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特開2023-57604コンクリート試験方法およびコンクリート試験システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057604
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】コンクリート試験方法およびコンクリート試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20230417BHJP
   G06Q 50/08 20120101ALI20230417BHJP
【FI】
G01N33/38
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167163
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神代 泰道
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 正樹
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC07
(57)【要約】
【課題】コンクリートの品質を確認するコンクリート試験方法およびコンクリート試験システムを提供する。
【解決手段】コンクリート試験方法は、コンクリート構造物の設計情報に基づいてコンクリート養生時における温度解析を行う温度解析工程(ステップS101)と、コンクリート構造物における評価領域の温度履歴を取得する温度履歴取得工程(ステップS102)と、温度履歴を再現可能な試験環境のもとで設計情報に基づく供試体を養生する供試体養生工程(ステップS103)と、温度履歴を再現して供試体の品質試験を行う試験工程(ステップS104)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の設計情報に基づいてコンクリート養生時における温度解析を行う温度解析工程と、
前記温度解析の結果に基づいて、前記コンクリート構造物における評価領域の温度履歴を取得する温度履歴取得工程と、
前記温度履歴を再現可能な試験環境のもとで前記設計情報に基づく供試体を養生する供試体養生工程と、
前記温度履歴を再現して前記供試体の品質試験を行う試験工程と、を備える
コンクリート試験方法。
【請求項2】
前記設計情報は、前記コンクリート構造物におけるコンクリートの組成を含む
請求項1に記載のコンクリート試験方法。
【請求項3】
前記温度解析工程では、杭の設計情報に基づいて前記温度解析を行う
請求項1または2に記載のコンクリート試験方法。
【請求項4】
前記杭は、軸部と前記軸部よりも大きな径の拡径部とを有するものであり、
前記温度履歴取得工程では、前記拡径部の中心部を前記評価領域として前記温度履歴を取得する
請求項3に記載のコンクリート試験方法。
【請求項5】
前記供試体養生工程では、前記評価領域についての水分状況が模擬できるように被覆体で覆った状態で前記供試体を養生する
請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート試験方法。
【請求項6】
解析装置と養生装置とを用いたコンクリート試験システムであって、
前記解析装置は、
コンクリート構造物の設計情報に基づいてコンクリート養生時における温度解析を行い、前記コンクリート構造物における評価対象の温度履歴を取得し、
前記養生装置は、
供試体を加熱する加熱体と、
前記供試体を覆う被覆体と、
前記供試体の内部の温度を検出する温度センサーと、
前記温度センサーの検出値に基づいて、前記加熱体を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記供試体において前記評価対象の温度履歴が再現されるように前記加熱体を制御する
コンクリート試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの品質を確認するコンクリート試験方法およびコンクリート試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物の高層化や大型化によって、基礎となる場所打ちコンクリート杭の高強度化や大型化が必要となっている。杭の高強度化や大型化は、コンクリート打込み後、セメントと水との水和反応にともなう反応熱によって部材内部の著しい高温化を招く。コンクリート構造物における部材内部の高温化は、初期材齢時の強度を増加させるものの、長期的な強度の停滞や鈍化を招く傾向がある。そのため、高温履歴を受けたコンクリートの強度は、高温履歴を受けない通常時のコンクリートの強度を下回る可能性がある。こうしたことから、部材内部の高温化が想定されるコンクリート構造物の強度を事前に把握する必要がある。例えば特許文献1では、コンクリート構造物のコンクリート強度を確認するための方法として、実構成部材と実構成部材よりも小さな模擬部材とを用いた方法が開示されている。
