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特開2023-57151AML及びMDSの治療のためのRARAアゴニスト
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057151
(43)【公開日】2023-04-20
(54)【発明の名称】AML及びMDSの治療のためのRARAアゴニスト
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20230413BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 33/36 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230413BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20230413BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230413BHJP
【FI】
A61K31/192
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K33/36
A61K31/706
A61K31/7056
A61K31/7068
A61K31/704
A61K31/519
A61K31/44
G01N33/50 P
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023023318
(22)【出願日】2023-02-17
(62)【分割の表示】P 2021135461の分割
【原出願日】2017-04-07
(31)【優先権主張番号】62/320,352
(32)【優先日】2016-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517342268
【氏名又は名称】サイロス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ロバート マッケオン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー フィオーレ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ルーカス イートン
(72)【発明者】
【氏名】エミリー ペイトン リー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン フリッツ
(57)【要約】
【課題】 AML及びMDSの治療のためのRARAアゴニストの提供。
【解決手段】RARAアゴニストに対して感受性の細胞集団を規定する、及びRARAアゴニストによる治療から恩恵を受けるであろう患者集団を特定する方法を本明細書に記載する。この方法は、RARAアゴニストを患者集団に投与することを含むことができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月8日に出願された米国特許仮出願第62/320,352号の優先権を主張し、その開示は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
レチノイドは、天然及び合成の化合物を含む、構造的にビタミンAと関連している化合物のクラスである。レチノイドのいくつかの系列が、皮膚科学的及び腫瘍学的疾患の治療で臨床的に有用であることが見出されている。レチノイン酸及び他の天然に存在するそのレチノイド類似体(9-シスレチノイン酸、オールトランス3,4-ジデヒドロレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸及びレチノール)は、多種多様な炎症細胞、免疫細胞及び構造細胞の構造及び機能をモジュレートする多面的な調節化合物である。これらは、肺における上皮細胞の増殖、分化及び形態形成の重要な調節因子である。レチノイドは、ステロイド/甲状腺受容体スーパーファミリーに属するリガンド誘導性転写因子である一連のホルモン核内受容体を介して、その生物学的効果を発揮する。
【0003】
レチノイド受容体は、2つのファミリー、すなわち、レチノイン酸受容体(RAR)及びレチノイドX受容体(RXR)に分類され、それぞれ3つの異なるサブタイプ(α、β及びγ)からなる。RAR遺伝子ファミリーの各サブタイプは、2つの一次RNA転写産物の差次的スプライシングから生じる可変数のアイソフォームをコードする。オールトランスレチノイン酸はレチノイン酸受容体に対する生理的ホルモンであり、3つのRARサブタイプのすべてにほぼ等しい親和性で結合するが、9-シスレチノイン酸が天然リガンドであるRXR受容体には結合しない。レチノイドは抗炎症作用を有し、上皮細胞分化の進行を変化させ、間質細胞マトリックス生成を阻害する。これらの特性は、皮膚科学的障害、例えば、乾癬、座瘡及び肥大性皮膚瘢痕に対する局所的及び全身的なレチノイド治療剤の開発をもたらした。他の用途としては、急性前骨髄球性白血病、腺癌及び扁平上皮癌ならびに肝線維症の制御が挙げられる。
【0004】
レチノイドの治療的使用の制限は、天然に存在するレチノイド、オールトランスレチノイン酸及び9-シスレチノイン酸で観察される相対的毒性に起因した。これらの天然リガンドはRARサブタイプに関して非選択的であり、したがって体全体にわたって多面的効果を有し、これらは有毒であることが多い。
【0005】
様々なレチノイドが、RARもしくはRXR受容体またはそのクラス内の特定のサブタイプ(α、β、γ)と選択的または特異的に相互作用することが説明されている。RARA特異的アゴニストは、がんの治療に非常に有望あり、多くのものがヒト臨床試験に入った。しかし、たった1つのRARA特異的アゴニスト、タミバロテンしか、これまでがんの治療に承認されていない。さらに、米国及びヨーロッパにおける治験にもかかわらず、タミバロテンは日本でしか承認されておらず、且つ急性前骨髄球性白血病の治療についてしか承認されていない。がんにおけるRARAアゴニストの理論的有効性とそのような薬剤についての規制当局の承認不足の間のずれによって、なぜそのようなアゴニストがヒトにおいて有効でなく安全でないのかという疑問が生じる。したがって、なぜRARAアゴニストがその治療的可能性を満たさなかったかをよりよく理解する必要がある。
【0006】
ゲノム技術の最近の進歩及び遺伝子調節回路の理解によって、スーパーエンハンサーが発見された。所与の組織またはがん型における多くの遺伝子が遺伝子コード領域に近接してエンハンサーがあることによって調節され得るが、これらのごく少数は、すべての他の活性遺伝子と比較して、転写マーク及び機構の非常に不均整且つ不均衡に大きな負荷を示す。最近の発見によって、そのようなエンハンサーは、それを有する細胞の機能及び生存に特に関連する遺伝子と関係していることが示唆される。したがって、スーパーエンハンサーと遺伝子の関連は、その細胞の生存に対する該遺伝子の相対的重要性を示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、1種または複数のIRF8バイオマーカー(例えば、IRF8スーパーエンハンサーの強度、順位ランク(ordinal rank)または保有率(prevalence)ランク及びIRF8 mRNAレベルまたは保有率ランク(prevalence rank)などを含めた、1種または複数のIRF8遺伝子の成分もしくは産物の存在、レベル、形態及び/または活性)を検出する技術を提供する。本開示は、1種または複数のIRF8バイオマーカーを含む細胞(例えば、がん細胞または非APL AMLもしくはMDSを罹患する対象由来の細胞)であって、IRF8バイオマーカーが、上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの発現であるか、またはこれを含む細胞が、RARAアゴニスト、例えばタミバロテンの効果に感受性がより高いことを示す。
【0008】
本発明の様々な実施形態、態様及び代替は、細胞集団が、レチノイン酸受容体アルファ(「RARA」)のアゴニストに感受性であるかを規定すること、RARAアゴニストによる治療から恩恵を受けるであろう患者集団を特定すること(例えば、RARAアゴニストによる治療について患者を層別化すること、RARAアゴニストのレスポンダーを非レスポンダーから分離すること)及びそのような患者集団に対して行われる治療療法を提供することに関する問題を解決する。この解決は、ある種のがん細胞における1種または複数のIRF8バイオマーカーの発現の上昇が、そのような細胞が、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)による治療に対して、IRF8バイオマーカーの上昇がない同様の細胞よりも実質的に応答性であろうことを指し示すという本発明者らの発見に少なくとも部分的には基づく。
【0009】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象のがん細胞におけるIRF8 mRNAレベルに基づいて、対象(例えばヒト)においてがん(例えば、非APL AMLまたはMDS)を治療する方法に関し、この方法は、疾患を治療するのに有効な量のRARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)を対象に投与するステップを含む。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象のがん細胞におけるIRF8 mRNAレベルは、所定の閾値レベル以上である。
【0010】
いくつかの実施形態では、本開示はがんを治療する方法に関し、この方法は、がんを有する対象にタミバロテンを投与するステップを含み、ここでは、がんはIRF8バイオマーカーを有すると決定され、IRF8バイオマーカーは、上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの発現であるか、またはこれを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、本開示は、上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない、及び上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していないと決定された対象に療法を施すステップを含む方法に関し、ここでは、療法はタミバロテンの投与を含まない。
【0012】
いくつかの実施形態では、本開示はがんを治療する方法に関し、この方法は、(a)上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数を発現していない、またはその強度及び/または順位ランクが所定の閾値を超える、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有さない、ならびに(b)上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していると決定された対象に療法を施すステップを含み、ここでは、療法はタミバロテンである。
【0013】
いくつかの実施形態では、本開示はがんを治療する方法に関し、この方法は、上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない、及び上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していると決定された対象に療法を施すステップを含み、ここでは、療法はタミバロテンである。
【0014】
いくつかの実施形態では、本開示はがんを治療する方法に関し、この方法は、がんを罹患する対象におけるIRF8 mRNAレベルに関する情報を受け取るステップ、及び情報がIRF8 mRNAレベルまたはスーパーエンハンサーのレベルが参照のもの以上であることを示す場合に、タミバロテンを対象に投与するステップを含む。いくつかの態様では、参照は所定の閾値である。いくつかの態様では、所定の閾値はカットオフ値または保有率カットオフである。
【0015】
いくつかの実施形態では、本開示はがんを治療する方法に関し、この方法は、がんを罹患する対象におけるIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの存在に関する情報を受け取るステップ、及び情報が、スーパーエンハンサーがIRF8遺伝子と関連することを示す場合に、タミバロテンを対象に投与するステップを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんが参照のもの以上であるIRF8 mRNAレベルを有する細胞を含むかどうかを決定するステップを含む、がんの治療におけるRARAアゴニストの有効性を予測する方法に関し、ここでは、IRF8 mRNAレベルが参照のもの以上であることが、治療におけるRARAアゴニストの有効性を予測する。いくつかの態様では、参照は所定の閾値である。いくつかの態様では、所定の閾値はカットオフ値または保有率カットオフである。
【0017】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを罹患する対象において、がんがIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有する細胞を含むかどうかを決定するステップを含む、がんの治療におけるRARAアゴニストの有効性を予測する方法に関し、ここでは、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの存在がRARAアゴニストを用いる効果的ながん治療を示す。
【0018】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを罹患する対象からのがん細胞を含む生物試料を得るステップ、及び生物試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数が参照のもの以上であること、またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出するステップを含む方法に関する。いくつかの態様では、参照は所定の閾値である。いくつかの態様では、所定の閾値はカットオフ値または保有率カットオフである。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象からがんの試料を得るステップ、及び試料において、対象におけるIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの存在を決定するステップを含む、がんを罹患する対象を診断する、予後予測するまたは治療する方法に関する。
【0020】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象からがんの試料を得るステップ、試料において、対象におけるIRF8 mRNAレベルまたはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの存在を決定するステップ、及び(a)IRF8 mRNAレベルが参照のもの以上である、または(b)IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーのうちの1つまたは複数の場合に、RARAアゴニストを含む治療用組成物を投与するステップを含む、がんを罹患する対象を診断する、予後予測するまたは治療する方法に関する。いくつかの態様では、参照は所定の閾値である。いくつかの態様では、所定の閾値はカットオフ値または保有率カットオフである。
【0021】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを有する対象から得られた生物試料において、RARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度もしくは順位ランクを検出すること、及び生物試料が、参照のもの以上である上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数、または所定の閾値以上である強度もしくは順位ランクを有する、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない場合に、生物試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出することを含む方法に関する。いくつかの態様では、参照は所定の閾値である。いくつかの態様では、所定の閾値はカットオフ値または保有率カットオフである。
【0022】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを有する対象から得られた生物試料において、RARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度もしくは順位ランクを検出すること、及び生物試料が、参照のもの以上である上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数、または所定の閾値以上である、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度もしくは順位ランクを発現している場合に、生物試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出することを含む方法に関する。
【0023】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを有する対象から得られた生物試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること、及び生物試料が参照のもの以上である上昇したIRF8
mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない場合に、生物試料において、RARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度もしくは順位ランクを検出することを含む方法に関する。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示は、がんを有する対象から得られた生物試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること、及び生物試料が参照のもの以上である上昇したIRF8
mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現している場合に、生物試料において、RARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度もしくは順位ランクを検出することを含む方法に関する。
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示は、非APL AML及びMDSから選択される疾患を罹患するヒト対象を診断及び治療する方法に関し、この方法は、
a.対象由来の病的な細胞の試料中に存在することが以前に決定されたIRF8 mRNAレベルに基づいて、対象がタミバロテン感受性型の疾患を有するかどうかを診断こと、及び
b.疾患を治療するのに有効な量のタミバロテンを対象に投与すること
を含む。
【0026】
これらの実施形態のいくつかの態様では、IRF8 mRNAレベルは所定の閾値以上である。
【0027】
タミバロテンを用いる対象の治療を含む前述の実施形態のうちのいずれかのいくつかの態様では、対象はタミバロテンと第2の治療剤との組み合わせが投与される。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示は、対象のがん細胞におけるRARA mRNAレベル及びまたはIRF8 mRNAレベルに基づいて、対象において、非APLまたはMDSから選択されるがんを治療する方法に関し、ここでは、治療は、タミバロテンと第2の治療剤の組み合わせを対象に投与することを含む。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象は閾値以上であるRARA mRNAレベルを有する。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象は閾値以上であるIRF8 mRNAレベルを有する。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象は閾値以上であるRARA mRNAレベルと閾値以上であるIRF8 mRNAレベルの両方を有する。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象は非APL AMLを罹患している。
特定の実施形態では、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
非APL急性骨髄性白血病(AML)または骨髄異形成症候群(MDS)を有する対象にタミバロテンを投与するステップを含み、
前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料においてIFR8バイオマーカーが検出されており、前記IRF8バイオマーカーが所定の閾値以上であるIRF8エンハンサー強度、所定の閾値以上であるIRF8 mRNAレベル及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、
がんの治療方法。
(項目2)
前記対象由来の前記PBMCまたは富化PBMC試料においてRARAバイオマーカーも検出されており、前記RARAバイオマーカーが所定の閾値以上であるRARAエンハンサーの強度、所定の閾値以上であるRARA mRNAレベル及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記対象が非APL AMLを有する、項目2に記載の方法。
(項目4)
非APL AML及びMDSから選択されるがんの治療方法であって、
前記がんを有する対象にRARAアゴニストを投与するステップを含み、ここでは、前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料がIRF8バイオマーカーを有すると決定され、
前記IRF8バイオマーカーが、上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの発現であるか、またはこれを含む、
前記治療方法。
(項目5)
前記対象由来の前記PBMC試料または富化PBMC試料が、所定の閾値レベル以上であるレベルの検出によって、上昇したIRF8 mRNAレベルを発現していると決定される、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記スーパーエンハンサーが所定の閾値レベル以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有する場合、前記対象由来の前記PBMC試料または富化PBMC試料がIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していると決定される、項目4に記載の方法。
(項目7)
前記所定の閾値レベルが所定の保有率カットオフレベルである、項目5に記載の方法。
(項目8)
