IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルケリス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-着座装具 図1
  • 特開-着座装具 図2
  • 特開-着座装具 図3
  • 特開-着座装具 図4
  • 特開-着座装具 図5
  • 特開-着座装具 図6
  • 特開-着座装具 図7
  • 特開-着座装具 図8
  • 特開-着座装具 図9
  • 特開-着座装具 図10
  • 特開-着座装具 図11
  • 特開-着座装具 図12
  • 特開-着座装具 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057279
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】着座装具
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
A61H3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166709
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】520179822
【氏名又は名称】アルケリス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】天沼 健太郎
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA25
4C046AA43
4C046BB07
4C046CC01
4C046CC04
4C046DD06
4C046DD12
4C046DD38
4C046DD39
4C046DD43
4C046FF11
(57)【要約】
【課題】体重を預けてその場で着座することができるとともに、装着しても何の不自由なく自然な歩行を行うことができ、さらに装着性も高めた着座装具を提供する。
【解決手段】 着座装具は、人体の脚の主として大腿に沿うべき上リンク2と、上リンク2の下側に配されていて人体の脚の主として下腿に沿うべき下リンク3と、上リンク2と下リンク3とを回動可能及び互いの角度を固定可能に接続するジョイント4と、上リンク2に取り付けられていて人体の臀部を覆うべき着座部6と、下リンク3に取り付けられていて人体の膝下を覆うべき膝下支持部7と、下リンク3に対して接続されていて人体の足首に巻回されるべき足首固定具8と、下リンク3に対する足首固定部8の位置を相対的に移動させる移動機構部9とを有する装具本体1を備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の脚に沿って延びていて前記脚に対して装着されるべき別体として形成された装具本体からなる着座装具であって、
前記装具本体は、
前記人体の脚の主として大腿に沿うべき上リンクと、
該上リンクの下側に配されていて前記人体の脚の主として下腿に沿うべき下リンクと、
前記上リンクと前記下リンクとを回動可能及び互いの角度を固定可能に接続するジョイントと、
前記上リンクに取り付けられていて前記人体の臀部を覆うべき着座部と、
前記下リンクに取り付けられていて前記人体の膝下を覆うべき膝下支持部と、
前記下リンクに対して接続されていて前記人体の足首に巻回されるべき足首固定具と、
前記下リンクに対する前記足首固定部の位置を相対的に移動させる移動機構部とを備えていることを特徴とする着座装具。
【請求項2】
前記下リンクは、前記人体の少なくとも足首から下側に対応する位置にスティックを有し、該スティックは前記下リンクよりも剛性が高い材質で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の着座装具。
【請求項3】
前記下リンクと前記足首固定部とは、回転可能に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の着座装具。
【請求項4】
前記下リンクと前記足首固定部とは、着脱可能に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の着座装具。
【請求項5】
