(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005769
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 27/15 20060101AFI20230111BHJP
C08F 230/00 20060101ALI20230111BHJP
C08F 210/14 20060101ALI20230111BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20230111BHJP
C08L 23/20 20060101ALN20230111BHJP
C08L 101/00 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
A47C27/15 A
C08F230/00
C08F210/14
B60N2/90
C08L23/20
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107942
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野間 賢士
(72)【発明者】
【氏名】植草 貴行
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】榎本 健史
(72)【発明者】
【氏名】菊池 昭一
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 和宏
(72)【発明者】
【氏名】オラフ ハートマン
(72)【発明者】
【氏名】アラー ハッソーナ
【テーマコード(参考)】
3B087
3B096
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3B087DE03
3B096AD06
4J002BB032
4J002BB052
4J002BB122
4J002BB142
4J002BB152
4J002BB171
4J002BB182
4J002BB242
4J002BN152
4J002CF062
4J002CL012
4J002CL032
4J002CL092
4J100AA02Q
4J100AA03Q
4J100AA04Q
4J100AA07Q
4J100AA17P
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA13
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】体圧が分散され、座り心地がよい椅子を提供する。
【解決手段】椅子は、表側から順に配置された座面側表皮層、座面側形状記憶樹脂層および座面側第1クッション層を備える座面と、表側から順に配置された背もたれ側表皮層、背もたれ側形状記憶樹脂層および背もたれ側第1クッション層を備える背もたれと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側から順に配置された座面側表皮層、座面側形状記憶樹脂層および座面側第1クッション層を備える座面と、
表側から順に配置された背もたれ側表皮層、背もたれ側形状記憶樹脂層および背もたれ側第1クッション層を備える背もたれと、
を備える、椅子。
【請求項2】
着座者が着座時に前記座面および前記背もたれに加える荷重の合計に対する、着座者の臀部によって加えられる荷重の比率が20.0%以上35.0%以下であり、着座者の大腿部中央部によって加えられる荷重の比率が7.0%以上20.0%以下であり、着座者の大腿部前方部によって加えられる荷重の比率が1.1%以上3.0%以下である、
請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
着座者の臀部にかかる圧力の最大値が13kPa以下であり、着座者の大腿部中央部にかかる圧力の最大値が9kPa以下である、
請求項1または2に記載の椅子。
【請求項4】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方は、所定の特性を有する形状記憶樹脂層によって形成されており、
前記所定の特性は、前記形状記憶樹脂を押出成形して得たシートを厚さが10mmとなるように重ね合わせることで得られる試験片のJISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度が15以上40以下であり、30℃で測定されるショアA硬度が23℃で測定されるショアA硬度よりも5以上低い、という特性である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項5】
前記座面側形状記憶樹脂層または前記背もたれ側形状記憶樹脂層から幅25mm、長さ100mmに切り出した試験片の以下の条件における初期荷重残存率が10%以上50%以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の椅子。
<条件>
・測定機器:引張試験機(万能引張試験機3380、インストロン製)
・測定温度:23℃
・測定条件:チャック間距離を30mm、引張速度を300mm/minとして、試験片をTD方向に50%伸長させた直後の引張荷重(N/25mm)、および、50%伸長させてから60秒後の引張荷重(N/25mm)を測定し、以下の式より算出
・初期荷重残存率(%)=60秒後の引張荷重÷直後の引張荷重
【請求項6】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方は、第2の所定の特性を有する形状記憶樹脂層によって形成されており、
前記第2の所定の特性は、前記形状記憶樹脂を押出成形して得たシートを厚さが10mmとなるように重ね合わせることで得られる試験片のJISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度が、前記座面側第1クッション層または前記背もたれ側第1クッション層のJISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度よりも高い、
