(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057965
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】文字又は図形を印す印字装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20230417BHJP
F16K 1/42 20060101ALI20230417BHJP
【FI】
B41J2/14 607
F16K1/42 F
F16K1/42 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167750
(22)【出願日】2021-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】390002808
【氏名又は名称】マークテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090893
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 敏
(72)【発明者】
【氏名】松本 謙二
【テーマコード(参考)】
2C057
3H052
【Fターム(参考)】
2C057AG01
2C057AG76
2C057BB04
2C057BF04
3H052AA01
3H052BA22
3H052BA35
3H052CB18
3H052CB19
3H052EA16
(57)【要約】
【課題】バルブシートの変形を抑制し、印字、マーキングの乱れを防止することを可能とするとともに、省エネルギーな文字又は図形を印す印字装置を提供する。
【解決手段】文字又は図形を印す印字装置1は塗料室2、球状の弁体3,多層のバルブシート4,104を備え、バルブシート4,104は内側層11,外側層12を備え、バルブシート104は更に中間層14を備え、文字又は図形を印す印字装置1は更に弁体3の周りを取り囲むように弁体3をガイドするガイド部80を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料室、可動鉄心、弁体、バルブシート、吐出ノズルを備えた文字又は図形を印す印字装置であって、前記可動鉄心の先端に備えられた球状の前記弁体が前記バルブシートから離れ、前記塗料室からの吐出をする開状態と、前記弁体が前記バルブシートを押圧して前記塗料室からの吐出を停止する閉状態とを有し、また被印字対象物に対して相対的に移動させながら前記開状態及び前記閉状態に交互に移行することでドットにより文字又は図形を印すことが可能である文字又は図形を印す印字装置において、
前記バルブシートは前記弁体と接触する接触面が略平面状であるか、又は該接触面が押圧されて変形し略球帯状に形成されており、また前記バルブシートは前記接触面の中心を貫き前記吐出ノズルに接続して形成される円筒状の塗料流路を備えており、さらに前記バルブシートは該塗料流路の周りを取り囲む外周が円形の内側層と、該内側層の外周面と接してこれを取り囲む外側層の2つの層からなり、前記塗料流路と、前記内側層と前記外側層の境を形成する境界は前記接触面側からみて略同心円状であり、前記外側層は、前記内側層よりも硬く形成されることを特徴とする、文字又は図形を印す印字装置。
【請求項2】
前記内側層と前記外側層の間にはさらに1つまたは複数の中間層が設けられ、前記内側層と1つまたは複数の前記中間層と前記外側層との各境界及び複数の前記中間層同士の各境界はいずれも略同心円状であることを特徴とする、請求項1に記載の文字又は図形を印す印字装置。
【請求項3】
前記弁体の前記開状態と前記閉状態を交互に繰り返す動作をガイドするため前記弁体の周りに筒状に形成されるガイド部を備えたことを特徴とする、請求項1乃至2に記載の文字又は図形を印す印字装置。
【請求項4】
前記バルブシート内周部の硬度は、デュロメータータイプAにおいて硬さが40以上70以下であり、前記バルブシート外周部の硬度は、デュロメータータイプDにおいて硬さが50以上90以下であることを特徴とする、請求項1乃至3に記載の文字又は図形を印す印字装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼鉄材料等の製品にドットマークにより印字及び図形を描画するためのドット状マーキング及び印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のドット状マーキング及び印字装置は、スプレーノズルを備えており、スプレーノズル先端にドット状印字に適した吐出ノズルを備え、その外側にアトマイズノズルを備えた二重構造を有し、この吐出ノズルの内方に弁座と球体弁体からなる吐出制御弁が形成される構造が知られている。この球体弁体はロッドを介して振動機構の、例えば電磁ソレノイドの可動鉄心に一体的に連結される。弁座と球体弁体の周辺には加圧された塗料が充満する塗料室が設けられ、可動鉄心の往復運動により吐出制御弁が開閉して吐出ノズルよりドット状液体塗料が断続的に吐出される。可動鉄心の往復運動により吐出制御弁が開閉する際に、球状弁体の弁座への接触する。この際球状弁体は弁座へ押圧する形で接触し、塗料室と吐出ノズルを区切るようにシールする。この際に上記の構成では、弁座の変形により、可動鉄心の往復運動の際の移動距離であるストロークが変化することがあった。その結果、メンテナンス性や、メンテナンスを頻繁に行わない場合、塗料が吐出されにくくなってしまう、また塗料の吐出が乱れてしまう、などの問題があった。
