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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057079
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】自滑性複合摩擦部品
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20230413BHJP
   F16C 33/18 20060101ALI20230413BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20230413BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230413BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230413BHJP
   D03D 15/58 20210101ALI20230413BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20230413BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20230413BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
F16C33/20 A
F16C33/18
B32B5/02 A
B32B27/30 D
D03D1/00 Z
D03D15/58
D03D15/283
C08L79/08
C08L27/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023001488
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2020070188の分割
【原出願日】2015-06-29
(31)【優先権主張番号】1456836
(32)【優先日】2014-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】592055130
【氏名又は名称】イドロメカニーク エ フロットマン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【弁理士】
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】マセ エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ブランデネット オリヴィエ
(57)【要約】
【課題】作動中、少なくとも250℃に等しい温度を受ける場合のある自滑性複合摩擦部品を提供する。
【解決手段】作動中、少なくとも250℃に等しい温度を受ける場合のある、本発明の滑性複合摩擦部品(1)は、摩擦面(2)に沿って、ポリテトラフルオロエチレンで作られたよこ糸及びたて糸から成る材料の単一の層を有し、この材料は、ガラス転移温度が少なくとも250℃に等しい熱安定性樹脂で含浸処理されている。この単一の層は、補強層(3)に被着される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動中、少なくとも250℃に等しい温度を受けることができる自滑性複合摩擦部品であって、前記部品は、摩擦面に沿って、ポリテトラフルオロエチレンのよこ糸およびたて糸で形成された織物の単一の層を有し、前記織物は、少なくとも250℃に等しいガラス転移温度を有する熱安定性樹脂で含浸処理されている、部品。
【請求項2】
前記部品の前記織物は、対をなすよこ糸と対をなすたて糸の交差によって形成された織り方である、請求項1記載の部品。
【請求項3】
前記よこ糸または前記たて糸は、互いに結合された短繊維によって形成されている、請求項1又は2記載の部品。
【請求項4】
前記部品の前記織物は、少なくとも0.10mmの厚さを有する、請求項1~3のうちいずれか一に記載の部品。
【請求項5】
前記部品の前記織物は、少なくとも0.5mmの厚さを有する、請求項4記載の部品。
【請求項6】
前記部品の前記よこ糸および前記たて糸は、少なくとも100デシテックスの番手を有する、請求項1~5のうちいずれか一に記載の部品。
【請求項7】
前記樹脂は、熱硬化性ポリイミドである、請求項1~4のうちいずれか一に記載の部品。
【請求項8】
前記摩擦面に対向した前記織物を境界付ける補強層を更に有し、前記補強層は、前記織物と同一の樹脂で含浸処理されている、請求項1~5のうちいずれか一に記載の部品。
【請求項9】
