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  • 特開-ムコール症治療薬 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057423
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】ムコール症治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/664 20060101AFI20230414BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230414BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20230414BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
A61K31/664
A61P37/02
A61P31/10
A61P31/04
A61K45/00
A61K31/7048
A61K31/496
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166950
(22)【出願日】2021-10-11
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】中田 浩智
(72)【発明者】
【氏名】中村 朋文
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB32
4C084ZB35
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086DA35
4C086DA37
4C086EA15
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB07
4C086ZB32
4C086ZB35
4C086ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明はムコール症の治療において用いるための医薬組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】下式で表される化合物、または医薬として許容なその塩を含む、医薬組成物が提供される。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、Xは、-CH(-R)-、または-CH=CH-であり;
Raは、C10-18アルキル、またはC10-18アルケニルであり、該アルキルまたはアルケニルは、オキソまたはヒドロキシから選択される1以上の置換基により置換されていてもよく;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、または-COORであり;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、または-ORであり;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、またはC1-6アルキルであり;または、Rの-ORおよびRの-COORはエステル結合を形成し、RおよびRが結合する炭素原子と一緒になって5員ラクトンを形成する]
で表される化合物、または医薬として許容な塩を含む、ムコール症治療において用いるための医薬組成物。
【請求項2】
が、水素原子である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
Xが-CH(-OH)-である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
が-COOHである、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
Xが-CH(-OR)-であり、Rが-COOであり、Rの-ORおよびRの-COORがエステル結合を形成し、RおよびRが結合する炭素原子と一緒になって5員ラクトンを形成する、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
が水素原子である、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
Raが、C10-18アルキル、または二重結合を1つ有するC10-18アルケニルであり、該アルキルまたはアルケニルは、1つのオキソにより置換されていてもよい、請求項1~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ミリオシン(2S-アミノ-3R,4R-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-14-オキソ-6E-エイコセン酸);
D-スフィンゴシン((2S,3R,E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール);
DL-ジヒドロスフィンゴシン(1,3-ジヒドロキシ-2-アミノオクタデカン);
フィトスフィンゴシン((2S,3S,4R)-2-アミノオクタデカン-1,3,4-トリオール);もしくは
スフィンゴシン 1-リン酸((2S,3R,4E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール 1-リン酸);