【0003】
たとえば特許文献1においては、ドット状印字装置は、吐出ノズルの周囲にこれを取り囲む圧縮空気噴出口を有する二重管ノズルを設け、かつ吐出ノズルが圧縮空気噴出口より所定の距離だけ長く突出しているようにして、吐出されたドット状液体塗料の微粒子を乱さずにテーリングの成長を防止できるようなドット状印字装置が開示されている。特許文献1に開示されるドット状印字装置では、テーリングの成長は防止することができる点は優れる。しかし、弁座は従来の単層構造を使用している。このため、使用とともにストロークが変化し、塗料の吐出が乱れる、そのためドット状印字装置の内部のメンテナンスが必要となってしまう、といった諸点について解決されていない、という課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、ドット状印字の際に弁体により頻繁に押圧されるバルブシートが、その押圧による変形を少なくすることで、ストロークをより長い間一定に保ち、メンテナンス性を向上させた文字又は図形を印す印字装置を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、塗料室、可動鉄心、弁体、バルブシート、吐出ノズルを備えた文字又は図形を印す印字装置であって、前記可動鉄心の先端に備えられた球状の前記弁体が前記バルブシートから離れ、前記塗料室からの吐出をする開状態と、前記弁体が前記バルブシートを押圧して前記塗料室からの吐出を停止する閉状態とを有し、また被印字対象物に対して相対的に移動させながら前記開状態及び前記閉状態に交互に移行することでドットにより文字又は図形を印すことが可能である文字又は図形を印す印字装置において、
前記バルブシートは前記弁体と接触する接触面が略平面状であるか、又は該接触面が押圧されて変形し略球帯状に形成されており、また前記バルブシートは前記接触面の中心を貫き前記吐出ノズルに接続して形成される円筒状の塗料流路を備えており、さらに前記バルブシートは該塗料流路の周りを取り囲む外周が円形の内側層と、該内側層の外周面と接してこれを取り囲む外側層の2つの層からなり、前記塗料流路と、前記内側層と前記外側層の境を形成する境界は前記接触面側からみて略同心円状であり、前記外側層は、前記内側層よりも硬く形成されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、前記内側層と前記外側層の間にはさらに1つまたは複数の中間層が設けられ、前記内側層と1つまたは複数の前記中間層と前記外側層との各境界及び複数の前記中間層同士の各境界はいずれも略同心円状であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記弁体の前記開状態と前記閉状態を交互に繰り返す動作をガイドするため前記弁体の周りに筒状に形成されるガイド部を備えたことを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明は、前記バルブシート内周部の硬度は、デュロメータータイプAにおいて硬さが40以上70以下であり、前記バルブシート外周部の硬度は、デュロメータータイプDにおいて硬さが50以上90以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は塗料室、可動鉄心、弁体、バルブシート、吐出ノズルを備えた文字又は図形を印す印字装置であって、可動鉄心の先端に備えられた球状の弁体がバルブシートから離れ、塗料室からの吐出をする開状態と、弁体がバルブシートを押圧して塗料室からの吐出を停止する閉状態とを有し、また被印字対象物に対して相対的に移動させながら開状態及び閉状態に交互に移行することでドットにより文字又は図形を印すことが可能である文字又は図形を印す印字装置において、バルブシートは弁体と接触する接触面が略平面状であるか、又は該接触面が押圧されて変形し略球帯状に形成されており、またバルブシートは接触面の中心を貫き吐出ノズルに接続して形成される円筒状の塗料流路を備えており、さらにバルブシートは塗料流路の周りを取り囲む外周が円形の内側層と、内側層の外周面と接してこれを取り囲む外側層の2つの層からなり、塗料流路と、内側層と外側層の境界を形成する境界は接触面側からみて略同心円状であり、外側層は、内側層よりも硬く形成されることを特徴とするので、ドット状印字の際に弁体により頻繁に押圧されるバルブシートが、その押圧による変形を少なくすることができ、ストロークをより長い間一定に保ち、またメンテナンス性を向上させた文字又は図形を印す印字装置とすることができる。
