(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058053
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】磁場応答性六方晶窒化ホウ素およびシート状樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20230418BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20230418BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20230418BHJP
H01F 1/11 20060101ALI20230418BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230418BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B32/198
H01F1/00 145
H01F1/11
C08K3/38
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167788
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】在間 弘朗
(72)【発明者】
【氏名】松本 信子
(72)【発明者】
【氏名】杉森 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大仲 淳子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 玄
【テーマコード(参考)】
4G146
4J002
5E040
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146CB19
4G146CB32
4J002AA001
4J002BG021
4J002CD001
4J002CK021
4J002CP031
4J002DE116
4J002DK006
4J002FB076
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD206
4J002GR02
5E040AB02
(57)【要約】
【課題】 永久磁石程度の磁場(0.2~1テスラ)で配向可能な六方晶窒化ホウ素粒子および六方晶窒化ホウ素粒子の濃度が高くなくても熱伝導の良いシート状樹脂組成物の提供。
【解決手段】 本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子は、磁場に応答する六方晶窒化ホウ素粒子であって、鱗片状または板状の六方晶窒化ホウ素粒子の表面に単層の酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層を有し、前記酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層に磁性粒子が付着した、磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場に応答する六方晶窒化ホウ素粒子であって、鱗片状または板状の六方晶窒化ホウ素粒子の表面に単層の酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層を有し、前記酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層に磁性粒子が付着した、磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
前記磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子が、0.2~2.0emu/gの飽和磁化を有する、請求項1に記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
前記磁性粒子が、γ-Fe2O3ナノ粒子またはFe3O4ナノ粒子である、請求項1または2に記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子を樹脂に混合した樹脂組成物で、前記磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子を体積比率で8体積%以上含有する、シート状樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂組成物の作製方法であって、請求項1から3のいずれかに記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の集合体を0.2~3テスラの磁場下に置いて前記粒子を配向させた後、前記集合体に硬化性液状樹脂を含浸して硬化させた、樹脂組成物の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場に応答する六方晶窒化ホウ素粒子および前記粒子を含有するシート状熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素は、電気伝導性のない鱗片状(板状)の結晶粒子で、電子機器の放熱材用フィラーとして期待されている。しかし、粒子横方向((0001)面方向)のみに高い熱伝導を有するため、これまで一般的に使われてきた熱伝導シートの作製方法、例えば、六方晶窒化ホウ素を含む液状混合物の基板への塗布やプレス成形方法では、鱗片状の六方晶窒化ホウ素は作製時のせん断力や基板上面からの力により基板に平行に配向が起こって、シート厚み方向の熱伝導を向上させにくい問題があった。
【0003】
こうした問題に対して、シート厚み方向に窒化ホウ素を配向させて熱伝導率を向上させる簡便な方法として、六方晶窒化ホウ素粒子に高磁場をかけると磁場に平行に配向する性質を利用して、熱硬化性液状樹脂と六方晶窒化ホウ素粒子の混合物に外部から磁場を印加して六方晶窒化ホウ素粒子を配向させた後、樹脂を硬化させて熱伝導シートを作製する先行技術がある(特許文献1~3等)。しかし、六方晶窒化ホウ素粒子を配向させるのには強力な磁場が必要であり、特許文献1では磁束密度4テスラ(実施例1)、特許文献2では磁束密度10テスラ(実施例1、5、6)、磁束密度5テスラ(実施例2~4)と強力な磁場をかけている。
【0004】
さらに、磁場配向を促進する目的で六方晶窒化ホウ素粒子に磁性粒子を付着させた粒子を用いて液状樹脂との混合物に磁場をかけて、シート厚み方向の熱伝導率が向上させる方法に関する、先行技術が存在する(特許文献4~6)。しかし、磁性粒子を付けているにも関わらず六方晶窒化ホウ素粒子を配向させるのには強力な磁場が必要であり、特許文献4では磁束密度2テスラ(実施例1)、特許文献5では磁束密度9.5テスラ(実施例2)と強力な磁場をかけている。特許文献6では磁束密度0.08テスラ(実施例1)という低磁場で配向させているが、大量の磁性粒子(窒化ホウ素:酸化鉄粒子=10:6(重量比))を複合している。また、これらの文献の磁性粒子を被覆又は付着させた粒子は、いずれも窒化ホウ素に直接磁性粒子を被覆又は付着させた粒子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-080617号公報
【特許文献2】特開2004-256687号公報
【特許文献3】特開2012-227417号公報
【0006】
【特許文献4】特開2012-169599号公報
【特許文献5】特開2017-143204号公報
