗体が多量体化することで、抗原に対する結合の価数が増加したためだと考えられた。このような差が、KikG融合VHH抗体を用いたウイルス可視化における感度の高さに影響していると考えられた。また、S-タンパク質3量体とS-タンパク質RBDを比較すると、前者の方がさらに解離速度が低下した。3量体を構成する各々のS-タンパク質に対してVHH抗体が結合するためだと考えられた。以上より、多量体構造を有するウイルス抗原を検出する際に多量体化したVHH抗体を用いることは、有効な手段であると考えられた。
【0069】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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