前記移動機構部は、前記足首固定部に取付けられた圧縮ばねを有し、該圧縮ばねを圧縮方向に付勢することで前記下リンクが前記足首固定部に対して摺動可能となっていることを特徴とする請求項1に記載の着座装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座することができ、さらに歩行する際にもその歩行の妨げとならないように工夫された着座装具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩行することが困難な者のために人体に装着させて、転倒を防止させたりしてその歩行を補助するための「歩行補助」という考え方からなる歩行補助装具が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1では、脚(下肢)に沿ってリンク機構が備わり、これにより歩行の補助を行っている。このような歩行補助装具ではリンク機構の位置決めのため、リンク機構を人体の腰で吊っておくことの他、足裏に板を配してこの足裏の板にリンク機構を固定する必要がある。このようにして、リンク機構は定位置にて作用し、歩行を補助するためのトルクを与えている。しかし、特許文献1のように足裏に板があると、非常に歩きにくいものである。また、足裏の板が接地するたびにリンク機構に振動が伝わるので部材同士がぶつかる音が発生したり、あるいはこれらのぶつかりで部材の寿命を縮めたりすることになりかねない。
【0003】
歩行補助装具としては、このような足裏の板がないものもある(例えば特許文献2参照)。特許文献2では、脚に沿って伸びる下杖部材の先端を接地させて人体を支え、歩行を補助している。この特許文献2もその目的は「歩行補助」であるため、装着者自らの足の他、補助装具を接地させて身体を支えている。
【0004】
一方、立ち仕事の際、座って作業を行うことができれば作業者にとっては楽である。しかしながら医療現場や工場の作業場等、スペースの関係上や現場の雰囲気上、座るための椅子を置けない場所もある。また、作業効率上、立ったほうがよい仕事というものも存在する。このような場所で作業をする場合は作業者は自らで立っているしかなく、大変な負担となっている。このような課題を解決するために、着座ができて、さらに歩行もできるような装具が求められている。立った方が効率よい仕事の場合には、立っている状態に近い状態で着座を提供させてその負担を軽減できれば、なお好ましい。
【0005】
特許文献2には、着座するための着座部が設けられているが、この着座部は前後方向に延びる細長状であるため、どうしても歩行補助装具の前後方向に厚みが生じてしまう。また、上述したように特許文献2はあくまで「歩行補助」が目的であるため、装具自体の接地が必要となっている。しかしながら、歩くたびに接地する部分を装具が有していると、歩行行為に補助を必要とせず何ら不自由なく歩行できる者にとっては歩行の際の接地部分が増えるだけであり、床面との抵抗も増え、むしろ歩行の妨げとなってしまう。また特許文献2の歩行補助装具は左右の脚部分が一体であり、装着するのに手間がかかる
【0006】
歩行に何ら不自由のない者に対し、立ち仕事の際に着座して作業したいとか、たまに着座して休みたいとかいう要望に応えるためには、着座のための装具を装着していてもいかに何の妨げもなく自然に歩行できるかどうかが課題となる。特許文献1も2も、そのような観点からなる課題は掲げていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-090844号公報
【特許文献2】特開2020-048728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、体重を預けてその場で着座することができるとともに、装着しても何の不自由なく自然な歩行を行うことができ、さらに装着性も高めた着座装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明では、人体の脚に沿って延びていて前記脚に対して装着されるべき別体として形成された一対の装具本体からなる着座装具であって、前記装具本体は、前記人体の脚の主として大腿に沿うべき上リンクと、該上リンクの下側に配されていて前記人体の脚の主として下腿に沿うべき下リンクと、前記上リンクと前記下リンクとを回動可能及び互いの角度を固定可能に接続するジョイントと、前記上リンクに取り付けられていて前記人体の臀部を覆うべき着座部と、前記下リンクに取り付けられていて前記人体の膝下を覆うべき膝下支持部と、前記下リンクに対して接続されていて前記人体の足首に巻回されるべき足首固定具と、前記下リンクに対する前記足首固定部の位置を相対的に移動させる移動機構部とを備えていることを特徴とする着座装具を提供する。