【特許文献6】特表2020-536152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、永久磁石程度の磁場(0.2~1テスラ)で配向可能な六方晶窒化ホウ素粒子および六方晶窒化ホウ素粒子の濃度が高くなくても熱伝導の良いシート状樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、六方晶窒化ホウ素粒子表面に酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を形成すると、窒化ホウ素粒子は3テスラ程度の磁場でも応答するようになることを見出した。さらに、窒化ホウ素粒子表面の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層は磁性粒子を吸着し、それによって窒化ホウ素粒子は永久磁石程度の磁場に応答するようになることを見出した。また、タップ密度が0.5以上の鱗片状または板状窒化ホウ素粒子を用いると、磁場配向により窒化ホウ素粒子含有量が高くなくても熱伝導のよいシート状樹脂組成物を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とする。
〔1〕 磁場に応答する六方晶窒化ホウ素粒子であって、鱗片状または板状の六方晶窒化ホウ素粒子の表面に単層の酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層を有し、前記酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層に磁性粒子が付着した、磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子。
〔2〕 前記磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子が、0.2~2.0emu/gの飽和磁化を有する、前記〔1〕に記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子。
〔3〕 前記磁性粒子が、γ-Fe2O3ナノ粒子またはFe3O4ナノ粒子である、前記〔1〕または前記〔2〕に記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子。
〔4〕 前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子を樹脂に混合した樹脂組成物で、前記磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子を体積比率で8体積%以上含有する、シート状樹脂組成物。
〔5〕 樹脂組成物の作製方法であって、前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の集合体を0.2~3テスラの磁場下に置いて前記粒子を配向させた後、前記集合体に硬化性液状樹脂を含浸して硬化させた、樹脂組成物の作製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、永久磁石で配向可能な六方晶窒化ホウ素粒子を提供できる。さらに磁場配向により、六方晶窒化ホウ素粒子の濃度が高くなくても熱伝導の良いシート状樹脂組成物を提供できるようになる。
また、六方晶窒化ホウ素表面に磁性粒子を直接吸着した従来の六方晶窒化ホウ素磁性粒子は、ファン・デル・ワールス力で窒化ホウ素表面に吸着しているため、窒化ホウ素表面や磁性粒子への溶媒吸着などによって脱離しやすい。一方、六方晶窒化ホウ素表面に強く吸着している酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層は、磁性粒子との間にファン・デル・ワールス力だけでなく水素結合や金属原子-水酸基/カルボキシル基結合も形成しやすいため六方晶窒化ホウ素から脱離しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子表面の走査電子顕微鏡像
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0013】
本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子は、鱗片状または板状の六方晶窒化ホウ素粒子をベースとし、その粒子表面に直接吸着させた単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層と、それに付着している磁性粒子を有する。そして、0.2emu/g以上、好ましくは0.21emu/g以上、より好ましくは0.22emu/g以上の飽和磁化を有し、超常磁性を示す。飽和磁化が0.2emu/gより小さいと永久磁石では配向しにくくなる。飽和磁化は大きい方が低磁場でも配向可能となるために好ましいが、2.0emu/g程度あれば永久磁石程度の磁場で配向する。単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層は、磁性粒子を六方晶窒化ホウ素粒子に安定に固定する機能を有する。安定に固定できる理由としては、まず、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層が磁性粒子との間に水素結合や鉄原子-水酸基/カルボキシル基結合を形成できるので、磁性粒子は脱離しにくくなる。さらに、単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層はファン・デル・ワールス力によって六方晶窒化ホウ素表面に強固に吸着しているので磁性粒子が脱離しにくい。
【0014】
〈六方晶窒化ホウ素〉
本発明で用いられる六方晶窒化ホウ素に特に制限はないが、樹脂組成物のフィラーとして用いる場合は、タップ密度が0.5以上、好ましくは0.55以上、より好ましくは0.6以上の鱗片状または板状粒子であることが好ましい。ここで、タップ密度は、所定容器内で粉末を所定回数タップした後の粉末の見掛け密度を示す指標であり、JIS R 1628:1997に従って測定することができる。タップ密度が0.5より小さいと、樹脂組成物中の六方晶窒化ホウ素の含有量が低くなり、仮に六方晶窒化ホウ素が熱流方向に配向したとしても十分な熱伝導率が得られない。タップ密度の上限は特に限定されないが、鱗片状または板状粒子の場合、実質的に1前後が上限となる。市販される六方晶窒化ホウ素には鱗片状または板状粒子の他に鱗片状粒子を造粒して球状としたタイプがある。このような球状タイプもタップ密度が0.5以上となるが、形状の異方性がないため磁場配向しにくい。
【0015】
〈酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン〉
本発明で六方晶窒化ホウ素に吸着させる酸化グラフェンは、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンである。酸化グラフェンを完全に還元処理した還元型酸化グラフェンは、疎水化して水中では凝集するので、窒化ホウ素粒子表面に均一に吸着することができない。
【0016】
〈酸化グラフェン〉
本発明に用いる酸化グラフェンは、市販されている個体または水に分散している酸化グラフェンまたは改良ハマーズ法によって作製された酸化グラフェン水分散液を用いることができる。
【0017】
〈部分還元された酸化グラフェン〉
本発明に用いる部分還元された酸化グラフェンは、酸化グラフェンよりも長波長側かつ265nmよりも短波長側に吸収ピークを有し、酸化グラフェンの水分散液を適切な条件で還元することにより水分散液の状態で得ることができる。
部分還元された酸化グラフェンの水分散液は、市販されている酸化グラフェンまたは改良ハマーズ法によって作製された酸化グラフェン水分散液を適切な条件で還元することによって作製することが出来る。還元方法としては、水媒体で実施できる還元剤を用いた化学還元が好ましい。還元剤としては、従来から知られている水溶性の水素化ホウ素ナトリウムやヒドラジン水和物を用いることが出来るが、残留物の除去性やグラフェン骨格に窒素が導入されないという点でアスコルビン酸を用いた還元が好ましい。還元状態の制御は、還元剤の使用量、還元温度、還元時間によって可能である。還元温度は、水媒体で還元を行うため80℃以上、好ましくは90℃以上であればよい。適切な還元剤の使用量と還元時間は、還元する酸化グラフェン量と酸素含有基量によって異なるので、還元処理で得られた部分還元された酸化グラフェン水分散液の紫外可視吸収スペクトルの吸収ピーク位置をみて適宜調整すれば良い。還元処理で得られた部分還元された酸化グラフェン分散液は、透析チューブに入れ、イオン交換水や蒸留水で透析(精製)処理して部分還元された酸化グラフェン水分散液とすることが出来る。なお、原料とする酸化グラフェンが単層であれば、部分還元された酸化グラフェンも単層となるが、念の為、還元・精製処理後に超音波照射などにより剥離処理し、処理液を遠心分離して上澄みを利用することが好ましい。また、場合によっては水分散液のpHを調整することもできる。使用する部分還元された酸化グラフェンが単層かどうかは、原子間力顕微鏡や電子顕微鏡で評価できる。水分散液中の部分還元された酸化グラフェン濃度は特に限定されないが、0.1~0.5w%の範囲内であれば扱いやすい。
