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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057666
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】積層造形方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20230417BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20230417BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230417BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167262
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 泰典
(72)【発明者】
【氏名】山内 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林田 直也
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081AA10
4E081DA14
4E081DA31
(57)【要約】
【課題】溶接によって金属層を積層する際に垂れの影響を抑え、良好な品質で立体的な造形物を形成する。
【解決手段】積層造形方法は、複数の金属層が順次積層されることで成形された立体的な造形物を造形する積層造形方法であって、溶接ビードからなる金属層を積層し、積層造形部を形成する工程と、前記積層造形部において前記金属層が積層される第一方向に交差する第二方向を向く造形部側面を削って加工側面を形成する工程と、を含む単位工程が繰り返し実施され、前記加工側面を形成する工程では、前記積層造形部の前記第一方向の最上層に前記加工側面に対して前記第二方向に張り出す受け部を形成するように前記造形部側面が削られ、前記単位工程が繰り返される際には、前記積層造形部を形成する工程では、前記第一方向における前記受け部の上面に重なるように新たな前記金属層が積層される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属層が順次積層されることで成形された立体的な造形物を造形する積層造形方法であって、
溶接ビードからなる金属層を積層し、積層造形部を形成する工程と、
前記積層造形部において前記金属層が積層される第一方向に交差する第二方向を向く造形部側面を削って加工側面を形成する工程と、
を含む単位工程が繰り返し実施され、
前記加工側面を形成する工程では、前記積層造形部の前記第一方向の最上層に前記加工側面に対して前記第二方向に張り出す受け部を形成するように前記造形部側面が削られ、
前記単位工程が繰り返される際には、前記積層造形部を形成する工程では、前記第一方向における前記受け部の上面に重なるように新たな前記金属層が積層される積層造形方法。
【請求項2】
前記受け部の前記第一方向における厚さは、前記受け部に対する前記溶接ビードの溶け込み寸法以上である請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記受け部は、少なくとも前記第一方向の一部に、前記造形部側面を残して形成される請求項1又は2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記積層造形部を形成する工程では、
前記第一方向における最上層を形成する前記金属層の表面に冷媒を供給して前記金属層を冷却した後、冷却された前記金属層の表面上に新たな前記金属層が積層される請求項1から3の何れか一項に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記造形物は、前記第一方向に延びる軸線を中心とする筒状に形成されて内部に流体が流通可能とされ、
前記加工側面を形成する工程では、前記造形物の径方向の内側を向く側面を前記加工側面によって形成し、
