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特開2023-57885ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法
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  • 特開-ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057885
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230417BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
H01G4/32 511L
H01G4/32 561B
H01G4/32 561C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167626
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】植村 有希
(72)【発明者】
【氏名】藤根 正義
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康之
【テーマコード(参考)】
4F071
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AA88
4F071AC10
4F071AE02
4F071AF05Y
4F071AF13
4F071AF36
4F071AG05
4F071AG14
4F071AH12
5E082BC31
5E082BC35
5E082FF05
5E082FG06
5E082FG35
5E082MM01
(57)【要約】
【課題】電気的特性および機械的特性に優れるポリプロピレンフィルムと、その製造方法とを提供する。
【解決手段】ランダムコポリマーであるランダムポリプロピレンと架橋剤とを混合する架橋剤添加工程と、前記架橋剤添加工程後のランダムポリプロピレンを成形してフィルムを得るフィルム成形工程と、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で、前記フィルム成形工程で得られたフィルムに吸収線量1~500kGyの電子線を照射する電子線照射工程と、を含む、ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダムコポリマーであるランダムポリプロピレンと架橋剤とを混合する架橋剤添加工程と、
前記架橋剤添加工程後のランダムポリプロピレンを成形してフィルムを得るフィルム成形工程と、
酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で、前記フィルム成形工程で得られた前記フィルムに吸収線量1~500kGyの電子線を照射する電子線照射工程と、
を含む、ポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記架橋剤添加工程において、前記架橋剤の量は、前記ランダムポリプロピレンに対して、1~20phrであることを特徴とする、請求項1に記載のポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記電子線照射工程後のポリプロピレンフィルムを、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で、1~10日間保持する保持工程をさらに含む、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記架橋剤が、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、ヘキサアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、およびトリメタクリレート化合物のうち少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリプロピレンフィルムの製造方法。
【請求項5】
ランダムコポリマーであるランダムポリプロピレンを含み、FT-IR/ATR法により測定された表面のスペクトルにおいて、C=O由来のピークと、CH由来のピークとの強度比C=O/CHが、0.03未満であることを特徴とする、ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のポリプロピレンフィルムを用いたフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレンフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、耐電圧性、および誘電損失特性などの優れた電気特性、ならびに高い耐湿性を有する。ポリプリピレンは、これらの特性から電子機器および電気機器において、例えば、コンデンサ用高耐熱化ポリプロピレンフィルムとして好ましく利用されている。
【0003】
特許文献1には、特定のプロピレン単独重合体(ホモポリマーであるポリプロピレン)を用いて形成された延伸フィルムに、特定の吸収線量で電子線を照射することによる、熱収縮率が小さく、絶縁破壊電圧が高いフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルムの作製方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーなどの特定のエチレン単位を有するポリプロピレン樹脂をコンデンサ用二軸延伸ポリプロピレンフィルムとして適用することが開示されている。特定のエチレン単位を有するポリプロピレン樹脂は、従来の成膜性および延伸性に加え、得られる二軸延伸フィルムの融解熱量を高く保つことができること、およびポリプロピレン樹脂としてはランダムコポリマーが好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5320115号公報