または医薬として許容なその塩を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
免疫系に障害を有する患者に投与するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
Rhizopus oryzae、Rhizopus microsporus、Rhizopus stolonifer、Mucor circinelloides、Cunninghamella bertholletiae、Apophysomyces elagans、Saksenaea vasiformis、Absidia corymbifera、またはRhizomucor pusillusが原因菌である、ムコール症の治療において用いるための、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
他の抗菌薬の投与と組み合わせて用いるための、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
他の抗菌薬が、アンフォテリシンBまたはポスコナゾールである、請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムコール症の治療薬、およびムコール症の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
深在性真菌症は、肺、肝臓、腎臓、脳などの臓器に障害を及ぼす真菌による感染症である。ムコール症(ムコール菌症)は接合菌症(zygomycosis)とも呼ばれ、深在性真菌症の一つとして知られる、複数の真菌種を原因菌とする感染症の総称である。ムコール症は、カンジダ症、アスベルギル症に次いで臨床において遭遇する頻度が高く、鼻や副鼻腔、眼、脳において発症する「鼻脳型ムコール症」、肺、消化器系などに発症する「肺ムコール症」に大別される。特に鼻脳型ムコール症は症状が重く、命に関わる場合もあるため、早期の発見と積極的な治療が必要となる。肺ムコール症は侵襲性アスペルギルス症に類似する重度の肺症状(例えば、湿性咳嗽,高熱,呼吸困難など)を伴う。ムコール症は,Rhizopus属,Rhizomucor属,Mucor属などのケカビ(Mucorales)目に属する多様な真菌種により引き起こされ、その診断は病理組織学的検査と培養により確定される
【0003】
現在、移植治療の進歩、化学療法施行者数の増加に伴い、血液疾患分野や悪性腫瘍の治療で免疫不全となる患者数は以前より増加しており、深在性真菌症を発症する患者総数は増加している。そのため、日和見感染症であるムコール症、クリプトコッカス症などが従来の抗真菌薬に耐性を示し致死的な経過をたどる難治性真菌感染症が臨床で問題となっている。また、最近では新型コロナウイルスの感染症の患者における発症が報告されている(非特許文献9)。特に、ムコール症は一旦発症すると急激な経過をたどる致死的な真菌感染症である。また、診断も困難であるためしばしば確定診断がなされないまま治療を開始される。一般的な真菌治療薬であるアゾール系およびキャンデイ系の抗真菌薬は無効であり、実績のある治療薬としては、ポリエン系であるアンフォテリシンB(AMPH-B、AmB)に限られている。
【0004】
ミリオシン(Myriocin)は、Isaria sinclairii (冬虫夏草菌の一種)の培養物に含まれる成分であり(非特許文献1)、免疫抑制効果を有し(非特許文献2)、多発性硬化症治療薬のフィンゴリモド(Fingolimod)の研究の端緒となったことで知られている化合物である(非特許文献3および4)。ミリオシンは抗真菌活性を有すること(非特許文献1、8および10)、およびセリンパルミトイルトランスフェラーゼ阻害活性を有することについて報告がされている(非特許文献5~7、および11)。また抗真菌活性を有する化合物について多数の報告がされている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-033385A
【特許文献2】特表2013-503111A
【特許文献3】特開2021-042206A
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kluepfel, D. et al., The Journal of Antibiotics, 1971, 25, 109-115
【非特許文献2】Fujita, T. et al., The Journal of Antibiotics, 1994, 47, 208-215
【非特許文献3】Fujita, T. et al., J. Med. Chem., 1996, 39, 4451-4459
【非特許文献4】Strader, C.R, J. Nat. Prod., 2011, 74, 900-907
【非特許文献5】Miyake, Y. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1995, 211, 396-403
【非特許文献6】Hanada, K. et al., Biochimica et Biophysica Acta, 2003, 1632, 16-30
【非特許文献7】Rollin-Pinheiro R., et al., Future Med. Chem., 2016, 8, 1469-1484
