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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057390
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230414BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
H01L21/304 601Z
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166900
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝三
(72)【発明者】
【氏名】長里 喜隆
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】星 真一
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
【テーマコード(参考)】
5F057
5F063
【Fターム(参考)】
5F057AA04
5F057BA15
5F057BB06
5F057BB09
5F057CA40
5F057DA22
5F063BA43
5F063BA45
5F063CC49
5F063DD27
(57)【要約】
【課題】半導体基板の反りを低減し、デバイス層を半導体基板から良好に剥離することができる技術を提供する。
【解決手段】半導体装置の製造方法は、第1主面1aと第2主面1bを有する半導体基板1の前記第1主面に溝を形成する溝形成工程であって、前記半導体基板の前記第1主面側にはデバイス構造が形成される、溝形成工程と、前記半導体基板の所定深さを延びる面3にレーザを照射するレーザ照射工程であって、前記レーザは前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに照射される、レーザ照射工程と、前記デバイス構造が形成されているデバイス層2を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する剥離工程と、を備えており、前記剥離工程は、前記溝が未充填又は前記半導体基板よりも低熱膨張係数の材料で充填された状態で実施される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
第1主面(1a)と第2主面(1b)を有する半導体基板(1)の前記第1主面に溝を形成する溝形成工程であって、前記半導体基板の前記第1主面側にはデバイス構造が形成される、溝形成工程と、
前記半導体基板の所定深さを延びる面(3)にレーザを照射するレーザ照射工程であって、前記レーザは前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに照射される、レーザ照射工程と、
前記デバイス構造が形成されているデバイス層(2)を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する剥離工程と、を備えており、
前記剥離工程は、前記溝が未充填又は前記半導体基板よりも低熱膨張係数の材料で充填された状態で実施される、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記溝形成工程では、前記半導体基板を平面視したときに、前記第1主面において少なくとも一方向に沿って繰り返し現れるように前記溝が形成される、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記溝は、前記少なくとも一方向に沿って等間隔に配置されている、請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも一方向に沿って計測した前記溝の最大ピッチは、前記半導体基板の直径の0.0177倍以下である、請求項2又は3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記剥離工程では、前記少なくとも一方向において前記半導体基板の一方の端部から他方の端部に向けて前記デバイス層を前記半導体基板から剥離する、請求項2~4のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記デバイス層には、ダイシングライン(5)で区画された複数のデバイス領域(4)が設けられており、
前記複数のデバイス領域の各々は、前記デバイス構造が形成される領域であり、
前記溝は、前記複数のデバイス領域を横断して伸びている、請求項1~5のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記溝は、前記半導体基板を平面視したときに、第1方向に沿って延びる第1の溝(6a)と、前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びる第2の溝(6b)と、を有しており、
前記第1の溝と前記第2の溝は、平面T字状に接続されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記半導体基板は、六方晶系の半導体であり、