非APL AMLまたはMDSに対する前記所定の保有率カットオフが約15~約40%の間である、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記対象が上昇したRARA mRNAレベルまたはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを示すことがさらに示されている、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
前記対象が上昇したRARA mRNAレベルまたはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを示さないことがさらに示されている、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
前記対象が上昇したIRF8 mRNAレベルまたはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを示すという実証より前に、前記対象が上昇したRARA mRNAレベルまたはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを示さないことが示された、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記対象が上昇したIRF8 mRNAレベルまたはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを示すという実証と同時に、前記対象が上昇したRARA mRNAレベルまたはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを示さないことが示された、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記がんが非APL急性骨髄性白血病(AML)である、項目4~12のいずれか1項に記載の方法。
(項目14)
非APL AMLまたはMDSを有する対象への療法の施行方法であって、ここでは、前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料が、
a.上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない、及び
b.上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない
と決定され、
前記療法がタミバロテンの投与を含まない、前記施行方法。
(項目15)
前記療法がRARAアゴニストの投与を含まない、項目14に記載の方法。
(項目16)
対象に療法を施すステップを含み、ここでは、前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料が、
a.上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現している、
b.上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現している
と決定され、
前記療法がRARAアゴニストである、非APL AMLまたはMDSの治療方法。
(項目17)
対象に療法を施すステップを含み、ここでは、前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料が、
a.上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現しない、及び
b.上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現している
と決定され、
前記療法がRARAアゴニストである、非APL AMLまたはMDSの治療方法。
(項目18)
a.非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料におけるIRF8 mRNAレベルに関する情報を受け取るステップ、及び
b.前記IRF8 mRNAレベルまたはスーパーエンハンサーのレベルが参照のもの以上であると前記情報が示す場合に、RARAアゴニストを前記対象に投与するステップ
を含む、非APL AMLまたはMDSの治療方法。
(項目19)
a. IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーに関する情報を受け取るステップであって、非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料において、前記スーパーエンハンサーが所定の閾値レベル以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有するステップ、及び
b.IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーが所定の閾値レベル以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有すると前記情報が示す場合に、RARAアゴニストを前記対象に投与するステップ
を含む、非APL AMLまたはMDSの治療方法。
(項目20)
前記RARAアゴニストがタミバロテンである、項目16~19のいずれか1項に記載の方法。
(項目21)
非APL AMLまたはMDSの治療におけるRARAアゴニストの有効性の予測方法であって、
非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料が、参照のもの以上であるIRF8 mRNAレベルを有するかどうかを決定するステップを含み、
参照のもの以上であるIRF8 mRNAレベルが、治療におけるRARAアゴニストの有効性を予測する、前記予測方法。
(項目22)
がんの治療におけるRARAアゴニストの有効性の予測方法であって、
a.非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料がIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有するかどうかを決定するステップを含み、
b.ここでは、前記スーパーエンハンサーが、がんを罹患する対象において所定の閾値レベル以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有する、
前記予測方法。
(項目23)
a.非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料を得るステップ、
b.前記生物試料において、
i)IRF8 mRNAレベルが参照のもの以上であること、または
ii)所定の閾値以上である強度、順位ランクもしくは保有率ランクを有する、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサー
の1つまたは複数を検出するステップ
を含む方法。
(項目24)
非APL AMLまたはMDSを罹患する対象の診断、予後予測または治療の方法であって、
a.前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料を得るステップ、
b.試料において、前記対象におけるIRF8 mRNAレベルまたはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの1つまたは複数を決定するステップ
を含む、前記診断、予後予測または治療の方法。
(項目25)
IRF8 mRNAレベルが参照のもの以上である場合に、前記対象がRARAアゴニストを含む治療用組成物を投与される、項目24に記載の方法。
(項目26)
IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーが所定の閾値以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有する場合に、前記対象が、RARAアゴニストを含む治療用組成物が投与される、項目24に記載の方法。
(項目27)
非APL AMLまたはMDSを罹患する対象の診断、予後予測または治療の方法であって、
a.前記対象由来のPBMC試料または富化PBMC試料を得るステップ、
b.試料において、前記対象におけるIRF8 mRNAレベルまたはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを決定するステップ、
c.i)IRF8 mRNAレベルが参照のもの以上である、または
ii)IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサー(前記スーパーエンハンサー所定の閾値以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有する)
の1つまたは複数である場合、
RARAアゴニストを含む治療用組成物を投与するステップ
を含む、前記診断、予後予測または治療の方法。
(項目28)
前記RARAアゴニストがタミバロテンである、項目24、25または27のいずれか1項に記載の方法。
(項目29)
a.非APL AMLまたはMDSを有する対象から得られたPBMC試料または富化PBMC試料において、RARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること、
b.前記生物試料が、参照のもの以上である上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数または所定の閾値以上である強度、順位ランクもしくは保有率ランクを有する、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない場合に、前記生物試料においてIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること
を含む、方法。
(項目30)
a.非APL AMLまたはMDSを有する対象から得られたPBMC試料または富化PBMC試料において、RARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること、
b.前記生物試料が、参照のもの以上である上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数または所定の閾値以上である強度、順位ランクもしくは保有率ランクを有する、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現している場合に、前記生物試料においてIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること
を含む、方法。
(項目31)
a.非APL AMLまたはMDSを有する対象から得られたPBMC試料または富化PBMC試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること、
b.前記生物試料が、参照のもの以上である上昇したIRF8 mRNAレベルの1つまたは複数または所定の閾値以上である強度、順位ランクもしくは保有率ランクを有する、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していない場合に、前記生物試料においてRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること
を含む、方法。
(項目32)
a.非APL AMLまたはMDSを有する対象から得られたPBMC試料または富化PBMC試料において、IRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること、
b.前記生物試料が、参照のもの以上である上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数または所定の閾値以上である強度、順位ランクもしくは保有率ランクを有するIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現している場合に、前記生物試料においてRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを検出すること
を含む、方法。
(項目33)
前記検出ステップを同時に実施することができる、項目29~32のいずれか1項に記載の方法。
(項目34)
RARAアゴニストを前記対象に投与することをさらに含む、項目29~32のいずれか1項に記載の方法。
(項目35)
前記RARAアゴニストがタミバロテンである、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記mRNAレベル検出ステップが、蛍光ハイブリダイゼーション、PCR、qPCR、qRT-PCR、RNAシークエンシング、RNAハイブリダイゼーション及びシグナル増幅またはノーザンブロットを使用して行われる、項目29~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目37)
前記スーパーエンハンサー検出ステップがH3K27Ac ChIP-seq、クロマチン免疫沈降及びchipアレイ(Chip-chip)またはクロマチン免疫沈降とその後に続くqPCR(Chip-qPCR)を使用して行われる、項目29~35のいずれか1項に記載の方法。
(項目38)
非APL AMLまたはMDSを有する対象にタミバロテンと第2の治療剤の組み合わせを投与するステップであって、前記対象から得られたPBMC試料または富化PBMC試料が、IRF8バイオマーカー及び/またはRARAバイオマーカーを有すると決定されるステップを含む非APL AMLまたはMDSの治療方法であって、ここでは、
前記IRF8バイオマーカーが、上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの発現であるか、またはこれ含み、
前記RARAバイオマーカーが、上昇したRARA mRNAレベルの1つまたは複数の発現またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーであるか、またはこれ含み、
前記第2の治療剤が、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DNA合成酵素阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、FLT3阻害剤、葉酸阻害剤、BRD4阻害剤、Znフィンガー転写因子阻害剤、GCR阻害剤、CDK7阻害剤、HDAC阻害剤、JMJD3/JARID1B阻害剤、EZH2阻害剤、LSD1阻害剤、プロテアソーム阻害剤、DNA損傷修復阻害剤、PARP阻害剤、mTOR阻害剤、DOT1L阻害剤、チューブリン阻害剤、PLK阻害剤またはオーロラキナーゼ阻害剤から選択される、
前記治療方法。
(項目39)
前記がんが非APL AMLである、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記第2の治療剤が、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DNA合成酵素阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、FLT3阻害剤、葉酸阻害剤、BRD4阻害剤、Znフィンガー転写因子阻害剤、GCR阻害剤、CDK7阻害剤、HDAC阻害剤、JMJD3/JARID1B阻害剤,及びEZH2阻害剤から選択される、項目38または39に記載の方法。
(項目41)
前記第2の治療剤が、アザシチジン、三酸化ヒ素、ミドスタウリン、シタラビン、ダウノルビシン、メトトレキサート、イダルビシン、ソラフェニブ、デシタビン、キザルチニブ、JQ1、ATO、プレドニゾン、SAHA及びGSKJ4から選択され、ここでは、
前記第2の治療剤がミドスタウリン、ソラフェニブまたはキザルチニブである場合、前記がんが上昇したFLT3 mRNAレベルを有するとさらに決定される場合にのみ前記薬剤が投与され、
前記第2の治療剤がプレドニゾンである場合、前記がんが上昇したGCRmRNAレベルを有するとさらに決定される場合にのみ前記薬剤が投与され、
前記第2の治療剤がGSKJ4である場合、前記がんが上昇したJMJD3及び/またはJARID1B mRNAレベルを有するとさらに決定される場合にのみ前記薬剤が投与される、
項目40に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】7種の異なるAML細胞株におけるIRF8 mRNAレベルを示す図である。赤色のバーで示した細胞株は、タミバロテン処理に対してかなりの応答性を示す。青色のバーで示した細胞株は、タミバロテン処理に対して応答性がほとんどまたは全くないことを示す。
図2】タミバロテンの抗増殖性効力(EC50値、nM)とRNA-seqで測定した場合のIRF8 mRNAレベルの相関を示す図である。IRF8 mRNAレベル=1(log10)及び50μM(非応答性)と帰属されるタミバロテンのEC50値を有する左上のポイントは、低IRF8 mRNAレベルを有し且つタミバロテンに対する抗増殖性応答がない2種のAML細胞株由来のデータを示すことに注意されたい。タミバロテン感受性とIRF8 mRNAレベルの相関は非常に有意であった(p=0.0001、スピアマンの相関、両側)。
図3】RNA-Seqで測定した場合の、個々の患者AML試料及びAML細胞株におけるIRF8 mRNAレベルの順位序列(rank order)グラフを示す図である。すべての応答性細胞株の中で最低のIRF8 mRNAレベルを有していた細胞株であるAML細胞株PL21、及びタミバロテンに非応答性のすべての細胞株の中で最高のIRF8 mRNAレベルを有していた細胞株であるKasumiを示す。この集団では、25%の保有率カットオフは、およそlog(7)のRNA-Seq TPM値に等しい。
図4】タミバロテンに対する応答について試験した非APL AML細胞株における、IRF8 mRNAレベルとRARA mRNAレベルの間の相関を示す図である。
図5】AML患者試料の集団における、IRF8 mRNAレベルとRARA mRNAレベルの間の相関を示す図である。点線は、各mRNAに対する25%保有率カットオフを示す。
図6】AML細胞株におけるタミバロテンの抗増殖性効力とIRF8エンハンサー強度の相関を示す図である。IRF8 RECOMBエンハンサースコアの関数としてのAML細胞株のタミバロテン感受性(EC50値、nM)のプロットである。IRF8エンハンサースコア=0及び50μM(非応答性)と帰属されるタミバロテンのEC50値を有する左上のポイントは、検出可能なIRF8エンハンサピークがなく、タミバロテンに対する抗増殖性応答がない3種のAML細胞株の結果を示すことに注意されたい。
図7】AML患者試料におけるIRF8エンハンサー強度を示す図である。66個のAML患者試料に対するRECOMBスコアリング方法におけるIRF8エンハンサー強度の順位序列プロットである。各バーは、単一AML患者に対するIRF8エンハンサー強度を示す。Y軸は、スーパーエンハンサー(>1.0)から典型的なエンハンサー(≦l.0)の間のカットオフ(1.0と定義され、点線で示される)の倍数として、個々のIRF8エンハンサー強度を示す。この閾値より上の患者試料は白色の塗りつぶしで示し、一方で下のものは黒色で示す。66個の患者試料のうちの14個(集団の21%)が1.0の閾値を超え、IRF8 SEを有するとみなされた。
図8】AML患者試料におけるIRF8 mRNAレベルとIRF8エンハンサー強度の相関を示す図である。49個の一次患者試料(エンハンサー及び発現値の両方を有するもの)における、IRF8 RECOMBエンハンサー強度(X軸)の関数としての、クオンタイル正規化したRNA-seqによるIRF8 mRNA転写産物量(log TPM、Y軸)のプロットである。スピアマンのRho相関推定は、2.2×10-12のP値で約0.81である。
図9】AML細胞株におけるIRF8エンハンサー強度の分布を示す図である。26種のAML細胞株に対するRECOMBスコアリング方法におけるIRF8エンハンサー強度のプロットである。各バーは、単一AML細胞株に対するIRF8エンハンサー強度を示す。Y軸は、スーパーエンハンサー(>1.0)から典型的なエンハンサー(≦l.0)の間のカットオフ(1.0と定義され、点線で示される)の倍数としての、個々のIRF8エンハンサー強度を図示する。この閾値より上の細胞株を白色の塗りつぶしで示し、一方で下のものは黒色で示す。26種のAML細胞株のうちの9種(集団の34%)が1.0の閾値を超え、IRF8 SEを有するとみなされた。
図10】AML細胞株におけるIRF8 mRNAレベルとIRF8エンハンサー強度の相関を示す図である。RNA-seq及びChIP-seqデータの両方が利用可能なすべての非APL AML細胞株における、IRF8 RECOMBエンハンサー強度(X軸)の関数としての、クオンタイル正規化したRNA-seq TPM(Y軸)のIRF8 mRNA転写産物量のプロットである。スピアマンのRho相関推定は、約2×10-6のp値で約0.82である。
図11】2つの異なる患者由来マウス異種移植片AMLモデルにおける、%CD45細胞によって測定した場合の、タミバロテンの毎日の投薬に対する応答を示す図である。図11は、様々な臓器及び生体液における%CD45細胞ならびにマウスモデルの生存時間も示す。
図12】2つのさらなる患者由来マウス異種移植片AMLモデルにおける、%CD45細胞によって測定した場合の、タミバロテンの毎日の投薬に対する応答を示す図である。図12は、これらのモデルにおける様々な臓器及び生体液における%CD45細胞ならびにこれらのモデルにおける生存時間も示す。
図13図11及び12に示される異種移植片実験で使用された4種のAML患者試料のそれぞれにおけるIRF8 mRNAレベル及びRARA mRNAレベルを示す図である。タミバロテン応答性異種移植片をもたらしたタミバロテン応答性AM8096のみが、100TPMの閾値を超えるIRF8 mRNAを示した。AM8096及びAM5512(これらは、タミバロテンに対するいくらかの応答性を示した)は、10TPMの閾値を超えるRARA mRNAレベルを示した。
図14-1】様々なAML細胞株、AML一次患者試料、正常血液細胞及びAML PDXにおいて検出されたIRF8 mRNAレベルの順位序列化を示す図である。
図14-2】様々なAML細胞株、AML一次患者試料、正常血液細胞及びAML PDXにおいて検出されたIRF8 mRNAレベルの順位序列化を示す図である。
図15】様々なAML細胞株におけるタミバロテンとアザシチジンの組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
図16】様々なAML細胞株におけるタミバロテンと三酸化ヒ素の組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
図17】様々なAML細胞株におけるタミバロテンとAra-Cの組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
図18】様々なAML細胞株におけるタミバロテンとダウノルビシンの組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
図19】様々なAML細胞株におけるタミバロテンとメトトレキサートの組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
図20】様々なAML細胞株におけるタミバロテンとイダルビシンの組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
