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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057248
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】動吸振器の製造方法、動吸振器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/32 20060101AFI20230414BHJP
   F16F 15/14 20060101ALI20230414BHJP
   F16F 15/31 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
F16F15/32 A
F16F15/14 A
F16F15/31 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166650
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晃一
(57)【要約】
【課題】アンバランス修正をしたときの動吸振器の性能低下を抑制する。
【解決手段】動吸振器100の製造方法は、以下の工程a)~工程e)を含む。工程a)では、所望のイナーシャよりも増減させたイナーシャを有する動吸振器本体10を準備する。工程b)では、動吸振器本体10のイナーシャを測定する。工程c)では、動吸振器本体10のアンバランス量及びアンバランス位置を測定する。工程d)では工程b)によって測定されたイナーシャと所望のイナーシャとの差分に基づき、適切な一対のバランス修正部20a、20bを決定する。工程e)では、一対のバランス修正部20a、20bをアンバランス位置を基準にして周方向に対称的に配置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)所望のイナーシャよりも増減させたイナーシャを有する動吸振器本体を準備する工程と、
b)前記動吸振器本体のイナーシャを測定する工程と、
c)前記動吸振器本体のアンバランス量及びアンバランス位置を測定する工程と、
d)前記工程b)によって測定されたイナーシャと前記所望のイナーシャとの差分に基づき、適切な一対のバランス修正部を決定する工程と、
e)前記一対のバランス修正部を前記アンバランス位置を基準にして周方向に対称的に配置する工程と、
を含む、動吸振器の製造方法。
【請求項2】
前記工程e)において、前記アンバランス量及び前記一対のバランス修正部の重量に基づき、前記アンバランス位置と前記一対のバランス修正部との位相差を算出する、
請求項1に記載の動吸振器の製造方法。
【請求項3】
前記工程a)において、前記動吸振器本体は、所望のイナーシャよりも小さいイナーシャを有し、
前記工程d)において、前記バランス修正部は、錘である、
請求項1又は2に記載の動吸振器の製造方法。
【請求項4】
前記工程d)において、前記一対のバランス修正部は、複数対のバランス修正部の中から、選ばれる、
請求項3に記載の動吸振器の製造方法。
【請求項5】
前記工程a)において、前記動吸振器本体は、所望のイナーシャよりも大きいイナーシャを有し、
前記構成d)において、前記バランス修正部は、前記動吸振器本体に形成される凹部である、
請求項1又は2に記載の動吸振器の製造方法。
【請求項6】
回転可能に配置される動吸振器本体と、
前記動吸振器本体のアンバランス位置を基準にして、周方向に対称的に配置された一対のバランス修正部と、
を備える、動吸振器。
【請求項7】
前記動吸振器本体は、
回転可能に配置されたベースプレートと、
前記ベースプレートとともに回転可能であり、且つ前記ベースプレートと相対回転可能に配置されるイナーシャリングと、
前記ベースプレートと前記イナーシャリングとの間のねじり剛性を、前記ベースプレート又は前記イナーシャリングの回転数に応じて変化させる可変剛性機構と、
を有し、
前記一対のバランス修正部は、前記イナーシャリングに取り付けられる、
請求項6に記載の動吸振器。
【請求項8】
前記可変剛性機構は、
前記ベースプレート又は前記イナーシャリングの回転による遠心力を受けて径方向に移動可能に配置される遠心子と、
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記ベースプレートと前記イナーシャリングとのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成されるカム機構と、
を有する、
請求項7に記載の動吸振器。
【請求項9】
前記カム機構は、
前記遠心子に形成されるカム面と、
前記カム面と当接し、前記遠心子と前記イナーシャリングとの間で力を伝達するカムフォロアと、
を有する、
請求項8に記載の動吸振器。
【請求項10】
前記可変剛性機構は、前記ベースプレート又は前記イナーシャリングの回転数が高くなるにつれて、前記ベースプレートと前記イナーシャリングとの間のねじり剛性を大きくするように構成される、