前記溝は、前記半導体基板を平面視したときに、六角形を隙間なく並べたように伸びている、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
半導体基板の一方の主面側にデバイス構造を形成した後に、そのデバイス構造が形成されたデバイス層を半導体基板から剥離する技術が開発されている。この技術を利用すると、デバイス層が剥離された後の半導体基板を再利用することができるので、半導体装置の製造コストを低下させることができる。特許文献1は、半導体基板の所定深さを延びる面にレーザを照射することによって半導体基板の内部に変質層を形成し、変質層が形成された面に沿ってデバイス層を半導体基板から剥離する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-102520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体基板に反りが生じることがある。半導体基板が反っていると、半導体基板内の変質層も反って形成される。このため、デバイス層を半導体基板から剥離するときに、剥離力が変質層に沿って伝わりにくくなり、剥離不良又は半導体基板の破損の原因と成ることがある。本明細書は、半導体基板の反りを低減し、デバイス層を半導体基板から良好に剥離することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、第1主面(1a)と第2主面(1b)を有する半導体基板(1)の前記第1主面に溝を形成する溝形成工程であって、前記半導体基板の前記第1主面側にはデバイス構造が形成される、溝形成工程と、前記半導体基板の所定深さを延びる面(3)にレーザを照射するレーザ照射工程であって、前記レーザは前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに照射される、レーザ照射工程と、前記デバイス構造が形成されているデバイス層(2)を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する剥離工程と、を備えることができる。前記剥離工程は、前記溝が未充填又は前記半導体基板よりも低熱膨張係数の材料で充填された状態で実施される。
【0006】
この製造方法では、前記半導体基板に前記溝が形成されることにより、前記半導体基板に加わっている応力が緩和され、前記半導体基板の反りが低減される。さらに、前記溝形成工程で形成された前記溝は、前記剥離工程においても未充填又は低熱膨張係数の材料で充填された状態が維持されている。このため、前記半導体基板の反りが抑えられた状態で前記剥離工程を実施することができる。この製造方法によると、前記デバイス層を前記半導体基板から剥離するときに、剥離力が前記変質層に沿って良好に伝わるので、前記デバイス層を前記半導体基板から良好に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】半導体装置の製造方法のうちの溝形成工程、レーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程のフローを示す図である。
図2】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図であり、図3のII-II線に対応した断面図である。
図3】半導体基板を平面視したときのデバイス領域の配置を模式的に示す図である。
図4】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図であり、図5のIV-IV線に対応した断面図である。
図5】半導体基板を平面視したときの溝の配置を模式的に示す図である。
図6】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
図7】半導体装置の製造過程における半導体基板の断面図を模式的に示す図である。
図8】半導体装置の製造過程における半導体基板から剥離されたデバイス層の断面図を模式的に示す図である。
図9】半導体基板を平面視したときの溝の配置の変形例を模式的に示す拡大図である。
図10】半導体基板を平面視したときの溝の配置の変形例を模式的に示す拡大図である。
図11】半導体基板の直径と溝ピットの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、溝形成工程と、レーザ照射工程と、剥離工程と、を備えることができる。前記溝形成工程では、第1主面と第2主面を有する半導体基板の前記第1主面に溝を形成する。前記半導体基板は、特に限定されるものではないが、化合物半導体であってもよい。前記半導体基板は、一例ではあるが、窒化ガリウムを含む窒化物半導体、炭化珪素、酸化ガリウムであってもよい。本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、前記半導体基板を再利用できることから、高価な化合物半導体の前記半導体基板に適用した場合に特に有用である。前記半導体基板の前記第1主面側にはデバイス構造が形成される。前記レーザ照射工程では、前記半導体基板の所定深さを延びる面にレーザを照射する。前記レーザ照射工程では、前記溝が形成されていない前記第2主面から前記半導体基板の前記所定深さに前記レーザが照射される。前記剥離工程は、前記デバイス構造が形成されているデバイス層を前記レーザが照射された面に沿って前記半導体基板から剥離する。前記剥離工程では、前記溝が未充填又は前記半導体基板よりも低熱膨張係数の材料で充填された状態で実施される。