【特許文献2】特許第6766805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなホモポリマーであるポリプロピレンを使用したフィルムは、電子線照射の際に、架橋反応と共に崩壊反応が進行しやすく、得られるフィルムの機械的特性が低い。また特許文献2のように、ランダムコポリマーであるエチレン単位を有するポリプロピレンを使用する場合は、エチレン単位の含有量の制御が困難である。
【0007】
ポリプロピレンフィルムは、電気的特性および機械的特性の面で改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、電気的特性および機械的特性に優れるポリプロピレンフィルムと、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るポリプロピレンフィルムの製造方法は、ランダムコポリマーであるランダムポリプロピレンと架橋剤とを混合する架橋剤添加工程と、前記架橋剤添加工程後のランダムポリプロピレンを成形して前記フィルムを得るフィルム成形工程と、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で、前記フィルム成形工程で得られたフィルムに吸収線量1~500kGyの電子線を照射する電子線照射工程と、を含む。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係るポリプロピレンフィルムは、ランダムコポリマーであるランダムポリプロピレンを含み、減衰全反射吸収フーリエ変換赤外分光法(FT-IR/ATR)法により測定された表面のスペクトルにおいて、C=O由来のピークと、CH由来のピークとの強度比C=O/CHが、0.03未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、電気的特性および機械的特性に優れるポリプロピレンフィルムと、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示のポリプロピレンフィルムのゲル分率の測定結果を示す図である。
図2】本開示のポリプロピレンフィルムの電気特性評価の結果を示す図である。
図3】本開示のポリプロピレンフィルム表面のFT-IR/ATR法の測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本開示は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0014】
<ポリプロピレンフィルムの製造方法>
本発明の一実施形態に係るポリプロピレンフィルムの製造方法(以降、本開示の製造方法とも称する)は、ランダムコポリマーであるランダムポリプロピレン(以降、ランダムPPとも称する)と架橋剤とを混合する架橋剤添加工程と、架橋剤添加工程後のランダムポリプロピレンを成形してフィルムを得るフィルム成形工程と、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で、フィルム成形工程で得られた前記フィルムに吸収線量1~500kGyの電子線を照射する電子線照射工程と、を含む。
【0015】
本開示の製造方法に使用する基材種は、ランダムPPである。ランダムPPは、プロピレンと、プロピレンとは別の共重合モノマーとを共重合することによって得られる。共重合モノマーとしては、エチレン、または1-ブテンを用いることができる。汎用性の観点より、共重合モノマーとしてはエチレンを用いることが好ましい。ランダムPPのうち、共重合モノマーの含有量は特に限定されないが、例えば5重量%未満の共重合モノマーがプロピレン鎖にランダムに取り込まれていることが好ましい。
【0016】
電子線を照射して架橋反応を進行させる場合、通常、架橋反応と共に崩壊反応も進行し得る。しかし、ランダムPPを基材種とすることにより、例えば、ランダムPPのエチレン単位同士、またはランダムPPのエチレン単位と架橋剤とが架橋するため、単一モノマーを含有するホモPPを基材種とする場合よりも架橋反応が有利に進行する。また、このように架橋反応が生じ、フィルム内の架橋ネットワークが生じることにより、フィルム内のキャリア移動が阻害され、フィルムの耐熱性が向上するという効果を奏する。
【0017】
ポリプロピレンフィルム(以降、PPフィルムとも称する)の作製に使用する基材としては、粉末状、顆粒状またはペレット状のランダムPPを使用することができる。作業性の観点より、ペレット状の樹脂組成物(PPペレットとも称する)を使用することが好ましい。
【0018】
〔架橋剤添加工程〕
架橋剤添加工程は、ランダムポリプロピレンと架橋剤とを混合する工程である。ランダムポリプロピレンに対する架橋剤の量は、1~20phrであることが好ましく、1~10phrであることがより好ましい。架橋剤の添加量が前記範囲であることにより、架橋反応が好適に進行し、かつ、架橋反応に伴う崩壊反応を低減することができる。
【0019】
架橋剤の種類としては、特に限定されないが、重合可能である二重結合を分子内に2つ以上有する架橋性モノマーであることが好ましい。架橋性モノマーとしては、アクリレート化合物であることが好ましく、具体的には、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物、ヘキサアクリレート化合物、ジメタクリレート化合物、トリメタクリレート化合物などが挙げられる。なお、前記架橋剤は、1種類用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ジアクリレート化合物としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2'-ビス(4-アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2'-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0021】
トリアクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートなどが挙げられる。
【0022】
テトラアクリレート化合物としては、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどが挙げられる。
【0023】
ヘキサアクリレート化合物としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。
【0024】
ジメタクリレート化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2'-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0025】
トリメタクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、トリメチロールエタントリメタクリレートなどが挙げられる。
【0026】
その他の化合物としては、グリセリン-α-アリルエーテル、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0027】
ランダムPPと架橋剤とを混合した後、混練することによりコンパウンドペレットを作製し、該コンパウンドペレットを後述のフィルム成形工程に用いてもよい。
【0028】
〔フィルム成形工程〕
本開示の製造方法は、フィルム成形工程を含む。フィルム成形の方法は特に限定されないが、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法などの成形方法を採用し得る。本実施形態のフィルムに要求される物性、および用途の観点から、Tダイ押出成形が好ましい。
【0029】
〔電子線照射工程〕
本開示の製造方法は、電子線照射工程を含む。電子線照射工程では、フィルム成形工程によって得られたPPフィルムに電子線照射を行う。PPフィルムに電子線照射を行うことにより、ポリプロピレンの分子鎖にラジカルが発生し架橋反応が進行する。この架橋反応により、ポリプロピレンが三次元網目構造となり、PPフィルムの耐熱性、強度などの機械的特性が向上する。
【0030】
電子線照射工程では、PPフィルムに吸収線量1~500kGy、好ましくは10~200kGyで電子線を照射する。電子線の吸収線量(kGy)は、電子線照射装置の加速電圧と、電流と、照射時間とを用いて算出された値である。フィルムに照射する電子線の前記吸収線量は合計量であり、電子線を1回のみ照射してもよく、吸収線量の合計量が前記範囲に収まる範囲で複数回に分けて照射してもよい。
【0031】
電子線の吸収線量が500kGy以下であれば、ポリプロピレンの崩壊反応を低減することができる。
【0032】
PPフィルムへの電子線照射の照射方向は、フィルムの片面に対してでもよく、両面に対してであってもよい。
【0033】
電子線照射は、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で行われることが好ましい。例えば、電子線照射は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガス等が挙げられる。このように、電子線照射が前記酸素濃度の雰囲気下で行われることにより、電子線照射によるポリプロピレンの崩壊反応を低減することができる。前記酸素濃度の雰囲気は、例えば、密閉されたチャンバー内に不活性ガスを充填し、当該チャンバー内の酸素濃度を1000ppm未満とすることによって形成することができる。
【0034】
〔保持工程〕
本開示の製造方法は、保持工程を含む。保持工程は、電子線照射後のPPフィルムを所定期間、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で保持する工程である。酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下とは、〔電子線照射工程〕において記載した条件と同様であってよく、不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガス等が挙げられる。また、前記所定期間はポリプロピレンの分子鎖に発生するラジカルの寿命より長いことが好ましく、例えば、室温で1~10日間であってよく、3~7日間であることが好ましい。ただし、PPフィルムを加温した場合はこの限りではない。所定期間が前記範囲であれば、PPフィルム中のポリプロピレンの崩壊反応をより一層低減することができる。
【0035】
<ポリプロピレンフィルム>
本開示のポリプロピレンフィルムは、前記のポリプロピレンフィルムの製造方法によって製造される。
【0036】
本開示のPPフィルムは、ランダムPPを基材種として含む。これによれば、電子線照射工程における電子線照射によって、ポリプロピレンの崩壊反応を低減することができる。また、本開示のPPフィルムは、ランダムPP以外の樹脂組成物を含んでもよい。ランダムPP以外の樹脂組成物としては、例えば、ポリエチレン、ポリアミドなどが挙げられる。
【0037】
本開示のPPフィルムの厚みは、3~30μmであることが好ましく、3~20μmがより好ましい。前記フィルムの厚みが前記範囲であれば、延伸時の破断がしにくい、コンデンサに好適に利用できる薄膜のフィルムを得ることができる。
【0038】