【非特許文献8】Perdoni, F. et al., BMC Microbiology, 2015, 15:248, DOI 10.1186/s12866-015-0588-0
【非特許文献9】Revannavar, S.M., et al., BMJ Case Rep 2021;14:e241663. doi:10.1136/bcr-2021-241663
【非特許文献10】Groll, A.H., et al., Trends in Microbiology, 1998, 6, 117-124
【非特許文献11】Chem, J.K., et al., Chemistry & Biology, 1999, 6, 221-235
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ムコール症の治療において新たな手段が求められている。本発明は、ムコール症の治療において使用することができる抗真菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ムコール症の原因菌となるケカビ目に属する真菌に優れた活性を有する化合物を見いだし、本発明を完成させるに至った。本明細書には以下の発明の開示が包含される。
【0009】
[1]式(I):
【0010】
【化1】
【0011】
[式中、Xは、-CH(-R)-、または-CH=CH-であり;
Raは、C10-16アルキル、またはC10-16アルケニルであり、該アルキルまたはアルケニルは、オキソまたはヒドロキシから選択される1以上の置換基により置換されていてもよく;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、または-COORであり;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、または-ORであり;
は、水素原子、またはホスホノであり;
は、水素原子、またはC1-6アルキルであり;または、Rの-ORおよびRの-COORはエステル結合を形成し、RおよびRが結合する炭素原子と一緒になって5員ラクトンを形成する]
で表される化合物、または医薬として許容な塩を含む、ムコール症治療において用いるための医薬組成物。
【0012】
[2]Rが、水素原子である、[1]に記載の医薬組成物。
[3]Xが-CH(-OH)-である、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[4]Rが-COOHである、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0013】
[5]Xが-CH(-OR)-であり、Rが-COOであり、Rの-ORおよびRの-COORがエステル結合を形成し、RおよびRが結合する炭素原子と一緒になって5員ラクトンを形成する、[1]または[2]に記載の医薬組成物。
[6]Rが水素原子である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[7]Raが、C10-18アルキル、または二重結合を1つ有するC10-18アルケニルであり、該アルキルまたはアルケニルは、1つのオキソにより置換されていてもよい、[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0014】
[8]ミリオシン(2S-アミノ-3R,4R-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-14-オキソ-6E-エイコセン酸);
D-スフィンゴシン((2S,3R,E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール);
DL-ジヒドロスフィンゴシン(1,3-ジヒドロキシ-2-アミノオクタデカン);
フィトスフィンゴシン((2S,3S,4R)-2-アミノオクタデカン-1,3,4-トリオール);もしくは
スフィンゴシン 1-リン酸((2S,3R,4E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール 1-リン酸;
または医薬として許容なその塩を含む、[1]に記載の医薬組成物。
【0015】
[9]免疫系に障害を有する患者に投与するための、[1]~[8]のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[10]Rhizopus oryzae、Rhizopus microsporus、Rhizopus stolonifer、Mucor circinelloides、Cunninghamella bertholletiae、Apophysomyces elagans、Saksenaea vasiformis、Absidia corymbifera、またはRhizomucor pusillusが原因菌である、ムコール症の治療において用いるための、[1]~[9]のいずれかに記載の医薬組成物。
[11]他の抗菌薬の投与と組み合わせて用いるための、[1]~[10]のいずれかに記載の医薬組成物。
[12]他の抗菌薬が、アンフォテリシンBまたはポスコナゾールである、[11]に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ムコール症の治療において使用することができる抗真菌剤が提供され、ムコール症の治療において新たな手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】MYR耐性R.O.およびAmB耐性R.O.の作成において、培養の繰り返し回数とMICを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一つの側面において、本発明は式(I):
