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特開2023-57812ロックボルト用ナット及び該ナットを用いた斜面安定化構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057812
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ロックボルト用ナット及び該ナットを用いた斜面安定化構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230417BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20230417BHJP
   F16B 37/14 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
F16B37/00 H
F16B37/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167491
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000219358
【氏名又は名称】東亜グラウト工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】下条 和史
(72)【発明者】
【氏名】玉置 真樹
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DB02
(57)【要約】
【課題】地盤斜面の垂直方向に対するロックボルトの傾斜角度の変化に対応できるとともに、景観性を向上することができるロックボルト用ナット及び該ナットを用いた斜面安定化構造を提供すること。
【解決手段】地盤斜面Sに打設されたロックボルト14と、前記地盤斜面上に設置され、前記ロックボルトの頭部が貫通するプレート材20と、前記ロックボルトの頭部に螺合され、前記地盤斜面に対して前記プレート材を固定するナット50と、を備えた斜面安定化構造。前記ナットは、前記プレート材のナット支持部と当接する凸球面状の座面を有するナット頭部56と、前記座面から突出する筒状であって内周面に前記ロックボルトの頭部が螺合する螺子溝を有し、前記プレート材の貫通孔に挿入された筒状部52と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤斜面に打設されたロックボルトの頭部に螺合され、前記頭部が貫通する貫通孔を有するプレート材を前記地盤斜面に対して固定するロックボルト用ナットにおいて、
前記プレート材のナット支持部と当接する凸球面状の座面を有するナット頭部と、
前記座面から突出する筒状であって内周面に前記ロックボルトの頭部が螺合される螺子溝を有し、前記プレート材の前記貫通孔に挿入される筒状部と、を有することを特徴とするロックボルト用ナット。
【請求項2】
地盤斜面に打設されたロックボルトと、
前記地盤斜面上に設置され、前記ロックボルトの頭部が貫通する貫通孔を有するプレート材と、
前記ロックボルトの頭部に螺合され、前記地盤斜面に対して前記プレート材を固定するナットと、を備えた斜面安定化構造において、
前記ナットは、
前記プレート材のナット支持部と当接する凸球面状の座面を有するナット頭部と、
前記座面から突出する筒状であって内周面に前記ロックボルトの頭部が螺合する螺子溝を有し、前記プレート材の前記貫通孔に挿入された筒状部と、を有することを特徴とする斜面安定化構造。
【請求項3】
前記ナット支持部は、前記プレート材の上面側に前記貫通孔の周囲を隆起させて形成した隆起部の内側面を前記ナットの凸球面状の座面を受ける凹球面状の前記ナット支持面とすることで構成されたことを特徴とする請求項2に記載の斜面安定化構造。
【請求項4】
前記ロックボルトの頭部は、地盤斜面への設置状態にて前記プレート材の上面よりも上方に突出していることを特徴とする請求項2~3のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【請求項5】
前記ロックボルト及び前記ナットの設置状態において、前記ナットの下方側において前記ロックボルトの外周を覆う保護部材を備え、該保護部材は、設置時に圧縮可能な材料で形成されたことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【請求項6】
前記ナット頭部は、前記ロックボルトの頭部を覆う略球状に形成されている特徴とする請求項2~5のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【請求項7】
前記ナット頭部は、頂面部に締付工具が嵌め込まれる凹部を有することを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【請求項8】
前記ナット頭部は、頂面部と前記座面との間に、平面視で多角形状に形成された周面部を有することを特徴とする請求項2~6のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【請求項9】
前記地盤斜面上に敷設され、前記プレート材により前記地盤斜面に押圧される網体を備え、
前記プレート材は、下面から突出して前記網体の網目を貫通する突起部を有することを特徴とする請求項2~8のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面安定化のために地盤斜面に打設されたロックボルトの頭部に取付けられるプレート材を固定するために、ロックボルトの頭部に螺合されるロックボルト用ナット、及び該ナットを用いた斜面安定化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜面崩壊や地滑りを防止するための斜面安定化工法として、地山等の地盤斜面に、地山等の地盤斜面に、間隔をおいて、地盤のすべり面よりも深部の安定層まで伸びるアンカー部材を複数埋め込み設置するアンカー工が知られている。アンカー工では、対象となる地盤斜面のすべり層(すべり面よりも浅い移動層)の深さの違いにより、比較的深い場合に適用されるグラウンドアンカー工法や比較的浅い場合に適用されるロックボルト工法(鉄筋挿入工法)が知られている。
