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  • 特開-研磨物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057671
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】研磨物品
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/34 20060101AFI20230417BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20230417BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
B24D3/34 Z
B24D3/00 340
B24D11/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167274
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000175559
【氏名又は名称】三共理化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(74)【代理人】
【識別番号】100112416
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 定信
(72)【発明者】
【氏名】大宮 崇史
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
【テーマコード(参考)】
3C063
【Fターム(参考)】
3C063AA03
3C063BC03
3C063BC04
3C063BD01
3C063BH07
3C063CC30
3C063FF20
3C063FF23
(57)【要約】
【課題】 良好な目詰まり防止効果が発揮され、且つ、目詰まり防止効果の持続性向上に貢献できる研磨物品を提供する。
【解決手段】 金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜5が研磨粒子4の層上に形成されている研磨物品であって、前記目詰まり防止被膜5の分子配向に規則性を有する構成とする。本発明の研磨物品1は、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜5を研磨粒子4の層上に形成する工程と、前記目詰まり防止被膜5の分子配向に規則性が得られるまで所定の加熱温度で所定の加熱時間加熱する工程と、を備える製造方法によって製造できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜が研磨粒子層上に形成されている研磨物品であって、前記目詰まり防止被膜が分子配向に規則性を有する、研磨物品。
【請求項2】
前記研磨粒子層上に前記目詰まり防止被膜を形成した後に前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度で加熱することで前記金属塩の分子配向に規則性が形成され、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である、請求項1に記載の研磨物品。
【請求項3】
前記研磨粒子層上に前記目詰まり防止被膜を形成した後に前記金属塩の融点以上の加熱温度で加熱することで前記金属塩の分子配向に規則性が形成され、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である、請求項1に記載の研磨物品。
【請求項4】
前記加熱温度での加熱時間が10分間以上である、請求項1,2又は3に記載の研磨物品。
【請求項5】
前記加熱温度での加熱時間が30分間以上である、請求項1,2又は3に記載の研磨物品。
【請求項6】
前記金属塩は、前記結合樹脂のガラス転移温度と非常に近い融点を持つ長鎖脂肪酸金属塩である、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨物品。
【請求項7】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記目詰まり防止被膜の分子配向に規則性が得られるまで所定の加熱温度で所定の加熱時間加熱する工程と、を備える、研磨物品の製造方法。
【請求項8】
前記所定の加熱温度は、前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度であり、前記所定の加熱時間が10分間以上であり、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である、請求項7に記載の研磨物品の製造方法。
【請求項9】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記金属塩と前記結合樹脂の双方に流動性を持たせた状態を10分間以上継続する工程と、を備える、研磨物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被研磨体を研磨するための研磨物品に関するものであり、特に、目詰まり防止被膜を有する研磨物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
布や紙等の基材上に多数の研磨粒子を接着して形成される研磨物品においては、研磨粒子間に微細な空間がある。研磨工程中に被研磨体から生ずる削り屑は、研磨粒子間の前記空間に入り込み、研磨物品の目詰まりの原因となる。研磨物品の表面に目詰まりが起こると、研磨性能が低下してしまう。そこで、被研磨体の削り屑が研磨粒子間の空間に入り込むことのないように、研磨粒子の層を目詰まり防止被膜で覆うことが行われている。
