(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057722
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】銅アルミニウムクラッド材の製造方法及びヒートシンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20230417BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20230417BHJP
B22D 19/16 20060101ALI20230417BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
H01L23/36 M
B23K20/00 360B
B23K20/00 360C
B22D19/16 C
B21B1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167369
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】望月 鉄矢
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼買 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】織田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】大和田 安志
【テーマコード(参考)】
4E002
4E167
5F136
【Fターム(参考)】
4E002AA08
4E002AB01
4E002AD12
4E167BK03
4E167BK05
5F136BA04
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA32
5F136FA33
5F136FA75
5F136GA12
5F136GA14
5F136GA17
(57)【要約】
【課題】金属間化合物及び酸化物の生成を抑えながら、熱伝導性への影響を与えずに、生産性を高めることのできる銅アルミニウムクラッド材の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】銅部材20の表面全体をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム溶湯で鋳包んで複合スラブを作製する鋳包み工程と、複合スラブを圧延する圧延工程と、を備え、鋳包み工程において、アルミニウム溶湯の温度が660~730℃であることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材で鋳包んだ複合スラブを圧延してクラッド材を製造する銅アルミニウムクラッド材の製造方法であって、
前記複合スラブでは、前記銅部材と前記アルミニウム部材とが圧延面において直に面しており、
前記銅部材の表面全体をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム溶湯で鋳包んで前記複合スラブを作製する鋳包み工程と、
前記複合スラブを圧延する圧延工程と、を備え、
前記鋳包み工程において、前記アルミニウム溶湯の温度が660~730℃である、
ことを特徴とする、銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項2】
前記鋳包み工程において、成形型に配置された前記銅部材に前記アルミニウム溶湯を流し込み、
前記銅部材と前記アルミニウム部材との圧延面において、前記銅部材に前記アルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行う、請求項1に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項3】
前記鋳包み工程において、成形型に前置アルミニウム部材と直に接するようにして配置された前記銅部材に前記アルミニウム溶湯を流し込み、
前記銅部材と前記アルミニウム部材との圧延面において、前記銅部材に前記前置アルミニウム部材が溶融した前記アルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行う、請求項1に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項4】
前記鋳包み工程終了後前記圧延工程前において、前記銅部材と前記アルミニウム部材とが接合されていない、
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項5】
前記銅部材と前記アルミニウム部材との圧延面の面積に対して当該圧延面に発生する欠陥の発生割合を示す欠陥面積率が10%以下である、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項6】
前記鋳包み工程において、前記アルミニウム溶湯の温度680~710℃である、
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム部材は、アルミニウム以外の成分の含有量が2質量%以下である、