【0010】
好ましくは、前記下リンクは、前記人体の少なくとも足首から下側に対応する位置にスティックを有し、該スティックは前記下リンクよりも剛性が高い材質で形成されている。
【0011】
好ましくは、前記下リンクと前記足首固定部とは、回転可能に接続されている。
【0012】
好ましくは、前記下リンクと前記足首固定部とは、着脱可能に接続されている。
【0013】
好ましくは、前記移動機構部は、前記足首固定部に取付けられた圧縮ばねを有し、該圧縮ばねを圧縮方向に付勢することで前記下リンクが前記足首固定部に対して摺動可能となっている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、本発明にかかる着座装具を人体に装着した状態で、ジョイントにより上リンクと下リンクとの角度を固定することで、装着者が腰を下ろすことで臀部が着座部に突き当たり、これと同時に膝下が膝下支持部に突き当たり、そして下リンクの先端が地面に突き当たる。これにより装着者は腰を下ろして着座しても、安定した状態で体重を預けてその場でその姿勢を保持することができる。また、ジョイントにより上リンクと下リンクとが回動可能であるため、装着者が歩行してもその膝の曲げ角度に応じて上リンクは大腿に沿ったまま、下リンクは下腿に沿ったままとなるので歩行の妨げになることはない。このとき、下リンクの下端を装着者の足裏よりも上側に配することで、歩行の際に足が地面についてもその度ごとに下リンクの先端が地面につくことはない。したがって、余計な振動を装着者に与えることはない。さらに、普段の歩行と同様、歩行時には足裏しか接地しないので、何の不自由なく自然な歩行を行うことができる。また、本発明にかかる着座装具は別体として形成された一対の装具本体からなるため、左右の脚に対して別々に取り付けることができ、装着性が高い。
【0015】
また、下リンクの下側に剛性の高い材質のスティックを設けることで、スティックは装着者が着座時にその体重を受け、さらには装着者を支える部分であるため、耐久性の観点から好ましい。また、下リンクとスティックとが別部材であるため、長さ調整機構をここに設ければ装着者の脚の長さに合わせて装具本体の全長を規定できる。さらに、下リンクの下端付近は荷重がかかり、最も破損しやすい部分でもあるため、別体とすることでこの部分のみの交換も容易となる。
【0016】
また、下リンクと足首固定部とが回転可能に接続されていることで、装着者は足首を前後方向に自由に曲げることができるので、歩行もしやすく、着座するときも足裏全体を接地させてその姿勢を安定させることができる。
【0017】
また、下リンクと足首固定具とが着脱可能に接続されていることで、装着する際に足首固定部を取り外すことができる。足首固定部を足首に巻回する際はかがんで行うことが多いため、比較的小さな足首固定部だけを持ってこの動作をすることができる。
【0018】
また、圧縮ばねを介して下リンクが足首固定部に対して摺動可能とすることで、自重にて自動的に下リンクが足首固定部に対して下側方向に突出するので、装着者が着座の姿勢を取るために体重を着座部に預けるだけで下リンクの下端が地面に当接して装着者を支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の概略正面図である。
図2】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の概略左側面図である。
図3】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の概略右側面図である。
図4】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の概略背面図である。
図5】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の概略斜視図である。
図6】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の概略斜視図である。
図7】本発明に係る着座装具の右脚側に装着する装具本体の上リンクと下リンクとの角度を固定した状態の概略図である。
図8】本発明に係る着座装具を装着した人体の歩行モード時の概略図である。
図9】本発明に係る着座装具を装着した人体の歩行モード時の概略図である。
