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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057726
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】漏洩同軸ケーブル型アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 13/22 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
H01Q13/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167379
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】505399236
【氏名又は名称】株式会社フジクラ・ダイヤケーブル
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】公賀 邦明
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA05
5J045DA14
(57)【要約】
【課題】スロットから放射される電磁波の強度を強めることができる漏洩同軸ケーブル型アンテナを提供する。
【解決手段】アンテナ1は、850MHz~930MHz帯の通信に用いられる漏洩同軸ケーブル型アンテナである。アンテナ1は、一方向に延びる内部導体と、内部導体を覆う絶縁体と、少なくとも1つのスロット4aが形成された外部導体4と、を備えたケーブル部を有する。ケーブル部の終端1bは、入力端1aから入力された電力を反射可能である。スロット4aの周寸法は、外部導体4の全周に対して35~95%の範囲内である。絶縁体の外径は、5mm以上である。入力端1aから入力された電力に対する、終端1bで反射されて入力端1aに達した電力の減衰量は、850MHz~930MHz帯において8dB以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
850MHz~930MHz帯の通信に用いられる漏洩同軸ケーブル型アンテナであって、
一方向に延びる内部導体と、
前記内部導体を覆う絶縁体と、
前記絶縁体を覆い、少なくとも1つのスロットが形成された外部導体と、を備えたケーブル部を有し、
前記ケーブル部の入力端と反対の終端は、前記入力端から入力された電力を反射可能であり、
前記スロットの周寸法は、前記外部導体の全周に対して35~95%の範囲内であり、
前記絶縁体の外径は、5mm以上であり、
前記入力端から入力された電力に対する、前記終端で反射されて前記入力端に達した電力の減衰量は、850MHz~930MHz帯において8dB以上である、漏洩同軸ケーブル型アンテナ。
【請求項2】
前記スロットの長手寸法は10mm以上である、請求項1記載の漏洩同軸ケーブル型アンテナ。
【請求項3】
前記スロットは、複数形成され、
前記外部導体に、複数の前記スロットが、前記内部導体の長手方向に間隔を空けて形成され、
複数の前記スロットの前記長手方向における配置の繰り返し寸法をPとし、伝送する信号の波長をλとし、波長短縮率をνとし、νλを伝搬波長λgとしたとき、λg/(1+0.766ν)<P<3λg/(1+ν)を満たす、請求項1または2に記載の漏洩同軸ケーブル型アンテナ。
【請求項4】
前記ケーブル部の長手方向における全長が10m以下である、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の漏洩同軸ケーブル型アンテナ。
【請求項5】
前記外部導体には、前記スロットを含む複数のスロットが、前記長手方向に間隔を空けて形成され、
前記複数のスロットのそれぞれの周寸法は、信号の伝搬方向の終端側に向かうに従って大きくなっている、請求項1~4のうちいずれか1項に記載の漏洩同軸ケーブル型アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩同軸ケーブル型アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商品の個品管理などにRFID(radio frequency identifier)タグが用いられている。RFIDタグの情報はアンテナで読み取られる。RFIDタグの情報を読み取るために、漏洩同軸ケーブル型のアンテナが用いられることがある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、内部導体と、絶縁体と、スロットが形成された外部導体と、を備えた漏洩同軸ケーブル型のアンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5162713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のアンテナは、スロットから放射される電磁波の強度が弱い場合がある。