【0003】
特許文献1には、目詰まり防止被膜を形成するための目詰まり防止組成物として、脂肪酸の金属塩及び結合樹脂を含む組成物(特許文献1の請求項1参照)が記載されている。また、特許文献1には、「目詰まり防止組成物を研磨面へ付着させた後、好ましくは、結合樹脂が膜化するのに適当な温度および時間加熱して乾燥させる。加熱条件は、適宜決定すればよい。」と記載され(特許文献1の段落[0026]参照)、加熱温度及び加熱時間の具体例として、120℃、2.5分間が記載されている(特許文献1の段落[0033]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-266397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、研磨物品の分野では、研磨性能(切削性能)に優れ、しかも研磨持続性に優れた研磨物品の開発が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、特許文献1に記載のものとは異なるアプローチにより、良好な目詰まり防止効果が発揮され、且つ、目詰まり防止効果の持続性向上に貢献できる研磨物品を提供しようとするものである。本発明はまた、前記研磨物品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る研磨物品は、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜が研磨粒子層上に形成されている研磨物品であって、前記目詰まり防止被膜が分子配向に規則性を有することを特徴とする(請求項1)。本発明において、「結合樹脂」は樹脂だけでなくゴムも含むものである。
【0008】
本発明の研磨物品によれば、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜が研磨粒子層上に形成されることで、研磨粒子層において研磨粒子間の空間へ被研磨体の削り屑が入り込むことが阻止される。これにより、良好な目詰まり防止効果が奏される。加えて、目詰まり防止被膜が分子配向に規則性を有することで、目詰まり防止被膜を形成する各分子の距離が近づき分子間相互作用が強く働く構造となり、目詰まり防止被膜が剛直な固体となる。同時に、目詰まり防止被膜と下地との隙間も極めて少なくなるため相互の密着性が大幅に向上する。これらの要因により、目詰まり防止被膜の耐久性が向上し、目詰まり防止効果の持続性向上に貢献できる。
【0009】
実施の一形態として、前記研磨粒子層上に前記目詰まり防止被膜を形成した後に前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度で加熱することで前記金属塩の分子配向に規則性が形成され、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である態様としてもよい(請求項2)。
【0010】
実施の一形態として、前記研磨粒子層上に前記目詰まり防止被膜を形成した後に前記金属塩の融点以上の加熱温度で加熱することで前記金属塩の分子配向に規則性が形成され、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である態様としてもよい(請求項3)。
【0011】
実施の一形態として、前記加熱温度での加熱時間が10分間以上である態様としてもよい(請求項4)。
【0012】
実施の一形態として、前記加熱温度での加熱時間が30分間以上である態様としてもよい(請求項5)。
【0013】
実施の一形態として、前記金属塩は、前記結合樹脂のガラス転移温度と非常に近い融点を持つ長鎖脂肪酸金属塩である態様としてもよい(請求項6)。
【0014】
本発明に係る研磨物品の製造方法は、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記目詰まり防止被膜の分子配向に規則性が得られるまで所定の加熱温度で所定の加熱時間加熱する工程と、を備えることを特徴とする(請求項7)。
【0015】
実施の一形態として、前記所定の加熱温度は、前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度であり、前記所定の加熱時間が10分間以上であり、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である態様としてもよい(請求項8)。
【0016】
また、本発明の他の実施の一形態に係る研磨物品の製造方法は、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記金属塩と前記結合樹脂の双方に流動性を持たせた状態を10分間以上継続する工程と、を備えるものであってもよい(請求項9)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の一形態に係る研磨物品の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施の一形態に係る研磨物品1は、紙、布、樹脂フィルム等からなる基材2と、この基材2の表面に接着剤3で接着される研磨粒子4と、研磨粒子4の層(以下、研磨粒子層という。)上に形成される目詰まり防止被膜5と、を備える。接着剤3は、基材2の表面に薄く形成される基礎接着剤層3aと、この基礎接着剤層3aに研磨粒子4を付着させた後にその上に形成される上引き接着剤層3bとを形成する。基礎接着剤層3aと上引き接着剤層3bは、それぞれ複数の樹脂種や複数の樹脂層で形成してもよい。目詰まり防止被膜5は、研磨により生じる削り屑が研磨粒子4間の空間に入り込んで研磨を阻害するいわゆる「目詰まり現象」を起こしにくくするための被膜である。目詰まり防止被膜5は、研磨粒子4間の空間を埋めるように上引き接着剤層3bの上に形成される。