図10】本発明に係る着座装具を装着した人体の着座モード時の概略図である。
図11】本発明に係る着座装具を装着した人体の着座モード時の概略図である。
図12】歩行モード時の接続部近傍を示す概略断面図である。
図13】着座モード時の接続部近傍を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る着座装具は例えば一対の装具本体1からなり、このうち右脚側に装着する装具本体1が図1図7に示されている。なお、人体の右脚及び左脚に装着される装具本体1はそれぞれ別体として形成されていて、人体に装着された際にはその脚に沿って延びるように形成されている。装具本体1は、上リンク2及び下リンク3を有している。上リンク2はロッド形状あるいは平板のバー形状であり、人体に装着された際には主として大腿に沿っている。下リンク3はロッド形状あるいは平板のバー形状であり、人体に装着された際には上リンク2の下側に配されていて主として下腿に沿っている。これらの上リンク2及び下リンク3はジョイント4により連結されている。このジョイント4は、上リンク2と下リンク3とを回動可能に接続するものである。したがって、上リンク2、下リンク3、ジョイント4にてリンク機構が形成されている。ジョイント4は図示しないロック機構を有し、このロック機構を操作することで(例えばジョイント4に備わる操作部4aを用いる)、上リンク2及び下リンク3の互いの角度を固定することができる(図7参照)。このロック機構としては、種々の機構を適用することができる。
【0021】
下リンク3はスティック5を有している。このスティック5はロッド形状あるいは平板のバー形状であり、人体に装着された際には下リンク3からさらに下側に延びて形成されている。スティック5の先端には比較的耐衝撃性及び耐久性の高い材質からなる接地部5aが形成されている。図の例では下リンク3の一部として別体でスティック5を設けているが、下リンク3をそのまま一体として下側に延ばしてもよい。このスティック5の部分は後述する着座モードにて装着者の体重を受け、さらには装着者を支える部分であるため、下リンク3の下側に別体として、下リンク3よりも剛性の高い材質で取付けることが好ましい。これは、上リンク2及び下リンク3は金属製の棒材の周囲を樹脂製のカバーで覆って形成してもよいが、このときに上リンク2及び下リンク3で用いた棒材の金属よりもスティック5の剛性が高ければ耐久性が向上するという意味である。軽量化を重視するならば、下リンク3を例えばステンレスで、スティック5を例えばアルミニウム等の金属で形成することが好ましい。
【0022】
上リンク2には、人体に装着された際に人体の臀部を覆う着座部6が取り付けられている。下リンク3には、人体に装着された際に人体の膝下を覆う膝下支持部7が取り付けられている。また、下リンク3(スティック5)には、足首固定部8が接続部10により着脱可能に接続されている。この足首固定部8は、人体の足首に巻回されるものである。したがってスティック5と足首固定部8とは、人体の足首部分にて接続される。なお、スティック5と足首固定部8とは接続部10により着脱不能に固定されていてもよい。
【0023】
足首固定部8は移動機構部9を有し、この移動機構部9は下リンク3(スティック5)に対する足首固定部8の位置を相対的に移動させるためのものである。換言すれば、移動機構部9が作用することで、足首固定部8から下側へのスティック5の突出長さが変化する。移動機構部9は、足首固定部8からのスティック5の突出長さを変更させるものである。後述する歩行モードを実現するために、下リンク3(スティック5)の下端(接地部5a)は少なくとも装着者(人体)の足裏よりも上側に位置することができ、後述する着座モードを実現するために接地部5aは少なくとも足裏と同一面に位置することができる。
【0024】
上述した構造の装具本体1を一対備える本発明の着座装具は、例えば以下のようにして人体に装着される。まずはあらかじめスティック5から取り外しておいた足首固定部8を足首に巻回して固定する。足首固定部8はゴム等で形成されたベルトでもよいし、樹脂製の筒形状のものでもよい。要は、足首を覆って足首から外れないような構造を有していればどのような構造であってもよい。足首固定部8を足首に巻回する際は、かがんで行うため、足首固定部8がスティック5に対して着脱可能であれば便利である。そして、着座部6が臀部を覆うような位置となるように上リンク2を大腿に沿って配する。図の例では、着座部6から上リンク2に向けてベルト11が延びているので、このベルト11を大腿の上側に巻回することで、上リンク2が人体に固定される。さらに、膝下支持部7が膝下を覆うような位置に配して下リンク3を下腿に沿って配する。図の例では、膝下支持部7から下リンク3に向けてベルト12が延びているので、このベルト12を膝下の裏側に巻くことで、下リンク3が人体に固定される。また、図の例では、上リンク2にベルト18が固定されていて、このベルト18を膝上に巻くことで、上リンク2を大腿に固定している。
