(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057657
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】無機質成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20230417BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20230417BHJP
C04B 35/117 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C04B38/00 303A
C04B35/80 300
C04B35/117
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167247
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】蔵野 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】小野 弘貴
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019EA01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、強還元性雰囲気で焼成されても破壊されにくい無機質成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 1つの実施形態において、本発明は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び前記スラリーから液体媒体を除去して成形することを含む無機質成形体の製造方法であって、前記無機バインダーが、シリカを含み、前記無機質成形体を、非還元性雰囲気において焼成して前記無機バインダーをムライト化することをさらに含む、無機質成形体の製造方法、及びこの方法によって得られるような無機質成形体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び
前記スラリーから液体媒体を除去して成形すること
を含む無機質成形体の製造方法であって、
前記無機バインダーが、シリカを含み、
前記無機質成形体を、非還元性雰囲気において焼成して前記無機バインダーをムライト化することをさらに含む、無機質成形体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成が1400℃以上1600℃以下で行われる、請求項1に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項3】
前記非還元性雰囲気が、大気雰囲気である、請求項1又は2に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項4】
アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び
前記スラリーから液体媒体を除去して成形すること
を含む無機質成形体の製造方法であって、
前記無機バインダーが、シリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子を含む、無機質成形体の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子にそれぞれ含まれる、シリカに対するアルミナのモル比は、1.0~2.5の範囲である、請求項4に記載の無機質成形体の製造方法。
【請求項6】
アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び
前記スラリーから液体媒体を除去して成形すること
を含む無機質成形体の製造方法であって、
前記無機バインダーが、アルミナ含有微粒子、チタニア含有微粒子、ジルコニア含有微粒子、又はこれらの2種以上の混合物を含む、無機質成形体の製造方法。
【請求項7】
アルミナ質繊維及びアルミナ粒子が少なくとも無機バインダーで結着されている無機質成形体であって、前記無機バインダーが、ムライトを含む、無機質成形体。
【請求項8】
アルミナ質繊維及びアルミナ粒子が少なくとも無機バインダーで結着されている無機質成形体であって、前記無機バインダーが、アルミナ、チタニア、ジルコニア、又はこれらの2種以上の混合物からなる、無機質成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機質成形体及びその製造方法に関する。特に、本発明は、強還元性雰囲気で長期間使用されても破壊されにくい無機質成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層セラミックコンデンサ等の電子部品は、工業炉において焼成処理が行われている。
【0003】
工業炉の内部に設けられる断熱材としては、熱容量及び熱伝導率が低いものが求められており、そのような断熱材として、例えば特許文献1に記載のようなアルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを含む無機質成形体が知られている。
【0004】
このような断熱材を用いることにより、加熱時の熱エネルギーを効率的に利用するとともに、タクトタイムを短縮して生産効率を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
