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特開2023-57843複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液、複合酸化物ナノ粒子の製造方法、及び固体酸化物形燃料電池単セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057843
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液、複合酸化物ナノ粒子の製造方法、及び固体酸化物形燃料電池単セル
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20230417BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230417BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230417BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C01G49/00 H
H01M8/12 101
H01M4/86 U
H01M4/88 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167544
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宋 東
(72)【発明者】
【氏名】福山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和好
(72)【発明者】
【氏名】神成 尚克
【テーマコード(参考)】
4G002
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G002AA08
4G002AA09
4G002AB02
4G002AB07
4G002AD04
4G002AE05
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB05
5H018EE13
5H018HH01
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することが可能な複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を提供する。
【解決手段】複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンの炭酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のランタン化合物と、カルシウムの炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のカルシウム化合物と、鉄の炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びクエン酸鉄アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の鉄化合物と、金属イオンに配位可能な配位能を有する配位性有機化合物と、を含有し、pHが2.7超過8未満である。配位性有機化合物の質量は、製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の2倍超過である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、
ランタンの炭酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のランタン化合物と、
カルシウムの炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のカルシウム化合物と、
鉄の炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びクエン酸鉄アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の鉄化合物と、
金属イオンに配位可能な配位能を有する配位性有機化合物と、
を含有し、
pHが2.7超過8未満であり、
当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記ランタン化合物、前記カルシウム化合物、及び前記鉄化合物から製造される前記ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の2倍超過である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項2】
前記ランタン化合物は、炭酸ランタン(III)、酢酸ランタン(III)、酸化ランタン(III)、水酸化ランタン(III)、オキシ水酸化ランタン(III)、及びランタンイソプロポキシド(III)から選ばれる少なくとも1種であり、
前記カルシウム化合物は、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酸化カルシウム、過酸化カルシウム、水酸化カルシウム、及びカルシウムメトキシドから選ばれる少なくとも1種であり、
前記鉄化合物は、炭酸鉄(III)、酢酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、酸化鉄(III)、水酸化鉄(III)、オキシ水酸化鉄(III)、及びクエン酸鉄アンモニウム(III)から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項3】
前記配位性有機化合物がキレート剤である請求項1又は請求項2に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項4】
前記キレート剤がクエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、及びクエン酸三アンモニウムの少なくとも1種である請求項3に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項5】
当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記ランタン化合物、前記カルシウム化合物、及び前記鉄化合物から製造される前記ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の3倍以上5倍以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項6】
当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される前記ランタン化合物、前記カルシウム化合物、及び前記鉄化合物の合計の濃度は、5質量%以上14質量%以下であり、
前記合計の濃度は、所定質量の当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造される前記ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量を、前記所定質量で除し100倍することにより算出されるものである請求項1~5のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項7】
pHが3以上7以下である請求項1~6のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液。
【請求項8】
ランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子を製造する方法であって、請求項1~7のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成する焼成工程を有する複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
焼成温度が600℃以上である請求項8に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記ランタン化合物が炭酸ランタン(III)を含有し且つ前記カルシウム化合物が炭酸カルシウムを含有する場合は、前記ランタン化合物、前記鉄化合物、及び前記配位性有機化合物を含有し且つ温度が40℃以下である水溶液に、前記カルシウム化合物を溶解させて前記複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を得る水溶液調製工程を、前記焼成工程の前に有する請求項8又は請求項9に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させる含浸工程を有し、前記含浸工程において前記複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた前記多孔質体を前記焼成工程において焼成する請求項8~10のいずれか一項に記載の複合酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
