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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057947
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】回転電機および産業機械
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20230417BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167711
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】床井 博洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】中原 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
(72)【発明者】
【氏名】酒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】天池 将
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】米岡 恭永
(72)【発明者】
【氏名】三上 浩幸
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC05
5H604CC14
5H604DA16
5H604DB02
5H604PB02
5H604PB03
(57)【要約】
【課題】樹脂成形加工時にステータコアとボビンの間に樹脂が侵入することを抑制できる回転電機を提供する。
【解決手段】ロータ200と、ロータ200側に開口部112が設けられたスロット111を有するステータコア110と、スロット111に嵌め込まれコイル140が挿入されるボビン150と、ボビン150における開口部112側に設けられた凸部152と、ステータコア110とコイル140とボビン150とを固定する樹脂160とを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータ側に開口部が設けられたスロットを有するステータコアと、
前記スロットに嵌め込まれコイルが挿入されるボビンと、
前記ボビンにおける前記開口部側に設けられた凸部と、
前記ステータコアと前記コイルと前記ボビンとを固定する樹脂とを備える、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記凸部が、前記スロットの軸方向の一端から他端にわたって延びる突条である、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機であって、
前記凸部は、前記スロットを挟む2つのティースの側面に沿って延伸する2つの突条である、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ボビンは、前記コイルが挿入される筒部と、前記筒部の軸方向における端部の少なくとも一方に設けられた鍔部とを備え、
前記鍔部は、前記スロットの径方向外側に位置するバックヨークの軸方向の端面の一部を覆うバックヨーク側部分を有し、
前記バックヨーク側部分における軸方向外側の面が、前記ステータコアの径方向における外側から内側に向かって上り勾配の斜面となっている、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機であって、
前記鍔部は、前記スロットを周方向から挟む2つのティースの各々の軸方向の端面の一部を覆う2つのティース側部分を有し、
前記2つのティース側部分の各々は、軸方向外側の面が、前記2つのティースの軸方向端面から前記スロットに向かって上り勾配の斜面となっている、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ボビンは、前記コイルが挿入される筒部と、前記筒部の軸方向における端部の少なくとも一方に設けられた鍔部を有し、
前記凸部は、前記鍔部における前記開口部側の外壁に設けられている、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ボビンは、前記コイルが挿入される筒部と、前記筒部の軸方向における端部の少なくとも一方に設けられた鍔部を有し、
前記鍔部は、前記スロットを前記ステータコアの周方向から挟む2つのティースの各々の軸方向の端面の一部を覆う2つのティース側部分を有し、
前記凸部は、前記2つのティース側部分の各々における前記開口部側の外壁に設けられている、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項7に記載の回転電機であって、
前記凸部が、前記鍔部の前記ステータコアにおける周方向の両端に位置し、前記ステータコアの径方向内側に向かって突出する2つの突条であることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ボビンは、前記コイルが挿入される筒部と、前記筒部の軸方向における端部の少なくとも一方に設けられた鍔部とを有し、
前記鍔部は、前記スロットの径方向外側に位置するバックヨークの軸方向の端面の一部を覆うバックヨーク側部分と、前記スロットを前記ステータコアの周方向から挟む2つのティースの各々の軸方向の端面の一部を覆う2つのティース側部分とを有し、
前記バックヨーク側部分の前記筒部から前記ステータコアの径方向に延伸する長さが、前記2つのティース側部分の各々の前記筒部から前記ステータコアの周方向に延伸する長さより長いことを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項9に記載の回転電機であって、
前記バックヨーク側部分における前記ステータコアの径方向における外側の端面が、前記樹脂の表面に形成されたゲート跡より前記ステータコアの径方向における外側に位置することを特徴とする回転電機。
【請求項11】
請求項10に記載の回転電機であって、
前記バックヨーク側部分における前記ステータコアの径方向における外側の端面が前記樹脂から露出していることを特徴とする回転電機。
【請求項12】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記コイルは、複数のセグメント導体を有し、
