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特開2023-5804切削工具、切削インサート及び工具本体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005804
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】切削工具、切削インサート及び工具本体
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/22 20060101AFI20230111BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B23C5/22
B23C5/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107990
(22)【出願日】2021-06-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 発行日(公開日) 令和 2年 7月 1日 刊行物 令和 2年度 砥粒加工学会誌 64巻7号,pp.380-387 公益社団法人 砥粒加工学会 発行 <資料> 令和2年度 砥粒加工学会誌 64巻7号 発表論文 抜粋 (2) 公開日 令和 2年 7月31日 公開場所 国立大学法人千葉大学 工学部17号棟216号室 公開者 稲垣 史彦 (3) ウェブサイトの掲載日 令和 2年 9月30日 ウェブサイトのアドレス https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/109357/ 公開者 国立大学法人千葉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 史彦
(72)【発明者】
【氏名】比田井 洋史
(72)【発明者】
【氏名】森田 昇
(72)【発明者】
【氏名】松坂 壮太
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸二
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 明
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022KK03
3C022KK06
3C022KK14
3C022MM01
3C022MM06
(57)【要約】
【課題】本発明は、工具本体に対して切削インサートを安定して取り付けられるとともに切削時における切削インサートの位置ずれを防ぐことのできる切削工具、切削インサート及び工具本体を提供する。
【解決手段】本発明の切削工具は、切削インサートが工具本体に取付けられた工具であって、切削インサートは、すくい面と着座面とを有するとともに、すくい面と着座面との間は逃げ面を含んだ側面で繋がれ、工具本体は、一端に1つ以上のポケットを有し、ポケットには、取付座と、取付座に対して角度を有する1つ以上の取付側面と、を備え、着座面、側面、取付座、及び取付側面は、それぞれ拘束部を備え、全ての拘束部には、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成され、切削インサートが工具本体に取り付けられた状態において、各拘束部における切削インサートの加工筋目と、工具本体の加工筋目との成す角度θが0°≦θ≦5°である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートが回転軸周りに回転する工具本体に取付けられた切削工具であって、
前記切削インサートは、すくい面と着座面とを有するとともに、前記すくい面と前記着座面との間は逃げ面を含んだ側面で繋がれ、
前記工具本体は、一端に1つ以上のポケットを有し、前記ポケットには、取付座と、前記取付座に対して角度を有する1つ以上の取付側面と、を備え、
前記着座面、前記側面、前記取付座、及び前記取付側面は、それぞれ拘束部を備え、
全ての前記拘束部には、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成され、
前記切削インサートが前記工具本体に取り付けられた状態において、
各拘束部における前記切削インサートの前記加工筋目と、前記工具本体の前記加工筋目との成す角度θが0°≦θ≦5°である、
ことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記加工筋目は、研削加工によって形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
一対のすくい面と着座面とを有するとともに、前記すくい面と前記着座面との間は逃げ面を含んだ側面でつながれ、
前記着座面及び前記側面はそれぞれ拘束部を備えるとともに、
前記拘束部は、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成される、
ことを特徴とする切削インサート。
【請求項4】
回転軸周りに回転する工具本体であって、
前記工具本体は、一端に1つ以上のポケットを有し、
前記ポケットには、取付座と、前記取付座に対して角度を有する1つ以上の取付側面と、を備え、
前記取付座及び前記取付側面はそれぞれ拘束部を備えるとともに、
前記拘束部は、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成されている、
ことを特徴とする工具本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具、切削インサート及び工具本体に関する。
【背景技術】
【0002】
交換可能な切削インサートを工具本体に取り付けて使用する切削インサートにおいては、切削インサートの着座面(拘束部)を工具本体の取付面(拘束部)に接触させた状態で、切削インサートの取付孔に挿通させたクランプネジを工具本体に形成されたねじ孔にねじ込むことにより、切削インサートが工具本体に対して取り付けられる。
【0003】
この場合、切削インサートの着座面と工具本体の取付面とが互いに平坦な面である場合、切削加工時の切削負荷により、切削インサートが工具本体に対してずれ動きやすい。
そこで、切削インサートの着座面と工具本体の取付面とのうちのいずれか一方側に大きさが数mmの凸条部、いずれか他方側に大きさが数mmの凹条部をそれぞれ複数設け、各々を互いに噛み合わせることによって、切削インサートのずれ動きを抑制する構成が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】稲垣史彦,森田昇,比田井洋史,松坂壮太,清水伸二,千葉明,松本祐一郎,“刃先交換式切削工具のインサート把持特性に及ぼす結合面性状の影響”,砥粒加工学会誌,2020年,pp.380-387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切削インサートは、工具本体に取り付けられた状態において、着座面だけでなく側面の一部も工具本体に拘束される。そのため、切削インサートの側面に対してもずれ動きを抑制するための凹凸形状を設けようとした場合、その凹凸寸法が数mm単位であることから、切刃の形状に影響が及ぶおそれがある。つまり、側面の凹凸形状が切刃形状に反映されてしまうおそれがあるため、着座面以外の側面に凹凸形状を付すことは困難であった。
【0006】