【0018】
一般に、酸化グラフェンは可視紫外可視吸収スペクトルで230nm付近に吸収ピークを示す含酸素官能基を有するグラフェン、還元型酸化グラフェンは可視紫外可視吸収スペクトルでは265nm付近より大きい波長域に吸収ピークを示す還元処理された酸化グラフェンと認識されている。この吸収ピークは、酸化グラフェンの還元状態に従って長波長シフトすることが知られている。
【0019】
本明細書でも前記一般的な認識に従うと、本発明に用いられる部分還元された酸化グラフェンは、酸化グラフェンよりも還元状態にあり、還元型酸化グラフェンほどの還元状態にはない中間的性質を持つといえる。それは、本発明に用いられる部分還元された酸化グラフェンが酸化グラフェンよりも長波長側かつ265nmよりも短波長側に吸収ピークを有することに示唆されている。なお、測定条件によって酸化グラフェンおよび還元型酸化グラフェンの吸収ピーク位置が230nm、265nmから若干ずれる場合があるので、本明細書においては、酸化グラフェンの吸収ピーク位置230nmおよび還元型酸化グラフェンの吸収ピーク位置265nmは絶対的な値ではない。また、一般に炭素/酸素比で表される酸化グラフェンの酸化度が低い場合、含酸素官能基量だけみると部分還元された酸化グラフェンの場合とほぼ同じ場合がありえるが、可視紫外可視吸収スペクトルの吸収ピークは230nm付近にあるため、炭素/酸素比は還元度の指標とはなりえない。
【0020】
本発明に用いられる部分還元された酸化グラフェンは、このように酸化グラフェンと還元型酸化グラフェンの中間の還元状態にあるため、酸化グラフェンよりは疎水性であり、還元型酸化グラフェンほど疎水性ではないので、水中で酸化グラフェンと同様の分散を維持しながら、六方晶窒化ホウ素粒子の疎水性表面にファン・デル・ワールス力(特に疎水結合)により吸着しやすくなっている。
【0021】
〈酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層〉
本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子は、鱗片状または板状の六方晶窒化ホウ素粒子の表面に単層の酸化グラフェン又は部分還元された酸化グラフェンの吸着層を有しているが、同じ六方晶窒化ホウ素粒子の吸着させた場合、酸化グラフェンよりも部分還元された酸化グラフェンの方が1.5倍以上の吸着量があるので、部分還元された酸化グラフェンを吸着させるのが好ましい。
【0022】
部分還元された酸化グラフェン吸着層は六方晶窒化ホウ素粒子表面に存在し、その量は六方晶窒化ホウ素粒子の単位表面積あたり0.40×10-7~1.2×10-6g/cm2,好ましくは0.50×10-7~1.0×10-6g/cm2,より好ましくは0.6×10-7~0.95×10-6g/cm2である。0.40×10-7g/cm2より少ないと六方晶窒化ホウ素粒子表面に部分還元された酸化グラフェン吸着層がないエリアが広くなるため、それに伴って磁性粒子の付着量が減る。1.2×10-6 g/cm2より多い場合、増えた分だけの磁性粒子付着量の増加がみられない。
【0023】
酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は、炭素・硫黄分析装置を用いた炭素の定量分析により、知ることができる。なお、炭素の定量値は炭素・硫黄分析装置や助燃剤の影響を受けやすいので、本明細書では、LECO社製CS844型炭素・硫黄分析装置で助燃剤:WとLECO社製LECOCEL(登録商用)IIを用いて分析を行った分析値を採用する。六方晶窒化ホウ素粒子の表面積はBET比表面積を測定することにより知ることができる。また、後述のように実験的に六方晶窒化ホウ素粒子に吸着した酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン量を知ることができ、およその量を把握するにはこの方法で十分である。六方晶窒化ホウ素粒子表面の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層は、オージェ分光分析法や顕微ラマン分光法で確認することができる。
【0024】
酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層は単層が好ましい。複層であると、何らかの外的要因によって剥離が起こる可能性があり、それによって酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層の最表面に付いている磁性粒子も一緒に失われるため好ましくない。用いる酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンの層数は、予め原子間力顕微鏡や電子顕微鏡で評価できる。
【0025】
単層の酸化グラフェンおよび部分還元された酸化グラフェンは、何れも原子間力顕微鏡観察で1nm以下の厚みを有する多角形シートである。そのシートの大きさは様々な方法で定義できるが、本明細書では、原子間力顕微鏡や電子顕微鏡像の画像解析により計測したシート面積から算出した面積円相当径を採用する。その理由として、面積円相当径は原子間力顕微鏡や電子顕微鏡像から測定されるシートの最大長よりも客観的に大きさを定義できるためである。
【0026】
酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンの面積円相当径平均値は、20μm以下、好ましくは18μm以下、より好ましくは16μm以下である。20μmより大きな酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンは、対象とする窒化ホウ素粒子の大きさを考慮すると必要としない。面積円相当径平均値の下限は特に限定されないが、1μmより小さい酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンは、吸着を起こしにくい、または吸着しても剥がれやすいため好ましくない。
【0027】
単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層は、単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンを六方晶窒化ホウ素表面に吸着させることにより形成できる。そして、窒化ホウ素粒子表面に形成された酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層の上に別の部分還元された酸化グラフェンが積層することはないため、単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層となる。これは、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンが、含まれる酸素官能基による電気的反発や含酸素官能基の水和によって凝集せずに水に分散しているように、窒化ホウ素粒子表面の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層と別の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンとの間にも同様の相互作用があって凝集(=吸着)が起こらないためである。この点から、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層が単層の場合、その吸着量は、六方晶窒化ホウ素粒子表面の被覆面積に比例するといえる。