前記複数のセグメント導体の各々は、前記ボビン内で接続されていること、
を特徴とする回転電機。
【請求項13】
請求項12に記載の回転電機であって、
前記複数のセグメント導体は、
突起部を一端に有する第1平角線と、
溝部を一端に有する第2平角線と、
前記突起部が前記溝部に嵌合される接続部とを有すること、
を特徴とする回転電機。
【請求項14】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ステータコアは、前記スロットの径方向外側に位置する円筒状のバックヨークと、前記バックヨークの内周面に設けられ前記バックヨークの軸方向に延びる凹部と、前記凹部に一端が嵌合されたティースとを備え、
前記樹脂は、前記凹部と前記ティースの一端との間に形成される径方向の隙間に充填されていることを特徴とする回転電機。
【請求項15】
請求項1に記載の回転電機を備えることを特徴とする産業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機および産業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や化石燃料の枯渇を背景に、省エネルギー化の要求が高まっている。産業機械や自動車、家電など多くの分野で利用される回転電機においても、省エネルギー化が促進されており、低損失化が重要な開発課題となっている。
【0003】
低損失化のためにはコイルの抵抗値を小さくし銅損を抑制することが有効な手段となっている。そのため、コイルの断面積を大きくするとともにステータコアのスロットの断面積に対するコイルの比率(占積率)を高めて抵抗値を小さくできる平角線を用いて銅損を抑制した回転電機が開発されている。
【0004】
この平角線を用いた回転電機では、コイルを分布巻するとコイルエンドが高くなってしまうことが問題であった。しかし、所定のセグメントに分割した平角線をステータコアのスロットの内外で接続させ、コイルエンドを低くした回転電機が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2020/017133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、平角線を接続させた部分(接続部)は、ローレンツ力や振動、温度変化等により電気的接続が弱化する虞がある。そのため、ステータコアとコイルとを樹脂により一体化し、接続部の電気的接続の弱化を抑制することを発明者は着想し、試作品を作成した。そうしたところ、樹脂成形加工時にステータコアとボビンの間に樹脂が侵入してボビンを押圧し、当該ボビン内のコイルが変形することで接続部の電気的接続を弱化される虞があることが知見された。
【0007】
本発明の目的は、樹脂成形加工時にステータコアとボビンの間に樹脂が侵入することを抑制できる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、ロータと、前記ロータ側に開口部が設けられたスロットを有するステータコアと、前記スロットに嵌め込まれコイルが挿入されるボビンと、前記ボビンにおける前記開口部側に設けられた凸部と、前記ステータコアと前記コイルと前記ボビンとを固定する樹脂とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂成形加工時にステータコアとボビンの間に樹脂が侵入することを抑制でき、コイルが変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係る回転電機の外観斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るステータと、ステータ内に配置されたロータの斜視図である。
図3図2に示すステータから樹脂を除いた斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るステータコアの部分拡大平面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るボビンの外観斜視図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るボビンをステータコアのスロットに装着させたステータの部分断面斜視図である。
図7図5のA-A矢視断面図である。
図8】本発明の第1実施形態に係るボビンの上端の拡大斜視図である。
図9】本発明の第1実施形態に係るボビンをステータコアに装着しコイルを巻回させたステータの断面斜視図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る2つのセグメント導体の一端の形状と、それらの接続前(左側)と接続後(右側)を示す拡大斜視図である。
図11】本発明の第1実施形態に係るステータの樹脂成形加工に用いられるモールド金型と、モールド金型に設置されたステータの断面図である。
図12図11のA-A矢視の部分断面図である。
図13】本発明の比較例に係るボビンの上端の拡大斜視図である。
図14】本発明の比較例に係るステータの樹脂成形加工に用いられるモールド金型と、モールド金型に設置されたステータの断面図である。
図15図16のA部の拡大図である。
図16】本発明の比較例に係るステータのバックヨークとボビンの間に液体樹脂が侵入したときに、コイルの接続部に掛かる圧力を模式的に示すステータの断面図である。
図17図11のB部の拡大図である。
図18】本発明の第2実施形態に係るボビンの上端の拡大斜視図である。
図19】本発明の第2実施形態に係るボビンをステータコアのスロットに装着させたステータの部分平面図である。
図20】本発明の第3実施形態に係るボビンの外観斜視図である。
図21】本発明の第3実施形態に係るボビンをステータコアのスロットに装着させたスロットの部分平面図である。
図22】本発明の第4実施形態に係るボビンの上端の拡大斜視図である。
図23】本発明の第5実施形態に係るボビンの上端の拡大斜視図である。
図24】本発明の第5実施形態に係るボビンをステータコアのスロットに装着させたステータの部分平面図である。
図25】本発明の第6実施形態に係るボビンの外観斜視図である。
図26】本発明の第6実施形態に係るボビンを用いたステータをモールド金型に設置した状態を示す断面図である。
図27図26のA部の拡大図である。
図28】本発明の第6実施形態に係るステータの部分平面図である。