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム部材は、マンガンの含有量が0.1質量%以下である、
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウム部材は、6000系合金である、
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項10】
前記銅部材は、銅以外の成分が0.1質量%以下である
請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項11】
前記銅部材は、1000系である、
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法。
【請求項12】
銅部材と複数のフィンを有するアルミニウム部材とが積層されてなるヒートシンクの製造方法であって、
請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法によって銅アルミニウムクラッド材を製造し、
さらに、前記銅アルミニウムクラッド材の前記アルミニウム部材を切削して複数の前記フィンを形成するフィン形成工程を備える、
ことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅アルミニウムクラッド材の製造方法及びヒートシンクの製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の放熱を行うためにヒートシンクが用いられている。ヒートシンクの電子部品が取り付けられた部位からヒートシンク内の周囲の部位への熱拡散による放熱性能を高める観点から、銅製のヒートシンクが好適に用いられている。一方、ヒートシンクと冷却媒体との熱交換性能を高めるためには、ピン形状又はフィン形状を有するヒートシンクが好ましい。また、冷却媒体がフィン間を流れることから、フィン及びフィンのベースが冷却媒体に直接触れる領域は、耐食性の観点からアルミニウム製のヒートシンクが好適に用いられている。
【0003】
熱伝導性に加えて、上述した熱拡散性と耐食性を両立するために、銅とアルミニウムとを積層したヒートシンクであって、銅側の一方の面側に電子部品を取り付けて、他方の面側にアルミニウム製のフィンが設けられたヒートシンクが利用されている。
【0004】
特許文献1では、アルミニウムと銅とからなる複合板(クラッド材)であって、複合板のアルミニウム板表面にアルミニウムからなる放熱フィンが設けられており、複合板の圧延面が金属接合(拡散接合)されているヒートシンクが開示されている。特許文献1では、アルミニウム板と銅板とをそれぞれ別々に加熱した後、両者を重ね合わせて圧延することで、複合板が冶金的に接合されることが記載されている。
【0005】
特許文献2では、銅部材にAg層を介してアルミニウム又はアルミニウム合金部材を合わせたベース部と、アルミニウム又はアルミニウム合金よりなるフィン部とで構成する放熱装置が開示されている。特許文献2では、銅部材にAgめっき層を形成した後、アルミニウム合金で鋳込むことで、Cu-Ag合金層、Ag層、Al-Ag層を介して、銅部材とアルミニウム合金部材とを金属接合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-298259号公報
【特許文献2】特開平11-204968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、銅部材とアルミニウム部材とからなる複合板を熱間圧延しているため、銅部材とアルミニウム部材との圧延面に、金属間化合物や酸化物が生成するおそれがある。金属間化合物や酸化物が生成された部位では、圧延された銅部材とアルミニウム部材とに接合不良が生じるため、クラッド材の密着性が低下して剥離に繋がるという問題がある。
【0008】
特許文献2では、銅部材とアルミニウム部材との間にAg層を設けることで、金属間化合物の生成を防いでいる。しかしながら、設ける層の種類によっては銅部材とアルミニウム部材との間の熱伝導性が低下するという問題がある。また、層を設けることで生産コストが上昇するおそれがある。
【0009】
このような観点から、本発明は、金属間化合物及び酸化物の生成を抑えながら、熱伝導性への影響を与えずに、生産性を高めることのできる銅アルミニウムクラッド材の製造方法及びヒートシンクの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、銅又は銅合金からなる銅部材をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材で鋳包んだ複合スラブを圧延してクラッド材を製造する銅アルミニウムクラッド材の製造方法であって、前記複合スラブでは、前記銅部材と前記アルミニウム部材とが圧延面において直に面しており、前記銅部材の表面全体をアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム溶湯で鋳包んで前記複合スラブを作製する鋳包み工程と、前記複合スラブを圧延する圧延工程と、を備え、前記鋳包み工程において、前記アルミニウム溶湯の温度が660~730℃である、ことを特徴とする。
【0011】