【0005】
本発明の一態様は、スロットから放射される電磁波の強度を強めることができる漏洩同軸ケーブル型アンテナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、850MHz~930MHz帯の通信に用いられる漏洩同軸ケーブル型アンテナであって、一方向に延びる内部導体と、前記内部導体を覆う絶縁体と、前記絶縁体を覆い、少なくとも1つのスロットが形成された外部導体と、を備えたケーブル部を有し、前記ケーブル部の入力端と反対の終端は、前記入力端から入力された電力を反射可能であり、前記スロットの周寸法は、前記外部導体の全周に対して35~95%の範囲内であり、前記絶縁体の外径は、5mm以上であり、前記入力端から入力された電力に対する、前記終端で反射されて前記入力端に達した電力の減衰量は、850MHz~930MHz帯において8dB以上である漏洩同軸ケーブル型アンテナを提供する。
【0007】
前記構成によれば、前記減衰量(RL)が大きいため、スロットから放射される電磁波の強度は強い。そのため、850MHz~930MHz帯のRFID通信に好適なアンテナを提供することができる。
【0008】
前記スロットの長手寸法は10mm以上であることが好ましい。
【0009】
前記スロットは、複数形成され、前記外部導体に、複数の前記スロットが、前記内部導体の長手方向に間隔を空けて形成され、複数の前記スロットの前記長手方向における配置の繰り返し寸法をPとし、伝送する信号の波長をλとし、波長短縮率をνとし、νλを伝搬波長λgとしたとき、λg/(1+0.766ν)<P<3λg/(1+ν)を満たすことが好ましい。
【0010】
前記ケーブル部の長手方向における全長は、10m以下であることが好ましい。
【0011】
前記外部導体には、前記スロットを含む複数のスロットが、前記長手方向に間隔を空けて形成され、前記複数のスロットのそれぞれの周寸法は、信号の伝搬方向の終端側に向かうに従って大きくなっていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、スロットから放射される電磁波の強度を強めることができる漏洩同軸ケーブル型アンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)第1実施形態の漏洩同軸ケーブル型アンテナのケーブル部の斜視図である。(B)第1実施形態の漏洩同軸ケーブル型アンテナのケーブル部の断面図である。
図2】第1実施形態の漏洩同軸ケーブル型アンテナの構造を示す側面図である。
図3】試験1の結果を示すグラフである。
図4】前図を拡大したグラフである。
図5】試験2の結果を示すグラフである。
図6】前図を拡大したグラフである。
図7】試験3の結果を示すグラフである。
図8】試験4の結果を示すグラフである。
図9】試験例1-1、1-2の結果を示すグラフである。
図10】試験例2の結果を示すグラフである。
図11】試験例3-1、3-2、3-3の結果を示すグラフである。
図12】第2実施形態の漏洩同軸ケーブル型アンテナのケーブル部の斜視図である。
図13】実施例1の結果を示すグラフである。
図14】比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態の漏洩同軸ケーブル型アンテナについて図面に基づいて説明する。
[漏洩同軸ケーブル型アンテナ](第1実施形態)
図1(A)は、第1実施形態の漏洩同軸ケーブル型アンテナ1のケーブル部の斜視図である。漏洩同軸ケーブル型アンテナは単に「アンテナ」ともいう。図1(B)は、アンテナ1のケーブル部の断面図である。図2は、アンテナ1の構造を示す側面図である。
【0015】
図1(A)および図1(B)に示すように、アンテナ1のケーブル部は、内部導体2と、絶縁体3と、外部導体4と、シース5と、を備える。絶縁体3は内部導体2を覆っている。外部導体4は絶縁体3を覆っている。図1(A)および図2に示すように、外部導体4には、複数のスロット4aが形成されている。
