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  • 特開-圧電薄膜積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058089
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】圧電薄膜積層体
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/079 20230101AFI20230418BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20230418BHJP
   H10N 30/03 20230101ALI20230418BHJP
【FI】
H01L41/319
H01L41/187
H01L41/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167850
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塙 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒川 竜一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸介
(72)【発明者】
【氏名】笠島 崇
(57)【要約】
【課題】ニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜を備える圧電薄膜積層体の圧電特性を向上する。
【解決手段】圧電薄膜積層体10は、基板11と、基板11の上方に積層された下部電極14と、下部電極14の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜16と、を備える。圧電薄膜積層体10は、圧電薄膜16と基板11との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層15が設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に積層された下部電極と、
前記下部電極の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜と、を備える圧電薄膜積層体であって、
前記圧電薄膜と前記基板との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層が設けられている
圧電薄膜積層体。
【請求項2】
基板と、
前記基板の上方に積層された下部電極と、
前記下部電極の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜と、を備える圧電薄膜積層体であって、
前記下部電極と前記基板との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる絶縁性の層が設けられている
圧電薄膜積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電薄膜積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(K1-xNa)NbO(0.4≦x≦0.7)で表されるニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜を備えた圧電薄膜付基板が開示されている。この圧電薄膜は、Na組成を変えることで、温度変化に対する内部応力の変化の比が制御され、20℃における膜面内方向の内部応力がコントロールされると、記載されている。
【0003】
特許文献2には、シリコン基板上に積層された電極層と、電極層上に積層されたPZT系強誘電体層を含む圧電体膜が開示されている。この圧電体膜は、シリコン基板と電極層との間に負の熱膨張係数を有する層と、SiO層が介装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-071150号公報
【特許文献2】特開2019-161145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の構成は、圧電薄膜のNa組成を変える度に、圧電特性が変わるおそれがある。また、圧電薄膜の成膜条件を変えずにNa組成を変える場合には、ターゲット材を用意する必要があるため、コストがかかる。
【0006】
特許文献2に開示の構成は、PZT系薄膜を利用しているため、環境負荷の観点で改善の余地がある。また、特許文献2では、負の熱膨張係数を有する層の導電性については何ら検討されていない。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜を備える圧電薄膜積層体の圧電特性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つである圧電薄膜積層体は、
