(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057599
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】耐火木製建築部材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230417BHJP
B27K 3/52 20060101ALI20230417BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20230417BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20230417BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20230417BHJP
B32B 21/08 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
E04B1/94 S
B27K3/52 B
C09K21/02
C09K21/14
B32B7/027
B32B21/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167150
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】515046430
【氏名又は名称】株式会社芳賀沼製作
(71)【出願人】
【識別番号】520170852
【氏名又は名称】株式会社日進産業
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】芳賀沼 養一
(72)【発明者】
【氏名】石子 進次郎
【テーマコード(参考)】
2B230
2E001
4F100
4H028
【Fターム(参考)】
2B230AA07
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2B230CA01
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4H028BA02
(57)【要約】
【課題】火災時に燃焼するのを遅らせて、建築物に広く使用可能な耐火木製建築部材を提供する。
【解決手段】本発明の耐火木製建築部材は、木製基材と、
前記木製基材の表面および裏面のいずれか一方の面である被覆面に形成される被覆層と、を備え、前記被覆面は、前記建築物で発生しうる熱の発生側と逆側であり、前記被覆層は、複数の中空セラミックスと、前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、を有し、前記被覆層は、前記発生側から加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に使用される耐火木製建築部材であって、
木製基材と、
前記木製基材の表面および裏面のいずれか一方の面である被覆面に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆面は、前記建築物で発生しうる熱の発生側と逆側であり、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記発生側から加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む、耐火木製建築部材。
【請求項2】
前記被覆層は、前記発生側で発生する熱を、遠赤外線に変換して、被覆面側および熱の発生側に向けて放射し、
前記被覆面側に放射される遠赤外線の放射量は、前記熱の発生側への放射量よりも大きい、請求項1記載の耐火木製建築部材。
【請求項3】
前記熱は、前記建築物で生じる火災に起因する、請求項1または2記載の耐火木製建築部材。
【請求項4】
前記木製基材が複数であり、
前記複数の木製基材のそれぞれの被覆面に、前記被覆層が形成され、
それぞれの被覆面は、前記発生側と逆側である、請求項1から3のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項5】
前記複数の中空セラミックスの粒径は、10μm~150μmである、請求項1から4のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項6】
前記複数の中空セラミックスの平均粒径は、40μmである、請求項5記載の耐火木製建築部材。
【請求項7】
前記中空セラミックスは、金属酸化物を含む、請求項1から6のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項8】
前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む、請求項7記載の耐火木製建築部材。
【請求項9】
前記被覆層は、2種類以上の前記金属酸化物による前記中空セラミックスを含む、請求項8記載の耐火木製建築部材。
【請求項10】
前記樹脂バインダーは、アクリル系樹脂である、請求項1から9のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項11】
前記中空セラミックスは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱は、遠赤外線に変換される、請求項1から10のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項12】
前記複数の中空セラミックスは、前記被覆層において、複数のセラミックス層を形成し、
前記複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する、請求項1から11のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項13】
前記複数のセラミックス層は、前記中空セラミックスの粒径の違いもしくは前記被覆層の形成方法により、形成される、請求項12記載の耐火木製建築部材。
【請求項14】
前記被覆層の厚みは、前記被覆層を形成する塗材が、前記木製基材の単位面積当たりの重量として、次の定義である、
塗材の重量: 150g~280g/m2(木製基材の単位面積)
により、規定される、
および/もしくは、
前記被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下、
として、規定される、
請求項1から13のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項15】
前記被覆層による遠赤外線の放射により、前記耐火木製建築部材に加わる熱による前記木製基材での温度上昇を抑制可能である、請求項1から14のいずれか記載の耐火木製建築部材。
【請求項16】
請求項1から15のいずれかに記載の耐火木製建築部材を使用して建築された建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製建築部材であって、耐火能力を有する耐火木製建築部材に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な場所において、住宅、店舗、商業施設、公共施設、医療施設などの様々な種類で多くの建築物がある。これらの建築物は、その特性、大きさ、用途、要求スペックなどによって、使用される材料が選択される。特に、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体においては、コンクリート、新建材、木材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。勿論、建築物の基礎部分や、骨格部分などにおいても、コンクリート、新建材、木製部材、あるいはこれらの組み合わせが用いられる。
【0003】
また、コンクリート、新建材、木製部材以外の材料が用いられることもある。
【0004】
最近では、コンクリートだけではなく、柱、梁、外壁、内壁、屋根、床などの構造体に、新建材や木製部材が用いられることが多くなってきている。例えば、木製部材による外壁や床などが構成されることが増えてきている。住宅、店舗、公共施設などにおいては、木製部材により建築された建築物は、環境負荷を低減できるからである。