積層セラミックコンデンサの中でも特に低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板、高温同時焼成セラミックス(HTCC)基板等の焼成は、配線の酸化を防ぐために還元性雰囲気で行われることがある。還元性雰囲気としては、水素、窒素及び水蒸気を含むが、水素は、安全性の観点から通常はその燃焼範囲外の4vol%未満で用いられている。
【0007】
このような範囲の還元性雰囲気による焼成であれば、従来技術の無機質成形体であっても特に問題はないが、高濃度の水素を含む還元性雰囲気で焼成された場合に従来技術の無機質成形体が短期間で破壊されることが分かった。
【0008】
そこで、本発明は、強還元性雰囲気で焼成されても破壊されにくい無機質成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び
前記スラリーから液体媒体を除去して成形すること
を含む無機質成形体の製造方法であって、
前記無機バインダーが、シリカを含み、
前記無機質成形体を、非還元性雰囲気において焼成して前記無機バインダーをムライト化することをさらに含む、無機質成形体の製造方法。
《態様2》
前記焼成が1400℃以上1600℃以下で行われる、態様1に記載の無機質成形体の製造方法。
《態様3》
前記非還元性雰囲気が、大気雰囲気である、態様1又は2に記載の無機質成形体の製造方法。
《態様4》
アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び
前記スラリーから液体媒体を除去して成形すること
を含む無機質成形体の製造方法であって、
前記無機バインダーが、シリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子を含む、無機質成形体の製造方法。
《態様5》
前記シリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子にそれぞれ含まれる、シリカに対するアルミナのモル比は、1.0~2.5の範囲である、態様4に記載の無機質成形体の製造方法。
《態様6》
アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び
前記スラリーから液体媒体を除去して成形すること
を含む無機質成形体の製造方法であって、
前記無機バインダーが、アルミナ含有微粒子、チタニア含有微粒子、ジルコニア含有微粒子、又はこれらの2種以上の混合物を含む、無機質成形体の製造方法。
《態様7》
アルミナ質繊維及びアルミナ粒子が少なくとも無機バインダーで結着されている無機質成形体であって、前記無機バインダーが、ムライトを含む、無機質成形体。
《態様8》
アルミナ質繊維及びアルミナ粒子が少なくとも無機バインダーで結着されている無機質成形体であって、前記無機バインダーが、アルミナ、チタニア、ジルコニア、又はこれらの2種以上の混合物からなる、無機質成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強還元性雰囲気で焼成されても破壊されにくい無機質成形体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、強還元性雰囲気下で長期間繰り返して焼成処理を受けて破壊された無機質成形体のSEM写真を示している。
【
図2】
図2は、強還元性雰囲気下で長期間繰り返して焼成処理を受けたものの破壊されなかった無機質成形体のSEM写真を示している。
【
図3】
図3は、大気雰囲気下で500℃~1700℃の温度で24時間焼成した無機質成形体の曲げ強度の変化を示している。
【
図4】
図4は、大気雰囲気下で500℃~1700℃の温度で24時間焼成した無機質成形体のX線回折(XRD)データの変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《第1の実施形態》
第1の実施形態において、本発明の無機質成形体の製造方法は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び前記スラリーから液体媒体を除去して成形することを含む無機質成形体の製造方法であって、前記無機バインダーが、シリカを含み、前記無機質成形体を、非還元性雰囲気において焼成して前記無機バインダーをムライト化することをさらに含む。また、本発明の無機質成形体は、このような製造方法によって得られるものであり、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを含む無機質成形体であって、無機バインダーが、ムライトを含む、無機質成形体である。
【0013】
本発明者らは、強還元性雰囲気下で焼成された無機質成形体において、Si成分が喪失していることを発見した。これは、無機質成形体が強還元性雰囲気で焼成された際に、主に無機バインダー由来である非晶質のシリカとアルミナ質繊維等に含まれる結晶質シリカ(クリストバライト)が水素と反応してシラン又はシラノールとなって揮発したものと考えられる。
【0014】
したがって、強還元性雰囲気下の焼成によって無機質成形体が破壊されやすくなる理由としては、これらの非晶質シリカ及び結晶質シリカが喪失することによって、無機質成形体の強度が低下することが考えられる。
【0015】
それに対して、本発明者らが、強還元性雰囲気下の焼成でも非晶質シリカ及び結晶質シリカが喪失しないように鋭意検討したところ、非還元性雰囲気において無機質成形体を事前に焼成することによって、シリカの無機質成形体からの喪失が少なくできることを見出した。これは、アルミナ質繊維及びアルミナ粒子からのアルミナと、無機バインダー等からのシリカとが、事前の焼成時にムライト化したことによって、その後に強還元性雰囲気下で焼成したとしても、シリカが喪失しにくくなったためと考えられる。
