(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057492
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】予兆検知装置及び予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167063
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中森 友仁
(72)【発明者】
【氏名】松山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 拓也
(72)【発明者】
【氏名】後藤田 浩
(72)【発明者】
【氏名】菊田 菜摘
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223AA18
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF26
3C223FF35
3C223FF52
(57)【要約】
【課題】突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知する。
【解決手段】予兆検知装置は、複数のセンサと、データ取得部と、演算部と、検知部とを備える。複数のセンサは、検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測する。データ取得部は、複数のセンサから物理量の時系列変動データを取得する。演算部は、時系列変動データに基づいて複数の位置のうち任意の2つの位置における物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算する。検知部は、動的ネットワーク情報に基づいて、検知対象物の突変振動の予兆を検知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測するように構成された複数のセンサと、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するためのデータ取得部と、
前記時系列変動データに基づいて前記複数の位置のうち任意の2つの位置における前記物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算するための演算部と、
前記動的ネットワーク情報に基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知するための検知部と、
を備える、予兆検知装置。
【請求項2】
前記動的ネットワーク情報の時間変化は、連続する異なる時間に対応する複数の前記複雑ネットワーク構造に基づいて構成される高次元ベクトルとして演算される、請求項1に記載の予兆検知装置。
【請求項3】
前記検知部は、前記突変振動の発生可能性に基づいて予め設定される複数のクラスタを規定する分類基準を用いて、前記高次元ベクトルが前記複数のクラスタのいずれに分類されるかに基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知する、請求項2に記載の予兆検知装置。
【請求項4】
前記分類基準は、前記検知対象物で前記突変振動が発生した場合に対応する少なくとも1つのサンプルデータを用いた学習によって設定される、請求項3に記載の予兆検知装置。
【請求項5】
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置されたセンサが、各位置における物理量を計測するステップと、
複数の前記センサから前記物理量の時系列変動データを取得するステップと、
前記時系列変動データに基づいて前記複数の位置のうち任意の2つの位置における前記物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算するステップと、
前記動的ネットワーク情報に基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知するステップと、
を備える、予兆検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、突変振動の予兆を検出するための予兆検知装置及び予兆検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン、エンジン、ボイラ、航空機、コンプレッサ等の機械では、燃焼器、圧縮機、翼等で燃焼振動や軸振動が生じる場合がある。これらの振動のうち突変傾向のある不安定な振動(突変振動)は、振動増大が生じてから短時間でリミットサイクルに到達する。リミットサイクルに到達すると、トリップに至ったり、機器に大きな負担がかかったりする。
【0003】
したがって、このような突変振動は早い段階で回避されることが望ましい。しかし、リミットサイクルに達するまでの振動増大は短時間であるため、振動増大を検知した後の制御では突変振動を回避できない場合がある。突変振動を回避するためには、突変振動の発生時より十分に先立ってその予兆を検知することが必要である。
【0004】
