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特開2023-57649非晶質合金箔帯の製造方法及び非晶質合金箔帯の製造装置、並びにこの製造方法によって製造された非晶質合金箔帯
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057649
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】非晶質合金箔帯の製造方法及び非晶質合金箔帯の製造装置、並びにこの製造方法によって製造された非晶質合金箔帯
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
B22D11/06 360B
B22D11/06 390
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167236
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】511248777
【氏名又は名称】株式会社大洋電機エンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】512287539
【氏名又は名称】SACO合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 駿
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DB02
4E004SB01
4E004SB02
4E004SB04
4E004TA01
4E004TB02
4E004TB04
(57)【要約】
【課題】巻取り工程に巻き取られる前までに、箔帯の温度を250℃未満に下げることによって、脆化が抑制され、加工性のすぐれた、板厚が厚く、幅の広い非晶質合金箔帯を製造する製造方法および製造装置並び非晶質合金箔帯を提供する。
【解決手段】溶湯供給手段は、合金溶湯を供給するための溶湯供給孔の開口部と、前記冷却ロールの進行方向に対して前記溶湯供給孔の上流側に近接して、COガスを供給するためのCO供給孔の開口部と、前記CO供給孔の開口部の上流側に近接して、COガスを供給するためのCO供給孔の開口部とを備え、供給された合金溶湯によって形成されるパドルの上流側から、COガス、次いでCOガスの順番に冷却ロールの周面に供給することによりパドル周りの雰囲気を制御し、固化した非晶質合金箔帯と冷却ロールとの密着度を高める。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面を冷却面とする冷却ロールと、前記冷却ロールに合金溶湯を供給する溶湯供給手段と、前記冷却ロールで冷却された非晶質合金箔帯を巻き取るための巻取機と、を備える製造装置において、
前記溶湯供給手段は、合金溶湯を供給するための溶湯供給孔の開口部と、
前記冷却ロールの進行方向に対して前記溶湯供給孔の上流側に近接して、COガスを供給するためのCO供給孔の開口部と、
前記CO供給孔の開口部の上流側に近接して、COガスを供給するためのCO供給孔の開口部と、
を備え、
供給された合金溶湯によって形成されるパドルの上流側から、COガス、次いでCOガスの順番に冷却ロールの周面に供給することによりパドル周りの雰囲気を制御し、非常質合金箔帯と冷却ロールを密着させることを特徴とする非晶質合金箔帯の製造装置。
【請求項2】
前記冷却ロールで冷却される非晶質合金箔帯を前記冷却ロールに押付ける、冷却効果を高めるためのブラシロールを備えることを特徴とする請求項1の非晶質合金箔帯の製造装置。
【請求項3】
前記冷却ロールから剥離した前記非晶質合金箔帯を巻取り機に搬送する工程の途中に、前記非晶質合金箔帯を冷却するためのテンションローラを備えることを特徴とする請求項1または請求項2の非晶質合金箔帯の製造装置。
【請求項4】
前記合金溶湯を供給するための手段の溶湯供給孔の開口部が、前記冷却ロール進行方向に対して2列のスリット状開口部であることを特徴とする請求項1の非晶質合金箔帯の製造装置。
【請求項5】
前記冷却ロールの直径が1m以上、3m以下の範囲の大きさであることを特徴とする請求項1の非晶質合金箔帯の製造装置。
【請求項6】
前記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載された、非晶質合金箔帯の製造装置を用いて、前記溶湯開口部の上流側に、前記CO供給孔からCOガスを、前記CO供給孔からCOガスを順次供給することにより、巻取り工程に巻き取られる前までに非晶質合金箔帯の温度を250℃未満に下げることを特徴とする非晶質合金箔帯の製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法で製造された非晶質合金箔帯が、板厚が35μm以上で、かつ、幅が60mm以上であり、曲げ破壊歪εfの値が0.05以上であることを特徴とする非晶質合金箔帯。
ただし、曲げ破壊歪εf=t/(Df-t)で表示され、tは非晶質合金箔帯の板厚、Dfは曲げ破壊試験で亀裂が生じる、非晶質合金箔帯の曲げ直径である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非晶質合金箔帯(アモルファス合金箔帯)の製造方法および製造装置並びにこの製造方法によって製造された非晶質合金箔帯に関し、特に、箔帯の板厚が厚く、幅が広い、非晶質合金箔帯を製造する製造方法および製造装置並びに非晶質合金箔帯に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市中で入手可能なFe基非晶質合金箔帯(アモルファス合金箔帯)の板厚は、約25μm程度である。生産規模が大きい場合、板厚が25μmを超えて、例えば35μm以上になると、箔帯は脆くなるため、箔帯の幅を50mm以上に広くすると実用に供しえない。
【0003】
このように、非晶質合金箔帯(以下、非晶質箔帯あるいは単に箔帯とよぶことがある)は、板厚が厚くなると幅に制限が生じるため、用途は巻鉄心型の配電用変圧器やリアクトルの鉄心などに限られている。
しかしながら、板厚が厚く、幅の広い箔帯が量産され、提供されれば、非晶質合金箔帯の用途はさらに広がることが期待されている。
【0004】
非晶質合金箔帯の板厚に関しては、いくつかの提案がなされている。
特許文献1(特開昭60-108144号公報)には、ノズルのスリット開口部を多重化することにより、非晶質合金薄帯を厚くする方法が開示されている。
