(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057717
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】低熱膨張積層造形合金
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230417BHJP
C22C 38/12 20060101ALI20230417BHJP
B22F 3/105 20060101ALN20230417BHJP
B22F 3/16 20060101ALN20230417BHJP
B22F 10/22 20210101ALN20230417BHJP
【FI】
C22C38/00 302R
C22C38/12
B22F3/105
B22F3/16
B22F10/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167362
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000231855
【氏名又は名称】日本鋳造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】半田 卓雄
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】大江 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 允暉
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA30
4K018BA16
4K018BB01
4K018CA44
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】ワイヤー式DEDによる積層造形合金であって、割れ防止のための合金元素を必要量添加しても、既存のFe-Ni系低熱膨張合金である目標熱膨張係数合金と同等の低熱膨張係数が得られる低熱膨張積層造形合金を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.3%以下、Mn:0.2~0.4%、Ni:29.5~40%、Nb:7.74×[C]~1.6%、Co:[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])~[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])+0.5%を含有し、[Ni]+0.8×[Co]で表されるNi当量が、35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026-0.5~35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026+0.5%の範囲であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のFe-Ni系低熱膨張合金を目標熱膨張係数合金とし、その熱膨張係数を目標熱膨張係数とするワイヤー式DEDによる低熱膨張積層造形合金であって、
質量%で、
C:0.05~0.20%、
Si:0.3%以下、
Mn:0.2~0.4%、
Ni:29.5~40%、
Nb:7.74×[C]~1.6%、
Co:[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])~[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])+0.5%、
を含有し、
さらに、[Ni]+0.8×[Co]で表されるNi当量が、35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026-0.5~35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026+0.5%の範囲であり、
残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする低熱膨張積層造形合金。
ただし、[C]、[Nb]、[Co]は、それぞれCの含有量、Nbの含有量、Coの含有量(いずれも質量%)であり、[CoA]は、前記目標熱膨張係数合金のCo含有量(質量%)であり、[T]は、前記目標熱膨張係数合金の所期の低熱膨張性を示す上限温度T(℃)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造装置等の精密機器用部材に適した、低熱膨張積層造形合金に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張係数(以下、αとも表記する)が極めて小さいFe-Ni系(Fe-Ni-Co系を含む)低熱膨張積層合金技術としては、特許文献1に、レーザービームや電子ビームを熱源として溶融・積層する粉末床溶融結合法(=Powder Bed Fusion、以下、PBFと記載)による積層造形用の低熱膨張合金が開示されている。
【0003】
PBFによる積層造形合金の凝固時の冷却速度は数十万K/s 程度になるともいわれ、前記特許文献1では、これを利用して凝固組織の樹枝状晶2次枝間隔(DAS)を5μm以下にして、組成元素の偏析を極めて小さくすることによって、αの小さいFe-Ni系の低熱膨張積層合金を得ている。
【0004】
ところで、積層造形により大型部材を工業的に製造したいという要求があるが、上記PBFによる積層造形では、このような要求に対応することは困難である。すなわち、PBFによる積層造形は、複雑形状の部材を精度良く製造できるという利点があるが、1回当たりの積層厚さが小さいため造形速度が遅く、造形時間が長くなり、また大型の装置は価格が高いこともあり、PBFを大型部材の工業的な製造に適用することは難しい。
