(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005789
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】成形装置および成型方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20230111BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20230111BHJP
【FI】
C03B20/00 E
G01J5/00 101D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107969
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】船橋 博文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
【テーマコード(参考)】
2G066
4G014
【Fターム(参考)】
2G066AC01
2G066AC07
2G066AC20
4G014AH00
(57)【要約】
【課題】振動子の成形装置を提供する。
【解決手段】成形装置は、平坦な上面、および、上面の一部に形成されている穴部を備える成形型を備える。成形装置は、上面に配置され、穴部の外周を取り囲むリング部材を備える。成形装置は、穴部の上方に配置される加熱手段を備える。成形装置は、リング部材の上方に配置され、非接触でリング部材の温度を測定可能な温度計を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な上面、および、前記上面の一部に形成されている穴部を備える成形型と、
前記上面に配置され、前記穴部の外周を取り囲むリング部材と、
前記穴部の上方に配置される加熱手段と、
前記リング部材の上方に配置され、非接触で前記リング部材の温度を測定可能な温度計と、
を備える、成形装置。
【請求項2】
前記リング部材は、前記上面に配置されている板状の被加工材料を介して、前記上面に配置される、請求項1に記載の成形装置。
【請求項3】
前記リング部材は、前記リング部材の外周から外側へ延びている第1部分を備えており、
前記第1部分の下面は前記リング部材の下面よりも下側に位置しているとともに前記リング部材の下面と平行であり、
前記リング部材の下面が前記被加工材料の表面に接触可能に構成されており、
前記第1部分の下面が前記上面に接触可能に構成されている、請求項2に記載の成形装置。
【請求項4】
前記第1部分は、前記第1部分を前記上面に固定することが可能な固定部を備える、
請求項3に記載の成形装置。
【請求項5】
前記リング部材は、前記上面に接触するように配置されている、請求項1に記載の成形装置。
【請求項6】
前記リング部材の表面は、前記上面と平行であるとともに、前記上面よりも上側に位置している、請求項5に記載の成形装置。
【請求項7】
前記リング部材の裏面は前記リング部材の表面よりも表面粗さが小さい、請求項1~6の何れか1項に記載の成形装置。
【請求項8】
前記リング部材の融点は1000℃以上である、請求項1~7の何れか1項に記載の成形装置。
【請求項9】
前記リング部材の幅は、前記温度計の測定スポット径以上である、請求項1~8の何れか1項に記載の成形装置。
【請求項10】
穴部が形成されている上面を備える成形型の前記上面に、前記穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程と、
前記穴部の内部を減圧しながら、前記被加工材料の上面を加熱手段で加熱して溶融変形させる加熱工程と、
非接触温度計を用いて前記被加工材料の温度に対応する所定温度を測定する測定工程と、
前記所定温度に基づいて前記加熱手段を制御する工程と、
を備える、成型方法。
【請求項11】
前記配置工程によって前記上面に配置された前記被加工材料の表面に、前記穴部の外周を取り囲むリング部材を配置する工程をさらに備え、
前記測定工程では、前記リング部材の表面の温度を測定する、請求項10に記載の成型方法。
【請求項12】
前記上面には、前記穴部の外周を取り囲むリング部材が配置されており、
前記配置工程では、前記リング部材の上に前記被加工材料を配置し、
前記測定工程では、前記被加工材料を透過する波長を測定することで、前記リング部材の表面の温度を測定する、請求項10に記載の成型方法。
【請求項13】
前記被加工材料の表面の一部に表面粗さが大きくされている粗面領域が形成されており、
前記測定工程では、前記粗面領域の温度を測定する、請求項10に記載の成型方法。
【請求項14】
前記測定工程では、前記被加工材料を透過する波長を測定することで、前記上面の温度を測定する、請求項10に記載の成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、振動子の成形装置および成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロとして、溶融シリカを振動子に用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的には、グラファイトなどの型の上に石英板を乗せ、石英板の下面を減圧しながら、石英板の上面をバーナで加熱して溶融変形させることで、半球形状の振動子を作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この工程管理には、石英板の温度情報を非接触で取得する必要がある。しかし、石英板が高速に変形することや、石英板の厚みが薄い(例:100μm)ことなどから、石英板の温度情報を非接触で取得することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する成形装置の一実施形態は、平坦な上面、および、上面の一部に形成されている穴部を備える成形型を備える。成形装置は、上面に配置され、穴部の外周を取り囲むリング部材を備える。成形装置は、穴部の上方に配置される加熱手段を備える。成形装置は、リング部材の上方に配置され、非接触でリング部材の温度を測定可能な温度計を備える。
【0006】
リング部材は、成型中に変形することがない。またリング部材は、被加工材料に比して厚くすることが可能である。よって温度計を用いて、リング部材の温度を非接触で測定することができる。被加工材料に対応する温度情報を正確に検出することができるため、工程管理が可能となる。