【0003】
具体的には、実構成部材および模擬部材の各々における外周部に加熱装置と温度センサーとを設置するとともに、外周部を断熱材で囲繞する。そして、実構成部材については加熱時における温度履歴を取得し、模擬部材については温度センサーの検出値に基づく温度履歴が実構成部材の温度履歴に一致するように加熱する。これにより、模擬部材におけるコンクリート強度が実構成部材と等しくなるため、実構成部材におけるコンクリート強度を模擬部材で確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-153071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、実構成部材のほか、当該実構成部材を加熱する加熱装置や当該実構成部材を囲繞する断熱材等が必要になるため、試験装置が大規模なものとなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するコンクリート試験方法は、コンクリート構造物の設計情報に基づいてコンクリート養生時における温度解析を行う温度解析工程と、前記温度解析の結果に基づいて、前記コンクリート構造物における評価領域の温度履歴を取得する温度履歴取得工程と、前記温度履歴を再現可能な試験環境のもとで前記設計情報に基づく供試体を養生する供試体養生工程と、前記温度履歴を再現して前記供試体の品質試験を行う試験工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小規模な試験装置のもとでコンクリート構造物についての品質試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】コンクリート構造物の一例を示す図。
図2】第1実施形態におけるコンクリート試験方法の手順を示すフローチャート。
図3】第1実施形態において、温度履歴の一例を示すグラフ。
図4】第1実施形態において、(a)土台に型枠が支持された状態を模式的に示す図、(b)型枠が加熱体で覆われた状態を模式的に示す図、(c)加熱体が被覆体で覆われた状態を模式的に示す図。
図5】第2実施形態におけるコンクリート試験方法の概略構成を模式的に示す図。
図6】第2実施形態において、(a)水分減少量の一例を示すグラフ、(b)圧縮強度の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1図4を参照して、コンクリート試験方法およびコンクリート試験システムの第1実施形態について説明する。
【0010】
コンクリート試験方法は、コンクリート構造物における評価領域の品質を確認することを目的として行われる試験の方法である。評価領域は、例えば、コンクリート養生時に周辺の部位よりも温度が高くなる部位である。
【0011】
図1に示すように、コンクリート構造物の一例は、地中に配設されて中層や高層の建物を支持する場所打ちコンクリート杭11(以下、単に杭11という。)である。この杭11は、軸部12と軸部12よりも大きな径の拡径部13とを有する。拡径部13において、最も径の大きな部分は最大径部14である。
【0012】
図2に示すように、コンクリート試験方法は、温度解析工程(ステップS101)、温度履歴取得工程(ステップS102)、供試体養生工程(ステップS103)、試験工程(ステップS104)を備える。
【0013】
温度解析工程(ステップS101)では、コンクリート構造物のコンクリート養生時における温度解析を行う。具体的には、情報処理装置を中心に構成された解析装置を用いて、コンクリート構造物の設計情報に基づくシミュレーションを行い、コンクリート養生時におけるコンクリート構造物内部の温度推移を解析する。設計情報は、コンクリート構造物の形状や大きさ、コンクリートの組成、セメント比、養生方法、設置環境などを含む情報である。
【0014】
情報処理装置は、各種情報を取得し、その取得した各種の情報、および、メモリーに記憶したプログラムや各種のデータに基づいて各種の処理を実行する。情報処理装置は、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、或いは、それらの組み合わせ、を含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリーを含み、メモリーは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリーすなわちコンピューター可読媒体は、汎用または専用のコンピューターでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0015】
