(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057247
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】移動体無線制御システム及び移動体無線制御方法
(51)【国際特許分類】
H04W 4/33 20180101AFI20230414BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20230414BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20230414BHJP
H04W 72/54 20230101ALI20230414BHJP
H04W 72/044 20230101ALI20230414BHJP
【FI】
H04W4/33
B66B3/00 U
H04W16/28
H04W72/08
H04W72/04 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166649
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神崎 元
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松熊 利治
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 訓
【テーマコード(参考)】
3F303
5K067
【Fターム(参考)】
3F303FA14
5K067AA21
5K067DD20
5K067DD34
5K067DD43
5K067EE02
5K067EE10
5K067KK02
5K067KK03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】移動体と固定側との夫々に、N個(Nは2以上の整数)のアンテナを設置し、N系統の無線伝送路を形成すると同時に切り替えて無線通信を行う、移動体の位置情報が離散的にしか取得できない環境であっても、無線通信品質を適正に維持できるアンテナや周波数又はチャンネルを設定する移動体無線制御システムを提供する。
【解決手段】エレベーターの無線伝送構成において、無線信号制御部102は、移動体の移動位置を離散的に取得する位置取得部と、N系統の無線伝送路での、用意された複数の伝送周波数又は伝送チャンネルでの伝送時の伝送品質を収集する伝送品質収集部と、位置取得部が取得した移動体の移動位置と、伝送品質収集部が収集した各無線伝送路での各伝送周波数又は各伝送チャンネルでの伝送品質に基づいて、N系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する組合せ設定部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と固定側とのそれぞれに、N個(Nは2以上の整数)のアンテナを設置し、
前記移動体のN個のアンテナと、前記固定側のN個のアンテナとにより、N系統の無線伝送路を形成させて無線通信を行うと共に、前記N系統の無線伝送路での伝送周波数又は伝送チャンネルを、それぞれ複数の伝送周波数又は伝送チャンネルに切り替えて通信可能とした移動体無線制御システムであって、
前記移動体の移動位置を離散的に取得する位置取得部と、
前記N系統の無線伝送路での、用意された複数の伝送周波数又は伝送チャンネルでの伝送時の伝送品質を収集する伝送品質収集部と、
前記位置取得部が取得した前記移動体の離散的な移動位置と、前記伝送品質収集部が収集した各無線伝送路での各伝送周波数又は各伝送チャンネルでの伝送品質に基づいて、前記N系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する組合せ設定部と、を備える
移動体無線制御システム。
【請求項2】
前記組合せ設定部は、前記伝送品質収集部が収集した伝送品質と前記離散的な移動位置から、前記N系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する
請求項1に記載の移動体無線制御システム。
【請求項3】
前記組合せ設定部は、前記伝送品質収集部が収集した伝送品質と前記離散的な移動位置から、前記移動体が移動可能な全範囲の伝送品質を推定し、推定した全範囲の伝送品質の最小値が、予め決められた所要信号品質の値から最も大きくなる伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する
請求項2に記載の移動体無線制御システム。
【請求項4】
前記組合せ設定部は、前記伝送品質収集部が収集した伝送品質の瞬時値の最小値が、予め決められた所要信号品質の値から最も大きくなる伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する
請求項2に記載の移動体無線制御システム。
【請求項5】
前記移動体は、エレベーターのかごであり、
前記位置取得部が取得する離散的な位置の情報は、かごが停止する階に設置されたドアゾーン内であることを示す情報と、かごが停止する階床についての情報とを使った絶対位置を示す情報である
請求項2に記載の移動体無線制御システム。
【請求項6】
前記移動体は、エレベーターのかごであり、
前記位置取得部が取得する離散的な位置の情報は、かごが停止する各階に設けられたドアゾーン内であることを示す相対位置の情報であり、
前記位置取得部は、相対位置が検出される履歴に基づいて、かごの絶対位置を判断する
請求項2に記載の移動体無線制御システム。
【請求項7】
前記位置取得部は、かごが停止する各階に設けられたドアゾーン内であることを示す相対位置の情報に加えて、かごが停止する階床の初期値を取得して、かごの絶対位置を判断する
請求項6に記載の移動体無線制御システム。
【請求項8】
前記組合せ設定部は、前記N系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルについての最低な解が得られない場合に、該当する状況であることを示すアラームを発出する
請求項1に記載の移動体無線制御システム。
【請求項9】
前記移動体は、エレベーターのかごであり、
前記移動体のN個のアンテナは、かごの上部又は下部の離れた位置に配置し、
前記固定側のN個のアンテナは、昇降路の上端側又は下端側の離れた位置に配置した
請求項1~8のいずれか1項に記載の移動体無線制御システム。
【請求項10】
