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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057070
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/04 20060101AFI20230413BHJP
【FI】
C08L25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162783
(22)【出願日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2021166317
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】岩本 大和
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC031
4J002EE057
4J002EH046
4J002FD026
4J002FD207
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】本開示は、バイオマス原料を用いることで、環境負荷を低減し、高い機械的強度を維持し、かつ二軸延伸シートへの成形性、成形時における離型性及びシート外観に優れた、透明性の高いスチレン系樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示は、スチレン系重合体(A)とバイオマス炭素比率(pMC)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)0.1質量%~5.0質量%と、を含有し、
2mm厚のプレートの全光線透過率が70%以上であることを特徴とするスチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系重合体(A)とバイオマス炭素比率(pMC)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)0.1質量%~5.0質量%と、を含有し、
2mm厚のプレートの全光線透過率が70%以上であることを特徴とするスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
ビカット軟化温度が85℃以上である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記バイオマス可塑剤のSP値が7.5~10.5であり、前記スチレン系重合体(A)と前記バイオマス可塑剤(B)のSP値の差が2.0未満である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分が3質量%以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記スチレン系重合体(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体に対して、95.0~99.9質量%であり、かつ前記スチレン系重合体(A)に含有されるスチレン系単量体単位の含有量は、前記スチレン系重合体(A)の総量に対して、50質量%以上である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記バイオマス可塑剤(B)は、植物油と、成形加工性を調整する成形性調整化合物との混合物であり、前記成形性調整化合物は、スチレン系樹脂組成物(A)全体に対して、0.01~5質量%の範囲で含有し、
前記成形性調整化合物は、流動パラフィン及び脂肪酸系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記スチレン系樹脂組成物(A)に対して、ブルーイング剤を0.001ppm~10ppm含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物から成る成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレン系樹脂組成物及び該スチレン系樹脂からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂はその成形性・機械的強度から多用途に使用されており、特に透明性の高いスチレン系樹脂は、雑貨用品、透明食品容器、包装材料、OA機器など用途が幅広い。また、環境負荷低減の観点からバイオマス原料が注目されており、スチレン系樹脂と天然由来原料の複合材料開発が進められている。例えば、特許文献1にはゴム変性ポリスチレンとポリ乳酸とスチレン系単量体単位エラストマーとを含むスチレン系樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、植物由来ポリエチレンと相溶化剤を含有したスチレン系樹脂組成物が開示されている。
【0003】
スチレン系樹脂は透明で剛性も優れていることから、近年、二軸延伸シート及び二軸延伸シートを二次加工した成形体だけでなく、射出成形体なども食品容器用途で広く用いられている。スチレン系樹脂を用いた二軸延伸シートや射出成形体では、当該スチレン系樹脂の流動性又は離型性が低いと、生産性の低下及び厚みムラが悪化する等の問題点がある。一方、スチレン系樹脂の流動性が高い場合、シート成形時にドローダウンが起きやすくなり、シート成形性が悪化する。そのため、組成物全体の流動性及び離型性のバランスが重要になる。
例えば、スチレン系樹脂の流動性を制御するためには、流動パラフィンを加える方法がある。特許文献3には、高分岐スチレン系樹脂に流動パラフィンを添加した例が開示されている。
他の方法で樹脂の流動性を制御する技術としては、樹脂の分子量及び分子量分布を調整する方法がある。例えば、特許文献4はスチレンーメタクリル酸共重合体の分子量、分子量分布を調整することで二軸延伸シートに適した流動性を有するスチレン系樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-199652号公報
【特許文献2】特開2020-193274号公報
【特許文献3】特開2013-100430号公報
【特許文献4】特許第6389574号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術では、植物由来の生分解性ポリマーの中では比較的高い融点、強靭性を備えたポリ乳酸と、スチレン系樹脂とのポリマーアロイを検討しているが、スチレン系樹脂に対するポリ乳酸の相容性は非常に低いため、市場において要求される耐衝撃性又は伸縮性など機械的特性を満足する製品設計を行うことが難しいという問題がある。また、ポリ乳酸はスチレン系樹脂に対して非相容性を示すため、ポリマーアロイ全体として透明性を損なってしまう。さらには、ポリ乳酸及びスチレン系樹脂を含む破材のリサイクルを行うのが困難であるという問題もある。
【0006】
上記特許文献2の技術は、植物由来ポリエチレンと相容化剤とを含有するポリスチレン系樹脂を検討しているが、ポリスチレンとポリエチレンとは相容性が低いため、相容化剤を使用しても、高い透明性を維持することは困難である。
【0007】
上記特許文献3の技術は、二軸延伸シート成形性及び生産性に優れた、高分岐スチレン系樹脂組成物について検討している。しかし、流動パラフィンを添加しているため、成形時にブリードアウト及び揮発ガスの発生により、シート外観が悪化することが考えられる。
上記特許文献4の技術では、スチレンーメタクリル酸共重合体の分子量を調節して流動性を制御し、二軸延伸シート成形性及び生産性に優れたスチレン系樹脂組成物について検討している。しかし、流動性を上げるため分子量が比較的低いため、機械的強度が低下することが懸念される。
射出成形体、あるいは二軸延伸シート及び二軸延伸シートを二次加工した成形体を得る場合、成形体の形状や成形条件によっては、成形体の金型からの離型性が、生産性を高める上で重要となる。しかし、上記特許文献1~4では成形時における成形体の離型性については検討されていない。
また、上記特許文献3~4では、環境負荷低減を目的として、近年注目されているバイオマス原料は使用されていない。そのため、上記特許文献1~4の技術では、高い機械的強度を維持し、かつ成形時における離型性、二軸延伸シートへの成形性及び、シート外観に優れた透明性の高い樹脂、並びにバイオマス原料を用いた可塑剤については検討していない。