ベアリングを構成している、請求項1~8のうちいずれか一に記載の部品。
【請求項10】
案内レールを構成している、請求項1~8のうちいずれか一に記載の部品。
【請求項11】
請求項1~10のうちいずれか一に記載の自滑性複合摩擦部品の製造方法であって、全てがポリテトラフルオロエチレンで構成されたよこ糸およびたて糸によって形成されている織物のストリップを前記ストリップが各ターン後にそれ自体端と端を付き合わせた状態になるような巻回角度に従ってマンドレル上に螺旋状に巻き付けることによって織物の層を形成し、前記織物は、少なくとも250℃のガラス転移温度を有する熱安定性樹脂で含浸処理されている、方法。
【請求項12】
前記樹脂は、熱硬化性ポリイミドである、請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な用途向けの自滑性複合摩擦部品であって、対向した部品との間に潤滑剤を利用せず、したがって対向した部品との低い摩擦係数を有しかつ/あるいは250℃を超えかつ最高300℃までの範囲に至ることができまたは更には320℃をピークとすることもできる温度に関与する自滑性複合摩擦部品に関する。かかる摩擦部品は、特に、継手またはスライダであるのが良い。
【0002】
この種の制約条件を満足させるため、機械部品の表面を、マトリックスを形成する樹脂で含浸した内張りで覆うことが既に提案されているが、これら覆いによっては高温での良好な性能と組み合わされた低い摩擦係数を得ることが可能ではない。
【0003】
かくして、英国特許第1,439,030号明細書は、フルオロカーボン含有樹脂を含む低摩擦係数のストランドによって形成された隣り合うコードを織成することによって形成された摩擦層を有する特に軸受またはベアリング用の摩擦覆いを記載しており、これらコードの表面は、隆起した部分および窪んだ部分を含むでこぼこを有し、ストランドおよびコードは、プラスチック材料内に埋め込まれる。ストランドは、どのようなプラスチック材料にも化学的に結合しない材料、たとえばPTFEで作られた繊維によって形成されるが、これら繊維は、上述の覆い内に繋留され、PTFE繊維を綿のストランドと混ぜ合わせることができる。上述の実施例では、織物は、ガラス繊維の螺旋集成体によって螺旋状に境界付けられた状態で延び、この集成体は、エポキシまたはポリエステル樹脂内に埋め込まれる。ガラス繊維によって形成された層は、PTFEストランドによって形成された層よりも厚い。特にマトリックスとして用いられた樹脂の性状に起因して、かかる覆いは、作動中、200℃の温度にほとんど耐えることができないことが理解される。
【0004】
また、日本国特開平04-25669号公報では、PTFE繊維の表面を活性化して繊維をマトリックス内に固定し、このマトリックス内においてこれら繊維を多くともかろうじて5%である濃度で混ぜ合わされる。さらに、かかる構成によっても、高温で摩擦係数が低い場合に良好な機械的性能を得ることが可能ではない。
【0005】
米国特許第2,804,886号明細書および同第3,804,479号明細書からのある特定の教示の繰り返しにより、テフロン(Teflon(登録商標))のフィラメントおよびダクロン(Dacron(登録商標))の付着性または粘着性フィラメントを含む別の形式の摩擦層が提案されており、これらフィラメントは、液体樹脂による良好な含浸を可能にするほど十分にルーズに織成され、この層は、樹脂を含浸させると共にガラス繊維を入れたストリップの巻回によって境界付けられる。材料中にたとえばダクロン(Dacron(登録商標))のような付着性フィラメントが存在していることは、作動中、覆いが200℃以上の温度に耐えることができないということを意味している。
【0006】
米国特許第4,666,318号明細書は、PTFEを含むプラスチック材料により形成され、そして0.050ミクロンCLA以下の粗さおよび1000VPN以上の硬さを有する対向部品と協働する航空分野(低圧および低振幅)において極めて特定の用途向きの自滑性覆いを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】英国特許第1,439,030号明細書
【特許文献2】日本国特開平04‐25669号公報
【特許文献3】米国特許第2,804,886号明細書
【特許文献4】米国特許第3,804,479号明細書
【特許文献5】米国特許第4,666,318号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