移動体と固定側とのそれぞれに、N個(Nは2以上の整数)のアンテナを設置し、
前記移動体のN個のアンテナと、前記固定側のN個のアンテナとにより、N系統の無線伝送路を形成させて無線通信を行うと共に、前記N系統の無線伝送路での伝送周波数又は伝送チャンネルを、それぞれ複数の伝送周波数又は伝送チャンネルに切り替えて通信可能とした移動体無線制御方法であって、
前記移動体の離散的な移動位置を取得する位置取得処理と、
前記N系統の無線伝送路での、用意された複数の伝送周波数又は伝送チャンネルでの伝送時の伝送品質を収集する伝送品質収集処理と、
前記位置取得処理で取得した前記移動体の移動位置と、前記伝送品質収集処理で収集した各無線伝送路での各伝送周波数又は各伝送チャンネルでの伝送品質に基づいて、前記N系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する組合せ設定処理と、を含む
移動体無線制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体無線制御システム及び移動体無線制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベーターのかご等の決まった経路を移動する移動体と外部の制御装置との間は、ケーブルで接続して、ケーブルを介して移動体(かご)と外部の制御装置とが通信を行うようにしていた。例えばエレベーターのかごの場合には、テールコードと称されるケーブルを昇降路内のかごの下に接続して、テールコードを介して機械室などに設置された制御装置と通信を行うのが一般的である。
【0003】
ところが、ビルの高層化などに伴って、テールコードの長距離化が発生し、テールコードの保守コストが増大している。
このため、エレベーターのかご等の移動体と外部との通信を無線により行って、テールコードなどの通信ケーブルを不要にすることが提案されている。
【0004】
ここで、エレベーターのかご等の移動体は、位置が移動するため、制御装置などの固定側との位置関係が常に変化し、無線品質が一定ではなく、良好な無線通信を行うための対処が必要である。
【0005】
特許文献1には、建設機械などの移動体に設置されたGPS(Global Positioning System)受信機で得た位置情報と無線通信品質情報を連携させて、移動体が通信を行う際には、それぞれの位置に適した通信方式で無線通信を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように、位置情報が取得可能な環境で移動する移動体の場合には、位置情報を利用して通信方式を適切に制御することが可能である。これに対して、エレベーターのかごのように、移動中の位置が離散的にしか取得できない場合には、最適な通信方式が判らない状態となって、通信方式の設定が適正でないケースが生じてしまう。すなわち、エレベーターのかごの場合、各階の停止位置の近傍のドアゾーンであるとき、かごの位置を検出することが行われているが、ドアゾーンを離れて走行している間は、正確な位置が判らず、特許文献1の技術を適用したとしても、通信方式の設定が適正でない場合がある。
【0008】
本発明は、位置情報が離散的にしか取得できない環境であっても、無線通信品質を適正に維持することが可能な移動体無線制御システム及び移動体無線制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、移動体と固定側とのそれぞれに、N個(Nは2以上の整数)のアンテナを設置し、移動体のN個のアンテナと、固定側のN個のアンテナとにより、N系統の無線伝送路を形成させて無線通信を行うと共に、N系統の無線伝送路での伝送周波数又は伝送チャンネルを、それぞれ複数の伝送周波数又は伝送チャンネルに切り替えて通信可能とした移動体無線制御システムに適用する。
そして、本願の一例の移動体無線制御システムは、移動体の移動位置を離散的に取得する位置取得部と、N系統の無線伝送路での、用意された複数の伝送周波数又は伝送チャンネルでの伝送時の伝送品質を収集する伝送品質収集部と、位置取得部が取得した移動体の移動位置と、伝送品質収集部が収集した各無線伝送路での各伝送周波数又は各伝送チャンネルでの伝送品質に基づいて、N系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルを設定する組合せ設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、移動体の位置が離散的にしか取得できない状況でも、各系統の無線伝送路での最適な伝送周波数又は伝送チャンネルを判断することができ、最適な状態で移動体と固定側との無線通信を行うことができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施の形態例によるエレベーターの無線伝送を行う概要を示す構成図である。
【
図2】本発明の一実施の形態例によるエレベーターの無線伝送構成の例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施の形態例による無線信号制御部の構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施の形態例による無線伝送路の構成を示す図である。
【
図5】本発明の一実施の形態例による信号品質とかご距離との関係の例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施の形態例による無線伝送路の周波数を切替えた例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施の形態例によるアンテナと周波数の組合せを決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施の形態例による機械室側無線制御部とかご側無線制御部とで行われる処理を時系列で示すシーケンス図である。
【
図9】本発明の一実施の形態例によるかご位置と信号品質の関係を取得する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施の形態例によるかごの移動時の速度と時間の変化例を示す図である。
【
図11】本発明の一実施の形態例によるアンテナ/周波数の割当を決定する処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】本発明の一実施の形態例によるドアゾーンの検出とかごの移動の例を示す図である。
