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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057307
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】延伸ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230414BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20230414BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20230414BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
B32B27/32 E
C08L23/14
C08L23/12
B29C55/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166752
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】奥村 敦
【テーマコード(参考)】
4F100
4F210
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK66A
4F100AK75A
4F100AL03A
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100EH20
4F100EJ37
4F100EJ38
4F100EJ55
4F100JA03
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JA06C
4F100JA20A
4F100JA20B
4F100JA20C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F210AA11
4F210AG01
4F210AG03
4F210AR20
4F210QC06
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG18
4F210QW12
4F210QW31
4F210QW34
4F210QW36
4J002BB121
4J002BB142
4J002BB152
4J002FD100
4J002GF00
(57)【要約】
【課題】フィルムの剛性を向上させつつ、良好な延伸性、耐熱性及び寸法安定性を備え、二次加工における生産の効率化に寄与することができる延伸ポリプロピレンフィルムを提供する。
【解決手段】30℃から150℃まで5℃/分で昇温、荷重0.32Nを加えた際のMD方向の寸法変化率(140℃)が30%以下であり、かつ、動的粘弾性測定によって昇温速度3℃/min、周波数1.0Hzで測定したTD方向の貯蔵弾性率(120℃)が600MPa以上及びTD方向の貯蔵弾性率(140℃)が300MPa以上である積層フィルムであって、基材層はメソペンタッド分率が95%以上であるポリプロピレン樹脂(A)にプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合された少なくとも2種類以上の異なる樹脂混合体により構成され、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)は、樹脂混合体100重量%に対して1~10重量%混合されてなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と該基材層の一面又は両面に積層された表層からなり、
熱機械測定装置(TMA)にて測定した30℃から150℃まで5℃/分で昇温、荷重0.32Nを加えた際のMD方向の140℃における寸法変化率が30%以下であり、かつ、
動的粘弾性測定によって昇温速度3℃/min、周波数1.0Hzで測定した120℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上及び140℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が300MPa以上であることを満たす積層フィルムであって、
前記基材層は、メソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であるポリプロピレン樹脂(A)にプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合された少なくとも2種類以上の異なる樹脂混合体により構成され、
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)は、前記樹脂混合体100重量%に対して1~10重量%混合されてなる
ことを特徴とする延伸ポリプロピレンフィルム
【請求項2】
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体の中から選ばれる少なくとも1種類である請求項1に記載の延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体である請求項2に記載の延伸ポリプロピレンフィルム
【請求項4】
前記プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体のエチレン含有量が5~15mol%、ブテン含有量が5~20mol%である請求項3に記載の延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記積層フィルムが、150℃・5分の加熱処理におけるMD方向及びTD方向の加熱収縮率がそれぞれ6.5%以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記積層フィルムが、パルスNMRのソリッドエコー法による測定において、70℃における自由誘導減衰曲線を3成分近似した場合の最も運動性の低い結晶成分(H)の成分量が55~70%であり、最も運動性の高い非晶成分(S)の成分量が5~11%である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の延伸ポリプロピレンフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸されたポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、延伸ポリプロピレンフィルムは、その優れた透明性、機械的強度、防湿性、剛性等を活かして包装材料をはじめ種々の用途に広く用いられている。ところが、近年では環境負荷削減の観点から、ポリプロピレンの使用量の削減を目的に、厚みを減らす等の工夫がされるものの、使用感を損なわないためにユーザーから剛性の維持が求められている。
【0003】
つまり、厚みの薄い延伸ポリプロピレンフィルムにあっては、従来の延伸ポリプロピレンフィルムよりも、著しく剛性を向上させる必要がある。また、延伸ポリプロピレンフィルムには印刷やラミネート加工が行われるため、剛性を向上させつつも、十分な耐熱性、寸法安定性も要求される。
【0004】
これらの問題を解決する為に、高立体規則性を有し、分子量分布の狭いポリプロピレンを用いて延伸フィルムとすることにより、高温剛性、耐熱性を備えたフィルムとする技術が知られている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載のポリプロピレンでは延伸可能な温度範囲が狭く、縦延伸および横延伸工程での厳密な温度管理が必要となり、さらには延伸斑の発生によって不良率の発生が増加する問題がある。