前記加工側面は、前記造形物の内部を流れる前記流体の流れ方向に前記造形部側面が削られることで形成されている請求項1から4の何れか一項に記載の積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、立体的な造形物を造形する積層造形方法として、アーク溶接によって形成される溶接ビードからなる金属層を、順次積層する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-84553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたような構成においては、既に積層された金属層の厚さが小さい場合に、アーク溶接によって新たな金属層を積層することで、既に積層された金属層の端部が新たな金属層と共に溶けて垂れてしまうことがある。これは、新たな金属層を積層するために溶融状態となっている溶接材料の熱の影響によって、既に積層された金属層が溶けてしまうためである。このような現象は、金属層の端部で顕著に影響を及ぼす。その結果、金属層を積層していく過程で、金属層の端部である側面の形状が垂れによって崩れ、次の金属層を正確に積層できない場合がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、溶接によって金属層を積層する際に垂れの影響を抑え、良好な品質で立体的な造形物を形成することができる積層造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る積層造形方法は、複数の金属層が順次積層されることで成形された立体的な造形物を造形する積層造形方法であって、溶接ビードからなる金属層を積層し、積層造形部を形成する工程と、前記積層造形部において前記金属層が積層される第一方向に交差する第二方向を向く造形部側面を削って加工側面を形成する工程と、を含む単位工程が繰り返し実施され、前記加工側面を形成する工程では、前記積層造形部の前記第一方向の最上層に前記加工側面に対して前記第二方向に張り出す受け部を形成するように前記造形部側面が削られ、前記単位工程が繰り返される際には、前記積層造形部を形成する工程では、前記第一方向における前記受け部の上面に重なるように新たな前記金属層が積層される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の積層造形方法によれば、溶接によって金属層を積層する際に垂れの影響を抑え、良好な品質で立体的な造形物を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係る積層造形方法で造形される造形物の一例を示す軸線に対して平行な断面図である。
図2】上記積層造形方法の手順を示すフローチャートである。
図3】上記積層造形方法の積層造形部を形成する工程において、所定の高さを有した積層造形部を形成する状態を示す軸線に対して平行な半断面図である。
図4】上記積層造形方法の加工側面を形成する工程において、積層造形部に受け部および加工側面を形成した状態を示す軸線に対して平行な半断面図である。
図5】上記積層造形方法において、2回目以降の単位工程の積層造形部を形成する工程で、受け部上に金属層を積層し、新たな積層造形部を形成した状態を示す軸線に対して平行な半断面図である。
図6】上記積層造形方法において、2回目以降の単位工程の積層造形部を形成する工程で、新たな積層造形部に受け部および加工側面を形成した状態を示す軸線に対して平行な半断面図である。
図7】上記積層造形方法の最終加工を行う工程で、造形品を形成した状態を示す軸線に対して平行な半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本開示による積層造形方法を実施するための形態を説明する。しかし、本開示はこの実施形態のみに限定されるものではない。
【0010】
図1に示すように、本開示の実施形態における積層造形方法S10では、立体的な造形物100を造形する。本実施形態の積層造形方法S10で造形される造形物100は、例えば、タービンや圧縮機等の回転機械を構成する部品である。より具体的には、造形される造形物100としては、ノズルや、インペラやケーシングが挙げられる。本実施形態では、造形物100として、軸線Oを中心に第一方向D1に延びる筒状のノズルを造形する。完成後のノズル(造形物100)には、第一方向D1を流れ方向F1(図4参照)とするように、その内部に蒸気や空気等の気体である流体が作動流体として流通可能とされる。
【0011】
積層造形方法S10では、テーブル5の支持面5f上に、複数層の金属層101を積層し、所定形状の造形物100を造形する。積層造形方法S10は、溶接トーチや加工工具が取り付けられたNC(Numerical Control:数値制御)加工機によって実施される。一層の金属層101は、溶接ビード102によって構成されている。溶接ビード102は、NC加工機の溶接トーチで行うアーク溶接によって生成される。テーブル5の支持面5fは、第一方向D1に直交する面を形成している。本実施形態において、第一方向D1は、鉛直方向Dvと一致するように設定されている。これにより、複数の金属層101は、支持面5f上に、第一方向D1の第一側D1a(金属層101に対して支持面5fに近づく側)から第二側D1b(金属層101に対して支持面5fから離れる側)に向かって積層される。つまり、第一方向D1は、金属層101が積層される方向である。なお、第一方向D1は、鉛直方向Dvに対して直交していなければ、鉛直方向Dvに対して傾斜する方向であっても構わない。