図29】本発明の他の実施形態に係るステータコアにボビンを装着させたステータの部分拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて、本発明の第1~第6実施形態による回転電機1000について説明する。なお、各図において、同一符号は同一部分を示す。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係る回転電機1000の外観斜視図である。回転電機1000は、ロータ内の永久磁石により発生する直流磁界と、コイルから放出される回転磁界とを吸引反発させ、ロータを回転させる電動機、例えば、圧縮機の動力源として用いられるラジアルギャップ型電動機である。
【0013】
回転電機1000は、円筒状のハウジング500と、ハウジング500の両端に設けられた円盤状のエンドブラケット400と、エンドブラケット400の一方の中央から突出したシャフト300を備える。
【0014】
図2は、本実施形態に係る回転電機1000のステータ100と、ステータ100内に配置されたロータ200の斜視図である。即ち、図2は、図1からハウジング500とエンドブラケット400とシャフト300を除き、回転電機1000の内部構造を示している。回転電機1000は、円環状のステータ100と、ステータ100の内部に配置されたロータ200を備える。
【0015】
ステータ100は、図2に示すようにステータコア110と、ステータコア110の軸方向の両側に設けられた円筒状の樹脂160とを備える。ステータコア110の外周は図1に示すハウジング500に固定される。
【0016】
ロータ200は、円柱状のロータコア220と、ロータコア220内に円周状に複数配置された永久磁石210から構成されている。ロータ200の中心軸には図1に示すシャフト300が設けられ、図示しない軸受を介し、エンドブラケット400に回転自在に固定されている。
【0017】
図3は、図2に示すステータ100から樹脂160を除いた斜視図である。図3に示すように、樹脂成形加工する前のステータ100は、ステータコア110とコイル140とボビン150とを有し、ステータコア110にコイル140(例えば、平角線)がボビン150を介して巻回(例えば、波巻分布巻)されている。
【0018】
図4は、本実施形態に係るステータコア110の部分拡大平面図である。ステータコア110は、円環状のバックヨーク130と、バックヨーク130の内周面からロータ200側に突出し円周方向に等間隔に配置された複数のティース120を備える。
【0019】
バックヨーク130は、薄い円板を積層した円筒体で、内壁132にティース120の一端と嵌合する凹部131が複数設けられている。薄い円板は、例えば、電磁鋼板をプレス加工により打抜くことによって作製され得る。
【0020】
ティース120は、台形状の薄板を積層した柱体で、バックヨーク130の凹部131にティース120の底辺側の端部121が嵌入しバックヨーク130と結合する。台形状の薄板は、例えば、鉄基アモルファス金属の薄板を加工することによって作製され得る。
【0021】
また、ステータコア110は、バックヨーク130の内壁132と、ステータコア110の周方向において隣合う2つのティース120の側壁122とにより挟まれ、ロータ200側に開口部112が設けられたスロット111を複数有する。
【0022】
図5は、本実施形態に係るボビン150の外観斜視図である。ボビン150は、コイル140とステータコア110とを絶縁する部品である。ボビン150は、コイル140が挿入されておりコイル挿入孔154(後述)を複数有し、スロット111に嵌め込まれる。ボビン150の材質には、樹脂、例えば、高強度で薄肉成形に適し、耐熱性が高い液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)を用いることができる。図5に示すように、ボビン150には、筒部151と凸部152と鍔部153が設けられている。
【0023】
図6は、本実施形態に係るボビン150をステータコア110のスロット111に装着させたステータ100の部分断面斜視図である。図6に示すように、筒部151は、スロット111に嵌め込まれる部分で、スロット111の内壁に対向する3つの側壁と、スロット111の開口部112に対向する1つの側壁を有する。具体的には筒部151は、バックヨーク130の内壁132に沿う第1側壁151aと、ステータコア110の周方向において隣合う2つのティース120の側壁122に沿う2つの第2側壁151bと、開口部112に対向する第3側壁151cとを有する(図4、5参照)。なお、開口部112と、開口部112に対向する側壁(第3側壁151c)との間には空隙が形成され、当該空隙は樹脂成形加工の際に液体樹脂162がステータ100の軸方向に流れる軸方向流路161(図12参照)となる。
【0024】
凸部152は、第3側壁151cからロータ側(ステータ径方向における内側)に向かって突出する部分であり、本実施形態では、スロット111の軸方向の一端から他端にわたって延伸する突条である。
【0025】
また、鍔部153は、筒部151の軸方向における端部の一方に設けられ、スロット111と筒部151との間に形成される隙間をステータコア110の軸方向における端面(以下、コア端面と称す。)側から覆う部分である。具体的には鍔部153は、スロット111の径方向外側に位置するバックヨーク130の軸方向の端面の一部を覆うバックヨーク側部分153aと、スロット111を周方向から挟む2つのティース120の各々の軸方向の端面の一部を覆う2つのティース側部分153bとを有する。なお、本実施形態では、筒部151の軸方向における端部の一方に鍔部153が設けられている。しかし、筒部151の軸方向における両端に鍔部153を設けてもよい。
【0026】
図7は、図5のA-A矢視断面図である。図7に示すように、バックヨーク側部分153aが筒部151からステータコア110の径方向に延伸する長さd2は、2つのティース側部分153bの各々が筒部151からステータコア110の周方向に延伸する長さd1より長い。
【0027】
また、スロット111に装着されたボビン150は、図6に示すように、鍔部153がステータコア110に当接することによりステータコア110の軸方向の位置が決まる。そして、スロット111にボビン150を装着させることにより、スロット111と筒部151との間の隙間は、鍔部153によってステータコア110の軸方向外側から覆われる。
【0028】
図8は、本実施形態に係るボビン150の上端の拡大斜視図である。図8に示すように、ボビン150の上端には、コイル140(本実施形態では平角線)を挿入するためのコイル挿入孔154が複数(本実施形態では6つ)設けられている。