【0016】
それに加えて、本発明者らは、強還元性雰囲気下で焼成されて破壊した従来技術の無機質成形体を分析したところ、アルミナ質繊維等に含まれる結晶が粒成長していることを発見した。したがって、強還元性雰囲気下の焼成によって無機質成形体が破壊されやすくなる理由として、強還元性雰囲気の場合には、アルミナ質繊維等に含まれる成分の結晶の粒成長がより早期に進展して、アルミナ質繊維が脆化しやすくなったことも考えられる。これに対して、非還元性雰囲気において無機質成形体を事前に焼成することによって、この結晶の粒成長も抑制できると考えられる。
【0017】
非還元性雰囲気における焼成の条件は、アルミナ質繊維に含まれる結晶の粒成長を抑制しながら無機バインダー由来のシリカをムライト化するのに十分な温度及び時間であれば特に限定されない。焼成温度は、例えば、1000℃以上、1200℃以上、1300℃以上、1350℃以上、1400℃以上、又は1450℃以上であってもよく、1600℃以下、1550℃以下、1500℃以下、1450℃以下、又は1400℃以下であってもよい。例えば、焼成温度は、1000℃以上1600℃以下、又は1400℃以上1550℃以下であってもよい。焼成時間は、1時間以上、3時間以上、6時間以上、12時間以上、又は24時間以上であってもよく、5日間以下、3日間以下、2日間以下、又は24時間以下であってもよい。例えば、焼成時間は、1時間以上5日間以下、又は12時間以上3日間以下であってもよい。
【0018】
非還元性雰囲気としては、上記のような焼成条件でシリカが実質的に喪失しない雰囲気であれば、多少還元性があってもよいが、例えば窒素、アルゴン等の不活性雰囲気、大気雰囲気等を挙げることができ、好ましくは大気雰囲気である。
【0019】
第1の実施形態で用いられる無機バインダーとしては、焼成をしないで無機質成形体を製造後した後に、強還元性雰囲気下の焼成において喪失するシリカを生成するものであれば特に限定されない。例えば、その無機バインダーとしては、ヒュームドシリカ等の乾式シリカ、シリカゾル等の湿式シリカ、水ガラス、アルコキシシラン等の液体ケイ素含有化合物、カオリン等の粘土系ケイ素含有化合物等を挙げることができる。これらの中でも特に、シリカゾルを用いることができる。
【0020】
《第2の実施形態》
第2の実施形態において、本発明の無機質成形体の製造方法は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び前記スラリーから液体媒体を除去して成形することを含む無機質成形体の製造方法であって、前記無機バインダーが、シリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子を含む。また、本発明の無機質成形体は、このような製造方法によって得られるものであり、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを含む無機質成形体であって、無機バインダーが、ムライトを含む、無機質成形体である。
【0021】
本発明者らは、シリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子から形成された無機バインダーは、シリカ含有微粒子の粒径とアルミナ含有微粒子の粒径が共に非常に小さく、かつこれらが近接して存在することによって、無機質成形体を焼成した際にムライト化が進みやすく、それにより強還元性雰囲気下であっても無機バインダーが喪失しづらく、またそれにより無機質成形体の強度の低下も起こりにくくなることを見出した。例えば、シリカゾルとアルミナゾルは、焼成されることで1150℃付近からムライト化するため、シリカが強還元性雰囲気下で実質的に喪失する前に、シリカをムライト化することができる。
【0022】
無機バインダーには、ムライトの鉱物組成に近くなるようにシリカ及びアルミナが含まれていることが好ましく、無機バインダーを形成する際に用いるシリカに対するアルミナのモル比(アルミナのモル数/シリカのモル数)は、1.0以上、1.2以上、又は1.4以上であってもよく、2.5以下、2.2以下、2.0以下、又は1.8以下であってもよい。例えば、このモル比は、1.0以上2.5以下、又は1.4以上2.2以下の範囲である。
【0023】
本明細書において、微粒子とは、その平均粒径が、1nm以上、3nm以上、5nm以上、10nm以上、15nm、又は20nm以上であってもよく、1000nm未満、500nm以下、200nm以下、150nm以下、100nm以下、50nm以下、30nm以下、20nm以下、又は10nm以下であってもよい。例えば、微粒子の平均粒径は、1nm以上1000μm以下、3nm以上200nm以下、又は5nm以上50nm以下であってもよい。ここで、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、代表的な粒子が多数含まれている画面を無作為に選択して100個以上の一次粒子の長軸を測定し、その個数基準の粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0024】
第2の実施形態で用いられる無機バインダーのシリカ含有微粒子及びアルミナ含有微粒子としては、焼成されてムライトを生成するものであれば特に限定されない。例えば、シリカ含有微粒子としては、ヒュームドシリカ等の乾式シリカ微粒子、シリカゾル等の湿式シリカ微粒子を挙げることができる。また、アルミナ含有微粒子としては、乾式のアルミナ微粒子、アルミナゾル等の湿式アルミナ微粒子を挙げることができる。これらの中でも特に、シリカゾル及びアルミナゾルを用いることができる。
