(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005757
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】応力基準片の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/057 20060101AFI20230111BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20230111BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C22F1/057
C22F1/053
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107924
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【弁理士】
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 悠太
(72)【発明者】
【氏名】青木 貫
(57)【要約】
【課題】アルミニウム合金からなる応力基準片を製造することができる応力基準片の製造方法を提供する。
【解決手段】応力基準片の製造方法は、β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金部材を準備する工程S1と、アルミニウム合金部材に対してショットピーニング処理を行う工程S2と、ショットピーニング処理後のアルミニウム合金部材に対してβ相の生成を促進する調質処理を行う工程S3と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金部材を準備する工程と、
前記アルミニウム合金部材に対してショットピーニング処理を行う工程と、
ショットピーニング処理後の前記アルミニウム合金部材に対してβ相の生成を促進する調質処理を行う工程と、を含む、
応力基準片の製造方法。
【請求項2】
前記調質処理は、前記アルミニウム合金部材を125度以上170度以下の温度で6時間以上保持する処理である、
請求項1に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項3】
前記調質処理により前記アルミニウム合金部材を125度以上170度以下の温度で保持する時間は、72時間以下である、
請求項2に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項4】
前記元素は、Mg、Cu、又はMnである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項5】
前記ショットピーニング処理は、ジルコニア、ガラス、又は鋼からなるショット媒体を用い、0.1MPa以上0.5MPa以下の噴射圧力で行われる、
請求項1~4のいずれか一項に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項6】
前記調質処理は、前記アルミニウム合金部材の回折X線ピークの半価幅が0.1deg以上変化するように行われる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項7】
前記調質処理は、前記アルミニウム合金部材の残留応力の変化量が、前記調質処理後24時間以内とそれ以降とで50MPa以下となるように行われる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム合金部材は、バルク体である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の応力基準片の製造方法。
【請求項9】
β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金部材を準備する工程と、
前記アルミニウム合金部材に対してショットピーニング処理を行う工程と、
ショットピーニング処理後の前記アルミニウム合金部材を125度以上170度以下で6時間以上保持する工程と、を含む、
応力基準片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、応力基準片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線残留応力測定では、測定器の動作確認のために、無歪鉄粉を用いた基準片の測定を行うことが推奨されている(非特許文献1)。無歪鉄粉は、十分に焼鈍された純鉄に近い鉄の粉末を接着剤などにより凝固させた物体である。このような基準片を用い、0MPa近傍(無応力)が測定されているかを確認することにより、測定器が正常に動作していることを確認することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】社団法人日本材料学会,“X線応力測定法標準(2002年版)-鉄鋼編-”,p.73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線残留応力の測定器が工業分野で用いられる場合、製造に用いられる材料により基準片を構成したいという潜在的な要求がある。