【0019】
【化2】
【0020】
[式中、R~R、XおよびRaは本明細書において定義した通りである]
で表される化合物、またはその医薬として許容な塩を含む、医薬組成物を提供する。本発明の一つの態様において、前記医薬組成物は、本発明は式(II)、式(III)、または式(IV):
【0021】
【化3】
【0022】
[式中、R~R、およびRaは本明細書において定義した通りである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩を含む。
本発明の別の態様において、本発明の一つの態様において、前記医薬組成物は、本発明は式(IIa)、式(IIIa)、または式(IVa):
【0023】
【化4】
【0024】
[式中、R~R、XおよびRaは本明細書において定義した通りである]
で表される化合物、または医薬として許容なその塩を含む。
本明細書において「C10-18アルキル」とは、炭素数10~18の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルキル基を意味し、例えば、「C11-18アルキル」、「C12-18アルキル」、「C12-17アルキル」、および「C12-16アルキル」を包含する。
【0025】
本明細書において「C10-18アルケニル」とは、炭素数10~18の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルケニル基を意味し、例えば、「C11-18アルケニル」、「C12-18アルケニル」、「C12-17アルケニル」、および「C12-16アルケニル」を包含する。アルケニル基は、二重結合を例えば、1~3つ、1または2つ、または1つ含む。
【0026】
本明細書において「C1-6アルキル」とは、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、環状または部分的に環状のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、s-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、3-メチルブチル、2-メチルブチル、1-メチルブチル、1-エチルプロピル、n-ヘキシル、4-メチルペンチル、3-メチルペンチル、2-メチルペンチル、1-メチルペンチル、3-エチルブチル、および2-エチルブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、およびシクロプロピルメチルなどが含まれ、例えば、C1-4アルキルおよびC1-3アルキルなども含まれる。
【0027】
本明細書においてホスホノは、基:-P(=O)(OH)を表す。オキソは、基:=Oを表し、炭素原子と結合してカルボニル基を形成する。
【0028】
本明細書において、1以上の置換基で置換されていてもよい場合、その置換基その数は1~4,または1~3、または1もしくは2、または1である。また置換基が複数存在する場合、置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
本明細書において「医薬として許容な塩」とは、医薬品として使用可能な塩であれば特に限定されない。本発明化合物が塩基と形成する塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどの無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩などが挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;および、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などの有機酸との酸付加塩が挙げられる。
【0030】
本発明の1つの態様において、式(I)で表される化合物は医薬として許容な塩として存在してもよく、化合物中に含まれるカルボキシ基、ホスホノ基などの塩形成が可能な基の一部または全部が塩を形成していてよい。
【0031】
式(I)で表される化合物に含まれる原子(例えば、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子など)は、それぞれの天然に最も多く存在する同位体以外の同位体原子であってもよく、当該同位体原子は放射性同位体原子であってもよい。すなわち、本発明の1つの側面によれば、同位体原子で標識化された本明細書で既に定義された式(I)または式(II)の化合物、またはその塩が提供される。ここで、同位体原子による標識化は、例えば、放射性同位体による標識化(H、14C、32Pなど)であってもよく、化合物の調製の容易さの側面からは、Hによる標識化が好ましい。
【0032】
本発明の1つの態様において、式(I)の化合物、そのエナンチオマー、そのジアステレオマー、または医薬として許容なその塩は、プロドラッグとして投与され、生体内において活性化合物に変換される。
【0033】