【0025】
この実施形態においても、第1の実施形態において行われる非還元性雰囲気における焼成が行われてもよい。それにより、無機バインダーのムライト化を進めることができる。
【0026】
《第3の実施形態》
第3の実施形態において、本発明の無機質成形体の製造方法は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを液体媒体中に加えてスラリーを得ること、及び前記スラリーから液体媒体を除去して成形することを含む無機質成形体の製造方法であって、前記無機バインダーが、アルミナ含有微粒子、チタニア含有微粒子、ジルコニア含有微粒子、又はこれらの2種以上の混合物を含む。また、本発明の無機質成形体は、このような製造方法によって得られるものであり、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを含む無機質成形体であって、無機バインダーが、アルミナ、チタニア、ジルコニア、又はこれらの2種以上の混合物からなる、無機質成形体である。
【0027】
本発明者らは、アルミナ含有微粒子、チタニア含有微粒子、ジルコニア含有微粒子、又はこれらの2種以上の混合物から形成された無機バインダーは、強還元性雰囲気下であっても無機バインダーが喪失しづらく、またそれにより無機質成形体の強度の低下も起こりにくくなることを見出した。
【0028】
第3の実施形態で用いられる無機バインダーのアルミナ含有微粒子、チタニア含有微粒子、及びジルコニア含有微粒子としては、焼成をしないで無機質成形体を製造後した後に、強還元性雰囲気下の焼成において喪失するシリカを生成しないものであれば特に限定されない。例えば、アルミナ含有微粒子としては、乾式のアルミナ微粒子、アルミナゾル等の湿式アルミナ微粒子を挙げることができ、チタニア含有微粒子としては、乾式のチタニア微粒子、チタニアゾル等の湿式チタニア微粒子を挙げることができ、またジルコニア含有微粒子としては、乾式のジルコニア微粒子、ジルコニアゾル等の湿式ジルコニア微粒子を挙げることができる。これらの中でも特に、アルミナゾル、チタニアゾル、及びジルコニアゾルを用いることができる。
【0029】
以下、上記の実施形態について共通する技術的事項について詳述する。
【0030】
《無機質成形体》
無機質成形体は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子及び無機バインダーを含み、断熱材として使用することができる。この無機質成形体は、強還元性雰囲気下において長期間焼成が繰り返されたとしても破壊されにくいため有利である。
【0031】
ここで、強還元性雰囲気とは、4体積%超の水素を含む雰囲気をいう。強還元性雰囲気は、5体積%以上、8体積%以上、10体積%以上、12体積%以上、又は15体積%以上で水素を含んでいてもよく、20体積%以下、15体積%以下、又は10体積%以下で水素を含んでいてもよい。例えば、強還元性雰囲気には、水素が5体積%以上20体積%以下、又は10体積%以上15体積%以下で含まれていてもよい。
【0032】
強還元性雰囲気は、さらに還元性を高めるために、還元性ガス、例えば水蒸気を追加してもよく、また水素及び還元性ガス以外は、不活性ガス、例えば窒素、アルゴン等であってもよい。
【0033】
強還元性雰囲気下における焼成温度は、例えば、1250℃以上、1300℃以上、1350℃以上、又は1400℃以上であってもよく、1500℃以下、1450℃以下、又は1400℃以下であってもよい。例えば、焼成温度は、1250℃以上1500℃以下、又は1300℃以上1400℃以下であってもよい。このような温度での焼成が、短時間で、数ヶ月から数年にわたって繰り返された場合、従来技術の無機質成形体では破壊されることがある。
【0034】
無機質成形体のかさ密度は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限られないが、例えば、100kg/m3以上、150kg/m3以上、200kg/m3以上、250kg/m3以上、又は300kg/m3以上であってもよく、1200kg/m3以下、1000kg/m3以下、700kg/m3以下、500kg/m3以下、400kg/m3以下、300kg/m3以下、又は250kg/m3以下であってもよい。例えば、無機質成形体のかさ密度は、100kg/m3以上1200kg/m3以下、150kg/m3以上500kg/m3以下であってもよい。
【0035】
〈アルミナ質繊維〉
アルミナ質繊維は、アルミナを主成分として含む金属酸化物繊維である。アルミナ質繊維は、アルミナを主成分とする繊維を意味し、アルミナ以外にもシリカ、ジルコニア、カルシア、酸化鉄、ソディア、及びマグネシアからなる群より選択される1種以上の成分を含んでもよい。
【0036】
アルミナ質繊維中のアルミナ含有量は、例えば70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、又は99質量%以上であってもよく、100質量%以下、99質量以下、97質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下であってもよい。アルミナ質繊維中のアルミナ含有量は、例えば70質量%以上100質量%以下、又は75質量%以上97質量%以下であってもよい。
【0037】