近年、突変振動を事前に検知することを目的とした検知技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ガスタービンの燃焼器内の圧力に関連する値を用いて、燃焼振動を検知する装置が開示されている。この装置は、ガスタービンの燃焼器内の圧力に関連する値を取得してネットワークエントロピーを算出し、そのネットワークエントロピーが閾値を下回った場合に燃焼振動の発生を検知するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者が鋭意検討した結果、複数の位置における物理量(例えば圧力)の相関関係が突変振動の予兆の検知において重要であることが判明した。このような相関を示すパラメータを利用すれば、突変振動の予兆を検知することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献1のように1つの位置における物理量(燃焼器内の圧力に関連する値)の時系列変動データを取得してネットワークエントロピーを算出しても、複数の位置における物理量の相関関係を考慮していないため、突変振動の発生時より十分に先立ってその予兆を検知することは困難である。
【0008】
本開示は上述の事情に鑑みてなされたものであり、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知可能な予兆検知装置及び予兆検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る予兆検知装置は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測するように構成された複数のセンサと、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するためのデータ取得部と、
前記時系列変動データに基づいて前記複数の位置のうち任意の2つの位置における前記物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算するための演算部と、
前記動的ネットワーク情報に基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知するための検知部と、
を備える。
【0010】
本開示に係る予兆検知方法は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置されたセンサが、各位置における物理量を計測するステップと、
複数の前記センサから前記物理量の時系列変動データを取得するステップと、
前記時系列変動データに基づいて前記複数の位置のうち任意の2つの位置における前記物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算するステップと、
前記動的ネットワーク情報に基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、突変振動の発生時より十分に先立って突変振動を検知可能な予兆検知装置及び予兆検知方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る予兆検知装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態に係る予兆検知装置のセンサの配置例を示す模式図である。
【
図3】一実施形態に係る予兆検知装置のセンサの配置例を示す概略断面図である。
【
図4】データ取得部が各時刻で取得した物理量に基づく隣接行列を示す図である。
【
図5】隣接行列からベクトルへの変換演算の一例を示す図である。
【
図6】時刻の進行とともに演算される高次元ベクトルを示す図である。
【
図7】センサ200から取得された物理量に基づいて算出された複雑ネットワークのリンク一本あたりの強度を表すリンク強度の時間変化を示すサンプルデータの一例である。
【
図8】
図7のサンプルデータを高次元空間に展開して得られるデータ分布を示す図である。
【
図9】検知部によって高次元ベクトルの時間変化をクラスタリングした結果の一例である。
【
図10】一実施形態に係る予兆検知方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
(予兆検知装置)
以下、一実施形態に係る予兆検知装置300について説明する。
図1は、一実施形態に係る予兆検知装置300の構成を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、予兆検知装置300は、複数のセンサ200と、突変振動の予兆を検知するための演算処理を実行するように構成された演算処理装置100とを備える。センサ200は、検知対象物における物理量を計測するように構成されたセンサである。
【0016】
複数のセンサ200は、検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測する。センサ200が計測する物理量は、例えば、圧力、ひずみ、加速度、速度、変位の何れか一つ以上である。なお、センサ200が計測する物理量は、これらの物理量に限られない。センサ200が計測する物理量は、燃焼振動の発生との関連性が高い物理量であればよい。
【0017】
演算処理装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えるコンピュータである。演算処理装置100では、プロセッサ(CPU)がメモリ(RAM又はROM)に記憶されているプログラムを実行することにより、後述する各種機能を実現する。
【0018】