【0005】
また、居住者や利用者も、木製部材の建築物においては、心身のリラックスを感じることができる。勿論、居住性も高まるメリットがある。木製部材の建築物は、外気温に対する対応性が高い(夏では室内は涼しく、冬では室内は暖かい)、あるいは、室内湿度の適応性が高いといったメリットがある。このため、居住者や利用者の利便性も高まる。
【0006】
加えて、木製部材の建築物は、居住者や利用者の精神的なリフレッシュ効果をもたらす。特に我が国においては、過去から木製建築物が中心であったので、日本人の精神性に高いメリットがある。
【0007】
ここで、コンクリートや新建材などに比較して、木製部材は軽量化できる。建築物の素材である建築部材が軽量化できると、基礎工事や建設工事のコスト低下を図ることができる。加えて工期短縮を図ることができるメリットもある。
【0008】
また、日本の国土の大半が森林であるという実情がある。多くの森林には、当然ながら多くの木があり、木材原料は非常に多くある。しかしながら、日本の森林から木を伐採して木材とすることは、コストの観点から進捗せず、国内の森林資源が有効活用されていない面がある。現実には、国内の建築物や家具などの加工品に使用される木材の大半は、輸入品である。
【0009】
このように日本の森林資源の活用が進まないと、間伐材の処理、森林の植え替え植樹なども進まない問題がある。結果として、森林管理の循環が生まれないことになり、森林荒廃に繋がっている問題がある。
【0010】
日本に潤沢にある森林資源を活用するためにも、木製部材が多種多様な建築物に使用されることが必要となっている。例えば、建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部に木製部材が使用されればよい。この使用により、住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築物が建築される。このような木製部材が使用された住宅、店舗、施設、集合住宅などの建築が広まれば、日本の森林資源の活用が進む。こうして、日本の森林管理が促進されるようになる。
【0011】
このように、多くの建築物に木製建築部材が使用されることが望まれている。
【0012】
しかしながら、木製建築部材は、火災発生時に燃えてしまい火災への対応力や耐久力が弱いと考えられている。火災が発生すると焼失に繋がりやすい、周囲への延焼に繋がりやすいといった懸念がある。このような懸念により、木製建築部材の建築物への使用が広がっていない現状がある。
【0013】
このため、木製部材に耐火能力を持たせる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2021-38655号公報
【特許文献2】特開2020-118022号公報
【特許文献3】特開2020-146923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1は、荷重支持部2と、荷重支持部2の周囲に被覆された耐火被覆層3と、耐火被覆層3の外側に周設された仕上げ木材層4とを備える木質耐火部材1であって、耐火被覆層3が湿式耐火被覆材からなり、荷重支持部2と耐火被覆層3との間、および、耐火被覆層3と仕上げ木材層4との間に、水分遮断層5が形成されている木質耐火部材を、開示する。
【0016】
特許文献1は、水分遮断シートなどの水分遮断層を設けることで、耐火木材において、水分含浸によるデメリットを防止することを目的としている。
【0017】
しかしながら、特許文献1における耐火被覆層は、ロックウールや白セメントなどの吹き付けによって実現されている。このような素材による被覆層は、耐火能力を高めるために厚みを必要として、重量が大きくなってしまう問題がある。すなわち、木質耐火部材の重量が大きくなる。木質耐火部材のような建築部材が重くなると、基礎工事の規模が大きくなるうえに、建築工事そのものの工程や手間が増加して、建築コストが大きくなる問題がある。建築作業時の安全性低下の不安もある。
【0018】
また、石膏ボードなどと同様に、ロックウールなどの吹き付けでの被覆層は、火災発生時などに、被覆層が燃えるまでの時間を稼ぐことはできるが、一旦、被覆層が燃えてしまうと、一気に木材も燃えてしまう。火災による熱が加わることで、熱上昇するメカニズムが働くからである。
【0019】
特許文献2は、耐火木材10は、木質材からなる角柱状の心材12と、心材12の角部に取り付けられた熱緩衝材14Aと、心材12の外側面側に取り付けられた耐火材18Aと、熱緩衝材14Aに支持され耐火材18A及び熱緩衝材14Aを覆う仕上げ材20と、を有する耐火木材を開示する。
【0020】
特許文献2の技術は、耐火のために複雑な構造を形成する。しかしながら、複雑な形成をする必要があり、加工の手間、加工コストが高くなり、多くの建築物に適さない問題がある。建築コストも高くなり、取り扱いも難しいことで、建築作業が困難となる。
【0021】
また、複雑な形状であることで、建築物において、壁材、床材などには適しにくい問題もある。また、内部に熱緩衝材を備えることで耐火能力を実現している。しかしながら、火災の熱により耐火木材全体の温度上昇がされることには変わらず、耐火木材は、温度上昇で燃えてしまう。
【0022】
特許文献1,2も、木材と異なり燃えにくい素材を一部に取り入れることで、火災での燃焼を弱めることに注力しているだけである。実際には、温度上昇が抑えられなければ、耐火木材が火災時に燃えてしまうことに変わりはない。
【0023】
特許文献3は、複数の単位木材14が接合され、木質材料に対する不燃化、準不燃化又は難燃化の処理を行うための不燃薬剤が含浸された耐火改質木質材料である。単位木材14は、その木口面kが、耐火改質木質材料16の厚み方向の表裏側となるように配置されたものであり、その木口面kから不燃薬剤が注入されて含浸されている耐火改質木材を、開示する。
【0024】
特許文献3は、木材加工時に耐火対応をするために、建築材としてのコストが非常に大きくなる問題がある。また、流通量を確保するのが困難となり、多くの建築物に使用することが難しい問題もある。加えて、木材の特定の部分の利用に偏るので、森林資源の有効活用が困難となる。また、含浸に基づくために、重量が重くなり、建築コストが高くなる問題もある。
【0025】
また、薬剤注入された建築材となっているので、建築物となった後でのガス化影響を住人などが受ける懸念もある。火災時に、何らかの影響のあるガスが生じる懸念もある。
【0026】
従来技術は、(1)重量が重くなって、建築材コストや建築コストを増加させる、(2)建築の手間を生じさせる、(3)火災時の燃焼を遅らせることを実現しにくい、(4)建築材の構造の複雑性による使い勝手の悪さ、などの問題を有している。
【0027】
本発明は、これらの課題に鑑み、火災時に燃焼するのを遅らせて、建築物に広く使用可能な耐火木製建築部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の耐火木製建築部材は、建築物に使用される耐火木製建築部材であって、
木製基材と、
前記木製基材の表面および裏面のいずれか一方の面である被覆面に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆面は、前記建築物で発生しうる熱の発生側と逆側であり、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記発生側から加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明の耐火木製建築部材は、木製基材の表面に非常に薄い被覆層が施されるだけであり、本来の木製基材よりも重量を増加させることを抑えることができる。結果として、建築材コスト、建築コスト、建築における手間を低減できる。また、建築時の安全性を高めることもできる。
【0030】
特に、被覆層が火災時の炎が当たる面と逆側の面に形成されることで、より効率的に炎による熱を遠赤外線に変換できる。この効率的な遠赤外線への変換により、耐火能力を上げることができる。また、炎が当たる面と逆側に被覆層があることで、熱による被覆層の剥離を防止でき、被覆層による耐火能力の維持を実現できる。
【0031】
加えて、被覆層が木製基材の一方の面のみに備わることで、耐火木製建築部材の木目が露出する。この露出により、居住環境が向上する。オフィスや住宅などであっても同様である。