【0020】
本実施の一形態の研磨物品1において、基材2と接着剤3と研磨粒子4によって従来と同様の研磨布紙が構成される。すなわち、従来の研磨布紙に対して目詰まり防止被膜5を施したものが、本実施の一形態の研磨物品1である。
【0021】
以下、目詰まり防止被膜5について詳述する。本実施の一形態の目詰まり防止被膜5は、金属塩と結合樹脂とを含んで成る被膜であり、分子配向に規則性を有することを特徴とする。すなわち、目詰まり防止被膜5は、金属塩と結合樹脂とを用いて形成される被膜形成用組成物に対して、該組成物の構成分子の配向に規則性が現れるように所定の加熱処理を施したものである。ここで、所定の加熱処理とは、被膜形成用組成物を構成する金属塩と結合樹脂の双方に流動性が現れる加熱温度で、好ましくは10分間以上、さらに好ましくは30分間以上加熱することをいう。加熱時間に上限はなく、長ければ長いほど好ましい。所定の加熱処理は、例えば、研磨布紙の研磨粒子層上に被膜形成用組成物を塗布又は塗工した後に、その全体をオーブン等の加熱室内に収容して行われる。
【0022】
被膜形成用組成物は、少なくとも、金属塩と結合樹脂とを含む。金属塩は、脂肪酸の金属塩であり、具体的には長鎖脂肪酸の金属塩である。脂肪酸の種類については特に制限はないが、脂肪酸の金属塩としては、常温で固体であるものを用いることが好ましく、炭素数が8以上のものが好ましい。例えば、使用できる飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸などが使用できる。不飽和脂肪酸としては、セバシン酸、ウンデシレン酸、デセン酸、オレイン酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、などが挙げられる。これらの中で、好ましい脂肪酸は、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、セバシン酸、ウンデシレン酸であり、特に好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸である。
【0023】
また、脂肪酸の金属塩を構成する金属の例としては、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、銀などが挙げられる。好ましくは、カルシウム、亜鉛、マグネシウムである。
【0024】
特に好ましい脂肪酸の金属塩として、パルミチン酸金属塩、ステアリン酸金属塩、12-ヒドロキシステアリン酸金属塩、リシノール酸金属塩、2-ヒドロキシオクタン酸金属塩、2-ヒドロキシヘキサデカン酸金属塩などが挙げられる。この中でも、パルミチン酸金属塩、ステアリン酸金属塩、12-ヒドロキシステアリン酸金属塩が特に好ましい。金属塩は、複数種類の金属塩を混合したものであってもよい。
【0025】
結合樹脂は、目詰まり防止被膜を形成するための組成物に従来から使用されている樹脂又はゴム(したがって、本明細書において、「結合樹脂」は樹脂だけでなくゴムも含むものである。)の内で、被膜形成用組成物に用いられる金属塩を流動化させ得る加熱温度で流動性を有する樹脂又はゴムが使用される。したがって、具体的な結合樹脂は、使用される金属塩の種類に応じて選択・決定される。結合樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのアルキルセルロース樹脂、アクリル樹脂、アルキルアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、スチレンブタジエンゴム、ブタンジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、メチルブタジエンゴムなどが挙げられる。結合樹脂は2種類以上の樹脂やゴムを混合して用いてもよい。
【0026】
被膜形成用組成物は、前記のような脂肪酸の金属塩と結合樹脂とを混合して調製される。被膜形成用組成物には、必要に応じて、液媒体を加えてもよい。液媒体としては、水を主成分として含む水性媒体を挙げることができるが、これに限定されないことは勿論である。トルエン、キシレン、酢酸エチルなどを用いてもよい。さらに、必要であれば、従来から知られている添加剤等を通常使用される量混入してもよい。添加剤の例としては、界面活性剤、可塑剤、静電防止剤、加湿剤、色素、顔料、フィラーなどが挙げられる。
【0027】
被膜形成用組成物は、研磨布紙の研磨粒子層上に塗布又は塗工される。その後、被膜形成用組成物が塗布又は塗工された状態の研磨布紙に対して、所定の加熱処理が施される。この所定の加熱処理は、研磨布紙上に塗布又は塗工された被膜形成用組成物中の金属塩と結合樹脂の分子配向に規則性を現出させるために行うものである。そのために必要なことは、被膜形成用組成物を構成する金属塩と結合樹脂の双方を流動化させることができる加熱温度で加熱することである。
【0028】
具体的な加熱温度は、使用される金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度であることが好ましく、さらに好ましくは、使用される金属塩の融点以上の加熱温度とする。使用する金属塩によって融点が異なるので、金属塩の種類に応じて好ましい加熱温度が決まることになる。併せて、結合樹脂として、金属塩の種類に応じて決まる前記加熱温度で流動性を有する樹脂を選択することで、金属塩と結合樹脂の双方を流動化させることができる。これにより、被膜形成用組成物中の金属塩と結合樹脂の分子配向に規則性を現出させることができる。但し、加熱温度には上限があり、使用する金属塩及び使用する結合樹脂の分解温度、昇華温度、沸点を超える温度を加熱温度とすることができないのは勿論である。