【0011】
また、本発明は、内側層と外側層の間にはさらに1つまたは複数の中間層が設けられ、内側層と1つまたは複数の中間層と外側層との各境界及び複数の中間層同士の各境界はいずれも略同心円状であることを特徴とするので、ドット状印字の際に頻繁にバルブシートを押圧する弁体のストロークの軌道のずれを防止することができ、印字の乱れを防止した印字装置とすることができる。
【0012】
また、本発明は、弁体の開状態と閉状態を交互に繰り返す動作をガイドするため弁体の周りに筒状に形成されるガイド部を備えたことを特徴とするので、ドット状印字の際に頻繁にバルブシートを押圧する弁体のストロークの軌道のずれを防止することができ、印字の乱れを防止した文字又は図形を印す印字装置とすることができる。
【0013】
さらに、本発明は、バルブシート内周部の硬度は、デュロメータータイプAにおいて硬さが40以上70以下であり、バルブシート外周部の硬度は、デュロメータータイプDにおいて硬さが50以上90以下であることを特徴とするので、ドット状印字の際に弁体により頻繁に押圧されるバルブシートが、その押圧による変形を少なくすることができ、ストロークをより長い間一定に保ち、またメンテナンス性を向上させた文字又は図形を印す印字装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1の一例が示された概略断面図である。
【
図2】本実施形態に係る他の一例である、文字又は図形を印す印字装置101が示された概略断面図である。
【
図3】
図1のドット状マーキング及び印字装置1の斜視図で、一部を切り取って内部を露出させた説明図である。
【
図4】(X)は、弁体が開状態の際のバルブシート4の断面図、(Y)は弁体が閉状態の際のバルブシート4の断面図である。
【
図5】本発明に係る実施形態の他の一例として文字又は図形を印す印字装置1,101に、バルブシート4に代えてバルブシート104を用いる際のバルブシート104の断面図であり、(X)は、弁体が開状態の際のバルブシート104の断面図、(Y)は弁体が閉状態の際のバルブシート104の断面図である。
【
図6】(X)はバルブシート4の断面図と上面図、(Y)はバルブシート104の断面図と上面図である。
【
図7】本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1、101の、吐出ノズル18から吐出される塗料をアトマイズするための圧縮空気の通り道である圧縮空気流路30近傍が示された概略断面図である。
【
図8】
図1の本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1が複数備えられた文字又は図形を印す印字システム102の一部を切り取って内部を露出させた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の詳細を説明する。まず、本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1について説明する。
図1は、本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1の一例が示された概略断面図である。説明のため塗料室2近傍に絞って図示している。
図2は
図1の本実施形態に係る他の一例である、ガイド部80を備えた文字又は図形を印す印字装置101が示された概略断面図である。
図2もまた説明のため塗料室2近傍に絞って図示している。(X)は弁体3が閉状態の際を、(Y)は弁体3が開状態の際を図示したものである。
図3は、
図1のドット状マーキング及び印字装置1の斜視図で、一部を切り取って内部の断面を露出させた説明図である。
図4(X)は、弁体が開状態の際のバルブシート4の断面図、(Y)は弁体が閉状態の際のバルブシート4の断面図である。
図5は、本発明に係る実施形態の他の一例として文字又は図形を印す印字装置1,101に、2層構造のバルブシート4の代わりに3層構造のバルブシート104を用いる際のバルブシート104の断面図であり、(X)は、弁体が開状態の際のバルブシート104の断面図、(Y)は弁体が閉状態の際のバルブシート104の断面図である。
図6の(X)はバルブシート4の、(Y)はバルブシート104の断面図と上面図をそれぞれについて示している。
図7は
図1や
図2に示される本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1、101の、吐出ノズル18から吐出される塗料をアトマイズするための圧縮空気の通り道である圧縮空気流路30近傍が示された概略断面図である。
図8は、