請求項1から5のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項7】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方へのショアA硬度計の押針の接触の直後における、JISK6253に準拠し、23℃にて測定されるショアA硬度の値から、前記接触から15秒後における、JISK6253に準拠し、23℃にて測定されるショアA硬度の値を引いた値(ΔHS)が、10以上40以下である、
請求項1から6のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項8】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方は、昇温速度4℃/min、周波数1.59Hz、歪量0.1%の条件での動的粘弾性測定により求められる、損失正接(tanδ)の極大値を示す温度が少なくとも10℃以上100℃以下の範囲に1つ以上あり、かつ、前記損失正接の極大値が0.5以上3.5以下である形状記憶樹脂によって構成されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項9】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方の厚さは、0.1mm以上30mm以下である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項10】
前記座面側形状記憶樹脂層は、前記背もたれ側形状記憶樹脂層よりも厚い、
請求項1から9のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項11】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方は、発泡体で形成されており、かつ、密度が0.10g/cm3以上1.0g/cm3以下である、
請求項1から10のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項12】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方は、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む形状記憶樹脂によって構成されている、
請求項1から11のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項13】
前記座面側形状記憶樹脂層および前記背もたれ側形状記憶樹脂層の少なくとも一方の厚さは、1mm以上10mm以下である、
請求項12に記載の椅子。
【請求項14】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体は、4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位と4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2~3の直鎖状α-オレフィン由来の構成単位とを含む、
請求項12または13に記載の椅子
【請求項15】
4-メチル-1-ペンテン由来の前記構成単位と、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2~3の直鎖状α-オレフィン由来の前記構成単位の合計を100モル%としたとき、4-メチル-1-ペンテン由来の前記構成単位の含有量は、10モル%以上90モル%以下である、
請求項14に記載の椅子。
【請求項16】
前記座面側第1クッション層および前記背もたれ側第1クッション層の少なくとも一方は、ポリウレタンの発泡体によって形成されている、
請求項1から15のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項17】
前記座面側第1クッション層および前記背もたれ側第1クッション層の少なくとも一方は、反発弾性率が互いに異なり、かつ、それぞれ厚さが10mm以上150mm以下である複数のポリウレタン発泡体層を積層させた積層体によって形成されている、
請求項1から16のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項18】
前記座面側第1クッション層と前記背もたれ側第1クッション層は互いに異なる材質で形成されている、
請求項1から17のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項19】
前記座面の反発弾性率は、前記背もたれの反発弾性率よりも大きい、
請求項1から18のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項20】
前記座面側表皮層と前記座面側形状記憶樹脂層との間に配置され、厚さが0.1mm以上10mm以下である座面側第2クッション層、および、前記背もたれ側表皮層と前記背もたれ側形状記憶樹脂層との間に配置され、厚さが0.1mm以上10mm以下である背もたれ側第2クッション層の少なくとも一方をさらに備える、
請求項1から19のいずれか一項に記載の椅子。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか一項に記載の椅子によって構成された乗り物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1および特許文献2に記載されているように、従来、体圧が分散される椅子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-000392号公報
【特許文献2】特表2015-522842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