【0032】
また、被覆層は、物理的あるいは化学的に耐火を発揮するのではなく、火災などによる熱を、遠赤外線に変換して放射する。これにより、火災などの熱によって建築部材の温度上昇を抑制することができる。この温度上昇の抑制により、火災時の燃焼を遅らせることができ、木造建築物のあるべき耐火能力を高めることができる。結果として、森林資源の有効活用を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の被覆層の構成を説明する説明図である。
【
図4】中空セラミックスが熱を遠赤外線に変換する状態を示す模式図である。
【
図5】中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。
【
図6】中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
【
図7】本発明の実施の形態2における被覆層の模式図である。被覆層3においては、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれる。
【
図8】本発明の実施の形態2における複数の木製基材による耐火木製建築物の側面図である。
【
図9】本発明の実施の形態2における複数の木製基材による耐火木製建築物の側面図である。
【
図10】本発明の実施の形態3における耐火木製建築部材の耐火実験の状態を示す写真である。
【
図11】本発明の実施の形態3における耐火木製建築部材の耐火実験の状態を示す写真である。
【
図12】本発明の実施の形態3における耐火実験の結果を示すグラフである。
【
図13】被覆層による遠赤外線変換での放射を確認する実験方法を示す説明図である。
【
図14】杉板の厚みが小さい場合(厚みが15mm)の、時間経過に対応するサーモグラフィーの状態を示すと共に温度を示す結果図である。
【
図16】厚みの大きな杉板(厚みが40mm)での、被覆層無部分と被覆層有部分の熱源と逆側の面の温度上昇を示す結果図である。
【
図17】厚みの大きな杉板(厚みが40mm)での、被覆層無部分と被覆層有部分の熱源と逆側の面の温度上昇を示す結果図である。
【
図18】厚みの大きな杉板(厚みが40mm)での、被覆層無部分と被覆層有部分の熱源と逆側の面の温度上昇を示す結果図である。
【
図20】本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【
図21】本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の発明に関わる耐火木製建築部材は、建築物に使用される耐火木製建築部材であって、
木製基材と、
前記木製基材の表面および裏面のいずれか一方の面である被覆面に形成される被覆層と、を備え、
前記被覆面は、前記建築物で発生しうる熱の発生側と逆側であり、
前記被覆層は、
複数の中空セラミックスと、
前記複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダーと、
を有し、
前記被覆層は、前記発生側から加わる熱を遠赤外線に変換して放射し、
前記複数の中空セラミックスは、複数の異なる粒径の中空セラミックスを含む。
【0035】
この構成により、火災などで生じる火炎などの熱が加わる場合でも熱を遠赤外線に変換して放射する。これにより、熱による温度上昇を抑えると共に、燃え落ちるまでの燃焼時間を長くして耐火能力を上げることができる。
【0036】
本発明の第2の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1の発明に加えて、前記被覆層は、前記発生側で発生する熱を、遠赤外線に変換して、発生側に向けて放射する。
【0037】
この構成により、木製基材の温度上昇を抑制できる。
【0038】
本発明の第3の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1または第2の発明に加えて、前記熱は、前記建築物で生じる火災に起因する。
【0039】
この構成により、火災が生じた場合でも、耐火能力を発揮できる。
【0040】
本発明の第4の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第3のいずれかの発明に加えて、前記木製基材が複数であり、
前記複数の木製基材のそれぞれの被覆面に、前記被覆層が形成され、
それぞれの被覆面は、前記発生側と逆側である。
【0041】
この構成により、大きな厚みを必要とする場所に適用できると共に、耐火能力の高い耐火木製建築部材が実現できる。
【0042】
本発明の第5の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第4のいずれかの発明に加えて、前記複数の中空セラミックスの粒径は、10μm~150μmである。
【0043】
この構成により、粒径がばらついていることで、様々な成分を含む熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。これにより、耐火能力を高めることができる。
【0044】
本発明の第6の発明に関わる耐火木製建築部材では、第5の発明に加えて、前記複数の中空セラミックスの平均粒径は、40μmである。
【0045】
この構成により、被覆層の形成を確実に行える。
【0046】
本発明の第7の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第6のいずれかの発明に加えて、前記中空セラミックスは、金属酸化物を含む。
【0047】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0048】
本発明の第8の発明に関わる耐火木製建築部材では、第7の発明に加えて、前記金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む。
【0049】
この構成により、遠赤外線への変換を効率的に行える。
【0050】
本発明の第9の発明に関わる耐火木製建築部材では、第8の発明に加えて、前記被覆層は、2種類以上の前記金属酸化物による前記中空セラミックスを含む。
【0051】
この構成により、燃焼成分などや燃焼特性に対応して、確実に遠赤外線への変換を実現できる。様々な種類の火災に対応が可能である。
【0052】
本発明の第10の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第9のいずれかの発明に加えて、前記樹脂バインダーは、アクリル系樹脂である。
【0053】
この構成により、被覆層を形成する中空セラミックス同士の接着が確実に行える。
【0054】
本発明の第11の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第10のいずれかの発明に加えて、前記中空セラミックスは、外表面および内部空間を有し、
前記外表面での遠赤外線への変換および前記内部空間での乱反射での遠赤外線の変換の少なくとも一方で、前記木製基材および前記被覆層の少なくとも一方に加わる熱は、遠赤外線に変換される。
【0055】
この構成により、耐火能力を向上させることができる。
【0056】
本発明の第12の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第11のいずれかの発明に加えて、前記複数の中空セラミックスは、前記被覆層において、複数のセラミックス層を形成し、
前記複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。
【0057】
この構成により、燃焼成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換できる。
【0058】
本発明の第13の発明に関わる耐火木製建築部材では、第12の発明に加えて、前記複数のセラミックス層は、前記中空セラミックスの粒径の違いもしくは前記被覆層の形成方法により、形成される。
【0059】
この構成により、燃焼成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換できる。
【0060】