図21】様々なAML細胞株におけるタミバロテンとソラフェニブの組み合わせに対するアイソボログラムを示す図である。アステリスクはアイソボログラムの最大値の外側のデータポイントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本出願では、文脈から明らかでない限り、(i)用語「a」は「少なくとも1つ」を意味すると理解され得、(ii)用語「または」は「及び/または」を意味すると理解され得、(iii)用語「含む(comprising)」及び「含む(including)」は、それ自体で提示されるか1つまたは複数のさらなる成分またはステップとともに提示されるかを問わず、記載された成分またはステップを包含すると理解され得、(iv)用語「約」及び「およそ」は、当業者に理解されるように、標準的な変動を認めると理解され得、(v)範囲が提供される場合は、終点も含まれる。
【0031】
本明細書にその構造が示される1種または複数の化学化合物は、1種または複数の異性体形態(例えば、エナンチオマー形態、ジアステレオマー形態及び幾何的形態(もしくは配座形態))及び/または互変異性形態、例えば、各不斉中心に対するR及びS配置、Z及びE二重結合異性体ならびにZ及びE配座異性体を有し得ることを当業者は理解するであろう。いくつかの実施形態では、本明細書に含まれる教示は、ありとあらゆるそのような形態に適用することができ、及び/またはありとあらゆるそのような形態を包含することができる。したがって、別段の記載がない限り、本発明の化合物の単一の立体化学的異性体ならびにエナンチオマー、ジアステレオマー及び幾何的(または配座)混合物は、すべて本発明の範囲内であり得る。同様に、別段の記載がない限り、本発明の化合物のすべての互変異性型も本発明の範囲内である。さらに、いくつかの実施形態では、本明細書に示される化学構造は、1つまたは複数の同位体標識原子の存在のみが異なる化合物を包含できることを当業者は理解するであろう。例えば、ジュウテリウムもしくはトリチウムによる水素の置換または13Cもしくは14C標識炭素による炭素の置換を除いて示されるものとその構造が同一の化合物は本発明の範囲内である。ある種の実施形態では、そのような化合物は、例えば、分析用ツールとして、生物学的アッセイにおけるプローブとして、及び/または本発明による治療剤として有用であり得る。
【0032】
アゴニスト:本明細書で使用する場合、用語「アゴニスト」は、その存在、レベル、程度、タイプまたは形態が別の薬剤(すなわち、アゴナイズされる薬剤)のレベルまたは活性の増大と相関する薬剤、状態または事象を指すのに使用することができる。一般に、アゴニストは、適切な活性化活性を示す、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、金属及び/または任意の他のエンティティを含めた、任意の化学クラスの薬剤でもよく、またはこれを含んでもよい。いくつかの実施形態では、アゴニストは直接的でもよく(この場合、アゴニストはその標的に対して直接的にその影響を及ぼす)、いくつかの実施形態では、アゴニストは間接的でもよい(この場合、アゴニストはその標的への結合以外によって、例えば、標的の制御因子と相互作用することによってその影響を発揮し、その結果、標的のレベルまたは活性が変わる)。
【0033】
アゴニスト療法:本明細書で使用する場合、用語「アゴニスト療法」は、所望の治療効果を達成するように目的の特定の標的をアゴナイズするアゴニストの投与を指す。いくつかの実施形態では、アゴニスト療法は、単回用量のアゴニストを投与することを含む。いくつかの実施形態では、アゴニスト療法は、複数回用量のアゴニストを投与することを含む。いくつかの実施形態では、アゴニスト療法は、治療効果を達成することが既知であるか期待される投薬レジメンに従ってアゴニストを投与することを含み、例えば、これは、そのような結果が、例えば適切な集団への投与によって、指定された程度の統計的信頼性まで確立されているからである。
【0034】
アンタゴニスト:本明細書で使用する場合、用語「アンタゴニスト」は、その存在、レベル、程度、タイプまたは形態が別の薬剤(例えば、阻害される薬剤または標的)のレベルまたは活性の低下と相関する薬剤、状態または事象を指すのに使用することができる。一般に、アンタゴニストは、適切な阻害活性を示す、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、金属及び/または任意の他のエンティティを含めた、任意の化学クラスの薬剤でもよく、またはこれを含んでもよい。いくつかの実施形態では、アンタゴニストは直接的でもよく(この場合、アンタゴニストはその標的に対して直接的にその影響を及ぼす)、いくつかの実施形態では、アンタゴニストは間接的でもよい(この場合、アンタゴニストはその標的への結合以外によって、例えば、標的の制御因子と相互作用することによって、その影響を発揮し、その結果、標的のレベルまたは活性が変わる)。
【0035】
およそ:本明細書で使用する場合、用語「およそ」または「約」は、1つまたは複数の目的の値に適用される場合、記載された参照値と類似している値を指す。ある種の実施形態では、用語「およそ」または「約」は、別段の記載がない限り、または文脈から明らかでない限り、(そのような数が可能な値の100%を超えると思われる場合を除いて)、記載された参照値のいずれかの方向(より大きい、またはより小さい)において、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%またはそれ以下の範囲に入る値の範囲を指す。
【0036】
急性前骨髄球性白血病:本明細書で使用する場合、用語「急性前骨髄球性白血病」または「APL」は、ヒト染色体15と17の間の遺伝子転座を特徴とする、急性骨髄性白血病(「AML」)のサブタイプを指す。したがって、用語「非APL AML」は、そのような遺伝子転座を特徴としない、AMLの任意のサブタイプを指す。
【0037】
生物試料:本明細書で使用する場合、用語「生物試料」は、本発明の方法によって治療される疾患を罹患する個体から得られる任意の試料を指し、これには、組織試料(例えば、組織切片及び組織の針生検)、細胞試料(例えば、細胞学的スミア(例えば、Papもしくは血液スミア)またはマイクロダイセクションによって得られた細胞の試料)、骨髄試料(全体、その完全な細胞画分もしくはその中の細胞の亜集団のいずれか)、あるいは細胞の画分、断片またはオルガネラ(例えば、細胞を溶解し、遠心分離などでそれらの成分を分離することによって得られる)が含まれる。生物試料の他の例としては、血液、血清、尿、精液、糞便物質、脳脊髄液、間質液、粘液、涙、汗、膿汁、生検組織(例えば、外科生検もしくは針生検によって得られる)、乳頭吸引液、乳汁、腟液、唾液、スワブ(例えば、口腔スワブ)または最初の生物試料に由来する生体分子を含む任意の物質が挙げられる。いくつかの態様では、非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来の生物試料は骨髄吸引液である。他の態様では、非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来の生物試料は分画した全血試料である。より特定の態様では、非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来の生物試料は、対象の全血由来のPBMC画分(「PBMC試料」)である。さらにより特定の態様では、非APL AMLまたはMDSを罹患する対象由来のPBMC試料は、様々な富化技法、例えば、抗体結合ビーズ富化プロトコール、蛍光標識細胞ソーティングまたは当技術分野で既知の他の技法を使用して、特定の芽球についてさらに富化される(「富化PBMC試料」)。いくつかの実施形態では、文脈から明らかなように、用語「試料」は、一次試料を処理することによって、(例えば、1種または複数の成分を除去することによって、及び/または1種もしくは複数の薬剤を加えることによって)得られる調製物を指す。そのような「処理された試料」は、試料から抽出された、または一次試料をmRNAの増幅もしくは逆転写、ある種の成分の単離及び/または精製などのような技法にかけることによって得られた、例えば核酸またはタンパク質を含むことができる。
【0038】
バイオマーカー:本明細書で使用する場合、用語「バイオマーカー」は、その存在、レベルまたは形態が目的の特定の生物学的事象または状況と相関し、その結果、その事象または状況の「マーカー」であるとみなされるエンティティを指す。数例を挙げると、いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、特定の病態もしくはステージに対する、または特定の疾患、障害もしくは状態が発生し得る可能性に対するマーカーでもよいし、これを含んでもよい。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、特定の疾患もしくは治療の転帰またはそれらの可能性に対するマーカーでもよいし、これを含んでもよい。したがって、いくつかの実施形態では、バイオマーカーは予測的であり、いくつかの実施形態では、バイオマーカーは予後的であり、いくつかの実施形態では、バイオマーカーは関連する目的の生物学的事象または状況について診断的である。バイオマーカーは、任意の化学クラスのエンティティでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、核酸、ポリペプチド、脂質、炭水化物、小分子、無機剤(例えば、金属もしくはイオン)またはそれらの組み合わせでもよいし、これを含んでもよい。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは細胞表面マーカーである。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは細胞内にある。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは細胞の外部に見出される(例えば、細胞の外側、例えば、血液、尿、涙、唾液、脳脊髄液などの体液中に分泌され、またはそうでなければこうした場所で生成され、またはこうした場所に存在する)。いくつかの実施形態では、この用語は、特定の腫瘍、腫瘍サブクラス、腫瘍のステージなどに特徴的な遺伝子発現産物を指す。あるいはまたはさらに、いくつかの実施形態では、特定のマーカーの存在またはレベルは、例えば、腫瘍の特定のクラスに特徴的であり得る、特定のシグナリング経路の活性(または活性レベル)と相関する。バイオマーカーの有無の統計的有意性は、特定のバイオマーカーによって変動し得る。いくつかの実施形態では、バイオマーカーの検出は、これが、腫瘍が特定のサブクラスのものであるという高い確率を反映するという点において非常に特異的である。そのような特異性は、感度を犠牲にして生じ得る(例えば、腫瘍がバイオマーカーを発現することが期待されるであろう腫瘍であったとしても、「陰性の」結果が生じ得る)。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、IRF8バイオマーカー(例えば、IRF8スーパーエンハンサーの強度、順位ランクまたは保有率ランク及びIRF8 mRNAレベルまたは保有率ランクなどを含めた、1種または複数のIRF8遺伝子の成分または産物の存在、レベル、形態及び/または活性)でもよいし、これを含んでもよい。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、RARAバイオマーカー(例えば、1種または複数のRARAバイオマーカー(例えば、RARAスーパーエンハンサーの強度、順位ランクまたは保有率ランク及びRARA mRNAレベルまたは保有率ランクなどを含めた、1種または複数のRARA遺伝子成分または産物の存在、レベル、形態及び/または活性)を含み得る。いくつかの実施形態では、バイオマーカーは、1種または複数のバイオマーカー、例えばIRF8及びRARAの組み合わせを指す。
【0039】
がん:本明細書で使用する場合、用語「がん」は悪性の新生物または腫瘍を指す(Stedman’s Medical Dictionary,25th ed.;Hensly ed.;Williams & Wilkins:Philadelphia,1990)。用語「新生物」及び「腫瘍」は本明細書で互換的に使用され、組織の異常な塊であって、その塊の増殖が正常な組織の増殖を上回り、正常な組織の増殖と調和しない塊を指す。「悪性の新生物」は、一般に、分化が不十分(退形成)であり、周辺組織の進行性の浸潤、侵襲及び破壊をともなう、特徴的に急速な増殖を有する。さらに、悪性の新生物は、一般に、遠位部位に転移する能力を有する。いくつかの実施形態では、がんは、IRF8バイオマーカーがタミバロテンなどのRARAアゴニストに対する応答性と相関する任意の悪性の新生物または腫瘍である。いくつかの実施形態では、がんは急性骨髄性白血病(AML)である。いくつかの実施形態では、がんは非APL AMLである。
【0040】
組み合わせ療法:本明細書で使用する場合、用語「組み合わせ療法」は、対象が2種以上の治療レジメン(例えば、2種以上の治療剤)に同時に曝露される状況を指す。いくつかの実施形態では、2種以上の薬剤は同時に投与され得、いくつかの実施形態では、そのような薬剤は連続して投与され得、いくつかの実施形態では、そのような薬剤は重複投薬レジメンで投与される。いくつかの実施形態では、組み合わせ療法の「投与」は、組み合わせにおいて他の薬剤を受けている対象への1種または複数の薬剤の投与を含み得る。明確にするために、いくつかの実施形態では、2種以上の活性薬剤、エンティティまたは部分が、組み合わせ組成物中で、またはさらに組み合わせ化合物中で(例えば、単一化学複合体または共有結合性エンティティの一部として)一緒に投与され得るが、組み合わせ療法は、個々の薬剤が単一組成物中で一緒に(または、必ずしも同時に)投与されることを必要としない。
【0041】
カットオフ値:本明細書で使用する場合、用語「カットオフ」及び「カットオフ値」は、集団の2つのサブセット(例えば、レスポンダーと非レスポンダー)の間の境界線を規定するアッセイで測定される値を意味する。したがって、カットオフ値以上の値は、集団の一方のサブセットを規定し、カットオフ値より低い値は集団の他方のサブセットを規定する。
【0042】
診断情報:本明細書で使用する場合、「診断情報」または「診断で使用するための情報」は、患者が疾患、障害もしくは状態を有するかどうかを決定するのに、及び/または疾患、障害もしくは状態を、疾患、障害もしくは状態の予後もしくは疾患、障害もしくは状態の治療(一般的な治療もしくは任意の特定の治療のいずれか)に対する応答の可能性に関して有意性を有する表現型カテゴリーもしくは任意のカテゴリーに分類するのに有用な情報である。同様に、「診断」は、限定されないが、対象が疾患、障害もしくは状態を有する、もしくはこれらを発生する可能性があるかどうか、対象に顕在化した場合の疾患、障害もしくは状態の状況、ステージ分類もしくは特徴、腫瘍の性質もしくは分類に関する情報、予後に関する情報、及び/または適切な治療を選択するのに有用な情報を含めた、任意のタイプの診断情報を提供することを指す。治療の選択は、特定の治療剤または他の治療様式、例えば、手術、放射線照射などの選択、療法を保留するか実行するかどうかについての選択、投薬レジメン(例えば、1または複数の用量の特定の治療剤または治療剤の組み合わせの頻度またはレベル)に関する選択などを含むことができる。
【0043】
剤形または単位剤形:用語「剤形」は、対象への投与のための活性薬剤(例えば、治療剤または診断剤)の物理的に分離した単位を指すのに使用することができることを当業者は理解するであろう。典型的には、そのような単位のそれぞれは、所定量の活性薬剤を含む。いくつかの実施形態では、そのような量は、適切な集団に投与される場合に所望のまたは有利な転帰と相関するように決定された投薬レジメン(すなわち、治療的投薬レジメン)に従った投与に適している単位投薬量(または、その全部分)である。特定の対象に投与される治療用組成物または薬剤の総量は、1人または複数の主治医によって決定され、複数の剤形の投与を含むことができることを当業者は認識している。
【0044】
投薬レジメン:用語「投薬レジメン」は、典型的には期間で分離された、対象に個々に投与される一連の単位用量(典型的には1より多い)を指すのに使用できることを当業者は理解するであろう。いくつかの実施形態では、所与の治療剤は推奨される投薬レジメンを有し、これは、1つまたは複数の用量を含むことができる。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、それぞれが他の用量から時間的に分離されている、複数の用量を含む。いくつかの実施形態では、個々の用量は同じ長さの期間で互いに分離されており、いくつかの実施形態では、投薬レジメンは複数の用量及び個々の用量を分離する少なくとも2つの異なる期間を含む。いくつかの実施形態では、投薬レジメン内のすべての用量は同じ単位投与量である。いくつかの実施形態では、投薬レジメン内の異なる用量は異なる量のものである。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、第1の投与量における第1の用量、それに続く、第1の投与量と異なる、第2投与量における1つまたは複数のさらなる用量を含む。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、第1の投与量における第1の用量、それに続く、第1の投与量と同じ、第2の投与量における1つまたは複数のさらなる用量を含む。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、適切な集団全体にわたって投与される場合に所望のまたは有利な転帰と相関する(すなわち、治療的投薬レジメンである)。
【0045】
有効量:本明細書で使用する場合、本明細書に記載の化合物の、例えば式(I)の「有効量」は、所望の生物学的応答、すなわち状態の治療を誘発するのに十分である量を指す。当業者に認識されるように、本明細書に記載の化合物の、例えば式(I)の有効量は、所望の生物学的なエンドポイント、化合物の薬物動態、治療を受ける状態、投与様式ならびに対象の年齢及び健康状態のような因子によって変動し得る。有効量は、治療的及び予防的処置を包含する。例えば、がんの治療において、有効量の発明化合物は、腫瘍量を低減させるまたは腫瘍の増殖もしくは拡散を停止させることができる。
【0046】
エンハンサー:本明細書で使用する場合、用語「エンハンサー」は、最大1Mbp離れた遺伝子を調節するように作用するゲノムDNA領域を指す。エンハンサーは重複し得るが、遺伝子コード領域から構成されないことが多い。エンハンサーは多くの場合転写因子が結合し、特異的なヒストンマークで示される。
【0047】
水和物:本明細書で使用する場合、用語「水和物」は水と結合した化合物を指す。典型的には、化合物の水和物に含まれる水分子の数は、水和物中の化合物分子の数に対して一定の比で存在する。したがって、化合物の水和物は、例えば、一般式R・x HOで表すことができ、式中、Rは化合物であり、xは0より大きい数である。所与の化合物が、例えば、一水和物(xは1である)、低水和物(xは0より大きく、1より小さい数であり、例えば、半水和物(R・0.5HO))ならびに多水和物(xは1より大きい数であり、例えば、二水和物(R・2HO及び六水和物(R・6HO))を含めた、1つのタイプより多くの水和物を形成することができる。
【0048】
IRF8遺伝子:本明細書で使用する場合、用語「IRF8遺伝子」は、インターフェロンコンセンサス配列結合タンパク質またはそのスプライスバリアントをコードするゲノムDNA配列を指し、IRF8遺伝子のすべてまたは一部を含む遺伝子融合物を特に除外する。いくつかの実施形態では、IRF8遺伝子はゲノムビルドhg19のchr16:85862582~85990086に位置する。
【0049】
「向上する」、「増大する」または「低減する」:本明細書で使用する場合、これらまたはこれらの文法的等価物は、参照測定値、例えば、本明細書に記載の治療の開始前の同じ個体における測定値または本明細書に記載の治療がない対照個体(もしくは複数の対照個体)における測定値と比較した値を示す。いくつかの実施形態では、「対照個体」は、治療を受ける個体と同じ形態の疾患または損傷に罹患している個体である。
【0050】
伝令RNA転写産物:本明細書で使用する場合、用語「伝令RNA転写産物」またはmRNAは、遺伝子コード領域の1つまたは複数を含むDNA配列由来のRNA転写産物を指す。
【0051】
順位ランク:本明細書で使用する場合、指定の値の「順位ランク」という用語は、一連の他の値と比較したその値の順位序列を意味する。例えば、試験細胞における他のスーパーエンハンサーと比較した場合の、試験細胞におけるRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度に関して、100という順位ランクは、試験細胞における99の他のスーパーエンハンサーが、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーより大きな強度を有していたことを意味する。
【0052】
患者:本明細書で使用する場合、用語「患者」または「対象」は、例えば、実験、診断、予防、美容、及び/または治療目的のために、提供される組成物が投与される、または投与され得る、任意の生物を指す。典型的な患者としては、動物(例えば哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類及び/またはヒト)が挙げられる。いくつかの実施形態では、患者はヒトである。ヒトは出生前及び出生後の形態を含む。いくつかの実施形態では、患者は1つまたは複数の障害または状態を罹患しているか、これらに罹りやすい。いくつかの実施形態では、患者は、障害または状態の1つまたは複数の症状を示す。いくつかの実施形態では、患者は1つまたは複数の障害または状態と診断されている。
【0053】
医薬的に許容可能な塩:本明細書で使用する場合、用語「医薬的に許容可能な塩」は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などをともなわずに、ヒト及び下等動物の組織と接触させて使用するのに適し、且つ妥当な利益/危険比に見合う塩を指す。医薬的に許容可能な塩は当技術分野で周知である。例えば、Berge et al.は、参照により本明細書に組み込むJ.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1-19で、医薬的に許容可能な塩を詳細に記載している。本発明の化合物の医薬的に許容可能な塩としては、適切な無機及び有機酸ならびに塩基に由来するものが挙げられる。医薬的に許容可能な無毒の酸付加塩の例は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸及び過塩素酸を用いて、または有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸もしくはマロン酸を用いて、またはイオン交換などの当技術分野で既知の他の方法を使用することによって、形成されるアミノ基の塩である。他の医薬的に許容可能な塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、MALAT1e、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。適切な塩基に由来する塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、及びN(Cアルキル)塩が挙げられる。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。さらなる医薬的に許容可能な塩としては、適切な場合、ハライド、ヒドロキシド、カルボン酸、硫酸、リン酸、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸及びアリールスルホン酸などの対イオンを使用して形成される無毒のアンモニウム、四級アンモニウム及びアミンカチオンが挙げられる。