そこで、本開示は、バイオマス原料を用いることで、環境負荷を低減し、高い機械的強度を維持し、かつ成形時における離型性、二軸延伸シートへの成形性、シート外観に優れた、透明性の高いスチレン系樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題点に鑑み、鋭意研究し、実験を重ねた結果、スチレン系重合体(A)と、高沸点を有するバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)を所定量含有した、スチレン系樹脂組成物を用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出し、以下の[1]~[8]の本発明を完成するに至った。
[1] スチレン系重合体(A)とバイオマス炭素比率(pMC)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)0.1質量%~5.0質量%と、を含有し、2mm厚のプレートの全光線透過率が70%以上であることを特徴とするスチレン系樹脂組成物。
[2] ビカット軟化温度が85℃以上である、[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[3] 前記バイオマス可塑剤のSP値が7.5~10.5であり、前記スチレン系重合体(A)と前記バイオマス可塑剤(B)のSP値の差が2.0未満である、[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[4] 前記スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分が3質量%以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
[5] 前記スチレン系重合体(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体に対して、95.0~99.9質量%であり、かつ前記スチレン系重合体(A)に含有されるスチレン系単量体単位の含有量は、前記スチレン系重合体(A)の総量に対して、50質量%以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
[6] 前記バイオマス可塑剤(B)は、植物油と、成形加工性を調整する成形性調整化合物との混合物であり、前記成形性調整化合物は、スチレン系樹脂組成物(A)全体に対して、0.01~5質量%の範囲で含有し、
前記成形性調整化合物は、流動パラフィン及び脂肪酸系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
[7] 前記スチレン系樹脂組成物(A)に対して、ブルーイング剤を0.001ppm~10ppm含有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物から成る成形体。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、環境負荷を低減し、高い機械的強度を維持し、かつ成形時における離型性、二軸延伸シートへの成形性及びシート外観に優れた透明なスチレン系樹脂組成物及び当該スチレン系樹脂組成物から成る二軸延伸シート成形体を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系重合体(A)と、バイオマス炭素比率(pMC比)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)0.1~5.0質量%と、を含有する。
換言すると、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、当該スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、スチレン系重合体(A)及びバイオマス可塑剤(B)0.1~5.0質量%を含有する。
上記スチレン系樹脂組成物から得られた2mm厚のプレートの全光線透過率が70%以上である。
これにより、環境負荷の低減、良流動かつ高い機械的強度を有し、射出成形性、二軸延伸シートへの成形性及びシート外観に優れた透明なスチレン系樹脂組成物及び当該スチレン系樹脂組成物から成る二軸延伸シート成形体を提供することができる。
【0012】
<スチレン系重合体(A)(以下、(A)成分とも称する)>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物はスチレン系重合体(A)を含有する。そして、本実施形態において、スチレン系重合体(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、95.0~99.9質量%であり、好ましくは96.0~99.7質量%、より好ましくは96.5~99.7質量%、より好ましくは97.0~99.5質量%である。
【0013】
本実施形態において、スチレン系重合体(A)を構成する単量体としては、スチレン系単量体(a)を必須に有し、必要によりスチレン系単量体(a)と共重合可能なビニル系単量体(b)を有してもよい。
スチレン系重合体(A)を構成する単量体のうち、スチレン系単量体(a)の含有量は50~100質量%が好ましく、より好ましくは60~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%、さらにより好ましくは80~100質量%、よりさらに好ましくは90~100質量%である。スチレン系単量体(a)の含有量、すなわちスチレン系単量体単位(a)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。また、H-NMR測定で定量が困難である場合は、赤外分光法(FTIR)測定で定量を行う。
スチレン系単量体(a)としては、スチレンの他に、例えばα―メチルスチレン、α―メチルp-メチルスチレン、о―メチルスチレン、m-メチルスチレン、p―メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特にスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。
【0014】
本実施形態において、ビニル系単量体(b)としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体(a)を重合した単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体(a)としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体(a)は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは本発明の効果を損なわない範囲で、上記のスチレン系単量体(a)単位以外の単量体単位をさらに含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体(a)単位からなる。
本実施形態におけるスチレン系重合体(A)の好ましい形態としては、スチレン系重合体(A)とバイオマス炭素比率(pMC比)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)とのSP値が所定の範囲になるよう制御することが好ましい。そのため、例えば、使用するバイオマス可塑剤(B)のSP値によって、スチレン系重合体(A)を構成する単量体単位の種類、スチレン系単量体(a)の含有量、又はビニル系単量体(b)の含有量を調整してもよい。
これにより、組成物中におけるバイオマス可塑剤(B)が均一に分散しやすくなるため、機械的強度がより向上する。
【0016】
本実施形態において、スチレン系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は100,000~400,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~350,000、さらに好ましくは140,000~300,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~400,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
また、本実施形態におけるスチレン系重合体(A)は、ゴム状重合体(例えば、ポリブタジエン、ポリスチレンを内包するポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレンーブタジエン共重合体、アクリロニトリルーブタジエン共重合体)又は共役ジエン構造を有する構造単位を、スチレン系重合体(A)の総量(100質量%)に対して、1.0質量%未満含有することが好ましい。