図1の本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1が複数備えられた文字又は図形を印す印字システム102の一部を切り取って内部の断面を露出させた斜視図である。なお、本開示においては、説明の便宜上、単に上側とのみ表すときは
図1、
図2、
図4、
図5において上側を指す。上側を基準として他方向も同様とする。
【0016】
まず、
図1を示しつつ、本実施形態に係る文字又は図形を印す印字装置1について説明する。文字又は図形を印す印字装置1は、振動機構24,塗料室2を備え、塗料室2内に可動鉄心23,弁体3とバルブシート4又はこれに代えてバルブシート104を備え、更に吐出ノズル18、圧縮空気通路15を備える。圧縮空気通路15より下側は
図1では省略されており、
図7を示す際に説明する。
【0017】
まず、
図1を参照しつつ文字又は図形を印す印字装置1の構造について詳述する。まず、塗料室2は、吐出ノズル18の内部に備えられた塗料流路7に塗料を圧送するために設けられており、圧送を制御するため弁体3及びバルブシート4又は104を備える。
図1ではバルブシート4と示しているが、この部分はバルブシート104に置き換えてもよい。
図2、
図3,
図8も同様である。塗料室2には、吐出ノズル18を通じてドット印字をするために吐出するのに使用する塗料が満たされている。塗料室2と、後に説明する塗料流路7の間は、
図1の閉状態では、球状の弁体3により密封され、遮られている。可動鉄心23は棒状で、一端を振動機構24に固設されており、他端の先端に、弁体3を固定している。閉状態の弁体3は塗料室2において、バルブシート4、104を押圧して塗料室2の塗料が漏れることのないようにシールしている。バルブシート4、104はゴムや樹脂等弾力性のある素材を用いるのが好ましい。バルブシート4,104の中央には、バルブシート4、104を上下に貫くように塗料流路7が設けられている。塗料流路7は吐出ノズル18の内部と接続して形成されている。具体的には、まず、塗料流路7はバルブシート4、104の中央部を貫通している。そして、このバルブシート4,104を貫通した管路である塗料流路7が吐出ノズル18の内部に接続して形成されている。この、吐出ノズル18の内部の管路も、塗料流路7に含まれる。但し、バルブシート4,104の塗料流路7の塗料室2側の入り口は、弁体3により開閉可能となっている。より詳細には、弁体3はバルブシート4,104の塗料流路7の入り口をふさぐようにバルブシート4、104を押圧することにより、閉状態とし、塗料流路7の入り口から離れることで塗料流路7の入り口が開状態とすることが、可能なように設けられている。吐出ノズル18は、下側において、
図7に示すようにアトマイズのために設けられた圧縮空気流路30に囲まれている。
【0018】
次に
図2(X)(Y)を示しつつ文字又は図形を印す印字装置101を説明する。
図2(X)は文字又は図形を印す印字装置101の、弁体3が閉状態の際の断面図であり、(Y)は弁体3が開状態の際の断面図である。まず、文字又は図形を印す印字装置101の構成を説明する。
図1に示す文字又は図形を印す印字装置101は、ガイド部80が設けられていることを除いて文字又は図形を印す印字装置1と同様である。ガイド部80は、
図2において弁体3が上下に往復運動をする際にこれをガイドする役割を果たすため設けられる。そのため、球状の弁体3のまわりを円筒状に取り囲むように、またガイド部80と弁体3の周面の距離が、往復運動の際に全周にわたって等距離になるように設けられている。
図2(X)(Y)いずれにおいても、ガイド部80と弁体3の周面の最短距離は等距離である。ガイド部80が設けられていることで、弁体3がより高速な往復運動をする場合であっても、弁体3のバルブシート4,104と接触する位置がずれることを防止することができ、好適である。
【0019】
次に
図2(X)(Y)を示しつつ、弁体3の往復運動について詳述する。振動機構24に可動鉄心23を介して連設される弁体3は、振動機構24の動作により、
図2において上下に往復運動をする。
図2(X)において下に動いた状態が示され、これを弁体3が閉状態となっている、
図2(Y)において上に動いた状態が示され、これを弁体3が開状態となっている、ということとする。文字又は図形を印す印字装置101は、弁体3が開状態と閉状態を繰り返すことで、塗料を塗料室2から塗料流路7に一定量流通させ、これによりドット印字を行う。この開状態と閉状態に交互に移行する往復運動は、印字装置1についても同様になされる。
【0020】
次に、
図3を示しつつ、弁体3とバルブシート4又は104の関係について説明する。
図3は文字又は図形を印す印字装置1の一部を説明のため切り出して内部の断面を露出させた説明図であるが、
図2(X)の文字又は図形を印す印字装置101と同様の閉状態を示している。ドット印字をする際においては、
図3に示されるように、バルブシート4、104は球状の弁体3に、下側に押圧されている。往復運動によりバルブシートが
図2(Y)の状態になり、またその後
図2(X)ないし