温度解析は、コンクリート構造物における評価領域が特定されていない場合には、コンクリート構造物全体を解析対象として行われてもよい。これにより、評価領域を特定することができる。また、評価領域が経験的に特定されている場合には、その評価領域を含む周辺領域を解析対象として温度解析を行うことにより、温度解析に要する時間を短くすることができる。例えば、コンクリート構造物が上述した杭11である場合には、最大径部14の中心部において最も温度が高くなることから、その最大径部14の中心部を評価領域として温度解析を行う。温度解析は、解析対象を複数のメッシュに分割する有限要素法などを用いて行われる。
【0016】
温度履歴取得工程(ステップS102)では、温度解析の結果に基づいて、評価領域の温度履歴を取得する。具体的には、温度解析によって得られる各メッシュの温度履歴に基づいて、評価領域の温度履歴を取得する。例えば、最も温度が高くなったメッシュの温度履歴を評価領域の温度履歴として取得する。
【0017】
図3は、評価領域における温度履歴の一例を示すグラフである。図3は、杭11における最大径部14の中心部を評価領域として、その評価領域における温度履歴を最大径部14の大きさごとに示したグラフである。同図に示すように、杭11においては、最大径部14が大きくなるほど、養生時における最高温度が高くなる。また、最大径部14の杭径が大きくなると、最高温度が水の沸点を超える場合もある。
【0018】
供試体養生工程(ステップS103)では、試験対象となる供試体を製造するとともにその供試体を養生装置で養生する。
図4(a)に示すように、養生装置20は、例えば、土台21と型枠22とを有する。供試体15は、土台21に支持された型枠22に対して、設計情報に基づくコンクリートが打設されることにより製造される。供試体15は、コンクリート構造物よりも小さな体積で製造される。最大径部14の杭径5mの杭11がコンクリート構造物であり、かつ、その最大径部14の中心部が評価対象である場合、供試体15は、例えば断面が1m程度の円柱形状あるいは角柱形状に製造される。
【0019】
図4(b)および図4(c)に示すように、養生装置20は、加熱体23、断熱材24、温度センサー25、および、制御部26で構成される。
加熱体23は、供試体15を加熱する。加熱体23の一例は、型枠22に対して外側から巻き回される面状発熱体である。
【0020】
断熱材24は、供試体15を覆う被覆体である。断熱材24は、型枠22に巻き回された加熱体23を外側から覆う。断熱材24は、供試体15を上側から覆ってもよい。
温度センサー25は、供試体15の内部における温度を検出し、その検出した温度を制御部26に出力する。
【0021】
制御部26は、情報処理装置を中心に構成される。制御部26は、温度センサー25の検出値に基づいて加熱体23による供試体15の加熱を制御する。
試験工程(ステップS104)では、温度履歴取得工程(ステップS102)で取得した温度履歴が供試体15で再現されるように供試体15の温度調整を行ったのち、供試体15の一部を試験片として各種の品質試験を行う。
【0022】
具体的には、温度履歴取得工程(ステップS102)で取得した温度履歴を制御部26に入力する。そして、温度センサー25の検出値がその温度履歴となるように制御部26で加熱体23による加熱を制御する。その後、ボーリング等によって供試体の一部を抜き取り、それを試験片として各種の品質試験、例えば圧縮強度試験を行う。
【0023】
第1実施形態の作用および効果について説明する。
(1-1)温度解析によって得られた評価領域の温度履歴が再現されるように養生装置20によって供試体15の温度が制御される。このため、例えば杭11のような大きな部材について品質を確認する場合であっても、小規模な装置構成のもとで品質確認を行うことができる。
【0024】
(1-2)コンクリート構造物の設計情報に基づいて温度解析が行われる。これにより、コンクリート構造物を形成するコンクリートの組成に応じて、骨材への反応熱の熱伝導や骨材の熱容量を考慮した温度履歴、すなわち実際の温度履歴により近い温度履歴を取得することができる。
【0025】
(1-3)杭11の最大径部14の中心部における温度履歴を取得し、その取得した温度履歴を供試体15で再現することにより、最大径部14の中心部を評価領域とした品質確認を行うことができる。
【0026】
(1-4)供試体15の加熱を加熱体23で行うため、供試体15の温度についての自由度が高められる。これにより、例えば100℃を超える温度まで供試体15を加熱できることから、試験対象についての自由度を高めることができる。
【0027】
(第2実施形態)
図5および図6を参照して、コンクリート試験方法およびコンクリート試験システムの第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態のコンクリート試験方法およびコンクリート試験システムは、第1実施形態と主要な構成が同じである。そのため、第2実施形態においては、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、第1実施形態と同様の部分については同様の符号を付すことによりその詳細な説明は省略する。