【0003】
グラウンドアンカー工法は、すべり層の深さが5m程度以上であって、大きな抑止力が必要な斜面に適用される。グラウンドアンカー工法のアンカー体は、一般にPC鋼より線で形成され、安定層に固定される定着部と、すべり層に位置して引張力を作用させる引張り部とを有する。アンカー体の緊張力は、地盤斜面から突出するアンカー体の頭部に取付けられた受圧板を介して地盤に伝達される。この受圧板は、現場もしくは工場で製作されたコンクリート製又は鋼製の比較的大きなもの(長辺の長さが1m以上のもの)である。
【0004】
一方、本発明の対象でもあるロックボルト工法は、すべり層の深さが3m程度の浅い表層の領域にて用いられるもので、すべり層から安定層まで延びるロックボルト全体をグラウト材で地盤に定着させるものである。
【0005】
ロックボルト工法では、ロックボルトが点在する様に設置されるが、このロックボルトの設置によりすべり面が維持された状態であっても、隣接するロックボルトとの間の表層の部分が一部抜け落ちる局部崩壊現象、いわゆる中抜けが生じることがある。
【0006】
中抜けの発生を防止するために、ロックボルトの頭部にプレート材(例えば長辺が600mm程度の小型の受圧板)を取り付けてナットで固定し、プレート材を地盤斜面に上方から押し付ける方法や、さらに、対象となる斜面に網体を敷設し、ロックボルト頭部に取付けられたプレート材で、この網体を斜面に押し付ける方法が採用されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
ナットは、十分なネジ代を確保するために胴長の筒状に形成されており、プレート材を斜面に安定的に固定するためには、プレート材の表面に対してナットの軸方向が垂直となることが好ましい。
【0008】
しかしながら、ロックボルトの挿入方向は、地山の傾斜角度や安定層の傾斜角度などによって設計で決められるため、必ずしも地山表面に対して垂直とは限られず、垂直方向から所定の傾斜角度を付けて(例えば、地山表面の垂直方向から10°程度傾斜した角度を付けて)ロックボルトが打設されることがある。プレート材は、地山表面に沿って配置されることから、ロックボルトの挿入方向は、プレート材の表面に対しても垂直とは限らない。また、プレート材は、それぞれ、地山表面の凹凸によっても傾斜することから、ロックボルトの挿入方向(軸方向)は、一般に、プレート材の表面に対して、垂直方向から傾斜した状態になる。
【0009】
ナットの軸方向はロックボルトの軸方向と一致することから、ロックボルトが垂直方向から傾斜している場合、ナットの軸方向は、プレート材の表面に対して垂直方向から傾斜した状態となる。
【0010】
このような場合、プレート材のナット支持面に対し、ナットの座面の一部が局所的に強く当たってしまうことから、プレート材を安定的に固定することが難しくなる。斜面安定化構造において、高い引張強度を有する網体(所謂、高強度ネット)を地山表面に敷設するものでは、プレート材が安定的に固定されていないと、高強度ネットの引張性能を十分に発揮させることができなくなる。
【0011】
地盤斜面に対する垂直方向からの傾斜の問題に対応するために、特許文献2には、ナットとプレート材との間に、下面に凸球面を有する第1ワッシャと、上面に凹球面を有する第2ワッシャとを介在させたものが開示されている。第1ワッシャは、平坦な上面がナットの平坦な下端面と当接し、凸球面状の下面が第2ワッシャの凹球面に当接する。第2ワッシャの下面は平坦に形成されており、プレート材の平坦なナット支持面と当接する。
【0012】
このようにナットとプレート材のナット支持面との間に、対応する凹凸球面状の表面を有する2つのワッシャを介在させることで、ナットの軸方向が、プレート材の表面に対して垂直方向から傾斜していても、プレート材に対する局所的な当たりを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2019-94692号公報
【特許文献2】特開2011-184855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献2に記載のワッシャを用いた斜面安定化構造では、プレート材とナットとの間に2つのワッシャが介在されることから、筒状のナットの全長に加え、ワッシャの厚み分だけ、プレート材から地上側に突出する突出長さが大きくなる。
【0015】
しかしながら、プレート材からの突出量が大きくなると、落石が当たって破損したり、設置後における斜面の見栄えが悪くなったりする。特にロックボルトの挿入方向にバラつきがある状況では斜面安定化構造の設置領域の景観性が損なわれるという問題がある。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、地盤斜面の垂直方向に対するロックボルトの傾斜角度の変化に対応できるとともに、景観の阻害を抑制することのできるロックボルト用ナット及び該ナットを用いた斜面安定化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るロックボルト用ナットは、
地盤斜面に打設されたロックボルトの頭部に螺合され、前記頭部が貫通する貫通孔を有するプレート材を前記地盤斜面に対して固定するロックボルト用ナットにおいて、
前記プレート材のナット支持部と当接する凸球面状の座面を有するナット頭部と、
前記座面から突出する筒状であって内周面に前記ロックボルトの頭部が螺合される螺子溝を有し、前記プレート材の前記貫通孔に挿入される筒状部と、を有することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ロックボルトが地盤斜面に対して垂直方向ではなく傾斜した角度で打設された場合、ロックボルトに螺合されるナットの軸方向は、ロックボルトの挿入方向と一致することから、地盤斜面上に配置されたにプレート材の表面に対しても垂直方向ではなく傾斜した状態となる。しかし、ナット頭部の凸球面状の座面によってプレート材のナット支持部に対して局部的な当たりを生ずることなく、座面の周方向に亘って均一に当たるようになる。