空気極、固体電解質層、及び燃料極がこの順で積層された積層構造を有する固体酸化物形燃料電池単セルであって、
前記空気極を構成する多孔質基体の表面には細孔が開口しており、この細孔の内面にランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子が配されている固体酸化物形燃料電池単セル。
【請求項13】
前記ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径は50nm以下である請求項12に記載の固体酸化物形燃料電池単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物のナノ粒子を製造するための前駆体水溶液、当該前駆体水溶液を用いる複合酸化物ナノ粒子の製造方法、及び当該複合酸化物のナノ粒子を備える固体酸化物形燃料電池単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)の空気極に使用される複合酸化物として、ランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(以下、単にランタンカルシウム鉄複合酸化物と記すこともある)が検討されている。なお、上記化学式中のxは0超過0.4以下であり、yは0.95以上1.00以下である。ランタンカルシウム鉄複合酸化物はストロンチウムやコバルトを含有しないので、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池に使用されているジルコニウム、クロムとストロンチウム、コバルトとが反応してSrCrO4、SrZrO3等の高抵抗相が形成されるおそれがない。よって、ランタンカルシウム鉄複合酸化物を固体酸化物形燃料電池の空気極に使用すれば、長期耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池の製造が可能である。非特許文献1には、ランタンカルシウム鉄複合酸化物の粉末の製造技術が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Power Sources,448,2020,227426
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に開示の技術は、硝酸ランタン(III)及び硝酸鉄(III)を原料として用いているので、ランタンカルシウム鉄複合酸化物の粉末を製造する際には、硝酸ランタン(III)及び硝酸鉄(III)を含有する水溶液を900℃以上の高温で焼成する必要があった。900℃以上の高温で焼成を行うと、粒子の成長が促進されるので、高い触媒活性の発現に不可欠なナノサイズの粒子(ナノ粒子)を得ることは困難であった。
また、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造する際に900℃以上の高温で焼成を行うと、金属製支持体の酸化が促進されるため、非特許文献1に開示の技術をメタルサポート型の固体酸化物形燃料電池の製造に適用することは難しかった。
【0005】
本発明は、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することが可能な前駆体水溶液、及び、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、長期耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池単セルを提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、ランタンの炭酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のランタン化合物と、カルシウムの炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種のカルシウム化合物と、鉄の炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びクエン酸鉄アンモニウムから選ばれる少なくとも1種の鉄化合物と、金属イオンに配位可能な配位能を有する配位性有機化合物と、を含有し、pHが2.7超過8未満であり、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、当該複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の2倍超過であることを要旨とする。
【0007】
本発明の他の態様に係る複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、ランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子を製造する方法であって、上記の一態様に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成する焼成工程を有することを要旨とする。
本発明のさらに他の態様に係る固体酸化物形燃料電池単セルは、空気極、固体電解質層、及び燃料極がこの順で積層された積層構造を有する固体酸化物形燃料電池単セルであって、空気極を構成する多孔質基体の表面には細孔が開口しており、この細孔の内面にランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子が配されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液及び複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を低温での焼成によって製造することが可能である。本発明に係る固体酸化物形燃料電池単セルは、長期耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の一実施形態を説明する模式的概念図である。
図2】本発明に係る複合酸化物ナノ粒子の製造方法の一実施形態を説明する模式的概念図である。
図3】実施例1-1及び比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成時に生成した生成物をX線回折法により分析した結果を示す図である。
図4】実施例及び比較例において評価に用いた固体酸化物形燃料電池単セルの構造を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0011】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンカルシウム鉄複合酸化物(La1-xCaxyFeO3(xは0超過0.4以下、yは0.95以上1.00以下)のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、ランタン化合物、カルシウム化合物、鉄化合物、及び配位性有機化合物を含有する。
【0012】
ランタン化合物は、ランタンの炭酸塩、ランタンの酢酸塩、ランタンの酸化物、ランタンの水酸化物、ランタンのオキシ水酸化物、及びランタンのアルコキシドから選ばれる少なくとも1種である。カルシウム化合物は、カルシウムの炭酸塩、カルシウムの酢酸塩、カルシウムのクエン酸塩、カルシウムの酸化物、カルシウムの過酸化物、カルシウムの水酸化物、及びカルシウムのアルコキシドから選ばれる少なくとも1種である。鉄化合物は、鉄の炭酸塩、鉄の酢酸塩、鉄のクエン酸塩、鉄の酸化物、鉄の水酸化物、鉄のオキシ水酸化物、及びクエン酸鉄アンモニウムから選ばれる少なくとも1種である。配位性有機化合物は、金属イオンに配位可能な配位能を有する有機化合物である。
【0013】
また、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、2.7超過8未満である。
さらに、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の2倍超過である。
【0014】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液には、上記質量の配位性有機化合物が含有されている。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液においては、ランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物に由来するランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンに配位性有機化合物が配位しているため、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンは複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に極めて均一に分散している。
