(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057208
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】ダイカスト用水性離型剤
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20230414BHJP
B22C 3/00 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B22D17/20 D
B22C3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166579
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】石川 真
【テーマコード(参考)】
4E092
【Fターム(参考)】
4E092AA01
4E092AA28
4E092CA03
4E092CA04
4E092DA02
4E092GA01
(57)【要約】
【課題】ガス発生を抑え、湯廻り性および耐熱性を改善した離型剤であって、低速・高速ダイカスト問わず使用可能なダイカスト離型剤を提供する。
【解決手段】層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、および水を含有し、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、前記層状ケイ酸塩鉱物(X)が0.05<X≦25質量%、芳香族カルボン酸塩(Y)が0.005<Y≦20質量%含まれることを特徴とするダイカスト用水性離型剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、および水を含有し、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、
前記層状ケイ酸塩鉱物(X)が0.05質量%<X≦5質量%、
芳香族カルボン酸塩(Y)が0.005質量%<Y≦20質量%含まれることを特徴とするダイカスト用水性離型剤。
【請求項2】
さらに重量平均分子量200~40万の水溶性高分子を20質量%以下含む、請求項1に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項3】
層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、重量平均分子量200~40万の水溶性高分子、および水を含有し、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、
前記層状ケイ酸塩鉱物(X)が5質量%<X≦25質量%以下、
芳香族カルボン酸塩(Y)が0.005質量%<Y≦20質量%、
重量平均分子量200~40万の水溶性高分子が20質量%以下含まれることを特徴とするダイカスト用水性離型剤。
【請求項4】
前記層状ケイ酸塩鉱物がスメクタイト系である、請求項1~3のいずれか一項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【請求項5】
前記層状ケイ酸塩鉱物の水分散時の粒径が0.1μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のダイカスト用水性離型剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速・高速ダイカスト用水性離型剤に関し、詳しくは、湯廻り性および耐熱性が改善されたダイカスト用水性離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の非鉄金属の鋳物には、製品の軽量化のため、高い強度が求められる。溶湯(溶融アルミニウム等)の射出速度が遅い層流ダイカストや、スクイズダイカストのような低速鋳造法は、金型内に溶湯を射出する際に空気を巻き込みにくく、強度の高い鋳造品が得られるため、このような非鉄金属の鋳物の製造方法として用いられる。
【0003】
一方、前記した鋳造法では、溶湯の射出速度が遅いため、金型の薄肉部や末端では、溶湯が完全に満たされる前に凝固してしまい、望んだ形状が得られない鋳込み不良(湯廻り不良)が発生することがある。また、潤滑剤の分解に伴うガスの巻き込みによる鋳巣の発生も、鋳物の強度が低下する原因となる。
【0004】