本発明の第14の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第13のいずれかの発明に加えて、前記被覆層の厚みは、前記被覆層を形成する塗材が、前記木製基材の単位面積当たりの重量として、次の定義である、
塗材の重量: 150g~280g/m2(木製基材の単位面積)
により、規定される、
および/もしくは、
前記被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下、
として、規定される。
【0061】
この構成により、建築物内部の保温を高め過ぎずに、確実な遠赤外線への変換・放射を実現できる。
【0062】
本発明の第15の発明に関わる耐火木製建築部材では、第1から第14のいずれかの発明に加えて、前記被覆層による遠赤外線の放射により、前記耐火木製建築部材に加わる熱による前記木製基材での温度上昇を抑制可能である。
【0063】
この構成により、耐火能力を高めた木製建築物が建築できる。
【0064】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0065】
(実施の形態1)
【0066】
(全体概要)
実施の形態1における耐火木製建築部材の全体概要について説明する。
【0067】
図1は、本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の斜視図である。
図2は、本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の側面図である。
図3は、本発明の実施の形態1における耐火木製建築部材の被覆層の構成を説明する説明図である。
【0068】
耐火木製建築部材1は、木造建築物の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部などに用いられる。あるいは、木造を一部とする建築物(木造部分とコンクリートやその他の素材とが混在する建築物)の柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部にも用いられる。このとき、これら柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部の全部に、耐火木製建築部材1が用いられてもよいし、一部に用いられてもよい。
【0069】
例えば、火災発生時に建築物が燃えるのを遅らせるために、外壁や内壁には、耐火木製建築部材1が用いられて、他の部分には、一般の木製建築材が用いられてもよい。
【0070】
耐火木製建築部材1は、木造建築物で火災などが発生したときに、全く燃えないようにするのではなく、燃える時間を遅らせることを目的としている。建築に関する基準などにおいても、木造建築物(およびその周囲)で火災などが発生した場合に、全く燃えないようにするのではなく、燃えるのを遅らせることが重要となっている。例えば、外壁が燃え落ちるのに要する時間を、より長くすることが、木造建築物の安全性基準の一つとなっている。
【0071】
このため、耐火木製建築部材1は、火災発生などにおいて、燃えるのを遅らせることができる。
【0072】
図1,
図2に示すように、木製建築部材1は、木製基材2と、被覆層3とを備える。被覆層3は、木製基材2の表面および裏面の少なくとも一方に形成される。
図1、
図2では、木製基材2の表面もしくは裏面に、被覆層3が形成されている。これは被覆層3の形成の一例である。
【0073】
この被覆層3が形成される表面もしくは裏面が、被覆面21である。被覆層3は、被覆面21の全体に形成されてもよいし、被覆面21の一部に形成されてもよい。
【0074】
後述するが、この被覆層3が形成される被覆面21は、建築物で発生しうる熱の発生側と逆側である。つまり、
図3に示すような、炎などの発生する側(火災などでの熱や炎が加わる側)と逆側が被覆面21となって、被覆層3が形成される。
【0075】
木製基材2は、スギやヒノキなどの、種々の木材が用いられれば良い。柱、梁、外壁、内壁、屋根、床面など構造部のいずれに使用されるかで、その形状、大きさ、厚みなどが選択されればよい。
図1、
図2では、外壁や内壁などの壁材を一例として、広さのある木製基材2が示されている。
【0076】
被覆層3は、複数の中空セラミックス31と、複数の中空セラミックス同士を接続する樹脂バインダー32とを、有する。
図3においては、この構成が分かるような状態で示されている。
【0077】
図3に示されるように、被覆層3は、複数の中空セラミックス31を含んでいる。この複数の中空セラミックス31は、樹脂バインダー32により接続されている。この接続により、複数の中空セラミックス31を含む物質が、被覆層3を形成できる。加えて、木製基材2にくっついて形成される。
【0078】
また、複数の中空セラミックス21は、複数の異なる粒径の中空セラミックス31を含む。
図3において示されるように、異なる粒径の中空セラミックス31が、被覆層3に含まれている。
【0079】
被覆層3は、耐火木製建築部材1に火災などの熱が加わると、発生側から加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。
図3に示すように、熱の発生側から矢印Y1のように熱が耐火木製建築部材1に加わる。このY1を受ける発生側と逆側に、被覆層3が形成されている。
【0080】
被覆層3は、この逆側から加わった熱(熱は、木製基材2を伝導して被覆層3に伝わる)を、遠赤外線に変換して放射する。
図3に示すように、被覆層3は、矢印X1と矢印X2の方向に向けて、変換した遠赤外線を放射する。
【0081】
熱の発生側および逆側である被覆面側に向けて、被覆層3は、遠赤外線を放射する。矢印X1は、熱の発生側への遠赤外線の放射であり、矢印X2は、被覆面側への遠赤外線の放射である。被覆層3は、加わった熱を遠赤外線に変換して、発生側および被覆面側の両方にこの遠赤外線を放射する。
【0082】
この遠赤外線への変換と放射により、熱が加わっても、木製基材2の温度上昇を抑制できる。すなわち、火災などでの熱が加わる過程で、この熱を連続的に遠赤外線に変換して放射する。これにより、熱による木製基材2の温度上昇が抑制されて、木製基材2の燃え落ちまでの時間を遅らせることができる。
【0083】
また、被覆層3は、熱の発生側よりも被覆面側への遠赤外線の放射量を多くする。木製基材2の遮蔽が無い分、被覆面への遠赤外線の放射量を多くしやすいからである。この結果、熱の発生側ではない方向に遠赤外線がより多く放射されるので、遠赤外線が熱源を煽ることが少なくなる。この点でも、熱が加わることでの燃え落ちまでの時間を遅らせることができる。
【0084】
逆側に被覆層3が形成されることで、炎などの熱が加わるのは、被覆層3ではない側となる。つまり被覆層3に直接的に炎が付与されない。これにより、被覆層3が炎の熱ですぐに焼け落ちることが防止できる。この結果、被覆層3による遠赤外線への変換と放射が行われる時間が長くなり、結果として、木製基材2の温度上昇の抑制時間を長くすることができる。すなわち、耐火木製建築部材1の耐火能力を高めることができる。
【0085】
すなわち、熱の発生側と逆方向に形成された被覆層3が、熱を遠赤外線に変換して外部に放射する。この熱、遠赤外線変換、外部放射が行われることで、熱により木製基材2が燃焼して燃え落ちる時間を遅くすることができる。すなわち、建築物での火災発生時などの燃え尽きる時間を遅くさせることができ、必要とされる耐火性能を実現できる。
【0086】
このように、耐火木製建築部材1に火災などの炎での熱が加わっても、被覆層3が、これを遠赤外線に変換して外部放射する。加わる熱を、次々と遠赤外線に変換して放射することで、熱が耐火建築木製部材1(木製基材2)にとどまり蓄積することを抑制できる。この抑制は、耐火木製建築部材1(木製基材2)での、加わる熱による燃焼速度を遅らせる。燃焼速度が遅れることで、耐火木製建築部材1の燃焼時間を稼ぐことができる。
【0087】
後述するが、熱の発生側と逆側に被覆層3が備わることで、より効率よく熱を遠赤外線に変換できる。逆側に被覆層3が備わり、熱が加わると、この逆側の被覆層3が次々と遠赤外線に変換して放射する。この継続により、木製基材2の燃焼速度を遅らせることができる。
【0088】