【0005】
本開示は、アルミニウム合金からなる応力基準片を製造することができる応力基準片の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る応力基準片の製造方法は、β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金部材を準備する工程と、アルミニウム合金部材に対してショットピーニング処理を行う工程と、ショットピーニング処理後のアルミニウム合金部材に対してβ相の生成を促進する調質処理を行う工程と、を含む。
【0007】
この応力基準片の製造方法では、ショットピーニング処理により、アルミニウム合金部材の表層の結晶粒を微細化することができる。このため、X線残留応力測定の測定範囲に、一定数以上の結晶粒を存在させ、検出されるデバイ環を連続環にすることができる。X線残留応力測定の信頼性は、ピーク強度が一定、つまりデバイ環が連続的であることが望ましい。よって、X線残留応力測定において、信頼性のある測定結果を得ることができる。アルミニウム合金部材の表層には、ショットピーニング処理によりひずみが導入される結果、残留応力(残留圧縮応力)が付与される。ショットピーニング処理により発生した残留応力は、ひずみ上にβ相が形成される際に緩和される。アルミニウム合金部材は、β相を生成する元素を含有するので、残留応力値が経時変化(経時的変化)する。この製造方法では、調質処理により結晶粒の微細化を保持したままβ相の生成が促進されるので、調質処理後における残留応力の経時変化を抑制することができる。以上により、信頼性のある測定結果を得ることができると共に、残留応力値の経時変化が抑制されたアルミニウム合金からなる応力基準片を製造することができる。
【0008】
本開示の一実施形態において、調質処理は、アルミニウム合金部材を125度以上170度以下の温度で6時間以上保持する処理であってもよい。この場合、アルミニウム合金の再結晶化を抑制しながら、アルミニウム合金部材を確実に無応力化し、調質処理後における残留応力の経時変化を抑制することができる。本明細書において、無応力化とは、残留応力を限りなく0MPaに近づけることである。
【0009】
本開示の一実施形態において、調質処理によりアルミニウム合金部材を125度以上170度以下の温度で保持する時間は、72時間以下であってもよい。この場合、アルミニウム合金の再結晶化をより確実に抑制することができる。
【0010】
本開示の一実施形態において、元素は、Mg、Cu、又はMnであってもよい。これらの元素はいずれもβ相を形成するので、調質処理を行うことが有効である。
【0011】
本開示の一実施形態において、ショットピーニング処理は、ジルコニア、ガラス、又は鋼からなるショット媒体を用い、0.1MPa以上0.5MPa以下の噴射圧力で行われてもよい。この場合、アルミニウム合金部材の表層の結晶粒を確実に微細化し、信頼性のある測定結果を得ることができる。
【0012】
本開示の一実施形態において、調質処理は、アルミニウム合金部材の回折X線ピークの半価幅が0.1deg以上変化するように行われてもよい。この場合、残留応力の経時変化を確実に抑制することができる。
【0013】
本開示の一実施形態において、調質処理は、アルミニウム合金部材の残留応力の変化量が、調質処理後24時間以内とそれ以降とで50MPa以下となるように行われてもよい。この場合、残留応力の経時変化を確実に抑制することができる。
【0014】
本開示の一実施形態において、アルミニウム合金部材は、バルク体であってもよい。この場合、バルク体の応力基準片を得ることができる。
【0015】
本開示の別の側面に係る応力基準片の製造方法は、β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金部材を準備する工程と、アルミニウム合金部材に対してショットピーニング処理を行う工程と、ショットピーニング処理後のアルミニウム合金部材を125度以上170度以下で6時間以上保持する工程と、を含む。
【0016】
この応力基準片の製造方法では、ショットピーニング処理により、アルミニウム合金部材の表層の結晶粒を微細化することができる。このため、X線残留応力測定の測定範囲に、一定数以上の結晶粒を存在させ、検出されるデバイ環を連続環にすることができる。X線残留応力測定の信頼性は、ピーク強度が一定、つまりデバイ環が連続的であることが望ましい。よって、X線残留応力測定において、信頼性のある測定結果を得ることができる。アルミニウム合金部材の表層には、ショットピーニング処理によりひずみが導入される結果、残留応力(圧縮残留応力)が付与される。ショットピーニング処理により発生した残留応力は、ひずみ上にβ相が形成される際に緩和される。アルミニウム合金部材は、β相を生成する元素を含有するので、残留応力値が経時変化(経時的変化)する。この製造方法では、アルミニウム合金部材を125度以上170度以下で6時間以上保持するので、アルミニウム合金の再結晶化を抑制しながら、β相の生成を促進することができる。β相の生成を促進することにより、調質処理後における残留応力の経時変化を抑制することができる。