(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057548
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】鍼管および二重鍼管
(51)【国際特許分類】
A61H 39/08 20060101AFI20230414BHJP
【FI】
A61H39/08 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162837
(22)【出願日】2022-10-09
(31)【優先権主張番号】P 2021167084
(32)【優先日】2021-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521448237
【氏名又は名称】志賀 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100147740
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 俊
(72)【発明者】
【氏名】志賀 勉
【テーマコード(参考)】
4C101
【Fターム(参考)】
4C101DA01
4C101DA11
4C101DB02
4C101DC01
4C101DC04
(57)【要約】
【課題】内径を従来よりも小さくできる鍼管を提供する。
【解決手段】本発明は、第1鍼管および第1鍼管を収納する第2鍼管を有する鍼管であり、第1鍼管は、両端に第1鍼管上部開口面および第1鍼管下部開口面を有する筒状であり、第1鍼管の上部の側面の一部が、前記第1鍼管上部開口面から開口した第1鍼管上部側面開口部を有し、前記第1鍼管の側面において、第1鍼管上部側面開口部の下端の一部から第1鍼管の軸に対して斜め下方向にスリットが第1鍼管の側面周囲に配置されていることを特徴とする。鍼は第1鍼管上部開口面から入れて、鍼柄の一部は前記第1鍼管上部側面開口部に配置される。第2鍼管は、両端に開口面を有する筒状であり、第2鍼管における上部の側面の一部が、前記第2鍼管上部開口面から開口した第2鍼管上部側面開口部を有し、前記第2鍼管の側面において、第2鍼管上部側面開口部の下端の一部から下方向にスリットが配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍼を収納する第1鍼管および第1鍼管を収納する第2鍼管を有する鍼管であって、第1鍼管は、両端に開口面(第1鍼管上部開口面および第1鍼管下部開口面という)を有する筒状であり、第1鍼管の上部の側面の一部が、前記第1鍼管上部開口面から開口した開口部(第1鍼管上部側面開口部という)を有し、前記第1鍼管の側面において、第1鍼管上部側面開口部の下端の一部から第1鍼管の軸に対して斜め下方向にスリット(第1鍼管側面スリットという)が第1鍼管の側面に配置されていることを特徴とする、鍼管。
【請求項2】
鍼は第1鍼管上部開口面から入れて、鍼柄の一部は前記第1鍼管上部側面開口部に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の鍼管。
【請求項3】
前記第1鍼管側面スリットは前記第1鍼管側面を螺旋状または波状に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の鍼管。
【請求項4】
前記第1鍼管側面スリットは前記第1鍼管下部開口面まで通っていることを特徴とする、請求項1に記載の鍼管。
【請求項5】
前記第1鍼管側面スリットは鍼体が通る幅を持つことを特徴とする、請求項1に記載の鍼管。
【請求項6】
第1鍼管の内側空洞幅は、鍼柄の幅の半分と鍼体の幅を合わせた長さ以下であることを特徴とする、請求項1に記載の鍼管。
【請求項7】
鍼を第1鍼管の上部の開口面から入れて第1鍼管内に収納したときに、鍼尖は第1鍼管下部開口面と略同じ位置に配置され、鍼柄の頭は第1鍼管上部開口面より上に位置することを特徴とする、請求項1に記載の鍼管。
【請求項8】
鍼を第1鍼管上部開口面から入れて、鍼柄の一部を前記第1鍼管上部側面開口部に配置した後で、鍼柄を前記第1鍼管上部側面開口部の外側に出して、鍼体を前記第1鍼管側面スリットに入れて、第1鍼管を回転することにより、鍼体を第1鍼管の下部の開口面に導き、鍼を第1鍼管から取り外し可能であることを特徴とする、請求項1~7のいずれかの項に記載の鍼管。
【請求項9】
第2鍼管は、両端に開口面(第2鍼管上部開口面および第2鍼管下部開口面という)を有する筒状であり、鍼を収納した第1鍼管をさらに収納し、
第2鍼管における上部の側面の一部が、前記第2鍼管上部開口面から開口した開口部(第2鍼管上部側面開口部という)を有し、前記第2鍼管の側面において、第2鍼管上部側面開口部の下端の一部から下方向にスリット(第2鍼管側面スリットという)が配置されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれかの項に記載の鍼管。
【請求項10】
第1鍼管は第2鍼管上部開口面から入れて、第1鍼管上部側面開口部は前記第2鍼管上部側面開口部に配置されることを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項11】
前記第2鍼管側面スリットは前記第2鍼管側面に直線状に配置されていることを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項12】
前記第2鍼管側面スリットは前記第2鍼管側面に直線状に配置されていることを特徴とする、請求項10に記載の鍼管。
【請求項13】
前記第2鍼管側面スリットは前記第2鍼管下部開口面まで通っていることを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項14】
前記第2鍼管側面スリットは鍼体が通る幅を持つことを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項15】
第1鍼管を第2鍼管上部開口面から入れて第2鍼管内に収納したときに、第1鍼管下部開口面は第2鍼管下部開口面と略同じ位置に配置され、第1鍼管上部開口面は第2鍼管上部開口面より上に位置することを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項16】
鍼を収納した第1鍼管を第2鍼管上部開口面から入れて、第1鍼管を第2鍼管の内側空洞に、第1鍼管上部側面開口部と第2鍼管上部側面開口部が重ならないように配置した後に、鍼尖、第1鍼管下部開口面および第2鍼管下部開口面を皮膚にあてて、鍼柄の頭をたたいて切皮することを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項17】