以下、演算処理装置100の機能的な構成を説明する。
図1に示すように、演算処理装置100は、データ取得部110、演算部120、検知部130、出力部140として機能する。
【0019】
データ取得部110は、複数のセンサ200から物理量の時系列変動データを取得するように構成される。時系列変動データは、直近過去の単位時間(例えば、1秒間)において複数のタイミング(例えば100個以上のタイミング)でサンプリングした計測データである。
【0020】
演算部120は、データ取得部110が取得した物理量の時系列変動データに基づいて動的ネットワーク情報を演算するように構成される。動的ネットワーク情報は、相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す。相関を示すパラメータは、センサ200が配置される複数の位置のうち任意の2つの位置における物理量の間の相関を示すパラメータである。
【0021】
検知部130は、演算部120で演算された動的ネットワーク情報に基づいて、検知対象物の突変振動の予兆を検知するように構成される。検知部130での検知結果は、出力部140から任意の態様で出力される。出力部140からの出力態様は、例えば、検知対象物の振動状態を示す画像データであってもよいし、スピーカー等の音声出力装置に音声データ(例えば突変振動の予兆の報知する音声)であってもよい。
【0022】
また、出力部140は、検知部130が突変振動の予兆を検知した場合に、所定の信号を出力するように構成されてもよい。所定の信号は、例えば、検知対象物の動作を停止させるための停止信号、検知対象物の出力を低下させるための出力制御信号、ユーザに突変振動の予兆であることを報知するための報知信号等の突変振動の回避に有効な信号である。
【0023】
また、出力部140は、相関を示すパラメータから推定されるメンテナンスに関する情報を出力するように構成されてもよい。メンテナンスに関する情報は、例えば、交換すべき部品、交換推奨時期、故障の有無等の情報である。このような画像データ、所定の信号、及びメンテナンスに関する情報は、例えば、演算部120の演算結果や検知部130の検知結果に基づいて生成される。
【0024】
(検知対象物とセンサの配置例)
以下、一実施形態に係る検知対象物とセンサ200の配置例について説明する。
図2は、一実施形態に係る予兆検知装置300のセンサ200の配置例を示す模式図である。この図は、ガスタービン20のタービン軸に垂直な方向に沿った断面を示している。
図3は、一実施形態に係る予兆検知装置300のセンサ200の配置例を示す概略断面図である。この図は、ガスタービン20のタービン軸に沿った断面を示している。
【0025】
一実施形態では、予兆検知装置300の検知対象物は、例えば、
図2及び
図3に示すガスタービン20であってもよい。なお、検知対象物は、ガスタービン20ではなく、例えば、蒸気タービン、エンジン、ボイラ、航空機、コンプレッサ等の機械であってもよい。
【0026】
図2及び
図3に示すように、ガスタービン20は、コンプレッサ7と、燃焼器8と、静翼4と、動翼6とを備える。
図2に示すように、燃焼器8は、8つの缶型燃焼器を備える。
図2において、8つの缶型燃焼器には、配置位置に応じて♯1~♯8の番号を付する。8つの缶型燃焼器は、
図3に示すように、それぞれ燃料ノズル9、内筒2及び尾筒3を有する。センサ200は、燃焼器8の内部の圧力を計測するための圧力センサである。センサ200は、8つの尾筒3のそれぞれに配置される。
【0027】
なお、この例では、センサ200がガスタービン20の燃焼器8の尾筒3に配置されている。しかし、センサ200の配置は、このような例に限られない。センサ200は、振動モードを観測可能な位置に配置されていればよく、検知対象物の種類によっては、圧縮機、翼、軸受等に配置されてもよい。
【0028】
(動的ネットワーク情報の具体例)
以下、演算部120の演算対象である動的ネットワーク情報の具体例について説明する。
【0029】
まず、データ取得部110が取得した複数のセンサ200位置に対応する物理量の相関関係について説明する。本願発明者によれば、物理量同士の相関関係は、複数の位置のそれぞれをノードとする無向重み付き複雑ネットワークとして解釈することができる。例えば、物理量の相関関係は、隣接行列A(Aはベクトルを示す太字で表現される。以下同じ)として表わすことができる。
【0030】
次の式(1)で示すように、隣接行列Aは、n×nの正方行列として定義される。隣接行列Aにおいて、任意の行列要素w
ijは、i番目の物理量とj番目の物理量との相関を示している。nは、物理量の数(すなわちセンサ200の数)に相当する。
【0031】
隣接行列Aにおいて、対角成分であるw11、w22、・・・wnnの値はゼロであり、対角成分以外の行列要素は、相関係数の大きさを示す値(i行目j列目の行列要素は、相関係数Cijの絶対値)である。すなわち、異なる位置の物理量同士の関係を示す行列要素が相関係数Cijの絶対値であり、同じ位置の物理量同士の関係を示す行列要素はゼロである。また、行と列の番号を交換しても基本的に同じ相関係数となる。例えば、w24とw42は同じ値となる。
【0032】
図2に示すセンサ200の配置例では、♯1~♯8の8個のノードを有しているため、隣接行列Aが8×8の正方行列となる。例えば、♯2の缶型燃焼器と♯4の缶型燃焼器において計測された物理量の間の相関は、行列要素w
24すなわち相関係数C
24での絶対値である。