【0012】
本実施形態の積層造形方法S10は、図2に示すように、積層造形部105を形成する工程S20と、加工側面103を形成する工程S30と、積層造形部105の形成回数を判定する工程S40と、最終加工を行う工程S50と、を主に備える。
【0013】
図3に示すように、積層造形部105を形成する工程S20では、第一方向D1に所定の高さH1を有した積層造形部105を形成する。積層造形部105は、造形物100の一部の領域を構成している。図2に示すように、積層造形部105を形成する工程S20は、金属層101を積層する工程S21と、金属層101を冷却する工程S22と、温度を測定する工程S23と、温度を判定する工程S24と、積層数を判定する工程S25と、を含む。積層造形部105を形成する工程S20は、金属層101を積層する工程S21、金属層101を冷却する工程S22、温度を測定する工程S23、温度を判定する工程S24、積層数を判定する工程S25を、予め設定された回数、繰り返し実施する。積層造形部105を形成する工程S20では、所定数の金属層101を第一方向D1に積層して、所定の高さH1を有した積層造形部105を形成する。所定の高さH1を有した積層造形部105は、軸線Oに対して平行な断面において、第一方向D1に交差する第二方向D2を向く造形部側面106を有している。本実施形態において、積層造形部105は、第一方向D1に延びる筒状に形成されている。また、本実施形態の第二方向D2は、第一方向D1と直交する方向であって、積層造形部105の径方向(幅方向)Drである。したがって、積層造形部105は、造形部側面106として、径方向Dr(第二方向D2)の内側Driを向く内側造形部側面106sと、径方向Drの外側Droを向く外側造形部側面106tと、を有している。つまり、内側造形部側面106sは、径方向Drにおいて、軸線Oを向く積層造形部105の内周面である。また、外側造形部側面106tは、径方向Drにおいて、軸線Oと反対側を向く積層造形部105の外周面である。
【0014】
図3に示すように、金属層101を積層する工程S21では、アーク溶接によって形成される溶接ビード102からなる金属層101を積層する。金属層101を積層する工程S21では、まず、テーブル5の支持面5f上にアーク溶接によって溶接ビード102を形成する。金属層101を積層する工程S21では、予め入力された造形物100の形状データに基づいて、溶接ビード102が形成される。本実施形態の金属層101を積層する工程S21では、第一方向D1と直交する第二方向D2に、複数パスの溶接ビード102がアーク溶接によって連続して形成されることで、一層の金属層101が構成されている。金属層101を積層する工程S21では、回転アーク溶接等の高速溶接で溶接ビード102を形成することが好ましい。
【0015】
なお、金属層101は、例えば、本実施形態のように複数パスの溶接ビード102によって一層が構成されることに限定されるものではなく、一パスのみの溶接ビード102によって一層が構成されていてもよい。
【0016】
金属層101を冷却する工程S22では、金属層101を積層する工程S21で積層された最上層の金属層101の表面に冷媒を供給して金属層101を冷却する。最上層の金属層101とは、第一方向D1において最も第二側D1bに位置する金属層101である。つまり、最上層の金属層101とは、積層造形部105の頂部を形成する金属層101である。本実施形態の金属層101を冷却する工程S22では、最上層の金属層101の表面に液状の冷媒が直接供給される。金属層101を冷却する工程S22では、冷媒として、例えば切削油もしくはエアーが供給される。これにより、金属層101を積層する工程S21が繰り返される際には、金属層101を冷却する工程S22で冷却された最上層の金属層101の表面上に、新たな金属層101が積層される。
【0017】
なお、本実施形態の金属層101を冷却する工程S22では、例えば、最上層の金属層101に、冷却以外の加工を施すようにしてもよい。例えば、金属層101を冷却する工程S22では、金属層101を積層する工程S21で積層された最上層の金属層101の表面の不純物を除去するようにしてもよい。不純物の除去は、NC加工機に加工工具として取り付けた切削工具や研磨工具により、金属層101の表面及び周辺に付着した不純物を削り取って除去する。ここで、不純物とは、溶接欠陥を生じさせる溶接ビード102の表面及びその周辺に発生した異物である。具体的には、不純物としては、スパッタや、スラグや、ヒュームが挙げられる。スパッタは、溶接ビード102の周辺に飛散した金属粒である。また、スラグは、母材や溶接材料から生じる金属間化合物からなる異物である。具体的なスラグとしては、例えば融点の低いガラス質が挙げられる。また、ヒュームは、溶接ビード102の周辺に付着する鉱物性の粉塵である。ヒュームは、母材や溶接材料に含まれる成分からなるが、各成分の比率が元の材料とは大幅に異なっている。