鍼を収納した第1鍼管を第2鍼管上部開口面から入れて、第1鍼管上部側面開口部を前記第2鍼管上部側面開口部に配置した後で、鍼柄を前記第1鍼管上部側面開口部および前記第2鍼管上部側面開口部の外側に出して、鍼体を前記第1鍼管側面スリットおよび前記第2鍼管側面スリットに入れて、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、鍼体を第2鍼管下部開口面に導き、鍼を第2鍼管から取り外し可能であることを特徴とする、請求項9に記載の鍼管。
【請求項18】
鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、鍼体は前記第1鍼管側面スリットを下方に進み、鍼体は第1鍼管下部開口面に達し、鍼を第1鍼管から取り外し可能であることを特徴とする、請求項17に記載の鍼管。
【請求項19】
切皮した後に、第1鍼管上部側面開口部を前記第2鍼管上部側面開口部に配置し、鍼柄を前記第1鍼管上部側面開口部および前記第2鍼管上部側面開口部の外側に出して、鍼体を前記第1鍼管側面スリットおよび前記第2鍼管側面スリットに入れて、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、体内に刺入することを特徴とする、請求項16に記載の鍼管。
【請求項20】
刺入後に、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方にさらに下げていくことにより、鍼体を第2鍼管下部開口面に導き、鍼を第2鍼管から取り外し可能であることを特徴とする、請求項19に記載の鍼管。
【請求項21】
鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、鍼体は前記第1鍼管側面スリットを下方に進み、鍼体は第1鍼管下部開口面に達し、鍼を第1鍼管から取り外し可能であることを特徴とする、請求項20に記載の鍼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生面の改善を図りつつ鍼管の内径を小さくできることにより操作性の向上に資する鍼管に関する。
【背景技術】
【0002】
鍼治療は、疾患や症状に適した経穴(ツボ)、疼痛原因となっている筋硬結や筋膜・腱・靭帯等のファシア、トリガーポイント等に金属製の細い針を刺入して、生体に刺激を加えることにより身体の治癒力を引き出し症状を改善する治療法である。鍼治療は古くから行われているが、近年、大学等の研究機関で鍼治療の生理学的機序、臨床的な効果についての研究も精力的に行われその一部が科学的に立証されるに至っている。洋の東西を問わず、鍼治療は盛んに行われているが日本や欧米において鍼は鍼管と呼ばれる細長い筒状の管に入れて使用される。鍼管は鍼が皮膚に入るとき(切皮という)のガイドの役目を果たすものであるが、鍼管を用いると鍼が一瞬で皮膚を通過するので痛みが殆ど出ないという利点がある。鍼管は通常、皮膚を通過させる(すなわち、切皮する)場面で用いるもので、その後は鍼管を取り除いて手で刺していく。その際、感染防止の観点から使い捨て手術用手袋や指サックの使用が推奨(WHO、厚生省健康政策局医事課長通達、鍼灸治療における安全性ガイドライン委員会等)されているが、煩雑さや鍼操作性の悪さから現状、我が国におけるそれらの使用率は低く素手による鍼の刺入が広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平05-051343
【特許文献2】実開平06-075494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、特許文献1では、鍼管にキャップを被せ外側からプランジャーで押していくことによって鍼管内に配置された鍼を押して皮膚内に刺入するという方法が提案されている。この方法によれば、手を鍼に触らずに刺入できるという衛生上の利点はあるものの、特殊な治具が必要でありコスト増になる。また、鍼管の内径は鍼柄の直径より大きくなり、鍼体と鍼管の間の空間が広く、鍼体を手で押さえることもできないので、鍼体が鍼管内でたわみやすく、確実に刺入することが難しいという操作性の問題がある。また、細い鍼体ほど一層たわみやすくなるのでより太い径の鍼体の使用が必要となり無用の痛みや神経・血管などの組織損傷のリスクが高くなる。特許文献2では、鍼の下部に鍼管Bを使用し鍼の上部に鍼管Bの外径より大きい内径を有する鍼管Aを使用し、鍼管Aを下方へ下げて鍼を刺入するという方法が提案されている。これも鍼体に手で触ることなく鍼を刺入でき衛生面で利点があるものの鍼体と鍼管との間が広く鍼体がたわみやすく、細い鍼体の使用は困難で特許文献1と同様の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、内径を従来よりも小さくできる鍼管を提供するものであり、具体的には以下の特徴を有する。
(1)本発明は、鍼を収納する第1鍼管および第1鍼管を収納する第2鍼管を有する(二重)鍼管であって、第1鍼管は、両端に開口面(第1鍼管上部開口面および第1鍼管下部開口面という)を有する筒状であり、第1鍼管の上部の側面の一部が、前記第1鍼管上部開口面から開口した開口部(第1鍼管上部側面開口部という)を有し、前記第1鍼管の側面において、第1鍼管上部側面開口部の下端の一部から第1鍼管の軸に対して斜め下方向にスリット(第1鍼管側面スリットという)が第1鍼管の側面または側面周囲に配置されていることを特徴とする鍼管であり、鍼は第1鍼管上部開口面から入れて、鍼柄の一部は前記第1鍼管上部側面開口部に配置されることを特徴とする。
【0006】
(2)本発明は、(1)に加えて、前記第1鍼管側面スリットは前記第1鍼管側面を螺旋状または波状に配置されており、前記第1鍼管側面スリットは前記第1鍼管下部開口面まで通っており、前記第1鍼管側面スリットは鍼体が通る幅を持ち、第1鍼管の内側空洞幅は、鍼柄の幅の半分と鍼体の幅を合わせた長さ以下であり、鍼を第1鍼管の上部の開口面から入れて第1鍼管内に収納したときに、鍼尖は第1鍼管下部開口面と略同じ位置に配置され、鍼柄の頭は第1鍼管上部開口面より上に位置し、鍼を第1鍼管上部開口面から入れて、鍼柄の一部を前記第1鍼管上部側面開口部に配置した後で、鍼柄を前記第1鍼管上部側面開口部の外側に出して、鍼体を前記第1鍼管側面スリットに入れて、第1鍼管を回転することにより、鍼体を第1鍼管の下部の開口面に導き、鍼を第1鍼管から取り外し可能であることを特徴とする。
【0007】