【0005】
また、高立体規則性の指標であるペンタッド分率が92%以上のポリプロピレンから選ばれる2成分のポリプロピレンを含み、両者のペンタッド分率の値の差が1~5%であるポリプロピレン組成物を用いた延伸フィルムが提案されている(特許文献2参照)。しかし、ペンタッド分率の低いポリプロピレンを使用することから、特許文献1に記載のフィルムよりも延伸性は向上して延伸斑による不良率は低減するものの、なお十分に満足できるものではなかった。さらに、耐熱性、寸法安定性については検討されておらず、改善の余地がある。
【0006】
さらに、プロピレン単独重合体とプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体とからなるプロピレン重合体組成物であって、その組成物のα-オレフィン含有量が0.3~1.6重量%でありかつアイソタクチックペンタッド指数が0.97以上であって、キシレンによる抽出量が3%以下であり、そのメルトフローレートが0.5~10(g/10分)であるポリプロピレン樹脂組成物を用いる方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法についても、延伸性については十分ではなく延伸斑が生じうるきらいがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-325327号公報
【特許文献2】特開2009-235228号公報
【特許文献3】特開2004-323542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、フィルムの剛性を向上させつつ、良好な耐熱性及び寸法安定性を備えるとともに、延伸性も良好として安定した品質のフィルムを効率よく生産可能としつつ二次加工における生産の効率化にも寄与することができる延伸ポリプロピレンフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、基材層と該基材層の一面又は両面に積層された表層からなり、熱機械測定装置(TMA)にて測定した30℃から150℃まで5℃/分で昇温、荷重0.32Nを加えた際のMD方向の140℃における寸法変化率が30%以下であり、かつ、動的粘弾性測定によって昇温速度3℃/min、周波数1.0Hzで測定した120℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上及び140℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が300MPa以上であることを満たす積層フィルムであって、前記基材層は、メソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であるポリプロピレン樹脂(A)にプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合された少なくとも2種類以上の異なる樹脂混合体により構成され、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)は、前記樹脂混合体100重量%に対して1~10重量%混合されてなることを特徴とする延伸ポリプロピレンフィルムに係る。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体の中から選ばれる少なくとも1種類である延伸ポリプロピレンフィルムに係る。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体である延伸ポリプロピレンフィルムに係る。
【0012】
第4の発明は、第3の発明において、前記プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体のエチレン含有量が5~15mol%、ブテン含有量が5~20mol%である延伸ポリプロピレンフィルムに係る。
【0013】
第5の発明は、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記積層フィルムが、150℃・5分の加熱処理におけるMD方向及びTD方向の加熱収縮率がそれぞれ6.5%以下である延伸ポリプロピレンフィルムに係る。
【0014】
第6の発明は、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記積層フィルムが、パルスNMRのソリッドエコー法による測定において、70℃における自由誘導減衰曲線を3成分近似した場合の最も運動性の低い結晶成分(H)の成分量が55~70%であり、最も運動性の高い非晶成分(S)の成分量が5~11%である延伸ポリプロピレンフィルムに係る。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係る延伸ポリプロピレンフィルムによると、基材層と該基材層の一面又は両面に積層された表層からなり、熱機械測定装置(TMA)にて測定した30℃から150℃まで5℃/分で昇温、荷重0.32Nを加えた際のMD方向の140℃における寸法変化率が30%以下であり、かつ、動的粘弾性測定によって昇温速度3℃/min、周波数1.0Hzで測定した120℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上及び140℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が300MPa以上であることを満たす積層フィルムであって、前記基材層は、メソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であるポリプロピレン樹脂(A)にプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合された少なくとも2種類以上の異なる樹脂混合体により構成され、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)は、前記樹脂混合体100重量%に対して1~10重量%混合されてなるため、フィルムの剛性を向上させつつ、良好な耐熱性及び寸法安定性を備えるとともに、延伸性も良好として安定した品質のフィルムを効率よく生産可能としつつ二次加工における生産の効率化にも寄与することができる。
【0016】
第2の発明に係るガスバリア性樹脂組成物によると、第1の発明において、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体の中から選ばれる少なくとも1種類であるため、フィルムの寸法安定性や剛性を維持しつつ、延伸性を向上させることができる。
【0017】
第3の発明に係る延伸ポリプロピレンフィルムによると、第2の発明において、前記プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体であるため、フィルムの寸法安定性や剛性を維持しつつ、延伸性を向上させることができる。
【0018】
第4の発明に係る延伸ポリプロピレンフィルムによると、第3の発明において、前記プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体のエチレン含有量が5~15mol%、ブテン含有量が5~20mol%であるため、フィルムの寸法安定性や剛性を維持しつつ、延伸性を向上させることができる。