【0018】
温度を測定する工程S23では、金属層101を積層する工程S21で積層された最上層の金属層101の表面の温度を測定する。温度を測定する工程S23では、サーモセンサーや非接触温度計を用いて、金属層101に触れることなく金属層101の表面の温度情報を取得する。取得後の温度情報は、不図示の制御装置に送られることで、モニターに表示されたり、NC加工機での加工に用いられたりする。
【0019】
温度を判定する工程S24では、測定された金属層101の表面の温度が、予め定めた基準温度を下回っているか否かを判定する。ここで、基準温度とは、金属層101上に溶接品質の低下を生じさせずに溶接ビード102を新たに形成可能な温度であって、金属層101の表面に供給された冷媒が蒸発しているとみなせる温度である。したがって、基準温度は、例えば、100℃程度である。温度を判定する工程S24では、測定された温度が基準温度を下回っていると判定された場合に、積層数を判定する工程S25に進む。また、温度を判定する工程S24では、温度を測定する工程S23で測定された温度が基準温度を超えていると判定された場合に、所定の時間が経過した後に再び温度を測定する工程S23が実施される。
【0020】
積層数を判定する工程S25では、金属層101が所定回数積層されたか否かを判定する。ここで、所定回数とは、所定の高さH1の積層造形部105を形成するために必要な金属層101の数であって、造形物100の形状データに基づいて決定される。積層数を判定する工程S25では、金属層101が所定回数積層されていないと判定した場合に、金属層101を積層する工程S21に戻る。積層数を判定する工程S25後の金属層101を積層する工程S21では、温度が測定された金属層101上に、新たな金属層101が形成される。積層数を判定する工程S25では、金属層101が所定回数積層されていると判定した場合に、加工側面103を形成する工程S30に進む。
【0021】
加工側面103を形成する工程S30では、所定の高さH1に形成された積層造形部105に対して、その造形部側面106が削られる。図4に示すように、加工側面103を形成する工程S30では、積層造形部105において、造形部側面106の少なくとも一部が切削され、加工側面103が形成される。
【0022】
加工側面103は、造形部側面106を径方向Drに凹むように所定寸法削ることで形成される。加工側面103は、造形部側面106よりも表面粗さに小さい平滑な面として形成される。加工側面103は、積層造形部105の余肉部105zを除去することで形成される。余肉部105zとは、積層造形部105において、造形物100の形状よりも大きい領域に形成された部分であり、溶接時に生じる垂れを含む部分である。また、本実施形態の加工側面103は、製品としての側面を構成している。つまり、加工側面103は、軸線Oに対して平行な断面における造形物100の内周面や外周面の一部である。
【0023】
本実施形態では、積層造形部105において、径方向Drの内側Driを向く内側造形部側面106sに、内側加工側面103sを形成する。また、本実施形態では、径方向Drの外側Droを向く外側造形部側面106tに、外側加工側面103tをさらに形成する。
【0024】
また、加工側面103を形成する工程S30では、積層造形部105の第一方向D1の最上層の第二側D1bの端部105eに、加工側面103に対して第二方向D2に張り出す受け部107が残るように加工側面103を形成する。端部105eは、積層造形部105の最上層の角部である。本実施形態では、受け部107は、内側加工側面103sから径方向Drの内側Driに張り出す内側受け部107sと、外側加工側面103tから径方向Drの外側Droに張り出す外側受け部107tと、を有している。
【0025】
第一方向D1における受け部107の厚さTは、受け部107に対する溶接ビード102の溶け込み寸法以上であるのが好ましい。受け部107の厚さTは、溶接ビード102の溶け込み寸法に対して、例えば2倍以上5倍以下であることが好ましい。溶け込み寸法は、溶接ビードが形成される際に、溶けてしまう部分の第一方向D1の長さである。本実施形態の受け部107は、少なくとも第一方向D1の一部に、造形部側面106を残して形成される。なお、受け部107は、造形部側面106を残さずに形成されてもよい。
【0026】
また、内側受け部107sは、径方向Drの外側Droから内側Driに向かって厚さTが漸次小さくなるよう形成されている。外側受け部107tは、径方向Drの内側Driから外側Droに向かって厚さTが漸次小さくなるよう形成されている。なお、内側受け部107s及び外側受け部107tは、径方向Drにおける厚さTが一定であってもよい。内側受け部107s及び外側受け部107tは、軸線Oに対して平行な断面形状が、線対称に近いような同様の形状となっていることが好ましい。