(3)本発明は、(1)または(2)に加えて、さらに第2鍼管を有し、第2鍼管は、両端に開口面(第2鍼管上部開口面および第2鍼管下部開口面という)を有する筒状であり、鍼を収納した第1鍼管をさらに収納し、第2鍼管における上部の側面の一部が、前記第2鍼管上部開口面から開口した開口部(第2鍼管上部側面開口部という)を有し、前記第2鍼管の側面において、第2鍼管上部側面開口部の下端の一部から下方向にスリット(第2鍼管側面スリットという)が配置されていることを特徴とする鍼管である。
【0008】
(4)本発明は、(1)、(2)または(3)に加えて、第1鍼管は第2鍼管上部開口面から入れて、第1鍼管上部側面開口部は前記第2鍼管上部側面開口部に配置され、前記第2鍼管側面スリットは前記第2鍼管側面に直線状に配置されており、前記第2鍼管側面スリットは前記第2鍼管下部開口面まで通っていて、前記第2鍼管側面スリットは鍼体が通る幅を持ち、第1鍼管を第2鍼管上部開口面から入れて第2鍼管内に収納したときに、第1鍼管下部開口面は第2鍼管下部開口面と略同じ位置に配置され、第1鍼管上部開口面は第2鍼管上部開口面より上に位置することを特徴とする。
【0009】
(5)本発明は、(1)、(2)、(3)または(4)に加えて、鍼を収納した第1鍼管を第2鍼管上部開口面から入れて、第1鍼管を第2鍼管の内側空洞に配置し、第1鍼管上部側面開口部と第2鍼管上部側面開口部が重ならないように配置し鍼柄が完全に隠れるようにした後に、鍼尖、第1鍼管下部開口面および第2鍼管下部開口面を皮膚にあてて、鍼柄の頭をたたいて切皮し、第1鍼管上部側面開口部を前記第2鍼管上部側面開口部に配置した後で、鍼柄を前記第1鍼管上部側面開口部および前記第2鍼管上部側面開口部の外側に出して、鍼体を前記第1鍼管側面スリットおよび前記第2鍼管側面スリットに入れて、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、鍼体を第2鍼管下部開口面に導き、鍼を第2鍼管から取り外し可能であり、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、鍼体は前記第1鍼管側面スリットを下方に進み、鍼体は第1鍼管下部開口面に達し、鍼を第1鍼管から取り外し可能であることを特徴とする。
【0010】
(6)本発明は、(1)、(2)、(3)、(4)または(5)に加えて、切皮した後に、第1鍼管上部側面開口部を前記第2鍼管上部側面開口部に配置し、鍼柄を前記第1鍼管上部側面開口部および前記第2鍼管上部側面開口部の外側に出して、鍼体を前記第1鍼管側面スリットおよび前記第2鍼管側面スリットに入れて、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、体内(皮下組織、脂肪層や筋膜、筋肉などの軟部組織内)に刺入し、鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方にさらに下げていくことにより、鍼体を第2鍼管下部開口面に導き、鍼を第2鍼管から取り外し可能であり、また鍼体を前記第2鍼管側面スリットの下方に下げていくことにより、鍼体は前記第1鍼管側面スリットを下方に進み、鍼体は第1鍼管下部開口面に達し、鍼を第1鍼管から取り外し可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、鍼を収納する筒状の鍼管(本出願では第1鍼管または内管とも記載)に上部側面開口部を持ち、その上部側面開口部に鍼柄の一部を配置し、また鍼柄が鍼管の中を通らない構造になっているので、第1鍼管の内側空洞幅(内径)をかなり狭くすることができその結果、鍼先の位置が明確になるので切皮や刺入において命中精度が向上する。また、第1鍼管の内側空洞幅(内径)をかなり狭くすることができることにより鍼管の内側空洞内での鍼体のたわみを大幅に低減することができるため刺入における確実性が高まり、より細い鍼体を持つ鍼を使用することが可能となる。細い鍼の使用が可能になることで、患者に治療効果と関係のない余計な痛みを与えることが少なくなり、皮膚や血管・神経等の軟部組織の損傷のリスクも低減でき安全性向上に資する。本発明の鍼管を使用することにより、切皮・刺入時に鍼体に手や指が触れることはなく衛生的に鍼治療を行なうことができる。また、二重鍼管であっても、シンプルな構造で、安価な材料を使用するので、コスト増の問題も小さい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の鍼管の構造を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の二重鍼管の使用方法を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に続く本発明の二重鍼管の使用方法を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の二重鍼管の断面構造を示す図である。
【
図5】
図5は、内管の側面に配置されたスリットの状態を示す図である。
【
図6】
図6は、内管(第1鍼管)の別の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の鍼管の構造を示す図である。本発明の鍼管は、
図1(b)に示す内管21および
図1(c)に示す外管31から成り、内管21が外管31の内側に入る入れ子式構造のいわば二重鍼管になっている。従って、本発明の鍼管を二重鍼管と呼ぶこともできる。内管21は、上面および下面が開口している細長い筒状体である。
図1(a)は、通常の鍼11を示す図で、鍼11は、手(刺手)で持つ部分である鍼柄12および人体に刺入する部分である鍼体13から成る。
図1(a)で示す鍼11が
図1(b)で示す内管21の内側空間(空洞)に入るような構造になる。内管21の側面上部には略長方形形状の開口部(内管上部側面開口部という)22が形成されている。本願では、鍼柄12の上面(頭)側になる方を上(部、側)、鍼体の先(鍼尖)になる方を下(部、側)とし、図面もそのように描写されている。この内管上部側面開口部22は内管21の上部開口部の上部開口面(上部開口端とも言う)27とつながっているので、内管上部側面開口部は(上方の)外側空間とつながる。尚、略長方形形状の内管上部側面開口部に鍼柄12の一部が配置されるが、鍼柄12の一部が配置できれば、略長方形形状以外の形状でも良い。
【0014】
内管上部側面開口部22の下端(下辺)の一部から内管21の下方斜め方向にスリット(内管側面スリットとも言う)23が内管21の側面周囲に形成(配置)されている。ここで斜め方向とは内管22の中心軸26に対して傾斜しているということを意味する。内管22の側面周囲を傾斜しながら形成されるので、