【0028】
〈酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素の作製〉
本発明に用いられる酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子は、次のような工程で作製することができる。まず、酸化グラフェン水分散液または前記部分還元された酸化グラフェン水分散液に鱗片状または板状六方晶窒化ホウ素粒子粉末を加えて、撹拌または振盪して塊がなくなるまで均一に混合する。こうした工程で酸化グラフェン水分散液または部分還元された酸化グラフェン水分散液に六方晶窒化ホウ素粒子粉末を混合していくと、沈殿が生じて上澄み(酸化グラフェン水分散液層または部分還元された酸化グラフェン水分散液層)の色が薄くなっていく。最終的に上澄みは無色透明となる。これは、六方晶窒化ホウ素粒子粒子への酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンの吸着が起こっているためである。なお、酸化グラフェン水分散液または部分還元された酸化グラフェン水分散液への六方晶窒化ホウ素粒子の添加は、六方晶窒化ホウ素粒子が過剰になって酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンの吸着量の少ない六方晶窒化ホウ素粒子が生じないように、上澄みに着色が残る段階で添加を終了することが好ましい。この上澄みの着色の程度は、紫外可視吸収スペクトルのピーク強度を用いて決定することができ、六方晶窒化ホウ素粒子添加の終点は、上澄みのピーク強度が添加前の酸化グラフェン水分散液または部分還元された酸化グラフェン分散液のピーク強度の1/10程度になった時点が好ましい。
【0029】
次いで、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェンが吸着した六方晶窒化ホウ素粒子を分散液から濾別または遠心沈降によって回収し、室温乾燥または必要に応じて50~70℃程度で加熱乾燥することにより、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子を粉体として得ることができる。
【0030】
〈磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子〉
本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子表面には、単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を介して磁性粒子が主に粒子一個分の厚さで付着していることが好ましい。これは、例えば酸化鉄ナノ粒子が大きな凝集塊を形成している場合を考えると、液状樹脂と混合した場合に凝集塊は投影面積が大きいため流体による抗力が大きくなって窒化ホウ素表面から脱落しやすい問題が発生するが、磁性粒子が主に粒子一個分の厚さで付着していれば、投影面積は小さくなるので脱落するような問題を回避できる。磁性粒子が主に粒子一個分の厚さで付着する理由としては、磁性粒子は酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層に両者間の水素結合や鉄原子との配位結合などを介して直接付着するが、一旦付着した粒子には、粒子同士の静電反発によって後から他の磁性粒子が付着できないためである。なお、磁性粒子の作製過程で凝集粒子の副生は避けることができず、そしてこのような凝集粒子も酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層に付着するので、磁性粒子の付着層には粒子一個分の厚さでない部分も含まれる。
【0031】
磁性粒子の付着量は、0.1~2重量%、好ましくは0.2~1.7重量%、より好ましくは0.3~1.4重量%の磁性粒子が付着している。これにより六方晶窒化ホウ素粒子が3テスラ以下でも磁場に応答するようになる。磁性粒子の付着量が0.1重量%より少ないと、1テスラ以下の磁場での応答性が悪くなる。磁性粒子の付着量は多い方が低磁場でも応答しやすくなるために好ましいが、2重量%より多い量は酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層の量の制約があり付かない。付着量は、磁性粒子を構成する金属元素の元素分析によって定量することができる。
【0032】
〈磁性粒子〉
磁性粒子は、磁力を有する粒子であればよいが、透過型電子顕微鏡で観察される平均粒子径が10~30nmの範囲にあるγ-Fe2O3ナノ粒子またはFe3O4ナノ粒子が好ましいが、六方晶窒化ホウ素の用途を考慮すると導電性の低いγ-Fe2O3ナノ粒子がより好ましい。
【0033】
γ-Fe2O3粒子またはFe3O4ナノ粒子の飽和磁化は、10~70emu/g、好ましくは15~65emu/g、より好ましくは20~60emu/gである。10emu/gより低いと1テスラ以下の磁場での応答性が悪くなる。飽和磁化は高い方が窒化ホウ素粒子の磁場応答性がよくなるので好ましいが、70emu/gより高いγ-Fe2O3粒子またはFe3O4ナノ粒子を作製することは難しい。
【0034】
平均粒子径が10~30nmの範囲にあるFe3O4ナノ粒子は、当業者ではよく用いられている鉄(II)塩と鉄(III)塩を混合してpH調整をする湿式合成法で合成できる。γ-Fe2O3ナノ粒子は、Fe3O4ナノ粒子の酸性水分散液を90~100℃に加熱して空気を吹き込んで酸化する方法で合成できる。
【0035】
〈磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の作製〉
磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の作製方法は、次のような方法で作製することができる。Fe3O4ナノ粒子またはγ-Fe2O3ナノ粒子水分散液(pH5~7)に前記酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子粉末を加えて、撹拌または振盪により均一に混合する。こうした工程でFe3O4ナノ粒子またはγ-Fe2O3ナノ粒子水分散液に酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子粉末を混合していくと、次第に沈殿が生じて上澄み(酸化鉄ナノ粒子を含む水層)の色が薄くなっていく。最終的に上澄みは無色透明となる。これは、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子へのFe3O4ナノ粒子またはγ-Fe2O3ナノ粒子の付着が起こっているためである。なお、Fe3O4ナノ粒子またはγ-Fe2O3ナノ粒子水分散液への酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子粉末の添加は、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子が過剰になってFe3O4ナノ粒子またはγ-Fe2O3ナノ粒子付着量の少ない酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子が生じないように、上澄みに着色が残る段階で添加を終了することが好ましい。この上澄みの着色の程度は、紫外可視吸収スペクトルのピーク強度を用いて決定することができ、酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子添加の終点は、上澄みのピーク強度が添加前のFe3O4ナノ粒子またはγ-Fe2O3ナノ粒子分散液のピーク強度の1/10程度になった時点が好ましい。
【0036】
最後に磁性粒子と酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子を分散液から濾別または遠心沈降によって回収し、室温乾燥または必要に応じて50~70℃程度で加熱乾燥することにより、本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素を粉体として得ることができる。
