(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057916
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/22 20060101AFI20230417BHJP
F02D 41/40 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D41/40
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167670
(22)【出願日】2021-10-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】石井 大貴
(72)【発明者】
【氏名】召本 義裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 竜也
(72)【発明者】
【氏名】森岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】坪田 頼昌
(72)【発明者】
【氏名】三田 拓朗
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA02
3G301JA32
3G301MA11
3G301MA18
3G301NE06
3G301NE11
3G301NE12
(57)【要約】
【課題】ピストンの過熱を防ぐとともに排気温度が上昇し過ぎることを防ぐ。
【解決手段】制御装置6は、車両Sの内燃機関のピストン1を冷却する冷却用オイルの温度、内燃機関を冷却する冷却水の温度、又は内燃機関の吸気温度の少なくともいずれかに基づいて内燃機関のピストン1の温度を推定する温度推定部621と、温度推定部621が推定したピストン1の温度が、ピストン1の耐熱温度に対応する第1閾値まで上昇した場合に、ピストン1に燃料を噴射する燃料インジェクタ2が燃料を噴射する燃料噴射タイミングの上限値を減少させ、ピストン1の温度の上昇が停止した場合に、第1閾値よりも高い温度において、燃料噴射タイミングの上限値を増加させる制御部622と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関のピストンを冷却する冷却用オイルの温度、前記内燃機関を冷却する冷却水の温度、又は前記内燃機関の吸気温度の少なくともいずれかに基づいて前記内燃機関のピストンの温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度が、前記ピストンの耐熱温度に対応する第1閾値まで上昇した場合に、前記ピストンに燃料を噴射する燃料噴射部が前記燃料を噴射する燃料噴射タイミングの上限値を減少させ、前記ピストンの温度の上昇が停止した場合に、前記第1閾値よりも高い温度において、前記燃料噴射タイミングの上限値を増加させる制御部と、
を有する制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記燃料噴射タイミングの上限値を減少させる間の前記上限値の変化率よりも、前記燃料噴射タイミングの上限値を増加させる間の前記上限値の変化率を大きくする、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度の上昇率に基づいて、前記上限値を減少させる量を決定する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度の上昇率に基づいて、前記上限値の減少速度を決定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記燃料噴射タイミングの上限値を減少させた後に前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、燃料の噴射量の上限値を減少させる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ピストンの温度が前記第2閾値まで上昇した場合、前記車両の出力トルクの上限値を減少させることにより燃料の噴射量の上限値を減少させる、
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記ピストンの温度が前記第1閾値まで上昇した場合に、前記車両の出力トルクの上限値を減少させる、
請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記温度推定部は、前記冷却用オイルの温度を検出できない場合に、前記冷却水の温度、又は前記吸気温度の少なくともいずれかに基づいて前記ピストンの温度を推定する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内燃機関を制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の内燃機関のピストンの過昇温を防ぐために、燃料を噴射するタイミングを制御する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、燃料を噴射するタイミングを制御することによりピストンの温度が低下するが、排気温度が上昇しやすいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、ピストンの過熱を防ぐとともに排気温度が上昇し過ぎることを防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置は、車両の内燃機関のピストンを冷却する冷却用オイルの温度、前記内燃機関を冷却する冷却水の温度、又は前記内燃機関の吸気温度の少なくともいずれかに基づいて前記内燃機関のピストンの温度を推定する温度推定部と、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度が、前記ピストンの耐熱温度に対応する第1閾値まで上昇した場合に、前記ピストンに燃料を噴射する燃料噴射部が前記燃料を噴射する燃料噴射タイミングの上限値を減少させ、前記ピストンの温度の上昇が停止した場合に、前記第1閾値よりも高い温度において、前記燃料噴射タイミングの上限値を増加させる制御部と、を有する。