【0054】
集団:本明細書で使用する場合、用語「集団」または「試料の集団」は、より大きな群で測定される値の分布を適度に反映する、異なる試料の十分な数(例えば、少なくとも30、40、50またはそれ以上)を意味する。試料の集団における各試料は、細胞株、生物から得られる生物試料(例えば、生検もしくは体液試料)または異種移植片から得られる試料(例えば、細胞株または患者試料を移植することによってマウスで増殖させた腫瘍)でもよく、ここでは、各試料は、同じ疾患、状態もしくは障害を罹患する生物由来、または同じ疾患、状態もしくは障害を示す細胞株もしくは異種移植片由来である。
【0055】
保有率カットオフ:本明細書で使用する場合、指定の値(例えば、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度)に関する用語「保有率カットオフ」は、集団の2つのサブセット(例えば、レスポンダーと非レスポンダー)の間の境界線を規定する保有率ランクを意味する。したがって、保有率カットオフ以上(例えば、より低いパーセンテージ値)の保有率ランクは集団の一方のサブセットを規定し、保有率カットオフよりも低い(例えば、より高いパーセンテージ値)保有率ランクは集団の他方のサブセットを規定する。
【0056】
保有率ランク:本明細書で使用する場合、指定の値(例えば、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度)に関する用語「保有率ランク」は、特定の値以上の集団のパーセンテージを意味する。例えば、試験細胞におけるIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度について35%の保有率ランクは、集団の35%が試験細胞以上の強度を有するIRF8遺伝子エンハンサーを有することを意味する。
【0057】
予後的及び予測的情報:本明細書で使用する場合、用語「予後的情報」及び「予測的情報」は、治療の非存在下または存在下のいずれかにおける疾患または状態の過程の任意の態様を示すのに使用することができる、任意の情報を指すのに使用される。そのような情報としては、限定はされないが、患者の平均余命、患者が所与の時間(例えば、6か月、1年、5年など)にわたって生存するであろう可能性、患者が疾患から治癒するであろう可能性、患者の疾患が特定の療法に応答するであろう可能性(ここでは、様々な方法のうちのいずれかで応答を定義することができる)を挙げることができる。予後的及び予測的情報は、診断情報の広範なカテゴリー内に含まれる。
【0058】
順位序列化:本明細書で使用する場合、用語「順位序列化」は、最高から最低または最低から最高への値の順位付けを意味する。
【0059】
RARA遺伝子:本明細書で使用する場合、用語「RARA遺伝子」は、機能的なレチノイン酸受容体-α遺伝子をコードするゲノムDNA配列を指し、RARA遺伝子のすべてまたは一部を含む遺伝子融合物を特に除外する。いくつかの実施形態では、RARA遺伝子は、ゲノムビルドhg19のchr17:38458152~38516681に位置する。
【0060】
参照:本明細書で使用する場合、これは、比較が行われる標準または対照を説明する。例えば、いくつかの実施形態では、目的の薬剤、動物、個体、集団、試料、配列または値が、参照または対照の薬剤、動物、個体、集団、試料、配列または値と比較される。いくつかの実施形態では、参照または対照は、目的の試験または決定と実質的に同時に試験及び/または決定される。いくつかの実施形態では、参照または対照は履歴的な参照または対照であり、場合により、有形的表現媒体で具体化される。典型的には、当業者に理解されるように、参照または対照は評価中のものと同等の条件または状況下で決定され、または特徴づけられる。当業者は、十分な類似性が存在する場合に、特定のあり得る参照または対照への依存及び/または比較を正当化することを理解するであろう。
【0061】
応答:本明細書で使用する場合、治療への応答は、治療の結果として生じるまたは治療と相関する、対象の状態の任意の有利な変化を指すことができる。そのような変化は、状態の安定化(例えば、治療がない場合に起こったであろう悪化の防止)、状態の1つもしくは複数の症状の改善、状態の1つもしくは複数の症状の発症の遅延及び/または状態の1つもしくは複数の症状の頻度の低減、及び/または状態の治癒の見通しの向上などを含むことができる。ある場合には、応答は対象の応答でもよく、ある場合には、応答は腫瘍の応答でもよい。
【0062】
溶媒和化合物:本明細書で使用する場合、用語「溶媒和化合物」は、通常加溶媒分解反応によって溶媒と結びついた化合物の形態を指す。この物理的な会合は水素結合を含み得る。従来の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸、DMSO、THF、ジエチルエーテルなどが挙げられる。本明細書に記載の化合物、例えば式(I)のものは、例えば結晶形態で調製することができ、溶媒和することができる。適切な溶媒和化合物としては医薬的に許容可能な溶媒和化合物があげられ、さらに、化学量論的溶媒和化合物と非化学量論的溶媒和化合物の両方が挙げられる。特定の場合では、例えば、1つまたは複数の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子に組み込まれている場合、溶媒和化合物を単離することができる。「溶媒和化合物」は、溶液相及び単離可能な溶媒和化合物の両方を包含する。代表的な溶媒和化合物としては、水和物、エタノール和物及びメタノール和物が挙げられる。
【0063】
強度:本明細書で使用する場合、エンハンサーまたはスーパーエンハンサーの部分について言及する場合の用語「強度」は、解析されるゲノムDNAセグメントの長さに対してプロットされた、H3K27Acまたは他のゲノムマーカーのリード数の曲線下面積を、本明細書で使用する場合に意味する。したがって、「強度」は、測定のために選択される領域を規定する塩基対のスパンにわたって所与の塩基対におけるマークを測定することによって生じるシグナルの積分である。
【0064】
対象:本明細書で使用する場合、投与が企図される「対象」は、ヒト(例えば、任意の年齢群の男性または女性、例えば、小児対象(例えば、乳児、児童、青年)または成人対象(例えば、若年成人、中年成人または高齢成人)である。
【0065】
スーパーエンハンサー:本明細書で使用する場合、用語「スーパーエンハンサー」は、特定の細胞における他のエンハンサーに対する、ヒストンマーク及び/または転写タンパク質の不均衡な割り当て(share)を含む、エンハンサーのサブセットを指す。このため、スーパーエンハンサーによって調節される遺伝子は、その細胞の機能に対して重要性が高いと予想される。スーパーエンハンサーは、典型的には、強度に基づいて細胞中のエンハンサーのすべてを順位序列化すること、及びROSE(https://bitbucket.org/young_computation/rose)などの利用可能なソフトウェアを使用して、細胞において中位のエンハンサーよりも有意に高い強度を有するエンハンサーのサブセットを決定することによって、決定される。(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,181,580号を参照されたい)。
【0066】
閾値:本明細書で使用する場合、用語「閾値」及び「閾値レベル」は、集団の2つのサブセット(例えば、レスポンダーと非レスポンダー)の間の境界線を定めるレベルを意味する。閾値または閾値レベルは、保有率カットオフまたはカットオフ値でもよい。
【0067】
治療:本明細書で使用する場合、用語「治療」、「治療する」及び「治療すること」は、本明細書に記載の「病態」(例えば、疾患、障害もしくは状態またはそれらの1つもしくは複数の徴候または症状)を回復させる、それを緩和する、その発症を遅延させる、またはその進行を阻害することを指す。いくつかの実施形態では、「治療」、「治療する」及び「治療すること」は、疾患、障害または状態の徴候または症状が発生していること、または観察されていることを必要とする。他の実施形態では、治療は、(例えば、症状の履歴を考慮して及び/または遺伝的もしくは他の感受性因子を考慮して)、疾患または状態の徴候または症状の非存在下で施すことができる。治療は、例えば再発を遅延させるまたは防止するために、症状が消散した後に続けることもできる。
【0068】
本明細書で使用する場合、用語「状態」、「疾患」及び「障害」は互換的に使用される。
[発明を実施するための形態]
【0069】
RARA及びIRF8
レチノイン酸受容体サブタイプアルファ(RARA)は、アンタゴニストが結合していない、または結合している場合に転写レプレッサーとして作用し、アゴニスト結合状況で遺伝子アクチベーターとして作用する、核内ホルモン受容体である。RARAの天然リガンドはオールトランスレチノイン酸(ATRA)としても知られるレチノイン酸であり、これは、ビタミンAから生成される。
【0070】
スーパーエンハンサー(SE)は、悪性細胞におけるがん遺伝子を含めた重要な細胞同一性遺伝子を調節する、大きな高活性のクロマチン領域である。遺伝子制御プラットフォームを使用して、本発明者らは、新規な腫瘍脆弱性の発見を可能にするために、60個の一次AML患者試料においてゲノムワイドでSEを特定した。患者試料間で差示的存在を示すSEのうちの1つは、RARAをコードするRARA遺伝子と関係があった。
【0071】
研究によって、タミバロテン応答性とRARAスーパーエンハンサーの強度及びmRNAレベルのいずれかまたは両方との優れた相関が示された。しかし、これらの潜在的なRARAバイオマーカーのそれぞれについて、タミバロテン応答性が混在するミドルレンジが存在した。本開示は、そのような不確かな応答結果を解決するのに役立つ洞察及び技術を提供し、タミバロテン療法に対してあり得る応答性に基づいて、数ある中でも、患者を特徴づける、特定する、選択するまたは層別化することに有用な様々な組成物及び方法を提供する。例えば、本開示は、1種または複数のIRF8バイオマーカー(例えば、IRF8スーパーエンハンサーの強度、順位ランク、保有率ランクまたはIRF8 mRNAレベルなどを含めた、1種または複数のIRF8遺伝子の成分または産物の存在、レベル、形態及び/または活性)を具体化する、規定する及び/または利用する技術を提供し、がん療法におけるそれらの有用性を示す。
【0072】
RARAエンハンサーの強度及び順位、RARA mRNAレベルならびにタミバロテンに対する応答性について以前に解析した様々なAML細胞株及び患者試料を使用して、本発明者らは、タミバロテンに対する応答性と相関すると思われるさらなるバイオマーカーを探した。インターフェロン応答因子8(IRF8)のmRNAレベルが、RARAと同様の患者集団でアップレギュレートされることが分かった。IRF8は血球新生に重要なであると知られているインターフェロン応答性転写因子であり、そのシグナリングの喪失は、未成熟骨髄系細胞の異常な増殖を引き起こす。AMLでは、IRF8の過剰発現が観察され、不十分な臨床転帰と相関し得る。このアップレギュレーションにもかかわらず、IRF8シグナリングは、これがSEによって引き起こされる抑制状況にある場合、抑制的転写補助因子及び潜在的にRARAによって実際に損なわれる。さらに、インターフェロン-αそれ自体が、IRFに対する上流シグナリングのリガンドであり、AMLにおける分化促進効果及びRARA経路とのシグナリングクロストークを示す。
【0073】
本開示は、IRF8遺伝子エンハンサー強度とIRF8 mRNAレベルとタミバロテンに対する感度の相関を調べるための、AML患者の腫瘍試料及び細胞株のパネルのゲノムワイドな発現及びエンハンサーレベル解析を記載する。AML細胞株のパネルは、以前にRARAアゴニストのタミバロテンの抗増殖効果に対するその感度とRARAエンハンサー強度及びRARA mRNAレベルの両方との間の相関について試験され、これらの間に相関があることが示された。本出願では、本発明者らは、IRF8 mRNAレベルが、上昇したRARA mRNAレベルを有するAML細胞株及びAML患者試料においても上昇していること、及びIRF8 mRNAレベルとRARAアゴニスト、例えばタミバロテンに対する応答性との間に相関があることを示す。本発明者らは、IRF8エンハンサー強度(例えば、IRF8と関連するスーパーエンハンサーの存在)、IRF8 mRNAレベル、RARA mRNAレベル及びタミバロテンに対する応答性の間に相関があることも示す。したがって、RARAアゴニスト、例えばタミバロテンによる治療に応答性であろう患者を特定するために、IRF8エンハンサー強度またはIRF8 mRNAレベルを、単独で、またはRARAエンハンサーの強度もしくはRARA mRNAレベルと併せて使用することができる。
【0074】
IRF8及びRARAスーパーエンハンサーの特定及び閾値レベルの決定
エンハンサーまたはスーパーエンハンサーの特定は、当技術分野で既知の様々な方法によって、例えば、Cell 2013,155,934-947及びPCT/US2013/066957(これらの両方は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように達成することができる。いくつかの実施形態では、スーパーエンハンサーの特定は、患者のがん試料から(例えば、生検から)細胞性物質及びDNAを得ることによって達成される。エンハンサー測定に関する重要な測定基準は、2つの次元、すなわち、ゲノムマーカー(例えば、H3K27Ac)が隣接して検出されるDNAの長さ、及び規模を構成するDNAのスパンに沿った各塩基対におけるゲノムマーカーのコンパイルされた発生率に生じる。長さ及び規模の解析の積分によって生じる曲線下面積(「AUC」)の測定は、エンハンサーの強度を決定する。対象がRARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)に応答性であるかどうかを決定するために本発明の一態様で使用されるのは、対照と比較したIRF8またはRARAスーパーエンハンサーの強度である。本明細書を考慮すれば、ゲノムマーカーが検出されるDNAの長さがIRF8またはRARAと対照の両方について同じである場合、対照に対するIRF8またはRARAスーパーエンハンサーの規模の比は強度と等しく、これも対象がRARAアゴニストに対して応答性であるかどうかを決定するために使用できることが、当業者に容易に明らかになるであろう。いくつかの実施形態では、他の試料と比較する前に、細胞におけるIRF8またはRARAエンハンサーの強度が正規化される。正規化は、すべての細胞において同様のレベルで存在する遍在性のスーパーエンハンサーまたはエンハンサーを含むことが知られている同じ細胞内の領域に対して比較することによって達成される。そのような遍在性スーパーエンハンサー領域の一例は、MALATlスーパーエンハンサー遺伝子座(chr11:65263724~65266724)(ゲノムビルドhg19)である。
【0075】
H3K27Ac ChIP-seq方法によって、chr17:38458152~3851668l(ゲノムビルドhg19)にRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサー遺伝子座が存在すること、及びchr16:85862582~85990086(ゲノムビルドhg19)にIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサー遺伝子座が存在することが決定された。
【0076】
ChIP-seqとしても知られるChIP-シークエンシングは、DNAとのタンパク質相互作用を解析するのに使用される。ChIP-seqは、DNA結合タンパク質の結合部位を特定するために、クロマチン免疫沈降(ChIP)を超並列DNAシークエンシングと組み合わせる。これは、目的の任意のタンパク質について、全体的な結合部位を正確にマップするのに使用することができる。以前は、ChIP-on-ChIPが、こうしたタンパク質-DNA関係を研究するのに利用される、最も一般的な技法であった。好結果のChIP-seqは、超音波処理の強度及び方法、バッファー組成、抗体の質、ならびに細胞数を含めた多くの因子に左右される。例えば、T.Furey,Nature Reviews Genetics 13,840-852(December 2012)、M.L.Metzker,Nature Reviews Genetics
11,31-46(January 2010)、及びP.J Park,Nature Reviews Genetics 10,669-680(October 2009))を参照されたい。ChIP-seqを使用してスーパーエンハンサーを特定するために使用することができるH3K27Ac以外のゲノムマーカーとしては、P300、CBP、BRD2、BRD3、BRD4、メディエーター複合体の成分(J Loven,et al.,Cell,153(2):320-334,2013)、ヒストン3リジン4モノメチル化(H3K4mel)または他の組織特異的エンハンサー結合転写因子(E Smith & A Shilatifard,Nat Struct Mol Biol,21(3):210-219,2014)(S Pott & Jason Lieb,Nature Genetics,47(1):8-12,2015)が挙げられる。
【0077】
いくつかの実施形態では、細胞株または患者試料のゲノム全体のH3K27Acまたは他のマーカーのChIP-seqデータのスーパーエンハンサーマップが既に存在する。いくつかの実施形態では、chr17:38458152~38516681(ゲノムビルドhg19)遺伝子座でのそのようなマップにおけるエンハンサーまたはスーパーエンハンサーの強度または順位ランクが所定の閾値レベル以上であったかどうかを単に決定する。いくつかの実施形態では、chr16:85862582~85990086(ゲノムビルドhg19)遺伝子座でのそのようなマップにおけるエンハンサーまたはスーパーエンハンサーの強度または順位ランクが所定の閾値レベル以上であったかどうかを単に決定する。
【0078】
IRF8、RARA及びMALAT1の特定の染色体位置は、異なるゲノムビルド及び/または異なる細胞型によって異なり得ることを理解されたい。しかし、当業者は、本明細書を考慮すれば、ゲノムビルドhg19のRARA及び/またはMALAT1遺伝子座に対応する特定の配列を、そのような他のゲノムビルド中に位置づけることによって、そのような異なる位置を決定することができる。
【0079】
スーパーエンハンサーを特定するための他の方法としては、クロマチン免疫沈降法(JE Delmore,et al.,Cell,146(6)904-917,2011)及びchipアレイ(Chip-chip)ならびにクロマチン免疫沈降とその後に続くqPCR(同じ免疫沈降したゲノムマーカー及びchr17:38458152~38516681(ゲノムビルドhg19)RARA遺伝子座またはchr16:85862582~85990086(ゲノムビルドhg19)IRF8遺伝子座ハイブリダイズするオリゴヌクレオチド配列を使用する)(Chip-qPCR)が挙げられる。Chip-chipの場合には、他のアレイベースの技術と同様に、シグナルは、典型的には、プローブと投入アッセイ試料のハイブリダイゼーションによって生じる蛍光の強度で検出される。Chip-qPCRについては、PCR反応で生成された二本鎖DNAにインターカレートした後にだけ蛍光性になる色素を使用して、鋳型の増幅を測定する。
【0080】
いくつかの実施形態では、必要な閾値レベル以上であるIRF8スーパーエンハンサー強度を細胞が有するかどうかの決定は、試験細胞におけるIRF8エンハンサー強度を細胞試料の集団における対応するIRF8強度と比較することによって達成され、ここでは、細胞試料のそれぞれは、治療される同じ疾患を反映する異なる供給源(例えば、異なる対象、異なる細胞株、異なる異種移植片)から得られる。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象由来の一次腫瘍細胞試料のみが閾値レベルを決定するために使用される。これらの実施形態のいくつかの態様では、集団における試料の少なくともいくつかは、a)その特定のRARAアゴニストに応答する集団における試料の最低のIRF8エンハンサー強度(「最低レスポンダー」)、及び場合により、b)特定のRARAアゴニストに応答しない集団における試料の最高のIRF8エンハンサー強度(「最高非レスポンダー」)を確立するために、特定のRARAアゴニストに対する応答性について試験されていることになる。これらの実施形態では、試験細胞がその特定のRARAアゴニストに応答性であるとみなされるであろうIRF8エンハンサー強度のカットオフは、i)集団における最低レスポンダーのIRF8エンハンサー強度に等しいか最大で5%上回るところ、またはii)集団における最高非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度に等しいか最大で5%上回るところ、またはiii)集団における最低レスポンダーと最高非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の間の値にセットされる。
【0081】
上記実施形態では、必ずしも集団のすべての試料がRARAアゴニストに対する応答性について試験されるとは限らないが、すべての試料がIRF8エンハンサー強度及び/またはIRF8 mRNAレベルについて測定されることを理解されたい。いくつかの実施形態では、試料はIRF8エンハンサー強度に基づいて順位序列化される。カットオフを確立するのに使用するために上記の3つの方法のどれを選択するかは、集団における最低レスポンダーと最高非レスポンダーの間のIRF8エンハンサー強度の差、及び目的が偽陽性の数を最小限にすることか、または潜在的に応答性の試料または対象を見逃す確率を最小限にすることかどうかに依存する。最低レスポンダーと最高非レスポンダーの間の差が大きい場合(例えば、IRF8エンハンサー強度の順位序列化において最低レスポンダーと最高非レスポンダーの間に入る、応答性について試験されていない多くの試料が存在する場合)、カットオフは、典型的には、集団における最低レスポンダーのIRF8エンハンサー強度に等しいか最大で5%上回るところにセットされる。このカットオフは、潜在的なレスポンダーの数を最大にする。この差が小さい場合(例えば、IRF8エンハンサー強度の順位序列化において、最低レスポンダーと最高非レスポンダーの間に入る応答性について未試験の試料がほとんどまたはまったくない場合)、カットオフは、典型的には、最低レスポンダーと最高非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の間の値にセットされる。このカットオフは、偽陽性の数を最小限にする。最高非レスポンダーが、最低レスポンダーより大きなIRF8エンハンサー強度を有する場合、カットオフは、典型的には、集団における最高非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度に等しいか最大で5%上回る値にセットされる。この方法も偽陽性の数を最小限にする。
【0082】