【0017】
本実施形態において、スチレン系重合体(A)又は本実施形態のスチレン系樹脂組成物中にはアクロニトリル単量体単位、メタクリロニトリル単量体単位等のシアン化ビニル系単量体を実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、ビニル系単量体(b)の総量に対して、シアン化ビニル系単量体が10質量%以下含有することが好ましく、5質量%以下含有することがより好ましく、2質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0018】
本実施形態において、スチレン系重合体(A)の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0019】
以下、本実施形態に用いることができるスチレン系重合体(A)の重合方法の一例について説明する。
当該スチレン系重合体(A)を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。
スチレン系重合体(A)の重合に用いられる重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(パーヘキサC)、2,2-ビス(4,4-ジ―t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン(パーテトラA)、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。単量体の合計量に対して0.005~0.08質量%添加することが好ましい。
スチレン系重合体(A)の重合に用いられる連鎖移動剤としては、例えばα-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、1-フェニルー2-フルオレン、ジベンテン、クロロホルムなどのメルカプタン類、テルペン類、ハロゲン化合物、テレピノーレン等のテレピン類等を挙げることができる。この連鎖移動剤の使用量は、特に制限はないが、一般的には単量体に対して、0.005~0.3重量%程度添加することが好ましい。
【0020】
スチレン系重合体(A)の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類にさらに混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0021】
本実施形態において、スチレン系重合体(A)を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合を採用する場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はない。例えば、塊状重合を採用する場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。より詳細には、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0022】
<バイオマス可塑剤(B)(以下、(B)成分とも称する。)>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、バイオマス可塑剤(B)を含有する。そして、当該バイオマス可塑剤(B)は、バイオマス可塑剤の含有量は0.1質量%~5.0質量%であり、好ましくは0.3質量%~4.0質量%、より好ましくは0.3質量%~3.5質量%より好ましくは0.5質量%~3.0質量%である。バイオマス可塑剤の量が5質量%以上ではVicat軟化温度が85℃を下回り、延伸シート用途、食品包装用途には向かない。また、バイオマス可塑剤の量が0.1質量未満であると、流動性が低下するため成形時の厚みムラが悪化する懸念がある。また、流動性が低下すると生産性は落ちる懸念がある。さらには成形体の離型性が悪化する懸念もある。
【0023】
本明細書におけるバイオマス炭素比率(pMC%)とは、バイオマス由来成分の炭素濃度(質量比率)を示すものであり、より詳細には、ASTM-D6866に準拠した放射性炭素(14C)測定方法によって得られた14C含有量の値である。当該放射性炭素(14C)測定方法は、化石燃料には14Cを含まず、かつバイオマス(又は生物)由来炭素は成長した時期の大気中14Cを吸収していることを利用して、バイオマス材料(又は生物)に含まれる炭素中の14C比率からバイオマス炭素比率(pMC%)を推定する方法である。
したがって、本実施形態の可塑剤中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。本発明においては、後述の実施例の欄で記載する方法を用いて、以下の式(1)により、バイオマス炭素比率(pMC%)を算出する。
式(1):
バイオマス炭素比率(pMC%)=(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)×100
また、標準物質はシュウ酸(SRM4990)を使用し、AMS法により(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)を算出した。
【0024】
本実施形態のバイオマス可塑剤の重量平均分子量(Mw)は、200~7500であることが好ましく、より好ましくは300~5000、さらに好ましくは400~3000である。バイオマス可塑剤の重量平均分子量(Mw)が200~7500である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れるスチレン系樹脂組成物が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、後述の実施例の欄に記載の通り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスチレン換算で得られる値である。
【0025】
本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)とは、バイオマス材料を原料の一部又は全部に使用する可塑剤をいい、バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上の可塑剤をいう。本実施形態のバイオマス可塑剤は、植物由来のバイオマス材料を少なくとも原料の一部に使用し、かつバイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上の可塑剤であり、植物油、植物油と鉱油との混合物、あるいはポリエステル系可塑剤であることが好ましく、天然植物油、変性植物油、天然植物油と鉱油との混合物、変性植物油と鉱油との混合物、天然植物油と変性植物油と鉱油との混合物、あるいはポリエステル系可塑剤であることがより好ましい。
なお、本明細書における植物油は、植物由来の油脂の総称であり、天然植物油及び変性植物油を含む。
本実施形態において、離形性及び流動性のバランスを調整して成形加工性を向上させる観点から、バイオマス可塑剤(B)は、植物油と、成形加工性を調整する成形性調整化合物との混合物であることが好ましい。
本実施形態の好ましいバイオマス可塑剤(B)の形態としては、バイオマス可塑剤(B)全体において、植物油50~99.99質量%と成形性調整化合物0.01~50質量%との混合物であることが好ましく、バイオマス可塑剤(B)全体において、植物油75~99.99質量%と成形性調整化合物0.01~25質量%との混合物であることが好ましく、植物油85~99.99質量%と成形性調整化合物0.01~15質量%との混合物であることがより好ましく、植物油90~99.99質量%と成形性調整化合物0.01~5質量%との混合物であることがさらに好ましい。
上記バイオマス可塑剤(B)の好ましい組成比であれば、バイオマス度50%以上を保つことができるので、より高い環境負荷低減効果が見込まれる。
なかでも植物油が85質量%~99.99質量%であり、流動パラフィンが1質量%~15質量%であり、脂肪酸系化合物が0.1~5質量%である混合物が好ましい
成形性調整化合物をスチレン系樹脂組成物に添加することにより、流動性が上がる効果や、成形体の金型からの離型性を向上する効果を付与させ、生産性を向上させることができる。