体圧が分散されることにより、椅子の座り心地がよくなる。よって、体圧の分散の向上が求められる。本開示は、体圧が分散され、座り心地がよい椅子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る椅子は、座面側表皮層、座面側形状記憶樹脂層および座面側第1クッション層が表側から順に配置されている座面と、背もたれ側表皮層、背もたれ側形状記憶樹脂層および背もたれ側第1クッション層が表側から順に配置されている背もたれと、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、体圧が分散され、座り心地がよい椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。以下の説明では、本開示に係る椅子の代表例として、自動車用シートについて説明する。ただし、本開示に係る椅子は、自動車用シートには限られず、自動車以外の乗り物用シート、例えば、航空機用シート、鉄道用シート、船舶用シート、または、車椅子用シートであってもよい。また、本開示に係る椅子は、屋内または屋外で使用される据え置き型の椅子、例えば、オフィス用チェア、ゲーミングチェア、ダイニングチェア、ソファ、座椅子、キャンプ用チェアであってもよい。
【0009】
図1は、本開示に係る椅子1の正面図である。椅子1は、座面10と背もたれ20を備えている。
【0010】
図2は、椅子1の模式的な縦断面図である。座面10は、表側つまり着座者が接触する側から順に、座面側表皮層11、座面側形状記憶樹脂層12および座面側第1クッション層13を備えている。また、背もたれ部20は、表側つまり着座者が接触する側から順に、背もたれ側表皮層21、背もたれ側形状記憶樹脂層22および背もたれ側第1クッション層23を備える。以下、座面側表皮層11および背もたれ側表皮層21をまとめて表皮層と記載することがある。また、座面側形状記憶樹脂層12および背もたれ側形状記憶樹脂層22をまとめて形状記憶樹脂層と記載することがある。また、座面側第1クッション層13および背もたれ側第1クッション層23をまとめて第1クッション層と記載することがある。
【0011】
(表皮層)
座面側表皮層11および背もたれ側表皮層21は、着座者が接触する部分であり、また、着座者等の使用者に目視される部分である。座面側表皮層11および背もたれ側表皮層21を構成する素材として、風合い、伸縮性および触感、防汚性および難燃性などが適した素材が選択される。例えば、織布、不織布、編布、合成皮革または天然皮革もしくはそれらの組み合わせが選択される。
【0012】
(形状記憶樹脂層)
座面側形状記憶樹脂層12および背もたれ側形状記憶樹脂層22は、着座者が椅子1に座ることで座面10および背もたれ20に荷重が加わったときに、着座者の体温や、シートヒーターなどの熱源などの熱が伝わることで温められ軟化するため着座者の体の形状に合わせて変形し、かつ、着座者が座っている間、変形後の形状を維持(記憶)する層である。換言すれば、座面側形状記憶樹脂層12および背もたれ側形状記憶樹脂層22は、形状追従性を有する層である。なお、以下に説明する形状記憶樹脂層の特性の全てを、座面側形状記憶樹脂層12と背もたれ側形状記憶樹脂層22の両方が備えている必要はなく、一部の特性を座面側形状記憶樹脂層12が備え、同じ又は他の一部の特性を背もたれ側形状記憶樹脂層22が備えていてもよい。ただし、座面側形状記憶樹脂層12と背もたれ側形状記憶樹脂層22の両方が、以下に説明する特性のより多くを備えることによって、椅子1の体圧分散性能はより良好となり、ひいては、椅子1の座り心地はより良好となる。
【0013】
形状記憶樹脂層へのショアA硬度計の押針の接触の直後における、JISK6253に準拠して測定されるショアA硬度の値を値1とし、値1を得るときの押針の接触から15秒後における、JISK6253に準拠して測定されるショアA硬度の値を値2とした場合、値1から値2を引いた値は、10以上40以下であることが好ましい。値1から値2を引いた値が10以上40以下である形状記憶樹脂層を用いることにより、体圧分散性能が良好な座面10および背もたれ20を得ることができる。
【0014】
また、形状記憶樹脂層は、昇温速度4℃/min、周波数1.59Hz、歪量0.1%の条件での動的粘弾性測定により求められる、損失正接(tanδ)の極大値を示す温度が少なくとも10℃以上100℃以下の範囲に1つ以上あり、かつ、この損失正接の極大値が0.5以上3.5以下である形状記憶樹脂によって構成されていることが好ましい。このような特性を備える形状記憶樹脂層は、着座者の体温や、シートヒーターなどの熱源などの熱が伝わり、形状記憶樹脂層が15~40℃に温められると、着座者の身体に程よくフィットするような柔軟性を持ち、着座者の身体の各部位への形状追従性が良好となる。よって、体圧分散性能が良好である座面10および背もたれ20を得ることができる。
【0015】
このような柔軟性および形状追従性が得られる理由の詳細は明らかではないが、以下のように考えられる。まず、周波数1.59Hzという比較的低周波数領域での損失正接(tanδ)を高くすることによって、瞬間的な衝撃などの力と比較して時間をかけてかかる力(遅い力ともいう)に対しては追従しやすくなる。そのため、着座者の体重によって生じる静的な力、つまり、着座時に付加される遅い力により、形状記憶樹脂層の表面形状が着座者の体の形状に追従すると推測される。
【0016】
さらに、10℃以上100℃以下の範囲において損失正接の極大値が上記範囲内である形状記憶樹脂層は、変形する際に与えられる力学的エネルギーの多くを熱エネルギーに変換でき、エネルギーを多く吸収できるため、変形後の復元速度が緩やかになると考えられる。つまり、変形以後の形状を維持しやすくなると考えられる。その結果、形状記憶樹脂層は、柔軟性を維持しながら、変形に良好に追従しつつ変形後の形状を維持でき、その結果、体圧が良好に分散されると考えられる。
【0017】
また、形状記憶樹脂層の厚さは、0.1mm以上30mm以下であることが好ましい。0.1mm以上とすることにより、形状記憶樹脂層の十分な形状維持性を得ることができる。また、30mm以下とすることにより、着座者の熱が形状記憶樹脂層の厚さ方向の全体に迅速に伝わり、形状記憶樹脂層が着座者の体の形状に合わせて迅速に変形することができる。つまり、形状記憶樹脂層の十分な形状追従性を得ることができる。また、着座者が椅子1に座る際、構造上必然的に、背もたれ20よりも座面10に大きな荷重がかかり、背もたれ20における接触圧よりも座面10における接触圧が高くなる。接触圧が高くなるので、形状維持性が要求される。そこで、座面側形状記憶樹脂層12を、背もたれ側形状記憶樹脂層22よりも厚くしてもよい。このようにすることで、座面側形状記憶樹脂層12の形状追従性と背もたれ側形状記憶樹脂層22の形状追従性をいずれも最適な状態にすることができ、ひいては椅子1の座り心地をよくすることができる。