以上により、信頼性のある測定結果を得ることができると共に、残留応力値の経時変化が抑制されたアルミニウム合金からなる応力基準片を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る応力基準片の製造方法によれば、アルミニウム合金からなる応力基準片を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る応力基準片の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、実施例に係る応力基準片の残留応力の経時変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例に係る応力基準片の半価幅の経時変化を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例に係る応力基準片の残留応力の経時変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、保持時間と残留応力との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、保持時間と残留応力との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ピーク強度とα角度との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ピーク強度とα角度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、実施形態について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0020】
本実施形態に係る製造方法で製造された応力基準片は、β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金からなるバルク体である。β相を生成する元素は、例えば、Mg、Cu又はMnである。応力基準片は、β相を生成する元素を少なくとも1種類以上含有している。等温状態での時効工程では、過飽和固溶体、針状ゾーン、及び、棒状析出物をこの順に経て、板状安定相析出物(β相)が析出される。析出されるβ相の総体積は、過飽和固溶体の総体積から減少する。総体積の減少による発生エネルギーをEとし、β相の析出、すなわち、新たな相の生成のためのエネルギーGとすると、G>Eとなる。本来は熱エネルギーHを加えることによってG=E+Hとする。Hの代替として材料内部に有するひずみエネルギーΔGを使うことにより、常温状態でもβ相が析出される。
【0021】
Mg、Cu及びMn素の含有量(合計含有量)は、少なくとも0.2%以上であれば、β相が生成される。応力基準片は、残留応力が限りなく0に近い極低応力(無応力)アルミニウム合金部材である。応力基準片の残留応力値は、例えば、-25MPa以上25MPa以下であり、-10MPa以上10MPa以下であることが好ましい。マイナスは残留圧縮応力を示し、プラスは残留引張応力を示す。
【0022】
応力基準片は、応力測定器の状態を確かめるために用いられる。応力基準片には、自動車や航空機産業界の従来の製造工程に含まれるショットピーニング処理と熱処理とを組み合わせることによって、予め設定された所定の圧縮残留応力が付与されている。応力基準片には、以下の三点が求められる。
(1)検出されるデバイ環が連続であること。すなわち、結晶粒が十分に微細であること。
(2)予め設定された所定の残留応力値が測定されること。
(3)残留応力値の経時変化が発生しないこと。
【0023】
上記(1)は、ショットピーニング処理で結晶を微細化することによって解決される。しかしながら、微細化を可能とするほどのエネルギーを有したショットピーニング処理を行うことで、表層に残留圧縮応力が付与されてしまう。また、残留応力が緩和されることにより、残留応力値の経時変化が生じる。この経時変化には、アルミニウム合金に添加された上記元素が関係している。上記元素は、ショットピーニング処理により導入されたひずみ上にβ相の化合物を生成する。その際、ショットピーニング処理により付与された残留応力が緩和される。
【0024】
上記(2)の残留応力値は、具体的には、0MPa近傍(無応力)である。実際には、測定値を取得する際の計算で0MPaは算出されないので、ある程度の数値のばらつきが許容される。上記(3)は、熱処理を行うことによって解決される。しかしながら、微細化された結晶粒が熱処理により再結晶化し、粗大化する。このため、残留応力の解析において、データを取得可能な結晶数が減少し、デバイ環が不連続になってしまう。
【0025】
図1は、本実施形態に係る応力基準片の製造方法を示すフローチャートである。
図1に示されるように、応力基準片の製造方法は、工程S1~工程S3を含む。以下、各工程について説明する。
【0026】
工程S1は、β相を生成する元素を含有するアルミニウム合金部材を準備する工程である。アルミニウム合金部材は、応力基準片を製造するための出発材である。アルミニウム合金部材は、所定の調質処理(熱処理)が施されたバルク体である。アルミニウム合金部材は、例えば、展伸用アルミニウム合金又は鋳造用アルミニウム合金からなる。
【0027】
