(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057098
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】ストレス緩和性基剤又は化粧料の評価方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/891 20060101AFI20230413BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230413BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230413BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230413BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20230413BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20230413BHJP
A61K 8/89 20060101ALI20230413BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230413BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61K8/891
A61K8/06
A61K8/34
A61K8/73
A61K8/81
A61K8/86
A61K8/89
A61Q19/00
G01N33/15 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023014841
(22)【出願日】2023-02-02
(62)【分割の表示】P 2020523638の分割
【原出願日】2019-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018110719
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】武岡 永里子
(72)【発明者】
【氏名】野水 千枝子
(72)【発明者】
【氏名】寺田 敏明
(72)【発明者】
【氏名】谷田 正弘
(57)【要約】
【課題】基剤又は化粧料のストレス緩和性を客観的に評価・スクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】基剤又は化粧料の摩擦力の測定値を指標としてストレス緩和性を評価・スクリーニングする方法、かかる方法によりストレスを緩和する効果があると評価又は判断されたストレス緩和性基剤を含む組成物又はストレス緩和性化粧料を提示することを含む美容カウンセリング方法又はリコメンド方法を提供する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレス緩和性基剤又は化粧料の評価方法であって、
被験基剤又は化粧料の塗布時の動摩擦力を測定すること;
測定した動摩擦力から、前記被験基剤又は化粧料のストレス緩和効果を評価すること;
を含み、
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、基剤又は化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にある場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、前記方法。
【請求項2】
ストレス緩和性基剤又は化粧料のスクリーニング方法であって、
被験基剤又は化粧料の塗布時の動摩擦力を測定すること;
測定した動摩擦力から、前記被験基剤又は化粧料のストレス緩和効果を判断すること;
を含み、
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、基剤又は化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にある場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると判断する、前記方法。
【請求項3】
前記方法により、ストレスを緩和する効果があると評価又は判断された基剤又は化粧料を肌に塗布した場合のなじみ感は、塗布後20秒以上40秒以下で得られ始め、40秒を超え70秒未満で終了する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記被験基剤又は化粧料の動摩擦力の変化の大きさが前記動摩擦力の最大値に対し40~65%の範囲内にある場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記動摩擦力が前記変化点を経過した後に減少し続ける場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
対象の美容行為を支援する美容カウンセリング方法又はリコメンド方法であって、
肌負担感を強く感じる対象に、請求項1~5の少なくともいずれか1項に記載の方法によりストレスを緩和する効果があると評価又は判断されたストレス緩和性基剤を含む組成物又はストレス緩和性化粧料を提示することを含む、前記方法。
【請求項7】
洗顔後の感覚の頻度により対象の負担感グレードを測定することを更に含み、
前記肌負担感を強く感じる対象は、前記測定により負担感グレードが高いと判断された者である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にあることを特徴とするストレス緩和用化粧料。
【請求項9】
前記化粧料の全重量に対し、
カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%を含む;又は、
カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%及びジメチコン0.3~4.0%重量%を含む;又は、
(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー0.3~0.5重量%を含む;又は、
グリセリンと2価グリコールの合計値として9.0重量%以上、EO/PO付加重合体1.0~5.0重量%、及びキサンタンガム0.1~0.2重量%を含む;又は、