【0037】
本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子は、磁性粒子としてγ-Fe2O3ナノ粒子またはFe3O4ナノ粒子を用いた場合、粒子表面に存在する磁性粒子中の鉄原子の性質を利用して、鉄原子に結合しやすい官能基を持つ酸化グラフェン、部分還元された酸化グラフェン、またはカルボキシル基などの酸性基を有する高分子化合物を粒子表面に吸着させることができる。これにより、例えば、酸化グラフェンが吸着すると粒子表面が酸化グラフェンで覆われるので、磁性粒子が外れにくくなる、樹脂との親和性が向上するなどの利点が得られる。高分子化合物の吸着では、粒子表面が疎水化され、樹脂との親和性も向上するなどの利点が得られる。
【0038】
吸着量は特に限定されないが、吸着によって得られる利点を最大化するためには、飽和吸着量が好ましい。酸化グラフェンや部分還元された酸化グラフェンの吸着処理は、これらの水分散液に磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子粉末を加えて撹拌または振盪により均一混合する工程を上澄みにやや着色が残るまで実施し、次いで粒子を濾別または遠心沈降によって回収し、室温乾燥または必要に応じて50~70℃程度で加熱乾燥することで実施できる。カルボキシル基などの酸性基を有する高分子化合物の吸着処理は、0.5~1.0重量部の高分子化合物を含む有機溶媒溶液に磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子粉末1.0重量部を加えて撹拌または振盪して均一混合した後、粒子を濾別または遠心沈降によって回収する工程と未吸着高分子化合物を洗浄除去する工程を繰り返した後、室温乾燥または必要に応じて50~70℃程度で加熱乾燥することで実施できる。
【0039】
〈シート状樹脂組成物〉
本発明のシート状樹脂組成物は、シート表面のX線回折測定における六方晶窒化ホウ素の(100)面のピーク強度(I(100))と(002)面のピーク強度(I(002))の比(=I(100)/I(002))を配向度とした時の値が、0.7以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは1以上である六方晶窒化ホウ素を8~55体積%、好ましくは10~50体積%、より好ましくは12~45体積%含む。配向度の値が0.7より小さいと六方晶窒化ホウ素の配向が弱いため配向による物性向上効果が得られにくい。上限は特に設定されないが、実験的には15くらいである。また、六方晶窒化ホウ素含有量が8体積%より少ないと配向による物性向上効果が得られない。55体積%より多い量は、本発明が採用する作製方法では困難である。シート状樹脂組成物の厚さと大きさと形状は特に限定されないが、厚さは1~5000μm、好ましくは5~4000μm、より好ましくは10~3000μmの範囲が実用的である。
【0040】
このようなシート状樹脂組成物は、磁場応答性六方晶窒化ホウ素と硬化性液状樹脂を混合した後、磁場下に静置して硬化させる方法、あるいは磁場応答性六方晶窒化ホウ素粉末を容器に入れて磁場配向させながら充填した後、磁場下で硬化性液状樹脂を六方晶窒化ホウ素充填層に含浸させて硬化させる方法、のいずれでも作製できるが、粘度の高い液状樹脂が磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の充填と配向を邪魔しない点、液状樹脂の希釈溶剤を使用しなくてよい点から後者が好ましい。
【0041】
磁場応答性六方晶窒化ホウ素と硬化性液状樹脂を混合した後、磁場下に静置して硬化させる方法は、従来から行われている方法で行うことができる。しかし、磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の濃度を高くすると磁場配向性が低下するという課題がある。
【0042】
次に、磁場応答性六方晶窒化ホウ素粉末を容器に入れて磁場配向させながら充填した後、磁場下で硬化性液状樹脂を六方晶窒化ホウ素充填層に含浸させて硬化させる方法について説明する。
磁場応答性六方晶窒化ホウ素粉末を磁場配向させながら充填する方法としては、簡単には、シート材の大きさに合わせた平容器に磁場応答性六方晶窒化ホウ素粉末を入れ、これを容器に垂直な方向の磁場下に置いてから容器に振動を加えて充填することで実施できる。なお、振動の強さと回数は、予め充填実験をして決めることができる。
【0043】
磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の配向に必要な磁場は、0.2~3テスラ、好ましくは0.3~2テスラ、より好ましくは0.4~1テスラの静磁場である。0.2テスラより小さいと、十分に配向させることができない。3テスラより大きな磁場は必要ない。必要に応じて回転磁場などを用いることもできる。
【0044】
用いることのできる硬化性液状樹脂としては、湿気、光、熱などの一般的な手段によって硬化可能でかつ粘度(加熱時も含む)が、1~150mPa・s、好ましくは2~100mPa・s、より好ましくは3~50mPa・sであれば種類は限定されない。粘度が1mPa・s未満の液状樹脂は一般的に入手が困難である。150mPa・sより大きいと充填した六方晶窒化ホウ素充填層にしみ込みにくくなる。このような液状樹脂としては、湿気硬化型シリコーン、付加硬化型シリコーン、液状エポキシ化合物(+硬化剤、必要に応じて2エチルヘキシルグリシジルエーテルのような反応性希釈剤を用いることもできる)、液晶性エポキシ化合物(+硬化剤)、アクリルモノマー、アクリルマクロマー、ポリイソシアネート(+硬化剤)などを挙げることができる。これらの中で液晶性エポキシ化合物は、それ自体の熱伝導性や磁場配向性が高いことから好ましい。
【0045】
硬化性液状樹脂の含浸量は、六方晶窒化ホウ素充填層の空隙率から算出される体積と等量が好ましい。凡その目安としては、六方晶窒化ホウ素充填層上部が、液体でやや光沢を帯びる程度でよい。液状樹脂を含浸させる方法としては、注射器等を用いて静かに注入する方法、上部から液状樹脂を噴霧する方法など可能であるが、六方晶窒化ホウ素層の配向を乱さない方法であれば特に限定されない。
【0046】
磁場下で所定の条件で硬化後、硬化物を容器から取り出してシート状試料の両面を必要に応じて研磨して、シート材とすることができる。
【0047】
シート材には、磁場配向性六方晶窒化ホウ素粒子の配向を乱さない範囲で他粒子(アルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、酸化マグネシウムなど)を併用することができる。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例には限定されない。
【0049】
(酸化グラフェン水分散液の作製)
温度計、マグネティックスターラーをセットした1000ml三口フラスコに日本黒鉛製グラファイトUP20 2.5g、硝酸ナトリウム2.0gおよび濃硫酸90mlを仕込み、アイスバスで冷却しながら過マンガン酸カリウム11.0gをゆっくりと加えた。加え終わったのち、室温まで戻して約96時間撹拌した。
【0050】
反応液をアイスバスで冷却し、5%硫酸水溶液200mlをゆっくりと加え、さらに30%過酸化水素水50mlを加えて1時間攪拌した。次いで、過酸化水素濃度0.5%および硫酸濃度3%となるように調整した混合液250mlで希釈して、室温で24時間攪拌した。
次に、酸化したグラファイトを遠心沈降させた。沈殿物を再び0.5%の過酸化水素との3%の硫酸を含む混合液200mlに分散させ、再び遠心沈降させた。次いで、遠心沈降物を0.5%の過酸化水素と3%の硫酸を含む混合液150mlに分散させ、これを透析チューブに入れてイオン交換水に漬け、イオン交換水を交換しながら7日間透析を行った。