アルミナ質繊維中のアルミナ以外の残部は、シリカであってもよい。アルミナ質繊維中のシリカ含有量は、例えば1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であってもよく、30質量%以下、25質量以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってもよい。アルミナ質繊維中のアルミナ含有量は、例えば1質量%以上30質量%以下、又は3質量%以上25質量%以下であってもよい。アルミナ質繊維中のシリカは、非晶質の状態で存在していてもよく、結晶の状態、例えばクリストバライト、ムライト等として存在していてもよい。
【0038】
なお、アルミナ質繊維のみを強還元雰囲気下で焼成した場合には、アルミナ質繊維に含まれるシリカは実質的に喪失しないことが分かった。アルミナ質繊維にも非晶質のシリカは含まれるが、アルミナ質繊維は、γアルミナ、αアルミナ等の結晶性アルミナ、シリカとアルミナの結晶であるムライトが表面に存在しており、非晶質シリカは繊維の芯部分に多く存在しているため、シリカが実質的には喪失しなかったと考えられる。
【0039】
アルミナ質繊維の平均繊維長は、0.1mm以上、1mm以上、5mm以上、10mm以上、15mm以上、又は20mm以上であってもよく、100mm以下、50mm以下、40mm以下、30mm以下、20mm以下、又は15mm以下であってもよい。アルミナ質繊維の平均繊維長は、0.1mm以上100mm以下、又は5mm以上30mm以下であってもよい。
【0040】
アルミナ質繊維の平均繊維径は、例えば1μm以上、2μm以上、3μm以上、又は5μm以上であってもよく、20μm以下、10μm以下、8μm以下、又は5μm以下であってもよい。アルミナ質繊維の平均繊維径は、1μm以上20μm以下、又は3μm以上10μm以下であってもよい。
【0041】
アルミナ質繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)は、25以上、50以上、100以上、300以上、又は500以上であってもよく、10000以下、5000以下、3000以下、1000以下、又は500以下であってもよい。この比は、25以上10000以下又は100以上5000以下であってもよい。
【0042】
〈アルミナ粒子〉
アルミナ粒子は、アルミナ質繊維と同様に高い結晶化度を有するものが好ましく、特にαアルミナを含む又はαアルミナからなるアルミナ粒子であることが好ましい。
【0043】
アルミナ粒子の平均粒径は、1μm以上、3μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、30μm以上、又は50μm以上であってもよく、100μm以下、80μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってもよい。例えば、アルミナ粒子の平均粒径は、1μm以上300μm以下、又は3μm以上20μm以下であってもよい。平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定したメジアン径を意味する。アルミナ粒子の平均粒径がこのような範囲であれば、無機質成形体の力学的強度と化学的耐久性とを両立させることができる。
【0044】
無機質成形体において、アルミナ質繊維とアルミナ粒子との合計100質量部に対して、アルミナ質繊維は、20質量部以上80質量部以下、30質量部以上70質量部以下、40質量部以上60質量部以下で含有されていてもよく、アルミナ粒子も、20質量部以上80質量部以下、30質量部以上70質量部以下、40質量部以上60質量部以下で含有されていてもよい。
【0045】
〈無機バインダー〉
無機質成形体は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子、及びこれらを結着させるための無機バインダーを含む。本明細書において、特記した場合を除き、無機バインダーとは、製造時に用いられる物質(例えば、コロイダルシリカ)だけではなく、製造後にアルミナ質粒子及びアルミナ粒子を結着させている物質(例えば、シリカ)の両方を意味する。
【0046】
無機バインダーは、本明細書で特記した場合を除き、本発明の効果を損なわないものであれば特に限られないが、例えば、コロイダルシリカ(例えば、アニオン性のコロイダルシリカ、及びカチオン性のコロイダルシリカからなる群より選択される1以上)、ヒュームドシリカ、ジルコニアゾル、チタニアゾル、アルミナゾル、及びベントナイトからなる群より選択される1種以上であることができる。
【0047】
無機質成形体における無機バインダーの固形分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限られないが、アルミナ質繊維とアルミナ粒子の合計100質量部に対して、例えば、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、10質量部以上であってもよく、30質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、又は10質量部以下であってもよい。例えば、無機バインダーは、アルミナ質繊維とアルミナ粒子の合計100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下、又は3質量部以上20質量部以下であってもよい。
【0048】
〈無機定着材〉
無機質成形体は、無機バインダーをアルミナ質繊維表面に均一に付着させる等の目的で無機定着材をさらに含有していてもよい。無機定着材としては、例えば、硫酸アルミニウム、アルミナゾル及びアンモニア水からなる群より選択される1以上であってもよく、硫酸アルミニウムであることが好ましい。
【0049】