グリセリンと2価グリコールの合計値として9.0重量%以上、EO/PO付加重合体0.1重量%以上、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー0.3~0.5重量%、及びキサンタンガム0.02~0.8重量%を含む;又は、
グリセリンと2価グリコールの合計値として9.0重量%以上、EO/PO付加重合体0.1重量%以上、カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%、ジメチコン0.3~4.0重量%、高級アルコール0.3~0.7重量%、オレフィンオリゴマー0.3~2.0重量%、及びポリアクリル酸0.05~2.0重量%を含む;
請求項8に記載の化粧料。
【請求項10】
前記化粧料が、水中油型乳化組成物である、請求項8又は9に記載の化粧料。
【請求項11】
前記化粧料が、化粧水または美容液である、請求項8又は9に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基剤又は化粧料のストレス緩和性を客観的に評価する方法に関する。具体的には、基剤又は化粧料の摩擦力の測定値を指標として該基剤又は化粧料のストレス緩和性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧水、乳液、美容液などの化粧料を肌に塗布すると、こすれる、ピリピリする、ムズムズする、つっぱる、ぬるつく、べたつくといった肌に対する負担感が問題になることがある。このような肌負担感が強いと化粧料を肌に塗布すること自体がストレスになりうる。
【0003】
一方、自分自身又は他人の手指が肌に触れると、心理的に好ましい心地よさを与える効果があることが知られている(非特許文献1~3)。更に、感触が良好な化粧料を用いることにより肌に触れると、そのような化粧料を用いない場合と比較して、心地よさなどの心理的効果がさらに良好になることも報告されている(非特許文献3)。よって、肌負担感の少なく感触が良好で、心理的な効果の高いスキンケアが可能な化粧料により、ストレスを低減させ、使用者の気分を向上させることが可能になると考えられる。このような化粧料は、特に肌負担感を強く感じる者にとって重要である。
【0004】
しかしながら、化粧料が肌へ与える感触や心理的効果は、個人の肌質や感覚等により異なり主観に基づく部分が大きいので、客観的に判断することは困難である。現時点では、例えば、アンケート、訓練されたパネリストを用いた検査、VAS法、等によって評価することが可能である。しかしながら、上述のように感触や心理は個人の主観によることが大きいので、正確性を向上させようとすると訓練されたパネリストによる調査や多人数による大規模調査が必要になる。そうすると、パネリストの訓練に時間を要したり、適切な数の被験者の確保が困難である。また、ケラチンフィルム、圧縮試験機等を用いることにより感触を評価する方法もあるが(特許文献1~3)、更なる客観的な指標により良好な感触を有するのみならず心理的にも好ましい効果を与える化粧料の探索が求められている。
【0005】
また、販売員や美容カウンセラーが顧客に化粧料を薦める際に、その顧客にとってどのような化粧料が適切であるかという判断は、現状では、販売員や美容カウンセラーなどは主観的な判断を頼りに、顧客に対し化粧料のアドバイスをするのが通常である。よって、販売員やカウンセラーの経験や勘といった主観的要素が入り込むため、技量により判断に差が生じる可能性があり客観性に乏しいという問題がある。また、主観的判断のみに基づくと、肌負担感を強く感じる顧客に肌負担感の強い化粧料を薦めてしまうおそれもあり、顧客のストレスを増強してしまいかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-72397号公報
【特許文献2】特開2015-3870号公報
【特許文献3】特開2017-101063号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Loken et. al., "Coding of pleasant touch by unmyelinated afferents in humans", NATURE NEUROSCIENCE, Brief communications, published online 12 April 2009; doi:10.1038/nn.2312
【非特許文献2】Morrison et. al., "Reduced C-afferent fibre density affects perceived pleasantness and empathy for touch", BRAIN A JOURNAL OF NEUROLOGY, 2011: 134; 1116-1126, Advance Access publication March 4, 2011; doi:10.1093/brain/awr011
【非特許文献3】Guest et. al., " Sensory and affective judgments of skin during inter- and intrapersonal touch", Acta Psychologica 130 (2009) 115-126, Available online 6 December 2008; doi:10.1016/j.actpsy.2008.10.007
【非特許文献4】石窪ら、新規化粧品摩擦試験機による乳液塗布中の摩擦挙動の解析となじみ感の評価、粧技誌、Vol. 43, No. 3, pp.171-176 (2009)
【非特許文献5】Kreibig et al, The psychophysiology of mixed emotional states, Psychophysiology. 2013 Aug;50(8):799-811.
【非特許文献6】宮川ら、携帯端末上での情動ストレス刺激時の脈波振幅値解析による自律神経機能評価、臨床神経生理学40(6):540-546, 2012
【非特許文献7】吉田ら、指尖容積脈波解析を用いた情動ストレス刺激時における自律神経機能評価、生体医工学49(1):91-99,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように化粧料が肌に与える感触や心理的効果は個人により異なり、その評価も各評価者の経験や技量等によりばらつきが大きい。よって、客観的な指標により良好な感触を有し負担感が低く心理的にも好ましい効果を与える化粧料を評価・スクリーニングすることが切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは化粧料について使用者に好ましい感触や心理的効果を判断するための客観的指標を発見すべく鋭意研究した。このような化粧料の感触は基剤によるものであるため、本発明者らは化粧料基剤についても鋭意研究した。その結果、基剤や化粧料の摩擦挙動を測定することにより、好ましいなじみ感を有し負担感の低いストレス緩和効果の優れた基剤や化粧料の評価やスクリーニングが可能になることがわかった。