【0015】
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液において、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが配位性有機化合物の作用によって均一に分散している状態の一例を、図1に模式的に示す。図1においては、配位性有機化合物が短い波線で示されている。
【0016】
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液に対してランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分散されているため、焼成に900℃以上の高温を必要とせず、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成する際の焼成温度が例えば700℃以下の低温であっても、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造することが可能である。すなわち、マイクロメートルオーダーの複合酸化物粒子ではなく、ナノメートルオーダーの極微細な複合酸化物ナノ粒子を得ることができる。
【0017】
詳述すると、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成により、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が生成する際には、まず複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中の水等の溶媒が除去されて、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分布した非晶質ゲルが形成され、その後に焼成が行われてランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が生成する。
【0018】
この非晶質ゲルは、非晶質であるために元素の偏在が抑制されランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分布している。よって、例えば700℃以下の低温での焼成であっても、未反応物、中間生成相等の不純物が生成しにくく、高純度なランタンカルシウム鉄複合酸化物が得られる。
【0019】
よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から得られたランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を用いて固体酸化物形燃料電池単セルを製造すれば、大きな表面積を有する触媒を得ることができるので、空気極の触媒活性が優れる固体酸化物形燃料電池単セルを製造することができる。
また、低温で焼成可能であることから、低コストで焼成を行うことができ、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子や、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を備える固体酸化物形燃料電池単セルを安価に製造することができる。
【0020】
さらに、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であれば、例えば、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池単セルに使用される金属製の多孔質支持体や、固体酸化物形燃料電池単セルの空気極を構成する多孔質基体へ、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸して焼成することによって、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造することが可能である。
【0021】
すなわち、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を低温で焼成することによってランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造することが可能であるので、上記した金属製の多孔質支持体や空気極を構成する多孔質基体に高温による損傷(例えば酸化や変形)を与えることなく、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池を製造することが可能である。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池の製造に適用することが可能である。
【0022】
また、ランタンカルシウム鉄複合酸化物はストロンチウム及びコバルトを含有しないので、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池に使用されているジルコニウム、クロムとストロンチウム、コバルトとが反応してSrCrO4、SrZrO3等の高抵抗相が形成されるおそれがない(単相のランタンカルシウム鉄複合酸化物が得られる)。よって、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から得られたランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を空気極に用いれば、長期耐久性に優れた固体酸化物形燃料電池単セルの製造が可能である。
【0023】
ここで、本発明におけるナノ粒子とは、以下のことを意味する。焼成により得られるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の場合は、その平均一次粒子径が数十nm程度である粒子を意味する。焼成により得られるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径の下限は10nm以上であることが好ましく、上限は100nm未満であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
【0024】
なお、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径の測定方法は特に限定されるものではないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。例えば、ナノ粒子の透過型電子顕微鏡画像を撮像し、撮像した画像に描画されたナノ粒子のうち任意の10個のナノ粒子の長径の平均値を算出して、この平均値をナノ粒子の平均一次粒子径としてもよい。
【0025】
以下に、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液、複合酸化物ナノ粒子の製造方法、及び固体酸化物形燃料電池単セルについて、さらに詳細に説明する。
(1)ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子について
本実施形態のランタンカルシウム鉄複合酸化物は、ランタンとカルシウムと鉄とを含有する複合酸化物であり、化学式(La1-xCaxyFeO3で表される。上記化学式中のxは0超過0.4以下であり、yは0.95以上1.00以下である。本実施形態のランタンカルシウム鉄複合酸化物の例としては、La0.65Ca0.35FeO3が挙げられる。
ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径は、前述のように数十nm程度であり、100nm未満であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。前述したように、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径が小さいため、触媒活性が優れている。
【0026】
(2)複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造するための複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液であって、ランタン化合物、カルシウム化合物、鉄化合物、及び配位性有機化合物を含有する。