この特許文献1に記載された方法によれば、上流側のパドル(合金の湯だまり)で形成された未凝固の箔帯に順次、次のパドルを重ねることにより、板厚が45μm以上の非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)を得ることができるとされている。
【0005】
また、特許文献2(特開昭61-212449号公報)では、非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)が、ガラス転移点Tg(約500℃)を通過後、ロールを離れる位置(剥離点)に至る区間の冷却速度を毎秒1000℃以上とすること、そしてまた剥離点の薄帯温度を300℃以下にすることが提案されている。
この特許文献2に記載された方法によれば、40μm以上の板厚の非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)において、脆化が抑制された高靭性の非晶質合金箔帯が製造できるとされている。
【0006】
更に、特許文献3(特開平6-269907号公報)には、開口部の形状を工夫した単スリットノズルを使う方法で、ロール周速などの鋳造パラメータとともにパドル周りの雰囲気を制御することにより、非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)の厚肉化と、脆化抑制をともに実現する方法が提案されている。
この特許文献3に記載された方法によれば、ノズルの上流側にCOガスを吹き込むことにより、ロールが巻込む空気を遮断して、拡大したパドルとロールの密着性を向上させ、薄帯(箔帯)の厚板化を図ると共に、脆化を抑制できるとされている。
【0007】
また、特許文献4(特公平2-42019)には、特許文献3と同様に、ロールが巻込む空気を遮断しパドルとロールの密着性を向上させる目的で、パドルの上流側にCOガスを供給し、燃焼させる方法が提案されている。
この特許文献4に記載された方法によれば、COガスの燃焼熱で空気の密度が低下するので巻込みガスが減少し、箔帯のロール接触面に形成されるエアポケット(凹み)が減少するため、パドルとロールの密着性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60-108144号公報
【特許文献2】特開昭61-212449号公報
【特許文献3】特開平6-269907号公報
【特許文献4】特公平2-42019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された方法にあっては、多重化したスリット開口部から多くの溶湯がロールの周面上に対して吐出されるため、ロールによる非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)の冷却が不十分となり、前記薄帯がロールを離れる剥離点での薄帯温度が高くなり、この方法で製造された非晶質合金薄帯は、脆化しやすいという課題があった。
【0010】
また、特許文献2の方法にあっては、厚さが40μm以上の非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)を得ることができるが、薄帯の幅寸法が大きくなると、剥離点の薄帯温度を300℃以下にすることが困難であった。その結果、製造された非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)が、脆化しやすいという課題を有していた。
【0011】
更に、特許文献3の方法にあっては、空気の遮断方法が、ロールの表面に遮断材としてカーボンブレードを機械的に押付けることによってなされるため、空気の遮断法としては不完全であった。
そして、この空気の遮断が不完全な場合、ノズル周りに供給するCOガスに、ロール表面の両サイドから回り込む空気が混入し、パドルとロールの密着度は不十分となる。そのため、非晶質合金箔帯の板厚が厚くなるに従い脆化が顕著になるという課題があった。
【0012】
また、特許文献4の方法においても、特許文献3と同様に、COガスの燃焼による空気の遮断効果は限定的であった。即ち、COガスの燃焼による空気の温度上昇が均等でないため、箔帯の幅が広くなると以下に述べるような問題が生じた。
箔帯の部位によりエアポケット(箔帯ロール接触面に形成される凹み)が形成される。特に、箔帯の幅が広くなると、箔帯のエッジ側にエアポケットが多発する。このエアポケットの発生により密着度が低下するので、板厚が厚く、幅が広い非晶質合金箔帯の脆化を抑えることは困難であった。
【0013】
このように、特許文献1~4のいずれの方法においても、箔帯が厚く、幅の広い非晶質合金箔帯を得ることができるものの、非晶質合金薄帯(非晶質合金箔帯)の脆化を抑制する効果は不十分であった。
特に、箔帯の鋳造工程と前記箔帯が巻き取られる巻取り工程が連続する量産型の装置で製造する場合においては、非晶質合金箔帯の脆化を十分に抑制することができないという課題があった。このため、製造された非晶質合金箔帯は、切断、スリット、打抜きなどの機械加工が困難になり、その用途が限られるという課題があった。
【0014】
本発明者は、非晶質合金箔帯の脆化の抑制について鋭意研究した。特に、箔帯鋳造工程と前記箔帯が巻き取られる巻取り工程が連続する非晶質合金箔帯の製造において、非晶質合金箔帯の脆化の抑制について鋭意研究した。
そして、本発明者は、ガラス転移点を通過して固化した後も非晶質合金箔帯と冷却ロール間の密着性を高めることができ、非晶質合金箔帯の低い温度まで、冷却ロールとの良好な熱コンタクトを長く持続させることができることが重要であり、これを達成する新たな製造方法を想到した。
この新たな製造方法によれば、ロールによる非晶質合金箔帯の形成時の冷却を十分に行うことができ、ロールを離れる剥離点での箔帯温度を低下させることができ、箔帯の脆化を抑制できるものである。
【0015】
また、本発明者は、巻取り工程においてコイル状(ブロック状)に巻かれた箔帯が高温で長時間保持される結果、原子の配置が変化する構造緩和により箔帯が脆化することを知見した。
上記の知見に基づいて実験を行い、巻取り機に巻き取るまえの箔帯の温度を250℃未満に下げることができれば、コイル状に保持された非晶質合金箔帯の脆化を抑えて曲げ試験により測定される曲げ破壊歪εfの値を0.05以上に向上させることができることを見出した。