【0007】
前記制御部は、前記燃料噴射タイミングの上限値を減少させる間の前記上限値の変化率よりも、前記燃料噴射タイミングの上限値を増加させる間の前記上限値の変化率を大きくしてもよい。
【0008】
前記制御部は、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度の上昇率に基づいて、前記上限値を減少させる量を決定してもよい。前記制御部は、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度の上昇率に基づいて、前記上限値の減少速度を決定してもよい。
【0009】
前記制御部は、前記燃料噴射タイミングの上限値を減少させた後に前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、燃料の噴射量の上限値を減少させてもよい。
【0010】
前記制御部は、前記ピストンの温度が前記第2閾値まで上昇した場合、前記車両の出力トルクの上限値を減少させることにより燃料の噴射量の上限値を減少させてもよい。
【0011】
前記制御部は、前記ピストンの温度が前記第1閾値まで上昇した場合に、前記車両の出力トルクの上限値を減少させてもよい。
【0012】
前記温度推定部は、前記冷却用オイルの温度を検出できない場合に、前記冷却水の温度、又は前記吸気温度の少なくともいずれかに基づいて前記ピストンの温度を推定してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピストンの過熱を防ぐとともに排気温度が上昇し過ぎることを防げるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】車両Sにおける内燃機関であるエンジンの制御系の構成を示す図である。
【
図2】制御部622の動作を説明するための図である。
【
図3】温度推定部621が燃料の噴射量を制御する動作を説明するための図である。
【
図4】ピストン1における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[車両Sの構成]
図1は、本実施形態に係る車両Sにおける内燃機関であるエンジンの制御系の構成を示す図である。車両Sは任意の形態の車両であってもよいが、例えば内燃機関としてディーゼルエンジンを有する商用車である。車両Sは、ピストン1と、燃料インジェクタ2と、油温センサ3と、水温センサ4と、吸気温センサ5と、制御装置6と、を備える。制御装置6は、記憶部61とCPU(Central Processing Unit)62とを有している。CPU62は、温度推定部621及び制御部622として機能する。
【0016】
ピストン1は、エンジンの気筒に収容されている。ピストン1には、燃料インジェクタ2から燃料が噴射され、エンジンは、噴射された燃料を燃焼させることにより車両Sを駆動するための動力を発生する。
【0017】
燃料インジェクタ2は、制御部622の制御に基づいて燃料をピストン1に噴射する燃料噴射部である。燃料インジェクタ2は、制御部622により決定された噴射タイミングで、制御部622により決定された量の燃料をピストン1に噴射する。噴射タイミングは、ピストン1に接続されたギアの角度により表される。ギアの角度は、ピストン1の上死点における角度を基準として表される。本明細書において、燃料を噴射するタイミングを早くすることを進角させるといい、燃料を噴射するタイミングを遅くすることを遅角させるという場合がある。
【0018】
油温センサ3は、エンジンの冷却及び潤滑のために用いられるオイルの温度を検出する。水温センサ4は、エンジンの冷却水の温度を検出する。吸気温センサ5は、吸気温度を検出する。油温センサ3、水温センサ4及び吸気温センサ5は、検出した温度を示すデータを温度推定部621に通知する。
【0019】
制御装置6は、エンジンの各部を制御するための装置であり、例えばECU(Engine Control Unit)である。記憶部61は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を有しており、CPU62が実行するプログラムを記憶している。また、記憶部61は、CPU62がエンジンの制御に用いる各種のデータを記憶している。一例として、記憶部61は、油温センサ3、水温センサ4又は吸気温センサ5の少なくともいずれかが検出した温度とピストン1の推定温度とを関連付けた温度算出テーブルを記憶している。
【0020】
CPU62は、記憶部61に記憶されたプログラムを実行することにより、温度推定部621及び制御部622として機能する。
【0021】