【0010】
とりわけ、摩擦が全体的に低く、一旦上昇しその後下降又は横ばいする摩擦挙動を示す基剤や化粧料は、好ましいなじみ感を有する負担感の低い基剤や化粧料として官能評価、心理評価、および生理的評価が良好であることがわかった。
【0011】
本願は以下の発明を提供する。
(1)
ストレス緩和性基剤又は化粧料の評価方法であって、
被験基剤又は化粧料の塗布時の動摩擦力を測定すること;
測定した動摩擦力から、前記被験基剤又は化粧料のストレス緩和効果を評価すること;
を含み、
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、基剤又は化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にある場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、前記方法。
(2)
ストレス緩和性基剤又は化粧料のスクリーニング方法であって、
被験基剤又は化粧料の塗布時の動摩擦力を測定すること;
測定した動摩擦力から、前記被験基剤又は化粧料のストレス緩和効果を判断すること;
を含み、
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、基剤又は化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にある場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると判断する、前記方法。
(3)
前記方法により、ストレスを緩和する効果があると評価又は判断された基剤又は化粧料を肌に塗布した場合のなじみ感は、塗布後20秒以上40秒以下で得られ始め、40秒を超え70秒未満で終了する、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)
イデアテックスジャパン(株)製の人工皮革(製品番号:PBZ13001)を装着した基板上で該人工皮革を装着した1cm2の塗布面積を有する塗布用の接触子により速度50mm/sec・50gfの垂直荷重下で前記被験基剤又は化粧料を塗布した時に、前記動摩擦力の最大値が45gfよりも低い場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、(1)~(3)のいずれか1項に記載の方法。なお基板として、前記人工皮革以外に、皮膚の代替となる塗布基板、すなわち所定部位の皮溝及び皮丘を模した皮膚代替膜(プレート)、例えばサンスクリーンのSPF測定に用いられる株式会社資生堂製の「SPF MASTER PA01」等も用いることができるが、これに限定されるものではない。また接触子として、前記の接触子以外に、ヒトの指の形態や力学的物性を模した指モデル、例えばウレタン樹脂製の指モデル等も用いることができるが、これに限定されるものではない。
(5)
前記被験基剤又は化粧料の動摩擦力の変化の大きさが前記動摩擦力の最大値に対し40~65%の範囲内にある場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、(1)~(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)
前記動摩擦力が前記変化点を経過した後に減少し続ける場合に、前記被験基剤又は化粧料はストレスを緩和する効果があると評価する、(1)~(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)
対象の美容行為を支援する美容カウンセリング方法又はリコメンド方法であって、
肌負担感を強く感じる対象に、(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法によりストレスを緩和する効果があると評価又は判断されたストレス緩和性基剤を含む組成物又はストレス緩和性化粧料を提示することを含む、前記方法。
(8)
洗顔後の感覚の頻度により対象の負担感グレードを測定することを更に含み、
前記肌負担感を強く感じる対象は、前記測定により負担感グレードが高いと判断された者である、(7)に記載の方法。
(9)
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にあることを特徴とするストレス緩和用化粧料。
(10)
前記化粧料の全重量に対し、
カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%を含む;又は、
カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%及びジメチコン0.3~4.0%重量%を含む;又は、
(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー0.3~0.5重量%を含む;又は、
グリセリンと2価グリコールの合計値として9.0重量%以上、EO/PO付加重合体1.0~5.0重量%、及びキサンタンガム0.1~0.2重量%を含む;又は、
グリセリンと2価グリコールの合計値として9.0重量%以上、EO/PO付加重合体0.1重量%以上、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー0.3~0.5重量%、及びキサンタンガム0.02~0.8重量%を含む;又は、
グリセリンと2価グリコールの合計値として9.0重量%以上、EO/PO付加重合体0.1重量%以上、カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%、ジメチコン0.3~4.0重量%、高級アルコール0.3~0.7重量%、オレフィンオリゴマー0.3~2.0重量%、及びポリアクリル酸0.05~2.0重量%を含む;
(9)に記載の化粧料。
(11)
前記化粧料が、水中油型乳化組成物である、(9)又は(10)に記載の化粧料。
(12)