請求項7から9のいずれかに記載の動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振器の製造方法、及び動吸振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等のトルク変動を抑えるために動吸振器が広く用いられている。例えば、特許文献1に記載の動吸振器は、トルク変動の周波数に応じてその特性を変化させることによって、より広い回転数域におけるトルク変動を抑制することができる。
【0003】
この動吸振器は、自らも回転するように構成されているため、動吸振器をアンバランス修正する必要がある。なお、アンバランス修正では、動吸振器をアンバランス測定し、その測定によって得られたアンバランス量及びアンバランス位置に基づき、錘を取り付けたり凹部を形成したりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-53467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したようにアンバランス修正のために錘を付けたり、凹部を形成したりすると、動吸振器のイナーシャが所望のイナーシャから変化するため、動吸振器の性能が低下するという問題が生じる。
【0006】
本発明の課題は、アンバランス修正をしたときの動吸振器の性能低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面に係る動吸振器の製造方法は、以下の工程a)~工程e)を含む。工程a)では、所望のイナーシャよりも増減させたイナーシャを有する動吸振器本体を準備する。工程b)では、動吸振器本体のイナーシャを測定する。工程c)では、動吸振器本体のアンバランス量及びアンバランス位置を測定する。工程d)では工程b)によって測定されたイナーシャと所望のイナーシャとの差分に基づき、適切な一対のバランス修正部を決定する。工程e)では、一対のバランス修正部をアンバランス位置を基準にして周方向に対称的に配置する。
【0008】
この方法によれば、まず、アンバランス修正のために取り付ける一対のバランス修正部は、測定後のイナーシャと所望のイナーシャとの差分に基づいて決定される。すなわち、一対のバランス修正部を取り付けた後の動吸振器のイナーシャは所望のイナーシャと大きく変わらないため、動吸振器の性能の低下を抑制することができる。また、バランス修正部を一対とし、バランス位置を基準に周方向に対称的に配置しているため、アンバランス修正も適切に行うことができる。
【0009】
好ましくは、工程e)において、アンバランス量及び一対のバランス修正部の重量に基づき、アンバランス位置と一対のバランス修正部との位相差を算出する。
【0010】
好ましくは、工程a)において、動吸振器本体は、所望のイナーシャよりも小さいイナーシャを有する。そして、工程d)において、バランス修正部は、錘である。
【0011】
好ましくは、工程d)において、一対のバランス修正部は、複数対のバランス修正部の中から、選ばれる。
【0012】
なお、工程a)において、動吸振器本体は、所望のイナーシャよりも大きいイナーシャを有していてもよい。そして、工程d)において、バランス修正部は、動吸振器本体に形成される凹部である。
【0013】
本発明の第2側面に係る動吸振器は、動吸振器本体と、一対のバランス修正部とを備える。動吸振器本体は、回転可能に配置される。一対のバランス修正部は、動吸振器本体のアンバランス位置を基準にして、周方向に対称的に配置される。
【0014】
好ましくは、動吸振器本体は、ベースプレートと、イナーシャリングと、可変剛性機構とを有する。ベースプレートは、回転可能に配置される。イナーシャリングは、ベースプレートとともに回転可能であり、且つベースプレートと相対回転可能に配置される。可変剛性機構は、ベースプレートとイナーシャリングとの間のねじり剛性を、ベースプレート又はイナーシャリングの回転数に応じて変化させる。一対のバランス修正部は、イナーシャリングに取り付けられる。
【0015】
好ましくは、可変剛性機構は、遠心子と、カム機構とを有する。遠心子は、ベースプレート又はイナーシャリングの回転による遠心力を受けて径方向に移動可能に配置される。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力をベースプレートとイナーシャリングとのねじれ角が小さくなる方向の円周方向力に変換するように構成される。
【0016】
好ましくは、カム機構は、カム面と、カムフォロアとを有する。カム面は、遠心子に形成される。カムフォロアは、カム面と当接し、遠心子とイナーシャリングとの間で力を伝達する。
【0017】
好ましくは、可変剛性機構は、ベースプレート又はイナーシャリングの回転数が高くなるにつれて、ベースプレートとイナーシャリングとの間のねじり剛性を大きくするように構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アンバランス修正をしても動吸振器の性能低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】動吸振器の正面図。