【0016】
図1(A)に示すように、内部導体2は、一方向に延びる。内部導体2の中心軸線Oに沿う方向を長手方向といい、Z軸によって表す。中心軸線Oに直交する方向を径方向という。中心軸線O周りに周回する方向を周方向という。長手方向は、アンテナ1に信号が伝搬する方向でもある。信号が伝搬する方向における終端側を+Z側とし、信号源側を-Z側とする。信号は+Z側に向けて伝搬する。アンテナ1のケーブル部の-Z側の端は入力端1aである(図2参照)。アンテナ1のケーブル部の+Z側の端は終端1bである(図2参照)。
【0017】
内部導体2は、銅などの金属により形成されている。内部導体2の長さ方向に直交する断面形状は、例えば、円形状である。内部導体2は、複数の導体の細線を撚り合わせることで形成された撚線であってもよい。
【0018】
絶縁体3は、内部導体2を径方向外側から覆っている。絶縁体3は、例えば、樹脂で形成される。絶縁体3を構成する樹脂としては、発泡ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。絶縁体3は、内部導体2に対して同軸に形成されている。
【0019】
外部導体4は、絶縁体3を径方向外側から覆っている。外部導体4は、例えば、銅などの金属で形成されたテープ(金属テープ)を絶縁体3に巻き付けることで形成された導体層である。外部導体4の内周面には、絶縁性基材と、絶縁性基材を外部導体4に接着させる接着層と、が設けられてもよい。絶縁性基材としては、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン等)を採用できる。接着層としては、例えばエチレン系アイオノマー樹脂を採用できる。絶縁性基材および接着層には、スロット4aに対応した開口が形成されていなくてもよい。外部導体4の内径は、絶縁体3の外径と略同じ、あるいは、絶縁体3の外径よりわずかに大きい。絶縁体3と外部導体4との間には、空気の層があってもよい。
外部導体4は、金属テープに限らず、金属編組によって構成してもよい。外部導体4は、金属テープと金属編組との組み合わせにより構成してもよい。
【0020】
外部導体4には、複数の孔(スロット4a)が形成されている。複数のスロット4aは、外部導体4の長さ方向(アンテナ1のケーブル部の長さ方向)に位置を違えて形成されている。複数のスロット4aは、外部導体4の長さ方向に間隔を空けて形成されている。
【0021】
スロット4aの形状は、例えば、矩形状である。詳しくは、スロット4aは、長手方向(長辺方向)がアンテナ1のケーブル部の長さ方向に沿う長方形状である。複数のスロット4aの形状は互いに同じである。複数のスロット4aの向きは互いに同じである。複数のスロット4aの大きさは互いに同じである。外部導体4となるテープを絶縁体3に巻き付ける前の、テープが平らな状態においても、スロット4aは矩形状となっている。
【0022】
長手方向におけるスロット4aの寸法を長手寸法W1という。周方向におけるスロット4aの寸法を周寸法W2という。長手方向におけるスロット4aの配置の繰り返し寸法を「スロットピッチP」という。スロットピッチPは、長手寸法W1と、スロット4aどうしの長手方向の間隔との和である。
【0023】
漏洩同軸ケーブル1において、+Z方向のみの電磁波の伝搬を考慮した場合、電磁波の方射角θnは、中心軸線Oに直角な方射角を0として、終端側に傾いた放射方向を正とすれば、以下の式(1)で表される。
【0024】
θn=sin-1(nλ/P+1/ν) …(1)
【0025】
ただし、nは放射モード(負の整数)、λは自由空間での波長、νは漏洩同軸ケーブル1の波長短縮率である。波長短縮率νは、内部導体2と外部導体4との間の絶縁体3および中空部分の体積比から求めた実効比誘電率εsに基づき、以下の式(2)で表される。
【0026】
ν=1/(εs)1/2 …(2)
【0027】
通常は、n=-1のいわゆる-1次モードだけが使用されることが多い。経験的に、-1次モードの方射角は、-50°~+30°が実用的な限界角度である。したがって、スロットピッチPは、以下の式(3)の範囲が好ましい。
【0028】
λg/(1+0.766ν)<P<3λg/(1+ν) …(3)
【0029】
λgは漏洩同軸ケーブル1内での伝搬波長であり、λg=νλである。
例えば、信号の周波数が920MHz(λ≒325.9mm)、波長短縮率νが0.8においては、スロットピッチPの範囲は、161mm~434mmの範囲が好ましい。