また、切削インサートの着座面及び側面のそれぞれに凹凸形状を形成した場合には、切削インサートを工具本体に取り付ける際に、各々の凹凸を工具本体側の凹凸に嵌合させるようにして取り付けることが難しい。そのため、切削インサートのうち工具本体に対する接触面積が最も大きく、切刃へ影響が及ぶことのない着座面にだけしか凹凸形状を負荷できなかった。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、工具本体に対して切削インサートを安定して取り付けられるとともに切削時における切削インサートの位置ずれを防ぐことのできる切削工具、切削インサート及び工具本体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の切削工具は、切削インサートが回転軸周りに回転する工具本体に取付けられた切削工具であって、前記切削インサートは、すくい面と着座面とを有するとともに、前記すくい面と前記着座面との間は逃げ面を含んだ側面で繋がれ、前記工具本体は、一端に1つ以上のポケットを有し、前記ポケットには、取付座と、前記取付座に対して角度を有する1つ以上の取付側面と、を備え、前記着座面、前記側面、前記取付座、及び前記取付側面は、それぞれ拘束部を備え、全ての前記拘束部には、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成され、前記切削インサートが前記工具本体に取り付けられた状態において、各拘束部における前記インサートの前記加工筋目と、前記工具本体の前記加工筋目との成す角度θが0°≦θ≦5°であることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様の切削インサートは、一対のすくい面と着座面とを有するとともに、前記すくい面と前記着座面との間は逃げ面を含んだ側面でつながれ、前記着座面及び前記側面はそれぞれ拘束部を備えるとともに、前記拘束部は、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成されることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様の工具本体は、回転軸周りに回転する工具本体であって、前記工具本体は、一端に1つ以上のポケットを有し、前記ポケットには、取付座と、前記取付座に対して角度を有する1つ以上の取付側面と、を備え、前記取付座及び前記取付側面はそれぞれ拘束部を備えるとともに、前記拘束部は、一定周期の加工筋目が0.05μm≦Ra≦6.30μmで形成されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、本発明は、切削インサートと工具本体にはそれぞれ2面以上の拘束部を有するとともに、各拘束部に加工筋目を意図的に形成し、さらに、加工筋目を一定周期かつ算術平均高さRaもまた一定の範囲内となるよう形成したことで、切削インサートの拘束部に形成された加工筋目と工具本体の拘束部に備わる加工筋目の幅と高低差を近づけることができる。加えて、切削インサートを工具本体に取り付けた際に、切削インサートと工具本体との間において、拘束部における加工筋目どうしがなす角が0°≦θ≦5°であることにより、各加工筋目の方向が略一致する。そのため、加工筋目どうしが良好に噛み合い、互いの接触面積が大きくなる。これにより、各拘束部における拘束力が高まり、工具本体に対する切削インサートのずれ動きを抑制することが可能である。また、各拘束部に微視的に方位を持った加工筋目を形成することにより、工具本体に対する切削インサートの位置決めが容易になり、巨視的な取り付けが可能となる。
【0012】
このとき、算術平均高さRaは0.05μm≦Ra≦6.30μmとしたが、0.10μm≦Ra≦2.00μmとすることが望ましい。また、拘束部における加工筋目どうしがなす角は0°≦θ≦5°としたが、0°≦θ≦2°とすることが望ましい。
【0013】
また、加工筋目の周期は0.05mm~0.50mmとしてもよく、望ましくは0.05mm~0.20mmである。
【0014】
また、本発明は、切削インサートと工具本体のそれぞれに異なる方向を向く複数の拘束部に加工筋目を形成し、全ての拘束部で加工筋目を噛み合わせることを可能としている。上述の構成においては表面粗さのパラメータとして算術平均高さRaの範囲を規定したが、加工筋目の高さが極端に高いまたは極端に低い箇所があることは噛み合わせの観点から望ましくない。そこで、本発明では切削インサートと工具本体に形成された加工筋目の最大高さRzを、0.10μm≦Rz≦25.00μmとしてもよく、望ましくは0.50μm≦Rz≦12.00μmである。
【0015】
本発明の一対応の切削工具、切削インサート、工具本体における前記加工筋目は、研削加工によって形成される構成としてもよい。
【0016】
本発明では、研削加工により加工筋目を形成する。切削インサート、工具本体の製造時に加工筋目を形成することも考えられるが、焼結によるうねりから一定周期の加工筋目を得ることは難しい。これに対して、研削加工により加工筋目を形成することにより、一定周期の微小な凹凸形状を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、工具本体に対して切削インサートを安定して取り付けられるとともに切削時における切削インサートの位置ずれを防ぐことのできる切削工具、切削インサート及び工具本体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、切削工具の一実施形態を示す斜視図である。
図2図2は、工具本体の一実施形態を示す図であってインサートポケットを部分的に拡大した斜視図である。
図3図3は、切削インサートの一実施形態を示す斜視図である。
図4図4は、一実施形態における切削インサートの各拘束部を模式的に示す図である。
図5図5は、一実施形態における工具本体の各拘束部を模式的に示す図である。
図6図6(a)は、切削インサートにおける各拘束部の加工筋目を拡大して示す図、(b)は、切削インサートにおける各拘束部の加工筋目を拡大して示す図である。
図7図7は、検証用機械の一部を模式的に示す図であって、図7(a)は半径方向分力を切削インサートに負荷したときの測定の様子を示し、図7(b)は、軸方向荷重を切削インサートに負荷した時の測定の様子を示す。
図8図8(a)~(d)は、評価に用いた工具本体と各拘束部における加工筋目の筋目方向(筋目角度θ4~θ6:90°)を模式的に示す図である。
図9図9(a)~(d)は、評価に用いた切削インサート10Aと各拘束部における加工筋目の筋目方向(筋目角度θ1~θ3:90°)を模式的に示す図である。
図10図10(a)は、工具本体に対して切削インサートが取り付けられた切削工具を部分的に示す図であって、検証結果を説明するための図である、(b)は、図11のA-A’線に沿う断面図である、(a)~(c)は、切削インサートの各拘束部と、工具本体の各拘束部との嵌合状態を表面粗さごとに模式的に示した図である。
図11図11は、荷重を負荷する方向を示す図である。
図12図12(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、荷重(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサートの回転変位量(変位量、グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図13図13(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、軸方向荷重(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサートの回転変位量(グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図14図14(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、径方向分力(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサートの回転変位量(グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図15図15(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、軸方向荷重(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサートの回転変位量(グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図16図16は、短辺拘束部に作用するせん断方向と加工筋目との関係を示す図であって、(a)は、切削インサート側の筋目角度θ3が45°、(b)は、切削インサート側の筋目角度θ3が135°である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分をわかりやすくするために、特徴ではない部分を便宜上省略して図示している場合がある。