図1(b)に示すように、スリット23は一方向から見ると複数本に見えるが、連続したスリットである。すなわち、スリットは螺旋(らせん)状(またはコイルの配線のように)内管22の側面を取り巻いているので、螺旋(らせん)状(内管側面)スリット(またはコイル状(内管側面)スリット)と呼んでも良い。ただし、スリット23の傾斜角(中心軸26とのなす角度)は場所により、一定であっても良いし、異なっていても良い。このスリット23は、内管21の内側空洞(空間)から外側空間へ接続する開口部(空間)である。
【0015】
内管側面スリット23の始点24は、スリットの上端((内管側面)スリット上端)であり、内管上部側面開口部22との接続点である。また内管側面スリット23の終点25は、スリット23の下端((内管側面)スリット下端)であり、内管21の下部開口部の開口面(下部開口面または下部開口端とも言う))28につながっている。従って、内管上部側面開口部22は、内管21の側面周囲を回る内管側面スリット23を介して内管下部開口面28へ接続し、(下方の)外側空間とつながる。スリット23の幅は、後に説明するように、鍼体13が通る程度の幅があれば良い。従って、スリット23の幅は、通常は、鍼体13の直径と同じかそれ以上であれば良い。ただし、内管21の材質が柔軟性材料であれば、スリット23の幅が鍼体13の直径より小さくても鍼体13を通すことができる。
【0016】
図1の矢印で示すように、内管21の上部開口面27から、鍼11を、鍼体13側を先にして内管21の内側空間(内側空洞)内へ入れて収納する。
図1(d)は、鍼11を内管21の内側空間内へ収納した状態を示す図である。鍼11の収納状態が分かるように、鍼11を破線で示している。内管21と鍼11の関係が良く分かるように、内管21の幅を
図1(b)より大きく描いている。鍼体13の先端(鍼尖)14は、内管21の内管下部開口面28とほぼ同じ位置になるように配置される。鍼11を皮膚に刺すときに、内管21の内管下部開口面28を皮膚に接触させるが、そのときに鍼体13の先端(鍼尖)14も皮膚に軽く接触するようにする。あるいは鍼尖14が接触せずとも皮膚の直上にありすぐ接触できるような位置にする。あるいは、鍼11を押し込んで鍼11の先端(鍼尖)14を皮膚の所望の位置に接触できれば、鍼体13の先端(鍼尖)14が内管21の内管下部開口面28と少し離れていても良い。
【0017】
またそのようなときに、鍼柄12の天井面(上面)は内管上部開口面27よりも少し出るようにする。すなわち、内管21の長さ(内管上部開口面27から内管下部開口面28までの長さ)は鍼11の長さ(鍼柄12の上面(頭または天井面)から鍼体先端(鍼尖)14までの長さ)よりも短い。鍼柄12の頭(上面)が内管上部開口面27より出る長さは、好適には約5mmである。また、鍼柄12と鍼体13の境目(鍼根)15は、内管上部側面開口部22の下端(略長方形である場合は、略長方形の底(下)辺)より少し上に配置されるようにする。スリット23から見れば、鍼柄12と鍼体13の境目(鍼根)15は、スリット上端24より少し上に配置されるようにする。すなわち、内管上部側面開口部22の長さ(内管上部側面開口部22の上端(内管21の上面と一致)と下端までの長さ)を上記のようになるように形成する。数値で表現すれば、たとえば、内管上部側面開口部22の下端は鍼柄12の下端(底面、鍼根の位置)より約5mm下になるように配置する。
【0018】
鍼体13の鍼根15は鍼柄12の底面の略中心に位置するが、鍼柄の幅の略半分は内管上部側面開口部22の部分に配置されるようにする。このように配置すると鍼体13の片側は内管上部側面開口部22の側の内管21の内壁(面)に接触するか近づくようになり、鍼体13の片側(内管上部側面開口部22側に配置される部分)は内管21によって支持された状態となる。すなわち、鍼体13の片側と内管21の隙間は殆どなくなるので、鍼体13の部分が配置される内管21の内側空洞(空間)は従来の鍼管の場合の約半分となる。従って、鍼体13を切皮・刺入するとき、鍼体13がたわむ空間も従来の鍼管の半分となる。鍼体13は内管21の内壁で支持されているので、切皮、刺入時における鍼体13のたわみは小さくなり切皮、刺入の効率が向上する。この結果、より細い鍼も使用できるので、患者への余計な痛みや組織損傷のリスクが低減する。
【0019】
内管下部開口面28および鍼尖14を皮膚に接触したときに、鍼柄12と鍼体13の境目(鍼根)15は、内管上部側面開口部22の下端(略長方形である場合は、略長方形の底辺)より上に配置される。その後で内管上部開口面27より上に出ている鍼柄12の上面(頭)をたたいて切皮する。切皮した後に鍼柄12を内管上部側面開口部22より外側へ出して下に力をかけて刺入していくが、このとき鍼体13の上部が内管21に形成されたスリット上端24からスリット23へ入るようにすると、鍼11が下方に下がる(鍼体13の下部が体内に刺入される)に従い、内管21が回転しながら(鍼柄12は内管21の外側へ出ているので、内管21は容易に回転する)、鍼体13はスリット23に沿って下方に進んでいく。従って、鍼根15と内管上部側面開口部22の下端との距離は、切皮する量(切皮量)以上であれば良い。たとえば、切皮量が5mmであれば、それ以上にすれば良い。
【0020】
刺入が完了したときには、鍼体13は内管21のスリット23の途中に入っているが、スリット23のスリット下端25は内管下部開口面28とつながっているので、内管21を鍼体13の周りに回転させていけば、内管21を鍼11から容易に分離することができる。内管上部側面開口部22の幅は、鍼柄12が内管21の外側へ出てくるようにするために、鍼柄12の幅(鍼柄12が円柱形であればその直径)と同じか少し大きくすれば良い。尚、内管21が柔軟性材料(たとえば、スポンジ、エラストマー、酢酸ビニル)であれば、鍼柄12を内管上部側面開口部22の外側へ出すのは容易であるから、そのときは鍼柄12の幅が内管上部側面開口部22の幅よりも少し大きくても良い。スリット上端24は内管上部側面開口部22の下端(下辺)の略中心位置に配置すると、鍼体13がスリット上端24に入りやすく、その後、鍼体13がスリット23を進みやすくなる。尚、前述したように内管上部側面開口部22を向いた鍼柄12の幅(径)方向の略半分は内管上部側面開口部22に入っている。
【0021】
本発明の鍼管は、さらに内管21を入れる外管31を有する。