【0033】
相関を示すパラメータは、各位置における物理量の変動分の相関を示す相関係数C
ijであってもよい。相関係数C
ijは、例えば、次の式(2)で表される。なお、式(2)は、物理量が圧力である場合の例を示しているが、物理量は圧力以外の物理量であってもよい。
【0034】
ここで、Nは、単位時間(例えば1秒間)当たりのサンプリング数(例えば100個以上)である。pi(t)は、i番目の位置の圧力の瞬時値を示し、pj(t)は、j番目の位置の圧力の瞬時値を示している。Piは、pi(t)の単位時間における時間平均値であり、Pjは、pj(t)の単位時間における時間平均値である。なお、圧力の瞬時値や時間平均値の代わりに圧力の変動量の瞬時値や時間平均値が適用されてもよい。
【0035】
相関係数Cijは、2つの位置における物理量に相関がある場合には1又は-1に近い値となり、相関がない場合には0に近い値となる。また、相関係数Cijの絶対値は、0以上1以下の範囲内の値となる。よって、相関係数Cijの絶対値から相関の強さが判別可能となる。なお、相関係数Cijは、式(2)に示す演算値に限定されず、本質的な意義を損なわない範囲内で適宜変更可能である。
【0036】
ここで
図4は、データ取得部110が各時刻で取得した物理量に基づく隣接行列Aを示す図である。時刻t
1~t
Nにデータ取得部110で取得された物理量に基づく隣接行列AをA
Tと定義すると、時刻Tに隣接する各時刻T-2、T-1、T、T+1、T+2に対応する隣接行列Aは、それぞれA
T-2、A
T-1、A
T、A
T+1、A
T+2と表される。
尚、
図4において隣接する時刻(例えば時刻Tと時刻T+1)同士の間隔は、サンプリング時間t
Nに対応する。
【0037】
演算部120は、各時刻の隣接行列AをベクトルXに変換する。
図5は隣接行列AからベクトルXへの変換演算の一例を示す図である。ベクトルXは、隣接行列Aの行列要素のうち異なる位置の物理量同士の関係を示す行列要素を成分とするベクトルであり、その次元数は次の(3)式で表される。前述したように、隣接行列Aに含まれる相関係数C
ijの絶対値を成分とし、ネットワークのノード数nを用いて、次の(3)式で表される次元を有する。前述したように、隣接行列Aは対角成分w
11、w
22、・・・w
nnの値はゼロであり、対角成分以外の行列要素は行と列の番号を交換しても基本的に同じ相関係数となる。そのため、
図5においてグラデショーンで示すように、対角成分w
11、w
22、・・・w
nnの片側にある行列要素を成分として配列することで、ベクトルXが得られる。
【0038】
このような隣接行列AからベクトルXへの変換は、各時刻に対応する隣接行列・・・、AT-2、AT-1、AT、AT+1、AT+2、・・・について、それぞれ行われる。以下、隣接行列・・・AT-2、AT-1、AT、AT+1、AT+2、・・・に対応するベクトルXを、・・・XT-2、XT-1、XT、XT+1、XT+2、・・・と適宜称する。
【0039】
続いて演算部120は、隣接する複数のベクトルXを結合することにより、次の(4)式で示される高次元ベクトルGを構築する。kは隣接するベクトルXの結合数であり、動的ネットワーク情報で参照する過去の点数を意味する。
【0040】
このような高次元ベクトルGは、時刻Tが進行するに伴って逐次演算される。
図6は時刻Tの進行とともに演算される高次元ベクトルGを示す図である。
図6では、理解を容易にするために結合数をk=2とした場合が例示されており、時刻Tで演算される高次元ベクトルG
Tは[X
T-2、X
T-1、X
T]で表され、時刻T+1で演算される高次元ベクトルG
T+1は[X
T-1、X
T、X
T+1]で表され、時刻T+2で演算される高次元ベクトルG
T+2は[X
T、X
T+1、X
T+2]で表される。
【0041】
(突変振動の予兆検知の具体例)
検知部130は、上述の演算部120の演算結果に基づいて突変振動の予兆を検知する。以下、具体的な検知方法について説明する。
【0042】
まず検出部130は、突変振動の予兆を判定するための判定基準を予め設定する。このような判定基準の設定は、サンプルデータを用いた学習により行われる。ここで
図7はセンサ200から取得された物理量に基づいて算出されたネットワークのリンク一本あたりの強度を表すリンク強度の時間変化を示すサンプルデータの一例である。この例では、リンク強度は、検知対象物に異常が発生していない通常運転時には比較的小さな値で推移しているが、突変振動が発生する時刻t=0の付近では急激に増加する傾向を示している。これは、突変振動が発生する可能性を示唆するパラメータとして、リンク強度が有効であることを示している。
【0043】
そこで本願発明者は、検知対象物の状態を高次元ベクトルGに基づいて段階的に分類するための複数のランクを設定する。本実施形態では、高次元ベクトルGに基づいてランク1~5が設定され、番号が大きいほど突変振動が発生する可能性が高くなる分類基準を設定した。
図7では、時間変化する高次元ベクトルGに含まれる各データ点がどのランク1~5に属するかが分類された結果が示されている。
【0044】
検知部130は、このように各ランクに分類された高次元ベクトルGに含まれる各データ点を、高次元空間に展開することにより、ランク毎のクラスタを特定する。
図8は
図7のサンプルデータを高次元空間に展開して得られるデータ分布を示す図である。尚、
図8では、高次元空間を紙面上に示すように、便宜上、二次元平面として示している)。