基板と、
前記基板の上方に積層された下部電極と、
前記下部電極の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜と、を備える圧電薄膜積層体であって、
前記圧電薄膜と前記基板との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層が設けられている。
【0009】
ニオブ酸アルカリ系の圧電薄膜の熱膨張係数は、一般的な基板の熱膨張係数よりも大きい。仮に、圧電薄膜と基板との間に負の熱膨張係数を有する材料からなる層が設けられていない場合、圧電薄膜の成膜時の温度から室温に冷却されると、圧電薄膜に引張り応力が作用することになる。本発明の一つである上記構成によれば、圧電薄膜と基板との間に負の熱膨張係数を有する材料からなる層が設けられているから、圧電薄膜と基板との熱膨張係数の差に起因して生じ得る内部応力を調整できる。さらに、この負の熱膨張係数を有する材料からなる層が導電性の層であるから、層間の導電性を確保すべき位置にも、電気的特性を損なうことなく負の熱膨張係数を有する材料からなる層を配置できる。このように、圧電薄膜と基板との間に負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層を設けることで、圧電薄膜積層体の圧電特性を向上できる。
【0010】
本発明の一つである圧電薄膜積層体は、
基板と、
前記基板の上方に積層された下部電極と、
前記下部電極の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜と、を備える圧電薄膜積層体であって、
前記下部電極と前記基板との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる絶縁性の層が設けられている。
【0011】
本発明の一つである上記構成によれば、下部電極と基板との間に負の熱膨張係数を有する材料からなる層が設けられているから、圧電薄膜と基板との熱膨張係数の差に起因して生じ得る内部応力を調整できる。さらに、この負の熱膨張係数を有する材料からなる層が絶縁性の層であるから、負の熱膨張係数を有する材料からなる層によって、下部電極と基板の間の絶縁性を向上できる。このように、下部電極と基板との間に負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層を設けることで、圧電薄膜積層体の圧電特性を向上できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜を備える圧電薄膜積層体の圧電特性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の圧電薄膜積層体を概略的に示す断面図である。
図2】比較例の圧電薄膜積層体を概略的に示す断面図である。
図3】第2実施形態の圧電薄膜積層体を概略的に示す断面図である。
図4】第3実施形態の圧電薄膜積層体を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0015】
[第1実施形態]
図1に示す本実施形態の圧電薄膜積層体10は、基板11と、基板11の上方に積層された下部電極14と、下部電極14の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜16と、を備える。圧電薄膜積層体10は、圧電薄膜16と基板11との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層15が設けられている。以下、負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層15を、導電性NTE層15とも称する。
【0016】
圧電薄膜積層体10は、基板11、SiO2層12、密着層13、下部電極14、導電性NTE層15、圧電薄膜16がこの順に積層されている。SiO層12、密着層13は任意の層である。圧電薄膜積層体10は、各層の間にさらに別の任意の層が積層されてもよい。
【0017】
基板11は、シリコン基板であることが好ましい。基板11は、例えば、単結晶シリコンを用いて形成できる。単結晶シリコンの熱膨張係数は、0℃~700℃付近では、3×10-6/K~5×10-6/Kである。基板11の厚さは、好ましくは200μm~1000μmであり、例えば525μmである。SiO層12は、基板11の表面に形成されている。SiOの熱膨張係数は、0℃~600℃付近では、0.52×10-6/K~0.56×10-6/Kである。SiO層12の厚さは、好ましくは50nm~200nmであり、例えば100nmである。
【0018】