Fe基非晶質合金箔帯は、曲げ破壊歪εfが0.05以上であれば、切断、スリット、打抜きなどの機械加工が可能であるので、本発明では、曲げ破壊歪εfが0.05以上を機械加工性の基準とする。なお、曲げ破壊歪εfは、下記の式(1)で定義される。
εf=t/(Df-t) (1)
ここで、tは試料の板厚、Dfは曲げ破壊試験で亀裂が生じる試料の曲げ直径である。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ロールを離れる剥離点での箔帯温度をより低い温度になすと共に、巻取り工程に巻き取られる前までに、箔帯の温度を250℃未満に下げることによって、脆化が抑制され、加工性のすぐれた、板厚が厚く、幅の広い非晶質合金箔帯を製造する製造方法および製造装置、並びにこの製造方法によって製造される非晶質合金箔帯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置は、上記目的を達成するためになされたものであり、外周面を冷却面とする冷却ロールと、前記冷却ロールに合金溶湯を供給する溶湯供給手段と、前記冷却ロールで冷却された非晶質合金箔帯を巻き取るための巻取機と、を備える製造装置において、前記溶湯供給手段は、合金溶湯を供給するための溶湯供給孔の開口部と、前記冷却ロールの進行方向に対して前記溶湯供給孔の上流側に近接して、COガスを供給するためのCO供給孔の開口部と、前記CO供給孔の開口部の上流側に近接して、COガスを供給するためのCO供給孔の開口部と、を備え、供給された合金溶湯によって形成されるパドルの上流側から、COガス、次いでCOガスの順番に冷却ロールの周面に供給することによりパドル周りの雰囲気を制御し、非常質合金箔帯と冷却ロールを密着させることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置の特徴は、合金の溶湯を冷却ロール周面上に供給するための溶湯供給手段(ノズル)にある。前記溶湯供給手段(ノズル)は溶湯を供給するための供給孔に加えて、COガスとCOガスを供給するための2つの供給孔を備えている。
【0019】
本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置にあっては、前記溶湯供給手段を用いて2種類のガスを、パドルの上流側から、COガス、次いでCOガスの順番に冷却ロールの周面に供給することによりパドル周りの雰囲気を制御する。
その結果、溶湯と冷却ロールの密着性が向上するのみならず、ガラス転移点を通過して固化した後も非晶質合金箔帯と冷却ロール間の密着性を高めることができ、低い温度まで良好な熱コンタクトを長く持続させることができる。即ち、非晶質合金箔帯を冷却ロールによって十分冷却し、巻取り工程に巻き取られる前までに非晶質合金箔帯の温度を250℃未満に下げることができる。
【0020】
ここで、前記冷却ロールで冷却される非晶質合金箔帯を前記冷却ロールに押付けて、冷却効果を高めるためのブラシロールを備えることが望ましい。
固化した非晶質合金箔帯は温度の低下とともに熱収縮により冷却ロールから剥離する場合がある。前記ブラシローラは箔帯と冷却ロールの密着度の低下を抑え、剥離まで良好な熱コンタクトを持続させる。
即ち、前記溶湯供給手段(ノズル)に加えて、前記箔帯の自由面にブラシロールを押し付けることにより、非晶質合金箔帯が冷却ロールから剥離する剥離点距離を長くすると共に、非晶質合金箔帯と冷却ロールの密着性が高まり、冷却効果をさらに向上させることができる。尚、前記剥離点距離はノズル直下(合金溶湯を供給するための溶湯供給孔の開口部直下)から、非晶質合金箔帯が冷却ロールから剥離する剥離点までの距離をいう。
その結果、巻取り機に到達する前の非晶質箔帯の温度を250℃未満に低下させることができる。
【0021】
また、前記冷却ロールから剥離した前記非晶質合金箔帯を巻取り機に搬送する工程の途中に、前記非晶質合金箔帯を冷却するためのテンションローラを備えることが望ましい。
このように、前記溶湯供給手段(ノズル)に加えて、巻取り機に搬送途中に、テンションローラを設けて非晶質合金箔帯を冷却することにより、巻取り機に到達する前の非晶質合金箔帯の温度を250℃未満に低下させることができる。
【0022】
また、前記合金溶湯を供給するための手段の溶湯供給孔の開口部を、前記冷却ロール進行方向に対して2列のスリット状開口部にすることができる。
このように、合金溶湯を供給するための手段の溶湯供給孔の開口部が、前記冷却ロール進行方向に対して2列のスリット状開口部であると、非晶質合金箔帯の板厚を厚くすることができるだけでなく、生産性が向上する。
【0023】
また、前記冷却ロールの直径が1m以上、3m以下の範囲の大きさであることが望ましい。
冷却ロール3の直径は大きいほど、非晶質合金箔帯が、冷却ロールから剥離するまでの距離を十分確保でき、より低い温度まで冷却を行うことができる。しかしながら、経済性も勘案する総合的観点から、本発明では、用いる冷却ロール3の直径に上限を設け、冷却ロール3の直径を1m以上、3m以下とするのが好ましい。
【0024】
また、本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造方法は、上記目的を達成するためになされたものであり、上記非晶質合金箔帯の製造装置を用いて、前記溶湯開口部の上流側に、前記CO供給孔からCOガスを、前記CO供給孔からCOガスを順次供給することにより、巻取り工程に巻き取られる前までに非晶質合金箔帯の温度を250℃未満に下げることを特徴とする。
このように、巻取り機に巻き取るまえの箔帯の温度を250℃未満に下げることにより、コイル状に保持された非晶質合金箔帯の脆化を抑えて、曲げ試験により測定される曲げ破壊歪εfの値を0.05以上に向上させることができる。
【0025】
そして、上記製造方法で製造された非晶質合金箔帯は、板厚が35μm以上で、かつ、幅が60mm以上であり、曲げ破壊歪εfの値が0.05以上の高靭性を有する。尚、曲げ破壊歪εf=t/(Df-t)で表示され、tは非晶質合金箔帯の板厚、Dfは曲げ破壊試験で亀裂が生じる、非晶質合金箔帯の曲げ直径である。尚、ここでいう板厚は、箔帯の重量を密度および面積で除して算出される板厚である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、冷却ロールを離れる剥離点での箔帯温度をより低い温度になすと共に、巻取り工程に巻き取られる前までに、箔帯の温度を250℃未満に下げることによって、脆化が抑制され、加工性のすぐれた、板厚が厚く、幅の広い非晶質合金箔帯を製造する、製造方法および製造装置、並びにこの製造方法によって製造される非晶質合金箔帯を得ることができる。