温度推定部621は、油温センサ3、水温センサ4及び吸気温センサ5から、検出した温度を示す温度データを取得する。温度推定部621は、例えば記憶部61に記憶された温度算出テーブルを参照することにより、取得した温度データに基づいてピストン1の温度を推定する。温度推定部621は、ピストン1を冷却する冷却用オイルの温度、エンジンを冷却する冷却水の温度、又はエンジンの吸気温度の少なくともいずれかに基づいてピストン1の温度を推定する。
【0022】
ピストン1の温度は、冷却用オイルの温度との相関性が冷却水の温度及び吸気温度との相関性よりも大きい。したがって、温度推定部621は、冷却用オイルの温度が正常に検出できている場合は、冷却用オイルの温度に基づいてピストン1の温度を推定する。そして、温度推定部621は、冷却用オイルの温度を検出できない場合、又は冷却用オイルの温度が適切値の範囲外であると判定した場合に、冷却水の温度、又は吸気温度の少なくともいずれかに基づいてピストン1の温度を推定する。温度推定部621は、推定した温度を制御部622に通知する。
【0023】
制御部622は、燃料インジェクタ2が燃料を噴射するタイミング及び燃料の噴射量を制御する。制御部622は、例えば、燃料を噴射するタイミング及び燃料の噴射量を示す制御データを定期的に燃料インジェクタ2に送信することにより、燃料インジェクタ2が燃料を噴射するタイミング及び燃料の噴射量を変化させる。
【0024】
制御部622は、温度推定部621が推定したピストン1の温度が、ピストン1の耐熱温度に対応する第1閾値まで上昇した場合に、燃料インジェクタ2が燃料用オイルを噴射する燃料噴射タイミングの上限値を小さくする。また、制御部622は、ピストン1の温度の上昇が停止した場合に、第1閾値よりも高い温度において、燃料噴射タイミングの上限値を大きくする。第1閾値は、ピストン1が故障しないとされている耐熱温度よりも低い温度である。
【0025】
燃料噴射タイミングの上限値は、ピストン1に接続されたギアが最も進角した状態の角度として許容される最大値に対応している。ピストン1の温度が第1閾値未満である状態における燃料噴射タイミングの上限値は、例えば、ピストン1の上死点における角度である。制御部622は、ピストン1の温度が第1閾値まで上昇した場合に、ギアの角度がピストン1の上死点におけるギアの角度に対して遅角した状態になるように、燃料噴射タイミングの上限値を小さくする。
【0026】
図2は、制御部622の動作を説明するための図である。
図2の横軸は時間である。
図2(a)の縦軸は、温度推定部621が推定したピストン1の温度を示している。TH1は第1閾値を示しており、TLMはピストン1の耐熱温度を示している。
図2(a)においては、時刻T1よりも前において、ピストン1の推定温度は上昇しており、時刻T1においてピストン1の推定温度が第1閾値(TH1)以上になっている。
【0027】
図2(b)の縦軸は、制御部622が決定した燃料噴射タイミングの上限値に対応するギアの角度を示しており、上方は燃料噴射タイミングが早い進角側であり、下方は燃料噴射タイミングが遅い遅角側である。
図2(b)における実線は制御部622が決定した燃料噴射タイミングの上限値を示しており、2点鎖線は燃料インジェクタ2が燃料を噴射したタイミングを示している。
図2(b)における時刻T2と時刻T4との間の点線は、ピストン1の推定温度が第1閾値以上にならなかった場合に燃料インジェクタ2が燃料を噴射するタイミングを示している。
【0028】
図2(b)の実線が示すように、時刻T1においてピストン1の推定温度が第1閾値以上になったことにより、制御部622は、燃料噴射タイミングの上限値を遅角側に減少させている。その結果、時刻T2から時刻T4の間において、点線で示される通常の燃料噴射タイミングよりも遅い上限値で燃料インジェクタ2が燃料を噴射している。燃料噴射タイミングが遅くなることで、ピストン1が燃料の燃焼圧力を受ける時間が短くなるので、ピストン1の温度の上昇を抑制することができる。
【0029】
時刻T1から時刻T3にかけてピストン1の推定温度の上昇率が低下し、時刻T3の時点ではピストン1の推定温度の上昇が停止している。
図2(b)に示す例の場合、制御部622は、ピストン1の推定温度の上昇が停止してから、推定温度の誤差の大きさに基づいて定められた期間が経過した後に、燃料噴射タイミングの上限値を進角側に増加させている。その結果、時刻T4において、燃料噴射タイミングの上限値が、
図2(b)において点線で示す通常動作時の燃料噴射タイミングと一致し、時刻T4以降は、燃料インジェクタ2が燃料噴射タイミングの上限値よりも遅いタイミングで燃料を噴射している。
【0030】
温度推定部621が、ピストン1の推定温度が第1閾値よりも高い状態で燃料噴射タイミングの上限値を増加させることで、遅角状態で燃料インジェクタ2が燃料を噴射することが長く続き過ぎることによる排気温度の上昇を抑制することができる。さらに、温度推定部621は、燃料噴射タイミングの上限値を減少させる間の上限値の変化率よりも、燃料噴射タイミングの上限値を増加させる間の上限値の変化率を大きくする。温度推定部621がこのように動作することで、短時間で上限値が通常の状態に戻るので、排気温度が上昇する期間をさらに短くすることができる。
【0031】
ところで、
図2(c)に示す例においては、時刻T5において油温センサ3に異常が発生している。このような場合、制御部622は、温度推定部621が冷却水の温度、又は吸気温度の少なくともいずれかに基づいて推定したピストン1の温度に基づいて燃料噴射タイミングの上限値を決定する。