また、螺子溝を有するナットの筒状部は、プレート材の貫通孔に挿入されてプレート材よりも斜面側に伸長するので地上側から見えない状態となる。これによりロックボルトとの螺合領域を十分に確保しつつ、プレート材から地上側に突出するナット頭部の突出長を小さくすることができる。これにより、ロックボルトの挿入方向にバラつきがある状況であっても斜面からのナット頭部の突出量を小さくして、落石による破損を防止することができるとともに、見栄えを良くして景観の阻害を抑制することができる。
【0019】
また、上記目的を達成するために、本発明の請求項2に係る斜面安定化構造は、
地盤斜面に打設されたロックボルトと、
前記地盤斜面上に設置され、前記ロックボルトの頭部が貫通する貫通孔を有するプレート材と、
前記ロックボルトの頭部に螺合され、前記地盤斜面に対して前記プレート材を固定するナットと、を備えた斜面安定化構造において、
前記ナットは、
前記プレート材のナット支持部と当接する凸球面状の座面を有するナット頭部と、
前記座面から突出する筒状であって内周面に前記ロックボルトの頭部が螺合する螺子溝を有し、前記プレート材の前記貫通孔に挿入された筒状部と、を有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ロックボルトが地盤斜面に対して垂直方向ではなく傾斜した角度で打設された場合、ロックボルトに螺合されるナットの軸方向も、地盤斜面上に配置されたにプレート材の表面に対して垂直方向ではなく傾斜した状態となるが、ナット頭部の凸球面状の座面は、プレート材のナット支持面に対して局部的な当たりを生ずることなく、座面の周方向に亘って均一に当接され、ロックボルトが地盤斜面に対して傾斜した角度で打設された場合でも局所的な応力の発生を防止することができる。
また、螺子溝を有するナットの筒状部は、プレート材の貫通孔に挿入されて地上側から見えない状態となるため、筒状部の存在によりロックボルトの頭部との螺合領域を十分に取りつつ、プレート材から地上側に突出するナット頭部の突出長を小さくすることができ、これにより、斜面安定化構造の設置領域の景観の阻害を抑制することができる。
【0021】
また、本発明の請求項3に係る斜面安定化構造は、請求項2に記載の斜面安定化構造において、
前記ナット支持部は、前記プレート材の上面側の前記貫通孔の周囲を隆起させて形成した隆起部の内側面を前記ナットの凸球面状の座面を受ける凹球面状の前記ナット支持面とすることで構成されたことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、ナットの座面とプレート材のナット支持面との接触面積を大きくして、単位面積当たりの面圧を小さくすることができ、さらに、隆起部を設けてその内側面を凹球面状としたことで、プレートの厚さ如何にかかわらず、常に、ナットの広範囲の傾斜角度を許容することができる。また、十分な面積のナット支持面を確保することができるので、ナット支持面に対してナットが陥没することを防止して、ゆるみの発生を防止することも可能となる。
【0023】
また、本発明の請求項4に係る斜面安定化構造は、請求項2~3のいずれか1項に記載の斜面安定化構造において、
前記ロックボルトの頭部は、地盤斜面への設置状態にて前記プレート材の上面よりも上方に突出していることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の斜面安定化構造。
【0024】
この構成によれば、ロックボルトに対するナットの締め付けを容易に行うことができる。
【0025】
また、本発明の請求項5に係る斜面安定化構造は、請求項2~4のいずれか1項に記載の斜面安定化構造において、
前記ロックボルト及び前記ナットの設置状態において、前記ナットの下方側に位置し、前記ロックボルトの外周を覆う保護部材を備え、該保護部材は、設置時に圧縮変形可能な材料で形成されたことを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、ロックボルトにおいてナットの下方側の領域が、保護部材によって覆われて保護されることで、ロックボルトの腐食を防止することができる。
【0027】
また、本発明の請求項6に係る斜面安定化構造は、請求項2~5のいずれか1項に記載の斜面安定化構造において、
前記ナット頭部は、前記ロックボルトの頭部を覆う略球状に形成されている特徴とする。
【0028】
この構成によれば、ナット頭部が略球形に形成されているので、地盤斜面上に打設された複数のロックボルトの挿入方向にバラつきがあっても、地上側から視認されるナット頭部の形状がほぼ均一な球形状となり、設置後の景観性が向上する。また、ナット頭部の突出量を小さくして、落石による破損を防止することができる。
【0029】
また、本発明の請求項7に係る斜面安定化構造は、請求項2~6のいずれか1項に記載の斜面安定化構造において、
前記ナット頭部は、頂面部に締付工具が嵌め込まれる凹部を有することを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、ナット頭部の頂面部に形成された凹部に、例えばトルクレンチ等の締付工具を嵌め込んで、ナットの締め付け作業を容易に行うことができる。すなわち、凹部として構成することから外部から目立たず、景観性とともに施工性にも優れた構造とすることができる。
【0031】
また、本発明の請求項8に係る斜面安定化構造は、請求項2~6のいずれか1項に記載の斜面安定化構造において、
前記ナット頭部は、頂面部と前記座面との間に、平面視で多角形状に形成された周面部を有することを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、ナット頭部において、多角形状に形成された周面部に、例えばトルクレンチ等の締付工具を嵌め込んで、ナットの締め付け作業を容易に行うことができるので、景観性とともに施工性に優れた構造とすることができる。
【0033】
また、本発明の請求項9に係る斜面安定化構造は、請求項2~8のいずれか1項に記載の斜面安定化構造において、
前記地盤斜面上に敷設され、前記プレート材により前記地盤斜面に押圧される網体を備え、
前記プレート材は、下面から突出して前記網体の網目を貫通する突起部を有することを特徴とする。
【0034】