密着層13は、SiO層12を有する場合はSiO層12の上面に、SiO層12を有しない場合は基板11の上面に接触している。また、密着層13は、下部電極14の下面に接触している。密着層13は、下部電極14の基板11への密着性を向上する。密着層13は特に限定されないが、チタン(Ti)等の金属や、金属酸化物を用いて形成できる。Tiの熱膨張係数は、0℃~100℃付近では、8.4×10-6/Kである。密着層13の厚さは、好ましくは10nm~50nmであり、例えば20nmである。
【0019】
下部電極14は、導電性を有する材料からなる。下部電極14は、例えば、白金(Pt)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金、金属酸化物等を用いて形成できる。下部電極14は、単層であってもよく、複層であってもよい。Ptの熱膨張係数は、20℃~227℃付近では、8.8×10-6/K~9.6×10-6/Kである。下部電極14の厚さは、好ましくは100nm~400nmであり、例えば200nmである。
【0020】
導電性NTE層15は、負の熱膨張係数を有する材料からなる。負の熱膨張係数を有する材料の熱膨張係数は特に限定されない。負の熱膨張係数を有する材料の熱膨張係数は、製造時の温度から使用時の温度までの少なくとも一部の温度領域において、好ましくは-8.0×10-6/K~-40×10-6/Kである。上記の範囲内であれば、圧電薄膜積層体10の内部応力をコントロールしやすく好ましい。
【0021】
導電性NTE層15は、導電性を有している。導電性を有する負の熱膨張係数を有する材料は、LiAlSiO及びMn-Sn-Zn-Nからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。例えば、27℃~927℃において、LiAlSiOの熱膨張係数は、-8.0×10-6/K程度であり、20℃~65℃において、Mn-Sn-Zn-Nの熱膨張係数は、-40×10-6/K程度である。Mn-Sn-Zn-Nとしては、例えばSmartec(登録商標)((株)高純度化学研究所製)が示される。
【0022】
導電性NTE層15の厚さは、自身の熱膨張係数と、圧電薄膜積層体10における他の層の熱膨張係数等に応じて適宜設計できる。導電性NTE層15の厚さは、好ましくは20nm~5μmである。上記範囲の下限以上であれば、圧電薄膜積層体10の内部応力を緩和する観点で好ましい。上記範囲の上限以下であれば、生産性及びコストの面で好ましい。
【0023】
本実施形態の導電性NTE層15は、圧電薄膜16と下部電極14との間に配置されている。このような構成において、導電性NTE層15は、圧電薄膜16の金属成分が下部電極14に拡散することを抑制するバリア層として機能していてもよい。導電性NTE層15は、下部電極14の上面に接触しているとよい。このような構成において、導電性NTE層15は、下部電極14とともに圧電薄膜積層体10の電極の一部を構成していてもよい。また、導電性NTE層15は、圧電薄膜16の下面に接触していてもよい。導電性NTE層15が圧電薄膜16に接触している場合には、圧電薄膜16の配向性の観点から、導電性NTE層15は、所定の面方位に優先配向していることが好ましい。このような構成によれば、導電性NTE層15を圧電薄膜16の配向性を向上させる下地層とすることができる。
【0024】
圧電薄膜16は、鉛(Pb)を含まないニオブ酸アルカリ系圧電体からなることが好ましい。ニオブ酸アルカリ系圧電体は、圧電特性を有するニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト酸化物からなる主相を少なくとも含み、主相以外の結晶相である副相を含み得る。副相は、主相と混在することによって主相の構造を安定化し、圧電定数d33及び電気機械結合係数krを向上させる。
【0025】
ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト酸化物のアルカリ系成分は、アルカリ金属(カリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等)を少なくとも含み、また、アルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等)を含み得る。ニオブ酸アルカリ系ペロブスカイト酸化物は、圧電特性の観点から、一般式(K1-xNa)NbO(0<x<1、好ましくは0.3≦x≦0.7)で表されるものが好適である。
圧電薄膜16の熱膨張係数は特に限定されないが、通常、導電性NTE層15の熱膨張係数よりも大きい。例えば、圧電薄膜16の熱膨張係数は基板11の熱膨張係数よりも大きくてもよい。
【0026】
本実施形態の圧電薄膜積層体10を用いた圧電薄膜素子の用途は限定されない。圧電薄膜素子は、超音波距離センサ、超音波発振デバイス(ハプティクスデバイス)、マイクロスピーカー、マイクロミラー、マイクロフォン、超音波画像診断装置、指紋認証センサ、血管認証センサ、振動発電素子、マイクロポンプ、オートフォーカス等の種々の用途に好適である。