透析処理後、透析液を超音波洗浄機に入れて8時間超音波照射処理した後、遠心分離することにより上澄みを取りだし、濃度0.24重量%の酸化グラフェン水分散液を得た。分散液0.10gを蒸留水15mlで希釈して紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、最大吸収ピーク位置は227nmであった。分散液から調製した試料をSTEM観察し、STEM像から酸化グラフェンの面積を計測し、その面積から個々の酸化グラフェンの面積円相当径を算出した。その結果、面積円相当径の平均値は8.13μm(変動係数0.77)であった。
【0051】
(部分還元された酸化グラフェン水分散液の作製)
続いて、0.24重量%の酸化グラフェン水分散液100mlにアスコルビン酸0.02gを加えて90℃で30分間還元処理を行った。処理液を室温まで冷却後、透析チューブに入れてイオン交換水に漬け、イオン交換水を交換しながら7日間透析を行った。透析処理後、透析液を超音波洗浄機に入れて30分間超音波照射処理して濃度0.19重量%の部分還元された酸化グラフェンの水分散液を得た。
次に分散液を蒸留水で希釈してシリコン板に塗布し、原子間力顕微鏡(使用装置:Asylum Research MFP-3D Infinity)で観察したところ、部分還元された酸化グラフェンはほぼ単層であることが分かった。同じサンプルをSTEM観察して、得られた顕微鏡像から面積円相当径を算出したところ、面積円相当径平均値8.15μm(変動係数0.77)であった。分散液0.16gを蒸留水15mlで希釈して紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、240nmに吸収ピークが観測された。
【0052】
(磁性粒子(γ-Fe2O3)分散液の作製)
予め窒素ガスをバブリングした精製水25mlに0.85mlの12N HClを溶解させ、これに塩化鉄(III)6水和物5.2gと塩化鉄(II)4水和物2.0gを溶解させた。次いで、得られた溶液をマグネチックスターラーで激しく撹拌する1.5M NaOH250mlに滴下して黒色沈殿を得た。この黒色沈殿を遠心分離を用いて窒素ガスをバブリングした精製水250mlで洗浄し、最後に0.01N HCl300mlに再分散させてFe3O4分散液を得た。
次に0.1N HClでFe3O4分散液のpHを5にして100℃に加温し、撹拌しながら空気を30分間バブリングした。得られた赤褐色液を室温に冷却して磁性粒子(γ-Fe2O3)分散液を得た。この分散液0.03mlを蒸留水1mlで希釈してサンプリングし、走査型電子顕微鏡で観察したところ、10~30nmの範囲に粒子径分布を持つ(平均粒子径21nm)粒子が観察された。磁性粒子の飽和磁化は42emu/gであった。
【0053】
〔実施例1〕
(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素の作製)
50mlネジ口瓶中で前記の部分還元された酸化グラフェン分散液0.211gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液にAR BROWN製鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子HSL(D50平均粒子径30μm、カタログ記載嵩密度0.6g/cm3)を約0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.201gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するHSL)得た。この時点で使用した部分還元された酸化グラフェンがすべてHSLに付着したとすると、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は0.20重量%と算出される。さらに、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量を正確に把握するため、炭素・硫黄分析装置(LECO社製CS844型)を用いた炭素の定量分析(助燃剤:WとLECO社製LECOCEL(登録商標)II)により部分還元された酸化グラフェン吸着層の量を分析したところ、0.21重量%(3回測定の平均値)であり、実験値とよく一致した。また、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量はHSL(比表面積1.5m2/gで計算)の単位表面積あたり、1.3×10-7g/cm2となる。
【0054】
部分還元された酸化グラフェン吸着層の分布状況についてオージェ電子分光分析(使用装置:ULVAC PHI 700)を用いて炭素とホウ素のマッピングを行って解析したころ、1粒子において炭素が多く分布するところではホウ素は少なく、逆にホウ素が多く分布する所では炭素が少なかった。そして、炭素は粒子の(0001)面のほぼ全面と側面の一部に分布していた。炭素は部分還元された酸化グラフェンに由来するので、部分還元された酸化グラフェンは粒子のかなりの部分に付着していると考えられる。合計10個の粒子を分析し、すべて同じ傾向であった。
【0055】
(磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
続いて、前記磁性粒子分散液(粒子濃度0.59w%)0.501gを蒸留水50mlで希釈し、これに前記部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するHSL粉を約0.1g加えて激しく振盪して混合した。この操作を繰り返し、部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するHSLを0.498g加えた時点で上澄みの吸収が元のおよそ1/10になったので添加を終了した。この段階で部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するHSLに付着したγ-Fe
2O
3はおよそ0.0029g(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するHSLの0.6w%)と推測される。次いで、液を静置して粒子を沈殿させ、上澄みを除いて沈殿を蒸留水に再分散させ、再度静置した。この時、上澄みの着色が殆どないことを確認した。次に、沈殿をエタノールに再分散させて静置した。この時も上澄みの着色が殆どないことを確認した。エタノール分散液から粒子を吸引濾過し、エタノールで洗浄後、60℃で乾燥させた(磁場応答性HSL)。乾燥粉を酸分解後ICP発光分光分析法(分析装置:バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製 730-ES)で鉄含有量の分析したところ、0.76w%のFe
2O
3が含まれていることがわかった。飽和磁化は0.28emu/gであった。電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)で粒子を観察したところ、殆どの磁性粒子が一次粒子で存在し、その中に凝集粒子と思われる大きな粒子が存在している様子が観察された(
図1)。
【0056】
(タップ密度の測定)
前記磁場応答性HSL(D50平均粒子径30μm、カタログ記載嵩密度0.6g/cm3)のタップ密度をJIS R 1628:1997定質量測定法に従って測定したところ、0.68g/cm3であった。
【0057】
〔実施例2〕
(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
50mlネジ口瓶中で前記の部分還元された酸化グラフェン分散液0.164gを蒸留水で15mlに希釈した。次いで、この希釈液に昭和電工製鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子ショウビーエヌ(登録商標)UHP-2(D50平均粒子径11μm、カタログ記載かさ密度(振動)0.3g/cm3)を約0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.051gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2)得た。この時点で使用した部分還元された酸化グラフェンがすべてUHP-2に付着したとすると、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は0.61重量%と算出される。これはUHP-2(比表面積4m2/gで計算)の単位表面積あたり、1.6×10-7g/cm2となる。