【0019】
第5の発明に係る延伸ポリプロピレンフィルムによると、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記積層フィルムが、150℃・5分の加熱処理におけるMD方向及びTD方向の加熱収縮率がそれぞれ6.5%以下であるため、寸法安定性に優れ、生産性の向上に寄与することができる。
【0020】
第6の発明に係る延伸ポリプロピレンフィルムによると、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記積層フィルムが、パルスNMRのソリッドエコー法による測定において、70℃における自由誘導減衰曲線を3成分近似した場合の最も運動性の低い結晶成分(H)の成分量が55~70%であり、最も運動性の高い非晶成分(S)の成分量が5~11%であるため、延伸斑を抑制しつつ、剛性や耐熱性に優れたフィルムとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、基材層にメソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であるポリプロピレン樹脂(A)を用いて高い剛性、耐熱性を備えるフィルムとしつつ、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合されることにより、フィルムの剛性を維持しつつも延伸性及び寸法安定性を向上させて、安定した品質のフィルムの生産性を上げることができるとともに、二次加工における生産の効率化にも寄与することができる。
【0022】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、熱機械測定装置(TMA)にて測定した30℃から150℃まで5℃/分で昇温、荷重0.32Nを加えた際のMD方向の140℃における寸法変化率が30%以下、及び、動的粘弾性測定によって昇温速度3℃/min、周波数1.0Hzで測定した120℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上及び140℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が300MPa以上であることを満たす積層フィルムである。
【0023】
熱機械測定装置(TMA)にて測定した30℃から150℃まで5℃/分で昇温、荷重0.32Nを加えた際のMD方向の140℃における寸法変化率は、金属又は無機酸化物層の蒸着や印刷、ラミネート等のフィルムの二次加工を行う際のフィルムに張力がかかった状態での加熱乾燥時のフィルムの伸びを再現する一つの指標であって、該寸法変化率が30%以下のフィルムであれば、二次加工における生産の効率化に資することができる。
【0024】
動的粘弾性測定は、試料に対し、時間によって変化(振動)する歪みまたは応力を与え、それによって発生する応力または歪みを測定することにより、試料の力学的な性質を測定する方法である。貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E”)、損失正接(tanδ(=E”/E’))等の温度依存性や周波数依存性を測定することができる。そのため、ガラス転移を含む各種の緩和現象を観測でき、高分子の分子構造や分子運動に関する情報を得ることができる。貯蔵弾性率(E’)は物体に外力とひずみにより生じたエネルギーのうち、物体の内部に保存するエネルギーであって、高温(120℃~140℃)における貯蔵弾性率が大きいほど、高温環境下における弾性率、剛性、耐熱性に優れると言える。貯蔵弾性率が低いと高温環境下において弾性率が低下して機械特性に劣り、コシの低下やフィルムが伸びやすくなり、変形によるシワを誘発するきらいがある。つまり、動的粘弾性測定によって昇温速度3℃/min、周波数1.0Hzで測定した120℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が600MPa以上及び140℃におけるTD方向の貯蔵弾性率(E’)が300MPa以上とするフィルムは、高温環境下における弾性率、剛性、耐熱性に優れることを示す。
【0025】
つまり、TMA測定におけるMD方向の寸法変化率と動的粘弾性測定におけるTD方向の貯蔵弾性率を該範囲とすることによって、剛性、耐熱性及び寸法安定性のバランスに優れた延伸ポリプロピレンフィルムとなる。特に、高温環境下における寸法安定性に優れ、延伸ポリプロピレンフィルムへの金属又は無機酸化物層の蒸着や印刷、ラミネート等の加工を行う場合、高温の荷重下での伸びが少なくなり、蒸着工程でのシワや変形、印刷時の見当ズレ等が生じにくくなり、加工効率が著しく向上し、さらにラミネート加工時のシワ等を抑えられ、より高温の環境下での使用も可能となる。よって、食品包装用途フィルムや工業用途フィルム等、二次加工における生産の高効率化に大きく寄与することができる。
【0026】
ポリプロピレン樹脂(A)はメソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であることを要する。該ポリプロピレン樹脂(A)を用いると、結晶性が向上しやすく、剛性、耐熱性に優れたフィルムとすることができる。メソペンタッド分率が95%未満のポロプロピレン樹脂を使用すると、フィルムの剛性、耐熱性が低下しやすい傾向にある。また、メソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であれば、特に制限はなく、ポリプロピレン単独重合体や、エチレン又は炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体を用いることができる。特にエチレン及び炭素数4以上のα-オレフィンを含まないプロピレン単独重合体が好ましい。
【0027】
メソペンタッド分率(mmmm)は、高温核磁気共鳴(NMR)測定によって得ることができる立体規則性の指標である。メソペンタッド分率(mmmm)の測定は、13C-NMRを用いて行うことができ、メソペンタッド分率は、「Zambelliら、Macromolecules,第6巻,925頁(1973)」に記載の方法等によって算出することができる。立体規則性度を表すペンタッド分率は、13C-NMRを使用して測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示しており、プロピレン単位で5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマーの分率(mmmm)である。具体的には、13C-NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中mmmmピークの強度分率をアイソタクチックのペンタッド単位とする。
【0028】
上記したポリプロピレン樹脂(A)にプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合されて樹脂混合体とされ、基材層が構成される。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)は、樹脂混合体100重量%に対して1~10重量%混合されてなる。これらの樹脂を該組成により混合して用いることにより、延伸可能な温度範囲が広がって延伸斑による不良率を低減でき生産の高効率化に寄与することが可能となる。さらに、TMA測定におけるMD方向の寸法変化率、動的粘弾性測定におけるTD方向の貯蔵弾性率を上記の値に調整しやすくなる。なお、樹脂混合体には、帯電防止剤やアンチブロッキング剤等を含むマスターバッチが混合されることがあり、上記ポリプロピレン樹脂(A)及びプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)以外の他の樹脂が混合される場合がある。