工程S2は、工程S1で準備したアルミニウム合金部材の表層に対して、ショットピーニング装置によりショットピーニング処理を行う工程である。工程S2によれば、アルミニウム合金部材の表層の結晶粒を微細化することができる。よって、X線残留応力測定の測定範囲に、一定数以上の結晶粒を存在させ、検出されるデバイ環を連続環にすることができる。この結果、X線残留応力測定において、信頼性のある測定結果を得ることができる。
【0028】
ショットピーニング処理は、例えば、ジルコニア、ガラス、又は鋼からなるショット媒体を用いたエア方式により行われる。このため、アルミニウム合金部材の表層の結晶粒を確実に微細化することができる。空気圧(噴射圧力)は、例えば、0.1MPa以上0.5MPa以下である。ショット媒体の粒径は、例えば、0.05mm以上0.6mm以下である。ショット媒体の硬さは、例えば、250HV以上700HV以下である。これらのショットピーニング条件は、アルミニウム合金部材の種類に応じて設定される。
【0029】
ショットピーニング処理は、アルミニウム合金部材の表層の結晶粒を微細化(ナノ結晶化)する。これにより、残留応力の解析において、データを取得可能な結晶数が増加する。したがって、デバイ環を連続環にし、測定結果の信頼性を向上させることができる。微細化された結晶粒の粒径は、例えば、5nm以上50nm以下であり、5nm以上20nm以下がより好ましい。微細化された結晶粒は、例えば、アルミニウム合金部材の表面から50μm以内の深さ範囲に存在する。
【0030】
工程S3は、ショットピーニング処理後のアルミニウム合金部材に対して調質処理を行う工程である。調質処理は、アルミニウム合金部材を125度以上170度以下の温度で1時間以上保持し、その後常温状態になるまで冷却する処理である。β相の化合物の生成は、125度以上の温度域で熱することにより促進される。よって、工程S3によれば、調質処理後における残留応力の経時変化を抑制することができる。純度の低いアルミニウム合金の再結晶温度は180度以上である。したがって、170度以下の温度域で熱することにより、再結晶化を抑制することができる。
【0031】
調質処理によりアルミニウム合金部材を125度以上170度以下の温度で保持する時間(熱処理時間)は、少なくとも1時間以上、好ましくは6時間以上である。これにより、アルミニウム合金の再結晶化を抑制しながら、アルミニウム合金部材を確実に無応力化し、調質処理後における残留応力の経時変化を抑制することができる。熱処理時間は、72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。熱処理時間を72時間以下とすることにより、アルミニウム合金の再結晶化をより確実に抑制すると共に、生産性を向上させることができる。
【0032】
工程S3は、例えば、乾燥炉又はマッフル炉のように、常温より高温下にて定温保持が可能な装置を用いて行われる。これにより、X線残留応力測定において、より信頼性のある測定結果を得ることができる。調質処理は、アルミニウム合金部材の回折X線ピークの半価幅が、調質処理の前後で0.1deg以上、好ましくは0.2以上変化するように行われる。調質処理は、アルミニウム合金部材の残留応力の変化量(絶対値)が、調質処理後24時間以内とそれ以降とで50MPa以下となるように行われる。これにより、残留応力の経時変化を抑制することができる。工程S3は、例えば、工程S2後に時間をおかず行われる。この場合、生産性が向上する。工程S3は、工程S2後に時間をおいて行われてもよい。
【0033】
以上の工程S1~工程S3により、信頼性のある測定結果を得ることができると共に、残留応力値の経時変化が抑制されたアルミニウム合金からなる応力基準片を製造することができる。
【0034】
本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【実施例0035】
以下、実施例により本開示をさらに詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例に係る応力基準片は、以下のように製造した。まず、出発材として、展伸用アルミニウム合金JIS A7075、及び、JIS A2014からなる供試材をそれぞれ準備した。次に、これらの供試材に対してショットピーニング処理を行った。ショット媒体として、サンゴバン株式会社製のジルコンビーズB-205(粒径0.05mm)を用いた。噴射圧力を0.3MPa、ステージ移動速度を10mm/s、及び、アークハイトを0.090mmNとした。続いて、調質処理として、ショットピーニング処理後の供試材を150度で6時間保持した後、常温になるまで冷却した。これにより、実施例に係る応力基準片を得た。
【0037】
図2は、実施例に係る応力基準片の残留応力の経時変化を示すグラフである。
図3は、実施例に係る応力基準片の半価幅の経時変化を示すグラフである。
図2及び
図3の横軸は時効時間を示す。
図2の縦軸は残留応力を示す。
図3の縦軸は半価幅を示す。残留応力及び半価幅の測定は、パルステック工業(株)製のX線残留応力測定装置μ-X360sを用い、cosα法により行った。Cr管球を用い、照射径をφ3.0mm、コリメータ径をφ1.0mm、及び、測定角度を25度とした。
【0038】
残留応力及び半価幅の測定は、調質処理の開始時点を時効時間の起算点とし、時効時間0.25日、1日、5日、10日、20日、及び30日の時点でそれぞれ行った。時効時間0.25日(つまり、6時間)のデータは、調質処理の直後の測定値である。時効時間0における残留応力及び半価幅は、ショットピーニング処理後であって、調質処理の直前の測定値である。