図2図1のII-II線断面図。
図3】第1プレートが取り外された動吸振器の正面図。
図4】可変剛性機構を示す拡大正面図。
図5】移動規制機構を示す拡大断面図。
図6】別の移動規制機構を示す拡大断面図。
図7】トルク変動が入力されていない状態の遠心子、カムフォロア、及びイナーシャリングの位置関係を示す概略図。
図8】トルク変動が入力された状態の遠心子、カムフォロア、及びイナーシャリングの位置関係を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係る動吸振器について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、軸方向とは、動吸振器の回転軸が延びる方向である。また、周方向とは、回転軸を中心とした円の周方向であり、径方向とは、回転軸を中心とした円の径方向である。なお、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向に完全に一致している必要はなく、例えば、図4において、遠心子を基準とした左右方向も含む概念である。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向に完全に一致している必要はなく、例えば、図4において、遠心子を基準とした上下方向も含む概念である。
【0021】
[動吸振器]
図1は動吸振器100の正面図、図2図1のII-II線断面図である。なお、図2では、動吸振器100に出力ハブ14が取り付けられている。また、各図において、特に断りのない限り、動吸振器100が回転中であり、遠心子4が径方向外側に移動している。
【0022】
図1及び図2に示すように、動吸振器100は、動吸振器本体10と、一対のバランス修正部20a、20bとを有している。なお、動吸振器本体10とは、アンバランス修正される前の動吸振器を意味する。
【0023】
図3は、動吸振器100の正面図である。なお、図3では、第1プレート3aが取り外されている。図2及び図3に示すように、動吸振器本体10は、ベースプレート2、イナーシャリング3、可変剛性機構40、及び移動規制機構9を有している。なお、動吸振器本体10は、いわゆる周波数追従型動吸振器である。動吸振器本体10は、回転可能に配置されている。
【0024】
<ベースプレート2>
ベースプレート2は、回転可能に配置される。ベースプレート2は、動力伝達経路に取り付けられている。例えば、ベースプレート2は、出力ハブ14に取り付けられている。ベースプレート2は、出力ハブ14と一体的に回転する。なお、ベースプレート2は、出力ハブ14と一つの部材で構成されていてもよい。
【0025】
ベースプレート2は、環状のプレートである。ベースプレート2は、複数の収容部24を有している。本実施形態では、ベースプレート2は6個の収容部24を有している。複数の収容部24は、周方向において互いに間隔をあけて配置されている。各収容部24は、径方向外側に向かって開口する。収容部24は、所定の深さを有している。
【0026】
図4は、動吸振器100の拡大図である。図4に示すように、収容部24は、第1ガイド面241、第2ガイド面242、及び底面243を有している。第1ガイド面241、第2ガイド面242、及び底面243は、収容部24の内壁面を構成している。
【0027】
第1ガイド面241及び第2ガイド面242は、周方向(図4の左右方向)を向いている。第1ガイド面241及び第2ガイド面242は、遠心子4を向いている。遠心子4がない場合、第1ガイド面241及び第2ガイド面242は、対向する。第1ガイド面241と第2ガイド面242とは、互いに略平行に延びている。第1及び第2ガイド面241,242は、平面である。
【0028】
底面243は、第1ガイド面241と第2ガイド面242とを連結している。底面243は、正面視(軸方向視)において、略円弧状である。底面243は、径方向外側を向いている。底面243は、遠心子4の外周面と対向している。
【0029】
<イナーシャリング3>
図1及び図2に示すように、イナーシャリング3は、円環状に形成されている。イナーシャリング3は、環状に連続して延びている。イナーシャリング3は、動吸振器100の質量体として機能する。イナーシャリング3は、ベースプレート2とともに回転可能で、かつベースプレート2に対して相対回転可能である。イナーシャリング3の回転軸は、ベースプレート2の回転軸と同じである。
【0030】
イナーシャリング3は、軸方向において、ベースプレート2に対して間隔をあけて配置されている。また、イナーシャリング3は、軸方向において、遠心子4に対して間隔をあけて配置されている。
【0031】
イナーシャリング3は、第1プレート3aと第2プレート3bとを有している。第1プレート3aと第2プレート3bとは、軸方向においてベースプレート2を挟むように配置されている。