【
図13】本発明の一実施の形態例による無線品質の変化例を、かごの下り(a)と上り(b)で示した図である。
【
図14】本発明の一実施の形態例によるかごの絶対位置を推定する構成の例を示すブロック図である。
【
図15】本発明の一実施の形態例によるかごの移動開始時刻及び移動停止時刻の取得処理の例を示すフローチャートである。
【
図16】本発明の一実施の形態例によるかごの移動開始時刻及び移動停止時刻から移動距離及び移動階数を算出する処理の例を示すフローチャートである。
【
図17】本発明の一実施の形態例によるかごの移動開始時刻及び移動停止時刻の特性(a)から移動距離の特性(b)に変換する例を示す図である。
【
図18】本発明の一実施の形態例によるかごの移動開始時刻から移動停止時刻までの無線品質に基づいて、移動方向を推定する処理の例を示すフローチャートである。
【
図19】本発明の一実施の形態例によるかごの絶対位置と無線品質との対応を取得する処理の例を示すフローチャートである。
【
図20】本発明の一実施の形態例によるかごの階床の変化状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する)を、添付図面を参照して説明する。
【0013】
[システムの全体構成]
図1は、本例の移動体無線制御システムを適用するエレベーターの概要を示す。
本例のエレベーターは、昇降路(不図示)の上端の近傍に設置された機械室に、制御装置100が設置され、制御装置100が、昇降路を走行するかご200と無線通信を行う構成になっている。
【0014】
制御装置100側には、固定側としての4つのアンテナ121~124が設置され、かご200には、移動体側としての4つのアンテナ221~224が設置されている。制御装置100に接続された4つのアンテナ121~124は、昇降路の最上部に設置されている。また、かご200に設置された4つのアンテナ221~224は、かご200の上部に配置されている。固定側及びかご側の4つのアンテナ121~124,221~224の配置例については後述する(
図4)。
このような無線伝送を行う構成で、制御装置100とかご200との無線通信が行われる。制御装置100は、かご200にドアの開閉指示や表示器での表示制御情報などを送信し、かご200は、制御装置100にボタン操作情報などを送信する。
【0015】
図2は、制御装置100とかご200とで無線通信を行う具体的な構成を示す。
制御装置100には、エレベーター制御部101と、無線信号制御部102と、4台の無線機111~114が設置されている。また、かご200には、かご制御部201と、無線信号制御部202と、4台の無線機211~214が設置されている。
【0016】
エレベーター制御部101は、かご200の走行を制御する。かご200の走行を制御する上で、エレベーター制御部101は、かご200内のかご側制御部201と情報の送受信を行い、必要な情報を取得する。かご側制御部201は、かご内ボタンの操作情報や、走行に必要な情報などを、エレベーター制御部101に伝送する。後述するドアゾーンであることの情報も、かご側制御部201からエレベーター制御部101に伝送される。
【0017】
エレベーター制御部101は、無線信号制御部102を介して、4台の無線機111~114に送信情報を送り、無線機111~114に接続された4つのアンテナ121~124から、かご側の4つのアンテナ221~224に無線伝送を行う。
また、4台の無線機111~114は、かご側の4台の無線機211~214に接続された4つのアンテナ221~224から無線伝送された信号を4つのアンテナ121~124で受信する。そして、4つのアンテナ121~124で受信された信号は、4台の無線機111~114で受信処理されて得られる受信情報が、無線信号制御部102を介してエレベーター制御部101に供給される。
無線信号制御部102は、各無線機211~214での無線通信を制御する。
【0018】
固定側及び移動体側の各4台の無線機111~114,211~214は、
図2に示すように、第1無線機111,211、第2無線機112,212、第3無線機113,213、第4無線機114,214とも称する。本例の場合、固定側の第1無線機111は、かご側の第1無線機211と無線通信を行い、固定側の第2無線機112は、かご側の第2無線機212と無線通信を行う。同様に、固定側の第3無線機113は、かご側の第3無線機213と無線通信を行い、固定側の第4無線機114は、かご側の第4無線機214と無線通信を行う。したがって、本例の場合には、4系統の無線伝送路が形成され、この4系統の無線伝送路に、同じ情報が伝送される。
【0019】
各系統の無線伝送路では、伝送周波数を変えて無線通信が行われるようになっている。固定側の無線機111~114で無線通信を行う周波数は、制御装置100内の無線信号制御部102により制御される。かご側の無線機211~214で無線通信を行う周波数は、かご200内の無線信号制御部202により制御される。かご200内の無線信号制御部202は、制御装置100内の無線信号制御部102からの指示により、無線通信を行う周波数を設定する。各系統の無線伝送路の構成や周波数の設定については、
図4で後述する。
【0020】
[制御部のハードウェア構成]
図3は、無線信号制御部102をコンピュータで構成した場合のハードウェア構成の例を示す。
【0021】
無線信号制御部102は、バスにそれぞれ接続された、CPU(Central Processing Unit) 102a、主記憶部102b、不揮発性ストレージ102c、ネットワークインタフェース102d、及び入出力部102eを備える。
【0022】
CPU102aは、無線信号制御部102が行う機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを主記憶部102b又は不揮発性ストレージ102cから読み出して実行する演算処理部である。主記憶部102bは、プログラムコードを記憶すると共に、演算処理を実行するためのワークエリアとして使用される。
CPU102aは、主記憶部102b又は不揮発性ストレージ102cからプログラムコードを読み出して、主記憶部102bのワークエリアで演算処理を実行する。この結果、主記憶部102bには、様々な処理機能部が構成される。例えば主記憶部102bには、位置取得部102f、伝送品質収集部102g、及び組合せ設定部102hが構成される。これらの位置取得部102f、伝送品質収集部102g、及び組合せ設定部102hが行う処理については、