【0020】
<切削工具>
図1は、切削工具100の一実施形態を示す斜視図である。
本実施形態の切削工具100は、図1に示すように、複数の切削インサート10と、工具本体30とを有する。切削工具100は、工具本体30が回転軸JOを中心として回転方向TDに回転することで、フライス加工を行う。
【0021】
(工具本体)
図2は、工具本体30の一実施形態を示す図であってインサートポケット31を部分的に拡大した斜視図である。
図2に示すように、工具本体30は、鋼材等の金属材料により円柱形状に形成されている。工具本体30は、先端部に複数(例えば3つ)のインサートポケット(ポケット)31を有する。インサートポケット31には、インサート取付座33が形成されている。インサート取付座33は、上記切削インサート10が取り付けられる台座である。インサート取付座33は、取付座33aと、長辺取付側面(取付側面)33bと、短辺取付側面(取付側面)33cと、を有する。
【0022】
取付座33aは、回転方向TDを向く面である。取付座33aは、後述する切削インサート10の着座面13と対向する面であって着座面13と略等しい面積を有する。取付座33aの略中央には、ねじ孔32が形成されている。取付座33aは、取り付けられた切削インサート10の着座面13に接触する。
【0023】
長辺取付側面(取付側面)33bは、上記取付座33aにおける、回転軸JOに沿う長辺から回転方向TD側に延びる。長辺取付側面33bは、後述する切削インサート10の長辺側側面と対向する面であって当該長辺側側面と略等しい面積を有する。長辺取付側面33bは、取り付けられた切削インサート10の長辺側側面のうちの逃げ面に接触する。
【0024】
短辺取付側面(取付側面)33cは、上記取付座33aにおける、回転軸JOに垂直な短辺から回転方向TD側に延びる。短辺取付側面33cは、後述する切削インサート10の短辺側側面と対向する面であって短辺側側面と略等しい面積を有する。短辺取付側面33cは、取り付けられた切削インサート10の短辺側側面のうちの逃げ面に接触する。
【0025】
図1に示すように、図2に示す工具本体30の各インサート取付座33に対して、切削インサート10がクランプネジ38を用いてそれぞれ取り付けられている。図1に示すように切削インサート10は、その取付孔7内に挿入されたクランプネジ38が、図2に示した工具本体30の取付座33aの中央に形成されたねじ孔32に締め付けられることによって、インサート取付座33に対して取り付けられている。
【0026】
(切削インサート)
図3は、切削インサート10の一実施形態を示す斜視図である。
図3に示すように、切削インサート10は、超硬合金等の硬質材料により形成されている。切削インサート10は、厚さ方向に延びる中心線COに対して180°回転対称な多角形板状(本実施形態では長方形板状)をなしている。なお、以下の説明において、中心線COに沿う方向のことを単に厚さ方向と呼ぶ場合がある。また、中心線COに直交する方向を単に幅方向と呼ぶ場合がある。同様に、中心線COを中心とする軸回りの周方向を単に周方向と呼ぶ場合がある。
【0027】
切削インサート10は、一対の多角形面の一方を形成するすくい面12と、一対の多角形面の他方を形成する着座面13と、すくい面12と着座面13との間を繋ぐ側面14と、を備えている。本実施形態の切削インサート10は、中心線COに沿う方向から見て平面視矩形状もしくは平行四辺形状を呈する。着座面13は、平面視における大きさがすくい面12よりも小さく、すくい面12の中心線方向への投影領域の内側に内包される。
【0028】
すくい面12と側面14との交差稜線には切刃部20が設けられている。
本実施形態の切削インサート10はポジタイプの切削インサートであるため、側面14を構成する逃げ面が略逃げ角に沿った傾斜面になっている。
【0029】
図3に示す切削インサート10は、図2に示した回転軸JOの軸回りに回転する工具本体30に対して、図1に示すクランプネジ38により着脱可能に取り付けられる。切削インサート10は、その着座面13を工具本体30の取付座33aに密着(当接)させるとともに、周方向に隣接する2つの長辺側側面14b及び短辺側側面14cを、長辺取付側面33b及び短辺取付側面33cのそれぞれに密着(当接)させて着座される。
すなわち、切削インサート10の着座面13は、工具本体30におけるインサート取付座33の取付座33aに拘束され、切削インサート10の長辺側側面14b及び短辺側側面14cは、工具本体30における長辺取付側面33b及び短辺取付側面33cに拘束される。
【0030】
次に、切削インサート10及び工具本体30の詳細な構成について述べる。
【0031】
図4(a)~(c)及び図5(a)~(c)に示すように、本実施形態の切削インサート10及び工具本体30は、双方に対して拘束される拘束部15a~15c、35a~35cをそれぞれ有する。
図4(a)~(c)は、一実施形態における切削インサート10の各拘束部15a~15cを模式的に示す図である。図4(a)は、切削インサート10の着座面13に形成された拘束部15aを示す。図4(b)は、図3の-X方向から見た図であって、長辺側側面14bに形成された長辺拘束部15bを示す。図4(c)は、図3の-Z方向から見た図であって、短辺側側面14cに形成された短辺拘束部15cを示す。
【0032】
図5(a)~(c)は、一実施形態における工具本体30の各拘束部35a~35cを模式的に示す図である。図5(a)は、工具本体30の取付座33aに形成された拘束部35aを示す。図5(b)は、図2の径方向外側(X方向)から見た図であって、長辺取付側面33bに形成された長辺拘束部35bを示す。図5(c)は、図2の先端側(Z方向)から見た図であって、短辺取付側面33cに形成された短辺拘束部35cを示す。
【0033】
図6(a)は、切削インサート10の拘束部15a~15c(加工筋目16a~16c)の一部を拡大して示す図であり、図6(b)は、工具本体30の拘束部35a~35c(加工筋目36a~36c)の一部を拡大して示す図である。
【0034】
(切削インサートの拘束部)
図4(a)に示すように、本実施形態の切削インサート10は、着座面13に底面拘束部15aを有する。本実施形態では、着座面13の全体に底面拘束部15aが形成されている。底面拘束部15aは、図2に示す工具本体30のインサート取付座33の取付座33aに形成された、後述の底面拘束部35a(図5(a))に対して拘束される部位である。
【0035】
図4(b)に示すように、切削インサート10は、長辺側側面14bに長辺拘束部15bを有する。本実施形態では、長辺側側面14bの全体に長辺拘束部15bが形成されている。切削インサート10の長辺拘束部15bは、図2に示す工具本体30のインサート取付座33の長辺取付側面33bに形成された、後述の長辺拘束部35b(図5(b))に対して拘束される部位である。