【0029】
発明者等の検討によれば、「融点降下」という化学的現象により、金属塩単体の融点から20℃程度を減じた温度以上の加熱であれば、金属塩に流動性が発現することが確認できた。このため、加熱温度は、使用される金属塩の融点から20℃を減じた温度以上であれば有効であるといえる。勿論、使用される金属塩の融点以上の加熱温度であれば問題はない。なお、複数種類の金属塩を配合して被膜形成用組成物が形成される場合には、すべての金属塩の融点との関係で、前記加熱温度の条件が満たされていることが好ましい。
【0030】
なお、加熱温度は、被膜形成用組成物を構成する金属塩と結合樹脂の双方を流動化させ得る温度のうち、できるだけ低い温度とするのが好ましい。必要以上に高温にするのはエネルギーの無駄使いであり、コスト上も不利だからである。
【0031】
金属塩と結合樹脂の材料選定に当たっては、「結合樹脂が流動性を発現する温度(ガラス転移温度又は融点)」≦「金属塩の融点」となる材料の組み合わせにすると、取扱性がよいので好ましい。さらに、より好ましくは、「結合樹脂が流動性を発現する温度(ガラス転移温度又は融点)」≒「金属塩の融点」となる材料の組み合わせにするのがよい。
【0032】
好適な加熱温度は、使用する金属塩と使用する結合樹脂の具体的な組み合わせにも依存する。例えば、パルミチン酸亜鉛(融点:125~135℃)とエチルセルロース(ガラス転移温度:130℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は120℃以上、ステアリン酸亜鉛(融点:125~130℃)とエチルセルロース(ガラス転移温度:130℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は120℃以上、ステアリン酸カルシウム(融点:140~150℃)とポリカーボネート(ガラス転移温度:150℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は145℃以上、ステアリン酸リチウム(融点:205~220℃)とポリイミド(ガラス転移温度:210℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は215℃以上、ステアリン酸ナトリウム(融点:210~230℃)とポリエーテルイミド(ガラス転移温度:225℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は220℃以上、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛(融点:146~153℃)とポリカーボネート(ガラス転移温度:150℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は140℃以上、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム(融点:148~155℃)とポリカーボネート(ガラス転移温度:150℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は145℃以上、ラウリン酸亜鉛(融点:125~131℃)とエチルセルロース(ガラス転移温度:130℃前後)との組み合わせの場合には、加熱温度は115℃以上とするのが好ましい。
【0033】
前述の具体例から分かるように、金属塩と結合樹脂の組み合わせは、使用する結合樹脂のガラス転移温度と非常に近い融点を持つ長鎖脂肪酸金属塩を選択するのが好ましい。
【0034】
所定の加熱処理により被膜形成用組成物の分子配向に規則性が現出したか否かは、薄膜XRD測定の結果から判断できる。回折角度に対して規則的な回折強度のピークが見られた場合に、目詰まり防止被膜内部の分子配向(結晶構造)が規則性を有していると判断できる。無秩序な状態であれば、規則性の皆無なピークあるいはピーク自体が見られないなどの測定結果が得られる。
【0035】
なお、先行技術文献として掲げた前記特許文献1には、「目詰まり防止組成物を研磨面へ付着させた後、好ましくは、結合樹脂が膜化するのに適当な温度および時間加熱して乾燥させる。加熱条件は、適宜決定すればよい。」(段落[0026]参照)と記載され、加熱温度及び加熱時間の具体例として、120℃、2.5分間が記載されている(段落[0033]参照)。しかし、本発明における所定の加熱処理は、結合樹脂と金属塩粉末の双方に流動性を与える加熱処理であり、結合樹脂と金属塩の分子レベルの混合膜を形成する(ひび割れや粒子がほとんど見られない外観の被膜を形成する)点で、前記特許文献1に記載の加熱とは明確に異なる。
【0036】
また、特開2006-22272号公報には、「最外側面に目詰まり防止被膜を有する研磨材において、該目詰まり防止被膜は、目詰まり防止剤および結合樹脂を含有し、該結合樹脂はひび割れを伴って膜化されており、該ひび割れによって該目詰まり防止被膜の表面全体に網目状の微細構造が形成されている、研磨材。」(同公報の請求項1)について開示されている。
【0037】