図3のような状態になるよう高速で往復運動が行われる。このため、回数を重ねるごとに従来のバルブシートであれば大きく変形してしまう。ここで、バルブシート4又は104が大きく変形してしまうと、弁体3の開状態から閉状態に移行する際に移動する距離であるストロークが長くなったり短くなったり変化してしまう。そうすると、塗料が吐出されなくなってしまうことがある。本発明はこの点を鑑みてなされたものである。
【0021】
文字又は図形を印す印字装置1、101の全くの未使用時は、本発明のバルブシート4,104は接触面13が略平面状に形成されるが、検査など初期動作によりバルブシート4、104は凹むことがある。このため、本発明のバルブシート4,104は接触面13が略平面状又は、略平面状だったものが押圧されて変形し、略球帯状に形成されている。なお、反発力を維持する観点から押圧される前の段階では略平面状であることが好ましい。
【0022】
また、バルブシート4、104は塗料室2と弁体3に遮られる際に、弁体3に押圧されるが、このとき十分に密閉を行うために、バルブシート4が例えば従来の単層のバルブシートであった場合、ある程度柔軟性を備える必要がある。しかし、柔軟性を備えて十分にシールしようとすると、塗料流路7の接触面13上にある入り口が、バルブシートの接触面の中央からずれてしまい、弁体3の閉状態になった際のバルブシートによる位置決め精度が低下してしまう。そのため弁体3の閉状態の際の位置ずれにより、ドット印字に乱れが生じてしまうおそれがあり、またストロークの方向に乱れが生じてしまうおそれもあった。
【0023】
次に
図4、
図5を示しつつ、本発明に係る文字又は図形を印す印字装置1、101に用いられるバルブシート4、104について詳述する。
図4は塗料流路7を取り囲むようにバルブシート4に設けられた内側層11,さらに内側層11を取り囲むように外側層12が設けられている。内側層11と外側層12は、バルブシート4が共押出し法等により射出成形されて形成されてもよい。内側層11と外側層12は接着するように設けられている。
【0024】
図4(X)は
図2(Y)において示された弁体3が開状態である際の、バルブシート4の断面図を図示している。この際バルブシート4は初期動作等行っていない全くの未使用状態であり、弁体3に押圧されていない状態である。また、
図4(X)に破線で示されるのは、接触面13が初期動作等で弁体3に押圧されたため変形している際の、弁体3が接触面13に接触していない開状態の様子である。また、
図4(Y)は
図2(X)において示された弁体3が閉状態である際の、バルブシート4を図示している。この際バルブシート4は弁体3に押圧されて凹んでいる状態である。
【0025】
図5(X)は
図2(Y)において示された弁体3が開状態である際の、バルブシート104を図示している。この際バルブシート104は初期動作が終了した後であるが、弁体3に押圧されていない状態である。検査、試運転等の初期動作が終了する前は、
図5においても接触面13は略平面状である。また、
図5(Y)は
図2(X)において示された弁体3が閉状態である際の、バルブシート104を図示している。この際バルブシート104は弁体3に押圧されて凹んでいる状態である。
【0026】
図4(Y)において示される距離αは、弁体により押圧されたバルブシート4の最大の変化をした際の、変化した接触面13と、変化のない
図4(X)の際の接触面との距離を表したものである。これによりどの程度バルブシート4が変化しているのかを示す。また、
図5(Y)において示される距離βは、弁体により押圧されたバルブシート104の最大の変化をした際の、変化した接触面13と、変化のない
図5(X)の際の接触面13との距離を表したものである。これによりどの程度バルブシート104が変化しているのかを示す。
【0027】
図4(Y),
図5(Y)いずれにおいても、バルブシート4,104は凹んだ状態であるが、αよりβのほうが距離が短いこととなっており、省エネの観点からも好適である。
【0028】
バルブシート4は前述したようにゴムや樹脂等で形成されるが、
図4(X)(Y)に示す内側層11は外側層12に比して柔らかく、外側層12は内側層11に比して硬い材質で形成されている。弁体3が
図2の(Y)のような開状態から
図2の(X)のような閉状態に移行する際に、弁体3はまずバルブシート4の内側層11に接触するように形成される。その後に外側層12に接触するように形成されている。
【0029】
また前述したように
図2の(X)のように弁体3が一番下側にバルブシート4を押し込んだ位置においては、
図4(Y)に示すようにαの距離分変化しており、これがバルブシート4における閉状態になった際に最大に変化している部分である。内側層11は、接触面13において、外側層12に対し2分の1程度の幅の広さであるとともに、その境界である境界線90は平面状である接触面13に対し垂下するように