【0058】
(磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
続いて、前記磁性粒子分散液(粒子濃度0.59w%)0.495gを蒸留水50mlで希釈し、これに前記部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2粉を約0.1g加えて激しく振盪して混合した。この操作を繰り返し、部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2を0.297g加えた時点で上澄みの吸収が元のおよそ1/10になったので添加を終了した。この段階で部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2に付着したγ-Fe2O3はおよそ0.0028g(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2の0.97w%)と推測される。次いで、液を静置して粒子を沈殿させた後、上澄みを除いて沈殿を蒸留水に再分散させ、再度静置した。この時、上澄みの着色が殆どないことを確認した。次に、沈殿をエタノールに再分散させて静置した。この時も上澄みの着色が殆どないことを確認した。エタノール分散液から粒子を吸引濾過し、エタノールで洗浄後、60℃で乾燥させた(磁場応答性UHP-2)。乾燥粉を酸分解後ICP発光分光分析法(分析装置:バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製730-ES)で鉄含有量の分析したところ、1.05w%のFe2O3が含まれていることがわかった。飽和磁化は0.91emu/gであった。
【0059】
(タップ密度の測定)
前記磁場応答性UHP-2のタップ密度をJIS R 1628:1997定質量測定法に従って測定したところ、0.45g/cm3であった。
【0060】
〔実施例3〕
(酸化グラフェン吸着層を有する鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
50mlネジ口瓶中で前記の酸化グラフェン分散液(濃度0.24重量%)0.172gを蒸留水で15mlに希釈した。次いで、この希釈液に昭和電工製鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子ショウビーエヌ(登録商標)UHP-2(D50平均粒子径11μm、カタログ記載かさ密度(振動)0.3g/cm3)を約0.05g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.129gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2)得た。この時点で使用した酸化グラフェンがすべてUHP-2に付着したとすると、酸化グラフェン吸着層の量は0.18重量%と算出される。
(10/11 ここまでチェック)
【0061】
(磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
続いて、前記磁性粒子分散液(粒子濃度0.59w%)0.169gを蒸留水30mlで希釈し、これに前記部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2粉を約0.1g加えて激しく振盪して混合した。この操作を繰り返し、酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2を0.345g加えた時点で上澄みの吸収が元のおよそ1/10になったので添加を終了した。この段階で酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2に付着したγ-Fe2O3はおよそ0.001g(酸化グラフェン吸着層を有するUHP-2の0.29w%)と推測される。次いで、液を静置して粒子を沈殿させた後、上澄みを除いて沈殿を蒸留水に再分散させ、再度静置した。この時、上澄みの着色が殆どないことを確認した。次に、沈殿をエタノールに再分散させて静置した。この時も上澄みの着色が殆どないことを確認した。エタノール分散液から粒子を吸引濾過し、エタノールで洗浄後、60℃で乾燥させた(磁場応答性UHP-2II)。
【0062】
〔実施例4〕
(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有する六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
50mlネジ口瓶中で前記の部分還元された酸化グラフェン分散液0.282gを蒸留水で15mlに希釈し、紫外可視吸収スペクトルを測定した。次いで、この希釈液にデンカ製鱗片状六方晶窒化ホウ素粒子SGP(D50平均粒子径18μm、カタログ記載密度0.8g/cm3)を約0.01g加えて1分間振盪し、静置した。この作業を繰り返し、添加量0.233gの時点で上澄みの吸収が元の1/10になったので添加を終了した。次いで、沈殿を濾別して蒸留水100ml、メタノール100mlで洗浄後、60℃で8時間乾燥して薄灰色の粉末(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するSGP)得た。この時点で使用した部分還元された酸化グラフェンがすべてSGPに付着したとすると、部分還元された酸化グラフェン吸着層の量は0.23重量%と算出される。これはSGP(比表面積2m2/gで計算)の単位表面積あたり、1.1×10-7g/cm2となる。
【0063】
(磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の作製)
続いて、前記磁性粒子分散液(粒子濃度0.59w%)0.503gを蒸留水50mlで希釈し、これに前記部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するSGP粉を約0.1g加えて激しく振盪して混合した。この操作を繰り返し、部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するSGPを0.592g加えた時点で上澄みの吸収が元のおよそ1/10になったので添加を終了した。この段階で部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するSGPに付着したγ-Fe2O3はおよそ0.0030g(部分還元された酸化グラフェン吸着層を有するHSLの0.5w%)と推測される。次いで、液を静置して粒子を沈殿させた後、上澄みを除いて沈殿を蒸留水に再分散させ、再度静置した。この時、上澄みの着色が殆どないことを確認した。次に、沈殿をエタノールに再分散させて静置した。この時も上澄みの着色が殆どないことを確認した。エタノール分散液から粒子を吸引濾過し、エタノールで洗浄後、60℃で乾燥させた(磁場応答性SGP)。乾燥粉を酸分解後ICP発光分光分析法(分析装置:バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製730-ES)で鉄含有量の分析したところ、0.64w%のFe2O3が含まれていることがわかった。飽和磁化は0.28emu/gであった。
【0064】
(タップ密度の測定)
前記磁場応答性SGP(D50平均粒子径18μm、カタログ記載密度0.8g/cm3)のタップ密度をJIS R 1628:1997定質量測定法に従って測定したところ、0.87g/cm3であった。
【0065】
〔比較例1〕