理解されるように、低摩擦係数と、良好な機械的性能(特に、良好な引き裂き強さ)と、250℃~300℃(または更には、過渡的作動の際には最高320℃まで)の作動温度まで良好な摩擦特性および機械的特性を保持する能力とを組み合わせた摩擦覆いを構成することは、250℃を超える状態での良好な機械的性能を保持する一方で、この温度しきい値を超える温度での付着性を含む満足の行く付着性を示す樹脂と、特に低い係数を備え、したがってアプリオリにこの樹脂への付着性が非常に高くはない内張り要素とを組み合わせることが、工業的に受容可能な条件下で、かつリーズナブルなコストで、実現できるということを意味している。
【0009】
本発明の目的は、この要望に応えるということにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため、本発明は、作動中、少なくとも250℃に等しい温度を受けることができる自滑性複合摩擦部品であって、部品は、摩擦面に沿って、ポリテトラフルオロエチレンのよこ糸およびたて糸で形成された織物の単一の層を有し、織物は、少なくとも250℃に等しいガラス転移温度を有する熱安定性樹脂で含浸処理されていることを特徴とする部品を提案する。
【0011】
注目できることとして、既に提案された解決策とは異なり、本発明は、織物の単一の層の利用を教示し、この織物のたて糸およびよこ糸は、全て、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作られる。かくして、本発明は、織物を構成するストランド(より最近において知られている解決策では数個の薄い層を想定する傾向のあったストランド)の断面を増大させることを推奨しており、樹脂による良好な繋留を促進すると共に、PTFEのストランドだけを使用するようにしている。(より最近において知られている解決策では同一の織物内においてPTFEのストランドと樹脂との良好な付着性を有する異なるストランドを組み合わせる傾向があった。)事実、部品の表面を保護する層中に、PTFEの織物の単一の層だけを用いるということにより、この保護層の厚さ全体にわたってストランドの連続性が与えられている場合、引き裂き強さを増大させる一方で、織物のストランド相互間に残っている空間により樹脂中へのこの層の良好な繋留を促進するという利点が得られる。
【0012】
かかる織物は、自滑性であると言える。
【0013】
本発明の有利な特徴によれば、
・織物は、対をなすよこ糸と対をなすたて糸の交差によって形成された織り方(ウィーブ)であり、この織物は、特に、2/2綾織物であるのが良く、
・よこ糸またはたて糸は、互いに結合された短繊維によって形成され、
・織物は、少なくとも0.10mm、有利には少なくとも0.30mm、好ましくは少なくとも0.50mmの厚さを有し、
・よこ糸およびたて糸は、少なくとも100デシテックス、好ましくは少なくとも400デシテックスの番手を有し、
・樹脂は、熱硬化性ポリイミドであり、
・部品は、摩擦面に対向した織物を境界付ける補強層を更に有し、補強層は、織物と同一の樹脂で含浸処理され、
・部品は、種々の考えられる用途の中でベアリングまたは案内レールを構成する。
【0014】
本発明の製品は、作動中、250℃を超え、途切れなく最高300℃までの範囲にあり、更には320℃でピークを迎えることができる温度で自己潤滑性を示すことができる一方で未処理のPTFE(添加物なしまたは内張りなし)の摩擦係数と同等の極めて低い摩擦係数(0.01~0.2)を示すが、40N/mm2を超える荷重に対して耐性があるという利点を示している。
【0015】
類推により、本発明は、上述した形式の自滑性複合摩擦部品の製造方法であって、全てがポリテトラフルオロエチレンで構成されたよこ糸およびたて糸によって形成されている織物のストリップを、ストリップが各ターン後にそれ自体端と端を付き合わせた状態になるような巻回角度に従ってマンドレル上に螺旋状に巻き付けることによって織物の層を形成し、織物は、少なくとも250℃のガラス転移温度を有する熱安定性樹脂で含浸処理されていることを特徴とする方法を提案する。この樹脂は、有利には、熱硬化性ポリイミドである。
【0016】
本発明の目的、特徴および利点は、以下の説明、添付の図面を参照して非限定的な例示の実施形態により与えられる以下の説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の摩擦部品の斜視図である。
図2】この摩擦部品の摩擦層を織成する好ましい実施例の図である。
図3】補強層によって境界付けられたこの摩擦層の断面図である。
図4】摩擦部品、たとえば図1図3の摩擦部品の形成方法の単純化された略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の摩擦部品は、本質的に、対向する部品と向かい合うようになった自由表面Sを備えた摩擦層を有し、有利には、この摩擦部品は、この摩擦層の機械的性能を強化するために摩擦面と対向した摩擦層を境界付ける補強層をさらに有する。