この構成によれば、上記請求項2~8の作用に加えて、地盤斜面上に敷設された網体によって、隣接するロックボルトの間の表層の一部が抜け落ちる中抜けの発生を確実に防止することができる。また、プレート材の突起部が網体に引っかかって網体の移動が抑止されるので、網体の位置ずれを防止することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係るロックボルト用ナット及び斜面安定化構造によれば、ナット頭部の座面が凸球面状に形成されているので、ロックボルトが地盤斜面に対して垂直方向ではなく傾斜している場合であっても、ナットの座面をプレート材のナット支持部に周方向に均一に当接させることができる。また、螺子溝を有するナットの筒状部は、プレート材の貫通孔に挿入されて地上側から見えない状態となるため、ナットのネジ代を十分に確保しながら、プレート材から地上側に突出するナット頭部の突出長を小さくして、景観の阻害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の第1の実施形態である斜面安定化構造を示す斜視図である。
図2図1に示す斜面安定化構造の断面図である。
図3】網体を示す図であって、(a)は網体の平面図、(b)は網体の側面図である。
図4】ナットを示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。
図5】ロックボルト用ナットの他の実施形態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。
図6】ロックボルト用ナットの他の実施形態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図7】ロックボルト用ナットの他の実施形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
図8】ロックボルト用ナットの他の実施形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
図9】ロックボルト用ナットの変形例を示す側面図である。
図10】ロックボルト用ナットの変形例を示す側面図である。
図11】プレート材の他の例を説明する図であって、(a)はプレート材の平面図、(b)はプレート材のX-X線断面図である。
図12図9に示すプレート材の網体に対する係合状態を説明する図。
図13】本発明の第2の実施形態である斜面安定化構造を示す図2と同様の断面図である。
図14】斜面安定化構造の参考例を示す図2と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態である斜面安定化構造を示す斜視図であり、図2は、図1に示す斜面安定化構造の断面図である。
【0038】
斜面安定化構造10は、斜面崩壊や地滑りを防止するために、地山等の地盤斜面(以下、単に「斜面S」とも称する)に設置される。地盤は、表面側に位置して風化しやすいすべり層(すべり面よりも浅い移動層)と、その下に存在する安定地盤である安定層とを有しており、本実施形態の斜面安定化構造10は、すべり層の深さが5m以内、例えば、滑り層の深さが2~4m程度の地盤に対して好適に用いられる。斜面安定化構造10が設置される斜面Sの傾斜角度は、例えば、水平方向に対して40~80度程度である。
【0039】
斜面安定化構造10は、斜面安定化構造10の設置領域に敷設された網体12と、網体12が敷設された領域に間隔をおいて複数打設されたロックボルト14と、ロックボルト14に螺合されるロックボルト用ナット50(以下、単に「ナット50」とも称する)を用いてロックボルト14の頭部15に取付けられるプレート材20と、斜面Sとプレート材20との間に配置された間詰め部材30とを備える。
【0040】
ロックボルト14は、斜面Sの斜面安定化構造10の構築範囲内において、斜面Sに間隔をあけて複数打設される。ロックボルト14は、ロックボルト14は地盤に形成された孔(削孔)16に挿入されて安定層まで延びており、孔16内に充填されたグラウト材17によって安定層及び移動層に定着される。ロックボルト14は、安定層の位置や地滑りの方向などにより、必要に応じて、斜面Sに対する垂直方向から所定の傾斜角度を付けて打設される。ロックボルト14のボルト径は、例えば、約19mm~約25mmとすることができる。図1に示す例では、ロックボルト14の頭部15が、斜面Sに対する垂直方向から、斜面Sの下方側に傾斜した状態で打設されている。ロックボルト14の傾斜角度は、例えば、垂直方向から10°未満である。ロックボルト14は、表面に、亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有していることが好ましい。
【0041】
網体12は、金属製の線状材13を編み込んで形成され、線状材13は、硬鋼線材から製造されており、800N/mm~2000N/mmの引張強度を有する。このような線状材としては、例えば、JIS G 3506に規定された硬鋼線材から製造された線状材や、硬鋼線(JIS G 3521)や亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等を用いることができる。硬鋼線材から制作された線状材13は、JIS G 3505に規定された軟鋼線材から制作された線状材と比較して塑性変形し難く、高い引張強度及びバネ性を有する。このような線状材を用いることで、網体12を高い引張強度を有する高強度ネットとすることができる。なお、線状材13は、金属製のものに限られず、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維等によって形成された線材や、防食性の高い樹脂製線材を用いることができる。
【0042】
本実施形態の網体12は、図3に示すように、ひし形の網目13aを有するひし形金網である。網体12の網目13aの大きさは、例えば、一方(図3の網目13aにおいて短い方)の対角線長さが50~150mm、他方(図3の網目13aにおいて長い方)の対角線長さが50~200mmとすることができる。また、網体12の側辺に位置する菱形網目の短い方の対角線側の端部には、ねじり加工が施された環状の結束部13bが形成されており、2つの結束部13bが連結された端部処理が施してある。
【0043】