図4(X)の断面視においても直線状であることが好ましい。第一の境界線91,第二の境界線92や他の中間層14が複数ある場合のその層同士の境界についても同様である。このように形成することで、弁体3が開状態から閉状態となるときに弁体3に対し均等にバルブシート4,104の反発力がかかることとなり位置ずれを防止することができる。
【0030】
バルブシート104も前述したようにゴムや樹脂等で形成されるが、
図4(X)(Y)に示す内側層11は外側層12に比して柔らかく、外側層12は内側層11に比して硬い材質で形成されており、また内側層11と外側層12の間に中間層14が設けられている。中間層14は内側層11より硬く形成され、かつ外側層12より柔らかく形成される。また、中間層14は内側層11と外側層12の間に複数設けられてもよい。この場合、中間層は内側層11に近い層ほど柔らかく、外側層12に近い層ほど硬く、かつ内側層11より硬く形成され、かつ外側層12より柔らかく形成される。
【0031】
図4を示しながら弁体3とバルブシート4、104の関係について詳述する。弁体3が
図2の(Y)のような開状態から
図2の(X)のような閉状態に移行する際に、弁体3はまずバルブシート4の内側層11に接触するように形成される。その後に外側層12に接触するように形成されている。また前述したように
図2の(X)のように弁体3が一番下側にバルブシート4を押し込んだ位置においては、
図4(Y)に示すようにαの距離分変化しており、これがバルブシート4における閉状態になった際に最大に変化している部分である。
【0032】
次に
図5を示しながらバルブシート104について詳述する。
図5の(X)には、バルブシート104の断面図が示されている。バルブシート104の接触面13は全くの未使用時には平面であるが、検査や初期動作等によって、
図5(X)に示されるように凹んでいる。文字又は図形を印す印字装置1、101が
図2(X)のような閉状態になる際においては、
図5(Y)に示されるバルブシート104のように、さらに接触面13が凹んだ状態となる。
バルブシート104は中央に塗料流路7を備え、その周りを順に内側層11、中間層14、外側層12が取り囲んでいる。内側層11と中間層14,中間層14と外側層12はそれぞれ第一の境界線91、第二の境界線92において接着している。接着には既存の積層に関する技術を用いてもよい。
【0033】
次に
図6を示しつつ、弁体3とバルブシートの位置関係について更に詳述する。
図6(X)の上の図は
図4(X)と同様のバルブシートの断面図であり、下の図はバルブシートを接触面13側から見た図である。弁体3は点線で示されている。その他の構成は説明のため省略している。弁体3は開状態から閉状態に移行する際に、まず初めに
図6(X)の上の図に示されるように、塗料流路7に接することとなる。その次に内側層11に接触し、これを押圧する。図示しないが外側層12に接触する場合は、その押圧される順番は最後となる。また、
図6(X)の下の図が示すように、塗料流路7の縁と、内側層11と外側層12の境界である境界線90及び、バルブシート4の外縁は、いずれも原点Оを中心として、同心円状に形成されている。このように形成されているので、弁体3がバルブシート4を押圧する際、均等に弁体3に力がかかり好適である。
【0034】
また、
図6(X)に示す内側層11は外側層12より柔らかく、両者は接着されているので、弁体3が開状態から閉状態に移行する際に、まず内側層11において弁体3の勢いを弱めて弁体3を受け、その後に、内側層11の接触面13上に加わった、内側層11の接触面13が凹むように下側にかかる力に対し、外側層12において、反対に押し戻そうとする力が加わる事となる。この、バルブシート4が弁体3の押圧に対して反発力を有する構成とすることにより、弁体3の移動距離であるストロークを維持することができることとなる。この反発力を確保するため、外側層12の硬度は、デュロメータータイプDによる計測において、50以上90以下であることがより好ましい。これは
図6(Y)に示すバルブシート104の内側層11と中間層14,中間層14と外側層12の関係においても同様である。
【0035】
また、内側層11の硬度がデュロメータータイプAでの計測で40以上70以下と、十分に柔らかく構成されることにより、バルブシート104が単層で全体がより硬く構成された場合よりも、シール性が良くなる。シール性が良くなると、弁体の押し付け力が弱くても十分なシール性を保つことができることとなる。そのため、弁体3を閉状態から開状態に移行させる際に、弁体3を持ち上げる距離であるストロークをより短く設計してもよくなる。このように構成することで、弁体3のバルブシート104への押し付け力が弱くできるため、振動エネルギーが少なくなり、エネルギー消費が低い省エネ型の印字装置1、101とすることができる。
【0036】
次に
図6(Y)を用いてバルブシート104と弁体3の位置関係について詳述する。
図6(Y)の上の図は
図5(X)と同様のバルブシートの断面図であり、