いくつかの実施形態では、細胞が必要な閾値レベル以上であるIRF8スーパーエンハンサーを有するかどうかの決定は、試験細胞におけるIRF8エンハンサー強度の順位を細胞試料の集団におけるIRF8エンハンサー強度の順位と比較することによって達成され、ここでは、細胞試料のそれぞれは、異なる供給源(例えば、異なる対象、異なる細胞株、異なる異種移植片から得られる。これらの実施形態では、集団における試料の少なくともいくつかは、a)その特定のRARAアゴニストに応答する集団における試料の最低のIRF8エンハンサー強度の順位(「最低順位レスポンダー」)、及び場合により、b)特定のRARAアゴニストに応答しない集団における試料の最高のIRF8エンハンサー強度の順位(「最高順位非レスポンダー」)を確立するために、特定のRARAアゴニストに対する応答性について試験されていることになる。これらの実施形態では、試験細胞がその特定のRARAアゴニストに応答性であるとみなされるであろうIRF8エンハンサー強度の順位のカットオフは、i)集団における最低順位レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の順位に等しいか最大で5%上回るところ、またはii)集団における最高順位非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の順位に等しいか最大で5%上回るところ、またはiii)集団における最低順位レスポンダーと最高順位非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の順位の間の値にセットされる。
【0083】
上記実施形態では、典型的には、集団の試料のすべてがRARAアゴニストに対する応答性について試験される必要はないが、すべての試料がIRF8エンハンサー強度について測定され、同じ試料中の他のエンハンサーと比較したIRF8エンハンサー強度の順位が確立されることを理解されたい。順位は、典型的には、細胞中のすべての他のエンハンサーの強度を測定し、IRF8エンハンサーが、他のエンハンサーと比較した場合に、強度に関してどんなランク(例えば、順位)を有するかを決定することによって得られる。
【0084】
いくつかの実施形態では、試料はIRF8エンハンサー強度の順位に基づいて順位序列化される。カットオフを確立するのに使用するために上記の3つの方法のどれを選択するかは、集団における最低順位レスポンダーと最高順位非レスポンダーの間のIRF8エンハンサー強度の順位の差、及びカットオフが偽陽性を最小限にするように設計されているか、またはレスポンダーの数を最大にするように設計されているかどうかに依存する。この差が大きい場合(例えば、IRF8エンハンサー強度の順位の順位序列化において最低順位レスポンダーと最高順位非レスポンダーの間に入る、応答性について試験されていない多くの試料が存在する場合)、カットオフは、典型的には、集団における最低順位レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の順位に等しいか最大で5%上回るところにセットされる。この差が小さい場合(例えば、IRF8エンハンサー強度の順位の順位序列化において最低順位レスポンダーと最高順位非レスポンダーの間に入る、応答性について未試験の試料がほとんどまたはまったくない場合)、カットオフは、典型的には、最低順位レスポンダーと最高順位非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の順位の間の値にセットされる。最高順位非レスポンダーが最低レスポンダーのものより大きなIRF8エンハンサー強度の順位を有する場合、カットオフは、典型的には、集団における最高順位非レスポンダーのIRF8エンハンサー強度の順位に等しいか最大で5%上回る値にセットされる。
【0085】
試験細胞または試料が集団と比較される場合のいくつかの実施形態では、集団について得られたカットオフ値(複数可)(例えば、IRF8エンハンサー強度またはIRF8エンハンサー順位)は保有率ランクに変換され、カットオフは、カットオフ値以上を有する集団のパーセント、例えば、保有率カットオフで表される。理論に拘束されないが、出願人等は、試験試料の保有率ランクは、IRF8エンハンサー強度を決定するために使用される方法体系にかかわらず、類似しているであろうと考える。したがって、1つのパラメーター(例えば、IRF8エンハンサー強度の順位)について決定された保有率カットオフはポータブルであり、別のパラメーター(例えば、IRF8 mRNAレベル)に適用して、他のそのパラメーターについて、カットオフ値を決定することができる。これによって、任意のパラメーターに関するカットオフ値の決定が、そのようなパラメーターのレベルとRARAアゴニストに対する応答性の間の相関を実験的に決定する必要がなく、可能になる。決定される必要があるのは、そのような他のパラメーターのどんなレベルが集団における先に決定した保有率カットオフに対応するかだけである。
【0086】
いくつかの実施形態では、上述した方法は、対象由来の病的な細胞IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有するかどうかを単に決定するために用いることができる。これらの実施形態では、IRF8関連スーパーエンハンサーの存在は、対象がRARAアゴニストに応答するであろうことを示す。これらの実施形態の一態様では、IRF8関連エンハンサーがMALAT-1と関連するエンハンサー以上である強度を有する場合、細胞はIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有すると決定される。これらの実施形態の代替の態様では、IRF8関連エンハンサーが細胞中のすべてのエンハンサーの中位の強度よりも少なくとも10倍大きい強度を有する場合、細胞はIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有すると決定される。これらの実施形態の他の代替の態様では、IRF8関連エンハンサーが、細胞におけるエンハンサーのそれぞれの強度の順位序列化グラフにおいて接線の傾きが1であるポイントを超える強度を有する場合、細胞はIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有すると決定される。
【0087】
いくつかの実施形態では、上述した方法は、対象由来の病的な細胞が、所定の閾値レベル以上である強度、順位ランクまたは保有率ランクを有するRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現するかどうかをさらに決定するために用いることができる。これらの実施形態のいくつかの態様では、a)病的な細胞が、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有すること(もしくは、そのようなスーパーエンハンサーが所定の閾値レベル以上である強度もしくは順位ランクを有すること、またはb)病的な細胞が、所定の閾値レベル以上である強度または順位ランクを有するRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有することのいずれかの決定は、対象がRARAアゴニストに応答するであろうことを示す。これらの実施形態の他の態様では、a)病的な細胞がIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有すること(または、そのようなスーパーエンハンサーが所定の閾値レベル以上である強度もしくは順位ランクを有すること、及びb)病的な細胞が、所定の閾値レベル以上である強度または順位ランクを有するRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを有することの決定は、対象がRARAアゴニストに応答するであろうことを示す。
【0088】
IRF8 mRNAレベルの決定
いくつかの実施形態では、RARAアゴニストに対する感度を決定するために、IFR8 mRNAレベルをスーパーエンハンサーの強度または順位ランクの代わりに使用することができる。IRF8 mRNAを定量化することができ、これは、その遺伝子座におけるスーパーエンハンサー強度と非常に相関する(図10)。本発明者らは、IRF8をコードするmRNA転写産物はRARAアゴニストに対する感度と相関すると判断し(図8)、したがって、いくつかの実施形態では、RARAアゴニストに応答するであろう細胞を特定するためにIRF8 mRNAレベルを使用することができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、1種または複数のバイオマーカー(例えば、転写産物レベルなどのエピジェネティックマーカー)の配列が評価される。いくつかの実施形態では、個々の遺伝子、より大きな遺伝子領域(例えば、遺伝子またはオペロンのクラスター)、全染色体またはゲノム全体の配列を決定するために、DNAシークエンシングを使用することができる。いくつかの実施形態では、RNAシークエンシングを使用することができる。個々の遺伝子、より大きな遺伝子領域(例えば、遺伝子またはオペロンのクラスター)、全染色体またはゲノム全体の配列を決定するために利用可能な様々な方法を、当業者は理解するであろう。いくつかの実施形態では、次世代シークエンシングを使用することができる。いくつかの実施形態では、全ゲノムの次世代シークエンシングを使用することができる。いくつかの実施形態では、転写産物のレベルを定量化するためにシークエンシングを利用することができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニストのレスポンダーを特定するために、同じアッセイを使用して、対象(例えば、腫瘍試料、がん細胞試料、血液試料など)におけるIRF8 mRNAレベルが、同じ疾患または状態を有する対象の集団におけるIRF8
mRNAレベルと比較される。これらの実施形態では、集団における試料の少なくともいくつかは、a)その特定のRARAアゴニストに応答する集団における試料の最低のIRF8 mRNAレベル(「最低mRNAレスポンダー」)、及び場合により、b)特定のRARAアゴニストに応答しない集団における試料の最高のIRF8 mRNAレベル(「最高mRNA非レスポンダー」)を確立するために、特定のRARAアゴニストに対する応答性について試験されていることになる。これらの実施形態では、試験細胞がその特定のRARAアゴニストに応答性であるとみなされるであろうIRF8 mRNAレベルのカットオフは、i)集団における最低mRNAレスポンダーのIRF8 mRNAレベルに等しいか最大で5%上回るところ、またはii)集団における最高mRNA非レスポンダーのIRF8 mRNAレベルに等しいか最大で5%上回るところ、またはiii)集団における最低mRNAレスポンダーと最高mRNA非レスポンダーのIRF8 mRNAレベルの間の値に設定される。
【0091】
いくつかの実施形態では、集団のすべての試料がRARAアゴニストに対する応答性について試験される必要はないが、すべての試料がIRF8 mRNAレベルについて測定される。いくつかの実施形態では、試料はIRF8 mRNAレベルに基づいて順位序列化される。カットオフを確立するのに使用するために上記の3つの方法のどれを選択するかは、集団における最低mRNAレスポンダーと最高mRNA非レスポンダーの間のIRF8 mRNAレベルの差、及びカットオフが偽陽性を最小限にするように設計されているか、またはレスポンダーの潜在的な数を最大にするように設計されているかどうかに依存する。この差が大きい場合(例えば、IRF8 mRNAレベルの順位序列化において最低mRNAレスポンダーと最高mRNA非レスポンダーの間に入る、応答性について試験されていない多くの試料が存在する場合)、カットオフは、典型的には、集団における最低mRNAレスポンダーのmRNAレベルに等しいか最大で5%上回るところにセットされる。この差が小さい場合(例えば、IRF8 mRNAレベルの順位序列化において最低mRNAレスポンダーと最高mRNA非レスポンダーの間に入る、応答性について未試験の試料がほとんどまたはまったくない場合)カットオフは、典型的には、最低mRNAレスポンダーと最高mRNA非レスポンダーのIRF8 mRNAレベルの間の値にセットされる。最高mRNA非レスポンダーが最低mRNAレスポンダーより大きいIRF8 mRNAレベルを有する場合、カットオフは、典型的には、集団における最高mRNA非レスポンダーのIRF8 mRNAレベルに等しいか最大で5%上回る値にセットされる。
【0092】
いくつかの実施形態では、集団はIRF8 mRNAレベルに基づいて順位序列化される。これらの実施形態では、IRF8 mRNAレベルの順位ランキングを得るために、各試料のIRF8 mRNAレベルが測定され、細胞中のすべての他のmRNAのmRNAレベルと比較される。次いで、IRF8スーパーエンハンサー強度の順位のカットオフの決定について以前に記載されているものと同じ方法で、RARAアゴニストに対する応答性について試験された集団の試料に基づいて、IRF8 mRNAの順位ランキングに基づくカットオフが決定される。次いで、決定されたIRF8 mRNA順位のカットオフが、直接的にまたは保有率カットオフを決定するために使用され、次いで、これらのいずれかが、RARAアゴニストに対する潜在的な応答性について、さらなる試料を層別化するのに使用される。
【0093】
いくつかの実施形態では、IRF8 mRNAレベルに対するカットオフは、上記のように、IRF8エンハンサー強度またはIRF8エンハンサー強度の順位に基づいて確立された保有率カットオフを使用して、決定される。これらの実施形態のいくつかの態様では、mRNAカットオフレベルを決定するために、集団がmRNAレベルについて測定され、先に決定した保有率カットオフがその集団に適用される。これらの実施形態のいくつかの態様では、IRF8 mRNAカットオフレベルを決定するために、集団におけるIRF8 mRNAレベルの順位序列検量線が作成され、所定の保有率カットオフがその検量線に適用される。
【0094】
試験細胞または試料が集団と比較される実施形態のいくつかの態様では、集団について得られたカットオフmRNAレベル値(複数可)は保有率ランクに変換され、mRNAレベルのカットオフは、カットオフ値以上を有する集団のパーセント、例えば、保有率カットオフとして表される。
【0095】
理論に拘束されないが、出願人等は、試験試料の保有率ランク及び集団の保有率カットオフは、IRF8 mRNAレベルを決定するために使用される方法体系にかかわらず、類似しているであろうと考える。
【0096】
これらの実施形態のいくつかの態様では、対象は、そのIRF8 mRNAレベルが、集団におけるIRF8 mRNAレベルによって決定した際に、約80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、43%、42%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%または20%の集団における保有率ランクに対応する場合に、RARAアゴニストレスポンダーとして特定される。いくつかの実施形態では、カットオフ値はIRF8エンハンサー強度について確立された保有率カットオフに基づいて確立される。いくつかの実施形態では、カットオフ値は、IRF8エンハンサー強度の順位について確立された保有率カットオフに基づいて確立される。いくつかの実施形態では、カットオフ値は、IRF8 mRNAレベルに基づいて確立される。いくつかの実施形態では、AML、非APL AMLまたはMDS患者に対するカットオフ値は、IRF8エンハンサー強度の順位について決定された保有率値に基づいて確立され、その保有率値はIRF8 mRNAレベルのカットオフ値を決定するために使用される。いくつかの実施形態では、AML、非APL AMLまたはMDS患者に対するカットオフ値は、約20~45%の間(例えば、約20~25%、25~30%、25~35%、25~40%、20~30%、20~35%、20~40%、20~45%、21~34%、22~34%、25~34%、21~25%、22~25%、23~25%、24~25%または21~22%の間)の保有率カットオフを使用して決定される。いくつかの実施形態では、AML、非APL AMLまたはMDS患者に対するカットオフ値は、34%の保有率値を使用して決定される。いくつかの実施形態では、AML、非APL AMLまたはMDS患者に対するカットオフ値は、25%の保有率値を使用して決定される。いくつかの実施形態では、AML、非APL AMLまたはMDS患者に対するカットオフ値は、22%の保有率値を使用して決定される。いくつかの実施形態では、AML、非APL AMLまたはMDS患者に対するカットオフ値は、21%の保有率値を使用して決定される。
【0097】
さらに他の実施形態では、集団を3つの群(レスポンダー、部分的レスポンダー及び非レスポンダー)に分けることができ、2つのカットオフ値または保有率カットオフが設定される。部分的レスポンダー群は、レスポンダー及び非レスポンダーならびにRARAアゴニストへの応答がレスポンダー群ほど高くなかった集団メンバーを含むことができる。これらの実施形態では、2つのカットオフ値または保有率カットオフが決定される。このタイプの層別化は、集団において、最高IRF8 mRNA非レスポンダーが最低RARA mRNAレスポンダーより大きいIRF8 mRNAレベルを有する場合に、特に有用であり得る。このシナリオでは、レスポンダーと部分的レスポンダーの間のカットオフレベルまたは保有率カットオフは、最高IRF8 mRNA非レスポンダーのIRF8 mRNAレベルに等しいか最大で5%上回るところに設定され、部分的レスポンダーと非レスポンダーの間のカットオフレベルまたは保有率カットオフは、最低IRF8 mRNAレスポンダーのIRF8 mRNAレベルに等しいかその最大5%未満に設定される。部分的レスポンダーがRARAアゴニストを投与されるべきかどうかの決定は、治療担当医師の判断及び/または規制当局による承認に依存する。
【0098】
細胞または生物試料の特定のRNA配列を定量化する方法は当技術分野で既知であり、限定されないが、アレイベースの技術であるNanoString Technologies(Affymetrix)により提供されるサービス及び製品で利用されるような蛍光ハイブリダイゼーション、SYBR(登録商標)Green(Life Technologies)もしくはTaqMan(登録商標)技術(Life Technologies)を用いるような逆転写酵素qPCR、RNAシークエンシング(例えば、RNA-seq)RNAscope(登録商標)(Advanced Cell Diagnostics)とともに利用されるようなRNAハイブリダイゼーション及びシグナル増幅またはノーザンブロットが挙げられる。
【0099】
これらの実施形態のいくつかの態様では、試験細胞と対照細胞の両方または集団のすべてのメンバーにおけるRNA転写産物(mRNAか別のRARAまたはIRF8転写産物のいずれか)のレベルが、比較の前に正規化される。正規化は、両方の細胞に本来存在し、両方の細胞に同等レベルで存在する別のRNA転写産物(例えば、GADPH mRNA、18S RNA)またはスーパーエンハンサー強度の決定より前に各細胞の試料に「添加される(spiked)」固定レベルの外来性RNAのいずれかと比較することによって、IRF8またはRARA RNA転写産物の決定されたレベルを調整することを含む(J Loven et al.,Cell,151(3):476-82(2012)、J Kanno et al.,BMC Genomics 7:64(2006)、J Van de Peppel et al.,EMBO Rep 4:387-93(2003))。
【0100】
がん及び他の疾患
本開示の方法は、スーパーエンハンサーとがんにおいて閾値レベル以上であるIRF8またはIRF8 mRNAレベルとの関連を特徴とする任意のがんを治療するのに有用である。スーパーエンハンサー関連IRF8遺伝子は、特定のタイプのがんにおいて他のがんよりも広く認められ得る。いくつかの実施形態では、スーパーエンハンサー関連IRF8遺伝子は、非APL AML及びMDSにおいて他のがんまたは前がん性状態よりも広く認められ得る。
【0101】
いくつかの実施形態では、本発明の方法において治療される疾患はがんである。いくつかの実施形態では、治療される疾患は非APL AML及びMDSから選択される。いくつかの実施形態では、治療される疾患は、IRF8遺伝子をともなう染色体の転座を特徴としない非APL AML及びMDSである。
【0102】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)によって治療される対象は、再発性または難治性非APL AMLを罹患している。対象は、a)導入化学療法の第1サイクル後に部分奏効を示さない、またはb)導入化学療法の第2サイクル後に完全奏効を示さない、またはc)従来の化学療法後に再発する、またはd)再発が単回幹細胞移植を受けている場合に、再発性または難治性非APL AMLを有すると分類される。
【0103】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)によって治療される対象は、難治性MDSを罹患している。対象は、a)(国際予後病期分類システム(International Prognostic Staging System)(「IPPS」)を使用して決定した場合に)高リスクもしくは中間-2MDSを有するとして類別され、低メチル化剤(例えば、アザシチジン、デシタビン)で少なくとも4サイクルの導入療法の後に(IWG2006判定基準によって測定した場合に)いかなる血液学的向上も達成することができなかった、または完全もしくは部分奏効の任意の持続期間の後に再発した、あるいはb)IPSS中間-1または低リスクMDSとして類別され、輸血依存であるか、または赤血球生成刺激剤(ESA)による治療に失敗した場合に、難治性MDSを有すると分類される。
【0104】
他の実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)によって治療される対象は、高齢の不適当な対象である。本明細書で使用する場合、用語「高齢の不適当な」は、対象が、少なくとも60歳であり、医師によって標準導入療法の候補ではないと決定されるヒトであることを意味する。
【0105】
RARAアゴニスト
スーパーエンハンサーレベルを有するとして特定された患者を治療するRARAアゴニストの選択は、当技術分野で既知の任意のRARAアゴニストから行うことができる。本発明の方法で利用するRARAアゴニストはRARAに対して特異的であり、且つ他の形態のRaR、例えば、RaR -β及びRaR-γに対して有意に低い(少なくともl0倍低い、少なくともl00倍低い、少なくとも1,000倍低い、少なくとも10,000倍低い、少なくとも100,000倍低い)アゴニスト活性を有することが好ましい。
【0106】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニストは、参照により組み込まれる、以下の米国特許:US4,703,110、US5,081,271、US5,089,509、US5,455,265、US5,759,785、US5,856,490、US5,965,606、US6,063,797、US6,071,924、US6,075,032、US6,187,950、US6,355,669、US6,358,995及びUS6,387,950のうちのいずれか1つに開示されている化合物、またはこれらに記載されている部類内に入る任意の化合物から選択される。