そして、脆化が抑制され機械加工性のすぐれた、板厚が厚くて幅の広い非晶質合金箔帯が生産されることにより、広い分野において非晶質合金箔帯の適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置の概略構成を説明するための概略図である。
図2】溶湯供給手段(ノズル)の開口部に形成される溶湯のパドルから非晶質合金箔帯が形成される過程を説明するための概略図である。
図3】本発明にかかる溶湯を供給するための溶湯供給手段(ノズル)の開口部の概略図である。
図4図3に示す溶湯供給手段(ノズル)において、2種類のガスをパドルの上流側に供給する方法を説明するための概略図である。
図5】本発明にかかる溶湯を供給するための溶湯供給手段(ノズル)の変形例を示す概略図である。
図6】本発明にかかる溶湯を供給するための溶湯供給手段(ノズル)の他の変形例を示す概略図である。
図7】本発明にかかる溶湯を供給するための溶湯供給手段(ノズル)の他の変形例(2重スリットノズル)の開口部を説明するための概略図である。
図8】本発明にかかるブラシローラを用いる非晶質合金箔帯の冷却方法を説明するための概略図である。
図9】本発明にかかるテンションローラによる非晶質合金箔帯の冷却方法を説明するための概略図である。
図10】本発明にかかるテンションローラによる非晶質合金箔帯の冷却方法を説明するための概略図である。
図11】本発明にかかる冷却ガス吹付けノズルによる非晶質合金箔帯の冷却方法を説明するための概略図である。
図12】本発明の変形例を示す図であって、冷却ロールの回転方向を逆転させ、ガス吹付けガイドによって非晶質合金箔帯を冷却ロールに密着させ、巻取り装置に誘導する方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造方法、及び製造装置、並びにこの製造方法によって製造される非晶質合金箔帯に関する実施の形態を、図1乃至図12に基づいて説明する。
【0029】
(非晶質合金箔帯の製造装置)
図1は、本発明に用いられる非晶質合金箔帯を製造するための製造装置1の構成を説明するための概念図である。溶解炉(図示せず)で溶解された合金の溶湯は、タンディッシュ6に注がれる。
タンディッシュ6の底部に設けられた溶湯供給手段であるノズル2を介して一定の吐出圧力で溶湯が冷却ロール3の周面に供給され冷却されて、帯状の非晶質合金箔帯Aが形成される。前記冷却ロール3から剥離した非晶質合金箔帯Aは巻取り機4に搬送され、巻取り機でコイル状に巻き取られる。前記冷却ロール3は、その直径が1m以上、3m以下の範囲に形成されている。
尚、図1中、符号5は、冷却ロール3から剥離した非晶質合金箔帯Aを吸引し、非晶質合金箔帯Aを巻取り機4に導き、非晶質合金箔帯Aの先端を巻取り機4に巻回させると共に、冷却ロール3と巻取り機4との間の非晶質合金箔帯Aに一定の張力を付加する吸引・張力調整手段である。
【0030】
図1に示す、冷却ロール3、巻取り機4、吸引・張力調整手段5、タンディッシュ6、は、一般的に用いられているものを適用することができる。
【0031】
脆化を抑制するために、巻き取られる前に非晶質合金箔帯Aを速く冷却するには、ガラス転移点Tgを過ぎた直後の箔帯Aに作用する冷却手段を講じることが最も効果的である。これは、箔帯Aの温度が高いほど脆化をもたらす構造緩和の進行が早いためである。
【0032】
前記観点から、本発明にかかる製造装置にあっては、パドル周りの雰囲気を制御する手段を備えている。
前記パドルPは、図2に概念的に示すように、溶湯供給手段であるノズル2の開口部2aと冷却ロール3の周面3aの間の狭い空間に形成される溶湯の湯だまりである。
冷却ロール3の周面3aで冷却されて粘度を増した過冷却液体の合金は,パドルPから引き出され、温度が低下してガラス転移点Tgに達すると固体の非晶質箔帯Aが形成される。
尚、ガラス転移点Tgの温度は結晶化温度Txと相関があり、Fe-B-Si非晶質合金の結晶化温度Txは450℃~550℃の範囲にある。また、図2中の矢印は、冷却ロール3の移動方向(回転方向)を示している。
そして、固体に転移した非晶質合金箔帯Aと冷却ロール周面3aとの間の熱伝達率は,固体同士の接触なので急激に低下し、箔帯Aの冷却速度は大幅に低下する。
【0033】
前記固体同士の熱伝達率を高い状態に保持するために、本発明では、図3に開口部の形態を例示する、溶湯供給手段であるノズル2を用いる。
図3に示すように、ノズル2の底面は、合金溶湯を供給するための溶湯供給孔の出口である開口部2aを備えている。この開口部2aは、底面視上、細長い矩形(スリット)状に形成されている。
【0034】
前記開口部2a(スリット)の長辺は、図4に示す冷却ロール3の進行方向(図中、矢印で表示)に対して直角方向に向いている。
また、前記開口部2aに隣接して上流側に、長さ2L1離れた位置に、COガスを供給するための開口部2bが設けられている。
更に、前記COガスを供給するための開口部2bの上流側に隣接して、長さ2L2離れた位置に、COガスを供給するための開口部2cが設けられている。
【0035】
前記開口部2aの幅2aL1はパドルPの安定性から、0.3mm~0.8mmとし、長さ2aWは、箔帯の幅に応じて決められる。
前記開口部2bの幅2bL1は、0.1mm~0.5mmの範囲が好ましく、長さ2bW、溶湯開口部2aの長さ2aWより長めとするのが好ましい。これは、後述するCOガスの解離で生じるラジカル酸素O’をパドルPの底面に均等に行き渡らせるためである。
【0036】
また、前記開口部2cの幅2cL1は、0.3mm~0.6mmが好ましく、長さ2cWは、開口部2bからの距離2L2に応じて、開口部2bの長さ2bWと同じか、より長めにするのが好ましい。これは、COガス燃焼で清浄化された冷却ロール周面に、回り込む空気が再吸着されるのを防ぐためである。
尚、図3中の矢印は、冷却ロール3(箔帯A)の移動方向(回転方向)を示している。
【0037】
図4のパドルP周りの側面図に示すように、前記ノズル2を用いて溶湯とともに、2種類のガスを、上流側からCOガスを、次いでCOガスを順次、冷却ロール3の周面に供給すると、形成された箔帯Aと冷却ロール3との密着性が向上し、そして両者の良好な熱コンタクト状態が持続する。