図6(Y)の下の図はバルブシートを接触面13側から見た図である。弁体3は点線で示されている。その他の構成は説明のため省略している。弁体3は開状態から閉状態に移行する際に、まず初めに
図6(Y)の上の図に示されるように、弁体3の下端が位置Vの位置までバルブシート104に向かって下降する。位置Vまで下降した際に、弁体3は塗料流路7に接することとなる。その次に内側層11に接触し、これを押圧する。その次に中間層14に接することとなり、これを押圧する。
図6(Y)において、この際の弁体3は、位置Wに達した場合として同様に点線で示されている。図示しないが外側層12に接触する場合は、その押圧される順番は最後となる。
【0037】
さらに、中間層14が複数の層である場合、塗料流路7に近い、内側の方から順番に、弁体3が中間層14の各層に接触する。また、
図6(Y)の下の図が示すように、塗料流路7の縁と、内側層11と中間層14の境界である第一の境界線91、中間層14が複数ある場合は、それらの境界である1つ又は複数の境界線、中間層14と外側層12の境界である第二の境界線92及び、バルブシート4の外縁は、いずれも原点Оを中心として、同心円状に形成されている。このように形成されているので、弁体3がバルブシート4を押圧する際、均等に弁体3に力がかかり好適である。
【0038】
バルブシート4,104の材質は、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジェンゴムなどゴムであれば幅広く用いることができる。またシリコンや樹脂を使用することもできる。
【0039】
このように、バルブシート4,104の材質はゴムや樹脂等であるが、その硬度は、内側層11、中間層14,外側層12の順番に増していくように形成されている。そのため、弁体3が開状態から閉状態に移行する際に、まず内側層11において弁体3の勢いを弱めて弁体3を受ける。次に中間層14に弁体3が接することになり、更に勢いを弱める。その後に外側層12において内側層11の接触面13上に加わり内側層11の接触面13が凹んだ形で変形するように加わる力に対し、反対に押し戻そうとする力が加わる事となる。
【0040】
この、
図6(Y)に示すバルブシート104が弁体3の押圧に対して反発力を有する構成とすることにより、弁体3の移動距離であるストロークを維持することができることとなる。この反発力を確保するため、外側層12の硬度は、デュロメータータイプDによる計測において、50以上90以下であることがより好ましい。また、内側層11の硬度がデュロメータータイプAでの計測で40以上70以下と、十分に柔らかく構成されることにより、バルブシート104が単層で全体がより硬く構成された場合よりも、シール性が良くなる。シール性が良くなると、弁体の押し付け力が弱くても十分なシール性を保つことができることとなる。
【0041】
そのため、弁体3を閉状態から開状態に移行させる際に、弁体3を持ち上げる距離であるストロークをより短く設計することが可能となる。このため、エネルギー消費が低い省エネ型の印字装置1、101とすることができる。以上の説明は、中間層14が複数あり、閉状態において弁体3と接しない中間層がある場合や、反対に外側層12にも弁体3が接することとなる場合でも同様に当てはまる。この、中間層14を有する構成とすることにより、バルブシート4の場合よりもさらにシール性を容易に確保でき、外側層12の硬度もより硬いものすることができることから、弁体3に対するバルブシート104の位置決め精度をさらに上げることができ、より好適となる。
【0042】
次に
図7に示す印字装置1の圧縮空気通路15と圧縮空気流路30について詳述する。圧縮空気通路15は、図示しない圧縮空気供給源である、エアコンプレッサー等からノズルプレート16内に圧縮空気を導入するための通路である。圧縮空気通路15は、吐出ノズル18と同数設けられる圧縮空気流路30と連通しており、圧縮空気は圧縮空気通路15から圧縮空気流路30へと流れ込む構造となっている。また、圧縮空気通路15の形成方法は、吐出ノズル18にノズルプレート16をはめ込み、その間に形成される隙間を圧縮空気通路15とするものであってもよい。この場合、はめ込みにより形成された圧縮空気通路15の気密性を確保する必要から、パッキンの機能を持つ
図1では点線で示されるシート25を図示しない塗料室2側の壁に密着するように装着している。
【0043】
圧縮空気流路30は、アトマイズ部40、吐出ノズル保持部41、エアー導入部42から構成されている。また、圧縮空気流路30は、アトマイズノズル17により囲まれており、吐出ノズル18を取り囲んでいる。このように、アトマイズノズル17は二重構造となっている。
図3では図示していないが、
図7のエアー導入部42は、圧縮空気通路15から圧縮空気を圧縮空気流路30へと導入する導入部分である。エアー導入部42は管路抵抗を低減するため円管状であることが好ましく、また吐出ノズル18の設計上の要求により、設けないとしても構わない。
【0044】
次に、吐出ノズル保持部41を説明する。後に詳述するが、