【0107】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニストは、表1に記載される以下の既知のRARAアゴニストのうちのいずれか、または医薬的に許容可能なそれらの塩、または前述の溶媒和化合物もしくは水和物から選択される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【0108】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニストはタミバロテンである。
【0109】
治療レジメン
マーカー及び特徴づけ
【0110】
いくつかの実施形態では、本開示が提供する技術は、患者が罹患しているがんのタイプの評価を含む。いくつかの実施形態では、患者は非APL急性骨髄性白血病(AML)を罹患している。いくつかの実施形態では、患者は骨髄異形成症候群(MDS)を罹患している。
【0111】
一般に、本開示は、対象の1つまたは複数のマーカーまたは特徴を解析及び/または評価する技術を提供し、いくつかの実施形態では、治療的決定はそのような解析及び/または評価に基づいて行われる。
【0112】
いくつかの実施形態では、マーカーは、その存在、形態、レベル及び/または活性が適切な集団において関連する特徴(例えば、がんのタイプまたはステージ)と相関する薬剤またはエンティティである。いくつかの実施形態では、本開示は、RARAアゴニストによる非APL AMLの治療に関連する1種または複数のバイオマーカーの特定、分類及び/または特徴づけを企図する。いくつかの実施形態では、本開示は、RARAアゴニストによるMDSの治療に関連する1種または複数のバイオマーカーの特定、分類及び/または特徴づけを企図する。
【0113】
いくつかの実施形態では、がんの特定のタイプを罹患するとして患者を分類することは、がんのステージの評価を含むことができる。いくつかの実施形態では、がんの特定のタイプを罹患するとして患者を分類することは、患者における疾患の負荷(例えば、体内のがん細胞の数、腫瘍のサイズ及び/またはがんの量)の評価を含むことができる。
【0114】
一般に、がんのタイプは、当業者が容易に認識するように、任意の適切なアッセイによって、本発明に従って評価することができる。がんのタイプについての様々なアッセイが当技術分野で既知であり、例えば、組織学的評価(例えば、生検試料のもの)、イメージング(例えば、磁気共鳴画像(MRI)、陽電子放出断層撮影法(PET)、コンピュータ断層撮影(CT)超音波、内視鏡検査、X線(例えば、マンモグラム、バリウム嚥下、パノレックス)、ダクトグラムまたは骨スキャンを利用するものが含まれる。
【0115】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、非APL AMLまたはMDSのステージまたは形態を指し示す1種または複数のバイオマーカーのレベルを評価することを含む。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、IRF8 mRNAレベル及び場合によりRARA mRNAレベルを評価することを含む。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、IRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの存在及び場合によりRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度または順位ランクを含む。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、IRF8 mRNAレベルまたはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの存在、及び場合によりRARA mRNAレベル、RARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの強度または順位ランクを評価することを含む。
【0116】
理論に拘束されないが、出願人等は、CD34またはCD117マーカーのうちの1つしか有さないPBMCのサブセットも、IRF8 mRNAまたはスーパーエンハンサーレベルを決定するために効果的に使用することができると考える。さらに、RNAScope(登録商標)などのある種のIRF8 mRNA解析技法は、解析前にPBMC試料を富化させることを必要とせず、これは、こうした技法が、特異的なオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション/増幅手順の使用に基づいて、所望の細胞からのmRNAの解析的富化をもたらすからである。
【0117】
患者集団
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法が、本開示に従って、本明細書に記載の1または複数の患者(例えば、患者集団)に施される。
【0118】
いくつかの実施形態では、患者集団は、がんを罹患する1または複数の対象を含む(例えば、対象を含むか、対象から成る)。いくつかの実施形態では、患者集団は、非APL
AMLを罹患する1または複数の対象を含む。いくつかの実施形態では、患者集団はMDSを罹患する1または複数の対象を含む。
【0119】
いくつかの実施形態では、患者集団は、がん(例えば、非APL AMLまたはMDS)の治療のための以前の療法を受けた1または複数の対象を含む(例えば、対象を含むか、対象から成る)。いくつかの実施形態では、患者集団は、がん(例えば、非APL AMLまたはMDS)の治療のための以前の療法を受けたことがない1または複数の対象を(例えば、対象を含むか、対象から成る)。いくつかの実施形態では、患者集団は、非APL AMLまたはMDSの治療のための以前の療法を受けたことがない患者を含むか、それから成る。
【0120】
いくつかの実施形態では、以前の療法を受けた患者は、化学療法、免疫療法、放射線療法、緩和ケア、手術及びこれらの組み合わせから成る群から選択される以前の療法を受けたことがあり得る。いくつかの実施形態では、患者は移植を受けたことがある。いくつかの実施形態では、患者は標準的な細胞毒性化学療法を受けたことがある。いくつかの実施形態では、標準的な細胞毒性化学療法は、シタラビン及び/またはアントラサイクリンを含む。いくつかの実施形態では、標準的な細胞毒性化学療法は、さらなる化学療法及び/または造血幹細胞移植術(HSTC)を含むことができる。いくつかの実施形態では、患者は低メチル化剤を受けたことがある。いくつかの実施形態では、患者はレナリドマイドを受けたことがある。
【0121】
いくつかの実施形態では、患者集団は、例えば、RARAアゴニスト療法(例えば、タミバロテン)組成物を他の療法(例えば、化学療法剤)と組み合わせて施すために他の療法を受けたことがある及び/または受けている1または複数の対象を含む(例えば、対象を含むか、対象から成る)。いくつかの実施形態では、そのような他の療法は、(例えば、本明細書に記載のような)がん、疼痛、悪心、便秘のための療法、がん療法と関連する1種もしくは複数の副作用(例えば、そう痒、脱毛、不眠など)の治療のための療法など、またはこれらの任意の組み合わせを含むか、これらから成ってもよい。本発明は、非APL AMLまたはMDSを治療する方法であって、治療有効量のRARAアゴニスト療法(例えば、タミバロテン)または医薬的に許容可能なその塩によって、非APL AMLまたはMDSを有すると特定された患者を治療することを含む方法を提供する。
【0122】
いくつかの実施形態では、本発明は、非APL AMLまたはMDSの発症を防止するまたは遅延させる方法であって、予防的有効量のRARAアゴニスト療法(例えば、タミバロテン)または医薬的に許容可能なその塩を、非APL AMLまたはMDSの発症の防止または遅延を必要としていると特定された患者に施すことを含む方法を提供する。
【0123】
いくつかの実施形態では、本発明は、化学療法を含む治療レジメンで以前に治療された非APL AMLまたはMDSの患者を、そのような患者に治療有効量のRARAアゴニスト療法(例えば、タミバロテン)または医薬的に許容可能なその塩を施すことによって治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、標準療法が存在しない非APL AMLまたはMDSの患者を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、標準療法に適さない患者を治療する方法を提供する。
【0124】
いくつかの実施形態では、患者はまた、MDSと関連する疾患、例えば、骨髄機能不全、末梢血血球減少症及び貧血、感染または出血の関連する合併症を有し得る。いくつかの実施形態では、患者は、AMLに進行するMDSを有し得る。
【0125】
いくつかの実施形態では、患者または患者集団は妊娠中である、またはその可能性がある患者でない場合がある(例えば、除外することができる)。いくつかの実施形態では、患者または患者集団は、RARAアゴニスト療法の施行の前及び/または間に妊娠、分娩及び/または乳汁分泌の1つまたは複数の徴候がモニターされ得る。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、妊娠、分娩及び/または乳汁分泌の1つまたは複数の徴候を示すことが決定される患者に対して、低減、一時中止または終了され得る。
【0126】
いくつかの実施形態では、患者または患者集団はタミバロテンの成分に対して過敏症の既往歴を有する患者でない場合がある(例えば、除外することができる)。いくつかの実施形態では、患者または患者集団はビタミンA製剤を与えられている患者でない場合がある(例えば、除外することができる)。いくつかの実施形態では、患者または患者集団はビタミンA過剰症を有する患者でない場合がある(例えば、除外することができる)。
【0127】
いくつかの実施形態では、患者または患者集団は高齢患者でない場合がある(例えば、除外することができる)。いくつかの実施形態では、患者または患者集団は1人または複数の高齢患者であり得、またはこれを含むことができる。いくつかの実施形態では、高齢患者は、潜在的な有害事象(例えば、低レベルの血清アルブミン及び/または血漿中の遊離薬物濃度の上昇などを含める)を検出するために、1人または複数のより若い患者と比較して、より頻繁にモニターされ得る。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、そのような有害事象の1つまたは複数の徴候を示すことが決定された高齢患者に対して、低減、一時中止及び/または終了され得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、患者または患者集団は小児患者でない場合がある(例えば、除外することができる)。いくつかの実施形態では、患者または患者集団は1人または複数の小児患者であり得、または含むことができる。いくつかの実施形態では、小児患者は潜在的な有害事象(例えば頭蓋内圧の上昇などを含める)を検出するために、1人または複数のより高齢の患者と比較して、より頻繁にモニターされ得る。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト療法は、そのような有害事象の1つまたは複数の徴候を示すと決定された小児患者に対して、低減、一時中止及び/または終了され得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、もし患者が、例えば、頭痛、発疹、乾燥肌、湿疹、剥離性皮膚炎、骨痛、関節痛、発熱、白血球数の増加、ヘモグロビンの減少、ASTの増加、ALTの増加、LDHの増加、ALPの増加、TGの増加、TCの増加、フォリシティス(follicitis)、毛包炎、CRPの増加及びこれらの組み合わせなどの1つまたは複数の有害反応を発生する場合、本開示によるRARAアゴニスト療法は、特定の患者に対して、低減、一時中止または終止される。あるいはまたはさらに、いくつかの実施形態では、もし患者が、例えば、血栓症(例えば、脳梗塞、肺梗塞、動脈血栓症、静脈血栓症など)、血管炎、せん妄、中毒性皮膚壊死症(ライエル症候群)、多形性紅斑、頭蓋内圧の上昇及びこれらの組み合わせなどの1つまたは複数の有害反応を発生する場合、本開示によるRARAアゴニスト療法は、特定の患者について、低減、一時中止または終止される。
【0130】
いくつかの実施形態では、本発明は、非APL AMLまたはMDSの発症を治療する、防止する、または遅延させるのに有用な医薬の製造のための化合物(例えば、タミバロテン)または医薬的に許容可能なその塩の使用を提供する。いくつかの実施形態では、患者は、がん(例えば、非APL AMLまたはMDS)を罹患している。いくつかの実施形態では、患者は、他の療法(例えば、化学療法)に抵抗性であるがん(例えば、非APL AMLまたはMDS)を罹患している。いくつかの実施形態では、がんはIRF8バイオマーカーを有すると決定され、ここでは、IRF8バイオマーカーは、上昇したIRF8 mRNAレベルの1つもしくは複数またはIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサーの発現であるか、またはこれを含む。いくつかの実施形態では、がんは、上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していると決定される。いくつかの実施形態では、がんは、上昇したRARA mRNAレベルの1つもしくは複数またはRARA遺伝子と関連するスーパーエンハンサーを発現していないと決定される。
【0131】
投与形態及び投薬レジメン
一般に、本発明に従って使用される各活性薬剤(例えば、タミバロテン)は、適正な医療行為と矛盾がなく且つ関連する薬剤(複数可)及び対象に適している医薬組成物及び投薬レジメンを使用して、製剤化され、用量決定され、治療有効量で投与される。原則として、治療用組成物は、限定はされないが、経口、粘膜、吸入によるもの、局所、頬側、経鼻、直腸または非経口(例えば、静脈内、注入、腫瘍内、結節内、皮下、腹腔内、筋肉内、皮内、経皮もしくは他の種類の投与)を含めた、当技術分野で既知の任意の適切な方法によって投与することができる。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)は経口的に投与される。
【0132】
いくつかの実施形態では、例えば、療法を受ける対象の1つまたは複数の目的の組織または流体において、特定の所望の薬物動態プロファイルまたは曝露の他のパターンを達成するために、特定の活性薬剤に対する投薬レジメンは、間欠投与または継続投与を含むことができる。
【0133】
いくつかの実施形態では、組み合わせて投与される異なる薬剤は、様々な送達経路を介して、及び/または様々なスケジュールに従って投与され得る。あるいはまたはさらに、いくつかの実施形態では、1または複数の用量の第1の活性薬剤は、1種もしくは複数の他の活性薬剤と実質的に同時に、及びいくつかの実施形態では、共通の経路を介して、及び/または1種もしくは複数の他の活性薬剤との単一組成物の一部として投与される。
【0134】
所与の治療レジメンについて経路及び/または投薬スケジュールを最適化する場合に考慮すべき因子としては、例えば、治療を受ける特定の適応症、対象の臨床状態(例えば、年齢、全体的な健康状態、以前に受けた療法及び/またはそれに対する応答など)、薬剤の送達部位、薬剤の性質、薬剤投与の様式及び/または経路、組み合わせ療法の有無ならびに医師に知られている他の因子を挙げることができる。例えば、がん治療では、治療を受ける適応症の関連する特徴としては、数ある中でも、がんのタイプ、ステージ、位置などの1つまたは複数を挙げることができる。
【0135】
いくつかの実施形態では、例えば、所望の治療効果または治療応答を最適化するために、特定の医薬組成物及び/または利用する投薬レジメンの1つまたは複数の特徴を時間とともに修正することができる(例えば、任意の個々の用量における活性物の量を増大または低下させる、投与間の時間間隔を長くするまたは短くするなど)。
【0136】
一般に、本発明による活性薬剤の投薬のタイプ、量及び頻度は、関連する薬剤(複数可)が哺乳動物、好ましくはヒトに投与される際に適用する安全性及び有効性要件によって左右される。一般に、投薬のそのような特徴は、療法なしで観察されるものと比較して、特定の、及び典型的には検出可能な治療応答を提供するように選択される。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)は連続的に投与される。
【0137】
本発明において、例示的な望ましい治療応答は、限定はされないが、腫瘍増殖、腫瘍サイズ、転移、腫瘍と関連する症状及び副作用の1つまたは複数の阻害及び/または低下、ならびに腫瘍細胞のアポトーシスの増加、1種または複数の細胞マーカーまたは循環マーカーなどの治療的に適切な低下または増加を含むことができる。そのような判定基準は、文献に開示されている様々な免疫学的方法、細胞学的方法及び他の方法のうちのいずれかによって、容易に評価することができる。
【0138】
いくつかの実施形態では、特定のタイプの腫瘍、特定の腫瘍、特定の患者集団(例えば、遺伝子マーカーを保有する)及び/または特定の患者についてかどうかにかかわらず、誘導性マーカーのタイミング及び/または閾値発現レベルに基づいて、投薬レジメンを調整すること、特に連続的投薬レジメンを設計することが望ましい場合もある。いくつかのそのような実施形態では、治療的投薬レジメンは、療法の前及び/または間に1種または複数の誘導性マーカーの発現を評価する検出方法と組み合わせることができ、またはこうした検出方法を考慮して調節することができる。
【0139】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)療法レジメンは、タミバロテンの約1mg/m、2mg/m、3mg/m、4mg/m、5mg/m、6mg/m、7mg/m、8mg/m、9mg/m2、10mg/m、11mg/m、12mg/m、13mg/m2、14mg/m、15mg/m 16mg/mまたはこれらの値の任意の2つの間の用量の少なくとも1つの用量を含む(もしくは正確に1つの用量を含むか、または1つの用量から成る)。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは、6mg/mの用量を含む。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは4mg/mの用量を含む。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは2mg/mの用量を含む。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは1mg/mの用量を含む。
【0140】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)療法レジメンはタミバロテン組成物の複数の用量を含む。いくつかのそのような実施形態では、タミバロテン療法レジメンは、例えば、2、5、10、20、30、60、90、180、365の用量、もしくはこれらの値の間の任意の2つの間のいくつかの用量を含み、及び/または反復パターンの用量(例えば、少なくとも1サイクルの1日2回の用量。このサイクルは、場合により代替投与の期間を用いて、もしくは場合により投与を行わずに、異なるサイクルを分離して、反復することができる)を含む。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは1日2回施される。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは1日1回施される。いくつかの実施形態では、タミバロテン療法レジメンは、1日2回の経口投薬量に分けられた6mg/mの総用量を含む。
【0141】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)療法レジメンは、施行の前、間にある量の食物を食べた、または食べていないことが分かっている対象または患者の集団に施行することができる。食物摂取に関して、用語「施行の前」及び「施行の後」は、施行の前または後の約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、16、18、20、22、24、30、42または72時間またはそれ以上の一定期間を指すことができる。いくつかの実施形態では、用語「食物摂取に関して、...を施行すること」は、対象または患者の集団が施行の前に食物を食べること(例えば、摂食状況)を意味する。いくつかの実施形態では、用語「食物摂取に関して、...を施行すること」は、対象または患者の集団が施行の後に食物を食べることを意味する。いくつかの実施形態では、用語「食物摂取に関して、...を施行すること」は、対象または患者の集団が施行の間に食物を食べることを意味する。あるいは、いくつかの実施形態では、用語「「食物摂取に関して、...を施行すること」は、対象または患者の集団が施行の間に絶食状況にあることを意味する。
【0142】
いくつかの実施形態では、食物摂取は、高脂肪の食物または高脂肪の食事を含む。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)療法レジメンは、絶食状況の対象に施行される。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)療法レジメンは摂食状況の対象に施行される。
【0143】
製剤
本明細書で使用する場合、医薬組成物は、化合物、例えばタミバロテンと他の化学成分、例えば、担体、安定化剤、希釈剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤及び/または賦形剤との混合物を指す。医薬組成物は、生物への化合物の投与を容易にする。化合物を含む医薬組成物は、(限定されないが、静脈内、経口、直腸、エアロゾル、非経口、眼部、肺、経皮、腟、耳、経鼻及び局所的投与を含めた)、当技術分野で既知の任意の従来の形態及び経路によって、治療有効量で投与され得る。
【0144】
例えば、多くの場合デポー製剤または徐放製剤の状態で、臓器への直接的な化合物の注射を介して、全身的ではなく局部的に化合物を投与することができる。さらに標的化薬物送達システム、例えば、臓器特異的抗体でコーティングされたリポソームの中に化合物を含む医薬組成物を投与することができる。リポソームは、臓器へ標的化され、選択的に臓器に取り込まれる。さらに、化合物を含む医薬組成物は、急速放出製剤の形態で、持続放出製剤の形態で、または中間型放出製剤の形態で提供され得る。いくつかの実施形態では、持続放出製剤は、1時間を超えて、2時間を超えて、3時間を超えて、4時間を超えて、6時間を超えて、12時間を超えて、24時間を超えてまたはそれ以上にわたって化合物を放出する。いくつかの実施形態では、持続放出製剤は、1時間を超えて、2時間を超えて、3時間を超えて、4時間を超えて、6時間を超えて、12時間を超えて、24時間を超えてまたはそれ以上にわたって一定の速度で化合物を放出する。
【0145】
