(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057625
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】マイクロ波共振器及びマイクロ波フィルタ
(51)【国際特許分類】
H01P 7/10 20060101AFI20230417BHJP
H01P 7/06 20060101ALI20230417BHJP
H01P 1/20 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
H01P7/10
H01P7/06
H01P1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167197
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】石崎 俊雄
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006HC01
5J006HC04
5J006HC22
5J006JA01
5J006LA02
5J006LA21
5J006NA01
5J006NA02
5J006PA01
5J006PB04
(57)【要約】
【課題】低損失で、かつ、サイズを大きくしなくても共振周波数を下げることができる2分の1波長共振器のマイクロ波共振器を提供する。
【解決手段】このマイクロ波共振器1は、金属キャビティ2と、金属キャビティ2に接触していない少なくとも1本の金属棒3と、金属棒3を取り囲むように配置され、貫通孔4aを有する第1の誘電体4と、を具備し、金属キャビティ2内において金属棒3が第1の誘電体4に触れないように貫通孔4aに挿入されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属キャビティと、
前記金属キャビティに接触していない少なくとも1本の金属棒と、
前記金属棒を取り囲むように配置され、貫通孔を有する第1の誘電体と、
を具備し、
前記金属キャビティ内において前記金属棒が前記第1の誘電体に触れないように前記貫通孔に挿入されていることを特徴とするマイクロ波共振器。
【請求項2】
前記金属キャビティ内の電界によって、前記金属棒が長手方向に分極されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波共振器。
【請求項3】
前記金属棒表面において、磁界で励起される誘導電流が前記第1の誘電体によって低減されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロ波共振器。
【請求項4】
前記金属棒が円柱形状もしくは角柱形状の1本の棒状金属体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ波共振器。
【請求項5】
前記金属棒の両端と前記金属キャビティの間隙が、第2の誘電体によって埋められていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロ波共振器。
【請求項6】
前記第1の誘電体の比誘電率が前記第2の誘電体の比誘電率より大きいことを特徴とする請求項5に記載のマイクロ波共振器。
【請求項7】
複数個の請求項1~6のいずれか1項に記載のマイクロ波共振器を電気的に結合させて構成したことを特徴とするマイクロ波フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波共振器及びマイクロ波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波共振器としては、金属キャビティ(金属ケース)の中に金属棒が設けられたものが用いられることが少なくない。金属キャビティには、それと絶縁して入出力端子(入出力プローブ)が取り付けられている。このようなマイクロ波共振器では、入出力端子におけるマイクロ波領域の周波数の電気信号に対して、金属棒が2分の1波長で共振する2分の1波長共振器が知られている。例えば、特許文献1の
図8には、金属棒の両端が金属キャビティに短絡された2分の1波長共振器が記載されている。なお、特許文献1の
図1~
図7には、金属棒の一端が開放され他端が金属キャビティに短絡され、金属棒が4分の1波長で共振する4分の1波長共振器も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているような2分の1波長共振器では、金属棒から金属キャビティに電流が流れるために損失が大きく、また、金属棒が2分の1波長で共振するので共振周波数を下げたい場合にはそれだけ金属棒が長くなり、マイクロ波共振器のサイズも大きくなる。
【0005】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、低損失で、かつ、サイズを大きくしなくても共振周波数を下げることができる2分の1波長共振器のマイクロ波共振器を提供し、また、それを用いたマイクロ波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のマイクロ波共振器は、金属キャビティと、前記金属キャビティに接触していない少なくとも1本の金属棒と、前記金属棒を取り囲むように配置され、貫通孔を有する第1の誘電体と、を具備し、前記金属キャビティ内において前記金属棒が前記第1の誘電体に触れないように前記貫通孔に挿入されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載のマイクロ波共振器は、請求項1に記載のマイクロ波共振器において、
前記金属キャビティ内の電界によって、前記金属棒が長手方向に分極されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載のマイクロ波共振器は、請求項1又は2に記載のマイクロ波共振器において、前記金属棒表面において、磁界で励起される誘導電流が前記第1の誘電体によって低減されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載のマイクロ波共振器は、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロ波共振器において、前記金属棒が円柱形状もしくは角柱形状の1本の棒状金属体であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載のマイクロ波共振器は、請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロ波共振器において、前記金属棒の両端と前記金属キャビティの間隙が、第2の誘電体によって埋められていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載のマイクロ波共振器は、請求項5に記載のマイクロ波共振器において、前記第1の誘電体の比誘電率が前記第2の誘電体の比誘電率より大きいことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載のマイクロ波フィルタは、複数個の請求項1~6のいずれか1項に記載のマイクロ波共振器を電気的に結合させて構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明のマイクロ波共振器及びマイクロ波フィルタによれば、低損失で、かつ、サイズを大きくしなくても共振周波数を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るマイクロ波共振器の例の立体図である。