【0036】
さらに、切削インサート10は、図4(c)に示すように、短辺側側面14cに短辺拘束部15cを有する。本実施形態では、短辺側側面14cの全体に短辺拘束部15cが形成されている。切削インサート10の短辺拘束部15cは、図2に示す工具本体30のインサート取付座33の短辺取付側面33cに形成された、後述の短辺拘束部35c(図5(c))対して拘束される部位である。
【0037】
切削インサート10の各拘束部15a~15cには、一定周期の微細(数μm)な凹凸形状をなす加工筋目16a~16cがそれぞれ形成されている(図6(a)参照)。本実施形態では、各拘束部15a~15cの全域に一方向に延びる加工筋目16a~16cがそれぞれ形成されている。各加工筋目16a~16cは、例えば、砥石を用いた研削加工により形成されている。
【0038】
図4(a)に示すように、切削インサート10の軸線方向から見た平面視において、切削インサート10の着座面13に形成された加工筋目16aは、長手方向に沿う方向、もしくは長手方向に対して所定の角度(筋目角度θ1)をなす方向へ延びている。本実施形態では、例えば、切削インサート10の長手方向に沿って加工筋目16aが延びる場合の筋目角度θ1を0°とする。その他として、切削インサート10の長手方向に対する加工筋目16aの筋目角度θ1が、45°、90°、135°の場合について例示した。
なお、切削インサート10の長手方向に対する加工筋目16aの筋目角度θ1は上述した数値に限らない。
【0039】
図4(b)に示すように、図3の-X方向から見た側面視において、切削インサート10の長辺拘束部15bに形成された加工筋目16bは、中心線COに沿う方向、もしくは中心線COに対して所定の角度(筋目角度θ2)をなす方向へ延びている。本実施形態では、例えば、切削インサート10の中心線COに沿って加工筋目16bが延びる場合の筋目角度θ2を0°とする。その他として、切削インサート10の中心線COに対する加工筋目16bの筋目角度θ2が、45°、90°、135°の場合について例示した。
なお、切削インサート10の中心線COに対する加工筋目16bの筋目角度θ2は上述した数値に限らない。
【0040】
図4(c)に示すように、図3の-Z方向から見た側面視において、切削インサート10の短辺拘束部15cに形成された加工筋目16cは、中心線COに沿う方向(厚さ方向)、もしくは中心線COに対して所定の角度(筋目角度θ3)をなす方向へ延びている。本実施形態では、例えば、切削インサート10の中心線COに沿って加工筋目16cが延びる場合の筋目角度θ3を0°とする。その他として、切削インサート10の中心線COに対する加工筋目16cの筋目角度θ3が、45°、90°、135°の場合について例示した。
【0041】
ここで、切削インサート10の各拘束部15a~15cに形成される各加工筋目16a~16cの筋目角度θ1~θ3は、互いに等しい角度であることが好ましい。例えば、着座面13側の加工筋目16aの筋目角度θ1が0°の場合は、長辺側の加工筋目16bの筋目角度θ2、及び短辺側の加工筋目16cの筋目角度θ3も0°である。
【0042】
(工具本体の拘束部)
図5(a)~(B)に示すように、工具本体30の各拘束部35a~35cにも一定周期の微細(数μm)な凹凸形状をなす加工筋目36a~36cがそれぞれ形成されている(図6(b)参照)。本実施形態では、拘束部35a~35cの全域に一方向へ延びる加工筋目36a~36cがそれぞれ形成されている。加工筋目36a~36cは、例えば、エンドミルを用いた研削加工により形成されている。
【0043】
図5(a)に示すように、工具本体30の取付座33aに形成された加工筋目36aは、周方向から見たとき、工具本体30の回転軸JOに沿う方向(Z方向)、もしくは回転軸JO(Z方向)に対して所定の筋目角度θ4をなす方向へ延びている。本実施形態では、例えば、工具本体30の回転軸JO(Z方向)に沿って加工筋目36aが延びる場合の筋目角度θ4を0°とする。その他、工具本体30の回転軸JO(Z方向)に対する加工筋目36aの筋目角度θ4は、45°、90°、135°の場合がある。
【0044】
図5(b)に示すように、図2中の径方向外側(X方向)から見た側面視において、切削インサート10の長辺拘束部35bに形成された加工筋目36bは、回転軸JO(Z方向)に沿う方向、もしくは回転軸JO(Z方向)に直交する方向に対して所定の角度(筋目角度θ5)をなす方向へ延びている。本実施形態では、例えば、工具本体30の回転軸JO(Z方向)に対して直交する方向に加工筋目16bが延びる場合の筋目角度θ5を0°とする。その他、切削インサート10の中心線CO(Y方向)に対する加工筋目16bの筋目角度θ5は、45°、90°、135°の場合がある。
【0045】
図5(c)に示すように、図5(a)中の先端側(Z方向)から見た側面視において、切削インサート10の短辺拘束部15cに形成された加工筋目16cは、回転軸JO(Z方向)に沿う方向、もしくは中心線CO(Y方向)に対して所定の角度(筋目角度θ6)をなす方向へ延びている。本実施形態では、例えば、切削インサート10の中心線CO(Y方向)に沿って加工筋目16cが延びる場合の筋目角度θ6を0°とする。その他、切削インサート10の中心線CO(Y方向)に対する加工筋目16cの筋目角度θ6は、45°、90°、135°の場合がある。
【0046】
ここで、工具本体30の各拘束部35a~35cに形成される各加工筋目36a~36cの筋目角度θ4~θ6は、互いに等しい角度である。例えば、取付座33a側の加工筋目36aの筋目角度θ4が0°の場合は、長辺側の加工筋目36bの筋目角度θ5、及び短辺側の加工筋目36cの筋目角度θ6も0°である。
【0047】
切削インサート10が工具本体30に装着された状態において、切削インサート10側の拘束部15a~15cと、これらに対向する工具本体30側の35a~35cとでは、各々に形成された加工筋目16a~16c,36a~36cの延びる方向が同じである。具体的には、切削インサート10と工具本体30とにおいて互いに対向する拘束部15a~15c、35a~35cどうしの間において、切削インサート10の加工筋目16a~16cと、工具本体30の加工筋目36a~36cとの成す角度θが0°≦θ≦5°の範囲内である。
【0048】
図6(a)は、切削インサート10における各拘束部15a~15cの加工筋目16a~16cを拡大して示す図であり、図6(b)は、工具本体30における各拘束部35a~35cの加工筋目36a~36cを拡大して示す図である。
本実施形態において、加工筋目16a~16c及び加工筋目36a~36bは、最大高さRzが6.30μm以下となるように形成される。具体定には、0.10μm≦Rz≦6.30μmの範囲内が好ましい。このような加工筋目16a~16c及び加工筋目36a~36bにより、切削インサート10の拘束部15a~15c,工具本体30の拘束部35a~35cは、例えば、図6(a),(b)に示すように微視的には微小な凹凸を有するが、巨視的には平面をなす。
【0049】
上述したように、切削インサート10の各拘束部15a~15c、及び工具本体30の各拘束部35a~35cは、何れも研削加工により形成されている。
切削インサート10の各拘束部15a~15cに対して加工筋目16a~16cを形成する際に砥石を用いる場合は、砥石の粒度を変えることで所定の大きさの凹凸形状で加工筋目16a~16cを形成することが可能である。砥石を一方向へ移動させながら研削することによって、一定周期の加工筋目16a~16cを形成することが可能である。
【0050】