また、前記鋳包み工程において、成形型に配置された前記銅部材に前記アルミニウム溶湯を流し込み、前記銅部材と前記アルミニウム部材との圧延面において、前記銅部材に前記アルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行うことが好ましい。
【0012】
また、前記鋳包み工程において、成形型に前置アルミニウム部材と直に接するようにして配置された前記銅部材に前記アルミニウム溶湯を流し込み、前記銅部材と前記アルミニウム部材との圧延面において、前記銅部材に前記前置アルミニウム部材が溶融した前記アルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行うことが好ましい。
【0013】
また、前記鋳包み工程終了後前記圧延工程前において、前記銅部材と前記アルミニウム部材とが接合されていないことが好ましい。
【0014】
また、前記銅部材と前記アルミニウム部材との圧延面の面積に対して当該圧延面に発生する欠陥の発生割合を示す欠陥面積率が10%以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記鋳包み工程において、前記アルミニウム溶湯の温度680~710℃であることが好ましい。
【0016】
また、前記アルミニウム部材は、アルミニウム以外の成分の含有量が2質量%以下であることが好ましい。
【0017】
また、前記アルミニウム部材は、マンガンの含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記アルミニウム部材は、6000系合金であることが好ましい。
【0019】
また、前記銅部材は、銅以外の成分が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0020】
また、前記銅部材は、1000系であることが好ましい。
【0021】
また、本件発明は、銅部材と複数のフィンを有するアルミニウム部材とが積層されてなるヒートシンクの製造方法であって、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の銅アルミニウムクラッド材の製造方法によって銅アルミニウムクラッド材を製造し、さらに、前記銅アルミニウムクラッド材の前記アルミニウム部材を切削して複数の前記フィンを形成するフィン形成工程を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る銅アルミニウムクラッド材の製造方法及びヒートシンクの製造方法によれば、金属間化合物及び酸化物の生成を抑えながら、熱伝導性への影響を与えずに、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るヒートシンクを示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る銅アルミニウムクラッド材の製造方法の鋳包み工程を示す斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る銅アルミニウムクラッド材の製造方法の圧延工程を示す斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る銅アルミニウムクラッド材の製造方法の圧延工程後に切り出された銅アルミニウムクラッド材を示す斜視図である。
【
図7】本実施形態に係る銅アルミニウムクラッド材の製造方法の成形工程を示す斜視図である。
【
図9】実施例1~5及び比較例1~2をまとめた表である。
【
図10】比較例2の圧延面において欠陥の発生状態を示す平面図である。
【
図11】実施例1の圧延面において欠陥の発生状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。また、実施形態、変形例における構成要素は、一部又は全部を適宜組み合わせることができる。さらに、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであり、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係るヒートシンク1は、発熱体(図示省略)を冷却させるために熱交換を行う器具である。ヒートシンク1は、ベース部2と、複数のフィン3とで構成されている。ベース部2は、ヒートシンクの土台となる板状部である。ベース部2は、2層構造になっており、一方側(下側)に配置された第一ベース部4が銅又は銅合金からなる銅部材で形成されている。また、他方側(上側)に配置された第二ベース部5がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム部材で形成されている。
【0026】
第一ベース部4と第二ベース部5はいずれも板状を呈し、圧延により接合面(圧延面、境界面)が拡散接合されて一体化されている。アルミニウム部材の組成は適宜設定すればよいが、例えば、アルミニウム以外の成分の含有量が2質量%以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム部材の強度や耐食性、加工性(切削性、圧延性)等を高めることができる。また、アルミニウム部材は、例えば、マンガンの含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム部材の熱伝導性を高めることができる。また、アルミニウム部材は、6000系合金であることが好ましい。これにより、アルミニウム部材の強度及び耐食性を高めることができる。