図2(a)においては、時刻T5以降のピストン1の推定温度が、水温センサ4が検出した温度に基づいて推定された温度に切り替わっており、一点鎖線で示されている。
【0032】
時刻T6においてピストン1の推定温度が第1閾値に達したため、制御部622は燃料噴射タイミングの上限値を減少させ、ピストン1の推定温度の上昇が停止した時刻T8において上限値を増加させている。燃料インジェクタ2は、時刻T6から時刻T9の間は、ピストン1の推定温度が第1閾値未満である場合の燃料噴射タイミングよりも小さい、制御部622が決定した燃料噴射タイミングの上限値で燃料を噴射している。
【0033】
なお、制御部622は、温度推定部621が推定したピストン1の温度の上昇率に基づいて、燃料噴射タイミングの上限値を小さくする量を決定してもよい。また、制御部622は、温度推定部621が推定したピストン1の温度の上昇率に基づいて、燃料噴射タイミングの上限値の減少速度(すなわち単位時間の減少量である減少率)を決定してもよい。具体的には、制御部622は、ピストン1の温度の上昇率が大きいほど、燃料噴射タイミングの上限値を大きく減少させたり、上限値を減少させる際の変化率を大きくしたりする。制御部622がこのように動作することで、ピストン1の温度が急激に上昇している場合にピストン1の温度を速やかに低下させることができる。
【0034】
ところで、制御部622が燃料燃焼タイミングの上限値を減少させてもピストン1の温度が低下しないという場合が想定される。そこで、制御部622は、燃料噴射タイミングの上限値を減少させた後に温度推定部621が推定したピストン1の温度が第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、燃料の噴射量の上限値を減少させてもよい。燃料の噴射量が減少することでピストン1の温度が低下する。
【0035】
ただし、急激に燃料の噴射量を低下させてしまうと、車両Sの運転手に違和感を与えてしまうというおそれがある。そこで、制御部622は、ピストン1の温度が第2閾値まで上昇した場合、車両Sの出力トルクの上限値を減少させることにより、燃料の噴射量の上限値を減少させてもよい。
【0036】
具体的には、制御部622は、車両Sのトルクの目標値を減少させる際に使用されるトルクの目標値と燃料噴射量とが関連付けられた制御データを参照することにより、燃料の噴射量を減少させる。制御データにおいて、出力トルクが減少しても運転手に違和感を与えないように燃料噴射量が決定されている場合、制御部622が出力トルクの目標値を用いて燃料の噴射量を減少させることで、運転手に違和感を与えることなくピストン1の温度を低下させることが可能になる。
【0037】
図3は、温度推定部621が燃料の噴射量を制御する動作を説明するための図である。
図3における横軸は時間である。
図3(a)の縦軸はピストン1の推定温度を示しており、
図3(b)の縦軸は燃料噴射タイミングを示しており、
図3(c)は車両Sの出力トルクを示している。
【0038】
図3(b)における実線は、燃料噴射タイミングの上限値を示しており、二点鎖線は、燃料インジェクタ2が燃料を噴射したタイミングを示している。点線は、ピストン1の推定温度が第1閾値以上にならず、制御部622が燃料噴射タイミングの上限値を減少させない場合に燃料インジェクタ2が燃料を噴射するタイミングを示している。
【0039】
図3(c)における実線は、出力トルクの上限値を示しており、二点鎖線は車両Sの出力トルクを示している。点線は、ピストン1の推定温度が第2閾値以上にならず、制御部622が出力トルクの上限値を減少させない場合(すなわち通常状態の場合)の出力トルクを示している。
【0040】
図2と同様に、時刻T11においてピストン1の推定温度が第1閾値に達しているため、制御部622は、燃料噴射タイミングの上限値を減少させている。しかし、時刻T12の時点でピストン1の推定温度が第2閾値(TH2)に達しているため、制御部622は、出力トルクの上限値を減少させており、時刻T13から時刻T15の間で、出力トルクは通常の場合よりも小さく出力トルクの上限値に等しい値になっている。その結果、時刻T14においてピストン1の推定温度が低下し始めて、制御部622は、出力トルクの上限値を増加させている。また、
図2(b)に示すように、制御部622は、時刻T14において燃料噴射タイミングの上限値も増加させている。
【0041】
なお、以上の説明において、ピストン1の推定温度が第2閾値まで上昇した場合に制御部622が車両Sの出力トルクの上限値を減少させたが、制御部622は、ピストン1の推定温度が第1閾値まで上昇した場合に、車両Sの出力トルクの上限値を減少させることにより燃料の噴射量の上限値を減少させてもよい。すなわち、制御部622は、ピストン1の推定温度が第1閾値まで上昇した場合に、燃料噴射タイミングの上限値を減少させるとともに、出力トルクの上限値を減少させてもよい。このように制御部622が動作することで、排気温度が上昇し過ぎることを抑制できる。
【0042】
また、制御部622は、ピストン1の推定温度が第1閾値まで上昇した場合に出力トルクの上限値を減少させ、その後、ピストン1の推定温度が第2閾値まで上昇した場合に燃料噴射タイミングの上限値を減少させてもよい。
【0043】
[ピストン1における処理の流れ]
図4は、ピストン1における処理の流れを示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートは、車両Sのエンジンが起動した時点から開始している。