【0030】
なお、スロットの形状は長方形状に限らない。スロットは、長円形状、角丸四角形状(四隅を丸めた矩形状)、長方形状、平行四辺形状などであってもよい。スロットは、長手方向がアンテナのケーブル部の長さ方向に対して傾斜するように形成されていてもよい。
外部導体に形成されるスロットの数は複数に限らず、1つでもよい。すなわち、スロットの数は少なくとも1つとすることができる。
【0031】
外部導体4は、例えば、予めスロット4aが形成された金属テープを絶縁体3に巻き付けることで形成される。これにより、予め定められた位置にスロット4aを形成することができる。
【0032】
内部導体2は、外部の信号源に電気的に接続され、信号源から供給される高周波信号を伝搬させる。高周波信号の伝搬に伴い、内部導体2から電磁波が放射される。アンテナ1のケーブル部の長手方向において、外部導体4にスロット4aが形成されていない部位では、電磁波は外部導体4によって遮蔽される。そのため、電磁波はアンテナ1の外部に漏洩しない。一方、スロット4aが形成された部位では、電磁波はスロット4aを通してアンテナ1の外部に漏洩する。アンテナ1では、この漏洩した電磁波により無線通信を行うことができる。
【0033】
シース5は、外部導体4を被覆する。シース5は、樹脂、ゴムなどで構成される。
【0034】
アンテナ1のケーブル部の終端1bには、終端器は設けられていない。終端1bは、入力端1aから入力された電力を反射可能である。終端1bは、短絡構造でもよいし、開放構造であってもよい。
【0035】
アンテナ1は、例えば、パッシブ型RFIDタグとの間で通信を行うためのアンテナとして使用される。パッシブ型RFIDタグでは、一般的に、UHF帯(例えば、850MHz~930MHz)の高周波信号が用いられる。
【0036】
高周波信号を用いて、アンテナ1とパッシブ型RFIDタグとの間隔を例えば1m程度空けた状態で良好な通信状態を保つには、例えば、結合損失を40dB以内とすることが好ましい。結合損失を小さくするには、アンテナ1から放出される電磁波のエネルギーを高めることが求められる。アンテナ1は、放出される電磁波のエネルギーを高めて用いるため、例えば100mを超えるような長距離の伝送には適さない。パッシブ型RFIDタグとの間で通信を行うという用途を考慮すると、アンテナ1のケーブル部の全長は、10m以下が好ましい。
【0037】
図3は、試験1の結果を示すグラフである。図3の縦軸は、アンテナにおける反射減衰量(RL:Return Loss)を示す。RLは、ケーブル部の入力端から入力され、終端で反射されて入力端に達した電力の減衰量を表す(図2参照)。図3の横軸は、周波数を示す。図4は、図3を拡大したグラフである。
【0038】
試験1の条件は以下のとおりである。
アンテナのケーブル部の全長:1030mm
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.8)
長手寸法W1:110mm
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:4
長手方向におけるスロット4a同士の間隔:118mm
アンテナのケーブル部の終端には終端器は設けられていない。
【0039】
図3および図4に示すように、試験1では、850MHz~930MHz(例えば、915MHz~930MHz)帯において、RLは約2dBであった。このように、850MHz~930MHz帯においては、RLは比較的小さかった。
【0040】
図5は、試験2の結果を示すグラフである。図5の縦軸は、アンテナにおけるRLを示す。図5の横軸は、周波数を示す。図6は、図5を拡大したグラフである。
【0041】
試験2の条件は以下のとおりである。
アンテナのケーブル部の全長:770mm
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.8)
長手寸法W1:86mm
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:4
長手方向におけるスロット4a同士の間隔:86mm
アンテナのケーブル部の終端1bには終端器は設けられていない。
【0042】
図5および図6に示すように、試験2では、850MHz~930MHz帯において、RL(反射減衰量)は約14dB~約22dBであった。試験2では、スロット4aの形態が試験1のアンテナとは異なることによって、850MHz~930MHz帯のRLが大きくなったことがわかる。850MHz~930MHz帯においては、RLが大きいため、スロット4aから放射される電磁波の強度は強いと推測できる。