その結果、箔帯Aは冷却ロール3によって冷却され、冷却ロール3から剥離する際の温度を十分低下させることができ、巻取り機4に巻き取られる箔帯Aの温度を250℃未満にすることが出来る。尚、図4中の矢印は、冷却ロール3の移動方向(回転方向)を示している。
【0038】
(COガスとCOガスを同時に供給する作用効果)
ここで、パドルPの上流側にCOガスを供給し、さらに上流側にCOガスを供給することにより、それぞれ単独で供給する場合に比べて、非晶質合金箔帯Aと冷却ロール3との密着性が向上する理由について述べる。
COは、パドルの熱で加熱されると下記の化学式(2)に示されるように、COとOに解離する。
CO→CO+1/2O(吸熱反応) (2)
【0039】
式(2)の反応は、温度の上昇とともに活発になり1200℃以上の高温ではCO+1/2O→COの逆反応とが平衡状態になる。この平衡状態では、化学反応性が極めて高いラジカルな酸素原子O’を多量に発生する。
ラジカル酸素O’は2価の化学的結合手を有する。冷却ロール3の冷却面3aに吸着してパドルPの底部に進入したラジカル酸素O’は、2つの結合手でパドルPの構成原子と冷却ロールの構成原子を化学的に結合させることができる。
前記化学的に結合した状態は、溶湯と冷却ロールの間の熱伝達を高めるだけでなく、Tgを過ぎて固化した非晶質合金箔帯Aと冷却ロール3の密着性を高めることに寄与する。
その結果、非晶質合金箔帯Aは急冷されて、剥離位置における箔帯温度が低下する。
【0040】
COガスは上記のように、COガスの作用を強化するために供給する。COガスの燃焼熱により冷却ロール3の周面に吸着した空気や水の分子が除去され、前記分子の吸着密度が低下する。これにより、冷却ロール3の周面は清浄化し、ラジカルO’の高反応性を生かすことができる。
したがって、供給するガスの順序を逆にすると期待する冷却効果が得られないため、好ましくない。
【0041】
上記2種類のガスの作用効果を考慮して、ノズル2の開口部2a、2b、2cの相互の距離を定める。
開口部2bと開口部2aの距離2L1は3mm以上15mm以下であることが好ましい。
前記距離2L1が3mm未満であると、パドルPの振動を誘発して、フィッシュスケールと呼ばれる魚鱗状の欠陥が箔帯Aの表面に生じやすくなる。また、前記距離2L1が15mmを超えるとパドルPの熱が届きにくくなり式(2)の反応が不十分となりラジカルO’の発生量が不足する。
【0042】
また、COガスについては、ロール表面の清浄化が主目的なので開口部2cの配置には自由度があるが、本発明では、開口部2cと開口部2bの距離2L2を、5mm以上20mm以下の範囲に設定する。
前記距離2L2が5mm以下では、2種類のガスが混合して希薄化し、ラジカルO’の発生量が不足するため、好ましくない。また、前記距離2L2が20mmを超える冷却ロール3の冷却面(周面)3aに空気分子等が再吸着する虞があるため、好ましくない。
【0043】
以上、詳述したように、COガスとCOガスを順次、冷却ロール3の周面3aのパドルPの上流側に供給することにより、パドルP周りの雰囲気を制御する。
その結果、溶湯と冷却ロールの密着性が向上するのみならず、ガラス転移点を通過して固化した後も非晶質合金箔帯Aと冷却ロール3間の密着性を高めることができ、低い温度まで良好な熱コンタクトを長く持続させることができる。
即ち、非晶質合金箔帯は冷却ロールによって十分冷却され、巻取り工程に巻き取られる前までに非晶質合金箔帯の温度を250℃未満に下げることができ、脆化が抑制された、靭性の高い非晶質合金箔帯を得ることができる。
【0044】
ここで、COガスの純度について述べる。
上記したように、COの供給は、固化した非晶質合金箔帯Aと冷却ロール3が長時間、良好な熱コンタクトを持続させるためである。
そのため、COの純度は高いほど好ましいが、純度が100%である必要はない。非晶質合金箔帯の板厚が薄くなればCOの純度を下げることができる。板厚に応じて、30%以下の範囲でAr、Nなどの非酸化性ガスを加えてもよい。板厚が薄い非晶質合金箔帯は、熱収縮によって切断する虞がある。そのような場合、板厚に応じてCOの濃度を非酸化性ガスで希釈して、非晶質合金箔帯と冷却ロールの密着度を調節することが好ましい。
【0045】
以下に、本発明で用いることができる、溶湯供給ノズル2の変形例を挙げる。
図5に示した溶湯供給手段であるノズル2は、溶湯を吐出する開口部2aの下流側に、COガスを吐出する開口部2b’を追加したノズル2である。
また、図6に示した溶湯供給手段であるノズル2は、図5に示したノズルにさらに、前記開口部2aの側方の両側に、2つのCOガスを吐出する開口部2b’’を加えたノズル2を示している。
【0046】
図5に示したノズル2、また図6に示したノズル2のいずれのノズルにおいても、COガスを吐出する開口部2b、2b’、2b’’が、前記開口部2aを囲うように配置されている。
その結果、COガスの濃度を高め、ラジカルO’の発生量を増加させることができ、非晶質合金箔帯Aと冷却ロール3の密着性を高められるため、好ましい。
【0047】
図7に示すように、溶湯供給手段であるノズル20は、図3の溶湯を吐出する開口部2
aを、2列のスリット状の開口部20aと開口部20a’としたものであり、2種類の雰囲気ガスCOおよびCOを供給するための開口部20b、20cは、図3の配置と同一である。
このように、溶湯を供給する開口部2aを複数列のスリット状にすることにより、より厚い非晶質合金箔帯を製造することができる。
尚、図7には、2列のスリット状の開口部20aと開口部20a’を示したが、必要に応じて、3列以上の複数列のスリット状の開口部としても良い。
【0048】
このノズル20における、COガスとCOガスを順次、パドルPの上流側の冷却ロール3の周面に供給する手順も、ノズル2の場合と同じである。
このノズル20を用いる方法で厚い非晶質合金箔帯を製造することにより、Tgを通過して箔帯Aと冷却ロール3と接触が固体同士になっても良好な熱コンタクトが持続し、箔帯Aが冷却ロール3から剥離する際の箔帯Aの温度が下がり、巻取り機4に巻き取られる箔帯Aの温度を効率的に下げることができる。
【0049】
以上述べたように、前記溶湯供給手段(ノズル)は溶湯を供給するための供給孔に加えて、COガスとCOガスを供給するための2つの供給孔を備えているため、溶湯と冷却ロールの密着性が向上するのみならず、ガラス転移点を通過して固化した後も非晶質合金箔帯と冷却ロール間の密着性を高めることができ、低い温度まで良好な熱コンタクトを長く持続させることができる。