なお、網体12は、ひし形金網に限られず、例えば、円形等の網目13aであってもよい。線状材13は、表面に、亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有していることが好ましく、さらに、亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層の表面に合成樹脂による被覆層(例えば、飽和ポリエステル(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)等の被覆層)が施してあってもよい。これにより、網体20の防食性をより高めることができる。
【0044】
プレート材20は、ロックボルト14が挿通される貫通孔21を有する板状の部材であり、斜面Sとの間に網体12を挟み込んだ状態で、ロックボルト14の頭部15に螺合されるナット50により、斜面Sに対して固定される。プレート材20は、例えば、鋼等の金属製、コンクリート製又は繊維強化樹脂製とすることができる。プレート材20の周縁部には、リブ23が形成されている。貫通孔21は、プレート材20の中央部に形成されている。また、貫通孔21の内径は、下面22b側に向かうに連れて大きくなるように形成されている。本実施形態のプレート材20は、平面視で略四角形状に形成されているが、平面視形状はこれに限られず、例えば、他の多角形状や、円形状であってもよい。
【0045】
プレート材20の中央部には、貫通孔21の周囲のプレート材の上面22aを隆起させて隆起部24が形成されている。すなわち、貫通孔21に周囲に隆起部24が形成されている。この隆起部24の内側面は、ナット50の凸球面状の座面57を同じく面で受ける様に凹球面状のナット支持面(ナット支持部)24aとして構成されている。すなわち、ナット支持面24aは、いわゆるすり鉢状の形状を有している。図2に示すように、プレート材20の断面の厚さとしてみた場合、隆起部24の厚さD2は、その周辺の領域の厚さD1よりも大きくなっている。厚さD1は、リブ23や突出部26を除く、プレート本体の厚さである。
この様に、隆起部24を設けることで、プレートの厚さ如何にかかわらず、十分な面積のナット支持面24aを確保することが可能となっている。
【0046】
プレート材20の下面22bには、下面22bから突出した少なくとも1つの突起部26を有する。突起部26の長さは、図3に示す網体12の厚さd以上となっている。本実施形態では、下面22bに複数の突起部26が形成されており、各突起部26は、設置状態で、網体12の網目を貫通している。
【0047】
ナット50は、ロックボルト14の頭部15に螺合してプレート材20を斜面Sに対して固定するものである。ナット50は、例えば金属材料や樹脂材料で形成することができ、表面に、亜鉛めっき層又は亜鉛アルミニウム合金めっき層を有していることが好ましい。図4に示すように、ナット50は、凸球面状の座面57を有するナット頭部56と、座面57から突出する筒状部52とを有している。座面57は、他の表面領域よりもめっき層の厚みが厚くなっていることが好ましい。
【0048】
ナット頭部56の外径は、プレート材20の貫通孔21の内径よりも大きく形成されている。本実施形態のナット頭部56は、全体が、ロックボルト14の頭部15を覆う略球状に形成されており、その直径が貫通孔21の上端部の内径よりも大きく形成されている。ナット頭部56は、頂面部56aにトルクレンチ等の締付工具60の締付ヘッド62が嵌め込まれる凹部58を有している。本実施形態の凹部58は、平面視で略四角形状に形成されているが、これに限られず、六角形等、他の多角形状であってもよい。
【0049】
ナット50の筒状部52は、座面57から突出する筒状の部位である。本実施形態の筒状部52は、円筒状に形成されているが、これに限られず、多角筒状であってもよい。筒状部52の直径は、プレート材20の貫通孔21の内径よりも小さく形成されている。筒状部52は、その内周面に螺子溝が形成された雌螺子部54を有している。本実施形態では、雌螺子部54が筒状部52を貫通してナット頭部56まで延びている。また、ナット頭部56の雌螺子部54の長さが、筒状部52の雌螺子部54の長さよりも大きく形成されている。なお、図示していないが、雌螺子部54は、ナット頭部56を貫通するように延びていてもよい。本実施形態では、ナット50の軸方向において、筒状部52の長さが、ナット頭部56の長さよりも短くなっているが、筒状部52の長さは、ナット頭部56の長さと等しくしたり、ナット頭部56よりも長くしたりすることができる。
【0050】
間詰め部材30は、斜面Sに凹凸がある(すなわち、不陸がある)場合に、プレート材20と斜面Sとの間に配置して、プレート材20と斜面Sとの間の不陸を解消して、プレート材20の突起部26を網体12に適切に係止させたり、プレート20の固定状態を安定化させて、ナット50の締付けによる緊張力が地山に適切に伝達されるようしたりするためのものである。間詰め部材30は、必要に応じて、プレート材20と重なるように斜面S上に配置される。間詰め部材30は、袋体32と、袋体32の内部に装填された多孔質部材34と、袋体32内部に注入された経時硬化性を有する充填材36とを備えている。
【0051】
袋体32は、通気性を有するとともに、充填材36を内部に保持可能な材料で形成される。このような材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリエステル等からなる不織布を用いることができる。この不織布は、空気を通過させ、水をわずかに浸透させるが、充填材36を浸透させない程度の大きさの細孔を有している。袋体32は、2枚の不織布の周辺部を互いに接合させて形成することができる。本実施形態の間詰め部材30は、袋体32の中央部に、ロックボルト14を挿通するための挿通孔38が形成されている。
【0052】
多孔質部材34は、充填材36を含浸保持可能な多数の細孔及び/又は間隙を有するとともに、圧縮変形可能なものである。このような素材としては、例えば、スポンジ、発泡ウレタン、パルプ製品又はパーム(ヤシ科植物などから得られる塊状繊維)等が挙げられるが、上述の性質を有していれば他の素材を用いても良い。本実施形態では多孔質部材34として、パームを用いている。充填材36は、経時硬化性を有するものであり、袋体32に注入される際に流動性を有し、その後、固体物となる。本実施形態では、充填材36としてセメントミルクを用いているが、これに限られず、例えば樹脂材料やモルタル等のグラウト材であってもよい。