経口投与については、活性化合物を当技術分野で周知である医薬的に許容可能な担体または賦形剤と組み合わせることによって、化合物を容易に製剤化することができる。そのような担体によって、治療される対象が経口摂取するための錠剤、粉末剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、エリキシル剤、スラリー、懸濁剤などとして、本明細書に記載の化合物を製剤化することが可能になる。一般に、賦形剤、例えば、フィラー、崩壊剤、流動促進剤、界面活性剤、再結晶化阻害剤、潤滑剤、色素、結合剤、着香剤などを、習慣的な目的で、及び組成物の特性に影響を及ぼさない典型的な量で、使用することができる。いくつかの実施形態では、賦形剤は、ラクトース水和物、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース及び/またはステアリン酸マグネシウムの1つまたは複数である。いくつかの実施形態では、ラクトース水和物、コーンスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース及び/またはステアリン酸マグネシウムの1つまたは複数とともに、タミバロテンを製剤化することができる。
【0146】
タミバロテンの許容可能な製剤の特定は、例えば、参照によって本明細書に組み込まれるUS20100048708に記載されているような当技術分野で既知の様々な方法によって達成することができる。
【0147】
組み合わせ療法
本開示を読めば、ある種の実施形態では、本明細書に記載のRARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)を、例えば、化学療法剤、他の免疫調節剤の投与、放射線療法、高周波数超音波療法、手術、がん治療についてFDAが承認した療法などを含めた他の抗がん療法と組み合わせることができることを当業者は容易に認識するであろう。
【0148】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニストは、1種または複数の他の治療剤または治療様式と組み合わせて利用される。いくつかの実施形態では、1種または複数の他の治療剤または治療様式も抗がん剤または抗がん様式であり、いくつかの実施形態では、組み合わせはがん治療において相乗効果を示す。
【0149】
がん治療で治療効果を示す既知の化合物または治療としては、例えば、1種または複数のアルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、細胞毒性抗生物質、血管新生阻害剤、免疫調節剤、ワクチン、細胞ベースの療法、臓器移植、放射線療法、手術などを挙げることができる。
【0150】
いくつかの実施形態では、特に、適切ながん、または特定のがん患者がかかりやすい、もしくは特定のがん患者が罹患している別の疾患、障害もしくは状態と関連すると知られている1つまたは複数の症状を和らげる場合、RARAアゴニスト(及び/または組み合わされる他の療法)を1つまたは複数の緩和(例えば、鎮痛、悪心抑制、嘔吐抑制など)療法と組み合わせることができる。
【0151】
いくつかの実施形態では、組み合わせて使用される薬剤は、個々の使用について承認されている投薬レジメンに従って投与される。しかし、いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)との組み合わせは、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)なしで薬剤が投与される場合に利用されるものと比較して、別の薬剤が、1つまたは複数のより低い及び/またはより低頻度の用量、及び/または減少したサイクル数を含む投薬レジメンに従って、投与されることを可能にする。あるいはまたはさらに、いくつかの実施形態では、適切な投薬レジメンは、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)なしで薬剤が投与される場合に利用されるものと比較して、より高い及び/またはより高頻度の用量、及び/または増加したサイクル数を含む。
【0152】
いくつかの実施形態では、組み合わせて投与される薬剤の1または複数の用量が同時に投与され、いくつかのそのような実施形態では、薬剤は同じ組成物で投与される。しかし、より一般的には、薬剤は異なる組成物で、及び/または異なる時間に投与される。いくつかの実施形態では、タミバロテンは、他の治療剤(例えば、化学療法剤)と連続して及び/または同時に投与される。
【0153】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組み合わせ療法は、対象が閾値以上であるRARA mRNAレベルを有する場合にのみ施行される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組み合わせ療法は、対象が閾値以上であるIRF8 mRNAレベルを有する場合にのみ施行される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される組み合わせ療法は、閾値以上であるRARA mRNAレベルと閾値以上であるIRF8 mRNAレベルの両方を有する対象のみに施行される。これらの実施形態のうちのいずれかのいくつかの態様では、対象は非APL AML罹患している。
【0154】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)と組み合わされる治療剤は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、DNA合成酵素阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、FLT3阻害剤、葉酸阻害剤、BRD4阻害剤、Znフィンガー転写因子阻害剤、GCR阻害剤、CDK7阻害剤、HDAC阻害剤、JMJD3/JARID1B阻害剤またはEZH2阻害剤から選択される。他の特定の態様では、この第2の薬剤は、LSD1阻害剤、プロテアソーム阻害剤、DNA損傷修復阻害剤、PARP阻害剤、mTOR阻害剤、DOT1L阻害剤、チューブリン阻害剤、PLK阻害剤またはオーロラキナーゼ阻害剤から選択される。
【0155】
いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)は、デシタビン、アザシチジン、ara-C、ダウノルビシン、イダルビシン、三酸化ヒ素及び/またはflt3阻害剤とともに投与することができる。いくつかの実施形態では、RARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)は、IDH阻害剤、BRD4阻害剤(例えば、JQ1)、HDAC阻害剤(例えば、SAHA及びMC1568)、HMT阻害剤(例えば、EPZ6438、UNC0638、SGC707、EPZ5676、UNC037及びPFI-2)及び/またはKDM阻害剤(例えば、GSKJ4、RN-1及びGSK-LSD1)とともに投与することができる。
【0156】
いくつかの実施形態では、対象はAMLを罹患しており、タミバロテンは、アザシチジン、三酸化ヒ素、ミドスタウリン(高FLT3 mRNAレベルを特徴とするAML対象においてのみ)、シタラビン、ダウノルビシン、メトトレキサート、イダルビシン、ソラフェニブ(高FLT3 mRNAレベルを特徴とするAML対象においてのみ)、デシタビン、キザルチニブ(高FLT3 mRNAレベルを特徴とするAML対象においてのみ)、JQ1(BRD4阻害剤)、ATO、プレドニゾン(高GCR mRNAレベルを特徴とするAML対象においてのみ)、SAHA及びGSKJ4(高JMJD3/JARID1B mRNAレベルを特徴とするAML対象においてのみ)から選択される第2の薬剤と組み合わせて投与される。
【0157】
キット
1種または複数のIRF8バイオマーカーを検出するための1種または複数の試薬を含むキットをキットで提供することができる。ある場合には、キットは、がんを罹患しており、且つ閾値レベル以上である強度もしくは順位ランクを有するIRF8遺伝子と関連するスーパーエンハンサー、または参照(例えば、閾値レベル)以上であるIRF8 mRNAレベルを有すると決定された対象においてRARAアゴニスト(例えば、タミバロテン)を使用するための指示書をともなう記載された挿入物またはラベルを含む、パッケージ化された本発明の医薬組成物を含む。上で詳細に記載されているように、閾値レベルは、医薬組成物が治療について示されるものと同じ疾患を罹患していると診断された対象、または医薬組成物が治療について示されるものと同じ疾患の細胞株もしくは異種移植モデルのいずれか由来の試料の集団において、決定される。指示書は、RARAアゴニストを含む容器に接着または付着させることができる。あるいは、指示書及びRARAアゴニストを含む容器は互いに分離されてもよいが、単一のキット、パッケージ、箱または他のタイプの容器中に一緒に存在する。
【0158】
キット中の指示書は、典型的には、RARAアゴニストの治療的使用を承認する政府機関によって要求または推奨される。指示書は、スーパーエンハンサーがIRF8遺伝子と関連するかどうかを決定する特定の方法、ならびにIRF8遺伝子と関連するエンハンサーがスーパーエンハンサーであるかどうかを決定するための定量化方法、IRF8 mRNAレベル及び/またはパッケージ化されたRARAアゴニストによる治療が推奨される及び/または治療的有効と想定される、スーパーエンハンサーもしくはIRF8 mRNAの閾値レベルを決定するための定量化方法を含むことができる。いくつかの態様では、指示書は、IRF8 mRNAレベルが測定された集団の少なくとも30パーセンタイルにIRF8 mRNAレベルが入る対象に、組成物が投与されることを指示する。これらの実施形態のいくつかの態様では、対象は、そのIRF8 mRNAレベル保有率ランクが、IRF8 mRNAレベルが測定された集団において、約80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59%、58%、57%、56%、55%、54%、43%、42%、51%、50%、49%、48%、47%、46%、45%、44%、43%、42%、41%、40%、39%、38%、37%、36%、35%、34%、33%、32%、31%、30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%または20%である場合、RARAアゴニストのレスポンダーとして特定される。いくつかの態様では、指示書は、特定のアッセイによってIRF8 mRNAレベルが測定された対象に組成物が投与されることを指示する。
【0159】
指示書は、場合により、投薬情報、RARAアゴニストによる治療が承認されたがんのタイプ、RARAアゴニストについての物理化学的情報、約RARAアゴニストについての薬物動態的情報、薬物-薬物相互作用情報を含むことができる。いくつかの実施形態では、指示書は、AMLを罹患していると診断された対象に組成物が投与されることを指示する。いくつかの実施形態では、指示書は、非APL AMLを罹患していると診断された対象に組成物が投与されることを指示する。いくつかの態様では、指示書は、MDSを罹患していると診断された対象に組成物が投与されることを指示する。いくつかの態様では、医薬組成物はタミバロテンを含む。
【実施例0160】
本明細書に記載の本発明をより十分に理解するために、以下の実施例を記載する。本出願に記載されている合成的及び生物学的実施例は、本明細書に提供される化合物、医薬組成物及び方法を例示するために提供され、それらの範囲を限定するものとして決して解釈されるべきでない。
【0161】
実施例1:非APL AML細胞株におけるIRF8 mRNAレベルはRARAアゴニストへの応答性と相関する
本発明者らは、タミバロテンに対する感度についていくつかのAML細胞株を以前に試験し、RARAスーパーエンハンサーの強度、RARAスーパーエンハンサー強度の順位及びRARA mRNAレベルのそれぞれと感度が非常によく相関することを示した。これは、以下に記載のように行った。
【0162】
実験当日に、細胞をAccumax(EMD Millipore)を使用してホモジナイズし、数え、適切な増殖培地中で60,000細胞/mLに調整した。Biotek
EL406を使用して、50μlの細胞を白色(ATPlite)または黒色(CyQuant)384ウェルプレート(Thermo)中に分配した。細胞を37℃のインキュベーターに戻して、接着させた。3時間後に、Janusワークステーション上で、20nlの384ウェルピントランスファーマニフォールドを使用して、化合物をプレートに加えた。ストックを、384ウェル化合物プレートのDMSOストックにおいて、10ポイントの4重用量応答にアレイ化した。化合物の添加後、37℃インキュベーター中で5日間または10日間プレートをインキュベートした。
【0163】
ATPlite(Perkin Elmer)またはCyQuant(Life Technologies)を使用して細胞生存率を読み取った。ATPliteについては、プレートをインキュベーターから取り出し、使用前に室温にした。ATPlite試薬の凍結乾燥粉末を溶解バッファーに再懸濁し、蒸留水で1:2に希釈した。Biotek液体ハンドラーを使用して、25μLのこの溶液を各ウェルに加えた。プレートを15分間室温でインキュベートしてから、Envisionプレートリーダー(Perkin Elmer)で発光シグナルを読み取った。CyQuantについては、製造者の指示書のように、PBS(Gibco)中に試薬を混合した。マルチチャンネルピペットを使用して試薬を加え、インキュベーターにプレートを30分間戻してから、Envisionプレートリーダー(Perkin Elmer)で読み取った。
【0164】
記載されるように得たデータを蓄積し、マイクロソフトのExcelでグループ化し、GraphPad Prismソフトウェアを使用して解析した。プレートに含まれるDMSOのみで処理したウェルに対して正規化した場合の細胞のパーセント生存率に対してプロットされた化合物濃度のlog10変換されたデータを用いる4パラメーター(ヒルの傾きは1に等しいと仮定されない)非線形回帰を使用して、GraphPad Prismバージョン6.0で、EC50及びEmaxを計算するための曲線適合を行った。端のウェルは除外した。
【0165】
Affymetrix GeneChip(登録商標)PrimeView(商標)ヒト遺伝子発現アレイを使用して、これらのAML細胞株のうちの7つ(タミバロテンに感受性の4つ-NOMO-1、OCI-AML3、MV-4-11及びSig-M5、ならびに非感受性の3つ-KGla、OCI-M1及びKasumi-1)を、タミバロテン感受性細胞株において特異的に上昇している可能性がある他のmRNAについて最初に調べ、潜在的候補としてIRF8 mRNAを特定した。次いで、以下に記載されるようにRNA-seq解析を行うことによって、先にこれらの7つのAML細胞株のそれぞれで、及びタミバロテンに対する感度について試験したいくつかの他のAML細胞株で、IRF8 mRNAレベルを定量化した。最初の7つの細胞株についての結果を図1に示す。興味深いことに、NOMO-1は高いRARA mRNAレベルを有していなかったが、タミバロテンに応答性であった。NOMO-1が上昇したIRF8 mRNAレベルを有していたという事実は、この見せかけの矛盾を明らかにするのに役に立ち、タミバロテンに対する応答性を予測するためのIRF8 mRNAレベルの使用をさらに有効にした。
【0166】
RNA調製:細胞懸濁液を微量遠心機チューブに移し、1mLのPBSで洗浄した。細胞ペレットを200μLのTRIzolに再懸濁した。Ambion miRVana miRNA単離キット(AM1561)の20μLのmiRNAホモジネート添加物を加え、混合し、氷上で10分間インキュベートした。20μLのブロモクロロプロパンを加え、混合し、室温で5分間インキュベートし、12,000×gで、4℃で10分間遠心分離した。62μLの水性相を78μLのエタノールに加え、フィルターカラムに移した。Ambionの全RNA単離プロトコールに従って、単離を続けた。試料を品質管理についてバイオアナライザーで試験し、次いで、シークエンシングのためにWhitehead Sequencing Core、(Cambridge、MA)に送った。
【0167】
RNA-seqデータ処理:rsem vl.2.21ソフトウェア(rsem-calculate-expression;パラメーター=-p4--samtools-sort-mem 3G--ci-memory3072--bowtie-chunkmbs1024--quiet--output-genome-bam--bowtie2--bowtie2-path/data/devtools/bowtie2-2.0.5--strand-specific)を使用して、リードをHG19トランスクリプトームに整列させ、次いで同じrsemスイート(rsem-parse-alignments、rsem-build-read-index、rsem-run-em)を使用してmRNAの定量化を行い、100万あたりの転写産物(TPM)で報告した。次いで、各試料についてすべてのタンパク質コード遺伝子を抽出し、それらのスコアをクオンタイル正規化した。
【0168】
次いで、図2及び表1に示すように、タミバロテンに対する感度をIRF8 mRNAレベルと比較した。
【表1-9】
【0169】
上の表から分かるように、HL60を除いて、すべてのタミバロテン応答性細胞株は、アッセイにおいて190TPM(log(7.57))より大きいIRF8 mRNAレベルを有していたが、非応答性細胞株はすべて16.5TPM(log(4.03))未満のIRF8 mRNAレベルを有していた。付随する高IRF8 mRNAレベル(6.73 TPM)をともなわないタミバロテンに対するHL60の応答性は、IRF8 mRNAレベルとタミバロテン感受性の間の相関はAPLについて当てはまらない可能性があり、それにより、非APL AMLを罹患する対象を層別化するのにより適し得ることを示唆している。図2は、HL60に対するデータポインを除く。
【0170】
多数の異なるタイプの試料(正常血液細胞、AML細胞株、一次AML患者試料及びAML PDX)について、IRF8 mRNAレベルを決定した。得られたデータを順位序列にプロットし、図14に結果を図表で示した。示すように、図14は、IRF8 mRNAレベルと疾患の存在の間のいかなる相関も示さず、IRF8レベルは、病的な細胞、細胞株及びPDXと比較して、正常細胞において適度に類似した様式で分布しているように思われる。
【0171】
実施例2:RARAアゴニスト処理に対するIRF8 mRNAの閾値の決定
AML細胞株の結果は、RNA-Seqアッセイにおいて15.5から190TPMの間(すなわち、log(4.03)からlog(7.57)の間)のカットオフ値を示唆する。IRF mRNAレベルの分布を調べるために、及びカットオフ値に基づく保有率カットオフを決定するために、(Stanford Universityの好意により提供された)AML患者試料の集団を選択した。その集団にAML細胞株を加え、次いで、順位序列化グラフを生成した。図3は、組み合わせた患者試料/AML細胞株集団におけるIRF8 mRNAレベルの順位序列化分布を示す。本発明者らは、25%の保有率カットオフがおよそlog(7)のIRF mRNA値に対応すると判断した。
【0172】
実施例3:IRF8 mRNAレベルとRARA mRNAレベルの相関
次に、AML細胞株及び患者集団においてIRF8 mRNAレベルとRARA mRNAレベルを比較して、相関を決定した。図4は、タミバロテンに応答したいくつかの細胞株は、比較的低いRARA mRNAを有するが、高IRF8 mRNAレベルを有することを示す。図5は、患者のサブセットも高IRF8 mRNAレベルを示すが、比較的低いRARA mRNAレベルを示し、逆もまた同じであることを示す。これは、患者においてIRF8 mRNAとRARA mRNAの両方を測定すること、及びいずれかのmRNAレベルが閾値を超える場合に、RARAアゴニスト、例えばタミバロテンによる治療のための患者を選択することが、治療可能な患者集団を最適化することができるという考えを支持する。
【0173】
実施例4:IRF8と関連するスーパーエンハンサーはRARAアゴニスト処置に対する応答性と相関する
次に、以下のように、いくつかのAML細胞株及び患者試料においてIRF8エンハンサー強度を調べた。
【0174】
細胞固定:懸濁液中の細胞については、典型的には1/10量の新鮮な11%ホルムアルデヒド溶液を細胞懸濁液に加え、混合し、この混合物を室温(RT)で8分間放置した。次いで、1/20量の2.5Mグリシンまたは1/2量の1M Tris pH7.5を加えてホルムアルデヒドをクエンチし、少なくとも1分間インキュベートした。20~50mLの冷却した1×リン酸緩衝食塩水(PBS)で細胞を3回すすぎ、1250×gで5分間遠心分離して、各洗浄の前後に細胞をペレット化した。次いで、細胞を15mLのコニカルチューブに移し、1250×gで、4℃で5分間遠心分離した。上清を除去し、キムワイプで軽くたたくことによって残留する液体を除去し、次いで、ペレット化した細胞を液体窒素中で瞬間凍結し、-80℃で保存した。
【0175】
ビーズ調製:2mLの免疫沈降物あたりおよそ60μLのDynabeads(登録商標)プロテインG(Invitrogen)を使用した。1.5mL エッペンドルフチューブにおいて、それぞれ1.0mLブロッキングバッファー(PBS中に0.5%BSA w/v)で、ビーズを5分間3回洗浄した。磁石(Invitrogen)を使用して各洗浄後にビーズを収集し(少なくとも完全に1分間磁石を結合させた)、次いで、上清を吸引した。6μgの抗体を加えた250μLのブロッキングバッファーに洗浄したビーズを再懸濁し、回転混合しながら一晩(最低6時間)この混合物をインキュベートした。それぞれ1mLのブロッキングバッファーで抗体結合ビーズを5分間3回洗浄し、ブロッキングバッファー(IPあたり60μL)に再懸濁した。これらの最後の洗浄及び再懸濁は、一旦細胞を超音波処理(参照されたい9.1.1.3)したら行い、また一晩の免疫沈降の直前に行った。
【0176】
細胞溶解:1×プロテアーゼ阻害剤(Complete、Roche;1mL HOに1錠を溶解して50×溶液にすることによって調製し、一定分量で-20℃で保存した)を、使用前にすべての溶解バッファーに加えた。各チューブの細胞(およそ5×l0細胞)を5~10mLの溶解バッファー1(LBl;140mM NaCl、1mM EDTA、10%グリセロール、0.5%NP-40、0.25%トリトンX-100)に再懸濁し、4℃で10分間揺り動かした。卓上遠心分離機において1250×gで5分間4℃で細胞を遠心分離し、上清を吸引除去した。細胞を5mLの溶解バッファー2(LB2;200mM NaCl、1mM EDTA、0.5mM EGTA、10mM Tris pH8)に再懸濁し、回転させて4℃で10分間インキュベートした。卓上遠心分離機において1250×gで5分間4℃で細胞を再度ペレット化し、2~5mLのCovaris超音波処理バッファー(10mM Tris pH8.0、1mM EDTA、0.1%SDS)中で洗浄した。卓上遠心分離機において1250×gで5分間4℃でペレットを遠心分離した。卓上遠心分離機において1250×gで5分間4℃で細胞をペレット化し、2000~5000万細胞/1mLのCovaris超音波処理バッファーの濃度で再懸濁した。
【0177】
クロマチン免疫沈降法:上記のように調製した50μLの抗体コンジュゲートビーズを1.5mlチューブ中の(細胞溶解で上記したように)きれいにした細胞抽出物の溶液に加え、4℃で一晩(最低8時間)揺り動かして、免疫沈降物DNA-タンパク質複合体を得た。
【0178】