【0018】
また、形状記憶樹脂層は、発泡体で形成されており、かつ、密度が0.10g/cm3以上1.0g/cm3以下であることが好ましい。形状記憶樹脂層を発泡体とすることによって、形状記憶樹脂層の柔軟性を向上させることができる。また、形状記憶樹脂層の密度を0.10g/cm3以上1.0g/cm3以下とすることによって、軟らかすぎず硬すぎない適切な柔軟性を得ることができる。
【0019】
形状記憶樹脂層は、通気性の観点からネット、メッシュ、不織布、織布であっても良いし、貫通孔を有していても良い。貫通孔を有する場合、座り心地を良くする観点から均一なパターンとすることが好ましく、孔の形状としては60°千鳥、45°千鳥、丸孔並列、角孔千鳥、角孔並行、長孔並列、長孔千鳥、亀甲、○十など挙げられ、孔の長径としては0.1~10mmの範囲から適宜選択することが出来る。
【0020】
形状記憶樹脂層は、例えば、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む樹脂で形成することができる。4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む樹脂を用いることにより、昇温速度4℃/min、周波数1.59Hz、歪量0.1%の条件での動的粘弾性測定により求められる、損失正接(tanδ)の極大値を示す温度が少なくとも10℃以上100℃以下の範囲に1つ以上あり、かつ、この損失正接の極大値が0.5以上3.5以下である形状記憶樹脂層を形成することができる。この場合、形状記憶樹脂層の厚さは、1mm以上10mm以下であることが好ましい。このような材料および厚さとすることにより、表皮層、形状記憶樹脂層および第1クッション層の積層体は、適切な体圧分散性を発揮することができる。
【0021】
具体的には、形状記憶樹脂層を形成する4-メチル-1-ペンテン系重合体は、4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位(c1)と4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2~3の直鎖状α-オレフィン由来の構成単位(c2)とを含むことが好ましい。
【0022】
(4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1))
本実施形態に係る形状記憶樹脂層は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)を含有する。これにより、損失正接(tanδ)の極大値をより大きくすることができる。本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)としては、例えば、4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位(c1)と、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数2~20のα-オレフィン由来の構成単位(c2)とを含む4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(c)が挙げられる。本実施形態において、「炭素原子数2~20のα-オレフィン」は、特に断らない限り4-メチル-1-ペンテンを含まない。
【0023】
本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(c)は、形状記憶樹脂層の柔軟性および形状追従性をより向上させる観点から、構成単位(c1)と構成単位(c2)との合計を100モル%としたとき、構成単位(c1)の含有量が10モル%以上90モル%以下であり、構成単位(c2)の含有量が10モル%以上90モル%以下であることが好ましい。
【0024】
また、本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(c)は、形状記憶樹脂層の柔軟性および機械的特性等をより良好にする観点から、構成単位(c1)と構成単位(c2)との合計を100モル%としたとき、構成単位(c1)の含有量が30モル%以上90モル%以下であり、構成単位(c2)の含有量が10モル%以上70モル%以下であることがより好ましく、構成単位(c1)の含有量が50モル%以上90モル%以下であり、構成単位(c2)の含有量が10モル%以上50モル%以下であることがさらに好ましく、構成単位(c1)の含有量が60モル%以上90モル%以下であり、構成単位(c2)の含有量が10モル%以上40モル%以下であることがさらにより好ましく、構成単位(c1)の含有量が65モル%以上90モル%以下であり、構成単位(c2)の含有量が10モル%以上35モル%以下であることが特に好ましい。
【0025】
本実施形態において、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(c)に用いられる炭素原子数2~20のα-オレフィンとしては、例えば、直鎖状又は分岐状のα-オレフィン、環状オレフィン、芳香族ビニル化合物、共役ジエン、官能基化ビニル化合物等が挙げられ、直鎖状のα-オレフィンが好ましい。
【0026】
直鎖状のα-オレフィンの炭素原子数は、好ましくは2~10、より好ましくは2~3である。直鎖状α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン等が挙げられ、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンおよび1-デセンから選択される一種または二種以上が好ましく、エチレンおよびプロピレンから選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0027】
これらの炭素原子数2~20のα-オレフィンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でもエチレン、プロピレンが好適であるが、プロピレンを使用すると、柔軟性等をより良好にできる点で特に好ましい。
【0028】