本発明の一つの側面において、医薬組成物は、種々の剤形、例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができる。本発明の医薬組成物は非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤;経皮投与のための貼付剤、軟膏またはローション;口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤;ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0034】
当該医薬組成物は、一般に用いられる各種成分を含みうるものであり、例えば、1種以上の薬学的に許容され得る賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、懸濁化剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、補助剤、防腐剤、緩衝剤、結合剤、安定剤、コーティング剤等を含みうる。また本発明の医薬組成物は、持続性または徐放性剤形であってもよい。
【0035】
本発明の一つの側面において、医薬組成物の投与量は、投与経路、患者の体型、年齢、体調、疾患の度合い、発症後の経過時間等により、適宜選択することができ、本発明の医薬組成物は、治療有効量および/または予防有効量の上記式(I)の化合物を含むことができる。本発明において上記式(I)または式(II)の化合物は、一般に1~1000mg/日/成人または0.01~20mg/日/kg体重の用量で使用されうる。当該医薬組成物の投与は、単回投与または複数回投与であってもよい。
【0036】
本発明の化合物を含有する経口投与用の組成物において、該化合物の含有量は、単位剤形当たり、例えば、0.001~1000mg、具体的には、0.01~500mg、特に具体的には、0.005~100mgである。
【0037】
本発明の医薬組成物は、必要に応じ、従来公知の着色剤、保存剤、香料、風味剤、コーティング剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、およびミネラル分(鉄、亜鉛、マグネシム、ヨードなど)などの成分を含有していてもよい。本発明の一つの態様において、医薬組成物は、経口投与に適した形態、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、または内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製してもよい。
【0038】
製剤化のための添加物としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤が挙げられる。また、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にしたり、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0039】
本発明の一つの側面によれば、式(I)で表される化合物、または医薬として許容なその塩は、ムコール症の原因菌を標的とする抗真菌剤として使用することができ、さらに別の抗菌剤と組み合わせて使用することができる。別の抗菌剤としては、例えば、アンフォテリシンB、ポサコナゾールなどが挙げられる。本発明の一つの態様において、本発明の抗真菌剤は別の抗真菌剤と同時に、別々に、または逐次的に投与される。本発明の別の態様において、別の抗菌剤による治療を受けた患者に対して本発明の抗菌剤が投与される。
【0040】
本発明の一つの側面によれば、本発明の抗真菌剤は、免疫系に障害を有する患者に対して投与することができる。当該患者の例として、例えば、HIV感染症の患者、悪性腫瘍治療のために化学療法を受けた患者、移植手術のために免疫抑制剤の投与を受けている患者、COVID-19などの感染症の重症化により免疫抑制剤の投与を受けている患者などが挙げられる。
【0041】
本発明の一つの側面によれば、式(I)で表される化合物、または医薬として許容なその塩を含む医薬組成物を、ムコール症の予防のために用いることができる。一つの態様において、ムコール症の予防のための使用は、免疫系に障害を有する患者に対して行うことができる。
【0042】
本発明の一つの側面によれば、ムコール症の原因菌としては、例えば、Rhizopus oryzae、Rhizopus microsporus、Rhizopus stolonifer、Mucor circinelloides、Cunninghamella bertholletiae、Apophysomyces elagans、Saksenaea vasiformis、Absidia corymbifera、またはRhizomucor pusillusが挙げられる。一つの態様において、本発明の抗菌剤は、Rhizopus oryzae、Rhizopus microsporus、またはCunninghamella bertholletiaeを原因菌とするムコール症の治療または予防に使用することができる。
【0043】
本発明の一つの側面において、
ミリオシン(2S-アミノ-3R,4R-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)-14-オキソ-6E-エイコセン酸);
D-スフィンゴシン((2S,3R,E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール);
DL-ジヒドロスフィンゴシン(1,3-ジヒドロキシ-2-アミノオクタデカン);