【0028】
コンクリート構造物である杭11は、地中に配設されるものである。そのため、コンクリート打設後における杭11の内部の水分状況は、杭11の周辺環境、より具体的には周辺の温度や湿度、水分の供給状況に左右される。そのため、第2実施形態においては、事前に行った土壌調査の結果から地中における周辺環境を取得し、その取得した周辺環境と杭11の設計情報とに基づいて、杭11の評価領域についての水分状況を予測する。第2実施形態のコンクリート試験方法においては、そうした評価領域について予測した水分状況を模擬できる試験環境でコンクリートを養生する。
【0029】
図5に示すように、供試体養生工程(ステップS103)では、供試体30を製造したのち、その供試体30を評価領域について予測した水分状況を模擬した試験環境で養生する。具体的には、供試体30として直径100mm、高さ200mm程度の小型の試験片を製造したのち、評価領域について予測した水分状況を模擬した試験環境で供試体30を養生する。
【0030】
例えば、コンクリートに含まれている水分の蒸発や逸散を許容するケース1の場合、供試体30は、上部開口が開放された金属製の容器31を被覆体として、加熱体である加熱炉32に収納される。
【0031】
コンクリートに含まれている水分のある程度の蒸発や逸散を許容するケース2の場合、供試体30は、上部開口を有する金属製の容器本体33と上部開口を覆うフィルム34とで構成された容器35を被覆体として加熱炉32に収納される。こうした試験環境は、コンクリート構造物の内部における水分濃度がさほど高くないところの水分状況を模擬している。
【0032】
コンクリートに含まれている水分の蒸発や逸散をできるだけ防ぎたいケース3の場合、供試体30は、上部開口を有する金属製の容器本体36と上部開口を密閉する蓋体37とで構成された容器38を被覆体として加熱炉32に収納される。こうした試験環境は、コンクリート構造物の内部における水分濃度が飽和状態に近いところの水分状況を模擬している。容器本体36と蓋体37とは、例えば、容器本体36と蓋体37との間に1つ以上の環状シール材が配設された状態でねじ結合により連結される。
【0033】
そして、試験工程(ステップS104)では、温度履歴取得工程(ステップS102)で取得した温度履歴が供試体30で再現されるように加熱炉32による加熱を制御部26で制御したのち、供試体30そのものを試験片として各種の品質試験を行う。
【0034】
図6(a)は、材齢4日および材齢91日における単位体積あたりの供試体30の水分減少量を示すグラフである。図6(b)は、材齢4日、材齢28日、および、材齢91日の各々における圧縮強度を示すグラフである。なお、図6(b)において、二点鎖線は、材齢28日における基準強度を示している。
【0035】
図6(a)に示すように、材齢4日および材齢91日の各々において、ケース1、ケース2、ケース3の順で水分減少量が多いことが認められた。また、図6(b)に示すように、水分減少量が多いほど、材齢4日、材齢28日、および、材齢91日の各々において、ケース1、ケース2、ケース3の順で圧縮強度が小さくなることが認められた。
【0036】
第2実施形態によれば、第1実施形態に記載した(1-1)~(1-4)に記載した作用効果に加えて、以下の作用および効果が得られる。
(2-1)評価領域の水分状況を模擬した試験環境のもとで試験を行うことができる。これにより、評価領域の試験結果についての信頼度を高めることができる。
【0037】
(2-2)被覆体として容器35,38を用いることにより、100℃を超える温度まで供試体30を加熱する場合であっても、水分の逸散を抑えた試験環境のもとで試験を行うことができる。
【0038】
第1および第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0039】
・コンクリート構造物の評価領域は、コンクリート養生時に高温となる領域であればよく、最大径部14における中心部に限られない。
・コンクリート構造物は、杭11に限られない。例えば、コンクリート構造物は、地上に設置された柱や梁、壁、床などであってもよい。こうした場合であっても、小規模な装置構成のもとで品質確認を行うことができるとともに内部の水分状況に応じた試験を行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
11…場所打ちコンクリート杭、12…軸部、13…拡径部、14…最大径部、15…供試体、20…養生装置、21…土台、22…型枠、23…加熱体、24…断熱材、25…温度センサー、26…制御部、30…供試体、31…容器、32…加熱炉、33…容器本体、34…フィルム、35…容器、36…容器本体、37…蓋体、38…容器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6