なお、4-メチル-1-ペンテン・α-オレフィン共重合体(c)は、本開示の目的を損なわない範囲で、構成単位(c1)と構成単位(c2)以外の構成単位を含んでいてもよい。その他の構成としては、非共役ポリエン由来の構成単位が挙げられる。非共役ポリエンとしては、炭素原子数が好ましくは5~20、より好ましくは5~10の直鎖状、分岐状又は環状のジエン、各種のノルボルネン、ノルボルナジエン等が挙げられる。これらの中でも、5-ビニリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネンが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン系重合体の135℃のデカリン中での極限粘度[η]は、形状記憶樹脂層の柔軟性や機械的強度をより良好にする観点から、0.01~5.0dL/gであることが好ましく、0.1~4.0dL/gであることがより好ましく、0.5~3.0dL/gであることがさらに好ましく、1.0~2.8dL/gであることが特に好ましい。
【0030】
本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン系重合体のASTM D 1505(水中置換法)に従って測定された密度は、好ましくは0.810~0.850g/cm3、より好ましくは0.820~0.850g/cm3、さらに好ましくは0.830~0.850g/cm3である。
【0031】
本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン系重合体は種々の方法により製造することができる。例えば、マグネシウム担持型チタン触媒;国際公開第01/53369号、国際公開第01/027124号、特開平3-193796号公報、および特開平02-41303号公報等に記載のメタロセン触媒;国際公開第2011/055803号に記載されるメタロセン化合物を含有するオレフィン重合触媒等の公知の触媒を用いて製造することができる。
【0032】
本実施形態に係る形状記憶樹脂層中の4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)の含有量は特に限定されないが、形状記憶樹脂層の全体を100質量%としたとき、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、さらにより好ましくは70質量%以上、ことさらに好ましくは75質量%以上であり、一方、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは99質量%以下、さらにより好ましくは98質量%以下、ことさらに好ましくは97質量%以下である。このような含有量により、衝撃吸収性、柔軟性、形状追従性、軽量性、機械的特性、取扱い性、外観、成形性、耐湿性等のバランスにより優れた形状記憶樹脂層を得ることができる。
【0033】
本実施形態に係る形状記憶樹脂層は、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)以外の成分を含んでもよい。
【0034】
(改質樹脂(a2))
本実施形態に係る形状記憶樹脂層は、形状記憶樹脂層の耐候性または耐久性を向上させる観点から、4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)に加えて、改質樹脂(a2)を含有してもよい。本実施形態に係る改質樹脂(a2)は、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびゴムから選択される1種または2種以上が挙げられる。ただし、改質樹脂(a2)は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)を除くものとする。
【0035】
上記の熱可塑性樹脂(ただし、本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)を除く)としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリオレフィン等の熱可塑性ポリオレフィン樹脂;脂肪族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612)、ポリエーテルブロックアミド共重合体等の熱可塑性ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル系樹脂;ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等の熱可塑性ビニル芳香族系樹脂;塩化ビニル樹脂;塩化ビニリデン樹脂;アクリル樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体;エチレン・メタクリル酸アクリレート共重合体;アイオノマー;エチレン・ビニルアルコール共重合体;ポリビニルアルコール;ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ETFE等のフッ素系樹脂;ポリカーボネート;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンサルファイド;ポリイミド;ポリアリレート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ロジン系樹脂;テルペン系樹脂;石油樹脂等が挙げられる。
【0036】
ゴムとしては、例えば、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体ゴム、プロピレン・α-オレフィン・ジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0037】
さらに、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、酸変性スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等が挙げられる。
【0038】
また、改質樹脂(a2)は、これまでに改質樹脂(a2)の例として例示されたものをアクリル酸やメタクリル酸、マレイン酸等により酸変性したものであってもよい。
【0039】
改質樹脂(a2)は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