【0005】
これに対して、非特許文献1には、積層造形の手法として、造形材料に合金粉末や合金ワイヤーを使用し、レーザービームや電子ビーム、さらにアークを熱源として溶融・積層する指向性エネルギー堆積法(=Directed Energy Deposition、以下、DEDと記載)が記載されており、DED機能を既存のマシニングセンターに追加することも可能で、大型部材の造形が比較的容易に実現できることも記載されている。そのうち、合金ワイヤーを造形材料とするDED(以下、ワイヤー式DEDと記載)は、合金粉末を材料とするDEDに比べ造形精度は低いが、造形速度が大きく、また供給材料のほぼ100%が造形物に利用され、材料の歩留まりがよく、気孔率も小さいことから、緻密さが求められる部材を工業的に製造する方法として有用である。また、電子ビームを用いるDEDでは、真空雰囲気で造形する必要があり、粉末搬送用のガスが使えないため、必然的にワイヤー式となる。
【0006】
以上のように、ワイヤー式DEDは、大形で緻密な積層造形部材を高速・高歩留まりで製造でき、レーザービームや電子ビームおよびアークといった多様な熱源を利用可能であるといった特徴をもっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2019/044093号公報
【特許文献2】特開2003-19593号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】マテリア、第36巻、第11号(1997)インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1994/36/11/36_11_1080/_pdf
【非特許文献2】溶接学会論文集、第3巻(1985)第1号、P78~81
【非特許文献3】PHYSICS AND APPLICATIONS OF INVAR ALLOYS、P518~537、丸善、1978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ワイヤー式DEDは、PBFに比べると、エネルギー密度が低く、積層物の温度勾配が小さいことから、高速凝固による結晶粒微細化、およびそれにともなう偏析緩和が上述したPBFによる積層造形合金よりも難しい。また、非特許文献2には、偏析傾向は固相中の溶質の拡散挙動に支配されるため、溶接は鋳造に比べ凝固速度が大きく、結晶粒径が小さいにもかかわらず偏析比が大きく、その挙動が単純ではないことが記載されており、溶接と同様の形態でかつ凝固速度が鋳造と溶接の間の領域にあると想定されるワイヤー式DEDでは、ターゲットとなるFe-Ni系の低熱膨張積層合金が得られる組成に想到することは当業者にとって難しい。
【0010】
さらに、従来から、低熱膨張合金部材を母材とする、組み立て溶接や欠陥補修溶接が、主組成を母材に合わせた低熱膨張合金ワイヤーを用いて実施されており、例えば特許文献2には、溶接に際して高温割れがない、低熱膨張係数Fe-Ni合金用溶接材料が開示されている。しかし、従来の溶接では、母材に溶接材料が付加され、溶接部から母材への熱移動があるのに対し、ワイヤー式DEDでは、積層造形物のすべてが原料ワイヤーの溶融・凝固物で形成されるため、上述のように溶接よりも凝固速度が遅く、低熱膨張性が得難い。しかも、非特許文献3に記載されているように、Fe-Ni合金をベースとして、割れ防止等の目的で他の元素を添加すると、熱膨張係数が増大することが知られている。したがって、上述した非特許文献2および非特許文献3の記載、ならびにFe-Ni系の低熱膨張合金のαが組成元素の偏析によって大きく変化することを勘案すると、やはりワイヤー式DEDでターゲットとなるFe-Ni系低熱膨張合金と同等のαを有する合金を得ることは困難である。
【0011】
加えて、従来の溶接においては、溶接作業者が溶接状況を観察しながら、ワイヤー送り速度等の溶接条件を調整できるが、ワイヤー式DEDでは、予め入力されたプログラムに基づいて、自動的に積層造形するため、溶融状況に即応した操業条件を付与することが難しい。ワイヤー式DED用のワイヤーには、このような条件下でも、安定した操業が可能で、かつ造形物には、割れ等のない品質が求められる。
【0012】
以上のように、上記先行技術に基づいてワイヤー式DEDによる低熱膨張積層合金に想到することは困難である。
【0013】
本発明は、ワイヤー式DEDによる積層造形合金であって、割れ防止のための合金元素を必要量添加しても、既存のFe-Ni系低熱膨張合金である目標熱膨張係数合金と同等の低熱膨張係数が得られる低熱膨張積層造形合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、以下の点を見出した。ターゲットとなるFe-Ni系低熱膨張合金に割れ防止用合金元素を添加した組成では、合金元素の種類および量に応じて、添加しないものよりαが増加する。また、偏析等の影響により、造形物のαは原料ワイヤーよりも増加する。しかし、割れ防止のために添加する合金元素の種類および量に応じて、合金組成を一定の関係式に基づいて調整することにより、αの増大を防止してターゲットのFe-Ni系低熱膨張合金と同等の熱膨張係数を有する低熱膨張積層造形合金が得られる。
【0015】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の手段を提供する。
【0016】
既存のFe-Ni系低熱膨張合金を目標熱膨張係数合金とし、その熱膨張係数を目標熱膨張係数とするワイヤー式DEDによる低熱膨張積層造形合金であって、
質量%で、
C:0.05~0.20%、
Si:0.3%以下、
Mn:0.2~0.4%、
Ni:29.5~40%
Nb:7.74×[C]~1.6%、