また、工具本体30の各拘束部35a~35cに対して加工筋目36a~36cを形成する際にエンドミルを用いることができるが、このような研削加工には、加工時の筋目を形成するカスプハイト(理論加工面粗さ)が最も大きいボールエンドミルを採用することが可能である。例えば、工具刃径が1.5mmのボールエンドミルを用いて、各拘束部35a~35cに対して仕上げ加工を施すことによって、微小な凹凸を有する加工筋目36a~36cを形成することが可能である。エンドミルを一方向へ移動させながら研削することによって、一定周期の加工筋目36a~36bを形成することが可能である。
【0051】
工具本体30の各拘束部35a~35cに対して加工筋目36a~36cを形成する手法として、切削インサート10の場合と同様に砥石を用いることが考えられるが、砥石のサイズによっては、工具本体30におけるインサート取付座33の拘束部35a~35cに対してそれぞれ加工を施すことが困難である。そのため、微小な領域への加工が可能なエンドミルを用いることが好ましい。
【0052】
また、他の手法としては、切削インサート10や工具本体30を焼結する際に、加工筋目16a~16c,36a~36cを形成することも考えられるが、焼結面はうねりが生じやすい。このため、このような焼結面からなる拘束部に微細な凹凸の加工筋目16a~16c,36a~36cを形成すると、焼結面のうねりに伴って凹凸のばらつきが大きくなってしまうことが考えられる。そのため、焼結面を研削することで平坦化しつつ微細な加工筋目16a~16c,36a~36cを施すことが可能なエンドミルを用いることが好ましい。エンドミルを用いることによって一定周期の各加工筋目36a~36cを均一に仕上げることが可能である。
【0053】
なお、エンドミルによる研削加工の際に加工面にカッターマークができることがあるが、このカッターマークに周期性を持たせるように加工を施すことで、一定周期の加工筋目16a~16c,36a~36cを形成することも可能である。
【0054】
このように、本実施形態では、切削インサート10の各加工筋目16a~16cを砥石により仕上げているとともに、工具本体30の加工筋目36a~36cをエンドミルにより仕上げているが、上述した範囲内の微小な凹凸の加工筋目16a~16c、36a~36cを形成することが可能であれば、他の手法を用いても構わない。例えば、レーザーパターニング加工や、放電加工を採用してもよい。
【0055】
また、加工筋目16a~16c及び加工筋目36a~36bは、最大高さRzの値が近いことが好ましい。加工筋目16a~16c及び加工筋目36a~36bの面粗さ、すなわち凹凸の周期性が近いため、互いの接触面積を増やすことができ、嵌合強度を高めることが可能となる。
【0056】
本実施形態では、切削インサート10と工具本体30にはそれぞれ2面以上の拘束部15a~15c,35a~35cを有するとともに、各拘束部15a~15c,35a~35cに加工筋目16a~16c,36a~36cを意図的に形成している。また、切削インサート10の各拘束部15a~15cに一定周期の加工筋目16a~16cを0.05μm≦Ra≦6.30μmでそれぞれ形成し、工具本体30の各拘束部35a~35cに一定周期の加工筋目を0.05μm≦Ra≦6.30μmでそれぞれ形成したことで、切削インサート10の拘束部15a~15cに形成された加工筋目16a~16cと、工具本体30の拘束部35a~35cに備わる加工筋目36a~36cの幅と高低差を近づけることができる。加えて、切削インサート10を工具本体30に取り付けた際に、切削インサート10と工具本体30との間において、各拘束部15a~15c,35a~35cにおける加工筋目16a~16c,36a~36cどうしがなす角が0°≦θ≦5°であることにより、対向する各加工筋目16a~16c,36a~36cの方向が互いに略一致する。そのため、加工筋目16a~16c,36a~36cどうしが良好に噛み合い、互いの接触面積が大きくなる。これにより、各拘束部15a~15c,35a~35cにおける拘束力が高まり、工具本体30に対する切削インサート10のずれ動きを抑制することが可能である。また、各拘束部15a~15c,35a~35cに微視的に方位を持った加工筋目16a~16c,36a~36cを形成することにより、工具本体30に対する切削インサート10の位置決めが容易になり、巨視的な取り付けが可能となる。
【0057】
算術平均高さRaは、0.05μm≦Ra≦6.30μmとしたが、0.10μm≦Ra≦2.00μmとすることが望ましい。また、拘束部15a~15c,35a~35cにおける加工筋目16a~16c,36a~36cどうしがなす角は、0°≦θ≦5°としてもよく、望ましくは0°≦θ≦2°である。
【0058】
また、加工筋目16a~16c,36a~36cの周期は0.05mm~0.50mmとしてもよく、望ましくは0.05mm~0.20mmである。
【0059】
また、本実施形態は、切削インサート10と工具本体30のそれぞれに異なる方向を向く複数の拘束部15a~15c,35a~35cに加工筋目16a~16c,36a~36cを形成し、全ての拘束部15a~15c,35a~35cで加工筋目16a~16c,36a~36cを噛み合わせることを可能としている。上述の構成においては、表面粗さのパラメータとして算術平均高さRaの範囲を規定したが、加工筋目16a~16c,36a~36cの高さが極端に高い、または、極端に低い箇所があることは噛み合わせの観点から望ましくない。そこで、本実施形態では、切削インサート10と工具本体30に形成された加工筋目16a~16c,36a~36cの最大高さRzを、0.10μm≦Rz≦25.00μmとしてもよく、望ましくは0.50μm≦Rz≦12.00μmである。
【0060】
本実施形態によれば、工具本体30に対して切削インサート10を安定して取り付けられるとともに、切削時における切削インサート10の位置ずれを防ぐことのできる切削インサート10及び工具本体30備える切削工具100を提供することができる。
【0061】
以下、本発明を実施例1,2により具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例1,2に限定されるものではない。
【0062】
実施例1、2では、上記実施形態で説明した切削インサート及び工具本体を用いた切削加工を行った場合に、切削インサート及び工具本体の各拘束部における表面粗さ及び節目方向が、工具本体に対する切削インサートのずれ動き(変位量)にそれぞれどの程度影響するかを検証した。
ここでは、軸方向に加工を行う立壁加工、径方向に加工を行う着座面加工を行う場合を考慮して、それぞれの荷重方向(径方向分力、軸方向荷重)に分けて検証を行った。
【0063】
図7(a),(b)は、検証用機械の一部を模式的に示す図であって、図7(a)は半径方向分力を切削インサートに負荷したときの測定の様子を示し、図7(b)は、軸方向荷重を切削インサートに負荷した時の測定の様子を示す。
図7(a),(b)に示すように、切削インサートに対する切削抵抗を模した外力は、動力計の上に固定した治具51を、工作機械の主軸に取り付けた評価用の切削工具(切削インサート)に対して、径方向あるいは軸方向から押し付けることで負荷した。切削インサートの変位量及び挙動は、切削インサートの外周に配置したダイヤルゲージ52により測定し、別途ダイヤルゲージ52で測定した工具本体単体の変位量を引くことでインサート単体の変位量を算出した。
【実施例0064】
[表面粗さによる影響についての検証]
まず、切削インサートにおける拘束部の算術平均高さRaと、工具本体における拘束部の算術平均高さRaとの関係が、径方向分力及び軸方向分力のそれぞれにおいて、工具本体に対する切削インサートの回転変位量にどの程度に影響するか検証を行った。
実施例として、各拘束部に筋目加工が施された切削インサート及び工具本体を用意した。
また、比較例としては、長辺拘束部及び短辺拘束部が焼結面、底面拘束部には遊星研削が施された切削インサートを用意した。比較例の切削インサートは、いずれの拘束部にも加工筋目を有しない。