【0045】
図8では、代表的に3つのランク1~3に対応する高次元ベクトルGに対応する各データ点が異なるシンボルで示されており、同じランクに属する高次元ベクトルGに対応するデータ点同士が所定範囲にまとまって、それぞれ各ランクに対応するクラスタを形成している(尚、他のランク4~5は、説明をわかりやすくするために図示を省略しているが同様である)。検知部130は、このような各ランクに対応するクラスタを形成するデータ点を判定基準として予め用意する。
【0046】
尚、このような判定基準は、サンプルデータ数を増やすことで、各クラスタに属するデータ点数を増やし、判定精度を高めるのに有効である。
【0047】
続いて検知部130は、上述のように設定された判定基準を用いて、演算部120で算出された高次元ベクトルGに基づいて突変振動の予兆を検知する。このような突変振動の予兆検知は、演算部120で算出された高次元ベクトルGに対応するデータ点が、判定基準で規定される前述の複数のクラスタのうちどれに分類されるか否かを特定することにより行われる。このようなクラスタへの分類は、いわゆるクラスタリングと称され、例えば、ウォード法,サポートベクトルマシンなどがあるが、ここでは一例として、K平均法を用いた場合を例に説明する。
【0048】
K平均法では、高次元ベクトルGに含まれるデータ数をm、判定基準で設定されたクラスタ数をKとすると、以下の手順によりクラスタリングが行われる。
(i)各データxi(i=1、・・・、m)に対してランダムにクラスタを割り振る。
(ii)割り振ったデータをもとに各クラスタの中心Vj(j=1、・・・、K){¥displaystyle V_{j}(j=1,¥dotsc ,k)}を計算する。
(iii)xiと各Vjとの距離を求め、xi{¥displaystyle x_{i}}を最も近い中心のクラスタに割り当て直す。
(iv)上記の処理で全てのxiのクラスタの割り当てが変化しなかった場合、或いは変化量が事前に設定した一定の閾値を下回った場合に、収束したと判断して処理を終了する。尚、(iv)の条件が成立しない場合は、新しく割り振られたクラスタからVjを再計算して上記処理が繰り返し実施される。
【0049】
図9は検知部130によって高次元ベクトルGの時間変化をクラスタリングした結果の一例である。この例では、時間の経過に従ってランクが推移し、t=0で突変振動が実際に発生するタイミングより十分前の段階から、突変振動の予兆がランク上昇として検出できていることが示されている(すなわち、これら5つのランクは燃焼状態をとらえていると考えられ、例えばランク3,4は遷移領域を示し、ランク5が燃焼振動領域を示していると解釈できる)。
【0050】
このように検知部130では、教師データを用いた学習によって構築された判定基準を用いて、運転データから算出された高次元ベクトルを分析し、どのクラスタに属するかを判定することで、突変振動の予兆を好適に検知することができる。
【0051】
(予兆検知方法)
以下、
図10を参照しながら予兆検知方法の具体例について説明する。
図10は、一実施形態に係る予兆検知方法の手順を示すフローチャートである。尚、以下に説明する各々の手順において一部又は全部がユーザの手動によって実行されてもよい。以下に説明する予兆検知方法は、上述した予兆検知装置300が実行する処理に対応するように、各々の手順を適宜変形することが可能である。以下の説明では、予兆検知装置300の説明と重複する説明については省略する。
【0052】
図10に示すように、まず、検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置された複数のセンサ200が、各位置における物理量を計測する(ステップS1)。複数のセンサ200から、各々のセンサ200が計測した物理量の時系列変動データを取得する(ステップS2)。
【0053】
次に、複数の位置のうち任意の2つの位置における物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を時系列変動データから演算する(ステップS3)。そしてステップS3において演算した相関を示す動的パラメータ情報に基づいて、検知対象物の突変振動の予兆を検知する(ステップS4)。
【0054】
これらのステップS1~S4は、定期的に繰り返し実行されてもよい。これにより、突変振動の予兆を監視することができる。なお、突変振動の予兆が検知された場合には、上述した所定の信号(停止信号や報知信号等)を出力してもよい。また、上述した画像データを出力して、その画像を表示装置等に表示させてもよい。
【0055】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、複数の実施形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0056】
例えば、検知対象物がコンプレッサである場合、圧力を計測するための複数のセンサ200がコンプレッサの複数の位置に配置されてもよい。検知対象物が軸流圧縮機である場合、その出口部の周方向に複数のセンサ200が配置されてもよい。検知対象物が遠心圧縮機である場合、環状方向に複数のセンサ200が配置されてもよい。翼振動の突変振動の予兆を検知する場合、翼の根元に複数のセンサ200が配置されてもよい。
【0057】
軸振動の突変振動の予兆を検知する場合、異なる軸受位置のそれぞれにセンサ200が配置されてもよい。