被覆層3が形成されていることだけでなく、この被覆層3が熱の発生側と逆側に備わることで、熱の遠赤外線への変換・放射をより高めることができる。つまり、耐火木製検知部材1の燃焼時間を遅らせることができる。
【0089】
これにより、木造建築物の火災発生時などにおける耐火性を高めることができる。上述した通り、耐火とは全く燃えないことではなく、燃えるのを遅らせることである。被覆層3が熱を次々と遠赤外線に変換して放射することで、加わる熱が留まったり蓄積したりするのが抑制されるからである。
【0090】
燃焼時間を遅らせることで、火災などでの耐久時間が長くなる。耐久時間が長くなることで、本発明の耐火木製建築部材1を用いた木造建築物の火災などへの耐久性が高まる。特に、耐火基準を満たすことができるので、木造建築物の広がりが期待できる。建築物で生じる火災等に起因する熱に対しての耐火能力を発揮できる。
【0091】
(中空セラミックスによる遠赤外線変換)
【0092】
被覆層3は、上述の通り、耐火木製建築部材1に加わる熱を遠赤外線に変換して放射する。被覆層3は、複数の中空セラミックス31を含む。中空セラミックス31は、内部空間310を有する。内部空間310は、加わる熱を、その内部で乱反射させることで、遠赤外線に変換する。
【0093】
図4は、中空セラミックスが熱を遠赤外線に変換する状態を示す模式図である。
図4に示されるように、内部空間310において加わった熱が乱反射する。この乱反射を通じて、熱は、遠赤外線に変換される。変換された遠赤外線は、放射される。
【0094】
このように、被覆層3は、複数の中空セラミックス31を備えることで、熱を遠赤外線に変換できる。
【0095】
また、被覆層3が備える複数の中空セラミックス31は、粒径の異なる中空セラミックス31を含んでいる。粒径が異なることで、中空セラミックス31のそれぞれの内部空間310での乱反射がより多く起こる。また、粒径の異なる中空セラミックス31同士での乱反射も加わり、熱の遠赤外線への変換が、より効果的に生じる。
【0096】
また、加わる熱は、異なる波長の成分を含んでいる。この異なる波長の成分のそれぞれに、粒径の異なる中空セラミックス31が対応する。この対応により、ある粒径の中空セラミックス31は、ある波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。別の粒径の中空セラミックス31は、別の波長の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0097】
このように、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれていることで、加わる熱を効率的かつ確実に、遠赤外線に変換できる。異なる粒径の中空セラミックス31が含まれていると、異なる波長の成分を有する熱全体を、遠赤外線に変換できる。これにより、耐火木製建築部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることが、より確実に行える。
【0098】
また、中空セラミックス31は、その表面での熱の変換により遠赤外線を生み出して、これを放射するメカニズムも発揮する。熱が加わると、中空セラミックス31の表面が、これを遠赤外線に変換する。これにより、被覆層3は、加わる熱を次々と遠赤外線に変換して放射できる。これにより、耐火木製建築部材1に火災などの熱が加わっても、燃焼を遅らせることができる。
【0099】
この点から、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことが好適である。異なる粒径の中空セラミックス31が含まれることで、被覆層3における中空セラミックス31の重点密度が高まる。大きな粒径の中空セラミックス31同士の間にできる隙間に、中程度あるいは小さな粒径の中空セラミックス31が入り込むからである。
【0100】
この結果、被覆層3が含む中空セラミックス31の個数密度が高まる。
【0101】
個数密度が高まれば、含まれる中空セラミックス31全体の表面積が増加する。上述の通り、中空セラミックス31は、その表面で熱を遠赤外線に変換する。この表面全体の表面積が増加することで、遠赤外線への変換量が多くなる。この増加によって、加わる熱を遠赤外線に変換することでの耐火能力が更に高まる。
このように、被覆層3が異なる粒径の中空セラミックス31を含むことは、熱を遠赤外線に変換することの能力向上に寄与する。
【0102】
ここで、複数の中空セラミックス31の粒径は、10μm~150μmであることも好適である。また、平均粒径が40μmであることも好適である。
【0103】
中空セラミックス31の粒径が、このような広い範囲であることで、加わる熱を、確実かつ効率的に遠赤外線に変換できる。熱によっては、含まれる波長も様々であるが、中空セラミックス31の粒径が、このような広い範囲でばらついていることは、どのような波長の熱や成分に対しても、遠赤外線への変換が可能となるからである。
【0104】
加えて、この粒径範囲であることやこの平均粒径であることは、中空セラミックス31として被覆層3を形成することが容易である。特に、中空セラミックス31の集積密度を上げることができる。加えて、この粒径であることで、中空セラミックス31による遠赤外線への変換効率が高まる。このように、中空セラミックス31単体の遠赤外線への変換効率の高まりと、中空セラミックス31全体での遠赤外線への変換効率の高まりを実現できる。
【0105】
また、粒径が異なることで、様々な波長の熱のそれぞれに対応して、熱を遠赤外線に変換できる。これにより、熱を遠赤外線に変換するトータルの能力が上がり、耐火能力を高めることができる。
【0106】
また、平均粒径が40μmであることで、被覆層3の形成が容易となる。被覆層3は、中空セラミックス31および樹脂バインダー32を含む塗料が、木製基材2の表面などに塗布されることで形成されることもある。この場合に、中空セラミックス31の平均粒径が40μmであることで、塗布などが容易となるメリットがある。また、適切な厚みの被覆層3が形成できるメリットもある。
【0107】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含むことも好適である。このような金属酸化物を含むことで、熱を遠赤外線に効率的に変換できる。ここで、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む。
【0108】
これらの金属酸化物を含むことで、中空セラミックス31は、熱を効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。金属酸化物は、内部空間310での乱反射を促進しつつ、乱反射の過程で遠赤外線を生じさせる。このように、金属酸化物を含む中空セラミックス31が含まれる被覆層3は、耐火木製建築部材1に付与される熱を、効率的かつ確実に遠赤外線に変換できる。
【0109】
また、中空セラミックス31が金属酸化物を含むことで、中空セラミックス31による遠赤外線変換の能力や効率が高くなる。中空セラミックス31は、既述したように、その内部空間の乱反射や表面での変換で、熱を遠赤外線に変換して放射する。また、被覆層3は、上述した種類の金属酸化物を、2種類以上による中空セラミックス31を含むことも好適である。2種類以上の金属酸化物による中空セラミックス31を含むことで、様々な波長の熱のそれぞれに対応して、熱を遠赤外線に変換できる。これにより、熱を遠赤外線に変換するトータルの能力が上がり、耐火能力を高めることができる。
【0110】
中空セラミックス31が金属酸化物を含むと、この遠赤外線への変換効果を高めることができる。すなわち、中空セラミックス31による遠赤外線の放射量を増加させることができる。中空セラミックス31が中空であること、複数の粒径であることに加えて、金属酸化物を含むことで、熱を効率よく遠赤外線に変換・放射できる。
【0111】
樹脂バインダー32は、中空セラミックス31同士を接続する。接続することで、被覆層3が一つの層として形成できる。ここで、樹脂バインダー32は、アクリル系樹脂であることも好適である。アクリル系樹脂であることで、樹脂バインダー32による中空セラミックス31同士をより確実に接続できる。
【0112】
また、アクリル系樹脂であることで、被覆層3の軽量化も図ることができる。
【0113】