【0029】
コイル挿入孔154はボビン150の下端に達し、ボビン150を貫通している。したがって、筒部151の内部には、複数(本実施形態では6つ)のコイル挿入孔154が設けられている。なお、本実施形態ではコイル140に平角線を用いているため、コイル挿入孔154は断面形状が略矩形の孔となっている。
【0030】
また、鍔部153のバックヨーク側部分153aは、図8に示すように、軸方向外側が斜面155となっている。斜面155は、スロット111にボビン150を装着させたときに、ステータコア110の径方向において外側から内側に向かって上り勾配となっている。
【0031】
図9は、本実施形態に係るボビン150を装着させたステータコア110に、コイル140を巻回させたステータ100の断面斜視図である。図9に示すようにコイル140は、ボビン150内に接続部141を有する。即ち、コイル140は、第1平角線142と第2平角線143(複数のセグメント導体)とを有し、第1平角線142と第2平角線143は、スロット111に装着されたボビン150の筒部151内で接続されている。
【0032】
図10は、本実施形態に係る2つのセグメント導体(第1平角線142と第2平角線143)の一端の形状と、それらの接続前(左側)と接続後(右側)を示す拡大斜視図である。
【0033】
第1平角線142は一端に突起部142aを有し、第2平角線143は一端に溝部143aを有する。突起部142aと溝部143aの各々は、導線の軸方向に略平行な2つの面を備える。この略平行な2つの面を隙間なく接続させることにより、接続部141の電気抵抗を小さくできる。したがって、突起部142aと溝部143aの軸方向に略平行な2つの面が各々重なるように、第1平角線142と第2平角線143の各々は、反対側のコイル挿入孔154に挿入され、筒部151内で結合させる。
【0034】
ステータコア110にコイル140がボビン150を介して巻回(例えば、波巻分布巻き)されたステータ100は、コイルエンド144(図9参照)が樹脂160で覆われ、ステータコア110とコイル140とボビン150とが樹脂160により一体成形され固定される。なお、本実施形態の樹脂160は、モールド加工(例えばトランスファーモールド加工)により成形された樹脂である。しかし、これに限定されず、例えば真空加圧含侵加工により成形されるワニスを用いることもできる。
【0035】
図11は、本実施形態に係るステータ100の樹脂成形加工に用いられるモールド金型600と、モールド金型600に設置されたステータ100の断面図である。モールド金型600は、円柱状の芯型610と、円筒部を有する円盤状の下型620と上型630とを備える。
【0036】
芯型610は下端が下型620の中央に設けられた円穴621に嵌入され、下型620に載置される。そして、ステータ100の中空部分が芯型610に嵌め込まれる。
【0037】
芯型610に嵌め込まれたステータ100は、バックヨーク130の軸方向の下端面134の径方向外側の部分が、下型620の外周部から上方に突出する円筒部622の先端面623に当接する。これにより、ステータ100の下部のコイルエンド144は、下型620により包まれる。
【0038】
そして、上型630の円穴631に芯型610の上端部を嵌入し、上型630を芯型610に載置する。芯型610に載置された上型630は、バックヨーク130の軸方向上側の端面133の径方向外側の部分に、上型630の外周部から下方に突出する円筒部632の端面633が当接する。これにより、ステータ100の上部のコイルエンド144は、上型630により包まれる。
【0039】
ステータ100は、下型620と上型630とを挟持させることで固定され、ステータ100と芯型610と、下型620又は上型630とにより挟まれたキャビティ(充填室)が形成される。そして、ステータ100と芯型610と上型630とにより形成された上部キャビティ710と、ステータ100と芯型610と下型620とにより形成された下部キャビティ720とは、図12に示す軸方向流路161により連通する。
【0040】
軸方向流路161は、ボビン150の筒部151の第3側壁151cと、隣合う2つのティース120の周方向の側壁122と、芯型610の外周壁とにより挟まれている。なお、ボビン150の凸部152が芯型610の外周壁に当接することにより、ボビン150がスロット111内を径方向内側に移動して軸方向流路161を塞ぐことが抑制されている。
【0041】
そして、上型630に設けられた注入口(ゲート)634から液体樹脂162(例えば、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂)が、100~150℃に加熱され数MPaの圧力で上部キャビティ710圧入される。上部キャビティ710に圧入された液体樹脂162は、軸方向流路161を介して下部キャビティ720に流入し、上部キャビティ710と下部キャビティ720と軸方向流路161とに充填される。また、この際、バックヨーク130の凹部131とティース120の端部121との間に形成される隙間にも液体樹脂162が充填される。
【0042】
上部キャビティ710と下部キャビティ720と軸方向流路161とに液体樹脂162が充満されたステータ100とモールド金型600は加熱され、液体樹脂162を硬化させる。液体樹脂162が硬化した後、ステータ100はモールド金型600から外され、図2に示すステータ100が形成される。
【0043】
[比較例]
図13は、比較例に係るボビンの上端の拡大斜視図である。図13に示すように筒部951の第3側壁951cに凸部152を有さず、鍔部953のバックヨーク側部分953aに斜面155を有さない。
【0044】
図14は、本発明の比較例に係るステータ900の樹脂成形加工に用いられるモールド金型600と、モールド金型600に設置されたステータ900の断面図である。図15は、図14のA部の拡大図である。また、図16は、本発明の比較例に係るステータ900のバックヨーク130とボビン950の間に液体樹脂162が侵入したときに、コイル140の接続部141に掛かる圧力Prを模式的に示すステータの断面図である。
【0045】
比較例に係るステータ900も本発明の第1実施形態のステータ100と同様に、第1平角線142と第2平角線143がスロット111内で接続され、ボビン950の筒部951内に接続部141を有する。そして、図14に示すように、比較例に係るステータ900は、本発明の第1実施形態のステータ100と同様に、モールド金型600に固定され、上型630のゲート634から液体樹脂162が圧入される。