図1(c)は外管31を示す図である。外管31は、鍼11を入れた内管21を支えて保護する。内管21には内管上部側面開口部22や内管側面スリット23が存在し、外部からのごみや汚染物が鍼11に付着したり汚れたりするので、外管31を被せることによりそれらの付着や汚染を防止できる。また、外管31を被せることにより鍼柄12が内管21の内管上部側面開口部22から飛び出してくるのを防止できる。また内管21が柔軟性材料で作製されている場合はたわみやすいので、内管21がたわまないように支持するという役目もある。外管31は、上端および下端の両端が開口した開口面(端)(外管上部開口面(端)37および外管下部開口面(端)38)を持つ筒状体である。外管31の内側空間(空洞)に内管21が入るので、当然外管31の内側空間は内管21の外側の大きさより大きい。外管31も内管21も円筒形の場合は、外管31の内側空間の内径は内管21の外径より大きい。しかし、外管31の内側空間の大きさは、内管21が外管31の内側空間(空洞)から抜け出ないように少し大きい程度で良く、また内管21は外管31の内側空間(空洞)内で回転できる程度の大きさであれば良い。
【0022】
外管31の側面にも、内管21と同様に、外管31の上部に側面開口部(外管上部側面開口部)32が形成されており、外管上部側面開口部32は外管上部開口面37とつながっているので、上方の外側空間に直接つながっている。外管31の側面において、外管上部側面開口部32の下辺(下端)の一部(外管スリット上端34)からスリット33が外管31の軸方向に対して直線的または斜めに(傾いて)下方向に向かって配置されている。このスリット33を外管(側面)スリットと呼ぶ。直線状の場合は、(外管または外管側面)直線状スリットとも呼ぶ。この直線状スリットとは外管31の軸方向に平行な側面スリットである。外管側面スリット33の下端35は外管下部開口面38につながっているので、外管側面スリット33は下方の外側空間に直接つながっている。従って、下方の外側空間は、外管側面スリット33および外管上部側面開口部32を介して上方の外側空間に直接つながっている。また、外管側面スリットは鍼体が通ることが可能な幅を有し、外管31の外側空間と外管31の内側空洞(空間)とをつなぐ空間である。
【0023】
図1(e)は、鍼11を収納した内管21をさらに収納した外管31を示す図である。入れ子になった状態が分かるように、鍼11および内管21は破線で示している。外管31の長さ(外管上部開口面37から外管下部開口面38までの長さ)は内管21の長さよりも短くする。収納時は、外管31の下端(外管下部開口面38)と内管21の下端(内管下部開口面28)と鍼尖の位置はほぼ一致する。すなわち、皮膚に接触したときにこれらは同時に皮膚に接触するようにするのが望ましいので、これらの位置がずれていたら、そろえることが望ましい。外管上部側面開口部32の長さ(外管上部開口面37から外管上部側面開口部32の下端(下辺)までの長さ)は特に規定しなくても良いが、外管上部側面開口部32の下辺は内管上部側面開口部22の下辺と同じか、それより下にくるようにする。また、外管上部側面開口部32の幅は、鍼柄12の幅と同じか大きくして、鍼柄12を外側に倒したときに外管上部側面開口部32の外側に出るようにする。外管21の材質が柔軟性材料である場合は、外管上部側面開口部32は伸縮するので、外管上部側面開口部32の幅が鍼柄12の幅より小さくても、鍼柄12を外管上部側面開口部32の外側に倒すことができる。
【0024】
鍼柄12を持って下に力をかけて体内に刺入するときに、鍼柄12を外管上部側面開口部32の外側に出す必要がある。内管21を外管31の内側空間に入れたときには、内管上部側面開口部22と外管上部側面開口部32は必ずしも一致していない。切皮時には鍼柄飛び出し防止等のために、内管上部側面開口部22は内管上部側面開口部と外管上部側面開口部が重ならないように配置して外管31で隠れていることが必要である。切皮後、体内に刺入するときには、内管21を回転させて内管上部側面開口部22を外管上部側面開口部32と合わせる。そのようにすれば、内管21に収納された鍼柄12を外管上部側面開口部32の外側に出すことができる。鍼11を刺入すると鍼体13は外管側面スリット33に入り込んでいく。外管スリット上端34は外管上部側面開口部32の下辺の略中心部にあると鍼体13が外管側面スリット33に入り込みやすくなり、鍼11をスムーズに体内に刺入できる。また、外管側面スリット33の幅は鍼体13が通ることができる程度の幅であれば良い。たとえば、鍼体13の幅(直径)と同じか少し大きいのが望ましい。大き過ぎると鍼体13が歪んだりして力が分散して刺入しにくくなる。適度であれば、外管側面スリット33がガイドとなり鍼11をスムーズに皮膚に刺入できる。尚、外管31が柔軟性材料であれば、スリット33の両側の外管材料が伸縮しやすいので、スリット33の幅が鍼体13の幅(直径)よりも小さくても、鍼体13はスリット33を通ることができる。尚、鍼11を下へ下げていくと、前述したように外管31の内側に収納された内管21では鍼体13が内管側面スリット23を下方へ進んでいくので、内管21は外管31の内側空洞(空間)内で回転する。
【0025】
図2は、本発明の二重鍼管(内管を第1鍼管、第1鍼管を入れた外管を第2鍼管と考えることができ、二重鍼管と呼ぶことができる)の使用方法を示す図である。
図2(a)に示すように、鍼11を収納した内管21を外管31に入れる。内管21の底面(内管下部開口面)および外管の底面(外管下部開口面)がほぼ一致するようにする。また、鍼11の先端(鍼尖)もこれらの底面と位置がほぼ一致する。このとき、鍼柄12の上部は内管21の上面(内管上部開口面)より少し上に出る。また、内管上部開口面は外管31の上面(外管上部開口面)より少し上に出る。このような位置関係になると二重鍼管に収納された鍼柄12の頭は必ず内管上部開口面および外管上部開口面より上に出ている。
図2(a)では、内管上部側面開口部と外管上部側面開口部がほぼ同じ位置になっているので、内管21に収納されている鍼柄12が正面側から見えた状態にある。
【0026】
図2(a)に示す状態では鍼柄12が外部に露出しているので、ゴミや汚染物が内管上部側面開口部から入って鍼柄や鍼体に付着するおそれがある。また、切皮時、鍼柄12が内管上部側面開口部および外管上部側面開口部から出てくる場合もある。そこで、使用前には、内管21を回して内管上部側面開口部と外管上部側面開口部が一致しない状態にして鍼柄12の上部を除いて鍼柄12が隠れるようにすることが必要である。(
図2(b)の状態)内管21を回すときは、
図2(b)に示すように、外管31の下部を指41で軽く押さえて、外管31の上面から出ている内管21を反対の手で軽く持って矢印42のように回す。
【0027】
次に、本発明の二重鍼管を使用して鍼11を体内へ刺入する方法を説明する。
図2(b)の状態、すなわち、内管21の底面(内管下部開口面)、外管31の底面(外管下部開口面)および鍼11の先端(鍼尖)がほぼ一致している状態で、刺入する皮膚の部位に鍼尖14が接触するように、外管31の底面を皮膚にあてる。このとき鍼尖14は皮膚に接触しているか接触寸前の状態になっている。この状態で、