【0043】
850MHz~930MHz帯におけるRLは、8dB以上が求められる。RLが8dB以上であると、スロット4aから放射される電磁波の強度は強くなる。850MHz~930MHz帯におけるRLは、10dB以上が好ましい。
【0044】
図7は、試験3の結果を示すグラフである。図7の縦軸は、スロット4aの数が4~8のいずれかである複数のアンテナにおけるRLを示す。図7の横軸は、周波数を示す。例えば、「4slots」は、スロット数4aの数が4であることを意味する。試験3のその他の条件は試験2に準じた。
図7に示すように、試験3では、850MHz~930MHz(例えば、915MHz~930MHz)帯におけるRLは、スロット4aの数によって大きく異なる結果となった。
【0045】
図8は、試験4の結果を示すグラフである。図8の縦軸は、スロット4aの数、および長さLt(図2参照)を調整したアンテナにおけるRLを示す。長さLtは、最も後端側にあるスロット4aと終端1bとの距離である。図8の横軸は、周波数を示す。例えば、「4slots 86mm」は、スロット数4aの数が4であり、Ltが86mmであることを意味する。試験4のその他の条件は試験2に準じた。
【0046】
図8に示すように、試験4では、長さLt(図2参照)を調整することによって、850MHz~930MHz帯におけるRLは8dB以上となった。850MHz~930MHz帯においては、RLが大きいため、スロット4aから放射される電磁波の強度は強いと推測できる。
【0047】
アンテナ1は、TEMモードと呼ばれる電界により、エネルギーを伝搬する。外部導体4には長手方向に電流が流れる。周方向および長手方向に延びるスロット4aを外部導体4に形成することで、外部導体4に流れる電流が部分的に切られてスロット4aの信号源側と終端側との間で電位差が生じ、電界となってアンテナ1の外部にエネルギーが放出される。このエネルギーを大きくすることは、スロット4aの長手寸法W1および周寸法W2を大きくすることで実現できる。本願発明者らが検討した結果によれば、長手寸法W1を10mm以上とし、周寸法W2を外部導体4の全周の35%以上とすることが好ましい。以下、詳しく説明する。
【0048】
図9に、長手寸法W1と結合損失との関係を示す。試験例1-1、1-2の条件は表1に示す通りである。表1における「外部導体の周長」は、外部導体4のスロット4aが形成されていない部分の周方向の全長を示している。「周開口率R」は、周寸法W2の外部導体の周長に対する率である。
【0049】
【表1】
【0050】
図9に示すように、試験例1-1、1-2ともに、スロット4aの長手寸法W1を異ならせて、結合損失を測定した。試験例1-1、1-2ともに、長手寸法W1が50mm以下の領域では、長手寸法W1が大きいほど結合損失が小さくなる。これは、長手寸法W1が大きいほどスロット4aから漏洩する電磁波の量が大きくなるためである。また、試験例1-1のほうが、試験例1-2よりも、結合損失が小さい傾向となった。これは、試験例1-1のほうが試験例1-2よりも周寸法W2および周開口率Rが大きいためである。
【0051】
試験例1-1の条件(R=83%)では、長手寸法W1を10mm以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができた。試験例1-2の条件(R=70%)では、長手寸法W1を30mm以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができた。なお、長手寸法W1の上限値については任意であるが、例えば複数のスロット4aを形成する場合に、スロット4a同士が長手方向に間隔を空けて形成されるように設定するとよい。
【0052】
図10に、周開口率Rと結合損失との関係を示す。試験例2では、外部導体4の外径を10mmとし、スロットの数を1つとし、長手寸法W1を100mmとした。周寸法W2(周開口率R)を異ならせて、結合損失を測定した。図10に示すように、周開口率Rが大きいほど、結合損失が小さくなる。試験例2の条件では、周開口率Rを35%以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができた。
【0053】