【0046】
このとき、比較例に係るボビン950は、図13に示すように筒部951の第3側壁951cに凸部152を有さない。そのため、図12のように、凸部152が芯型610の外周壁に当接することで軸方向流路161が確保されるということはない。したがって、図15に示すように、バックヨーク側部分953aの端面955が液体樹脂162によって押圧されると、図14に示す芯型610方向に筒部951が移動する虞がある。筒部951が芯型610方向に移動すると、第1側壁951aと、バックヨーク130の内壁132との間に隙間ができる虞がある。
【0047】
また、液体樹脂162は十分に加熱され粘性が低い状態で注入される。そのため、鍔部953のバックヨーク側部分953aとバックヨーク130の隙間から、ボビン950の筒部951の第1側壁951aとバックヨーク130の内壁132との隙間に侵入する虞がある。
【0048】
コイル140の両端には、分布巻特有の円環状のコイルエンド144が形成されており、径方向の変形に対し拘束された状態にある。そのため、筒部951とバックヨーク130の間に液体樹脂162が侵入すると、スロット111内のコイル140にのみ径方向内側の押圧力Prが作用することになる。これにより、接続部141が離間したり、接触面積が減少したりすると、接触抵抗の増加を招き、ジュール損の増加による局所発熱、さらには、ボビンの溶融、欠損、コイル140とステータコア110の導通、地絡といった不良を引き起こす虞がある。
【0049】
[効果]
本発明の回転電機1000は、コイル140の接続部141の電気的接続の弱化を抑制するため、樹脂160によってステータコア110とボビン150とコイル140とが一体化するように、樹脂成形加工を行う。樹脂成形加工に際しては、ステータ100の中空部分に芯型610が置かれ、コイルエンド144を覆う上型630と下型620がステータ100を軸方向の両側から挟持する。そして、芯型610、上型630または下型620とステータ100との間に形成されるキャビティ(充填室)にゲート634から液体樹脂162が圧入される。その際、圧入される液体樹脂162がステータコア110とボビン950の間に侵入すると、コイル140の接続部141の電気的接続を弱化する虞がある。
【0050】
しかし、本実施形態の回転電機1000は、ボビン150の第3側壁151cに凸部152が設けられている。凸部152は、樹脂成形加工時にステータコア110の中空部分に置かれる芯型610の外周壁に当接し、ボビン150がスロット111の開口部112(図4参照)に向かって移動することを妨げる。そのため、ステータコア110とボビン150の間に液体樹脂162の侵入が容易な隙間が形成されることを防止できる。
【0051】
すなわち、本実施形態によれば、樹脂成形加工時にステータコア110とボビン150の間に液体樹脂162が侵入することを抑制できるので、コイル140が変形して接続部141の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0052】
また、スロット111の開口部112側では、凸部152が芯型610に当接することによって、スロット111内の凸部152の周囲に液体樹脂162の軸方向流路161が形成される。そして樹脂成形加工時に軸方向流路161に流入する液体樹脂162によりボビン150の筒部151はスロット111の外径側の内壁132に押圧される。すなわち、この観点からもステータコア110とボビン150の間に液体樹脂162が侵入することを抑制でき、コイル140が変形して接続部141の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0053】
また、本実施形態の凸部152は、スロット111の軸方向の一端から他端にわたって延びる突条である。そのため、スロット111の軸方向の一端から他端にわたって筒部151をスロット111の外径側の内壁132に押圧させることができる。よって、ステータコア110とボビン150の間に液体樹脂162が侵入することをさらに抑制でき、コイル140が変形して接続部141の電気的接続がさらに弱化することを抑制できる。
【0054】
また、本実施形態のバックヨーク側部分153aの筒部151からステータコア110の径方向に延伸する長さd2は、2つのティース側部分153bの各々の筒部151からステータコア110の周方向に延伸する長さd1より長い。そのため、周方向に隣合う2つのティース120の側壁122とボビン150の2つの第2側壁151bの間より、バックヨーク130の内壁132とボビン150の第1側壁151aの間に液体樹脂162が侵入することを抑制できる。これにより、ボビン150がスロット111内を径方向内側に移動してバックヨーク側部分(鍔部)とステータコアとの間に隙間が形成されることが妨げられ、ステータコアとボビンの間に樹脂が侵入することを抑制でき、コイルが変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0055】
また、本実施形態に係るボビン150の鍔部153に備わるバックヨーク側部分153aの軸方向外側の面155は、ステータコア110の径方向における外側から内側に向かって上り勾配の傾斜となっている。そのため、図17に示すように、液体樹脂162が鍔部153のバックヨーク側部分153aを径方向外側から押圧する圧力Prは、斜面155に対して垂直な圧力Pr’と水平な圧力Pr”に分解することができる。さらに、斜面155に対して垂直な圧力Pr’は、バックヨーク130の端面133に対して垂直な圧力Pr’1と水平な圧力Pr”2(図示せず)に分解することができる。
【0056】
なお、斜面155のバックヨーク130の端面133に対する角度をθ°とすると、
Pr’=Pr・sinθ
Pr’1=Pr’・cosθ=Pr・sinθ・cosθ
と表すことができる。
【0057】