【0027】
加工側面103を形成する工程S30では、加工側面103を形成する際、工具を、NC加工機により第一方向D1に移動させながら、造形部側面106が削られることが好ましい。つまり、加工側面103は、流れ方向F1に造形部側面106が削られることで形成されている。これにより、加工側面103には、第一方向D1に延びる加工痕109が、軸線Oを中心とする周方向Dcに複数形成される。これにより、加工痕109は、完成後の造形物100の内部を流れる流体の流れ方向F1に沿うように延びた状態になる。
【0028】
ここで、加工側面103を形成する工程S30の完了後、形成した加工側面103の形状(寸法)を測定するようにしてもよい。加工側面103の形状は、例えば、三次元測定器を用いて接触又は被接触で測定される。具体的には、非接触で加工側面103の形状を測定する場合には、例えば、レーザ光、パターン光、もしくはアークセンサが利用される。また、接触させて加工側面103の形状を測定する場合には、例えば、タッチセンサが利用される。加工側面103の形状の測定後、測定された加工側面103の形状が予め定めた基準から外れているか否かを判定する。ここで、予め定めた基準とは、最終的な造形物100の形状に対して許容可能な寸法に応じて決定される。例えば、基準としては、造形物100の形状データに一定の寸法公差を考慮した値が挙げられる。加工側面103の形状が基準から外れていると判断された場合には、基準から外れなくなるまで、追加工を行うようにしてもよい。
【0029】
このようにして、加工側面103を形成する工程S30で、内側加工側面103s及び外側加工側面103tを形成することで、1回の単位工程S60が完了する。図2に示すように、単位工程S60は、積層造形部105を形成する工程S20と、加工側面103を形成する工程S30と、を含む工程である。積層造形方法S10では、単位工程S60が繰り返し実行される。1回の単位工程S60が完了したら、積層造形部105の形成回数を判定する工程S40に進む。
【0030】
積層造形部105の形成回数を判定する工程S40では、積層造形部105が所定回数形成されたか否かを判定する。ここで、所定回数とは、造形物100を形成するために必要な積層造形部105の数であって、造形物100の形状データに基づいて決定される。積層造形部105の形成回数を判定する工程S40では、積層造形部105が所定回数形成されていないと判定した場合に、上記の単位工程S60を繰り返す。積層造形部105の形成回数を判定する工程S40では、積層造形部105が所定回数形成されていると判定した場合に、最終加工を行う工程S50に進む。
【0031】
単位工程S60を繰り返す場合、金属層101を形成する工程S21に戻る。図5に示すように、単位工程S60を繰り返される際(2回目以降の単位工程S60が実施される際)には、積層造形部105を形成する工程S20では、第一方向D1における受け部107の上面(最上層の表面)に重なるように新たな金属層101が積層される。具体的には、追加で積層造形部105を形成する際に新たに形成される金属層101は、既に形成された積層造形部105の最上層の金属層101の表面上に対して、受け部107に重なるように形成される。受け部107は、加工側面103に対して第二方向D2に張り出している。このため、新たに追加して形成される積層造形部105の金属層101が順次積層されていくことで、追加で形成される積層造形部105の余肉部105zが、受け部107上に形成される。受け部107の上面に新たな金属層101が積層される際には、余肉部105zを形成する部分の溶接ビード102の溶け込みや溶接ビード102自体の熱による熱エネルギーが、受け部107で吸収される。
【0032】
また、二回目以降の単位工程S60における加工側面103を形成する工程S30では、新たに形成された積層造形部105に対して、その造形部側面106を削る。その際、図6に示すように、新たに形成された積層造形部105の端部105eに、第二方向D2に張り出す受け部107が新たに残るように加工側面103を形成する。また、既に形成され積層造形部105の受け部107は削られる。これにより、既に形成された積層造形部105の加工側面103(内側加工側面103s及び外側加工側面103t)と、新たに形成された積層造形部105の加工側面103(内側加工側面103s及び外側加工側面103t)とが、第一方向D1で連続するような平滑な面として形成される。
【0033】