【0019】
図1の実施例では、摩擦部品は、ベアリング1であり、このベアリングは、その長手方向ボア1A内にシャフト(図示せず)を受け入れるようになっている。変形例では、摩擦部品は、並進運動状態にあるロッドを受け入れるスライダであっても良い。摩擦面(したがって、内面)と境界付ける摩擦層は、参照符号2で示され、補強層は、参照符号3で示されている。この層3は、この場合、摩擦層よりも実質的に厚い厚さを有し、事実、要件に応じて、摩擦層は、実際には、多くとも数ミリメートル(実際には3mm以下)のオーダーの厚さを有し、補強層は、厚さが数ミリメートルまたは更には数センチメートルであるのが良い。しかしながら、言うまでもないこととして、補強層は、これが存在する場合、摩擦層に対して任意の相対的な厚さを有しても良い。
【0020】
摩擦層の機能は、摩擦を可能な限り小さくした状態で上述したシャフトである対向した部品を案内する一方で、できるだけ長い時間にわたって、途切れなく少なくとも250℃の作動温度での作動を含むとともに300℃を超える温度(たとえば、最高320℃のオーダーまでの温度)をピーク温度とする作動を含む作動中、その物理的健全性を保持することにある。
【0021】
これを行うため、摩擦層は、最大連続作動温度を超え、したがって、少なくとも250℃または更には300℃にできるだけ近い温度を超えるガラス転移温度を有する熱安定性樹脂によって形成されているマトリックスで被覆したポリテトラフルオロエチレン(即ち、PTFE)で作られているストランド(または糸)の織物の単一の層から成る。
【0022】
ポリテトラフルオロエチレン、すなわちPTFEの概念は、この場合、このコンパウンドの種々の形態を示しており、かかる形態としては、“ePTFE”と呼ばれている発泡型が挙げられる。
【0023】
織物の織り方、すなわち、この織物を構成しているストランドの相対的構成は、種々のストランド相互間に熱安定性樹脂を充填することができるフローチャネルを形成するよう選択される。事実、理解されるように、PTFEは、事実上、他の物質との付着性を備えていないので、マトリックス内への織物の繋留は、織物を貫通して存在する種々のフローチャネルを満たす樹脂によって構成された不定形のフィラメントを絡み合わせることによってしか実施できず、かかるフィラメントは、摩擦面の近くに位置するPTFEのストランドに沿って互いに連結される。
【0024】
理解されるように、用途に応じて、織物を貫通する樹脂フローチャネルの断面と本数に関し、妥協点が見出されるべきであり、これらのフローチャネルの本数が多ければ多く、しかも幅が広ければ広いほど、PTFE内のストランドの繋留具合がそれだけ一層良好になるが、PTFEのストランドにより形成される摩擦面の割合がそれだけ一層小さくなる。これとは逆に、PTFE内のストランドで形成される摩擦面の割合が大きければ大きいほど、摩擦部品の摩擦強度がそれだけ一層良好になるが、マトリックス中の織物の繋留具合がそれだけ一層弱くなる。
【0025】
よこ糸とたて糸の各交差部のところに樹脂のためのフローチャネルが存在することは、望ましいと考えられる。
【0026】
一般的な織り方のうちで、綾織物、より正確に言えば対をなすよこ糸と対をなすたて糸の織成によって形成された2/2綾織物は、ネットワークのストランド相互間に樹脂で満たされたチャネルの構成を可能にし、樹脂は、ストランドと樹脂との間に接着性がないにもかかわらず織物の良好な繋留具合を保障するのに十分高密度であり、他方対向した部品にPTFEにより形成された相当広い表面を与えるように思われる。
【0027】
かかる2/2綾織物は、図2および図3に示されており、この場合、よこ糸は、参照符号5で示され、たて糸は、参照符号6で示され、それほど緊密ではない織成が施されて樹脂を挿通させる隙間7が自由な状態で残されている。良好な結果は、2/2綾織物で得られた。
【0028】
さらに有利には、よこ糸およびたて糸は各々、撚り合わせによって互いに結合されたPTFE繊維によって形成された単一のフィラメントにより形成され、このことは、フィラメント、およびかくしてよこ糸とたて糸がマトリックス内への織物の良好な繋留具合に寄与するでこぼこの表面を有することを意味している。
【0029】
良好な結果は、0.1~0.14mmの平均直径を有する繊維によって形成されたモノフィラメントのかかる織成により得られた。
【0030】
これら繊維は、好ましくは、400デシテックスを超え、有利には少なくとも750デシテックスである番手を有し、極めて満足の行く試験結果が833デシテックスの繊維で得られた。
【0031】