Co:[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])~[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])+0.5%、
を含有し、
さらに、[Ni]+0.8×[Co]で表されるNi当量が、35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026-0.5~35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026+0.5%の範囲であり、
残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする低熱膨張積層造形合金。
ただし、[C]、[Nb]、[Co]は、それぞれCの含有量、Nbの含有量、Coの含有量(いずれも質量%)であり、[CoA]は、前記目標熱膨張係数合金のCo含有量(質量%)であり、[T]は、前記目標熱膨張係数合金の所期の低熱膨張性を示す上限温度T(℃)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ワイヤー式DEDによる積層造形合金であって、割れ防止のための合金元素を必要量添加しても、既存のFe-Ni系低熱膨張合金である目標熱膨張係数合金と同等の低熱膨張係数が得られる低熱膨張積層造形合金が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】実施例における評価試験片の採取要領を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
なお、特に断わらない限り成分における%表示は質量%であり、熱膨張係数(α)は10℃~T℃間の平均熱膨張係数(ppm/℃)である。
【0020】
本発明の低熱膨張積層造形合金は、既存のFe-Ni系低熱膨張合金を目標熱膨張係数合金(目標α合金)とし、その熱膨張係数を目標熱膨張係数とするワイヤー式DEDによる低熱膨張積層造形合金である。ワイヤー式DEDによる積層造形合金は、以下に説明する成分組成を有する合金ワイヤーを、熱源であるレーザービームや電子ビーム、アークにより溶融し、積層させたものである。既存のFe-Ni系低熱膨張合金は、Ni-Fe合金およびFe-Ni-Co合金を含む。このようなFe-Ni系低熱膨張合金としては、具体的にはインバー、スーパーインバー、42Ni合金を挙げることができる。これらは、所定の温度範囲において所期の低熱膨張特性を得ることができる。本発明の低熱膨張積層造形合金は、これら既存のFe-Ni系低熱膨張合金から選ばれる目標熱膨張係数合金に対応して規定される。
【0021】
次に、限定理由について説明する。
・C:0.05~0.20%
Cは後述するように、Nbとともにその添加量を調整することにより、適正量のNbCを形成して溶接時の高温割れを防止する元素である。しかし、その含有量が0.05%未満ではその効果が不十分であり、0.20%超ではαの増加が無視できなくなる。したがって、C含有量を0.05~0.20%の範囲とする。
【0022】
・Si:0.3%以下
Siは本発明の低熱膨張積層造形合金の脱酸および湯流れ性改善を目的として添加する元素である。しかし、その含有量が0.3%超ではαの増加が無視できなくなる。したがって、Si含有量を0.3%以下とする。
【0023】
・Mn:0.2~0.4%
Mnは本発明の低熱膨張積層造形合金の脱酸に有効な元素である。しかし、その含有量が0.2%未満ではその効果が少なく、0.4%を超えるとαの増加が大きくなる。したがって、Mn含有量を0.2~0.4%の範囲とする。
【0024】
・Ni:29.5~40%
NiはCoとともにαを決定する重要な元素であり、後述のNi当量およびCo量に基づいて調整することによって、積層造形時の割れ防止を目的とする合金添加にともなうαの増加を補償し、目標α合金と同等のαにすることができる。しかし、Niが29.5%未満、または40%超では、他の成分を調整してもαを目標α合金と同等にできなくなる。したがって、Ni含有量を29.5~40%の範囲とする。
【0025】
・Nb:7.74×[C]~1.6%
Nbは、上述したように、CとともにNbCを形成して積層造形時の割れを防止する元素である。しかし、Nbが基地に固溶すると溶接割れの防止効果が得られず、かえってαの増大を招くため、NbをNbCの形態で組織に分散させる必要がある。Cの含有量を[C]と表した場合に、Nbの含有量が7.74×[C]未満では固溶C量が多く、1.6%超では固溶Nb量が過大になっていずれもαが増大する他、溶接性の低下を招く。したがって、Nb含有量を7.74×[C]~1.6%の範囲とする。
【0026】
・Co:[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])~[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])+0.5%
Coは前述のNiとともにαを決定する重要な元素であり、溶接時の割れ防止を目的とする合金添加にともなうαの増加を補償し、αを目標熱膨張係数合金と同等にするために不可欠な元素である。すなわち、割れ防止を目的として添加する合金の種類、量に応じて後述するNi当量におけるCo/Ni比を大きくすることによって合金の低α化を図る。しかし、当該合金のCo含有量は、目標α合金のCo含有量および合金が低熱膨張性を示す温度範囲と関係があり、目標α合金のCo含有量(質量%)を[CoA]、Cの含有量を[C]、Nbの含有量を[Nb]、目標α合金が所期の低熱膨張性を示す上限温度T(℃)を[T]と表すとき、当該合金のCo含有量が、[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])%未満、または[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])+0.5%超では、αを目標α合金と同等にできなくなる。したがって、Co含有量を[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])~[CoA]+(0.84×[Nb]-4.269×[C]+0.1)/(0.25-0.0004×[T])+0.5%の範囲とする。