したがって、バックヨーク側部分153aの軸方向外側の面155を傾斜させることにより、鍔部153のバックヨーク側部分153aにはバックヨーク130の端面133に対して垂直な圧力Pr’1が発生する。そのため、バックヨーク側部分153aのバックヨークとの対向面はバックヨークに対して押しつけられる。これにより、バックヨーク側部分153a(鍔部)とステータコア110との間に隙間が形成されることが妨げられる。よって、ステータコア110とボビン150の間に樹脂160が侵入することを抑制でき、コイル140が変形して接続部141の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態のコイル140は複数のセグメント導体を有し、複数のセグメント導体の各々がスロット111に嵌め込まれたボビン150の筒部151内で接続されるスロット内接続方式である。そのため、コイルのコイルエンドで溶接によりコイルを接続するコイルエンド接続方式に比べて、コイルエンドにおける曲げ加工と溶接が不要となる。そのため、回転電機の高生産化、小型化ができる。
【0059】
また、コイル140が有する複数のセグメント導体は、突起部142aを一端に有する第1平角線142と、溝部143aを一端に有する第2平角線143と、突起部142aが溝部143aに嵌合される接続部141とを有する。そのため、突起部142aを溝部143aに押し込んだだけで両者が嵌合され、突起部142aと溝部143a(つまり第1平角線142と第2平角線143)を容易に接続できる。
【0060】
また、ステータコア110は、円筒状のバックヨーク130の内周面に設けられバックヨーク130の軸方向に延びる凹部131と、凹部131に端部121が嵌合されたティース120とを備え、凹部131とティース120の端部121との間に形成される径方向の隙間に液体樹脂162(樹脂160)が充填されている。
【0061】
このように構成されたステータコア110は、ティース120が内径方向に押圧され、バックヨーク130の凹部131と、凹部131に嵌合されたティース120の端部121との間に形成される周方向の隙間を径方向の隙間より小さくできる。そのため、ティース120の他端123から端部121に向かってティース120内を流れてきた磁束は、ティース120の端部121から周方向にバックヨーク130の凹部131に流れることになる。これにより、バックヨーク130の外径側に磁束が流れることを抑制でき、バックヨーク130で発生する鉄損を低減できる。特に本実施形態ではティース120はアモルファス金属により形成することが可能な台形柱であるため、鉄損をさらに低減できる。
【0062】
また、本実施形態に係る回転電機1000を圧縮機の動力源に用いることができる。低損失化された本実施形態に係る回転電機1000を動力源とする圧縮機は、省エネルギー化を実現できる。
【0063】
(第2実施形態)
図18は、本発明の第2実施形態に係るボビン2150の外観斜視図であり、図21は、本発明の第2実施形態に係るボビン2150の上端の拡大斜視図である。また、図22は、本発明の第2実施形態に係るボビン2150をステータコア110のスロット111に装着させた状態を示す部分平面図である。
【0064】
本実施形態に係るボビン2150が第1実施形態に係るボビン150と異なる点は次の通りである。即ち、ボビン2150の鍔部2153の2つのティース側部分2153bの各々の軸方向外側の面2156が、2つのティース120の軸方向端面からスロット111に向かって上り勾配の傾斜となっている点である。
【0065】
図19は、本実施形態に係るボビン2150をステータコア110のスロット111に装着させたステータ100の部分平面図である。鍔部2153のティース側部分2153b(図18参照)の各々の軸方向外側の面2156が傾斜となっているため、ティース120上の径方向流路163はステータ2100の周方向における幅が上方で広がり、流路断面積が大きくなっている。
【0066】
[効果]
ゲート634から圧入された液体樹脂162の一部は、ティース120の軸方向の端面に沿って径方向内側の軸方向流路161に向かって流れる。このとき、鍔部2153のティース側部分2153bの各々の軸方向外側の面2156が傾斜となっているため、ティース120上の径方向流路163はステータ2100の周方向における幅が上方で広がり、流路断面積が大きくなっている。そのため、液体樹脂162が径方向流路163を流れる際の圧力損失(摩擦損失)を軽減でき、液体樹脂162が軸方向流路161に向かって流れやすくなる。これによりボイド(気泡)や密度低下などの成形不良により樹脂160の強度が低下することを抑制できる。また、キャビティ710、720に液体樹脂162を所定密度で充満させるための成形圧が軽減でき、液体樹脂162の押圧力によるコイル140などの変形を抑制できる。このため、コイル140が変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0067】
また、上部キャビティ710に充填された液体樹脂162は、ボビン2150の鍔部2153の2つのティース側部分2153bの斜面2156を押圧する。液体樹脂162により斜面2156を押圧されたティース側部分2153bには、斜面2156に対して垂直な力が発生し、ティース120の軸方向の端面に対向するティース側部分2153bの面は、ティース120の軸方向の端面に押し付けられる。そのため、ボビン2150が径方向に移動することを抑制され、ボビン2150の筒部151とステータコア110のスロット111の内壁との間に隙間ができることを抑制できる。よって、ステータコア110とボビン2150の間に液体樹脂162が侵入することを抑制でき、コイル140が変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0068】
(第3実施形態)
図20は、本発明の第3実施形態に係るボビン3150の外観斜視図であり、図21は、本発明の第3実施形態に係るボビン3150をステータコア110のスロット111に装着させたステータ3100の部分平面図である。
【0069】
本実施形態に係るボビン3150が第1実施形態に係るボビン150と異なる点は、凸部3152である。即ち、第1実施形態に係る凸部152は、筒部151の開口部112に対向する第3側壁151cから突出し、スロット111の軸方向の一端から他端にわたって延びる1つの突条である。それに対し、本実施形態に係る凸部3152は、第3側壁151cから突出し、スロット111を挟む2つのティース120の側壁122(図4参照)に沿って延伸する2つの突条である。
【0070】
[効果]
本実施形態に係るボビン3150の凸部3152は、スロット111を挟む2つのティース120の側面に沿って延伸する2つの突条である。そのため、軸方向流路3161は、凸部152によって2つに分割された第1実施形態の軸方向流路161よりも断面積が大きい1つの流路となっている。そのため、液体樹脂162が軸方向流路3161を流れやすくなるため、ボイド(気泡)や密度低下などの成形不良により樹脂160の強度が低下することを抑制できる。また、キャビティ710、720に液体樹脂162を所定密度に充満させるための成形圧が軽減でき、液体樹脂162の押圧力によるコイル140などの変形を抑制できる。このため、コイルが変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0071】