ところでダイカスト鋳造では、金型と、溶湯が固化してなる鋳造品との溶着を防止し、鋳造品を傷付けることなく容易に金型から取り出すため、通常、成形サイクルごとに金型の成形面に離型剤が塗布される。離型剤には、潤滑成分として、ワックス類、エステル類、シリコーンオイル等が含まれており、分散媒の有無や種類に応じて水性型(分散媒:水)、油性型(分散媒:炭化水素系液体)、粉体型(無溶媒)がある。これらのうち、塗布の容易さや塗布と同時に金型を冷却できること等から、ダイカスト離型剤としては、水性型の離型剤が最もよく用いられる。例えば、特許文献1では、2個以上のカルボキシル基を有する芳香族化合物またはその誘導体と、1~4個のヒドロキシル基を有する化合物とのエステル化反応および中和反応により得られるエステルカルボン酸塩が、低温のみならず高温においても、水性型のダイカスト用離型剤の潤滑成分として優れた性能を有することが開示されている。
【0005】
また、このようなダイカスト離型剤に、タルク、カオリン、グラファイト、雲母等の無機滑材を添加すると断熱性が向上し、湯廻り不良の抑制に有効であることが知られている。例えば、特許文献2には、低速射出金型鋳造用の水性離型剤として、チクソトロピー性を有する特定の粘土鉱物と特定の高分子量有機化合物とを組み合わせて使用し、そこにイオン的反発効果を有する分散剤を水とともに配合した水性離型剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-205139号公報
【特許文献2】特許第4464214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、耐熱性が比較的優れているといわれる芳香族カルボン酸エステル類であっても、溶融金属の保温性が第一義的に要求される低速ダイカスト等ではその要求を満たすレベルにはない。
一方、保温性向上目的で粘土鉱物を配合した水性離型剤では、離型剤中に分散させた粘土鉱物の凝集・沈降により、配管内堆積やノズル詰まり等、メンテナンスや生産効率上の問題が発生し易い。また、特許文献2に記載されたような特定の高分子量有機化合物や分散剤は、原液状態での粘土鉱物の安定分散には寄与するが、実際に使用される形態である水希釈後ではその効果は著しく低下するために上記問題を解決できない。
【0008】
それゆえ、粘土鉱物を含有する離型剤は、溶融金属の保温性が第一義的に要求される分野、特に低速ダイカスト等で限定的に使用されることが一般的である。このため、湯廻り性および耐熱性を改善した離型剤であって、アルミニウム鋳物の品質や生産性の向上に資するダイカスト用水性離型剤が要望されている。
本発明は、溶湯保温性に優れるとともに生産性/作業環境の改善を実現できることにより、低速・高速ダイカストを問わず使用可能なダイカスト離型剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のダイカスト用水性離型剤は、層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、および水を含有し、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、前記層状ケイ酸塩鉱物(X)が0.05質量%<X≦5質量%、芳香族カルボン酸塩(Y)が0.005質量%<Y≦20質量%含まれることを特徴とする。
本発明のダイカスト用水性離型剤は、断熱性に優れた層状ケイ酸塩鉱物と、高い耐熱性を持つ芳香族カルボン酸塩とを含有するため、より高い断熱性を有する。前記構成により、本発明は、鋳巣の発生を抑え、複雑な形状の素形材や部品をつくるダイカストにおいて、品質の高い鋳物の生産に寄与することができる。
【0010】
前記ダイカスト用水性離型剤は、さらに重量平均分子量200~40万の水溶性高分子を20質量%以下、必要に応じて含むことが好ましい。
特定の水溶性高分子を共存させることにより、水性離型剤の流動性が向上し、前記ダイカスト用水性離型剤成分を高濃度化させた場合に懸念される液状態の不安定化等の不具合を防止することができる。
【0011】
本発明のダイカスト用水性離型剤は、層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、重量平均分子量200~40万の水溶性高分子、および水を含有し、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、前記層状ケイ酸塩鉱物(X)が5質量%<X≦25質量%以下、芳香族カルボン酸塩(Y)が0.005質量%<Y≦20質量%、重量平均分子量200~40万の水溶性高分子が20質量%以下含まれることを特徴とする。
【0012】
前記層状ケイ酸塩鉱物はスメクタイト系であることが好ましい。