【0009】
前記溝形成工程では、前記半導体基板を平面視したときに、前記第1主面において少なくとも一方向に沿って繰り返し現れるように前記溝が形成されてもよい。前記溝が繰り返し現れるように形成されるので、前記少なくとも一方向における前記半導体基板の反りが低減される。この場合、前記溝は、前記少なくとも一方向に沿って等間隔に配置されていてもよい。
【0010】
前記溝が繰り返し現れるように形成される場合において、前記少なくとも一方向に沿って計測した前記溝の最大ピッチが、前記半導体基板の直径の0.0177倍以下であってもよい。ここで、溝のピッチとは、隣り合う溝間の距離をいう。この製造方法によると、剥離成功率が大幅に改善され得る。
【0011】
前記溝が繰り返し現れるように形成される場合において、前記剥離工程では、前記少なくとも一方向において前記半導体基板の一方の端部から他方の端部に向けて前記デバイス層を前記半導体基板から剥離してもよい。前記半導体基板の反りが低減された方向において前記デバイス層を前記半導体基板から剥離するので、前記デバイス層を前記半導体基板から良好に剥離することができる。
【0012】
前記デバイス層には、ダイシングラインで区画された複数のデバイス領域が設けられていてもよい。この場合、前記複数のデバイス領域の各々は、前記デバイス構造が形成される領域である。前記溝は、前記複数のデバイス領域を横断して伸びていてもよい。
【0013】
前記溝は、前記半導体基板を平面視したときに、第1方向に沿って延びる第1の溝と、前記第1方向に直交する第2方向に沿って延びる第2の溝と、を有していてもよい。前記第1の溝と前記第2の溝は、平面T字状に接続されていてもよい。この製造方法によると、前記第1の溝と前記第2の溝が接続する部分における応力が緩和され、前記半導体基板の破損が抑えられる。
【0014】
前記半導体基板は、六方晶系の半導体であってもよい。この場合、前記溝は、前記半導体基板を平面視したときに、六角形を隙間なく並べたように伸びていてもよい。この製造方法によると、前記半導体基板を平面視したときに、3つの方向に沿って前記溝が繰り返し現れるように形成されるので、前記半導体基板の反りが全体でバランスよく低減される。また、前記溝が接続する部分における前記溝と溝の間の角度が鈍角になるので、その部分における応力が緩和され、前記半導体基板の破損が抑えられる。
【実施例0015】
以下、図面を参照し、半導体装置の製造方法のうちの溝形成工程、レーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程について説明する。なお、溝形成工程、レーザ照射工程、剥離工程及びダイシング工程以外の他の各種工程、例えばデバイス構造を形成する工程等は、既知の製造技術を利用することができる。なお、デバイス構造を形成する工程は、溝形成工程とレーザ照射工程の間に実施されてもよい。
【0016】
図1に、溝形成工程(ステップS1)、レーザ照射工程(ステップS2)、剥離工程(ステップS3)及びダイシング工程(ステップS4)のフローを示す。本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、図2及び図3に示す半導体基板1に対してこれら工程を実行することにより、複数の半導体装置(チップともいう)を製造する。
【0017】
図2に示されるように、半導体基板1は、各々が平面で相互に平行に延びている上面1aと下面1bを有している。これら上面1aと下面1bは、主面とも称される。半導体基板1は、特に限定されるものではないが、この例では窒化ガリウム基板である。半導体基板1の所定深さを延びる面3は、後述するように、レーザが照射される面、すなわち、レーザの複数の集光点が集まった面である。本明細書では、半導体基板1のうちのレーザが照射される面3よりも上側の部分、すなわち、半導体基板1から剥離される部分をデバイス層2という。なお、以下では、半導体基板1の上面1aに平行な一方向をx方向とし、半導体基板1の上面1aに平行であってx方向に直交する方向をy方向とし、x方向及びy方向に直交する方向をz方向(半導体基板1の厚み方向ともいう)とする。
【0018】
図2及び図3に示されるように、半導体基板1のデバイス層2には、ダイシングライン5で区画された複数のデバイス領域4が設けられている。複数のデバイス領域4の各々には、デバイス構造が形成される。デバイス構造は、特に限定されるものではないが、例えばスイッチング素子構造である。具体的には、スイッチング素子構造は、半導体基板1の上面1aに直交する方向から見たときに(以下、「半導体基板1を平面視したときに」という)、デバイス領域4の中央側に配置されている素子領域と、その素子領域の周囲に配置されている終端領域と、を有している。素子領域は、絶縁ゲートが配置されている領域であり、電流が流れる領域である。終端領域は、耐圧構造(例えば、ガードリング又はリサーフ層)が配置されている領域である。このようなスイッチング素子構造の種類としては、一例ではあるが、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が挙げられる。