また、成形性調整化合物の添加量はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.01質量%~5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%~4.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~3.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~2.5質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~2.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~1.5質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~1.2質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~1.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~0.5質量%、さらにより好ましくは0.01~0.3質量%である。
前記成形性調整化合物としては、流動パラフィン及び脂肪酸系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上あることが好ましい。
上記脂肪酸系化合物としては、脂肪酸化合物又は脂肪酸金属塩系化合物等を用いることができる。具体的には、例えば、エチレン・ビスステアリン酸アマイド、ステアリン酸、ステアリン酸ビスステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
本実施形態において、脂肪酸系化合物の添加量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.1ppm~15000ppmであることが好ましく、より好ましくは1ppm~10000ppm、さらにより好ましくは5ppm~9000ppm、さらにより好ましくは10ppm~8000ppm、さらにより好ましくは15ppm~7000ppm、さらにより好ましくは20ppm~6000ppm、さらにより好ましくは25ppm~5000ppmである。
スチレン系樹脂は、射出成形や押出成形で成形品を得る際、脂肪酸系化合物を添加させることがある。特に複雑な形状の成形品や、薄肉部を有する成形品を得る場合、離型時に成形品に割れや変形が生じないようにするため、脂肪酸系化合物を添加する必要になる場合がある。添加の方法は、脂肪酸系化合物を樹脂中に溶融混錬させる方法と、脂肪酸系化合物を粉体のまま外潤剤として樹脂ペレットにまぶす方法がある。外潤剤として添加する場合は、成形や混錬加工の際に、スクリューと樹脂との間の摩擦を低下させ、加工性を向上させる滑剤としての効果もある。なお、脂肪酸系化合物は2種類以上を併用して使用してもよい。
環境負荷低減の観点を重視する場合、前記バイオマス可塑剤(B)は、1種又は2種以上の植物油である植物油単独が好ましい。一方、特に流動性の観点を重視する場合、前記バイオマス可塑剤(B)は、1種又は2種以上の植物油と流動パラフィンとの混合油が好ましい。また、成形体の離型性の観点を重視する場合、前記バイオマス可塑剤(B)は、1種又は2種以上の植物油と脂肪酸系化合物との混合油が好ましい。
なお、バイオマス可塑剤(B)が混合油の場合のバイオマス可塑剤(B)に含まれる各成分の定量方法は、後述の実施例の欄に記載した方法を使用できる。
【0026】
本実施形態において、バイオマス可塑剤は変性植物油を用いても良い。変性植物油は植物油を原料とした化合物をいい、より詳細には、植物起源の炭化水素系油の一部を官能基により変性されたものであり、植物油がエポキシ基、アミノ基又はエステル結合により変性されていることが好ましい。当該植物油としては、グリセリンと脂肪酸とのトリエステル体、植物油にモノアルコールを加え、エステル交換反応により得られた脂肪酸モノエステル、脂肪酸とモノアルコールとをエステル化反応させた脂肪酸モノエステル、及び脂肪酸から誘導されるエーテルを含む。
本実施形態における変性植物油の変性基(エポキシ基、アミノ基又はエステル結合の官能基)は、スチレン系樹脂組成物中、他の成分(スチレン系樹脂(A)も含む)又は変性植物油同士と実質的に重合しないことが好ましい。また、本実施形態において、前記変性植物油1gあたりの前記変性植物油の変性率が、1mmol%~50mmol%であることが好ましい。
上記変性植物油の変性率は、後述の実施例に記載の通りH-NMR測定法により算出する。
【0027】
上記天然植物油の具体例としては、例えば、綿実油、キリ油、シアオイル、アルファルファ油、ケシ油、カボチャ油、冬カボチャ油、雑穀油、オオムギ油、キノア油、ライ麦油、ククイ油、トケイソウ油、シアバター、アロエベラ油、甘扁桃油、桃核油、大豆油、カシュー油、ピーナッツ油、アボカド油、バオバブ油、ルリヂサ油、ブロッコリー油、キンセンカ油、椿油、キャノーラ油、ニンジン油、サフラワー油、亜麻油、アブラナ種子油、綿実油、ココナツ油、カボチャ種子油、小麦胚芽油、ホホバ油、ユリ油、マカデミア油、コーン油、メドフォーム油、モノイオイル、ヘイゼルナッツ油、杏仁油、クルミ油、オリーブ油、月見草油、パーム油、ブラックカラント種油、キーウィ種子油、グレープシード油、ピスタチオ油、ジャコウバラ油、ゴマ油、ダイズ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、スイカ油又はこれら油の混合物が挙げられる。
本実施形態において変性植物油は、上記例示した天然植物油を水素化した油(例えば、水素化ヒマシ油);上記例示した天然植物油をエポキシ化した油(例えば、変性エポキシ化油);上記例示した天然植物油をアミノ化した油(例えば、変性アミノ化油)が挙げられる。当該変性エポキシ化油には、水酸化変性大豆油等に代表されるエポキシ官能基が開環した油、及び予め直接的に水酸化された油、カシュー油ベースのポリオールを含む。
【0028】
本実施形態のバイオマス可塑剤(B)の具体例としては、例えば、パーム油、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、オレイン酸エステル又はラウリン酸エステルが挙げられ、DIC株式会社製の「ポリサイザーW-1810-BIO」、「エポサイザー」;日油株式会社製の「ニューサイザー510R」、「ニューサイザー512」、;竹本油脂株式会社製の「パイオニンDシリーズ」;日清オイリオグループ株式会社製の「マルチエース20(S)」、「精製パーム油(S)」が挙げられる。
【0029】
本実施形態において、植物油(天然植物油及び変性植物油を含む。)の粘度は、50℃で1000mPa・s以下であることが好ましく、10~1000mPa.sであることがより好ましく、20~800mPa.sであることがさらにより好ましい。
【0030】
本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)の融点は、-30~80℃であることが好ましく、より好ましくは-25~77℃、さらに好ましくは-22℃~74℃、よりさらに好ましくは-18℃~70℃、さらにより好ましくは-15℃~67℃、さらにより好ましくは-10℃~64℃、さらにより好ましくは-8℃~61℃、特に好ましくは-3℃~58℃である。バイオマス可塑剤(B)の融点が-30~80℃の範囲であると、ゴム変性スチレン系樹脂(A)のポリマーマトリックス相との相容性がより向上し、スチレン系樹脂組成物中にバイオマス可塑剤(B)が分散しやすくなる。また、バイオマス可塑剤(B)の融点が-30℃より低いと揮発成分が多くなり、金型汚れが増える傾向を示す。バイオマス可塑剤(B)の融点が80℃より高いと溶融しにくいため添加する操作が難しくなる。
【0031】
本実施形態において、スチレン系重合体(A)のSP値とバイオマス可塑剤(B)のSP値((cal/cm1/2)との差は好ましくは±2.5未満、より好ましくは±2.3未満、さらに好ましく±2.0、よりさらに好ましくは±1.8未満、さらにより好ましくは±1.5未満、よりさらにより好ましくは±1.3未満、特に好ましくは±1.0未満である。スチレン系重合体(A)のSP値とバイオマス可塑剤(B)のSP値との差が、±2.5以上であると両者が相容しにくくなる。その結果、スチレン系樹脂組成物中にバイオマス可塑剤(B)が均一に分散し難く、スチレン系樹脂組成物全体の機械的強度が低下する傾向を示す。
本実施形態の好ましい態様の一つは、スチレン系重合体(A)及びバイオマス可塑剤(B)を含有し、かつ前記スチレン系重合体(A)のSP値と前記バイオマス可塑剤(B)のSP値((cal/cm1/2)との差が、±2.5未満であり、2mm厚のプレートの全光線透過率が70%以上である。