前記層状ケイ酸塩鉱物の水分散時の粒径は0.1μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のダイカスト用水性離型剤は、水に対して安定に透明分散可能な特定の層状ケイ酸塩鉱物および芳香族カルボン酸塩の両方を配合していることを特徴としている。特定の層状ケイ酸塩鉱物を配合することにより、水性離型剤の保温性を向上させると同時に、原液状態および希釈液状態において常に安定した液状態を維持することができる。これにより、本発明の水性離型剤は、金型に塗布して形成された離型剤皮膜が良好な溶湯保温性、すなわち断熱性を示すことにより優れた湯廻り性を実現することができる。一方、芳香族カルボン酸塩を配合することにより高い耐熱性が付与され、焼き付きを防止して品質低下を防止することができる。同時に、本発明の水性離型剤は、特定の層状ケイ酸塩鉱物の配合並びに必要に応じて重量平均分子量200~40万の水溶性高分子を含有させることにより、安定で取り扱いの容易な液状態を実現し、配管内への沈降・堆積等の発生を防止して、生産性/作業性の改善に寄与する。さらに、本発明の水性離型剤は、乾燥後においても容易に水中に再分散するため、機械廻りの汚れ蓄積を抑制できる。
以上の効果により、本発明の水性離型剤は、高い製品品質と製造効率とを同時に実現することができるとともに、高速および低速いずれのダイカスト鋳造にも好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は断熱性評価の手順を説明する概略図である。
【
図2】
図2は離型性評価の手順を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のダイカスト用水性離型剤について詳細に説明する。
本発明のダイカスト用水性離型剤(以下単に「水性離型剤」という。)は、層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、および水を含有し、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、前記層状ケイ酸塩鉱物(X)が0.05質量%<X≦5質量%、芳香族カルボン酸塩(Y)が0.005質量%<Y≦20質量%含まれる。
【0016】
本発明の水性離型剤は、粘土鉱物を構成する主成分鉱物である、層状ケイ酸塩鉱物を含有する。層状構造を有する粘土鉱物は、金属イオンの同型置換により層自身は負に帯電し、大きな陽イオン交換能を持っている。このような層状粘土鉱物を水に分散させると、表面の電荷分布の変化などにより、膨潤し、安定なコロイド溶液様の分散液を形成する。また、本発明に係る層状ケイ酸塩鉱物は、微細な粒子からなるため、水分散性に優れる。また、耐熱性にも優れるため、ダイカスト中に分解ガスを発生することがほとんどない。層状ケイ酸塩鉱物を含む水性離型剤を金型に塗布することで、熱分解しにくい、すなわち、耐焼付き性に優れた皮膜を形成させることができる。
【0017】
層状ケイ酸塩鉱物は、カオリナイト、パイロフィライト、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、バイデライトおよびモンモリロナイト等)、バーミキュライト、雲母粘土鉱物(イライトおよびセリサイト)、タルク、海緑石、および緑泥石等である。
【0018】
層状ケイ酸塩鉱物は、水分散時の粒径が0.1μm以下、もっと具体的には0.05μm以下であることが好ましい。水中での層状ケイ酸塩鉱物の粒子が微細であるほど、分散性しやすく、沈殿または沈降防止の点で優れるため、本発明に好適である。
【0019】
水分散性に優れる層状ケイ酸塩鉱物としては、スメクタイト(サポナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、およびバイデライト)が好ましく、スメクタイトのうち、天然あるいは合成の、サポナイト、ヘクトライトおよびスティブンサイトが、水を媒体とする希薄分散時に特異的な微細粒子となり、透過率が高く、安定な分散液を形成できるため、より好ましい。
【0020】
例えば、ヘクトライトを水に添加した場合、ヘクトライトはその粒子がほとんど視認できないほど小さな粒子となって水の中に入り込み、水分散液は透明な液状を呈する。前記水分散液は、水分蒸発により乾燥皮膜となっても、水を注入すれば再び分散するため、ノズル詰まり防止の点で有利である。前記水分散液は、調製後2ヶ月以上経過しても状態に変化はなく、沈殿または沈降がみられない。また、ヘクトライトは無機粉末であるため、650~720℃の溶湯に相当する温度でも熱分解しない。さらに、金型と溶湯との接触面全体に形成された水性離型剤による皮膜には熱分解し難いヘクトライトを含むため、水性離型剤による皮膜が、金型と溶湯との接触面全体に形成され、金型と溶湯が直接接触せず焼付きの発生を防ぐ効果がある。