このようにして形成された被覆層3は、加わる熱を遠赤外線に変換して放射できる。この機能は、加わる熱が、耐火木製建築部材1にとどまって蓄積されて行くことを抑制できる。
【0114】
更に、被覆層3が、炎などの熱の発生側と逆側に備わることで、熱の遠赤外線への変換と放射効率がさらに高まる。この高まりにより、耐火木製建築部材1の耐火能力が更に高まる。
【0115】
このような被覆層3による遠赤外線変換の放射により、耐火木製建築部材1に加わる熱による木製基材2での温度上昇を抑制可能である。抑制可能であることで、火災などでの燃焼を抑制でき、燃焼を遅らせることができる。この遅らせるおことで、木造建築物に要求される耐火性能を実現できる。
【0116】
(実施の形態2)
【0117】
次に実施の形態2について説明する。実施の形態2では、各種のバリエーションについて説明する。
【0118】
(複数のセラミックス層)
【0119】
複数の中空セラミックス31は、その接続により生じる構成や粒径によって、被覆層3の中に、複数のセラミックス層を形成できる。
図5は、中空セラミックスの接続構造により、複数のセラミックス層を形成している被覆層の模式図である。
図5では、被覆層3は、木製基材2側から順に、第1セラミックス層311と第2セラミックス層312とを備える構成を有している。
【0120】
複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱を変換した遠赤外線を放射する。
図5に示されるように、第1セラミックス層311は、遠赤外線を放射し、合わせて第2セラミックス層312も、遠赤外線を放射する。それぞれのセラミックス層が遠赤外線を放射する態様を備える。
【0121】
被覆層3を形成する際に、例えば被覆層3の原料となる塗材を木製基材2の被覆面21に塗布する。被覆面21は、実施の形態1で説明した通り、火災の炎などによる熱の発生側と逆側である。このとき、塗材の塗布を複数回に分けることで、
図5のような複数のセラミックス層を形成することができる。
【0122】
被覆層3が複数のセラミックス層を備えることで、それぞれのセラミックス層での遠赤外線の変換と放射が行われる。第1セラミックス層311での遠赤外線の変換と放射、および、第2セラミックス層312での遠赤外線の変換と放射がそれぞれで行われる。このそれぞれで行われることで、より効率的な遠赤外線への変換が行われる。
【0123】
特に、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線への変換が行われると、空間的に異なる場所での遠赤外線変換が行われる。これにより、多くの中空セラミックス31全体が遠赤外線変換に活用される。
【0124】
また、セラミックス層のそれぞれで遠赤外線放射が行われると、多面的かつ多重的な遠赤外線放射が行われる。これにより、耐火木製建築部材1に熱が付与される場合でも、より多くの熱が遠赤外線となって放射される。結果として、燃焼を遅らせることができる。
【0125】
実施の形態1で説明した通り、複数のセラミック層のそれぞれは、炎などの熱の発生側と逆側に形成される。これにより、より高い効率で熱を遠赤外線に変換して放射できる。このとき、
図5,
図6のように、熱の発生側に遠赤外線を放射する。また、被覆面21側に放射する。このとき、被覆面21側への放射量が大きい。
【0126】
また、耐火木製建築部材1に熱が加わり被覆層3が次第に燃え落ちる場合でも、残ったセラミックス層がその機能を維持できる。これにより、より長い間、加わる熱を遠赤外線として放射する機能が維持されて、耐火木製建築部材1の燃焼を遅らせることができる。例えば、外側の第2セラミックス層312が燃え落ちても、木製基材2側の第1セラミックス層311が残ることで、耐熱能力(熱を遠赤外線に変換放射する)を維持できる。
【0127】
また、被覆層3の複数のセラミックス層は、中空セラミックス31の粒径によって形成されてもよい。
図6は、中空セラミックスの粒径により形成される複数のセラミックス層を含む被覆層の模式図である。
【0128】
例えば、ある粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布し、次に、別の粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布し、更に別の粒径の中空セラミックス31を含む塗材を塗布することを繰り返せば、
図6のような、粒径の異なる複数のセラミックス層を形成できる。
【0129】
図6では、一例として、木製基材2側から順に、第1セラミックス層311、第2セラミックス層312、第3セラミックス層313が形成されている。それぞれのセラミックス層は、中空セラミックス31の粒径の相違により形成されている。実施の形態1で説明した通り、第1セラミックス層311などは、熱の発生源と逆側に形成される。
【0130】
第1セラミックス層311、第2セラミックス層312、第3セラミックス層313のそれぞれは、耐火木製建築部材1に加わる熱を、遠赤外線に変換して放射する。この状態は、
図6に示される通りである。
【0131】
中空セラミックス31の粒径が異なることで形成される複数のセラミックス層のそれぞれは、加わる熱が含む異なる波長成分のそれぞれに対応した遠赤外線変換を行える。これにより、第1セラミックス層311は、ある波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第2セラミックス層312は、別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。第3セラミックス層313は、更に別の波長成分(あるいは温度成分)の熱を遠赤外線に変換して放射する。
【0132】
また、
図7のように、被覆層3において複数のセラミックス層が形成されてもよい。
図7は、本発明の実施の形態2における被覆層の模式図である。被覆層3においては、異なる粒径の中空セラミックス31が含まれる。この異なる粒径の中空セラミックス31であるが、主となる粒径の中空セラミックス31の粒径違いによって、
図7のように複数のセラミックス層が形成される。
【0133】
図7では、複数のセラミックス層のそれぞれは、異なる粒径の中空セラミックス層31を含む。ただ、第1セラミックス層311は、小さな粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層であり、第2セラミックス層312は、中くらいの粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層であり、第3セラミックス層313は、大きな粒径の中空セラミックス31を中心としたセラミックス層である。
【0134】
このように、セラミックス層には異なる粒径の中空セラミックス31が含まれるが、主となる粒径によって、複数のセラミックス層が形成される。この複数のセラミック層のそれぞれが、熱を遠赤外線に変換して放射する。この放射により、耐火木製建築部材1の燃焼を遅らせることができる。
【0135】
このように、加わる熱が含む種々の成分のそれぞれに対応して遠赤外線に変換して放射できる。これにより、被覆層3は、耐火木製建築部材1に加わる熱を、確実かつ満遍なく遠赤外線に変換して放射できる。結果として、熱による燃焼を遅らせることが、よりできるようになる。
【0136】
また、上述した通り、複数のセラミックス層が存在することで、いずれかのセラミックス層が燃焼しても、残りのセラミックス層がその機能を維持できる。これにより、より長い時間において、燃焼を遅らせることができる。
【0137】
(異なる金属酸化物の中空セラミックスが含まれること)
【0138】
中空セラミックス31は、金属酸化物を含む。更に、金属酸化物は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも一つを含む。
【0139】
ここで、被覆層3を構成する中空セラミックス31が、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化アンチモン(Sb2O3)の少なくとも2以上の種類の金属酸化物を含むことも好適である。
【0140】