【0007】
リング部材は、上面に配置されている板状の被加工材料を介して、上面に配置されてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0008】
リング部材は、リング部材の外周から外側へ延びている第1部分を備えていてもよい。第1部分の下面はリング部材の下面よりも下側に位置しているとともにリング部材の下面と平行であってもよい。リング部材の下面が被加工材料の表面に接触可能に構成されていてもよい。第1部分の下面が上面に接触可能に構成されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0009】
第1部分は、第1部分を上面に固定することが可能な固定部を備えていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0010】
リング部材は、上面に接触するように配置されていてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0011】
リング部材の表面は、上面と平行であるとともに、上面よりも上側に位置していてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0012】
リング部材の裏面はリング部材の表面よりも表面粗さが小さくてもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0013】
リング部材の融点は1000℃以上であってもよい。
【0014】
リング部材の幅は、温度計の測定スポット径以上であってもよい。
【0015】
本明細書が開示する成型方法の一実施形態は、穴部が形成されている上面を備える成形型の上面に、穴部を覆うように板状の被加工材料を配置する配置工程を備える。成型方法は、穴部の内部を減圧しながら、被加工材料の上面を加熱手段で加熱して溶融変形させる加熱工程を備える。成型方法は、非接触温度計を用いて被加工材料の温度に対応する所定温度を測定する測定工程を備える。成型方法は、所定温度に基づいて加熱手段を制御する工程を備える。効果の詳細は実施例で説明する。
【0016】
成型方法は、配置工程によって上面に配置された被加工材料の表面に、穴部の外周を取り囲むリング部材を配置する工程をさらに備えていてもよい。測定工程では、リング部材の表面の温度を測定してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0017】
上面には、穴部の外周を取り囲むリング部材が配置されていてもよい。配置工程では、リング部材の上に被加工材料を配置してもよい。測定工程では、被加工材料を透過する波長を測定することで、リング部材の表面の温度を測定してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0018】
被加工材料の表面の一部に表面粗さが大きくされている粗面領域が形成されていてもよい。測定工程では、粗面領域の温度を測定してもよい。効果の詳細は実施例で説明する。
【0019】
測定工程では、被加工材料を透過する波長を測定することで、上面の温度を測定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【実施例0021】
図1および
図2に、実施例1の成形装置1を示す。
図1は上面図である。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。成形装置1は、プレート10、成型型20、石英板30、リング40、バーナ50、温度計60、を備える。なお
図1では、プレート10、バーナ50および温度計60の記載を省略している。
【0022】
プレート10は、成型型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は開口部10aを備えている。開口部10aは、不図示の真空ポンプにより真空とすることができる。
【0023】
成型型20は、溶融シリカを用いて半球形状の振動子を成形するための型である。振動子は、Bird-bath Resonator Gyroscope (BRG)を構成する部品である。成型型20は、グラファイト製である。本実施例では、成型型20は、中心軸CAを備えた円板形状である。成型型20は、上面20s、穴部20h、支柱20p、排気口20eを備える。上面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。上面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心とした円柱形状に形成されている。穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱である。底面20bには、裏面20rに貫通している複数の排気口20eが形成されている。排気口20eは開口部10aに連絡している。
【0024】
上面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている。石英板30は、振動子を形成するための被加工材料である。石英板30の厚さは、例えば100μmである。本実施例では石英板30は正方形であるが、長方形や円形であってもよい。
【0025】
石英板30の表面には、穴部20hの外周を取り囲むように、リング40が配置されている。換言すると、リング40は、石英板30を介して上面20sに配置されている。リング40は円形であり、その中心は中心軸CAと一致している。リング40の内径D1は、穴部20hの直径D2よりも大きい。リング40の幅W1は、温度計60の測定スポット径以上である。リング40の厚さT1は、石英板30の厚さT2以上である。
【0026】
リング40の裏面40rは表面40sよりも表面粗さが小さい。裏面40rの平滑性を高めることで、石英板30との接触界面の熱抵抗を低下させることができる。石英板30からリング40への伝熱性を高めることができるため、リング40の温度を石英板30の温度により接近させることが可能となる。また表面40sの面粗度を悪化させることで、遠赤外線の輻射率を高めることができる。温度計60の測定精度を高めることが可能となる。
【0027】
なお、リング40の幅W1および厚さT1は、温度計60で測定可能な範囲内でなるべく小さいことが好ましい。これにより、リング40による排熱・蓄熱を抑制できるため、温度測定精度を高めることが可能となる。
【0028】