積層造形部105が所定回数積層された後に実施される最終加工を行う工程S50では、図7に示すように、最後に形成された、第一方向D1で最も第二側D1bに位置する積層造形部105の造形部側面106(内側造形部側面106s及び外側造形部側面106t)が削られ、加工側面103(内側加工側面103s及び外側加工側面103t)が形成される。このとき、最後に形成された積層造形部105には、受け部107を形成する必要が無い。これにより、既に形成された積層造形部105の加工側面103と、最後に形成された積層造形部105加工側面103とが、第一方向D1で連続した平滑な面を形成する。
【0034】
また、最終加工を行う工程S50では、第一方向D1で最も第二側D1bに位置する積層造形部105の表面(造形物100の上面)を削り、第一方向D1に直交する平面105fを形成するようにしてもよい。また、最終加工を行う工程S50では造形物100の角部に、造形物100を他の部品に溶接するための開先部105kを形成する加工などを施すようにしてもよい。さらに、最終加工を行う工程S50では、複数積層された積層造形部105の径方向Drの外側Droを向く外側加工側面103tの表面粗さをさらに小さくするように、所定の加工精度で外側加工側面103tに対して仕上加工を行ってもよい。最終加工を行う工程S50が完了することで、所定寸法の造形物100の造形が完了する。
【0035】
(作用効果)
上記構成の積層造形方法S10では、加工側面103を形成する工程S30で、積層造形部105の最上層に受け部107が残るように、加工側面103が形成される。受け部107は、加工側面103に対して第二方向D2に張り出している。単位工程S60が繰り返される際に、受け部107上に新たな金属層101が積層されることで、溶接ビード102を積層する際に、溶接ビード102の溶け込みや溶接ビード102の熱影響による熱エネルギーを、受け部107で吸収することができる。これにより、加工側面103に溶融した金属の垂れが付着して加工側面103の形状が崩れてしまうことを、受け部107によって、抑えることができる。その結果、金属の積層時に金属の垂れの影響を抑え、良好な品質で立体的な造形物100を形成することができる。
【0036】
また、第一方向D1に金属層101を積層して積層造形部105が形成される。形成した積層造形部105毎に造形部側面106を削ることで、加工側面103が形成される。積層造形部105は、単位工程S60が繰り返し実施されることで、第一方向D1に順次積層されていく。このとき、第一方向D1に積層造形部105を複数積層して最終的な造形物100の形状に近づけた状態では、加工のための工具が造形部側面106にアクセス困難となる場合がある。しかしながら、本実施形態では、形成した積層造形部105毎に加工側面103が形成される。つまり、単位工程S60毎に、積層造形部105の造形部側面106が削られるため、造形部側面106に工具がアクセスしにくくなることがない。その結果、最終的な完成品である造形物100の側面の全てを意図した形状の加工側面103とすることができる。
【0037】
また、受け部107の第一方向D1における厚さTを、受け部107に対する溶接ビード102の溶け込み寸法以上とすることで、溶接ビード102の溶け込みや溶接ビード102自体の熱による熱エネルギーを、受け部107で十分に吸収することができる。その結果、金属層101を形成時に金属が垂れて加工側面103に付いてしまうことを安定して抑えることができる。したがって、既に形成された加工側面103を意図した形状のまま維持でき、より良好な品質で立体的な造形物100を形成することができる。
【0038】
また、受け部107に、造形部側面106を残して形成することで、第二方向D2における受け部107の根元から先端部までの部分で受け部107に一定の厚みを確保できる。その結果、受け部107によって、新たな金属層101を形成する溶接ビード102を安定して受けることができる。これにより、より一層有効に、金属の積層時に金属の垂れが生じることを抑えることができる。
【0039】
また、筒状である造形物100において、単位工程S60毎に、積層造形部105の内側造形部側面106sに内側加工側面103sが形成される。これにより、筒状である造形物100であっても、工具等のアクセスに支障を生じることを抑えつつ、造形物100の内周面の加工を良好に行うことができる。同様に、造形物100の径方向Drの外側Droを向く外側造形部側面106tに外側加工側面103tが形成される。これにより、内側加工側面103sとともに、筒状の造形物100の外周面の加工を良好に行うことができる。
【0040】
また、最上層の金属層101の表面が冷却されている。冷却されることで、最上層の金属層101の温度が低下する。金属層101を積層する場合、温度が高くなりすぎた状態の金属層101上に新たな金属層101が積層されると溶接品質が低下する可能性が有る。ところが、最上層の金属層101を冷却することで、温度が高い状態の金属層101上に新たな金属層101が積層されることを防ぐことができる。さらに、単純に金属層101を放置して冷却させる場合に比べて、新たな金属層101の形成を開始するまでの溶接待ち時間を短縮することができる。