【0025】
さらに、スティック5と足首固定部8とを接続部10にて接続し、両者を固定する。このような装具本体1を両足に装着することで、着座装具は人体に装着される。なお、上記ではベルト11、ベルト12、ベルト18、接続部10での4か所にて装具本体1を脚に沿って装着した例を示したが、ベルト12(あるいはベルト18)、接続部10のみで人体に固定してもよいし、ベルト11、12及び18の位置を少し変更して人体に固定してもよい。人体の脚は大腿の上側、膝、ふくらはぎで膨らんでいるので、この膨らんだ部分の上側にベルトがあれば装具本体1が下がってしまうことを防止できる。そういう意味では、ベルト11は大腿の上側、ベルト12はふくらはぎの上側、ベルト18は膝の上側に位置しているためこのずり下がり防止に寄与している。このような固定部分を増やせば増やすほど、ベルトをきつくしなくても装具本体1は人体にしっかりと固定される。装具本体1の下がり防止としては、足首固定部8は足の甲でこれを受け止められるので、足首固定部8を足首に巻回するということもこれに寄与している。また、人体に装着する際にベルト11、ベルト12、ベルト18、接続部10で固定する順番は適宜変更可能である。本発明に係る着座装具は別体として形成された一対の装具本体1からなるため、左右の脚に対して別々に取り付けることができ、装着性が高い。なお、図の例では上リンク2及び下リンク3は人体の脚の内側に配されているが、外側に配するような構造でもよい。
【0026】
このようにして人体に装着された着座装具は、図8及び図9に示すように、歩行に際しては何らその動作に支障を与えることはない。このとき、ジョイント4のロック機構はオフになっているので、上リンク2及び下リンク3は自由に回動する。このようなジョイント4がフリー状態の場合、着座装具は装着者に対して歩行モードを提供する。歩行モードでは、装着者は歩行する際に膝を曲げる動作を左右の脚で交互に行って前進するが、ジョイント4がフリーであるため上リンク2は大腿に、下リンク3は下腿に沿ってそれぞれジョイント4を介して屈曲して位置する。すなわち、装着者の歩行の際の膝の曲げ角度に応じてジョイント4が上リンク2と下リンク3とを回動させるので、歩行中、上リンク2は大腿に沿ったまま、下リンク3は下腿に沿ったままである。このとき、装着者の臀部は着座部6からは離間していて、装着者の膝下は膝下支持部7から離間しているが、歩行の際に多少接触することはある。
【0027】
歩行モード時、スティック5は足首固定部8に対して突出長さが短い状態であり、接地部5aは装着者の足裏よりも上側に位置している。このため、歩行で足が地面につくたびに接地部5aが地面につくことはない。すなわち、接地部5aが装着者の足裏よりも下側に突出しないような長さにすることで、歩行の際に足が地面についてもその度ごとにスティック5の先端(接地部5a)が地面につくことはない。これにより余計な振動を装着者に与えることはないし、また歩くたびごとに接地部5aが接地して摩耗してしまうことも防止できる。これは、接地部5a、ひいては装具本体1の長寿命化も図ることに寄与する。さらに、普段の歩行と同様、歩行の際には装着者の足裏しか地面に接地しないので、装着者は何の不自由なく自然な歩行を行うことができる。
【0028】
一方、ジョイント4の操作部4aによりロック機構をオンにすると、上リンク2と下リンク3とが形成する角度が固定される。このようなジョイント4がロック状態の場合、着座装具は装着者に対して着座モードを提供する。上リンク2と下リンク3との角度が固定されると、図10及び図11に示すように、装着者の膝が若干曲げられた状態となる。装着者がこのまま腰を降ろすと、臀部が着座部6に当接する。さらに腰が沈み込むと、膝下が膝下支持部7に突き当たり、臀部は着座部6に、膝下は膝下支持部7に当接してその位置が固定される。ここで、ジョイント4によって上リンク2と下リンク3とで形成される角度を150°~170°で固定できるような構成とすれば、立ったような状態に近い着座を提供できる。一方で、ジョイント4によって上リンク2と下リンク3とで形成される角度を120°~140°で固定できるような構成とすれば、中腰の状態に近い着座を提供できる。さらに角度を小さく固定できれば、腰を下ろして椅子に座っているような状態に近い着座を提供できる。ジョイント4のロック機構で固定できる角度については、装着者が適宜選択でき、その作業環境に応じて最適な着座姿勢を提供できる。