異なる2種以上の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が、被覆層3に含まれることで、それぞれの中空セラミックス31が、加わる熱の異なる成分(波長成分や温度成分など)のそれぞれに対応して遠赤外線への変換を行える。ある金属酸化物の中空セラミックス31は、ある成分の熱を遠赤外線に変換し、別の種類の金属酸化物の中空セラミックス31は、別の成分の熱を遠赤外線に変換する。
【0141】
このように、複数の種類の金属酸化物による中空セラミックス31が被覆層3を構成することで、加わる熱を、満遍なくかつ確実に遠赤外線に変換できる。この変換後の遠赤外線が放射されて、熱による燃焼を確実に遅らせることができる。
【0142】
(被覆層の厚み)
(被覆層3の塗布形成での観点からの厚み)
【0143】
被覆層3は、木製基材2の表面等に被覆剤である塗材が塗布されることで形成される。この塗布される塗材の量は、木製基材2の単位面積あたりにおいて、次の範囲であることが好ましい。
塗布される塗材の重量 150g~280g/m2
【0144】
木製基材2の表面などに、単位面積当たりにこの範囲の重量の塗材が塗布されて被覆層3が形成されることが好ましい(被覆層3は、塗材が塗布されて乾燥されることで形成される)。すなわち、被覆層3の厚みは、この単位面積あたりに塗布される塗材の重量によって定義される。
【0145】
被覆層3がこの定義によりその厚みが設定されることで、燃焼を遅らせるのに十分な遠赤外線への変換・放射が実現される。また、厚すぎる場合には、中空セラミックス31に含まれる空気が保温効果を有する。このため、被覆層3の厚みがこれ以上厚くなると、この保温効果の総量が大きくなり過ぎて、建築物内部の居住性などを損なう可能性がある。
【0146】
これらのことから、上述のような重量の下限と上限とが設定されることでもよい。
【0147】
(乾燥後に形成される被覆層の観点からの厚み)
上述の単位面積当たりの重量で塗布された塗材が乾燥すると、被覆層の厚みは、154μm以上291μm以下となる。このような観点で厚みを定義することも好適である。。この厚みにより、耐火性として十分なレベルを担保できる。154μmよりも薄いと、燃焼を遅らせるのに十分な遠赤外線への変換と放射が不十分となる。291μmより厚いと、コスト面でのデメリットや変換された遠赤外線の放射がされにくくなるなどのデメリットがある。
【0148】
よって、この厚みの範囲であることが好適である。
【0149】
なお、中空セラミックス31に含まれる空気が保温効果を有する。このため、被覆層3の厚みがこれ以上厚くなると、この保温効果の総量が大きくなり過ぎて、建築物内部の居住性などを損なう可能性がある。
【0150】
このため、被覆層の厚みは、この程度であることが好ましい。
【0151】
特に、塗材を塗布することで被覆層3を形成する場合には、適切な量の塗材を塗布することが必要である。この必要な量の塗布から、上記の厚みに繋がる。
【0152】
(建築物)
実施の形態1,2で説明した耐火木製建築部材1を使用することで、木造建築物(木造部分を一部のみとする建築物も含む)が、建築される。このような建築物は、必要となるところに、耐火木製建築部材1を使用する。例えば壁材や柱などである。
【0153】
これらの部分に耐火木製検知部材1が使用されることで、建築物において火災が発生しても、その燃焼を遅らせることができ、適切な避難や消火を実現できる。これにより、耐火性の高い木造建築物を実現できる。既述したように、木造建築物(他の建築物も同様)での耐火性とは、全く燃えないことではなく、燃焼を十分に遅らせることである。遅らせることができれば、避難や消火を実現できるからである。
【0154】
木造建築物を全く燃えないように(あるいはこれに近づけるように)するには、木製建築部材の表面や内部に、難燃性素材を組み合わせるなどが必要となる。これでは、木製建築部材の重量が大きくなり、基礎工事なども含めた建築コストが増加する。
【0155】
本発明の耐火木製建築部材1は、非常に薄い被覆層3を備えるだけなので、重量増加はほとんどない。このため、建築コストを増加させることを抑制できる。結果として、耐火の基準を満たす木造建築物を広く普及させることもできる。そうなれば、日本の未活用の森林資源を活用でき、日本の森林保護にもつながる。
【0156】
(複数の木製基材の組み合わせユニット)
【0157】
図8、
図9は、本発明の実施の形態2における複数の木製基材による耐火木製建築物の側面図である。
図8,
図9の耐火木製建築部材1は、複数の木製基材2を備える構造を有する。
【0158】
耐火木製建築部材1は、複数の木製基材2が積層されて一体化されている。ここで、
図8の場合には、複数の木製基材2のそれぞれの被覆面に被覆層3が形成されている。すなわち、木製基材2と被覆層3とが組み合わされたユニットが、複数に積層されている。勿論、被覆層3のそれぞれは、炎などの熱の発生側と逆側である。
【0159】
図8の場合には、被覆層3を形成したユニットを必要な枚数だけ積層することで製造できる。これにより、容易に製造できる。
【0160】
複数の木製基材2が積層されて一つの耐火木製検知部材1にできるので、厚みを必要とする建築部位に使用できる。例えば、大型建築物の外壁などである。また、一枚板の木製基材2を用いる場合よりも、コスト低下させることができる。
【0161】
また、
図8のように複数の木製基材2のそれぞれに被覆層3が形成されていることで、熱の発生に対応して、その熱の伝わる過程で被覆層3のそれぞれが熱を遠赤外線に変換して放射できる。これにより、耐火木製建築部材1全体での熱放射量が大きくなり、耐火能力を高めることができる(燃焼時間を遅らせることができる)。
【0162】
あるいは、
図9のように、複数の木製基材3が積層された上で、全体の上に被覆層3が形成されることでもよい。これにより、トータルの製造コストを抑えることができる。あるいは、既に木製基材3が積層された部材があり、これに被覆層3を形成することで、
図9のような耐火木製建築部材1が得られることでもよい。これにより、流通経路上での耐火木製建築部材1の製造も可能となる。
【0163】
図9の場合でも、被覆層3による熱の遠赤外線変換と放射が行われる。これにより、耐火能力が確保される。
【0164】
もちろん、
図8,
図9のいずれの場合でも、被覆層3は、熱の発生側と逆側に備わる。
図8のように、複数の被覆層3の場合には、木製基材3に対応して逆側と把握されればよい。
【0165】
このような
図8,
図9のいずれかのような形態で、複数の木製基材2が積層された耐火木製建築部材1は、厚みを必要とする用途に適している。もちろん、既述した耐火性能を確保したものである。
【0166】
(実施の形態3)
【0167】
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、耐火木製建築部材の耐火能力の実験結果について説明する。
【0168】
図10、
図11は、本発明の実施の形態3における耐火木製建築部材の耐火実験の状態を示す写真である。
図10は、耐火木製建築部材の一方から火炎を当てて、その温度上昇を計測する全体状態を示している。
図11は、耐火木製建築部材の一方に火炎を当てて、耐火木製検知部材の逆側の温度上昇を測定している状況を示している。
【0169】
図10、
図11に示すように、耐火木製建築部材の一方の面からガスバーナーで火炎を吹き付ける。すなわち熱を付与する。比較実験のために、被覆層の無い木材のみの木製建築部材、火炎側に被覆層が形成された比較例としての木製建築部材、および本発明の火炎側と逆側に被覆層が形成された実施例としての耐火木製建築部材の3種類について、
図10,
図11のような状態および下記の条件で燃焼実験(耐火実験)を行った。
【0170】
(実験条件)
試験体:30cm×12cm 厚みが15mmのスギ板
熱源:約760℃~900℃のガスバーナーによる火炎
試験装置:実験用木材(上述の被覆層の無い木材のみ、火炎側に被覆層のある木製部材、逆側に被覆層のある本発明の耐火木製建築部材)に直径9cmの鉄製円筒を設置し、円筒内のみを燃焼させた。
図11の写真に示すとおりである。
試験方法:燃焼面から非燃焼面まで燃え抜ける時間を試験終了時間とした。また、試験終了まで30秒ごとに、非加熱面の温度を、放射温度計で計測。
図12に示す温度変化グラフの作成方法:試験終了時間までの非加熱面の温度変化をプロット。
【0171】
図12は、本発明の実施の形態3における耐火実験の結果を示すグラフである。横軸が燃焼開始からの経過時間であり、縦軸が非加熱面(火炎が当てられていない面)で測定された温度である。すなわち、