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の溶媒は、水のみでもよいが、ランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物が溶解するならば、水と有機溶剤の混合物でもよい。
【0027】
(3)ランタン化合物について
ランタン化合物は、ランタンの炭酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種であり、炭酸ランタン(III)(La2(CO33)、酢酸ランタン(III)(La(CH3COO)3)、酸化ランタン(III)(La23)、水酸化ランタン(III)(La(OH)3)、オキシ水酸化ランタン(III)(LaOOH)、及びランタンイソプロポキシド(III)(La(C37O)3)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
(4)カルシウム化合物について
カルシウム化合物は、カルシウムの炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、過酸化物、水酸化物、及びアルコキシドから選ばれる少なくとも1種であり、炭酸カルシウム(CaCO3)、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)、クエン酸カルシウム(Ca3(C6572)、酸化カルシウム(CaO)、過酸化カルシウム(CaO2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、及びカルシウムメトキシド(Ca(CH3O)2)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
(5)鉄化合物について
鉄化合物は、鉄の炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、及びクエン酸鉄アンモニウムから選ばれる少なくとも1種であり、炭酸鉄(III)(Fe2(CO33)、酢酸鉄(III)(Fe(CH3COO)3)、クエン酸鉄(III)(Fe(C657))、酸化鉄(III)(Fe23)、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)、オキシ水酸化鉄(III)(FeOOH)、及びクエン酸鉄アンモニウム(III)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
(6)ランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度は、5質量%以上15質量%以下とすることができるが、5質量%以上14質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
なお、この合計の濃度は、所定質量の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量を、前記所定質量で除し100倍することにより算出されるものである。ここで、本発明における「理論質量」とは、所定質量の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造しうるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の質量を理論的に算出したものを意味する。
【0032】
上記合計の濃度が5質量%以上であれば、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を効率よく製造することができる。例えば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させ、含浸させた多孔質体を焼成して、多孔質体の表面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を形成する場合には、少ない含浸回数でランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造することができる。
【0033】
一方、上記合計の濃度が14質量%以下であれば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が好適であり、取り扱い性が優れている。例えば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させ、含浸させた多孔質体を焼成して、多孔質体の表面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を形成する場合には、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の多孔質体への含浸が容易である。
【0034】
(7)配位性有機化合物について
配位性有機化合物の種類は、ランタンイオン、カルシウムイオン、鉄イオン等の金属イオンに配位可能な配位能を有する有機化合物であれば特に限定されるものではないが、例としては、キレート剤、高分子電解質、アニオン界面活性剤、アミノ酸等が挙げられる。
【0035】
キレート剤の具体例としては、クエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、L-グルタミン酸二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテルが挙げられる。高分子電解質の具体例としては、ポリアクリル酸、アルギン酸、ポリビニルアミン、ポリリン酸、ポリスチレンスルホン酸が挙げられる。アニオン界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0036】
これらの配位性有機化合物の中では、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンの溶解性や分散性をより高めることができることから、キレート剤が好ましい。また、キレート剤の中でも、クエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウムがより好ましい。そして、クエン酸、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウムの中では、これらキレート剤が鉄イオンに配位してなるクエン酸鉄の安定性がアンモニウムイオンによって向上することから、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウムがさらに好ましく、クエン酸三アンモニウムが特に好ましい。
【0037】
(8)配位性有機化合物の量について
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の2倍超過である必要があり、3倍以上10倍以下であることが好ましく、3倍以上5倍以下であることがより好ましい。
【0038】
配位性有機化合物の質量が上記理論質量の2倍超過であれば、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンを複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に極めて均一に分散させることができる。また、配位性有機化合物の質量が上記理論質量の3倍以上であれば、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンの溶解性や分散性が優れているため、不純物が生成しにくく、低温での焼成によって単相のランタンカルシウム鉄複合酸化物が得られやすい。
【0039】
さらに、配位性有機化合物の質量が上記理論質量の5倍以下であれば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の粘度が好適であり、取り扱い性が優れている。例えば、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させ、含浸させた多孔質体を焼成して、多孔質体の表面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を形成する場合には、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の多孔質体への含浸が容易である。
【0040】
(9)複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHについて
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、2.7超過8未満である必要があるが、3以上7以下であることが好ましい。複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の2.7超過8未満であれば、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンの溶解性や分散性が優れているため、不純物が生成しにくく、低温での焼成によって単相のランタンカルシウム鉄複合酸化物が得られやすい。なお、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、例えばpH調整剤(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア、アミン)を添加することによって調整することができる。
【0041】
(10)ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の製造方法について
本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成することにより(焼成工程)、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造することができる。本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を用いれば、例えば600℃以上という低い焼成温度で焼成しても、不純物が少なく高純度なランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を得ることができる。また、低温で焼成可能であることから、低コストで焼成を行うことができる。なお、焼成温度は、600℃以上であることが好ましく、610℃以上730℃以下であることがより好ましく、660℃以上700℃以下であることがさらに好ましい。
【0042】
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成によりランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造する際には、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させた状態で焼成を行ってもよい。すなわち、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子の製造方法は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させる含浸工程と、含浸工程において複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた多孔質体を焼成する焼成工程と、を有する方法であってもよい。上記のような製造方法であれば、多孔質体の表面に、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を形成することができる。
【0043】
図2を参照しながらランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の製造方法の具体例を説明する。まず、含浸工程において、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を多孔質体に含浸させる。すると、多孔質体が有する細孔の内部に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が保持される。次に、乾燥工程において、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中の水等の溶媒を除去する。すると、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分布した非晶質ゲルが、多孔質体が有する細孔の内面に形成される。次に、焼成工程において多孔質体を焼成すると、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が生成し、多孔質体が有する細孔の内面に配される。
【0044】
なお、ランタン化合物が炭酸ランタン(III)を含有し且つカルシウム化合物が炭酸カルシウムを含有する場合は、炭酸ランタン(III)と炭酸カルシウムの共存に起因して複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から析出物が析出することを防ぐために、以下のようにしてランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を製造することが好ましい。すなわち、ランタン化合物、鉄化合物、及び配位性有機化合物を含有し且つ温度が40℃以下である水溶液に、カルシウム化合物を溶解させて複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を得て(水溶液調製工程)、得られた複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成する(焼成工程)。
【0045】
上記のようにして複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を調製すれば、ランタン化合物が炭酸ランタン(III)を含有し且つカルシウム化合物が炭酸カルシウムを含有する場合であっても、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から析出物が析出しにくい。よって、焼成工程において複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を低い焼成温度で焼成しても、不純物が少なく高純度なランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を得ることができる。
【0046】
(11)固体酸化物形燃料電池単セルについて
本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、空気極、固体電解質層、及び燃料極がこの順で積層された積層構造を有する。そして、空気極を構成する多孔質基体の表面には細孔が開口しており、この細孔の内面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が配されている。空気極を構成する多孔質基体の表面に開口している細孔の内面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が配されているので、導電性が高くなるとともに、空気極の触媒活性が優れている。
【0047】
このような空気極は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、空気極を構成する多孔質基体に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた上で焼成すれば、多孔質基体の表面に開口している細孔の内面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を形成して、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を有する空気極を得ることができる。
【0048】
また、本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、積層構造の燃料極側に多孔質支持体がさらに積層されていてもよい。すなわち、本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、多孔質支持体で支持されたメタルサポート型の固体酸化物形燃料電池単セルであってもよく、本実施形態の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、メタルサポート型の固体酸化物形燃料電池の製造に適用することが可能である。
なお、本実施形態の固体酸化物形燃料電池単セルは、平板型とすることもできるし、円筒型とすることもできる。
【実施例0049】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより具体的に説明する。
〔実施例1-1〕
まず、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造に用いた各原料について説明する。ランタン化合物として炭酸ランタン(III)八水和物、カルシウム化合物として炭酸カルシウム、鉄化合物としてクエン酸鉄アンモニウム(III)、配位性有機化合物としてクエン酸、溶媒として超純水を用いた。
【0050】
次に、表1を参照しながら、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法について説明する。炭酸ランタン(III)八水和物0.508gとクエン酸鉄アンモニウム(III)1.534gを、クエン酸4.0gを含有するクエン酸水溶液に添加し、100℃に加熱し30分間撹拌して、炭酸ランタン(III)八水和物とクエン酸鉄アンモニウム(III)を水溶液に溶解させた。