その結果、非晶質合金箔帯を冷却ロールによって十分冷却することができ、巻取り工程に巻き取られる前までに非晶質合金箔帯の温度を250℃未満に下げることができる。
更に、溶湯を吐出する開口部を、複数のスリット状の開口部とすることにより、より厚い非晶質合金箔帯Aを製造することができる。
【0050】
(更なる冷却付加的手段、冷却方法)
ところで、非晶質合金箔帯の板厚と幅がさらに拡大した場合に、前記溶湯供給手段(ノズル)のみでは冷却が十分ではない虞もある。そのため、巻取り機に巻き取られる前の非晶質合金箔帯Aの温度を250℃未満に低下させるために、更なる冷却付加的手段、方法について説明する。
【0051】
例えば、板厚が45μmを超えて、さらに厚くなると熱収縮によって、非晶質合金箔帯Aは、冷却ロール3からの剥離しやすくなる。箔帯の剛性が増すためである。
その結果、非晶質合金箔帯Aと冷却ロール3から剥離すると、良好な熱コンタクトを持続させることができず、非晶質合金箔帯を冷却ロールによって十分な冷却ができない。
そのため、巻取り機に巻き取られる前の非晶質合金箔帯Aの温度を250℃未満に低下させるための、更なる冷却付加手段を追加することが好ましい。
以下に、冷却付加手段及びその冷却方法ついて説明する。
【0052】
(冷却付加手段としてブラシローラを用いる冷却方法)
図8に示すように、本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置1には、冷却付加的手段として、非晶質合金箔帯Aを冷却ロール3に押し付けるブラシローラ7が設けられている。
このブラシローラ7を、非晶質合金箔帯Aの自由面F(冷却ロール3と接している面の反対面)に押し付けて、密着度を高めることにより、前記非晶質合金箔帯Aの冷却ロール3による冷却効果を長く持続させる。
その結果、45μm以上に厚く、幅の広い非晶質合金箔帯Aにあっても、巻取り前の温度を低下させることができる。
【0053】
好ましくは、前記した溶湯を供給するための供給孔に加えて、COガスとCOガスを供給するための2つの供給孔を備えた溶湯供給手段(ノズル)に、更にブラシローラ7を付加して用いることにより、冷却ロール3の冷却能力が十分に発揮され、巻取り前の非晶質合金箔帯Aの温度を250℃以下に下げることができる。
尚、ブラシローラの材質は一般に使われているものでよい。
【0054】
(冷却付加手段としてテンションローラを用いる冷却方法)
図9に示すように、本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置1には、1対のテンションローラ8、8’が、冷却ロール3と巻き取り機4との間に設けられ、巻き取り機4に巻き取られる非晶質合金箔帯Aに対して、所定の張力を与えている。
前記テンションローラ8、8’の内部には流路が設けられ、水などの冷却媒体を流通させることにより、非晶質合金箔帯Aを冷却する。
【0055】
更に、図10に示すように、冷却ロール3と巻き取り機4との間に、更に複数のテンションローラ9、9’を設けても良い。
追加したテンションローラ9、9’は、テンションローラ8、8’と同様に、その内部は、水等の冷却媒体が流通する流路が設けられている。
このように、テンションローラ8、8’、9、9’によって、非晶質合金箔帯Aをより冷却することができるため、巻取り前の非晶質合金箔帯Aの温度を250℃以下に下げることができる。
尚、図10には、テンションローラ8、8’、9、9’の4個のテンションローラを示したが、より冷却するために必要に応じて、テンションローラの数を増やし、冷却能力を高めても良い。
【0056】
(冷却付加手段として冷却ガス吹付けノズルを用いる冷却方法)
図11に示すように、本発明にかかる非晶質合金箔帯の製造装置1には、冷却ロール3と巻き取り機4との間に、非晶質合金箔帯Aを挟んで、上下に複数の冷却ガス吹付けノズル10が設けられている。
この冷却ガス吹付けノズル10によって非晶質合金箔帯Aの上下面に冷却ガスを吹付け、非晶質合金箔帯Aの表裏両面から冷却することによりさらに冷却効果を上げることができる。
その結果、45μm以上に厚く、幅の広い非晶質合金箔帯Aにあっても、巻取り前の温度を250℃未満に下げることができる。
【0057】
(冷却ロール3の逆回転による冷却法)
上記説明した非晶質合金箔帯Aを冷却する冷却付加手段は、溶湯を供給する開口部が複数列のスリット状に設けられている溶湯供給手段(ノズル)においても有効である。
しかしながら、溶湯を供給する開口部が複数列のスリット状に設けられている溶湯供給手段(ノズル)20を用いて製造する場合、冷却ロール3の回転速度が速いため、剥離点に達するまでの非晶質合金箔帯Aとロール3の接触時間が短く、上記した冷却付加手段では、巻取り機に巻き取られる前の温度を250℃未満に下げることができない虞がある。
この冷却ロール3の逆回転による冷却法は、巻取り機に巻き取られる前の温度を250℃未満に下げるため、あえて冷却ロール3の回転方向を逆転させ、剥離点に達するまでの非晶質合金箔帯Aとロール3の接触時間を長くし、巻取り機に巻き取られる前の温度を250℃未満に下げるものである。
【0058】
前記冷却ロール3を逆転する場合、図12に示すように、箔帯Aを巻取り機4に搬送するためには、箔帯Aが冷却ロール3に接触した状態で半周させなければならない。
しかし、厚い箔帯Aでは冷却ロール3の下部に近づくと冷却ロール3から剥離して巻取り機4の方向に搬送できない場合が生じる。
【0059】
この搬送できない事態を防止するため、この製造装置1には、図12に示すように、冷却ロール3の側方にブラシローラ7が設けられ、更に冷却ロール3の底部側に高圧ガス吹き付けノズル21が設けられている。
即ち、ブラシローラ7で冷却ロール3の側方に位置する箔帯Aを、冷却ロール3の周面に押し付け、さらに高圧ガス吹き付けノズル21から高圧ガスを吹き付け、冷却ロール3の底部側に位置する箔帯Aを、冷却ロール3の周面に押し付ける。
尚、高圧ガス吹き付けノズル21は、冷却ロール3の周面に沿って複数のノズルが配置され、冷却ロール3の底部側に位置する箔帯Aに高圧ガスを吹き付けるように構成されている。
【0060】
これにより、箔帯Aの冷却ロール3からの剥離を防止しつつ、箔帯Aが冷却ロール3を半周以上巻回して、巻取り機4が設置された方向へ誘導され、巻取り機で巻き取られる。