また、本実施形態におけるスチレン系重合体(A)のSP値は、7~11((cal/cm1/2)であることが好ましく、より好ましくは7.5~10((cal/cm1/2)、さらに好ましくは8.0~9.5((cal/cm1/2)、よりさらに好ましくは8.0~9.0((cal/cm1/2)である。
また、本実施形態におけるバイオマス可塑剤(B)のSP値は7.0~11.0((cal/cm1/2)であることが好ましく、より好ましくは7.5~10.0((cal/cm1/2)、よりさらに好ましくは7.7~9.5((cal/cm1/2)、よりさらに好ましくは7.9~9.0((cal/cm1/2)である。
本実施形態において規定する溶解度パラメータ(SP値)は、下式に示す凝集エネルギー密度の関数を用いて算出している。
SP値((cal/cm1/2)=(△E/V)1/2 式(1)
(△Eは、分子間凝集エネルギー(蒸発熱)を示し、Vは、混合液の全体積を示し、△E/Vは、凝集エネルギー密度を示す。)
また、混合による熱量変化△Hmは、SP値を用いて次の式で示される。
△Hm=V(δ-δ)・Φ1・Φ2 ・・・式(2)
(δは、溶媒のSP値を示し、δは、溶質のSP値を示し、Φは、溶媒の体積分率を示し、Φは、溶質の体積分率を示す。)
上記の式(1)及び(2)より、δ及びδの値が近いほど、△Hmは小さくなり、ギムスの自由エネルギーが小さくなるため、SP値の差が小さいもの同士は親和性が高くなる。
本明細書におけるSP値を求める方法としては、SP値が既知の各種溶剤との樹脂の溶解性を比較することで、最も良く相溶する溶剤のSP値から未知の樹脂のSP値を算出しており、具体的には濁度滴定法を用いて算出した。本実施形態では、主にモノマー組成から計算により求めた値を用いる。
【0032】
本実施形態において、鉱油としては、例えば、パラフィン系原油(流動パラフィンを含む。)、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することで得られる鉱油等が挙げられる。これらの鉱油は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
本実施形態において、バイオマス可塑剤(B)として植物油と鉱油とを混合して使用する場合、バイオマス可塑剤(B)全体のバイオマス炭素比率(pMC比)が10%以上であれば特に制限されることはないが、例えば、植物油100質量部に対して、10~100質量部混合することが好ましく、10~50質量部混合することがより好ましい。また、鉱油の添加量はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.01質量%~5.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.01質量%~4.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~3.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~2.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~1.5質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~1.2質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~1.0質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~0.5質量%、さらにより好ましくは0.01質量%~0.3質量%である。
本実施形態における流動パラフィンの定量及び同定は、当業者にとって一般的な方法により確認できる。例えば、スチレン系樹脂組成物又は当該組成物の成形体の断片を、テトラヒドロフランなどマトリックス樹脂を溶解する溶媒に溶解させて溶液を調製する。そして、この溶液をスターラーで攪拌させながら、n-ヘキサンを少量ずつ滴下してポリマーマトリックス及びゴム状重合体を沈殿させる。その後、ガラスフィルターで濾過した濾液を蒸発乾固させた後、n-ヘキサンにて定容し、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルターに通した後、液体クロマトグラフィーにて分離して、組成物又は成形体中の流動パラフィンの含有量を算出する。また、流動パラフィンの分析については、熱分解GC-MS、H-NMR又は13C-NMRなどの各種分析装置によって同定、定量及び分子量の測定を行うことができる。
【0033】
スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分の含有量が、3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満である。なお、トルエン不溶分含有率は、後述の実施例の欄に記載の方法により測定されるものである。
【0034】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記(A)及び(B)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて公知の添加剤、加工助剤等の任意添加成分を添加することができる。これら任意添加成分としては、上記流動パラフィン及び脂肪酸系化合物からなる成形性調整化合物、離型剤、難燃剤、分散剤、酸化防止剤、耐候剤、帯電防止剤、充填剤、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーイング剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目やに防止剤)等を添加してもよい。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物は公知の難燃剤(リン系難燃剤、ブロム系などのハロゲン系難燃剤)を含有してもよい。しかし、スチレン系樹脂組成物中に含有されるバイオマス可塑剤(B)との反応により臭化水素などのガスの生成が危惧される観点から、ハロゲン系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。
本実施形態において、流動パラフィン及び脂肪酸系化合物からなる成形性調整化合物をスチレン系樹脂組成物に添加することで流動性が上がる効果や、成形体の金型からの離型性を向上する効果を付与させ、生産性を向上させることができる。
【0035】
本実施形態において、用途によっては色調を調整するためブルーイング剤としてアントラキノン系化合物を添加することが好ましい。ブルーイング剤がアントラキノン骨格を有すると、励起カルボニルによる水素引き抜き反応又はアニオン類からの電子移動が生じ、色調を調整しやすくなる(=黄色度を抑制しやすくなる)。そのため、アントラキノン骨格に対して電子吸引基を有するアントラキノン系化合物が特に好ましい。本実施形態において、アントラキノン系化合物であるブルーイング剤を添加することにより、一部の用途で求められる色調、外観を有する成形体を得ることができる。例えば、本実施形態のスチレン系樹脂組成物を二軸延伸シートに成形し、食品包装容器の蓋として使用する場合、包装容器中の食品が黄色みを帯びて見えないように、樹脂の黄色味を抑える必要がある。
ブルーイング剤の添加量はスチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、0.001ppm~10ppmが好ましく、より好ましくは0.01ppm~5.0ppm、より好ましくは0.03ppm~3.0ppm、さらにより好ましくは0.05ppm~2.5ppm、さらにより好ましくは0.08ppm~2.2ppm、さらにより好ましくは0.1ppm~2.0ppm、さらにより好ましくは0.12ppm~1.8ppmである。上記の添加量の範囲であれば、樹脂の黄色味を抑え外観に優れた成形体を得ることが可能になる。なお、ブルーイング剤は2種類以上を併用して使用してもよい。
バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)の多くが黄色を帯びているため、当該バイオマス炭素比率(pMC%)が10%以上のバイオマス可塑剤(B)を最大5質量含有する本実施形態のスチレン系樹脂組成物は黄色を帯びる傾向を示す。それにより、弁当箱の蓋などの食品用の透明材料あるいは光学材料(例えば、導光板)に使用し難い事情が生じる。しかし、ブルーイング剤を含有することにより、色調を調整することができる。