【0051】
続いて、該水溶液を40℃以下に冷却した後に、炭酸カルシウム0.168gを加えて30分間撹拌して、炭酸カルシウムを溶解させた。さらに、炭酸カルシウムを溶解させた該水溶液に、濃度25質量%のアンモニア水を添加してpHを5に調整した。これにより、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分散している実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が得られた。
【0052】
なお、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、表1に示すように、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の3倍である。
【0053】
また、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度は、表1に示すように10質量%である。ここで、合計の濃度とは、所定質量の実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量を、前記所定質量で除し100倍することにより算出されるものである。
【0054】
【表1】
【0055】
このようにして得られた実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、種々の評価を行った。
(A)分散性、溶解性
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液における上記原料の分散性、溶解性を評価した。実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の濁りを目視で確認したところ、透明であったため、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液においては、上記原料の分散性、溶解性は良好であると評価した。結果を表1に示す。なお、表1においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が透明である場合は○印、濁りがある場合は△印、沈殿がある場合は×印で示してある。
【0056】
(B)流動性
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の流動性を評価した。実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が入った容器を傾けると、すぐに前駆体水溶液が流動し始めたため、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の流動性は良好であると評価した。結果を表1に示す。なお、表1においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液がすぐに流動し始める場合は○印、すぐに流動し始めないが流動する場合は△印、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液がゲル化している場合は×印で示してある。
【0057】
(C)不純物
実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を乾燥した後に空気中で焼成して、ランタンカルシウム鉄複合酸化物La0.65Ca0.35FeO3のナノ粒子を製造した。乾燥の条件は、乾燥温度150℃、乾燥時間1時間である。また、焼成の条件は、焼成温度700℃、焼成時間0.5時間である。焼成により得られたランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径については、50nm以下であることを確認した。
【0058】
得られたランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子をX線回折法により分析し、焼成時に生成した不純物の有無を調べた。結果を図3に示す。図3に描画された3つのX線回折チャートのうち上段のチャートが、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成して得たランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子のチャートである。なお、下段のチャートは、ランタンカルシウム鉄複合酸化物La0.65Ca0.35FeO3の標準物質のチャートである。また、中段のチャートは、後述する比較例3の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成して得た複合酸化物のナノ粒子のチャートである。
【0059】
図3において、○印を付したピークはランタンカルシウム鉄複合酸化物La0.65Ca0.35FeO3に由来するピークであり、△印を付したピークは酸化ランタン(III)に由来するピークであり、◇印を付したピークはCa2Fe25に由来するピークである。図3の上段のチャートから分かるように、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のみが確認され、未反応の原料の残存や中間生成相等の不純物の生成は確認されなかった。結果を表1に示す。
【0060】
なお、表1においては、ランタンカルシウム鉄複合酸化物のみが確認され、未反応の原料の残存や中間生成相等の不純物の生成が確認されなかった場合は○印、Ca2Fe25が確認された場合は△印、未反応の原料の残存又は中間生成相等の不純物の生成が確認された場合は×印で示してある。
【0061】
次に、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を用いて、直径30mmのメタルサポート型の固体酸化物形燃料電池単セルを製造した。図4を参照しながら説明する。
多孔質支持体10の上に燃料極20、固体電解質層30、及び空気極40がこの順で積層された積層構造を有する積層構造物を用意した。多孔質支持体10は、ステンレス鋼SUS製の多孔質体からなり、厚さは300μm、気孔率は40%である。燃料極20は、Sc0.18Ce0.01Zr0.811.91からなる多孔質基体にNi-Gd0.1Ce0.92からなるアノード材料を付着させたものであり、厚さは20μmである。固体電解質層30はSc0.1Zr0.92からなり、厚さは10μmである。空気極40は、Sc0.1Zr0.92からなる多孔質基体であり、厚さは20μmである。
【0062】
そして、この積層構造物に、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させた。積層構造物に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させる際には、空気極40に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を滴下した。この滴下により、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が空気極40に含浸していった。複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の滴下が終了したら5分間保持し、含浸後に余剰の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を除去した。その後、積層構造物をホットプレート上で80℃に加熱し10分間保持した。さらに、上記の滴下、保持、及び加熱を4回繰り返した後に、空気中、焼成温度700℃、焼成時間30分間の条件で積層構造物を焼成した。
【0063】
このような操作により、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液からランタンカルシウム鉄複合酸化物La0.65Ca0.35FeO3のナノ粒子が生成され、空気極40を構成する多孔質基体の表面に開口する細孔の内面にランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が付着して、固体酸化物形燃料電池単セルが得られた。
【0064】
このようにして得られた実施例1-1の固体酸化物形燃料電池単セルについて、種々の評価を行った。固体酸化物形燃料電池単セル内(つまり、空気極を構成する多孔質基体の表面に形成された細孔の内面)に形成されたランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の平均一次粒子径については、50nm以下であることを確認した。
【0065】
(D)プロセスの容易性