【
図2】
図1のマイクロ波共振器の例のA-Aで示す位置での切断面(金属棒の中心軸を通る切断面)で切断した側面視断面図である。
【
図3】
図2のマイクロ波共振器の例のB-Bで示す位置での切断面で切断した平面視断面図である。
【
図4】
図2のマイクロ波共振器の例のC-Cで示す位置での切断面で切断した平面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るマイクロ波共振器1は、
図1~
図4に示すように、金属キャビティ2と1本の金属棒3と第1の誘電体4を具備している。また、マイクロ波共振器1は、第2の誘電体5を具備することができる。なお、
図1は、マイクロ波共振器1全体の構成の理解のために、金属棒3以外は透視できるように描いており、金属キャビティ2、第1の誘電体4、第2の誘電体5、金属棒3の面は薄いグレーとしてその順に濃くしている。
図1では、金属キャビティ2は、厚みは省略している。また、
図1では、第1の誘電体4の後述する貫通孔4aは、便宜上、貫通孔4aを形成する壁面から引き出し線を出している。
【0016】
金属キャビティ2は、箱状の金属体である。金属キャビティ2には、それと絶縁して入出力端子(図示せず)が取り付けられている。
【0017】
金属棒3は、金属キャビティ2に接触せずに間隙を有して金属キャビティ2の内部に配置されている。金属棒3は、棒状金属体である。金属棒3の両端と金属キャビティ2の間隙は、第2の誘電体5で埋められているのが好ましい。また、金属棒3は、
図1及び
図3等に示す円柱形状の他、角柱形状が可能である。また、金属棒3は、本実施例においては1本であるが、複数本とすることもできる。
【0018】
第1の誘電体4は、金属棒3を取り囲むように配置されている。第1の誘電体4は、貫通孔4aを有する。金属キャビティ2内において、貫通孔4aには、金属棒3が第1の誘電体4に触れないように挿入されている。貫通孔4aは、金属棒3が1本ならば1個、金属棒3が複数本ならば複数個設けることができる。
【0019】
以上説明した構成のマイクロ波共振器1は、入出力端子にマイクロ波領域の周波数の電気信号が入力されると、金属キャビティ2の中央付近に上下方向に向く強い電界ベクトルが発生し、それを取り巻くように周辺に磁界ベクトルが渦巻き状に発生する。そして、金属棒3は、自由電子が外部電界によって長手方向(
図2における上下方向)に移動し分極することで、誘電体として振る舞い(換言すれば、人工誘電体となり)、見かけ上、非常に大きな比誘電率を示す。金属キャビティ2内においては、金属棒3及びその周囲にその長手方向(金属棒3の長手方向)に2分の1波長共振モードであるTMモード状の電磁界が生じ、その波長は金属棒3による見かけ上の大きな比誘電率により非常に短縮されたものになる。従って、同じサイズの金属キャビティ2で考えれば、共振周波数を大幅に下げることができる。同じ共振周波数で考えれば、共振器の大幅な小型化を実現することができる。
【0020】
また、第1の誘電体4が金属棒3を取り囲み、間隔を持って接触しないように配置されているため、強い電界が金属棒3周囲から第1の誘電体4の方にも分散して移動し、それに伴って、電界の周りを周回する磁界が相対的に外側に移動する。その結果、金属棒3周囲の磁界が緩和されてそれによって金属棒3に励起される誘導電流が低減される。なお、磁界の緩和の程度は間隔の大きさによって制御され、ある程度の大きさが必要であるが、大きくしすぎると共振周波数が高くなり効果も薄れる。
【0021】
また、金属棒3は金属キャビティ2に接触せずに間隙を有しているため、金属棒3の両端近傍の金属キャビティ2の面上に流れる電流が低減される。これらにより、マイクロ波共振器の低損失化が達成される。
【0022】
また、金属棒3と金属キャビティ2の間隙が第2の誘電体5によって埋められていると、金属棒3内を移動し分極する電荷量はさらに大きくなり、見かけ上の比誘電率もさらに大きくなる。それにより、同じサイズの金属キャビティ2で考えれば、共振周波数をさらに大幅に下げることができる。同じ共振周波数で考えれば、共振器のさらに大幅な小型化を実現することができる。なお、誘電体損失としては第2の誘電体5の損失の影響の方が大きいため、誘電体損失の点については、第2の誘電体5は、第1の誘電体4に比べて比誘電率の小さい誘電体として誘電正接の小さいものとするのが好ましい。
【0023】
このようなマイクロ波共振器1について電磁界シミュレーションで共振周波数と共振器の良さを示す無負荷Q値を求めた結果、共振周波数807MHz、無負荷Q値3179という良好な値が得られた。なお、金属キャビティ2のサイズ(S1×S2×S3)は、30mm×30mm×20mmとし、金属棒3の長手方向の長さS4及び直径S5はそれぞれ、17mm、6mmとし、金属棒3と第1の誘電体4の間隙S6は0.5mmとし、第1の誘電体4の直径S7は20mmとした。また、第1の誘電体4は、比誘電率78、誘電正接2.3×10-4のセラミックスの誘電体とし、第2の誘電体5は、比誘電率24、誘電正接4.0×10-6のセラミックスの誘電体とした。
【0024】
以上説明したマイクロ波共振器1は、上記のとおり、低損失で、かつ、サイズを大きくしなくても共振周波数を下げることができる。
【0025】
また、複数個のマイクロ波共振器1を入出力端子を介して電気的に結合させて構成することにより、小型で低損失なマイクロ波フィルタを提供することが可能になる。
【0026】
以上、本発明の実施形態に係るマイクロ波共振器及びマイクロ波フィルタについて説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 マイクロ波共振器
2 金属キャビティ
3 金属棒
4 第1の誘電体
4a 貫通孔
5 第2の誘電体