改質樹脂(a2)としては、これらの中でも、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン共重合体から選択される一種または二種以上が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体、1-ブテン・α-オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエーテルブロックアミド、アイオノマー、フッ素系樹脂、酸変性フッ素系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂およびスチレン系エラストマーから選択される一種または二種以上で、添加により溶融張力を向上させるものがより好ましい。
【0041】
また、本実施形態に係る4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)と適度な相容性があるものがさらに好ましい。スチレン系エラストマーの中の、例えば、クラレ社製のビニルSIS(製品名:ハイブラー、銘柄5127)、ビニルSEPS(製品名:ハイブラー、銘柄7125)、および旭化成社製SEBS(製品名:S.O.E、銘柄:S1605、S1611、およびL609)は、相容性、損失正接の極大値を示す温度範囲、損失正接の極大値の大きさの観点から、改質樹脂(a2)として好ましい。
【0042】
本実施形態に係る形状記憶樹脂層中の改質樹脂(a2)の含有量は特に限定されないが、形状記憶樹脂層の全体を100質量%としたとき、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは3質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下、さらにより好ましくは30質量%以下、ことさらに好ましくは25質量%以下である。
【0043】
改質樹脂(a2)の含有量が上記下限値以上であると、本実施形態に係る形状記憶樹脂層と表皮層および第1クッション層との接着性をより良好にすることができる。改質樹脂(a2)の含有量が上記上限値以下であると、本実施形態に係る形状記憶樹脂層の表皮層および第1クッション層との接着性等の性能バランスをより良好にすることができる。
【0044】
(その他の成分)
本実施形態に係る形状記憶樹脂層は、必要に応じて、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、銅害防止剤、難燃剤、中和剤、可塑剤、造核剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、着色剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス等の添加剤を配合してもよい。これらの中でも、可塑剤、軟化剤、天然油および合成油は、適切な種類と添加量を選択することにより、本実施形態に係る形状記憶樹脂層の固体粘弾性の損失正接(tanδ)の極大値を示す温度および損失正接の極大値を調整することができる。
【0045】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(a1)を含む樹脂組成物は、各成分をドライブレンド、タンブラーミキサー、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機、高速二軸押出機、熱ロール等により混合または溶融・混練することにより調製することができる。
【0046】
(第1クッション層)
座面側第1クッション層13および背もたれ側第1クッション層23は、形状記憶樹脂層の裏側から着座者の体を支える部分であり、適度なクッション性を有している。
【0047】
第1クッション層は、例えば、ポリウレタンの発泡体によって形成することができる。
【0048】
また、第1クッション層は、単一のポリウレタン発泡層によって形成されもよいし、複数のポリウレタン発泡層を積層させた積層体によって形成されてもよい。第1クッション層が積層体である場合、各層を構成するポリウレタン発泡体の反発弾性率は互いに異なり、かつ、各層の厚さは10mm以上150mm以下であることが好ましい。このような積層体とすることにより、座面10および背もたれ20の全体としての厚さを、椅子1を構成する部材の厚さとして適切な範囲としつつ、どのような体重の着座者が座ったときにも、適度なクッション性を発揮することができる。
【0049】
また、着座者が椅子1に座る際、背もたれ20よりも座面10に大きな荷重がかかる。よって、座面側第1クッション層13を、背もたれ側第1クッション層23とは異なる材質で形成することで、座面10および背もたれ20がそれぞれ適切なクッション性を有し、ひいては適切に体圧を分散できるようにすることが好ましい。なお、背もたれ20がリクライニングすることができ、座面10とともにほぼ水平な支持面を形成することができる場合は、座面側第1クッション層13を背もたれ側第1クッション層23と同じ材質で形成することで、支持面全体が均等なクッション性を持つようにしてもよい。
【0050】
また、本開示に係る椅子1が備える座面10および背もたれ部20は、それぞれ、座面側第1クッション層13および背もたれ側第1クッション層23とは別に、座面側第2クッション層および背もたれ側第2クッション層を備えてもよい。座面側第2クッション層は、座面側表皮層11と座面側形状記憶樹脂層12の間に配置され、背もたれ側第2クッション層は、背もたれ側表皮層21と背もたれ側形状記憶樹脂層22の間に配置される。座面側第2クッション層および背もたれ側第2クッション層は、それぞれ、厚さが0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。0.1mm以上の厚さを有することにより、十分なクッション性を有することができる。また、10mm以下の厚さとすることにより、着座者から発せられる熱(体温)が、迅速に形状記憶樹脂層に伝わり、形状記憶樹脂層に適切な形状追従性を発揮させることができる。
【実施例0051】