その結果、巻取り前の箔帯Aの温度をより低下させることができ、冷却ロール3の周速を変えずに厚くて広い非晶質合金箔帯Aの巻取り前の温度を250℃未満にすることができ、高靭性の非晶質合金箔帯を製造することが可能になる。
尚、冷却ロール3の逆回転による冷却法は、図3に示すような、溶湯を供給するための供給孔(開口部)が一つのノズルにも適用することができる。
【0061】
(冷却ロール3の大径化による冷却法)
溶湯を供給する開口部が複数列のスリット状に設けられている溶湯供給手段(ノズル)20を用いて製造する場合、冷却ロール3の直径は大きいほど有利である。巻取り機が設置された方向に回転(正転)しても、剥離までの距離を十分確保できるからである。ロール3の直径が大きいほど、冷却ロール3の周長が長いので、ブラシローラ7の押付けなど、箔帯Aの温度を下げるための補助冷却手段を講じる自由度が増すためである。
【0062】
このように、板厚の厚い非晶質合金箔帯の製造において、冷却ロール3の直径が設備上の重要なポイントとなる。
本発明では、直径が1mより大きいロールを使用する。ただし、過大な直径の冷却ロールは、それを支持する機構の強度や冷却する機構に問題を生じる場合がある。経済性も勘案する総合的観点から、本発明では、用いる冷却ロール3の直径に上限を設け、冷却ロール3の直径を1m以上、3m以下とするのが好ましい。
尚、冷却ロール3の大径化による冷却法は、図3に示すような、溶湯を供給するための供給孔(開口部)が一つのノズルにも適用することができる。
【0063】
(非晶質合金箔帯Aの組成)
本発明にかかる非晶質合金箔帯Aの組成を化学式で示すと、Fea Bb Sic Cd(原子%)で表されるFe基合金である。ただし、a+b+c+d=100である。
ここで、主成分Feの含有量aは75-83原子%の範囲とする。aが75原子%以下の場合、Bs(飽和磁束密度)が1.5T(テスラ)を下回り磁性材料として用途が制限される。また、aが83原子%を超えると非晶質化が困難になるからである。
【0064】
Fe以外の個々の元素に関する限定理由は以下の通りである。
ホウ素Bは非晶質形成に必須の元素であり、少なくとも8原子%の含有が必要である。ただし、希少元素で高価なので上限を15原子%に設定し、b=8-15(原子%)とした。
珪素Siは保磁力を下げて軟磁気特性を向上させる元素である。ただし、過量の添加は結晶化温度Txの低下を招くので、本発明では、c=3~9(原子%)の範囲に限定する。
炭素CはFeとCu合金との濡れ性を向上させ、冷却ロールとの熱コンタクトを高めるために添加する。ただし、過量のCの添加は、結晶化温度Txを低下させ、脆化を招くので上限を3原子%に設定する。
【0065】
前記3つの半金属成分に加えて、Feの一部を次の副成分を置換してもよい。コバルトCoの15原子%以下、ニッケルNiの10%以下に置換しても良い。
Coは添加によりBs(飽和磁束密度)を向上させる元素である。ただし、Coは高価なので15原子%を上限とする。
Niは軟磁気特性を向上させる元素である。しかし、Niの多量の添加はキュリー温度Tcを下げて常温のBs(飽和磁束密度)を下げるので10原子%を上限とする。
【0066】
さらに、副成分として、Feの一部をクロムCrの3原子%以下、モリブデンMoの3原子%以下、錫Snの0.5原子%以下で置換しても良い。
Crの添加は耐食性を高める効果があり、Moの添加は耐食性と非晶質形成能を高める効果がある。ただし、Cr、MoはBs(飽和磁束密度)を下げるので添加量の上限をいずれも3原子%とする。
Snは界面および表面偏析元素であり、Snを添加すると非晶質箔帯の冷却ロール接触面に偏析してエアポケットの形成を抑える作用がある。しかし、Snの偏析が過量になると逆に脆化を招くことがあるので添加量は0.5原子%以下とする。
【0067】
前記の合金組成において、結晶化温度Txの高い組成ほど箔帯の脆化を始める温度が低い。
即ち、結晶化温度が高いほど非晶質構造が安定で脆化しにくいことを意味する。この理由から、本発明では、結晶化温度Txが480℃以上の前記の合金組成とする。
尚、結晶化温度Txは、JIS H 7151(1991)の方法で測定される結晶化温度とする。
【0068】
上記実施形態では、Fe基非晶質合金を例にとって説明したが、本発明はFe基非晶質合金に特定されるものではなく、ナノ結晶合金など単ロール法で作製される合金箔帯にも広く適用することができる。例えば、Fe基のナノ結晶合金の前駆体は非晶質構造を有しているので適用可能である。
【0069】
(実施例)
次に、板厚が35μm以上に厚く、幅が60mm以上に広い、曲げ破壊歪εfが0.05以上の高靭性を有する非晶質合金箔帯を製造する方法と製造装置について実施例を挙げて説明する。
【0070】
(実施例1)
組成がFe80 B13 Si7(原子%)となるように配合した合金を溶解炉で溶解し、溶けた1350℃の溶湯をタンディッシュ6に注いだ。
そして、図1に示すよう製造装置1を用いて、前記溶湯をタンディッシュ6の底部に設けたノズル2を介してCu合金製の冷却ロール3に供給して冷却し非晶質合金箔帯を形成した。
続いて、前記非晶質合金箔帯Aは冷却ロール3から剥離後、巻取り機4に誘導され巻取り機でコイル状に巻き取った。
ここで、冷却工程と巻取り工程は連続しており、用いた冷却ロール3の直径は2mで、内部に冷却水を流して冷却している。
【0071】
溶湯を供給するためのノズルは、図3に例示するような開口部が設けられている。その寸法は、溶湯を供給する(吐出する)開口部2aのスリット長さ2aWが100mm、幅2aL1が0.4mmである。
また、前記開口部2aから上流側に5mm(2L1)離れて設けたCOガスを供給する(吐出する)ための開口部2bの長さ2bWは120mm、幅2bL1が0.2mmである。
更に、開口部2bから上流側に10mm(2L2)離れた位置に、長さ2cWが130mm、幅2cL1が0.3mmのCOガスを供給する(吐出する)ための開口部2cである。
【0072】
前記ノズル2を介して、前記合金溶湯を冷却ロール3の周面上に供給しつつ、溶湯パドルPの上流側にCOガス、その上流側にCOを、冷却ロールの周面に供給した。そして、板厚が40μmとなるように、冷却ロール3の周速と溶湯の吐出圧力を調整した。
尚、箔帯の幅は、冷却ロール3の周速、ノズル2の吐出圧力を変えても変化しない。箔帯の幅は開口部2aの長さ2aWで、ほぼ決定する。
【0073】
また、ここでは図8に示すブラシロール7を用いず、合金溶湯を冷却ロール3の周面上に供給した位置から、箔帯が冷却ロールを剥離する位置までの距離(剥離点距離)は、1.35mであった。