本開示のPPフィルムのゲル分率(%)は公知の方法によって求められてよく、例えば、JIS K 6796の方法によって求められてもよい。本開示のPPフィルムのゲル分率は、50%以上であることが好ましい。ゲル分率とは、すなわちPPフィルムの架橋度を示し、ゲル分率の値が大きい程、架橋度が高いことを示す。ゲル分率が前記の範囲であれば、PPフィルムが好適な硬さを示し、コンデンサへの使用に適する。
【0039】
本開示のPPフィルムの体積固有抵抗率(Ω・cm)は公知の方法によって求められてよく、例えば、高抵抗向けの抵抗率計によって測定されてよい。体積固有抵抗率は、単位体積あたりの電気抵抗値のことであり、材料を通過する電流の流れにくさを表したものである。本開示のPPフィルムの体積固有抵抗率は、85℃、100V/μmの電界において1×1014Ω・cm以上であることが好ましく、1×1015Ω・cm以上であることがより好ましい。また、本開示のPPフィルムは、85℃、100V/μmの電界において未改質のPPフィルム、すなわち電子線照射を行わずに作製したPPフィルムの体積固有抵抗率と比べて、10倍以上大きい体積固有抵抗率を示すことが好ましい。体積固有抵抗率が前記の範囲であることにより、PPフィルムが高い絶縁抵抗を示し、コンデンサへの使用に適する。
【0040】
本開示のPPフィルムの機械的強度は、公知の引張試験によって評価されてよい。例えば、オートグラフ等によって評価されてよい。本開示のPPフィルムは、未改質のPPフィルム、すなわち電子線照射を行わずに作製したPPフィルムより機械強度が脆化していないことが好ましい。
【0041】
本開示のPPフィルムの表面のスペクトルは、FT-IR/ATR法によって、公知のフーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定される。PPフィルム表面のスペクトルには、フィルムに含まれる分子の官能基に由来するピークが現れる。異なる測定試料同士では、ピーク強度を比較できないが、例えば、1つのスペクトルのある官能基に由来するピーク強度と、同じスペクトルの他の官能基に由来するピーク強度とを比較して、含まれる分子の相対的な量比を求めることは可能である。
【0042】
FT-IR/ATR法により測定された本開示のPPフィルム表面のスペクトルにおいて、C=O由来のピークと、CH由来のピークとの強度比C=O/CHは、0.03未満である。これは、CH由来のピークに対して、C=O由来のピークが小さいことを示している。C=O由来のピークは、1700cm-1付近に現れ、CH由来のピークは1375cm-1付近に現れる。ピークの強度の比は、1375cm-1付近におけるピークの高さと、1700cm-1付近におけるピークの高さとから求められる。C=O由来のピークと、CH由来のピークとの強度比C=O/CHが、前記範囲であれば、PPフィルムの酸化されている程度が低く、PPフィルムが電気的特性および機械的特性に優れる。
【0043】
〔その他の添加剤〕
本開示のPPフィルムは、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、塩酸吸収剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、老化防止剤などが挙げられる。
【0044】
<フィルムコンデンサ>
本開示に係るコンデンサは、本開示のPPフィルムを含む。すなわち、本開示のPPフィルムを公知のフィルムコンデンサに用いてもよい。本開示のPPフィルムは、電気的特性および機械的特性に優れるため、高精度な性能を示すフィルムコンデンサを得ることができる。
【0045】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0046】
本開示の一実施例について以下に説明する。
【0047】
<PPフィルムの評価方法>
〔ゲル分率測定〕
JIS K 6796に基づいて、PPフィルムのゲル分率(%)を測定した。
【0048】
〔電気的特性〕
PPフィルムの体積固有抵抗率(Ω・cm)は、高抵抗向けの抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製、ハイレスターUX MCT-HT800)を用いて、85℃の条件で定電圧印加漏洩電流法により測定した。また、得られた体積固有抵抗率から、それぞれのフィルムPPフィルムの電気的特性を評価した。
○…体積固有抵抗率が未改質品(比較例1)に対し、10倍以上の値であった。
△…体積固有抵抗率が未改質品に対し、1/10以上~10倍未満の値であった。
×…体積固有抵抗率が未改質品に対し、1/10未満の値であった。
【0049】
〔機械的強度〕
PPフィルムの状態を目視し、以下の評価基準にて評価した。
○…未改質品(比較例1)と比較して、PPフィルムが脆化していない。
△…未改質品と比較して、PPフィルムが脆化している。
×…未改質品と比較して、PPフィルムが脆化している。通常のPPフィルムとしての取扱いに耐えられないほど脆化している。
【0050】
〔PPフィルムの作製〕
(実施例1)
ランダムPPペレット(日本ポリプロ製、MFR:7.0g/10min)に、架橋剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)(濃度90wt%)を10phr添加し、二軸押出混練機にて160℃にて加熱混練し、コンパウンドペレットを得た。このコンパウンドペレットをTダイ押出機に供給し、160℃にて押出加工を行い、厚みが10μmのPPフィルムを作製した。
【0051】
得られたPPフィルムに対し、アルゴンガス雰囲気下(酸素濃度50ppm未満)のチャンバー内で、合計吸収線量が100kGyとなるよう電子線を照射し、PPフィルムを得た。また、電子線照射後、PPフィルムをアルゴンガス雰囲気下(酸素濃度50ppm未満)にて7日間保持した。PPフィルムの物性を表1に示す。なお、電子線照射工程、保持工程のそれぞれについて、酸素濃度50ppm未満で行った場合、崩壊抑制対策条件を「○」とし、アルゴンガス雰囲気下ではなく常湿の雰囲気下で行った場合、崩壊抑制対策条件を「×」とした。