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の空気極40(多孔質基体)への含浸回数と含浸のしやすさによって、プロセスの容易性を評価した。上記と同様の操作により積層構造物に複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を含浸させるが、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は積層構造物に含浸しやすく、且つ、上記の滴下、保持、及び加熱の操作を1サイクルとして5サイクル未満の操作によって十分な量の複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成することができた。よって、実施例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液は、プロセスの容易性が高いと評価した。
【0066】
結果を表1に示す。なお、表1においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が積層構造物に含浸しやすく、且つ、5サイクル未満の操作によって十分な量のランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成することができた場合は、プロセスの容易性が高いと評価し、○印で示してある。複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が積層構造物に含浸し難い場合や、十分な量のランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子を積層構造物内に形成するために5サイクル以上の操作が必要な場合は、プロセスの容易性が不十分と評価し、×印で示してある。
【0067】
(E)開回路電圧
完成した固体酸化物形燃料電池単セルの開回路電圧を測定した。測定条件は以下のとおりである。
作動温度 :600℃
単セルの昇温条件 :昇温速度5℃/minで室温から600℃まで昇温
アノードガスの種類:97%の水素ガスと3%の水蒸気との混合ガス
アノードガスの流量:200cc/min
カソードガスの種類:空気
カソードガスの流量:200cc/min
カソード側の集電体:白金製の網
【0068】
実施例1-1の固体酸化物形燃料電池単セルの開回路電圧を測定した結果、理論値どおりの開回路電圧であった。結果を表1に示す。なお、表1においては、開回路電圧の測定値が理論値どおりであった場合は○印、理論値よりも若干小さい値であった場合は△印、理論値を大きく下回る値であった場合は×印で示してある。
【0069】
なお、実施例1-1においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成温度は700℃であるが、これを618℃、663℃、又は694℃とする点を除いて実施例1-1と全く同様である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液についても、実施例1-1の場合と同様に種々の評価をそれぞれ行った。その結果はいずれも表1には示していないが、実施例1-1と同様の結果であった。
【0070】
〔実施例1-2、1-3、1-4、及び比較例1-1〕
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量を、表1に記載のように変更する点を除いては、実施例1-1と同様にして、実施例1-2、1-3、1-4、及び比較例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。得られた実施例1-2、1-3、1-4、及び比較例1-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1の場合と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例2-1〕
まず、実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造に用いた各原料について説明する。ランタン化合物として酸化ランタン(III)、カルシウム化合物として炭酸カルシウム、鉄化合物としてクエン酸鉄アンモニウム(III)、配位性有機化合物としてクエン酸、溶媒として超純水を用いた。ランタン化合物として酸化ランタン(III)を用いたため、炭酸ランタン(III)を用いた場合と比べて、配位性有機化合物の使用量が少なくてもランタンイオンを均一に分散させることができる。
【0072】
次に、表1を参照しながら、実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法について説明する。酸化ランタン(III)0.508gと炭酸カルシウム0.168gとクエン酸鉄アンモニウム(III)1.534gを、クエン酸3.0gを含有するクエン酸水溶液に添加し、濃度25質量%のアンモニア水を添加してpHを3に調整した。そして、100℃に加熱し30分間撹拌して、酸化ランタン(III)と炭酸カルシウムとクエン酸鉄アンモニウム(III)を水溶液に溶解させた。これにより、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分散している実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が得られた。
【0073】
なお、実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、表1に示すように、実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の4倍である。
【0074】
また、実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度は、表1に示すように10質量%である。
このようにして得られた実施例2-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
〔実施例2-2、2-3、2-4、2-5、及び比較例2-1、2-2〕
pHを表1に記載のように変更する点を除いては、実施例2-1と同様にして、実施例2-2、2-3、2-4、2-5、及び比較例2-1、2-2の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。得られた実施例2-2、2-3、2-4、2-5、及び比較例2-1、2-2の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1の場合と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
〔実施例3-1〕
まず、実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造に用いた各原料について説明する。ランタン化合物として酸化ランタン(III)、カルシウム化合物として炭酸カルシウム、鉄化合物としてクエン酸鉄アンモニウム(III)、配位性有機化合物としてクエン酸三アンモニウム、溶媒として超純水を用いた。配位性有機化合物としてクエン酸三アンモニウムを用いたため、クエン酸を用いた場合のようにアンモニア水を添加する必要性はない。
【0077】
次に、表1を参照しながら、実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法について説明する。酸化ランタン(III)0.508gと炭酸カルシウム0.168gとクエン酸鉄アンモニウム(III)1.534gを、クエン酸三アンモニウム3.798gを含有するクエン酸三アンモニウム水溶液に添加した。そして、100℃に加熱し30分間撹拌して、酸化ランタン(III)と炭酸カルシウムとクエン酸鉄アンモニウム(III)を水溶液に溶解させた。これにより、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分散している実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が得られた。実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、4であった。
【0078】
なお、実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、表1に示すように、実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の4倍である。
【0079】
また、実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度は、表1に示すように1質量%である。
このようにして得られた実施例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