【0027】
圧電薄膜積層体10の製造方法の一例を説明する。基板11として、シリコン基板を用意する。SiO層12を有する場合には、例えば、熱酸化処理や化学気相成長(Chemical Vapor Deposition、CVD)法によってSiO層12を形成する。
【0028】
次に、基板11又はSiO層12上に、物理気相成長法(例えば、スパッタ法、熱蒸着法、電子ビーム蒸着法)等によって密着層13、下部電極14を順次形成する。
【0029】
次に、下部電極14上に、ゾルゲル法、スパッタ成膜法、エアロゾルデポジション成膜法、パルスレーザーデポジション成膜法等によって導電性NTE層15を形成する。原料の組成、焼成雰囲気(酸素分圧等)、焼成温度を適宜調整して、所望の組成の導電性NTE層15を得ることができる。また、原料液の粘度、コーティング方法、コーティング回数を適宜調整して、導電性NTE層15の厚さをコントロールできる。
【0030】
次に、導電性NTE層15上に、圧電薄膜16を形成する。圧電薄膜16を形成する方法は特に限定されない。例えば、高温でスパッタ成膜する方法(高温スパッタ法)、室温でのスパッタ成膜後に高温で結晶化させる方法(室温スパッタ法)、原料液を塗布した後に高温で結晶化させる方法(Metal Organic Decomposition、MOD法又はゾルゲル法)、原料微粒子を高速衝突してエアロゾルデポジション成膜後に高温で熱処理する方法(エアロゾルデポジション法)、パルスレーザーデポジション成膜法、化学気相成長法(例えば、Metal Organic Chemical Vapor Deposition、MOCVD法)等を採用できる。
【0031】
本実施形態の作用及び効果について説明する。図2に示す比較例の圧電薄膜積層体1のように、圧電薄膜16と基板11との間に負の熱膨張係数を有する材料からなる層が設けられていない場合、圧電薄膜16の成膜時の温度から室温に冷却されると、圧電薄膜16に引張り応力が作用することになる。他方、本実施形態によれば、圧電薄膜16と基板11との間に導電性NTE層15が設けられているから、熱膨張係数の大小関係は、例えば、導電性NTE層15<SiO層12<基板11<圧電薄膜16<密着層13<下部電極14となり、圧電薄膜16と基板11との熱膨張係数の差に起因して生じ得る内部応力を調整できる。さらに、本実施形態では、負の熱膨張係数を有する材料からなる層が導電性NTE層15であるから、層間の導電性を確保すべき位置にも、電気的特性を損なうことなく導電性NTE層15を配置できる。
【0032】
圧電薄膜積層体10の内部応力を低減すると、圧電薄膜積層体10を含む圧電薄膜素子の振動部を大きく振幅させることが可能となる。また、圧電薄膜積層体10の内部応力を低減することで、圧電薄膜16自体のクラック発生や、ダイヤフラム等の振動部のたわみや破損を抑制できる。このように、圧電薄膜16と基板11との間に導電性NTE層15を設けることで、圧電薄膜積層体10の圧電特性を向上できる。
【0033】
また、本実施形態の圧電薄膜積層体10は、圧電薄膜16自体のスパッタ成膜条件を変更することなく、導電性NTE層15によって内部応力を調整できる。このため、圧電薄膜積層体10の生産性及びコストの観点で好ましい。さらに、本実施形態の圧電薄膜積層体10は、鉛を含まない点において、環境負荷が少ない。このような圧電薄膜積層体10は、例えば使い捨て用途等において特に有効である。
【0034】
また、本実施形態では、導電性NTE層15が圧電薄膜16と下部電極14との間に設けられているから、下部電極14と基板11の間に設けられている構成とは異なり、圧電薄膜16の内部応力を直接調整できる。
【0035】
<第2実施形態>
図3に示す本実施形態の圧電薄膜積層体110は、第1実施形態とは導電性NTE層115の位置が相違する。本実施形態において、上記の実施形態と同様の構成については、その説明を省略する。
【0036】
圧電薄膜積層体110は、基板11、SiO層12、密着層13、導電性NTE層115、下部電極14、圧電薄膜16がこの順に積層されている。SiO層12、密着層13は任意の層である。圧電薄膜積層体110は、各層の間にさらに別の任意の層が積層されてもよい。
【0037】
本実施形態の導電性NTE層115は、下部電極14と基板11の間に配置されている。導電性NTE層115は、下部電極14の下面に接触しているとよい。このような構成において、導電性NTE層115は、下部電極14とともに圧電薄膜積層体110の電極の一部を構成していてもよい。
【0038】
本実施形態では、導電性NTE層115が下部電極14と基板11との間に設けられているから、圧電薄膜16と下部電極14の間に設けられている構成とは異なり、圧電薄膜16の配向性を維持しながら内部応力の調整ができる。
【0039】