次に本開示について、実施例を示してさらに詳細に説明する。ただし、本開示は、これらの実施例によって限定して解釈されるものではない。なお、表皮層は、風合い、伸縮性、触感、防汚性および難燃性などの観点からは重要な部材であるが、体圧分散性にはほとんど寄与しない部材であるので、実施例および比較例に係る椅子は、表皮層が設置されていない状態で、各種評価を受けた。換言すれば、各実施例および比較例に係る椅子に表皮層を設置しても、各実施例および比較例における各種計測結果および官能評価の結果と同様の結果が得られると合理的に推測することができる。
【0052】
[実施例1]
<材料>
(1)形状記憶樹脂層
実施例で用いた形状記憶樹脂層(座面側形状記憶樹脂層12および背もたれ側形状記憶樹脂層22)の原料として、4-メチル-1-ペンテン系重合体を用いた。その詳細は以下の通りである。
・4-メチル-1-ペンテンとプロピレンとの共重合体(4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位の含有量:72モル%、プロピレン由来の構成単位の含有量:28モル%)
・損失正接(tanδ)の極大値を示す温度Ta:28℃
・損失正接の極大値:2.6
・ガラス転移温度:28℃
・135℃のデカリン中での極限粘度[η]:1.5dL/g
・MFR(JISK7210準拠、230℃、2.16kg荷重):10g/10min
【0053】
上記の4-メチル-1-ペンテン系重合体の損失正接(tanδ)の極大値を示す温度(Ta)およびそのtanδの極大値は下記のようにして測定した。すなわち、まず、短冊状に縦30mm×幅10mmに切り出し、試験片とした。次いで、TA Instuments社製RSA-IIIを用いて、チャック間距離20mm、周波数1.59Hz、歪量0.1%、昇温速度4℃/分として、引張モードの条件で温度範囲-60℃~110℃での、試験片の動的粘弾性の温度依存性を測定した。測定結果を示すグラフから、損失正接(tanδ)の極大値を示す温度(Ta)およびそのtanδの極大値をそれぞれ求めた。
【0054】
なお、上記の4-メチル-1-ペンテン系重合体の極限粘度[η]はおよび組成は以下のようにして測定した。
・極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて135℃で測定した。
・4-メチル-1-ペンテン系重合体中の4-メチル-1-ペンテンおよびα-オレフィンの含有量は13C-NMRにより定量した。
【0055】
(2)第1クッション層
第1クッション層として、三井化学SKCポリウレタン社製ポリウレタンの発泡体(接触圧7kPa)を用いた。座面側第1クッション層13の厚さを78mmとし、背もたれ側第1クッション層23の厚さを50mmとした。
【0056】
<形状記憶樹脂層の作製>
成形機として、単軸押出成形機(シリンダー内径D:50mm、フルフライトスクリュー、スクリュー有効長をLとしたときL/D:32mm)、Tダイ(ダイ幅:320mm、リップ開度:0.2~0.3mm)、冷却ロール(外径50mm、鏡面仕上げ硬質クロムメッキ表面処理付のスチール製、水冷式)、および引取機によって構成される装置を用いた。原料として4-メチル-1-ペンテン100重量部と化学発泡剤(ポリスレンEE275F)3重量部を押出成形機に投入し、シリンダー各部を120~230℃とし、スクリュー回転数を10~13rpmとした条件で、投入された原料を溶融および混練し、シリンダーヘッド部における樹脂の温度が190~204℃となり、押出量が3.5~4.4kg/時間となるように、Tダイ(ダイス温度190℃)からシート状に押し出した。押し出されたシートは、冷却ロール(ロール内部通水温度30℃)で冷却して、引取機を用いて引き取り(引取速度0.8~0.9m/分)、シート幅約240~270mm、厚さ0.5mmの4-メチル-1-ペンテン系重合体シート(形状記憶樹脂層)を得た。また、押し出し量13.5~14.3kg/時間、引取速度を0.8~0.9m/分に調整した以外は同様の条件で、厚さ2.0mmの4-メチル-1-ペンテン系重合体シート(形状記憶樹脂層)を得た。
【0057】
<形状記憶樹脂層の特性:ΔHS>
得られた0.5mm厚さの4-メチル-1-ペンテン系重合体シートを、合計厚さが7mmとなるように重ね合わせ、試験片とした。試験片に対しショアA硬度計の押針を接触させた直後における、JISK6253に準拠して測定されるショアA硬度の値(値1)は「50」であった。また、試験片に対しショアA硬度計の押針を接触させてから15秒後における、JISK6253に準拠して測定されるショアA硬度の値(値2)は「18」であった。前者の値から後者の値を引いた値であるΔHSは50-18=「32」であった。
【0058】
<形状記憶樹脂層の特性:23℃、30℃でのショアA硬度>
得られた0.5mm厚さの4-メチル-1-ペンテン系重合体シートを、合計厚さが10mmとなるように重ね合わせ、JISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度が19であり、30℃で測定されるショアA硬度が11であった。つまり、後者は前者よりも8低かった。なお、後者(30℃で測定されるショアA硬度)が前者(23℃で測定されるショアA硬度)よりも5以上低いという特性を有する形状記憶樹脂で形状記憶樹脂層を形成すると、着座者またはヒーター等の熱源からの熱が伝わることで、形状記憶樹脂層が適切に軟化し、着座者の身体の形状に追従して変形することができる。
【0059】
<形状記憶樹脂層の特性:23℃での初期荷重残存率>
得られた0.5mm厚さの4-メチル-1-ペンテン系重合体シートを、幅25mm、長さ100mmに切り出し、試験片とした。以下の条件で試験片の初期荷重残存率を求めたところ、14%であった。なお、以下の条件における試験片の初期荷重残存率が10%以上50%以下となる形状記憶樹脂層で形状記憶樹脂層を形成すると、着座者またはヒーター等の熱源からの熱が伝わることで、形状記憶樹脂層が適切に軟化し、着座者の身体の形状に追従して変形することができる。・測定機器:引張試験機(万能引張試験機3380、インストロン製)
・測定温度:23℃
・測定条件:チャック間距離を30mm、引張速度を300mm/minとして、試験片をTD方向に50%伸長させた直後の引張荷重(N/25mm)、および、50%伸長させてから60秒後の引張荷重(N/25mm)を測定し、以下の式より算出
・初期荷重残存率(%)=60秒後の引張荷重÷伸長直後の引張荷重
【0060】
<座面および背もたれの作製>