【0041】
また、温度を測定する工程S23で最上層の金属層101の温度を測定することで、温度が高い金属層101に新たな金属層101が積層されることを高い精度で防ぐことができる。したがって、新たな金属層101の溶接品質の低下を安定して抑えることができる。これより、最終的に製造される造形物100の強度の低下をより抑えることができる。
【0042】
また、加工側面103を形成する工程S30では、造形物100に流れる流体の流れ方向に沿って、造形部側面106が削られる。これにより、加工側面103に形成される加工痕109は、造形物100に流れる流体の流れ方向F1に沿って形成される。加工痕109を流体の流れに沿わせることで、流体が流れた際に、加工痕109によって渦等の乱れが生じにくくなる。これにより、加工痕109が、流体の流れに及ぼす影響を抑えることができる。そのため、加工痕109の表面状態が多少粗くても、流体の流れに損失が生じる難くなる。これにより、加工側面103を形成するための加工を、より簡易に短時間で行うことが可能となる。
【0043】
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0044】
なお、上記実施形態では、積層造形方法S10では、受け部107を、第二方向D2の両端部の造形部側面106に形成したが、このような構成に限られるものではない。受け部107は、第二方向D2のいずれか一方の造形部側面106のみに形成されてもよい。また、第二方向D2の両側の造形部側面106に受け部107を形成する場合には、本実施系形態のように同形状で形成する構造に限定されるものではなく、形成される位置によって受け部107の形状や大きさを変化させてもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、造形物100として、筒状のものを形成するようにしたが、これに限られない。造形物100の形状や構成は、例えば壁状等の適宜他の構成であってもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、単位工程S60毎に、所定の高さH1の積層造形部105に外側加工側面103tを形成するようにしたが、これに限らない。外側加工側面103tは、造形物100が筒状であっても、径方向Drの外側Droから加工を行うことによって、加工に何らの支障が生じないことがある。このような場合、所定の高さH1の積層造形部105を形成するごと(単位工程S60ごと)に形成せず、最終加工を行う工程S50で、外側加工側面103tを一括して形成するようにしてもよい。さらに、加工側面103を形成する工程S30で内側加工側面103s及び外側加工側面103tの両方を形成する場合であっても、内側加工側面103sを形成するよりも、外側加工側面103tを形成する回数を少なくしてもよい。
【0047】
また、積層造形方法S10の手順は、上記したものに限らず、その順序の変更、一部の工程の省略、他の工程の追加等の変更を行ってもよい。例えば、金属層101を冷却する工程S22や、温度を測定する工程S23や、温度を判定する工程S24を実施しなくてもよい。また、積層造形部105を形成する工程S20では、複数層の金属層101を形成することに限定されるものではない。つまり、金属層101を積層する工程S21で、一層の金属層101のみを形成し、加工側面103を形成する工程S30を実施してもよい。
【0048】
<付記>
(1)第1の態様に係る積層造形方法S10は、複数の金属層101が順次積層されることで成形された立体的な造形物100を造形する積層造形方法S10であって、溶接ビード102からなる金属層101を積層し、積層造形部105を形成する工程S20と、前記積層造形部105において前記金属層101が積層される第一方向D1に交差する第二方向D2を向く造形部側面106を削って加工側面103を形成する工程S30と、を含む単位工程S60が繰り返し実施され、前記加工側面103を形成する工程S30では、前記積層造形部105の前記第一方向D1の最上層に前記加工側面103に対して前記第二方向D2に張り出す受け部107を形成するように前記造形部側面106が削られ、前記単位工程S60が繰り返される際には、前記積層造形部105を形成する工程S20では、前記第一方向D1における前記受け部107の上面に重なるように新たな前記金属層101が積層される。
造形物100の例としては、タービンや圧縮機等の回転機械を構成する部品である。具体的には、ノズルや、インペラや、ケーシングが挙げられる。
【0049】