図2(c)に示すように、内管21の上面(内管上部開口面)から出ている鍼柄12の頭を指43で叩いて皮膚を切皮する。このとき、鍼体13の位置がずれないように、外管31の外側下部から鍼体13を指41で押さえておき、鍼体13が皮膚の所定位置にしっかり入るようにする。この切皮量は通常約1~5mmである。従って切皮量分以上は、内管21の上面から鍼柄12が出ていることが望ましい。
【0028】
次に、
図2(d)に示すように、外管31の下部を指41で軽く押さえながら(外管31はほとんど変形しない程度に押さえると内管21を殆ど押さえないので)、内管21を矢印44のように回して内管上部側面開口部が外管上部側面開口部の位置に来るようにする。内管上部側面開口部と外管上部側面開口部の位置がほぼ一致すれば、鍼柄12の全体が外から見えるようになる。次に、
図2(e)に示すように、鍼柄12を手で持って、内管上部側面開口部および外管上部側面開口部から外側へ出して、下方へ(矢印で示す)力をかけて鍼11を体内へ刺入する。
図2(a)~
図2(d)は、外管上部側面開口部が正面から見える図として記載している。
図2(e)は、
図2(a)~
図2(d)の側面方向から見た図であり、外管上部側面開口部は見えていない。
【0029】
図3は、
図2に続く本発明の二重鍼管の使用方法を示す図である。
図3(a)は
図2(e)と同じ図であるが、外管上部側面開口部を正面に見た状態を示している。鍼柄12を持つ持ち手45も記載している。鍼柄12を手45で持って、内管上部側面開口部22および外管上部側面開口部32から外側へ出して下方へ力を加えると、鍼体12が外管31の側面スリット33に入っていく。さらに、鍼柄12を手で持って、下方へ力を加えると、
図3(b)に示すように、鍼体13は外管31の側面スリット33を下側へ降りていく。このとき、内管21では、鍼体13は内管側面スリット23にも入り内管21が回転する。すなわち、鍼体13は、内管21の内管側面スリット23および外管31の側面スリット33を下方へ降りていき、鍼が体内へ刺入される。この間も外管31の下部を指41で軽く押さえておく。ただし、内管21は回転するので、外管31が動かないようにしておくだけである。鍼体13が収納されている内管21の内径は、従来の鍼管の略半分程度かそれ以下であり、また鍼体13の片側は内管21の内壁で支持されているので、鍼体13の内管21の内側空間内でのたわみは従来の鍼管よりもかなり小さくなる。このようにして、鍼11がスムーズに体内へ刺入され、患者が余計な痛みを感じるリスクを減らすことが出来る。
【0030】
図3(c)は、鍼11の皮膚への刺入が完了して、鍼管(外管31および内管21)を取り去った状態を示す図である。鍼11の体内への刺入が完了した状態では、鍼体13が、内管21の内管側面スリット23の途中にあり、また外管31の側面スリット33の途中にある。そこで、鍼11には力をかけず(すなわち、鍼の刺入も、鍼抜きもしない)、鍼柄を押さえた状態で外管31を持ち上げて、外管31の側面スリット33の下端35から鍼体13を容易に外すことができる。このとき、内管21は回転しながら鍼体13は内管側面スリット23を相対的に降りていき、内管側面スリット23の下端25から鍼体13も容易に外すことができる。すなわち、鍼体13は内管21の内管側面スリット23が回転しながら内管21に対して相対的に降りていき、最後は内管側面スリット下端25から外側へ出ていく。また、同時に鍼体13は外管31の側面スリット33を降りていき、最後は外管スリット下端35から外側へ出ていく。このように本発明の二重鍼管は、刺入後は簡単に取り外しが可能である。
【0031】
図4は、本発明の二重鍼管の断面構造を示す図で、本発明の特徴を示す図である。
図4(a)は、従来の鍼管を示す図で、鍼11は1つの鍼管51に収納されている。鍼管51の内側空洞52は、鍼柄12が入るので、空洞52の幅(内径)は鍼12の幅(直径)より大きい。鍼体13の幅(直径)は鍼柄12の幅(直径)よりかなり小さい。たとえば、鍼柄の幅(直径)は一般的に2~3mm程度、長さ15mm~30mm程度であり、鍼体の幅(直径)は一般的に0.10~0.3mm程度、長さ30~90mm程度である。すなわち、鍼体13と鍼管51の内側(内壁)との間の空洞52は鍼体の幅(直径)に比較してかなり大きい。
図4(a)においては鍼先を鍼管の下部開口面の中心にあるものとして描いているが、鍼管51と鍼柄12の間に遊び(隙間)があるため、実際には鍼体13は鍼管の長軸に対して平行になっているとは限らない。そのため、切皮のために皮膚上に鍼管および鍼をセットした時、鍼先14は鍼管の下部開口面の作る円の中心にあるとは限らずこの円内のいずれかのポイントにランダムに位置している。このことは鍼治療すべきポイント(経穴あるいはトリガーポイント等)を定めて鍼および鍼管を皮膚上にセットしても鍼先14の命中精度は鍼管の下部開口面の作る円の面積の範囲内においてのみ正確であるという制約が内在することを意味する。そしてこの齟齬は鍼管の内径(すなわち鍼管の下部開口面の作る円の面積)が大きくなるほど大きくなり切皮における命中精度が悪くなる。従って、できるだけ鍼管の内径は小さい方が望ましい。鍼体13と鍼管51の内側(内壁)との間の空洞52が大きくなるほど、切皮および刺入時における鍼体13の湾曲が大きくなり、鍼柄に与えた下方への力が切皮および刺入に十分に及ばないので、切皮や刺入時に余分な力を与える必要が出てくる。また、鍼体がたわむと狙い通りの位置に入らず、身体内部での命中精度も悪くなる。さらに、細い鍼を使用した方が皮膚、神経、血管等の軟部組織を損傷するリスクが軽減するが、細い鍼だとたわみが大きくなるので従来の鍼管では使用できず安全上の問題が発生する。その結果、患者は余分な痛みを感じる場合もある。従って、できるだけ鍼体13が湾曲しないようにすることが望ましい。
【0032】
図4(b)は、本発明の二重鍼管の断面図である。鍼11が内管21に入り、内管上部側面開口部22を鍼柄12より大きくしておき、鍼柄12を内管上部側面開口部22側に寄せて、鍼柄12の片側が内管上部側面開口部22に入るようにすると、鍼体13が内管21の内壁21(21-2)へ近づくか、接触するようになる。すなわち、鍼体13の片側が内管21の内壁21(21-2)で支持された状態となる。鍼体13が支持される内管21の内壁21(21-2)と対抗する側の内管21の内壁21(21-1)は鍼柄12を支持する位置にある(すなわち、鍼柄12と接触するか少し離れた状態にある)ので、内管21の内壁21(21-1)と鍼体13は離れている。その距離は鍼柄12の幅の半分か少し大きく、この距離は