【0027】
また、銅部材の組成は適宜設定すればよいが、例えば、銅以外の成分が0.1質量%以下であることが好ましい。これにより、銅部材の強度や加工性を高めることができる。また、銅部材は、1000系であることが好ましい。これにより、銅部材の導電性、熱伝導性を高めることができる。
【0028】
フィン3は、ベース2に対して垂直に立ち上がる板状部材である。フィン3は、所定の間隔をあけて互いに平行に複数枚形成されている。フィン3は、本実施形態では板状を呈するが、柱状(ピンフィン)等他の形状であってもよい。フィン3,3同士の隙間に流体(冷却媒体)が流通することで冷却効果を高めることができる。
【0029】
フィン3及び第二ベース部5は、アルミニウム部材で一体形成されている。つまり、後記するフィン形成工程において、マルチカッター等でアルミニウム部材を切削することで、フィン3及び第二ベース部5が一体形成される。
【0030】
次に、本実施形態に係るヒートシンクの製造方法について説明する。本実施形態に係るヒートシンクの製造方法では、鋳包み工程と、圧延工程と、平坦加工工程と、成形工程と、フィン形成工程と、を行う。なお、鋳包み工程及び圧延工程は、銅アルミニウムクラッド材の製造方法となる工程である。
【0031】
鋳包み工程は、銅部材及びアルミニウム部材からなる複合スラブを形成する工程である。
図2及び
図3に示すように、鋳包み工程では、例えば、鋼製の成形型(鋳型)10を用いる。成形型10は、底板11と、4つの側板12とで構成されている。側板12は、底板11に対して垂直に立ち上がり周壁部を構成している。本実施形態では、上方は開放されているが、蓋部材などで上方を覆ってもよい。底板11と4つの側板12で囲まれた直方体の空間がキャビティとなる部分である。成形型10は、アルミニウム溶湯を注入する前に、例えば、100~200℃で予備加熱しておくことが好ましい。これにより、アルミニウム溶湯の温度が急激に低下して成形不良やひび割れ等が発生するのを防ぐことができる。
【0032】
鋳包み工程では、成形型10の内部に銅部材20を配置する。銅部材20は、銅又は銅合金製の板状部材であって、成形型10のキャビティ内に挿入可能な大きさになっている。
図3に示すように、銅部材20の下部には、台座30,30を配置する。台座(支持部材)30は、断面U字状を呈し、銅部材20の下部に隙間無く嵌め合わされる。これにより、台座30は、銅部材20を支持しつつ、成形型10内において銅部材20の傾倒を防ぐことができる。台座30は、例えば、後記するアルミニウム溶湯と同じ材種又はそれに近い材種で形成されている。なお、本実施形態では、台座30を用いたが、例えば、成形型10と銅部材20とを線材(支持部材)で連結して吊り下げて、銅部材20を支持してもよい。
【0033】
鋳包み工程では、成形型10に銅部材20を配置した後、アルミニウム溶湯を流し込むことで、複合スラブ40を作製する。鋳包み工程では、銅部材20の表面全体をアルミニウム溶湯で鋳包む。このとき、銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面において、外部からの酸素の流入が無いように銅部材20をアルミニウム溶湯で鋳包めばよい。すなわち、銅部材20の表面全体を密閉するようにアルミニウム溶湯で鋳包んでいればよく、銅部材20の表面全体に対して、注ぎ込んだアルミニウム溶湯自体が直に接して鋳包むことを必須とするものではない。
【0034】
本実施形態において、鋳包み工程では、銅部材20とアルミニウム部材(アルミニウム溶湯)との圧延面において、銅部材20にアルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行う。また、本実施形態では、圧延面以外の銅部材20とアルミニウム部材との境界面において銅部材20にアルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行っている。ここで、板状の銅部材20をアルミニウム部材(アルミニウム溶湯)で鋳包む場合、銅部材20の両側または片側の主面の部分が圧延面に相当する。これに対して、銅部材20の主面の部分に加えて、側面の部分も含めた銅部材20とアルミニウム部材21とが接する面の全体が境界面に相当する。
【0035】
アルミニウム溶湯の材種は適宜設定すればよいが、本実施形態ではA6063を用いている。アルミニウム溶湯の温度は、通常、660~730℃である。アルミニウム溶湯の温度は、好ましくは670℃以上、より好ましくは680℃以上、さらに好ましくは690℃以上であり、好ましくは720℃以下、より好ましくは710℃以下、さらに好ましくは700℃以下に設定する。アルミニウム溶湯の温度が660℃以上であるとアルミニウム溶湯が溶融状態を維持することができる。また、アルミニウム溶湯の温度が730℃以下であると、鋳包み工程の段階で、銅部材20とアルミニウム溶湯(アルミニウム部材21)とが反応して金属間化合物が発生するのを防ぐことができる。
【0036】