スロット4aの数が1つのみの漏洩同軸ケーブルにおいて結合損失を低下させるという観点では周開口率Rが大きいほど好ましい。一方、スロット4a数が複数である漏洩同軸ケーブルにおいては、スロット4aの周開口率Rが大きすぎると、スロット4aが形成された部分における伝送損失が大きくなり、終端側のスロット4aに供給される信号エネルギーが極端に少なくなる。目安として、周開口率Rは95%以下とすることが好ましい。周開口率Rが95%以下であれば、終端側のスロット4aにも適度な信号エネルギーが供給され、漏洩同軸ケーブル全体として結合損失を低くできる。
【0054】
図11に、外部導体4の内径(絶縁体3の外径)と結合損失との関係を示す。試験例3-1~3-3は、それぞれ、内部導体2の外径を0.6mm、1mm、および2mmとしている。また、絶縁体3の外径(D)を1.5mm、2.5mm、および5mmとしている。なお、外部導体4の外径は、絶縁体3の外径に、外部導体4の厚さの2倍を足した値とほぼ同じになる。試験例3-1~3-3の以下の条件は共通とした。
アンテナ1のケーブル部の全長:5m
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.8)
長手寸法W1:110mm
周開口率R:80%
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:21
長手方向におけるスロット4a同士の間隔:128mm
周波数:920MHz
【0055】
なお、結合損失の測定は、測定器(ダイポールアンテナ)を各アンテナ1のケーブル部から1.5m離して配置し、測定器をアンテナ1のケーブル部に対して長手方向に移動させることで行った。図11において、横軸(測定位置)はアンテナ1のケーブル部の長手方向における位置を示している。具体的に、横軸が0mのポイントがアンテナ1のケーブル部の信号源側の端部に対応し、横軸が5mのポイントがアンテナ1のケーブル部の終端側の端部に対応している。
【0056】
図11に示すように、絶縁体3の外径Dが大きいほど、結合損失が小さくなる結果となった。特に、絶縁体3の外径Dが5mmである試験例3-3では、長手方向におけるほとんどの領域で、結合損失が40dB以内となった。なお、試験例3-3のように、長手方向における一部の領域で結合損失が40dBを超えても、パッシブ型RFIDタグとの間で通信を行うことは可能である。例えば、アンテナ1のケーブル部のうち結合損失が40dB以内の領域(試験例3-3では横軸が0~4.7mの領域)だけを通信用アンテナに使用すれば足りるためである。あるいは、アンテナ1のケーブル部とパッシブ型RFIDタグとの間隔を1.5mよりも小さくすれば、アンテナ1のケーブル部の長手方向の全長にわたって結合損失が40dB以内に調整できるためである。
【0057】
一般的な理屈でいえば、長手寸法W1が同じ場合、絶縁体3の外径Dとスロット4aのうち周方向に延びるエッジの長さの比率で結合損失が決まるため、結合損失は外径Dに依存しないと考えられる。しかし、試験例3-1~3-3ではそのような結果とならず、絶縁体3の外径Dが大きいほど結合損失が小さくなった。その理由として、前記エッジが、外部導体4の他の部分と結合して、インピーダンスが上がらないことが考えられる。例えば、試験例3-1~3-3におけるスロット4aは矩形状であるため、角部が略直角に曲がっているが、容量結合して電流が外部導体4を通らず絶縁体3中を進むことが考えられる。あるいは、前記エッジの中間部分は内部導体2と結合することが考えられる。このような現象が生じると、外径Dが大きくても実効的なエッジ部長が短くなり、結合損失が下がらないと考えられる。
【0058】
図9図11の結果を総合すると、結合損失を40dB以内に抑制するためには、以下の条件Aまたは条件Bを満たすことが好ましい。
条件A:長手寸法W1を10mm以上とし、周開口率Rを35~95%の範囲内とし、絶縁体3の外径Dを5mm以上とする。
条件B:長手寸法W1を30mm以上とし、周開口率Rを70~95%の範囲内とし、絶縁体3の外径Dを5mm以上とする。
【0059】
[実施形態のアンテナが奏する効果]
前記アンテナでは、RLは、850MHz~930MHz帯において8dB以上である。RLが大きいため、スロット4aから放射される電磁波の強度は強い。そのため、UHF帯(850MHz~930MHz帯)のRFID通信に好適なアンテナを提供することができる。
【0060】
スロット4aから放射される電磁波の強度が強くなるのは、入力端1aから終端1bに向かう進行波(図2参照)と、終端1bから入力端1aに向かう反射波とが干渉して生じた干渉波がスロット4aを通して放出されるためであるという推測が可能である。