【0053】
上述した斜面安定化構造10は、以下の手順で施工することができる。
【0054】
まず、地盤斜面Sを削孔して、ロックボルト14を挿入するための孔16を設ける。次に、孔16内にロックボルト14を挿入し、孔16の底部からグラウト材17を注入してロックボルト14を打設する(ロックボルト設置工程)。ロックボルト14は、斜面安定化構造10の設置対象となる斜面Sに間隔をあけて複数打設される。ロックボルト14は、図2に示すように、網体12が設置された後の状態で、ロックボルト14の頭部15が網体12の表面から地上側に突出するように設置される。また、図2に示すように、頭部15は、プレート材20設置後の状態で、プレート材20の平坦な上面22aよりも地上側に突出していることが好ましく、隆起部24よりも上方に突出していることがより好ましい。このように、ロックボルト頭部15をプレート材20から突出させることで、ナット50をロックボルト14に螺合しやすくすることができる。
【0055】
次に、斜面S上に間詰め部材30を配置する(間詰め部材配置工程)。間詰め部材30は、プレート材20と重なる位置に配置され、本実施形態では、間詰め部材30の袋体32に形成された挿通孔38にロックボルト14の頭部を挿通している。
【0056】
次に、斜面安定化構造10の設置対象領域となる斜面Sに網体12を敷設する(網体敷設工程)。その後、網体12の網目を貫通しているロックボルト14の頭部15に、プレート材20を取り付けて、ナット50によりプレート材20を仮止めする(プレート材仮止め工程)。プレート材20は、貫通孔21にロックボルト14の頭部15を挿通して、ナットで締め付けることによりロックボルト14に取付けられる。この際、図2に示すように、プレート材20の突起部26は、網体12の網目を貫通するように設置される。ナット50は、締付工具60の締付ヘッド62をナット頭部56の凹部58に嵌め込んだ状態で締め付けることにより、容易に締付けることができる。
【0057】
次に、プレート材20を仮止めした状態で、間詰め部材30の袋体32の内部に、経時硬化性を有する液状の充填材36を充填する(充填材注入工程)。充填材36は、図示していない注入用ホースを用いて、袋体32に形成された注入口から、袋体32内に注入される。これにより、プレート材20の突起部26と網体12との係止・固定状態を安定化させることができる。その後、締付工具60を用いてナット50を本締めし、ロックボルト14に必要な緊張力を付与する。プレート材20を斜面Sに対して固定する(プレート材固定工程)。本締めした後のナット50は、凸球面状の座面57がプレート材20の凹球面状のナット支持面24aに当接した状態となる。また、ナット50の筒状部52は、プレート材20の貫通孔21内に入り込み、ナット頭部56のみがプレート材20から地上側に露出した状態となる。網体12は、プレート材20により斜面Sに押付けられた状態となる。なお、ナット50は、本締めした後、凹部58にシーリング材を充填してもよい。これにより、凹部58に雨水が溜ることを防止することができる。
【0058】
図1に示すように、ロックボルト14が斜面Sに対して垂直方向から傾斜して打設された場合、ロックボルト14に螺合されるナット50の軸方向は、斜面S上に配置されたにプレート材20の平坦な表面(上面22a)に対して垂直方向から傾斜した状態となる。上述したナット50を用いた斜面安定化構造10では、ナット頭部56に形成された座面57が凸球面状に形成されているため、この座面57は、プレート材20のナット支持面24aに対して局部的な当たりを生ずることなく、座面57の周方向に亘って均一に当たるようになる。これにより、ロックボルト14が斜面Sに対する垂直方向から傾斜していても、ロックボルト14の傾斜角度の変化に対応させることができる。
【0059】
また、プレート材20に設けられたすり鉢状の隆起部24、すなわちこの隆起部24の内側面の凹球面状のナット支持面24aによって、ナット50の凸球面状の座面57との接触面積をより広く確保することができる。これにより、プレートの厚さ如何にかかわらず、常に、ナットの広範囲の傾斜角度を許容することができる。すなわち、この凹球面状のナット支持面24aの範囲において、座面57とナット支持面24aに作用する面圧の局所的な集中を排除して、ナット50がプレート材20に陥没することを防止し、さらにナット50のゆるみの発生を防止することができる。
【0060】
また、上述した斜面安定化構造10では、雌螺子部54が形成されたナット50の筒状部52が、プレート材の貫通孔に挿入されて地上側から見えない状態となるため、この筒状部52によりナット50のネジ代を十分に確保しながら、プレート材20から地上側に突出するナット頭部56の突出長を小さくすることができる。これにより、斜面安定化構造全体の景観性を向上させることができる。
【0061】
特に、本実施形態では、ナット頭部56が、略球形に形成されており、このナット頭部56によりロックボルト14の頭部15が覆われているので、斜面Sに打設された複数のロックボルト14の挿入方向にバラつきがあっても、図1に示すように、地上側から視認されるナット頭部の形状がほぼ同じ球形状となる。そのため、設置後の景観性に優れた構造となっている。また、ナット50により、ロックボルト14の頭部15の腐食を防止することができる。
【0062】
また、本実施形態のナット50は、筒状部52からナット頭部56まで延びる雌螺子部54を有しており、斜面安定化構造10において、ロックボルト14の頭部15をプレート材20の隆起部24の頂部よりも地上側に突出させて、この頭部15をナット頭部56に形成された雌螺子部54に螺合させている。このように、ロックボルト14の頭部15のプレート材20の上面22aからの突出長さを大きくし、ナット頭部56の領域においても、ロックボルト14とナット50とを螺子締結させるようにすることで、高い締結力を得ることができる。
【0063】
また、斜面S上に敷設される網体12は、コンクリート製の枠体からなる法枠に比べて、斜面Sに対する追随性が高く、設置が容易である。このように網体12を用いた斜面安定化構造10では、コンクリート法枠とは異なり、プレート材20の設置面が平らにならないことがあるが、プレート材20に隆起部24を設け、隆起状のナット支持面24aを形成することで、斜面Sの凹凸の影響を抑えて、ナット支持面24aとナット50の座面57と接触状態を良好に保つことができる。