(第4実施形態)
図22は、本発明の第4実施形態に係るボビン4150の上端の拡大斜視図である。本実施形態に係るボビン4150が第1実施形態に係るボビン150と異なる点は、凸部4152の形状と位置である。
【0072】
即ち、第1実施形態に係る凸部152は、筒部151の開口部112に対向する第3側壁151cから突出し、スロット111の軸方向の一端から他端にわたって延びる1つの突条である。それに対し、本実施形態に係る凸部4152は、鍔部4153における開口部112側の外壁4151dに設けられた突起である。
【0073】
[効果]
本実施形態に係る凸部4152は、鍔部4153における開口部112側の外壁4151dに設けられた突起である。そのため、軸方向流路4161は、第1実施形態の軸方向流路161のように凸部152によって軸方向に2つに分割されず、1つの断面積が大きい流路を備える。したがって、流路による圧力損失(摩擦損失)を軽減でき、液体樹脂162が軸方向流路3161を流れやすく、ボイド(気泡)や密度低下などの成形不良により樹脂160の強度が低下することを抑制できる。また、キャビティ710、720に液体樹脂162を所定密度に充満させるための成形圧が軽減でき、液体樹脂162の押圧力によるコイル140などの変形を抑制できる。このため、コイルが変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。さらに、ボビン4150の形状が単純化できるため、成形性を向上させることができる。
【0074】
また、ステータを樹脂成形加工するためにモールド金型600に設置したときに、凸部4152が芯型610に当接するため、液体樹脂162をゲート634から圧入しても、ボビン4150は径方向内側に移動できない。一方、軸方向流路161には液体樹脂162が侵入し、ボビン4150は径方向外側に押圧される。したがって、ステータコア110とボビン4150の間に液体樹脂162が侵入することを抑制でき、コイル140が変形して接続部141の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0075】
(第5実施形態)
図23は、本発明の第5実施形態に係るボビン5150の上端の拡大斜視図である。また、図24は、本発明の第5実施形態に係るボビン5150をステータコア110のスロット111に装着させたステータ5100の部分平面図である。
【0076】
本実施形態に係るボビン5150が第4実施形態に係るボビン4150と異なる点は、凸部5152が設けられた場所と数である。即ち、第4実施形態では、鍔部4153における開口部112側の外壁4151dに1つの凸部4152が設けられている。それに対し本実施形態では、鍔部5153の2つのティース側部分5153bの各々における開口部112側の外壁5153dに設けられている。つまり、第4実施形態の凸部4152は、鍔部4153の外壁4151dに1つ設けられている。それに対し、第5実施形態の凸部5152は、鍔部5153の2つのティース側部分5153bの外壁5153dの各々に1つ、合計で2つ設けられている。
【0077】
なお、凸部5152が、鍔部5153のステータコア110における周方向の両端に位置し、ステータコア110の径方向内側に向かって突出する2つの突条にしてもよい。
【0078】
[効果]
本実施形態に係る凸部5152は、鍔部5153の2つのティース側部分5153bの各々のステータコア110における径方向内側の外壁5153dに設けられている。そのため、基部が厚く剛性を強くできるとともに容易に成形することができる。
【0079】
また、スロット111を周方向から挟む2つのティース120の各々の軸方向の端面の一部を覆う2つのティース側部分5153bに凸部5152は設けられている。そのため、第4実施形態の凸部4152のように軸方向流路5161の入口を2つに分割しない。特に、凸部5152が鍔部5153のステータコア110における周方向の両端に位置し、ステータコア110の径方向内側に向かって突出する2つの突条である場合、図24に示すように軸方向流路5161の入口を大きく開口できる。そのため、液体樹脂162は軸方向流路5161に流入しやすい。よって、流路による圧力損失(摩擦損失)をさらに軽減でき、液体樹脂162が軸方向流路5161を流れやすく、ボイド(気泡)や密度低下などの成形不良により樹脂160の強度が低下することを抑制できる。また、キャビティ710、720に液体樹脂162を所定密度に充満させるための成形圧が軽減でき、液体樹脂162の押圧力によるコイル140などの変形を抑制できる。このため、コイルが変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。さらに、ボビン4150の形状が単純化できるため、成形性を向上させることができる。
【0080】
また、ステータ100を樹脂成形加工するためにモールド金型600に設置したときに、凸部5152が芯型610に当接するため、液体樹脂162をゲート634から圧入しても、ボビン5150は径方向内側に移動できない。一方、軸方向流路161には液体樹脂162が侵入し、ボビン5150は径方向外側に押圧される。したがって、ステータコア110とボビン5150の間に液体樹脂162が侵入することを抑制でき、コイル140が変形して接続部141の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0081】
(第6実施形態)
図25は、本実施形態に係るボビン6150の外観斜視図である。図26は、本発明の第6実施形態に係るボビン6150を用いたステータ6100をモールド金型600に設置した状態を示す断面図で、図27図30のA部の拡大図である。図28は、本実施形態に係るステータ6100の部分平面図である。
【0082】