【0021】
芳香族カルボン酸塩は、下記一般式(1)で表される芳香族カルボン酸と、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどの塩基性化合物との塩である。なお、芳香族カルボン酸塩を得るのに、下記一般式(1)で表される芳香族カルボン酸の無水物を用いてもよい。芳香族カルボン酸塩は、高い耐熱性を有する。
【化1】
一般式(1)中、Xは水素原子またはカルボキシル基(-CO
2H)を表し、Xのうち少なくとも1つはカルボキシル基を表す。
【0022】
下記一般式(1)で表される芳香族カルボン酸は、具体的には、ピロメリット酸、トリメリット酸およびイソフタル酸などである。
本発明で用いられる芳香族カルボン酸塩は、具体的には、これらの芳香族カルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩である。具体的には、ピロメリット酸ナトリウム、ピロメリット酸カリウム、トリメリット酸ナトリウム、トリメリット酸カリウム、イソフタル酸ナトリウムおよびイソフタル酸カリウムである。アルカリ金属であるナトリウムやカリウムを芳香族カルボン酸の対イオンとして用いた場合、特に高い耐熱性を水性離型剤に付与することができる。
【0023】
本発明の水性離型剤は、層状ケイ酸塩鉱物と芳香族カルボン酸塩とを併用することにより、層状ケイ酸塩鉱物のみを含む場合に比べて、金型に形成される離型剤皮膜の均一性が増加し、断熱性が向上する。
【0024】
水性離型剤全体を100質量%としたとき、層状ケイ酸塩鉱物(X)の濃度は0.05質量%<X≦5質量%であり、芳香族カルボン酸塩(Y)の濃度は0.005質量%<Y≦20質量%である。芳香族カルボン酸塩(Y)の濃度は、0.1質量%≦Y≦10質量%であることが好ましい。
なお、水性離型剤全体を100質量%とは、層状ケイ酸塩鉱物と芳香族カルボン酸塩と残部(水や添加剤)との合計100質量%をいう。
【0025】
層状ケイ酸塩鉱物および芳香族カルボン酸塩の濃度が前記範囲であるとき、本発明の水性離型剤は、後述する重量平均分子量200~40万の水溶性高分子を添加しなくても、優れた保温性を維持するとともに、原液および希釈液のいずれにおいても、安定した液状態を維持することができる。
【0026】
芳香族カルボン酸塩は、層状ケイ酸塩鉱物に対して、概ね3:1の質量比で添加すればよいが、層状ケイ酸塩鉱物に対して3:2まで添加すると、本発明の効果を維持しつつ、耐熱性がさらに向上する。
さらに、特定の水溶性高分子を共存させることにより水性離型剤の流動性が向上し、保温性・耐焼き付き性の向上を妨げることなく、ノズル詰まりや汚れ堆積等の防止を担保することができる。
【0027】
前記水性離型剤では、層状ケイ酸塩鉱物(X)の濃度が5質量%<X≦25質量%以下であるとき、芳香族カルボン酸塩に加えて、特定の水溶性高分子が必須成分となる。このとき、ダイカスト用水性離型剤100質量%中、芳香族カルボン酸塩(Y)の濃度は0.005質量%<Y≦20質量%であり、重量平均分子量200~40万の水溶性高分子の濃度は20質量%以下である。
【0028】
水性離型剤中で流動性向上剤の機能を示す特定の水溶性高分子には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0029】
上記水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、200~40万の範囲であればよいが、1000~10万の範囲が好ましく、2000~1万の範囲がより好ましい。本発明では、重量平均分子量(Mw)2000~1万のポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを使用することが好ましい。
【0030】
前記水性離型剤中の重量平均分子量(Mw)200~40万の水溶性高分子の濃度は、層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩、水溶性高分子および残部の合計を100質量%としたとき、0.001~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。
【0031】