【0027】
・Ni当量:35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026-0.5~35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026+0.5%
Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]と表した場合に、Ni当量は、[Ni]+0.8×[Co]で表され、合金が低熱膨張性を示す温度範囲と一定の関係があり、Ni当量を調整することによって合金のα低減を図る。Ni当量が、35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026-0.5~35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026+0.5%(ただし、[T]は、上記と同様、目標α合金が所期の低熱膨張性を示す上限温度T(℃))の範囲で、10~T℃間のαが顕著に小さくなる。しかし、Ni当量がこの範囲を外れる場合には、所望の低熱膨張性が得難くなる。したがって、Ni当量を35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026-0.5~35.945-0.00025×[T]+0.0000375×[T]2.026+0.5%の範囲とする。
【0028】
本発明において、C、Si、Mn、Ni、Co、Nb以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0029】
本発明の低熱膨張積層造形合金は、上述のように合金組成を調整することにより、ワイヤー式DEDの際に安定した操業が可能であり、得られた低熱膨張積層造形合金は、割れ防止のための合金元素が必要量添加されているため割れが防止される。そして、割れ防止のために添加する合金元素の種類および量に応じて、合金組成を一定の関係式に基づいて調整することにより、目標熱膨張係数合金と同等の低熱膨張係数を得ることができる。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す、No.1~7、No.11~21およびNo.31~33の化学組成の合金を高周波誘導炉で大気溶解し、1600℃でCO2法珪砂鋳型に鋳造してφ127mm×270mmの鋳塊を製作した。なお、No.31~33は、本発明材が目標とするαを有する目標α合金となる既存のFe-Ni系低熱膨張合金である。
【0031】
No.1~7およびNo.11~21の鋳塊を1200℃の加熱炉内で加熱した後、エアドロップハンマーによって熱間鍛造して約□40mm×1400mmの素材を製作した。1150℃の加熱炉内で加熱した素材を約□22mmに1次圧延した後、2次圧延してφ9.6mmの素線を製作した。素線を冷間で線引き加工してφ1.2mmのワイヤーを製作した。
なお、目標α合金であるNo.31~33は、前記鋳塊をそのまま供試材とした。
【0032】
表1の、各目標α合金に対応する本発明合金のNo.1~7のワイヤーと、比較合金のNo.11~21のワイヤーを原料として用いて、以下の積層造形条件で積層造形し、
図1の造形物を製作した。
【0033】
<積層造形条件>
(1)電源:Fronius社製 TPS5000CMT
(2)ロボット:KUKA社製 KR20
(3)詳細造形条件
・移動速度:300mm/min
・ワイヤー送り速度:9m/min
・電流:200A
・電圧:25V
【0034】
製作された造形物から、
図2の要領でφ6mm×50mmの熱膨張測定試験片および□10mm×3mmの積層造形欠陥観察試験片を切り出し、評価試験を実施した。評価方法は、以下の要領で行った。熱膨張係数は、熱膨張計(NETZSCH製DIL402C)を用いて、10~T℃間の熱膨張を測定し、平均熱膨張係数αを求め、目標α合金がインバーまたは42Ni合金の場合、[造形物のα]と[目標α合金のα]の差の絶対値が[目標α合金のα]の±10%以下を合格とし、目標α合金がスーパーインバー合金の場合、αが極めて小さく、マイナス膨張もあるため、[造形物のα]の絶対値が0.15ppm/℃以下を合格とした。積層造形欠陥は、光学式の実体顕微鏡を用いて試験片を50倍で観察し、割れ発生の有無を確認した。判定基準は割れが全くなかったものを合格、割れが一つでも発生していたものを不合格とした。
【0035】
表1に示すように、本発明合金であるNo.1~7の10~T℃間の平均熱膨張係数αは、いずれも対応する、目標α合金No.31~33と同等の値を有し、かつ積層造形物に欠陥が認められなかった。
【0036】
一方、比較合金No.11、12、15~17およびNo.19は、本発明合金と同様に、積層造形欠陥防止のためのCとNbを必要量添加したものであり、溶接欠陥は認められなかったが、No.11およびNo.16はNi当量が上限値超、Coが下限値未満、No.12はNi当量が下限値未満、Coが上限値超であり、No.15はSiとMnが上限値超であり、No.17はNiが下限未満であり、No.19はNiが上限超であったため、αが増加し、いずれも判定基準を満たさなかった。また、比較合金No.13、18およびNo.20は、Niが上限超でCおよびNbが下限未満、No.14およびNo.21はCおよびNbが上限超であったため、積層造形割れが発生した。
【0037】