これに対し、本発明は、結合樹脂と金属塩の分子レベルの混合膜を形成するものであり、可能な限り均一な混合物の被膜を作製することを目的としている。そのため、本発明では、前記公報に記載のもののような微細なヒビ割れの網目構造は発生しない。本発明は、目詰まり防止被膜の表面の凹凸(ヒビ割れ等)を極力減らすことで削り屑が付着する要素をできるだけ排除する構想で(主に表面積の最小化を目指して)生まれたものである。そのために、本発明では、使用される金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度で、より好ましくは、使用される金属塩の融点以上の加熱温度で加熱処理をする。また、前記公報の段落[0023]には、「加熱時間が30分を越えると目詰まり防止剤組成物の劣化、変色、膜の均一化を引き起こす原因となる。」との記載があるが、本発明では、30分を超える加熱を行っても悪影響は発生しないことが確認されている。前記公報に記載の目詰まり防止被膜と比べると、本発明のものは、平坦な表面を有する目詰まり防止被膜である点で異なっており、また、均一な被膜を形成する技術である点で異なっており、加熱時間、加熱温度に実質的な上限はないと言える点で異なっている。
【0038】
本実施の一形態の研磨物品によれば、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜が研磨粒子層上に形成されることで、研磨粒子層において研磨粒子間の空間へ被研磨体の削り屑が入り込むことが阻止される。これにより、良好な目詰まり防止効果が奏される。
【0039】
また、本実施の一形態によれば、加熱処理により目詰まり防止被膜を流動化させる工程を経ることで、目詰まり防止被膜の表面の凹凸が極めて少なくなる。これにより、研磨物品の表面(切削面)への削り屑の付着が抑制され、目詰まり防止効果が一層向上する。すなわち、被研磨体表面の構成要素が粘性の高いものである場合(高分子塗膜の大半と軟質金属の一部の削り屑は粘性が高い)、切削された極めて小さな一粒子でも研磨物品の表面に付着すると、付着した削り屑に次々と削り屑が付着して成長して(大きくなって)いく。この現象は、目詰まり防止被膜の表面に凹凸が多い場合に、より顕著となる。その結果、研磨物品の研磨粒子が被研磨体に接触しなくなって切削性が低下したり、研磨物品表面に付着し成長した削り屑が被研磨体表面を引っ掻いてしまい被研磨体表面に深い傷が形成されたりする等の問題が生じる。これに対し、本実施の一形態の研磨物品によれば、加熱処理により目詰まり防止被膜を流動化させる工程を経ることで、目詰まり防止被膜の表面の凹凸が極めて少なくなるので、研磨物品の切削面への削り屑の付着が抑制され、目詰まり防止効果が一層向上する。これにより切削性が低下しにくいほか、削り屑による被研磨体表面の損傷等の問題も起こりにくい。
【0040】
加えて、目詰まり防止被膜が金属塩と結合樹脂の双方の分子配向に規則性を有することで、被膜中の分子同士の距離が近づき分子間相互作用が強く働く構造となり、目詰まり防止被膜が剛直な固体となる。同時に、目詰まり防止被膜と下地との隙間も極めて少なくなるため相互の密着性が大幅に向上する。これらの要因により、目詰まり防止被膜の耐久性が向上し、目詰まり防止効果の持続性向上に貢献できる。
【0041】
本実施の一形態の研磨物品によれば、これまで研磨布紙に目詰まりを起こしやすいと言われてきたプラスチックや柔らかい金属などの研磨対象を研磨する場合に、出願人の従来の研磨布紙に対し、110~130%の研磨性能の持続性が確認できた。特に、塗料の研磨においては、出願人の従来の研磨布紙に対し、130~160%のきわめて高い研磨性能の持続性が確認できた。
【0042】
以上の説明から明らかであるが、本発明に係る研磨物品の製造方法は、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記目詰まり防止被膜の分子配向に規則性が得られるまで所定の加熱温度で所定の加熱時間加熱する工程と、を備えるものである。この製造方法において、好ましくは、前記所定の加熱温度は、前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度(より好ましくは、使用される金属塩の融点以上の加熱温度)であり、前記所定の加熱時間が10分間以上(より好ましくは30分間以上)である。
【0043】
また、本発明に係る研磨物品の製造方法は、次のように定義することもできる。すなわち、金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記金属塩と前記結合樹脂の双方に流動性を持たせた状態を10分間以上継続する工程と、を備える、研磨物品の製造方法である。前記所定の加熱温度で加熱を行うことで、目詰まり防止被膜を構成する金属塩と結合樹脂の双方に流動性を持たせた状態を得ることができる。そして、そのままの状態で(外力を与えずに)前記所定の加熱時間加熱を継続することで、前記作用効果を奏する研磨物品を得ることができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 研磨物品
4 研磨粒子
5 目詰まり防止被膜
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-10-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜が研磨粒子層上に形成されている研磨物品であって、前記目詰まり防止被膜が分子配向に規則性を有する、研磨物品。
【請求項2】
前記研磨粒子層上に前記目詰まり防止被膜を形成した後に前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度で加熱することで前記金属塩の分子配向に規則性が形成され、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である、請求項1に記載の研磨物品。
【請求項3】