【0029】
同時に、スティック5が足首固定部8に対して下側に向けて突出し、接地部5aが地面に接地する。つまり、装着者は自身の体重を着座部6に預けても、膝が曲がって不安定な状態を膝下支持部7で前側に転倒することが防止され、重心は自身の足だけでなく下リンク3の軸方向に向けて延びるスティック5の接地部5aでも支えることになる。これにより装着者は腰を下ろして着座しても、安定した状態で体重を預けてその場でその姿勢を保持することができる。つまり、着座モードでは装着者はその臀部が着座部6に密着し、膝下が膝下支持部7に密着し、地面には足裏と接地部5aとが接地している。このとき、装着者の足裏での地面への接地と、スティック5による地面への接地を互いに確実に行えるようにするため、スティック5(下リンク3)と足首固定部8とは回転可能に接続されている。両者が回転可能に接続されることで、装着者はスティック5の地面に対する角度にかかわらず、自己の足首を前後方向に自由に曲げることができるので、足裏全体を接地させて安定した体勢をとれるからである。
【0030】
以上説明したように、着座モードでは装着者は安定した状態で着座でき、楽な姿勢を維持することができる。一方で歩行モードでは装着者は何ら不自由なく普段通りに歩行することができる。したがって医療現場や工場等で座りながら仕事をするための椅子を置けないような環境において、立ち仕事を長時間しなければならない作業員がこの着座装具を装着すれば、着座モードにすることで、座ったような楽な姿勢を維持しながら仕事をすることができる。本発明は、着座モードを提供してこのような立ち仕事のつらさをなくすことができるとともに、その場から移動したい場合に歩行モードに切り替えて、素早く不自由なく移動することができることも提供するものである。本発明は、普段支障なく歩行できる者に対して、椅子等の座るための物がなくても着座できる状態を提供するとともに、ここから何ら不自由なく歩行できる状態も提供することができるようにするために創作されたものである。また、上述した例では、一対の装具本体1を用いて装着者の両足に装着しているが、片足のみに装着することも可能である。例えば足で踏んで操作するような作業を行う場合は、操作をするための足はフリーであることが好ましいため、反対側の足にのみ装具本体1を装着しても、着座は可能である。
【0031】
スティック5の足首固定部8に対する突出長さを変化させるための移動機構部9としては、図12及び図13に示すように、圧縮ばね13を用いることができる。足首固定部8の側面に移動機構部9が固定されている。この移動機構部9は、二重筒構造を有していて、外側の外筒体14と内側の内筒体15とを有している。この外筒体14と内筒体15との間に圧縮ばねが配設されている。内筒体15の上側には圧縮ばね13の上部を覆うための押え片15aが連続して延びて形成されている。具体的には、押え片15aは内筒体15の上端から軸方向に対して直交方向に外側に向けて延びている。外筒体14の上側には押え片15aの上部を覆うための押え片14aが内側に向けて連続して延びて形成されている。具体的には、押え片14aは外筒体14の上端から軸方向に対して直交方向に内側に向けて延びている。これにより、内筒体15の上側の位置は押え片14aにより規定されているので、内筒体15は外筒体14より上側に移動することはない。
【0032】
一方で、外筒体14の下側には圧縮ばね13の下部を覆うための押え片14bが連続して延びて形成されている。具体的には、押え片14bは外筒体14の下端から軸方向に対して直交方向に内側に向けて延びている。これにより、圧縮ばね13は外筒体14と内筒体15との間に確実に収容される。なお、押え片14bは圧縮ばね13の下端のみを覆い、内筒体15の下端は覆っていないので、内筒体15は外筒体14の下端から突出可能である。
【0033】