変形例では、織物は、各々が上述した実施例の場合のように連続したまたは短繊維によって形成された数本のフィラメントによって形成されているストランドによって形成され、かかる場合、フィラメントの番手は、低いのが良く、例えば、2本フィラメントのストランドに関し、350~450デシテックスまたはそれ以下のオーダーのものである。織成は、撚り合わせの有無を問わず2つまたは3つの断片のストランドを集成することによって実施できる。
【0032】
さらに別の変形例によれば、フィラメントの表面は、たとえば微小ノッチの形成によって注意深くでこぼこにされている。
【0033】
織物の厚さは、少なくとも0.30mmまたは更には少なくとも0.5mmであり、1ミリメートルを超える範囲にある値を想定することができ、これにより、用いられるべきストランドの断面を決定することができる。よこ糸とたて糸は、有利には同一である。これらの断面は、図2および図3で検討される実施例では、円板の断面である。図示していない変形例では、この断面は、長方形であり、たとえば、形状係数(最も大きな寸法と最も小さな寸法の比)は、好ましくは少なくとも2である。
【0034】
熱安定性樹脂は、有利には、熱硬化性ポリイミド、シアネートエステルを主成分とする樹脂またはポリエーテルケトン(特に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリエーテルケトンケトン(PEKK))から選択される。これらの樹脂は、最低ガラス転移温度が280℃を超える。熱硬化性ポリイミドの中で、ポリビスマレイミドまたはBMIを挙げることができる。
【0035】
充填剤を熱安定性樹脂中に混ぜ込むことが有益であるとは考えられない。
【0036】
補強層は、圧力が摩擦部品と対向した部品との間に加えられる(高温での加圧状態を含む)にもかかわらず、摩擦層を補強してその形状を保つ機能を有するので、理解されるように、この補強層は、代表的には多くとも13.10-6-1に等しい極めて低い熱膨張率を有する材料(鋼に対応している)により形成されるのが有利であり、要件の関数としてこの補強層の幾何学的形状および構成を定めることは、当業者の通常の技術の範囲内にある。この補強層は、特に、自由でありまたは織物内で組み合わされた、炭素、ガラスまたはアラミドのストランドまたは繊維(ロービングと呼ばれる場合がある)を含むのが良い。
【0037】
摩擦層の織物は、有利には、ストリップとして利用でき、ストリップは、必要ならばプロフィールが得られるべき摩擦面の形態のネガであるプレフォームを用いることによって摩擦層を造形するための大きな自由度を提供する。ストリップの幅は、要件の関数として選択でき、この幅は、有利には、5mm~2m、たとえば1cm~10cm、好ましくは1.5cm~3cmに選択される。
【0038】
摩擦部品がベアリングである上述の場合、その製造は、かかる織物のストリップを外径が製造されるべきベアリングの内径に等しいマンドレルに巻き付けることによって開始可能であり、マンドレル上に形成された連続して位置するターンの縁と縁の接触状態を保障するようストリップを螺旋状に巻き付ける(図4参照)。理解されるように、ストリップ10の幅は、マンドレルの軸線およびかくして結果として得られるベアリングの軸線に対するよこ糸およびたて糸の傾きを決定する。事実、よこ糸およびたて糸は、それぞれ、織物のストリップに対して長手方向および横方向に配置される。
【0039】
理解されるように、摩擦中におけるよこ糸とたて糸の両方の連続性は、ベアリングの動作寿命中、良好な健全性の保持に寄与し、これらストランドに関し、ベアリングの長手方向軸線に対する40°~60°の傾斜角がこれについて望ましいと考えられる。縁と縁を付き合わせた巻回の場合、およびさらに織物の場合(しかしながら、ストランドの場合ではなく)、65°~89°の角度を辿る巻回を提供することが好ましい。
【0040】
補強層を形成するのに、炭素もしくはガラスまたは任意他の適当な材料のストランドを任意の傾斜角度であって良い角度で巻回することも可能であろう。ストランドの巻回の場合、最適角度は、40°~60°であると考えられるが、この角度は、用途および所望の機械的特性に応じて様々であって良い。
【0041】
一方において織物のストリップ、他方において補強層のストランドは、有利には、前もって熱安定樹脂で含浸処理されるが、理解されるように、補強層が摩擦層の場合と同一の樹脂を用いて形成される場合、次の熱処理がマトリックスを互いにしっかりと取り付けるのを助けることができる。
【0042】
ストリップの巻回によって形成されるのではなく、変形例として、PTFE織物は、編組管状スリーブによって構成される。
【0043】
容易に理解されるように、スライダ形式の摩擦部品の場合、摩擦層は、上述の織物を下に位置する補強層に取り付けるだけで形成できる。
【0044】