前記研磨粒子層上に前記目詰まり防止被膜を形成した後に前記金属塩の融点以上の加熱温度で加熱することで前記金属塩の分子配向に規則性が形成され、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である、請求項1に記載の研磨物品。
【請求項4】
前記加熱温度での加熱時間が10分間以上である、請求項1,2又は3に記載の研磨物品。
【請求項5】
前記加熱温度での加熱時間が30分間以上である、請求項1,2又は3に記載の研磨物品。
【請求項6】
前記金属塩は、前記結合樹脂のガラス転移温度と非常に近い融点を持つ長鎖脂肪酸金属塩である、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨物品。
【請求項7】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記目詰まり防止被膜の分子配向に規則性が得られるまで所定の加熱温度で所定の加熱時間加熱する工程と、を備える、研磨物品の製造方法。
【請求項8】
前記所定の加熱温度は、前記金属塩の融点から20℃を減じた温度以上の加熱温度であり、前記所定の加熱時間が10分間以上であり、前記結合樹脂は、前記加熱温度で流動性を有する樹脂である、請求項7に記載の研磨物品の製造方法。
【請求項9】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記金属塩と前記結合樹脂の双方に流動性を持たせた状態を10分間以上継続する工程と、を備える、研磨物品の製造方法。
【請求項10】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜が研磨粒子層上に形成されている研磨物品であって、前記目詰まり防止被膜が分子配向に規則性を有し、前記金属塩と前記結合樹脂とが次の条件を満たしている、研磨物品。
(1)前記金属塩は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、セバシン酸、ウンデシレン酸、デセン酸、オレイン酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸から選択される少なくとも一つの脂肪酸と、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、銀から選択される少なくとも一つの金属と、を含むものであること。
(2)前記結合樹脂は、アルキルセルロース樹脂、アクリル樹脂、アルキルアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、スチレンブタジエンゴム、ブタンジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、メチルブタジエンゴムから選択される少なくとも一つであって、前記金属塩を流動化させ得る加熱温度で流動性を有するものであること。
【請求項11】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記目詰まり防止被膜の分子配向に規則性が得られるまで所定の加熱温度で所定の加熱時間加熱する工程と、を備え、前記金属塩と前記結合樹脂とが次の条件を満たしている、研磨物品の製造方法。
(1)前記金属塩は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、セバシン酸、ウンデシレン酸、デセン酸、オレイン酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸から選択される少なくとも一つの脂肪酸と、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、銀から選択される少なくとも一つの金属と、を含むものであること。
(2)前記結合樹脂は、アルキルセルロース樹脂、アクリル樹脂、アルキルアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、スチレンブタジエンゴム、ブタンジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、メチルブタジエンゴムから選択される少なくとも一つであって、前記金属塩を流動化させ得る加熱温度で流動性を有するものであること。
【請求項12】
金属塩と結合樹脂とを含む目詰まり防止被膜を研磨粒子層上に形成する工程と、前記金属塩と前記結合樹脂の双方に流動性を持たせた状態を、外力を与えずに10分間以上継続する工程と、を備え、前記金属塩と前記結合樹脂とが次の条件を満たしている、研磨物品の製造方法。
(1)前記金属塩は、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、セバシン酸、ウンデシレン酸、デセン酸、オレイン酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸から選択される少なくとも一つの脂肪酸と、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、銀から選択される少なくとも一つの金属と、を含むものであること。
(2)前記結合樹脂は、アルキルセルロース樹脂、アクリル樹脂、アルキルアミド樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、スチレンブタジエンゴム、ブタンジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、メチルブタジエンゴムから選択される少なくとも一つであって、前記金属塩を流動化させ得る加熱温度で流動性を有するものであること。