【0029】
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)は、プロピレンとα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)とのランダム共重合体であり、α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。これら共重合体は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体の中でも、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体が好ましく、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体がさらに好ましい。
【0030】
また、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体は、エチレン含有量1~15mol%、ブテン含有量が1~20mol%であることが好ましく、さらに好ましくはエチレン含有量5~15mol%、ブテン含有量が5~20mol%であることが好ましく、エチレン含有量7~14mol%、ブテン含有量が7~17mol%であることが最も好ましい。上記範囲とすると、ペンタッド分率の高いポリプロピレン樹脂を主体とする樹脂混合体に良好な延伸性を備えさせることができ、良好な剛性、耐熱性の維持が可能となる。
【0031】
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)のエチレン、ブテン含有量は、13C-NMR測定で得られた積分強度から公知の方法で求められる。エチレン含量、ブテン含量は下記式(i-1)、(i-2)によって求められる。
エチレン含量(mol%)=IE×100/(IE+IP+IB) ・・・(i-1)
ブテン含量(mol%)=IB×100/(IE+IP+IB) ・・・(i-2)
【0032】
IE、IP及びIBはそれぞれ、エチレン、プロピレン及びブテンについての積分強度であり、下記式(i-3)、(i-4)及び(i-5)で求められる。
IE=Iδδ/2+Iγδ/4-Iββ+Iαγ(P)+Iαδ(P)+Iαγ(B)+Iαδ(B) ・・・(i-3)
IP=1/3×〔ICH3(P)+ICH(P)+Iαα(PP)+1/2×(Iαα(PB)+Iαγ(P)+Iαδ(P))〕 ・・・(i-4)
IB=1/4×〔(ICH3(B)+ICH(B)+I2B2+Iαα(BB))+1/2×(Iαα(PB)+Iαγ(B)+Iαδ(B))〕 ・・・(i-5)
【0033】
添え字の(P)は、プロピレン由来のメチル基分岐に基づくシグナルであり、同様に(B)はブテン由来のエチル基分岐に基づくシグナルである。また、αα(PP)は、プロピレン連鎖に基づくメチレン炭素のシグナルであり、同様にαα(BB)はブテン連鎖に基づくメチレン炭素のシグナルを、αα(PB)はプロピレン-ブテン連鎖に基づくメチレン炭素のシグナルである。
【0034】
式(i―3)、(i-4)、(i-5)に以下を代入し、各成分の含有量を求める。
ββ=I24.8-23.3
γδ=I30.0-29.6
δδ=I29.6-29.2
αγ(P)+Iαδ(P)=I38.5-37.2
αγ(B)+Iαδ(B)=I34.5-33.5
CH3(P)=I22.6-18.0
CH(P)=I29.2-27.9+I31.1-30.0+I33.5-32.2
αα(PP)=I48.0-44.8
CH3(B)=I11.5-9.0
CH(B)=I35.4-34.5+I37.1-36.5+I39.5-38.8
αα(BB)=I40.2-39.5
αα(PB)=I43.7-41.6
2B2=I26.9-26.0
【0035】
基材層を構成するポリプロピレン樹脂(A)の示差走査熱量計(DSC)で測定される融解温度(Tm)の下限は、好ましくは162℃であり、より好ましくは163℃、さらに好ましくは164℃である。Tmが162℃以上であると、剛性と高温での耐熱性を得られやすい。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)のTmは、120~165℃、好ましくは130~165℃、より好ましくは140~165℃の範囲にあると剛性、耐熱性のバランスに優れる。
【0036】
基材層を構成するポリプロピレン樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kgf)は、押出成形性の観点から、好ましくは1~15g/10minであり、より好ましくは1.5~10g/10minであり、さらに好ましくは2.0~8g/10minである。プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)のMFR(230℃、2.16kgf)は好ましくは5~15g/10minであり、より好ましくは6~10g/10minである。上記範囲であると機械的負荷が小さくなり、延伸性が容易となる傾向にある。
【0037】
基材層を構成するポリプロピレン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、25万以上60万以下であることが好ましく、30万以上55万以下であることがさらに好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布(Mw/Mn)は、2以上20以下であることが好ましく、4以上10以下であることがさらに好ましい。上記範囲とすると、樹脂流動性が優れ、フィルム成形時の延伸が容易となり、厚み斑も小さくなることから生産性向上に資することができる。GPC法に使用されるGPC装置には特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置が用いられる。
【0038】
また、本発明の積層フィルムは、基材層と該基材層の一面又は両面に積層された表層からなる積層フィルムであって、基材層と片面に積層された表層の場合は1種2層の構造であっても良いし、2種2層の構造であっても良く、基材層と両面に積層された表層(第一表層及び第二表層)の場合は1種3層の構造であっても良いし、2種3層の構造であっても良いし、3種3層の構造であっても良い。
【0039】
積層フィルムの剛性、耐熱性、寸法安定性確保の観点から、表層に使用されるポリプロピレン樹脂のペンタッド分率は90%以上が好ましい。しかし、表層に低結晶性の樹脂を用いることで帯電防止性能を効果的にブリードアウトさせたり、ヒートシール性能を付与させる場合は、所望する積層フィルムの物性を損なわない範囲で使用することができる。低結晶性の樹脂としては、例えばプロピレンとα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)とのランダム共重合体であり、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体等が挙げられる。積層フィルム全体の厚みは9~100μmが好ましく、10~80μmがより好ましく、12~60μmがさらに好ましく、12~50μmが特に好ましい。表層の厚みは所望する積層フィルムの物性を損なわない範囲で調整することができる。
【0040】