【0036】
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、不可避的不純物を除き、金属を含有しないほうが好ましく、より具体的には、金属の含有量は、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。
本実施形態において、分散剤としては、脂肪酸エステル系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、テルペン系化合物、ロジン系化合物、脂肪酸アミド、脂肪酸系化合物、又は脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
上記任意添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物全体に対して、0.01~5質量%としてよい。
【0037】
上記成形性調整化合物としては、上記した通り、流動パラフィン、脂肪酸系化合物、又は脂肪酸金属塩系化合物等を用いることができる。
【0038】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分、(B)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(A)成分及び(B)成分のみ、又は(A)成分及び(B)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(A)成分、(B)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の総量に対して、95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A)成分及び(B)成分であるか、又は(A)成分、(B)成分及び任意添加成分であることを意味する。
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A)成分、(B)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0039】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物に含有されるバイオマス可塑剤(B)として変性植物油を使用する場合、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、水酸基含有化合物の含有量が3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。本実施形態の水酸基含有化合物とは、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フタル酸、といった水酸基をポリマー中に有する化合物をいう。水酸基含有化合物が3質量%以上では変性植物油と反応し、ゲル化が起こるため成形性が低下する、あるいは射出成形品の外観が悪化するという悪影響を及ぼす。スチレン系樹脂組成物に含有されるバイオマス可塑剤として、天然植物油を使用する場合は、水酸基含有化合物の量は規定しない。
【0040】
[スチレン系樹脂組成物の物性]
<全光線透過率(%)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の全光線透過率(%)は、70%以上であり、このましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上%である。スチレン系樹脂組成物の全光線透過率(%)が80%以上であると、例えば、スチレン系樹脂組成物中に含まれる粒子(例えば、平均粒子径1.0~5.0μmのゴム状重合体の粒子)の含有量をスチレン系樹脂組成物全体に対して3質量%以下にする、あるいは透明性が必要とされる透明食品容器、包装材料又はOA機器用途に使用可能な範囲である。
また、本実施形態のバイオマス可塑剤(B)を、例えば、パーム油、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、オレイン酸エステル又はラウリン酸エステルなどの特定の植物油にするか、あるいは本実施形態のバイオマス可塑剤(B)のSP値を10未満にすることによっても、組成物内のブレンド状態が変わるため、スチレン系樹脂組成物の全光線透過率(%)を所望の値(例えば70%以上)に調整することができる。
スチレン系樹脂組成物の全光線透過率(%)の測定に使用する試験片の具体的な作製方法は、K7361-1に準拠しており、前記試験片には傷、泡、ぶつなどの欠陥、ごみやグリースの付着、さらには、保護材料からの接着剤などの付着がないことを確認している。また、前記試験片の表面には、肉眼で見ることができる空隙や粒子が存在しないこととする。そして、前記試験片を射出成形で作製する際、使用する金型表面の状態に応じて必要であれば、適宜、研磨紙、スティック砥石、遊離砥粒等を使用して鏡面磨きを行ってもよい。
本開示における全光線透過率(%)の測定方法及び全光線透過率(%)の測定方法に使用する試験片の作製方法は、後述の実施例の欄に記載の通りである。
【0041】
<メルトマスフローレート(MFR)>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(MFR)は、1.0~9.0、好ましくは1.5~8.0、さらに好ましくは1.8~7.0、さらに好ましくは2.0~6.5、さらに好ましくは2.2~6.0である。
MFRが1.0を下回るとシートの生産性が落ちる。また、シートの厚みムラが発生しやすくなる。MFRを9.0より高くする場合、樹脂の分子量を下げる、または可塑剤量を多くする必要がある。樹脂の分子量が下がる場合、機械的強度が低下する危惧がある。また、可塑剤量が多くなる場合、Vicat軟化温度が下がり、要求される耐熱性を備えることが困難になる危惧がある。また、MFRが高くなるとシート成形時にドローダウンが起こる懸念もある。
<ビカット軟化温度>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、85℃以上であり、85℃~105℃であることが好ましく、より好ましくは87℃~103℃、さらにより好ましくは90℃~101℃である。前記ビカット軟化温度が85℃を下回ると二軸延伸シート、食品包装用途として要求される耐熱性を備えることが困難になる。また、前記ビカット軟化温度が105℃を超えると、樹脂の流動性が低下するため、シートの生産性が落ちる。また、シートの厚みムラが発生しやすくなる。
【0042】
[射出成形体]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物を原料として用いた射出成形体の製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。成形機の温度は好ましくは150℃~300℃、より好ましくは160℃~260℃、さらに好ましくは180℃~240℃である。
成形機の温度が300℃より高いとスチレン系樹脂組成物が熱分解を起こすため好ましくない。一方、150℃より低いと高粘度のため成形することができないので好ましくない。 [二軸延伸シート]
本実施形態のスチレン樹脂組成物を原料として用いた二軸延伸シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。
成形機の成形温度は好ましくは180℃~280℃、より好ましくは200℃~260℃、さらにより好ましくは210℃~250℃である。
二軸延伸シートは、例えば真空成形法や圧空成形法の熱成形方法によって、二次成形を行うことができる。本発明の二軸延伸シートの成形品の用途としては、各種の容器があり、主に食品包装容器等に用いられる。
【実施例0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0044】
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物及び二軸延伸シートの物性測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0045】
(1)実施例及び比較例で使用したスチレン系重合体(A)及びバイオマス可塑剤(B)の重量平均分子量の測定
スチレン系重合体(A)及びバイオマス可塑剤(B)の重量平均分子量を、下記の条件や手順で測定した。