図7で後述する。
【0023】
不揮発性ストレージ102cには、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカードなどの大容量情報記憶媒体が用いられる。不揮発性ストレージ102cには、無線信号制御部102が持つ機能を実現するソフトウェアと、そのプログラムの実行で得られたデータ、並びにデータベースとしての情報が記憶される。
【0024】
ネットワークインタフェース102dには、例えば、NIC(Network Interface Card)などが用いられ、他の装置とのデータの送受信が行われる。例えば、ネットワークインタフェース102dは、エレベーター制御部101と通信を行う。
入出力部102eは、無線送信する情報を各無線機111~114に出力すると共に、各無線機111~114で受信した情報が入力される。また、入出力部102eは、各無線機111~114の伝送周波数を制御する指令を出力する。
【0025】
なお、
図3では、無線信号制御部102をコンピュータで構成した場合のハードウェア構成を示すが、無線信号制御部102が行う機能の一部又は全部を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアによって実現してもよい。
【0026】
[アンテナの配置と信号品質]
図4は、制御装置100側である固定側の4つのアンテナ121~124と、かご200側の4つのアンテナ221~224の配置例を示す。
図4の例では、かご200側の4つのアンテナ221~224は、かご200を構成する筐体の上端の4隅に、所定の距離を開けて配置されている。
固定側の4つのアンテナ121~124は、かご200が走行するシャフトの天井に設置され、かご200側の4つのアンテナ221~224と同様の距離を開けて配置されている。したがって、固定側のそれぞれのアンテナ121~124と、かご200側のそれぞれのアンテナ221~224とは、向き合って設置されている。
【0027】
本例の場合、
図4に示すように、固定側の4つのアンテナ121~124と、かご側の4つのアンテナ221~224との間で、4つの無線伝送路Da,Db,Dc,Ddが形成されて、それぞれの無線伝送路Da,Db,Dc,Ddで無線通信が行われる。
図4では、かご側の4つのアンテナ221~224から固定側の4つのアンテナ121~124に無線送信を行う状態を示しているが、実際には双方向で無線通信が行われる。
【0028】
そして、4つの無線伝送路Da,Db,Dc,Ddで無線通信を行う際の伝送周波数は、それぞれ別の周波数に設定される。この周波数の設定は、既に説明したように固定側の無線信号制御部102の制御で行われ、かご側の無線信号制御部202についても固定側からの指示で、各無線伝送路Da,Db,Dc,Ddで同じ周波数になるように設定される。
【0029】
図4で各無線伝送路Da,Db,Dc,Ddにカッコ書きで示すW24,W52,W53,W56は、それぞれ2.4GHz帯、5.2GHz帯、5.3GHz帯、5.6GHz帯を使って無線伝送を行うことを示す。但し、
図4に示す4つの無線伝送路Da,Db,Dc,Ddと無線伝送周波数の組合せは一例であり、後述するように各無線伝送路Da,Db,Dc,Ddで使用する最適な周波数の組合せが探索されて設定される。
【0030】
無線伝送路Da,Db,Dc,Ddの長さは、かご200の走行によって変化する。すなわち、かご200が最上階に位置しているときには、固定側のアンテナ121,122,123,124が、それぞれ、かご側のアンテナ221,222,223,224と近接した状態となる。そして、かご200が最上階から下降することで、固定側のアンテナ121~124と、かご側のアンテナ221~224との距離が長くなる。
【0031】
図5は、かご200の昇降路の天井からの距離によって、各無線伝送路Da,Db,Dc,Ddで伝送される信号の品質の変化を示す。
図5の横軸は、かご200の昇降路の天井からの距離を示し、縦軸は信号品質を示す。信号品質としては、例えば受信強度や受信データのエラー発生率などが適用可能である。
この
図5に示す4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddの信号品質特性は、かご200が移動する全範囲での信号品質特性を示すが、信号品質が離散的に取得される場合には、スムージング処理によって、
図5に示すような全範囲での連続した信号品質特性を得る処理を行う。
【0032】
信号品質については、受信側で正しく信号を取得できる所要信号品質TH1以上であることが決められている。
図5に示す4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddの信号品質特性は、昇降路天井からの距離が長くなるに従って低下するが、最下階であっても、所要信号品質TH1以上であることが必要とされる。
【0033】
図5の例では、無線伝送路Dcを使って周波数W56で無線通信を行った場合が、品質が最も低く、最下階で所要信号品質TH1との差がわずかであり、好ましくない通信状態であることがわかる。一方、無線伝送路Daを使って周波数W24で無線通信を行った場合は、品質が最もよく、最下階で所要信号品質TH1との差が比較的十分に確保されていることがわかる。
但し、この
図5の例は、4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddと4つの周波数W24,W52,W53,W56の組合せの一例であり、その他の組合せ時には、
図5は異なる特性になる。
【0034】
例えば、
図6(a)の例は、
図4に示す場合と同様に、4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddに、それぞれ順に周波数W24,W52,W53,W56を割り当てた場合を示す。一方、
図6(b)の例は、4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddに、それぞれ順に周波数W56,W53,W24,W52を割り当てた場合を示す。この
図6(b)の組合せの場合、信号品質の特性は、
図5に示す場合とは相違する。
本例では、固定側の無線信号制御部102が、4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddでの各無線周波数の組合せでの信号品質を収集して、各伝送路Da,Db,Dc,Ddのアンテナに最も適切な周波数の割り当て処理を行っている。