【0032】
第1プレート3a及び第2プレート3bは、軸方向においてベースプレート2に対して所定の隙間をあけて配置されている。なお、第1プレート3a及び第2プレート3bの内周端部は、ベースプレート2と接している。この第1プレート3a及び第2プレート3bの内周端部と、ベースプレート2との間に、摺動プレートを介在させてもよい。この摺動プレートは、第1プレート3a及び第2プレート3b、並びにベースプレート2よりも摩擦係数が小さい。
【0033】
第2プレート3bの内周面は、出力ハブ14のフランジ部14aの外周面と当接可能に配置されている。このように、イナーシャリング3は、径方向において、出力ハブ14によって支持されている。
【0034】
第1プレート3aと第2プレート3bとは、複数のリベット35によって互いに固定されている。したがって、第1プレート3aと第2プレート3bとは、互いに、軸方向、径方向、及び周方向に移動不能である。すなわち、第1プレート3aと第2プレート3bとは、互いに一体的に回転する。
【0035】
図1に示すように、第1プレート3aは、複数の第2貫通孔36を有している。各第2貫通孔36は、周方向に配列されている。第2貫通孔36は、軸方向に延びている。第2貫通孔36は、第1プレート3aを軸方向に貫通している。第2貫通孔36の径は、後述するカムフォロア62の小径部622の径よりも大きい。また、第2貫通孔36の径は、カムフォロア62の大径部621よりも小さい。
【0036】
第2プレート3bは、第1プレート3aと同様に、複数の第2貫通孔36を有している。第1プレート3aに形成された第2貫通孔36と、第2プレート3bに形成された第2貫通孔36とは、周方向及び径方向において同じ位置に形成されている。
【0037】
図3に示すように、第1プレート3aと第2プレート3bとの間には、複数のイナーシャブロック38が配置されている。複数のイナーシャブロック38は、周方向において、互いに間隔をあけて配置されている。例えば、周方向において、イナーシャブロック38と遠心子4とが交互に配置されている。イナーシャブロック38は、第1プレート3a及び第2プレート3bに固定されている。具体的には、イナーシャブロック38は、リベット35によって第1プレート3a及び第2プレート3bに固定されている。なお、イナーシャブロック38は、遠心子4よりも厚い。
【0038】
<可変剛性機構>
図4に示すように、可変剛性機構40は、ベースプレート2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を、ベースプレート2又はイナーシャリング3の回転数に応じて変化させるように構成されている。なお、本実施形態では、可変剛性機構40は、上記ねじり剛性を、ベースプレート2の回転数に応じて変化させるように構成されている。詳細には、可変剛性機構40は、ベースプレート2の回転数が高くなるにつれて、ベースプレート2とイナーシャリング3との間のねじり剛性を大きくする。可変剛性機構40は、遠心子4と、カム機構6とを有している。
【0039】
遠心子4は、ベースプレート2に対して径方向移動可能に支持されている。詳細には、遠心子4は、ベースプレート2の収容部24内に配置されている。遠心子4は、ベースプレート2の回転によって遠心力を受けるように構成されている。遠心子4は、収容部24内において径方向に移動可能である。なお、遠心子4は、径方向に移動する際に自転するように構成されている。本実施形態では、遠心子4の全体が自転する。遠心子4の軸方向の移動は、後述する移動規制機構9によって規制されている。
【0040】
遠心子4は、円板状であり、中央部に第1貫通孔41を有する。すなわち、遠心子4は円筒状である。遠心子4は、ベースプレート2よりも厚い。遠心子4は、一つの部材によって構成することができる。
【0041】
遠心子4は、収容部24の内壁面上を転動するように構成されている。詳細には、遠心子4は、径方向に移動する際、収容部24の内壁面上を転動する。なお、遠心子4は、内壁面のうち、第1及び第2ガイド面241、242上を転動する。
【0042】
例えば、イナーシャリング3が、ベースプレート2に対して時計回りに相対回転すると、遠心子4は、第1ガイド面241上を転動する。逆に、イナーシャリング3が、ベースプレート2に対して反時計回りに相対回転すると、遠心子4は、第2ガイド面242上を転動する。
【0043】
遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第1ガイド面241と転がり接触する面を第1接触面42aとする。また、遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第2ガイド面242と転がり接触する面を第2接触面42bとする。この第1及び第2接触面42a、42bは、軸方向視において円弧状である。
【0044】