【0074】
冷却ロールを剥離した箔帯は、連続的に巻取り機に誘導され、コイル状に巻き取った。
尚、巻き取られる前の箔帯の温度は、210℃であった。
巻き取られた前記非晶質合金箔帯は、鋳造が終了した後、巻取り機に設置された巻き芯ごと巻取り機から別の場所に移した。
【0075】
そして、コイルの設置場所でコイル状のまま10時間経過したのち、前記のコイルから採取された板厚40μmの非晶質合金箔帯から試料を採取して、曲げ破壊歪εfを測定し靭性を評価した。
この曲げ破壊歪εfは次のような方法で求めた。
式(1)において、tは箔帯試料の板厚であり、曲げ破壊歪Dfは、2枚の平行平板の隙間に箔帯自由面を外側にして180°曲げた前記の箔帯試料を挟んだ状態で、平行平板の間隔を狭めていき、試料に亀裂が生じたときの2枚の平板内側の距離である。因みに、曲げた試料を180°曲げて密着させても割れが生じない場合はDf=2tなのでεfの値は1となる。
上記試料の測定結果は、曲げ破壊歪εf=0.1であった。尚、その他のデータは表1にまとめて示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示すように、COとCOの2種類のガスを供給して製造した非晶質合金箔帯は、板厚が40μmと厚いにもかかわらず、曲げ破壊歪εfが0.05より大きく、スリットなどの機械加工性が向上した。
尚、曲げ破壊歪εfが、0.05以上であれば、切断、スリット、打抜きなどの機械加工性が良好であるため、曲げ破壊歪εfが0.05以上を本発明の基準としている。
【0078】
(実施例2)
本実施例2では図12に示す装置を用いて、前記実施例1と同じ合金組成Fe80 B13 Si7(原子%)の非晶質合金箔帯を作製する、以下の実験をおこなった。冷却ロールの直径は実施例1と同じ2mで、ロールの回転を逆方向とした。前記合金の溶湯を供給するために、図7に示すような、溶湯を吐出する開口部を2列のスリット状の開口部20aと開口部20a’とした、ノズル20を用いて厚い非晶質合金箔帯を製造した。
用いたノズル20は、図7において、開口部20aと開口部20a’の幅は0.4mmで、開口部20aと開口部20a’の長さは100mmとし、開口部20aと開口部20a’の間隔は2mmとした。
【0079】
COガス、およびCOガスを供給するための開口部20bと20cの幅、長さと配置位置は、実施例1で用いたノズル2と同一とした。
即ち、開口部20a’から上流側に5mm離れて設けられた、COガスを供給する(吐出する)ための開口部20bの長さは120mm、幅は0.2mmである。
更に、開口部20bから上流側に10mm離れて設けられた、COガスを供給する(吐出する)ための開口部20cの長さは130mm、幅は0.3mmである。
【0080】
本実施例2では冷却ロールの回転が実施例1と逆方向なので、巻取り機に誘導するためには非晶質合金箔帯を前記冷却ロールに密着させたまま剥離点まで少なくとも半周させる必要がある。剥離点までの距離が長いため、箔帯がロールから剥離するのを防ぐためにノズル位置から1.5m離れた位置で箔帯Aを冷却ロール3に押し付けるブラシローラ7を設置した。(直径2mロール半周の長さはおおよそ3mなので、1.5mはロールがおおよそ90°回転した位置)
さらにブラシローラ7に隣接して図12に示すように、高圧ガス吹付けノズル21を設けた。前記高圧ガス吹き付けノズル21は箔帯Aの進行方向に傾けて配置した。
尚、合金溶湯を冷却ロール3の周面上に供給した位置から、箔帯が冷却ロールを剥離する位置までの距離(剥離点距離)は、3.5mであった。
【0081】
上記の条件のもとに実施例1と同様に、2種類のガスCOとCOを順次、上流側からパドルPに供給する方法で鋳造を行った。
鋳造された非晶質合金箔帯の板厚は45μmで、巻取りまえの箔帯の表面温度は240℃であった。巻き取られた箔帯をコイル状のまま10時間保持した後、採取した試料の曲げ破壊歪εfを、実施例1と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
この実施例2においても、表1に示すように、曲げ破壊歪εfは0.06で、機械加工性が向上した。
【0083】
(比較例)
比較のため、本発明の実施例と同じ装置を用いて、同じ合金組成の非晶質合金箔帯を作製した。パドル周りの雰囲気の影響を比較するため、大気中、COガス単独供給、COガス単独供給、の3種の方法で非晶質合金箔帯を作製した。
ノズル2は実施例1と同じ構造のものを使用した。ただし、大気中鋳造では溶湯を供給する開口部2aのみを使用し、雰囲気ガスを供給する場合はガスの種類に応じた開口部2b、2cを用いた。
前記3種類の条件で鋳造された非晶質合金箔帯を巻取り後コイル状で10時間保持したのち、前記のコイルから採取した試料の曲げ破壊歪εfを、実施例1と同様にして測定した。
その結果、表1に示すように、曲げ破壊歪εfの値は、大気中では0.005(比較例1)、COガスでは0.03(比較例2)、COガスでは0.01(比較例3)であり、曲げ破壊歪εfが0.05を下回っており、機械加工性が良くなかった。
また、比較例の箔帯の巻取り前の温度は、表1に示すようにいずれも250℃をこえていた。
【0084】
以上の結果が示すように、本発明の方法を用いて、巻取り機に巻き取られる前の箔帯の温度を250℃未満することにより、板厚が厚くかつ幅が広い、高靭性を有する非晶質合金箔帯を製造することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 非晶質合金箔帯製造装置
2 溶湯供給ノズル
2a 溶湯供給孔の開口部
2b COガス供給孔の開口部
2b’ COガス供給孔の開口部
2b’’ CO2ガス供給孔の開口部
2c COガス供給孔の開口部
3 冷却ロール
3a 冷却ロールの外周面
4 巻取り機(巻取りロール)
5 吸引・張力調整手段
6 タンディッシュ
7 ブラシローラ
8 テンションローラ
8’ テンションローラ
9 テンションローラ
9’ テンションローラ
10 冷却ガス吹付けノズル
11 冷却ガス吹付けノズル
20 溶湯を供給(吐出する)ノズル(2つのスリットを備えるノズル)
20a 溶湯供給孔の開口部
20b COガス供給孔の開口部
20c COガス供給孔の開口部
21 高圧ガス吹き付けノズル
A 非晶質合金箔帯
P パドル
Tg ガラス転移点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12