フィトスフィンゴシン((2S,3S,4R)-2-アミノオクタデカン-1,3,4-トリオール);もしくは
スフィンゴシン 1-リン酸((2S,3R,4E)-2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール 1-リン酸);
または医薬として許容なその塩を含む、ムコール症の治療または予防のための医薬組成物が提供される。
【0044】
式(I)に記載の化合物は、購入により、または公知の合成方法、またはその組み合わせにより合成することができる。一つの態様において、式(I)に記載の化合物は、天然から得た化合物を公知の方法で化学修飾することにより合成することができる。
【0045】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
【0046】
[実施例]
試験化合物の入手
以下の化合物を購入により入手した。
ミリオシン(MYR):Cayman Chemical
D-スフィンゴシン(D-sp):東京化成工業株式会社
DL-ジヒドロスフィンゴシン(DL-D-sp):Sigma-Aldrich
フィトスフィンゴシン(Ph-sph):東京化成工業株式会社
スフィンゴシン 1-リン酸(Sp-1-P):Cayman Chemical
アンフォテリシンB(AmB):富士フィルム 和光純薬株式会社
フルコナゾール(FLCZ):富士フィルム 和光純薬株式会社
ポサコナゾール(POS):東京化成工業株式会社
フィンゴリモド(FTY720):Cayman Chemical。
【0047】
真菌増殖阻害効果の評価
ムコール症の原因菌であるRhizopus oryzae、Rhizopus microsporus、およびCunninghamella bertholletiaeを用いて、以下の手順により真菌増殖阻害活性の評価試験を行った。
【0048】
菌種入手先
Rhizopus oryzae(R.O.)Went et Prinsen Geerligs, ATCC 56536
Rhizopus microsporus(R.M.);臨床分離株
Cunninghamella bertholletiae(C.B.)Stadel, teleomorph;ATCC 42113
【0049】
真菌培養および薬剤試験溶液
サブロー培養液(1Lあたり、カゼイン-スイ消化ペプトン5.0g、動物組織-ペプシン消化ペプトン 5.0g、ブドウ糖 20.0g、カナマイシン 100 μg/ml、クロラムフェニコール 20 μg/ml)
サブロー寒天培地(1Lあたり、カゼイン-スイ消化ペプトン 5.0g、動物組織-ペプシン消化ペプトン 5.0g、ブドウ糖 40.0g、寒天15g)
RPMI-1640溶液(MOPSによりpH7.0に調整、L-グルタミン含有、重炭酸塩なし)
【0050】
測定方法
糸状菌の薬剤感受性試験法はCLSIが定めるM38-A2法(Approved standard M38-A2. CLSI, Wayne, PA, USA, 2008.)に従って、ブロス微小希釈による以下の手順で行われた。
(1)サブロー寒天培地で培養した上述した真菌に0.1%(w/v)Tween80含有滅菌生理食塩水を添加し, 菌体表面を白金耳で軽くこすることで分生子を浮遊させた。分生子数はThoma型血球計算盤を用いて計測し、2.0×105conidia/ml となるように調整した。
(2)試験に供する化合物を連続希釈法およびデュプリケートで、培養液内に化合物の阻害効果に応じて0.0312から64 μg/ml(最終濃度)に調整した。
(3)化合物を含む96プレート内に(1)で定量化した真菌を添加し、30℃、湿度70%以上の条件下で最大48時間培養し、50%最小発育阻止濃度(MIC:Minimum Inhibitory Concentration)MIC50(μg/ml)を決定した。
(4)阻害効果の判定は、培養液のみのコントロールウェル内がコンフルエントになった時間を参考にした。
(5)分光光度計を用いてOptical Density(OD) 550 nmの吸光を測定し、各ウェル内の真菌の増殖量はコントロールウェルを基準(1.0)として比較した。以上の評価方法を用いて、アッセイは3回(少なくとも2回)独立した状態で繰り返され、最終的なMIC50を決定した。
【0051】
結果を表1、2、3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
MYRとその類縁体は、表1、表2、表3で示されるようにRPMI培養液およびサブロー培養液内でムコール症の原因菌とされるR.O.、C.B.、R.M.に増殖阻害効果を示した。臨床で使用されている抗真菌薬のアゾール系であるFLCZは有効な増殖阻害効果を示さなかったが、新規アゾール系であるPOS、ポリエン系であるAmBおよびはRPMI培養液で良好な増殖抑制効果を示した。一方で、AmBおよびPOSはサブロー培養液内ではMYRとほとんど同等の増殖阻害効果であった。
【0056】
MYR耐性R.O.およびAmB耐性R.O.の作成
96プレート内に上述したサブロー培養液で、MYRおよびAmB(MIC50の濃度)を調整した。上記(1)と同様に調整されたR.O.を同プレート内に添加後、30℃、湿度70%以上の条件下で培養を開始した。R.O.の増殖は目視にて確認され、十分に増殖したR.O.は(1)の処理後、徐々に高い濃度のMYRまたはAmBへ添加された。同様に20回程度、繰り返し培養を継続することによって、それぞれMYR耐性R.O.およびAmBの耐性R.O.(MIC>32)を作成した。