図4(a)に示す従来の鍼管と同程度である。すなわち、鍼柄が内管の上部側面開口部へ入り込めるので、内管21の内側空洞54の幅(内径)は鍼柄12の幅の半分程度となる。逆に言えば、内管21の内部空洞54の幅(内径)を鍼柄12の幅(直径)の約半分+鍼13の幅(直径)にすれば、鍼体11を内管21の内側空洞54に入れると、鍼柄12は片側が内管21(21-1)によって規定されるため、その反対片側が内管上部側面開口部22に配置される。また、鍼体13は、内管21(21-1)の反対側の内管21(21-2)に接触するか、その近傍に配置される。尚、内管21の内側空洞54の幅(内径)、内管21の肉厚や鍼柄幅(直径)などは実際にはある程度遊び(余裕度)もあるため、内管21内に鍼11が傾いて配置される場合もある。たとえば、
図4(b’)に示すように、鍼柄12が内管上部側面開口部22で傾いて配置される場合で、その時は鍼体13も内管21の内側空洞54で傾いて配置され、鍼体13は内管21のどちらか(21-1および21-2の)一方だけに片寄らないで配置される。このようなときでも鍼体13は、従来の内管の半分程度の内側空洞54内に確実に配置されて収納される。
【0033】
従って、鍼柄12に力を下方へ加えて鍼を切皮や刺入しても鍼体13が湾曲する範囲は、従来の鍼管の約半分以下であるから、鍼体13のたわみも小さくなり、従来の鍼管より余分な力を与えなくても良い。すなわち、患者の痛みも従来の鍼管を使うよりもかなり小さくなる。さらに、鍼体13の片側は内管21(21―2)に支持されているか、または鍼体13が湾曲した場合でも内管21(21-1)または21(21-2)に支持されているので、鍼体13が湾曲する度合いはもっと小さくなっているから、患者の痛みもさらに低減される。また、鍼体13は内管21(21-2)の内壁に支持(ガイド)されているので、所定の皮膚の部位に切皮および刺入しやすくなる。すなわち、切皮および刺入の精度や確実性が増す。また熟練も余り必要がなくなり技術上の問題点が解決する。さらに、細い鍼体を使用することもできるので、神経や血管を傷つけるリスクが軽減でき安全性が向上し、その結果、鍼治療の効果と関係ない痛みも軽減できる。
【0034】
尚、内管21は外管31に収納され、外管31と内管21の隙間は余り大きくせず、内管21が外管31の内側で回転できる程度(その際、軽く接触する程度)の隙間を取れば良い。
図4(b)で23(23-1)および23(23-2)は内管側面スリットである。内管側面スリット23(3-1)と23(23-2)を結ぶ直線と鍼体13のなす角度が内管側面スリット23の傾斜角となる。
図5は、
図4(b)に示された内管21の側面に配置されたスリット23の状態を示す図である。内管側面スリット23の傾斜された様子が良く分かる。すなわち、内管側面スリット23と内管21の中心軸方向(
図5の鍼体13と略同じ方向)のなす角度が内管側面スリット23の傾斜角である。
図5や
図4(b)から分かるように、内管21の内側空洞54の幅(内径または直径)は、鍼柄の幅(直径)の半分+鍼体の幅(直径)と同じか、少し大きく、
図4(a)に示す従来鍼管51の内側空洞幅の半分程度であるから、上述したように鍼体11の湾曲も小さくなり、効果的に鍼11を皮膚へ切皮および刺入できる。尚、刺入するときは、内管21を回転させて、内管上部側面開口部22と外管上部側面開口部32を一致させれば良い。
【0035】
図4(c)は、
図4(b)で示した実施形態よりさらに鍼体13の湾曲を小さくすることを可能にした実施形態である。鍼柄12が収納される部分で、内管上部側面開口部22の反対側の内管の部分21(21-5)の肉厚を他の内管の部分21(21-6)よりも薄くする。これにより、鍼体13が収納される内管21の内側空洞の幅(内径または直径)は鍼体13の幅(直径)よりも少し大きい程度にすることが可能となる。鍼体11を内管21に収納したとき、鍼体13は内管21(21-6)と21(21-7)の両方に接触するか少し離れた状態になる。すなわち、鍼体13は、内管21で支持された状態となる。逆に言えば、内管21の内側空洞幅(内径)を鍼13が入る程度の幅(直径)、すなわち鍼13の幅(直径)より少し大きくしておき、(たとえば、鍼13の幅(直径)の2倍)鍼柄13が配置される内管上部側面開口部22における内管21の幅(内径)を鍼柄12の幅(直径)より少し大きくしておく。(たとえば、鍼柄の幅(直径)+鍼柄の幅(直径)×0.2)すなわち、そのようになるように、内管上部側面開口部22以外の内管21の部分(21-5)の内管の肉厚を他の部分(21-6、21-7)より薄くしておく。これにより、鍼11を内管21の内側空洞に収納すると、
図4(c)に示したように鍼体13が曲がらずにストレートな状態で内管21の内側空洞に配置することができる。
【0036】
このとき、鍼体13は周囲を内管21で支持された(押さえられた)ような状態であるから、鍼柄12に力を下方に加えて切皮および刺入しても鍼体13は殆ど湾曲しない。すなわち、切皮・刺入時の所定部位への命中精度・確実性がさらに向上し技術上の問題がほぼ解決できる。また
図4(b)の場合よりもさらに細い鍼を使用できるので安全性もかなり向上し、患者の痛みもかなり軽減できる。尚、鍼柄12は、内管21(21-5)と外管31(31-6)で支持された状態となっている。切皮後に刺入するときは、内管21および鍼11を回転させて、内管上部側面開口部22と外管上部側面開口部32を一致させれば良い。その後は、
図2および
図3で説明した方法で切皮および刺入し、刺入が完了すれば鍼管(内管、外管)を取り外す。鍼管を取り外すことができるので、低周波通電治療や灸頭鍼治療などを行なうこともできる。
【0037】
図6は、内管(第1鍼管)の別の実施形態を示す図である。
図6(a)は、内管61の正面側(内管上部側面開口部62が配置された側)から見た図で、
図6(b)は、
図6(a)の反対側から見た図である。これまで、内管のスリットは内管の側面周囲を(略)らせん状またはそれに類似した形状で形成されているとして説明した。ここで、らせん状に類似しているとは、内管のスリットが内管(円柱)の中心軸に対して斜め下方に、内管の周囲を回っているということを意味しており、必ずしも等間隔で回っていなくても良いということである。
図6におけるスリット63も内管のスリットが内管(円柱)の中心軸に対して斜め(傾斜して)下方に(下部開口部の開口面に向かって)降りているが、形状が波状になっていて内管の周囲を回っているわけではない。すなわち、
図6(a)に示すように、スリット(内管側面スリット)63は内管側面で下方に波状に配置されている。内管側面スリット63の始点は、
図1で示した内管側面スリット23と同様に内管側面スリット上端であり、内管上部側面開口部62との接続点である。また内管側面スリット63の終点65は、スリット63の下端((内管側面)スリット下端)であり、内管61の下部開口部の開口面(下部開口面または下部開口端とも言う))68につながっている。
【0038】
図6(b)は、