第1ガイド面241と第2ガイド面242との距離は、遠心子4の直径と同じか、遠心子4の直径よりもわずかに大きいことが好ましい。第1ガイド面241と第2ガイド面242との距離が遠心子4の直径よりもわずかに大きい場合、第1接触面42aが第1ガイド面241上を転動するときに、第2接触面42bは第2ガイド面242とすべり接触しない。また、第2接触面42bが第2ガイド面242上を転動するときに、第1接触面42aは第1ガイド面241とすべり接触しない。
【0045】
第1貫通孔41は、軸方向に延びている。第1貫通孔41は、遠心子4を軸方向に貫通している。第1貫通孔41の径は、カムフォロア62の径よりも大きい。詳細には、第1貫通孔41の径は、カムフォロア62の大径部621の径よりも大きい。この第1貫通孔41を画定する内壁面の一部は、カム面61を構成する。
【0046】
<カム機構6>
カム機構6は、遠心子4に作用する遠心力を受けて、その遠心力をベースプレート2とイナーシャリング3との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換するように構成されている。なお、カム機構6は、ベースプレート2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに機能する。
【0047】
カム機構6は、カム面61とカムフォロア(支持部材の一例)62とを有している。カム面61は、遠心子4に形成されている。詳細には、カム面61は、遠心子4の第1貫通孔41の内壁面の一部である。カム面61は、カムフォロア62が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。カム面61は、径方向外側を向いている。
【0048】
カムフォロア62は、カム面61と当接している。カムフォロア62は、遠心子4とイナーシャリング3との間で力を伝達するように構成されている。詳細には、カムフォロア62は、第1貫通孔41内と各第2貫通孔36内を延びている。カムフォロア62は、自転可能に、イナーシャリング3に取り付けられている。
【0049】
カムフォロア62は、第1貫通孔41のカム面61上を転動する。また、カムフォロア62は、第2貫通孔36の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、第2貫通孔36の内壁面のうち、径方向内側を向く面と当接している。すなわち、カムフォロア62は、カム面61と、第2貫通孔36の内壁面とによって挟まれている。
【0050】
詳細には、カムフォロア62は、径方向内側においてカム面61と当接し、径方向外側において第2貫通孔36の内壁面と当接している。これによって、カムフォロア62は、位置決めされている。また、このようにカムフォロア62がカム面61と第2貫通孔36の内壁面とによって挟まれているため、カムフォロア62は、遠心子4とイナーシャリング3との間で力を伝達する。
【0051】
カムフォロア62は、円柱状のコロとして構成されている。すなわち、カムフォロア62はベアリングではない。カムフォロア62は、大径部621と、一対の小径部622とを有している。大径部621と小径部622とは、互いの中心が一致している。大径部621は、小径部622よりも径が大きい。大径部621は、第1貫通孔41よりも径が小さく、第2貫通孔36よりも径が大きい。大径部621は、カム面61上を転動する。
【0052】
各小径部622は、大径部621から軸方向の両側に突出している。小径部622は、第2貫通孔36の内壁面上を転動する。小径部622は、第2貫通孔36よりも径が小さい。カムフォロア62は、一つの部材によって構成することができる。すなわち、カムフォロア62の大径部621と一対の小径部622とは一つの部材によって構成されている。なお、カムフォロア62は、径が一定の円柱状であってもよい。また、カムフォロア62は、円筒状であってもよい。
【0053】
カムフォロア62とカム面61との接触、及びカムフォロア62と第2貫通孔36の内壁面との接触によって、ベースプレート2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに、遠心子4に生じた遠心力は、回転位相差が小さくなるような周方向の力に変換される。
【0054】
カムフォロア62は、遠心子4が径方向外側に移動したときに、遠心子4を径方向外側から支持する機能も有する。
【0055】
<移動規制機構>
移動規制機構9は、遠心子4がカムフォロア62に対して軸方向に移動することを規制するように構成されている。具体的には、図5に示すように、移動規制機構9は、溝901と、突起902とを有している。なお、図5は、移動規制機構9に関する部分のみを抜き出した拡大断面図である。
【0056】
溝901は、遠心子4の第1貫通孔41の内壁面上に形成されている。詳細には、溝901は、遠心子4のカム面61上に形成されている。溝901は、カム面61上において、軸方向の中央部に配置されている。溝901は、第1貫通孔41の内壁面に沿って環状に延びている。
【0057】