【0065】
図8(a)~(d)は、評価に用いた工具本体30Aと各拘束部35a~35cにおける加工筋目36a~36cの筋目方向(筋目角度θ4~θ6:90°)を模式的に示す図である。図9(a)~(d)は、評価に用いた切削インサート10Aと各拘束部15a~15cにおける加工筋目16a~16cの筋目方向(筋目角度θ1~θ3:90°)を模式的に示す図である。図10(a)は、工具本体30Aに対して切削インサート10A~10Dが取り付けられた切削工具を部分的に示す図であって、検証結果を説明するための図である。図10(b)は、図11のA-A’線に沿う断面図である。
【0066】
【表1】
【0067】
工具本体の試料としては、表1及び図8(a)~(d)に示す条件の工具本体30Aを1つ用意した。
「工具本体30A」
・拘束部35a~35cの算術平均高さRa:1.10μm
・加工筋目周期:0.13mm
・加工筋目36a~36cの筋目角度:90°で統一
【0068】
実施例1の切削インサートの試料としては、表1及び図9(a)~(d)に示す条件の切削インサート10A~10Cを3つ用意した。
「切削インサート10A」
・算術平均高さRa:0.16μm
・加工筋目周期:0.05mm
・加工筋目36a~36cの筋目角度θ1:90°で統一
「切削インサート10B」
・算術平均高さRa:1.00μm
・加工筋目周期:0.12mm
・拘束部15a~15cの筋目角度θ2:90°で統一
「切削インサート10C」
・算術平均高さRa:3.10μm
・加工筋目周期:0.21mm
・加工筋目36a~36cの筋目角度θ3:90°で統一
【0069】
切削インサート10A~10Cが工具本体30Aに取り付けられた状態において、切削インサート10A~10D側の各拘束部15a~15cは、工具本体30A側の各拘束部35a~35cに拘束される。
【0070】
図10(a)~(c)は、切削インサート10A~10Dの各拘束部15a~15cと、工具本体30Aの各拘束部35a~35cとの嵌合状態を表面粗さごとに模式的に示した図である。
図10(b)に示すように、切削インサート10A~10Cの各拘束部15a~15cにおける表面粗さが、工具本体30Aの各拘束部35a~35cにおける表面粗さに最も近い場合に、互いの加工筋目16a~16c,36a~36cの接触面積が最大となる。
【0071】
<径方向分力>
まず、径方向分力における表面粗さの影響について検証する。
工具本体30Aに対して、3つの切削インサート10A~10Cを順次取り付けて、図7(a)に示すように、切削インサート10A~10Cの径方向外側から長辺側側面に治具を押し付けて所定の荷重を負荷することで、立壁加工時の切削インサート10A~10Cに対する切削抵抗を模した外力とし、工具本体30Aに対する各切削インサート10A~10Cのずれ具合から表面粗さの影響について評価した。
【0072】
図12(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、荷重(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサート10A~10Cの回転変位量(変位量、グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図12(a)~(c)に示すように、何れの切削インサート10A~10Cにおいても荷重が200Nを超えたあたりから工具本体30Aに対して変化(ずれ)が生じ、600N付近で変位量が最大になった。
【0073】
着座側の拘束部15a,35aに関しては、荷重が負荷される径方向(図11中の矢印Pで示す方向)に沿う面であり、互いに嵌合する方向に対して垂直な力が作用する。そのため底面拘束部15a、35aに関しては、図12(b)に示すように、切削インサート10A~10Cの表面粗さによって変位量に差が生じた。底面拘束部15aの算術平均高さRaが、1.00μm、0.16μm、3.10μmの順に変位量(回転変位量)が大きくなった。
【0074】
また、短辺拘束部15c、35cに関しては、図11中の矢印Pで示す方向から荷重を受けると、図11中の矢印Qで示す斜め方向から荷重が作用することが考えられる。短辺拘束部15c、35cに関しても、図12(b),(c)に示すように、算術平均高さRaが、0.16μm、1.00μm、3.10μmの順に変位量(回転変位量)が大きくなった。
【0075】
長辺拘束部15b,35bに関しては、図12(a)に示すように、切削インサート10A~10C(長辺拘束部15b,35bどうしの面粗さがいずれの場合)においても、工具本体30Aに対する各切削インサート10A~10C(算術平均高さRa:0.16μm、1.00μm、3.10μm)の間で変位量に大きな差はなかった。
理由として、切削インサート10A~10Cは、径方向分力により、正面視において時計回り、及び長辺拘束側が浮き上がる挙動を示したことから、切削インサート10A~10Cの長辺拘束部15bと、工具本体30Aの長辺拘束部35bとの接触面積が減少したことで、表面粗さの影響が小さくなったと考えられる。
【0076】
切削インサート10A~10Cのうち、長辺拘束部15b、底面拘束部15a及び短辺拘束部15cのそれぞれにおいて、ともに変位量が最も小さかったのは切削インサート10Bとなった。切削インサート10Bの各拘束部15a~15cの算術平均高さRaは、いずれも1.00μmであり、工具本体30A側の算術平均高さRa(1.10μm)に最も近い。このため、工具本体30Aとの接触面積が大きくなり、嵌合強度が高まったことで、最も変位量が小さくなったと考えられる。なお、切削インサート10A~10Cの中で変位量が最も大きかったのは、算術平均高さRaが3.10μmの切削インサート10Cであった。
【0077】
<軸方向荷重>
次に、軸方向荷重における表面粗さの影響について検証する。
図7(b)に示すように、切削工具100の先端側から切削インサートの先端に治具を押し付けて荷重を軸方向に負荷することで、切削インサート10A~10Cに対する切削抵抗を模した外力とし、工具本体30Aに対する各切削インサート10A~10Cのずれ具合から表面粗さの影響について評価した。
【0078】
図13(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、軸方向荷重(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサート10A~10Cの回転変位量(グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図13(a)~(c)に示すように、何れの切削インサート10A~10Cにおいても荷重が200Nを超えたあたりから工具本体30Aに対して変化(ずれ)が生じ、600N付近で変位量が最大になった。
【0079】
図13(a)に示すように、長辺拘束部15bに関しては、切削インサート10A~10C(算術平均高さRa:0.16μm、1.00μm、3.10μm)に関わらず、各切削インサート10A~10Cの変位量に顕著な差異は見られなかった。
図13(b)に示すように、着座面側の拘束部15a,35aに関しては、切削インサート10A~10Cの表面粗さによって変位量に差が生じた。長辺拘束部15bおよび底面拘束部15aの算術平均高さRaが、1.00μm、0.16μm、3.10μmの順に変位量が大きくなった。
【0080】
一方、切削インサート10A~10Cの短辺拘束部15c及び工具本体30Aの短辺拘束部35cどうしは、表面粗さに応じた顕著な差は確認できなかった。図13(c)に示すように、切削インサート10A~10C(短辺拘束部15c、35cの面粗さがいずれの場合)においても、工具本体30Aに対する各切削インサート10A~10C(算術平均高さRa:0.16μm、1.00μm、3.10μm)の間で変位量に大きな差はなかった。