前記化粧料が、化粧水または美容液である、(9)又は(10)に記載の化粧料。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、摩擦力に基づいて、基剤又は化粧料のストレス緩和性を簡便かつ客観的に評価できる。よって、スタッフの経験や技量によらずストレス緩和性の高い化粧料を作成するための基剤のスクリーニングを簡便に行うことが可能になる。また、スタッフによる判断のばらつきも軽減され一定のレベルでカウンセリングを行い、特に肌負担感を強く感じる顧客に適切な摩擦感のなさとなじみ感の好ましい化粧料を提案することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、摩擦感と心地よさの関係を示す。左図は前腕内側部の肌でサンドペーパーを摩擦した場合、右図は指で摩擦した場合を示す。
【
図2】
図2は、肌負担感を感じる女性が基剤T又は基剤Qを使用した際の「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」を示す。
【
図3】
図3は、肌負担感を感じる女性が基剤T又は基剤Qを使用した際の「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」、並びに塗布中・塗布後の使用性に関する各項目の評価を多重回帰解析した結果を示す。表中の数値は、各項目間毎のピアソンの積率相関係数を示す。**は、「嗜好」、「ストレスのなさ」、「心地よさ」すべての項目に対して、ピアソンの積率相関係数の有意性検定(p<0.05)により有意な相関があった項目を示しており、×は有意な相関がない項目を示す。
【
図4】
図4は、肌負担感を感じる女性が基剤T又は基剤Qを顔に塗布した際の行動および生理反応を示す。左図は、肌負担感を感じる女性が基剤T又は基剤Qを顔に塗布開始した時間から塗布動作を終了するまでの時間を「なじみ終了時間」として示す(秒)。右図は、肌負担感を感じる女性が基剤T又は基剤Qを顔に塗布開始後から塗布中10秒間の脈波振幅変化(a.u.:任意単位)を示す。
【
図5】
図5は、肌負担感を感じる女性が基剤T又は基剤Qを顔に塗布した際の基剤のなじみ時間と心地よさの関係を示す。上図は、心地よさの評価となじみ時間(秒)の関係を示す。下図は、脈波振幅変化がプラスであった被験者についての脈波振幅変化(a.u.:任意単位)となじみ開始時間(秒)の関係を示す。
【
図6】
図6は、感触評価エキスパートによる各試験基剤の対照基剤Tに対する使用感評価結果ついての主成分分析の結果を示す。横軸は第一主成分、縦軸は第二主成分を示す。
【
図7】
図7は、各基剤の塗布開始から250秒までの動摩擦挙動を示す。
【
図8】
図8は、各基剤の塗布開始から600秒までの動摩擦挙動を示す。
【
図9】
図9は、
図6の主成分分析結果と各基剤の動摩擦挙動との関係を示す図である。図中の各基剤について示す摩擦挙動は、
図8の動摩擦挙動を各基剤について縮小したものであり、各グラフのXY軸は
図8のものと同一である。
【
図10】
図10は、各基剤(T、L、R、S、J、Q、水)の動摩擦挙動の特徴と、負担感グレードA群とB群による各基剤の3日間連用後の評価結果とをまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、肌負担感とは、化粧料又はその基剤を肌に塗布する際に、使用者が物理的に感じる不快な感触を指す。例えば、「ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・チリチリ」「つっぱり」「痛い」「ほてり・熱感」「ムズムズ・かゆい」といった刺激感、乾燥感、痛みなどの感覚、ぬるつく・べたつくといった圧迫感、こすれるといった摩擦感等を含んでもよいがこれらに限定されない。
【0015】
本明細書において、肌負担感を強く感じる対象とは、上述の肌負担感を感じる程度や頻度が高い者を指す。例えば、実施例に記載の負担感グレードによりグレードA又はグレードBに分類された者であってもよい。また、本発明者らにより、負担感グレードと敏感肌意識はよく一致していることがわかったため、自分が敏感肌と感じる者であってもよい。更には、例えば、季節、天気、体調、心理状態といった各要因により肌負担感を意識的又は無意識的に感じる者であってもよいがこれらに限定されない。
【0016】
本明細書において、ストレスとは、本明細書では、化粧水、乳液、美容液などの化粧料又はその基剤を肌に塗布する際に、使用者が感じるストレスを指す。例えば、負担感が強い化粧料又は基剤を肌に塗布することにより意識される又は無意識下での不快感を指す。意識できる不快感は官能評価等で評価することができる。しかしながら、化粧料又は基剤を使用することがストレスであるという意識がないものの、無意識下で不快と感じることもある。本明細書におけるストレスは、このような無意識下での不快感も含む。無意識下での不快感は、脈波振幅、脈拍や心拍等の自律神経指標により評価することが可能である。例えば、脈波振幅は、様々な感覚刺激により変化し、音楽や香り、画像などの快適感を反映して増加するが逆にストレスを感じると低減することが報告されている(非特許文献5~7)ため、脈波振幅を測定しストレスの指標として用いることが可能である。
【0017】
一方で、上述のように、感触が良好な化粧料を用いて肌に触れると、心地よく感じ心理的な効果が良好になることも報告されている(非特許文献3)。このような心地よさも不快感と同様に、意識下又は無意識下で感じられることもあり、主観的心理評価や脈波振幅などの自律神経指標等により評価することが可能である。また、肌に心地よさを感じると、毎日その化粧料を使用することが楽しみになったり、気分が向上したり、使用後にも幸福な気持ちが持続したり、明るい気持ちになることもあることがある。
【0018】
したがって、本明細書において、ストレス緩和とは、上述のような不快感を軽減するという作用のみならず、化粧料又は基剤を使用することにより肌に心地よく感じることにより、気持ちが落ち着く、幸福な気持ちになる、明るい気持ちになる、前向きな気持ちになる、集中力が増すといった使用中および使用後の積極的な心理的作用も含むがこれらに限定されない。
【0019】
本明細書において、摩擦力とは、基剤又は化粧料を塗布したときの摩擦力を指す。摩擦力には動摩擦力と静摩擦力があるが、いずれも市販の摩擦測定器等で測定できる。特定の実施形態では、摩擦力は動摩擦力を指すこともある。ここで、化粧料の感触が滑らかなほど心地よさが良好であることが報告されている(非特許文献3)。また、本発明者らにより、摩擦感と心地よさは負の相関関係にあることが示された(実施例実験1)。しかしながら、基剤又は化粧料の摩擦力がどのくらいの強度を示し、どのような時間枠で、どのような挙動を示すと肌に対する感触が良好で肌負担感が少なく、心地よさを与えるストレス緩和性基剤又は化粧料を得られるのかについては、全く未知であった。したがって、本発明者らは、基剤又は化粧料の摩擦挙動と塗布中・塗布後に被験者が感じる感覚や心理的・生理的作用との対応を調べた。