〔実施例3-2、3-3、3-4、3-5〕
複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度を、表1に記載のように変更する点を除いては実施例3-1と同様にして、実施例3-2、3-3、3-4、3-5の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液をそれぞれ製造した。得られた実施例3-2、3-3、3-4、3-5の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1の場合と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
なお、実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の4倍であるが、これを3倍又は5倍とする点を除いて実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5と全く同様である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液についても、実施例1-1の場合と同様に種々の評価をそれぞれ行った。その結果はいずれも表1には示していないが、実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5と同様の結果であった。
【0082】
また、実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは4であるが、これを3、5、6、又は7とする点を除いて実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5と全く同様である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液についても、実施例1-1の場合と同様に種々の評価をそれぞれ行った。その結果はいずれも表1には示していないが、実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5と同様の結果であった。
【0083】
さらに、実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の焼成温度は700℃であるが、これを729℃とする点を除いて実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5と全く同様である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液についても、実施例1-1の場合と同様に種々の評価をそれぞれ行った。その結果はいずれも表1には示していないが、実施例3-1、3-2、3-3、3-4、3-5と同様の結果であった。
【0084】
〔実施例4-1〕
まず、実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造に用いた各原料について説明する。ランタン化合物として酢酸ランタン(III)1.5水和物、カルシウム化合物として酢酸カルシウム一水和物、鉄化合物として酢酸鉄(III)、配位性有機化合物としてクエン酸三アンモニウム、溶媒として超純水を用いた。配位性有機化合物としてクエン酸三アンモニウムを用いたため、クエン酸を用いた場合のようにアンモニア水を添加する必要性はない。なお、実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中のランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンの配位子は、酢酸イオンからクエン酸イオンに置き換わる。
【0085】
次に、表1を参照しながら、実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造方法について説明する。酢酸ランタン(III)1.5水和物1.070gと酢酸カルシウム一水和物0.296gと酢酸鉄(III)0.836gを、クエン酸三アンモニウム3.798gを含有するクエン酸三アンモニウム水溶液に添加した。そして、100℃に加熱し30分間撹拌して、酢酸ランタン(III)1.5水和物と酢酸カルシウム一水和物とクエン酸鉄アンモニウム(III)を水溶液に溶解させた。これにより、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが均一に分散している実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が得られた。実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは、4であった。
【0086】
なお、実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、表1に示すように、実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の4倍である。
【0087】
また、実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物の合計の濃度は、表1に示すように10質量%である。
このようにして得られた実施例4-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
なお、実施例4-1においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有される配位性有機化合物の質量は、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液中に含有されるランタン化合物、カルシウム化合物、及び鉄化合物から製造されるランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子の理論質量の4倍であるが、これを3倍又は5倍とする点を除いて実施例4-1と全く同様である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液についても、実施例1-1の場合と同様に種々の評価をそれぞれ行った。その結果はいずれも表1には示していないが、実施例4-1と同様の結果であった。
【0089】
また、実施例4-1においては、複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液のpHは4であるが、これを3、5、6、又は7とする点を除いて実施例4-1と全く同様である複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液についても、実施例1-1の場合と同様に種々の評価をそれぞれ行った。その結果はいずれも表1には示していないが、実施例4-1と同様の結果であった。
【0090】
〔比較例3-1〕
まず、比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液の製造に用いた各原料について説明する。ランタン化合物として硝酸ランタン(III)、カルシウム化合物として硝酸カルシウム、鉄化合物として硝酸鉄(III)、配位性有機化合物としてクエン酸、溶媒として超純水を用いた。硝酸ランタン(III)、硝酸カルシウム、硝酸鉄(III)、及びクエン酸を混合して加熱し、溶解させた。これにより、ランタンイオン、カルシウムイオン、及び鉄イオンが分散している比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液が得られた。
【0091】
このようにして得られた比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液について、実施例1-1と同様に種々の評価を行った。結果を表1に示す。比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を、700℃という低温で焼成すると、不純物が生成しやすい。その結果、触媒活性が低いランタンカルシウム鉄複合酸化物のナノ粒子が得られることとなる。
【0092】
比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成して得た複合酸化物のナノ粒子をX線回折法により分析し、焼成時に生成した不純物の有無を調べた。結果を図3に示す。図3に描画された3つのX線回折チャートのうち中段のチャートが、比較例3-1の複合酸化物ナノ粒子製造用前駆体水溶液を焼成して得た複合酸化物のナノ粒子のチャートである。図3の中段のチャートから分かるように、未反応の原料の残存や不純物の生成が確認された。
【符号の説明】
【0093】
10・・・多孔質支持体
20・・・燃料極
30・・・固体電解質層
40・・・空気極
図1
図2
図3
図4