無機質成形体における無機定着材の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限られないが、アルミナ質繊維とアルミナ粒子の合計100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上であってもよく、3.0質量部以下、2.0質量部以下、1.5質量部以下、又は1.0質量部以下であってもよい。例えば、無機定着材は、アルミナ質繊維とアルミナ粒子の合計100質量部に対して、0.1質量部以上3.0質量部以下、又は0.3質量部以上2.0質量部以下であってもよい。
【0050】
〈有機バインダー〉
無機質成形体は、有機バインダーを含むことができる。有機バインダーは、本発明の効果を損なわないものであれば特に限られないが、例えば、高分子凝集剤及び澱粉からなる群より選択される1以上であることが好ましい。なお、無機質成形体が高分子凝集剤を含む場合、さらに澱粉を含んでいてもよく、又は澱粉を含んでいなくてもよい。
【0051】
有機バインダーとしての高分子凝集剤は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限られないが、例えば、ポリアクリルアミド系高分子、アマイド系高分子、ポリアクリルエステル系高分子、及びポリアクリルエーテル系高分子からなる群より選択される1以上であることが好ましく、特にポリアクリルアミド系高分子であることが好ましい。
【0052】
有機バインダーとしての澱粉は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限られず、例えば、原料澱粉(例えば、天然原料由来澱粉(例えば、バレイショ澱粉、タピオカ澱粉、トウモロコシ澱粉及びその加水分解物からなる群より選択される1以上))、カチオン澱粉、アニオン澱粉、及び両性澱粉からなる群より選択される1以上であってもよい。
【0053】
無機質成形体は、有機バインダーとして、必要に応じて、パルプや適当なエマルジョン等をさらに含んでもよい。無機質成形体の製造において、所望の大きさのフロックを形成するために液体媒体中に添加する有機バインダーの種類及び添加量は、無機バインダーの電荷量、電荷の性質、使用するアルミナ粒子のサイズ等に応じて最適化される。
【0054】
無機質成形体が有機バインダーを含む場合、全ての有機バインダーの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限られないが、アルミナ質繊維とアルミナ粒子との合計100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、0.5質量部以上、1.0質量部以上、3.0質量部以上、又は5.0質量部以上であってもよく、15質量部以下、10質量部以下、8.0質量部以下、又は5.0質量部以下であってもよい。例えば、無機質成形体における有機バインダーの含有量は、アルミナ質繊維とアルミナ粒子との合計100質量部に対して、0.1質量部以上15質量部以下、又は3.0質量部以上10質量部以下であってもよい。
【0055】
なお、無機質成形体を製造するに際して、少なくとも湿潤成形体を得る時点では、有機バインダーを含むことが好ましい。一方、第1の実施形態以外の製造方法に関して、その成形後、出荷前又は使用前に、有機バインダーを消失させるための焼成処理を行ってもよい。第1の実施形態によって得られる無機質成形体は、その製造時に有機バインダーを用いることが好ましいものの、有機バインダーは700℃以下の焼成処理によって消失するため、製造後には、有機バインダーが実質的に存在していない。
【0056】
《無機質成形体の製造方法》
本発明の無機質成形体の製造方法の各構成については、本発明の無機質成形体に関して説明した各構成を参照することができる。特に、無機質成形体についての含有量の記載は、無機質成形体の製造方法においては、製造時の使用量として参照することができる。
【0057】
無機質成形体の製造方法は、アルミナ質繊維、アルミナ粒子、無機バインダー、随意の無機定着材、及び随意に有機バインダーを液体媒体に加えてスラリーを得ること、随意にこのスラリーを混合及び攪拌すること、スラリーから液体媒体を除去して成形することを含む。スラリーからの液体媒体の除去及び成形は、脱液成形又は抄造して湿潤成形体を得ること、及び湿潤成形体を乾燥することを含むことができる。液体媒体としては、水、水系溶媒、極性有機溶媒等を用いることができる。
【0058】
スラリーのウェットボリュームは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限られないが、例えば、50mL/20g以上、100mL/20g以上、200mL/20g以上、又は300mL/20g以上であってもよく、1000mL/20g以下、8000mL/20g以下、又は600mL/20g以下であってもよい。スラリーのウェットボリュームは、50mL/20g以上1000mL/20g以下、又は200mL/20g以上800mL/20g以下であってもよい。
【0059】
スラリーから湿潤成形体を得るために、例えば、スラリーを周知の方法によって脱液成形又は抄造することができる。ここで、必要に応じて(例えば、嵩密度が比較的大きい無機質成形体を製造する場合)、湿潤成形体をプレスしてもよい。
【0060】
その後、湿潤成形体を乾燥することにより、無機質成形体を得ることができる。無機質成形体の形状は特に限られないが、例えば、ボード状、シート状、又はブロック状であることが好ましい。また、無機質成形体の形状は、所望の形状に合わせて吸引型を選択することにより、円筒状、又は円錐状等の他の形状とすることもできる。
【0061】