この積層造形方法S10では、単位工程S60が繰り返される際に、受け部107上に新たな金属層101が積層されることで、溶接ビード102を積層する際に、溶接ビード102の溶け込みや溶接ビード102の熱影響による熱エネルギーを、受け部107で吸収することができる。これにより、加工側面103に溶融した金属の垂れが付着して加工側面103の形状が崩れてしまうことを、受け部107によって、抑えることができる。その結果、金属の積層時に金属の垂れの影響を抑え、良好な品質で立体的な造形物100を形成することができる。
【0050】
(2)第2の態様に係る積層造形方法S10は、(1)の積層造形方法S10であって、前記受け部107の前記第一方向D1における厚さTは、前記受け部107に対する前記溶接ビード102の溶け込み寸法以上である。
【0051】
これにより、溶接ビード102の溶け込みや溶接ビード102自体の熱による熱エネルギーを、受け部107で十分に吸収することができる。その結果、金属層101を形成時に金属が垂れて加工側面103に付いてしまうことを安定して抑えることができる。したがって、既に形成された加工側面103を意図した形状のまま維持でき、より良好な品質で立体的な造形物100を形成することができる。
【0052】
(3)第3の態様に係る積層造形方法S10は、(1)又は(2)の積層造形方法S10であって、前記受け部107は、少なくとも前記第一方向D1の一部に、前記造形部側面106を残して形成される。
【0053】
これにより、受け部107に一定の厚みを確保できる。その結果、受け部107によって、新たな金属層101を形成する溶接ビード102を安定して受けることができる。これにより、より一層有効に、金属の積層時に金属の垂れが生じることを抑えることができる。
【0054】
(4)第4の態様に係る積層造形方法S10は、(1)から(3)の何れか一つの積層造形方法S10であって、前記積層造形部105を形成する工程S20では、前記第一方向D1における最上層を形成する前記金属層101の表面に冷媒を供給して前記金属層101を冷却した後、冷却された前記金属層101の表面上に新たな前記金属層101が積層される。
【0055】
これにより、最上層の金属層101の表面が冷媒で冷却されて温度が低下する。そのため、温度が高い状態の金属層101上に新たな金属層101が積層されることを防ぐことができる。さらに、単純に金属層101を放置して冷却させる場合に比べて、新たな金属層101の形成を開始するまでの溶接待ち時間を短縮することができる。
【0056】
(5)第5の態様に係る積層造形方法S10は、(1)から(4)の何れか一つの積層造形方法S10であって、前記造形物100は、前記第一方向D1に延びる軸線Oを中心とする筒状に形成されて内部に流体が流通可能とされ、前記加工側面103を形成する工程では、前記造形物100の径方向Drの内側Driを向く側面を前記加工側面103によって形成し、前記加工側面103は、前記造形物100の内部を流れる前記流体の流れ方向に前記造形部側面106が削られることで形成されている。
【0057】
これにより、造形物100に流れる流体の流れ方向に沿って、造形部側面106が削られる。その結果、加工側面103に形成される加工痕109は、造形物100に流れる流体の流れ方向F1に沿って形成される。加工痕109を流体の流れに沿わせることで、流体が流れた際に、加工痕109によって渦等の乱れが生じにくくなる。これにより、加工痕109が、流体の流れに及ぼす影響を抑えることができる。そのため、加工痕109の表面状態が多少粗くても、流体の流れに損失が生じる難くなる。これにより、加工側面103を形成するための加工を、より簡易に短時間で行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
5…テーブル
5f…支持面
100…造形物
101…金属層
102…溶接ビード
103…加工側面
103s…内側加工側面
103t…外側加工側面
105…積層造形部
105e…端部
105f…平面
105k…開先部
105z…余肉部
106…造形部側面
106s…内側造形部側面
106t…外側造形部側面
107…受け部
107s…内側受け部
107t…外側受け部
109…加工痕
D1…第一方向
D1a…第一側
D1b…第二側
D2…第二方向
Dc…周方向
Dr…径方向
Dri…内側
Dro…外側
Dv…鉛直方向
F1…流体の流れ方向
H1…積層造形部の高さ
O…軸線
S10…積層造形方法
S20…積層造形部を形成する工程
S21…金属層を積層する工程
S22…金属層を冷却する工程
S23…温度を測定する工程
S24…温度を判定する工程
S25…積層数を判定する工程
S30…加工側面を形成する工程
S40…積層造形部の形成回数を判定する工程
S50…最終加工を行う工程
S60…単位工程
T…厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7