突起902は、カムフォロア62の外周面に形成されている。詳細には、突起902は、カムフォロア62の大径部621の外周面に形成されている。突起902は、大径部621の外周面上において、軸方向の中央部に配置されている。突起902は、大径部621の外周面に沿って環状に延びている。
【0058】
突起902は、溝901内に配置される。なお。突起902の先端面は、溝901の底面と接触していないが、接触していてもよい。このように、カムフォロア62に形成された突起902と、遠心子4に形成された溝901とが係合しているため、遠心子4は、カムフォロア62に対して軸方向に移動しない。
【0059】
なお、図6に示すように、溝901がカムフォロア62に形成され、突起902が遠心子4に形成されていてもよい。この図6の突起902のように軸方向寸法が大きい場合、突起902の先端面が、溝901と接触していてもよい。そして、突起902の先端面によって、カム面61を構成してもよい。
【0060】
<バランス修正部>
図1に示すように、一対のバランス修正部20a、20bは、イナーシャリング3に取り付けられている。一対のバランス修正部20a、20bは、第1プレート3aに取り付けられてもよいし、第2プレート3bに取り付けられてもよい。なお、一対のバランス修正部20a、20bは、第1プレート3a及び第2プレート3bの軸方向外側を向く面、すなわち、ベースプレート2を向く面とは反対側の面に取り付けられることが好ましい。一対のバランス修正部20a、20bは、例えば、錘である。
【0061】
一対のバランス修正部20a、20bは、動吸振器本体10のアンバランス位置B(r、θ)を基準にして、周方向に対称的に配置されている。すなわち、一対のバランス修正部20a、20bは、位置(r、θ±φ)に配置される。なお、動吸振器本体10のアンバランス位置B(r、θ)は、動吸振器本体10をアンバランス測定機によって測定することによって得られる。なお、アンバランス位置B(r、θ)のrは回転軸Oからの距離を示し、θはある基準位置からの角度を示している。
【0062】
一対のバランス修正部20a、20bは、アンバランス位置Bから時計回りに角度φだけ回転した位置と、反時計回りに角度φだけ回転した位置に配置されている。また、回転軸Oからの距離は、一対のバランス修正部20a、20bは、アンバランス位置Bと同じである。すなわち、一対のバランス修正部20a、20bは、(r、θ±φ)の位置に配置されている。
【0063】
<製造方法>
上述したように構成された動吸振器100は、以下のようにして製造することができる。
【0064】
まず、工程a)として、所望のイナーシャIよりも小さいイナーシャを有する動吸振器本体10を準備する。例えば、イナーシャリング3の重量を所望の重量よりも軽くする。ここで、所望のイナーシャIとは、動吸振器100の固有振動数が所望の値になるようなイナーシャを意味する。なお、動吸振器100の固有振動数fVDDは、以下の式(1)によって表される。
【0065】
【数1】
ここで、kは動吸振器本体10のねじり剛性(Nm/rad)を示し、Iは動吸振器本体10のイナーシャ(kgm)を示す。ねじり剛性は、動吸振器本体10のベースプレート2の回転数N(r/min)に応じて変化する。
【0066】
次に、工程b)として、動吸振器本体10のイナーシャI’を測定する。なお、この工程b)によって測定されたイナーシャI’は、所望のイナーシャIよりも小さい。
【0067】
そして、工程c)として、動吸振器本体10のアンバランス量M及びアンバランス位置(r、θ)を測定する。ここで、rは、回転軸Oからの距離を示し、θは、ある基準点からの角度を示す。
【0068】
次に、工程d)として、工程b)によって測定されたイナーシャI’と、所望のイナーシャIとの差分(I-I’)に基づき、適切な一対のバランス修正部20a、20bを決定する。具体的には、複数対のバランス修正部20a、20bを予め準備しておき、上記差分を補填するために最も適した重量を有するバランス修正部20a、20bを選択する。
【0069】
例えば、I-I’=2mrを満たすmの値に最も近い重量を有するバランス修正部20a、20bを選択する。なお、mは、一対のバランス修正部20a、20bのそれぞれの重量である。また、Iは、所望のイナーシャ(目標とするイナーシャ)であり、I’は工程b)によって測定されたイナーシャである。また、rは、工程c)によって得られたアンバランス位置である。
【0070】
次に、工程e)として、工程d)において決定した一対のバランス修正部20a、20bを、アンバランス位置B(r、θ)を基準にして周方向に対称的に配置する。アンバランス位置B(r、θ)と一対のバランス修正部20a、20bとの位相差±φは、工程c)において算出されたアンバランス量Mと、一対のバランス修正部20a、20bの重量mと、に基づき算出する。この一対のバランス修正部20a、20bの位置を(r、θ±φ)とする。
【0071】
詳細には、Mr=2mrcosφを満たすようなφを算出する。例えば、以下の式(2)より、φを算出することができる。
【0072】
【数2】
【0073】
なお、上記式(2)は、以下の式(3)のように書き換えることができる。