バーナ50は、火炎により石英板30を加熱する手段である。バーナ50は、中心軸CAに沿って上下に移動可能である。温度計60は、遠赤外線による非接触温度計である。温度計60の測定スポットは、リング40の表面に位置している。
【0029】
(リング40の材料)
リング40は、融点が1000℃以上の材料で形成されている。理由を説明する。穴部20hに配置されている石英板30は、石英板の面方向にしか熱伝導経路が存在しない。よって、後述する加熱工程において、バーナ50により1600℃以上に加熱される。一方、上面20sに配置されている石英板30は、成型型20への熱伝導経路が存在する。よって、加熱工程中に排熱されるため、最高温度を1000℃よりも低い温度(例:700℃程度)に抑制することができる。リング40は、上面20sに配置されている石英板30の表面に位置しているため、リング40の最高温度も1000℃よりも低く抑制される。よってリング40の融点を1000℃以上とすることで、リング40の融解を防止することができる。
【0030】
リング40の材料は、酸化されにくい材料(例:金)であることが好ましい。これにより、火炎による酸化に起因する割れの発生を防止することができる。またリング40の材料は、密度の大きな材料であることが好ましい。リング40の質量を大きくすることができるため、バーナ50による火炎圧によってリング40が移動してしまうことを防止できる。またリング40の材料は、バーナ加熱による熱衝撃の耐性を有することや、リング形状に加工可能であることが好ましい。
【0031】
リング40の材料の具体例としては、高融点金属(例:金、白金、ジルコニアなど)、各種合金、酸化物、などが挙げられる。以下に、リング40に使用可能な材料を列挙する。これらの材料は、単独で用いてもよいし、複数を混合してもよいし、化合物として用いてもよい。
【0032】
リング40の材料の例:金、白金、ジルコニア、銀、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ、ゲルマニウム、コバルト、サマリウム、シリコン、スカンジウム、ステンレス、石英ガラス、タングステン、タンタル、チタン、鉄、銅、ニオブ、ニッケル、ネオジウム、マンガン、モリブデン。
【0033】
リング40の熱伝導率は、成型型20の熱伝導率よりも高いことが好ましい。これにより、成型型20よりもリング40をより均一に加熱することができる。リング40は穴部20hの外周において石英板30に接触している。よってリング40は、穴部20hの外周における石英板30の温度を均一化するための伝熱材として機能することができる。振動子の加工形状ばらつきを抑制することが可能となる。
【0034】
(製造工程)
図2および
図3を用いて、振動子の製造工程を説明する。ステップS1において、プレート10上に成型型20を設置する。ステップS2において、上面20sに石英板30を配置する。ステップS3において、所望の真空度で開口部10aの真空引きを行う。排気口20eを介して、穴部20hも真空引きされる。石英板30が上面20sに吸着され、固定される。ステップS4において、石英板30の表面にリング40を配置する。これにより、
図2に示す状態となる。
【0035】
ステップS5において、加熱工程が行われる。具体的には、バーナ50に着火し、所望の速度で下降させる。ステップS6において、測定工程が行われる。温度計60を用いて、リング40の温度を測定する。
【0036】
ステップS7において、リング40の温度測定値に基づいて、加工パラメータを制御する。具体的には、バーナ50のガス流量、バーナ50と石英板30との距離、減圧圧力、加熱時間などの各種の加工パラメータを、温度測定値に基づいてフィードバック制御する。これにより、
図3に示すように、石英板30を所望の形状に溶融変形させることができる。
【0037】
ステップS8において、温度測定値により加工終点を検出することに応じて、バーナ50を上昇させ、消火する。石英板30が所望の温度になるまで冷却した後に、穴部20hを大気開放する。成型型20から溶融加工した石英板30を取り出す。ステップS9において、未成形部をCMP法などによって除去することで、振動子が完成する。
【0038】
(効果)
課題を説明する。リング40を用いない従来の技術では、石英板の温度情報を非接触で取得することは困難であった。これは、石英板が高速に変形することや、石英板の厚みが薄い(例:100μm)ことなどに起因するものである。よって従来は、温度情報を用いることなく、加工パラメータ(例:バーナのガス流量、バーナと石英板との距離、加熱時間など)を管理することで工程管理を行っていた。工程管理の精度が低いため、振動子の加工形状ばらつきが大きくなり、歩留まり低下を招いていた。
【0039】
本実施例の技術では、リング40を石英板30上に配置している。リング40は、成型中に変形することがない。またリング40の厚さT1は、石英板30の厚さT2に比して厚くすることが可能である。よって、リング40の温度を温度計60で非接触で測定することができる。リング40の温度は、石英板30の温度変化に高精度に追従するため、リング40の温度を測定することで、石英板30の温度に対応する温度情報を取得することが可能となる。石英板30の温度情報に基づいて工程管理を行うことができるため、工程管理の精度を高めることが可能になる。振動子の加工形状ばらつきを抑制できるため、歩留まりが向上し、製造コストの削減が可能となる。また、温度情報を用いることで、成型型20の熱設計の精度を向上させることが可能となる。
【0040】
リング40は熱伝導率が高いため、周方向の温度を均一にすることができる。そのため、リング40のある一点の温度を温度計60で測定することによって、平均化されたリング40の全体の温度を取得することができる。正確な温度情報を取得できるため、工程管理の精度を高めることが可能になる。なお、リング40の複数点の温度を測定してもよい。
リング240は、リング240の外周から外側へ延びているフランジ240fを備えている。フランジ240fの下面240frは、リング240の下面240rよりも下側に位置している。フランジ240fの下面240frは、リング240の下面240rと平行である。リング240の下面240rは、石英板30の表面に接触可能に構成されている。フランジ240fの下面240frは、成型型20の上面20sに接触可能に構成されている。
ねじ241は、フランジ240fに形成されているねじ孔を貫通して、上面20sにねじ込まれている。ねじ241により、フランジ240fを上面20sに固定することが可能である。