【0044】
温度推定部621は、油温センサ3、水温センサ4又は吸気温センサ5から入力される温度データに基づいてピストン1の温度を推定する(S11)。制御部622は、温度推定部621が推定した温度が第1閾値に達していると判定した場合(S12においてYES)、燃料噴射タイミングの上限値を減少させる(S13)。制御部622は、温度推定部621が推定した温度が第1閾値未満である場合(S12においてNO)、燃料噴射タイミングの上限値を減少させることなく、処理をS11に戻す。
【0045】
その後、制御部622は、ピストン1の温度の上昇が停止したと判定すると(S14においてYES)、燃料噴射タイミングの上限値を増加させる(S15)。一方、制御部622は、ピストン1の温度の上昇が停止せず、ピストン1の温度が第2閾値に達したと判定した場合(S16においてYES)、車両Sの出力トルクの上限値を減少させる(S17)。制御部622は、ピストン1の温度が第2閾値に達していないと判定した場合(S16においてNO)、S14に処理を戻す。
【0046】
その後、制御部622は、ピストン1の温度の上昇が停止したと判定すると(S18においてYES)、制御部622は、出力トルクの上限値を増加させ(S19)、燃料噴射タイミングの上限値も増加させる(S15)。CPU62は、エンジンが停止したと判定するまで(S20においてNO)、S11からS19までの処理を繰り返す。
【0047】
[ピストン1による効果]
以上説明したとおり、ピストン1は、温度推定部621が推定したピストン1の温度が、ピストン1の耐熱温度に対応する第1閾値まで上昇した場合に、燃料インジェクタ2が燃料を噴射する燃料噴射タイミングの上限値を減少させ、ピストン1の温度の上昇が停止した場合に、第1閾値よりも高い温度において、燃料噴射タイミングの上限値を増加させる。ピストン1がこのように構成されていることで、ピストン1の温度が耐熱温度に近づいた時点でピストン1の温度が耐熱温度に達しないようにできるとともに、ピストン1の温度が耐熱温度に達しない状態になった場合に速やかに燃料噴射タイミングを通常のタイミングに戻すことができるので、ピストンの過熱を防ぎつつ排気温度が上昇し過ぎることを防げる。
【0048】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0049】
1 ピストン
2 燃料インジェクタ
3 油温センサ
4 水温センサ
5 吸気温センサ
6 制御装置
61 記憶部
62 CPU
621 温度推定部
622 制御部
【手続補正書】
【提出日】2023-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関のピストンを冷却する冷却用オイルの温度、前記内燃機関を冷却する冷却水の温度、又は前記内燃機関の吸気温度の少なくともいずれかに基づいて前記内燃機関のピストンの温度を推定する温度推定部と、
前記ピストンに燃料を噴射する燃料噴射部が前記燃料を噴射する燃料噴射タイミングが、前記ピストンに接続されたギアの角度により表されるときに、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度が、前記ピストンの耐熱温度に対応する第1閾値まで上昇した場合に、前記ギアが進角した状態で許容される前記角度の最大値であるタイミング上限値を減少させ、前記ピストンの温度の上昇が停止した場合に、前記第1閾値よりも高い温度において、前記タイミング上限値を増加させる制御部と、
を有する制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記タイミング上限値を減少させる間の前記タイミング上限値の変化率よりも、前記タイミング上限値を増加させる間の前記タイミング上限値の変化率を大きくする、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度の上昇率に基づいて、前記タイミング上限値を減少させる量を決定する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度の上昇率に基づいて、前記タイミング上限値の減少速度を決定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記タイミング上限値を減少させた後に前記温度推定部が推定した前記ピストンの温度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値まで上昇した場合、燃料の噴射量の上限値を減少させる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ピストンの温度が前記第2閾値まで上昇した場合、前記車両の出力トルクの上限値を減少させることにより燃料の噴射量の上限値を減少させる、
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記ピストンの温度が前記第1閾値まで上昇した場合に、前記車両の出力トルクの上限値を減少させる、
請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記温度推定部は、前記冷却用オイルの温度を検出できない場合に、前記冷却水の温度、又は前記吸気温度の少なくともいずれかに基づいて前記ピストンの温度を推定する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の制御装置。