前記水性離型剤は、前記層状ケイ酸塩鉱物、前記芳香族カルボン酸塩、前記水溶性高分子の他に、水を含有する。水には、水道水、蒸留水、イオン交換水および純水等が用いられる。水は、水性離型剤中の層状ケイ酸塩鉱物、芳香族カルボン酸塩および水溶性高分子以外の残部であるから、その濃度は概ね35~99質量%である。
【0032】
本発明の水性離型剤には、前記層状ケイ酸塩鉱物の他に、本発明の効果を損なわない範囲内で、一般的な水性離型剤に含まれる離型成分、乳化剤成分、およびその他の添加剤成分が含まれていてもよい。
【0033】
離型成分には、シリコーン化合物、ワックス類、鉱油、油脂類および合成油等が挙げられる。前記シリコーン化合物は、例えば、シリコーンオイル等である。前記ワックス類は、例えば、パラフィンワックス、オレフィンワックス、ポリエチレンワックスおよびポリプロピレンワックス等の石油系ワックス;酸化ポリエチレンワックスおよび酸化ポリプロピレン等の酸化ワックス;ならびに蜜蝋、カルナバワックスおよびモンタンワックス等の天然ワックス等である。前記油脂類は、例えば、動物油および植物油等である。前記合成油は、例えば、ポリブテンおよびポリエステル等である。前記離型成分は、水に分散したエマルションとして供給されることもあるが、それらを単独で用いてもよいし二種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
前記乳化剤成分は、本発明に含有されるすべての水性離型剤成分を水中に乳化分散できるものであればよく、イオン性界面活性剤(アニオン、カチオンおよび両性界面活性剤)ならびにノニオン界面活性剤のいずれも用いることができるが、ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤が好ましい。前記ノニオン界面活性剤は、例えば、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリルエーテルおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等である。前記アニオン界面活性剤は、例えば、脂肪酸石けん、アルキル/アリルスルホネート等である。前記乳化分散剤成分は、単独で用いてもよいし二種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
その他の添加剤成分は、消泡剤、腐食防止剤、防腐剤、防錆剤、増粘剤および酸化防止剤等である。
【0036】
本発明の水性離型剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば、水に乳化剤成分を溶解させた溶液に、層状ケイ酸塩鉱物を添加して均一に混合し、さらに、シリコーン化合物等の離型成分を加えて均一に混合することにより、好適に製造することができる。
【0037】
本発明の水性離型剤は、スクイズダイカスト、層流(低速)ダイカスト、一般ダイカスト等、種類を問わず用いられる。
ダイカスト用の素材は、アルミニウム、亜鉛およびマグネシウム等の非鉄金属ならびにその合金である。ダイカスト鋳造により、例えば、アルミニウム合金を用いた自動車部品を好適に製造することができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例および比較例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により制限されるものではない。
[水性離型剤の調製]
実施例1~17および比較例1~13について、表3および表4に示す配合比により、水性離型剤を調製した。
【0039】
[水性離型剤の評価]
(1)安定性
水性離型剤を室温で6か月静置した後、目視により評価した。
濁りや沈殿物が認められなかった場合を〇、析出物が認められた場合を△、沈降や二層分離が生じていた場合を×とした。なお、シリコーンエマルションを水で5倍に希釈した水性離型剤の安定性を基準(〇)とする相対評価とした。
また、水性離型剤を原液として50倍希釈した希釈液の安定性も上記と同様に目視にて評価した。希釈した際は、3日静置した後を評価した。
【0040】
(2)断熱性
図1に示す装置を用いて、以下のように断熱性、すなわち溶湯保温性を評価した。表面下、2mmに熱電対を内蔵した鋼板を300℃に加熱し、水性離型剤をスプレー塗布した。その後、680℃のアルミニウム合金(JISK2219記載のADC12)溶湯を鋼板上に設置したリング内に100ml給湯した。この際に熱電対が示す温度変化を測定した。試験条件を表1に示す。
【0041】
【表1】
温度上昇が140℃未満であった場合を◎、140℃以上150℃未満の場合を〇、150℃以上170℃未満の場合を△、170℃以上となった場合を×とした。
【0042】