上記した通り、積層フィルムには適宜添加剤が添加されることがある。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、粘着剤、防曇剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、無機または有機の充填剤等が挙げられる。帯電防止剤としては例えば、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン等の脂肪族アミン化合物、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、オレイルジエタノールアミド等の脂肪族アミド化合物、多価アルコール等である。前記帯電防止剤は、公知の方法で添加し得る。例えば高濃度のマスターバッチを別に作製して任意の工程で混合してもよいし、ポリオレフィンパウダーやポリオレフィンペレットとあらかじめ混合してもよい。高濃度マスターバッチを作製する際は、例えば、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、一軸押出機及び多軸押出機などの公知の混合機又は押出機を用いてポリオレフィン系樹脂と帯電防止剤とを加熱混練する等により得ることができる。
【0041】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムの150℃での加熱収縮率は、MD方向及びTD方向それぞれ6.5%以下とされるのがよい。高温環境下における機械特性、耐熱性、寸法安定性に優れたフィルムとなる。
【0042】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、パルスNMRのソリッドエコー法による測定において、70℃における自由誘導減衰曲線を3成分近似した場合の最も運動性の低い結晶成分(H)の成分量が55~70%以下、最も運動性の高い非晶成分(S)の成分量が5~11%以下とされるのがよい。結晶成分量(H)が60%以上70%以下、非晶成分量(S)が5~10%以下とされるとさらに好ましい。良好な延伸性のみならず、剛性、耐熱性、寸法安定性をバランスよく備えた積層フィルムとすることができる。
【0043】
延伸ポリプロピレンフィルムの(H)成分が55%未満であると剛性、耐熱性に劣り、70%以上となると延伸性が悪化し生産性が劣るきらいがある。延伸ポリプロピレンフィルムの(S)成分が5%未満であると十分な延伸性が得られず延伸斑が生じやすくなったり、11%よりも多いと、延伸性は良好となる反面、剛性や耐熱性が劣るきらいがある。
【0044】
パルスNMRは、ポリマー分子鎖の系全体としての運動性を評価する分析方法であり、分子運動性を緩和時間とその時のシグナル強度を測定することで評価することができる。一般に、ポリマー鎖の運動性が低いほど緩和時間は短くなるので、シグナル強度の減衰は早くなり、初期シグナル強度を100%としたときの相対シグナル強度は短い時間で低下する。また、ポリマー鎖の運動性が高いほど緩和時間は長くなるので、シグナル強度の減衰は遅くなり、初期シグナル強度を100%としたときの相対シグナル強度は長時間かけて緩やかに低下する。パルスNMRを用いて3成分に分離して解析する手法は、公知である。
【0045】
パルスNMRのソリッドエコー法で測定される70℃における自由誘導減衰曲線を、下記式(ii)に従い、複数混在する成分(H、M、S)で同時にフィッティングを行い、それぞれの成分における緩和時間T2を算出した。緩和時間T2は分子の運動性と相関があり、緩和時間T2が短いほど分子の運動性が低く、緩和時間T2が長いほど分子の運動性が高くなる。また、式(iii)~(v)に従い、各成分比率が算出される。(M)成分は拘束された非晶成分であり、(H)成分と(S)成分の間の緩和時間を有し、分子運動性についても(H)成分及び(S)成分の間となる。
(t)=A(0)H×exp{-(t/T2HWH}+A(0)M×exp{-(t/T2MWM}+A(0)S×exp{-(t/T2SWS} ・・・(ii)
(H)={A(0)H/(A(0)H+A(0)M+A(0)S)}×100 ・・・(iii)
(M)={A(0)M/(A(0)H+A(0)M+A(0)S)}×100 ・・・(iv)
(S)={A(0)S/(A(0)H+A(0)M+A(0)S)}×100 ・・・(v)
t:取り込み時間
(t):取り込み時間tにおける信号強度
(0)H:(H)成分の信号強度の初期値(x軸が0におけるy軸の値)
(0)M:(M)成分の信号強度の初期値(x軸が0におけるy軸の値)
(0)S:(S)成分の信号強度の初期値(x軸が0におけるy軸の値)
2H:(H)成分の緩和時間T
2M:(M)成分の緩和時間T
2S:(S)成分の緩和時間T
:(H)成分のワイブル係数
:(M)成分のワイブル係数
:(S)成分のワイブル係数
:(H)成分の成分比率
:(M)成分の成分比率
:(S)成分の成分比率
【0046】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法は特に限定されない。例えば、以下のとおりである。各層を構成する樹脂を3台の押出機にそれぞれ投入し、第一表層/基材層/第二表層の順に積層されるようにし、200~250℃に設定した3層Tダイから共押出し、20℃~60℃の冷却ロールで冷却、固化して原反シートを得る。原反シートはさらに水槽に投入するのが好ましい。冷却温度は40℃以下にすることが好ましく、原反シートの透明性を得られるだけでなく、次工程での延伸を容易にし、また厚み斑を低減する上では30℃以下とするのがよい。
【0047】
次いで、該原反シートを設定温度110℃~140℃で予熱し、MD方向に4~6倍に延伸した後、130~150℃でアニールする。なお、MD方向延伸は3本以上の延伸ロールを使用して、2段階以上の多段階に分けて延伸してもよい。MD方向の延伸倍率は上記範囲であると、TD方向延伸工程での延伸がしやすく、生産性が向上する。次にテンターにて設定温度170℃~185℃で予熱し、延伸温度155℃~170℃でTD方向に6~12倍延伸を行う。さらに160~175℃の雰囲気で3~10%のリラックスをさせながらアニールする。熱収縮率を低くするためにはアニール温度は高い方が良いが、高く設定しすぎると、低分子成分が融解、再結晶化することでフィルム表面が荒れ、白化に繋がる。また、リラックスは大きくすることで加熱収縮率を低くすることができるが、大きくしすぎるとフィルムの剛性を低下させてしまうきらいがある。こうして得られた延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面にコロナ放電処理を施した後、巻取機で巻き取ることによって延伸ポリプロピレンフィルムのロールサンプルを得ることができる。
【実施例0048】
[使用材料]
発明者は、延伸ポリプロピレンフィルムを作成するため、下記の材料を用いた。
【0049】
<ポリプロピレン樹脂(A)>
・樹脂PP-1:日本ポリプロ株式会社製、ポリプロピレン樹脂「FL1105F」、メソペンタッド分率(mmmm)=96.1%、MFR=3.5g/10min、Tm=166℃、Mw/Mn=4.9
・樹脂PP-2:株式会社プライムポリマー製、ポリプロピレン樹脂「F133A」、メソペンタッド分率(mmmm)=96.0%、MFR=3.0g/10min、Tm=166℃、Mw/Mn=4.8
・樹脂PP-3:日本ポリプロ株式会社製、ポリプロピレン樹脂「FL100A」、メソペンタッド分率(mmmm)=91.0%、MFR=3.0g/10min、Tm=163℃、Mw/Mn=5.4
【0050】
<プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)>