【0035】
なお、所要信号品質TH1以上かどうかを判断する際には、
図5に示すようなスムージング処理で全範囲での連続した信号品質特性を得る代わりに、取得した信号品質の瞬時値が、所要信号品質TH1以上かどうかを判断してもよい。
【0036】
[アンテナと周波数の組合せの設定処理]
図7は、固定側の無線信号制御部102が、最適なアンテナと周波数の設定処理を行う流れを示すフローチャートである。この設定処理は、無線信号制御部102に用意された位置取得部102f、伝送品質収集部102g、及び組合せ設定部102hにより実行される。なお、伝送路Da,Db,Dc,Ddと周波数の組合せを設定することは、伝送路Da,Db,Dc,Ddとして使用するアンテナと周波数の組合せを設定することを意味する。
【0037】
まず、無線信号制御部102は、各伝送路Da,Db,Dc,Dd用のアンテナに、ある1つの組み合わせの周波数を設定した上で、エレベーター制御部101に指示を送って、かご200を最上階から最下階まで移動させる(ステップS11)。このとき、無線信号制御部102の位置取得部102fでかご位置を取得する位置取得処理を行いながら、伝送品質収集部102gが伝送品質収集処理を行って信号品質の変化を収集する。なお、無線信号制御部102がかご200の移動を制御できない場合の処理例については、
図9以降で述べる。
【0038】
そして、最上階から最下階までのかご移動が終了した後、組合せ設定部102hは、各伝送路Da,Db,Dc,Ddとして使用するアンテナと周波数の組合せを、別のものに変更する(ステップS12)。
そして、組合せ設定部102hは、必要なアンテナと周波数の組合せの情報が、伝送品質収集部102gで収集できたか否かを判断する(ステップS13)。なお、本例の場合、4つの伝送路Da,Db,Dc,Ddと4つの周波数の組合せなので、組合せ設定部102hは、それぞれの伝送路で4つの周波数が設定される少なくとも4種類の組合せが収集できたとき、必要な情報を収集できたと判断する。
【0039】
ステップS13で、アンテナと周波数の組合せの情報に未収集のものがあった場合(ステップS13のNo)、無線信号制御部102は、ステップS11に戻って、別のアンテナと周波数の組合せで、かご200の移動と信号品質の変化の収集を実行する。
そして、ステップS13で、アンテナと周波数の組合せの情報の収集が完了したと判断した場合(ステップS13のYes)、組合せ設定部102hは、所要信号品質を満たす適切なアンテナと周波数の組合せを決定する(ステップS14)。
このステップS14で決定したアンテナと周波数の組合せで、以後、無線信号制御部102は無線通信を実行する。
【0040】
なお、ステップS14で、組合せ設定部102hは、所要信号品質を満たす適切なアンテナと周波数の組合せの最適な解が得られない場合、該当する状況であることを示すアラームをエレベーター制御部101に対して発出する。このアラームを受信したエレベーター制御部101は、このエレベーターを監視している部署に対して、所要信号品質を満たす適切なアンテナと周波数の組合せの最適な解が得られない状況であることを通知する。
このように最適な解が得られない場合にアラームを発出することで、周波数の切替えで無線通信が適切に行えない場合に、アンテナの配置を変更する等の対処が迅速に行えるようになる。
【0041】
図8は、機械室側の制御装置100に設置された無線信号制御部102と、かご側の無線信号制御部202とで行われる処理の流れを示すシーケンス図である。
まず、無線信号制御部102は、アンテナと周波数を設定した上で、かご200から無線送信される信号(エレベーター信号)をキャプチャし、かご位置を推定しながら、信号品質を測定する(ステップS101)。
【0042】
そして、無線信号制御部102は、現在のアンテナと周波数で、かご位置が最上階から最下階まで移動したと判断する(ステップS102)。ステップS102の処理が終わると、無線信号制御部102は、アンテナ(無線伝送路)と周波数の組合せを変更する(ステップS103)。
無線信号制御部102で組合せ変更があると、その組合せ変更の情報を、かご側の無線信号制御部202に無線伝送する(ステップS104)。
すると、かご側の無線信号制御部202は、受信した組合せ変更の情報に基づいて、かご側のアンテナ221~224で使用する周波数を変更する(ステップS105)。
この
図8に示す処理は、周波数変更の全ての組合せでの信号品質が収集されるまで繰り返される。
【0043】
[かご位置と信号品質との対応の取得処理]
図9は、無線信号制御部102がかご位置と信号品質との対応関係を取得する処理の流れを示すフローチャートである。
図7で説明した例では、無線信号制御部102がかご200を最上階から最下階まで移動させるとしたが、無線信号制御部102がかご200の走行を制御できない場合もある。このような場合に、無線信号制御部102は、
図9に示す処理にて、少なくともかご200から送信されるかごの移動開始や停止などを示すエレベーター信号を受信して、かご200の位置を推定する。なお、かご200から送信されるエレベーター信号には、かご200が何階に停止しているのか等の階床の情報は含まれない。
【0044】
まずは、無線信号制御部102が、かご200から送信されるかごの移動開始や停止などを示すエレベーター信号に加え、エレベーター制御部101がかご200に伝送する現在の階床情報も受信できる場合について説明する。
図9のフローチャートに示す処理を説明すると、まず無線信号制御部102は、後述する
図15のフローチャートに従い、かご200のエレベーター信号の一部であるドアゾーン信号を取得して、かご200の移動開始時刻と停止時刻を取得し、さらに、エレベーター制御部101がかご200に伝送する現在の階床情報から、移動を開始した階とその時刻、及び停止した階とその時刻を推定する(ステップS21)。そして、無線信号制御部102は、後述する
図16のフローチャートに従い、エレベーターのかご200の移動特性から、時刻とかご位置との関係を計算する(ステップS22)。
さらに、無線信号制御部102は、それぞれの時刻で判断されたかご位置と、各時刻での信号品質との関係を計算する(ステップS23)。これにより、
図5で説明したかご位置と信号品質との対応関係が取得され、アンテナ(無線伝送路)と周波数との組合せのいずれが適切であるか判断することが可能になる。
【0045】
図10は、
図9のフローチャートのステップS21での、かご200の移動開始時刻と停止時刻から、移動を開始した階と停止した階を推定する例を示す。