【0081】
理由として、切削インサート10A~10Cは、軸方向分力により、正面視において反時計回りに回転することで短辺拘束部15cが浮き上がる挙動を示すことから、切削インサート10A~10Cの短辺拘束部15cと、工具本体30Aの短辺拘束部35cとの接触面積が減少したことで、表面粗さの影響を小さくなったと考えられる。
【0082】
切削インサート10A~10Cのうち、長辺拘束部15b、底面拘束部15a及び短辺拘束部15cのそれぞれにおいて、ともに変位量が最も小さかったのは、切削インサート10Bとなった。切削インサート10Bの各拘束部15a~15cの算術平均高さRaは、いずれも1.00μmであり、図10(b)に示すように、工具本体30A側の算術平均高さRa(1.10μm)に最も近い。また、切削インサート10Bの各加工筋目16a~16cの筋目角度θ1~θ3はいずれも90°であり、工具本体30Aの各加工筋目36a~36cの筋目角度θ4~θ6と等しい。このため、凹凸の嵌合深さが大きくなり、切削インサート10A~10Cの各拘束部15a~15cと、工具本体30Aの各拘束部35a~35cとの接触面積が増えて、互いの嵌合強度(固定限界抵抗)が高まったことで、最も変位量が小さくなったと考えられる。なお、切削インサート10A~10Cの中で変位量が最も大きかったのは、算術平均高さRaが3.10μmの切削インサート10Cであった。理由としては、凹凸の嵌合深さが最も小さいことが原因と考えられる。
【0083】
以上の結果から、径方向分力、軸方向荷重のいずれにおいても、工具本体30Aに対する切削インサート10A~10Cの回転変位量は、互いの各拘束部15a~15c、35a~35cの算術平均高さRaが近い値の組み合わせが最も良好となった。すなわち、工具本体30Aの各拘束部35a~35cの算術平均高さRaが1.10μmのとき、この工具本体30Aに対する変位量は、各拘束部15a~15cの算術平均高さRaが1.00μの切削インサート10Bが最も小さい結果となった。
【0084】
また、径方向からの荷重、軸方向からの荷重に関わらず、加工筋目のない比較例(従来品)の切削インサートと比べると、上記実施例1の切削インサート10A~10Cはいずれの拘束部においても工具本体30Aに対する変位量が大幅に抑えられていることが分かった。径方向分力負荷時には、工具本体30A側の算術平均高さ(Ra:1.00μm)に近い切削インサート(Ra:1.10μm)ほど変位量が抑えられている。また、軸方向荷重負荷時には、いずれの拘束部15a~15cにおいても表面粗さの値に関わらず、比較例との差が顕著に表れた。また、拘束部どうしの嵌合方向と同じ方向から作用する荷重に対しては、表面粗さの値に関わらず比較例に比べて変位量がかなり小さくなった。
【0085】
比較例の切削インサートでは、径方向及び軸方向に関わらず負荷荷重200Nあたりから変位量が大きくなり、特に、径方向分力が500Nを超えると、上記切削インサート10A~10Cに比べて工具本体30Aに対する変位量が急激に大きくなった。径方向分力及び軸方向荷重のいずれにおいても、加工筋目のない比較例の切削インサートの長辺拘束部、短辺拘束部及び底面拘束部の全てにおいてほぼ同程度の変位量が確認された。
【0086】
よって、工具本体30Aに対する切削インサート10A~10Cの変位を抑えるためには、工具本体30A及び切削インサート10A~10Cの各拘束部35a~35c、15a~15cに表面粗さを形成する加工筋目36a~36c、16a~16cを設けるとともに、切削インサート10A~10c側の表面粗さが工具本体30A側の算術平均高さ(Ra:1.00μm)に近いほど有効であることが分かった。切削インサート10A~10C及び工具本体30Aの算術平均高さRaがそれぞれ1.0程度の場合、工具本体30A及び切削インサート10A~10Cの各拘束部35a~35c、15a~15cにおいて互いに巨視的に係合可能な微細な凹凸(加工筋目36a~36c、16a~16c)で拘束されて、各拘束部35a~35c、15a~15cにおける互いの嵌合方向とは異なる方向から作用する荷重に対しても高い嵌合力が得られる。また、切削インサート10A~10C側の筋目角度θ1~θ3が、工具本体30Aの筋目角度θ4~θ6と等しいため、加工筋目16a~16c,36a~36cどうしの凹凸の嵌合深さが大きくなり、切削インサート10A~10C側の回転変位量がより抑えられた。
【実施例0087】
[加工筋目方向の影響についての検証]
次に、本発明に係る切削インサート10D,10E,10F,10Gにおける加工筋目16a~16cの筋目方向(筋目角度θ1~θ3)と、工具本体30Aにおける加工筋目36a~36cの筋目方向(筋目角度θ4~θ6)との関係が、工具本体30Aに対する切削インサート10D~10Gのずれ動き(変位量)にどの程度影響するか検証を行った。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例2の切削インサートの試料として、表2に示す条件の切削インサート10D~10Gを用意した。ここでは、加工筋目16a~16cの筋目方向(筋目角度θ1~θ4)が互いに異なる4つの切削インサートを用意した。
「切削インサート10D~10G」
・算術平均高さRa:1.00μmで統一
・加工筋目16a~16cの筋目方向(筋目角度θ1~θ3):0°、45°、90°、135°
【0090】
<径方向分力>
用意した4つの切削インサート10D~10Gを工具本体30Aに対して順に取り付けて、図7(a)に示すように、切削インサート10D~10Gの径方向外側から長辺側側面に治具51を押し付けて所定の荷重を付与することで、各切削インサート10D~10Gにかかる切削加工時の負荷を再現し、工具本体30Aに対する各切削インサート10D~10Gのずれ具合から筋目方向の影響について評価した。
【0091】
図14(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、径方向分力(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサート10D~10Gの回転変位量(グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図14(a)に示すように、切削インサート10D~10Gの長辺拘束部15bにおいて、加工筋目16bの筋目方向を表す筋目角度θ2がいずれの筋目角度(0°,45°,90°、135°)の場合であっても、工具本体30Aの長辺拘束部35bに対する切削インサート10A~10Dの変位量は小さく、切削インサート10D~10Gの間におけるばらつきは小さい。すなわち、長辺拘束部15b,35bに関して、加工筋目16b,36bどうしの筋目方向(筋目角度θ2の大きさ)が、切削インサート10D~10Gの変位量に影響する度合いは小さいと言える。
【0092】
一方、図14(b)に示すように、切削インサート10D~10Gの底面拘束部15aにおいて、荷重の大きさに関わらず、加工筋目16aの筋目方向を表す筋目角度θ1が90°、135°、45°、0°の順に、工具本体30Aに対する変位量が大きくなった。
また、図14(c)に示すように、切削インサート10D~10Gの短辺拘束部15cにおいては、加工筋目16cの筋目方向を表す筋目角度θ3が90°、135°、0°、45°の順に、工具本体30に対する変位量が大きくなった。
【0093】