・樹脂PP-4:三井化学株式会社製、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体「PN2060」、MFR=6.0g/10min、Tm=162℃、Mw/Mn=2.2、エチレン含有量11.4mol%、ブテン含有量7.1mol%
・樹脂PP-5:三井化学株式会社製、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体「PN3560」、MFR=6.0g/10min、Tm=162℃、Mw/Mn=2.2、エチレン含有量10.5mol%、ブテン含有量16.1mol%
・樹脂PP-6:日本ポリプロ株式会社製、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体「FW4BA」、MFR=7.0g/10min、Tm=138℃、Mw/Mn=5.2、エチレン含有量2.8mol%、ブテン含有量2.8mol%
・樹脂PP-7:日本ポリプロ株式会社製、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体「FX4EA」、MFR=5.5g/10min、Tm=131℃、Mw/Mn=5.0、エチレン含有量1.3mol%、ブテン含有量5.1mol%
・樹脂PP-8:三井化学株式会社製、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体「XM-7070」MFR=7.0g/10min、Tm=75℃、Mw/Mn=2.0、エチレン含有量0mol%、ブテン含有量26.4mol%
【0051】
<添加剤>
添加剤として帯電防止剤のマスターバッチ(樹脂PP-9)を用いた。樹脂PP-3をベースとし、帯電防止剤の濃度が9%となるよう調製した。
【0052】
[使用材料の物性の測定]
<メソペンタッド分率>
FT-NMR装置(株式会社JEOL RESONANCE社製、「JNM-ECA400」)を用い、13C-NMR測定を行った。試料120mgに重水素化オルトジクロロベンゼン:重ベンゼン=8:2(体積比)の混合液0.6mLを加え、135℃に加温して溶解し、135℃で測定した。メソペンタッド分率は、「Zambelliら、Macromolecules,第6巻,925頁(1973)」に記載の方法によって算出し、ピークの帰属に関しては、「Macromolecules、8巻、687頁(1975)」に記載の上記文献の訂正版に基づいて行った。
観測核:13C(100MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス間隔:5秒
パルス幅:45°
シフト基準:溶媒由来シグナル=132.39ppm
積算回数:11,000回
【0053】
<プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)のエチレン、ブテン含有量>
FT-NMR装置(株式会社JEOL RESONANCE社製、「JNM-ECA400」)を用い、13C-NMR測定を行った。試料120mgに重水素化オルトジクロロベンゼン:重ベンゼン=8:2(体積比)の混合液0.6mLを加え、135℃に加温して溶解し、135℃で測定した。エチレン、ブテン含有量の算出方法については、前述のとおり、得られた各積分強度を式(i-3)、(i-4)、(i-5)に代入して求めた。
観測核:13C(100MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス間隔:5秒
パルス幅:45°
シフト基準:溶媒由来シグナル=132.39ppm
積算回数:11,000回
【0054】
<融解温度>
融解温度は、JIS K 7121(2012)に準拠して測定した示差走査熱量測定(DSC)によって求めた。セイコーインスツル株式会社製、「DSC6200」を使用して測定した(単位:℃)
【0055】
<メルトフローレート(MFR)>
メルトフローレート(MFR)の測定は、JIS K 7210-1(2014)のA法に準拠して測定した。
【0056】
<分子量、分子量分布測定>
分子量及び分子量分布は、東ソー株式会社社製、「HLC-8321GPC-HT」を用いて下記条件にて測定した。
カラム:TSKgel GMHHR-H(20)HT×3本
(7.8mm I.D.×300mm×3本)
溶離液:1,2,4-トリクロロベンゼン(0.05% BHT添加)
流量:1.0mL/分
検出器:RI検出器(ポラリティー:-)
カラム温度:140℃
注入量:300μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0057】
[延伸ポリプロピレンフィルムの作製]
<試作例1>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を95重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-4を5重量%の組成としてドライブレンドし、第一表層及び第二表層に用いる樹脂としては樹脂PP-3を用いた。3台の押出機にそれぞれ投入し、第一表層/基材層/第二表層の順に積層されるようにし、240℃に設定した3層Tダイから共押出し、30℃の冷却ロールに接触させ、そのまま30℃の水浴に投入し、原反シートを得た。その後、該シートを設定温度135℃で予熱し、MD方向に5倍に延伸した後、140℃でアニールした。次にテンターにて設定温度182℃で予熱し、延伸温度163℃でTD方向に8倍延伸を行い、ついでリラックスを6.5%させながら170℃にてアニールした。その後、片面にコロナ放電処理を施した後、巻取機で巻き取ることによって試作例1の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0058】
<試作例2>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を87重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-4を3重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とした以外は試作例1と同様とし、試作例2の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0059】
<試作例3>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を84重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-4を6重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とし、TD方向の倍率を8.7倍、リラックスを9.0%とした以外は試作例2と同様とし、試作例3の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0060】
<試作例4>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を87重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-5を3重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とし、TD方向の予熱温度を184℃とした以外は試作例2と同様とし、試作例4の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0061】