【0019】
図4及び図5に示されるように、溝形成工程(図1のステップS1)では、ドライエッチング技術を利用して、半導体基板1の上面1aに溝6が形成される。この例では、溝6は、y方向に沿って延びるとともにx方向に繰り返し現れるように形成された複数の第1の溝6aと、x方向に沿って延びるとともにy方向に繰り返し現れるように形成された複数の第2の溝6bと、を有している。複数の第1の溝6aの各々は、y方向において半導体基板1の一方の端面から他方の端面まで伸びており、x方向において等間隔に配置されている。複数の第2の溝6bの各々も同様に、x方向において半導体基板1の一方の端面から他方の端面まで伸びており、y方向において等間隔に配置されている。なお、図5では、図面の明瞭化を目的として、これら複数の第1の溝6a及び複数の第2の溝6bの一部のみを図示している。
【0020】
複数の第1の溝6aの一部は、複数のデバイス領域4を横断するように伸びており、デバイス領域4に形成されるデバイス構造の素子領域内を伸びている。同様に、複数の第2の溝6bの一部も、複数のデバイス領域4を横断するように伸びており、デバイス領域4に形成されるデバイス構造の素子領域内を伸びている。このような第1の溝6a及び第2の溝6bの配置は、デバイス構造の素子領域の面積を減らすことになるので、デバイス構造が流せる最大電流を低下させる。このため、第1の溝6a及び第2の溝6bの配置は、後述の応力緩和とデバイス構造の電気特性の双方を考慮して適宜設定される。
【0021】
溝形成工程を実施する前の半導体基板1は、例えば結晶成長処理及びアニール処理等の工程中に加わる熱応力により、下面1bが凸となるように反った状態であることが多い。溝形成工程を実施すると、半導体基板1の熱応力が緩和され、半導体基板1の反りが低減される。溝形成工程の後、デバイス構造を形成する工程が実施される。
【0022】
図6に示されるように、レーザ照射工程(図1のステップS2)では、半導体基板1の所定深さを延びる面3にレーザが照射される。レーザは、溝6が形成されていない半導体基板1の下面1bから半導体基板1の所定深さで集光するように照射される。レーザは、半導体基板(この例では窒化ガリウム基板)に対して透過性を有する波長域のレーザである。集光点の位置では、半導体基板1を構成する結晶(この例では、窒化ガリウムの単結晶)が加熱されて分解される。その結果、集光点の位置に、半導体基板1を構成する結晶の構成原子の析出層等(この例では、ガリウムの析出層等)によって構成された変質層が形成される。変質層の強度は、半導体基板1を構成する結晶よりも低い。したがって、変質層の強度は、その周囲の結晶よりも低くなる。
【0023】
図7に示されるように、剥離工程(図1のステップS3)では、デバイス構造が形成されているデバイス層2が、レーザが照射された面3に沿って半導体基板1から剥離される。具体的には、半導体基板1の上面1aと下面1bの各々に粘着シートが貼り付けられ、それら粘着シートを引き離すように操作することで、デバイス層2が半導体基板1から剥離される。この例では、x方向における半導体基板1の一方の端部(紙面左側の端部)から他方の端部(紙面右側の端部)に向けてデバイス層2を半導体基板1から剥離する。この剥離工程では、溝形成工程で形成された溝6が未充填のまま維持されている。このため、半導体基板1の反りが抑えられた状態が維持されているので、レーザ照射によって形成された変質層は、半導体基板1内において同一平面に延びた状態となっている。この結果、デバイス層2を半導体基板1から剥離するときに、図中矢印に示すように、剥離力が変質層に沿って良好に伝わることができるので、デバイス層2を半導体基板1から良好に剥離することができる。
【0024】
また、上記したように、この剥離工程では、x方向における半導体基板1の一方の端部から他方の端部に向けてデバイス層2を半導体基板1から剥離する。半導体基板1の反りは、溝6のピッチが狭く、溝6が繰り返し現れる方向において良好に低減される。半導体基板1では、x方向が溝6のピッチが最小となる方向であり、x方向における反りが良好に低減されている。この剥離工程では、x方向に向けてデバイス層2を半導体基板1から剥離するので、剥離力が変質層に沿って良好に伝わることができる。同様の理由により、剥離工程では、y方向における半導体基板1の一方の端部から他方の端部に向けてデバイス層2を半導体基板1から剥離してもよい。
【0025】
この例の剥離工程では、溝形成工程で形成された溝6が未充填のまま維持されていた。この例に代えて、半導体基板1の材料(この例では窒化ガリウム基板)よりも低熱膨張係数の材料で溝6が充填されてもよい。低熱膨張係数の材料で溝6を充填することにより、半導体基板1の反りを抑えながら、溝6内に残ったプロセス残渣による異物の発生を抑えることができる。このような低熱膨張係数の材料としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)であってもよい。これら絶縁材料が用いられていると、デバイス構造の終端領域において耐圧構造の一部として利用することもできる。