【0074】
【数3】
【0075】
以上のようにして算出した位相差φに基づき、一対のバランス修正部20a、20bを位置(r、θ±φ)において、イナーシャリング3に取り付ける。
【0076】
[動吸振器100の作動]
図7及び図8を用いて、動吸振器100の作動について説明する。
【0077】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、図7に示すような状態で、ベースプレート2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構6のカムフォロア62はカム面61のもっとも径方向内側の位置(周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、ベースプレート2とイナーシャリング3との回転位相差は「0」である。
【0078】
前述のように、ベースプレート2とイナーシャリング3との間の周方向の相対変位量を、「回転位相差」と称しているが、これらは、図7及び図8では、遠心子4及びカム面61の周方向の中央位置と、第2貫通孔36の中心位置と、のずれを示すものである。
【0079】
ここで、トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、図8に示すように、ベースプレート2とイナーシャリング3との間には、回転位相差θが生じる。
【0080】
図8に示すように、ベースプレート2とイナーシャリング3との間に回転位相差θが生じた場合、カム機構6のカムフォロア62は、図7に示す位置から図8に示す位置まで移動する。このとき、カムフォロア62は、カム面61上を転動しながら相対的に左側に移動する。また、カムフォロア62は、第2貫通孔36の内壁面上も転動している。詳細には、カムフォロア62の大径部621がカム面61上を転動し、カムフォロア62の小径部622が第2貫通孔36の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、反時計回りに自転している。
【0081】
このカムフォロア62が左側に移動することによって、カムフォロア62がカム面61を介して遠心子4を径方向内側(図7及び図8の下側)に押圧し、遠心子4を径方向内側に移動させる。この結果、遠心子4は、図7に示す位置から図8に示す位置まで移動する。このとき、遠心子4は、第2ガイド面242上を転動する。遠心子4は、時計回りに自転している。
【0082】
このように図8の位置に移動した遠心子4には遠心力が作用しているので、遠心子4は径方向外側(図8の上側)に移動する。詳細には、遠心子4は、第2ガイド面242上を転動して、径方向外側に移動する。なお、遠心子4は、反時計周りに自転する。
【0083】
また、遠心子4に形成されたカム面61がカムフォロア62を介して、イナーシャリング3を図8の右側に押圧し、イナーシャリング3を図8の右側に移動させる。このとき、カムフォロア62の大径部621はカム面61上を転動し、カムフォロア62の小径部622は第2貫通孔36の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、時計回りに自転している。この結果、図7の状態に戻る。
【0084】
なお、逆方向に回転位相差が生じた場合は、カムフォロア62がカム面61に沿って相対的に図8の右側に移動するが、作動原理は同じである。このとき、遠心子4は、第1ガイド面241上を転動する。
【0085】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0086】
(a)上記実施形態では、工程a)において、動吸振器本体10は、所望のイナーシャIよりも小さいイナーシャI’を有しているが、工程a)はこれに限定されない。例えば、工程a)において、所望のイナーシャIよりも大きいイナーシャI”を有する動吸振器本体10を準備してもよい。この場合、一対のバランス修正部20a、20bは、錘によって構成するのではなく、動吸振器本体10に形成される凹部によって構成される。例えば、イナーシャリング3に一対の凹部を形成する。この各凹部は、I-I’=2mrを満たすmの値だけイナーシャリング3の重量が減るように形成される。
【0087】
(b)上記実施形態では、一対のバランス修正部20a、20bをイナーシャリング3に取り付けていたが、他の部材に取り付けてもよい。例えば、一対のバランス修正部20a、20bをベースプレート2に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0088】
2 :ベースプレート
3 :イナーシャリング
4 :遠心子
6 :カム機構
61 :カム面
62 :カムフォロア
10 :動吸振器本体
20a :バランス修正部
20b :バランス修正部
40 :可変剛性機構
100 :動吸振器
B :アンバランス位置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8