図10の縦軸はかご200の走行速度、横軸は時間を示す。
図10に示すように、かご200が走行を開始して、ある程度の時間で速度が低下した走行履歴d11と、それよりも長い時間で速度が低下した走行履歴d12が取得されたとする。
【0046】
本例のエレベーターとして、最上階が10階、最下階が1階であり、走行履歴d12が10階から1階までの走行、走行履歴d11が1階から5階までの走行の例であり、この走行履歴d11、d12の際に取得した信号品質を使って、
図9のステップS23でかご位置と信号品質との対応関係が得られる。
なお、走行履歴は、実際には
図12に示すように、一つの時間の流れの中で、5階分の移動の走行履歴d21と、10階分の移動の走行履歴d22とが順に発生している。
図10は、このそれぞれの走行履歴d21,d22を1つに重ねて、開始時刻を同一時刻とした走行履歴d11,d12としたものである。
図12に示すように、
図9のステップS21では、かご200の走行開始と停止は、出発階のドアゾーンから出たことと、停止階のドアゾーンに入ったことを示すエレベーター信号から判断できる。
【0047】
一方、エレベーター制御部101がかご200に伝送する現在の階床情報を受信できない場合、
図10に示す走行履歴d11については、5階までの走行に相当し、例えば1階から5階までの走行や、6階から10階までの走行など、様々な走行パターンが想定される。出発階や停止階の情報が取得可能な場合には、この走行履歴d11からもかご位置と信号品質との対応関係の一部が得られるが、そのままではかご位置が不明であり、使用することができない。最上階から最下階までの走行(又はその逆の走行)がない場合で、かつエレベーター制御部101がかご200に伝送する現在の階床情報が取得できない場合における、走行履歴からの出発階や停止階の判断処理については後述する。
【0048】
[アンテナと周波数の組合せから最適なものを選択する処理]
図11は、無線信号制御部102が、収集した信号品質の情報から、最終的にアンテナ(無線伝送路)と周波数の割当てを決定する処理の流れを示すフローチャートである。
まず、無線信号制御部102は、収集した全てのアンテナと周波数の組合せの、かご位置-信号品質の情報を判断し、各組合せの信号品質について、所要信号品質TH(
図5)との差分を計算する(ステップS31)。
【0049】
そして、無線信号制御部102は、各アンテナと周波数の割当てから、差分が最小になるアンテナ/周波数の割当てを抽出する(ステップS32)。続いて、無線信号制御部102は、各アンテナと周波数の割当てから、差分が最大になるアンテナ/周波数の割当てを検索する(ステップS33)。
【0050】
その後、無線信号制御部102は、ステップS33で検索した、差分が最大になるアンテナ/周波数の割当てを、最終的なアンテナと周波数の割当てとして決定する(ステップS34)。
【0051】
[ドアゾーン信号からかご位置を判断する処理]
先に説明したように、最上階から最下階までの走行(又はその逆の走行)がない場合で、かつエレベーター制御部101がかご200に伝送する現在の階床情報が取得できない場合には、そのままでは全走行路の信号品質が取得できない。
図14は、この場合におけるドアゾーン信号からかご200の絶対位置を判断するための、無線信号制御部102内の位置取得部102fの構成を示す。
位置取得部102fは、無線品質測定部11と、ドアゾーン信号取得部12と、移動距離計算部13と、無線品質データベース14と、移動方向推定部15と、相対位置情報データベース16と、絶対位置推定部17とを備える。なお、図面中ではデータベースはDBと略称する。
【0052】
無線品質測定部11は、4つの無線機111~114で受信した無線信号を取得し、それぞれの無線機111~114での無線信号品質を個別に測定する。無線品質測定部11が測定した無線信号品質の情報は、無線品質データベース14に記憶する。なお、無線信号品質の情報には、その無線信号を受信した時刻の情報が付加される。
ドアゾーン信号取得部12は、ドアゾーン信号フォーマットの情報に基づいて、無線機111~114で受信した無線信号からドアゾーン信号を抽出して、ドアゾーン信号を取得し、かご200の移動開始時刻と停止時刻を取得する。ドアゾーン信号は、かご200が昇降路を走行して、かごドアを開くことが可能なドアゾーン内に位置していることを示す信号である。
【0053】
移動距離計算部13は、移動階ごとのかご200の速度特性を取得し、かご200の移動距離を計算し、計算した移動距離の情報を、相対位置情報データベース16に記憶する。
移動方向推定部15は、相対位置情報データベース16に記憶された移動距離の情報について、無線品質データベース14に記憶された無線信号品質の変化から、かご200の移動方向を推定し、移動距離の情報に移動方向を付加する。
例えば、
図10に示すような走行履歴d11,d12が得られた際に、移動方向推定部15は、信号品質の変化を判断することで、その走行が上りの走行か、下りの走行かが判断することができる。
【0054】
図13は、この走行が上りか下りかを判断する例を示す。
図13の縦軸は信号品質(無線品質)を示し、横軸は時間を示す。
図13(a)は、下りの走行時の信号品質d31の変化例を示す。
下りの走行時の信号品質d31の場合には、固定側のアンテナからかご側のアンテナが次第に離れていくので、信号品質d31の平均D
downが、徐々に低下する。
図13(b)は、上りの走行時の信号品質d32の変化例を示す。
上りの走行時の信号品質d32の場合には、かご側のアンテナが固定側のアンテナに次第に近づいてくるので、信号品質d32の平均D
UPが、徐々に高くなる。
したがって、移動方向推定部15は、
図13(a)に示すような信号品質の低下を検出したとき、そのときの走行を下りの走行と判断する。また、無線信号制御部102は、
図13(b)に示すような信号品質の上昇を検出したとき、そのときの走行を上りの走行と判断する。
【0055】
絶対位置推定部17は、相対位置情報データベース16に記憶された移動距離の情報についての絶対位置を推定し、無線品質データベース14に記憶された無線信号品質をそれぞれの絶対位置に付加して、絶対位置-無線品質情報とする。
【0056】
図15は、ドアゾーン信号取得部12がドアゾーン信号に基づいて、かご200の移動開始時刻と停止時刻を取得する処理を示すフローチャートである。
まず、ドアゾーン信号取得部12は、ドア信号フォーマットに基づいて、無線信号に含まれるドアゾーン信号を抽出する(ステップS41)。