【0039】
図2に示されるように、JIS A7075の残留応力は、ショットピーニング処理の直後に-147MPaを示していたが、調質処理により無応力化され、調質処理の直後は-16MPaを示した。その後は変化量が小さく、時効時間30日で-5MPaを示した。変化量(絶対値)は、調質処理後24時間以内とそれ以降とで20MPa以下であった。JIS A2014の残留応力は、ショットピーニング処理の直後に-89MPaを示していたが、調質処理により無応力化され、調質処理の直後は-11MPaを示した。その後は変化量が小さく、時効時間30日で-1MPaを示した。変化量(絶対値)は、調質処理後24時間以内とそれ以降とで20MPa以下であった。
【0040】
図3に示されるように、JIS A7075の半価幅は、ショットピーニング処理の直後に2.12degを示していたが、調質処理により0.37deg減少し、調質処理の直後は1.75degを示した。その後はほとんど変化がなく、時効時間30日で1.76degを示した。JIS A2014の半価幅は、ショットピーニング処理の直後に1.96degを示していたが、調質処理により0.26deg減少し、調質処理の直後は1.70degを示した。その後はほとんど変化がなく、時効時間30日で1.68degを示した。
【0041】
JIS A7075の残留応力及び半値幅は、それぞれ時効時間30日以降100日まで変化がなかった。また、
図5で説明するように、調質処理の保持時間が24時間、48時間、及び72時間の場合でも、6時間の場合の結果と比べて、遜色のない結果となった。同様に、JIS A2014の残留応力及び半値幅も、それぞれ時効時間30日以降100日まで変化がなかった。また、
図6で説明するように、調質処理の保持時間が24時間、48時間、及び72時間の場合でも、6時間の場合の結果と比べて、遜色のない結果となった。
【0042】
図4は、比較例に係る応力基準片の残留応力の経時変化を示すグラフである。比較例に係る応力基準片では、調質処理を行わなかった以外は、実施例と同様の方法で製造し、実施例と同様の方法で残留応力を測定した。
図4に示されるように、JIS A7075の残留応力は、ショットピーニング処理の直後に-146MPaを示していたが、その後は変化し続け、時効時間30日で-80MPaを示した。JIS A2014の残留応力は、ショットピーニング処理の直後に-88MPaを示していたが、その後は変化し続け、時効時間30日で-44MPaを示した。
【0043】
図5及び
図6は、保持時間と残留応力との関係を示すグラフである。
図5及び
図6の横軸は保持時間を示す。
図5及び
図6の縦軸は残留応力を示す。ここでは、ショットピーニング処理後の調質処理の保持時間を0、30分間、1時間、6時間、24時間、48時間、及び72時間とし、調質処理の直後に残留応力を測定した。保持時間が6時間の場合は、上記実施例の場合に相当する。保持時間が0の場合は、調質処理を行わなかった上記比較例の場合に相当し、ショットピーニング処理の直後に測定した残留応力の値を用いた。
【0044】
図5は、JIS A7075からなる供試材を用いた場合である。
図5に示されるように、残留応力は、保持時間30分間で-80MPa、保持時間1時間で-70MPaとなり、保持時間6時間以上の場合に比べて、圧縮側に大きい値となった。保持時間が6時間以上の場合は、いずれも残留応力に大きな差がなかった。
図6は、JIS A2014からなる供試材を用いた場合である。
図6に示されるように、残留応力は保持時間30分間で-38MPa、保持時間1時間で-21MPaとなり、保持時間6時間以上の場合に比べて、圧縮側に大きい値となった。保持時間が6時間以上の場合は、いずれも残留応力に大きな差がなかった。
【0045】
図7及び
図8は、ピーク強度とα角度との関係を示すグラフである。α角度とは、デバイ環の回転角のことであり、0度から360度までで示される。ここでは、上記実施例と同じ条件でショットピーニング処理を行い、ショットピーニング処理の前後でX線回折像を取得した。更に、保持時間を6時間、24時間、48時間、及び72時間として調質処理した場合について、同様にX線回折像を取得した。取得された各X線回折像における回折角(2θ)139deg近傍のデバイ環について、ピーク強度をα角度に対してプロットした。
【0046】
図7は、JIS A7075からなる供試材を用いた場合である。
図8は、JIS A2014からなる供試材を用いた場合である。
図7及び
図8に示されるように、いずれの供試材を用いた場合でも、ショットピーニング処理前は、デバイ環上の2点(2つのα角度)において、突出したピークがみられる。ショットピーニング処理を施すと、その現象が抑えられ、ピーク強度が一定、つまりデバイ環が連続的に近づく。これにより、ショットピーニング処理によりX線応力測定の信頼性が向上することが確認できた。
【0047】
調質処理を行った場合も、デバイ環が連続的であった。調質処理後のデバイ環のピーク強度について、保持時間による有意な差は見られなかった。特に、JIS A7075からなる供試材を用いた場合は、調質処理後のデバイ環のピーク強度は、保持時間によらず略同等であった。そのため、生産性の点も考慮すると、保持時間は6時間保持が最適と考えられる。