台座30は、アルミニウム溶湯を流し込んだ際に、アルミニウム溶湯によって溶融され、複合スラブ40の一部となる。アルミニウム溶湯が完全に凝固した後、成形型10を脱型して
図4に示すように複合スラブ40を取り出す。複合スラブ40は、直方体を呈し、銅部材20の全表面にアルミニウム部材21が覆われた状態になっている。また、複合スラブ40が形成された段階では、銅部材20とアルミニウム部材21とが圧延面において直に面している。複合スラブ40は、銅部材20と、アルミニウム部材21との圧延面は接合されていない状態になっている。なお、銅部材20とアルミニウム部材21とが圧延面において直に面しているとは、銅部材20とアルミニウム部材21との間に他の部材を介在せずに、両者が直接的に互いの表面部分を対向させた状態で積層されていることをいう。銅部材20とアルミニウム部材21との間に他の部材を介在していないのであれば、両者の間に隙間状の空間が存在していてもよく、両者の間に空間が存在することなく直接的に接していてもよい。ただし、圧延工程において接合を良好に行う観点からは、銅部材20とアルミニウム部材21とが圧延面において直に接していることが望ましい。本実施形態では、銅部材20をアルミニウム溶湯によって鋳包むことで、銅部材20と、アルミニウム溶湯とが圧延面において直に接している。また、銅部材20と、アルミニウム溶湯が凝固して形成されるアルミニウム部材21とが圧延面において直に接している。
【0037】
圧延工程は、
図5に示すように、圧延装置50を用いて複合スラブ40を圧延する工程である。圧延工程によって、複合スラブ40が圧延を受けて、銅部材20とアルミニウム部材21とが接合された、銅アルミニウムクラッド材41が得られる。本実施形態では、圧延を行う前に、複合スラブ40を予備加熱する。具体的には、複合スラブ40を予備加熱炉に入れ、450~520℃で予備加熱する。その後、複合スラブ40を圧延装置50に挿入し、初期板厚に対して50%以上の板厚となるように圧延を行う。圧延は、冷間圧延でもよいが、本実施形態では、熱間圧延で行っている。圧延率は所望の性能に応じて適宜設定することができる。
【0038】
平坦加工工程は、銅アルミニウムクラッド材41を鍛造装置(図示省略)を用いて平坦にする工程である。銅アルミニウムクラッド材41は、板厚方向のうねりや曲がりが発生し、銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面が平坦ではない場合がある。平坦加工工程では、鍛造を行って塑性変形を施し、銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面を平坦にし、銅部材20とアルミニウム部材21の厚さを均一にする。平坦加工工程は、熱間鍛造でもよいが、本実施形態では冷間鍛造で行っている。平坦加工工程では、引張加工を行って平坦にしてもよい。平坦加工工程により、板状のアルミニウム部材21と板状の銅部材20と板状のアルミニウム部材21とがこの順で重なり合って接合された銅アルミニウムクラッド材(図示略)が形成される。
【0039】
成形工程は、
図6に示すように、銅アルミニウムクラッド材42を切り出し、
図7に示すように、銅部材20とアルミニウム部材21とからなる銅アルミニウムクラッド材43を成形する工程である。成形工程では、まず、平坦加工工程後の銅アルミニウムクラッド材から、所望の大きさの銅アルミニウムクラッド材42を切り出す。例えば、平坦加工工程後の銅アルミニウムクラッド材の周辺部分を切断除去して、中央部分の銅アルミニウムクラッド材42を用いることができる。または、周辺部分を切断除去した中央部分の銅アルミニウムクラッド材42をさらに所望の大きさとなるようにカットしてもよい。所望の大きさの銅アルミニウムクラッド材42を切り出したら、一方側(上側又は下側)のアルミニウム部材21を切削し、銅部材20を露出させて、板状の銅部材20と板状のアルミニウム部材21とがこの順で重なり合って接合された銅アルミニウムクラッド材43を形成する。なお、複合スラブ40の板厚方向の中間(銅部材20の板厚方向の中間)で切断し、銅部材20を露出させることで、銅アルミニウムクラッド材43を形成してもよい。
【0040】
フィン形成工程は、成形工程後の銅アルミニウムクラッド材43を切削して、複数のフィン3を形成する工程である。フィン形成工程では、エンドミルやマルチカッター等を用いて銅アルミニウムクラッド材43を切削し、ベース2及びフィン3を形成する。より詳しくは、銅アルミニウムクラッド材43のうち、アルミニウム部材21に対して第二ベース部5となる部位を残しつつエンドミル等を用いてブロック状に切り出す。そして、当該ブロック状の部位を複数の円盤カッターが積層されたマルチカッターで切削し、複数のフィン3を形成する。これにより、ヒートシンク1が形成される。
【0041】
ここで、銅とアルミニウムは共晶反応を生じ、銅とアルミニウムとの共晶合金の共晶温度は銅の融点及びアルミニウムの融点よりも低くなる。このため、銅をアルミニウムで鋳包む場合や、銅とアルミニウムとを圧延しようとする場合には、銅の融点よりも低い温度範囲で処理を行おうとしても、銅とアルミニウムとが溶けあって金属間化合物が容易に生じてしまう。従来は、金属間化合物の生成を防ぐために、銅とアルミニウムとの間に層を設けることが行われていた。
【0042】