次に、ドアゾーン信号取得部12は、1つのドアゾーンに入ってから、そのドアゾーンを出るまでの時間が、予め設定された閾値以上か否かを判断する(ステップS42)。ステップS42で、ドアゾーンに入ってから出るまでの時間が、閾値以上でない場合(ステップS42のNo)、ドアゾーン信号取得部12は、そのドアゾーンの階にはかご200が停止せずに通過していると判断して、該当するドアゾーン信号は無視する。
【0057】
そして、ステップS42で、ドアゾーンに入ってから出るまでの時間が、閾値以上である場合(ステップS42のYes)には、ドアゾーン信号取得部12は、ドアゾーンに入った時刻をかご200の移動停止時刻とし、ドアゾーンから出た時刻をかご200の移動開始時刻とする(ステップS43)。そして、ドアゾーン信号取得部12は、得られた移動開始時刻及び移動停止時刻の情報を、移動距離計算部13に供給する。
【0058】
図16は、移動距離計算部13が、かご200の移動距離を算出する処理を示すフローチャートである。
まず、移動距離計算部13は、ドアゾーン信号取得部12から移動開始時刻及び移動停止時刻の情報を取得すると共に、そのときの移動階ごとの速度特性をエレベーター制御部101から取得し、移動開始から停止までの時間に相当する速度特性を抽出する(ステップS51)。そして、移動距離計算部13は、速度特性を距離特性に変換し、移動距離と移動階数を取得する(ステップS52)。移動距離計算部13は、移動開始時刻及び移動停止時刻の情報に、移動距離及び移動階数を付加して、相対位置情報データベース16に記憶する。
【0059】
図17は、移動距離計算部13がステップS52で行う速度特性から距離特性への変換例を示す。
図17(a)は、かご200の速度特性の例を示す。
図17(a)の縦軸はかご200が移動する速度であり、横軸は時間である。
図17(a)に示すように、かご200の速度特性d41は、かごの移動開始から徐々に速度が高くなり、ある程度の時間、一定速度で走行し、その後、徐々に速度が低下して停止する。
【0060】
図17(b)は、速度特性d41を移動距離d42に変換した場合である。
図17(b)の縦軸はかごの移動距離であり、横軸は時間である。
図17(a)に示す速度特性d41を積算することで、
図17(b)に示す移動距離d42に変換される。また、移動距離d42が得られると、移動距離計算部13は、何階分移動したかを示す移動階数の情報も得ることができる。
【0061】
図18は、移動方向推定部15が移動方向を推定する処理を示すフローチャートである。
移動方向推定部15は、移動開始時刻及び移動停止時刻の情報を相対位置情報データベース16から取得すると共に、その移動開始から移動停止までの無線品質の情報を無線品質データベース14から取得する(ステップS61)。
そして、移動方向推定部15は、取得した無線品質について、その無線品質の変化を線形近似し、傾きを計算する(ステップS62)。さらに、移動方向推定部15は、計算した傾きから、移動方向の推定値を計算する(ステップS63)。
ここで、移動方向の推定としては、例えば
図13(a)に示すような無線品質が徐々に低下する状態を下方向への移動とし、
図13(b)に示すような無線品質が徐々に高くなる状態を上方向への移動とする。
【0062】
図19は、絶対位置推定部17が、かご200の絶対位置を推定する処理を示すフローチャートである。
まず、絶対位置推定部17は、相対位置情報データベース16が記憶した相対位置の履歴情報である、移動距離及び移動階数と移動方向の情報を抽出する(ステップS71)。そして、絶対位置推定部17は、エレベーターが設置されたビルの階層情報を取得し、抽出した移動階数が、何階から何階に移動した確率が最も高いかを推定する(ステップS72)。ステップS72の推定では、例えばビタビアルゴリズムを適用して推定される。ビタビアルゴリズムについては後述する。
【0063】
ビタビアルゴリズムを使用するのは一例であり、その他の方法で移動階数を推定してもよい。例えば、かご200が移動を開始するときの初期値の階が取得できる場合、その初期値からの移動階数で何階から何階に移動したのかを推定してもよい。初期値としては、例えば、かご呼びがある程度の時間継続してない状況のとき、かご200が1階に停止して待機する場合には、初期値を1階に設定できる。
【0064】
図19のフローチャートの説明に戻ると、絶対位置推定部17は、ステップS72で推定した確率の最も高い移動経路を、移動階情報である絶対位置として確定する(ステップS73)。
その後、絶対位置推定部17は、ステップS73で確定した移動階情報と、相対位置情報データベース16が記憶した移動開始時刻と、移動階ごとの速度特性に基づいて、時刻ごとのかごの絶対位置を示す時刻-絶対位置情報を計算する(ステップS74)。
さらに、絶対位置推定部17は、無線品質データベース14に記憶された時刻-無線品質情報を取得して、絶対位置ごとの無線品質を示す絶対位置-無線品質情報を計算する(ステップS74)。絶対位置推定部17は、ステップS74で得られた絶対位置-無線品質情報を計算して、出力する(ステップS75)。
【0065】
図20は、ステップS72で移動階数から何階から何階に移動したかを推定するビタビアルゴリズムの原理を示す。
ビタビアルゴリズムでは、過去のかごの移動をある程度の期間蓄積しておいて、推定する処理が行われる。
図20の例では、1階から5階までを移動するエレベーターを想定している。
そして、第1段階で、2つ階床が上がる移動があったとする。このとき、考えられるかごの移動としては、1階から3階への移動、2階から4階への移動、3階から5階への移動のいずれかである。
【0066】
次に、第2段階での移動として、3つ階床が下がる移動があったとする。この場合、5階から2階への移動と、4階から1階への移動のいずれかが考えられる。したがって、第1段階での移動の3つの候補の内で、1階から3階への移動が候補から除外される。
さらに、第3段階での移動として、1つ階床が上がる移動があり、さらに第4段階での移動として、4つ階床が上がる移動があったとする。
これにより、第4段階での移動後のかご位置が5階に確定し、第1段階から第4段階までの各移動時の絶対位置が決まる。
このようにして、ビタビアルゴリズムを適用することで、かごの相対位置から絶対位置を推定することが可能になる。
【0067】
[本実施の形態例のシステムによる効果]