前記磁性粒子分散液(粒子濃度0.59w%)0.497gを蒸留水50mlで希釈し、これにAR BROWN製HSL粉を約0.1g加えて激しく振盪して混合した。この操作を繰り返し、HSLを0.367g加えた時点で上澄みの吸収が元のおよそ1/10になったので添加を終了した。この段階でHSLに付着したγ-Fe2O3はおよそ0.0029g(HSLの0.8w%)と推測される。次いで、液を静置して粒子を沈殿させた。この時、上澄みが薄茶色に着色(γ-Fe2O3の色)していたので上澄みを除いた後、上澄みを除いて沈殿を蒸留水に再分散させ、再度静置した。上澄みの着色はなかったので、沈殿をエタノールに分散させて静置したところ、上澄みがかなり茶色く着色した。上澄みを除いた後、エタノールに再分散して静置する工程を3回繰り返した時点で上澄みの着色はなくなったので、エタノール分散液から粒子を吸引濾過し、エタノールで洗浄後、60℃で乾燥させて薄茶色の粉を得た。乾燥後、飽和磁化を測定すると0.15emu/gであった。最初の付着処理の段階ではHSLの0.8w%ほど付いていたγ-Fe2O3は、エタノール洗浄によりHSL表面からかなり脱落したものと考えられる。回収した薄茶色粉をFE-SEMで観察したところ、窒化ホウ素表面に酸化鉄ナノ粒子が~100nmくらいの凝集塊を形成してまばらに付着していた。
【0066】
〔比較例2〕
塩化鉄(III)6水和物0.52gと塩化鉄(II)4水和物0.20gを溶解させた蒸留水50mlにAR BROWN製HSL粉5.0gを加えて激しく振盪し、HSLを分散させた。次いで、分散液をマグネチックスターラーで激しく撹拌しながら、1.5M NaOH25mlを30分かけて滴下した。生成した黒灰色懸濁液を静置して生成物を沈殿させた。次いで、沈殿を蒸留水に再分散して静置する工程を5回繰り返して計300mlの蒸留水で洗浄した。洗浄後の沈殿をエタノールに再分散して静置したところ、上澄みが黒褐色に着色してので、上澄みを除いた後、エタノールに再分散して静置する工程を5回繰り返したところ、上澄みの着色はなくなり薄灰色の沈殿となった。この沈殿を吸引濾過し、エタノールで洗浄後、60℃で乾燥させて白色の粉を得た。エタノール洗浄により酸化鉄が除去され無色のHSLが残ったことより、生成した酸化鉄のHSL表面への付着は強固なものでなかったと考えられる。
【0067】
〔磁場配向確認実施例〕
実施例1で作製した磁場応答性HSLを5体積%含むシリコーン樹脂(信越シリコーン製KNS320A+CAT-PL-50T)を0.4テスラの永久磁石に乗せたPETフィルムに塗布後、80℃で30分加熱処理を行い、膜厚約0.5mmのシート状硬化物を得た。次いで、シートのX線回折測定(使用機器:Rigaku Ultima IV)を行って配向度を調べたところ、磁場下で作製したシート状硬化物中の前記HSLの配向度は12であった。
【0068】
〔磁場配向確認比較例〕
永久磁石を使用しない以外は、前記確認実施例と同様にしてシート状硬化物を得、X線回折測定を行った。無磁場で作製したシート状硬化物中の前記HSLの配向度は0.02であり、永久磁石によって磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子の高度な配向が起こることがわかった。
【0069】
〔実施例5〕
(シート状樹脂組成物1)
直径12mm×高さ10mmのポリプロピレン製円筒容器に実施例1で作製した磁場応答性HSLの粉末0.210gを入れて0.7テスラの永久磁石上に置き、容器をガラス棒で50回振動を加えて粒子を充填させた。次いで、シリンジでシリコーンオリゴマー(信越シリコーン製KR401)をゆっくりとしみ込ませた。計0.272gをしみ込ませた段階で粉体層表面が湿潤して光沢感が出てきたので、添加を終了した。これを室温で24時間放置してシリコーンオリゴマーを硬化させた。
【0070】
硬化物を容器から取り出して両面研磨して厚さ0.4mm×直径12mmの円盤状樹脂組成物を作製し、X線回折測定と熱拡散率測定(使用機器:ベテル製サーモウェーブアナライザTA)を行ったところ、配向度は2.8、熱拡散率は4.82mm2/s(実測密度1.44と比熱から計算される熱伝導率は7.5W/(K・m)であった。また実測密度から計算される磁場応答性HSLの含有量は20体積%であった。
【0071】
〔比較例3〕
直径12mm×高さ10mmのポリプロピレン製円筒容器に実施例1で作製した磁場応答性HSLの粉末0.212gを入れて容器をガラス棒で50回振動を加えて粒子を充填させた。次いで、シリンジでシリコーンオリゴマー(信越シリコーン製KR401)をゆっくりとしみ込ませた。計0.273gをしみ込ませた段階で粉体層表面が湿潤して光沢感が出てきたので、添加を終了した。これを室温で24時間放置してシリコーンオリゴマーを硬化させた。
【0072】
硬化物を容器から取り出して実施例5と同様にして円盤状樹脂組成物を作製し、X線回折測定と熱拡散率測定を行ったところ、配向度は0.05、熱拡散率は2.07mm2/s(実測密度1.45と比熱から計算される熱伝導率は3.2W/(K・m)であった。また実測密度から計算される磁場応答性HSLの含有量は20体積%であった。
【0073】
以上、実施例5と比較例3の比較から、磁場配向により熱伝導性が2倍以上向上することが明らかとなった。また、六方晶窒化ホウ素含有量が20体積%であっても、磁場配向により従来よりも高い熱伝導性が得られることがわかった。
【0074】
〔実施例6〕
(シート状樹脂組成物2)
直径12mm×高さ10mmのポリプロピレン製円筒容器に実施例2で作製した磁場応答性UHP-2の粉末0.224gを入れて0.7テスラの永久磁石上に置き、容器をガラス棒で50回振動を加えて粒子を充填させた。次いで、シリンジでシリコーンオリゴマー(信越シリコーン製KR401)をゆっくりとしみ込ませた。計0.357gをしみ込ませた段階で粉体層表面が湿潤して光沢感が出てきたので、添加を終了した。これを室温で24時間放置してシリコーンオリゴマーを硬化させた。
【0075】
硬化物を容器から取り出して実施例5と同様にして円盤状樹脂組成物を作製し、X線回折測定と熱拡散率測定を行ったところ、配向度は0.72であり、実測密度1.41から計算される磁場応答性UHP-2の含有量は9.3体積%であった。
【0076】
〔実施例7〕
(シート状樹脂組成物3)
直径12mm×高さ10mmのポリプロピレン製円筒容器に実施例4で作製した磁場応答性SGPの粉末0.236gを入れて0.7テスラの永久磁石上に置き、容器をガラス棒で50回振動を加えて粒子を充填させた。次いで、シリンジでシリコーンオリゴマー(信越シリコーン製KR401)をゆっくりとしみ込ませた。計0.251gをしみ込ませた段階で粉体層表面が湿潤して光沢感が出てきたので、添加を終了した。これを室温で24時間放置してシリコーンオリゴマーを硬化させた。
【0077】
硬化物を容器から取り出して実施例5と同様にして円盤状樹脂組成物を作製し、X線回折測定と熱拡散率測定を行ったところ、配向度は1.5、熱拡散率は5.47mm2/s(実測密度1.52と比熱から計算される熱伝導率は8.7W/(K・m)であった。また実測密度から計算される磁場応答性SGPの含有量は25体積%であった。
【0078】
〔比較例4〕
直径12mm×高さ10mmのポリプロピレン製円筒容器に実施例4で作製した磁場応答性SGPの粉末0.239gを入れて容器をガラス棒で50回振動を加えて粒子を充填させた。次いで、シリンジでシリコーンオリゴマー(信越シリコーン製KR401)をゆっくりとしみ込ませた。計0.269gをしみ込ませた段階で粉体層表面が湿潤して光沢感が出てきたので、添加を終了した。これを室温で24時間放置してシリコーンオリゴマーを硬化させた。
【0079】
硬化物を容器から取り出して実施例4と同様にして円盤状樹脂組成物を作製し、X線回折測定と熱拡散率測定を行ったところ、配向度は0.05、熱拡散率は2.58mm2/s(実測密度1.51と比熱から計算される熱伝導率は4.1W/(K・m)であった。また実測密度から計算される磁場応答性SGPの含有量は25体積%であった。
【0080】
以上、実施例7と比較例4の比較から、磁場配向により熱伝導性が2倍以上向上した。また、HSLよりタップ密度の高いSGPを用いると樹脂組成物中の六方晶窒化ホウ素含有量が高くなることがわかった。
本発明の磁場応答性六方晶窒化ホウ素粒子は、鱗片状または板状の六方晶窒化ホウ素粒子表面に単層の酸化グラフェンまたは部分還元された酸化グラフェン吸着層と磁性粒子を有することにより、永久磁石程度の磁場で応答して配向可能であり、六方晶窒化ホウ素粒子の濃度が高くなくても熱伝導の良いシート状樹脂組成物を提供できる。