本実施形態に係るボビン6150が第1実施形態に係るボビン150と異なる点は、鍔部6153のバックヨーク側部分6153aの形状である。第1に、バックヨーク側部分6153aには、軸方向外側に斜面155がなく、鍔部6153の軸方向外側面が延伸する。第2に、バックヨーク側部分6153aのステータコア110の径方向における外側の外側端面6155が、ゲート634のステータコア110の径方向における最も外側の内周壁6341よりもステータコア110の径方向外側に位置する。そのため、図28に示すように外側端面6155は樹脂160の表面に形成されたゲート跡164よりステータコア110の径方向における外側に位置する。なお、ゲート跡164が樹脂160の上面に形成される実施形態を示したが、これに限定されず、例えば、樹脂160の傾斜面となった側面に形成されても良い。
【0083】
また、外側端面6155を上型630の内周壁6321と密接させることもできる。この場合、外側端面6155は樹脂160から露出する。
【0084】
[効果]
樹脂成形加工時に用いられる型枠(上型630)の樹脂注入口(ゲート634)の位置はゲート跡として樹脂160の表面に現れる。本実施形態のようにバックヨーク側部分6153aにおけるステータコア110の径方向における外側の端面(以下、外側端面と称する)6131が当該ゲート跡よりステータコアの径方向における外側に位置する場合には、樹脂成形加工時の液体樹脂162はバックヨーク側部分6153aの外側端面6155よりも径方向内側の位置から鍔部6153方向に注入される。そのため液体樹脂162によってバックヨーク側部分6153aの外側端面6155に比して軸方向外側の面6156が押圧され、その結果、バックヨーク側部分(鍔部)がステータコアに向かって容易に押圧され得る。これによりバックヨーク側部分(鍔部)とステータコアとの間に隙間が形成されることが妨げられるので、ステータコアとボビンの間に樹脂が侵入することを抑制でき、コイル140が変形して接続部141の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0085】
また、外側端面6155が上型630の内周壁6321と密接する場合、樹脂160によって覆われず、樹脂160から露出する。一方、この場合、外側端面6155は、上型630のゲート634から圧入される液体樹脂162により押圧さない。したがって、鍔部の外径側の端面の下部とバックヨークの軸方向の端面の間からステータコアとボビンの間に樹脂が侵入することを抑制でき、コイルが変形して接続部の電気的接続が弱化することを抑制できる。
【0086】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0087】
なお、本発明の実施形態は、以下の態様であってもよい。即ち、回転電機1000を圧縮機の動力源として用いられる波巻分布巻ラジアルギャップ型電動機とする実施形態を示したが、これに限定されない。例えば、電動機ではなく発電機に適用してもよく、波巻分布巻に限定されず他の巻き方でもよく、圧縮機以外の産業用ロボット、プレス機あるいは水力機械などの産業機械や自動車、家電などの動力源としてもよい。
【0088】
また、極数とスロット数のスロットコンビネーションや、ステータコアと樹脂の材質や、ボビンの凸部や鍔部の形状などは、上記の実施形態に限定されない。
【0089】
例えば、図29に示すように、ティース120の径方向外側の面121aに対向するバックヨーク7130の第1凹部7131の底面に第2凹部7133を設けても良い。このようにすることで第2凹部7133を起点に液体樹脂162がティース120の径方向外側の面121aとバックヨーク7130の第1凹部7131の底面の間に充填され、ティース120を径方向内側に加圧する。これにより、ティース120のステータコア7110における周方向の側壁122がバックヨーク7130の第1凹部7131の周方向側壁7134に押し付けられる。このように構成されたステータコア7110は、ティース120が内径方向にさらに押され、バックヨークの凹部と、凹部に嵌合されたティースの一端との間に形成される周方向の隙間を径方向の隙間より小さくできる。そのため、ティースの他端から一端に向かってティース内を流れてきた磁束は、ティースの一端から周方向にバックヨークの凹部にさらに流れることになる。これにより、バックヨークの外径側に磁束が流れることをさらに抑制でき、バックヨークで発生する鉄損をより低減できる。また、モールド金型600のゲート634と第2凹部7133を軸方向の位置を重畳させることにより、ティース120の径方向外側の面121aとバックヨーク7130の第1凹部7131の底面の間に液体樹脂をさらに充填できる。これにより、バックヨークの外径側に磁束が流れることをさらに抑制でき、バックヨークで発生する鉄損をより低減できる。
【0090】
また、上記において、ステータコアをバックヨークと複数のティースに分割する実施形態を示したが、これに限定されない。例えば、バックヨークとティースが一体のステータコアでもよい。
【0091】
また、上記において、ティースを台形柱とする実施形態を示したが、これに限定されない。例えば、ティースの先端に拡幅部を設け、スロットをセミクローズ化しても良い。
【0092】
また、樹脂は熱硬化性樹脂が望ましいがこれに限定されず、加圧成形する樹脂であれば良く、熱可塑性樹脂であってもよい。なお、コイルの接続部に及ぼす影響を低減するため、硬化収縮が小さく、線膨張係数が鉄心と近い樹脂を用いることが望ましい。
【符号の説明】
【0093】
1000…回転電機、100,2100,3100,5100,6100,900…ステータ、110,7110…ステータコア、111…スロット、112…開口部、120…ティース、122…側壁、130,7130…バックヨーク、131…凹部、132…内壁、140…コイル、141…接続部、142…第1平角線、142a…突起部、143…第2平角線、143a…溝部、144…コイルエンド、150,2150,3150,4150,5150…ボビン、151,4151…筒部、151a…第1側壁、151b…第2側壁、151c…第3側壁、152,3152,4152,5152…凸部、153,2153,4153,5153,953…鍔部、153a,6153a,953a…バックヨーク側部分、153b,2153b,5153b…ティース側部分、155,2156…軸方向外側の面,斜面、6155…外側端面、160…樹脂、161,3161,4161,5161…軸方向流路、162…液体樹脂、163…径方向流路、164…ゲート跡、200…ロータ、600…モールド金型、610…芯型、620…下型、630…上型、634…注入口(ゲート)、710…上部キャビティ、720…下部キャビティ
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