【0020】
本発明者らによる鋭意研究の結果、摩擦力が全体的に低く、一旦上昇しその後下降又は横ばいする摩擦挙動を示す基剤又は化粧料は、好ましいなじみ感を有し肌負担感の低いストレス緩和性基剤又は化粧料として評価が高いことが分かった。したがって、本願発明は、基剤又は化粧料が肌に与えるストレス緩和性が、摩擦力の挙動により測定可能であるという本願発明者らによる新たな発見に基づく。
【0021】
よって、本願は、被験基剤又は化粧料の動摩擦力の測定値を指標としてストレス緩和性を評価する工程を含む、ストレス緩和性基剤又は化粧料の評価方法およびスクリーニング方法を提供する。
【0022】
評価は、被験基剤又は化粧料の動摩擦力が全体的に低く、一旦上昇しその後下降する又は横ばいするパターンを有する基剤又は化粧料は、ストレスを緩和する効果があると評価するものであってもよい。
【0023】
被験基剤又は化粧料の動摩擦力が全体的に低いとは、被験基剤又は化粧料の動摩擦力の最大値が、基剤又は化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値と比較して低いこと、例えば、10%未満、20%未満、30%未満、40%未満、50%未満、60%未満、70%未満、80%未満、又は90%未満であることあってもよく、一定の範囲内、例えば20~90%、25~85%、30~80%、35~75%、40~75%、45~70%の範囲内にある場合であってもよい。
【0024】
動摩擦力の最大値とは測定開始後250秒までに最大を示す値をいうことがある。ここで、基剤又は化粧料により、測定開始直後に動摩擦力が下降してから上昇する場合があるが、動摩擦力の最大値とは上述の測定開始時や測定直後のものではなく下降した後に上昇してから測定開始後250秒までに最大を示す値をいう。
【0025】
また、動摩擦力が全体的に低いとは、最大値を含めた動摩擦力が、例えば、トライボマスターTL201Ts(トリニティラボ社製)といった摩擦測定器を用い、カバンや座席シートなどに一般的に用いられる人工皮革、例えば、イデアテックスジャパン(株)製のPBZ13001などの人工皮革を装着した平滑な基板上で前記人工皮革を装着した1cm2の塗布面積のプローブ、すなわち、1cm2の塗布面積を有する塗布用の接触子により速度50mm/sec・50gfの垂直荷重下で基剤又は化粧料を塗布した時に55gf、50gf、45gf、又は40gf未満であることあってもよく、動摩擦の最大値が一定の範囲内、例えば20gf~50gf、20gf~45gf、25gf~50gf、25gf~45gf、30gf~50gf、又は30gf~45gfの範囲内にあることであってもよい。ここで、基剤又は化粧料により、測定開始時および測定開始直後、例えば測定から0~約5秒、0~約6秒、0~約7秒、0~約8秒、0~約9秒、0~約10秒程度まで動摩擦力が下降し、その後上昇する場合があるが、「動摩擦力が全体的に低い」とは、かかる測定開始時および直後の値を含まないことがある。なお、摩擦測定器、人工皮革、基板、接触子等はこれらに限定されない。例えば、基板として、前記人工皮革以外に、皮膚の代替となる塗布基板、すなわち所定部位の皮溝及び皮丘を模した皮膚代替膜(プレート)、例えばサンスクリーンのSPF測定に用いられる株式会社資生堂製の「SPF MASTER PA01」等も用いることができるが、これに限定されるものではない。また接触子として、前記の接触子以外に、ヒトの指の形態や力学的物性を模した指モデル、例えばウレタン樹脂製の指モデル等も用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0026】
被験基剤又は化粧料の動摩擦力が一旦上昇しその後下降する又は横ばいするパターンとは、動摩擦力の傾き、つまり動摩擦力を時間で微分した値が変化点までは正の値であり、変化点を超えた後に負の値になる又はゼロになる又は低い値でとどまり、変化点以降の動摩擦力が下降するか又は停滞状態になることを指す。ここで、変化点とは、動摩擦力がいったん上昇した後の動摩擦力の傾き(動摩擦力の時間微分)が大きく低下する時点を指し、上述の測定開始時および測定開始直後に摩擦力が下降しその後上昇する変化の時点ではない。
【0027】
また、被験基剤又は化粧料の動摩擦力は、測定開始後上昇することが好ましく、その上昇開始時間は、測定開始後、例えば、10秒、15秒、20秒、25秒、30秒、35秒、40秒、45秒、又は50秒より前であることが好ましい。また、動摩擦力は上昇開始後、例えば、変化点まで上昇し続けることが好ましい。変化点は、測定開始後150秒以内であることが好ましい。このような好ましい変化点として、例えば、測定開始後100秒以内、105秒以内、110秒以内、115秒以内、120秒以内、125秒以内、130秒以内、135秒以内、140秒以内、145秒、150秒以内が挙げられる。
【0028】
さらに、被験基剤又は化粧料の動摩擦力が一旦上昇しその後下降する基剤又は化粧料が好ましい場合がある。被験基剤又は化粧料の動摩擦力が一旦上昇しその後横ばいする基剤又は化粧料が好ましい場合もある。
【0029】
また、動摩擦力の変動は適切な範囲内にあることが好ましい。例えば、動摩擦力の最小値が最大値に対し15~75%、20~70%、25~70%、30~70%、35~65%、35~60%の範囲内にあることが好ましい場合がある。また、動摩擦力の最大値に対する変化の大きさ(最大値と最小値の差)は、15~75%、20~70%、25~70%、30~70%、35~65%、40~65%の範囲内にあることが好ましい場合もある。また、例えば、動摩擦力の最小値と最大値の差が、トライボマスターTL201Ts(トリニティラボ社製)といった摩擦測定器を用い、カバンや座席シートなどに一般的に用いられる人工皮革、例えば、イデアテックスジャパン(株)製のPBZ13001などの人工皮革を装着した平滑な基板上で前記人工皮革を装着した1cm2の面積のプローブ、すなわち、1cm2の塗布面積を有する塗布用の接触子により速度50mm/sec・50gfの垂直荷重下で基剤又は化粧料を塗布した時に5gf~50gf、10gf~45gf、又は15gf~45gfの範囲内にあることが好ましい場合もある。なお、摩擦測定器、人工皮革、基板、接触子等は上記と同様これらに限定されない。ここでいう動摩擦力の最小値や変化の大きさも最大値の定義と同様に測定開始後250秒までの値をいうことがあり、測定開始直後に動摩擦力が下降してから上昇する場合、そのような測定開始時や測定直後のものではなく下降した後に上昇してから測定開始後250秒までの値をいうことがある。