(3)離型性
鋳型温度が高温になると、付着被膜が熱分解して消失し付着効率が極端に落ち、溶湯と金型が直接接触して焼付きが発生する。そこで、水性離型剤を塗布した鋼板の温度を350℃にしたときの焼付きの発生の有無をLubテスター試験で確認した。表2に試験条件を、
図2に試験方法を示す。
【0043】
【0044】
350℃で焼付きの発生が認められなかった場合を〇、焼付きの発生が認められた場合を×とした。シリコーンエマルションを水で5倍に希釈した水性離型剤の離型性を基準(×)とする相対評価とした。
【0045】
〔実施例1〕
ヘクトライト0.1質量部、ピロメリット酸二無水物1.5質量部、水酸化ナトリウム0.95質量部、シリコーンエマルション0.5質量部、および水を混合して、合計100質量部の水性離型剤を調製した。
得られた水性離型剤の安定性、希釈液安定性、断熱性および離型性を評価したところ、いずれも〇であった。
水性離型剤の成分の配合量および評価結果を表3に示す。
【0046】
〔実施例2~17〕
表3、表4に示す成分をそれぞれ表3、表4に示す配合比となるように配合した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~17の水性離型剤を調製した。
実施例1と同様に水性離型剤の安定性、希釈液安定性、断熱性および離型性を評価した。
【0047】
水性離型剤の安定性、希釈液安定性、断熱性および離型性の評価結果を表3、表4に示す。
実施例2および8では、300℃に加熱した鋼板に水性離型剤をスプレー塗布したときの温度上昇ΔT(℃)は132.6℃および141.3℃であり、断熱性評価は◎であった。また、Lubテスター試験による離型中の離型抵抗は、実施例2では、鋼板温度が300℃のとき、9.3kg、鋼板温度が350℃のとき、11.8kgであり、実施例8では、鋼板温度が300℃のとき、10kg、鋼板温度が350℃のとき、13kgであり、いずれの離型性評価も○であった。
表3、表4に示すとおり、実施例1~17の水性離型剤は、安定性、希釈液安定性、断熱性および離型性のいずれも優れていた。
【0048】
〔比較例1~13〕
表4に示す成分をそれぞれ表4に示す配合比となるように配合した以外は、実施例1と同様にして、比較例1~13の水性離型剤を調製し、水性離型剤の安定性、希釈液安定性、断熱性および離型性を評価した。
水性離型剤の安定性、希釈液安定性、断熱性および離型性の評価結果を表4に示す。
比較例1の水性離型剤は、断熱性がやや劣っており、芳香族カルボン酸塩を添加しなかったために、耐熱性が充分でないことを示していた。比較例12の水性離型剤も芳香族カルボン酸塩の量が少ないため、耐熱性が充分でなかった。
層状ケイ酸塩鉱物を含まない比較例2の水性離型剤は断熱性が著しく劣っていた。また金型の皮膜も不均一となり、離型性にも劣っていた。
層状ケイ酸塩鉱物の量が0.005質量%と少なかった比較例3の水性離型剤では、断熱性に劣っていた。層状ケイ酸塩鉱物の量が5質量%を超える比較例4および比較例5の水性離型剤では、水溶性高分子が含まれていないため、安定性に劣っていた。
比較例6の水性離型剤は、層状ケイ酸塩鉱物の量が30質量%と多いため、水溶性高分子を添加しても、充分な安定性が得られなかった。
比較例7~9の水性離型剤は、断熱性がやや劣っており、芳香族カルボン酸塩を添加しなかったために、耐熱性が充分でないことを示していた。比較例10、11の水性離型剤は安定性に劣り、ポリスルホン酸塩やポリマレイン酸塩が層状ケイ酸塩鉱物の分散安定化に寄与しないことがわかった。
芳香族カルボン酸塩の量が25質量%と多かった比較例13の水性離型剤では、断熱性は向上したが、時間の経過とともに塩の析出が認められた。
【0049】
【0050】
【0051】
表3および表4に記載の成分は以下のとおりである。
(1)ヘクトライト(スメクトンSWN;クニミネ工業株式会社製)
(2)サポナイト(スメクトンSA;クニミネ工業株式会社製)
(3)スティブンサイト(スメクトンST;クニミネ工業株式会社製)
(4)タルク(ミクロエースP-4、日本タルク(株)製)
(5)ピロメリット酸二無水物(ロンザジャパン株式会社製)
(6)無水トリメリット酸(無錫百川化工有限公司製)
(7)イソフタル酸(ロッテケミカルジャパン株式会社製)
(8)ポリエチレングリコール(PEG10000;三洋化成工業株式会社製)
(9)ポリエチレングリコール(PEG2000;三洋化成工業株式会社製)
(10)ポリプロピレングリコール(サンニックスPP-2000;三洋化成工業株式会社製)
(11)シリコーンエマルション(NR2707;旭化成ワッカーシリコーン株式会社製))