<試作例5>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を84重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-6を6重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とし、TD方向の予熱温度を183℃とした以外は試作例2と同様とし、試作例5の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0062】
<試作例6>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を81重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-6を9重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とし、TD方向の予熱温度を183℃とした以外は試作例3と同様とし、試作例6の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0063】
<試作例7>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を84重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-7を6重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とした以外は試作例2と同様とし、試作例7の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0064】
<試作例8>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を84重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-8を6重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とした以外は試作例2と同様とし、試作例8の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0065】
<試作例9>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-2を87重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-4を3重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とした以外は試作例2と同様とし、試作例9の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0066】
<試作例10>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を79重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-4を11重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とし、TD方向の予熱温度を183℃、TD方向の倍率を8.7倍、リラックスを9.0%とした以外は試作例2と同様とし、試作例10の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0067】
<試作例11>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を78重量%、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)として樹脂PP-6を12重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とした以外は試作例10と同様とし、試作例10の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0068】
<比較例1-1>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-1を100重量%とし、TD方向の延伸温度を165℃、TD方向のアニール温度を168℃とした以外は試作例1と同様とし、比較例1-1の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0069】
<比較例1-2>
TD方向の予熱温度を185℃、TD方向の延伸温度を163℃とした以外は比較例1-1と同様とし、比較例1-2の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0070】
<比較例1-3>
TD方向の予熱温度を180℃、TD方向の延伸温度を165℃とした以外は比較例1-1と同様とし、比較例1-3の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0071】
<比較例1-4>
TD方向の予熱温度を178℃、TD方向の延伸温度を168℃とした以外は比較例1-1と同様とし、比較例1-4の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0072】
<比較例2>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-3を100重量%とし、TD方向の予熱温度を181℃、TD方向の延伸温度を164℃、TD方向のアニール温度を168℃とした以外は試作例1と同様とし、比較例2の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0073】
<比較例3>
基材層をポリプロピレン樹脂(A)として樹脂PP-3を90重量%、帯電防止剤マスターバッチとして樹脂PP-9を10重量%の組成とし、TD方向の予熱温度を181℃、TD方向の延伸温度を164℃、TD方向のアニール温度を168℃とした以外は試作例1と同様とし、比較例3の延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0074】
各試作例及び比較例の中間層及び表面層の樹脂組成、製膜条件を表1~3にまとめた。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
[延伸ポリプロピレンフィルムの性能評価]
各試作例及び比較例の延伸ポリプロピレンフィルムの評価のため、寸法変化率、貯蔵弾性率、加熱収縮率、パルスNMR、引張弾性率及びヘーズを測定した。併せて、各フィルムの厚みを測定し、目視でフィルムの外観を評価した。結果を表4~6にまとめた。なお、比較例1-2~1-4は、作成時の延伸斑がひどく、各種測定のうち、一部測定を行うことができなかったため、表中の記載を省略した。比較例1-2は、延伸斑が生じるとともに、白化して透明性が低下した。比較例1-3は、延伸斑がさらに悪化した。比較例1-4は、延伸斑が比較例1-3と同程度であった。
【0079】
<寸法変化率>