【0030】
また、上述のような摩擦挙動が好ましいのは、負担感のみならず、摩擦力に関連することが報告されている「なじみ感」も関連している可能性も考えられる(非特許文献4)。動摩擦力が上昇して変化感が感じられるとなじみ感が生じ、心地よさが感じられ、その後は摩擦力が低めであると塗布後の心理状態に良好に影響するといったことが起因する可能性もある。
【0031】
なじみ感とは、基剤又は化粧料が肌にしみこむ感覚を言う。なじみ感は、特定の訓練を受けた感触評価のエキスパートによって官能評価により計測することができる。なじみ感は、摩擦力に関連することが報告されているものの、なじみ感とストレス緩和にはどのような関係があるのかわかっていなかった。しかしながら、本発明者らにより、肌に塗布した場合のなじみ感が遅いとストレスであり、逆になじみの早さが心地よさやストレス緩和性に関連することが分かった。特に、なじみ始めが塗布後20秒以上40秒未満でなじみ終了が40秒以上70秒未満である場合、ストレス緩和効果が高いことがわかった。
【0032】
ここで、「なじみ始め」とは、被験者が基剤又は化粧料を肌に塗布してからなじみ感を感じ始めることを指し、例えば、なじみ開始の時間は、塗布開始時間より被験者が「なじみ始めた」と申告するまでの時間を計測することにより測定できる。「なじみ終了」とは、被験者が基剤又は化粧料を肌に塗布してからなじみ感を感じ終えることを指し、例えば、なじみ終了の時間は、被験者が塗布動作を終了する時間を計測することにより測定できる。
【0033】
なじみ開始の時間は、例えば、塗布後20秒以上40秒以下、あるいは、塗布後35秒以下、30秒以下などが好ましい場合もある。なじみ終了の時間は、塗布後40秒を超え70秒未満、あるいは、塗布後65秒以下、60秒以下などが好ましい場合もある。
【0034】
基剤とは、化粧料の肌触りや使用感に合わせて作られる基本原料を指す。基剤としては、水性基剤、シリコーン石鹸系基剤、油性基剤、乳化基剤等が挙げられるが、これらに限定されない。化粧料の例として、美容液、乳液、化粧水、ローション、クリーム等が挙げられる。基剤や化粧料の形態は、液状、乳液状、クリーム状、スプレー状、泡状、水中油型、油中水型、等の様々な形態であってもよいが、これらに限定されない。
【0035】
また、本発明は、本発明の方法によりストレスを緩和する効果があると評価又は判断されたストレス緩和性基剤又はストレス緩和性化粧料を提供する。例えば、本発明は、動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、基剤又は化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にあることを特徴とするストレス緩和用化粧料を提供する。
【0036】
また、本発明は、肌負担感を強く感じる対象にストレスを緩和する効果があると評価又は判断されたストレス緩和性基剤を含む組成物又はストレス緩和性化粧料を提示することを含む、対象の美容行為を支援する美容カウンセリング方法又はリコメンド方法を提供する。また、本願にかかる方法は、美容目的であり、医師や医療従事者が行う医療行為は除かれることがある。
【0037】
また、上述のような好ましい摩擦挙動を示す基剤又は化粧料の組成として、典型的に、例えば、グリセリン、二価グリコール、EO/PO付加重合体、カルボキシシリコーン、ジメチコン、高級アルコール、オレフィンオリゴマー、ポリアクリル酸、クロスポリマー、キサンタンガムといった成分の配合量が影響していると考えられる。例えば、基剤又は化粧料の例として、以下の表1に示す組成1~3が好ましく挙げられる。また、基剤又は化粧料成分の全重量に対し、カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%を含む、カルボキシシリコーン0.2~0.6重量%及びジメチコン0.3~4.0%重量%を含む、または(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25)クロスポリマー0.3~0.5重量%を含む基剤又は化粧料であることが好ましい場合もある。しかしながら、このような組成に限定されず、上述の好ましい摩擦挙動を示す組成であれば本発明の基剤又は化粧料の範囲内である。
【0038】
【0039】
本発明の基剤や化粧料は、摩擦挙動が本発明の範囲内である限り、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤として、着色剤、保存剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、酸化防止剤、界面活性剤、pH調整剤、油分、水、アルコール類、キレート剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等の公知のものを適宜選択して使用できる。
【実施例0040】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0041】
実験1:摩擦感と心地よさの関係
化粧料が滑らかなほど心地よさが高いことが報告されており、摩擦感と心地よさは関連することが示唆されている(非特許文献3)。そこで、摩擦感と心地よさの関係を調べた。被験者は、肌負担感意識を感じる女性、すなわち洗顔後に「ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・チリチリ」「つっぱり」「痛い」「ほてり・熱感」「ムズムズ・かゆい」のいずれかの感覚を感じており、かつ健康な肌を有する、下記実験5-1に記載の負担感グレードAまたはBに該当する成人女性16名である。3M社製の粗さの異なる3種のサンドペーパー(規格;A、B、C)を、それぞれ被験者が自身の前腕内側部の肌または指上で摩擦し、VASにより主観的な「摩擦感」「心地よさ」のレベルを評価した。
【0042】
結果を
図1に示す。
図1により、摩擦感と心地よさは負の相関関係にあることがわかる。つまり、肌も指も摩擦を高く感じるほど心地よくないことが示され、これは非特許文献3の報告と一致する。そこで、以下の実験で基剤塗布中・塗布後の気持ちと摩擦挙動との対応を以下の官能評価、心理評価、生理評価、および物性評価により調べた。
【0043】
実験2:官能評価(低負担感基剤と高負担感基剤の位置づけ定義)