これに対し、以上説明した本実施形態に係る銅アルミニウムクラッド材の製造方法(ヒートシンクの製造方法)によれば、銅部材20の表面全体をアルミニウムで鋳包んで複合スラブ40を作製した後に圧延を行う。これにより、複合スラブ40の外部からの銅とアルミニウムとの圧延面への酸素の流入を防いで、銅及びアルミニウム表面の酸化を抑えることで、酸化物に起因する圧延面での接合不良を避けて圧延接合を行うことができる。また、圧延面において銅部材20の表面全体とアルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行うに際して、アルミニウム溶湯の温度を660~730℃に設定することで、銅とアルミニウムとの間に別途に層を設けずとも、金属間化合物の生成を抑えて、圧延時の接合欠陥の発生を軽減して両者を圧延接合させることができる。したがって、銅とアルミニウムとの間の熱伝導性を保ち、密着性を向上させながら、生産性の高い銅アルミニウムクラッド材の製造方法を提供することができる。
【0043】
また、鋳包み工程では、アルミニウム溶湯の温度を660~730℃に設定することで、鋳包み工程の段階で銅部材20とアルミニウム溶湯(アルミニウム部材21)とをあえて接合させていない。これにより、圧延工程の段階で銅部材20とアルミニウム部材21とを拡散接合(圧延接合)することができ、金属間化合物が発生するのを防ぐことができる。
【0044】
また、本実施形態では、銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面の面積に対して当該圧延面に発生する欠陥の発生割合を示す欠陥面積率を10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下に設定している。欠陥とは、銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面に発生する空隙、金属間化合物、酸化物等を意味する。欠陥面積率を10%以下、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下に設定することで、銅部材20とアルミニウム部材21との接合強度を高めることができるとともに、熱伝導性を高めることができる。
【0045】
また、圧延工程の前に、成形型10を450~520℃で予備加熱することが好ましい。予備加熱の温度は450℃以上であると、圧延によって銅部材とアルミニウム部材との圧延面の酸化被膜が十分に破壊され拡散接合が促進される。また、520℃以下であると銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面に金属間化合物が生成され難くなる。
【0046】
次に、本発明の変形例について説明する。
図8は、鋳包み工程の変形例を示す斜視図である。
図8に示すように、変形例では、鋳包み工程が前記した実施形態と相違する。変形例では、前記した実施形態と相違する部分について説明する。
【0047】
変形例に係る鋳包み工程では、銅部材20は、前置アルミニウム部材22と積層された状態で配置されている。より具体的には、成形型10の内部に、板状の銅部材20と、板状の前置アルミニウム部材22,22とを配置する。銅部材20は、前置アルミニウム部材22,22に挟まれた状態で、台座30,30で支持されている。銅部材20は、圧延面となる一方の主面側と反対側の主面側とのそれぞれにおいて、前置アルミニウム部材22,22と接している。前置アルミニウム部材22は、アルミニウム溶湯と同じ材種であるか、それに近い材種であることが好ましい。鋳包み工程において、アルミニウム溶湯を流し込むと、前置アルミニウム部材22及び台座30はアルミニウム溶湯によって溶融した後、凝固する。このように、板状の銅部材20に加え、板状の前置アルミニウム部材22,22を予め成形型10に配置した後に、アルミニウム溶湯を流し込んでもよい。この場合、銅部材20とアルミニウム部材21との圧延面において、銅部材20に前置アルミニウム部材22,22が溶融したアルミニウム溶湯が直に接するようにして鋳包みを行う。そして銅部材20は、前置アルミニウム部材22,22が溶融してアルミニウム溶湯と一体になったアルミニウム部材によって鋳包まれる。変形例によれば、上述した実施形態と同様の作用効果が奏される。
【実施例0048】
次に、本発明の実施例について説明する。
図9に示すように、ここでは、銅アルミニウムクラッド材として実施例1~5及び比較例1~2を作成し、各部材の銅部材とアルミニウム部材との圧延面に発生する欠陥の発生具合(欠陥面積率)を計測した。各実施例及び比較例では、鋳包み工程、圧延工程、平坦加工工程を行って銅アルミニウムクラッド材を形成し、最後に検査工程を行った。
【0049】
実施例1では、幅8mmの溝を有する断面U字状の台座30,30を用意した。台座30の材種は、A6063である。銅部材20は、長さ165mm、幅80mm、厚さ8mmである。銅部材20の材種は、C1020である。成形型10の内寸は、長さ200mm、幅110mm、厚さ40mmである。成形型10は鋼製である。アルミニウム溶湯の材種はA6063である。
【0050】
実施例1の鋳包み工程では、成形型10の中央において台座30,30で支持した状態で銅部材20を配置した。成形型10は150℃に予備加熱した。溶湯温度が670℃のアルミニウム溶湯を成形型10に流し込み、アルミニウム溶湯が完全に凝固した後、脱型して複合スラブ40を取り出した。