内筒体15の押え片15aの外縁の一部からは、連結部15bが下側に向けて連続して延びている。連結部15bは外筒体14の内面に沿った形状で形成されていて、外筒体14に対して摺動可能である。すなわち、移動機構部9は足首固定部8に取付けられた圧縮ばね13を有し、この圧縮ばね13を圧縮方向に付勢することで下リンク3が足首固定部8に対して摺動可能となっている。移動機構部9の下側には上述した接続部10が配されていて、連結部15bはこの接続部10まで延びている。連結部15bの下端は接続部10に固定されている。押え片14bには一部切欠き又は貫通孔が形成されていて、連結部15bはこれを通って外筒体14の下端から突出している。装具本体1を装着する際は、圧縮ばね13は伸張方向に作用している状態であり、この状態で連結部15bは外筒体14の下端から突出している。
【0034】
歩行モード時は、上述したようにベルト11及び12、又は他の手段等により装具本体1が装着者に対してその位置が固定されている。このため、図12に示すように、足首固定部8とスティック5との相対的な位置は装着時と変わらず、圧縮ばね13は伸長方向に作用している状態であり、圧縮方向に付勢はされていない。したがって図示したように、内筒体15の上端にある押え片15aは外筒体14の上端にある押え片14aに当接している。圧縮ばね13が伸びきった状態で押え片14aの位置が押え片15aの位置より上側にある場合は、圧縮ばね13は伸びきって内筒体15は最大上昇位置にある。いずれにしても内筒体15が上側に位置しているため、スティック5は足首固定部8に対して下側への突出長さは最大限短い状態である。この短い状態では、上述したように装着者の足裏の位置よりも接地部5aが上側の(高い)位置にある。
【0035】
着座モード時は、上述したように、装着者の体重がかかるので、下リンク3を介してスティック5には下方向に荷重がかかる。このため、接続部10を介して連結部15bにも下側方向に力がかかる。これとともに、押え片15aが圧縮ばね13を圧縮方向に付勢し、圧縮ばね13が縮んで内筒体15が連結部15bとともに下側方向に移動する。すなわち装着者は、着座部6に体重を預けるだけで、装着者の自重で自動的にスティック5が足首固定部8に対して下側方向に移動する。やがて接地部5aが地面に突き当たり、そこで着座モードでのスティック5の位置が決定される。このように自重でスティック5の足首固定部8に対する突出長さを長くすることができれば、スティック5の伸張操作を別途行う必要がないので使い勝手がよい。例えばジョイント4のロック機構を作動させるための操作部4aと連動させてスティック5が足首固定部8に対して相対的に下側に突出するような機構を設けてもよい。また、圧縮ばね13に限らず、伸縮するような部材を接続部10と足首固定部8との間に介装させて、さらに足の動きに自由度が増すようにしてもよい。
【0036】
なお、連結部15bの下端からは突起16が突出して形成されている。スティック5には、この突起16を受け入れて嵌合させるための受入孔17が形成されている。突起16には周方向に連続した溝16aが形成されていて、受入孔17の先端にある内側に向けて突出した突出部17aがこの溝に嵌め込まれる。したがって、突起16は弾性のある材質で形成されていて、突出部17aを超えて受入孔17内に入り込ませるようにしてもよいし、機械的に一旦突出部17aを含む受入孔17の径を広げさせて突起16の先端を受け入れさせて嵌め込むような機構としてもよい。このようにして突起16が受入孔17に嵌め込まれることで、突出部17aが溝16aに沿って周方向に移動する。結果的に接続部10を介してスティック5と足首固定部8とが相対的に回転する。すなわち、下リンク2(スティック5)と足首固定部8とは、回転可能に接続される。これにより、上述した着座モードにて、装着者は自由に足首を前後方向に曲げることができるようになる。なお、このように両者を回転可能に接続することは、歩行モード時にも装着者は足首を自由に前後方向に曲げることができるので、歩きやすさも提供できる。
【符号の説明】
【0037】
1:装具本体、2:上リンク、3:下リンク、4:ジョイント、4a:操作部、5:スティック、5a:接地部、6:着座部、7:膝下支持部、8:足首固定部、9:移動機構部、10:接続部、11:ベルト、12:ベルト、13:圧縮ばね、14:外筒体、14a:押え片、14b:押え片、15:内筒体、15a:押え片、15b:連結部、16:突起、16a:溝、17:受入孔、17a:突出部、18:ベルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13