このように、工具本体30Aと切削インサート10D~10Gの間において互いの拘束部35a~35c,15a~15cどうしの表面粗さが近くても、筋目方向がずれていると接触面積が低下して十分な拘束力が得られないことが分かった。底面拘束部35a,15a及び短辺拘束部35c,15cのいずれにおいても、荷重の大きさに関わらず、筋目角度θ1,θ3が、工具本体30Aにおける底面拘束部35a及び短辺拘束部35cの筋目角度θ4,θ6と同じ90°である場合に、工具本体30Aに対する変位量が小さい。すなわち、切削インサート10D~10G及び工具本体30Aの拘束部15a~15c,35a~35cどうし間で筋目方向(角度)の差異が小さいほうが、凹凸の嵌合が深くなるとともに互いの接触面積が大きくなって拘束力が高まり、切削インサート10の変位量に影響する度合いも小さくなったと考えられる。
【0094】
<軸方向荷重>
図7(b)に示すように、切削工具100の先端側から切削インサート10D~10Gの先端に治具51を押し付けて荷重を軸方向に負荷することで、切削インサート10D~10Gに対する切削抵抗を模した外力とし、工具本体30Aに対する各切削インサート10D~10Gのずれ具合から表面粗さの影響について評価した。
【0095】
図15(a)~(c)は、(a)長辺拘束部、(b)底面拘束部、(c)短辺拘束部のそれぞれにおいて、軸方向荷重(グラフ横軸、単位N)に対する切削インサート10D~10Gの回転変位量(グラフ縦軸、単位μm)の関係を示すグラフである。
図15(a)~(c)に示すように、何れの切削インサート10D~10Gにおいても荷重が200Nを超えたあたりから工具本体30Aに対して変化(ずれ)が生じ、600N付近で変位量が最大になった。
【0096】
図15(c)に示すように、切削インサート10D~10Gの短辺拘束部15cに関しては、筋目角度θ1~θ3の角度に応じた顕著な差は確認できなかった。上述したように、切削インサート10D~10Gは、軸方向分力により、正面視において反時計回りに回転することで短辺拘束部15cが浮き上がる挙動を示すことから、切削インサート10D~10Gの短辺拘束部15cと、工具本体30Aの短辺拘束部35cとの接触面積が減少したことで、筋目角度の影響が小さくなったと考えられる。
【0097】
一方、長辺拘束部15b,35b及び底面拘束部15a,35aにおいては、工具本体30A側の筋目方向と、各長辺拘束部15b,35b、各底面拘束部15a,35aに作用する荷重方向が直交関係に近付いたため、節目角度によって差異が生じたと考えられる。節目方向が135°、0°、45°の順に変位量が小さく、主に90°のときに変位量が最も小さくなった。
【0098】
以上の結果から、径方向分力、軸方向荷重のいずれにおいても、工具本体30Aに対する切削インサート10D~10Gのずれ具合(変位量)は、互いの各拘束部15a~15c、35a~35cの筋目方向が同じ場合(ここでは互いに90°のとき)に最も小さい結果となった。
【0099】
また、径方向からの荷重、軸方向からの荷重に関わらず、加工筋目のない比較例(従来品)の切削インサートを比べると、上記実施例2の切削インサート10D~10Gは、いずれの拘束部においても工具本体30Aに対する変位量が大幅に抑えられていることが分かった。
【0100】
図16は、短辺拘束部15c、35cに作用するせん断方向と加工筋目16c,36cとの関係を示す図であって、(a)は、切削インサート10D~10G側の筋目角度θ3が45°であり、(c)は切削インサート10D~10G側の筋目角度θ3が135°である。工具本体30の筋目角度θ6は90°である。
【0101】
上記図14(c)に示したように、短辺拘束部15cにおいては、切削インサート10D~10Gの径方向外側から荷重を負荷した場合、短辺拘束部15cの筋目角度θ3が45°のとき、筋目角度θ6が90°とされた工具本体30Aに対する変位量が最も大きくなった。
これは、図16(a)に示すように、工具本体30A側の短辺拘束部35c(筋目角度θ6:90°)に対して、切削インサート10D~10G側の短辺拘束部15cの筋目角度θ3が45°である場合に、短辺拘束部15c、35cに作用するせん断方向(図中の矢印Qで示す方向)と、切削インサート10D~10Gの加工筋目16cの方向とが略並行となり、凹凸の嵌合深さが小さくなり、短辺拘束部15c、35cどうしの拘束力が弱まったことが考えられる。
【0102】
一方、図16(b)に示すように、切削インサート10D~10G側の筋目角度θ3が135°の場合は、筋目角度θ3が45°の場合に比べて、工具本体30Aに対する変位量が小さい。これは、筋目角度θ3が135°の方が、45°の場合に比べて、凹凸の嵌合深さが大きくなり、加工筋目16c,36cどうしの間でせん断方向に直交する方向で嵌合する面積が増えたことで、短辺拘束部15c、35cどうしの間の拘束力が高くなったことが考えられる。
【0103】
上述した実施例1,2により、比較例のように加工筋目がなく、切削インサートの拘束と工具本体の拘束部とが互いに平坦な面である場合、切削加工時の切削負荷により、切削インサートが工具本体に対してずれ動きやすい。そのため、切削インサートの着座面や側面に凹凸形状を形成して拘束力を高めることが考えられるが、例えば、切削インサートの側面に形成する凹凸形状が大きい場合(数mm)は、その凹凸が切刃形状に影響を及ぼすおそれがある。また、切削インサートと工具本体との間において、互いの拘束部の凹凸形状を嵌合させて嵌合強度を確保する必要がある。すなわち、切削インサートの拘束部と、工具本体の拘束部との間において互いの凹凸が嵌合するように、工具本体に対して切削インサートを精度良く取り付けなくてはならない。
しかしながら、切削インサートの3つの拘束部を、工具本体側の3つの拘束部に対してそれぞれ精度良く嵌合させて取り付けるのは難しい。精度良く嵌合しない面が1組でもあると工具本体に対して切削インサートが傾いてしまう。
【0104】
そのため、上記実施形態のように、切削インサート10A~10G及び工具本体30Aの各拘束部15a~15c,35a~35cに対して、微視的に方位を持った微細な凹凸形状からなる加工筋目16a~16cを、数μm単位の微細な寸法でそれぞれ形成するとともに、互いの加工筋目16a~16cがなす角度を0°≦θ≦5°の範囲内となるようにすることで、互いの凹凸が嵌合する面積が増えることになる。これにより、工具本体30Aに対する切削インサート10A~10Gの位置決めが容易になるとともに、工具本体30Aに対する切削インサート10A~10Gの巨視的な取り付けが可能となる。よって、切削インサート10A~10Gの交換作業を容易に行うことが可能である。
【0105】
以上、実施例1及び実施例2の結果として、切削インサート10A~10Gと工具本体30Aとの間においてこれらの各拘束部15a~15c,35a~35cの表面粗さの値が近い組み合わせの場合において、接触面粗さの接触面積が増加して静摩擦係数が最大となるため、工具本体30Aに対する切削インサート10A~10Gの回転変位量を抑えることが可能である。
【0106】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。各実施形態の構成を適宜組み合わせてもよい。
【0107】
例えば、切削インサートの形状は上記実施形態において図示した形状に限らない。平面視矩形状以外にも正方形状、平行四辺形状などでもよい。
【符号の説明】
【0108】
10(10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G)…切削インサート
13…着座面
12…すくい面
14…側面
15a,15b,15c…切削インサートの拘束部
35a,35b,35c…工具本体の拘束部
16a,16b,16c…切削インサートの加工筋目
36a,36b,36c…工具本体の加工筋目
30(30A)…工具本体
31…インサートポケット(ポケット)
33a…取付座
33b…長辺取付側面(取付側面)
33c…短辺取付側面(取付側面)
100…切削工具
JO…回転軸
θ…切削インサートの加工筋目と工具本体の加工筋目とが成す角度
図1
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