<第3実施形態>
図4に示す本実施形態の圧電薄膜積層体210は、基板11と、基板11の上方に積層された下部電極14と、下部電極14の上方に積層されたニオブ酸アルカリ系圧電体からなる圧電薄膜16と、を備える。圧電薄膜積層体210は、下部電極14と基板11との間に、負の熱膨張係数を有する材料からなる絶縁性の層215が設けられている。以下、負の熱膨張係数を有する材料からなる絶縁性の層215を、絶縁性NTE層215とも称する。本実施形態において、上記の実施形態と同様の構成については、その説明を省略する。
【0040】
圧電薄膜積層体210は、基板11、絶縁性NTE層215、密着層13、下部電極14、下地層17、圧電薄膜16がこの順に積層されている。密着層13、下地層17は任意の層である。圧電薄膜積層体210は、各層の間にさらに別の任意の層が積層されてもよい。
【0041】
下地層17は、圧電薄膜16と下部電極14に接触して配置されている。下地層17は、導電性を有しており、下部電極14とともに圧電薄膜積層体210の電極の一部を構成する。下地層17は、ペロブスカイト型の無機酸化物を含んでいるとよい。このような下地層17が圧電薄膜16と接触して配置されることで、圧電薄膜16の配向性を向上できる。下地層17は、SrRuO、CaRuO、BaRuO、及びLaNiOからなる群より選ばれる少なくとも一種のペロブスカイト型の無機酸化物を含んでいることが好ましい。
【0042】
絶縁性NTE層215は、負の熱膨張係数を有する材料からなる。負の熱膨張係数を有する材料の熱膨張係数は特に限定されない。負の熱膨張係数を有する材料の熱膨張係数は、製造時の温度から使用時の温度までの少なくとも一部の温度領域において、好ましくは-9.0×10-6/K~-187×10-6/Kである。上記の範囲内であれば、圧電薄膜積層体210の内部応力をコントロールしやすく好ましい。
【0043】
絶縁性NTE層215は、絶縁性を有している。絶縁性を有する負の熱膨張係数を有する材料は、例えばBNi1-xFe(0.05<x)、ZrW、及びCaRuOからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。BNi1-xFe(0.05<x)の熱膨張係数は、例えば、10℃~45℃において-187×10-6/Kである。ZrWの熱膨張係数は、例えば、45℃~155℃において-9×10-6/Kである。CaRuOの熱膨張係数は、-115×10-6/Kである。
【0044】
絶縁性NTE層215の厚さは、自身の熱膨張係数と、圧電薄膜積層体210における他の層の熱膨張係数等に応じて適宜設計できる。絶縁性NTE層215の厚さは、好ましくは20nm~5μmである。上記範囲の下限以上であれば、圧電薄膜積層体210の内部応力を緩和する観点で好ましい。上記範囲の上限以下であれば、生産性及びコストの面で好ましい。
なお、圧電薄膜16の熱膨張係数は特に限定されないが、通常、絶縁性NTE層215の熱膨張係数よりも大きい。例えば、圧電薄膜16の熱膨張係数は基板11の熱膨張係数よりも大きくてもよい。
【0045】
本実施形態の絶縁性NTE層215は、下部電極14と基板11の間に配置されている。圧電薄膜積層体210は、SiO層12を備えず、下部電極14と基板11の間の絶縁層として絶縁性NTE層215のみを備えていてもよい。このような構成によれば、SiO層12を形成する工程を省くことができる。なお、下部電極14と絶縁性NTE層215との間には、下部電極14と絶縁性NTE層215とが剥離することを抑制するために密着層13が設けられている。
【0046】
本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態によれば、下部電極14と基板11との間に絶縁性NTE層215が設けられているから、熱膨張係数の大小関係は、例えば、絶縁性NTE層215<基板11<圧電薄膜16<密着層13<下部電極14<下地層17となり、圧電薄膜16と基板11との熱膨張係数の差に起因して生じ得る内部応力を調整できる。
【0047】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではない。また、上述した実施形態の様々な特徴は、矛盾しない組み合わせであればどのように組み合わせてもよい。
【0048】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示された範囲内又は特許請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
10,110…圧電薄膜積層体
11…基板
12…SiO
13…密着層
14…下部電極
15,115…導電性NTE層(負の熱膨張係数を有する材料からなる導電性の層)
16…圧電薄膜
17…下地層
210…圧電薄膜積層体
215…絶縁性NTE層(負の熱膨張係数を有する材料からなる絶縁性の層)
図1
図2
図3
図4