寸法変化率(%)は、TMA測定の装置として熱機械測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、「型番:Q400」)を使用して測定した。各試作例及び比較例の延伸ポリプロピレンフィルムを8mm×4mmの大きさの試験片に裁断し、該試験片のMD方向を引張方向として、TMA装置のプローブに固定し、試験片に0.32Nの荷重を加えられ当初時点の試験片の長さ(L)を読み取る。昇温速度5℃/minで30℃から150℃まで加熱させ、140℃加熱後の試験片の長さ(L)を読み取る。一連の加熱中、試験片には0.32Nの荷重は試験片のMD方向に加えられている。そして、加熱前後の試験片の長さ(L)と(L)を下記式(vi)に代入し、当初の試験片の長さと変化量との関係から寸法変化率(%)を算出する。なお、比較例2の延伸ポリプロピレンフィルムは、試験片が140℃に到達する前に測定限界まで伸びてしまい、寸法変化率の算出ができなかったため、測定不可とし、表中「-」と表記した。この時、測定限界時の伸び(L)から算出した寸法変化率は43.4%であった。
寸法変化率(%)={(L-L)/L}×100 ・・・(vi)
【0080】
<貯蔵弾性率>
貯蔵弾性率(MPa)は、アイティー計測制御社製、「DVA-225」を用い、下記条件にて120℃及び140℃それぞれにおけるTD方向の貯蔵弾性率を測定した。
変形モード:引張
温度範囲:-60℃~150℃
昇温速度:3℃/min
周波数:1Hz
環境:Air下
【0081】
<加熱収縮率>
加熱収縮率(%)は、JIS Z 1712(2009)に準拠して測定した。各試作例及び比較例の延伸ポリプロピレンフィルムからTD方向15mm、MD方向200mmの試験片を切り出し、両端から50mmの位置に印をつけ加熱前の試験長さ(l)とし、150℃の熱風オーブン中に吊るして5分間加熱した。その後、取り出して室温で冷却し、加熱後の長さを測定した。加熱後の試験長さを(l)とし、下記式(vii)に代入して加熱収縮率を求めた。
加熱収縮率(%)={(l-l)/l}×100 ・・・(vii)
【0082】
<パルスNMR>
パルスNMR(%)は、パルスNMR装置(Bruker社製、「the minispec mq20」)を用い、各試作例及び比較例の延伸ポリプロピレンフィルムの試験片をハサミで裁断して試料管に詰め、下記の条件で測定した。ワイブル係数Wは1.76~2.00の値を使用し、W及びWは1の値を使用した。ワイブル係数Wはフィッティングにおいて変数とし、自由誘導減衰曲線と精度よく一致するようそれぞれ数値を変更して測定した。
観測核:H(共鳴周波数:20MHz)
測定温度:70℃
測定法:Solid Echo法
90°パルス幅:3.26μs
パルス間隔:0.008ms
取り込み時間:2ms
繰り返し時間:1s
積算回数:1024回
【0083】
<引張弾性率>
引張弾性率(GPa)は、各試作例及び比較例の延伸ポリプロピレンフィルムを、そのMD方向及びTD方向のそれぞれについて、試験方向長さ15mm幅×200mmの試験片を切り出し試験片とし、引張試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、「RTF-1310」)を使用し、JIS K 7127(1999)に準拠し、チャック間距離100mm、引張速度200mm/minの条件にてMD方向及びTD方向における引張弾性率を測定した。
【0084】
<ヘーズ>
ヘーズ(%)は、JIS K 7136(2000)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、「NDH-5000」)を使用して測定した。
【0085】
<厚み>
フィルムの厚み(μm)は、厚さ測定器(株式会社東洋精機製作所製,「B-1」)を用い測定して全層厚さ(μm)を求めた。
【0086】
<フィルムの外観評価>
フィルムの外観は、下記の基準で目視評価した。延伸斑がほとんどなく、外観が良いものを「〇」、延伸斑があり、外観が悪いものを「×」と評価した。
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
[結果と考察]
試作例1~9は高温におけるMD方向の寸法変化率が小さく、TD方向における貯蔵弾性率が高いため、剛性、耐熱性に優れるとともに、寸法安定性も良好となった。さらに、フィルム外観においても延伸斑がなく、延伸性にも優れるため、生産効率も良好となる。
【0091】
比較例1-1のメソペンタッド分率が高いポリプロピレン樹脂(A)のみで構成されたフィルムにおいては、剛性、耐熱性及び寸法安定性に優れるものの、延伸斑が生じ、製品として使用できる品質レベルのものではなかった。比較例1-1と同様に、メソペンタッド分率が高いポリプロピレン樹脂(A)のみを用いて、製膜条件を変化させた比較例1-2~1-4にあっても、延伸斑を改善することができなかった。このことから、基材層にプロピレン・α―オレフィンランダム共重合体(B)を混合すると、フィルムの延伸性を向上させて、延伸斑の発生を抑制することができることがわかった。
【0092】
また、比較例2及び3のメソペンタッド分率が低いポリプロピレン樹脂を用いたフィルムにおいては、延伸性に優れ延伸斑が生じなかったものの、剛性、耐熱性及び寸法安定性に劣り、所望する物性を有するフィルムは得られなかった。
【0093】
そして、試作例10,11のメソペンタッド分率が高いポリプロピレン樹脂(A)を用いてプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)の配合量を増やしたフィルムにあっては、寸法変化率に劣り、高温環境下における使用が難しくなることが示された。さらに試作例10よりもプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)の配合量を増やした試作例11にあっては、加熱収縮率も劣ることとなったため、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)の配合量を増やしすぎると、剛性、耐熱性及び寸法安定性が低下し、生産効率が落ちてしまうきらいがあることがわかった。
【0094】
以上示されるように、基材層が、メソペンタッド分率(mmmm)が95%以上であるポリプロピレン樹脂(A)にプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が混合された樹脂混合体により構成され、かつプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体(B)が、樹脂混合体100重量%に対して1~10重量%混合された配合によってなる試作例1~9においては、良好な剛性、耐熱性及び寸法安定性を維持しつつも、延伸性を改善して延伸斑による不良率の低減を図ることができ、フィルム生産の効率化に寄与することができることが示された。さらに、高温条件下における寸法安定性に優れることから、延伸ポリプロピレンフィルムへの金属又は無機酸化物層の蒸着や印刷、ラミネートなどの加工を行う場合にあっても、高温条件下での荷重による伸びが生じにくくなり、蒸着工程でのシワや変形、印刷時の見当ずれ等が抑えられたり、ラミネート加工時のシワ等を抑えられることから、より高温の環境下でも使用が可能となって加工の効率が著しく向上する。そのため、食品包装用途フィルムや工業用途フィルム等、二次加工における生産の高効率化にも大きく寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、フィルムの剛性を向上させつつ、良好な延伸性、耐熱性及び寸法安定性を備える。つまり、本発明の延伸ポリプロピレンフィルムによれば、良好な剛性を維持しつつも安定した品質のフィルムの生産性を向上させることができるとともに、高温条件下でも良好な寸法安定性を有するため、二次加工における生産の効率化にも寄与することができる。