また、無機質成形体は、第1の実施形態のような焼成処理を行わない場合、さらに有機バインダーを消失させるための焼成処理が施されてもよい。その焼成処理の方法は特に限られず、例えば、公知の加熱炉を用いて行われる。焼成温度は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限られないが、例えば、600℃以上1000℃以下であることが好ましい。焼成時間は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に限られないが、例えば、30分以上60分以下であることが好ましい。
【0062】
無機質成形体の製造方法は、さらに硬化処理を含んでいてもよい。硬化処理は、例えば、無機質成形体に上記のような無機バインダー(例えば、コロイダルシリカ及びアルミナゾルからなる群より選択される1以上)を含む硬化処理液を含侵させ、乾燥させる処理である。硬化処理により、乾燥後の無機質成形体の硬度を効果的に向上させることができる。
【0063】
硬化処理液は、例えば、無機バインダーに加えて、粘度を制御するための有機増粘剤及び無機粉末(例えば、ガラス粉末、アルミナ粉末及びワラストナイト粉末からなる群より選択される1以上)からなる群より選択される1以上を含んでもよい。無機質成形体に硬化処理液を含侵させる方法は特に限られないが、例えば、刷毛塗り、スプレー塗布、及び浸漬からなる群より選択される1以上が好ましく用いられる。
【0064】
無機質成形体の製造方法は、表面コーティング処理を含んでいてもよい。すなわち、例えば、ジルコニア、シリカ及び炭化ケイ素を含むコーティング剤や、アルミナ及びシリカを含むコ ーティング剤を無機質成形体の表面にコーティングすることにより、無機質成形体の表面特性を効果的に向上させることができる。具体的に、例えば、無機質成形体を炉内に配置して使用する場合、無機質成形体に表面コーティング処理を施すことにより、炉内のスケール(例えば、酸化鉄)に対する耐食性、及び/又は炉内の熱風に対する耐風速性を効果的に向上させることができる。
【0065】
無機質成形体の製造方法は、接着処理を含んでいてもよい。すなわち、例えば、複数の無機質成形体を互いに接着する場合や、無機質成形体と他の成形体とを接着する場合、アルミナ及びシリカを含む接着剤や、鉄及びシリカを含む接着剤を無機質成形体の接着面に塗布することに より、その接着力を効果的に向上させることができる。
【0066】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例0067】
《製造例》
アルミナ質繊維として、アルミナ質繊維(デンカ株式会社製、「B80」、アルミナ含有量80質量%、シリカ含有量20質量%、平均繊維径3μm~5μm)を用いた。
【0068】
アルミナ粒子として、アルミナ粒子(日本軽金属株式会社製、「SA31」、平均粒径5μm、アルミナ含有量:約99.6質量%)を用いた。
【0069】
無機バインダーとして、コロイダルシリカ(日本化学工業株式会社製、「シリカドール30」、固形分30質量%の懸濁液、固形分の平均粒径15nm、pH10.0)を用いた。
【0070】
有機バインダーとしては、高分子凝集剤であるポリアクリルアミド(荒川化学工業株式会社製、「ポリストロン705」、カチオン性、不揮発分10%、pH2.5~3.5、粘度300~1000mPa・s)を用いた。
【0071】
40質量部のアルミナ質繊維、60質量部のアルミナ粒子、固形分で10質量部の無機バインダー、及び3.4質量部の有機バインダーを水に加え、さらに、スラリー濃度が2質量%となるように、水を加えて攪拌し、スラリーを作製した。
【0072】
上記のようにして得られたスラリーを、底部に網が設置された成形型中に流し込み、液体媒体を吸引する吸引脱水成形法により脱水成形して、平板形状を有する湿潤成形体を得た。さらに、最終的に得られる無機質成形体の嵩密度が300kg/m3程度となるように、上記のようにして得られた湿潤成形体をプレスした。その後、湿潤成形体を乾燥機により110℃で36時間乾燥処理することにより、厚さ25mmの平板形状の参考例1の無機質成形体を得た。
【0073】
《破壊された無機質成形体の分析》
参考例1の無機質成形体を、工業炉の断熱材として設置した。露点20℃の水蒸気を導入した水素13体積%及び残部窒素の強還元性雰囲気において、最高加熱温度を1360℃とし、比較的早い昇降温で約半年間、焼成処理を何度も行った。その結果、断熱材の一部に割れが発生した。
【0074】
破壊された部分付近の無機質成形体と、破壊が起きていない部分の無機質成形体とを、曲げ強度試験によって比較した。また、同様に、これらの蛍光X線分析(XRF)をして、アルミナ及びシリカの化学組成の変化を調べた。さらに、これらをSEM写真で観察した。
【0075】
なお、無機質成形体の曲げ強度を次のようにして測定した。無機質成形体からなる縦150mm、横12.5mm、厚さ5mmの平板形状の試験片に、強度試験機(株式会社オリエンテック、「テンシロン万能試験機」)を用いて、ヘッドスピード2mm/分の速度で荷重を加え、最大荷重(破断荷重)を測定した。そして、無機質成形体の曲げ強度を次式により算出した:
曲げ強度(MPa)={3×最大荷重(N)×下部支点間距離(mm)}/{2×試験体の幅(mm)×(試験体の厚さ(mm))2}
【0076】
曲げ強度試験及びXRFによる組成分析の結果を、以下の表1に示す。また、
図1に破壊された部分の無機質成形体のSEM写真、及び
図2に破壊が起きていない部分の無機質成形体のSEM写真を示す。
【0077】
【0078】
破壊が発生した箇所では、曲げ強度が大きく低下しているとともに、シリカが喪失していることが分かる。