得られた2mm厚さの4-メチル-1-ペンテン系重合体シートと、座面側第1クッション層13および背もたれ側第1クッション層23とを、アイカボンド製変性シリコーン接着剤(銘柄名:エコエコボンド)を用いて積層して接着し、座面および背もたれを作製した。座面および背もたれを支持体に取り付け、実施例1に係る椅子を完成させた。
【0061】
第1クッション層のJISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度は19よりも低い値であった。つまり、形状記憶樹脂層のJISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度(上述のとおり19)は、第1クッション層のJISK6253に準拠して23℃で測定されるショアA硬度よりも高かった。形状記憶樹脂層と第1クッション層がこのような特性を有することで、椅子1は、形状追従性とクッション性をバランスよく発揮することができる。
【0062】
[実施例2]
座面側第1クッション層13の厚さを71mmとした点以外は実施例1と同じ条件とすることで、実施例2に係る椅子を完成させた。
【0063】
[実施例3]
座面側第1クッション層13を、複数のポリウレタン発泡体層を積層させた積層体とした点以外は実施例1の同じ条件とすることで、実施例3に係る椅子を完成させた。座面側第1クッション層13は、表側から順に(1)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧3kPa、厚さ7mm)、(2)汎用高反発ポリウレタンの発泡体(接触圧4kPa、厚さ11mm)および(3)三井化学SKCポリウレタン社製高反発高減衰ポリウレタンの発泡体(接触圧7kPa、厚さ53mm)が積層されて構成されている。
【0064】
[実施例4]
座面側形状記憶樹脂層12を、メッシュ状シート部材とし、背もたれ側形状記憶樹脂層22を、直径1mmの貫通孔が規則的に並ぶように形成されたシート部材とした点以外は、実施例2と同じ条件とすることで、実施例4に係る椅子を完成させた。
【0065】
[比較例1]
比較例1の座面は、表側から順に(1)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧3kPa、厚さ7mm)、(2)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧4kPa、厚さ11mm)および(3)汎用高反発ポリウレタンの発泡体(接触圧9kPa、厚さ53mm)を積層させ、これらを実施例1の作製に使用した接着剤で接着して作製した。また、比較例の背もたれは、汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧5kPa、厚さ50mmで作製した。
【0066】
[比較例2]
比較例2の座面は、表側から順に(1)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧2.5kPa、厚さ28mm)および(2)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧7kPa、厚さ50mm)を積層させ、これらを実施例1の作製に使用した接着して作製した。また、比較例の背もたれは、表側から順に(1)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧2.5kPa、厚さ18mm)および(2)汎用ポリウレタンの発泡体(接触圧5kPa、厚さ32mm)を積層させ、これらを実施例1の作製に使用した接着剤で接着して作製した。
【0067】
[評価]
得られた各実施例および比較例に係る椅子を用いて、以下の評価を行った。結果を表1および表2に示す。
・アメリカ人成人男性の標準体型を模したAM50体型のダミー人形を着座させる。
・ダミー人形を
図3のボディーマップに従い、1~17の部位に分けた。
図3の領域7~9(以下臀部)の負荷率および最大圧力、
図3の領域13および14(以下大腿部中央部)の負荷率および最大圧力、ならびに、
図3の領域16および17(以下大腿部前部)の負荷率を計測する。
・予め定められた計算式に基づき、負荷率に基づく座り心地評価値(最低:0;最高:3)、および、最大圧力に基づく座り心地評価値(最低:0;最高:3)、および、総合評価値(最低:0;最高:3)を算出する。
・官能評価歴10年以上のレベリングされた日本人男子のパネラー5名が、各椅子に着座し、座り心地の良さを官能評価する。
【0068】
なお、負荷率とは、着座者が椅子に加える全負荷に対する着座者の身体の各部位が椅子に加える負荷の百分率である。例えば、表1における臀部の負荷率は、ダミー人形が椅子に加える全負荷に対する、臀部が椅子に加える負荷の割合である。
【0069】
また、最大圧力とは、着座者の身体の各部位にかかる圧力の最大値である。例えば、表1における臀部の最大圧力は、ダミー人形の臀部にかかる圧力の中の最大値である。一般的に、各部位にかかる圧力(荷重)は均等にはならず、分布図を描くと等高線のような形状が現れる。例えば臀部の場合、臀部後端付近および臀部左右端部付近よりも臀部中央付近にかかる圧力の方が大きくなる。このように変化しつつ分布する圧力値の中の最大値が最大圧力である。
【0070】
【0071】
表1に示されるように、実施例1から実施例4に係る椅子は、いずれも、負荷率での評価値も、最大圧力での評価値もバランスよく高評価であり、総合評価も2.3以上であり良好であった。一方、表2に示されるように、比較例1および比較例2は、負荷率での評価値は比較的良好であったものの、最大圧力の評価値が悪く、総合評価も2.2以下で悪かった。なお、表1から、着座者が着座時に前記座面および前記背もたれに加える荷重の合計に対する、着座者の臀部によって加えられる荷重の比率を20.0%以上35.0%以下とし、着座者の大腿部中央部によって加えられる荷重の比率を7.0%以上20.0%以下とし、着座者の大腿部前方部によって加えられる荷重の比率を1.1%以上3.0%以下とすることで、座りご心地のいい椅子1が得られることが合理的に推認できる。また、表1から、着座者の臀部にかかる圧力の最大値を13kPa以下とし、着座者の大腿部中央部にかかる圧力の最大値を9kPa以下とすることで、座りご心地のいい椅子1が得られることが合理的に推認できる。