前記肌負担感を感じる女性(16名)により行った。表3に示す組成の基剤T又は基剤Qを使用した。これらの被験者は、洗顔後に基剤T又は基剤Qを手指にて顔に塗布し、「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」、並びに塗布中・塗布後の使用性に関する下記の表2に記載の項目について、7段階評価で評価した。さらに、目的変数を「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」とし、表2に記載の説明変数を用いて下記の多重回帰式(式1)により多重回帰解析を行った。
【0044】
【0045】
【0046】
結果を
図2に示す。基剤Tを使用したときは「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」が基剤Qを使用したときよりも優位に高かった(Brunner-munzeiの検定)。また、
図3の多重回帰解析では、「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」は、摩擦に関連する「なめらかさ」と「のびの軽さ」が有意に相関していた。また、「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」は「なじみの早さ」と正の相関、「なじみ始め時間」および「なじみ終了時間」と負の相関関係にあった(各項目間のピアソンの積率相関係数を
図3の表に示す。表の×印は、p値が0.05以上の有意な相関性が認められなかったものである。ピアソンの積率相関係数の有意性検定:トライフィールズ社による解析)。
【0047】
実験3:生理評価
また、実験1、2と同条件の被験者について、基剤T又は基剤Qを顔に塗布開始後から塗布中10秒間の脈波振幅も計測した。上述のように脈波振幅変化は、意識下で感じられなくても、無意識下で生理的に感じられる心地よさを測定することが可能な自律神経系の指標として使用でき。脈波振幅変化が高いほど生理的に心地よさを感じていることを示す。脈波振幅変化は、耳たぶに光電センサを装着し、非特許文献7に記載の計測方法により、ヘモグロビンに吸収帯域を持つ光を通して、透過光を計測することで得られる波形の縦の振幅について、塗布中の脈波振幅と塗布前安静時の脈波振幅の差として計測した。また、なじみ感の時間は、被験者が顔に塗布を開始した時間を塗布開始時間とし、塗布開始時間より被験者が「なじみ始めた」と申告するまでの時間を「なじみ感の開始時間」、被験者が塗布動作を終了するまでの時間を「なじみ終了時間」として計測した。また、被験者には基剤T又は基剤Qについて「心地よさ」の感覚を7段階評価してもらい、その心地よさの評価となじみ時間の関係を調べた。さらに、脈波振幅変化がプラスであった、つまり、無意識下で生理的に心地よいと感じた被験者のなじみ開始時間を調べた。
【0048】
結果を
図4、5に示す。
図4により、基剤Tを使用したときは塗布前と比較した脈波振幅変化が基剤Qを使用したときに比べ有意に高く、無意識下でも生理的に心地よさを感じることが分かった。また、基剤Qを使用したときのなじみ感の終了時間は70秒であったが、基剤Tを使用したときは60秒であり、なじみ終了時間がある程度早いほうが心地よいことが分かった。また、
図5により、なじみ時間が早い、具体的には、なじみ始めが約20秒以上約40秒以下であり、なじみ終了が約40秒を超え約70秒未満である場合に特に心地よいと感じることがわかった。
【0049】
実験2の官能評価および実験3の生理評価の結果により、基剤Tは、主観的な評価である「心地よさ」「嗜好」「ストレスのなさ」が良好で、さらに無意識下でも心地よさが感じられる基剤であり、肌負担感が低いことが分かった。一方、基剤Qは上記いずれの評価も低く、肌負担感が高い基剤であることが分かった。よって、基剤Tを低負担感基剤、基剤Qを高負担感基剤と定義し以下の実験を行った。
【0050】
実験4:物性評価
次に、このような好ましい心地よさ、ストレスのなさ、肌負担感の低さ、生理状態やなじみ時間をもたらす基剤の物性の適正領域を可視化すべく、以下の方法により様々な基剤の物性を評価した。
【0051】
実験4-1:感触評価エキスパートによる基剤の評価
化粧料使用時の感触評価についてよく訓練された専門家である感触評価エキスパートの10名の女性により、表3に示す組成の約20種類の試験基剤を使用した際の使用感の評価を行った。すなわち、負担感意識のある被験者による上記実験2の主観的官能評価でも実験3の生理評価でも心地よい基剤であることが判明した対照基剤Tと、試験基剤とをそれぞれ半顔に塗布し、対照基剤Tを基準として、試験基剤の使用感を下記の表4に記載の各項目につき、基剤Tを0とした場合の試験基剤の相対評価として-3,-2,-1,0,+1,+2,+3の数値により7段階で行った。
【0052】
【0053】
【0054】
その結果、「べたつきのなさ」「のびの軽さ」「きしみのなさ」「被膜感を感じない」「油っぽさのなさ」といった肌負担感のなさやストレスのなさに関する感触と、「なめらかさ」「やわらかさ」といった潤いを想起する感触とのバランスがよく、「嗜好」、「心地よさ」、「なじみの早さ」「浸透感」の値が高い基剤として基剤L、R、S、Jを得た。一方、基剤Qは、上記感触、「嗜好」、「心地よさ」、「なじみの早さ」の値が低かった。さらに、上記実験で得た評価結果を、SIMCA(Umetrics社製)のソフトを用い主成分分析により解析した。主成分分析の結果を
図6に示す。特に、基剤Tならびに基剤L、R、S、Jなどの評価の高い基剤は
図6にて四角形で囲まれた領域辺りに位置づけられることがわかった(この領域を「適正領域」とする)。この適正領域内にある基剤は、上述のような感触に関する評価項目や「嗜好」、「心地よさ」、「なじみの早さ」の値が高く、適正領域の近くにある基剤ほどこれらの評価が高い傾向にあった。一方、上記評価の低い基剤Qは、適正領域外に位置していることが示され、その他の基剤についても、適正領域から大きく外れる基剤ほどこれらの評価が低い傾向にあった。
【0055】
実験4-2:基剤の塗布摩擦挙動
実験4-1で見られるような適正領域にある基剤がどのような物性を有するのかを調べるために、評価が良好であった基剤(T、L、R、S、J)並びに評価が好ましくなかった基剤(Q)および水について、塗布摩擦挙動を測定した。測定は、トライボマスターTL201Ts(トリニティラボ社製)を用い、人工皮革(イデアテックスジャパン(株)製、製品番号:PBZ13001)を装着した平滑な基板に塗布量1μl/cm2の試験基剤を、上記と同じ人工皮革を装着した面積1×1cm2の塗布面積を有する塗布用の接触子(プローブ)を用いて、塗布距離5cm、塗布速度5cm/sec、垂直荷重50gfの条件で、往復塗布を10分間行う動摩擦力の測定により実施した。