【0058】
検知対象物が蒸気タービンである場合、ひずみゲージがセンサ200として使用されてもよい。例えば、同一段において周方向に沿って配置される蒸気タービンの翼の根元に複数のセンサ200が配置されてもよい。
【0059】
検知対象物がロケットエンジンである場合、燃焼器は一つだけであるかもしれない。しかし、この場合においても、燃焼器の出口部の周方向に複数のセンサ200を配置して、予兆検知装置300が突変振動の予兆を検出するように構成されてもよい。検知対象物が航空機である場合、予兆検知装置300による突変振動の予兆の検出方法は、そのエンジンに適用されてもよいし、その翼に適用されてもよい。このように燃焼振動が生じる位置の断面の周方向に沿って複数のセンサ200を配置することによって、多様な検知対象物の突変振動の予兆を検出することができる。
【0060】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0061】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0062】
(1)一態様に係る予兆検知装置(300)は、
検知対象物(例えばガスタービン20)における複数の位置にそれぞれ配置され、各位置における物理量を計測するように構成された複数のセンサ(200)と、
前記複数のセンサから前記物理量の時系列変動データを取得するためのデータ取得部(110)と、
前記時系列変動データに基づいて前記複数の位置のうち任意の2つの位置における前記物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算するための演算部(120)と、
前記動的ネットワーク情報に基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知するための検知部(130)と、
を備える。
【0063】
上記(1)の態様によれば、2つの位置間における物理量の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報に基づいて、検知対象物の突変変動の予兆を検知する。そのため、突変振動の発生時より十分に先立ってその予兆を検知することができる。
【0064】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記動的ネットワーク情報の時間変化は、連続する異なる時間に対応する複数の前記複雑ネットワーク構造に基づいて構成される高次元ベクトルとして演算される。
【0065】
上記(2)の態様によれば、予兆を検知するために用いられる動的ネットワーク情報の時間変化は、連続する異なる時間に対応する動的ネットワーク情報に基づいて構成される高次元ベクトルとして演算される。このように連続する異なる時間に対応する動的ネットワーク情報を考慮することにより、単一の時間に対応する情報では検知が難しい突変振動の予兆段階を好適に検知することができる。
【0066】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記検知部は、前記突変振動の発生可能性に基づいて予め設定される複数のクラスタを規定する分類基準を用いて、前記高次元ベクトルが前記複数のクラスタのいずれに分類されるかに基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知する。
【0067】
上記(3)の態様によれば、突変振動の発生可能性に基づいて複数のクラスタが規定された分類基準が予め用意される。検知部は、このような分類基準に基づいて、検知された物理量から演算された高次元ベクトルがどのクラスタに分類されるかによって、突変振動の発生可能性を評価し、予兆段階での検知を可能とできる。
【0068】
(4)他の態様では、上記(3)の態様において、
前記分類基準は、前記検知対象物で前記突変振動が発生した場合に対応する少なくとも1つのサンプルデータを用いた学習によって設定される。
【0069】
上記(4)の態様によれば、検知対象物で突変振動が発生した場合に対応するサンプルデータに基づく分類結果を教師データとして設定された分類基準を用いて、精度のよい予兆検知を行うことができる。
【0070】
(5)一態様に係る予兆検知方法は、
検知対象物における複数の位置にそれぞれ配置されたセンサが、各位置における物理量を計測するステップと、
複数の前記センサから前記物理量の時系列変動データを取得するステップと、
前記時系列変動データに基づいて前記複数の位置のうち任意の2つの位置における前記物理量の間の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報を演算するステップと、
前記動的ネットワーク情報に基づいて、前記検知対象物の突変振動の予兆を検知するステップと、
を備える。
【0071】
上記(5)の態様によれば、2つの位置間における物理量の相関を示すパラメータを含む複雑ネットワーク構造の時間変化を表す動的ネットワーク情報に基づいて、検知対象物の突変変動の予兆を検知する。そのため、突変振動の発生時より十分に先立ってその予兆を検知することができる。
【符号の説明】
【0072】
2 内筒
3 尾筒
4 静翼
6 動翼
7 コンプレッサ
8 燃焼器
9 燃料ノズル
20 ガスタービン
100 演算処理装置
110 データ取得部
120 演算部
130 検知部
140 出力部
200 センサ
300 予兆検知装置