以上説明した本例のシステムによると、移動体であるエレベーターのかご200と、固定側である昇降路の天井側との無線伝送を行う際に、複数の無線伝送路を設定して、それぞれの無線伝送路で使用する周波数を切替えた場合の伝送品質を適正に測定できるようになる。したがって、測定した伝送品質に基づいて、所要信号品質との差が最も大きい周波数の組合せを適用することで、移動体と固定側との無線伝送を適正な品質で行うことができる。したがって、エレベーター設置時に、設置作業者が手動で適切な周波数を探索する作業が不要になり、エレベーターの設置作業時の実装工程を削減できるようになる。
特にエレベーターの場合には、移動体であるかご200の位置が、出発階と停止階の2つの離散的な位置しか判らないが、本例によると、その限られた離散的な位置から、連続した全移動範囲の伝送品質の推定が行え、所要信号品質との差が最も大きい周波数の組合せを適用できるようになる。
【0068】
所要信号品質との差が最も大きい周波数の組合せを適用する場合、例えば、かご(移動体)が移動可能な全範囲の伝送品質を
図5に示すようにスムージング処理で推定し、推定した全範囲の伝送品質の最小値が、予め決められた所要信号品質の値から最も大きくなる周波数の組合せを設定するのが好ましい。
あるいは、所要信号品質との差が最も大きい周波数の組合せを適用する場合に、伝送品質収集部102gが収集した伝送品質の瞬時値の最小値が、予め決められた所要信号品質の値から最も大きくなる周波数の組合せを適用してもよい。
なお、通常は
図5で説明したように、固定側からの距離が離れるにしたがって、徐々に信号品質が低下し、最も距離が離れた位置で所要信号品質との差が十分にあればよい。しかしながら、ビル内の構造物などの影響で、伝送品質の最小値が特定の位置を通過するときだけ一時的に低下するような場合に、その瞬時値の最小値が低下することを避けた組合せとしてもよい。
【0069】
また、伝送品質の測定と、各伝送路で使用する周波数の組合せの設定は、少なくとも移動体であるエレベーターの設置時に初期設定として行う必要がある。また、エレベーターの運用を開始した後にも、随時、伝送品質の測定と、各伝送路で使用する周波数の組合せの再設定を行うのが好ましい。例えば、1ヶ月ごとのように一定周期で測定して、再設定を行う。あるいは、運用中に無線信号品質のチェックを随時行って、無線信号品質と閾値との差が十分でないと判断した場合に、再度、伝送品質の測定と、各伝送路で使用する周波数の組合せの再設定を行うようにしてもよい。周波数の切替は、夜間や休日などのエレベーターの使用が少ない時間帯に行うのが好ましい。
このように随時再設定を行うことで、設置したビルの無線環境が変化した場合にも、適切に無線通信できるように自動的に切り替わり、継続して無線通信ができるようになる。
【0070】
[変形例]
なお、ここまで説明した実施の形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
例えば、上述した実施の形態例では、かご200の上部の4隅にアンテナ221~224を配置し、固定側である昇降路の天井にも4つのアンテナ121~124を配置して、4系統の無線伝送路を構成する例とした。これに対して、少なくとも2系統の無線伝送路を構成して、その2系統の無線伝送路で使用する周波数の組合せの設定を行うようにしてもよい。あるいは、4つ以上のアンテナを移動側と固定側の双方に配置して、より多くの組合せの設定を行うようにしてもよい。また、4系統の無線伝送路において、4つの周波数を組み合わせるようにしたが、使用する周波数は無線伝送路の数よりも多くして、より多くの組合せの適用ができるようにしてもよい。
【0071】
また、上述した実施の形態例では、周波数を切り替えるようにしたが、無線伝送方式によっては、周波数の切替えではなく、伝送チャンネルの切替えを行う場合もある。伝送チャンネルの切替えを行う無線伝送方式の場合には、各系統の無線伝送路と伝送チャンネルの組合せを測定して、適切な組合せを適用すればよい。
【0072】
さらに、上述した実施の形態例では、かご200の上部の4隅にアンテナ221~224を配置し、固定側である昇降路の天井にも4つのアンテナ121~124を配置した。これに対して、かご200の下部にアンテナを配置すると共に、昇降路の底部にアンテナを配置してもよい。この場合には、かご200が最上階に位置しているときが最も無線信号品質が低くなる可能性が高く、実施の形態例で説明した信号品質の変化とは逆になる。固定側のアンテナは、エレベーター制御装置を設置した位置の近くになることが好ましい。
【0073】
また、伝送周波数や伝送チャンネルの設定変更は、上述した実施の形態例では、かご側の無線機と固定側の無線機の双方で行うようにしたが、いずれか一方でのみ伝送周波数や伝送チャンネルの設定変更を行うようにしてもよい。
【0074】
また、上述した実施の形態例では、移動体と固定側とが無線通信を行うものとして、エレベーターに適用した例とした。これに対して、予め決まった経路を移動する移動体と固定側とが無線通信を行うものであれば、その他の移動体に適用してもよい。例えば、倉庫内の決まった経路を移動する搬送機器と固定側とが無線通信を行う場合に適用してもよい。
【0075】
また、
図2、
図3、及び
図14に示す構成図では、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものだけを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
また、本例のシステムをコンピュータなどの情報処理装置で構成した場合に、移動体無線制御システムを実現するプログラムについては、コンピュータ内の不揮発性ストレージやメモリに用意する他に、外部のメモリ、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置いて、転送してもよい。
【符号の説明】
【0076】
11…無線信号測定部、12…ドアゾーン信号取得部、13…移動距離計算部、14…無線品質データベース、15…移動方向推定部、16…相対位置情報データベース、17…絶対位置推定部、100…制御装置、101…エレベーター制御部、102…無線信号制御部、102a…CPU、102b…主記憶部、102c…不揮発性ストレージ、102d…ネットワークインタフェース、102e…入出力部、102f…位置取得部、102g…伝送品質収集部、102h…設定部、111~114…無線機(第1無線機~第4無線機)、121~124…アンテナ(固定側)、201…かご側制御部、202…無線信号制御部、211~214…無線機(第1無線機~第4無線機)、221~224…アンテナ(かご側)