【0051】
圧延工程を行う前に、複合スラブ40を予備加熱炉に入れ、480℃で予備加熱した。圧延工程では、圧延装置(熱間圧延機)50に複合スラブ40を挿入して、初期板厚に対して50%以上となるまで圧延を行った。
【0052】
平坦加工工程では、複合スラブ40を冷間鍛造にて塑性変形させ平坦にした。鍛造荷重は400トンとした。これにより、銅アルミニウムが完成した。
【0053】
検査工程では、銅アルミニウムクラッド材の銅部材とアルミニウム部材との圧延面(接合面)の観察を行った。検査工程では、超音波映像装置(Scanning Acoustic Tomograph,:日立パワーソリューションズ社製、FineSAT)を用いて、圧延面に生じた欠陥(空隙、金属間化合物、酸化物等)の発生状況を確認した。検査工程では、超音波映像装置で撮像されたデータを画像編集ソフトImageJを用いて、圧延面の画像に対して接合部分と欠陥部分とを区別するように2階調化を施すことで欠陥部分を抽出した。また、画像編集ソフトImageJを用いて,欠陥部分の面積と、圧延面全体の面積を求めて、圧延面全体の面積のうち欠陥部分の占める面積(欠陥面積率)を算出した。実施例1では、欠陥面積率は2%であった。
【0054】
実施例2では、鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯の温度を700℃に設定した。その他の工程は実施例1と同じである。実施例2の欠陥面積率は2%であった。
【0055】
実施例3では、鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯の温度を710℃に設定した。その他の工程は実施例1と同じである。実施例3の欠陥面積率は1%であった。
【0056】
実施例4では、鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯としてAC4CHを用いた。鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯の温度を660℃に設定した。その他の工程は実施例1と同じである。実施例4の欠陥面積率は3%であった。
【0057】
実施例5では、鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯としてAC4CHを用いた。鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯の温度を700℃に設定した。その他の工程は実施例1と同じである。実施例5の欠陥面積率は1%であった。
【0058】
比較例1では、鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯の温度を750℃に設定した。その他の工程は実施例1と同じである。比較例1では、成形工程後、銅部材とアルミニウム部材とが剥がれ、銅アルミニウムクラッド材を製造することができなかった。このため、欠陥面接率の測定を行うことができなかった。比較例1では、鋳包み工程の段階で銅部材とアルミニウム部材との接合が促進され、金属間化合物や酸化物が多く発生し、圧延面の全体にわたって欠陥部分が発生したものと推察される。これにより、圧延工程において、銅とアルミニウムとの拡散接合が妨げられて、両者の接合が不十分となり、剥がれることになったと考えられる。
【0059】
比較例2では、鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯としてAC4CHを用いた。鋳包み工程におけるアルミニウム溶湯の温度を750℃に設定した。また、銅部材を長さ170mm、幅75mm、厚さ8mmとした。その他の工程は実施例1と同じである。比較例2の欠陥面積率は14%であった。
【0060】
図10は、比較例2の圧延面において欠陥の発生状態を示す平面図である。
図10は、比較例2の圧延面を示しており、白い部分は欠陥部分Q、黒い部分は良好に接合された部分Rである。
図10では欠陥部分Qが多く発生しているため、一部の欠陥部分にのみ符号を付している。比較例2では、アルミニウム溶湯の温度を750℃に設定したため、鋳包み工程の段階で銅部材とアルミニウム部材との接合が促進され、金属間化合物や酸化物が多く発生し、欠陥部分Qも多く発生したものと推察される。
【0061】
図11は、実施例1の圧延面において欠陥の発生状態を示す平面図である。
図11は、実施例1の圧延面を示しており、白い部分は欠陥部分Q、黒い部分は良好に接合された部分Rである。実施例1では欠陥部分Qが非常に小さく数も非常に少ないため白抜き矢印を付して位置をフォローしている。実施例1では、アルミニウム溶湯の温度を670℃に設定したため、鋳包み工程の段階では銅部材とアルミニウム部材とが接合していない。そのため、圧延工程において銅部材とアルミニウム部材とが拡散接合される際に、金属間化合物の発生を抑制することができる。また、複合スラブ40内は真空状態になっているため、圧延工程において酸化物の発生を抑制することができる。これにより、実施例1では欠陥面積率を低くすることができる。なお、実施例2~5についても圧延面の平面図は実施例1と同じような画像になった。