図6(a)の反対側から見た図であるが、こちらの内管61の側面には内管側面スリット63はない。すなわち、内管側面スリット63は、内管61の側面周囲を回っているわけではなく、内管61の側面を下方に波状に降りているということが分かる。従って、内管上部側面開口部62は、内管61の側面を波状に降りる内管側面スリット63を介して内管下部開口面68へ接続し、(下方の)外側空間とつながる。スリット63の幅は、鍼体13(これは
図6に示されていないが、
図1と同様である)が通る程度の幅があれば良い。従って、スリット63の幅は、通常は、鍼体13の直径と同じかそれ以上であれば良い。ただし、内管61の材質が柔軟性材料であれば、スリット63の幅が鍼体13の直径より小さくても鍼体13を通すことができる。
図6では、側面の片側(
図6(a))に波状のスリット63があり、その反対側の側面(
図6(b))にはスリット63がないが、波状スリット63が反対側の側面(
図6(b))にまで回り込んでいても良い。
【0039】
図6に示す波状の内管側面スリット63の場合、内管61内に収納した鍼11を、内管側面スリット63を使って取り外す方法は、鍼体13を内管側面スリット63の始点64に入れて、波状の形状に沿って内管61を動かせば良い。すなわち、波状スリット63が始点64から右側に波打っていたら内管61を右側に回していき(すなわち、回転させていき)、波状スリット63の山の所で波状スリット63は左側へ波打っているので、鍼体13が波状スリット63の山の所に達したら内管61を逆向き(左側)に回していく(すなわち、回転させていく)。これを繰り返すことにより、鍼体13を内管側面スリット63の終点65まで導くことができるので、鍼11を内管61から取り外すことができる。また、鍼11で切皮するときもこれと同様である。すなわち、鍼11を刺入するとき(
図3(a))に下方にかかる力によって、内管61では鍼体13が、波状スリット63の形状に沿って、自然に左右に行ったり来たりする(正回転と逆回転を繰り返す)。この動きによって、鍼11および鍼体13が内管61の下方へ進んでいく。通常、鍼11を収納した内管61を外管31に収納して使用するが、このときもこれと同様の方法で鍼11を内管61から取り外すことができる。すなわち、鍼体13を外管31の外管側面スリット33に沿って下方に下げていくとき(
図3(a))の下方にかかる力によって、内管61では鍼体13が波状スリット63の形状に沿って、自然に左右に行ったり来たりする(実際には、外管31を押手で保持・固定しているので内管61が外管31内で正回転と逆回転を繰り返す)。この動きによって、鍼体13が内管61の下方へ進んでいき鍼11を内管61から取り外すことができる。このように、
図1に示すような内管21の側面周囲を略らせん状に配置されたスリット23の場合は一方向に回転させるが、
図6に示す波状のスリット63の場合は内管61の回転と逆回転が交互に行なわれる。従って、
図6に示す波状のスリット63の場合も1種の回転(回転+逆回転ということ)と考えることができる。
【0040】
以上詳細に説明したように、本発明の鍼管は、筒状の外管の内部空洞(空間)に鍼を入れた内管を収納する、いわば二重鍼管(この場合、内管を第1鍼管、外管を第2鍼管と呼んでも良い)である。内管には、その上部側面の一部が開口した内管上部側面開口部が存在し、その内管上部側面開口部の下辺の一部から内管側面(らせん状)スリットが内管の中心軸に対して下方に傾斜して内管側面周囲に形成され、かつ内管下部開口面まで形成されている。外管には、その上部側面の一部が開口した外管上部側面開口部が存在し、その外管上部側面開口部の下辺の一部から下方に外管側面スリットが外管下部開口面まで形成されている。ここで、これらのスリットは内管または外管の外側空間と内側空間(空洞)をつなぐ空間である。刺入時の衛生面を考慮した従来の鍼管は、鍼柄が鍼管の中を通らざるを得ないため、鍼管の内径が鍼柄より太くなってしまうので、刺入時に鍼が大きくたわむ。しかし本発明のような構造を有する二重鍼管の使用により、内管の内側内部空間の大きさを従来の鍼管の内部空間の大きさの約半分以下にすることができるので、切皮時および刺入時の鍼のたわみを大幅に小さくすることができる。この結果、より細い鍼の使用も可能となる。
【0041】
本発明の(二重)鍼管を使用することにより、鍼管(内管)内での鍼のたわみが小さくなり、また細い鍼も使用できる。鍼管(内管)の内径が小さいため鍼先の位置が明確化され切皮時は所定の皮膚の患部への命中精度が飛躍的に向上しており、また鍼柄が鍼管(内管)の中を通らない構造になっているので、鍼管(内管)の内径を可能な限り(鍼体の幅(直径)程度まで)小さくでき、極めて細い鍼も使用できるようになる。その細い鍼が容易にかつ安定して刺入でき(技術的な問題がない)、たわみも小さく細い鍼を使用できるので皮膚・血管・神経などの軟部組織等の損傷リスクが軽減され余計な痛みも解消される(安全上の問題がない)。また、二重鍼管と言っても構造が単純であり、材料も従来の鍼管と同様であるから、従来の鍼管と比較してコストの増加は小さい。また、鍼柄を短くすることも可能であり、樹脂製の管を使用するからコスト底減をはかることもできる(コスト上の問題も小さい)。さらに、本発明の二重鍼管では、切皮時や刺入時はもちろん使用時に鍼体に全く触らないで鍼治療を行なえるので、衛生面でも極めて優れている(衛生上の問題がない)。
【0042】
本発明の二重鍼管に使用する内管や外管の材料は従来の鍼管に使用されている材料を使用することができる。たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル等のプラスチックを使用できる。尚、本明細書において、明細書のある部分に記載し説明した内容について記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。また、本出願文書で記載した実施例や実施形態等の内容は、他の実施例や実施形態等の内容と組み合わせて使用できることも当然である。さらに、前記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が前記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の鍼管は、鍼の保管容器としても使用できる。
【符号の説明】
【0044】
11鍼、12鍼柄、13鍼体、14鍼尖、15鍼根
21内管、22内管上部側面開口部、23内管側面スリット、
24内管側面スリット上端、25内管側面スリット下端、
26内管中心軸、27内管上部開口面、28内管下部開口面、
31外管、32外管上部側面開口部、33外管側面スリット、
34外管側面スリット上端、35外管側面スリット下端、
37、外管上部開口面、38外管下部開口面