一例を挙げると、摩擦ベアリングを以下のようにして形成した。
【0045】
厚さ0.3mmのPTFE織物を幅3cmのストリップの形態をした2/2綾織物の織り方と共に選択した。このストリップをガラス転移温度が285℃のポリビスマレイミド(BMI)型の熱安定性樹脂を含む110℃に維持された含浸浴中に浸漬した。
【0046】
連続して位置するターン相互間のオーバーラップを生じさせないでマンドレルの表面全体を覆うよう注意しながらこの含浸ストリップをマンドレルに巻き付けて、マンドレルの表面全体にわたって単一の連続層を形成し、この単一連続層は、ベアリング(または複数のベアリング)を形成するようになっていた。有利には、マンドレルもまたそれ自体、含浸浴の温度に維持した。
【0047】
つぎに、前もって同一の樹脂を含浸させたエポキシガラスのストランド(ロービング型のガラスフィラメントと呼ばれる)を巻回した。
【0048】
つづく重合サイクルは、170℃における4時間(これよりも長い持続時間が可能である)にわたる処理、脱型、および230℃~250℃の温度での4時間(これよりも長い持続時間が可能である)にわたる追加の硬化処置を含んでいた。
【0049】
注目したこととして、次の機械加工中、PTFE繊維を切断することは難しかったが、このことは、組立体の摩耗に関して良好な性能を立証している。
【0050】
以下の条件で摩擦学的試験を実施した。
‐振幅軸線の振動:100°
‐計画圧力:80MPa
‐平均速度:8mm/s
‐平均PV(圧力×速度):0.64MPa・m/s
‐当初のシャフト/ベアリング間の隙間:0.1~0.2mm
‐ベアリングの寸法:Φint30×Φext36×Lg20
‐当初のグリース:なし
‐試験した解決手段の対向したシャフト:16NC6肌焼き
‐試験の最長持続時間:1か月(350,000サイクル)
‐周囲温度
【0051】
既知のベアリング(PTFEを入れた樹脂で被覆されたポリエステル織物で作られている、またはポリエステルのストランドおよびPTFE(最大量が50%未満のPTFE)のストランドにより形成された織物で作られている)について最高0.04またはそれどころか0.08までの摩擦係数の増大を認めたが、本発明のベアリングに関する摩擦係数は、最高350,000サイクルまでかろうじて0.02の値で実質的に一定であることを示している。
【0052】
対向した部品のシャフトの中心のところでの温度の変化をモニタしたとき、この温度は、公知のベアリングについてほぼ50℃またはそれどころか60℃まで増大し、温度は、本発明のベアリングについては40℃未満に維持されたことが注目され、このことは、本発明のベアリングについて散逸するエネルギーが公知のベアリングの場合よりも少ないことを明らかに反映している。
【0053】
たとえそうであっても、本発明のベアリングの全体的摩耗は、公知のベアリングの全体的摩耗よりも大きく、対向した部品の示す摩耗は、極めて僅かであることが注目されるが、この摩耗は、見掛け上のものであるに過ぎず、事実、加えられた接触圧力を受けた摩擦層の粉砕現象の存在を反映している。
【0054】
さらに、本発明のベアリングを以下の条件下で試験した。
‐振幅軸線の振動:100°
‐計画圧力:80MPa
‐平均速度:8mm/s
‐平均PV(圧力×速度):0.64MPa・m/s
‐当初のシャフト/ベアリング間の隙間:0.1~0.2mm
‐ベアリングの寸法:Φint30×Φext36×Lg20
‐当初のグリース:なし
‐試験した解決手段の対向したシャフト:16NC6肌焼き
‐試験の最長持続時間:1か月(350,000サイクル)
‐50℃から280℃まで変化する温度(周囲)‐これら温度レベルの間、温度を一定に維持することが困難であった。
【0055】
摩擦係数は、280℃までの増大にもかかわらず、実質的に一定であることを示している。
【0056】
これらの試験結果の示すところによれば、本発明のベアリングは、極めて低い温度係数と、最高250℃を超え、250℃から280℃までの範囲の温度での良好な性能とを満足の行く程度に兼ね備えている。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-02-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動中、少なくとも250℃に等しい温度を受けることができる自滑性複合摩擦部品であって、前記部品は、摩擦面に沿って、ポリテトラフルオロエチレンのよこ糸およびたて糸で形成された織物の単一の層を有し、前記織物は、少なくとも250℃に等しいガラス転移温度を有する熱安定性樹脂で含浸処理されている、部品。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2
【外国語明細書】