【0056】
結果を
図7、8、9に示す。これらの図に見られるように、基剤T、L、R、S、Jの動摩擦力は、測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続けた。また、基剤T、L、R、S、Jの上昇開始後における動摩擦力の最大値は約30gf~42gfの範囲内にあった。一方、水および基剤Qは、そのような動摩擦挙動を示さず、測定開始から150秒が経過しても上昇し続けていた。さらに、基板のみ、水、基剤Qの最大摩擦力は基剤T、L、R、S、Jの最大摩擦力よりも高く60gf~62gf前後であった。これらの摩擦挙動を数値として
図10に示す。評価が良好な基剤T、L、R、S、Jの変化点における摩擦力、つまり、最大摩擦力(約30gf~42gf)は、基板のみの最大摩擦力(約62gf)に対し、約45(≒30gf/62gf×100)~70%(≒42gf/62gf×100)の範囲内にあることがわかる。
【0057】
また、評価が良好な基剤の動摩擦力の変動は一定の範囲内であることが分かった。例えば、評価が良好な基剤のうち一番変化の大きい基剤Jの最小値が約15gfで最大値が約42gfであり、最大値に対する変化の大きさは約65%(64.2%≒(42gf-15gf)/42gf×100)であり、一番変化の小さい基剤Sの最小値が約18gfで最大値が約30gfであり、最大値に対する変化の大きさは40%(=(30gf-18gf)/30gf×100)であった。つまり、評価が良好な基剤の動摩擦力の最大値に対する変化の大きさは約40~65%の範囲内にあった。一方、基板のみの場合の動摩擦力はあまり変動せず、その最小値が約45gfで最大値が約62gfであり、最大値に対する最小値は70%を超えており、最大値に対する変化の大きさは30%未満であった(27.4%≒(62gf-45gf)/62gf×100)。逆に評価が好ましくなかった基剤Qは大きく動摩擦が変動し、その最小値が約18gfで最大値が約62gfであり、最大値に対する最小値は30%より小さく、最大値に対する変化の大きさは70%を超えていた(71.0%≒(62gf-18gf/62gf)×100)。以上の結果より、負担感の低い基剤や化粧料の動摩擦力は適正な範囲内で変動することが好ましく、大きく変動しすぎても逆に変動が小さすぎても好ましくないことがわかった。
【0058】
実験5:心理評価
実験4より、摩擦が全体的に低く、一旦上昇しその後下降又は横ばいする摩擦挙動を示す基剤は、ストレス緩和剤としての効果が高いことが示唆される。したがって、肌負担感を感じる対象により各基剤を連用した場合の心理作用について検証した。
【0059】
実験5-1:肌負担感を感じる対象の選別
下記の基準に基づき、「負担感グレード」を決定した。洗顔後に「ヒリヒリ・ピリピリ・チクチク・チリチリ」「つっぱり」「痛い」「ほてり・熱感」「ムズムズ・かゆい」のいずれかの感覚を何らか感じており、かつ健康な肌を有する成人女性のうち、洗顔後に上記記載の感覚を、「毎回」又は「頻繁に」感じる者をグレードA;(いつも感じる群)、「ときどき」又は「まれに」感じる者をグレードB;(時々感じる群)、「感じることはない」者をグレードC;(感じない群)、とした。
【0060】
実験5-2:連用によるストレス緩和効果の評価
実験5-1の基準により選択した負担感グレードA群60名とB群60名を調査対象とした。対象は、試験基剤(T、L、R、S、J、Q、水)を3日間全顔に連用し、3日間連用後の嗜好性、ストレスのなさ、心地よさを7段階で評価した。
【0061】
結果を
図10示す。過半数以上で嗜好された基剤の中で、特に評価が高かったもの(7段階のうちTop2で過半数以上)を◎、評価が高かったもの(7段階のうちTop3で過半数以上)を〇として示した。「ストレスのなさ」、「心地よさ」の評価についても、同様に示す。試験基剤のマインドケア効果については、次のように評価した。「気持ちが前向きになる」、「気持ちが落ち着く」、「気持ちに余裕がある」、「自分が守られている」、「元気になる」の項目について、試験基剤塗布前と試験基剤3日連用後に、それぞれ5段階で評価を行った。試験基剤3日連用後の評価値と試験基剤塗布前の評価値の差、すなわち増加度について、これら項目の増加度の平均値が0.5以上と評価された基剤を◎、0~0.5未満と評価された基剤を〇、として示した。
【0062】
負担感グレードの高い対象は、摩擦が全体的に低く、一旦上昇しその後下降又は横ばいする摩擦挙動を示す基剤を嗜好し、ストレスがなく心地よい基剤として評価していることがわかる。さらに、3日間連用前後の心理アンケートにより、これらの基剤は、「気持ちが前向きになる」、「気持ちが落ち着く」、「気持ちに余裕がある」、「自分が守られている」、「元気になる」という心理的効果を与えることも分かった。一方、摩擦が全体的に高い基剤(Q)及び水では、このような効果は見られないのみならず、塗布することにストレスを感じてしまうこともわかった。
【0063】
さらに、負担感グレードの高い対象程、摩擦力が一旦上昇しその後下降する基剤(T、J)を、そうではない基剤(R、L)よりも心地よいと評価し、嗜好性やストレス緩和性も高いことが分かった。この傾向は、負担感グレードが高いほど顕著にみられた(データ示さず)。これは、摩擦力が高いままだといつまでも肌に負担が残ってしまうが一方、摩擦力の上昇がゆるやかであまり変化がなさすぎると物足りなさを感じてしまうことも関連していると考えられる。よって、負担感グレードの高い対象には、摩擦力が一旦上昇しその後下降する基剤を提案することがより好ましいこともわかる。
【0064】
以上の結果により、本願の方法で評価又はスクリーニングされた基剤は、肌負担感が低く、心地よく、嗜好性が高く、なじみ始めとなじみ終わりの時間が早くストレス緩和効果が高いことがわかった。さらに、これらの基剤のストレス緩和効果は塗布中および塗布後に及ぶ事もわかった。
本発明は、基剤又は化粧料の動摩擦力を指標とすることで、肌負担感を簡易かつ客観的に評価することが可能になる。また、このような方法に基づいて肌負担感の高い対象に適切な化粧料を提供することが可能になる。また、基剤又は化粧料の動摩擦力を指標とすることで、肌負担感の低い基剤又は化粧料を探索するためのスクリーニングを簡便に行うことが可能になる。
動摩擦力が測定開始後30秒より前に上昇を開始し、測定開始後150秒以内に起こる変化点まで上昇し続け、前記上昇開始後における動摩擦力の最大値が、化粧料を塗布しない場合の動摩擦力の最大値に対して、45~70%の範囲内にあることを特徴とするストレス緩和用化粧料。