図12のグラフは、火炎による熱の付与によって、温度上昇の度合いがどのようなものであるか、それが2つの比較例と本発明の実施例とでどのように異なるかを示している。
【0172】
【0173】
(比較例1:木製基材のみ)
図12のグラフにある被覆層のない木製基材のみの比較例1は、火炎を当て始めるとすぐに逆側の測定面の温度が上昇する。そして、10分ほどで火炎と逆側の面まで炎が燃え抜けてしまう。すなわち、10分ほどで燃え落ちてしまう。すなわち、建築物での火災発生で、燃え落ちるまでの燃焼時間が短い。耐火性能が不足していることが分かる。
【0174】
(比較例2:被覆層が燃焼面に設けられている場合)
図12のグラフにある燃焼面に被覆層が設けられている場合には、燃焼開始から次第に温度が上昇し始める。10分弱で温度上昇カーブが急激になる。そこから5分ほどで300℃くらいまでに温度上昇して、燃え抜ける。
【0175】
被覆層の無い比較例1に比較して、燃え抜けるまでの時間(燃え落ちるまでの時間)は、5割ほど増加している。すなわち、耐火性能を示す燃焼耐久時間は5割ほど向上している。被覆層が形成されているからである。
【0176】
しかしながら、被覆層が燃焼面にあると、温度上昇が大きくなり15分ほどで燃え抜けている。後述する、本発明の耐火木製建築部材に対応する実施例の半分ほどの時間で燃え抜けている。すなわち、燃焼耐久時間は、実施例の半分程度である。
【0177】
(実施例:本発明に対応する耐火木製建築部材)
図12のグラフにあるように、3つの中で、一番温度上昇が緩やかである。加えて、急上昇などの上昇カーブや変動も少ない。結果として、燃え抜けるまでに30分ほどが掛かっている。それだけ、燃焼時間を遅くできており、燃焼耐久時間は、被覆層が燃焼面に備わる比較例2の倍ほどある。
【0178】
このように、被覆層を燃焼面ではなく逆側に設けた本発明の耐火木製建築部材は、燃焼に対する耐久性が非常に高くなっている。実験結果では、被覆層が無い場合(比較例1)の3倍程度、被覆層が燃焼面に備わる場合(比較例2)の2倍程度まで、向上している。特に、被覆層の形成面の異なる比較例2に対して、3倍程度の耐火能力を備えている。
【0179】
燃焼時間が大きくなれば、それだけ火災などの発生の際の燃え落ちるまでの時間が長くなる。すなわち、耐火能力が高い。
【0180】
このように、実験からも、被覆層が熱の加わる側と逆側に設けられた耐火木製建築部材は、他の構成と比較して耐火能力に優れていることが確認された。結果として、本発明の耐火木製建築部材が建築物に使用される場合に、火災等に強い建築物を実現できる。
【0181】
(被覆層による遠赤外線変換と放射の確認実験)
被覆層3が、熱源からの熱を遠赤外線に変換して放射することを、実験により確認した。
図13は、被覆層による遠赤外線変換での放射を確認する実験方法を示す説明図である。
【0182】
図13に示される通り、木製基材として杉板において、熱源であるバーナーによる炎を当てる面と逆側の面の半分に、被覆層3を設ける。残り半分は、被覆層3を備えない。つまり、1枚の杉板の半分は被覆層3があり、残りには被覆層3が無い構成である。
【0183】
この杉板の一方からバーナーで炎を当てて加熱する。逆側において、サーモグラフィーによる熱上昇の状態を確認する。炎の当たらない逆側の面では、被覆層が無い部分では被覆層による遠赤外線への変換と熱放射が生じないので、表面とその外側の温度上昇が少なくなる。一方で、被覆層が備わる部分では、遠赤外線への変換と放射により、熱がどんどん放射される。これは、被覆層が備わる逆側の部分での温度上昇が、備わらない部分よりも相対的に高くなることに繋がる。
【0184】
すなわち、被覆層が非被覆層よりも高温になっていれば、遠赤外線変換からの放射により、バーナーからの熱を外部に逃がしていることを確認できる。
【0185】
図14は、杉板の厚みが小さい場合(厚みが15mm)の、時間経過に対応するサーモグラフィーの状態を示すと共に温度を示す結果図である。
図15は、
図14の結果の平均値を示す結果図である。
【0186】
図14、
図15の結果から明らかなとおり、時間経過において、5分後、10分後、15分後の全てにおいて、被覆層がある部分の方での温度上昇が高い。
【0187】
開始時の温度
被覆層無:17.7℃
被覆層有:17.7℃
【0188】
5分後の温度結果
被覆層無:65.7℃
被覆層有:72.7℃
【0189】
10分後の温度結果
被覆層無:78.7℃
被覆層有:86.8℃
【0190】
15分後の温度結果
被覆層無:76.5℃
被覆層有:89.0℃
【0191】
また、
図15の結果に示される通り、平均値としても、被覆層無:44.7℃、被覆層有:55.3℃であり、被覆層のある部分での温度が高い。サーモグラフィーでの画像もその傾向を示している。すなわち、被覆層が形成されていることで、熱源側からの付与される熱が、被覆層で遠赤外線に変換されて次々と放射されている。このため、木製基材そのものの温度上昇を抑制して、耐火能力を高めていることが分かる。
【0192】
図16~
図19においては、厚みの大きな杉板を木製基材とする場合の実験結果を示す。
図16、
図17、
図18は、厚みの大きな杉板(厚みが40mm)での、被覆層無部分と被覆層有部分の熱源と逆側の面の温度上昇を示す結果図である。
図19は、
図16~
図18の平均値を示す結果図である。いずれも、サーモグラフィーで計測した表面状態の写真と温度測定結果を示している。次の通りの結果である。
【0193】
開始時の温度
被覆層無:16.8℃
被覆層有:16.4℃
【0194】
5分後の温度結果
被覆層無:17.6℃
被覆層有:17.9℃
【0195】
10分後の温度結果
被覆層無:22.1℃
被覆層有:24.1℃
【0196】
15分後の温度結果
被覆層無:29.5℃
被覆層有:34.4℃
【0197】
20分後の温度結果
被覆層無:36.5℃
被覆層有:42.7℃
【0198】
25分後の温度結果
被覆層無:40.4℃
被覆層有:48.2℃
【0199】
30分後の温度結果
被覆層無:43.1℃
被覆層有:52.4℃
【0200】
35分後の温度結果
被覆層無:48.0℃
被覆層有:56.3℃
【0201】
40分後の温度結果
被覆層無:48.0℃
被覆層有:56.3℃
【0202】
45分後の温度結果
被覆層無:52.2℃
被覆層有:62.0℃
【0203】
いずれの温度経過の場合でも、被覆層のある部分での温度上昇が、被覆層の無い部分より高い。また、
図19に示される通り、平均値としても同様である。すなわち、被覆層が設けられることで、熱源からの熱を遠赤外線に変換して放射していることが確認された。これにより、木製基材そのものの温度上昇を抑制して、耐火能力を上げていることも実験から確認された。
【0204】
(遠赤外線放射の確認実験2)
また、発明者は被覆層が熱をくわえられると遠赤外線を放射することの確認実験を、公的研究機関(島根県産業技術センター)にて行った。この実験において、試験成績書を受領しており、
図20,
図21において示す。
図20、
図21は、本発明の被覆層による遠赤外線変換と放射を示す試験成績書である。
【0205】
図20、
図21において「ガイナ」と記載されているものが、被覆層を示す。
【0206】
測定機器:日本電子株式会社製 本体JTR―WINSPEC100および赤外線測定ユニットIR-IRR200
【0207】
測定方法:測定機器を用いて遠赤外線放射の放射率を測定した。
【0208】
この測定に基づいて、被覆層による熱を加えた場合の遠赤外線放射の状態を確認した。遠赤外線の波長域(一般的には3μm~1000μm)に含まれる5.0μm~22.5μmの波長域での積分放射率が94.6%と非常に高いことが確認された。トルマリンなどの遠赤外線変換能力が知られている素材に匹敵する。このように、公的研究機関での試験成績書においても、被覆層による熱の遠赤外線変換の能力や効率が確認された。
【0209】
以上、実施の形態1~3で説明された耐火木製建築部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0210】
1 耐火木製建築部材
2 木製基材
3 被覆層
31 中空セラミックス
32 樹脂バインダー
310 内部空間
311 第1セラミックス層
312 第2セラミックス層
313 第3セラミックス層