【0026】
なお、デバイス層2が剥離された後の半導体基板1は、半導体装置の製造に再利用される。例えば、半導体基板1の剥離面に対して研磨及びエッチング等を実施した後に、エピタキシャル結晶成長技術を利用して剥離面上にエピタキシャル層を成膜することにより、成膜したエピタキシャル層にデバイス構造を形成することができる。
【0027】
図8に示されるように、ダイシング工程(図1のステップS4)では、半導体基板1から剥離されたデバイス層2に対して研磨工程及び電極形成工程等を実施した後、デバイス層2から複数のデバイス(ダイともいう)が切り出され、半導体装置が完成する。
【0028】
上記実施例では、半導体基板1を平面視したときに、第1の溝6aと第2の溝6bが交差するように配置されていた。この例に代えて、図9に示す変形例のように、半導体基板1を平面視したときに、第1の溝6aと第2の溝6bが平面T字状に接続されていてもよい。上記実施例の交差する場合に比して、第1の溝6aと第2の溝6bの接続部における応力が緩和され、半導体基板1の破損が抑えられる。
【0029】
また、図10に示す変形例のように、半導体基板1を平面視したときに、溝6が六角形を隙間なく並べたように伸びていてもよい。さらに、溝6は、正六角形が隙間なく並べられたハニカム構造となるように伸びていてもよい。この例では、半導体基板1が六方晶系の窒化ガリウム基板であり、半導体基板1の厚み方向(z軸)がc軸である。また、六角形を構成する各辺がm面、a面又は他の任意の面と平行となるように伸びている。この変形例では、半導体基板1を平面視したときに、120°の角度で分かれた3つの方向に沿って溝6が繰り返し現れるように形成されるので、半導体基板1の反りが全体でバランスよく低減される。また、溝6が接続する部分における溝6と溝6の間の角度が鈍角になるの、その部分における応力が緩和され、半導体基板1の破損が抑えられる。
【0030】
また、上記実施例及び変形例はいずれも、半導体基板1の上面において、溝6が途切れることなく連続して伸びている例であった。これらの例に代えて、又は、これらの例に加えて、溝が分散して配置されていてもよい。例えば、半導体基板1を平面視したときに、デバイス領域4内において一巡するような溝が形成されていてもよく、ダイシングライン5に沿ってデバイス領域4の周囲を一巡するような溝が形成されていてもよい。
【0031】
溝6の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば底面が下方に向けて凸状の曲面で形成されていてもよい。このような断面形状の溝6では、溝6の底部に加わる応力が緩和され、半導体基板1の破損が抑えられる。
【0032】
また、溝6の深さは、特に限定されるものではないが、エピタキシャル層よりも深くてもよい。半導体基板1の反りは、エピタキシャル層を結晶成長させるときにエピタキシャル層に加わる応力(主に、引っ張り応力)が原因の1つであると考えられる。このため、溝6をエピタキシャル層よりも深く形成することで、半導体基板1の反りを効果的に低減することができる。
【0033】
(溝のピッチについて)
上記実施例の半導体基板1において、以下の条件で剥離試験を実施した。
半導体基板1の直径:50mm
半導体基板1の厚み:0.4mm
第1の溝6aの幅:10μm
第1の溝6aの深さ:10μm
第1の溝6aのピッチ:1mm
第2の溝6bの幅:10μm
第2の溝6bの深さ:10μm
第2の溝6bのピッチ:1mm
【0034】
上記剥離試験の結果、溝を形成しない場合に比して、良好に剥離される確率(剥離成功率)が大幅に改善されることが確認された。具体的には、溝を形成しない例の剥離成功率が25%であるのに対し、溝を形成した例では剥離成功率が75%であった。以下に示すSEMI規格に対応したウェハの寸法において、上記剥離試験と同様の荷重分布となるための溝のピッチを単純梁等分布荷重の式を用いて計算し、それをプロットしたのが図11である。x軸が半導体基板の直径であり、y軸が溝のピッチである。
【表1】
【0035】
図11の回帰直線から、溝6のピッチが半導体基板1の直径の0.0177倍であると、剥離試験と同等の剥離成功率が得られることが示唆された。この結果から、半導体基板を平面視したときに、一方の主面において少なくとも一方向に沿って繰り返し現れるように形成された溝において、その少なくとも一方向に沿って計測した溝の最大ピッチが半導体基板の直径の0.0177倍以下であれば、剥離試験と同等又はそれ以上の剥離成功率が得られることが示唆された。
【0036】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0037】
1:半導体基板、 2:デバイス層、 4:デバイス領域、 5:ダイシングライン、 6:溝、 6a:第1の溝、 6b:第2の溝、
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図11