【0061】
アンテナ1では、外部導体4に、複数のスロット4aが長手方向に間隔を空けて形成されているため、ケーブル部の長手方向に広い範囲でRFID通信を行うことが可能なアンテナ1を提供することができる。
【0062】
[漏洩同軸ケーブル型アンテナ](第2実施形態)
図12は、第2実施形態のアンテナ101のケーブル部の斜視図である。図12に示すように、アンテナ101では、複数のスロット4aのそれぞれの周寸法は、信号の伝搬方向の終端側に向かうに従って大きくなっている。この場合、結合損失を長手方向においてより均等にすることができる。
【0063】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
図1(A)等に示すアンテナ1では、複数のスロット4aの形態(形状、大きさ、向きなど)は互いに同じであるが、複数のスロットのうち2以上のスロットの形態は互いに異なっていてもよい。複数のスロットのうち2以上のスロットの形態は互いに異なる場合には、形態が異なる2以上のスロットから放射される電磁波の特性(例えば、周波数特性)が互いに異なるような設計が可能である。
【0064】
前述の実施形態では、アンテナ1がパッシブ型RFIDタグとの通信を行うアンテナとして利用されると説明したが、これ以外の用途にも、実施形態のアンテナを好適に利用できる。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0065】
(実施例1)
アンテナ1(図1(A)参照)を作製した。実施例1のアンテナ1の仕様は以下のとおりである。
アンテナ1のケーブル部の全長:770mm
内部導体2の外径:2mm
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.8)
絶縁体3の外径:5mm
外部導体4の外径:5.5mm
長手寸法W1:86mm
周寸法W2:13mm
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:4
長手方向におけるスロット4a同士の間隔:86mm
アンテナ1のケーブル部の終端1bには終端器は設けられていない。
【0066】
結合損失の測定は、測定器(ダイポールアンテナ)を各アンテナ1から高さ方向に30cm離して配置し、測定器をアンテナ1に対して移動させることで行った。Exは、測定器の移動方向がアンテナ1と平行な方向である場合の結合損失である。Eyは、測定器の移動方向が水平面内でアンテナ1と直交する方向である場合の結合損失である。Ezは、測定器の移動方向が高さ方向である場合の結合損失である。
【0067】
図13は、実施例1の結果を示すグラフである。図13において、横軸(測定位置)はアンテナ1の長手方向における位置を示している。横軸が0cmのポイントがアンテナ1の信号源側の端部に対応し、横軸が77cmのポイントがアンテナ1の終端側の端部に対応している。
【0068】
(比較例1)
アンテナを作製した。比較例1のアンテナの仕様は以下のとおりである。
アンテナ1のケーブル部の全長:1030mm
内部導体2の外径:2mm
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.8)
絶縁体3の外径:5mm
外部導体4の外径:5.5mm
長手寸法W1:110mm
周寸法W2:13mm
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:4
長手方向におけるスロット4a同士の間隔:118mm
比較例1のアンテナは、ケーブル部の終端に終端器が設けられている。
【0069】
図14は、比較例1の結果を示すグラフである。図14において、横軸(測定位置)はアンテナ1のケーブル部の長手方向における位置を示している。横軸が0cmのポイントがアンテナ1の信号源側の端部に対応し、横軸が103cmのポイントがアンテナ1のケーブル部の終端側の端部に対応している。
【0070】
図13および図14に示すように、実施例1のアンテナ1では、結合損失を小さくできた。
【符号の説明】
【0071】
1,101…アンテナ(漏洩同軸ケーブル型アンテナ)、1a…入力端、1b…終端、2…内部導体、3…絶縁体、4…外部導体、4a…スロット、D…絶縁体の外径、W1…長手寸法、W2…周寸法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14