図1に点線で示されるように、吐出ノズル保持部41は、圧縮空気の流路方向に対し、尻すぼみのすり鉢状に設けられて吐出ノズル18を圧縮空気流路30の略中央に保持している。また、吐出ノズル保持部41は複数の突起33を備える。
図1に示されるように圧縮空気の流路方向に対し、吐出ノズル保持部41を斜めに形成することで、管路抵抗を減らすことができ、圧縮空気消費量を減らすことにつながり、好適である。
【0045】
次に、アトマイズ部40について説明する。アトマイズ部40は、塗料を吐出ノズル18が吐出及び圧縮空気で霧化させるための部位である。アトマイズ部40は、圧縮空気流路30の他の部位よりも、その断面積が狭いことが好ましい。このように形成することにより、圧縮空気がアトマイズ部40において加速され、吐出ノズル18から塗料が吐出される際に塗料の滴をより少ない圧縮空気で霧化できることとなり好適である。
【0046】
次に、2つの圧縮空気流路30同士を遮る壁である壁部31について述べる。壁部31は、従来、圧縮空気流路30ごとにその両側に設けていたが、そのように構成すると、となりあう圧縮空気流路30の間に壁31を2つ設ける構成となり、スペースに無駄が生じていた。壁部31が、2つの圧縮空気流路30を遮る1枚の壁として、ノズルプレート16に設けられることで、吐出ノズル18間のピッチの幅を従来に比して大きく減らせることとなる。
【0047】
ノズルプレート16についてさらに詳述する。圧縮空気通路15は外部から図示しないエアコンプレッサー等により空気を導入するための穴を有している。
図7に示されるように圧縮空気通路15は複数の圧縮空気流路30と連通していると好ましい。ただ、
図8のように連通していない構成とすることもできる。
【0048】
圧縮空気通路15は、
図7の下側から順に、圧縮空気流路30の圧縮空気導入部42と接続し、さらに他のスプレーノズルである、圧縮空気流路30の圧縮空気導入部42と接続していく。この圧縮空気通路15が、複数の圧縮空気流路30と連通する構成により、1つの圧縮空気供給源で、多数の圧縮空気流路30に圧縮空気を一度に供給することができる。
【0049】
吐出ノズル18は印字装置1の性質上、圧縮空気流路30の中央から位置が変わったり、ぐらつくと、霧化が適切に行われず、印字性能が落ちるため、しっかりと保持される必要がある。このため、吐出ノズル18を保持する突起33は3個以上8個以下であることが好ましい。
【0050】
圧縮空気導入部42は省略されてもよい。また可能な限り圧力損失を少なく形成することで必要とされる圧縮空気の量を減らすことができることから、圧縮空気導入部42は円管状であることが好ましい。
【0051】
図8は印字装置1を複数備えた印字システム102を示したものである。図示したものは塗料室2が分かれているが、塗料室2はそれぞれがつながっていても構わない。印字システム102はその全体が被印字物に対して相対的に動くことで、ドットにより文字又は図形を印字することができる構成となっている。
【実施例0052】
次に、ドット状マーキング及び印字装置1において、実際に行われた本発明の実施例の条件の一例を示す。
実施例1は、本開示の
図2のような、塗料室2,可動鉄心23,振動装置24,球状の弁体3、バルブシート4、ガイド部80を備えた構成であった。実施例2は、塗料室2、可動鉄心23、振動装置24,球状の弁体3、ガイド部80を備えた点は実施例1と同様であるが、バルブシート4に代えてバルブシート104を備えた構成であった。
【0053】
比較例では、塗料室2,可動鉄心23,振動装置24,球状の弁体3を備えた点は同様だが、本開示のバルブシート4に相当する部分は、内側層や外側層等を備えず、単層のバルブシートとして構成した。そして、以下の条件で試験を行った。
【0054】
[耐久性試験]
実施例1,2と比較例で、耐久性を確認するためドット状印字試験を700時間行った。以下の条件で、ドット状印字を行った。そして、ドット印字の乱れ具合やバルブシートの変形量を官能評価により評価した。
塗料圧力 0.1~0.7MPa
塗料吐出速度 0.5~20m/sec
塗料吐出ノズル口径 0.1~0.3mm
印字速度 0.5~3m/sec
ドット間ピッチ 3~5mm
【0055】
実施例1、2共にドット印字の乱れを防ぐことができていた。ただ、耐久性としては比較例に対してはバルブシートの変形量が少なかったが、実施例2ではバルブシート変形量が特に少なく優れていた。
比較例においては、200時間程度経過した際に印字の乱れがみられた。また、実施例1,2に比べてバルブシート変形量が大きかった。そのため位置決め精度が悪かったといえる。
これは実施例1,2に比してバルブシートの材質が柔らかすぎたためだと思われる。
【0056】
本開示は、検査された被印字物に印字ないしマーキングをする目的で、好適に用いることができる。しかしこれに限られず、ドット状のマーキング及び印字が必要なパッケージや検定済の部品等において、広く用いることができる。