【0064】
また、本実施形態の斜面安定化構造10では、斜面S上に敷設された網体12によって、隣接するロックボルト14の間で表層の中抜けが発生することを確実に防止することができる。また、プレート材20の突起部26を網体12の網目に貫通させることで、突起部26が網体12に引っかかり、網体12の移動が抑止される。これにより、網体12の位置ずれを防止することができる。
【0065】
次に、図5図8を用いて、ナット50の他の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態では、上述した実施形態と対応する部位に同一の符号を付し、同一の構成についての詳細を省略する。
【0066】
図5は、ナット50の他の実施形態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は底面図である。図5に示すナット50は、全体が略球状に形成されたナット頭部56と、ナット頭部56の座面から突出する筒状部52とを有しておいる。ナット頭部56は、頂面部を形成する上部と、座面57を形成している下部とが凸球面状に形成されている。また、頂面部56aと座面57との間に、平面視で多角形状に形成された周面部59を有する。本実施形態の多角形周面部59は、六角形に形成されているが、これに限られず、例えば四角形であってもよい。
【0067】
このように、ナット頭部56の周面部59を六角形状とすることで、この周面部59にトルクレンチ等の既存の締付工具60を嵌め込んで締付作業を行うことができる。具体的には、締付工具60のヘッドに形成された六角形の収容凹部に、ナット50の周面部59を嵌め込んだ状態でナット50を締付けることができる。
【0068】
図6は、ナット50のさらに他の実施形態を示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図である。なお、図6に示すナット50の底面図は、図4(c)と同一の形状となるため、ここでは記載を省略する。
【0069】
図6に示すナット50は、ナット頭部56が略半球状に形成されている。ナット頭部56の下部に形成された座面57は、凸球面状に形成されており、ナット頭部56の頂面部56aは、平面状に形成されている。頂面部56aの中央部には、締付工具60が嵌め込まれる凹部58が形成されている。また、頂面部56aの周縁部46bには面取り加工が施されている。図6に示すように、本発明のナット50のナット頭部56は、座面57が凸球面状であればよく、ナット頭部56全体の形状は、球形でなくてもよい。
【0070】
図7は、ナット50のさらに他の実施形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【0071】
図7に示すナット50は、図4に示すナット50と同様に、筒状部52と、球形のナット頭部56と、筒状部52からナット頭部56まで延びる雌螺子部54と、ナット頭部56の頂面部56aに形成された凹部58とを有している。さらに、本実施形態のナット50は、凹部58と雌螺子部54とを連通する螺子孔53を有している。螺子孔53には、孔を封止するための皿ネジ64が螺合されている。ナット50は、外表面のみならず、雌螺子部54、凹部58及び螺子孔53を含めた全表面が、亜鉛めっき層でコーティングされている。このように、螺子孔53を設けることで、ナット表面に溶融亜鉛めっき処理(いわゆる、ドブづけ)をする際に、溶融亜鉛が凹部58の底や、雌螺子部54の底に空気が溜り(所謂、エアポケット)、めっき処理されていない部分が生じることを防止することができる。
【0072】
図8は、ナット50のさらに他の実施形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は平面図である。ナット50は、全表面が亜鉛めっき層でコーティングされている。
【0073】
図8に示すナット50は、筒状部52と、球形のナット頭部56と、筒状部52からナット頭部56まで延びる雌螺子部54と、ナット頭部56の頂面部56aに形成された円形の凹部58とを有している。さらに、凹部58と雌螺子部54との間には、これらを連通する螺子孔53が形成されている。螺子孔53は、図7に示す例と同様に、ナット50を溶融亜鉛めっき処理する際に、エアポケットの発生を防止する機能を有する。螺子孔53には、六角形の頭部を有するボルト66が螺合されている。亜鉛めっき層は、溶融亜鉛にドブづけすることで形成することができる。図8に示すナット50は、トルクレンチ(締付工具60)を用いてボルト66を螺子孔53に螺合するとともに、同一のトルクレンチを用いて、ボルト66と一体になったナット50をロックボルト14の頭部15に螺合することができる。
【0074】
図9は、ナット50の変形例1を示す側面図である。図示例のように、ナット50は、側面に軸方向に延びるスリット55を有する構成であってもよい。このスリット55は、斜面Sの垂直方向に対するロックボルト14の傾斜角度を確認するものであり、少なくともナット55の頭部に、1つ以上形成される。このスリット55は、例えば、ナット55の側面に形成された軸方向に延びる凹溝とすることができる。図9では、1つのスリット55を示しているが、スリット55は、周方向に間隔をおいて2つ以上形成されることが好ましく、周方向に等間隔で3つ以上形成されていることがより好ましい。なお、図示していないが、図5図8に示すナット50において、座面57形成領域の側面にスリット55を設けてもよい。
【0075】
図10は、ナット50の変形例2を示す側面図である。図10の破線で示すように、ナット50の筒状部52は、上方側の内周面に雌螺子部54を有し、下方側の内周面に螺子溝が形成されていない中空部54aを有する構成であってもよい。中空部54aと螺子溝54とは連続している。筒状部52において中空部54aが形成された下方側の領域は、ロックボルト14にナット50を螺合した状態で、ロックボルト14の外周面を保護してロックボルト14の腐食等を防止する保護領域である。
【0076】