洗浄、溶出、及び架橋反転:これらのステップで使用するすべてのバッファーを氷冷した。磁気スタンドを使用して磁気ビーズを沈殿させ、1mLの洗浄バッファー1(50mM HEPES pH7.5、140mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、0.75%トリトン-X、0.1%SDS、0.05%DOC)で、穏やかに回転混合させながらそれぞれ5分で3回洗浄し、1mLの洗浄バッファー2(50mM HEPES pH7.5、500mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、0.75%トリトン-X、0.1%SDS、0.05%DOC)で、5分にわたって1回、及び1mLの洗浄バッファー3(10mM Tris pH8.0、1mM EDTA、50mM NaCl)で、5分にわって1回洗浄した。すべての残留する洗浄バッファーを吸引し、ビーズを1250×gで1分間軽く遠心分離し、チューブを磁石上に戻し、バッファーのすべての痕跡を除去した。210μLの量の溶出バッファー(50mM Tris pH8、10mM EDTA、1%SDS)を加え、15分毎に短くボルテックスしてビーズを再懸濁させながら、65℃で60分間溶出した。磁石を使用してビーズを上清から分離し、200μLの上清を取り出し、逆架橋用にきれいなチューブ入れた。IP及び全細胞抽出画分の両方を65℃で一晩(最低8時間であるが、最大18時間)逆架橋した。次いで、65℃で一晩(最低8時間であるが、最大18時間)インキュベートすることよって、免疫沈降のための別々に逆架橋した両方の試料及び全細胞抽出画分に加熱した。加熱によって、ホルムアルデヒド架橋の加水分解が促進された。
【0179】
DNAのクリーンアップ及び精製:200μlの量の、Tris-EDTAバッファー(50mM Tris pH8、1mM EDTA)及び2.7μLの30mg/ml RNaseA(0.2mg/mLの終濃度)を各試料に加え、混合し、37℃で2時間インキュベートした。次いで、5μLの塩化カルシウム溶液(10mM Tris pH8.0中に300mM CaCl)を4μLの20mg/mlプロテイナーゼK(0.2mg/mLの終濃度)とともに各試料に加え、混合し、55℃で60分間インキュベートした。次いで、25:24:の比のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(Sigma Aldrich #P3803)を400μL各チューブに加え、低設定(5/10)のボルテックスミキサー上で混合し、各チューブを転倒させて、さらに混合した。
【0180】
10,000RPMで30秒間室温でチューブを遠心分離することによって、PhaseLock Gel(商標)チューブ(Qiagen、3Prime)を各試料について調製した。次に、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール中の試料DNAをPhaseLock Gel(商標)チューブ加え、12,000~16,000×gで2分間間室温で遠心分離した。次いで、水溶液(最上部の画分)を新しい1.6mlチューブ移し、20μLの5M NaCl及び1.5μLの20μg/μLのグリコーゲン(全量30μg)を加え、次いで1mLのEtOHを加え、ボルテックスまたは反転によって混合した。次いで、試料を-20℃で一晩(6~16時間)インキュベートした。混合物を20,000×gで20分間4℃で遠心分離してDNAをペレット化し、1mLピペットチップで上清を除去し、800μLの80%EtOH中でペレットを洗浄し、20,000×gで20分間4℃で遠心分離し、1mLピペットチップで上清を除去した。20,000×gで1分間再度試料を遠心分離し、上清を除去し、5~20分間ペレットを風乾した。ペレットはその周りに水のハローを有さないはずであり、ガラス状または薄片状の乾燥状態であるはずである。次いで、ペレットを60μLの水に溶解し、シークエンシングに50μLを使用した。
【0181】
ChIP-seqのデータ処理:Bowtie2 v.2.0.5ソフトウェア(パラメーター=-p4-感受性)を使用して、ChIP-seq IPとINの両方のリードをHG19ゲノムに整列させた。これによって、IPとINのシークエンシング実験の両方の整列化をまとめたゲノムワイドなBAMファイルが得られた。
【0182】
ユニバーサルIRF8エンハンサースコアデータセットの作成:すべての下流解析で適用することができるユニバーサルIRF8エンハンサースコアデータセットを生成した。整列させたIP BAMを使用してMACS vl.4で整列させたH3K27Acリードデータでゲノムワイドに観察されるピークをChIP-seqフォアグラウンドデータと指定し、整列させたIN BAMを対照バックグラウンドデータと指定した。10-9というストリンジェントなp値カットオフを使用したが、そうでなければ、デフォルトパラメーターを使用した。次いで、これらのピークを、これらがヒト参照ゲノムにおいてこれらの間に≧12,500塩基対を有する場合、併合した。ピークのこのセットをROSEピークと称し、所与の試料に対するIRF8転写産物と重複する最高スコアのROSEピークのランクをその試料に対する「IRF8 ROSEランク」として記録した。
【0183】
次いで、ROSEピークのセットをENCODE(https://sites.google.com/site/anshulkundaje/projects/blacklists)及びENCODE Project Consortium (2012)によって定義される「ブラックリスト領域」についてフィルターにかけて、ChIP-seqのアーチファクトを除去した。
【0184】
次いで、一次患者試料由来のフィルターにかけたROSEピークのセットを、他の試料のピークと重複するピークのすべてを有する所与の試料の各ピークの座標の和集合を取ることにより、ユニバーサルH3K27Acエンリッチメントマップに併合した。これによって、H3K27Acエンリッチメントのユニバーサルマップが生成された。次いで、所与の領域に対して、その領域内にマップされたIPリードの数を合計し、100万を乗じた、全実験でマッピングしたリード数(「100万あたりのリード」またはRPM)で割ることによって、(細胞株を含めた)各試料内のこのユニバーサルマップ内で各エンリッチメント領域を定量化した。INリードに対して同様のRPMスコアを計算した。IN RPMをIP RPMから引いて、所与の試料について、ユニバーサルマップ内の所与の領域に対する全体のスコアを得た。R MASSライブラリーv7.3.45のfitdistr関数を使用して、負の二項分布を所与の試料に対するスコアに適合させた。分布の末端を、この負の二項式の累積分布関数が0.99(0.01のp値と等しい)と交差するポイントとして位置づけした。このポイントによる試料の領域のすべてに対する全体のスコアを、適合させた負の二項分布の最下部の99%にスコア化された任意のエンリッチメント領域が1未満にスコア化され(「典型的なエンハンサー」とみなされる)、99%より上にスコア化された任意の領域が1を超えるスコアをとる(「スーパーエンハンサー」とみなされる)ように分けた。これらのスコアは、ユニバーサルマップに対する各試料に関する「RECOMB」スコアと呼ばれる。次いで、クオンタイル正規化を使用し、フロアを0に設定して、各試料のRECOMBスコアをすべての他の試料に対して正規化した。
【0185】
ChIP-seqデータの可視化:パイルアップ(エクステントサイズ(extsize)200)を作成するためのMACS2及びTDFコマンドのためのigvtool v2.3.9ソフトウェアのigvtoolを使用してBAMファイルをIGVフォーマット化ファイルに変換した後に、Integrative Genomics Viewer(IGV)バージョン2.3.60を使用して、H3K27Acのゲノムワイドな局在を可視化した。ノイズレベル(0.25)のちょうど上で始まり、MALAT1遺伝子を中心とする制御領域にわたってピークの完全な高さを見るために必要とされるレベルのおおよそ半分のレベルで終わるように、各トラックのY軸を設定した。
【表2】
【0186】
上記のデータは、≧1.0のIRF8のRECOMBエンハンサースコア(≧1.0のRECOMBスコアはスーパーエンハンサーを定義する)がタミバロテンに対する応答性とよく相関することを示す。HL60APL細胞株を除いて、試験した12種の非APL
AML細胞株の中から、そのカットオフ値は1つの偽陽性(Kasumi-1)及び1つの偽陰性(EOL-1)をもたらした。≧1.25のRECONMBスコアにカットオフを上げれば偽陽性を除外すると思われ、一方で≧0.75のRECOMBスコアにカットオフを下げれば偽陰性を除外すると思われる。このデータは、図6においてグラフ形態でも示す。IRF8 mRNAレベルとタミバロテンに対する応答性の間の同様の相関も観察され、4.25より大きいIRF8 mRNAのTPM(log)値を有する細胞株は、すべてタミバロテン感受性を示した。
【0187】
次いで、AML患者試料のサブセットに対するChIP-seqによって、エンハンサープロファイリングを適用した。IRF8遺伝子座のエンハンサー強度は、66種のAML患者試料の間で大きく変化し、SEを有する患者の21%(14/66)が1.0を上回るRECOMBスコアで示された(図7)。たいていの患者試料はIRF8エンハンサーが定量化できない最も低い14%(9/66)を含めた、最低限のエンハンサー活性を示した。
【0188】
実施例5:IRF8 mRNAとIRF8エンハンサー強度の相関
IRF8エンハンサーの定量化及びChIP-seqとRNA-seqデータの相関:クオンタイル正規化したRECOMBスコアを、IRF8と重複する、ユニバーサルマップでエンハンサーと呼ばれる領域(chr16:85862582~85990086)について、すべての患者にわたって使用した。これは、スピアマンの相関を使用するRSEMからの完全なIRF8遺伝子モデルについてのクオンタイル正規化したTPM発現の推定と相関した。RNA-seqとChIP-seqの両方を有する患者のみを使用した。細胞株で同じ解析を行ったが、APL細胞株は除外した。
【0189】
IRF8 mRNAの測定値によるIRF8 SEの代理推定を可能にするために、これら2つの間の相関を同じAML患者コホートで調べた。RNA-seqで測定したIRF8 mRNAをH3K27acに対するRITCOMBスコアによるIRF8遺伝子座エンハンサー尺度と比較した(図8)。IRF8 mRNAレベルもこのコホートの試料間で大きく変化し、IRF8 mRNAレベルは、IRF8エンハンサー強度と非常に相関した(スピアマンのRho相関推定は約0.81、2.2×l0-12のP値)。
【0190】
26種のAML細胞株において、IRF8エンハンサー強度及びIRF8 mRNAレベルの値もプロファイルした。これらの細胞株のいくつかは、タミバロテンに対する抗増殖感受性について以前に試験した(表2を参照されたい)。AML患者試料で観察されるように、AML細胞株は、IRF8エンハンサー強度の幅広い分布を示した(図9)。IRF8エンハンサー強度及びIRF8 mRNAレベルも26種のAML細胞株で大きく変化し、そのうちの9種(34%)は≧1.0のIRF8 RECOMB値を有していた。
【0191】
AML患者試料と同様に、AML細胞株は、IRF8 mRNAレベルとIRF8エンハンサー強度の強い相関を示し(図10;スピアマンのRho相関推定は約0.82、2×l0-6のP値)、したがって、これは、IRF8エンハンサー強度の代理尺度としてのIRF8 mRNAを支持する。
【0192】
実施例6:タミバロテンに対するPDXモデルの応答及びIRF8 mRNAレベルとの相関
BALB/cヌード免疫無防備状態マウスにおける異なるAML患者試料(AM8096、AM5512、AM7577及びAM7440)由来の異種移植モデルは、Crown Biosciences(Beijing、China)によって、本質的に以下のように調製される。
【0193】
各患者試料からのおよそ2×10個の細胞を100μLのPBSに懸濁し、尾のIV注射によって、別々のマウス(それぞれの異なる患者試料及び対照について、n=3)に注射した。AM5512、AM7577及びAM7440異種移植片については、腫瘍量は、ヒトCD45細胞の濃度が動物の末梢血で約1~5%に達するときに、処置を開始するのに十分高いと考えられる。蛍光活性化セルソーター及びFITC抗ヒトCD45(Biolegend、カタログ番号304037)を使用して、ヒトCD45細胞を(眼出血から得られる)マウス血液で検出する。AM8096異種移植片については、処置は細胞の注射から40日後に開始する。
【0194】
10ml/kg容量で6mg/kg体重の最終用量の毎日のスケジュールで、pH8に調整したPBS、1%DMSO中で、タミバロテンを経口的に投与する。ビヒクル群のマウスに同じスケジュール、容量及び製剤を与えるが、タミバロテンを欠く。処置動物及び対照動物からの末梢血中のヒトCD45細胞のレベルを1週1回測定する。
【0195】
AM5512及びAM8096異種移植片は、タミバロテンで処置した場合に、35日間の処置後にビヒクル対照と比較して、CD45細胞の合計%ならびに血液、骨髄及び脾臓におけるCD45細胞の%の有意な低減を示す(図11)。これに反して、AM7577及びAM7440は、全体的にまたは血液、骨髄もしくは脾臓のうちのいずれにおいても、タミバロテン処置動物とビヒクル処置動物の間で腫瘍体積の有意な低減を示さない(図12)。
【0196】
次いで、異種移植片研究で使用した4つの患者試料のそれぞれにおいて、IRF8 mRNAレベルとRARA mRNAレベルの両方を測定した(図13)。異種移植片研究における2つの非レスポンダー、AM7577及びAM7440は、本アッセイにおいて、100TPMをはるかに下回るIRF8 mRNAレベルを有する。レスポンダーのうちの1つ、AM8096は、350TPMを超えるIRF8 mRNAレベルを有する。もう1つのレスポンダー、AM5512は、非常に低いレベルのIRF8 mRNAを有する。興味深いことに、これらの4試料はRARA mRNAレベルについて同様のパターンを示し、AM7577及びAM7440は任意の決定された保有率カットオフ(例えば、36%保有率カットオフ)より低いRARA mRNAレベルを有し、AM8096はその保有率カットオフを有意に上回り、AM5512も保有率カットオフより低かったが、AM7577またはAM7440非レスポンダーのどちらよりも有意に高いRARA mRNAを有していた。
【0197】
実施例7:IRF8 mRNAレベルの決定及びchipシークエンシングのための患者試料の調達及び調製
血液(8mL)を非APL AML患者から採取し、8mLのBD Vacutainer CPTクエン酸ナトリウムチューブに収集した。採血に続いて、チューブを8~10回手で軽く転倒させて、確実に抗凝血剤が十分に見られなくなるようにした。収集してから2時間以内に行う遠心分離の前に、チューブを直立させて室温で保存した。次いで血液試料を、1500~1800RCF(相対遠心力)で、室温(l8~25℃)で20分間遠心分離した。遠心分離後に、血液は層に分離した。ゲルプラグより下の下部層は、完全な下部にある赤色層(赤血球)及びこの上の薄い灰色の層(顆粒球及び密度溶液)である。ゲルプラグの真上は密度溶液の透明な層であり、次いで、白色層(単核細胞及び血小板)及び上部の黄色がかった層(血漿)であった。PBMCを含む白色層(1mLの体積まで)を遠心分離してからパスツールピペットで直ちに取り出した。必要に応じて、滴加し、続いて穏やかに手で反転させて混合する20%v/vのBloodStor(登録商標)凍結培地(BioLife Solutions)を含むクライオバイアル中でPBMCを保存することができる。
【0198】
次いで、磁気標識及び標識された細胞の磁気分離について製造者の手引きに従って、先のステップで得られたPBMC画分(前に凍結した場合は解凍した)をヒトCD117ミクロビーズ(Miltenyi Biotec)及びヒトCD34ミクロビーズ(Miltenyi Biotec)で同時に処理した。次いで、単離したCD34/CD117細胞から伝令RNAを抽出し、上記のようにqPCRを使用して定量化した。
【0199】
実施例8:タミバロテンとRARA mRNAレベルと相関する他の薬剤の間の相乗作用
Biotek EL406を使用して、20~60,000細胞/mlを含む50μLの細胞培地を白色384ウェルNuncプレート(Thermo)に分配した。次いで、懸濁細胞には化合物を直ちに加えたが、接着細胞株には1時間与えて、化合物の添加より前にプレートの表面に再付着させた。タミバロテン及び試験する第2の薬剤をDMSOに溶解し、384ウェル化合物貯蔵プレート(Greiner)上にアレイ化させた。各化合物プレートに、それぞれ所与の細胞株に対する所与の化合物のEC50を中心とした5つの異なる用量でタミバロテン及び1つの第2の薬剤を加え、これによって、2つの薬剤について合計で25の異なる用量の組み合わせがもたらされた。
【0200】
Janus MDTワークステーション(Perkin Elmer)上で、20nlの384ウェルピントランスファーマニフォールドを使用して、化合物アレイをアッセイプレートに分配した。各プレートは、各化合物それ自体の4重の5つの用量に加えて、すべての5×5の化合物濃度の8つの反復物を含んでいた。化合物の添加後、細胞プレートを37℃インキュベーター中で5日間インキュベートした。ATPlite(Perkin Elmer)を使用して、製造者プロトコールに従って、細胞生存率を評価した。データを市販のCalcuSynソフトウェアを使用して解析し、GraphPad Prismソフトウェアを使用して可視化した。タミバロテンと第2の薬剤の25の用量の組み合わせのそれぞれをプロットするアイソボログラムを作成し、相乗作用の存在について解析した。アイソボログラムでは、1.0の横座標値と縦座標値を結ぶ直線は、2つの化合物の組み合わせについて相加的であった増殖阻害を示す。その直線を下回るプロットは相乗的な増殖阻害を示し、その線及び0.75の横座標値と縦座標値を結ぶ線を下回るプロットは、軽度の相乗作用を示す。0.75の横座標値と縦座標値を結ぶ線と0.25の横座標値と縦座標値を結ぶ線の間に入るプロットは、中程度の相乗作用を示す。0.25の横座標値と縦座標値を結ぶ線を下回るプロットは、強い相乗作用を示す。各アイソボログラムの最大値の外側にあるデータポイントはアイソボログラムの右上隅のアステリスクの数で示され、相乗作用なしのデータポイントを示す。
【0201】
様々なAML細胞株に対するこれらのアッセイにおいて、アザシチジン、三酸化ヒ素、ミドスタウリン、シタラビン、ダウノルビシン、メトトレキサート、イダルビシン、ソラフェニブ、デシタビン、キザルチニブ、ABT199(BCL2阻害剤)、JQ1(BRD4阻害剤)、ATO、プレドニゾン、SAHA、GSKJ4(JMID3/JARID1B阻害剤)及びEPZ6438(EZH2阻害剤)を第2の薬剤として試験した。図15~21は、異なる細胞株においてタミバロテンと組み合わせた様々な第2の薬剤に対するアイソボログラムを示す。
【0202】
アザシチジンとタミバロテンの組み合わせについては、Sig-M5について中程度から強い相乗作用が観察され、KG-1a及びNOMO-1について中程度の相乗作用が観察され、MV-4-11について軽度から中程度の相乗作用が観察された(図15を参照されたい)。Kasumi-1またはOCI-M1については、相乗作用は観察されなかった(データ非表示)。
【0203】
三酸化ヒ素とタミバロテンの組み合わせについては、Sig-M5及びMV411について強い相乗作用が観察され、NOMO-1について中程度の相乗作用が観察された(図16を参照されたい)。Kasumi-1については、なしから軽度の相乗作用が観察され、OCI-M1については相乗作用が観察されなかった(データ非表示)。
【0204】
シタラビン(Ara-C)とタミバロテンの組み合わせについては、KG-1a及びOCI-M1について、いくらかの中程度の相乗作用が観察されたが、HL-60については相乗作用が観察されなかった(図17を参照されたい)。MV-411については、最大値の外側の多数のデータポイント(25のうち7)及び強い相乗作用を示した多数によって、解釈が難しくなる。
【0205】
ダウノルビシンとタミバロテンの組み合わせについては、Kasumi-1及びNOMO-1について強い相乗作用が観察され、Sig-M5及びMV-4-11について中程度の相乗作用が観察された(図18を参照されたい)。OCI-M1については、相乗作用が観察されなかった(データ非表示)。
【0206】
メトトレキサートとタミバロテンの組み合わせについては、NOMO-1、Sig-M5及びMV-4-11について、中程度の相乗作用が観察された(図19を参照されたい)。Kasumi-1については、なしから軽度の相乗作用が観察され、OCI-M1については、相乗作用は観察されなかった(データ非表示)。
【0207】
イダルビシンとタミバロテンの組み合わせについては、NOMO-1、Sig-M5及びMV411について、中程度の相乗作用が観察された(図20を参照されたい)。Kasumi-1またはOCI-M1については、相乗作用は観察されなかった(データ非表示)。
【0208】
最大値の外側の多数のデータポイントが原因で、MV411、NOMO-1、KG-1a及びSig-M5におけるソラフェニブとタミバロテンの組み合わせについて不確定の結果が観察されたが(参照されたい図21)、OCI-M1におけるこの組み合わせについては、相乗作用は観察されなかった(データ非表示)。ソラフェニブはFLT3阻害剤であり、一部の細胞株において、タミバロテンと他のFLT3阻害剤、例えばミドスタウリン及びキザルチニブとの組み合わせについても、相乗作用が観察された。理論に拘束されないが、本発明者らは、FLT3阻害剤との相乗作用は、高RARA及び/または高IRF8 mRNAレベルならびに高FLT3 mRNAレベルの両方を必要とすると考える。この「条件付き」相乗作用はGCR阻害剤プレドニゾンとでも見られ、これは、高GCR mRNAレベルならびに高RARA及び/または高IRF8 mRNAレベルを必要とするように思われた。これはJMJD3/JARIDIB阻害剤GSKJ4とでも観察され、これは、相乗作用が確認されるには、高JMJD3/JARID1B mRNAレベルならびに高RARA及び/または高IRF8 mRNAレベルを必要とすると思われた。
【0209】
BCL2阻害剤ABT199とタミバロテンの組み合わせについては、試験したいかなる細胞株においても相乗作用が観察されなかった。EZH2阻害剤EPZ6438とタミバロテンの組み合わせにおいても、相乗作用が観察されなかった。
【0210】
しかし、高RARA及び/または高IRF8 mRNA AML細胞株において、HDAC阻害剤SAHAとタミバロテンの組み合わせについて、相乗作用が観察された。
【0211】
さらに、HL-60及びKG-1a細胞において、デシタビンとタミバロテンの組み合わせについて、強い相乗作用が観察された(データ非表示)。
【0212】
Znフィンガー転写因子阻害剤ATOとタミバロテンの組み合わせについても、相乗作用が観察された。
【0213】
いかなる特定の理論にも拘束されないが、高RARAレベル、高IRF8レベルまたは両方の組み合わせを特徴とする非APL AMLは、タミバロテンとアザシチジン、三酸化ヒ素、ミドスタウリン(高FLT3 mRNAレベルを特徴とするAMLにおいて)、シタラビン、ダウノルビシン、メトトレキサート、イダルビシン、ソラフェニブ(高FLT3 mRNAレベルを特徴とするAMLにおいて)、デシタビン、キザルチニブ(高FLT3 mRNAレベルを特徴とするAMLにおいて)、JQ1(BRD4阻害剤)、ATO、プレドニゾン(高GCR mRNAレベルを特徴とするAMLにおいて)、SAHA、及びGSKJ4(高JMJD3/JARID1B mRNAレベルを特徴とするAMLにおいて)の1つまたは複数との組み合わせに相乗的に応答する可能性があると仮定することができる。
参考文献
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【外国語明細書】