図1と
図2の特に5000倍の写真を比較すると、アルミナ質繊維の外観が大きく異なっており、破壊が発生した箇所ではアルミナ質繊維の結晶粒の成長が起きていることが分かる。
【0079】
《実験1:大気雰囲気での焼成温度による強度変化》
参考例1の無機質成形体を、大気雰囲気下で、500℃~1700℃の温度で24時間焼成した。
【0080】
【0081】
図3を参照すると、製造直後の参考例1の無機質成形体は、1.3MPa程度の曲げ強度を有しているが、500℃の焼成によって0.6MPa程度まで曲げ強度が低下することが分かる。これは、有機バインダーが消失した影響によるものである。それに対して、800℃~1100℃で焼成を行うと曲げ強度が向上しているが、これは、アルミナ質繊維が焼結によって強度が向上したものと考えられる。それ以上の温度で焼成を行うと、1400℃ぐらいまでは強度の低下はわずかであるものの、1400℃超では強度が大きく低下する。これは、アルミナ質繊維の脆化が進んでいるものと考えられる。
【0082】
《実験2:大気雰囲気での焼成温度による結晶状態の変化》
参考例1の無機質成形体を、大気雰囲気下で、500℃~1700℃の温度で24時間焼成した。次に、そのX線回折(XRD)データの変化を、
図4に示す。なお、
図4中、「○」はムライトのピークを示しており、「△」は、クリストバライトのピークを示しており、「□」は、コランダムのピークを示している。
【0083】
図4を参照すると、焼成温度が高まるに従って、16.5°付近にあるムライトのピークが大きくなっているのが分かる。また、26°付近にあるコランダムのピークは、各焼成温度によって変わらないのに対して、27°付近にあるムライトのピークは焼成温度が高まるにつれて大きくなるため、この2つのピークの比較からもムライトの結晶成長の度合いを理解することができる。なお、22°付近にあるクリストバライトのピークは、1100℃付近から現れ始めたが1500℃を超えると消失した。これはクリストバライトが周囲のアルミナとともにムライトに変化したためと考えられる。
【0084】
《実験3:大気雰囲気及び水素雰囲気での焼成による化学組成の変化》
参考例1の無機質成形体を、1360℃で大気雰囲気及び水素雰囲気で72時間加熱を行った。ここで、水素雰囲気は、13体積%水素と87体積%の窒素を含んでいた。
【0085】
それらについて蛍光X線分析(XRF)をして、アルミナ及びシリカの化学組成の変化を調べた。その結果を、以下の表2に示す。
【0086】
【0087】
この結果から明らかなように、大気雰囲気ではシリカはほぼ減少することはなかったが、水素雰囲気では、シリカが大幅に減少した。
【0088】
《実験4:大気雰囲気及び水素雰囲気での焼成による強度変化》
実験3と同様の焼成を行って、曲げ強度の変化を観察した。ここでは、実験3での焼成条件に加えて1400℃による焼成も行った。その結果を、以下の表3に示す。
【0089】
【0090】
大気雰囲気での焼成については、1360℃から1400℃に変更することによって、わずかに曲げ強度が向上している。これは、
図3でも観察されている現象であり、断熱材の焼結によって無機質成形体の曲げ強度が向上したと考えられる。一方で、水素雰囲気での焼成では、1360℃から1400℃に変更することによって、強度が低下している。これは、水素雰囲気における焼成によって、シリカが喪失したことによる影響が強く出たためと考えられる。
【0091】
《実験5:事前焼成をした後に大気雰囲気及び水素雰囲気で焼成した場合の化学組成の変化及び強度変化》
参考例1の無機質成形体を、大気雰囲気下で、1500℃で24時間焼成することによって無機バインダーをムライト化して、実施例1の無機質成形体を得た。
【0092】
その後、実施例1の無機質成形体を、1360℃で72時間、大気雰囲気及び水素雰囲気で焼成し、曲げ強度の変化を観察した。その結果を、以下の表4に示す。
【0093】
【0094】
実験3において、事前焼成を行わずに水素雰囲気で焼成した場合、シリカは12.4質量%まで大幅に減少していたのに対して、この実験において、事前焼成を行った場合、その後に水素雰囲気で焼成をしても、シリカは15.0質量%まで維持されており、シリカの喪失は非常に少なくなった。
【0095】
また、事前焼成を行った場合、その後に水素雰囲気で焼成をしても大気雰囲気で焼成をしても曲げ強度は変化しなかった。これは、事前焼成によって、無機バインダーがムライト化したことで、シリカが喪失せずバインダーの機能が低下しなかったためと考えられる。
【0096】
したがって、事前焼成が行われた実施例1の無機質成形体は、その後に強還元性雰囲気で焼成がされても破壊されにくいことが分かった。
【0097】
《実験6:他の実施例による本発明の効果》
無機バインダーのコロイダルシリカを、固形分で10質量部から4質量部に変更し、また固形分で6質量部アルミナゾル(日産化学工業株式会社製、「アルミナゾル520」、固形分20質量%の懸濁液、pH4.0)を併用したこと以外は、参考例1と同様にして、実施例2の無機質成形体を得た。
【0098】
また、無機バインダーのコロイダルシリカを、アルミナゾル(日産化学工業株式会社製、「アルミナゾル520」、固形分20質量%の懸濁液、pH4.0)に変更したこと以外は、参考例1と同様にして、実施例3の無機質成形体を得た。
【0099】
実施例2の無機質成形体は、焼成がされると1150℃付近から無機バインダーがムライト化する。そのため、実施例1の無機質成形体と同様の結果を得ることができる。
【0100】
実施例3の無機質成形体は、無機バインダーにシリカを含まない結果、実施例1の無機質成形体と同様の結果を得ることができる。