次に、図11及び図12を用いて、プレート材20の変形例について説明する。本変形例のプレート材20は、平面視で、長径の長さ(長い方向の長さ)が網体12の網目13よりも大径に形成されており、平面視形状が略六角形に形成されている。プレート材20は、上面22aに、プレート材20の周縁部に沿って形成された第1のリブ23aと、中央の隆起部24から第1のリブ23aに向かって放射状に延びる複数の第2のリブ23bと有している。プレート材20の下面22bには、複数の突起部26が形成されている。プレート材20の平面視の大きさは適宜設定することができるが、例えば、長手方向の長さが350~650mm、好ましくは400~600mmであり、長手方向と直交する幅方向の長さが150~450mm、好ましくは250~400mmである。
【0077】
図12は、網体12上に設置されたプレート材20を、斜面S側から(すなわち、プレート材20の下面側から)見た図である。図示例のように、プレート材20の突起部26は、網体12の網目13a内に挿入された状態とすることで、網体12に外力が加わって、プレート材20と網体12との相対位置がずれようとした際に、突起部26と線状材13との係止構造により、網体12の位置ずれを防止することができる。
【0078】
(第2の実施形態)
次に、図13を用いて、斜面安定化構造10の第2の実施形態について説明する。図13では、図2に示す第1の実施形態と同様の部位に、同一の符号を付している。以下の説明では、第1の実施形態と異なる構成について詳説し、その他の構成については説明を省略する。
【0079】
本実施形態の斜面安定化構造10では、ロックボルト14が、カプラー18を介して直列に連結された第1のロックボルト14Aと、第2のロックボルト14Bとを備えている。カプラー18は、内周面に雌螺子が形成された中空筒状に形成されている。図示例では、第1のロックボルト14Aの上端部に、カプラー18の一端部が螺合され、第2のロックボルト14Bの下端部に、カプラー18の他端部が螺合されている。このように、カプラー18を用いて、2つのロックボルト14A,14Bを連結する構成とすることで、斜面Sから突出するロックボルト14の頭部15の長さを調整しやすくすることができる。
【0080】
また、本実施形態では、ロックボルト14用の削孔16内において、削孔16に充填されたグラウト材17と、ナット50の下端面との間に生じた隙間を保護部材40で埋めている。保護部材40は、ロックボルト14の外周を囲む筒状に形成されている。保護部材40の材料は特に限定されず、樹脂材料、金属材料、又はこれらを組み合わせた材料等で形成することができるが、少なくとも軸方向に圧縮可能な材料、例えば、スポンジ等の弾性材料で形成されることが好ましい。スポンジで形成された筒状の保護部材40は、外周面が孔を有しない止水性のシートやコーティング層で覆われていることが好ましい。また、保護部材40は、スポンジ内がセメントペーストや防錆剤などの充填材で充填された構成であってもよい。スポンジ等の弾性材料で保護部材40を形成することで、保護部材40を軸方向に圧縮可能にすることができ、ナット50の締め付けによって、グラウト材17とナット50との間の隙間の長さが変化しても、保護部材40を圧縮変形させて隙間を適切に埋めることができる。このように、隙間を保護部材40で埋めることで、ロックボルト14の腐食を防止することができる。
【0081】
本実施形態の保護部材40は、円筒状のスポンジと、スポンジの外周面を覆う止水性のシートと、スポンジ内に充填された充填材とを有する。このような保護部材40は外周面をシートで覆われた円筒状のスポンジの中空部にロックボルト14の頭部15を挿通し、その後、スポンジ内に充填材であるモルタルを注入する。充填材が硬化していない状態で、ロックボルト15の頭部15にナット50を螺合することにより、ナット50と削孔16内のグラウト材17とに挟まれて保護部材40が圧縮される。圧縮されたスポンジ内の充填材は、止水されていないスポンジの軸方向の両端部から、スポンジ外へ溢れ出ることができる。
【0082】
次に、図14を用いて、凸球面状の座面77を有するナット70と、プレート材20とを備えた斜面安定化構造100の参考例を説明する。図14に示す斜面安定化構造100において、図13に示す斜面安定化構造10の第2の実施形態と同様の部位には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
参考例のナット70は、全体が略球形に形成されており、その内部に螺子溝が形成された雌螺子部74が形成されている。ナット70の頂面部(すなわち、アンカーボルト14の挿入口と反対側のナット表面部)には、トルクレンチ等の締付工具60の締付ヘッド62が嵌め込まれる凹部78が形成されている。ロックボルト14の周囲において、削孔16に充填されたグラウト材17とナット70の下端面との間に生じる隙間領域は、ロックボルト14を囲む筒状の保護部材40で埋められている。
【0084】
本参考例のように、ナット70に筒状部が形成されていないものであっても、ナット70の直径を適宜設定することで、十分なネジ代を確保することができる。また、隆起部24を有するプレート材20と組み合わせることで、座面77とナット支持面24aとの接触面積を大きくして、軸力(締結力)を受けるナット支持面24aの面圧を十分に確保することができる。
【0085】
なお、本発明は上述した各実施形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0086】
例えば、本発明に係る斜面安定化構造10は、網体12や間詰め部材30を備えていない構造であってもよい。また、間詰め部材30を配置する場合、間詰め部材30は、斜面Sと網体12との間に配置するとともに、または、これに代えて、網体12とプレート材20との間に配置してもよい。
【符号の説明】
【0087】
10 斜面安定化構造
12 網体
14 ロックボルト
15 ロックボルトの頭部
20 プレート材
22a プレート部の上面
22b プレート材の下面
24 隆起部
24a ナット支持面(ナット支持部)
26 突起部
30 間詰め部材
32 袋体
34 多孔質部材
36 充填材
50 ナット(ロックボルト用ナット)
52 筒状部
54 雌螺子部
56 ナット頭部
56a 頂面部
57 座面
58 凹部
59 周面部
S 斜面(地盤斜面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14