・試料調製:測定試料5mgを10mLのテトラヒドロフランに溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
・測定条件
機器:TOSOH HLC-8220GPC
(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :SHODEX GPC KF―606Mを直列に2本接続
ガードカラム :SHODEX GPC KF―G 4A
温度 :40℃
キャリア :THF 0.50mL/min
検出器 :RI、UV:254nm
検量線 :検量線の作成には東ソー社製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。3次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0046】
(2)メルトマスフローレート(MFR)
実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO 1133に準拠して測定した(200℃、荷重49N)。
【0047】
(3)ビカット軟化温度(℃)の測定
本実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)を、ISO 306に準拠して、荷重49Nで測定した。
【0048】
(4)スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分の含有量(%)の測定
スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分を以下のように測定した。沈澱管にスチレン系樹脂組成物1.00gを精秤し(この質量をW1とする)、トルエン20ミリリットルを加え23℃で1時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所社製、SS-2050A ローター:6B-N6L)にて温度4℃、回転数20000rpm、遠心加速度45100×Gで60分間遠心分離した。沈澱管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。トルエンを含んだ不溶分の質量を精秤し、引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤した(この質量をW2とする)。
下記式により、スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分の含有量(%)を求めた。
スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分の含有量(%)=W2/W1×100
【0049】
(5)バイオマス炭素比率(pMC%)の測定方法
バイオマス可塑剤(B)のバイオマス炭素比率(pMC%)は、ASTM-D6866に準拠した放射性炭素(14C)測定方法によって以下の式(1)を用いてAMS法により(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)を算出した。
式(1):
バイオマス炭素比率(pMC%)=(14C可塑剤/12C可塑剤)/(14C標準物質/12C標準物質)×100
また、標準物質はシュウ酸(SRM4990)を使用した。
【0050】
(6)バイオマス可塑剤含有量の定量
実施例及び比較例で使用したスチレン系樹脂組成物中のバイオマス可塑剤量の定量は、以下の方法で測定した。
(6-1)検量線作成
2-ジメトキシエタンを内部標準物質として含んだ重水素化クロロホルム(1%TMS入り)に、植物油(グリセリン脂肪酸エステル)を溶解し、H-NMR測定を行った。TMSのピークを0ppmの基準とすると、δ4.0~4.4ppmに植物油のエステル基に隣接した炭素に結合するプロトン由来のピークと3.4~3.6ppmに1,2ージメトキシメタン由来のピークが検出される。1,2ージメトキシメタン由来のピーク面積を1とした際の植物油由来のピーク面積を算出している。この操作を植物油の濃度を変化させて行うことで、植物油濃度の検量線を作成した。
(6-2)定量
実施例又は比較例で得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物を重水素化クロロホルム(1%TMS入り)に溶解し、H-NMR測定を行い、上記の検量線を用いることで、スチレン系樹脂組成物中の植物油含有量を定量した。
上記の方法では、他のピークが内部標準物質のピークと被り、定量するのが困難である場合、適宜、内部標準物質は適当な物質を使用してもよい。
また、植物油は5.0~5.5ppmに検出されるトリグリセリド由来のピークでも定量することが可能である。
バイオマス可塑剤(B)が植物油と成形性調整化合物との混合油である場合、上記の方法で植物油の含有量を求め、別途成形性調整化合物の含有量を求めることで定量する。成形性調整化合物は液体クロマトグラフィー、GC-MS、H-NMR又は13C-NMRなどの各種分析装置によって同定、定量及び分子量の測定を行うことができる。
【0051】
(7)変性率の算出
変性植物油を含有したスチレン系樹脂では、以下の手順を用いてH-NMRにより変性植物油の変性率を算出することが可能である。
実施例又は比較例で得られたペレット状のスチレン系樹脂組成物1gを20mL容量のスクリュー瓶に取り、メチルエチルケトンを10mL加えた。そして、振とう機でペレットを完全に溶解させた後、メタノールを5mL加えるとスチレン系樹脂組成物が溶液中に不溶分として析出させた。次いで、不溶部を取り除き、溶液部をナスフラスコに取り、エバポレーターで2時間真空引きして、メチルエチルケトン及びメタノールを揮発させた。その後、ナスフラスコ内に残った液体(植物油)を重水素化クロロホルム(1%TMS入り)に加え、H-NMR測定を行った。TMSを0ppmの基準とすると、δ2.8~3.2ppmにエポキシ基由来のピーク、δ4.0~4.4ppmに植物油のエステル基に隣接した炭素に結合するプロトン由来のピークが確認される。これにより上記二つのピーク面積比からエポキシ変性率を算出した。
【0052】
(8)二軸延伸シートの厚み測定
実施例・比較例で製造したスチレン系樹脂組成物から、創研社製の25mmφ単軸シート押出機を用いて、厚み0.95~1.05mmのシートを作製した。作製したシートから8cm×8cmの大きさのシートを切出した。切出したシートを東洋精機製二軸延伸装置(EX6-S1)にて下記条件で同時二軸延伸を行い、二軸延伸シートを作製した。マイクロゲージを用いて延伸後のシート厚みを測定した。
延伸温度:Vicat軟化温度+20℃
延伸速度:170%
延伸倍率:2.0倍
【0053】
(9)二軸延伸シートの衝撃強度(kgf・cm)の測定
東洋精機製のフィルムインパクトテスター(A121807502)を用いて上記(8)に記載の方法で作製したシートのインパクト強度を測定した。
【0054】
(10)シートの外観評価
創研社製の25mmφ単軸シート押出機で、厚さ0.3mmのシートを作製し、シート5m内に(長径+短径)/2の平均径が1mm以上の異物、気泡、透明または不透明な付着物の個数を数えた。
【0055】
(11)二軸延伸シートの離型性
上記二軸延伸シートを3cm×3cmに切り出し、プリハードン鋼からなる5mmの板金2枚に挟みクリップ固定したものを20個作製し、130℃のオーブンにて5分加熱した後、板金からシートを剥がした。その際、シートサンプルが板金から離れなかった個数を離型性の指標とした。この評価の結果、板金から離れなかったサンプル個数が少ないほど、離型性が良いことを示す。
【0056】
(12)二軸延伸シートの厚み均一性
二軸延伸シートへの成形性の指標の一つとして、以下の方法により二軸延伸シートの厚み均一性を評価した。
上記(8)記載の方法で作製したシートに、縦及び横方向に5cm間隔で直線を3本ずつ格子状に引いたときの交点9点について、マイクロゲージで厚み測定を行った。シート3枚について同様の厚み測定を行い、計27点のうち、厚みが0.23~0.27mmの範囲を外れた個数でシート厚み均一性を評価した。
【0057】
(13)射出成形体の離型性 離型性の評価は、射出成形時に成形品を取り出す際、成形品内部に生じる離型抵抗の大きさにより発生する傷の程度により判断した。具体的には外形縦50mm、横90mm、深さ40mm、肉厚2mmの箱状の成形体かつ、横の位置に30mm間隔で厚さ1mmのリブを2枚有する金型を用いた。射出成形は成形機J100E-P(日本製鋼社製)で、温度220℃、金型温度45℃にて実施した。離型性の評価は、成形体内部に生じた離型時の傷の程度を以下の基準に従って行った。