【0057】
耐性R.O.の阻害効果判定および薬剤交差耐性の確認
作成されたMYR耐性R.O.およびAmB耐性R.O.はそれぞれRPMI培地を使用し、上記と同じ手順でMIC50が決定された。(表4)
【表4】
【0058】
RPMI溶液内で評価されたMYR耐性R.O.は、MYRに対してMIC50 32 μg/mlまで増殖抑制効果が減弱し、野生株と比べて10.6倍の耐性化率(中央値での比較)を示した。AmBはMYR耐性R.O.に対してMIC50 0.25-0.5 μg/mlの良好な増殖抑制効果を示した。さらにAmB耐性R.O.はAmBに対してMIC502 μg/mlまで増殖抑制効果が減弱し、野生株と比べて6.4倍の耐性化率を示した。以上の実験からMYRとAmBは交差活性を認めず、R.O.(ムコール原因菌)に対して異なる経路でその増殖を阻害していることが示された。
【0059】
細胞毒性の評価
ヒト由来細胞を用いて、細胞毒性試験を以下に示す手順により行った。
細胞の由来および入手先を以下に示す。
【0060】
293T, Human embryonic kidney 293 cells, CRL-3216TM ATCC
COS7, African green monkey kidney fibroblast-like cell line, CRL-1651TM ATCC
HuH-7, Human hepatocellular carcinoma, JCRB0403 JCRB Cell Bank
Hela, Cervical cancer cell line, laboratory strain
MT-2, CD4+ T-cell line, JCRB1210 JCRB Cell Bank
MT-4, CD4+ T-cell line, JCRB0135 JCRB Cell Bank
PM1, Human T-cell line, laboratory strain。
【0061】
細胞培養浮遊細胞であるMT-2, MT-4, PM1は、10%fetal bovine serum(FBS)およびペニシリン100 μg/ml、カナマイシン 50 μg/mlに調整されたRPMI-1640(WAKO)を使用して、フラスコ内で37℃、5%CO2の条件下のインキュベーターで培養された。接着細胞である293T, COS7, Hela, HuH-7は10%fetal bovine serum(FBS)およびペニシリン100 μg/ml、カナマイシン 50 μg/mlに調整されたDMEM(WAKO)を使用して10cmdish内で37℃、5%CO2の条件下のインキュベーターで培養された。
【0062】
化合物の細胞毒性評価
(1)評価化合物および細胞の準備
MYR、AmB、POS、FLCZ、FTY720を最大200μMの濃度になるようにそれぞれの培養液に溶解させた。目的の化合物は、96well plateに連続10倍希釈法およびデュプリケートで100-0.1 μM(最終濃度)の範囲に調整した。加えて、評価する細胞を2.0-5.0x104/ml濃度(最終濃度)となるように添加し200μL/wellとし、インキュベーター内で37℃、5%CO2の条件下で5-7日間培養した。化合物を含まない培養液および細胞をポジティブコントロール、化合物および細胞を含まない培養液のみをネガティブコントロールとした。
【0063】
(2)MTTアッセイ法による化合物の細胞増殖・毒性試験
MTTアッセイの原理
MTT[3-(4,5-Dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyltetrazolium Bromide]は、生細胞数を測定する試薬として、細胞増殖または細胞毒性試験に使用される。MTTは細胞内の脱水素酵素により還元され、不溶性ホルマザンを生成し、このホルマザン量は生細胞数に依存しており、溶解液の吸光度値は生細胞数を比例関係的に反映されことになる。解析は、ポジティブコントロールがコンフルエントになった状態を参考にして、希釈された化合物内で培養された生細胞をMTTの原理に基づいて、MTT 細胞数測定キット(ナカライタスク)を用いて行われた。
【0064】
培養した細胞の上清を100μL取り除いた後、10μLのMTT試薬を添加し、3時間培養(ホルマザン反応)した。さらに細胞溶解液を添加し、ピペットを用いて十分に細胞を溶解させた。分光光度計を用いてOptical Density(OD) 570 nmの吸光を測定し、各ウェル内の細胞の増殖量をポジティブコントロールおよびネガティブコントロール内の変動域を基準として最終的に、50%細胞毒性濃度(50% cytotoxic concentration, CC50)を決定した。これらのアッセイは3回(少なくとも2回)独立した状態で繰り返された。
【0065】
【表5】
【0066】
この実験によって、MYRはその他の抗真菌薬(AmB、POS)や免疫抑制薬(FTY720)に比べてヒト由来の様々な細胞腫(セルライン)に対して、毒性が低い結果であった。以上の結果からvivoにおける副作用もAmBやPOSに比べて比較的低く見積もることが可能と考えられる。
【0067】
この実験における観察から、我々は、本発明の化合物が微生物の増殖において阻害作用
を有し、従って、特に真菌および細菌に対する抗菌剤として使用できると判断した。微生
物、例えば、真菌、細菌および/ または原生動物の増殖を損なう、または破壊する化学物質またはウイルスを破壊する能力を有する化学物質であれば、何れの薬物も抗菌性であると理解される
図1