【0052】
(比較例1)
電子線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
架橋剤を添加せず、電子線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
架橋剤を添加せず、アルゴンガス雰囲気下ではなく、常湿(湿度45~85%)の雰囲気下において電子線照射とその後の保持を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
架橋剤を添加せず、常湿の雰囲気下において500kGyの電子線照射とその後の保持を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0056】
(比較例5)
架橋剤を添加せず、500kGyの電子線照射を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0057】
(比較例6)
常湿の雰囲気下において電子線照射とその後の保持を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0058】
(比較例7)
常湿の雰囲気下において電子線照射後の保持を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0059】
(比較例8)
架橋剤の量を20phrにし、常湿の雰囲気下において電子線照射後の保持を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0060】
(比較例9)
基材種としてホモPPを用い、架橋剤の添加量を20phrにし、常湿の雰囲気下において電子線照射後の保持を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でPPフィルムを得た。得られたPPフィルムの物性を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
図1は、実施例1および各比較例のPPフィルムの電子線の吸収線量に対するゲル分率をプロットしたグラフである。図2は、実施例1、比較例1、6および7のPPフィルムの電界に対する体積抵抗率をプロットしたグラフである。なお、図2の括弧内の値は、表1に記載したゲル分率の値である。
【0063】
架橋剤を添加し、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で電子線を照射し、かつ照射後の保持を行ったPPフィルム(実施例1)は、架橋剤未添加のPPフィルム、または、酸素濃度が1000ppm未満との要件を満たさない雰囲気下で電子線の照射および/もしくは照射後の保持を行って作製したPPフィルムよりもゲル分率が高く(表1)、機械的強度が向上した。(図1)。
【0064】
架橋剤を添加したとしても、酸素濃度1000ppm未満との要件を満たさない雰囲気下で電子線を照射した場合は、架橋反応が促進される一方、崩壊反応によってPPフィルムの機械的強度が大幅に低下し、取扱い困難な程度にまで脆化してしまった(比較例4)。
【0065】
崩壊反応を低減するために、比較例4より電子線照射の吸収線量を低くした場合でも、酸素濃度が1000ppm未満との要件を満たさない雰囲気下で電子線の照射または照射後の保持を行った場合は、ゲル分率が低く、架橋反応が進行していないことがわかった(比較例6、7)。また、比較例7と同じ電子線照射条件を用い、架橋剤の量のみを増加させても、ゲル分率の値はあまり増大せず、架橋反応は促進されなかった(比較例8)。
【0066】
また、基材種にホモPPを適用した場合(比較例9)は、電子線照射により崩壊反応が促進され、PPフィルムは取扱いが困難なほど脆化してしまった(表1)。これは、ホモPPがエチレン単位を含まず、ランダムPPよりも架橋反応が進行しにくいためと考えられる。
【0067】
実施例1では、酸素濃度が1000ppm未満の雰囲気下で、すなわち酸素が極力少ない条件下で電子線照射工程と、保持工程とを行うことにより、PPフィルム中の分子の酸化反応を低減することができたと考えられる。これによって、酸化反応をきっかけとして発生する崩壊反応を低減しつつ、架橋反応を有利に進行させることができたと考えられる。
【0068】
〔FT-IR/ATR法による表面の測定〕
フーリエ変換赤外分光光度計(Varian社製、640-IR)を用いて、FT-IR/ATR法によるフィルム表面の測定を行った。実施例1で作製したPPフィルムと、比較例3で作製したPPフィルムとの測定結果を図3に示す。図3では、実施例1のスペクトルを点線、比較例3のスペクトルを実線で示したが、図3の上図では、2つのスペクトルはほぼ同じ形状をしており重なって見える。図3の下図は、2つのスペクトルの1600~1800cm-1の範囲を拡大した図である。実施例1と、比較例3とでは、C=O由来のピークの強度に差が見られた。図3の測定結果のスペクトルから、それぞれのCHピーク(1375cm-1付近)の強度と、C=Oピーク(1700cm-1付近)の強度との比C=O/CH比を求めた。ピークの強度の比は、1375cm-1付近におけるピークの高さと、1700cm-1付近におけるピークの高さとから求めた。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例1で作製したPPフィルムは、C=O/CH比が0.03未満であったのに対し、比較例3で作製したPPフィルムは、C=O/CH比が0.03以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示のポリプロピレンフィルムは、例えばコンデンサに利用することができる。
図1
図2
図3