◎:傷は全く発生しない。
〇:成形品内部のコーナー部分に点状にわずかに傷が確認できる。
△:成形品内部のコーナー部分に2mm以下の線状の傷がわずかに確認できる。
×:成形品内部のコーナー部分に2mmより大きな傷が線状に確認できる。
【0058】
(14)SP値の算出
実施例・比較例において使用した各材料のSP値は、文献値又は「J.Appl.Polym.Sci.,12,2359(1968)」を参照して濁度滴定法により算出した。
【0059】
(15)全光線透過率及びYIの測定
(I)試験片の作製条件
平板成形品用金型を用いて以下の条件で得られたスチレン系樹脂組成物を射出成形して、厚さ2mmの平板を作製して、シート体を作製した。
成形機:東芝機械株式会社製EC60N
シリンダー温度:220℃
射出圧力:45MPa、射出時間:10秒
冷却時間:15秒、金型温度:45℃
(II)全光線透過率の測定条件
上記作製した、試験片のシート体を用いて、JIS K7361-1に準拠して全光線透過率(%)を測定した。
(III)YI(イエローインデックス)の測定条件
上記作製した、試験片のシート体を用いてJIS K7105に準拠してYI(イエローインデックス)を測定した。
【0060】
実施例及び比較例で用いた各材料は下記の通りである。
(変性植物油)
[バイオマス可塑剤(B)]
エポキシ化大豆油(製品名「ニューサイザー510R」(日油株式会社製)、重量平均分子量(Mw=1500)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点:5℃、SP値:9.0((cal/cm1/2)、エポキシ変性率:1gあたり5mmol
(天然植物油)
パーム油(製品名「マルチエース20(S)」(日清オイリオグループ株式会社)、重量平均分子量(Mw=1000)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点:22℃、SP値(Hansen法による計算値であり、分散力項(δD)、極性項(δP)及び水素結合項(δH)の3成分座標における原点からの距離):8.2((cal/cm1/2))
ヒマシ硬化油(製品名「ヒマシ硬化油」(伊藤製油株式会社)、重量平均分子量(Mw=1000)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点85℃℃、SP値(Hansen法による計算値であり、分散力項(δD)、極性項(δP)及び水素結合項(δH)の3成分座標における原点からの距離を表す。):10.1((cal/cm1/2))
【0061】
[その他]
(流動パラフィン)
流動パラフィン、製品名「PS350S」(三光化学工業株式会社製)、重量平均分子量(Mw=250)、バイオマス炭素比率(pMC%)0%、流動点:-12.5℃
(ポリ乳酸)
ポリ乳酸、製品名「LX175」(Total Corbinion PLA製)、バイオマス炭素比率(pMC%)100%、融点:155℃、SP値:10.3(cal/cm1/2
(アントラキノン系ブルーイング剤)
ブルーイング剤、製品名「Plast Viоlet8840」(有本化学株式会社製)
ブルーイング剤、製品名「Plast Blue8580」(有本化学株式会社製)
(脂肪酸系化合物、脂肪酸金属塩系化合物)
エチレンビスステアリン酸アマイド、製品名「カオ―ワックスEB-FF」(花王株式会社製)
ステアリン酸亜鉛、製品名「ダイワックス ZP」(大日化学工業株式会社製)
【0062】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
[実施例1]
(スチレン系樹脂組成物(PS-1)の製造方法)
スチレン93.05質量%、エチルベンゼン6.5質量%、マルチエース20(S)(日清オイリオグループ株式会社製)0.4質量%、流動パラフィン0.05質量%を混合溶解した重合液を、撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な1.5リットルの層流型反応器-1に0.78リットル/Hrで連続的に仕込み、温度を123℃/128℃/132℃に調整した。撹拌機の回転数は毎分80回転とした。反応器出口の反応率は30%であった。
続いて層流型反応器-1と直列に接続された撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な1.5リットルの層流型反応器-2に反応液を送った。撹拌機の撹拌数は毎分40回転とし、温度は133℃/135℃/137℃に設定した。続いて撹拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な1.5リットルの層流型反応器-3に反応液を送った。撹拌機の回転数は毎分10回転とし、温度は147℃/150℃/152℃に設定した。
重合反応器(層流型反応器-3)から連続して排出される重合体溶液に、真空ベント付き押し出し機で、0.8kPaの減圧下、脱揮後ペレタイズした。なお、押し出し機の温度は220℃に設定した。その後、得られたペレットに、スチレン系樹脂組成物中にPlast Viоlet8840(有本化学株式会社製)を0.2ppm添加し、押し出し機で溶融混錬後ペレタイズした。さらに、得られたペレットにダイワックス ZP(大日化学工業株式会社製)を100ppm添加して、スチレン系樹脂組成物(PS-1)を製造した。また、スチレン系樹脂組成物(PS-1)のポリマーマトリックス相は、ポリスチレンを含有しており、当該ポリスチレンのSP値は、8.6(cal/cm1/2であった。そして、得られた実施例1のスチレン系樹脂組成物について、上記した各種評価を行った。その評価結果を、表2-1に示す。
【0063】
〔実施例2~29〕
<スチレン系樹脂組成物(PS-2)~(PS-15)、(PS-24)~(PS-35)及び(PS-21)~(PS-22)
重合条件を下記表1―1~表1-3の通り変更した以外はスチレン系樹脂組成物(PS-1)と同様にしてスチレン系樹脂組成物(PS-2)~(PS-15)、(PS-24)~(PS-35)を製造した。また、スチレン系樹脂組成物(PS-21)は、スチレン系樹脂組成物(PS-16)(可塑剤無しGPPS)にパーム油が1質量%含有されるように添加し、さらに流動パラフィン0.05質量%、Plast Viоlet8840を0.2ppm添加し、二軸押し出し機で混錬してペレタイズした後、得られたペレットにダイワックス ZP(大日化学工業株式会社製)、を100ppm添加することで作製した。同様に、スチレン系樹脂組成物(PS-22)はKIBISAN(登録商標) PN-117C (CHI-MEI品)にパーム油が1質量%含有されるように添加し、さらに流動パラフィン0.05質量%、Plast Viоlet8840を0.2ppm添加し、二軸押し出し機で混錬後、ダイワックス ZP(大日化学工業株式会社製)を100ppm添加することで作製した。得られた実施例2~17のスチレン系樹脂組成物について、上記した各種評価を行った。その評価結果を、表2-1~表2-3に示す。
【0064】
〔比較例1~6〕
<スチレン系樹脂組成物(PS-16)~(PS-20)及び(PS-23)>
重合条件を下記表1―2の通り変更した以外はスチレン系樹脂組成物(PS-1)と同様にしてスチレン系樹脂組成物(PS-16)~(PS-20)を製造した。
スチレン系樹脂組成物(PS-23)は、スチレン系樹脂組成物(PS-16)にPLAが2質量%含有されるように添加し、さらに流動パラフィンを0.05%、Plast Viоlet8840を0.2ppm添加し、二軸押し出し機で混錬した後、ダイワックス ZP(大日化学工業株式会社製)を100ppm添加することで作製した。二軸押し出し機で混錬して作製した。そして、得られた比較例1~6のスチレン系樹脂組成物について、上記した各種評価を行った。その評価結果を、表2-4に示す。
【0065】
【表1-1】
【0066】
【表1-2】
【0067】
【表1-3】
【0068】
【表2-1】
【0069】
【表2-2】
【0070】
【表2-3】
【0071】
【表2-4】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、バイオマス原料を用いることで、環境負荷を低減し、高い機械的強度を維持し、かつ二軸延伸シートへの成形性、シート外観に優れた、透明性の高いスチレン系樹脂組成物、及び当該スチレン系樹脂組成物からなる二軸延伸シートを提供することである。当該スチレン系樹脂組成物から得られた二軸延伸シートは二次加工することで、食品包装容器等に好適に使用することができる。